説明

燃料電池システム

【課題】発電停止中に燃料電池内に溜まった水を適正なタイミングで排出する。
【解決手段】制御装置50は、燃料電池1の停止中に、停止した際に温度センサ63で検出された温度と温度センサ63で検出された現在の温度との温度差を用いて、予め作成しておいた温度差と燃料電池1内の凝縮水量との関係を示す凝縮水マップに基づいて現在の燃料電池1内の凝縮水量を推定し、停止した際に圧力センサ62で検出されたアノード圧力と圧力センサ62で検出された現在のアノード圧力との圧力差を用いて、予め作成しておいた圧力差と燃料電池1内の生成水量との関係を示す生成水マップに基づいて燃料電池1内の停止後生成水量を推定し、現在の凝縮水量と停止後生成水量との和が、燃料電池1の安定起動に影響を与える所定水量を超える場合に、掃気手段によるアノード掃気を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を有し、アノード極に燃料を供給されカソード極に酸化剤を供給されて発電を行う燃料電池では、燃料電池の停止中に、燃料電池内の水が過多になると、電極上に水が溜まって、次回起動時の発電安定性が悪化してしまう。
【0003】
そこで、起動時の発電安定性を悪化させないように、燃料電池内のガス流路に掃気ガスを供給して流路内の流体を排出する、いわゆる掃気を実施している。
例えば、特許文献1には、燃料電池の停止時に、停止直前の燃料電池の温度と発電電流と発電電圧とに基づいて燃料電池内の水分量が多い状態か否かを検出し、水分量が多い状態の場合にはカソード極側のみを掃気ガスで掃気し、水分量が少ない状態の場合にはカソード極側とアノード極側に分けて順番に掃気ガスで掃気する燃料電池システムが記載されている。
【0004】
特許文献2には、燃料電池のガス流路内を掃気ガスにより加減圧することで燃料電池内に残留する水の排出(掃気)を行う燃料電池システムであって、燃料電池の停止時に、燃料電池内に残留する水分量を予測し、残留水分量の予測結果に基づいて残留水除去が必要か否かを判定するとともに、残留水分量の予測結果に基づいて前記加減圧の回数を決定する燃料電池システムが記載されている。
なお、これら特許文献に開示された燃料電池システムでは、イグニッションスイッチのオフ直後、すなわち燃料電池の停止直後に、掃気処理を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−123040号公報
【特許文献2】特開2008−10347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のように燃料電池の停止直後に掃気ガスで掃気をすると、停止から次の起動までの時間が短く、結果的には掃気の必要がなかった場合にも掃気を実施してしまうことがあり、エネルギーを浪費してしまうこととなる。特に、アノード極を掃気ガスで掃気してしまうと、アノード極に連なるガス流路に燃料がない状態となるので、次回起動時には発電前に前記ガス流路に燃料を供給して掃気ガスを燃料に置換する必要がある。これを、停止から起動までの時間が短く結果的に掃気の必要がなかった場合に行ったときには、燃料が無駄になる。
そこで、最近では、燃料電池の停止直後は掃気をせず、燃料電池が停止してから所定時間が経過した後に掃気を実施している。
【0007】
その場合、燃料電池の状態に関わらず、燃料電池の停止から所定時間が経過したときに掃気を実施しているため、掃気を実施する前に、燃料電池内に水が溜まっている状況で燃料電池を起動させてしまう事態も起こり得る。そのような事態になると起動時の発電安定性が悪化するという課題がある。また、発電安定性が悪化した状態で発電を続けることとなるため、固体高分子電解質膜の劣化が進んでしまうという課題もある。
【0008】
なお、特許文献1に開示されている燃料電池内の水分量の検出方法は、停止直前の燃料電池の発電電流と発電電圧とに基づいて、停止時において水分量が多いか少ないかを相対的に評価しているだけであり、燃料電池内の水分量を定量的に推定しているわけではない。
【0009】
また、特許文献2に開示されている燃料電池内に残留する水分量の予測方法は、停止中に燃料電池のガス流路に酸化剤ガスを流し、そのときに発生する燃料電池の入口と出口の差圧に基づいて残留水分量を推定している。この方法は、推定する度に酸化剤ガスを流すためにコンプレッサを起動しエネルギーを使用することから、特許文献2に記載されているように発電停止直後に1回だけ推定する場合には問題ないが、燃料電池の停止中に残留水分量の推定を複数回行う場合には適さない。
【0010】
