説明

燃料電池システム

【課題】希釈デバイスを小型化または不要にでき、しかも燃料電池の発電性能を向上できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料循環系からアノードオフガスを排出する燃料排出系において、燃料排出手段としてのインジェクタ27、このインジェクタ27の上流側に排出弁25、インジェクタ27と排出弁25との間にバッファタンク26を備える。ECU50によって、排出弁25が開弁することにより、バッファタンク26にアノードオフガスが導入され、インジェクタ27が作動することにより、インジェクタ27から従来の排出弁での水素排出制御よりも少量かつ排出タイミングよくアノードオフガスを排出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料オフガス排出機構を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムでは、例えば、燃料電池のアノードに水素が供給され、カソードに空気(酸素)が供給されることにより発電が行われる。発電時には、カソードで生成された水や空気に含まれる窒素などの不純物が電解質膜を介してアノードに透過する。不純物を含むアノードオフガスを外部に排出する際に高濃度の水素が外部に排出されないように希釈デバイスを設けて希釈する必要がある。例えば、特許文献1には、燃料電池のアノード側から排出される水素をカソード側から排出されるカソードオフガス(エア)で混合して希釈する希釈デバイスが記載されている。また、特許文献2には、アノード側から排出される水素を空気と触媒反応させて希釈する希釈デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−6183号公報
【特許文献2】特開2002−289237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の発明では、希釈デバイスに排出される水素は希釈デバイスの上流側に設けられる排出弁を開弁することによって排出されるが、排出弁の応答性(大雑把な制御しかできないこと)によって排出水素量を細かく制御することが困難であるという問題があった。よって、アノード側の不純物を少量で排出することができず、燃料電池から排出されるオフガス中の水素濃度を目標以下の水素濃度に抑えつつ、燃料電池の発電性能を向上させることが困難であり、特許文献1および特許文献2のように、大型の希釈デバイスが必要となってしまっていた。
したがって、想定以上の水素が排出された場合に備えて、システム内に大型の希釈デバイスを配置するための空間を確保する必要があり、例えば、車両に搭載した際にレイアウトの自由度が損なわれるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するものであり、希釈デバイスを小型化または不要にでき、しかも燃料電池の発電性能を向上できる燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料供給系と、前記燃料電池から排出された燃料オフガスを前記燃料電池に戻す燃料循環系と、前記燃料循環系から燃料オフガスを排出する燃料排出系と、を備える燃料電池システムにおいて、前記燃料排出系に設けられ、インジェクタおよびポンプの少なくともひとつを含む燃料排出手段と、前記燃料排出手段から排出された燃料オフガスを希釈する希釈手段と、前記燃料排出手段を制御して当該燃料排出手段から排出された燃料オフガスを所定燃料ガス濃度を下回るように希釈してシステム外部に排出する希釈制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
これによれば、燃料排出手段としてインジェクタおよび/またはポンプを燃料排出系に設けることにより、従来のような遮断弁(排出弁)の開閉制御よりも燃料オフガスの排出量をより細かく制御できるようになる。なお、より細かく制御できるとは、従来のような排出弁による燃料ガスの排出量よりも少量で、かつ、排出タイミングを高精度に制御できることを意味する。その結果、燃料ガスの希釈スペースを大型化する必要がなくなるので、希釈スペースの効率化(小型化)が可能になる。しかも、燃料オフガスを少量、かつ、排出タイミングよく排出でき、燃料循環系内の不純物を燃料排出手段を介して外部に迅速に排出できるので、燃料循環系に不純物が蓄積するのを抑制でき、燃料電池の発電性能の向上が可能になる。
【0008】
また、前記燃料排出系は、前記燃料排出手段の上流側に燃料オフガスを排出する排出弁を備え、前記制御手段は、前記排出弁および前記燃料排出手段を制御して希釈制御を行うことを特徴とする。
【0009】
これによれば、排出弁を燃料排出手段の上流側に設けることで、燃料電池側の圧力が燃料排出手段に直接作用するのを抑えることができ、耐圧性能を抑えた燃料排出手段(インジェクタ、ポンプ)を用いることができる。その結果、燃料電池システム構築の際のコストを抑えることができる。
【0010】
また、排出弁と燃料排出手段の双方で燃料オフガスの排出量を制御できるため、よりきめ細やかに燃料オフガスを希釈することが可能になる。
【0011】
また、前記制御手段は、前記排出弁が開状態である場合、前記燃料排出手段の動作を制限することを特徴とする。
【0012】
ところで、排出弁が開状態である場合には、燃料排出手段の上流側の圧力が一時的に高まるため、燃料排出手段からの排出量の制御が難しくなる。したがって、排出弁が開状態である場合に燃料排出手段の動作を制限することで、燃料排出手段からの燃料オフガスの排出量を適切に制御することが可能になる。なお、燃料排出手段の動作を制限するとは、燃料オフガスの排出量を低減することに限定されず、燃料排出手段の動作を停止させて燃料オフガスの排出量をゼロにすることも含む。
【0013】
また、前記燃料排出手段の上流側に前記燃料オフガスの圧力を検知する圧力検知手段を備え、前記制御手段は、前記圧力に基づいて前記燃料排出手段の動作量を補正することを特徴とする。
【0014】
これによれば、燃料排出手段からの燃料オフガスの排出量を高精度に制御することが可能になる。
【0015】
また、前記燃料排出系は、前記排出弁と前記燃料排出手段との間に、前記燃料オフガスの圧力を検知する圧力検知手段を備え、前記制御手段は、前記圧力検知手段の圧力に基づいて前記排出弁および前記燃料排出手段の故障を検知することを特徴とする。
【0016】
これによれば、燃料排出手段がインジェクタの場合、想定圧力(事前の実験等により得られたマップ等で記憶されたもの)と圧力検知手段の検出値とを比較することにより、インジェクタの故障または排出弁の故障を判定できる。このように、燃料排出手段(インジェクタ、ポンプ)および排出弁が正常に機能しているか否かを判定することができるので、高濃度の燃料ガスが外部に排出されるのを防ぐことが可能になる。
【0017】
また、前記燃料排出系は、前記排出弁と前記燃料排出手段との間に、前記燃料オフガスの流量を検知する第1流量検知手段を備え、前記制御手段は、前記第1流量検知手段の流量に基づいて前記排出弁および前記燃料排出手段の故障を検知することを特徴とする。
【0018】
