燃料電池用ガス拡散層およびそれを用いた燃料電池
【課題】高いガス拡散性と高剛性の双方を同時に満足できる燃料電池用ガス拡散層10を提供する。また、そのガス拡散層を備えた燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池用ガス拡散層10を、ガス拡散性が大きく低剛性であるカーボンクロス(第1の層)1と、第1の層1と比較してガス拡散性は小さいが高剛性であるカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー(第2の層)5の2層構造とする。このガス拡散層10は、ガス拡散性と高剛性の双方を満足するので、形成される燃料電池のI−V特性は大きく向上する。
【解決手段】燃料電池用ガス拡散層10を、ガス拡散性が大きく低剛性であるカーボンクロス(第1の層)1と、第1の層1と比較してガス拡散性は小さいが高剛性であるカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー(第2の層)5の2層構造とする。このガス拡散層10は、ガス拡散性と高剛性の双方を満足するので、形成される燃料電池のI−V特性は大きく向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜電極接合体で用いられるガス拡散層とそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子型燃料電池が知られている。固体高分子型燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(−30℃〜120℃程度)、また、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、図9に示すように、膜電極接合体(MEA)50を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路51および空気ガス流路51を備えたセパレータ52、52で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池53を形成している。膜電極接合体50は、イオン交換膜である固体高分子電解質膜55と、その両面に接合された触媒層56,56と気孔を有するガス拡散層57,57とからなるガス拡散電極58,58とで構成される。
【0004】
触媒層56の形成は、白金のような触媒金属をカーボン粒子材のような導電性材料の表面に担持させた粒子状の触媒物質と電解質樹脂とを、水または有機溶媒系の溶液内で分散させながら混合溶液(触媒物質含有インク)を作り、この混合溶液を固体高分子電解質膜に塗布した後、加熱乾燥して定着することにより行われる。ガス拡散層57は、ガス透過性と電子伝導性を合わせ備えるものであり、一般に、気孔を有するカーボンペーパーまたはカーボンクロスのような多孔性カーボン支持体が用いられている。ガス拡散層は発電時に生成する水の排水性を良好にするために高い撥水性を備えることが望ましく、通常、カーボンペーパーまたはカーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させる撥水化処理が施される。
【0005】
また、ガス拡散層となる多孔性カーボン支持体は、ガスの拡散性と共に、触媒層で生成する水の排出性と触媒層への保水性の双方を満足する必要があるという観点から、特許文献1には、ガス拡散層として機能するカーボン支持体を、糸間間隔が狭い第1カーボン支持体層と糸間間隔が広い第2カーボン支持体層とからなるカーボンクロスで構成することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−173789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カーボン長繊維の織物であるカーボンクロスは、燃料電池用のガス拡散層として使用した場合、良好なガス拡散性が得られる。しかし、織物であることから高い剛性が得られない。また、ガス拡散性を良好にするためには空隙率を大とする方がよいが、空隙率が大きくなるほど剛性は小さくなる。そのような低剛性のカーボンクロスをガス拡散層として用いる場合、次のような不都合が生じる。
【0008】
すなわち、図10に模式的に示すように、ガス拡散層57は、セパレータ52のガス通路51でない領域54でもって、触媒層56側に押し付けられているが、ガス流路51に面する部分では、充分な押圧力がなく、かつガス拡散層57を構成するカーボンクロスが低剛性であることから、カーボンクロス(ガス拡散層57)にたわみが生じてその領域で浮き領域Aが発生する。そのような浮きが発生すると、電子移動抵抗であるガス拡散層と触媒層の間の接触抵抗が大となり、発電性能の低下を招く。図11は、面圧とガス拡散層−触媒層間接触抵抗の関係を示すグラフであり、押し付ける力(面圧)が低いと、ガス拡散層−触媒層間接触抵抗が増大し、ある程度の大きさ以上の面圧となると、接触抵抗はほとんど変わらない。
【0009】
上記の不都合は、高い剛性のガス拡散層を用いることで回避できる。高剛性のガス拡散層の一例として、カーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパーが挙げられる。しかし、カーボンペーパーは高剛性ではあるものの、一般に気孔率の関係からガス拡散性が充分でなく、カーボンペーパー単独でガス拡散層とすると、ガス拡散性が不十分となり、燃料電池として高いI−V特性が得られない。
【0010】
特許文献1に記載のように、糸間間隔が異なる2つの層からなるカーボンクロスをガス拡散層として用いる場合には、ガス拡散性を確保しながらある程度剛性の高いものとすることができる。しかし、カーボンクロスすなわちカーボン長繊維の織物である以上、前記した浮きが生じるのを完全に押さえ得る程度に高い剛性を得ることができず、ガス拡散層−触媒層間での接触抵抗が大きくなるのを避けられない。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、高いガス拡散性と高剛性の双方を同時に満足できる燃料電池用ガス拡散層を提供すること、およびそのガス拡散層を備えた燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による燃料電池用ガス拡散層は、ガス拡散性が大きく低剛性である第1の層と、前記第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性である第2層の2層構造であることを特徴とする。
