説明

燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物および燃料電池セパレータ

【課題】 従来技術の欠点が解消された燃料電池用の導電性樹脂組成物を提供するとともに、この導電性樹脂組成物を成形することにより製造され、導電性および曲げ特性に優れた燃料電池セパレータを提供する。
【解決手段】 メルトフローレートが0.01以上10以下の範囲であるポリプロピレン樹脂からなるA成分と、導電性充填材からなるB成分とが少なくとも含有されていることを特徴とする燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物およびこの樹脂組成物からなる燃料電池セパレータを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物および燃料電池セパレータに関する。更に詳しくは、本発明は、メルトフローレート(MFR)が0.01以上10以下のポリプロピレン樹脂と導電性充填材からなる優れた導電性と曲げ特性とを両立する燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物およびこの樹脂組成物からなる燃料電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い導電性が必要とされる用途には、金属や炭素材料等が主として用いられてきた。しかしながら、近年のエレクトロニクス、電気化学、エネルギー、輸送機器等の分野における導電性材料の用途の多様化に伴い、導電性材料の一種たる導電性樹脂組成物が果たすべき役割が大きくなってきた。その結果、導電性樹脂組成物は高性能化、高機能性化において目覚ましい発展を遂げて来た。その重要な要因として、高分子材料との複合化により成形加工性が大幅に向上したことが挙げられるであろう。導電性が要求される用途としては、従来のものに加え、近年では特に回路基板、抵抗器、積層体、電極等の電子材料や、ヒーター、発熱装置部材、集塵フィルタエレメント、PTC素子、エレクトロニクス部品、または半導体部品等が挙げられる。これらの用途においては、導電性と共に高い耐熱性が要求されることとなる。
【0003】
他方で、近年、環境問題、エネルギー問題等の観点から、燃料電池が注目されている。
燃料電池は、水素と酸素を利用して電気分解の逆反応で発電し、水以外の排出物がないクリーンな発電装置である。この燃料電池の分野においても、導電性樹脂組成物が大きな役割を担うことができる。燃料電池は、その電解質の種類に応じて数種類に分類されるが、これらの中でも、固体高分子型燃料電池は比較的低温で作動するため、自動車や民生用として最も有望である。このような燃料電池は、例えば、高分子固体電解質、ガス拡散電極、触媒、セパレータから構成された単セルを積層することによって、高出力の発電が達成できる。
【0004】
上記構成を有する燃料電池において、単セルを仕切るためのセパレータには、通常、燃料ガス(水素等)と酸化剤ガス(酸素等)を供給し、発生した水分(水蒸気)を排出するための流路(溝)が形成されている。それゆえに、セパレータにはこれらのガスを完全に分離できる高い気体不透過性と、内部抵抗を小さくするために高い導電性が要求される。
更には、このセパレータには、熱伝導性、耐久性、強度等に優れていることが要求される。
【0005】
これらの要求を達成する目的で、従来、この燃料電池セパレータの素材として、金属材料と炭素材料の両方から検討されてきた。これらの材料のうち、金属材料に関しては耐食性の問題から、表面に貴金属や炭素を被覆させる試みがされてきたが、充分な耐久性が得られず、更に被覆にかかるコストが問題になる。
【0006】
一方、炭素材料に関しても多く検討が成され、膨張黒鉛シートをプレス成形して得られた成形品、炭素焼結体に樹脂を含浸させ硬化させた成形品、熱硬化性樹脂を焼成して得られるガラス状カーボン、炭素粉末と樹脂を混合後成形した成形品等が燃料電池セパレータ用材料の例として挙げられる。
例えば、特許文献1には、導電性を有するフィラーを該フィラーと親和性の高いポリマー中に偏在させた導電性プラスチックが開示されている。また特許文献2には、炭素質粉末に結合材を加えて加熱混合後CIP成形(Cold Isostatic Pressing;冷間等方圧加工法)し、次いで焼成、黒鉛化して得られた等方性黒鉛材に熱硬化性樹脂を含浸、硬化処理した後に、溝を切削加工によって彫るという煩雑な工程が開示されている。
【0007】
また、組成物の工夫によって、セパレータの高性能化が試みられてきた。例えば、特許文献3には、樹脂で被覆された炭素質粉末と、該被覆樹脂よりも高耐熱性の樹脂との複合化により、優れた機械的特性及び電気的特性を兼ね備えたセパレータが開示されている。
特許文献4には、低融点金属、金属粉末、熱可塑性プラスチック、及び熱可塑性エラストマーの混合物からなる樹脂組成物が開示されている。また、特許文献5には熱可塑性樹脂と黒鉛粒子との混合組成物から成形された燃料電池セパレータが開示されている。また、特許文献6にはメソカーボン小球体の黒鉛化物粗粒粉末と熱可塑性樹脂を含有する燃料電池セパレータが開示されている。また、特許文献7には、黒鉛粒子と非炭素質熱可塑性樹脂とで構成された燃料電池セパレータが開示されている。
【特許文献1】特開平1−263156号公報
【特許文献2】特開平8−222241号公報
【特許文献3】特開2003−257446号公報
【特許文献4】特開2000−348739号公報
【特許文献5】特開2003−109622号公報
【特許文献6】特開2002−100377号公報
