説明

燃料電池セパレータ及びその製造方法

【課題】鉄系金属製の金属基材の表面に形成される貴金属層を従来以上に薄膜化しても、接触抵抗の低減と基材構成金属の溶出防止とを図ることが可能な燃料電池セパレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鉄系金属製(例えばステンレス鋼製)の金属基材に対しアルカリ溶液中で陽極酸化を施し、その後、その金属基材に対し貴金属めっき(例えば金めっき)を施す。こうして得られた燃料電池セパレータは、鉄系金属製(例えばステンレス鋼製)の金属基材と、その金属基材の表面に形成された平均膜厚が5〜30nmの酸化皮膜と、その酸化皮膜の上に形成された貴金属層(例えば金めっき層)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池構成部品の一種である燃料電池セパレータと、燃料電池セパレータの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に固体高分子型燃料電池は、電池セルとセパレータとを交互に配置・積層したものを端子板及び絶縁板を介して一対のエンドプレート間に挟着保持してなる燃料電池スタックから構成されている。電池セルは、プロトン透過性の高分子膜を一対の電極(触媒層)で挟んでなる膜−電極アセンブリ(MEA)として構成されている。セパレータは、MEA間に介在する導電性仕切部材としての役割を担うだけでなく、MEAの両側に位置して燃料ガスや酸化剤ガスの供給通路を区画するガス流路区画部材としての役割を担う。なお、MEAとセパレータとの間には、通常、触媒層へのガス拡散を良好にするための拡散層が設けられる。
【0003】
従来、セパレータの構成材料としては緻密質カーボンが多用されていた。しかし、カーボン製セパレータは、材料コスト及び材料加工コストが割高であるだけでなく、カーボン自体の脆さを補ってスタック構成時の割れを防止するためには厚肉化する必要があり、燃料電池の低コスト化及び小型化には不利であった。それ故、セパレータの構成材料としては、汎用の金属材料のうちでも比較的耐食性が良好なステンレス鋼が注目されている。
【0004】
但し、ステンレス鋼の素材表面には通常、不動態皮膜(主に金属成分の酸化物の皮膜、膜厚2〜3nm)が自然形成されており、この不動態皮膜が金属製セパレータの接触抵抗を高める原因になる。また、燃料電池の動作環境で生成される腐食性物質(強い酸)の影響によって、例えばステンレス鋼製のセパレータといえども、金属がイオン化して溶出するという欠点がある。それ故、金属製セパレータにあっては、接触抵抗を低減すると共に金属溶出を抑制するために、セパレータの表面に貴金属(例えば金)の皮膜を形成することが必須となっている(例えば特許文献1)。なお、特許文献1は、下地処理(例えばニッケルめっき)を施していないステンレス鋼板の表面に金めっきを直接施して所定面積率の金皮膜を形成することを特徴とする金属製セパレータ及びその製造方法を開示する。
【0005】
貴金属は材料コストが高いため、その使用量を低減する必要があり、そのためには貴金属皮膜の膜厚を極力薄くする必要がある。しかしながら、貴金属皮膜をあまり薄膜化すると、貴金属皮膜におけるピンホール(あるいは結晶粒の隙間)が増加して基材の露出面積が増大し、その結果、基材を構成する金属の溶出量が増大するという問題がある。このため、貴金属皮膜の薄膜化にも限界があり、十分なコスト低減を図ることが難しい状況にあった。本発明はかかる事情に鑑みてなされたものである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−296381号公報(要約など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、鉄系金属製の金属基材の表面に形成される貴金属層を従来以上に薄膜化しても、接触抵抗の低減と基材構成金属の溶出防止とを図ることが可能な燃料電池セパレータ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、鉄系金属製の金属基材に対しアルカリ溶液中で陽極酸化を施すことにより、前記金属基材の表面に酸化皮膜を形成する陽極酸化工程と、陽極酸化が施された前記金属基材に対し貴金属のめっき又はスパッタリングを施すことにより、前記酸化皮膜の上に貴金属層を形成する貴金属層形成工程とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
