説明

燃料電池スタック及び燃料電池システム

【課題】燃料電池スタックの各セルのアノード及びカソードの温度を制御する。
【解決手段】アノード及びカソードを有するセルを複数積層した燃料電池スタック1であって、アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路21Aと、カソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路21Bと、燃料ガス流路21Aを流れる燃料ガスを冷却する冷却媒体が流れるアノード冷却媒体流路24と、酸化剤ガス流路21Bを流れる酸化剤ガスを冷却する冷却媒体が流れるカソード冷却媒体流路25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電時において水を発生する燃料電池スタック及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックのセル内の冷却水流路は、アノード及びカソードそれぞれに設けられているが、マニホールドで合流させているため、冷却系としては1系統になっている。この場合、アノードとカソードの温度は、略同一となる。カソードで生成した生成水が電解質膜を通してどれだけアノードに移動するかは、フラッディングやドライアップを回避しながら燃料電池の性能を引き出すために重要である。生成水の移動量は、ストイキ比や圧力、温度等、様々な発電条件の影響を受ける。そして、生成水の移動量に影響を及ぼす一つの要因として冷却水温度差がある。
【0003】
燃料電池スタックの起動時のフラッディングを回避する方法として、燃料電池スタックのカソード側のエンドプレートに燃料電池スタックのアノード側のエンドプレートよりも多量の冷媒を流す方法がある。この方法によれば、燃料電池スタックのカソード側の温度が燃料電池スタックのアノード側よりも高くなり、各セル内の水はカソード側からアノード側に移動し、燃料電池スタックの起動時のフラッディングを回避することができる。
【特許文献1】特開2003−17105号公報
【特許文献2】特開2005−32561号公報
【特許文献3】特開平7−320755号公報
【特許文献4】特開2006−164681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の従来の方法では、各セル内の温度はアノードよりカソードの方が高くなるが、各セル内の温度の絶対値をそろえることができない。すなわち、燃料電池スタックの積層方向にセル間で温度差が生じる。これは、燃料電池スタックのカソード側のエンドプレートのみを冷却するためである。上述の従来の方法を発電中に行った場合、各セルの電圧が大きく異なり、安定した発電ができないという問題がある。本発明は、燃料電池スタックの各セルのアノード及びカソードの温度を制御する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、アノード及びカソードを有するセルを複数積層した燃料電池スタックであって、前記アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路と、前記カソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路と、前記燃料ガス流路を流れる燃料ガスを冷却する冷却媒体が流れるアノード冷却媒体流路と、前記酸化剤ガス流路を流れる酸化剤ガスを冷却する冷却媒体が流れるカソード冷却媒体流路と、を備える燃料電池スタックである。
【0006】
本発明では、燃料ガス流路を流れる燃料ガスは、アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体により冷却され、酸化剤ガス流路を流れる酸化剤ガスは、カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体により冷却される。そして、アノードには、アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体によって冷却される燃料ガスが供給され、カソードには、カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体によって冷却される酸化剤ガスが供給される。したがって、カソード及びアノードを異なる冷却媒体流路を用いて冷却することが可能となる。
【0007】
また、上記燃料電池スタックは、前記各セルを挟持する挟持体を更に備え、前記挟持体の表裏面の一方に前記アノード冷却媒体流路が形成され、前記挟持体の表裏面の他方に前記カソード冷却媒体流路が形成され、前記アノード冷却媒体流路と前記カソード冷却媒体流路との間に、断熱部材又は空間を有するようにしてもよい。
【0008】
本発明では、アノード及びカソードを有するセルを挟持する挟持体は、各セルに配置されている。そして、挟持体の表裏面の一方にアノード冷却媒体流路が形成され、挟持体の表裏面の他方にカソード冷却媒体流路が形成されている。したがって、各セルのアノード及びカソードを異なる冷却媒体流路を用いて冷却することが可能となる。また、本発明では、アノード冷却媒体流路とカソード冷却媒体流路との間に、断熱部材又は空間を有することで、アノードに供給される燃料ガスを冷却する冷却媒体と、カソードに供給される酸化剤ガスを冷却する冷却媒体とを断熱することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、上記燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックのドライアップを検出する検出手段と、前記燃料電池スタックのドライアップが検出された場合、前記アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度が前記カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度よりも低くなるように、前記アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量及び前記カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量を制御する制御手段と、を備える燃料電池スタックシステムである。
【0010】
本発明では、燃料電池スタックのドライアップが検出された場合、アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量及びカソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量を制御し、アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度を、カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度よりも低くさせる。これにより、カソードに供給される酸化剤ガスの温度が、アノードに供給される燃料ガスの温度よりも高くなる。その結果、アノードからカソードへの逆拡散水の移動量が増大し、ドライアップを回避することが可能となる。
【0011】
また、本発明では、各セルにアノード冷却媒体流路及びカソード冷却媒体流路が配置されている。そのため、すべてのセルのアノードの温度を均一にすることができ、また、すべてのセルのカソードの温度を均一にすることができる。その結果、セル間における電圧に差が生じることを抑制することにより、安定した発電を確保しつつ、ドライアップを回避することが可能となる。
