説明

燃料電池及び燃料電池システム

【課題】燃料電池内の一部のセルが劣化した場合に、そのセルへの燃料ガスの供給を確実に遮断する。
【解決手段】燃料電池は、電解質と、電解質の両側の一対の電極と、一対の電極のそれぞれに反応ガスを供給する反応ガス流路とを備える単セルが複数積層された燃料電池スタックを備えている。また、燃料電池には、反応ガスを供給するガス供給手段と、燃料電池スタックの積層方向の両側に配置され発電された電気を集電する一対の集電板が備えられている。また、燃料電池には、単セルの両側に配置された他の単セル間、又は単セルの一面側の他の単セルと、単セルの前記一面側とは反対側に配置された集電板との間を、電気的に接続し、単セルをバイパスする電流バイパス手段が配置されている。単セルの反応ガス流路には、一対の電極のうち少なくとも一方の電極への反応ガスの流入を遮断できるガス遮断機構が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池及び燃料電池システムに関する。更に具体的には、燃料電池の各セル内の一対の電極に、それぞれ反応ガスを供給し、この反応ガスの電気化学反応によって発電した電力を出力する燃料電池及びこれを制御する燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素等の燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池が知られている。具体的には、このような燃料電池は、固体高分子電解質膜とこの電解質膜を挟んで配置された一対の電極(アノードとカソード)とを有する単セルが複数積層されて構成され、各セルのアノードに燃料ガス、カソードに酸化ガスが供給されることで各セル内で電気化学反応を起こして発電する。
【0003】
この燃料電池の発電中に、燃料電池内のセルのいずれかにおいて、カソード側からアノード側に酸化ガスが漏洩する、あるいはアノード側からカソード側に燃料ガスが漏洩する、いわゆるクロスリーク量が発生する場合がある。また、このような膜のクロスリークの他に、シール部やセパレータを介して、酸化ガスや燃料ガスのリークが発生する場合がある。このようなリーク量が増加した場合、そのセル(重劣化セル)の発電が停止する事態を生じる場合がある。燃料電池はセルが直列に接続されているため、1枚のセルでの発電が停止すると、燃料電池自体の発電が停止する事態を引き起こすこととなる。
【0004】
これに対して、例えば、特開2005−63909号公報には、燃料電池のセル内で起こるクロスリークを検出して、クロスリーク量が多くなったセルを電気的にバイパスする燃料電池システムが開示されている。具体的に、従来技術のシステムは、各セルごとに所定の条件下でOCVを検出し、OCVが低いセルを、クロスリーク量が多くなっている重劣化セルと判断する。このようにして重劣化セルが検出されると、この重劣化セルが含まれるセルブロックの両端に配置された電極板の間のリレー回路を作動させる。その結果、このセルブロックの電極板間は直接リレー回路により接続された状態となる。つまり、このセルブロックがリレー回路にバイパスされて、このセルブロックの両側に隣接するセルブロックの電極板同士が直接接続された状態となる。これによりクロスリーク量が多くなった重劣化セルのセルブロックを除いて、他のブロックのセルのみで発電を行うことができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−63909号公報
【特許文献2】特開2005−63724号公報
【特許文献3】特開2005−63903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術のシステムでは、リーク量が多くなった重劣化セルが存在する状態で、燃料電池の発電が継続して行われる。このため、発電が停止している重劣化セルの各電極にも、燃料ガスあるいは酸化ガスが供給され続けることとなる。このため、重劣化セル内では、リークした水素と酸素とが直接反応し続ける。その結果、この反応における反応熱によりセル内が局所的に高温になるなどして、そのセルの電解質膜や触媒電極の劣化、ひいては燃料電池全体の劣化を招くことがある。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、リーク量が増大した場合に、燃料電池の発電を確保しつつ、リークが増大したセルへのガス供給を的確に停止して燃料電池の劣化を抑えることができるように改良した燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、
電解質と、
前記電解質の両側に配置された一対の電極と、
前記一対の電極のそれぞれに反応ガスを供給する反応ガス流路を構成する反応ガス流路部材と、を備える単セルを複数積層した燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに、反応ガスを供給するガス供給手段と、
前記燃料電池スタックの積層方向の両側に配置され、発電された電気を集電する一対の集電板と、
前記反応ガス流路に配置され、前記一対の電極のうち、少なくとも一方の電極への反応ガスの流入を遮断できるガス遮断機構と、
前記単セルの両側にそれぞれ配置された他の単セル間、又は、前記単セルの一面側の他の単セルと、前記単セルの前記一面側とは反対側に配置された集電板との間を、電気的に接続し、前記単セルをバイパスする電流バイパス手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記ガス遮断機構は、
前記反応ガス流路の入口部に配置され、前記反応ガス流路に接続するガス流路を構成する流路構成部材と、
前記流路構成部材を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記流路構成部材は、前記加熱手段により加熱されることで変形し、前記ガス流路を閉塞することを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、前記流路構成部材は、熱可塑性樹脂により構成されることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第1の発明において、
前記ガス遮断機構は、
前記反応ガス流路の入口部に配置され、前記反応ガス流路を開閉する開閉弁と、
前記開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第4の発明において、
通電により変形して前記開閉弁を閉弁させる圧電素子と、
前記開閉弁が閉弁した際に、前記開閉弁を閉弁した状態で固定する固定部と、
を備え、
前記開閉弁制御手段は、前記圧電素子への通電を制御することを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明において、