より好ましくは、本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、鉄系金属製の金属基材に対しアルカリ溶液中で陽極酸化を施し、その後、陽極酸化が施された前記金属基材に対し貴金属のめっきを施すことにより、鉄系金属製の金属基材の表面に平均膜厚が5〜30nmの酸化皮膜が形成され、且つその酸化皮膜の上に貴金属層が形成された燃料電池セパレータを得ることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の燃料電池セパレータは、鉄系金属製の金属基材と、前記金属基材の表面に形成された平均膜厚が5〜30nmの酸化皮膜と、前記酸化皮膜の上に形成された貴金属層とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
[作用]
本発明では、鉄系金属製の金属基材の表面に対する陽極酸化により、基材表面における酸化皮膜の生成を積極的に促して、酸化皮膜の平均膜厚を、自然発生時の膜厚(通常2〜3nm)よりも厚い平均膜厚(好ましくは5〜30nm)に形成している。それ故、仮に貴金属層が従来以上に薄膜化されてピンホール等が増加し基材の露出面積が増大することがあっても、比較的厚い陽極酸化皮膜が貴金属層の下地層として存在することにより、燃料電池運転時の強い酸性環境下でも基材構成金属の溶出が極力防止される。なお、金属基材と貴金属層との間に酸化皮膜が介在したとしても、陽極酸化によって形成される程度の膜厚であれば、貴金属層が最表面に存在することによる接触抵抗の低減効果の方が大きいため、セパレータ全体として接触抵抗の低減が図られる。このように本発明によれば、接触抵抗の低減と基材構成金属の溶出防止とを両立させることができる。
【0012】
なお、酸化皮膜が厚膜化すると、その上の層(本発明では貴金属層)の密着性が悪化すると一般的には考えられている。しかし、本発明における酸化皮膜は、陽極酸化によって作られることに起因して表面の粗さ(つまり微細な凹凸構造)を有している。このため、比較的厚い陽極酸化皮膜となっていても、微細な凹凸構造によるアンカー効果によって、酸化皮膜に対する貴金属層の良好な密着性が確保される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池セパレータ及びその製造方法によれば、鉄系金属製の金属基材の表面に形成される貴金属層を従来以上に薄膜化しても、接触抵抗の低減と基材構成金属の溶出防止とを図ることができる。また、陽極酸化によって作られた酸化皮膜に対する貴金属層のアンカー効果に基づき、貴金属層の良好な密着性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好ましい実施態様や追加的構成要件について更に詳細に説明する。
【0015】
本発明の燃料電池セパレータは、金属基材に対して陽極酸化を施した後、基材表面に貴金属層を形成することにより製造される。ここで、燃料電池セパレータとは、燃料電池スタックの積層方向への通電経路を構築するための通電回路としての機能、及び、燃料ガスや酸化剤ガスの流通路を区画形成するための流路区画材又はガス分離材としての機能を併せ持った燃料電池構成部品である。
【0016】
セパレータの本体を構成する基材は鉄系金属製の金属基材である。鉄系金属としては、例えばステンレス鋼があげられる。
【0017】
金属基材の陽極酸化は、金属基材及び対向電極をアルカリ溶液中に浸漬した状態で金属基材を陽極とする電解処理を行うことにより達成される。陽極酸化を施すことで金属基材の表面における酸化皮膜の形成が促進される。陽極酸化によって金属基材の表面に平均膜厚が5〜30nm(ナノメートル)、より好ましくは10〜20nmの酸化皮膜を形成することが好ましい。酸化皮膜の平均膜厚が5nm未満では、大気下で自然形成される基材表面の酸化膜の膜厚(通常2〜3nm)との有意差がなく、基材構成金属の溶出防止効果をあまり期待できない。他方、酸化皮膜の平均膜厚が30nmを超えると、セパレータの接触抵抗が大きくなって目的を達成できなくなる、又、電解めっき処理によって貴金属層を形成する際に導通抵抗が高くなって貴金属元素の酸化皮膜表面への付着が悪くなる(つまり、めっきが乗らない)等の不都合を生じる。
【0018】
陽極酸化が施された金属基材に対し貴金属のめっき又はスパッタリングを施すことにより、前記酸化皮膜の上に貴金属層が形成される。めっき方法としては、無電解めっき又は電解めっき(電解めっきの一種であるストライクめっきを含む)があげられるが、金属の酸化皮膜に対する付着性のよさという点では、無電解めっきよりも電解めっきの方が好ましい。
【0019】
