説明

燃料電池状態診断装置

【課題】燃料ガスの欠乏と酸化剤ガスの欠乏とを区別して診断可能な燃料電池状態診断装置を提供する。
【解決手段】診断対象となる単位セル10における空気に含まれる酸素濃度が高く、かつ、水素濃度が低くなり易い第1の局所部位(例えば、水素出口部103b付近)におけるインピーダンスを算出する。また、診断対象となる単位セル10における水素濃度が高く、かつ、空気に含まれる酸素濃度が低くなり易い第2の局所部位(例えば、空気出口部104b付近)におけるインピーダンスを算出する。そして、第1の局所部位にて検出したインピーダンスに基づいて、水素欠乏を診断し、第2の局所部位にて検出したインピーダンスに基づいて、酸素欠乏を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の単位セルが積層された燃料電池の内部状態を診断する燃料電池状態診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池について低周波領域におけるインピーダンスおよび高周波領域におけるインピーダンスの双方を測定し、各周波数領域におけるインピーダンスの測定結果に基づいて、燃料電池の内部状態を診断する燃料電池システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載の燃料電池システムでは、高周波領域におけるインピーダンスによって燃料電池の電解質膜の湿潤状態を診断し、低周波領域におけるインピーダンスによって燃料ガスである水素の供給状態(過不足)を診断するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−12419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、燃料電池において燃料ガスである水素が欠乏する(水素欠乏)と、燃料電池全体としてのインピーダンスが増加する傾向があるため、燃料電池全体としてのインピーダンスの変化に基づいて、水素欠乏が生じているか否かを判定することが考えられる。
【0006】
しかし、燃料電池において酸化剤ガスである酸素が欠乏(酸素欠乏)すると、水素欠乏時と同様に、燃料電池全体としてのインピーダンスが増加する傾向がある。
【0007】
このため、特許文献1に記載の燃料電池システムの如く、燃料電池全体としてのインピーダンスに基づいて、水素の供給状態を診断する構成では、水素欠乏と酸素欠乏との区別することができないといった問題がある。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、燃料ガスの欠乏と酸化剤ガスの欠乏とを区別して燃料電池の内部状態を診断可能な燃料電池状態診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた。この結果、診断対象となる単位セルにおける酸化剤ガスのガス濃度が高く、燃料ガスのガス濃度が低くなり易い部位では、当該部位におけるインピーダンスが燃料ガスのガス濃度の変化に強い相関性を持ち、燃料ガスのガス濃度が高く、酸化剤ガスのガス濃度が低くなり易い部位では、当該部位におけるインピーダンスが酸化剤ガスのガス濃度の変化に強い相関性を持つことに着眼し、燃料ガスの欠乏と酸化剤ガスの欠乏とを区別して燃料電池の状態を診断する構成を案出した。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明では、酸素を主成分とする酸化剤ガスと水素を主成分とする燃料ガスとを電気化学反応させて電気エネルギを発生させる単位セル(10)が複数積層された燃料電池(1)の状態を診断する燃料電池状態診断装置であって、燃料電池(1)に対して所定の波形を有する交流電流を印加する交流電流印加手段(51)と、診断対象となる単位セル(10)のセル電圧を検出する電圧検出手段(52)と、診断対象となる単位セル(10)における酸化剤ガスのガス濃度が高く、かつ、燃料ガスのガス濃度が低くなり易い第1の局所部位、および燃料ガスのガス濃度が高く、かつ、酸化剤ガスのガス濃度が低くなり易い第2の局所部位を流れる局所電流を検出する局所電流検出手段(4)と、電圧検出手段(52)の検出値、および局所電流検出手段(4)の検出値に基づいて、診断対象となる単位セル(10)の第1の局所部位および第2の局所部位におけるインピーダンスを算出するインピーダンス算出手段(53)と、インピーダンス算出手段(53)にて算出されたインピーダンスに基づいて燃料電池の状態を診断する診断手段(62)と、を備え、診断手段(62)は、第1の局所部位におけるインピーダンスに基づいて燃料ガスが欠乏した状態であるか否かを判定し、第2の局所部位におけるインピーダンスに基づいて酸化剤ガスが欠乏した状態であるか否かを判定することを特徴とする。
【0011】