【0012】
また、本発明は、上記燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックのアノード側のフラッディングを検出する検出手段と、前記燃料電池スタックのアノード側のフラッディングが検出された場合、前記アノード冷却流路を流れる冷却媒体の温度が前記カソード冷却流路を流れる冷却媒体の温度よりも高くなるように、前記アノード冷却流路を流れる冷却媒体の流量及び前記カソード冷却流路を流れる冷却媒体の流量を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムである。
【0013】
本発明では、燃料電池スタックのアノード側のフラッディングが検出された場合、アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量及びカソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量を制御し、アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度を、カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度よりも高くさせる。これにより、アノードに供給される燃料ガスの温度が、カソードに供給される酸化剤ガスの温度よりも高くなる。その結果、アノードからカソードへの逆拡散水の移動量が減少し、フラッディングを回避することが可能となる。
【0014】
また、本発明では、各セルにアノード冷却媒体流路及びカソード冷却媒体流路が配置さ
れている。そのため、すべてのセルのアノードの温度を均一にすることができ、また、すべてのセルのカソードの温度を均一にすることができる。その結果、セル間における電圧に差が生じることを抑制することにより、安定した発電を確保しつつ、フラッディングを回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、燃料電池スタックの各セルのアノード及びカソードの温度を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施をするための最良の形態(以下、実施形態という)に係る燃料電池システムについて説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。
【0017】
〈第1実施形態〉
本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムを図1及び図2の図面に基いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの説明図である。図1において、燃料電池システムは、燃料電池スタック1と、冷却ファン2を備えたラジエータ3と、燃料電池スタック1内とラジエータ3内との間で冷却液(冷却水)を循環させる冷却液流路4と、冷却液流路4に設けられた冷却液ポンプ5と、ECU(電子制御ユニット)6とを有する。さらに、燃料電池システムは、冷却液流路4と連通する流路であって、冷却液をラジエータ3に経由させずに、燃料電池スタック1との間で冷却液を循環させるバイパス流路7を有している。また、図1では、燃料電池システムのうち、ガスの供給や排出に関する構成は記載を省略し、冷却液の循環に関する構成部分のみを示している。
【0018】
燃料電池スタック1は、複数のセルが積層されて構成されている。図2に示すように、燃料電池スタック1内の各セルは、MEGA(Membrane Electrode Gasket Assembly)20と、MEGA20を挟むように配置された多孔体21A(本発明の燃料ガス流路に相当)及び多孔体21B(本発明の酸化剤ガス流路に相当)と、多孔体21A及び多孔体21Bを挟むように配置された一対のセパレータ22とから構成されている。MEGA20は、電解質膜と、その電解質膜を挟むように形成された2つの触媒層(アノード及びカソード)と、その2つの触媒層を挟むように形成された一対のガス拡散層とから構成されている。また、MEGAに代えて、MEA(Membrane Electrode Assembly)を用いることも
可能である。
【0019】
多孔体21A及び多孔体21Bは、小さい穴が空いた金属材料からなり、多孔体21Aの内部を水素(本発明の燃料ガスに相当)が流れ、多孔体21Bの内部を空気(本発明の酸化剤ガスに相当)が流れる。多孔体21Aの内部を流れる水素は、水素タンク(図示せず)から供給される。多孔体21Bの内部を流れる空気は、エアーコンプレッサ(図示せず)から供給される。また、多孔体21A及びセパレータ22に代えて、水素が流れる流路を備えたセパレータを用いることも可能であり、多孔体21B及びセパレータ22に代えて、空気が流れる流路を備えたセパレータを用いることも可能である。
【0020】
燃料電池スタック1のアノードには、多孔体21Aから水素が供給される。また、燃料電池スタック1のカソードには、多孔体21Bから空気が供給される。
【0021】
燃料電池スタック1では、水素と空気に含まれる酸素との間で電気化学反応が起こり、電気エネルギーが発生する。また、燃料電池スタック1のカソードでは、水素から生成した水素イオンと酸素とが結合することにより水が生成される。
【0022】
セパレータ22の外側に設けられた成型板23(本発明の挟持体に相当)には、アノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25が形成されている。図2に示すアノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25の数は例示であって、成型板23には、アノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25を任意の数で形成することができる。アノード冷却液流路24には、多孔体21Aを流れる水素を冷却する冷却液が流れる。カソード冷却液流路25には、多孔体21Bを流れる空気を冷却する冷却液が流れる。
【0023】
成型板23は、各セルに設けることができる。そのため、アノード冷却液流路24を流れる冷却液は、各セルの多孔体21Aを流れる水素を冷却することができ、カソード冷却液流路25を流れる冷却液は、各セルの多孔体21Bを流れる空気を冷却することができる。
【0024】
図1の説明に戻る。燃料電池スタック1には、冷却液流路4を介してラジエータ3が接続されている。冷却液流路4には、燃料電池スタック1とラジエータ3との間に、冷却液ポンプ5が設けられている。冷却液ポンプ5を駆動させることにより、冷却液が燃料電池スタック1内、冷却液流路4内、ラジエータ3内を循環する。冷却液ポンプ5の駆動は、冷却液ポンプ5と電気的に接続されたECU6からの制御信号により制御される。
【0025】
冷却液は、燃料電池スタック1に供給され、燃料電池スタック1内で熱交換することによって昇温する。ラジエータ3は、冷却液流路4を介して供給された冷却液を降温させる。ラジエータ3は、冷却液が流れる流路を内部に備え、外気が通過可能となっている。通過する外気とラジエータ3内の流路を流れる冷却液との間で熱交換可能となっている。ラジエータ3は、冷却ファン2を備えている。冷却ファン2を駆動することによって生じる冷却風は、ラジエータ3内の流路を流れる冷却液を冷却する。
【0026】