【特許文献7】特開2001−126744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような従来の導電性樹脂組成物から成る種々の導電性構造体おいては、高い導電性を発現させるために炭素質材料等の導電性充填材の充填量を大幅に増やす必要があるが、その反面脆くなりやすく、セパレータに要求される高い機械的特性、特に曲げ強度と曲げ歪を満足させることが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点が解消された燃料電池セパレータ用の導電性樹脂組成物を提供するとともに、この導電性樹脂組成物を成形することにより製造され、導電性および曲げ特性に優れた燃料電池セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の導電性樹脂組成物は、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が0.01以上10以下の範囲のポリプロピレン樹脂(A成分)と、導電性充填材(B成分)を少なくとも含む樹脂組成物である。体積固有抵抗が1Ω・cm以下の高い導電性を有する導電性樹脂組成物の場合、樹脂中に導電性充填材が多量に充填されているために流動性が著しく低く成形加工が困難であることから、なるべく流動性を損なわない為にバインダー樹脂には出来るだけ流動性が高い低分子量の樹脂を選択するのが一般的である。しかし、低分子量の樹脂からなる導電性樹脂組成物は一般的に機械的特性が低い。ところが、本発明者らは、導電性充填材が多量に充填された導電性樹脂組成物であっても、バインダー樹脂として高分子量(MFRが小さい)のポリプロピレン樹脂を用いると導電性樹脂組成物の流動性がほとんど低下せず、高い導電性と優れた機械的特性を有する燃料電池セパレータを得ることができることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は上記知見に基づくものであり、以下の手段を提供する。すなわち、
(1) メルトフローレートが0.01以上10以下の範囲であるポリプロピレン樹脂からなるA成分と、導電性充填材からなるB成分とが少なくとも含有されていることを特徴とする燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(2) 前記A成分のポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが0.1以上2以下の範囲であることを特徴とする前項1に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(3) 前記A成分と前記B成分との合計を100質量%としたときに、前記A成分の含有率が2質量%以上30質量%以下の範囲であり、前記B成分の含有率が70質量%以上98質量%以下の範囲であることを特徴とする前項1または前項2に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(4) さらにC成分としてエラストマーが含有されていることを特徴とする前項1または前項2に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(5) 前記A成分と前記B成分と前記C成分との合計を100質量%としたときに、前記A成分および前記C成分の含有率の合計が2質量%以上30質量%以下の範囲であり、前記B成分の含有率が70質量%以上98質量%以下であることを特徴とする前項4に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(6) 前記C成分のエラストマーが、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー及びスチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマーのいずれか1種または2種以上であることを特徴とする前項4または前項5に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(7) 前記B成分が金属材料、炭素質材料、導電性高分子、金属被覆フィラーまたは金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前項1ないし前項6のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(8) 前記B成分が、0.05〜5質量%のホウ素が含有された炭素質材料であることを特徴とする前項1ないし前項6のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(9) 前記B成分中に、気相法炭素繊維またはカーボンナノチューブのうちのいずれか一方または両方が、0.1質量%以上50質量%以下の割合で含まれていることを特徴とする前項1ないし前項6および前項8のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(10) 前記気相法炭素繊維中または前記カーボンナノチューブ中のいずれか一方または両方に、0.05質量%以上5質量%以下のホウ素が含有されていることを特徴とする前項9に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(11) 溶融時の見掛け粘度が7×10Pa・s以上1×10Pa・s以下の範囲であることを特徴とする前項1ないし前項10のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
(12) 前項1ないし前項11のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物から成形されてなることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【発明の効果】