【0013】
上記のように2層構造とすることにより、前記第1の層のみで作る従来のガス拡散層と比較して、ガス拡散性をほぼ同等に維持しながら、より高い剛性を備えたガス拡散層とすることができる。
【0014】
本発明による燃料電池用ガス拡散層の好ましい態様では、前記第1の層はカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス層であり、前記第2の層はカーボン短繊維がランダカーボンフェルト、不織布のような材料を、第2の層としては金属メッシュのような材料を用いることもできる。
【0015】
本発明による燃料電池用ガス拡散層において、前記第1の層の曲げ弾性率が5GPa未満、例えば0.2GPa程度であり、前記第2の層の曲げ弾性率が5〜50GPaであることが好ましい。第2の層の曲げ弾性率が5GPa未満である場合には、燃料電池のガス拡散層として用いたとき、ガス拡散層の接触抵抗を小さくできるだけの高い剛性が得られない。曲げ弾性率が50GPaを越える場合には、柔軟性に欠き、燃料電池として組み付けるときに破損等が起こる恐れがある。第1の層の曲げ弾性率が5GPaを越えると、2層構造とした場合、ガス拡散層同士の密着性が低下してしまい、接触抵抗が悪化する。
【0016】
本発明による燃料電池用ガス拡散層において、好ましくは、前記第2の層は前記第1の層との接合面と反対側の面である表面側に塗布された多孔質層を備える。多孔質層の具体例しては、撥水層として機能する、PTFE樹脂にカーボン短繊維を混和した溶液を塗布して形成した層を挙げることができる。高剛性層である第2の層に前記多孔質層を形成することにより、前記第1の層のみで作る従来のガス拡散層の場合のように、比較して低剛性である層に前記多孔質層を塗布形成する場合と比較して、均一な厚さの多孔質層が形成でき、さらに、焼成時等において多孔質層にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0017】
本発明は、さらに、電解質膜と前記電解質膜の両面に形成した一対のガス拡散電極とからなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、とを備える膜電極積層体であって、前記ガス拡散電極は前記電解質膜側に面する触媒層と前記セパレータ側に面するガス拡散層とを備え、前記ガス拡散層は上記したいずれか1項に記載のガス拡散層であることを特徴とする燃料電池、をも開示する。
【0018】
上記の燃料電池では、使用したガス拡散層において、ガス拡散性と剛性との両立が可能であり、ガス拡散層−セパレータ間、およびガス拡散層−触媒層間の双方での接触抵抗を低減することができる。そのために、高いI−V特性を備えた燃料電池となる。また、触媒層側に低ガス拡散性層を設けたことにより、低加湿条件で運転したときの触媒層の乾燥を防止できる効果もある。ガス拡散層として、前記第2の層が第1の層との接合面と反対側の面である表面側に多孔質層を備えたものを用いる場合には、多孔質層の厚さがほぼ均一であり、かつ多孔質層にクラックが発生するのが抑制されることから、高いI−V特性およびフラッティングを防止した燃料電池が得られる。
【0019】
本発明による燃料電池の好ましい態様において、前記ガス拡散層における前記第2の層は前記触媒層とほぼ同じ面積であり、前記第1の層は前記第2の層より広い面積であって、前記ガス拡散層は、前記第2の層が前記触媒層に面するようにして配置され、かつ前記第1の層の外周の縁で前記電解質膜に固定されていることを特徴とする。
【0020】
この態様の燃料電池では、電解質膜に対するガス拡散層の固定は、発電部位である触媒層と前記第2の層との接触領域では接着剤を使用せず、低剛性である前記第1の層の外周の縁のみを電解質膜に固定することにより行っており、I−V特性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高いガス拡散性と高剛性の双方を同時に満足できる燃料電池用ガス拡散層が得られる。そのために、本発明によるガス拡散層を備えた燃料電池は、高いI−V特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付の図1〜図8を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。なお、以下の説明では、燃料電池用ガス拡散層を構成する、前記「ガス拡散性が大きく低剛性である第1の層」の例としてカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス層を用い、「第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性である第2層」の例としてカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー層を用いる場合について説明するが、第1の層および第2の層の素材はこれに限らない。
【0023】
図1(a)は、カーボン長繊維の織物であるカーボンクロス材を示している。この例で、カーボンクロス材1は、縦糸2と横糸3の平織り物であり、目開きは10〜1000μm、例えば60μm程度(目付け10〜400g/m2、例えば120g/m2程度)である。カーボン長繊維を平織りしたカーボンクロス材1は、縦糸2と横糸3が交叉する部位で、一方の繊維が他方の繊維の上部か下部を通る必要があるために、繊維がピンと張られた状態にはならず、剛性はどうしても低下する。例えば、曲げ剛性は0.2GPa程度である。しかし、所望の目開きのものを得ることができ、高い空隙率が達成できるので、ガス拡散層の部材として用いる場合に、所望の大きなガス拡散性が得られる。
【0024】