これによれば、燃料排出手段がインジェクタの場合、想定流量(事前の実験等により得られたマップ等で記憶されたもの)と第1流量検知手段の検出値とを比較することにより、インジェクタの故障または排出弁の故障を判定できる。このように、燃料排出手段(インジェクタ、ポンプ)および排出弁が正常に機能しているか否かを判定することができるので、高濃度の燃料ガスが外部に排出されるのを防ぐことが可能になる。
【0019】
また、前記燃料排出手段の上流側に前記燃料オフガスの温度を検知する温度検知手段を備え、前記制御手段は、前記温度に基づいて前記燃料排出手段の動作量を補正することを特徴とする。
【0020】
これによれば、燃料排出手段からの燃料オフガスの排出量を高精度に制御することが可能になる。
【0021】
また、前記燃料排出系は、前記燃料排出手段の上流側に前記燃料オフガスを貯留するバッファタンクを備えることを特徴とする。
【0022】
これによれば、バッファタンクに燃料オフガスを溜めた状態で制御手段が燃料排出手段を作動させることで、燃料排出手段からの吐出量を安定して制御できる。
【0023】
また、前記希釈手段に導入される酸化剤ガスおよび/または酸化剤オフガスの流量を検出する第2流量センサを備え、前記制御手段は、前記第2流量センサの検出値に基づいて前記インジェクタを制御することを特徴とする。
【0024】
これによれば、希釈手段に導入される希釈ガス(酸化剤ガスおよび/または酸化剤オフガス)の流量を適切に把握することで、希釈ガスの流量に応じて燃料オフガスの排出を促進することができる。つまり、希釈ガスの流量が少ないときに燃料オフガスの排出を停止させる必要がなくなるので、発電性能のよい燃料電池システムを構築できる。
【0025】
また、前記制御手段は、1周期時間当たりの開時間である開弁率に基づいて前記燃料排出手段を制御することを特徴とする。
【0026】
これによれば、1周期時間として、例えば、開弁率が100%の状態において希釈手段に導入される希釈ガスの流量が最大変化幅で減少した場合であっても所定燃料ガス濃度を超えない時間に予め設定しておくことで、希釈ガスの流量が急減した場合であっても、希釈手段から排出される燃料ガスが所定燃料ガス濃度を超えないようにできる。一方、希釈ガスの流量が多い場合であっても、複数周期連続して燃料排出手段を高い開弁率で動作させることで、燃料ガスの希釈処理を効果的に行うことが可能になる。
【0027】
また、車両に搭載されることを特徴とする。
【0028】
これによれば、前記したように発電性能を向上させることができるため、走行性能の高い車両を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、希釈デバイスを小型化または不要にでき、しかも燃料電池の発電性能を向上できる燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】排出弁の制御を示すフローチャートである。
【図3】インジェクタの制御を示すフローチャートである。
【図4】(a)はカソードオフガス流量と目標排出水素量との関係を示すマップ、(b)は目標排出水素量とインジェクタの動作量との関係を示すマップである。
【図5】インジェクタの動作指令に応じた水素濃度の変化を示すタイムチャートである。
【図6】インジェクタと排出弁の故障検知を示すフローチャートである。
【図7】インジェクタと排出弁の動作パターンおよび故障時の圧力変化を示すタイムチャートである。
【図8】インジェクタと排出弁の故障検知を示す他のフローチャートである。
【図9】インジェクタと排出弁の他の動作パターンと故障時の圧力変化を示すタイムチャートである。
【図10】(a)はインジェクタの場合の開指令と水素濃度の変化を示すタイムチャート、(b)は従来のバルブの場合の開指令と水素濃度の変化を示すタイムチャートである。
【図11】(a)はカソードオフガス流量が急減した場合のインジェクタ制御、(b)はカソードオフガス流量が多い場合のインジェクタ制御である。
【図12】第2実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図13】第3実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図14】第4実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図15】インジェクタと排出弁の故障検知を示すさらに他のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本実施形態に係る燃料電池システム1Aないし1Dについて図1ないし図15を参照して説明する。なお、以下では、燃料電池システム1Aないし1Dを燃料電池自動車に適用した場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、船舶用や航空機用などとして適用してもよく、または家庭用や業務用などの定置式のものとして適用してもよく、電気を必要とするあらゆるものに適用できる。
【0032】
(第1実施形態)
図1に示すように、燃料電池システム1Aは、燃料電池10、アノード系20、カソード系30、ECU(Electronic Control Unit)50などを含んで構成されている。
【0033】
燃料電池10は、例えば、複数の固体高分子型の単セル(不図示)が積層されることで構成された燃料電池スタックであり、複数の単セルは電気的に直列で接続されている。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)、このMEAを挟む導電性を有するアノードセパレータ(不図示)及びカソードセパレータ(不図示)などを備えている。
【0034】
MEAは、1価の陽イオン交換膜(例えばパーフルオロスルホン酸型)からなる電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟むアノード及びカソードとを備えている。アノード及びカソードは、カーボンペーパ等の導電性を有する多孔質体から主に構成されると共に、アノード及びカソードにおける電極反応を生じさせるための触媒(Pt、Ru等)を含んでいる。
【0035】
アノードセパレータには、各MEAのアノードに対して水素を給排するための溝などで形成されたアノード流路11が形成されている。カソードセパレータには、各MEAのカソードに対して空気を給排するための溝などで形成されたカソード流路12が形成されている。
【0036】
そして、アノード流路11を介して各アノードに水素が供給されるとともに、カソード流路12を介して各カソードに空気(酸素)が供給されると、各単セルで電位差(OCV(Open Circuit Voltage)、開回路電圧)が発生するようになっている。次いで、燃料電池10と走行モータ等の外部負荷とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池10が発電するようになっている。なお、燃料電池10の発電時には、不純物(生成水、窒素など)が電解質膜を介してカソードからアノードに透過する。
【0037】
アノード系20は、水素タンク21、遮断弁22、減圧弁23、エゼクタ24、排出弁25、バッファタンク26、インジェクタ27(燃料排出手段)、配管a1〜a9を含んで構成されている。なお、本実施形態では、水素タンク21、配管a1、遮断弁22、配管a2、減圧弁23、配管a3,a4が燃料供給系に相当する。また、本実施形態では、配管a5およびエゼクタ24が燃料循環系に相当する。また、本実施形態では、配管a6、排出弁25、配管a7、バッファタンク26、配管a8、インジェクタ27および配管a9が燃料排出系に相当する。