これによれば、燃料ガスの欠乏については、診断対象となる単位セル(10)における燃料ガスのガス濃度の変化に強い相関性を持つ第1の局所部位のインピーダンスに基づいて診断し、酸化剤ガスの欠乏については、診断対象となる単位セル(10)における酸化剤ガスのガス濃度の変化に強い相関性を持つ第2の局所部位のインピーダンスに基づいて診断するので、燃料ガスの欠乏と酸化剤ガスの欠乏とを区別して燃料電池の内部状態を診断することが可能となる。
【0012】
ここで、各単位セル(10)では、発電により燃料ガスが消費されるので、単位セル(10)における燃料ガスが流入する入口側で燃料ガスのガス濃度が高く、燃料ガスが流出する出口側で燃料ガスのガス濃度が低くなる傾向がある。同様に、単位セル(10)における酸化剤ガスが流入する入口側で酸化剤ガスのガス濃度が高く、酸化剤ガスが流出する出口側で酸化剤ガスのガス濃度が低くなる傾向がある。
【0013】
このような傾向に鑑みて、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料電池状態診断装置において、複数の単位セル(10)それぞれには、燃料ガスが流入する燃料ガス入口部(103a)、燃料ガスが流出する燃料ガス出口部(103b)、酸化剤ガスが流入する酸化剤ガス入口部(104a)、および酸化剤ガスが流出する酸化剤ガス出口部(104b)が形成され、燃料ガス入口部(103a)と燃料ガス出口部(103b)との間には、燃料ガスが流れる燃料ガス流路が形成され、酸化剤ガス入口部(104a)と酸化剤ガス出口部(104b)との間には、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路が形成され、燃料ガス流路における燃料ガス入口部(103a)よりも燃料ガス出口部(103b)に近い部位は、酸化剤ガス流路における酸化剤ガス出口部(104b)よりも酸化剤ガス入口部(104a)に近い部位に対応する位置に形成され、酸化剤ガス流路における酸化剤ガス入口部(104a)よりも酸化剤ガス出口部(104b)に近い部位は、燃料ガス流路における燃料ガス出口部(103b)よりも燃料ガス入口部(103a)に近い部位に対応する位置に形成され、第1の局所部位は、診断対象となる単位セル(10)における燃料ガス入口部(103a)よりも燃料ガス出口部(103b)側の部位であり、第2の局所部位は、診断対象となる単位セル(10)における酸化剤ガス入口部(104a)よりも酸化剤ガス出口部(104b)側の部位であることを特徴とする。
【0014】
これによれば、燃料ガスの欠乏と酸化剤ガスの欠乏とを区別可能な構成を具体的かつ容易に実現することができる。
【0015】
具体的には、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の燃料電池状態診断装置において、診断手段(62)にて、第1の局所部位におけるインピーダンスが予め定めた基準値を上回った場合に燃料ガスが欠乏した状態であると判定し、第2の局所部位におけるインピーダンスが予め定めた第2基準値を上回った場合に酸化剤ガスが欠乏した状態であると判定するようにすればよい。
【0016】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】実施形態に係る信号処理装置の模式図である。
【図3】実施形態に係る単位セル全体の等価回路を示す回路図である。
【図4】図3の等価回路において、高周波から低周波までの交流信号を印加した場合の燃料電池のインピーダンスZを複素平面上に示した特性図である。
【図5】単位セルにおける水素出口部側の等価回路を示す回路図である。
【図6】空気のストイキ比をパラメータとした場合の水素濃度とインピーダンスとの関係を説明する説明図である。
【図7】単位セルにおける空気出口部側の等価回路を示す回路図である。
【図8】水素のストイキ比をパラメータとした場合の酸素濃度とインピーダンスとの関係を説明する説明図である。
【図9】信号処理装置および制御装置にて行う制御処理を示すフローチャートである。
【図10】信号処理装置および制御装置にて行う制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図11】信号処理装置および制御装置にて行う制御処理の要部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図1〜図11に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図であり、図2は、本実施形態に係る信号処理装置5の模式図である。この燃料電池システムは、電気自動車の一種である、いわゆる燃料電池車両に適用されており、車両走行用電動モータ等の電気負荷に電力を供給するものである。
【0019】