図1(b)は、カーボン短繊維6がランダム配向したカーボンペーパー材5を示している。カーボンペーパー材5は、長さ1〜60mm、例えば30mm程度のカーボン短繊維6を紙すきの要領ですくことにより得られるものであり、カーボンクロス材1と比較して高剛性(例えば、曲げ剛性が10〜30GPa程度)のものを容易に得ることができる。但し、空隙率はカーボンクロス材1と比較して小さい。
【0025】
上記したカーボンクロス材1とカーボンペーパー材5を積層することにより、本発明によるガス拡散層10が形成される。必要に応じて、カーボンペーパー材5の表面側、すなわち、カーボンクロス材1との接合面の反対側の面に、PTFE樹脂にカーボン短繊維を混和した溶液を塗布して、撥水層として機能する多孔質層11を形成する(図3も参照)。このように多孔質層11を形成することにより、ガス拡散層10のカーボンペーパー材5の表面側は平坦面となる。
【0026】
図2は、上記のカーボンクロス材1とカーボンペーパー材5を用いて、膜電極接合体20を製造する一例を示している。図2(a)に示すように、最初に、所要の大きさの電解質膜15の両面に、アノード触媒層16(およびカソード触媒層16)を、例えば熱プレスによる転写によって形成する。電解質膜15および触媒層16の材料は、従来知られたものであってよい。また、電解質膜15に対する触媒層16の形成は、いわゆる触媒物質含有インクを塗布することによって行ってもよい。
【0027】
次に、図2(b)に示すように、形成したアノード触媒層16(およびカソード触媒層)16の上に、各触媒層の大きさとほぼ同じ大きさに切断した前記したカーボンペーパー材5(5)を第2の層として置く。必須ではないが、好ましくは、各カーボンペーパー材5(5)の触媒層16と接する面には、予め、PTFE樹脂にカーボン短繊維を混和した溶液を塗布し、表面が平坦面である撥水層として機能する多孔質層11を形成しておく。
【0028】
次に、図2(c)に示すように、各カーボンペーパー材5、5の上に、それよりも大きな寸法である前記したカーボンクロス材1を第1の層として置く。そして、カーボンクロス材1の周囲の縁部17を電解質膜15に対して固定する。それにより、図3に示すように、電解質膜15の両面に、触媒層16とガス拡散層10とからなるガス拡散電極19,19を積層した膜電極接合体20が得られる。なお、カーボンクロス材1の縁部17を電解質膜15に固定するには、カーボンクロス材1の周囲の縁部17を、例えば、温度130℃、圧力4MPa、時間4分というような条件での熱プレスによってもよく、カーボンクロス材1の周囲の縁部17に接着剤を塗布して固定してもよい。
【0029】
このようにして製造された膜電極接合体20では、触媒層16の上に、多孔質層11を形成することにより表面が平滑化した高剛性のカーボンペーパー材5(第2の層)が接着剤を用いることなく積層しており、触媒層16とカーボンペーパー材5との間の接触抵抗を低減することができる。
【0030】
また、ガス拡散層10は、高空隙率であってガス拡散性が大きく低剛性のカーボンクロス材1(第1の層)と、低空隙率であってガス拡散性が小さく高剛性のカーボンペーパー材5の2層構成であることから、所望のガス拡散性と所望の高剛性を備えたガス拡散層10とすることができる。そのために、膜電極接合体20の両側を図9に示すように、ガス流路51を備えたセパレータ52,52で挟持して、燃料電池(セル)53としたときに、前記図10に基づき説明したような浮いてしまう箇所Aが生じることがない。そのために、ガス拡散層10−セパレータ52の間、およびガス拡散層10−触媒層16の間の双方において、接触抵抗の低減を図ることができる。さらに、所望のガス拡散性を確保することができるので、触媒層16に充分にガスを供給することができ、高性能な燃料電池を実現することができる。また、触媒層16側に低ガス拡散性であるカーボンペーパー材5を設けたことにより、低加湿条件で運転した際の触媒層16の乾燥を防止することもできる。
【0031】
さらに、前記のように、カーボンペーパー材5の触媒層16に面する側に、多孔質層11を形成する構成の場合、塗布形成する多孔質層11の厚さを均一にすることができ、かつクラックが発生するのも防止することができる。そのために、高いI−V特性およびフラッティングを防止した燃料電池が得られる。ちなみに、カーボンクロス材1のみでガス拡散層を形成する場合には、目開きが大きいことから、形成される多孔質層11の厚さが不均一となりやすく(繊維のある部位では厚く、繊維のない部位では薄くなる)、ガスの供給が不均一となる恐れがある。また、カーボンクロス材に多孔質層11を塗布し、焼成すると、繊維のない箇所では焼成、冷却時に、変形が大きいため、図4の写真に示すように、クラックがどうしても生じてしまう。クラックが生じると、そこに水が溜まりやすくなり、フラッティングが発生しやすくなる。このようなクラックの発生量は、製品ごとに異なるために、製品バラツキが大きくなりやすい。前記したように、本発明による2層構成のガス拡散層10を用いた膜電極接合体20、および燃料電池では、上記の不都合をすべて効果的に解決することができる。
【0032】
さらに、高剛性であるカーボンペーパー材5単独でガス拡散層を形成する場合には、セパレータの山部で押し付けられたときに、山部と溝部との境界近傍で割れが生じやすい。本発明による2層構成のガス拡散層10では、クッションの役割をするカーボンクロス層(第1の層)1が介在しており、ガス拡散層10は柔らかいものでセパレータと接触するために、カーボンペーパー材5である第2の層に割れは生じにくく、また、柔らかい材料を挟み、押すことにより、セパレータとガス拡散層10がどの部位でも均一な面圧で押し付けることが可能となる。それらのことから、本発明による燃料電池は高いI−V特性が達成される。
【0033】
次に、図3に示した膜電接合体20を用いた本発明による燃料電池(本発明)と、ガス拡散層をカーボンクロス材のみで形成した膜電接合体を用いた燃料電池(従来)とを用いて、実験を行った結果を説明する。図5は、それぞれのミニサイズセル(14cm2)を作成し、同じ運転条件で、すなわち、セル温度:80℃、バブラー温度:アノード側80℃、カソード側80℃、圧力:0.1MPa、で発電を行ったときの、I−V特性を示すグラブである。図5に示すように、0.6Vの電流密度で約0.1A/cm2の性能向上が図られているのがわかる。