【0038】
水素タンク21は、燃料としての高純度の水素が高圧で充填された容器である。遮断弁22は、非通電時に弁体が閉じる常閉式のソレノイドバルブで構成される。減圧弁23は、水素タンク21からの1次圧を、この1次圧よりも低い2次圧に減圧する機能を有する。なお、燃料供給系における減圧手段としては、減圧弁23のみに限定されるものではなく、減圧弁を2つ以上設けて、2段階以上で減圧するものであってもよい。
【0039】
エゼクタ24は、燃料電池10のアノード流路11から排出された未反応の水素を、配管a5を介して燃料電池10のアノード流路11に戻す真空ポンプの一種である。すなわち、エゼクタ24は、水素タンク21からの流れによって生じる負圧によって配管a5から戻るアノードオフガス(燃料オフガス)を吸引することで、燃料電池10の上流側に再び供給するように構成されている。
【0040】
排出弁25は、非通電時に弁体が閉じる常閉式の電磁弁で構成され、ECU50の制御によって開弁されることにより、燃料電池10の発電時に水素循環流路(アノード流路11、配管a5,a4)を循環する水素に同伴する不純物(水蒸気、窒素等)を排出するようになっている。なお、排出弁25を開弁して不純物を排出するタイミングとしては、例えば、燃料電池10の単セルの電圧を検出するセル電圧モニタ(不図示)から入力される最低セル電圧が所定セル電圧以下となったときである。または、排出弁25を開弁して不純物を排出するタイミングとしては、所定時間経過後に定期的に開弁する構成であってもよい。
【0041】
バッファタンク26は、水素循環流路から排出弁25を介して排出されたアノードオフガス(燃料オフガス)を一時的に溜めておくことができる貯留空間を備えている。なお、貯留空間の容積は、燃料電池10の発電性能が損なわれる前に水素循環系からアノードオフガスを排出できるように設定されている。
【0042】
インジェクタ27は、例えば、電子制御式のものであって、ECU50のPWM制御によって噴射信号が出力されることで、アノードオフガスが希釈器34に向けて噴射(吐出)される。この噴射信号は噴射量に応じたパルス幅を有するパルス信号(オン時間)であり、このパルス幅に相当する時間だけ開弁されてアノードオフガスを噴射するようになっている。すなわち、1周期におけるオン時間とオフ時間の比を調整することにより吐出量を増減できる。
【0043】
このようなインジェクタ27を用いてアノードオフガスを排出することにより、インジェクタ27からの排出量(吐出量)を、従来のような排出弁(排出弁25に相当するもの)を開弁したときに排出される排出量よりも少量に設定でき、しかもインジェクタ27の排出タイミングを高精度に制御できる。
【0044】
カソード系30は、コンプレッサ31、加湿器32、背圧弁33、希釈器34、配管c1〜c7を含んで構成されている。なお、希釈器34の下流に接続された配管c7は、消音器などを介して車外(外部、大気)と連通するように構成されている。
【0045】
コンプレッサ31は、モータ(不図示)で駆動されるスーパーチャージャなどで構成されている。ECU50によってコンプレッサ31が駆動されると、車外から取り込まれた空気がカソード流路12に向けて供給される。コンプレッサ31のモータの回転速度は、例えば、図示しないアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)が大きくなると、空気を大流量・高圧で供給するように、高められる設定となっている。
【0046】
加湿器32は、水分交換可能な中空糸膜を備えており、中空糸膜を介して、燃料電池10に供給される空気と、カソード流路12から排出された多湿のカソードオフガスとの間で水分交換されて、燃料電池10に供給される空気が加湿されるように構成されている。
【0047】
背圧弁33は、バタフライ弁などで構成された開度調整可能な常開型(非通電時に弁体の開度が最大)の弁で構成され、例えば、アクセルペダルの踏み込み量が大きくなると、ECU50によって、空気を高圧で供給するために、開度が小さくなる(絞る)ように制御される。
【0048】
希釈器(希釈手段、希釈デバイス)34は、カソードオフガス(酸化剤オフガス)を導入する配管c5、燃料電池10の上流側の乾燥したカソードガス(空気、酸化剤ガス)を導入する配管c6、アノードオフガスが導入される配管a9がそれぞれ接続されている。希釈器34に導入されたアノードオフガスに含まれる水素は、カソードオフガスとカソードガスによって希釈された後に配管c7を介して車外に排出される。なお、例えば、配管c6にはオリフィスが設けられ、燃料電池10のカソードへのカソードガスの供給が損なわれないように設定されている。
【0049】
ECU50は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、プログラムなどを記憶したROM(Read Only Memory)などで構成され、コンプレッサ31のモータ(不図示)の回転速度、遮断弁22、排出弁25の開閉、インジェクタ27からの排出量(パルス幅)、背圧弁33の開度を、それぞれ制御する。
【0050】
また、ECU50は、排出弁25とインジェクタ27との間の配管a8のアノードオフガスの圧力を検出する圧力センサ51の検出値、配管a8のアノードオフガスの温度を検出する温度センサ52の検出値、配管c1に通流するカソードオフガスの流量を検出する流量センサ53の検出値をそれぞれ取得する。なお、温度センサ52の位置は、配管a8の位置に限定されず、配管a4,a5,a6,a7のいずれであってもよい。
【0051】
圧力センサ51の検出値は、排出弁25を開弁してパージ可能であるかどうかを判断するためのものである。ECU50は、例えばアクセル開度と圧力とが関係付けられた運転状態のマップに基づいて排出弁25を開弁してよいか(パージしてよいか)否かを判定する。すなわち、ECU50は、運転状態のマップに基づいて、圧力センサ51の検出値が、所定圧力(パージ可能圧力)以下と判定した場合には、排出弁25を開弁しないように制御する。つまり、検出値が高過ぎる場合には、排出弁25を開弁したとしても排出弁25の上流と下流との差圧が得られないので、排出弁25を開弁しない。
【0052】
また、圧力センサ51の検出値は、インジェクタ27から吐出されるアノードオフガスの吐出量を補正するためのものである。ECU50は、検出値(圧力)が高い場合には、インジェクタ27の動作量が少なくなるように、検出値が低い場合には、インジェクタ27の動作量が多くなるように補正する(図4(b)参照)。
【0053】
また、圧力センサ51の検出値は、排出弁25およびインジェクタ27の故障検知に利用される。なお、その故障検知については後記する。
【0054】
温度センサ52の検出値は、インジェクタ27の動作量を補正するためのものである。ECU50は、検出値(温度)が高い場合には、インジェクタ27の動作量が多くなるように、検出値が低い場合には、インジェクタ27の動作量が少なくなるように補正する(図4(b)参照)。つまり、検出値が高い場合には、アノードオフガスに含まれる水分の割合が増加してアノードオフガスの水素濃度が低下するので、インジェクタ27の動作量を増加させる方向に補正され、検出値が低い場合には、アノードオフガスに含まれる水分の割合が減少してアノードオフガスの水素濃度が高まるので、インジェクタ27の動作量を減少させる方向に補正される。