まず、燃料電池システムは、図1に示すように、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池1を備えている。燃料電池1は、図示しない車両走行用電動モータや2次電池といった各種電気負荷に供給される電気エネルギを出力するもので、本実施形態では、固体高分子電解質型燃料電池を採用している。より具体的には、燃料電池1は、基本単位となる単位セル10が複数積層され、各単位セル10が電気的に直列に接続されて構成されたものである。
【0020】
図2に示すように、各単位セル10は、固体高分子からなる電解質膜100aの両側面に一対の電極(触媒層等)100b、100cが配置された膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)100と、この膜電極接合体100を狭持する一対のセパレータ101、102で構成されている。なお、一対の電極のうち、一方の電極がアノード電極100bを構成し、他方の電極がカソード電極100cを構成している。
【0021】
一対のセパレータ101、102は、カーボン材や導電性金属よりなる板状プレートからなり、アノード電極100bと対向する面に水素が流れる水素流路(図示略)が形成され、カソード電極100cと対向する面に空気が流れる空気流路(図示略)が形成されている。
【0022】
また、単位セル10それぞれには、セパレータ101、102に形成された水素流路(燃料ガス流路)に水素を流入させるための水素入口部(燃料ガス入口部)103a、水素流路から水素を流出させるための水素出口部(燃料ガス出口部)103bが形成され、セパレータ101、102に形成された空気流路(酸化剤ガス流路)に空気を流入させるための空気入口部(酸化剤ガス入口部)104a、空気流路から空気を流出させるための空気出口部(酸化剤ガス出口部)104bが形成されている。
【0023】
本実施形態では、水素流路における水素入口部103aよりも水素出口部103bに近い部位が、空気流路における空気出口部104bよりも空気入口部104aに近い部位に対応するように形成されている。換言すれば、水素流路における水素入口部103aよりも水素出口部103bに近い部位は、単位セル10の積層方向から見たときに、空気流路における空気出口部104bよりも空気入口部104aに近い部位に重合するように形成されている。
【0024】
また、空気流路における空気入口部104aよりも空気出口部104bに近い部位は、水素流路における水素出口部103bよりも水素入口部103aに近い部位に対応するように形成されている。換言すれば、空気流路における空気入口部104aよりも空気出口部104bに近い部位は、単位セル10の積層方向から見たときに、水素流路における水素出口部103bよりも水素入口部103aに近い部位に重合するように形成されている。
【0025】
単位セル10では、以下に示すように、水素と酸素とを電気化学反応させて、電気エネルギを出力する。
【0026】
(負極側:アノード電極)H→2H+2e
(正極側:カソード電極)2H+1/2O+2e→H
ここで、一般に、単位セル10は、図3の等価回路で示すことができる。なお、図3は、燃料電池1の単位セル10の等価回路を示す回路図である。図3の等価回路におけるRpemは、電解質膜100aの膜抵抗、Zanはアノード電極側の反応抵抗、Zcaはカソード電極側の反応抵抗、Ranはアノード側のセパレータ等の電気抵抗、Rcaはカソード側のセパレータ等の電気抵抗、Canはアノード側の電気二重層(コンデンサ成分)、Ccaはカソード側の電気二重層に相当している。
【0027】
図1に戻り、燃料電池1と電気負荷との間には、双方向に電力を伝達可能なDC−DCコンバータ(図示略)を介して電気的に接続されている。DC−DCコンバータは、燃料電池1から電気負荷、あるいは電気負荷から燃料電池1への電力の流れを制御するものである。
【0028】
燃料電池1における積層された複数の単位セル10の間には、診断対象となる特定の単位セル10(以下、診断対象セル10と称する。)の局所部位に流れる電流(局所電流)を検出する局所電流検出部4(局所電流検出手段)が設けられている。
【0029】
局所電流検出部4は、複数の電流センサから構成されている。本実施形態の局所電流検出部4は、診断対象セル10における水素入口部103aよりも水素出口部103bに近い局所部位(水素出口部103b付近)、および診断対象セル10における空気入口部104aよりも空気出口部104bに近い局所部位(空気出口部104b付近)に対応して2つの電流センサを有している。
【0030】
ここで、本実施形態の水素出口部103b付近は、空気中の酸素濃度(酸化剤ガスのガス濃度)が高く、かつ、水素のガス濃度(燃料ガスのガス濃度)が低くなり易い第1の局所部位に相当し、空気出口部104b付近は、水素のガス濃度が高く、かつ、空気の酸素濃度が低くなり易い第2の局所部位に相当している。