【0034】
図6は、実験で用いた本発明による燃料電池(本発明)と比較例である前記燃料電池(従来)とにおける、トータルの接触抵抗、すなわち、(ガス拡散層−セパレータ間接触抵抗)+(ガス拡散層−触媒層間接触抵抗)の違いを示すグラフである。グラフが示すように、比較例の燃料電池(従来)はトータルの接触抵抗が約80mΩ・cm2であるのに対して、本発明による燃料電池(本発明)のトータルの接触抵抗が約50mΩ・cm2程度に小さくなっており、この接触抵抗の低下が、図5に示したI−V特性の性能向上をもたらしたものと推測できる。
【0035】
図7は、実験で用いた本発明による燃料電池(本発明)と比較例である前記燃料電池(従来)とにおける、触媒層−撥水層(多項質層11)界面酸素濃度の違いを示すグラフであり、0.6Vでの酸素濃度(全面積の平均値)のCAE解析値である。なお、実験時での流路入口での酸素濃度は11mol/m3とした。本発明による燃料電池では、ガス拡散層の構成の一部にガス拡散性は小さいカーボンペーパーを用いているが、実際の運転時において、それはガスの拡散性に大きな影響を与えていないことが、図7のグラフからわる。
【0036】
図8は、図6に基づき説明したガス拡散層の曲げ弾性率と接触抵抗、図7に基づき説明した酸素濃度、および図5に基づき説明した電流密度@0.6Vとの一般的な関係を示すグラフである。グラフから、ガス拡散層の曲げ弾性率を高めることで、接触抵抗を低減することができるが、酸素の拡散が少し悪くなり、拡散層−触媒層界面の酸素濃度は少しずつ低下することがわかる。本発明による燃料電池(本発明)のように、接触抵抗が小さく、酸素濃度が多い部位である曲げ弾性率としては中央付近で、I−V特性(電流密度@0.6V)が高まることがいえる。ガス拡散層をカーボンクロス材のみで形成した膜電接合体を用いた燃料電池(従来)では、グラフで高剛性無し(従来)として示すように、拡散層の前記したトータルの接触抵抗が大きくなることから、拡散層−触媒層界面の酸素濃度が高くても良好なI−V性能が得られないことがここでも示される。
【0037】
なお、上記では、膜電極接合体20の形態を、ガス拡散層10の周縁を触媒層16を積層した電解質膜15に固定する形態としたために、低剛性であるカーボンクロス層(第1の層)1を外側層としたガス拡散層10を説明したが、図9に示しように、触媒層の上にガス拡散層を単に積層する形態の膜電極接合体の場合には、ガス拡散性が大きく低剛性であるカーボンクロス層(第1の層)1と、第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性であるカーボンペーパー層(第2層)5が反転していても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1(a)はカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス材を、図1(b)はカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー材を説明するための図。
【図2】膜電極接合体を製造する工程を説明するための模式的な図。
【図3】膜電極接合体の一例を断面で示す模式的な図。
【図4】カーボンクロス材に多孔質層を形成したときの状態の一例を示す写真。
【図5】燃料電池(本発明)と比較例である燃料電池(従来)のI−V特性を示すグラフ。
【図6】燃料電池(本発明)と比較例である燃料電池(従来)のガス拡散層に係るトータルの接触抵抗を示すグラフ。
【図7】燃料電池(本発明)と比較例である燃料電池(従来)の触媒層−撥水層界面酸素濃度を示すグラフ。
【図8】ガス拡散層の曲げ弾性率と接触抵抗、酸素濃度、および電流密度との関係を示すグラフ。
【図9】固体高分子型燃料電池を説明するための模式的断面図。
【図10】従来のガス拡散層を備える燃料電池でのガス拡散層に係る接触抵抗の増大を説明するための模式図。
【図11】面圧とガス拡散層−触媒層間接触抵抗の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0039】
1…カーボンクロス材(第1の層)、2…縦糸、3…横糸、5…カーボンペーパー材(第2の層)、6…カーボン短繊維、10…ガス拡散層、11…撥水層として機能する多孔質層、15…電解質膜、16…触媒層、17…カーボンクロス材の周囲の縁部、19…ガス拡散電極、20…膜電極接合体
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜電極接合体で用いられるガス拡散層とそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子型燃料電池が知られている。固体高分子型燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(−30℃〜120℃程度)、また、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、図9に示すように、膜電極接合体(MEA)50を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路51および空気ガス流路51を備えたセパレータ52、52で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池53を形成している。膜電極接合体50は、イオン交換膜である固体高分子電解質膜55と、その両面に接合された触媒層56,56と気孔を有するガス拡散層57,57とからなるガス拡散電極58,58とで構成される。
【0004】
触媒層56の形成は、白金のような触媒金属をカーボン粒子材のような導電性材料の表面に担持させた粒子状の触媒物質と電解質樹脂とを、水または有機溶媒系の溶液内で分散させながら混合溶液(触媒物質含有インク)を作り、この混合溶液を固体高分子電解質膜に塗布した後、加熱乾燥して定着することにより行われる。ガス拡散層57は、ガス透過性と電子伝導性を合わせ備えるものであり、一般に、気孔を有するカーボンペーパーまたはカーボンクロスのような多孔性カーボン支持体が用いられている。ガス拡散層は発電時に生成する水の排水性を良好にするために高い撥水性を備えることが望ましく、通常、カーボンペーパーまたはカーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させる撥水化処理が施される。