【0012】
上記した構成を有する本発明の燃料電池セパレータは、導電性に優れ、かつ曲げ強度、曲げ歪に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0014】
(燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物)
本発明の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物(以下、単に導電性樹脂組成物ということがある。)は、MFRが0.01以上10以下の範囲のポリプロピレン樹脂(A成分)と、導電性充填材(B成分)とが少なくとも含有されてなる導電性樹脂組成物である。
また、本発明の導電性樹脂組成物には、エラストマー(C成分)やその他の熱可塑性樹脂を含有させることができる。A成分、C成分およびその他の熱可塑性樹脂をあわせて樹脂成分という。以下、樹脂成分の詳細について説明する。
【0015】
(A成分:ポリプロピレン樹脂)
A成分は、MFRが0.01以上10以下の範囲のポリプロピレン樹脂であれば、その他の物性等については特に限定されない。このようなポリプロピレン樹脂としては、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等のホモポリマータイプのポリプロピレン樹脂や、ランダムやブロック等のコポリマータイプのポリプロピレン樹脂が挙げられる。これらの中で、分子構造の面では、ホモポリマーのポリプロピレン樹脂が好ましく、曲げ弾性率と曲げ歪のバランスに優れるという理由で、アイソタクチックポリプロピレンが特に好ましい。
さらに、優れた曲げ特性が発現されるという理由で、MFRが0.05以上、5以下のポリプロピレン樹脂がより好ましい。さらに好ましいのはMFRが0.1以上、2以下のポリプロピレン樹脂である。なお、本発明のポリプロピレン樹脂のMFRはJIS K7210 M法(試験温度230℃、試験荷重21.18N(2.16kg))で測定した値である。
【0016】
(C成分:エラストマー)
本発明の導電性樹脂組成物には、エラストマー(C成分)が含まれていても良い。このエラストマーは、常温付近でゴム状弾性を有する高分子である。エラストマー成分としては特に限定されないが、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合ゴム、エチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ポリエーテル系特殊ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ノルボルネンゴム、ブチルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、軟質アクリル樹脂等の中から選ばれた1種または2種類以上の組み合わせが使用可能である。これらの中で、スチレン系熱可塑性エラストマーが高い導電性と優れた曲げ特性を両立できるという理由で好ましい。
【0017】
C成分の中で好適であるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、A成分のポリプロピレン樹脂中の分散性が良いという理由で、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマーが好ましい。
【0018】
上記のエラストマーは、A成分のポリプロピレン樹脂の一部と置換して含有させることが望ましい。具体的には、A成分とC成分の合計を100質量%とした場合に、C成分を0.01質量%以上50質量%以下の範囲で置換して添加することが好ましい。エラストマー(C成分)が50質量%以上になると、曲げ強度が低くなる。特に、高い曲げ歪と曲げ強度が同時に得られるという理由で、0.01質量%以上30質量%以下の範囲がより好ましい。
【0019】
(その他の熱可塑性樹脂)
本発明の導電性樹脂組成物には、本発明の効果が失われない範囲でポリプロピレン以外のその他の熱可塑性樹脂が含まれていても良い。そのような熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデンや四フッ化ポリエチレン等のフッ素樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン等の中から選ばれた1〜2種類以上の組み合わせが使用可能である。
【0020】
この他、樹脂成分中には、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、熱硬化性樹脂、モノマー、可塑剤、硬化剤、硬化開始剤、硬化助剤、溶剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、難燃剤、または親水性付与剤等から選ばれる成分を添加することができる。
【0021】
(A成分、あるいは樹脂成分の製造方法)
本発明のA成分、あるいはA成分とC成分など樹脂成分の混合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、溶液法、エマルション法、溶融法等の物理的方法、あるいはグラフト重合法、ブロック重合法、IPN(相互入高分子網目)法等の化学的方法による製造法が挙げられる。
【0022】
異種ポリマーのブレンドによる樹脂成分の製造の場合は、多様性の点からは溶融法が好ましい。この溶融法の具体的な手法は特に制限されないが、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーTM、押出機等の混練機械を用いてブレンドする方法等が挙げられる。
【0023】
(B成分)
