説明

燃料電池用ガス流路層の製造方法

【課題】燃料電池のガス流路層を形成する金属発泡焼結多孔体から効果的に金属酸化物を除去でき、集電性能に優れ、ガス流れに対する圧力損失を所望範囲に調整できる気孔寸法の金属発泡焼結多孔体を製造することのできる、燃料電池用ガス流路層の製造方法を提供する。
【解決手段】燃料電池の一部を構成する金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層の製造方法であって、金属粒子と発泡材と溶媒とからなるペーストを焼成して金属発泡焼結多孔体の中間体を製造する第1の工程と、中間体を酸に10秒〜130秒の時間範囲で浸漬させてエッチング処理し、金属酸化物を溶出させて金属発泡焼結多孔体を製造する第2の工程と、からなる製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータからガス流路層が分離された、いわゆるフラットタイプモジュールの燃料電池セルの一部を構成する、金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層(電極層)とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するためのアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)が該膜電極接合体を挟持して電極体(MEGA)が形成され、この電極体を直線状もしくは蛇行状のガス流路溝が一体に形成されたセパレータが挟持して構成されている。なお、このセパレータには、ガス流路層をたとえばエキスパンドメタルや金属発泡焼結体から形成してセパレータから分離させた、いわゆるフラットタイプ型のセパレータもある。燃料電池スタックは、所要電力に応じてこの燃料電池セルを所定数積層することによって形成されている。
【0003】
上記するフラットタイプのセパレータは、たとえばチタンやステンレス、ニッケルからなる2枚のプレートの間に流路が形成されたプレートが介層された3層構造のものや、中間層を樹脂製の枠材とし、2枚のプレートの一方から多数のディンプルや流路を画成するリブを突出させて冷却水流路を形成するものなどがある。この3層構造のセパレータは、当該セル自体のアノード側もしくはカソード側のいずれか一方のセパレータであると同時に、セルの積層姿勢において隣接するセルのアノード側もしくはカソード側の他方のセパレータとなるものである。すなわち、この3層構造セパレータを有する燃料電池セルのセル構成部材は、一つの3層構造セパレータと、アノード側およびカソード側の多孔体(ガス流路層)と、電極体(MEGA)と、からなり、複数の燃料電池セルが積層された姿勢において、任意の燃料電池セルは、その両端にアノード側およびカソード側のセパレータを有することとなる。
【0004】
ところで、ガス流路層を金属発泡焼結体(金属発泡焼結多孔体)から形成する場合には、ステンレスやチタン等からなる多孔体がおよそ600〜1000℃程度で焼成されるために、その表層が酸化され易いことが特定されている。この金属が酸化された層(金属酸化層)は、それ自体は強固で安定した層である一方で、ガス流路と集電を兼ねた燃料電池のガス流路層として使用する場合には、次のような問題を生じることになる。その一つは、この金属酸化層が絶縁体となるために電気抵抗が大きくなってしまい、集電性能を著しく低下させるという問題である。また、他の一つは、金属酸化層が厚くなってしまうと金属発泡焼結多孔体の気孔寸法を小さくしてしまうことにもなるが、気孔寸法が(所望寸法に比して)小さくなることにより、酸化剤ガスや燃料ガスといったガス流れに対する多孔体の圧力損失が大きくなり過ぎてしまい、このことはガスを吐出する燃料電池システムのガスポンプの体格増(出力性能アップ)を要するという問題である。なお、圧力損失がある程度高いことでガスの拡散性能は高められるが、この圧力損失が低すぎると、ガスが拡散するよりも先に多孔体内を流れてしまい、結果としてガスの拡散性能は低下し、所望量のガスが膜電極接合体に提供されないこととなってしまう。
【0005】
ここで、金属発泡焼結多孔体に形成された金属酸化物を除去する従来の公知技術として、特許文献1、2を挙げることができる。この特許文献1に開示の方法は、球状ガスアトマイズチタン粉末を無加圧で真空焼結することでチタン粉末焼結体を製造し、次いで、このチタン粉末焼結体のうち、燃料電池セルを形成した際に電解質膜側となる面を研削加工し、研削加工後にエッチング処理するものである。また、特許文献2に開示の方法は、セパレータ用金属材料を圧延処理後、その表層部を電解エッチング処理する方法である。
【0006】