【0005】
また、ガス拡散層となる多孔性カーボン支持体は、ガスの拡散性と共に、触媒層で生成する水の排出性と触媒層への保水性の双方を満足する必要があるという観点から、特許文献1には、ガス拡散層として機能するカーボン支持体を、糸間間隔が狭い第1カーボン支持体層と糸間間隔が広い第2カーボン支持体層とからなるカーボンクロスで構成することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−173789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カーボン長繊維の織物であるカーボンクロスは、燃料電池用のガス拡散層として使用した場合、良好なガス拡散性が得られる。しかし、織物であることから高い剛性が得られない。また、ガス拡散性を良好にするためには空隙率を大とする方がよいが、空隙率が大きくなるほど剛性は小さくなる。そのような低剛性のカーボンクロスをガス拡散層として用いる場合、次のような不都合が生じる。
【0008】
すなわち、図10に模式的に示すように、ガス拡散層57は、セパレータ52のガス通路51でない領域54でもって、触媒層56側に押し付けられているが、ガス流路51に面する部分では、充分な押圧力がなく、かつガス拡散層57を構成するカーボンクロスが低剛性であることから、カーボンクロス(ガス拡散層57)にたわみが生じてその領域で浮き領域Aが発生する。そのような浮きが発生すると、電子移動抵抗であるガス拡散層と触媒層の間の接触抵抗が大となり、発電性能の低下を招く。図11は、面圧とガス拡散層−触媒層間接触抵抗の関係を示すグラフであり、押し付ける力(面圧)が低いと、ガス拡散層−触媒層間接触抵抗が増大し、ある程度の大きさ以上の面圧となると、接触抵抗はほとんど変わらない。
【0009】
上記の不都合は、高い剛性のガス拡散層を用いることで回避できる。高剛性のガス拡散層の一例として、カーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパーが挙げられる。しかし、カーボンペーパーは高剛性ではあるものの、一般に気孔率の関係からガス拡散性が充分でなく、カーボンペーパー単独でガス拡散層とすると、ガス拡散性が不十分となり、燃料電池として高いI−V特性が得られない。
【0010】
特許文献1に記載のように、糸間間隔が異なる2つの層からなるカーボンクロスをガス拡散層として用いる場合には、ガス拡散性を確保しながらある程度剛性の高いものとすることができる。しかし、カーボンクロスすなわちカーボン長繊維の織物である以上、前記した浮きが生じるのを完全に押さえ得る程度に高い剛性を得ることができず、ガス拡散層−触媒層間での接触抵抗が大きくなるのを避けられない。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、高いガス拡散性と高剛性の双方を同時に満足できる燃料電池用ガス拡散層を提供すること、およびそのガス拡散層を備えた燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による燃料電池用ガス拡散層は、ガス拡散性が大きく低剛性である第1の層と、前記第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性である第2層の2層構造であることを特徴とする。
【0013】
上記のように2層構造とすることにより、前記第1の層のみで作る従来のガス拡散層と比較して、ガス拡散性をほぼ同等に維持しながら、より高い剛性を備えたガス拡散層とすることができる。
【0014】
本発明による燃料電池用ガス拡散層の好ましい態様では、前記第1の層はカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス層であり、前記第2の層はカーボン短繊維がランダカーボンフェルト、不織布のような材料を、第2の層としては金属メッシュのような材料を用いることもできる。
【0015】
本発明による燃料電池用ガス拡散層において、前記第1の層の曲げ弾性率が5GPa未満、例えば0.2GPa程度であり、前記第2の層の曲げ弾性率が5〜50GPaであることが好ましい。第2の層の曲げ弾性率が5GPa未満である場合には、燃料電池のガス拡散層として用いたとき、ガス拡散層の接触抵抗を小さくできるだけの高い剛性が得られない。曲げ弾性率が50GPaを越える場合には、柔軟性に欠き、燃料電池として組み付けるときに破損等が起こる恐れがある。第1の層の曲げ弾性率が5GPaを越えると、2層構造とした場合、ガス拡散層同士の密着性が低下してしまい、接触抵抗が悪化する。
【0016】
本発明による燃料電池用ガス拡散層において、好ましくは、前記第2の層は前記第1の層との接合面と反対側の面である表面側に塗布された多孔質層を備える。多孔質層の具体例しては、撥水層として機能する、PTFE樹脂にカーボン短繊維を混和した溶液を塗布して形成した層を挙げることができる。高剛性層である第2の層に前記多孔質層を形成することにより、前記第1の層のみで作る従来のガス拡散層の場合のように、比較して低剛性である層に前記多孔質層を塗布形成する場合と比較して、均一な厚さの多孔質層が形成でき、さらに、焼成時等において多孔質層にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0017】
本発明は、さらに、電解質膜と前記電解質膜の両面に形成した一対のガス拡散電極とからなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、とを備える膜電極積層体であって、前記ガス拡散電極は前記電解質膜側に面する触媒層と前記セパレータ側に面するガス拡散層とを備え、前記ガス拡散層は上記したいずれか1項に記載のガス拡散層であることを特徴とする燃料電池、をも開示する。
【0018】