そこで、この発明は、発電停止中に燃料電池内に溜まった水を適正なタイミングで排出して、発電安定性を向上することができる燃料電池システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る燃料電池システムでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、アノード極に燃料を供給されカソード極に酸化剤を供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、前記燃料電池の温度を検出する温度センサ(例えば、後述する実施例における温度センサ63)と、前記燃料電池の前記アノード極に連なる燃料系ガス流路(例えば、後述する実施例における燃料供給流路16a、アノードオフガス流路21、アノード掃気流路23、掃気排出流路30)内の燃料の圧力を検出する圧力センサ(例えば、後述する実施例における圧力センサ62)と、前記燃料系ガス流路内の流体を排出用ガスを供給して排出する掃気手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、掃気導入弁22、掃気排出弁29)と、前記掃気手段を制御する制御部(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、を備える燃料電池システムであって、前記制御部は、前記燃料電池の停止中に、停止した際に前記温度センサで検出された温度と前記温度センサで検出された現在の温度との温度差を、予め求められた温度差と燃料電池内の凝縮水量との関係に用いて現在の前記燃料電池内の凝縮水量を推定し、停止した際に前記圧力センサで検出された圧力と前記圧力センサで検出された現在の圧力との圧力差を、予め求められた圧力差と燃料電池内の生成水量との関係に用いて前記燃料電池内の停止後生成水量を推定し、前記現在の凝縮水量と前記停止後生成水量との和が、前記燃料電池の安定起動に影響を与える所定水量を超える場合に、前記掃気手段による排出を実施することを特徴とするシステムである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御部は、前記燃料電池の停止以降、前記圧力センサで検出される圧力の履歴を記憶し、前記圧力センサで検出される現在の圧力がこれまでの圧力よりも低い場合には、前記温度センサで検出される現在の温度が高いほど前記停止後生成水量が大きくなるように補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、燃料電池を停止してから現在までの間に燃料電池内に生じたと推定される凝縮水量と停止後生成水量の合計が、燃料電池の安定起動に影響を与える所定水量を越えたときに、アノード極に連なる燃料系ガス流路に排出用ガスを流してアノード極側に溜まった水を排出する掃気を実施するので、次回起動時に、燃料電池を安定して起動することができる。その結果、燃料電池の固体高分子電解質膜の劣化を抑制することができる。
また、掃気を実施するか否かの判定には、燃料電池の温度を検出する温度センサと、燃料系ガス流路内の圧力を検出する圧力センサを起動するだけであるので、判定時の消費エネルギーを極めて小さく抑えることができる。
請求項2に係る発明によれば、温度が高いほど燃料と酸化剤との反応が促進されるため停止後生成水量が多くなるのを補正することができ、その結果、停止後生成水量の推定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る燃料電池システムの実施例における概略構成図である。
【図2】掃気タイミング決定手順を説明するための模式図である。
【図3】実施例におけるシステム停止制御を示すフローチャートである。
【図4】実施例において用いられる凝縮水マップである。
【図5】実施例において用いられる生成水マップである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明に係る燃料電池システムの実施例を図1から図5の図面を参照して説明する。
図1は、実施例における燃料電池システムの概略構成図であり、この燃料電池システムは燃料電池車両に搭載されている。
燃料電池1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜をアノード極とカソード極とで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており、アノード極に燃料ガス(燃料)として水素を供給し、カソード極に酸化剤ガス(酸化剤)として酸素を含む空気を供給すると、アノード極で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソード極まで移動して、カソード極で酸素と電気化学反応を起こして発電し、水が生成される。カソード極側で生じた生成水の一部は固体高分子電解質膜を透過してアノード極側に逆拡散するため、アノード極側にも生成水が存在する。
【0016】
空気はスーパーチャージャーなどのコンプレッサ7により所定圧力に加圧され、空気供給流路8を通って燃料電池1内の酸化剤流通路6に導入され、各セルのカソード極に供給される。燃料電池1に供給された空気は発電に供された後、燃料電池1からカソード極側の生成水と共に空気排出流路9に排出され、圧力制御弁10を介して希釈ボックス11へ排出される。