特許文献1の方法では、製造されたチタン粉末焼結体を研削加工後にエッチング処理することでダレ部分を除去して平滑表面を形成できる、としているが、研削加工を施す過程で焼結体の研削加工部位に不要な損傷を与えることは必至であり、好ましい製造方法とは言い難い。また、この製造方法では、金属発泡焼結多孔体の多数の表面部位に金属酸化層が形成され、この金属酸化層によって侵された気孔寸法を所望の気孔寸法に修正加工することはできない。したがって、金属酸化層の一部を除去できたとしても、金属酸化層の全体を効果的に除去することにより、多孔体の集電性能の担保と所望の気孔寸法確保によるガス流れに対する適度な圧力損失を確保すること、の双方を満足するには至らない。また、特許文献2の方法では、電解エッチング法を適用することでたとえば特許文献1の酸エッチング処理に比して製造コストが高価となることのほか、たとえばチタン製のセパレータ表面に酸化チタンが形成されている場合において、電解エッチングでは不純物の溶出速度が速くなり過ぎてしまい、酸化チタンよりも先にチタンが溶出し易いという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2006−233297号公報
【特許文献2】特許第3831269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、燃料電池のガス流路層を形成する金属発泡焼結多孔体から効果的に金属酸化物を除去でき、集電性能に優れ、ガス流れに対する圧力損失を所望範囲に調整できる気孔寸法の金属発泡焼結多孔体を製造することのできる、燃料電池用ガス流路層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池用ガス流路層の製造方法は、燃料電池の一部を構成する金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層の製造方法であって、金属粒子と発泡材と溶媒とからなるペーストを焼成して金属発泡焼結多孔体の中間体を製造する第1の工程と、前記中間体を酸に10秒〜130秒の時間範囲で浸漬させてエッチング処理し、少なくとも第1の工程にて形成された中間体に存在する金属酸化物を溶出させて金属発泡焼結多孔体を製造する第2の工程と、からなるものである。
【0010】
ここで、金属粒子としては、ニッケル、チタン、ステンレス等の導電性金属粒子を使用でき、溶媒としては、ポリビニルアルコールやその水溶液等を使用でき、発泡材としては、炭化水素ナトリウム、TiHなどを使用することができる。また、さらに、界面活性剤をペーストに添加してもよい。
【0011】
本発明の製造方法は、上記する素材からなるペーストを焼成して所望形状の金属発泡焼結多孔体の中間体を製造する(第1の工程)。
【0012】
次いで、製造された中間体を酸エッチング処理することにより、第1の工程の際に中間体表面に形成された金属酸化物の一部もしくは全部を溶解させる。
ここで、この酸エッチング処理にて使用される酸は、フッ化水素、もしくはフッ化水素と硝酸の混合材などを挙げることができる。
上記する酸エッチング処理は、酸が収容された容器内に中間体を所定時間浸漬させるものである。
【0013】
上記する浸漬時間に関し、本発明者等は多様な実験を試み、燃料電池セルの出力値が極端に低下する上下限値を決定する金属発泡焼結多孔体のガス流れに対する圧力損失を特定し、特定された圧力損失範囲の金属発泡焼結多孔体を得るための金属酸化物(層)の減耗量を求め、この減耗量を実現するための浸漬時間を特定した。
【0014】
まず、金属発泡焼結多孔体の圧力損失に関して言えば、圧力損失がある程度高い方がガスの拡散性は高い一方で、高すぎるとそれに抗し得る出力性能のポンプが必要となり、燃料電池システムの大型化、高コスト化に繋がってしまう。一方、圧力損失が低すぎては、ガスが多孔体内で拡散する前に供給マニホールドから排気マニホールドに流れてしまい、十分量のガスが膜電極接合体に提供されなくなってしまう。
【0015】
本発明者等の検証によれば、金属発泡焼結多孔体の圧力損失が10kPa未満の場合と50kPaを超えた場合とで燃料電池セルのセル出力が極端に低下するという知見が得られており、圧力損失が10〜50kPaの数値範囲の場合には、セル出力値(電流密度)が0.6〜0.7A/cmと高い値を確保できることが特定されている。
【0016】
そして、この圧力損失の上下限値を決定する減耗量を検証したところ、その下限値は12g/mであり、その上限値は30g/mであるとの知見が得られている。
さらに、上記する金属酸化物の減耗量範囲においては、金属発泡焼結多孔体の気孔率の上下限値が40%、90%であるとの知見も得られている。