前記電流バイパス手段は、
第1の導電板と、
第1の導電板に対向して配置された第2の導電板と、
前記第1の導電板と第2の導電板との間に配置され、加熱により変形する絶縁部材と、
前記絶縁部材を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記加熱手段による加熱により前記絶縁部材が変形すると、前記第1の導電板の一部と、前記第2の導電板の一部とが接触して、前記単セルをバイパスすることを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第6の発明において、前記絶縁部材は、熱可塑性樹脂により構成されることを特徴とする。
【0015】
第8の発明は、第2又は第3の発明において、
前記電流バイパス手段は、
前記ガス遮断機構の、前記ガス流路の前記積層方向の一面側に配置され、複数の突出部を備える第1の導電板と、
前記第1の導電板に対向し、前記ガス流路の積層方向の反対側の面に配置された第2の導電板と、
を備え、
前記加熱手段による加熱により前記流路構成部材が変形すると、前記第1の導電板の前記突出部が前記第2の導電板に接触して、前記単セルをバイパスすることを特徴とする。
【0016】
第9の発明は、燃料電池システムであって、第1から第5のいずれかの燃料電池を備え、
前記電流バイパス手段は、前記一対の電極であって、
前記複数の単セルのいずれかにおいて劣化が発生した場合に、その劣化した単セルを検出する劣化セル検出手段と、
前記検出された劣化した単セルの前記ガス遮断機構を作動させ、前記劣化した単セルの前記反応ガス流路への反応ガスの流通を停止させるガス遮断制御手段と、
前記劣化した単セルへの反応ガスの流通を遮断した状態で、前記燃料電池に負荷をかけて運転し、前記劣化した単セルの前記電解質を劣化させて前記劣化した単セルの前記一対の電極を接続することで、前記劣化した単セルをバイパスさせるバイパス制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
第10の発明は、燃料電池システムであって、第1から第8のいずれかの燃料電池を備え、
前記複数の単セルのいずれかにおいて劣化が発生した場合に、その劣化した単セルを検出する劣化セル検出手段と、
検出された劣化した単セルの前記ガス遮断機構を作動させ、前記劣化した単セルの前記反応ガス流路への反応ガスの流通を停止させるガス遮断制御手段と、
前記劣化した単セルの前記電流バイパス手段を作動させて、前記劣化した単セルをバイパスさせるバイパス制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明の発明によれば、燃料電池内に積層された各単セルには、少なくとも一方の電極への反応ガスの流入を遮断できるガス遮断機構と、その単セルをバイパスする電流バイパス手段が備えられている。従って、必要に応じて、ガス遮断機構を作動させることで、単セルごとに反応ガスの流入を遮断するとともに、電流バイパス手段を作動させることでその単セルをバイパスしてその両側の単セル間あるいは集電板と単セル間とを接続することができる。従って、その単セルあるいは燃料電池全体の劣化防止や、燃料ガスの消費の低減を図りつつ、燃料電池の運転を継続することができる。
【0019】
第2の発明によれば、ガス遮断機構は、反応ガス流路に接続するガス流路を構成する流路構成部材を加熱手段により加熱されることでガス流路を閉塞することができる。これにより、より容易に、必要なセルにおいて反応ガスの流入を遮断することができる。
【0020】
第3の発明によれば、ガス遮断機構の流路構成部材は、熱可塑性樹脂により構成される。熱可塑性樹脂は、加熱されることで軟化して変形するが、冷却されるとその形状のまま固まる性質を有する。従って、必要に応じて加熱することで一端閉塞されたガス流路は、その後、加熱が停止されても閉塞した状態のまま維持される。従って、効率よくガス流路を遮断することができる。
【0021】
第4又は第5の発明によれば、ガス遮断機構は、反応ガス流路の入口部に配置されて反応ガス流路を開閉する開閉弁と、開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段とにより構成される。この機構により、より容易に、必要なセルにおいて反応ガスの流入を遮断することができる。
【0022】
第6の発明によれば、加熱手段による加熱により、絶縁部材を変形させることで、第1の導電板の一部と第2の導電板の一部とを接触させて、セルをバイパスすることができる。これにより、より容易に、必要なセルを選択して電流をバイパスさせることができ、燃料電池の発電状態を確保することができる。
【0023】
第7の発明によれば、絶縁樹脂は、熱可塑性樹脂により構成される。熱可塑性樹脂は、加熱されることで軟化して変形するが、冷却されるとその形状のまま固まる性質を有する。従って、加熱により一端バイパスされたセルは、その後、加熱が停止されてもバイパスされた状態のまま維持される。従って、効率よく必要なセルをバイパスすることができる。
【0024】
第8の発明によれば、電流バイパス手段は、加熱手段による加熱により流路構成部材が変形すると、第1の導電板の前記突出部が第2の導電板に接触することで作動する。従って、反応ガスの供給の遮断に連動させて、このセルをバイパスする状態を確保することができる。
【0025】
第9の発明によれば、複数のセルのいずれかにおいて劣化が発生した場合に、その劣化セルへの反応ガスの流通を停止させ、この状態で燃料電池に負荷をかけて運転する。これにより、劣化したセルの電解質膜を劣化させて、劣化したセルの一対の電極を接続することで、劣化したセルをバイパスさせることができる。従って、特別な機構を設けることなくより容易に、劣化したセルをバイパスさせることができる。
【0026】
第10の発明によれば、複数のセルのいずれかにおいて劣化が発生した場合に、その劣化したセルを検出して、劣化したセルの反応ガス流路への反応ガスの流通を停止すると共に、劣化したセルの電流バイパス手段を作動させて、劣化したセルをバイパスさせることができる。これにより、劣化したセルの劣化の進行や燃料電池の劣化を防止しつつ燃料消費量の低減を図ると共に、燃料電池自体の発電を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0028】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における燃料電池システムの全体構成を説明するための模式図である。図1に示すように、燃料電池システムは燃料電池10を備えている。燃料電池10は、セル12(単セル)が複数積層されて構成されている。燃料電池10は、積層された各セル12を貫通し、各セル12に水素等の燃料ガスを供給する燃料ガス供給マニホールド14と、各セル12から排出される燃料オフガスを外部に排出する燃料ガス排出マニホールド16とを備えている。燃料ガス供給マニホールド14は、図示しない外部の燃料ガス供給手段に接続されている。また、図示を省略するが、燃料電池10は、積層された各セル12を貫通し、各セルに酸化ガスとしての大気を供給する大気供給マニホールドと、各セル12から排出された大気オフガスを外部に排出するための大気排出マニホールドとを備えている。