冷却液流路4は、燃料電池スタック1の上流側において、冷却液ポンプ5と燃料電池スタック1との間で分岐して燃料電池スタック1に接続され、燃料電池スタック1の下流側で合流している。冷却液流路4が分岐する分岐点には、分岐した冷却液流路4を流れる冷却液の流量割合を弁開度に応じて調整するアノード・カソード切り換え弁8が設けられている。この調整は、アノード・カソード切り換え弁8と電気的に接続されたECU6からの制御信号により制御される。
【0027】
ここで、燃料電池スタック1の上流側で冷却液流路4から分岐し、燃料電池スタック1内のアノード冷却液流路24と連通するものをアノード入口冷却液流路9といい、燃料電池スタック1内のカソード冷却液流路25と連通するものをカソード入口冷却液流路10という。
【0028】
また、燃料電池スタック1の下流側で冷却液流路4と合流し、燃料電池スタック1内のアノード冷却液流路24と連通するものをアノード出口冷却液流路11といい、燃料電池スタック1内のカソード冷却液流路25と連通するものをカソード出口冷却液流路12という。
【0029】
アノード・カソード切り換え弁8は、アノード入口冷却液流路9及びカソード入口冷却液流路10を流れる冷却液の流量割合を弁開度に応じて調整する。この調整は、アノード・カソード切り換え弁8と電気的に接続されたECU6からの制御信号により制御される。
【0030】
アノード出口冷却液流路11には、アノード温度センサ13が設けられている。アノード温度センサ13は、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度を測定する。また、カソード出口冷却液流路12には、カソード温度センサ14が設けられている。カソ
ード温度センサ14は、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度を測定する。
【0031】
また、冷却液流路4には、燃料電池スタック1とラジエータ3との間に、バイパス流路7が設けられている。バイパス流路7は、冷却液流路4から分岐して、ラジエータ3を経由せずに、冷却液を燃料電池システム内で循環させるための流路である。
【0032】
さらに、冷却液流路4とバイパス流路7とが接続されている箇所には、ラジエータバイパス三方弁15が設けられている。ラジエータバイパス三方弁15を切り換えることにより、冷却液がラジエータ3を経由して燃料電池システムを循環する経路と、冷却液がラジエータ3を経由せずに燃料電池システムを循環する経路とを切り換えることができる。また、ラジエータバイパス三方弁15の開度を調整することにより、ラジエータ3を経由する冷却液流量と、ラジエータ3を経由しない冷却液流量とを制御することもできる。このラジエータバイパス三方弁15の切り替え及び開度は、ラジエータバイパス三方弁15と電気的に接続されたECU6からの制御信号により制御される。
【0033】
ECU6は、内部にCPUやROM等を備えており、CPUはROMに記録される制御プログラムに従って各種の処理を実行する。ECU6は、冷却液ポンプ5、アノード・カソード切り替え弁8、アノード温度センサ13、カソード温度センサ14及びラジエータバイパス三方弁15とそれぞれ電気的に接続されている。ECU6は、アノード温度センサ13及びカソード温度センサ14が測定した冷却液の温度のデータを取得する。ECU6は、冷却液ポンプ5、アノード・カソード切り替え弁8及びラジエータバイパス三方弁15の駆動を制御する。
【0034】
図3は、ECU6における第1の処理のフローチャートである。この処理は、CPUで実行される制御プログラムによって実行される。また、この処理は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。ここで、所定時間は、工場出荷時に設定される値、車両を販売する販売店にて設定される値、あるいは、ユーザ設定値等である。
【0035】
この処理では、ECU6は、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであるかの判定を行う(S301)。例えば、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであるかは、冷却液の温度、燃料電池スタック1内の電極間(触媒層間)のインピーダンス、燃料電池スタック1の出力電流に基づき判定する。
【0036】
第一の処理例として、ECU6は、アノード温度センサ13又はカソード温度センサ14が測定した冷却液の温度のデータを取得し、その取得した温度のデータから燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであるかを判定する。冷却液の温度が高い場合に、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップの状態である可能性が高い。したがって、ECU6は、冷却液の温度が所定値以上であるか否かを判定し、冷却液の温度が所定値以上である場合、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであると判定してもよい。この所定値は、実験又はシミュレーションで求めておき、ECU6が備えるメモリに記憶しておく。
【0037】
第二の処理例として、ECU6は、不図示のセンサが測定した燃料電池スタック1内の電極間のインピーダンスのデータを取得し、その取得した燃料電池スタック1内の電極間のインピーダンスのデータから燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであるかを判定する。燃料電池スタック1内の電極間のインピーダンスが高い場合に、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップの状態である可能性が高い。したがって、ECU6は、インピーダンスの値が所定値以上であるか否かを判定し、インピーダンスの値が所定値以上である場合、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであると判定してもよい。この所定値は、実験又はシミュレーションで求めておき、ECU6が
備えるメモリに記憶しておく。
【0038】
第三の処理例として、ECU6は、不図示のセンサが測定した燃料電池スタック1の出力電流のデータを取得し、その取得した燃料電池スタック1の出力電流のデータから燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであるかを判定する。燃料電池スタック1の出力電流が低い場合に、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップの状態である可能性が高い。したがって、ECU6は、燃料電池スタック1の出力電流の値が所定値以下であるか否かを判定し、燃料電池スタック1の出力電流の値が所定値以下である場合、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップであると判定してもよい。この所定値は、実験又はシミュレーションで求めておき、ECU6が備えるメモリに記憶しておく。
【0039】
燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップである場合(S301の処理で肯定の場合)、ECU6は、アノード出口目標温度Daを、カソード出口目標温度Dc−所定温度αに設定する(S302)。
【0040】
燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップである場合、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量が不足するが、アノードの温度が、カソードの温度よりも低くなる場合、逆拡散水の移動量が増大する。
【0041】
そこで、アノードの温度を、カソードの温度より低くすることにより、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量を増大させて燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップを回避する。具体的には、アノードに供給される空気を冷却する冷却液の温度を、カソードに供給される水素を冷却する冷却液の温度より所定温度α低くすることにより、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量を増大させて燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップを回避する。
【0042】
アノード出口目標温度Daは、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップを回避するために、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度を調整するための目標となる温度である。カソード出口目標温度Dcは、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップを回避するために、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度を調整するための目標となる温度である。所定温度αは、アノード出口目標温度Daとカソード出口目標温度Dcとの差である。
【0043】
例えば、アノード出口目標温度Da、カソード出口目標温度Dc及び所定温度αは、実験又はシミュレーションにより予め求めておく。アノード出口目標温度Da、カソード出口目標温度Dc及び所定温度αと、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップとの関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。そして、ECU6は、アノード出口目標温度Da、カソード出口目標温度Dc及び所定温度αをマップから算出する。
【0044】
次に、ECU6は、アノード温度センサ13によって測定された冷却液の温度Taが、カソード温度センサ14によって測定された冷却液の温度Tcより所定温度α低くなるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度をフィードバック(F/B)制御する(S303)。すなわち、ECU6は、温度Ta=温度Tc−所定温度αになるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度をフィードバック(F/B)制御する。
【0045】
以下に、S303の処理におけるアノード・カソード切り替え弁8の開度のフィードバック(F/B)制御について詳細に説明する。
【0046】
アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度との差を温度Tdとしたとき、この温度Tdとアノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。このマップは、温度Tdとアノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を段階的に示したものである。
【0047】
ECU6は、所定温度αと同じ値(あるいは近似値)である温度Tdに対応するアノード・カソード切り替え弁8の開度をマップから算出する。ECU6は、算出したアノード・カソード切り替え弁8の開度となるように、アノード・カソード切り替え弁8を制御する。ECU6は、アノード・カソード切り替え弁8の開度制御後、温度Taのデータ及び温度Tcのデータを取得する。
【0048】
ECU6は、アノード・カソード切り替え弁8の開度制御後に取得した温度Taのデータ及び温度Tcのデータに基づいて、温度Taと温度Tcとの差が、所定温度αと同じ値(あるいは近似値)になっているかを判定する。ECU6は、温度Taと温度Tcとの差が、所定温度αと同じ値(あるいは近似値)になっていない場合、アノード・カソード切り替え弁8の開度を補正する。温度Taと温度Tcとの差が、所定温度αと同じ値(あるいは近似値)となるまで、ECU6は、温度Taのデータ及び温度Tcのデータの取得や判定、アノード・カソード切り替え弁8の開度の補正を繰り返す。
【0049】
次に、ECU6は、温度Taが、アノード出口目標温度Daと同じ値(あるいは近似値)となるように、ラジエータバイパス三方弁15の開度をフィードバック(F/B)制御する(S304)。
【0050】
以下に、S304の処理におけるラジエータバイパス三方弁15の開度のフィードバック(F/B)制御について詳細に説明する。
【0051】
アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度とラジエータバイパス三方弁15の開度との対応関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。このマップは、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度とラジエータバイパス三方弁15の開度との対応関係を段階的に示したものである。
【0052】
ECU6は、アノード出口目標温度Daと同じ値(あるいは近似値)であるアノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度に対応するラジエータバイパス三方弁15の開度をマップから算出する。ECU6は、算出したラジエータバイパス三方弁15の開度となるように、ラジエータバイパス三方弁15を制御する。ECU6は、ラジエータバイパス三方弁15の開度制御後、温度Taのデータを取得する。
【0053】
ECU6は、ラジエータバイパス三方弁15の開度制御後に取得した温度Taのデータに基づいて、温度Taがアノード出口目標温度Daと同じ値(あるいは近似値)になっているかを判定する。
【0054】
ECU6は、温度Taがアノード出口目標温度Daと同じ値(あるいは近似値)になっていない場合、ラジエータバイパス三方弁15の開度を補正する。温度Taがアノード出口目標温度Daと同じ値(あるいは近似値)となるまで、ECU6は、温度Taのデータの取得や判定、ラジエータバイパス三方弁15の開度の補正を繰り返す。
【0055】
一方、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップでない場合(S301の処理で否定の場合)、ECU6は、アノード出口目標温度Daを、カソード出口目標温度Dcと同じ値となるように設定する(S305)。
【0056】
次に、ECU6は、温度Ta=温度Tcになるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度をフィードバック(F/B)制御する(S306)。すなわち、ECU6は、温度Taが、温度Tcと同じ値(あるいは近似値)となるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度を制御する。
【0057】