そして、上記範囲の金属酸化物の減耗量を実現するための酸エッチング時間範囲は、10秒〜130秒の範囲であることが特定されている。
【0017】
そこで、本発明の金属発泡焼結多孔体の製造方法においては、その第2の工程において、第1の工程にて製造された中間体を酸中に10〜130秒の範囲時間で浸漬させ、その表面等に形成された金属酸化物を酸エッチングするものである。
【0018】
また、酸エッチング後の金属発泡焼結多孔体の表層にたとえば金やプラチナ、銅などをメッキ処理することにより、該金属発泡焼結多孔体の導電性の確実な担保を図ってもよい。
【0019】
上記する本発明の製造方法によれば、焼成過程で形成された金属酸化物が単に溶解するだけでなく、溶解するとともに燃料電池セルのセル出力を高い出力値に維持できる気孔率、もしくは圧力損失の金属発泡焼結多孔体を製造することができるため、この製造方法にて製造された金属発泡焼結多孔体を燃料電池セルの一部を構成するガス流路層に適用することで、出力性能に優れた燃料電池を得ることが可能となる。このような燃料電池とこれを具備する燃料電池システムは、家庭用の定置型燃料電池や車載用燃料電池など、その適用分野は多岐に亘るが、特に、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能化、高出力化を要求する電気自動車やハイブリッド車に好適である。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池用ガス流路層の製造方法によれば、高いセル出力を担保できる金属発泡焼結多孔体を製造することができ、より具体的には、高いセル出力を担保できる気孔率を有する、もしくはガス流れに対する圧力損失を有する、もしくは金属酸化物の減耗量が調整された金属発泡焼結多孔体を精度よく製造することができる。しかも、本製造方法は、焼成された中間体を所定の時間範囲で酸エッチング処理するだけの極めて簡易な方法であることから、製造過程における精緻な管理は一切不要であり、製造効率性にも優れており、したがって、金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層の大量生産を高い歩留まりのもとで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層の製造方法を概説する。本製造方法は大きく2つの工程からなるが、その第1の工程として、金属粒子と発泡材と溶媒とからなるペーストを焼成して所望形状および寸法の金属発泡焼結多孔体の中間体を製造する。ここで、金属粒子としては、ニッケル、チタン、ステンレス等の導電性金属粒子を使用し、溶媒としては、ポリビニルアルコールやその水溶液等を使用し、発泡材としては、炭化水素ナトリウム、TiHなどを使用する。
【0022】
次いで、第2の工程として、フッ化水素、もしくはフッ化水素と硝酸の混合材などの酸が収容された容器内に、第1の工程にて製造された中間体を浸漬する(酸エッチング処理)。ここで、酸エッチングする時間は、10秒〜130秒の範囲内に調整されている。
【0023】
上記する時間範囲にて中間体を酸エッチング処理することにより、第1の工程における焼成の際に中間体の表面に形成された絶縁物(層)である金属酸化物(もしくは金属酸化層)が溶解されて除去される。特に、上記時間範囲で酸エッチング処理することにより、高いセル出力を確保できる圧力損失を有する、もしくは気孔率を有する金属発泡焼結多孔体(からなるガス流路層)を製造することができる。このエッチング処理時間範囲に関しては、後述する実験結果に基づいて詳述する。
【0024】
上記する製造方法にて製造された、金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層を備えた燃料電池セルの一実施の形態を図1の縦断面図に示している。図1に示す燃料電池セル100の構造は、イオン交換膜である電解質膜1とカソード側およびアノード側の触媒層2,2とから膜電極接合体3(MEA)が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層4,4(GDL)が挟持して電極体(MEGA)が形成され、この電極体をカソード側およびアノード側のガス流路層5,5が挟持し、さらにこのガス流路層5,5を3層構造のセパレータ7,7が挟持し、電極体の周縁には樹脂製のガスケット8が一体に形成されたものである。さらに、触媒層2は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,2の周縁には該触媒層2,2が存在しない露出領域が形成されており、この露出領域には、カソード側およびアノード側の保護フィルム6,6が配されており、ガス拡散層4,4から突出する毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防護している。
