説明

燃料電池用の脱硫吸着剤、それを利用した脱硫方法、脱硫吸着剤の再生方法、脱硫装置及び燃料電池システム

【課題】脱硫性能及び再生特性に優れた脱硫吸着剤、この脱硫吸着剤を利用して燃料中の硫黄化合物を除去する脱硫方法、硫黄化合物を吸着した脱硫吸着剤を再生する再生方法、脱硫吸着剤を含む脱硫装置、及び脱硫吸着剤を含む燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明は、下記化学式1の構造を有する脱硫吸着剤及びそれを利用した脱硫方法である。
(M−(Si)−(Ti)−(M−O・・・(化学式1)
(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、水素、アンモニウム、希土類または遷移金属のうち選択される一つ以上であり、4≦x/y≦500であり、0≦z/y≦3であり、0<a/(y+z)≦1であり、Mは、Al,Bまたは3価金属である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の脱硫吸着剤、それを利用した脱硫方法、脱硫吸着剤の再生方法、脱硫装置及び燃料電池システムに係り、特に、優秀な硫黄化合物の吸着性能及び再生特性を有する脱硫吸着剤及びそれを利用した脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスのような炭化水素系の物質内に含有されている水素と酸素との化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換させる発電システムである。
【0003】
前記のような燃料電池は、基本的にシステムを構成するためにスタック、燃料処理装置(Fuel Processor:FP)、燃料タンク、燃料ポンプなどを備える。スタックは、燃料電池の本体を形成し、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)とセパレータ(または、バイポーラプレート)とからなる単位セルが数から数十個で積層された構造を有する。燃料ポンプは、燃料タンク内の燃料を燃料処理装置に供給し、燃料処理装置は、燃料を改質及び浄化して水素を発生させ、その水素をスタックに供給する。スタックでは、前記水素を受けて酸素と電気化学的に反応させて電気エネルギーを発生させる。
【0004】
燃料処理装置の改質器、水性ガス転換器などでは、リフォーミング触媒とシフト触媒とを利用して炭化水素を改質して一酸化炭素を除去するが、前記炭化水素は、硫黄化合物を含有する一方、前記触媒とMEAのアノード触媒とは、硫黄化合物により被毒されやすいため、前記炭化水素を改質工程に供給する前に前記硫黄化合物を除去する必要がある。したがって、前記炭化水素は、改質工程に進入する前に脱硫工程を経る(図1参照)。
【0005】
特に、今後、燃料電池のフィードストックとして都市ガスが使われる可能性が高いが、前記都市ガスには、腐臭剤として作用する硫黄化合物であるターシャリー(tert−)ブチルメルカプトン(TBM)とテトラヒドロチオフェン(THT)とが3:7の割合で約15ppm含有されているため、燃料電池に使用するためには、前記硫黄化合物の除去が必須である。
【0006】
硫黄化合物を除去する方法としては、水添脱硫(HDS)工程を利用するか、または吸着剤を利用できる。前記水添脱硫工程は、信頼できる工程であるが、300から400℃の高温に加熱することを必要とし、運転が複雑で小規模装置よりは大規模のプラントに応用されるものである。
【0007】
一方、燃料ガスから前記したTBM、THTなどの硫黄化合物を除去するものとしては、吸着剤を利用する方法がさらに適切であるが、吸着剤を利用する方法は、活性炭素、金属酸化物またはゼオライトなどからなる吸着剤に燃料ガスを通過させて硫黄化合物を除去する方法である。前記吸着剤は、硫黄化合物で飽和されれば、それ以上硫黄化合物を除去できないので、吸着剤の交換または再生が要求される。必要な吸着剤の量及び吸着剤の交換周期は、吸着剤の吸着度に大きく影響されるので、高吸着度の吸着剤が有利である。
【0008】
現在まで多様な吸着剤が提案されてきたが、都市ガスに含まれているメルカプトンを除去するために、多価金属イオンでイオン交換したゼオライトが特許文献1に開示されているが、メルカプトンにのみ適用可能であるという短所がある。
【0009】
また、前記硫黄化合物のうち、THTがTBMに比べてさらに除去され難く、銀(Ag)を含有しているゼオライトが前記THTを除去する能力があることが知られている。特許文献2には、吸着剤として気孔のサイズが少なくても0.5nmであるNa−X−ゼオライトが開示されている。前記吸着剤は、常温で優秀な吸着度を表すが、水分に露出される場合、吸着度が急激に低下するという短所がある。
【0010】
さらに、これまで開示された脱硫吸着剤のうち、吸着性能だけでなく再生性能まで優秀な脱硫吸着剤はなく、かかる側面で従来の脱硫吸着剤の性能を改善する余地がある。