【0055】
流量センサ53の検出値は、希釈器34に導入されるカソードオフガス(酸化剤オフガス)の流量を検出するためのものである。ECU50は、流量センサ53によって検出されたカソードオフガス流量に基づいて希釈器34に導入される目標排出水素量を算出する(図4(a)参照)。なお、流量センサ53の位置は、本実施形態のように燃料電池10の下流側に限定されるものではなく、例えば、コンプレッサ31と加湿器32との間の配管c1に設けて、カソードオフガス流量を算出してもよい。
【0056】
次に、本実施形態に係る燃料電池システム1Aの動作について図2ないし図5を参照して説明する。図2は排出弁の制御を示すフローチャート、図3はインジェクタの制御を示すフローチャート、図4(a)はカソードオフガス流量と目標排出水素量との関係を示すマップ、(b)は目標排出水素量とインジェクタの動作量との関係を示すマップ、図5はインジェクタの動作指令に応じた水素濃度の変化を示すタイムチャートである。
【0057】
まず、燃料電池システム1Aの運転が開始(例えば、イグニッションスイッチがオン)されると、ECU50は、図示しないバッテリの電力を利用して、遮断弁22を開弁し、またコンプレッサ31の駆動を開始する。これにより、水素タンク21から放出された水素は、減圧弁23で所定の圧力に減圧された後に、アノード流路11に供給される。また、コンプレッサ31から供給された空気(外気)は、加湿器32で適度に加湿された後にカソード流路12に供給され、配管c6を介して希釈器34に導入される。そして、ECU50は、燃料電池10のOCVが所定値(外部負荷への電力供給の開始を許可できる電圧)を超えたと判定した場合に外部負荷(走行モータなど)との接続を開始し、燃料電池10の発電を開始する。
【0058】
発電が開始されると、カソード流路12に供給された空気に含まれる不純物としての窒素が電解質膜を介してアノード流路11に透過する。また、カソードでは、発電によって水が生成され、この生成された水も電解質膜を介してアノード流路11に透過する。このため、アノード流路11を含む水素循環系に窒素や生成水の不純物が溜まることになるので、排出弁25を開弁し、インジェクタ27を作動させることにより、不純物を外部に排出する必要がある。
【0059】
そこで、本実施形態では、排出弁25とインジェクタ27を以下のように制御したものである。図2に示すように、ステップS101において、ECU50は、パージ要求があるか否かを判定する。パージ要求とは、排出弁25を開弁して、アノードオフガスを水素循環系からバッファタンク26に排出させる指令である。例えば、パージ要求を出力するタイミングは、前記したように、燃料電池10の単セルの電圧を検出するセル電圧モニタ(不図示)から入力される最低セル電圧が所定セル電圧以下となったとき、またはアノードオフガスを定期的に排出する場合には所定時間が経過したときである。ECU50は、パージ要求がないと判定した場合には(S101、No)、ステップS101の処理を繰り返し、パージ要求があると判定した場合には(S101、Yes)、ステップS102に進む。
【0060】
ステップS102において、ECU50は、排出弁25とインジェクタ27との間の圧力Pが前記したパージ可能圧力か否かを判定する。
【0061】
ステップS102において、ECU50は、圧力Pがパージ可能圧力ではないと判定した場合には(No)、ステップS102の処理を繰り返し、圧力Pがパージ可能圧力であると判定した場合には(Yes)、ステップS103に進む。
【0062】
ステップS103において、ECU50は、排出弁25を所定時間開弁する。なお、所定時間は、水素循環系内の不純物を排出して、水素循環系内のガスを水素に置換できる時間に設定される。排出弁25が所定時間開弁されることにより、水素循環系内のアノードオフガスがバッファタンク26に一時的に貯留される。そして、ECU50は、所定時間経過後に排出弁25を閉弁する。
【0063】
一方、インジェクタ27については、図3に示すように制御される。すなわち、ステップS201において、ECU50は、流量センサ53からカソードオフガス(以下、Caオフガスと表記する)の流量を検出する。
【0064】
そして、ステップS202に進み、ECU50は、図4(a)に示すマップに基づいて、ステップS201で検出されたCaオフガスの流量から目標排出水素量を算出する。図4(a)は、Caオフガス流量と目標排出水素量とが関係づけられたマップであり、Caオフガスの流量が多くなるにつれて、目標排出水素量も増加するようになっている。つまり、Caオフガスの流量が多いということは、アノードオフガスに含まれる水素を希釈する希釈ガスが多く存在するということであるので、排出可能なアノードオフガス量を増やすことができる。
【0065】
そして、ステップS203に進み、ECU50は、ステップS202で算出した目標排出水素量からインジェクタ27の動作条件を算出する。動作条件としては、例えば、通常モードでは、目標排出水素量が多い場合、一周期におけるオン時間に対してオフ時間が短くなるように設定し、目標排出水素量が少ない場合には、一周期におけるオン時間に対してオフ時間が長くなるように設定する。また、目標排出水素量をさらに増量する場合には、通常モードよりも周期を短くしてオン時間とオフ時間との比を調整することで、少量かつ多周期で水素を排出することができる。
【0066】
そして、ステップS204に進み、ECU50は、圧力センサ51からアノードオフガス(Anオフガス)の圧力Pと、温度センサ52からAnオフガスの温度Tを取得し、これら圧力Pと温度TからステップS202において算出した目標排出水素量となるようにインジェクタ27の動作量を図4(b)に示すマップに基づいて補正する。なお、インジェクタ27の動作量とは、例えば、開弁時間、動作周期を意味している。
【0067】
図4(b)に示すように、基準の目標排出水素量とインジェクタ27の動作量の関係を示すマップに対して、バッファタンク26内のAnオフガスの圧力が高い場合には、インジェクタ27の動作量が少なくなるように(例えば、開弁時間が短くなるように、または動作周期が長くなるように)補正し、Anオフガスの圧力が低い場合には、インジェクタ27の動作量が多くなるように(例えば、開弁時間が長くなるように、または動作周期が短くなるように)補正する。また、基準のマップに対して、バッファタンク26内のAnオフガスの温度が高い場合には、インジェクタ27の動作量が多くなるように補正し、Anオフガスの温度が低い場合には、インジェクタ27の動作量が少なくなるように補正する。このように、温度と圧力に基づいてインジェクタ27からの動作量を補正することにより、インジェクタ27から排出される水素量を適切に設定することができ、上限希釈水素濃度を確実に下回るようにすることができる。
【0068】