本発明において、上記した樹脂成分とともに導電性樹脂組成物を構成するB成分は、導電性充填材である限り特に制限されない。導電性の点からは、このB成分は、金属材料、炭素質材料、導電性高分子、金属被覆フィラー、または金属酸化物の中から選ばれた1ないし2種類以上の組み合わせが好ましい。より好ましくは、炭素質材料、金属材料のいずれか一方または両方である。以下、B成分について更に詳細に説明する。
【0024】
(金属材料)
金属材料としては、導電性の点からは、Ni、Fe、Co、B、Pb、Cr、Cu、Al、Ti、Bi、Sn、W、P、Mo、Ag、Pt、Au、TiC、NbC、TiCN、TiN、CrN、TiB、ZrB、FeBのいずれか1種類または2種類以上の複合材料であることが好ましい。更に、これらの金属材料を粉末状、あるいは繊維状に加工して使用することができる。
【0025】
(炭素質材料)
炭素質材料としては、導電性の点からは、カーボンブラック、炭素繊維、アモルファスカーボン、膨張黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンの中から選ばれた1ないし2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0026】
更に、炭素材料の導電性向上の点からは、炭素質材料中にホウ素が0.05質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。ホウ素量が0.05質量%未満では、目的とする高導電性の黒鉛粉末が得られない可能性が高くなる。他方、ホウ素量が5質量%を超えて含まれていても、炭素材料の導電性向上への寄与の程度が低下する傾向がある。
炭素質材料に含まれるホウ素の量の測定方法は特に制限はなく、どのような測定方法でも測定できる。本発明では誘導型プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP」と略す。)又は誘導型プラズマ発光分光質量分析法(以下、「ICP−MS」と略す。)により測定した値を用いる。具体的には試料に硫酸および硝酸を加え、マイクロ波加熱(230℃)して分解(ダイジェスター法)し、更に過塩素酸(HClO)を加えて分解したものを水で希釈し、これをICP発光分析装置にかけて、ホウ素量を測定する。
【0027】
(ホウ素の含有方法)
炭素質材料中にホウ素を含有させる方法としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ等の単品、あるいはそれらの1種以上の混合物にホウ素源として、B単体、BC、BN、B、HBO等を添加し、よく混合して約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理することによって、炭素質材料中にホウ素を含有させる方法が挙げられる。ホウ素化合物の混合が不均一な場合には、黒鉛粉末が不均一になるだけでなく、黒鉛化時に焼結する可能性が高くなる傾向がある。ホウ素化合物を均一に混合させるために、これらのホウ素源は50μm以下、好ましくは20μm以下程度の粒径を有する粉末にして、コークス等の粉末に混合することが好ましい。
【0028】
ホウ素を添加しない場合、黒鉛化すると黒鉛化度(結晶化度)が下がり、格子間隔が大きくなり、高導電性の黒鉛粉末を得ることの困難性が増大する傾向がある。また、黒鉛中にホウ素および/またはホウ素化合物が混合されている限り、ホウ素の含有の形態は特に制限されないが、黒鉛結晶の層間に存在するもの、黒鉛結晶を形成する炭素原子の一部がホウ素原子に置換されたものも、より好適なものとして挙げられる。また、炭素原子の一部がホウ素原子に置換された場合のホウ素原子と炭素原子の結合は、共有結合、イオン結合等どのような結合様式であっても構わない。
【0029】
(カーボンブラック)
上述した炭素質材料の一例であるカーボンブラックとしては、天然ガス等の不完全燃焼、アセチレンの熱分解により得られるケッチェンブラック、アセチレンブラック、炭化水素油や天然ガスの不完全燃焼により得られるファーネスカーボン、天然ガスの熱分解により得られるサーマルカーボン等が挙げられる。
【0030】
(炭素繊維)
上記した炭素繊維としては、重質油、副生油、コールタール等から作られるピッチ系と、ポリアクリロニトリルから作られるPAN系が挙げられる。
【0031】
(アモルファスカーボン)
上記したアモルファスカーボンを得るためには、フェノール樹脂を硬化させて焼成処理し、粉砕して粉末とする方法、または、フェノール樹脂を球状、不定形状の粉末の状態で硬化させて焼成処理する方法等がある。導電性の高いアモルファスカーボンを得るためには2000℃以上に加熱処理することが適する。
【0032】
(膨張黒鉛)
上記した膨張黒鉛粉末は、例えば、天然黒鉛、熱分解黒鉛等高度に結晶構造が発達した黒鉛を、濃硫酸と硝酸との混液、濃硫酸と過酸化水素水との混液の強酸化性の溶液に浸漬処理して黒鉛層間化合物を生成させ、水洗してから急速加熱して、黒鉛結晶のC軸方向を膨張処理することによって得られた粉末や、それを一度シート状に圧延したものを粉砕した粉末である。
【0033】
(人造黒鉛)
上記した人造黒鉛を得るためには、通常は先ずコークスを製造する。コークスの原料は石油系ピッチ、石炭系のピッチ等が用いられる。これらの原料を炭化してコークスとする。コークスから黒鉛化粉末を得るにはコークスを粉砕後黒鉛化処理する方法、コークス自体を黒鉛化した後粉砕する方法、あるいはコークスにバインダーを加え成形、焼成した焼成品(コークスおよびこの焼成品を合わせてコークス等という)を黒鉛化処理後粉砕して粉末とする方法等がある。原料のコークス等はできるだけ、結晶が発達していない方が良いため、2000℃以下、好ましくは1200℃以下で加熱処理したものが適する。
【0034】
黒鉛化方法は、粉末を黒鉛ルツボに入れ直接通電するアチソン炉を用いる方法、黒鉛発熱体により粉末を加熱する方法等を使用することができる。