【0011】
【特許文献1】特公平6−306377号公報
【特許文献2】特公平10−237473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、脱硫性能及び再生特性に優れた脱硫吸着剤、この脱硫吸着剤を利用して燃料中の硫黄化合物を除去する脱硫方法、硫黄化合物を吸着した脱硫吸着剤を再生する再生方法、脱硫吸着剤を含む脱硫装置、及び脱硫吸着剤を含む燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によれば、下記化学式1の構造を有する結晶性の多孔性分子体である脱硫吸着剤が提供される。
【0014】
(M−(Si)−(Ti)−(M−O ・・・(化学式1)
(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、水素、アンモニウム、希土類または遷移金属のうちから選択される一つ以上であり、4≦x/y≦500であり、0≦z/y≦3であり、0<a/(y+z)≦1であり、Mは、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)または3価金属である。)
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によれば、前記本発明の脱硫吸着剤に硫黄化合物を含む気体を接触させるステップを含む脱硫方法が提供される。
【0016】
前記脱硫方法は、10℃から50℃の温度及び0.5気圧から2.5気圧の圧力下で行われることが望ましい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第3の観点によれば、前記本発明の脱硫吸着剤に脱着気体をパージするステップを含む脱硫吸着剤の再生方法が提供される。
【0018】
前記再生方法は、100℃から500℃の温度で10分から12時間の間に行われることが望ましい。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の第4の観点によれば、前記本発明の脱硫吸着剤を含む脱硫装置が提供される。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の第5の観点によれば、前記本発明の脱硫吸着剤を含む燃料電池システムが提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の脱硫吸着剤は、従来の脱硫吸着剤に比べて硫黄化合物を吸着する吸着性能が顕著に優秀であることはいうまでもなく、再生性能も優れて長期間使用しても、脱硫吸着剤の交換が不要であるので、燃料電池システムの運転が安定的であり、経済的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
燃料電池の有望なフィードストックである都市ガスには、前述したようにTHT、TBMのような硫黄化合物が含まれており、他の可能なフィードストックである炭化水素にも、前記硫黄化合物以外にメルカプタン類、硫黄を含む芳香族ヘテロ環化合物、及び二硫化物などが含まれている。
【0024】
したがって、燃料電池のフィードストックに含まれている硫黄化合物を除去する吸着剤は、前記のような硫黄化合物をいずれも除去できなければならない。
【0025】
さらに具体的に説明すれば、前記芳香族ヘテロ環化合物としては、チオフェン、チオフェノール、アルキルチオフェン、ベンゾチオフェンを含む。特に、2−メチルチオフェン、3−メチルチオフェン、エチルチオフェン、ジメチルチオフェン、トリメチルチオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、メチルベンゾチオフェン、ジメチルベンゾチオフェンなどが代表的である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0026】
また、前記メルカプタン類としては、1−エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、2−ブタンチオール、t−ブチルメルカプタン、2−メチル−2−プロパンチオール、ペンタンチオール、へキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール及びチオフェノールなどが代表的である。その他にも、ジメチルスルフィド、エチルメチルスルフィドなどのスルフィド類もある。ただし、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明は、前記のような硫黄化合物を除去するために、下記化学式1の構造を有する結晶性の多孔性分子体である脱硫吸着剤を提供する。
【0028】
(M−(Si)−(Ti)−(M−O ・・・(化学式1)
