説明

燃料電池搭載車輌の冷却システム

【課題】燃料電池の冷却系と電動駆動系の冷却系とを統合し、同一のポンプで両冷却系に冷却媒体を循環させる技術を提供する。
【解決手段】直列に接続された第1のラジエータと第2のラジエータからの冷却水を分岐点106で2分し、一方を電動駆動系107から燃料電池111に供給し、他方を流量分配制御弁108から燃料電池111に供給する。電動駆動系107には、ラジエータで冷却された冷却水が供給され、燃料電池には、ラジエータで冷却された冷却水と、ラジエータで冷却された後に、電動駆動系107から熱を奪った冷却水とが混合されて供給される。これにより、相対的に低温に維持する必要がある電動駆動系107の冷却と、相対的に高温に維持する必要のある燃料電池111との冷却に必要な冷却水の循環を一つのポンプ110で賄うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池搭載車輌の冷却システムに係り、特に、システムを簡素化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載した車輌における燃料電池の冷却に関する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載された技術が公知である。燃料電池は、発電に際して発熱するが、その温度は管理する必要がある。また、電動駆動系の冷却もモータの過熱やモータを駆動する駆動回路の半導体デバイスの熱破壊を避けるために必要となる。
【0003】
燃料電池と電動駆動系の適切な冷却温度は、異なっている。例えばある種の固体高分子型燃料電池は、95℃程度の温度に保つことが、発電効率の観点から適切となる。一方、半導体デバイスは、熱破壊や熱暴走を防ぐために70℃程度以下に保つ必要がある。このため、従来の車載型の冷却システムでは、燃料電池の冷却系と、電動駆動系の冷却系とは、別系統とされ、2系統の冷却系を備えていた。
【0004】
図6は、従来技術における燃料電池を搭載した車輌の冷却系の概要を示すブロック図である。図6には、車輌に搭載された冷却系500が示されている。図6において、図の上方が車輌の前方となる。冷却系500は、燃料電池用ラジエータ501を備えている。燃料電池用ラジエータ501は、冷却水を空冷する。空冷された冷却水は、ポンプ502によって循環経路503内を流され、燃料電池504に供給される。燃料電池504から熱(反応熱)を奪った冷却水は、燃料電池用ラジエータ501に戻され、そこで再び冷却される。
【0005】
燃料電池508の冷却系では、燃料電池504から排出された部分における冷却水の温度が、例えば95℃となるように、ポンプ502の出力が調整される。
【0006】
他方において、冷却系500は、電動駆動系用ラジエータ505を備えている。電動駆動系用ラジエータ505は、冷却水を空冷し、空冷された冷却水は、ポンプ506によって循環経路507内を流され、電動駆動系508に供給される。電動駆動系508には、例えば駆動力を発生するモータや、このモータを駆動する駆動回路の半導体デバイス等が含まれ、それらが冷却水によって冷却される。電動駆動系を冷却した冷却水は、電動駆動系用ラジエータ505に戻され、そこで再び冷却される。
【0007】
電動駆動系508の冷却系では、電動駆動系508から排出された部分における冷却水の温度が、例えば70℃となるように、ポンプ506の出力が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−315513号公報
【特許文献2】特開2002−141079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6に示す冷却システムは、燃料電池と電動駆動系とにそれぞれポンプ(502、506)が必要となり構成が複雑となる。また、ポンプ2台分の電源電力が必要となる。このことは、乗用車のように小形化、軽量化、低消費エネルギー化、低コスト化が要求されるシステムに適用する場合に障害となる。
【0010】
そこで本発明は、燃料電池の冷却系と電動駆動系の冷却系とを統合し、同一のポンプで両冷却系に冷却媒体を循環させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、燃料電池を搭載し電動により走行可能な車輌にあって、車輌の幅方向に延在する複数のラジエータと、前記複数のラジエータからの冷媒の流れの下流側に配置された冷却対象となる電動駆動系の要素と、前記電動駆動系の要素を冷却した後の冷媒により冷却される燃料電池と、前記冷媒に流れを与える冷媒ポンプとを備えることを特徴とする燃料電池搭載車輌の冷却システムである。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、維持温度を相対的に低くする必要のある冷却対象である電動駆動系を冷却した後の冷媒により、維持温度を相対的に高くしてもよい燃料電池の冷却が行われるので、冷媒ポンプが一つであっても冷却バランスを確保することができる。言い替えると、冷却温度が異なる2系統の冷却系を一つの冷媒用ポンプにより動作させることができる。