【0029】
各セル12の積層方向の両側には集電板18が配置され、積層された複数のセル12が、一対の集電板18間に挟まれた構造となっている。また、集電板18の更に外側には、一対のエンドプレート20が配置されている。エンドプレート20間には図示しないテンション部材等により所定の圧力が付与されている。従って、エンドプレート20間に積層されたセル12は、このエンドプレート20間の締付圧力により締め付けられた状態で固定されている。なお、図1においては、直列に積層された複数のセル12を有する1のスタックのみを図示しているが、燃料電池10は上記のように構成されたスタックが複数個接続されて構成されているものであってもよい。
【0030】
図1のシステムは、燃料電池10に接続されたセルモニタ30を備えている。セルモニタ30にはコンピュータ32が接続されている。またコンピュータ32には、外部電池34が接続されている。セルモニタ30は、燃料電池10内の各セル12の電圧を、セル12ごとに検出することができる。コンピュータ32は、セルモニタ30の出力情報に基づいて、各セル12の電圧を検知し、そのセルの状態を判断すると共に、外部電池34あるいは燃料電池10内の必要な箇所に接続され、その制御信号によりこれらを制御することができる。
【0031】
燃料電池10内の各セル12は、MEGA(Membrane-Electrode-Gasket Assembly;膜−電極−ガスケット接合体)とその両側を挟んで配置されたセパレータ(反応ガス流路部材)により構成されている。MEGAは、MEA(Membrane-Electrode Assembly;膜−電極接合体)にガスケットが一体化した構成を有している。具体的に、MEAは、イオン交換膜である電解質膜と、この電解質膜の一面に配置された電極(アノード)と、電解質膜の他面に配置された電極(カソード)とを備えている。アノードとカソードからなる一対の電極は、共に触媒層を有し、その表面には拡散層が設けられている。このように構成されたMEAの外周部にガスケットが一体型に形成されてMEGAが構成されている。
【0032】
MEGAの両側の面には、それぞれMEGAのガスケットにより、セパレータが密着されている。セパレータは主にカーボン等により形成され、電気導電性を有する。図2は、この発明の実施の形態1におけるセル12のセパレータについて説明するための模式図である。図2のセパレータ40は、MEGAのアノード側に配置されるセパレータであり、図2には、アノード側に接する面が表されている。セパレータ40は、燃料ガス流路42(反応ガス流路)と燃料ガス供給孔14aと燃料ガス排出孔16aとを備えている。燃料ガス流路42の一端は燃料ガス流入孔14aに接続され、他端は、燃料ガス排出孔16aに接続されている。セパレータ40には、酸化ガス供給孔44aと酸化ガス排出孔44bが、燃料ガス流路42とは分離した状態で形成されている。
【0033】
図示を省略するが、カソード側に配置されるセパレータには、酸化ガス供給孔44aと酸化剤ガス排出孔44bと、これらに接続する酸化ガス流路が形成されている。更に、燃料ガス供給孔14a及び燃料ガス排出孔16bが、酸化ガス流路とは分離した状態で形成されている。
【0034】
各セル12は、アノード側のセパレータ40の燃料ガス流路42が形成された面が、MEGAのアノード側に接するように配置され、カソード側のセパレータの酸化ガス流路が形成された面が、MEGAのカソード側に接するように配置されて、MEGAを両セパレータで挟んで構成されている。このように構成されたセル12が積層されることで、各セパレータの、燃料ガス供給孔14a、燃料ガス排出孔16a、酸化ガス供給孔44a、酸化ガス排出孔44bが連続して接続され、燃料ガス供給マニホールド14、燃料ガス排出マニホールド16、及び酸化ガス供給マニホールド、酸化ガス排出マニホールドが構成される。
【0035】
[燃料電池の発電について]
燃料電池10の発電に際しては、燃料ガス供給マニホールド14から燃料ガス供給孔14aを介して燃料ガス流路42に燃料ガスが流通することで、MEGAのアノードの表面全体に燃料ガスが供給される。一方、酸化ガス供給マニホールドから酸化ガス供給孔を介して酸化ガス流路に酸化ガスが流通することで、カソード表面全体に酸化ガスが供給される。このとき、各セル12のアノードでは、水素を水素イオンと電子にする反応が起きる。発生した水素イオンは電解質膜中をカソード側に移動し、カソード側では水素イオンと酸素と電子とにより水が生成される。
【0036】
この反応における電子の移動による電流は、隣接するセル間で接触するアノード側のセパレータ40とカソード側のセパレータを介して伝えられ、最終的に、積層されたセル12の両側に形成された集電板18によって、燃料電池10全体の発電として回収される。
【0037】
[実施の形態1のガス遮断機構について]
ところで、燃料電池内のセルのいずれかにおいて、アノード側に酸化ガスが漏洩する、あるいはカソード側に燃料ガスが漏洩する、いわゆるクロスリークが発生し、そのクロスリーク量が高分子膜の劣化の進行等により許容範囲を越えて大きくなる場合がある。このように、クロスリーク量が増大したセル(以下「劣化セル」)が存在する場合に、燃料電池10の発電が継続され、劣化セルにも燃料ガス及び酸化ガスが供給され続けると、劣化セル内では、リークした水素と酸化とがアノード又はカソード表面で直接水生成反応を起こす。その結果、そのセル内では水生成反応の熱によって局所的に高温となり燃料電池自体を劣化することが考えられる。また正常な発電がされていない劣化セルに燃料ガス供給され続けると、燃料ガスが無駄に消費され発電効率が低下することとなる。
【0038】
そこで、実施の形態1では、図2に示すように、各セル12のアノード側に配置されたセパレータ40の燃料ガス供給孔14a付近に、燃料ガス流路42と接続し燃料ガスの流入を遮断する、ガス遮断機構50を配置する。そして、燃料電池10の発電中に劣化セルを検出した場合、劣化セルのガス遮断機構50を遮断状態とすることで、燃料ガスの供給を遮断する。
【0039】