空気供給流路8には、燃料電池1の酸化剤流通路6に供給される空気の圧力を検出するカソード入口圧力センサ61が設けられている。カソード入口圧力センサ61は検出した圧力値に応じた電気信号を制御装置(制御部)50に出力する。なお、カソード入口圧力センサ61により検出される圧力は、酸化剤流通路6内の空気の圧力にほぼ等しい。
【0017】
一方、水素タンク15から供給される水素は燃料供給流路16を介して燃料電池1内の燃料流通路5に導入され、各セルのアノード極に供給される。燃料供給流路16には、上流側から順に、ガス供給弁17、遮断弁18、レギュレータ19、エゼクタ20が設けられており、水素タンク15から供給された水素はレギュレータ19によって所定圧力に減圧されて燃料電池1の燃料流通路5に供給される。そして、消費されなかった未反応の水素は、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス流路21を通ってエゼクタ20に吸引され、水素タンク15から供給される新鮮な水素と合流し再び燃料電池1の燃料流通路5に供給される。すなわち、燃料電池1から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス流路21、およびエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16aを通って、燃料電池1を循環する。
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16aと空気供給流路8は、掃気導入弁22を備えたアノード掃気流路23によって接続されており、アノード掃気流路23を介して燃料供給流路16aに空気を導入可能となっている。
このアノード掃気流路23との合流点よりも下流側の燃料供給流路16aには、燃料電池1の燃料流通路5に供給される水素の圧力を検出するアノード入口圧力センサ62が設けられている。アノード入口圧力センサ62は検出した圧力値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。なお、アノード入口圧力センサ62により検出される圧力は、燃料流通路5内の水素の圧力にほぼ等しい。
【0018】
アノードオフガス流路21には、アノードオフガスに含まれる凝縮水を捕集するキャッチタンク24が設けられており、エゼクタ20には凝縮水を除去された水素が供給されるようになっている。キャッチタンク24は、排水弁25を備えた排水流路26を介して希釈ボックス11に接続されており、キャッチタンク24に所定量の水が溜まると排水弁25が開き、溜まった水をアノードオフガスで押し出し、希釈ボックス11にアノードオフガスとともに排出する。
【0019】
また、キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21からは、パージ弁27を備えたパージ流路28と、掃気排出弁29を備えた掃気排出流路30とが分岐し、パージ流路28と掃気排出流路30は希釈ボックス11に接続されている。
パージ弁27は、燃料電池1の発電時において、通常は閉じており、所定の条件が満たされたときに開いて、アノードオフガス中に含まれる不純物をアノードオフガスとともに希釈ボックス11へ排出する。
掃気排出弁29は通常は閉じており、燃料電池システムの停止中にアノード極側を掃気するときに開いて掃気ガスを希釈ボックス11に排出する。掃気については後で詳述する。
【0020】
また、希釈ボックス11には空気供給流路8から分岐した希釈ガス流路31が接続されている。希釈ガス流路31に設けられた開閉弁32は、燃料電池1を通さずに希釈ガス(空気)を希釈ボックス11に供給する場合に開かれる。
そして、排水流路26、パージ流路28、掃気排出流路30を介して希釈ボックス11に排出されたアノードオフガスは、空気排出流路9または希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に流入する空気によって希釈され、希釈されたガスが希釈ボックス11から排気管33を介して大気に排出される。
また、燃料電池1には、燃料電池1内の温度を検出する温度センサ63が設けられており、温度センサ63は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0021】
制御装置50は、イグニッションスイッチ51から入力したオン・オフ信号に基づいて燃料電池システムの起動・停止を制御し、燃料電池1の出力制御等、制御内容に応じて、コンプレッサ7、圧力制御弁10、ガス供給弁17、遮断弁18、掃気導入弁22、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、開閉弁32等を制御する。なお、図1ではこれらの制御信号線を省略している。