【0031】
局所電流検出部4を構成する電流センサとしては、シャント抵抗や磁気等を利用した周知のセンサを用いることができる。局所電流検出部4から出力される出力信号(検出値)は、後述する信号処理装置5の演算処理部53にて演算処理される。なお、信号処理装置5については後述する。
【0032】
燃料電池1のカソード電極100c側には、酸素を主成分とする酸化剤ガス(空気)を燃料電池1に供給するための空気供給配管20、並びに、燃料電池1にて電気化学反応を終えた余剰空気および空気極で生成された生成水を燃料電池1から外気へ排出するための空気排出配管21が接続されている。
【0033】
空気供給配管20の最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池1に圧送するための空気ポンプ22が設けられ、空気排出配管21には、燃料電池1内の空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。なお、本実施形態では、空気ポンプ22および空気調圧弁23によって、所定の流量および圧力の空気を燃料電池1に供給する空気供給手段が構成される。
【0034】
燃料電池1のアノード電極100b側には、水素を主成分とする燃料ガスを燃料電池1に供給するための水素供給配管30、アノード電極100b側に溜まった生成水を微量な水素と共に燃料電池1から外部へ排出するための水素排出配管31が接続されている。
【0035】
水素供給配管30の最上流部には、高圧水素が充填された高圧水素タンク32が設けられ、水素供給配管30における高圧水素タンク32と燃料電池1との間には、燃料電池1に供給される水素の圧力を調整する水素調圧弁33が設けられている。なお、本実施形態では、この水素調圧弁33によって、所望の圧力の水素を燃料電池1に供給する燃料ガス側のガス供給手段が構成される。
【0036】
水素排出配管31には、生成水を微量な水素とともに外気へ排出するために所定の時間間隔で開閉する電磁弁34が設けられている。なお、上述の電気化学反応では、アノード電極100b側において生成水は発生しないものの、アノード電極100b側には、カソード電極100c側から各単位セル10の電解質膜100aを透過した生成水が溜まるおそれがある。このため、本実施形態では、水素排出配管31および電磁弁34を設けている。
【0037】
燃料電池システムには、各種制御を行う発電制御手段としての制御装置(ECU)6が設けられている。この制御装置6は、入力信号に基づいて、燃料電池システムを構成する各種電気式アクチュエータの作動を制御するもので、CPU、およびROM、RAM等の記憶手段61からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
【0038】
具体的には、制御装置6の入力側には、信号処理装置5、および車室内に設けられた車両起動スイッチ6aに接続されており、信号処理装置5および車両起動スイッチ6aからの出力信号が入力される。なお、車両起動スイッチ6aは、空気ポンプ22、空気調圧弁23、水素調圧弁33、電磁弁34等の作動開始信号を出力する開始信号出力手段の機能を兼ねる。なお、制御装置6の出力側には、上述の空気ポンプ22、空気調圧弁23、水素調圧弁33、電磁弁34等の各種電気式アクチュエータ、および信号処理装置5が接続されている。
【0039】
本実施形態の制御装置6は、信号処理装置5と双方向に通信可能に構成されており、信号処理装置5からの出力に基づいて、燃料電池1の内部状態を診断する。本実施形態では、局所電流検出部4、信号処理装置5、および制御装置6の一部が燃料電池1の状態を診断する燃料電池状態診断装置として機能する。
【0040】
次に、本実施形態の信号処理装置5について説明する。信号処理装置5は、診断対象セル10の出力電流に対して任意の周波数の交流電流を印加する交流印加部51、診断対象セル10のセル電圧を検出する電圧センサ(電圧検出手段)52、および診断対象セル10の局所部位のインピーダンスを算出する演算処理部53等で構成されている。
【0041】
交流印加部51は、診断対象セル10の出力電流に任意の周波数で所定の波形(正弦波等)の交流電流を印加する交流電流印加手段を構成している。本実施形態の交流印加部51は、異なる複数の周波数を合成した交流信号を燃料電池1の出力信号に印加可能に構成されている。なお、交流印加部51にて印加する交流電流は、燃料電池1の発電状態に影響しないように、燃料電池1における発電電流の10%以下とすることが好ましい。
【0042】
電圧センサ52は、診断対象セル10のセル電圧を検出するもので、信号処理装置5の演算処理部53に接続されている。電圧センサ52から出力される出力信号(検出値)は、演算処理部53にて処理される。