図3は、この発明の実施の形態1におけるガス遮断機構50の概念的な構成を表すための模式図であり、図3(a)は、正常なセル12のガス遮断機構50を表し、図3(b)は劣化セルにおいて、遮断状態とされたガス遮断機構50を表している。図3(a)に示すように、ガス遮断機構50は、遮断部52(流路構成部材)を備えている。遮断部52は、例えばHDPE(High Density Polyethylene;高密度ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)等の熱可塑性樹脂により形成される。より好適には、融点133℃、軟化温度119℃程度のHDPE、融点128℃、軟化温度105℃程度のHDPEや、融点168℃、軟化温度が130℃程度のPP、融点134℃、軟化温度102℃程度のPP、融点143℃、軟化温度112℃程度PP等、燃料電池10が使用される温度等を考慮して、適切な温度域に融点及び軟化温度を有する熱可塑性樹脂を用いればよい。
【0040】
遮断部52にはガス流路54が形成され、このガス流路54が、セパレータ40の燃料ガス供給孔14aと燃料ガス流路42との間に配置され、燃料ガス流路42に連通する。つまり、燃料ガス供給孔14aを介してアノードに供給される燃料ガスは、ガス遮断機構50のガス流路54を通って燃料ガス流路42に流入する。
【0041】
遮断部52下方にはヒータ56(加熱手段)が設置されている。ヒータ56はセパレータ40及び後述の導電板108からは電気的に絶縁されている。ヒータ56としては、例えば、ニッケルをポリイミドで挟み込んだフィルム状のヒータを用いることができる。ヒータ56は外部電池34に電気的に接続され、コンピュータ32の制御信号により必要に応じてヒータ56に電力が供給される。
【0042】
ヒータ56下部にはシリコンラバー58が配置されている。ガス遮断機構50はセパレータ40の一部として構成されているため、ガス遮断機構50にも、セル12の積層方向(図3(a)においては上下方向)両側から、エンドプレート20による一定の締付圧力が加えられている。また、シリコンラバー58は、この締結圧力に対して圧縮応力を発する。従って、遮断部52は、そのセルのガス遮断機構50のシリコンラバー58と、遮断部52側(図3(a)においては上側)に隣接する他のセル12のシリコンラバー58とによる圧縮応力を受けている。
【0043】
セル12が劣化セルと判断されると、ヒータ56に外部電池34から所定の電力が供給される。その結果、熱可塑性樹脂で構成された遮断部52が軟化して、自由に変形可能な状態となる。遮断部52には上記のように締付圧力とこれに伴うシリコンラバー58からの圧縮応力が加えられている。従って、遮断部52が自由に変形可能な状態となると、遮断部52が変形し、次第に圧力に垂直な面方向に押し出される。その結果、遮断部52に溝として設けられたガス流路54内が埋め潰されて閉塞した状態となる。これにより、ガス供給孔14aと燃料ガス流路42との間において、燃料ガスの流入が遮断されることとなり、この劣化セルにおいては燃料ガス流路42への燃料ガスの流入が停止される。また、このような状態となった後、ヒータ56への電圧供給を停止して、遮断部52が冷却されると、遮断部52はそのままの形状で固められる。つまり、燃料ガス流路42の入口付近が閉塞されたままの状態となる。
【0044】
これにより燃料電池10の発電中においても、劣化セル12内への燃料ガスの供給を遮断することができ、酸素と水素との反応による燃料電池の劣化を抑えると共に、燃料ガスの無駄な消費を抑えることができる。
【0045】
[実施の形態1の電流バイパス機構について]
ところで、燃料電池10はセル12が直列に積層されて構成されている。従って、燃料電池10中に、発電が停止した劣化セルが1枚でも発生すると、この劣化セルにおいて電流の流れが遮断され、燃料電池10自体の発電が停止することとなる。このような事態を防ぐため、実施の形態1のシステムは、劣化セルをバイパスして劣化セルに隣接するセル12間を直接接続する電流バイパス機構60(電流バイパス手段)を備えている。
【0046】
実施の形態1のシステムにおいて、電流バイパス機構60は、ガス遮断機構50に組み込まれて構成されており、ガス遮断機構50が遮断状態とされた時に、自動的に、その劣化セルをバイパスして、その劣化セルの両側のセル12を直接接続する状態とされる。
【0047】
図4は、実施の形態1のシステムにおける電流バイパス機構60の概念的な構成を説明するための模式図であり、図4(a)は正常なセルを表し、図4(b)は劣化セルの電流をバイパスした状態を表している。図4(a)に示すように、正常なセル12において、電流バイパス機構60はガス遮断機構50に組み込まれた状態で構成されている。電流バイパス機構60は、遮断部52の上下に分離して配置された導電板62(第1の導電板)及び導電板64(第2の導電板)を有している。導電板62、64はそれぞれ、例えば銅やゴムメタル等により形成される。導電板62、64は、それぞれその一部において、アノード側、あるいはカソード側のセパレータに接触するように形成されている。一方の導電板64には、ガス流路54内に突出するように突出部66が形成されている。通常に発電している状態においては、これらの導電板62、64は分離されており、MEGAの両側のセパレータによって隣接するセル12間が直列接続されて、発電した電力が最終的に集電板18に回収されるようになっている。
【0048】
一方、クロスリーク量が多くなりセルが劣化していると判断された場合、上記のようにヒータ56に電力が供給され、遮断部52が変形可能な状態となる。その結果、圧力により遮断部52はガス流路54側に押し出されつつ、次第にこの圧力方向に潰される。これにより、図4(b)に示すように、導電板62と導電板64との距離が次第に接近し、突出部66が、遮断部52を押し退けつつ電極62に接した状態となる。これにより、劣化セル両側に隣接するセル12同士、あるいは、劣化セルが最下流あるいは最上流側にあって集電板18に隣接している場合には、劣化セルに隣接するセル12と集電板18とが、導電板62と電極突出部66及び導電板64とにより、直接接続されている状態となる。つまり、劣化セル12をバイパスする直列接続が確保され、劣化セルのガス供給を停止して発電を停止させても、他のセル12により燃料電池10の発電を行うことができる。
【0049】
[実施の形態1のガス遮断機構及び電流バイパス機構のより具体的な構成]
上記のように構成されるガス遮断機構50及び電流バイパス機構60を、実際にセパレータ40に組み込む場合の、より具体的な構成例を説明する。図5は、実施の形態1におけるセル12内に、ガス遮断機構50及び電流バイパス機構60を搭載した場合の、セパレータ40と、ガス遮断機構50及び電流バイパス機構60との接続部の組み立て構成を模式的に表す図である。図5は、図2におけるガス遮断機構50(及び電流バイパス機構60)の周辺のみを拡大して表している。なお、図5においては、上下方向が燃料電池におけるセル12の積層方向となる。
【0050】
図5に示すように、セル12においては、MEGA402を挟んで、積層方向両側に、セパレータ404、406が配置されている。図5においては、MEGA402の下方側がアノードとなっており、したがって、セパレータ404には、燃料ガス流路408が複数の溝状に形成されている。