【0022】
また、制御装置50には、制御装置50の停止中に所定のインターバルで制御装置50を起動させるためのタイマ52が接続されており、燃料電池システムの停止中(すなわち、制御装置50の停止中)に、タイマ52にセットされた時間が経過すると制御装置50が起動せしめられるようになっている。以下、このように停止中の制御装置50を所定のインターバルで起動する制御をRTC(Real Time Clock)制御と称す。RTC制御は、消費電力を抑制することができるので、燃費向上の効果がある。
【0023】
この燃料電池システムでは、燃料電池1の停止中に燃料電池1内に溜まった水によって次回起動時に発電安定性が悪化しないように、所定のタイミングで、燃料電池1およびガス流路内に空気(排出用ガス)を流して水を排出する掃気を行う。そして、この掃気のタイミングを決定するために、燃料電池1内のアノード側に溜まった水(以下、残留水という)の量を推定する。残留水量の推定は、燃料電池システムの停止中、常時実施するのではなく、RTC制御によって制御装置50が起動されたときに実施する。制御装置50は、推定された残留水量が所定値以上であるときには掃気処理を実施し、所定値よりも少ないときには制御装置50を再び停止して次のインターバルを待つ。
【0024】
ここで、燃料電池1の停止中においてアノード極側に溜まる残留水について図2の図面を参照して説明する。
燃料電池1の停止中にアノード極側のガス流路内に水が発生する要因としては次の二つが考えられる。
【0025】
(1)燃料電池1内に反応ガスを残留させ各反応ガス流路を封止して停止すると、燃料電池1内の温度低下に伴って、ガス流路内に存在していた水蒸気が結露して凝縮水が発生する。発生する凝縮水量は、燃料電池1内の湿度がほぼ一定に制御されている場合、燃料電池1を停止してから現在までの燃料電池1の温度低下量に関係し、温度低下量が大きいほど凝縮水量は多くなる。
【0026】
(2)燃料電池1内のアノード極側に大気圧よりも高い圧力で水素を、カソード極側に大気圧の空気を残留させたまま、燃料電池1の各反応ガス流路を封止して停止すると、カソード極側の酸素が燃料電池1の固体高分子電解質膜をアノード極側に透過(以下、酸素のクロスリークという)するため、アノード極側において水素と酸素が反応し、アノード極側に生成水が発生する。発生する生成水量は反応に消費された水素量に関係し、消費された水素量が多くなるほど、アノード極側のガス圧力(以下、アノード圧力という)は低下する。したがって、アノード圧力の低下量が大きいほど生成水量は多くなる。但し、アノード圧力がカソード極側の圧力と平衡してほぼ大気圧になると酸素のクロスリークが止まり、水素と酸素の反応が起こらなくなるので生成水量はそれ以上増加しない。また、生成水量は、燃料電池1内の温度に関係し、燃料電池1内の温度が高いほど反応が活発になるので、生成水量も多くなる。
【0027】
そこで、この実施例の燃料電池システムでは、燃料電池1の停止中の燃料電池1の温度低下量ΔTに基づいてアノード極側に発生する凝縮水量Q1を推定し、燃料電池1の停止中のアノード圧力の低下量ΔPに基づいてアノード極側に発生する生成水量Q2を推定し、これら推定された凝縮水量Q1と生成水量Q2の合計が所定値を越えたときに、アノード極に連なるガス流路に空気(排出用ガス)を流してアノード極側に溜まった水を排出するアノード掃気を実施する。ここで、前記所定値を燃料電池1の安定起動に悪影響を与える水量に設定すると、アノード極側に溜まった水の量が、燃料電池1の安定起動に悪影響を与える水量を越えた直後にアノード掃気を実施することができるので、次回起動時に、燃料電池1を安定して起動することができる。
【0028】
以下、燃料電池システムの停止中の掃気制御を図3の図面を参照して説明する。
図3は、燃料電池システムの停止制御を示すフローチャートである。
まず、ステップS101において、イグニッションスイッチ51がオフされたか否かを判定する。
ステップS101における判定結果が「NO」である場合には、燃料電池1は発電運転中であるので、本ルーチンの実行を終了する。
ステップS101における判定結果が「YES」である場合には、ステップS102に進み、燃料電池1への反応ガス(水素および空気)の供給を停止し、その直後に、温度センサ62により検出された温度T0と、アノード圧力センサ62により検出された圧力P0を制御装置50の記憶部(図示略)に記憶する。すなわち、燃料電池システム停止時の燃料電池1の温度T0とアノード圧力P0を記憶する。なお、燃料電池1への反応ガス供給停止は、コンプレッサ7を停止するとともに、ガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29を閉じることにより行われる。
次に、ステップS103に進み、制御装置(ECU)50を停止する。