そして、ステップS205に進み、ECU50は、インジェクタ27を制御して、目標排出水素量の水素を排出する。インジェクタ27から排出されたアノードオフガス中の水素は、配管a9を介して希釈器34に導入される。このとき希釈器34では、配管c5から排出されるカソードオフガス(希釈ガス)と配管c6から排出されるカソードガス(希釈ガス)によってアノードオフガス中の水素が希釈された後、外部(車外)に排出される。
【0069】
なお、インジェクタ27の上流側は、バッファタンク26に溜められたアノードオフガスによって圧力が高くなっており、インジェクタ27の下流側は、希釈器34を介して燃料電池システム1Aの外部(大気)と連通しているので圧力が上流側よりも低くなる。よって、インジェクタ27の上流と下流との差圧によって、インジェクタ27を作動させたときにインジェクタ27からアノードオフガスを吐出(噴射)させることができる。
【0070】
前記した燃料電池システム1Aでは、水素排出系にインジェクタ27を備えることにより、図5(b)に示すように、目標排出水素量を従来よりも少量で、かつ、Caオフガス流量に応じて排出タイミングを高精度に制御できることで、図5(d)に示すように、水素濃度のピーク値を目標とする希釈後の水素濃度(上限希釈水素濃度)Aよりも確実に下げることが可能になる。
【0071】
また、図5(a)に示すように、従来のような排出弁での水素排出と比べて水素を少量かつ多周期で排出できるため、図5(c)に示すように増量モードで水素を排出したとしても、上限希釈水素濃度A未満の領域で効率よく水素を排出することができる。
【0072】
なお、インジェクタ27を作動させる期間は、バッファタンク26内にアノードオフガスが導入されて、インジェクタ27の上流側と下流側の差圧がアノードオフガスを噴射させるのに必要な圧力Pとなっているときである。よって、圧力センサ51の検出値(圧力P)を監視することにより、インジェクタ27を作動させる必要があるか否かを判定できる。これにより、インジェクタ27を無駄に作動させるのを防止できる。
【0073】
次に、排出弁25とインジェクタ27の故障検知について図6ないし図9を参照して説明する。図6は故障検知を示すフローチャート、図7は故障時の圧力変化を示すタイムチャート、図8は故障検知を示す別のフローチャート、図9は故障時の圧力変化を示すタイムチャートである。
【0074】
図6に示すように、ステップS301において、ECU50は、排出弁25が閉指令であるか否かを判定する。排出弁25が閉指令であるか否かは、ECU50が排出弁25に対して開指令を出力していないか否かで判定することができる。ECU50は、排出弁25が閉指令であると判定した場合には(S301、Yes)、ステップS302に進む。
【0075】
ステップS302において、ECU50は、圧力センサ51によって検出される圧力Pが、想定圧力Ps1の上限値よりも高いか否かを判定する。想定圧力Ps1の上限値とは、水素排出時に排出弁25とインジェクタ27がともに正常に作動している場合において想定される圧力の上限値であり、予め実験等によって求められ、ECU50に記憶されている。
【0076】
ステップS302において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps1の上限値よりも高いと判定した場合には(Yes)、ステップS303に進み、「排出弁25の開故障」または「インジェクタ27の閉故障」であると判定する。
【0077】
なお、排出弁25の開故障とは、排出弁25に対して開指令を出力していないにもかかわらず、排出弁25が閉まらない不具合である。また、インジェクタ27の閉故障とは、インジェクタ27に対して開指令(パルス信号)を出力しているにもかかわらず、インジェクタ27から水素を排出できない不具合である。
【0078】
ステップS302において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps1の上限値以下であると判定した場合(No)、ステップS304に進む。
【0079】
ステップS304において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps1の下限値よりも低いか否かを判定する。ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps1の下限値以上であると判定した場合には(S304、No)、ステップS305に進み、排出弁25とインジェクタ27がともに正常に作動していると判定する。
【0080】
また、ステップS304において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps1の下限値よりも低いと判定した場合(Yes)、「インジェクタ27の開故障」と判定する。なお、インジェクタ27の開故障とは、インジェクタ27に対して開指令を出力しているが、指令通りの水素が排出されず水素が漏れている不具合である。
【0081】
一方、ステップS301において、排出弁25が閉指令ではないと判定した場合には(No)、つまり、排出弁25が開指令である場合には、ステップS310に進み、圧力Pが想定圧力Ps2の下限値より低いか否かを判定する。
【0082】
ステップS310において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps2の下限値より低いと判定した場合には(Yes)、ステップS311に進み、「排出弁25の閉故障」または「インジェクタ27の開故障」であると判定する。
【0083】
なお、排出弁25の閉故障とは、排出弁25に対して開指令を出力しているにもかかわらず、排出弁25が開指令通りに開かない不具合である。なお、このときの閉故障とは、弁が全閉する場合だけではなく半開するといった不具合も含む。インジェクタ27の開故障とは、インジェクタ27に対して開指令を出力しているが、インジェクタ27から指令通りの水素が排出されず水素が漏れている不具合である。
【0084】
ステップS310において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps2の下限値以上であると判定した場合には(No)、ステップS312に進む。
【0085】
ステップS312において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps2の上限値よりも高いか否かを判定する。ステップS312において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps2の上限値以下と判定した場合には(No)、ステップS313に進み、排出弁25とインジェクタ27がともに正常に作動していると判定する。
【0086】
また、ステップS312において、ECU50は、圧力Pが想定圧力Ps2の上限値よりも高いと判定した場合(Yes)、「インジェクタ27の閉故障」と判定する。
【0087】
図7において時刻t0〜t1に示すように、排出弁25が閉指令である場合(S301、Yes)、圧力センサ51によって想定圧力Ps1の上限値よりも高い圧力(符号B1参照)が検出されたときには(S302、Yes)、「排出弁25の開故障」または「インジェクタ27の閉故障」であると判定される(S303)。また、想定圧力Ps1の下限値よりも低い圧力(符号B2参照)が検出されたときには(S304、Yes)、「インジェクタ27の開故障」であると判定される(S306)。
【0088】