【0025】
ここで、膜電極接合体3を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。また、触媒層2は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層4等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0026】
また、ガス流路層5を流れた酸化剤ガスや燃料ガスを膜電極接合体3に拡散提供するガス拡散層4は、拡散層基材41と集電層42(MPL)とからなるものであり、拡散層基材41としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材41の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材41としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層42はアノード側、カソード側の触媒層2,2から電子を集める電極の役割を果たすものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などから形成できる。
【0027】
また、保護フィルム6は、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
【0028】
また、電極体の周縁であってセパレータ7,7に挟まれた領域に設けられたガスケット8は、たとえば成形型内に電極体を収容し、その周縁に樹脂を射出成形することで成形される。ここで、ガスケット8は、ブチル系ゴムやウレタン系ゴム、シリコーンRTVゴム、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、炭化水素樹脂などの樹脂素材にて成形される。
【0029】
さらに、セパレータ7は、隣接する燃料電池セルとの間でセル間を画成するカソード側プレート71と、アノード側プレート73と、これらのプレート71,73間に介層され、プレート71,73の外周輪郭に沿う枠状(無端状)に形成されたスペーサ72と、から構成されている。このプレート71,73は、導電性金属であるステンレスやチタンなどから形成されており、スペーサ72は、同様の導電性金属もしくは樹脂から形成されている。一つの実施形態としては、プレート71におけるプレート73に対向する側面に多数のディンプルが備えてあり、このディンプルがスペーサ72の厚み分の高さを有していることにより、3層構造となった際に、ディンプルの先端がプレート73の側面と当接されて冷媒流路を形成する形態がある。また、他の形態としては、スペーサ72に直線状もしくは蛇行状の冷媒流路が形成された形態もある。この3層構造セパレータでは、燃料ガス、酸化剤ガス、冷媒のそれぞれがセパレータ内に流入し、さらに流出する固有のマニホールドMが形成されており、ガスケット8に同軸に形成されたマニホールドMと流体連通している。なお、ガスケット8のうち、マニホールドMの周縁には無端リブ81が形成されており、これをセパレータ7が押圧することで流体シール構造が形成される。
【0030】
次に、本発明のガス流路層の製造方法のうち、その第2の工程における酸エッチング処理時間を決定するに際して、本発明者等が実施した実験とその結果を図2〜4を参照して説明し、次いで、本発明の製造方法による金属発泡焼結多孔体が従来の製造方法による場合に比してその接触抵抗が格段に低下していることを図5を参照して説明する。さらに、本発明者等が実施したオージェ深さ方向分析の分析結果を図6を参照して説明する。
【0031】
[圧力損失とセル出力、および圧力損失と酸エッチングによる減耗量の関係に関する実験、減耗量と酸エッチング時間および気孔率に関する実験とその結果]
本発明者等は、多孔体の焼成に際して金属粒子としてチタン(JIS1級相当)、発泡材として炭化水素ナトリウム、溶媒としてポリビニルアルコールを使用し、酸エッチング処理にフッ化水素を使用して金属発泡焼結多孔体を製造した。この製造過程で酸エッチングによる多孔体表層(金属酸化物である酸化チタン)の減耗量を種々変化させて複数の多孔体のテストピースを製作し、テストピースごとの圧力損失を計測するとともに、各テストピースをガス流路層として図1で示すような燃料電池セルを製作し、各燃料電池セルのセル出力を計測した。その圧力損失とセル出力、および圧力損失と酸エッチングによる減耗量の関係に関する実験結果を図2に示している。