【0029】
次に、ステップS104に進み、制御装置50の停止後、タイマ52にセットされている時間(すなわち監視インターバル)が経過して制御装置50が起動されたか否かを判定する。換言すると、RTC制御により制御装置50が起動されたか否かを判定する。
ステップS104における判定結果が「NO」である場合には、ステップS104に戻る。すなわち、監視インターバルが経過するまでステップS104の判定を繰り返す。
【0030】
ステップS104における判定結果が「YES」である場合には、ステップS105に進み、燃料電池1を停止してから現時点までの燃料電池1の温度低下によって燃料電池1のアノード極側に生じる凝縮水量Q1を推定する。
詳述すると、制御装置50は、温度センサ63により現時点での燃料電池1の温度T1を検出し、現時点の温度T1から燃料電池停止時の温度T0を引いて温度低下量ΔTを算出する。なお、温度低下量ΔTが負の値となった場合には温度低下量ΔTはゼロとする。そして、図4に示される凝縮水マップを参照して、算出された温度低下量ΔTに応じた凝縮水量Q1を求める。
図4に示される凝縮水マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して、燃料電池1内の湿度を所定の湿度に一定に制御して予め実験を行い、燃料電池停止中の温度低下量ΔTとアノード極側に生じる凝縮水量Q1との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。この実施例の凝縮水マップでは、温度低下量ΔTが大きくなるに従って凝縮水量Q1が増大する。
【0031】
次に、ステップS106に進み、燃料電池1を停止してから現時点までに燃料電池1のアノード極側で水素と酸素が反応して生じた生成水量Q2を推定する。
詳述すると、制御装置50は、圧力センサ62により現時点での燃料電池1のアノード圧力P1を検出し、燃料電池停止時のアノード圧力P0から現時点のアノード圧力P1を引いてアノード圧力低下量ΔPを算出する。なお、アノード圧力低下量ΔPが負の値となった場合にはアノード圧力低下量ΔPはゼロとする。また、制御装置50は、検出された現時点のアノード圧力P1を記憶し、燃料電池1を停止してからのアノード圧力の履歴を記憶する。そして、図5に示される生成水マップから現時点の燃料電池1の温度T1に対応するマップを参照して、算出されたアノード圧力低下量ΔPに応じた生成水量Q2を求める。
【0032】
図5に示される生成水マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して、燃料電池の温度毎に予め実験を行い、燃料電池停止中のアノード圧力低下量ΔPとアノード極側に生じる生成水量Q2との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。この実施例の生成水マップでは、現時点のアノード圧力P1が、燃料電池を停止以降のアノード圧力の最低圧力よりも低い間(ピーク前)は、アノード圧力低下量ΔPが大きくなるに従って生成水量Q2が増大し、また、同じアノード圧力低下量ΔPの場合で比較すると、燃料電池の温度が高いほど生成水量Q2が大きい。これは換言すると、現在のアノード圧力がこれまでのアノード圧力よりも低い場合には、現在の温度が高いほど生成水量Q2が大きくなるように補正すると言える。このように温度補正して生成水量Q2を算出するので、生成水量の推定精度が向上する。なお、現時点のアノード圧力P1が前記最低圧力に達した以降(ピーク以降)については、生成水量Q2は一定である。
【0033】
次に、ステップS107に進み、ステップS105で推定した凝縮水量Q1とステップS106で推定した生成水量Q2を合算することにより、アノード極側に溜まっている全水量Qを算出し(Q=Q1+Q2)、全水量Qが予め設定した所定値を越えているか否かを判定する。ここで、所定値は、燃料電池1の安定起動に悪影響を与える水量とし、予め実験により求めておく。
ステップS107における判定結果が「NO」(Q≦所定値)である場合には、ステップS103に戻り、制御装置50を停止し、RTC制御を再開する。
ステップS107における判定結果が「YES」(Q>所定値)である場合には、ステップS108に進み、燃料電池1に対する掃気を実施して、本ルーチンの実行を終了する。
【0034】
この実施例では、掃気は、初めに燃料電池1のカソード極側を掃気(以下、カソード掃気という)した後、アノード極側の掃気(以下、アノード掃気という)を行う。カソード掃気は、コンプレッサ7を駆動し、圧力制御弁10を開いて、空気を空気供給流路8、燃料電池1内の酸化剤流通路6、空気排出流路9に流通させることによって行う。アノード掃気は、コンプレッサ7を駆動し、遮断弁18を閉じ、掃気導入弁22および掃気排出弁29を開いて、空気を空気供給流路8、アノード掃気流路23、エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16a、燃料電池1内の燃料流通路5、アノードオフガス流路21、掃気排出流路30に流通させることによって行う。