また、図7において時刻t1〜t2に示すように、排出弁25が開指令である場合(S301、No)、圧力センサ51によって想定圧力Ps2の下限値よりも低い圧力(符号C2参照)が検出されたときには(S310、Yes)、「排出弁25の閉故障」または「インジェクタ27の開故障」であると判定する(S311)。また、想定圧力Ps2の上限値よりも高い圧力(符号C1参照)が検出されたときには(S312、Yes)、「インジェクタ27の閉故障」であると判定される(S314)。
【0089】
なお、図8および図9に示すように、ECU50は、排出弁25が開指令であると判定した場合(S301、No)、インジェクタ27に対して動作を停止させる指令を出力するように制御してもよい(S309、図9の時刻t1〜t2参照)。なお、その他の処理は、図6に示す処理と同様であり、同一のステップ符号を付してその説明を省略する。
【0090】
ところで、本実施形態としての図10(a)、および、比較例(従来例)としての図10(b)に示すように、同量の水素を排出すると仮定する。そうした場合、図10(b)に示すように、燃料排出系にバルブを備えた従来の燃料電池システムでは、バルブの応答性の関係で数百msec〜数秒間、バルブを開にして水素を排出していた。このような場合に水素を排出すると、バルブを開弁したときに水素濃度が急上昇する。しかし、図10(a)に示すように、燃料排出系にインジェクタ27を備えた燃料電池システム1Aでは、インジェクタ27を数msecで開閉することが可能になるため、図10(b)と同様に同じ水素量を排出した場合、インジェクタ27での方が細かく弁を開閉できるので、水素濃度の上昇を低減できる。
【0091】
図11(a)、(b)に示すように、インジェクタ27については、1周期時間当たりの開弁時間(開時間)である開弁率に基づいて制御する構成としてもよい。なお、1周期時間とは、予め実験やシミュレーションなどによって定められてECU50に記憶されるものであり、希釈デバイス(希釈器34)の容量、および、燃料電池システム1A上において起こり得る希釈ガス(カソードオフガスおよび/またはカソードガス)流量の急減(例えば、単位時間当たりの減少率が最大で変化すること)を考慮して設定される。すなわち、インジェクタ27の開弁率が100%で、かつ、希釈ガスの流量が急減したとしても、希釈器34から排出される水素の濃度(排気の水素濃度)が上限希釈水素濃度Aを超えないように1周期時間が設定される。
【0092】
例えば、図11(a)に示すように、インジェクタ27に対して開弁と同時に希釈器34に導入される希釈ガス(カソードオフガス)流量が急減した場合には、1周期時間の経過時にインジェクタ27の開弁率を下げる。
【0093】
一方、図11(b)に示すように、希釈ガス(カソードオフガス)流量が多い場合には、開弁率を大きくして複数周期連続して設定する。すなわち、インジェクタ27に対して例えば90%の開弁率で開始し、1周期時間経過時にさらに同様にして90%の開弁率を連続して設定する。なお、1周期時間が短く設定されると、開弁率を最大限大きくしても水素の排出量が制限されてしまうおそれがあるが、1回のパージにおいてインジェクタ27を複数周期続けて開弁することで水素の排出量が制限されるのを防止できる。
【0094】
以上説明したように、第1実施形態に係る燃料電池システム1Aでは、燃料排出系に燃料排出手段としてのインジェクタ27と、このインジェクタ27を制御して当該インジェクタ27から排出されたアノードオフガス(燃料オフガス)を上限希釈水素濃度(目標所定燃料ガス濃度)A未満に希釈して燃料電池システム1Aの外部(システム外部)に排出する希釈制御を行うECU50(制御手段)と、を備えている。これによれば、インジェクタ27を燃料排出系に設けることにより、従来のような遮断弁(排出弁)の開閉制御(ON/OFF制御)よりもアノードオフガスの排出量をより細かく制御できるようになる。その結果、アノードオフガスに含まれる水素の希釈スペースを大型化する必要がなくなるので、希釈スペースの効率化(小型化)が可能になる。つまり、図10(a)に示すように、上限希釈水素濃度を下げることが可能になるので、希釈デバイス(希釈器34)を小型化することが可能になる。
【0095】
また、第1実施形態では、アノードオフガスを少量、かつ、排出タイミングよく排出できるので、アノードオフガスに含まれる不純物(生成水、窒素など)を、インジェクタ27を介して外部にこまめに排出でき、燃料電池10の発電性能の向上が可能になる。つまり、燃料電池10のアノード(電極)表面が不純物で覆われて水素のアノードへの供給が阻害されるのを抑制(例えば、フラッディングの発生を抑制)できるので、燃料電池10の発電性能の向上が可能になる。
【0096】
また、第1実施形態では、燃料排出系においてインジェクタ27の上流側にアノードオフガスを排出する排出弁25を備え、ECU50が排出弁25およびインジェクタ27を制御して希釈制御を行う構成を備えている。つまり、アノードオフガスが希釈される濃度は、インジェクタ27の制御で決まるため、排出弁25に求められるシール性を簡略化してコストを抑えることができる。また、アノードオフガスの排出量を制御する目的で排出弁25を並列に複数個設置した場合でも、アノードオフガスの排出量はインジェクタ27で制御できるため、排出弁25の個数を削減してコストを抑えることが可能になる。よって、燃料電池システム1A構築の際のコストを抑えることができる。また、第1実施形態によれば、排出弁25とインジェクタ27の双方によってアノードオフガスの排出量を制御できるため、より決め細やかに燃料オフガスを希釈することが可能になる。
【0097】
また、第1実施形態によれば、ECU50によって排出弁25が開状態である場合にインジェクタ27の動作を制限(図9のS309参照)することにより、インジェクタ27からのアノードオフガスの排出量を適切に制御することが可能になる。このように制御するのは、排出弁25が開状態である場合、インジェクタ27の上流側の圧力が一時的に高まるため、インジェクタ27の排出量の制御が難しくなるからである。なお、動作を制限するとは、アノードオフガスの排出量を抑制することに限定されず、インジェクタ27の動作を停止させてアノードオフガスの排出量をゼロにすることも含む。
【0098】
また、第1実施形態によれば、ECU50が圧力センサ51の圧力に基づいてインジェクタ27の動作量を補正することにより、インジェクタ27から排出されるアノードオフガスの排出量を高精度に制御することが可能になる。
【0099】
また、第1実施形態によれば、燃料排出系において排出弁25とインジェクタ27との間に圧力センサ51を備えることにより、排出弁25に対して閉指令が出力されている場合において、想定圧力Ps1が圧力センサ51の検出値よりも高いときには、インジェクタ27の閉故障または排出弁25の開故障であると判定でき、想定圧力Ps1よりも圧力センサ51の検出値が低いときには、インジェクタ27の開故障(シール部分の欠損等を含む)であると判定できる。また、排出弁25に対して開指令が出力されている場合において、想定圧力Ps2が圧力センサ51の検出値よりも低いときには、排出弁25の閉故障またはインジェクタ27の開故障であると判定でき、想定圧力Ps2よりも高いときには、インジェクタ27の閉故障であると判定できる。このように、インジェクタ27および排出弁25が正常に機能しているか否かを判定することができ、高濃度の水素が外部に排出されるのを防ぐことが可能になる。