酸化皮膜の上の貴金属層を構成する貴金属としては、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)等があげられる。これらの貴金属は、酸などの腐食性物質に侵されにくい耐食性金属である。これら貴金属の中でも金(Au)又は白金(Pt)が好ましく、特に金(Au)は最も好ましい。金は高い耐食性と低い電気抵抗とを兼ね備えた貴金属であり、燃料電池セパレータにおける導電部の表面被覆金属として非常に適している。
【0020】
上記のような製造手順を経て得られる燃料電池セパレータは、図1に示すように、鉄系金属製の金属基材と、その金属基材の表面に形成された平均膜厚が5〜30nm(より好ましくは10〜20nm)の酸化皮膜と、その酸化皮膜の上に形成された貴金属層とを備えている。
【0021】
本発明の燃料電池セパレータ及びその製造方法には、以下に列挙するような種々の利点や長所がある。
【0022】
酸化皮膜は金属基材そのものの露出表面を酸化させてできる皮膜なので、基材に対する酸化皮膜の密着性(又は一体性)は極めて高い。それ故、金属基材と酸化皮膜との境界で界面剥離が生ずることはほとんどなく、従って酸化皮膜ごと貴金属層が金属基材から剥離することもない(金属基材に対する酸化皮膜の高密着性)。
【0023】
酸化皮膜は金属基材の陽極酸化によって作られたものであるため、陽極酸化に特有の表面の粗さ(つまり微細な凹凸構造)を伴っている。この酸化皮膜表面の粗さは、特にめっき処理によって付着・形成される貴金属層に対してアンカー効果を生じさせ、酸化皮膜に対する貴金属層(特に貴金属めっき層)の良好な密着性を確保できる。この意味で金属基材の陽極酸化の後にめっき処理によって貴金属層を形成することは非常に相性がよい。
【0024】
貴金属層の下地層としての酸化皮膜は、金属基材そのものの表面を酸化させてできる皮膜なので、金属基材と貴金属層との間に別元素の中間層(例えばニッケル中間層)を形成するような場合(従来例)に比して、製造コストを大幅に低減することができる。
【0025】
貴金属層の下地層としての酸化皮膜は、酸に対する耐食性に優れている。それ故、仮に貴金属層が従来以上に薄膜化(例えば貴金属層の膜厚が約10nm程度に薄膜化)され、貴金属層のピンホール等が増加し基材の露出面積が増大することがあったとしても、酸化皮膜の存在により、燃料電池運転時の強い酸による基材構成金属の溶出が極力防止又は抑制される。
【0026】
なお、金属基材と貴金属層との間に酸化皮膜が介在したとしても、陽極酸化によって形成される最大でも30nm程度の膜厚の酸化皮膜であれば、セパレータ全体として接触抵抗の低減が図られる。即ち、セパレータ面直方向(スタッキング方向)の抵抗は、酸化皮膜の固有抵抗、貴金属層の固有抵抗、及び、セパレータ表面と拡散層との接触抵抗をあわせたものであるが、このうち、セパレータ面直方向抵抗の主たる部分を占めるのは、セパレータ表面と拡散層との間の接触抵抗であり、5〜30nm程度の厚みの酸化皮膜の固有抵抗がセパレータ面直方向の総抵抗に占める割合は非常に小さい。もし仮に貴金属層を設けることなく酸化皮膜を拡散層に直接接触させた場合には接触抵抗は非常に大きくなるところであるが、貴金属層を設けることで拡散層との接触抵抗が大幅に低減し、セパレータ全体としての接触抵抗は非常に小さくなる。このように本発明によれば、適度に厚みのある酸化皮膜が金属基材の表面に介在しても、貴金属層が最表面(即ち拡散層と直接接する位置)に存在することによる接触抵抗の低減効果の方が大きい。それ故、本発明によれば、接触抵抗の低減と基材構成金属の溶出防止とを両立させることができる。
【実施例】
【0027】
本発明の具体例である実施例1を比較例1と対比しつつ説明する。
【0028】
[実施例1]
ステンレス鋼(SUS316L)の薄板を成形して、試験用の燃料電池セパレータ基材(縦100mm×横50mm×厚さ0.3mm)を作製した。このセパレータ基材に対し、以下に述べるような条件でアルカリ陽極酸化、それに続く後処理及び金めっき処理を施して、実施例1のセパレータを得た。
【0029】
(1)アルカリ陽極酸化
アルカリ溶液としての10%水酸化ナトリウム水溶液に少量の界面活性剤を加えてなる電解浴を準備し、その電解浴中に上記セパレータ基材(SUS316L)と、対向電極(SUS316L)とを浸漬した。そして、セパレータ基材を直流電源の陽極(+極)に、対向電極を直流電源の陰極(−極)にそれぞれ接続し、両極間に20ボルトの電圧を30分間印加して陽極酸化を行った。この陽極酸化により、セパレータ基材の表面には、膜厚が20〜40nmの酸化皮膜が形成された。