(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、水素、アンモニウム、希土類または遷移金属のうち選択される一つ以上であり、4≦x/y≦500であり、0≦z/y≦3であり、0<a/(y+z)≦1であり、Mは、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)または3価金属である。)
【0029】
本発明者らは、前記化学式1の構造を有する結晶性の多孔性分子体が高い硫黄化合物の吸着性能を有することはいうまでもなく、優れた再生能力を兼ね備えていることを見出した。前記化学式1の構造を有する結晶性の多孔性分子体は、ETS−10系またはETAS−10系でありうる。
【0030】
前記Mは、特に、水素(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)のうち一つ以上であることが望ましいが、これらに限定されるものではない。すなわち、前記列挙した元素のうち一つ以上がイオン結合されうる。
【0031】
特に、ナトリウムのみがイオン結合されるか、またはカルシウムのみがイオン結合されうる。
【0032】
前記Mにおける3価金属としては、ガリウム(Ga)またはインジウム(In)のうち一つ以上であることが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0033】
前記化学式1で、x/yは、前述したように4以上500以下であり、4以上10以下であることが望ましく、5.0以上6.5以下であることがさらに望ましいが、これに限定されるものではない。もし、前記x/yが4より小さければ、SiとTiとからなる結晶性の多孔性物質を合成し難くなり、前記x/yが500より大きければ、前記結晶性の多孔性分子体の結晶性を維持し難くなる。
【0034】
また、前記化学式1で、z/yは、前述したように0以上3以下であり、0.2以上0.8以下であることが望ましい。もし、前記z/yが3より大きければ、高いMの量により硫黄化合物の吸着特性が変わり、SiとTiとからなる結晶性の多孔性構造が崩れうる。前記z/yが0となる場合は、zが0である場合、すなわち3価金属であるMを含まない場合を意味する。
【0035】
また、前記化学式1で、a/(y+z)は、前述したように0より大きくて1以下であり、0.2から0.8であることが望ましい。もし、前記a/(y+z)が1より大きければ、高いMの量の使用により結晶性の多孔質分子体の合成に必要以上の量を使用して経済的に不利であり、SiとTiとからなる結晶性の多孔性構造が崩れうる。前記a/(y+z)が0となる場合は、aが0である場合、すなわちMを含まない場合を意味するが、この場合は、SiとTiとからなる結晶性の多孔性構造が形成され難い。
【0036】
以下では、前記本発明の脱硫吸着剤の製造方法に関して説明する。
【0037】
まず、アルカリ水溶液にシリコン供給源物質とチタン供給源物質とを入れて十分に混合する。前記アルカリ水溶液は、Mの元素によって変わり、例えばNaOH水溶液、KF水溶液などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記チタン供給源物質は、例えばTiCl,TiCl,Ti[O(CHCH,Ti[OC(CH,Ti(OC,Ti[OCH(CH,Ti[OCHCHCH,Ti(OCH,Ti(NO,Ti(SO,TiOSO,TiOなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記シリコン供給源物質は、例えばケイ酸ナトリウム、ヒュームドシリカ、SiCl、SiF、Si(OC、Si(OCHなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
前記混合温度は、特に限定されないが、常温から約70℃の温度で行われうる。また、前記アルカリ溶液を利用してpHを10から13に調節することが望ましい。もし、前記pHが10より小さければ、結晶性の多孔性分子体を合成し難く、前記pHが13より大きければまた、結晶性の多孔性分子体を合成し難い。
【0040】
次いで、前記混合溶液を密閉された容器に入れて水熱処理を行う。水熱処理は、密閉された容器で反応物を高温高圧に処理する過程を意味する。本水熱処理を通じて、化学式1の構造を有する多孔性分子体が結晶を形成して生成される。
【0041】
前記水熱処理は、例えば150℃から230℃の温度で行うことが望ましいが、これに限定されるものではない。もし、前記水熱処理温度が150℃に達しなければ、結晶性の多孔性分子体の合成に長時間がかかり、結晶性を得難く、前記水熱処理温度が230℃を超えれば、結晶性の多孔性分子体を合成し難く、経済的に不利である。
【0042】
また、前記水熱処理は、例えば5時間から200時間の間に行えるが、これに限定されるものではない。もし、前記水熱処理時間が5時間に達しなければ、多孔性分子体の結晶性を得難く、前記水熱処理時間が200時間を超えれば、それ以上合成され難くて経済的に不利である。
【0043】