【0043】
演算処理部53は、局所電流検出部4および電圧センサ52から出力される出力信号に基づいて、診断対象セル10の各局所部位(本実施形態では水素出口部103b付近、および空気出口部104b付近)のインピーダンスを算出する。例えば、演算処理部53では、FFT(高速フーリエ変換)等により、局所電流検出部4および電圧センサ52から出力される出力信号Δi、Δvそれぞれから交流印加部51にて印加した交流電流と同一周波数の交流成分(交流電流ΔIおよび交流電圧ΔV)を抽出する。そして、抽出した交流成分を用いて、診断対象セル10の各局所部位のインピーダンスを算出する。なお、本実施形態では、演算処理部53がインピーダンス算出手段を構成している。
【0044】
ここで、演算処理部53にて算出したインピーダンスの周波数特性は、図4に示すような軌跡となる。図4は、図3の等価回路において、高周波から低周波までの交流電流を印加した場合の燃料電池のインピーダンスを複素平面上に示した特性図であり、図中のRe(Z)が実数部、Im(Z)が虚数部、θ(Z)が位相差を示している。
【0045】
演算処理部53にて算出された診断対象セル10における各局所部位のインピーダンスZ1、Z2は、制御装置6に出力される。制御装置6では、演算処理部53にて算出したインピーダンスZ1、Z2に基づいて燃料電池1の内部状態を診断する診断処理を行う。本実施形態では、制御装置6における燃料電池1の状態を診断する構成(ソフトウェアおよびハードウェアを含む。)が診断手段62を構成している。
【0046】
次に、本実施形態における燃料電池1の状態の診断方法について説明する。まず、単位セル10にて水素が欠乏する水素欠乏状態の診断方法について図5および図6に基づいて説明する。
【0047】
ここで、図5は、単位セルにおける水素出口部103b側(燃料ガス出口部側)の等価回路を示す回路図である。また、図6は、空気のストイキ比をパラメータとした場合の水素濃度とインピーダンスZ1(水素出口部103b付近のインピーダンス)との関係を説明する説明図である。より具体的には、図6は、水素濃度を約5%(図中のH1部分)、約10%(図中のH2部分)、約20%(図中のH3部分)とした条件で、空気のストイキ比を1.1、1.2、1.3、1.5と変化させた場合のインピーダンスZ1の変化を示している。なお、空気の「ストイキ比」とは、燃料電池1に所定値の電流を流す際に必要となる空気の理論供給量と実際の空気の供給量との比を意味する。
【0048】
本実施形態の単位セル10では、水素出口部103bを空気出口部104bよりも空気入口部104aに近い位置に配置しているため、単位セル10における水素出口部103b付近(第1の局所部位)は、空気中の酸素濃度が高く、かつ、水素濃度が低くなり易い傾向がある。このため、本実施形態の水素出口部103b付近では、カソード側の反応抵抗Zcaや電気二重層Ccaの影響が極めて小さくなり、単位セル10を図5の等価回路で示すことができる。
【0049】
また、図6に示すように、単位セル10における水素出口部103b付近では、水素濃度を一定とした場合に空気のストイキ比を変化させたとしても、インピーダンスZ1が殆ど変化しないことが分かる。
【0050】
一方、単位セル10における水素出口部103b付近では、空気のストイキ比を一定とした場合に水素濃度を変化させると、インピーダンスZ1が水素濃度の低下に伴って増加する傾向があることが分かる。
【0051】
このように、本実施形態の単位セル10における水素出口部103b付近では、当該部位におけるインピーダンスZ1が水素濃度の低下に伴って高くなるといったように、インピーダンスZ1と水素濃度とが強い相関性を持つことが分かる。
【0052】
このため、診断対象セル10において水素が欠乏した状態(水素欠乏)となる際の水素出口部103b付近のインピーダンスを第1基準値Zref1として予め制御装置6の記憶手段61に記憶し、当該第1基準値Zref1と、実際に演算処理部53にて算出した水素出口部103b付近のインピーダンスZ1とを比較することで、水素欠乏が生じているか否かを判定することが可能となる。
【0053】
次に、単位セル10にて空気中の酸素が欠乏する酸素欠乏状態の診断方法について図7および図8に基づいて説明する。
【0054】
ここで、図7は、単位セルにおける空気出口部側(酸化剤ガス出口部側)の等価回路を示す回路図である。また、図8は、水素のストイキ比をパラメータとした場合の酸素濃度とインピーダンスZ2(空気出口部104b付近のインピーダンス)との関係を説明する説明図である。より具体的には、図8は、空気濃度を約1%(図中のO1部分)、約2%(図中のO2部分)、約3%(図中のO3部分)、約5%(図中のO4部分)とした条件で、水素のストイキ比を1.03、1.05、1.2と変化させた場合のインピーダンスの変化を示している。なお、水素の「ストイキ比」とは、燃料電池1に所定値の電流を流す際に必要となる水素の理論供給量と実際の水素の供給量との比を意味する。