【0032】
図2において、白丸を繋いだグラフはセル出力と圧力損失に関する結果であり、白抜き四角を繋いだグラフは酸エッチングによる減耗量と圧力損失に関する結果であり、白丸、白抜き四角の数はともにテストピースの基数に対応している。
【0033】
図2より、圧力損失が10kPaを下回り、もしくは50kPaを上回るとセル出力値は急降下する結果となり、これらの数値においてセル出力の変曲点が存在することが特定された。一方、圧力損失が10〜50kPaの範囲では、セル出力値が0.6〜0.7A/cmと高い値を推移しており、この圧力損失範囲の金属発泡焼結多孔体を製造することで、出力性能の高い燃料電池セルが得られることが特定された。
【0034】
さらに図2より、圧力損失の10kPa,50kPaの場合の酸エッチングによる酸化チタンの減耗量を計測した結果、減耗量がそれぞれ30g/m,12g/mであることが特定された。
【0035】
次に、上記する減耗量:30g/m,12g/mを実現するための酸エッチング処理時間を計測した結果を図3に示している。図3より、減耗量:30g/m,12g/mに対応する酸エッチング処理時間はそれぞれ、130秒、10秒であることが特定された。
【0036】
以上の実験結果より本発明者等は、高いセル出力を実現する金属発泡焼結多孔体を得るための酸エッチング処理時間は、10〜130秒の範囲であるとの知見に至った。
【0037】
また、図4は、減耗量:30g/m,12g/mに対応する金属発泡焼結多孔体の気孔率を計測した結果を示したものである。図4より、減耗量:30g/m,12g/mに対応する金属発泡焼結多孔体の気孔率はそれぞれ、90%、40%であることが特定された。この結果から、上記処理時間範囲で酸エッチング処理をおこなうことにより、金属発泡焼結多孔体に存在する気孔径(もしくは気孔断面寸法)を処理前に比べて大きくすることができ、具体的には、40〜90%の気孔率範囲の金属発泡焼結多孔体を製造することができ、この気孔率範囲の金属発泡焼結多孔体をガス流路層として使用することにより、高いセル出力の燃料電池セルが得られるという事実も判明した。
【0038】
[従来の製造方法(酸エッチングなし)による金属発泡焼結多孔体(比較例)と、本発明の製造方法(酸エッチングあり)による金属発泡焼結多孔体(実施例)における、多孔体の接触抵抗の初期値と腐食試験後の値を計測した実験とその結果]
本発明者等はさらに、上記実験と同様のチタン、炭化水素ナトリウム、ポリビニルアルコールを使用して焼成し、フッ化水素にて酸エッチング処理をおこなうことでその表面の酸化チタンを10g/m減耗し、表層を金メッキ処理して金属発泡焼結多孔体を作成した(実施例)。さらに、これと比較するものとして、同様のチタン、炭化水素ナトリウム、ポリビニルアルコールを使用して焼成し、酸エッチング処理せずに金属発泡焼結多孔体を作成した(比較例)。
【0039】
上記する実施例、比較例の金属発泡焼結多孔体をガス流路層として燃料電池セルを作成し、発電前段階における実施例および比較例それぞれのガス流路層の接触抵抗を計測し、次いで、燃料電池セルの発電を所定時間および所定回数実施することでガス流路層の酸化を進展させ(腐食試験)、腐食試験後のガス流路層の接触抵抗を再度測定した。比較例および実施例の腐食試験前の計測値(初期値)と腐食試験後の計測値を図5に示している。
【0040】
図5より、比較例の初期値は実施例のそれの3倍の接触抵抗を有している。さらに、腐食試験後では、比較例の接触抵抗は初期値の5倍に達するのに対して、実施例のそれは3倍に留まっており、腐食試験後では、比較例の接触抵抗は実施例の5倍となっている。
【0041】
本発明者等によれば、この実験結果は以下の理由によるものである。すなわち、酸エッチング処理の有無により、金属発泡焼結多孔体の表層に形成されている金属酸化層のミクロ構造が相違すること、より具体的には、酸エッチング処理をおこなわない場合の金属酸化層は相対的にポーラスな構造を呈しており、発電経過でこのポーラス構造を介して多孔体の内部にまで酸化層が進展し易いことから、腐食試験後の接触抵抗の増加割合が実施例に比して格段に大きくなってしまうというものである。
【0042】
一方、酸エッチング処理後の金属発泡焼結多孔体は、その表層の金属酸化層がポーラス構造ではなく、相対的に緻密な構造を呈しており、したがって、発電経過での酸化層の進展が生じ難くなっており、その初期値は勿論のこと、腐食試験後も酸化層の進展が相対的に進んでいない。
【0043】
[オージェ深さ方向分析とその結果]