【0030】
(2)後処理(めっき処理に先んずる前処理)
上記陽極酸化後のセパレータ基材についてはその後、水洗(水洗1とする)、酸浸漬、水洗(水洗2とする)、酸中和、水洗(水洗3とする)という一連の後処理工程を経て、次の金めっき処理工程に移行した。ここで「酸浸漬」とは、陽極酸化を施した基材の表面を活性化してめっき処理液との親和性を向上させるための前処理であって、本実施例ではセパレータ基材を、硫酸、硝酸及びフッ酸の混合酸水溶液中に約1分間浸漬することにより行った。なお、この酸浸漬によってセパレータ基材表面の酸化皮膜の一部が溶け出し、その膜厚は若干減少する。また、「酸中和」とは、酸浸漬で使用した酸の残留物がめっき処理液に悪影響を及ぼすのを未然防止するための洗浄処理であって、本実施例ではセパレータ基材を5%硫酸水溶液中に約1分間浸漬することにより行った。
【0031】
(3)金めっき処理
シアン化金を主成分とするめっき処理液からなるめっき浴を準備し、そのめっき浴中に上記アルカリ陽極酸化及びそれに続く後処理を施したセパレータ基材と、対向電極とを浸漬した。そして、セパレータ基材を直流電源の陰極(−極)に、対向電極を直流電源の陽極(+極)にそれぞれ接続し、数アンペア程度の電流を数十秒間通電して電解めっきを行った。この電解めっきにより、表面に金めっきが施されたセパレータを得た。
【0032】
上記一連の工程を経て得られた実施例1の燃料電池セパレータは、ステンレス鋼(SUS316L)製の基材の表面に膜厚が10〜20nmの酸化皮膜が形成され、更にその酸化皮膜の上に膜厚が約10nmの金めっき層が形成されたものである。なお、実施例1の金属基材はステンレス鋼製であることから、酸化皮膜は主に酸化クロムからなる。
【0033】
[比較例1]
上記実施例1と同様に、ステンレス鋼(SUS316L)の薄板を成形して、試験用の燃料電池セパレータ基材(縦100mm×横50mm×厚さ0.3mm)を作製した。このセパレータ基材に対し、アルカリ電解脱脂、実施例1と同様の上記(2)後処理及び上記(3)金めっき処理を施して、比較例1のセパレータを得た。つまり、比較例1とは、実施例1における上記(1)アルカリ陽極酸化に代えて、下記(4)のアルカリ電解脱脂を施した事例である。
【0034】
(4)アルカリ電解脱脂
アルカリ溶液としての10%水酸化ナトリウム水溶液に少量の界面活性剤を加えてなる電解浴を準備し、その電解浴中に上記セパレータ基材(SUS316L)と、対向電極(SUS316L)とを浸漬した。そして、セパレータ基材を直流電源の陽極(+極)に、対向電極を直流電源の陰極(−極)にそれぞれ接続し、両極間に4ボルトの電圧を5分間印加して電解脱脂を行った。この電解脱脂処理により、セパレータ基材の表面に付着していた油分や脂肪分が除去された。
【0035】
比較例1では、上記アルカリ電解脱脂後のセパレータ基材に対して、上記実施例1と同様、水洗1、酸浸漬、水洗2、酸中和及び水洗3という一連の後処理工程を施した。なお、酸浸漬により、セパレータ基材表面の自然酸化によって自然形成されていた酸化皮膜のほとんどが除去された。そしてその後に、セパレータ基材に対して、上記実施例1と同様の金めっき処理を施した。
【0036】
上記一連の工程を経て得られた比較例1の燃料電池セパレータは、ステンレス鋼(SUS316L)製の基材の表面に膜厚が約10nmの金めっき層が形成されたものであり、金めっき層の下地層にあたる酸化皮膜がほとんど存在しないセパレータである。
【0037】
実施例1及び比較例1のセパレータにつき、以下のような種々の試験を行った。
【0038】
[密着性評価試験]
JIS−H8504のめっきの密着性試験方法にかかる引きはがし試験方法(テープ試験方法)に基づいて、金めっき層の密着性を評価した。その結果を表1に示す。
【0039】
表1からわかるように、金めっき層の下地層として酸化皮膜を有する実施例1のセパレータでも、金めっき層だけを有する比較例1のセパレータと同程度に、その金めっき層は良好な密着性を示した。
【0040】
[耐食性評価試験]
溶出試験方法に基づいて試験片(試作セパレータ等)の耐食性を評価した。即ち、図2に示すように、燃料電池運転時の環境を模擬した酸性水溶液(pH2の硫酸水溶液)の浴中に試験片を浸漬する。そして、酸性水溶液の温度を80℃に保ち約100時間試験片を漬け置いた後、浴中の溶液を一部採取し、ICP(誘導結合プラズマ発光分析法)により酸性水溶液中に溶出した基材構成金属(Fe,Cr,Ni等)のイオン量を定量した。
【0041】