上記の燃料電池では、使用したガス拡散層において、ガス拡散性と剛性との両立が可能であり、ガス拡散層−セパレータ間、およびガス拡散層−触媒層間の双方での接触抵抗を低減することができる。そのために、高いI−V特性を備えた燃料電池となる。また、触媒層側に低ガス拡散性層を設けたことにより、低加湿条件で運転したときの触媒層の乾燥を防止できる効果もある。ガス拡散層として、前記第2の層が第1の層との接合面と反対側の面である表面側に多孔質層を備えたものを用いる場合には、多孔質層の厚さがほぼ均一であり、かつ多孔質層にクラックが発生するのが抑制されることから、高いI−V特性およびフラッティングを防止した燃料電池が得られる。
【0019】
本発明による燃料電池の好ましい態様において、前記ガス拡散層における前記第2の層は前記触媒層とほぼ同じ面積であり、前記第1の層は前記第2の層より広い面積であって、前記ガス拡散層は、前記第2の層が前記触媒層に面するようにして配置され、かつ前記第1の層の外周の縁で前記電解質膜に固定されていることを特徴とする。
【0020】
この態様の燃料電池では、電解質膜に対するガス拡散層の固定は、発電部位である触媒層と前記第2の層との接触領域では接着剤を使用せず、低剛性である前記第1の層の外周の縁のみを電解質膜に固定することにより行っており、I−V特性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高いガス拡散性と高剛性の双方を同時に満足できる燃料電池用ガス拡散層が得られる。そのために、本発明によるガス拡散層を備えた燃料電池は、高いI−V特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付の図1〜図8を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。なお、以下の説明では、燃料電池用ガス拡散層を構成する、前記「ガス拡散性が大きく低剛性である第1の層」の例としてカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス層を用い、「第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性である第2層」の例としてカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー層を用いる場合について説明するが、第1の層および第2の層の素材はこれに限らない。
【0023】
図1(a)は、カーボン長繊維の織物であるカーボンクロス材を示している。この例で、カーボンクロス材1は、縦糸2と横糸3の平織り物であり、目開きは10〜1000μm、例えば60μm程度(目付け10〜400g/m2、例えば120g/m2程度)である。カーボン長繊維を平織りしたカーボンクロス材1は、縦糸2と横糸3が交叉する部位で、一方の繊維が他方の繊維の上部か下部を通る必要があるために、繊維がピンと張られた状態にはならず、剛性はどうしても低下する。例えば、曲げ剛性は0.2GPa程度である。しかし、所望の目開きのものを得ることができ、高い空隙率が達成できるので、ガス拡散層の部材として用いる場合に、所望の大きなガス拡散性が得られる。
【0024】
図1(b)は、カーボン短繊維6がランダム配向したカーボンペーパー材5を示している。カーボンペーパー材5は、長さ1〜60mm、例えば30mm程度のカーボン短繊維6を紙すきの要領ですくことにより得られるものであり、カーボンクロス材1と比較して高剛性(例えば、曲げ剛性が10〜30GPa程度)のものを容易に得ることができる。但し、空隙率はカーボンクロス材1と比較して小さい。
【0025】
上記したカーボンクロス材1とカーボンペーパー材5を積層することにより、本発明によるガス拡散層10が形成される。必要に応じて、カーボンペーパー材5の表面側、すなわち、カーボンクロス材1との接合面の反対側の面に、PTFE樹脂にカーボン短繊維を混和した溶液を塗布して、撥水層として機能する多孔質層11を形成する(図3も参照)。このように多孔質層11を形成することにより、ガス拡散層10のカーボンペーパー材5の表面側は平坦面となる。
【0026】
図2は、上記のカーボンクロス材1とカーボンペーパー材5を用いて、膜電極接合体20を製造する一例を示している。図2(a)に示すように、最初に、所要の大きさの電解質膜15の両面に、アノード触媒層16(およびカソード触媒層16)を、例えば熱プレスによる転写によって形成する。電解質膜15および触媒層16の材料は、従来知られたものであってよい。また、電解質膜15に対する触媒層16の形成は、いわゆる触媒物質含有インクを塗布することによって行ってもよい。
【0027】
次に、図2(b)に示すように、形成したアノード触媒層16(およびカソード触媒層)16の上に、各触媒層の大きさとほぼ同じ大きさに切断した前記したカーボンペーパー材5(5)を第2の層として置く。必須ではないが、好ましくは、各カーボンペーパー材5(5)の触媒層16と接する面には、予め、PTFE樹脂にカーボン短繊維を混和した溶液を塗布し、表面が平坦面である撥水層として機能する多孔質層11を形成しておく。
【0028】
次に、図2(c)に示すように、各カーボンペーパー材5、5の上に、それよりも大きな寸法である前記したカーボンクロス材1を第1の層として置く。そして、カーボンクロス材1の周囲の縁部17を電解質膜15に対して固定する。それにより、図3に示すように、電解質膜15の両面に、触媒層16とガス拡散層10とからなるガス拡散電極19,19を積層した膜電極接合体20が得られる。なお、カーボンクロス材1の縁部17を電解質膜15に固定するには、カーボンクロス材1の周囲の縁部17を、例えば、温度130℃、圧力4MPa、時間4分というような条件での熱プレスによってもよく、カーボンクロス材1の周囲の縁部17に接着剤を塗布して固定してもよい。
【0029】
このようにして製造された膜電極接合体20では、触媒層16の上に、多孔質層11を形成することにより表面が平滑化した高剛性のカーボンペーパー材5(第2の層)が接着剤を用いることなく積層しており、触媒層16とカーボンペーパー材5との間の接触抵抗を低減することができる。
【0030】