【0035】
コークス、人造黒鉛および天然黒鉛等の粉砕には、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル)や各種ボールミル(転動ミル、振動ミル、遊星ミル)、撹拌ミル(ビーズミル、アトライター、流通管型ミル、アニュラーミル)等が使用できる。また、微粉砕機であるスクリーンミル、ターボミル、スーパーミクロンミル、ジェットミルでも条件を選定することによって使用可能である。これらの粉砕機を用いてコークスおよび天然黒鉛等を粉砕し、その際の粉砕条件の選定、および必要により粉末を分級し、平均粒径や粒度分布をコントロールする。
【0036】
コークス粉末、人造黒鉛粉末および天然黒鉛粉末等を分級する方法としては、分離が可能であれば何れでも良いが、例えば、篩分法や強制渦流型遠心分級機(ミクロンセパレーター、ターボプレックス、ターボクラシファイアー、スーパーセパレーター)、慣性分級機(改良型バーチュウアルインパクター、エルボジェット)等の気流分級機が使用できる。また湿式の沈降分離法や遠心分級法等も使用できる。
【0037】
(気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ)
本発明のB成分には、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブのいずれか一方または両方が、0.1質量%以上50質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。より好ましくは、0.1質量%以上45質量%以下の範囲であり、更に好ましくは、0.2質量%以上40質量%以下の範囲である。B成分中におけるこれらの含有率が0.1質量%未満では導電性の向上に効果がない。また、50質量%を超えると成形性が悪くなる傾向になる。
【0038】
更に、気相法炭素繊維またはカーボンナノチューブ中には、0.05質量%以上5質量%以下のホウ素が含有されることが好ましい。より好ましくは、0.06質量%以上4質量%以下の範囲であり、更に好ましくは0.06質量%以上3質量%以下である。ホウ素の含有率が0.05質量%未満では、ホウ素を添加したことで導電性を向上させる効果が小さい。また、5質量%を超えた添加では、不純物量が多くなり、他の物性の低下をもたらす傾向がある。
【0039】
気相法炭素繊維は、例えばベンゼン、トルエン、天然ガス等の有機化合物を原料に、フェロセン等の遷移金属触媒の存在下で、水素ガスとともに800℃〜1300℃で熱分解反応させることによって得られる。この気相法炭素繊維は、繊維径が約0.5μm〜10μm程度のものである。熱分解反応後に更に、約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理することが好ましい。より好ましくは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒とともに約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理するとよい。
【0040】
カーボンナノチューブは、近年その機械的強度のみでなく、電界放出機能や、水素吸蔵機能が産業上注目され、更に磁気機能にも目が向けられ始めている。この種のカーボンナノチューブは、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、カーボンナノファイバー等とも呼ばれており、繊維径が約0.5nm〜100nmのものである。カーボンナノチューブにはチューブを形成するグラファイト膜が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブがある。本発明では、単層および多層カーボンナノチューブのいずれも使用可能であるが、単層カーボンナノチューブを用いた方が、より高い導電性や機械的強度の組成物が得られる傾向があるため好ましい。
【0041】
カーボンナノチューブは、例えば、斉藤・板東「カーボンナノチューブの基礎」(P23〜P57、コロナ社出版、1998年発行)に記載のアーク放電法、レーザ蒸発法および熱分解法等により作製し、更に純度を高めるために水熱法、遠心分離法、限外ろ過法、および酸化法等により精製することによって得られる。より好ましくは、不純物を取り除くために約2300℃〜3200℃の不活性ガス雰囲気中で高温処理する。更に好ましくは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒とともに、不活性ガス雰囲気中、約2300℃〜3200℃で高温処理することにより得られる。
【0042】
(組成)
本発明における、樹脂成分とB成分の組成は、(樹脂成分+B成分)を基準(100質量%として)、樹脂成分が2質量%以上30質量%以下の範囲、B成分が70質量%以上98質量%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、樹脂成分が5質量%以上20質量%以下、B成分が80質量%以上95質量%以下である。更に好ましくは、樹脂成分が5質量%以上15質量%以下の範囲、B成分が85質量%以上95質量%以下の範囲である。樹脂成分が2質量%未満では、成形性が悪くなる傾向がある。他方、樹脂成分が30質量%を超えると、体積固有抵抗が1Ωcm以上になり易い傾向が生ずる。
【0043】
また、A成分とB成分の組成は、(A成分+B成分)を基準(100質量%として)、A成分が2質量%以上30質量%以下の範囲、B成分が70質量%以上98質量%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、A成分が5質量%以上20質量%以下、B成分が80質量%以上95質量%以下である。更に好ましくは、A成分が5質量%以上15質量%以下の範囲、B成分が85質量%以上95質量%以下の範囲である。A成分が2質量%未満では、成形性が悪くなる傾向がある。他方、A成分が30質量%を超えると、体積固有抵抗が1Ωcm以上になり易い傾向が生ずる。