【0013】
なお、電動駆動系の要素というのは、電動による駆動を行う系を構成する要素のことであり、具体的には、車輌を動かすためのモータ、このモータを駆動するための駆動回路、この駆動回路を構成する電子デバイス、この駆動回路に電力を供給するための電源回路、この電源回路を構成する電子デバイスといったものが挙げられる。この要素は、一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記複数のラジエータは、車輌の前進による空気の流れ方向に沿って多段に配置されていることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、制限された車輌の内部空間を有効に利用した冷媒の冷却を行うことができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記電動駆動系の要素の上流側に配置され、冷媒の流れを分けるための分岐と、前記分岐から分かれた冷媒を前記電動駆動系の要素をバイパスさせ、その下流側において前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒と合流させる冷媒バイパス流路と、前記分岐から分かれた2つの流路の流量比を調整する流量比調整手段とを更に備えることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、流量比調整手段である、例えば流量分配調整弁の開度を調整することで、燃料電池の温度調整を精密に行える。これにより、燃料電池の発電効率を高く維持できる。また、冷媒ポンプが一つであっても、電動駆動系と燃料電池の温度制御が適切に行える。すなわち、冷媒ポンプが一つであっても、流量分配調整弁の開度を調整することで、分岐から分かれる2系統の流路の流量比が調整され、異なる冷却能力が要求される2系統の冷却系の冷却機能のバランスをとることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒の温度を検出する第1の温度センサと、前記燃料電池を冷却した冷媒の温度を検出する第2の温度センサと、前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサの出力に基づいて前流流量比調整手段の制御を行う制御手段とを更に備えることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、2つの温度センサの出力に基づいて、電動駆動系の要素に供給される冷媒の流量と、電動駆動系をバイパスする冷媒の流量との比率が調整される。この構成では、電動駆動系の要素の温度が上昇し、その更なる冷却の必要があれば、前者の流量が増加される。また、燃料電池の温度が上昇し、その更なる冷却が必要であれば、後者の流量が増加される制御が行われる。これにより、冷媒用ポンプが一つであっても、2系統の冷却機能の管理が適切に行われる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、燃料電池から排出された冷媒を前記複数のラジエータを通さずに前記電動駆動系の要素に供給する供給手段を更に備えることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、燃料電池の温度が、発電効率が低下する低い温度にある場合、電動駆動系の要素にラジエータを通さない冷媒を供給し、さらに電動駆動系の要素で昇温した冷媒が燃料電池に供給される。これにより燃料電池に熱量が供給され、上述した燃料電池の低温状態の解消が計られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、燃料電池の冷却系と電動駆動系の冷却系とを統合し、同一のポンプで両冷却系に冷却媒体を循環させる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の冷却システムの概要を示すブロック図である。
【図2】実施形態の制御系の概要を示すブロック図である。