また、ガス拡散層10は、高空隙率であってガス拡散性が大きく低剛性のカーボンクロス材1(第1の層)と、低空隙率であってガス拡散性が小さく高剛性のカーボンペーパー材5の2層構成であることから、所望のガス拡散性と所望の高剛性を備えたガス拡散層10とすることができる。そのために、膜電極接合体20の両側を図9に示すように、ガス流路51を備えたセパレータ52,52で挟持して、燃料電池(セル)53としたときに、前記図10に基づき説明したような浮いてしまう箇所Aが生じることがない。そのために、ガス拡散層10−セパレータ52の間、およびガス拡散層10−触媒層16の間の双方において、接触抵抗の低減を図ることができる。さらに、所望のガス拡散性を確保することができるので、触媒層16に充分にガスを供給することができ、高性能な燃料電池を実現することができる。また、触媒層16側に低ガス拡散性であるカーボンペーパー材5を設けたことにより、低加湿条件で運転した際の触媒層16の乾燥を防止することもできる。
【0031】
さらに、前記のように、カーボンペーパー材5の触媒層16に面する側に、多孔質層11を形成する構成の場合、塗布形成する多孔質層11の厚さを均一にすることができ、かつクラックが発生するのも防止することができる。そのために、高いI−V特性およびフラッティングを防止した燃料電池が得られる。ちなみに、カーボンクロス材1のみでガス拡散層を形成する場合には、目開きが大きいことから、形成される多孔質層11の厚さが不均一となりやすく(繊維のある部位では厚く、繊維のない部位では薄くなる)、ガスの供給が不均一となる恐れがある。また、カーボンクロス材に多孔質層11を塗布し、焼成すると、繊維のない箇所では焼成、冷却時に、変形が大きいため、図4の写真に示すように、クラックがどうしても生じてしまう。クラックが生じると、そこに水が溜まりやすくなり、フラッティングが発生しやすくなる。このようなクラックの発生量は、製品ごとに異なるために、製品バラツキが大きくなりやすい。前記したように、本発明による2層構成のガス拡散層10を用いた膜電極接合体20、および燃料電池では、上記の不都合をすべて効果的に解決することができる。
【0032】
さらに、高剛性であるカーボンペーパー材5単独でガス拡散層を形成する場合には、セパレータの山部で押し付けられたときに、山部と溝部との境界近傍で割れが生じやすい。本発明による2層構成のガス拡散層10では、クッションの役割をするカーボンクロス層(第1の層)1が介在しており、ガス拡散層10は柔らかいものでセパレータと接触するために、カーボンペーパー材5である第2の層に割れは生じにくく、また、柔らかい材料を挟み、押すことにより、セパレータとガス拡散層10がどの部位でも均一な面圧で押し付けることが可能となる。それらのことから、本発明による燃料電池は高いI−V特性が達成される。
【0033】
次に、図3に示した膜電接合体20を用いた本発明による燃料電池(本発明)と、ガス拡散層をカーボンクロス材のみで形成した膜電接合体を用いた燃料電池(従来)とを用いて、実験を行った結果を説明する。図5は、それぞれのミニサイズセル(14cm2)を作成し、同じ運転条件で、すなわち、セル温度:80℃、バブラー温度:アノード側80℃、カソード側80℃、圧力:0.1MPa、で発電を行ったときの、I−V特性を示すグラブである。図5に示すように、0.6Vの電流密度で約0.1A/cm2の性能向上が図られているのがわかる。
【0034】
図6は、実験で用いた本発明による燃料電池(本発明)と比較例である前記燃料電池(従来)とにおける、トータルの接触抵抗、すなわち、(ガス拡散層−セパレータ間接触抵抗)+(ガス拡散層−触媒層間接触抵抗)の違いを示すグラフである。グラフが示すように、比較例の燃料電池(従来)はトータルの接触抵抗が約80mΩ・cm2であるのに対して、本発明による燃料電池(本発明)のトータルの接触抵抗が約50mΩ・cm2程度に小さくなっており、この接触抵抗の低下が、図5に示したI−V特性の性能向上をもたらしたものと推測できる。
【0035】
図7は、実験で用いた本発明による燃料電池(本発明)と比較例である前記燃料電池(従来)とにおける、触媒層−撥水層(多項質層11)界面酸素濃度の違いを示すグラフであり、0.6Vでの酸素濃度(全面積の平均値)のCAE解析値である。なお、実験時での流路入口での酸素濃度は11mol/m3とした。本発明による燃料電池では、ガス拡散層の構成の一部にガス拡散性は小さいカーボンペーパーを用いているが、実際の運転時において、それはガスの拡散性に大きな影響を与えていないことが、図7のグラフからわる。
【0036】
図8は、図6に基づき説明したガス拡散層の曲げ弾性率と接触抵抗、図7に基づき説明した酸素濃度、および図5に基づき説明した電流密度@0.6Vとの一般的な関係を示すグラフである。グラフから、ガス拡散層の曲げ弾性率を高めることで、接触抵抗を低減することができるが、酸素の拡散が少し悪くなり、拡散層−触媒層界面の酸素濃度は少しずつ低下することがわかる。本発明による燃料電池(本発明)のように、接触抵抗が小さく、酸素濃度が多い部位である曲げ弾性率としては中央付近で、I−V特性(電流密度@0.6V)が高まることがいえる。ガス拡散層をカーボンクロス材のみで形成した膜電接合体を用いた燃料電池(従来)では、グラフで高剛性無し(従来)として示すように、拡散層の前記したトータルの接触抵抗が大きくなることから、拡散層−触媒層界面の酸素濃度が高くても良好なI−V性能が得られないことがここでも示される。
【0037】
なお、上記では、膜電極接合体20の形態を、ガス拡散層10の周縁を触媒層16を積層した電解質膜15に固定する形態としたために、低剛性であるカーボンクロス層(第1の層)1を外側層としたガス拡散層10を説明したが、図9に示しように、触媒層の上にガス拡散層を単に積層する形態の膜電極接合体の場合には、ガス拡散性が大きく低剛性であるカーボンクロス層(第1の層)1と、第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性であるカーボンペーパー層(第2層)5が反転していても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1(a)はカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス材を、図1(b)はカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー材を説明するための図。