以下に、S306の処理におけるアノード・カソード切り替え弁8の開度のフィードバック(F/B)制御について詳細に説明する。
【0058】
アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度と、アノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。このマップは、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度と、アノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を段階的に示したものである。
【0059】
ECU6は、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度とが、同じ値(あるいは近似値)である場合のアノード・カソード切り替え弁8の開度をマップから算出する。ECU6は、算出したアノード・カソード切り替え弁8の開度となるように、アノード・カソード切り替え弁8を制御する。ECU6は、アノード・カソード切り替え弁8の開度制御後、温度Taのデータ及び温度Tcのデータを取得する。
【0060】
ECU6は、温度Taと温度Tcとが、同じ値(あるいは近似値)になっているかを判定する。ECU6は、温度Taと温度Tcとが、同じ値(あるいは近似値)になっていない場合、アノード・カソード切り替え弁8の開度を補正する。温度Taと温度Tcとが、同じ値(あるいは近似値)となるまで、ECU6は、温度Taのデータ及び温度Tcのデータの取得や判定、アノード・カソード切り替え弁8の開度の補正を繰り返す。
【0061】
上記処理によれば、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップしている場合、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の流量及びカソードに供給される空気を冷却する冷却液の流量を制御する。そして、アノードの温度とカソードの温度との間に温度差を設けることにより、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップを回避することが可能となる。
【0062】
アノードに供給される水素を冷却する冷却液の温度とカソードに供給される空気を冷却する冷却液の温度との間に、常に温度差を設けることは、温度差による劣化への影響を考えると好ましくない。そこで、本実施形態では、燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップである場合にのみ、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の温度が、カソードに供給される空気を冷却する冷却液の温度より低くなるように制御する。そして、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量を増加させ、ドライアップから復帰させることにより、電流・電圧性能の低下を抑制することができる。その結果、所望の発電電力を得ることができる。
【0063】
本実施形態では、燃料電池スタック1内の各セルにアノード冷却液流路24が設けられているため、燃料電池スタック1内のすべてのセルのアノードの温度を均一にすることができる。また、本実施形態では、燃料電池スタック1内の各セルにカソード冷却液流路25が設けられているため、燃料電池スタック1内のすべてのセルのカソードの温度を均一にすることができる。その結果、セル間において電圧に差が生じることを抑制することができ、燃料電池スタック1の安定した発電を確保しつつ、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップを回避することが可能となる。
【0064】
図4は、ECU6における第2の処理のフローチャートである。この処理は、CPUで実行される制御プログラムによって実行される。また、この処理は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。ここで、所定時間は、工場出荷時に設定される値、車両を販売する販売店にて設定される値、あるいは、ユーザ設定値等である。
【0065】
この処理では、ECU6は、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであるかの判定を行う(S401)。例えば、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであるかは、燃料電池スタック1内のセル電圧や燃料電池スタック1内のセル電圧の低下速度に基づき判定する。
【0066】
第一の処理例として、ECU6は、不図示のセンサが測定した燃料電池スタック1内のセル電圧のデータを取得し、その取得したセル電圧のデータから燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであるかを判定する。燃料電池スタック1内のセル電圧が低い場合に、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングの状態である可能性が高い。したがって、ECU6は、燃料電池スタック1内のセル電圧が所定値以下であるか否かを判定し、燃料電池スタック1内のセル電圧が所定値以下である場合、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであると判定してもよい。この所定値は、実験又はシミュレーションで求めておき、ECU6が備えるメモリに記憶しておく。例えば、ECU6は、燃料電池スタック1内のセル電圧が負電圧(0V以下)である場合、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであると判定してもよい。
【0067】
第二の処理例として、ECU6は、不図示のセンサが測定した燃料電池スタック1内のセル電圧の低下速度のデータを取得し、その取得したセル電圧の低下速度のデータから燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであるかを判定する。燃料電池スタック1内のセル電圧の低下速度が速い場合に、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングの状態である可能性が高い。したがって、ECU6は、燃料電池スタック1内のセル電圧の低下速度が所定値以上であるか否かを判定し、燃料電池スタック1内のセル電圧が所定値以上である場合、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングであると判定してもよい。この所定値は、実験又はシミュレーションで求めておき、ECU6が備えるメモリに記憶しておく。
【0068】
燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングである場合(S401の処理で肯定の場合)、ECU6は、アノード出口目標温度Faを、カソード出口目標温度Fc+所定温度βに設定する(S402)。
【0069】
燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングである場合、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量が過多であるが、アノードの温度が、カソードの温度よりも高くなる場合、逆拡散水の移動量が減少する。