【図3】実施形態の制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】車輌の状態と各パラメータの関係を示すグラフである。
【図5】実施形態の冷却システムの概要を示すブロック図である。
【図6】従来の冷却システムの概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.第1の実施形態
(冷却システムの構成)
以下、図1を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、車輌に搭載された冷却システムの概要が示されている。図1において、図の上方が車輌の進行方向前方となる。図1には、冷却システムの冷却系の構成が主に示されている。図1には、冷却システム100が示されている。なお、車輌は、電動により走行する機構を備えたものであれば、特に構造が限定されるものではないので、車輌の構造についての説明は省略する。
【0024】
冷却システム100は、第1のラジエータ101と第2のラジエータ102を備えている。第1のラジエータ101は、車輌の進行方向前方から見て前側に配置され、その後側に第22のラジエータ102が配置されている。これら2つのラジエータは、車輌の幅方向に延在した構造を有している。冷却水は、冷媒経路103からまず第2のラジエータに供給され、そこで空冷された後、第1のラジエータ101に送られ、そこで更に空冷される。
【0025】
第1のラジエータ101で冷却された冷却水は、サーモ弁104(供給手段)に送られる。サーモ弁104は、冷却水を冷媒流路103から第2のラジエータ102に送らず、バイパス経路105を介して分岐点106にバイパスすることが可能なバイパス弁の機能を有している。サーモ弁104を上述のバイパス状態としない場合、バイパス経路105は閉鎖され、冷媒流路103を流れる冷却水は、第2のラジエータ102に供給される。
【0026】
サーモ弁104の下流側には、流路を2分割する分岐点106が配置されている。分岐点106から分岐される一方の流路は、電動駆動系107に冷却水を導く。分岐点106から分岐される他方の流路は、電動駆動系107をバイパスするバイパス流路であり、流量分配制御弁108(流量比調整手段)に冷却水を導く。
【0027】
電動駆動系107は、冷却水により冷却される要素(被冷却物)となる車輌駆動用のモータ、およびこのモータを駆動する駆動回路の半導体デバイスが含まれている。流量分配制御弁108は、開け閉めが可能な構造を有し、通過する流量を調整する機能を有する。
【0028】
電動駆動系107の下流側に温度センサ1(109)が配置されている。電動駆動系107を冷却し、そこから熱を奪った冷却水の温度が、温度センサ1(109)によって検出される。温度センサ1(109)で温度が検出された冷却水は、流量分配制御弁108からの冷却水と合流し、ポンプ110に送られる。ポンプ110は、冷却水に流れを与えるための装置であり、図示省略したモータにより駆動され、電動駆動系107および流量分配制御弁108から排出される冷却水を燃料電池111に向かって送り出し、冷却システム100内において冷却水を循環させる。
【0029】
燃料電池111は、複数のセルを積層した構造を有し、内部に冷却水を流す冷媒流路を備えている。燃料電池111を冷却した冷却水は、冷媒流路103に排出される。冷媒流路103の燃料電池111の近くには、温度センサ2(112)が配置されている。温度センサ2(112)は、燃料電池111から排出される冷却水の温度を検出する。
【0030】
(冷却水の流れの概要)
まず、サーモ弁104をバイパス状態とせず、冷媒流路103→第2のラジエータ102→第1のラジエータ101→サーモ弁104と流路が設定されている場合における冷却水の流れの概要を簡単に説明する。この場合、冷媒流路103を流れる冷却水は、第2のラジエータ102において冷却された後に、第1のラジエータ101に送られてそこで更に冷却され、サーモ弁104に向かって排出される。
【0031】
サーモ弁104を通過した冷却水は、分岐点106で2経路に分岐され、一方は、電動駆動系107を冷却した後に、ポンプ110に送られる。また分岐された他方は、流量分配制御弁108を通った後に、電動駆動系107を冷却した冷却水と合流し、ポンプ110に送られる。ポンプ110でポンピングされた冷却水は、燃料電池111に送られ、燃料電池111を冷却した後に冷媒流路103に送り出される。
【0032】