【0055】
本実施形態の単位セル10では、空気出口部104bを水素出口部103bよりも水素入口部103aに近い位置に配置しているため、単位セル10における空気出口部104b付近(第2の局所部位)は、水素濃度が高く、かつ、空気中の酸素濃度が低くなり易い傾向がある。このため、本実施形態の空気出口部104b付近では、アノード側の反応抵抗Zanや電気二重層Canの影響が極めて小さくなり、単位セル10を図7の等価回路で示すことができる。
【0056】
また、図8に示すように、単位セル10における空気出口部104b付近では、空気濃度を一定とした場合に水素のストイキ比を変化させたとしても、インピーダンスZ2が殆ど変化しないことが分かる。
【0057】
一方、単位セル10における空気出口部104b付近では、水素のストイキ比を一定とした場合に空気中の酸素濃度を変化させると、インピーダンスZ2が空気中の酸素濃度の低下に伴って増加する傾向があることが分かる。
【0058】
このように、本実施形態の単位セル10における空気出口部104b付近では、当該部位におけるインピーダンスZ2が空気濃度の低下に伴って高くなるといったように、インピーダンスZ2と酸素濃度とが強い相関性を持つことが分かる。
【0059】
このため、診断対象セル10において空気中の酸素が欠乏した状態(酸素欠乏)となる際の空気出口部104b付近のインピーダンスを第2基準値Zref2として予め制御装置6の記憶手段61に記憶し、当該第2基準値Zref2と、実際に演算処理部53にて算出した空気出口部104b付近のインピーダンスZ2とを比較することで、酸素欠乏が生じているか否かを判定することが可能となる。
【0060】
次に、上記構成に係る燃料電池システムにおいて、正常状態、水素欠乏状態、および酸素欠乏状態といった三種類の状態を診断する状態診断処理の流れを、図9〜図11に示すフローチャートにより説明する。図9に示す制御フローは、車両起動スイッチ6aが投入(ON)されて、燃料電池1の発電状態となるとスタートする。なお、図9では、信号処理装置5および制御装置6にて行う処理を1つのフローチャートで示している。
【0061】
車両が起動すると、まず、信号処理装置5の交流印加部51から診断対象セル10に複数の周波数を合成した合成波を有する交流電流を印加する(S10)。なお、交流印加部51で印加する交流電流の周波数は、予め所定周波数(0.1〜数百kHzの範囲)に設定されている。
【0062】
次に、電圧センサ52および局所電流検出部4の各電流センサからの出力信号(出力電流、出力電圧)を読み込む(S20)。そして、演算処理部53にて電圧センサ52および局所電流検出部4の出力信号から、交流印加部51にて印加した交流電流と同一周波数の交流成分を抽出し、各交流成分におけるインピーダンスZ1、Z2を算出する(S30)。具体的には、ステップS30では、演算処理部53にて電圧センサ52および局所電流検出部4の水素出口部103b付近に配置した電流センサの出力信号から、水素出口部103b付近のインピーダンスZ1を算出する。また、演算処理部53にて電圧センサ52および局所電流検出部4の空気出口部104b付近に配置した電流センサの出力信号から、空気出口部104b付近のインピーダンスZ2を算出する。
【0063】
次に、水素欠乏診断処理を行う(S40)。この水素欠乏診断処理の詳細については、図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0064】
まず、ステップS30にて算出した水素出口部103b付近におけるインピーダンスZ1を、予め記憶手段61に記憶された第1基準値Zref1と比較照合し(S410)、水素欠乏であるか否かを判定する(S420)。具体的には、ステップS420では、水素出口部103b付近におけるインピーダンスZ1が第1基準値Zref1よりも上回っている場合に、水素欠乏と判定する。
【0065】
この結果、水素欠乏であると判定された場合は、今回の燃料電池1の状態を水素欠乏と診断する(S430)。なお、水素欠乏と判定された場合、燃料電池1への水素の供給量が不足していることが原因と考えられるため、例えば、水素調圧弁33の開度を増大させ、高圧水素タンク32からの水素の供給量を増大させることにより、水素欠乏を解消することが可能となる。
【0066】
一方、ステップS430の判定処理の結果、水素欠乏でないと判定された場合は、水素欠乏診断処理を終了して、ステップS50の酸素欠乏診断処理に移行する。この酸素欠乏診断処理の詳細については、図11に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0067】