【0044】
(添加剤)
更に本発明の導電性樹脂組成物には、必要に応じて、硬度、強度、導電性、成形性、耐久性、耐候性、耐水性等を改良する目的で、更にガラスファイバー、ウィスカー、金属酸化物、有機繊維、紫外線安定剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、親水性付与剤等の添加剤を添加することができる。
【0045】
(粘度)
本発明の導電性樹脂組成物の溶融時の見掛けの粘度は、温度280℃において、7×10Pa・s以上1×10Pa・s以下の範囲であることが好ましい。溶融時の見掛けの粘度が上記数値範囲内である場合、成形性が良好となる。溶融時の見掛けの粘度の測定方法は特に制限されず、公知のものを採用できる。例えば、東洋精機(株)製のキャピログラフを用いて、温度280℃、せん断速度1000秒−1で、直径1mm、長さ10mmのキャピラリーを用いて測定する方法が挙げられる。
【0046】
(製造方法)
本発明における導電性樹脂組成物の製造方法は特に制限されない。上記した各成分をロール、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー(登録商標)、ヘンシェルミキサー(登録商標)、プラネタリーミキサー等の樹脂分野で一般的に用いられている混合機、混練機を使用し、なるべく均一に混合させるのが好ましい。
【0047】
また、上記した樹脂成分を予め製造したのちB成分と混合する方法と、B成分の存在下で樹脂成分の各成分を混練する方法等が挙げられるが、限定されるものではない。
【0048】
本発明における導電性樹脂組成物は、混練または混合した後、モールド成形機や金型への材料供給を容易にする目的で、必要に応じて、粉砕あるいは造粒することができる。粉砕には、ホモジナイザー、ウィレー粉砕機、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル、ブレンダー)等が使用でき、材料同士の凝集を防ぐため冷却しながら粉砕することが好ましい。造粒には、押出機、ルーダー、コニーダー等を用いてペレット化する方法、あるいはパン型造粒機等を使用することができる。
【0049】
(燃料電池セパレータ)
本発明の導電性樹脂組成物を用いて、燃料電池セパレータを製造する方法は特に制限されない。この製造方法の具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、注型法、射出圧縮成形法が挙げられるが、これに限定するわけではない。より好ましくは、成形加工時に金型内あるいは金型全体を真空状態にして成形する。
【0050】
圧縮成形において成形サイクルを挙げるには、多数個取り金型を用いることが好ましい。更に好ましくは、多段プレス(積層プレス)方法を用いると小さな出力で多数の製品を成形できる。平面状の製品で面精度を向上させるためには、一度シートを成形してから圧縮成形することが好ましい。
【0051】
射出成形においては、更に成形性を向上させる目的で、炭酸ガスを成形機シリンダーの途中から注入し、材料中に溶かし込んで超臨界状態で成形することができる。製品の面精度を挙げるには、射出圧縮方法を用いることが好ましい。射出圧縮法としては、金型を開いた状態で射出して閉じる方法、金型を閉じながら射出する方法、閉じた金型の型締め力をゼロにして射出してから型締め力をかける方法等を用いる。
【0052】
(金型)
本発明において成形の際に使用すべき金型については特に制限されないが、例えば、材料の固化が速く、流動性が悪い場合は、キャビティ内に断熱層を仕込んだ断熱金型を用いることが好ましい。また、金型温度を成形時に上下できる温度プロファイルシステムを導入した金型がより好ましい。温度プロファイルのやり方としは、誘導加熱と冷媒(空気、水、オイル等)の切換えによるシステム、熱媒(熱水、加熱オイル等)と冷媒の切換えによるシステム等が挙げられるが、制限されるものではない。
【0053】
金型温度は組成物の種類に応じて最適温度を選定、探索することが重要である。例えば、90℃〜200℃の温度範囲で、10秒間〜1200秒間という範囲で適宜決定することができる。成形品を高温で取出した場合、冷却する場合があるが、その方法は制限されるものでない。例えば、反りを抑制する目的で、成形品を冷却板で挟んで冷却する方法、または、金型ごと冷却する方法等が挙げられる。
【0054】
本発明の両面または片面にガスを流すための流路が形成された燃料電池セパレータは、本発明の導電性樹脂組成物を上記した成形法により成形することにより得ることができる。ガスを流すための流路は導電性樹脂組成物の成形体を切削等の機械加工により、当該流路(溝等)を形成してもよい。また、ガス流路の反転形状を有する金型を使用し圧縮成形、スタンプ成形等によってガス流路形成を行ってもよい。
【0055】
本発明のセパレータの流路断面形状や流路形状は特に制限されない。例えば、流路断面形状は長方形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。流路形状は、ストレート型、蛇行型等が挙げられる。流路の幅は0.1〜2mm、深さ0.1〜1.5mmが好ましい。
図1に本発明に係るセパレータの一例を示す。
【0056】
本発明のセパレータの最薄部は1mm以下が好ましい。より好ましくは0.8mmである。1mm以上では、セパレータが厚くなるため、セパレータ自体の抵抗によるセルの電圧降下が大きくなり好ましくない。
【0057】