サーモ弁104をバイパス状態とした場合、冷媒流路103を流れる冷却水は、バイパス経路105にバイパスされ、第2のラジエータ102および第1のラジエータ101を通らず、サーモ弁104から分岐点106に供給される。その後の冷却水の流れは、サーモ弁104をバイパス状態としない場合と同じである。
【0033】
上記の冷却水の流れにおいて、流量分配制御弁108の開度(弁の開きの程度)を調整すると、分岐点106で分岐される冷却水の流量比が変化する。例えば、流量分配制御弁108の開度を大きくすると(弁の開き加減を大きくすると)、流量分配制御弁108を流れる冷却水の流量が増加し、電動駆動系107を流れる冷却水の流量が減少する。電動駆動系107を通過した後の冷却水は、流量分配制御弁108を通過した後の冷却水よりも温度が高いので、この場合、燃料電池111に供給される冷却水の温度は低下する。
【0034】
逆に、流量分配制御弁111の開度を小さくすると(弁の開き加減を小さくすると)、流量分配制御弁108を流れる冷却水の流量が減少し、電動駆動系107を流れる冷却水の流量が増加する。この場合、電動駆動系107を冷却する能力は高まるが、燃料電池111に供給される冷却水の温度は上昇する。
【0035】
(制御系の構成)
図2は、図1に示すシステムの制御系を示すブロック図である。図1に示す制御系は、コントローラ201(制御手段)を備えている。コントローラ201は、コンピュータとしての機能を有し、CPU、メモリ、インタフェース回路を備えている。コントローラ201は、後述する制御手順を実行し、冷却システム100における冷却制御を行う。
【0036】
図2には、図1にも示したサーモ弁104、ポンプ110、流量分配制御弁108、温度センサ1(109)および温度センサ2(112)を備えている。コントローラ201は、温度センサ1(109)および温度センサ2(112)の検出信号に基づき、サーモ弁104、ポンプ110および流量分配制御弁108の制御を行う。この制御の具体例について後述する。
【0037】
(制御の一例)
図3は、図2の制御系において行われる制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。図3に示す制御は、図2のコントローラ201内のメモリに記憶された制御プログラムに基づいて、コントローラ201によって実行される。
【0038】
例えば、冷却システム100を搭載した車輌のスタートキーが回された(ONにされた)状態で、ブレーキを解除し、アクセルを踏めば走行が可能な状態とされた場合に、図3の処理が開始される。処理が開始されると(ステップS301)、ポンプ110が始動され(ステップS302)、冷却水の循環が開始される。なお、初期状態において、流量分配制御弁108は、予め実験的に求められた開度に設定されているものとする。
【0039】
次に、温度センサ2(112)の検出温度が参照され、燃料電池111から排出される冷却水の温度が、予め決められた低温範囲(この例では、10℃以下の範囲)にあるか否かの判定が行われる(ステップS303)。燃料電池111からの冷却水の温度が予め決められた低温範囲であれば、冷媒流路103を流れる冷却水が、第2のラジエータ102および第1のラジエータ101を通らず、サーモ弁104から分岐点106に流れるように、サーモ弁104を切り換える(ステップS304)。こうして、冷媒流路103からの冷却水が、ラジエータで冷却されない状態とされる。
【0040】
ステップS303において、燃料電池107から排出される冷却水の温度が10℃以下の範囲でなければ、ステップS305に進み、冷媒流路103→第2のラジエータ102→第1のラジエータ101→サーモ弁104と流路が繋がるように、サーモ弁104を切り換える。この際、バイパス経路105は閉鎖される。
【0041】
ステップS304またはステップS305の後に、温度センサ1(109)が検出した温度が予め決められた上限値(この例では、70℃)を超えたか否かの判定が行われる(ステップS306)。温度センサ1(109)が検出する温度が70℃を超えていれば、流量分配制御弁108を閉じる方向(開度小)に制御し、電動駆動系107に供給される冷却水が増大するように調整が行われる(ステップS307)。この閉じる方向への制御は、予め決められた変化幅で行われる。またこの際、ポンプ110の出力を増加させる制御を併用してもよい。ステップS307の処理を行った後、ステップS303以下の処理を繰り返す。
【0042】
ステップS306において、温度センサ1(109)の検出温度が70℃以下であれば、ステップS308に進み、温度センサ2(112)の検出温度が予め決められた上限値(この場合は95℃)を超えているか否かの判定が行われる。温度センサ2(112)の検出温度が95℃を超えている場合、流量分配制御弁108を流れる冷却水の流量が増加するように、流量分配制御弁111を開放する方向(開度大)に調整する(ステップS309)。