次いで、生成された固体を洗浄、乾燥させると、本発明の脱硫吸着剤を収得できる。前記洗浄、乾燥方法及び条件は、特に限定されず、当業界に周知された方法及び条件による。
【0044】
以下では、前記本発明の脱硫吸着剤を利用して気体から硫黄化合物を除去する脱硫方法に関して説明する。
【0045】
本発明の脱硫方法は、硫黄化合物を含む気体を本発明の脱硫吸着剤に接触させるステップを含む。硫黄化合物を含む前記気体は、例えば炭化水素ガスであるが、これに限定されるものではない。
【0046】
硫黄化合物を含む前記気体を本発明の脱硫吸着剤に接触させる方法は、例えば固定された脱硫吸着剤の層に前記気体を通過させる方法であるが、これに限定されるものではない。接触方法の他の例を挙げれば、前記脱硫吸着剤を粉末またはペレット状に製造して固定床としてシリンダに充填させ、前記シリンダに硫黄化合物を含む気体を通過させる方法でありうる。
【0047】
硫黄化合物を含む気体を本発明の脱硫吸着剤に接触させることは、10℃から50℃の温度で行うことが望ましい。もし、前記接触が10℃より低い温度で行われれば、低温を維持せねばならないので、経済的に不利であり、前記接触が50℃より高い温度で行われれば、吸着に必要な温度を維持するための不要なコストがかかって経済的に不利である。
【0048】
また、前記接触は、0.5気圧から2.5気圧の圧力下で行われることが望ましい。もし、前記接触が0.5気圧より低い圧力で行われれば、低圧を維持せねばならないので、経済的に不利であり、前記接触が2.5気圧より高い圧力で行われれば、吸着に必要な圧力を維持するための不要なコストがかかって経済的に不利である。
【0049】
本発明の脱硫吸着剤は、燃料電池分野で考慮された従来の脱硫吸着剤とは異なり、吸着−再生特性に優れて、数回にわたって吸着及び再生を反復しても硫黄化合物の吸着性能がほとんど低下しない。
【0050】
以下では、前述した脱硫方法を通じて硫黄化合物を吸着した本発明の脱硫吸着剤の再生方法を説明する。
【0051】
本発明は、本発明の脱硫吸着剤に脱着気体をパージするステップを含む脱硫吸着剤の再生方法を提供する。
【0052】
硫黄化合物を吸着している本発明の脱硫吸着剤を再生する方法は、例えば固定された脱硫吸着剤の層に脱着気体を通過させる方法であるが、これに限定されるものではない。接触方法の他の例を挙げれば、粉末またはペレット状にシリンダに固定床として充填された前記脱硫吸着剤に脱着気体を通過させる方法でありうる。
【0053】
前記脱着気体は、不活性気体ならばいずれも可能であり、例えば空気、窒素(N)、酸素(O)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、メタン(CH)、エタン(C)、二酸化炭素(CO)またはそれらの混合物が望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0054】
前記再生は、100℃から500℃の温度で行われることが望ましい。もし、前記再生が100℃未満の温度で行われる場合、温度が低くて吸着された硫黄化合物が十分に脱着されないという短所があり、前記再生が500℃より高い温度で行われる場合、脱着に必要な温度を維持するための不要なコストがかかる。
【0055】
また、前記再生は、10分から12時間の間に行うことが望ましい。もし、前記再生を10分より短い時間の間に行う場合、時間が短すぎて吸着された硫黄化合物が十分に脱着されず、前記再生を12時間より長く行う場合、脱着の効果が飽和されるため無駄である。
【0056】
以下では、前記本発明の脱硫吸着剤を含む脱硫装置に関して説明する。
【0057】
本発明は、前記脱硫吸着剤を含む脱硫装置を提供する。前記脱硫吸着剤を前記脱硫装置に内蔵する方法は、特に限定されない。
【0058】
前記脱硫装置は、燃料処理装置の一部であって、改質装置の前段に設置されうる。
【0059】
前記脱硫装置の具現例は、シリンダに本発明の脱硫吸着剤を固定床として固定させ、硫黄化合物を含む気体を導入できる管と連結させたものでありうる。
【0060】
また、前記脱硫装置の他の具現例は、前記具現例に脱着気体を導入できる管をさらに付加したものでありうる。また、前記脱硫装置において、前記脱着気体の導入管は、硫黄化合物を含む気体の導入方向と逆方向に脱着気体を供給するように構成されうる。
【0061】
以下では、前記本発明の脱硫吸着剤を含む燃料電池システムに関して説明する。
【0062】
前記燃料電池システムは、燃料処理装置と燃料電池スタックとを備えるものでありうる。前記燃料電池スタックは、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、前記カソードとアノードとの間に位置する電解質膜と、を備える単位燃料電池(スタック)を積層したものでありうる。
【0063】
前記燃料処理装置は、脱硫装置と、改質装置と、高温シフト反応器、低温シフト反応器及びPROX(Preferential Oxidation)反応器を備える一酸化炭素除去装置と、を備えうる。