本発明者等は、さらに、上記する腐食試験前の実施例および比較例の金属発泡焼結多孔体について、電子分光法を用いたオージェ深さ方向分析を実施した。図6はその分析結果を示したものであり、図6aは比較例の結果を、図6bは実施例の結果をそれぞれ示している。同図において、両分析結果ともに、チタン元素濃度と酸素元素濃度が分析結果のほとんどを占めていたことより、他の微量な元素濃度(窒素、炭素など)の結果をグラフから削除している。
【0044】
図6aより、比較例の金属発泡焼結多孔体では、表層から深くなっても酸素の濃度割合は比較的高く、たとえば500nm付近でも20%程度の含有割合を呈している。このことは、金属発泡焼結多孔体の内部のより深い領域においても酸化チタンが存在していることを意味している。
【0045】
一方、図6bより、実施例の金属発泡焼結多孔体では、酸素濃度は表層から50nm程度の深度でほぼゼロに収束しており、それ以深では酸化チタンが存在していない。したがって、導電性に優れた金属発泡焼結多孔体が形成されていることがこの分析結果からも特定することができる。
【0046】
上記各種実験より、焼成後に10〜130秒の時間範囲で酸エッチング処理をおこなって金属発泡焼結多孔体を製造することにより、発電性能に優れ、導電性に優れた燃料電池セルのガス流路層を製造することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の製造方法によって製造された金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層を備えた燃料電池セルの縦断面図である。
【図2】圧力損失とセル出力、および圧力損失と酸エッチングによる減耗量の関係を示した実験結果である。
【図3】酸エッチングによる減耗量と酸エッチング時間の関係を示した実験結果である。
【図4】酸エッチングによる減耗量と気孔率の関係を示した実験結果である。
【図5】従来の製造方法(酸エッチングなし)による金属発泡焼結多孔体(比較例)と、本発明の製造方法(酸エッチングあり)による金属発泡焼結多孔体(実施例)とにおいて、多孔体の接触抵抗の初期値と腐食試験後の値を計測した実験結果である。
【図6】オージェ深さ方向分析の分析結果であって、(a)は従来の製造方法(酸エッチングなし)による金属発泡焼結多孔体の結果を、(b)は本発明の製造方法(酸エッチングあり)による金属発泡焼結多孔体の結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1…電解質膜、2…触媒層、3…膜電極接合体(MEA)、4…ガス拡散層、41…拡散層基材、42…集電層(MPL)、5…金属発泡焼結多孔体(ガス流路層)、6…保護フィルム、7…セパレータ、71…カソード側プレート、72…中間プレート、73…アノード側プレート、8…ガスケット、81…無端リブ、100…燃料電池セル、M…マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の一部を構成する金属発泡焼結多孔体からなるガス流路層の製造方法であって、
金属粒子と発泡材と溶媒とからなるペーストを焼成して金属発泡焼結多孔体の中間体を製造する第1の工程と、
前記中間体を酸に10秒〜130秒の時間範囲で浸漬させてエッチング処理し、少なくとも第1の工程にて形成された中間体に存在する金属酸化物を溶出させて金属発泡焼結多孔体を製造する第2の工程と、からなる、燃料電池用ガス流路層の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング処理の際に使用される酸が、フッ化水素、もしくはフッ化水素と硝酸の混合材のいずれか一種からなる、請求項1に記載の燃料電池用ガス流路層の製造方法。
【請求項3】
前記エッチング処理により、12〜30(g/m)の金属酸化物を減耗する、請求項1または2に記載の燃料電池用ガス流路層の製造方法。
【請求項4】
ガスの圧力損失が10〜50(kPa)の範囲のガス流路層を製造する、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用ガス流路層の製造方法。
【請求項5】
気孔率が40〜90(%)の範囲のガス流路層を製造する、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用ガス流路層の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−102945(P2010−102945A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273235(P2008−273235)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】