【0043】
この場合、電動駆動系107を流れる冷却水の流量が減少し、他方においてラジエータで冷却され、流量分配制御弁108を通過した冷却水の流量が増大するので、ポンプ110に流れ込む電動駆動系107からの熱量が減少し、燃料電池111に供給される冷却水の温度が低下する。このため、燃料電池111の冷却効率が高くなる。
【0044】
なお、ステップS309における流量分配制御弁108の開放する方向への制御は、予め決められた変化幅で行われる。またこの際、ポンプ110の出力を増加させる制御を併用してもよい。
【0045】
ステップS309の後、あるいはステップS308において、温度センサ2(112)の検出温度が95℃を超えていない場合、ステップS310に進み、処理を終了するか否かの判定が行われる。例えば、スタートキーが抜かれた(OFFにされた)場合にステップS310の判定はYESとなり、制御は終了する(ステップS311)。制御を継続するのであれば、ステップS303の前段階に戻り、ステップS303以下の処理が繰り返される。
【0046】
(機能)
燃料電池111の温度が低い場合、発電のための反応が低効率となり、燃料電池111の出力が規定の値より低くなる。このような場合、燃料電池を冷却することは適切でない。図3に示す制御では、ステップS303において、この低温の状態が検出された場合にステップS304に進み、ラジエータへの冷却水の供給を遮断する。これにより、電動駆動系104に供給される冷却水のラジエータによる冷却作用が停止され、電動駆動系107から排出される冷却水の温度が上昇し、ポンプ110から燃料電池111に送り出される冷却水の温度が上昇する。この結果、燃料電池111は、電動駆動系107の排熱によって加熱され、反応効率が高められる。この作用は、冬季や寒冷地における車輌の始動時に特に有効になる。
【0047】
電動駆動系107の特に半導体デバイスは、高温に弱く、その温度を設定した上限以下とすることが重要となる。図3に例示する制御では、温度センサ1(109)により、電動駆動系107の温度を監視し、その温度が予め決められた温度を超えた場合にステップS306からステップS307に進み、電動駆動系107の冷却のための冷却水の流量が増加され、その冷却機能が強められる。このため、電動駆動系107の過熱が防止される。
【0048】
燃料電池107は、適切な温度範囲よりも温度が高いと、電解質膜の乾燥等に起因する発電効率の低下が生じる。このため、燃料電池107は、規定の発電能力を発揮させるために、ある温度を超えないようにすることが重要となる。
【0049】
図3に示す制御では、温度センサ2(112)が、燃料電池111から排出される冷却水の温度を監視し、燃料電池111の温度が予め決められた温度を超えた場合にステップS308からステップS309に進み、燃料電池107を冷却する冷却水の温度を下げる。これにより、燃料電池111の冷却効率が高められ、燃料電池111の過熱による発電効率の低下が抑えられる。
【0050】
(優位性)
以上述べたように、本実施形態では、冷却水の流れで考えて、第2のラジエータ102および第1のラジエータ101の下流側で流路を分岐し、一方を電動駆動系107に供給し、他方を流量分配制御弁108に供給する。そして、電動駆動系107から熱を奪った冷却水と流量分配制御弁108を通過した冷却水を、ポンプ110の手前で合流させ、ポンプ110でポンピングして燃料電池111に供給する。
【0051】
この構成では、電動駆動系107には、ラジエータで冷却された冷却水がそのまま供給され、燃料電池には、ラジエータで冷却された冷却水と、ラジエータで冷却された後に、電動駆動系107から熱を奪った冷却水とが混合されて供給される。このため、相対的に低温に維持する必要がある電動駆動系107の冷却と、相対的に高温に維持する必要のある燃料電池111との冷却に必要な冷却水の循環を一つのポンプ110で賄うことができる。また、分岐されたものを再び混交する際の混合の比率を、流量分配制御弁108により調整することで、ポンプ110から燃料電池111に供給される冷却水の温度が調整される。この調整は精密に行うことができるので、燃料電池の温度を発電に適した温度に維持する制御を容易に行える。
【0052】