【図2】膜電極接合体を製造する工程を説明するための模式的な図。
【図3】膜電極接合体の一例を断面で示す模式的な図。
【図4】カーボンクロス材に多孔質層を形成したときの状態の一例を示す写真。
【図5】燃料電池(本発明)と比較例である燃料電池(従来)のI−V特性を示すグラフ。
【図6】燃料電池(本発明)と比較例である燃料電池(従来)のガス拡散層に係るトータルの接触抵抗を示すグラフ。
【図7】燃料電池(本発明)と比較例である燃料電池(従来)の触媒層−撥水層界面酸素濃度を示すグラフ。
【図8】ガス拡散層の曲げ弾性率と接触抵抗、酸素濃度、および電流密度との関係を示すグラフ。
【図9】固体高分子型燃料電池を説明するための模式的断面図。
【図10】従来のガス拡散層を備える燃料電池でのガス拡散層に係る接触抵抗の増大を説明するための模式図。
【図11】面圧とガス拡散層−触媒層間接触抵抗の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0039】
1…カーボンクロス材(第1の層)、2…縦糸、3…横糸、5…カーボンペーパー材(第2の層)、6…カーボン短繊維、10…ガス拡散層、11…撥水層として機能する多孔質層、15…電解質膜、16…触媒層、17…カーボンクロス材の周囲の縁部、19…ガス拡散電極、20…膜電極接合体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用ガス拡散層であって、ガス拡散性が大きく低剛性である第1の層と、前記第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性である第2層の2層構造であることを特徴とするガス拡散層。
【請求項2】
前記第1の層はカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス層であり、前記第2の層はカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー層であることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
前記第1の層の曲げ弾性率が5GPa未満であり、前記第2の層の曲げ弾性率が5〜50GPaであることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
前記第2の層は前記第1の層との接合面と反対側の面である表面側に塗布された多孔質層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス拡散層。
【請求項5】
電解質膜と前記電解質膜の両面に形成した一対のガス拡散電極とからなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、とを備える燃料電池であって、
前記ガス拡散電極は前記電解質膜側に面する触媒層と前記セパレータ側に面するガス拡散層とを備え、前記ガス拡散層は前記請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス拡散層であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池であって、前記ガス拡散層における前記第2の層は前記触媒層とほぼ同じ面積であり、前記第1の層は前記第2の層より広い面積であって、前記ガス拡散層は、前記第2の層が前記触媒層に面するようにして配置され、かつ前記第1の層の外周の縁で前記電解質膜に固定されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
燃料電池用ガス拡散層であって、ガス拡散性が大きく低剛性である第1の層と、前記第1の層と比較してガス拡散性は小さいが高剛性である第2層の2層構造であることを特徴とするガス拡散層。
【請求項2】
前記第1の層はカーボン長繊維の織物であるカーボンクロス層であり、前記第2の層はカーボン短繊維がランダム配向したカーボンペーパー層であることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
前記第1の層の曲げ弾性率が5GPa未満であり、前記第2の層の曲げ弾性率が5〜50GPaであることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
前記第2の層は前記第1の層との接合面と反対側の面である表面側に塗布された多孔質層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス拡散層。
【請求項5】
電解質膜と前記電解質膜の両面に形成した一対のガス拡散電極とからなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、とを備える燃料電池であって、
前記ガス拡散電極は前記電解質膜側に面する触媒層と前記セパレータ側に面するガス拡散層とを備え、前記ガス拡散層は前記請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス拡散層であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池であって、前記ガス拡散層における前記第2の層は前記触媒層とほぼ同じ面積であり、前記第1の層は前記第2の層より広い面積であって、前記ガス拡散層は、前記第2の層が前記触媒層に面するようにして配置され、かつ前記第1の層の外周の縁で前記電解質膜に固定されていることを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−295509(P2009−295509A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149763(P2008−149763)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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