【0070】
そこで、アノードの温度を、カソードの温度より高くすることにより、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量を減少させて燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングを回避する。具体的には、アノードに供給される空気を冷却する冷却液の温度を、カソードに供給される水素を冷却する冷却液の温度より所定温度β高くすることにより、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量を減少させて燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングを回避する。
【0071】
アノード出口目標温度Faは、燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングを回避するために、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度を調整するための目標となる温度である。カソード出口目標温度Fcは、燃料電池スタック1内のアノードのフ
ラッディングを回避するために、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度を調整するための目標となる温度である。所定温度βは、アノード出口目標温度Faとカソード出口目標温度Fcとの差である。
【0072】
例えば、アノード出口目標温度Fa、カソード出口目標温度Fc及び所定温度βは、実験又はシミュレーションにより予め求めておく。アノード出口目標温度Fa、カソード出口目標温度Fc及び所定温度βと、燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングの関係とを、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。そして、ECU6は、アノード出口目標温度Fa、カソード出口目標温度Fc及び所定温度βをマップから算出する。
【0073】
次に、ECU6は、アノード温度センサ13によって測定された冷却液の温度Taが、カソード温度センサ14によって測定された冷却液の温度Tcより所定温度β高くなるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度をフィードバック(F/B)制御する(S403)。すなわち、ECU6は、温度Ta=温度Tc+所定温度βになるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度をフィードバック(F/B)制御する。
【0074】
以下に、S403の処理におけるアノード・カソード切り替え弁8の開度のフィードバック(F/B)制御について詳細に説明する。
【0075】
アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度との差を温度Tfとしたとき、この温度Tfとアノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。このマップは、温度Tfとアノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を段階的に示したものである。
【0076】
ECU6は、所定温度βと同じ値(あるいは近似値)である温度Tfに対応するアノード・カソード切り替え弁8の開度をマップから算出する。ECU6は、算出したアノード・カソード切り替え弁8の開度となるように、アノード・カソード切り替え弁8を制御する。ECU6は、アノード・カソード切り替え弁8の開度制御後、温度Taのデータ及び温度Tcのデータを取得する。
【0077】
ECU6は、アノード・カソード切り替え弁8の開度制御後に取得した温度Taのデータ及び温度Tcのデータに基づいて、温度Taと温度Tcとの差が、所定温度βと同じ値(あるいは近似値)になっているかを判定する。ECU6は、温度Taと温度Tcとの差が、所定温度βと同じ値(あるいは近似値)になっていない場合、アノード・カソード切り替え弁8の開度を補正する。温度Taと温度Tcとの差が、所定温度βと同じ値(あるいは近似値)となるまで、ECU6は、温度Taのデータ及び温度Tcのデータの取得や判定、アノード・カソード切り替え弁8の開度の補正を繰り返す。
【0078】
次に、ECU6は、温度Taが、アノード出口目標温度Faと同じ値(あるいは近似値)となるように、ラジエータバイパス三方弁15の開度をフィードバック(F/B)制御する(S404)。
【0079】
以下に、S404の処理におけるラジエータバイパス三方弁15の開度のフィードバック(F/B)制御について詳細に説明する。
【0080】
アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度とラジエータバイパス三方弁15の開度との対応関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。このマップは、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度とラジエータバイパス三方弁15
の開度との対応関係を段階的に示したものである。
【0081】
ECU6は、アノード出口目標温度Faと同じ値(あるいは近似値)であるアノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度に対応するラジエータバイパス三方弁15の開度をマップから算出する。ECU6は、算出したラジエータバイパス三方弁15の開度となるように、ラジエータバイパス三方弁15を制御する。ECU6は、ラジエータバイパス三方弁15の開度制御後、温度Taのデータを取得する。
【0082】
ECU6は、ラジエータバイパス三方弁15の開度制御後に取得した温度Taのデータに基づいて、温度Taがアノード出口目標温度Faと同じ値(あるいは近似値)になっているかを判定する。
【0083】
ECU6は、温度Taがアノード出口目標温度Faと同じ値(あるいは近似値)になっていない場合、ラジエータバイパス三方弁15の開度を補正する。温度Taがアノード出口目標温度Faと同じ値(あるいは近似値)となるまで、ECU6は、温度Taのデータの取得や判定、ラジエータバイパス三方弁15の開度の補正を繰り返す。
【0084】
一方、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングでない場合(S401の処理で否定の場合)、ECU6は、アノード出口目標温度Faを、カソード出口目標温度Fcと同じ値となるように設定する(S405)。
【0085】
次に、ECU6は、温度Ta=温度Tcになるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度をフィードバック(F/B)制御する(S406)。すなわち、ECU6は、温度Taが、温度Tcと同じ値(あるいは近似値)となるように、アノード・カソード切り替え弁8の開度を制御する。
【0086】
以下に、S406の処理におけるアノード・カソード切り替え弁8の開度のフィードバック(F/B)制御について詳細に説明する。
【0087】
アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度と、アノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。このマップは、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度と、アノード・カソード切り替え弁8の開度との対応関係を段階的に示したものである。
【0088】
ECU6は、アノード出口冷却液流路11を流れる冷却液の温度と、カソード出口冷却液流路12を流れる冷却液の温度とが、同じ値(あるいは近似値)である場合のアノード・カソード切り替え弁8の開度をマップから算出する。ECU6は、算出したアノード・カソード切り替え弁8の開度となるように、アノード・カソード切り替え弁8を制御する。ECU6は、アノード・カソード切り替え弁8の開度制御後、温度Taのデータ及び温度Tcのデータを取得する。
【0089】
ECU6は、温度Taと温度Tcとが、同じ値(あるいは近似値)になっているかを判定する。ECU6は、温度Taと温度Tcとが、同じ値(あるいは近似値)になっていない場合、アノード・カソード切り替え弁8の開度を補正する。温度Taと温度Tcとが、同じ値(あるいは近似値)となるまで、ECU6は、温度Taのデータ及び温度Tcのデータの取得や判定、アノード・カソード切り替え弁8の開度の補正を繰り返す。
【0090】
上記処理によれば、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングである場合、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の流量及びカソードに供給される空気を冷却す
る冷却液の流量を制御する。そして、アノードの温度とカソードの温度との間に温度差を設けることにより、燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングを回避することが可能となる。
【0091】
アノードに供給される水素を冷却する冷却液の温度とカソードに供給される空気を冷却する冷却液の温度との間に、常に温度差を設けることは、温度差による劣化への影響を考えると好ましくない。そこで、本実施形態では、燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングである場合にのみ、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の温度が、カソードに供給される空気を冷却する冷却液の温度より高くなるように制御する。そして、カソードからアノードへの逆拡散水の移動量を減少させることにより、フラッディングから復帰させ、セル電圧低下から復帰させることができる。その結果、所望の発電電力を得ることができる。
【0092】
本実施形態では、燃料電池スタック1内の各セルにアノード冷却液流路24が設けられているため、燃料電池スタック1内のすべてのセルのアノードの温度を均一にすることができる。また、本実施形態では、燃料電池スタック1内の各セルにカソード冷却液流路25が設けられているため、燃料電池スタック1内のすべてのセルのカソードの温度を均一にすることができる。その結果、セル間において電圧に差が生じることを抑制することができ、燃料電池スタック1の安定した発電を確保しつつ、燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングを回避することが可能となる。
【0093】
〈変形例〉
上記第1実施形態では、アノード冷却系とカソード冷却系とが1系統である燃料電池システムを示した。この場合に、アノード冷却系とカソード冷却系とが2系統である燃料電池システムであって構わない。
【0094】
図5は、第1実施形態の変形例に係る燃料電池システムのシステム図である。この燃料電池システムは、図1の場合と比較して、アノード冷却系に冷却ファン2、ラジエータ3、冷却液ポンプ5及びラジエータバイパス三方弁15が設けられ、アノード冷却系の下流の冷却液流路4には、アノード温度センサ13が設けられている。また、この燃料電池システムは、図1の場合と比較して、カソード冷却系に冷却ファン42、ラジエータ43、冷却液ポンプ45及びラジエータバイパス三方弁55が設けられ、カソード冷却系の下流の冷却液流路4には、カソード温度センサ14が設けられている。すなわち、燃料電池スタック1内のアノードに供給される水素を冷却する冷却液と、燃料電池スタック1内のカソードに供給される空気を冷却する冷却液とが、別々の循環経路を流れる構成となっている。
【0095】
上記第1実施形態では、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の流量及びカソードに供給される空気を冷却する冷却液の流量を、アノード・カソード切り換え弁8の開度により制御する。本変形例では、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の流量及びカソードに供給される空気を冷却する冷却液の流量を、冷却液ポンプ5の駆動量により制御する。冷却液ポンプ5の駆動量は、ECU6からの制御信号により制御される。他の構成及び作用は、図1と同様である。
【0096】
このような構成によって、アノード冷却系の下流の冷却液流路4を流れる冷却液と、カソード冷却系の下流の冷却液流路4を流れる冷却液とが、互いに影響を及ぼすことがない。そのため、アノード冷却系の下流の冷却液流路4を流れる冷却液の温度及びカソード冷却系の下流の冷却液流路4を流れる冷却液の温度の制御が容易になり、アノード冷却系の下流の冷却液流路4を流れる冷却液の温度とカソード冷却系の下流の冷却液流路4を流れる冷却液の温度との差の制御も容易になる。
【0097】
〈第2実施形態〉
本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムについて、図6を参照して説明する。上記第1実施形態では、図2に示すように、アノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25は、別々の成型板23に形成されている。第2実施形態に係る燃料電池システムでは、アノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25を、1枚の成型板30(本発明の挟持体に相当)に形成する。他の構成及び作用は、第1実施形態の場合と同様である。そこで、同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。また、本燃料電池システムの全体構成は、第1実施形態の場合と同様である。
【0098】
図6に示すように、アノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25は、1枚の成型板30を加工して表裏体で形成されている。本実施形態に係る燃料電池システムにおける成型板30は、アノードとカソードの熱交換を押さえるために、アノード冷却液流路24とカソード冷却液流路25との間に、空気層又は断熱材を設けている。
【0099】
図7に、成型板30の詳細図を示す。図7に示すように、成型板30の一方の面に内部冷却通路24が形成され、成型板30の他方の面にカソード冷却液流路25が形成されている。成型板30の内部には、シール材31及び空気層又は断熱材が設けられている。空気層及び断熱材は、アノード冷却液流路24を流れる冷却液と、カソード冷却液流路25を流れる冷却液との熱交換を押さえるための断熱効果を有する。
【0100】
例えば、本実施形態に係る燃料電池システムを車両に搭載した場合、断熱材は、−40〜150℃程度の環境下で使用可能であり、加工が簡単で形状変化に対応可能であればよい。この場合、断熱材として、無イオン系断熱材を用いてもよい。