本実施形態では、流量分配制御弁108を用いることで、上述した機能を実現するのに必要なポンプは、ポンプ110一つでよい。すなわち、一つポンプにより循環させられる冷却水を分配し、その分配比率を変えることで、電動駆動系107に供給される冷却水の流量と、燃料電池111に供給される冷却水の温度とを制御し、それぞれが適切な冷却機能となるように調整される。このため、ポンプ系の構成が簡素化され、冷却システムの小形化、低コスト化、低重量化といった優位性が得られる。
【0053】
また、車輌の進行方向の前から順に、第1のラジエータ101、第2のラジエータ102と配置することで、限られた車輌内部のスペースを利用した効果的な空冷構造を得ることができる。
【0054】
(具体例)
図4は、車輌の状態と各パラメータの関係を概念的に示したグラフである。なおグラフの軸の単位は、相対値である。図4(A)には、横軸に時間軸が示され、縦軸に走行している車輌の車速(破線)と車輌の傾斜の状態(実線)が示されている。図4(A)には、最初坂を上り、ついて坂を登り切ったところで平坦となり、直ぐに下り坂となり、下り坂を下りきった段階で水平に走行する状態が示されている。そして、この場合の車速の変化が示されている。
【0055】
図4(B)は、図4(A)と時間軸(横軸)を共有するもので、縦軸に温度がとられている。ここで、電動駆動系107におけるモータを駆動する駆動回路の半導体デバイスの温度が実線により示され、燃料電池111内部の温度が破線により示されている。
【0056】
図4(C)は、図4(A)と時間軸(横軸)を共有するもので、縦軸に流量分配制御弁111の開度が示されている。
【0057】
この例では、最初に坂を上っている段階で、図4(C)に示すように、燃料分配制御弁108の開度はさほど大きくない開度に設定されており、燃料電池111の冷却は電動駆動系の半導体デバイスの冷却に比べ、さほどではなく、燃料電池111の温度が登坂時の発電増加とともに上昇していく。一方、電動駆動系107の半導体デバイスの温度は充分冷却されてたいへん緩やかに上昇していく。
【0058】
坂を図4(A)の上り切った段階では、電動モータに加わる負荷が急に低下するので、図4(B)に示すように、半導体デバイスの温度は上昇しなくなる。一方、燃料電池111は、電流の取り出しが少なくなることで、反応熱の発生がいくぶん収まるものの熱の発生が続き、内部温度が上昇してゆるやかながら温度が高くなっていく。
【0059】
この例では、燃料電池111内部の温度があるレベルに上昇した段階(時刻t1)で、燃料分配制御弁108の開度が大きくされ、燃料電池111に供給される冷却水の流量が増加する制御が行われる。このため、図4(B)に示すとおり、燃料電池111内部の熱は増加した冷却水で確実に奪われ、その内部温度は上昇から下降に転じる。
【0060】
また、燃料電池111への冷却水の供給比率は高くされた影響で、電動駆動系107の半導体デバイスの温度が徐々に上昇していく様子が図4(B)に示されている。そして図4(A)の通り、下り坂となり、車速が上っていくにしたがい、電動駆動系107の負荷が大きくなり、その半導体デバイスの温度は所定の管理水温上限に近づいていく。
【0061】
このとき、図4(C)の時刻t2で流量分配制御弁108の開度が絞られる。これにより、電動駆動系107への冷却水の供給量が増え、その半導体デバイスの温度上昇が抑制されて温度が下がっていく。一方で、燃料電池111ではゆるやかな温度上昇から、やや急な温度上昇へと転じる。
【0062】
ここで図4(A)に示すように、車輌は水平走行となりその車速も一定となった状態で、図4(C)の時刻t3を迎える。時刻t3では、電動駆動系107の半導体デバイスの温度は、所定の管理水温上限から相当量低下しており、ここで燃料分配制御弁108の開度は絞り過ぎない位置で固定される。こうすることにより、電動駆動系104の半導体デバイスの温度は一定値に安定する。
【0063】
なお、時刻t3において、燃料電池111の温度上昇が抑制されて一定の値となる様子が図4(B)に示されている。これは、車速が一定となるなか図1には図示されていないバッテリーへの燃料電池111からの充電量が増加し、バッテリーから電動駆動系107への電力供給の割合が高まり、それに伴って燃料電池111の負荷量が低下し、反応熱の発生が抑えられるためである。
【0064】
2.第2の実施形態
図5は、実施形態の他の態様を示すブロック図である。図5には、冷却システム600が示されている。冷却システム600は、流量分配制御弁の位置が図1の冷却システム100と異なっている。この例では、電動駆動系107の下流側で、且つ、分岐点106からの分岐経路が合流する上流側に流量分配制御弁113が配置されている。
【0065】