【0051】
一方、セパレータ404の燃料ガス供給孔14aに配置されたガス遮断機構50及び電流バイパス機構60は、熱可塑性樹脂で形成された遮断部102を備えている。遮断部102には、ガス流路104が溝状に形成されている。ガス流路104は、セパレータ404のガス流路408に連通するように配置されている。遮断部102下部には、導電板106が配置されている。一方、遮断部102の上部には、導電板108が配置される。導電板108には、複数の突出部110が形成されている。導電板108上には、ヒータ112が配置されている。ヒータ112は、導電板108とセパレータ406とから電気的に絶縁されている。ヒータ112上には、シリコンラバー114が配置されている。シリコンラバー114は、エンドプレート20からの締付圧力に対する圧縮応力を発すると共に、ヒータ112により発する熱を断熱する機能を有している。
【0052】
図6は、セパレータとガス遮断機構50及び電流バイパス機構との接続部分をより詳細に表す断面模式図である。図6(a)は、セパレータとガス遮断機構50及び電流バイパス機構60との接続部の断面を、図5の矢印a方向から見た状態を表し、図6(b)は、図6(a)におけるA−A´位置の断面のセパレータ側を表し、図6(c)は、図6(a)におけるB−B´位置の断面のセパレータ側を表している。
【0053】
図6(a)〜図6(c)に示すように、MEGA402の上下に配置されるセパレータ404、406の、燃料ガス供給孔14a付近(すなわちガス遮断機構との接続部)には、絶縁樹脂からなるガイドシート120、122がそれぞれ配置されている。また、ガイドシート120及び122との隙間のMEGA402と接する部分には、シール剤124が埋め込まれている。
【0054】
セパレータ404と遮断部102との接続部にはゴムやシリコンにより形成されたガスケット130とシール剤が配置され、ガスケット130とシール剤とにより、燃料ガスの漏洩がないように密着されている。これにより、燃料ガスは燃料ガス供給孔14aから遮断部102のガス流路104を通過して、セパレータ406内のガス流路408に流入するよう構成され、燃料ガス供給孔14aから供給される燃料ガスが、MEGA402に、燃料ガス流路42以外の部分から接することがないように構成されている。
【0055】
一方、電流バイパス機構60のアノード側に配置された導電板106は、アノード側のセパレータ404の外面に接して配置されている。また、アノード側のセパレータ404の外面は、隣接するセル12のカソード側のセパレータ406または集電板18に接するため、導電板106も、隣接するセル12のカソード側セパレータ406又は集電板18に接する状態で配置されていることとなる。
【0056】
カソード側の導電板108は、ガイドシート122にガイドされてセパレータ406側に延長して配置されている。これにより導電板108は、セパレータ406と電気的に接続した状態となっている。一方、導電板108とMEGA402との間は、絶縁樹脂からなるガイドシート122により絶縁された状態とされている。セパレータ406は、隣接するセル12のアノード側のセパレータ404又は集電板18に接している。セパレータ408及び集伝板18は導電性を有するため、導電板108は、セパレータ406を介して、隣接するセル12のアノード側セパレータ404又は集電板18に電気的に接続した状態となっている。
【0057】
カソード側のセパレータ406のガイドシート122に案内されて固定された導電板108上には、セパレータ406の供給孔14a端部とは隙間を空けて、ヒータ112及びシリコン114が配置されている。
【0058】
図7は、図6(a)におけるC−C´方向の、ガス遮断機構50及び電流バイパス機構60の断面を表す図である。図8は、ガス遮断機構50の遮断部102のみを表した斜視図である。図7に示すように、カソード側の導電板108には、所定の間隔で突出部110が配置されている。また、図7及び図8に示すように、遮断部102のガス流路104には、この突出部110に対応する位置に、開口104aが形成されている。導電板106及び108は、遮断部102を挟んで、開口104aと突出部110とが対向するようにして配置されている。
【0059】
燃料電池10の全てのセル12の燃料ガス流路42の入口部に、上記のように構成されたガス遮断機構50及び電流バイパス機構60が備えられている。何れかのセル12のクロスリーク量が増大し、劣化の判断がされた場合、その劣化セルのヒータ112に、外部電池34から電力が供給される。これにより、遮断部102が加熱され軟化温度あるいは溶解温度に達する。セルは、積層方向から締付圧力が加えられた状態で保持され、遮断部50は、更にこの圧力に対するシリコンラバー114からの圧縮応力を受けている。従ってこの圧力により、遮断部102は軟化に伴ってガス流路104内を埋めるように変形し、導電板106と導電板108との距離が近づく方向に次第に押されていく。このとき、導電板108の突出部110は、予め遮断部102に設けられた開口104a内に入りこむ。やがて、導電板108の突出部110が導電板106に接し、導電板108と導電板106とが接続する。遮断部102は、導電板106と導電板108及びその突出部110とにより構成される空間を埋めるように変形して、ガス流路を遮断する。
【0060】
このように、実施の形態1のシステムによれば、劣化セルの燃料ガス流路42を確実に閉鎖して燃料ガスの供給を遮断すると共に、隣接するセル12同士、あるいはセル12と集電板とを接続して、劣化セルをバイパスすることができる。従って、一部のセルが劣化して発電不能な状態となった場合でも、燃料ガスの無駄な消費や燃料電池10の劣化の進行を抑えつつ、発電を継続することができる。
【0061】
[実施の形態1の具体的な制御について]
図9は、この発明の実施の形態1においてコンピュータ32が実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図9に示すルーチンは燃料電池10の発電が停止した状態において、所定のタイミングで繰り返し実行されるルーチンである。図9のルーチンでは、まず、セルモニタ30の出力に基づいて、燃料電池10の各セル12セル電圧の変化が検出される(S102)。具体的には、セルモニタ30の出力により、各セルのOCVが検出される。次に、劣化セルがあるか否かが判別される(S104)。具体的には、いずれかのセル12でクロスリーク量が増大し、OCVが所定の判定値より低くなっているか否か等に基づいて判別される。劣化セルの発生が認められない場合には、その後、何ら処理を行うことなくこのルーチンが終了する。
【0062】