【0064】
本発明の脱硫吸着剤は、前記脱硫装置内に含まれ、前記脱硫装置は、前述した本発明の脱硫装置でありうる。
【0065】
本発明の単位燃料電池は、具体的な例を挙げれば、リン酸型燃料電池(PAFC)、高分子電解質型燃料電池(PEMFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)または直接メタノール型燃料電池(DMFC)として具現されうる。かかる単位燃料電池の構造及び製造方法は、特に限定されず、具体的な例が各種の文献に詳細に公知されているので、ここでは詳細に説明しない。
【0066】
本発明の脱硫吸着剤は、従来の脱硫吸着剤に比べて硫黄化合物を吸着する吸着性能が顕著に優秀であることはいうまでもなく、再生性能も優れて長期間使用しても、脱硫吸着剤の交換が不要であるので、燃料電池システムの運転が安定的であり、経済的にも有利な効果がある。
【実施例】
【0067】
以下、具体的な実施例及び比較例により本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、単に本発明をさらに明確に理解させるためのものだけであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0068】
(実施例1)
ケイ酸ナトリウム(27%のSiO,14%のNaOH) 166.8gとNaOH 23.1gとを120mLの蒸溜水に溶解させてよく混合した溶液に、120mLの蒸溜水にTiCl 14.5mLとHCl 70.7gとを溶解させた溶液を混合して攪拌した。このように製造された溶液にKF 14.6gを添加した後、蒸溜水 56.7gをさらに添加して攪拌して、均一な溶液を製造した。前記のようにNaOH、KF及びケイ酸ナトリウムを混合したアルカリ溶液に、Si:Tiのモル比が5.7:1となるようにTiCl溶液を付加して攪拌して均一な溶液を製造した後、ここにNaOHを滴下して最終のpHが11.5である均一なゲルを得た。前記ゲルを高圧反応器に入れて200℃で17時間水熱処理した。水熱処理した結果物を、脱イオン水を利用して反復洗浄し、110℃のオーブンで24時間乾燥させた。
【0069】
(実施例2)
ケイ酸ナトリウム(27%のSiO,14%のNaOH) 404.7g、NaOH56.2g及びKF 35.3gを120mLの蒸溜水に溶解させてよく混合した溶液に、120mLの蒸溜水にTiCl(20%) 244.8gとAlCl・6HO 19.8gとを溶解させた溶液を混合して攪拌した。前記のように製造された溶液に実施例1で製造されたシードを2g添加した後、攪拌して均一な溶液を製造した。前記のようにNaOH、KF及びケイ酸ナトリウムを混合したアルカリ溶液に、Si:Tiのモル比が5.7:1となるようにTiCl溶液を添加し、Al:Tiのモル比が0.25:1となるようにAlCl・6HOを添加し、攪拌して均一な溶液を製造した後、ここにNaOHを滴下して最終のpHが11.5である均一なゲルを得た。前記ゲルを高圧反応器に入れて200℃で17時間水熱処理した。水熱処理した結果物を、脱イオン水を利用して反復洗浄し、110℃のオーブンで24時間乾燥させた。
【0070】
前記のように合成された脱硫吸着剤に対して、X線回折(X−Ray Diffraction:XRD)分析及びFT−IR(Fourier TransformInfrared Spectroscopy)分析した結果を図2A及び図2Bにそれぞれ示した。図2A及び図2Bに示されたパターンから、実施例1及び実施例2で合成された脱硫吸着剤は、それぞれETS−10及びETAS−10の構造を有するということが分かる。
【0071】
(比較例1)
Si/Alの比が5、(Na+K)/Alの比が0.5となるように、ヒュームドシリカ、Al(OH)、NaOH及びKOHを使用してクリノプチロライト(clinoptilolite)を合成した。合成温度は150℃で72時間水熱合成した後、洗浄及び乾燥(110℃)し、空気雰囲気のオーブンで500℃で4時間焼成して、前記クリノプチロライトを製造した。
【0072】
(比較例2)
商用に提供されるZSM−5系吸着剤を利用した(Zeolyst社製、CBV2314)。
【0073】
(比較例3)
商用に提供されるモルデナイト系吸着剤を利用した(Zeolyst社製、CBV10A)。
【0074】
(比較例4)
TiCl溶液(TiCl 29mL、蒸溜水 120mL)を超臨界条件でノズルで噴射して得た物質を、脱イオン水を利用して反復洗浄し、110℃のオーブンで24時間乾燥させた。
【0075】
(比較例5)
Ti:Siのモル比が2:1となるようにTiCl溶液を添加し(TiCl 14.5ml、Si(OC 13.9g、蒸溜水 120mL)、超臨界条件でノズルで噴射して得た物質を、脱イオン水を利用して反復洗浄し、110℃のオーブンで24時間乾燥させた。
【0076】
(比較例6)