【0101】
本実施形態の燃料電池システムによれば、1枚の成型板30に、アノード冷却液流路24及びカソード冷却液流路25が表裏体で形成されているため、1枚の成型板30でアノードに供給される水素及びカソードに供給される空気を冷却することが可能となる。本実施形態の燃料電池システムによれば、アノード冷却液流路24とカソード冷却液流路25との間には、空気層又は断熱材が設けられている。そのため、アノード冷却液流路24を流れる冷却液と、カソード冷却液流路25を流れる冷却液との熱交換を押さえ、アノード側とカソード側とを断熱することができる。
【0102】
〈変形例〉
上記第1実施形態及び第2実施形態では、燃料電池スタック1のMEGA20がドライアップの状態にあるか否か、又は、燃料電池スタック1のアノードがフラッディングの状態にあるか否かにより、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の流量及びカソードに供給される空気を冷却する冷却液の流量を制御した。
【0103】
本変形例では、燃料電池スタック1の発電量、アノードガスの供給量、カソードガスの供給量に基づいて、燃料電池スタック1のMEGA20がドライアップの状態にあるか否か、又は、燃料電池スタック1のアノードがフラッディングの状態にあるか否かを判定し、アノードに供給される水素を冷却する冷却液の流量及びカソードに供給される空気を冷却する冷却液の流量を制御してもよい。この場合、ECU6は、燃料電池スタック1の出力電圧及び出力電流を検知することで、発電量に係るデータを取得できる。また、ECU6は、不図示のエアーコンプレッサの駆動量を検知することで、カソードガスの供給量に係るデータを取得できる。さらに、ECU6は、不図示の水素タンクからの供給水素量を検知することで、アノードガスの供給量に係るデータを取得できる。
【0104】
例えば、燃料電池スタック1の発電量、アノードガスの供給量、カソードガスの供給量
と、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップとの関係を実験又はシミュレーションにより予め求めておく。そして、燃料電池スタック1の発電量、アノードガスの供給量、カソードガスの供給量と、燃料電池スタック1内のMEGA20のドライアップとの関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。ECU6は、所定間隔で、燃料電池スタック1の発電量のデータ、アノードガスの供給量のデータ、カソードガスの供給量のデータを取得し、メモリに記憶したマップから燃料電池スタック1内のMEGA20がドライアップの状態にあるか否かを判定してもよい。
【0105】
また、例えば、燃料電池スタック1の発電量、アノードガスの供給量、カソードガスの供給量と、燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングとの関係を実験又はシミュレーションにより予め求めておく。そして、燃料電池スタック1の発電量、アノードガスの供給量、カソードガスの供給量と、燃料電池スタック1内のアノードのフラッディングとの関係を、マップにしてECU6が備えるメモリに記憶しておく。ECU6は、所定間隔で、燃料電池スタック1の発電量のデータ、アノードガスの供給量のデータ、カソードガスの供給量のデータを取得し、メモリに記憶したマップから燃料電池スタック1内のアノードがフラッディングの状態にあるか否かを判定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成例を示す図である。
【図2】燃料電池スタック1の内部構造例を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの動作を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成例を示す図である。
【図6】燃料電池スタック1の内部構造例を示す図である。
【図7】燃料電池スタック1の内部構造例の詳細図である。
【符号の説明】
【0107】
1 燃料電池スタック
2、42 冷却ファン
3、43 ラジエータ
4、44 冷却液流路
5、45 冷却液ポンプ
6 ECU(電子制御ユニット)
7、47 バイパス流路
8 アノード・カソード切り換え弁
9 アノード入口冷却液流路
10 カソード入口冷却液流路
11 アノード出口冷却液流路
12 カソード出口冷却液流路
13 アノード温度センサ
14 カソード温度センサ
15、55 ラジエータバイパス三方弁
20 MEGA
21A、21B 多孔体
22 セパレータ
23、30 成型板
24 アノード冷却液流路
25 カソード冷却液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード及びカソードを有するセルを複数積層した燃料電池スタックであって、
前記アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路と、
前記カソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路と、
前記燃料ガス流路を流れる燃料ガスを冷却する冷却媒体が流れるアノード冷却媒体流路と、
前記酸化剤ガス流路を流れる酸化剤ガスを冷却する冷却媒体が流れるカソード冷却媒体流路と、を備える燃料電池スタック。
【請求項2】
前記各セルを挟持する挟持体を更に備え、
前記挟持体の表裏面の一方に前記アノード冷却媒体流路が形成され、前記挟持体の表裏面の他方に前記カソード冷却媒体流路が形成され、前記アノード冷却媒体流路と前記カソード冷却媒体流路との間に、断熱部材又は空間を有する請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックのドライアップを検出する検出手段と、
前記燃料電池スタックのドライアップが検出された場合、前記アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度が前記カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の温度よりも低くなるように、前記アノード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量及び前記カソード冷却媒体流路を流れる冷却媒体の流量を制御する制御手段と、を備える燃料電池スタックシステム。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックのアノード側のフラッディングを検出する検出手段と、
前記燃料電池スタックのアノード側のフラッディングが検出された場合、前記アノード冷却流路を流れる冷却媒体の温度が前記カソード冷却流路を流れる冷却媒体の温度よりも高くなるように、前記アノード冷却流路を流れる冷却媒体の流量及び前記カソード冷却流路を流れる冷却媒体の流量を制御する制御手段と、を備える燃料電池スタックシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−59650(P2009−59650A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227638(P2007−227638)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】