試験片としては、実施例1のセパレータ、比較例1のセパレータ、及び、これらのセパレータの基材と同じものである無処理のステンレス鋼(SUS316L)製の基材(縦100mm×横50mm×厚さ0.3mm)を使用し、それぞれについて溶出試験を行い、ICPにより基材構成金属の溶出量を定量した。無処理のステンレス鋼製基材での金属溶出量を1とした場合の金属溶出量(即ち溶出量の相対値)を表1に示す。
【0042】
表1からわかるように、実施例1の金属溶出量は0.04であり、無処理のステンレス鋼製基材の金属溶出量の1/25に過ぎなかった。また、比較例1の金属溶出量(0.07)と比較しても、セパレータ基材からの金属溶出は、実施例1が比較例1の約57%程度に過ぎず、金めっき層の下地層としての酸化皮膜を形成することによる耐食性の向上が確認された。
【0043】
[接触抵抗試験]
図3に示すような接触抵抗試験を行った。即ち、試験片(試作セパレータ等)をカーボンペーパー(燃料電池の拡散層に相当するもの)を介在させて上下二つの極板で挟むと共に、燃料電池スタック構成時の面圧にほぼ匹敵する面圧:1MPaを付与した状態で、両極板間に5アンペアの電流Iを通電した。そして、通電時における試験片とカーボンペーパーとの間の電圧値Vを測定し、オームの法則(R=V/I,この場合I=5(A))に基づいて接触抵抗値Rを求めた。
【0044】
試験片としては、実施例1のセパレータ、比較例1のセパレータ、及び、これらのセパレータの基材と同じものである無処理のステンレス鋼(SUS316L)製の基材(縦100mm×横50mm×厚さ0.3mm)を使用し、それぞれについて上記電圧値Vから接触抵抗値Rを求めた。なお、各試験片につき、上記耐食性評価試験を行う前(「腐食前」と称す)と、上記耐食性評価試験を行った後(「腐食後」と称す)の接触抵抗値を求めた。無処理のステンレス鋼製基材の接触抵抗値を1とした場合の接触抵抗値(即ち接触抵抗の相対値)を表1に示す。
【0045】
表1からわかるように、実施例1及び比較例1ともに、それらの接触抵抗(相対値)は腐食前及び腐食後ともに0.003であった。つまり、実施例1も比較例1も、無処理のステンレス鋼板の接触抵抗の約1/333に過ぎなかった。この結果から、金めっき層の下地層としての酸化皮膜を形成した実施例1のセパレータでも、金めっき層だけを形成した比較例1のセパレータとほぼ同等の接触抵抗の低さを示すことが確認された。
【0046】
【表1】

【0047】
このように実施例1の燃料電池セパレータによれば、ステンレス鋼製基材及び酸化皮膜に対する金めっき層の良好な密着性を確保できると共に、優れた耐食性能と低い接触抵抗とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】燃料電池セパレータの表面付近の拡大断面図。
【図2】耐食性評価試験の方法の概要を示す図。
【図3】接触抵抗の測定方法の概要を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属製の金属基材に対しアルカリ溶液中で陽極酸化を施すことにより、前記金属基材の表面に酸化皮膜を形成する陽極酸化工程と、
陽極酸化が施された前記金属基材に対し貴金属のめっき又はスパッタリングを施すことにより、前記酸化皮膜の上に貴金属層を形成する貴金属層形成工程と
を備えることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項2】
鉄系金属製の金属基材に対しアルカリ溶液中で陽極酸化を施し、その後、陽極酸化が施された前記金属基材に対し貴金属のめっきを施すことにより、
鉄系金属製の金属基材の表面に平均膜厚が5〜30nmの酸化皮膜が形成され、且つその酸化皮膜の上に貴金属層が形成された燃料電池セパレータを得ることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項3】
鉄系金属製の金属基材と、前記金属基材の表面に形成された平均膜厚が5〜30nmの酸化皮膜と、前記酸化皮膜の上に形成された貴金属層とを備えることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項4】
前記貴金属層を構成する貴金属は、金(Au)又は白金(Pt)であることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−257883(P2007−257883A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77424(P2006−77424)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】