【0100】
また、第1実施形態によれば、ECU50が温度センサ52の温度に基づいてインジェクタ27の動作量を補正することにより、インジェクタ27から排出されるアノードオフガスの排出量を高精度に制御することが可能になる。
【0101】
また、第1実施形態によれば、燃料排出系においてインジェクタ27の上流側にアノードオフガスを貯留するバッファタンク26を備えることにより、バッファタンク26にアノードオフガスを溜めた状態でインジェクタ27を作動させることで、インジェクタ27からの吐出量を安定して制御できる。
【0102】
また、第1実施形態によれば、燃料電池10から排出されるカソードオフガスの流量を検出する流量センサ53(第2流量センサ)を備え、ECU50によって流量センサ53の検出値に基づいてインジェクタ27を制御することにより、カソードオフガスの流量を適切に把握することで、カソードオフガスの流量に応じてアノードオフガスの排出を促進することができる。つまり、インジェクタ27からアノードオフガスを少量且つタイミングよく排出できるので、カソードオフガスの流量が少ないときにアノードオフガスの排出を停止させる必要がなくなり、発電性能のよい燃料電池システム1Aを構築できる。
【0103】
ところで、従来のような弁(バルブ)による制御は、希釈ガス流量(カソードオフガス流量)に応じてバルブの開弁時間が決まるという直接的な制御である。したがって、一度弁を開けた状態で何秒後に閉じるかが決まってしまうので、弁を開けてすぐに希釈ガス流量が急減した場合、弁を閉じることができない。よって、排出水素濃度が高くなるおそれがあるため、希釈デバイス(希釈器など)の大型化につながる。しかし、第1実施形態では、希釈ガス流量(カソードオフガス流量および/またはカソードガス流量)に応じてインジェクタ27の開弁率が決まるように設定される。すなわち、1周期時間を希釈ガス流量の急減を考慮して定めることで、希釈ガス流量が急減した場合であっても、希釈器34の出口側の排出水素濃度が上限希釈水素濃度Aを超えることがない。また、複数周期連続してインジェクタ27の開弁率を高い状態に設定することにより、希釈ガス流量が多い場合であっても、水素希釈を効果的に行うことができる。
【0104】
また、第1実施形態によれば、燃料電池システム1Aを車両に搭載することにより、発電性能を向上させることができるため、走行性能の高い車両を得ることができる。
【0105】
(第2実施形態)
図12は第2実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。第2実施形態の燃料電池システム1Bは、第1実施形態の燃料電池システム1Aから希釈器34を取り除いた構成である。なお、第2実施形態は、第1実施形態と同様の構成および効果については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0106】
すなわち、流量センサ53によりカソードオフガスの流量を検知して、インジェクタ27からの水素の排出量を細かく制御することで、希釈器(希釈デバイス)34を不要にできる。なお、燃料電池システム1Bでは、配管a9と配管c4との合流部が希釈手段に相当する。
【0107】
(第3実施形態)
図13は第3実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。第3実施形態の燃料電池システム1Cは、第1実施形態の燃料電池システム1Aから排出弁25を取り除いた構成である。なお、第3実施形態は、第1実施形態と同様の構成および効果については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0108】
これによれば、故障検知して以下の効果を得ることができる。すなわち、燃料排出系においてインジェクタ27の上流側にアノードオフガスの圧力を検出する圧力センサ51を備えることにより、想定圧力よりも圧力センサ51の検出値が低いときには、インジェクタ27の開故障(シール部分の欠損等を含む)と判定でき、逆に圧力センサ51の検出値が高いときには、インジェクタ27の閉故障と判定できる。つまり、インジェクタが正常に機能しているか否かを判定することができ、高濃度の水素が外部に排出されるのを防ぐことが可能になる。
【0109】
(第4実施形態)
図14は第4実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。第4実施形態の燃料電池システム1Dは、第1実施形態の燃料電池システム1Aから排出弁25と希釈器34(希釈デバイス)を取り除いた構成である。なお、第4実施形態は、第1実施形態と同様の構成および効果については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0110】
すなわち、流量センサ53によりカソードオフガスの流量を検知して、インジェクタ27からの水素の排出量を細かく制御することで、希釈器(希釈デバイス)34および排出弁25を不要にできる。なお、燃料電池システム1Dでは、配管a9と配管c4との合流部が希釈手段に相当する。
【0111】
なお、前記した第1実施形態ないし第4実施形態では、燃料排出手段としてインジェクタ27を備えた燃料電池システム1A〜1Dを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、燃料排出手段としてポンプを適用してもよい。適用可能なポンプとしては、アノードオフガス(水素)を少量かつ排出タイミングを高精度に制御できるものであればよく、例えばギアポンプやプランジャポンプ(容積型ポンプ)などを適用することができる。なお、燃料排出手段は、アノードオフガス(水素)を少量かつ高精度な排出タイミングが可能なものであれば他の種類のポンプであってもよい。
【0112】
このように、燃料排出手段としてポンプを備えた燃料電池システム(燃料電池システム1A,1Bに対応したもの)によれば、インジェクタ27の場合と同様な効果を得ることができる。ちなみに、燃料排出系において排出弁25とポンプとの間にアノードオフガス(燃料オフガス)の圧力を検出する圧力センサ51を備えることにより、排出弁25が閉指令で、圧力センサ51の検出値が想定圧力Ps1よりも高いときには、ポンプの故障または排出弁の閉故障であると判定でき、また前記検出値が想定圧力Ps1よりも低いときには、ポンプの開故障であると判定できる。また、排出弁25が開指令で、圧力センサ51の検出値が想定圧力Ps2よりも低いときには、ポンプの故障または排出弁25の閉故障であると判定でき、また前記検出値が想定圧力Ps2よりも高いときには、ポンプの閉故障であると判定できる。このように、ポンプおよび排出弁25が正常に機能しているか否かを判定することができ、高濃度の水素が外部に排出されるのを防ぐことが可能になる。
【0113】
また、燃料排出手段としてポンプを備えた燃料電池システム(燃料電池システム1C,1Dに対応したもの)によれば、インジェクタ27の場合と同様な効果を得ることができる。ちなみに、燃料排出系においてポンプの上流側にアノードオフガス(燃料オフガス)の圧力を検出する圧力センサ51を備えることにより、想定圧力よりも圧力センサ51の検出値が低いときまたは前記検出値が高いときには、ポンプが故障していると判定できる。つまり、ポンプが正常に機能しているか否かを判定することができ、高濃度の水素が外部に排出されるのを防ぐことが可能になる。