一方、ステップS104において、劣化セル発生が認められた場合には、劣化セル12のガス遮断機構50のヒータ112への通電が開始される(S106)。具体的には、コンピュータ32からの制御信号により外部電池34から電力が供給される。その結果、劣化セル内において、遮断部102が加熱されて軟化、溶解を開始する。
【0063】
次に、ガス遮断及び電流のバイパス確保が完了したか否かが判定される(S108)。具体的には、例えばヒータ112への通電開始から判定時間以上経過したかいなか等に基づいて判定される。ここで判定時間は遮断部102の軟化によるガス流路の閉塞に要する時間を実験等によりもとめ、これに基づいて予め定めることができる。ステップS108においてガス遮断及びバイパス確保の完了が認められない場合には、完了が認められるまで、引き続きヒータ112への通電が継続されて、遮断部102が加熱される。
【0064】
一方、ステップS108において完了が認められた場合には、ヒータ112への通電が停止され(S110)、この処理が終了される。なお、遮断部102は軟化温度以下に冷却されると、その形状のままで固まり変形しない状態となる。従って、ヒータ112への通電が終了すると、劣化セルの燃料ガス流路42は閉塞された状態で維持される。これにより、劣化セルへの燃料ガスの供給が遮断されるとともに、この劣化セルをバイパスする回路が導電板106と108の接続により確保されて、発電を行うことができる状態となる。
【0065】
[実施の形態1の他の例について]
なお、実施の形態1では、ガス遮断機構50と電流バイパス機構60とを組み合わせた状態で構成し、ガス遮断機構50の遮断部52(又は102)が溶解することにより、ガス遮断と同時に電流のバイパス回路が確保される場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、ガス遮断機構50と電流バイパス機構60とを別の場所に設けるものであってもよい。
【0066】
具体的に例えば、ガス遮断機構50のみを燃料ガス流路42の燃料ガス供給孔14aに配置し、電流バイパス機構60は、セパレータの外周部分のスペースに形成することもできる。この場合でも、電流バイパス機構60の導電板62、64(又は106、108)は、正常時には分離され、劣化セル発生時には接触するように構成する必要がある。従って、他の場所に配置する場合であっても、ガス遮断機構50と組み合わせた場合と同様に、熱可塑性樹脂等の外部からの制御により変形可能な絶縁樹脂等(絶縁部材)を挟んで一対の導電板を配置し、この樹脂の変形により導電板と導電板とが接触する構造にする。つまり、ガス遮断機構50と別途に配置する場合には、導電板間に配置された絶縁樹脂等に燃料ガス流路42の形状に一致した形状のガス流路を形成する必要はないが、絶縁樹脂等の変形により導電板と導電板とを接触できるように構成することが必要となる。
【0067】
また、電流バイパス機構は、上記のように樹脂に一対の導電板を配置したものに限るものではない。例えば、隣接するセル間をバイパスするように、電気的な制御によりON/OFF可能なバイパス回路を予め設けておいて、劣化セルの判定がなされた場合に、このバイパス回路を作動させるものなどであってもよい。このように、電気的にON/OFFを繰り返し行うことができる電流バイパス機構を設けることにより、例えば、次のような制御を行うこともできる。すなわち、一部のセルに電圧の低下を検出された場合に、ガス遮断機構50を作動させる前に、まず電流バイパス用の回路をONとして電流をバイパスさせて、一定時間経過後に、一度バイパス回路をOFFとする。このようなON/OFFの動作を繰り返し行った後で、そのセルの電圧が回復しないと判断された場合にのみ、ガス遮断機構50を作動させることもできる。これにより、一時的に電圧が低下し、実際には重度に劣化していないセル12への燃料ガスの供給が遮断されるのを防ぐことができる。
【0068】
また、実施の形態1では、各セル12ごとにOCVを検出して、必要な場合にその劣化セルのみをバイパスする回路を作動させる場合について説明した。しかし、電流バイパス機構は、1の劣化セルのみをバイパスするものに限らず、セルを複数のセルごとのブロックに分けて、劣化セルが発生した場合には、ブロック全体をバイパスするようにしてもよい。
【0069】
また、実施の形態1ではOCVの検出により劣化を判定する場合について説明した。しかし、この発明において劣化セルの検出手段はこれに限るものではなく、例えば通常の発電時にセルモニタ30により電圧を検出して、そのセル電圧を他のセルと比較することで劣化を判定するものなど、他の方法により劣化判定を行うものであってもよい。
【0070】
また、ガス遮断機構50や電流バイパス機構60の具体的な構成はこの発明を拘束するものではない。例えば、この発明においてガス遮断機構50は、遮断部52への加熱等の制御により遮断部52を変形させることで燃料ガス流路42の一部を閉塞できるものであればよい。また、ある程度の燃料ガスの流入が抑えられれば、燃料電池の劣化等を抑えることができるため、その遮断は完全に密閉されるものに限らず、多少の燃料ガス流路側への漏れがあってもよい。
【0071】
また、実施の形態1では、ガス遮断機構50を燃料ガス流路42の入口部に設けて、燃料ガスの流入を遮断する場合について説明した。しかし、このような機構は、酸化ガス流路側に適用することもできる。
【0072】
また、燃料ガス流路42の入口部に設けるものに限らず、燃料ガス流路42(あるいは酸化ガス流路)の適当な部分に搭載することもできる。図10は、実施の形態1のガス遮断機構50を、燃料ガス流路の他の部分に設置した場合の例を表す図である。図10に示すセパレータには、燃料ガス供給孔14a付近に設けられたガス遮断機構50に加えて、同様の構成を有するガス遮断機構51が燃料ガス排出孔16a付近に設置されている。これにより、燃料ガス流路の入口及び出口の2箇所でガス遮断を行うことができ、より確実に燃料ガスの流入を遮断することができる。また、各セルは、例えば燃料ガス供給孔14a付近にガス遮断機構50を配置せず、燃料ガス排出孔16a付近のガス遮断機構51のみを設置した構造としてもよい。更に、燃料ガス流路42の入口あるいは出口に限るものではなく、燃料ガス流路の途中に、ガス遮断機構を設置することもできる。
【0073】
また、実施の形態1では、MEGAの両側にセパレータを配置して構成される燃料電池について説明した。しかし、この発明のガス遮断機構や電流バイパス機構が適用される燃料電池は、MEGAを有するものに限らず、電解質膜の両側に一対の電極が配置され、両電極側に供給される反応ガスの電気化学反応により、電力を発生させるセルが複数積層されたものであれば、他の構成の燃料電池に適用してもよい。
【0074】
なお、例えば、実施の形態1においてステップS104を実行することで、この発明の「劣化セル検出手段」が実行され、ステップS106を実行することで「ガス遮断制御手段」及び「バイパス制御手段」が実行される。
【0075】
実施の形態2.