本発明の燃料電池セパレータは、ガスや水を流すためのマニホールドとしての役割を果たす貫通孔を有していても良い。貫通孔の形成方法としては、成形時に貫通孔を形成させる方法、成形後に切削により形成させる方法等が挙げられるが制限されない。
【0058】
(燃料電池セパレータの用途)
本発明の燃料電池セパレータは、導電性に優れ、高い曲げ強度、曲げ歪を有するので燃料電池セパレータとして最適である。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。
【0060】
実施例に用いた材料を以下に示す。
(樹脂成分)
樹脂成分として、A成分とC成分からなる表1に記載の樹脂1ないし樹脂10を調製した。
A成分としてのポリプロピレン樹脂には、サンアロマー(株)製のサンアロマーPX900N(MFR=30)、PX600N(MFR=7)、PX400A(MFR=2)、PW201N(MFR=0.4)を用いた。なお、ポリプロピレン樹脂のMFR値は、JIS K7210に準拠して測定した。具体的には、試験温度230℃、試験荷重21.18N(2.16kg)で測定した。
C成分としてのエラストマーには、水添スチレンブタジエンラバー(H−SBR)としてJSR(株)製のダイナロン1320Pを、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)としてクレイトンポリマージャパン(株)製のクレイトンG1652を用いた。
【0061】
【表1】

【0062】
(B成分:導電性充填材)(B1:ホウ素含有黒鉛微紛)
非針状コークスであるエム・シー・カーボン(株)製MCコークスをパルベライザー(ホソカワミクロン(株)製)で2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミル(IDS2UR、日本ニューマチック(株)製)で微粉砕した。その後、分級により所望の粒径に調整した。5μm以下の粒子除去は、ターボクラシファイアー(TC15N、日清エンジニアリング(株)製)を用い、気流分級を行った。この調整した微粉砕品の一部14.4kgに炭化ホウ素(BC)0.6kgを加え、ヘンシェルミキサー(登録商標)にて800rpmで5分間混合した。これを内径40cm、容積40リットルの蓋付き黒鉛ルツボに封入し、黒鉛ヒーターを用いた黒鉛化炉に入れてアルゴンガス雰囲気下2900℃の温度で黒鉛化した。これを放冷後、粉末を取り出し、14kgの粉末を得た。得られた黒鉛微粉は、平均粒径20.5μm、B含有量が1.9質量%であった。このようにしてホウ素含有黒鉛微紛(B1)を得た。
【0063】
(B2:気相法炭素繊維とホウ素含有黒鉛微紛の混合物)
気相法炭素繊維として、昭和電工株式会社製のVGCF−G(登録商標)を5質量%と、上記のホウ素含有黒鉛微紛(B1)を95質量%とを、ヘンシェルミキサー(登録商標)にて混合した。得られた炭素材料混合物の平均粒径は12.4μm、B含有量1.3質量%であった。このようにしてB2の混合物を得た。なお、上記の「VGCF−G」は、繊維径が0.1〜0.3μmであり、繊維長が10〜50μmであるものを用いた。
【0064】
(B3:カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略す。)とB1(黒鉛微粉)との混合物)
B1成分95質量%とCNT5質量%をヘンシェルミキサー(登録商標)にて混合した。得られた炭素材料混合物の平均粒径は9.2μm、B含有量1.2質量%であった。このようにしてB3の混合物を得た。
なお、カーボンナノチューブは以下の方法で得た。
【0065】
直径6mm、長さ50mmのグラファイト棒に、先端から中心軸に沿って直径3mm、深さ30mmの穴をあけ、この穴にロジウム(Rh):白金(Pt):グラファイト(C)を質量比率1:1:1の混合粉末として詰め込み、陽極を作製した。一方、純度99.98質量%のグラファイトからなる、直径13mm、長さ30mmの陰極を作製した。これらの電極を反応容器に対向配置し、直流電源に接続した。そして、反応容器内を純度99.9体積%のヘリウムガスで置換し、直流アーク放電を行った。その後、反応容器内壁に付着した煤(チャンバー煤)と陰極に堆積した煤(陰極煤)を回収した。反応容器中の圧力と電流は、600Torrと70Aで行った。反応中は、陽極と陰極間のギャップが常に1〜2mmになるように操作した。
【0066】
回収した煤は、水とエタノールが質量比で1:1の混合溶媒中に入れ超音波分散させ、その分散液を回収して、ロータリエバポレーターで溶媒を除去した。そして、その試料を陽イオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムの0.1%水溶液中に超音波分散させた後、5000rpmで30分間遠心分離して、その分散液を回収した。更に、その分散液を350℃の空気中で5時間熱処理することによって精製し、繊維径が1〜10nm、繊維長が0.05〜5μmのカーボンナノチューブを得た。
【0067】
(実施例1〜実施例9、比較例1〜3)
表1に示す樹脂成分材料ならびに(B1)ないし(B3)のB成分材料を、ラボプラストミル(登録商標)((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)に投入し、温度200℃、回転速度45rpmで7分間混練して導電性樹脂組成物を得た。この組成物を縦100mm×横100mmの平板(厚さは物性試験項目ごとに異なる)成形用の金型に投入し、50t圧縮成形機(NIPPO ENGINEERING社製 E−3013)を用いて温度230℃、予熱3分後、圧力15MPaで3分間加圧加熱し、その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させることにより、実施例1ないし9および比較例1ないし3の組成物の成形体を得た。表2および表3に、各成形体の組成を示す。