【0114】
また、前記した各実施形態では、インジェクタ27の上流側に圧力センサ51を配置した場合、またはインジェクタ27と排出弁25との間に圧力センサ51を配置した場合を例に挙げて説明したが、圧力センサ51に替えて流量センサ(第1流量検知手段)を適用してもよい。
【0115】
すなわち、図15に示すように、排出弁25が閉指令で(S401、Yes)、流量センサの検出値Qが想定流量Qs1の上限値よりも多い場合には(S402、Yes)、インジェクタ27の開故障または排出弁25の開故障であると判定され(S403)、前記検出値Qが想定流量Qs1の下限値よりも少ない場合には(S404,Yes)、インジェクタ27の閉故障であると判定される(S406)。また、排出弁25が開指令で(S401、No)、流量センサの検出値Qが想定流量Qs2の下限値よりも少ない場合には(S410、Yes)、排出弁25の閉故障またはインジェクタ27の閉故障であると判定され(S411)、前記検出値Qが想定流量Qs2の上限値よりも多い場合には(S412、Yes)、インジェクタ27の開故障であると判定される(S414)。
【0116】
また、前記した各実施形態では、燃料排出系にインジェクタ27およびポンプのいずれか一方を適用した場合を例に挙げて説明したが、燃料排出手段としてインジェクタ27とポンプの双方を備えるものであってもよく、例えばインジェクタ27をポンプよりも下流側に配置する構成にできる。なお、ポンプをインジェクタ27よりも下流側に配置してもよい。
【0117】
また、前記した燃料電池システム1B,1Dでは、燃料電池10の上流側のカソードガスを燃料電池10の下流側に供給する配管c6を備えていない構成としたが、これに限定されず、燃料電池システム1B,1Dの場合であっても、配管c6を設けて配管c5の配管c6との合流点を、配管a9の配管c6との合流点よりも上流側に接続する構成にできる。これにより、燃料電池10の上流側のカソードガス(酸化剤ガス)と、燃料電池10の下流側のカソードオフガス(酸化剤オフガス)の双方でインジェクタ27からの水素を希釈することができ、水素の希釈を促進できる。なお、逆に、前記した燃料電池システム1A,1Cにおいては、配管c6を備えない構成であってよい。
【0118】
また、前記した燃料電池システム1Aないし1Dでは、バッファタンク26を備える構成としたが、バッファタンクを備えない構成であってもよい。ちなみに、インジェクタ27の下流側の配管a9が希釈器34または配管c4に接続されることで、配管c4を流れるカソードオフガスの流れによって配管a9に対して負圧が発生することになり、インジェクタ27の上流側と下流側との間で差圧が発生するので、インジェクタ27からアノードオフガスを吐出させることが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1A,1B,1C,1D 燃料電池システム
10 燃料電池
25 排出弁
26 バッファタンク
27 インジェクタ(燃料排出手段)
34 希釈器(希釈手段)
50 ECU(制御手段)
51 圧力センサ(圧力検知手段)
52 温度センサ(温度検知手段)
53 流量センサ(第2流量検知手段)
a1,a2,a3,a4 配管(燃料供給系)
a5 配管(燃料循環系)
a6,a7,a8,a9 配管(燃料排出系)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料供給系と、
前記燃料電池から排出された燃料オフガスを前記燃料電池に戻す燃料循環系と、
前記燃料循環系から燃料オフガスを排出する燃料排出系と、
を備える燃料電池システムにおいて、
前記燃料排出系に設けられ、インジェクタおよびポンプの少なくともひとつを含む燃料排出手段と、
前記燃料排出手段から排出された燃料オフガスを希釈する希釈手段と、
前記燃料排出手段を制御して当該燃料排出手段から排出された燃料オフガスを所定燃料ガス濃度を下回るように希釈してシステム外部に排出する希釈制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料排出系は、前記燃料排出手段の上流側に燃料オフガスを排出する排出弁を備え、
前記制御手段は、前記排出弁および前記燃料排出手段を制御して希釈制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記排出弁が開状態である場合、前記燃料排出手段の動作を制限することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料排出手段の上流側に前記燃料オフガスの圧力を検知する圧力検知手段を備え、
前記制御手段は、前記圧力に基づいて前記燃料排出手段の動作量を補正することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料排出系は、前記排出弁と前記燃料排出手段との間に、前記燃料オフガスの圧力を検知する圧力検知手段を備え、
前記制御手段は、前記圧力検知手段の圧力に基づいて前記排出弁および前記燃料排出手段の故障を検知することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料排出系は、前記排出弁と前記燃料排出手段との間に、前記燃料オフガスの流量を検知する第1流量検知手段を備え、
前記制御手段は、前記第1流量検知手段の流量に基づいて前記排出弁および前記燃料排出手段の故障を検知することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料排出手段の上流側に前記燃料オフガスの温度を検知する温度検知手段を備え、
前記制御手段は、前記温度に基づいて前記燃料排出手段の動作量を補正することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料排出系は、前記燃料排出手段の上流側に前記燃料オフガスを貯留するバッファタンクを備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池システム
【請求項9】
前記希釈手段に導入される酸化剤ガスおよび/または酸化剤オフガスの流量を検出する第2流量検知手段を備え、
前記制御手段は、前記第2流量検知手段の検出値に基づいて前記燃料排出手段を制御することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記制御手段は、1周期時間当たりの開時間である開弁率に基づいて前記燃料排出手段を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
車両に搭載されることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−252796(P2012−252796A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122404(P2011−122404)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】