まず、ステップS30にて算出した空気出口部104bにおけるインピーダンスZ2を、予め記憶手段61に記憶された第2基準値Zref2と比較照合し(S510)、酸素欠乏であるか否かを判定する(S520)。具体的には、ステップS520では、空気出口部104b付近におけるインピーダンスZ2が第2基準値Zref2よりも上回っている場合に、酸素欠乏と判定する。
【0068】
この結果、酸素欠乏であると判定された場合は、今回の燃料電池1の状態を酸素欠乏と診断する(S530)。なお、酸素欠乏と判定された場合、カソード電極100c側に生成水が溜っていることが原因と考えられるので、空気調圧弁23の開度を増大させてカソード側に溜まった生成水を燃料電池1の内部から排出することで、酸素欠乏を解消することが可能となる。
【0069】
以上説明した本実施形態では、水素欠乏については、診断対象となる単位セル10における水素濃度の変化に強い相関性を持つ第1の局所部位のインピーダンスZ1に基づいて診断し、酸素欠乏については、診断対象となる単位セル10における空気中の酸素濃度の変化に強い相関性を持つ第2の局所部位のインピーダンスZ2に基づいて診断するので、水素欠乏と酸素欠乏とを区別して燃料電池の状態を診断することが可能となる。
【0070】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0071】
(1)上述の実施形態では、演算処理部53で算出した水素出口部103b付近のインピーダンスZ1、および空気出口部104b付近のインピーダンスZ2と予め記憶手段61にて記憶された各基準値Zref1、Zref2とを比較照合して、水素欠乏や酸素欠乏を診断しているが、これに限定されない。例えば、予め記憶手段61にインピーダンスZZ1、Z2と水素濃度および空気濃度との対応関係を定めた制御マップを記憶しておき、演算処理部53で算出したインピーダンスZ1、Z2に基づいて当該制御マップを参照して水素欠乏や酸素欠乏を診断するようにしてもよい。
【0072】
(2)上述の実施形態では、診断対象セル10の各局所部位におけるインピーダンスの大きさに基づいて、水素欠乏や酸素欠乏を診断する例について説明したが、これに限定されず、例えば、インピーダンスにおける位相差、位相差や大きさと局所電流検出部4にて検出した電流値との組み合わせにより照合するようにしてもよい。
【0073】
(3)上述の実施形態では、演算処理部53にて算出したインピーダンスZ1、Z2を用いて水素欠乏および酸素欠乏を診断しているが、演算処理部53にて算出したインピーダンスZ1、Z2を用いて水素濃度、酸素濃度を推定してもよい。
【0074】
(4)上述の実施形態では、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数を一定としているが、これに限定されず、例えば、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数を可変させ、変化させた周波数毎に燃料電池1の状態を診断するようにしてもよい。
【0075】
(5)上述の実施形態では、交流印加部51にて診断対象セル10に対して複数の周波数を合成した合成波を有する交流電流を印加する構成としているが、これに限定されず、例えば、単一周波数の正弦波や矩形波やインパルス波、または、これらの合成波を有する交流電流を印加する構成としてもよい。
【0076】
(6)上述の実施形態では、交流印加部51にて診断対象セル10に対して交流電流を印加する構成としているが、これに限定されず、例えば、DC−DCコンバータを用いて診断対象セル10に対して交流電流を印加する構成としてもよい。これにより、燃料電池1の状態を診断する構成の部品点数の低減を図ることができる。
【0077】
(7)上述の実施形態では、信号処理装置5および制御装置6にて正常状態、水素欠乏状態、および酸素欠乏状態といった三種類の状態を診断する状態診断処理を行う例を説明したが、これに限定されない。例えば、燃料電池1の単位セル10の局所部位が乾燥するドライアップ、燃料電池1の単位セル10へ過剰に水素が供給される水素供給過剰、燃料電池1の単位セル10へ過剰に酸素(空気)が供給される酸素供給過剰等においても、インピーダンスが変化する。このため、予めドライアップ、水素供給過剰、酸素供給過剰等の状態におけるインピーダンスを記憶しておき、演算処理部53にて算出したインピーダンスZ1、Z2と照合することで、ドライアップ、水素供給過剰、酸素供給過剰等の状態を診断するようにしてもよい。
【0078】
(8)上述の実施形態では、局所電流検出部4および電圧センサ52からの出力信号を信号処理装置5の演算処理部53にて演算する例を説明したが、これに限定されず、例えば、演算処理部53にて行う処理を、制御装置6にて行うようにしてもよい。
【0079】