また、表2および3に、各成形体の体積固有抵抗、曲げ強度、曲げ弾性率および曲げ歪みならびに見掛けの粘度の測定結果を示す。
【0068】
なお、体積固有抵抗は、JIS K7194に準拠した四探針法により測定した。
また、曲げ強度、曲げ弾性率および曲げ歪みは、島津製作所(株)製のオートグラフ(AG−10kNI)を用いて測定を行った。具体的には、JIS K6911法で、試験片(80mm×10mm×4mm)をスパン間隔64mm、曲げ速度1mm/minの条件で3点式曲げ強度測定法により測定した。
溶融時の見掛けの粘度は、東洋精機(株)製のキャピログラフを用いて、温度280℃、せん断速度1000秒−1で、直径1mm、長さ10mmのキャピラリーを用いて測定したものである。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
上記した表2、表3に示すように、本発明におけるポリプロピレン樹脂を用いた実施例1ないし実施例9の成形体は、導電性に優れ、優れた曲げ強度、曲げ歪を有することがわかる。
【0072】
(実施例10)
上記の実施例6の組成物を、貫通孔6ヶ、100×200×1.5mmのサイズで溝幅1mmピッチ、溝深さ0.5mmの溝が両面に形成された平板を成形できる金型に投入し、50t圧縮成形機を用いて温度230℃、予熱3分、圧力15MPaで3分間加圧加熱し、その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させることにより、燃料電池セパレータを製造した。この燃料電池セパレータの体積固有抵抗は6.5mΩcmであり、セパレータ中央の厚みは1.51mmであり、非常に良好な燃料電池セパレータを得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】貫通抵抗の測定方法を説明するための模式断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレートが0.01以上10以下の範囲であるポリプロピレン樹脂からなるA成分と、導電性充填材からなるB成分とが少なくとも含有されていることを特徴とする燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記A成分のポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが0.1以上2以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記A成分と前記B成分との合計を100質量%としたときに、前記A成分の含有率が2質量%以上30質量%以下の範囲であり、前記B成分の含有率が70質量%以上98質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項4】
さらにC成分としてエラストマーが含有されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項5】
前記A成分と前記B成分と前記C成分との合計を100質量%としたときに、前記A成分および前記C成分の含有率の合計が2質量%以上30質量%以下の範囲であり、前記B成分の含有率が70質量%以上98質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記C成分のエラストマーが、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー及びスチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマーのいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項7】
前記B成分が金属材料、炭素質材料、導電性高分子、金属被覆フィラーまたは金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項8】
前記B成分が、0.05〜5質量%のホウ素が含有された炭素質材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項9】
前記B成分中に、気相法炭素繊維またはカーボンナノチューブのうちのいずれか一方または両方が、0.1質量%以上50質量%以下の割合で含まれていることを特徴とする請求項1ないし請求項6および請求項8のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項10】
前記気相法炭素繊維中または前記カーボンナノチューブ中のいずれか一方または両方に、0.05質量%以上5質量%以下のホウ素が含有されていることを特徴とする請求項9に記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項11】
溶融時の見掛け粘度が7×10Pa・s以上1×10Pa・s以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の燃料電池セパレータ用導電性樹脂組成物から成形されてなることを特徴とする燃料電池セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−12798(P2006−12798A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151289(P2005−151289)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボン樹脂モールドセパレータの開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】