実施の形態2のシステムは、図1のシステムと同様の構成を有する。実施の形態2のシステムは、実施の形態1のガス遮断機構50とは異なる構成のガス遮断機構200を有している。図11は、実施の形態2におけるガス遮断機構200を説明するための図であり、図11(a)は、セルが正常な状態、図11(b)は、劣化セルにおいてガス遮断機構200を作動させている状態、図11(c)は、ガス遮断機構200の作動後の固定状態を表している。
【0076】
図11のガス遮断機構200は、燃料ガス流路42の、燃料ガス供給孔14aとの接続部付近に配置される。具体的に図11(a)に示すように、ガス遮断機構200は、遮断板212を有している。遮断板212(開閉弁)は、燃料ガス流路42の入口部のセパレータ40の一部に、固定部214により固定された状態で配置されている。遮断板212の下部、固定部214付近には圧電素子216が配置されている。圧電素子216は、外部電池34(開閉制御手段)に接続され、コンピュータ32の制御信号によって必要に応じて電圧が印加されるようになっている。
【0077】
図11(b)に示すように、圧電素子216に電圧が印加されると、圧電素子216は、図11の上方向に突出する形で変形する。遮断板212は、圧電素子216の変形により、固定部214にその一端が固定された状態で、他端が押し上げられる。そして、燃料ガス流路42を挟んで対向する面側に設けられた固定部218に組み付けられて固定される。
【0078】
図11(c)に示すように、圧電素子216への電圧の印加を停止すると、圧電素子216は元の形状に戻る。しかし、固定部218と遮断板212の先端部とは、1度噛み合わされると自然に外れない形状に形成されている。従って、劣化セルの圧電素子216に必要な電力が供給され、ガス遮断が確認された後、圧電素子216への電圧の印加は停止されるが、遮断板212と固定部218とは組み付けられた状態で維持され、燃料ガス流路42は遮断された状態のまま固定される。これにより、劣化セルの燃料ガスの供給を遮断することができる。
【0079】
上記の場合、電流バイパス機構が別途必要となる。従って、図2のセパレータの例えば上部、下部等のスペースに、実施の形態1に説明したような電流バイパス機構60を設ける。あるいは、電気的な制御によりON/OFF可能なバイパス回路を各セルごと、あるいは複数のセルごとに設けても良い。また、これらに限るものではなく、他の手段により、電流のバイパスを行うこととしてもよい。
【0080】
実施の形態2においては、燃料ガス流路42の入口部に上記の遮断板212を配置する場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、燃料ガス流路42の溝ごとに1の遮断板212を配置して閉塞するものや、複数のガス流路42ごとに遮断板212を配置して複数のガス流路42ごとに閉塞するものであってもよい。
【0081】
実施の形態3.
実施の形態3のシステムは、図1のシステムと同様の構成を有する。また、実施の形態3のシステムは、図3(又は図5〜図8)に説明したガス遮断機構50と同様の構成のガス遮断機構を、燃料ガス流路42の入口に備えている。但し、ガス遮断機構50に、電流バイパス機構60が組み込まれていない点で、実施の形態1のシステムと異なっている。
【0082】
実施の形態3では、劣化セル内で、電解質膜を破壊してアノードとカソードとの間を通電させることで、この劣化セルをバイパスさせる。具体的には、劣化セルが発生が確認された場合、まず、ガス遮断機構50を作動させて、その劣化セルへの燃料ガスの供給を遮断する。この状態で、燃料電池10を高負荷で運転させる。
【0083】
このとき、劣化セル内は燃料ガスの供給が不足した状態となる。このため、劣化セル内では電解質膜を劣化させる反応が進行する。また、この反応により劣化したセル内の温度が上昇する。膜の劣化が進み、温度が上昇すると、セル間に両側からかけられた締付圧力が相俟って、この膜が破損する。その結果、アノードとカソードとの間が直接通電した状態となり、劣化セルをバイパスすることができる。
【0084】
図12は、この発明の実施の形態3においてコンピュータ32が実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図12のルーチンは、図9のルーチンのステップS110の後で、更にステップS202〜S208の処理を有する点を除き、図9のルーチンと同じものである。具体的に、ステップS102〜S110が実行されることで、劣化セルが検出された場合に、ガス遮断機構50が作動して、劣化セルへの燃料ガスの供給が停止される。但し、実施の形態3のシステムでは、ガス遮断機構50に、電流バイパス機構60は組み込まれていないため、ステップS110でヒータがOFFにされると、その劣化セルへの燃料供給は遮断されているものの、そのセルの電流をバイパスするようにはなっていない。
【0085】
この状態で、まず、燃料電池10に高負荷をかけた状態で運転が行われる(S302)。これにより、劣化セル内に高電流が流れて、劣化セルの電解質膜の劣化が進行する。次に、セルモニタ30の出力から、セルの電圧が検出される(S304)。次に、劣化セルのセル電圧が判定値以下となったか否かが判別される(S306)。劣化セルのアノードとカソードとの導通が完全に取られれば、劣化セルの電圧差はゼロとなるため、ここでの判定値はゼロとしてもよい。またある程度の低抵抗で導通が取られれば良いため許容範囲で定めた判定値を用いることもできる。
【0086】
ステップS306において、セル電圧が判定値以下であることが認められるまでの間、セル電圧の検出(S306)とS306の判定が繰り返し行われる。一方、ステップS306において、劣化セルのセル電圧が判定値以下であることが認められると、劣化セルがバイパスされた状態となったことが判断できる。従って、燃料電池10の高負荷運転が停止される(ステップS308)。
【0087】
以上説明したように、実施の形態3によれば、特に劣化時の電流バイパスのための特別な機構を設けることなく、必要に応じて、劣化したセルをバイパスする状態とすることができる。従って、より簡易な構成で、燃料電池10の劣化の進行を抑えつつ、燃料電池10の発電を継続できる状態を確保することができる。
【0088】
なお、実施の形態3は、実施の形態1のガス遮断機構50とともに用いる場合について説明したが、この発明はこれに限るものではない。実施の形態3の電流バイパスの手段は、実施の形態2に説明したガス遮断機構210と共に用いることもできる。
【0089】
なお、例えば、実施の形態3において、ステップS302〜S306が実行されることで、この発明の「バイパス制御手段」が実現する。
【0090】
以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に限定されるものではない。また、実施の形態において説明する構造や、方法におけるステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】この発明の実施の形態1における燃料電池システムの構成を説明するための模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1における燃料電池のセルの構成を説明するための模式図である。