Ti:Siのモル比が1:2となるようにTiCl溶液を添加し(TiCl 14.5mL、Si(OC 55.6g、蒸溜水 120mL)、超臨界条件でノズルで噴射して得た物質を、脱イオン水を利用して反復洗浄し、110℃のオーブンで24時間乾燥させた。
【0077】
前記のように製造した各吸着剤に対して、吸着実験を常圧下で行った。4mgの吸着剤を充填した後、ヘリウムを50mL/分の流量で流しつつ400℃まで昇温させて1時間前処理を行った後、吸着温度である常温に温度を下降して吸着した。腐臭剤としては、TBMとTHTとを利用し、0.08mMの濃度で250,000hr−1の空間速度に供給した。
【0078】
脱着時、ヘリウムを40mL/分に流し、10℃/分の昇温速度に450℃まで昇温して脱着曲線を得た。その結果を下記の表1に整理した。
【0079】
【表1】

【0080】
前記表1に示すように、実施例の脱硫吸着剤は、比較例の吸着剤に比べて脱硫性能がはるかに優れるということが分かる。
【0081】
(実施例3)
水熱処理を25時間行った点を除いては、実施例1と同じ方法で脱硫吸着剤を製造した。
【0082】
(実施例4)
溶液のpHが10.6であり、水熱処理を16時間行った点を除いては、実施例1と同じ方法で脱硫吸着剤を製造した。
【0083】
(実施例5)
水熱処理を26時間行った点を除いては、実施例1と同じ方法で脱硫吸着剤を製造した。
【0084】
(実施例6)
水熱処理を15時間行った点を除いては、実施例1と同じ方法で脱硫吸着剤を製造した。
実施例1及び実施例3から6で製造した脱硫吸着剤に対して、XRD分析を行って相対的な結晶度を測定した。そして、前記で行ったものと同じ脱硫吸着実験を行って、その結果を下記の表2に整理した。
【0085】
【表2】

【0086】
前記表2に示した結晶度は、前記実施例1を基準として相対的な結晶度を示したものである。結晶度と硫吸着量との間に一定の関係があるということが前記表2を通じて分かる。これを分かるために、結晶度と硫吸着量との関係を図3にグラフで示した。
【0087】
結晶度と硫吸着量との間に直接的な比例関係があることを図3から推定できる。
【0088】
(実施例7)
AlCl・6HOの39.6gとNaOHの69.3gとを使用してAl:Tiのモル比を0.51:1にした点を除いては、実施例2と同じ方法で脱硫吸着剤を製造した。
【0089】
(実施例8)
AlCl・6HOの59.4gとNaOHの82.5gとを使用してAl:Tiのモル比を0.75:1にした点を除いては、実施例2と同じ方法で脱硫吸着剤を製造した。
【0090】
(実施例9)
ナトリウムイオン(NaNO)の12.75gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液に実施例2で製造した脱硫吸着剤の10gを添加した後、85℃で5時間イオン交換し、イオン交換された脱硫吸着剤を蒸溜水の200mLで3回ろ過した後、110℃のオーブンで16時間乾燥した。
【0091】
(実施例10)
ナトリウムイオン(NaNO)の12.75gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液の代わりに、カリウムイオン(KNO)の15.1gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液を使用した点を除いては、実施例9と同じ方法でイオン交換された脱硫吸着剤を製造した。
【0092】
(実施例11)
ナトリウムイオン(NaNO)の12.75gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液の代わりに、リチウムイオン(LiNO)の10.3gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液を使用した点を除いては、実施例9と同じ方法でイオン交換された脱硫吸着剤を製造した。
【0093】
(実施例12)
ナトリウムイオン(NaNO)の12.75gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液の代わりに、コバルトイオン(Co(NO・6HO)の4.35gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液を使用した点を除いては、実施例9と同じ方法でイオン交換された脱硫吸着剤を製造した。
【0094】
(実施例13)
ナトリウムイオン(NaNO)の12.75gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液の代わりに、ニッケルイオン(Ni(NO・6HO)の4.37gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液を使用した点を除いては、実施例9と同じ方法でイオン交換された脱硫吸着剤を製造した。
【0095】
(実施例14)