なお、この実施例では、カソード掃気とアノード掃気を実施したが、カソード掃気は実施せず、アノード掃気のみを実施してもよい。
【0035】
この実施例において、コンプレッサ7、掃気導入弁22、掃気排出弁29は、燃料系ガス流路内の流体を空気(排出用ガス)を供給して排出するアノード極側の掃気手段を構成し、エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16a、アノードオフガス流路21、アノード掃気流路23、掃気排出流路30は、燃料系ガス流路を構成する。
また、コンプレッサ7、圧力制御弁10は、酸化剤系ガス流路内の流体を空気(排出用ガス)を供給して排出するカソード極側の掃気手段を構成し、空気供給流路8と空気排出流路9は酸化剤系ガス流路を構成する。
【0036】
この燃料電池システムによれば、推定された凝縮水量Q1と生成水量Q2の合計が、燃料電池1の安定起動に悪影響を与える所定値を越えたときに、アノード極に連なるガス流路に空気(排出用ガス)を流してアノード極側に溜まった水を排出するアノード掃気を実施するので、次回起動時に、燃料電池1を安定して起動することができる。その結果、燃料電池1の固体高分子電解質膜の劣化を抑制することができる。
また、アノード掃気を実施するか否かの判定には、燃料電池1の温度を検出する温度センサ63と、アノード圧力を検出する圧力センサ62を起動するだけであるので、判定時の消費エネルギーを極めて小さく抑えることができる。
【0037】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、燃料電池の温度毎に図5に示される生成水マップを予め作成しておき、現時点の燃料電池1の温度T1に対応するマップからアノード圧力低下量ΔPに応じた生成水量Q2を求めたが、例えば基準となる燃料電池温度(例えば20゜C)の生成水マップのみを持ち、この生成水マップからアノード圧力低下量ΔPに応じた生成水量Q2を求め、これに温度に応じた補正係数を掛けて、生成水量Q2の温度補正を行ってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 燃料電池
7 コンプレッサ(掃気手段)
16a 燃料供給流路(燃料系ガス流路)
21 アノードオフガス流路(燃料系ガス流路)
22 掃気導入弁(掃気手段)
23 アノード掃気流路(燃料系ガス流路)
29 掃気排出弁(掃気手段)
30 掃気排出流路(燃料系ガス流路)
50 制御装置(制御部)
62 圧力センサ
63 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極に燃料を供給されカソード極に酸化剤を供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池の温度を検出する温度センサと、
前記燃料電池の前記アノード極に連なる燃料系ガス流路内の燃料の圧力を検出する圧力センサと、
前記燃料系ガス流路内の流体を排出用ガスを供給して排出する掃気手段と、
前記掃気手段を制御する制御部と、
を備える燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記燃料電池の停止中に、停止した際に前記温度センサで検出された温度と前記温度センサで検出された現在の温度との温度差を、予め求められた温度差と燃料電池内の凝縮水量との関係に用いて現在の前記燃料電池内の凝縮水量を推定し、停止した際に前記圧力センサで検出された圧力と前記圧力センサで検出された現在の圧力との圧力差を、予め求められた圧力差と燃料電池内の生成水量との関係に用いて前記燃料電池内の停止後生成水量を推定し、前記現在の凝縮水量と前記停止後生成水量との和が、前記燃料電池の安定起動に影響を与える所定水量を超える場合に、前記掃気手段による排出を実施することを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記燃料電池の停止以降、前記圧力センサで検出される圧力の履歴を記憶し、前記圧力センサで検出される現在の圧力がこれまでの圧力よりも低い場合には、前記温度センサで検出される現在の温度が高いほど前記停止後生成水量が大きくなるように補正することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−59557(P2012−59557A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201813(P2010−201813)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】