【図3】この発明の実施の形態1における燃料電池のガス遮断機構の構成を説明するための模式図である。
【図4】この発明の実施の形態1における燃料電池のガス遮断機構及び電流バイパス機構の構成を説明するための模式図である。
【図5】この発明の実施の形態1における燃料電池内のセルの構成を説明するための図である。
【図6】この発明の実施の形態1における燃料電池内のセルの構成を説明するための図である。
【図7】この発明の実施の形態1における燃料電池内のセルの構成を説明するための図である。
【図8】この発明の実施の形態1における燃料電池内のガス遮断機構及び電流バイパス機構の構成を説明するための図である。
【図9】この発明の実施の形態1においてコンピュータが実行する制御のルーチンを説明するフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態1における燃料ガス遮断機構の他の設置例を説明するための図である。
【図11】この発明の実施の形態2における燃料電池のガス遮断機構の構成を説明するための模式図である。
【図12】この発明の実施の形態3においてコンピュータが実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0092】
10 燃料電池
12 セル
14 燃料ガス供給マニホールド
16 燃料ガス排出マニホールド
18 集電板
20 エンドプレート
30 セルモニタ
32 コンピュータ
34 外部電池
40 セパレータ
42 燃料ガス流路
14a 燃料ガス供給孔
16a 燃料ガス排出孔
50 ガス遮断機構
52 遮断部
54 ガス流路
56 ヒータ
58 シリコンラバー
60 電流バイパス機構
62 導電板
64 電極
66 導電板
402 MEGA
404 セパレータ(アノード側)
406 セパレータ(カソード側)
408 燃料ガス流路
102 遮断部
104 ガス流路
104a 開口
106 導電板
108 導電板
110 突出部
112 ヒータ
114 シリコンラバー
200 ガス遮断機構
212 遮断板
214 固定部
216 圧電素子
218 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、
前記電解質の両側に配置された一対の電極と、
前記一対の電極のそれぞれに反応ガスを供給する反応ガス流路を構成する反応ガス流路部材と、を備える単セルを複数積層した燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに、反応ガスを供給するガス供給手段と、
前記燃料電池スタックの積層方向の両側に配置され、発電された電気を集電する一対の集電板と、
前記反応ガス流路に配置され、前記一対の電極のうち、少なくとも一方の電極への反応ガスの流入を遮断できるガス遮断機構と、
前記単セルの両側にそれぞれ配置された他の単セル間、又は、前記単セルの一面側の他の単セルと、前記単セルの前記一面側とは反対側に配置された集電板との間を、電気的に接続し、前記単セルをバイパスする電流バイパス手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記ガス遮断機構は、
前記反応ガス流路の入口部に配置され、前記反応ガス流路に接続するガス流路を構成する流路構成部材と、
前記流路構成部材を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記流路構成部材は、前記加熱手段により加熱されることで変形し、前記ガス流路を閉塞することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記流路構成部材は、熱可塑性樹脂により構成されることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記ガス遮断機構は、
前記反応ガス流路の入口部に配置され、前記反応ガス流路を開閉する開閉弁と、
前記開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
通電により変形して前記開閉弁を閉弁させる圧電素子と、
前記開閉弁が閉弁した際に、前記開閉弁を閉弁した状態で固定する固定部と、
を備え、
前記開閉弁制御手段は、前記圧電素子への通電を制御することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記電流バイパス手段は、
第1の導電板と、
第1の導電板に対向して配置された第2の導電板と、
前記第1の導電板と第2の導電板との間に配置され、加熱により変形する絶縁部材と、
前記絶縁部材を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記加熱手段による加熱により前記絶縁部材が変形すると、前記第1の導電板の一部と、前記第2の導電板の一部とが接触して、前記単セルをバイパスすることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記絶縁部材は、熱可塑性樹脂により構成されることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記電流バイパス手段は、
前記ガス遮断機構の、前記ガス流路の前記積層方向の一面側に配置され、複数の突出部を備える第1の導電板と、
前記第1の導電板に対向し、前記ガス流路の積層方向の反対側の面に配置された第2の導電板と、
を備え、
前記加熱手段による加熱により前記流路構成部材が変形すると、前記第1の導電板の前記突出部が前記第2の導電板に接触して、前記単セルをバイパスすることを特徴とする請求項2又は3に記載の燃料電池。
【請求項9】
請求項1から5に記載のいずれかの燃料電池を備え、
前記電流バイパス手段は、前記一対の電極であって、
前記複数の単セルのいずれかにおいて劣化が発生した場合に、その劣化した単セルを検出する劣化セル検出手段と、
前記検出された劣化した単セルの前記ガス遮断機構を作動させ、前記劣化した単セルの前記反応ガス流路への反応ガスの流通を停止させるガス遮断制御手段と、
前記劣化した単セルへの反応ガスの流通を遮断した状態で、前記燃料電池に負荷をかけて運転し、前記劣化した単セルの前記電解質を劣化させて前記劣化した単セルの前記一対の電極を接続することで、前記劣化した単セルをバイパスさせるバイパス制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項10】
請求項1から8に記載のいずれかの燃料電池を備え、
前記複数の単セルのいずれかにおいて劣化が発生した場合に、その劣化した単セルを検出する劣化セル検出手段と、
検出された劣化した単セルの前記ガス遮断機構を作動させ、前記劣化した単セルの前記反応ガス流路への反応ガスの流通を停止させるガス遮断制御手段と、
前記劣化した単セルの前記電流バイパス手段を作動させて、前記劣化した単セルをバイパスさせるバイパス制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−123968(P2008−123968A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309621(P2006−309621)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】