ナトリウムイオン(NaNO)の12.75gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液の代わりに、硝酸アンモニウム(NH(NO))の12gを蒸溜水の150mLに溶解させた溶液に実施例2で製造した脱硫吸着剤の10gを添加した後、85℃で5時間イオン交換し、イオン交換された脱硫吸着剤を蒸溜水の200mLで3回ろ過した後、110℃のオーブンで16時間乾燥した後、空気雰囲気で500℃で4時間焼成して水素イオンがイオン交換された脱硫吸着剤を製造した。
【0096】
実施例2及び実施例7から14で製造した脱硫吸着剤に対して、脱硫性能実験を行った。その結果を下記の表3に整理した。
【0097】
【表3】

【0098】
前記表3に示すように、Mに該当する陽イオンが水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、コバルトまたはニッケルのように単一の陽イオンに置換された場合に、ナトリウムとカリウムとがいずれも置換されている場合より吸着量が増加するということが分かる。
【0099】
本発明の脱硫吸着剤の再生能力を調べるために、実施例1と実施例2で製造した脱硫吸着剤を利用して吸着及び脱着実験を反復して行った。吸着及び脱着条件は、前述した通りであり、その結果を下記の表4に整理した。
【0100】
【表4】

【0101】
前記表4に示すように、吸着/脱離実験を反復して行っても、硫黄化合物の吸着性能がほぼ一定に維持されるということが分かる。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、燃料電池用の脱硫吸着剤関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】燃料電池用の燃料処理装置の構成を概念的に示す概念図である。
【図2A】実施例1及び実施例2で製造した脱硫吸着剤に対して行ったXRD分析結果を示すグラフである。
【図2B】実施例1及び実施例2で製造した脱硫吸着剤に対して行ったFT−IR分析結果を示すグラフである。
【図3】脱硫吸着剤の結晶度による吸着性能をテストした結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1の構造を有する結晶性の多孔性分子体であることを特徴とする、脱硫吸着剤。
(M−(Si)−(Ti)−(M−O ・・・(化学式1)
(ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、水素、アンモニウム、希土類または遷移金属のうちから選択される一つ以上であり、4≦x/y≦500であり、0≦z/y≦3であり、0<a/(y+z)≦1であり、Mは、B,Al,または3価金属である。)
【請求項2】
前記化学式1で、Mは、H,Li,Na,K,CoまたはNiのうちから選択される一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の脱硫吸着剤。
【請求項3】
前記化学式1で、4≦x/y≦10であることを特徴とする、請求項1に記載の脱硫吸着剤。
【請求項4】
前記化学式1で、5.0≦x/y≦6.5であることを特徴とする、請求項1に記載の脱硫吸着剤。
【請求項5】
前記化学式1で、0.2≦z/y≦0.8であることを特徴とする、請求項1に記載の脱硫吸着剤。
【請求項6】
請求項1から5のうちいずれか一項に記載の脱硫吸着剤に硫黄化合物を含む気体を接触させるステップを含むことを特徴とする、脱硫方法。
【請求項7】
前記ステップは、10℃から50℃の温度及び0.5気圧から2.5気圧の圧力で行われることを特徴とする、請求項6に記載の脱硫方法。
【請求項8】
請求項1から5のうちいずれか一項に記載の脱硫吸着剤に脱着気体をパージするステップを含むことを特徴とする、脱硫吸着剤の再生方法。
【請求項9】
前記パージステップは、100℃から500℃の温度で10分から12時間の間に行われることを特徴とする、請求項8に記載の脱硫吸着剤の再生方法。
【請求項10】
前記脱着気体は、空気、窒素、酸素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、メタン、エタン、二酸化炭素またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項8に記載の脱硫吸着剤の再生方法。
【請求項11】
請求項1から5のうちいずれか一項に記載の脱硫吸着剤を含む脱硫装置。
【請求項12】
請求項1から5のうちいずれか一項に記載の脱硫吸着剤を含む燃料電池システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−123269(P2007−123269A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287846(P2006−287846)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】