(9)上述の実施形態では、燃料電池車両に搭載された燃料電池1の状態を診断する例を説明したが、これに限定されず、船舶及びポータブル発電器等の移動体や設置型の燃料電池1の状態を診断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 燃料電池
10 単位セル
103a 水素入口部(燃料ガス入口部)
103b 水素出口部(燃料ガス出口部)
104a 空気入口部(酸化剤ガス入口部)
104b 空気出口部(酸化剤ガス出口部)
4 局所電流検出部(局所電流検出手段)
51 交流印加部(交流電流印加手段)
52 電圧センサ(電圧検出手段)
53 演算処理部(インピーダンス算出手段)
62 診断手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を主成分とする酸化剤ガスと水素を主成分とする燃料ガスとを電気化学反応させて電気エネルギを発生させる単位セル(10)が複数積層された燃料電池(1)の状態を診断する燃料電池状態診断装置であって、
前記燃料電池(1)に対して所定の波形を有する交流電流を印加する交流電流印加手段(51)と、
診断対象となる前記単位セル(10)のセル電圧を検出する電圧検出手段(52)と、
前記診断対象となる単位セル(10)における前記酸化剤ガスのガス濃度が高く、かつ、前記燃料ガスのガス濃度が低くなり易い第1の局所部位、および前記燃料ガスのガス濃度が高く、かつ、前記酸化剤ガスのガス濃度が低くなり易い第2の局所部位を流れる局所電流を検出する局所電流検出手段(4)と、
前記電圧検出手段(52)の検出値、および前記局所電流検出手段(4)の検出値に基づいて、前記診断対象となる単位セル(10)の前記第1の局所部位および前記第2の局所部位におけるインピーダンスを算出するインピーダンス算出手段(53)と、
前記インピーダンス算出手段(53)にて算出されたインピーダンスに基づいて前記燃料電池の状態を診断する診断手段(62)と、を備え、
前記診断手段(62)は、前記第1の局所部位におけるインピーダンスに基づいて前記燃料ガスが欠乏した状態であるか否かを判定し、前記第2の局所部位におけるインピーダンスに基づいて前記酸化剤ガスが欠乏した状態であるか否かを判定することを特徴とする燃料電池状態診断装置。
【請求項2】
前記複数の単位セル(10)それぞれには、前記燃料ガスが流入する燃料ガス入口部(103a)、前記燃料ガスが流出する燃料ガス出口部(103b)、前記酸化剤ガスが流入する酸化剤ガス入口部(104a)、および前記酸化剤ガスが流出する酸化剤ガス出口部(104b)が形成され、
前記燃料ガス入口部(103a)と前記燃料ガス出口部(103b)との間には、前記燃料ガスが流れる燃料ガス流路が形成され、
前記酸化剤ガス入口部(104a)と前記酸化剤ガス出口部(104b)との間には、前記酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路が形成され、
前記燃料ガス流路における前記燃料ガス入口部(103a)よりも前記燃料ガス出口部(103b)に近い部位は、前記酸化剤ガス流路における前記酸化剤ガス出口部(104b)よりも前記酸化剤ガス入口部(104a)に近い部位に対応する位置に形成され、
前記酸化剤ガス流路における前記酸化剤ガス入口部(104a)よりも前記酸化剤ガス出口部(104b)に近い部位は、前記燃料ガス流路における前記燃料ガス出口部(103b)よりも前記燃料ガス入口部(103a)に近い部位に対応する位置に形成され、
前記第1の局所部位は、前記診断対象となる単位セル(10)における前記燃料ガス入口部(103a)よりも前記燃料ガス出口部(103b)側の部位であり、
前記第2の局所部位は、前記診断対象となる単位セル(10)における前記酸化剤ガス入口部(104a)よりも前記酸化剤ガス出口部(104b)側の部位であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池状態診断装置。
【請求項3】
前記診断手段(62)は、
前記第1の局所部位におけるインピーダンスが予め定めた第1基準値を上回った場合に前記燃料ガスが欠乏した状態であると判定し、
前記第2の局所部位におけるインピーダンスが予め定めた第2基準値を上回った場合に前記酸化剤ガスが欠乏した状態であると判定することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池状態診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−8568(P2013−8568A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140728(P2011−140728)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】