この構成では、流量分配制御弁113の開度を大きくすると、電動駆動系107への冷却水の流量が増加し、電動駆動系107の冷却効果が大きくなる。また、流量分配制御弁113の開度を小さくすると、電動駆動系107への冷却水の流量が減少し、燃料電池111に送られる冷却水の温度が低下し、燃料電池111の冷却効果が高くなる。
【0066】
3.その他
分岐点106から分岐される2系統の流路の両方に流量調整制御弁を配置してもよい。この場合、この2つの流量調整制御弁の少なくとも一方の開度が調整されることで、図3のステップS307およびステップ309の処理が実行される。
【0067】
図1に示す構成において、流量分配制御弁108を備えない構成も考えられる。この場合、電動駆動系107と流量分配制御弁108への冷却水の分配比は、固定となる。この場合、分配比は、各流路を流れる冷却水の流れのコンダクタンスを調整することで設定される。この調整は、配管の内径の設定や冷媒流路途中に配置した図示省略したバルブの調整により行うことができる。
【0068】
温度センサ1および2が検出し、管理がされる温度の閾値は、燃料電池の規模や種類、電動駆動系の規模や回路構成等に応じて、変更が可能である。車輌は、乗用車、トラック、バス、その他人や荷物を運搬する目的で電動により走行するものであれば、特に限定されない。冷媒は、冷却を行う流体であればよく、水に限定されない。また、ラジエータは、2つに限定されず3つ以上であってもよい。ポンプの位置は、冷媒流路103やサーモ弁104と分岐点106との間であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、車載用冷却システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100…冷却システム、101…第1のラジエータ、102…第2のラジエータ、103…冷媒流路、104…サーモ弁、105…バイパス経路、106…分岐点、107…電動駆動系、108…流量分配制御弁、109…温度センサ1、110…ポンプ、111…燃料電池、112…温度センサ2、201…コントロータ、600…冷却システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を搭載し電動により走行可能な車輌にあって、
車輌の幅方向に延在する複数のラジエータと、
前記複数のラジエータからの冷媒の流れの下流側に配置された冷却対象となる電動駆動系の要素と、
前記電動駆動系の要素を冷却した後の冷媒により冷却される燃料電池と、
前記冷媒に流れを与える冷媒ポンプと
を備えることを特徴とする燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項2】
前記複数のラジエータは、車輌の前進による空気の流れ方向に沿って多段に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車輌の冷却システム。
【請求項3】
前記電動駆動系の要素の上流側に配置され、冷媒の流れを分けるための分岐と、
前記分岐から分かれた冷媒を前記電動駆動系の要素をバイパスさせ、その下流側において前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒と合流させる冷媒バイパス流路と、
前記分岐から分かれた2つの流路の流量比を調整する流量比調整手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項4】
前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒の温度を検出する第1の温度センサと、
前記燃料電池を冷却した冷媒の温度を検出する第2の温度センサと、
前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサの出力に基づいて前流流量比調整手段の制御を行う制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項5】
燃料電池から排出された冷媒を前記複数のラジエータを通さずに前記電動駆動系の要素に供給する供給手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−277816(P2010−277816A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128644(P2009−128644)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】