説明

燃料電池用シールの製造方法

【課題】ガスケットの成形過程で金型のエアベント部に形成されたバリによる燃料電池スタックの大型化を防止する燃料電池用シールの製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム、シート又は板状の基枠110の表面に、成形用キャビティにおける成形用ゴム材料の合流部に位置するエアベント部42を有する金型を用いてゴム状弾性材料からなるガスケットを一体に成形する工程と、この成形工程で前記エアベント部42に成形用ゴム材料が流れ込むことにより形成されたバリを、基枠110の一部と共に裁断して除去する切除工程からなり、この切除工程が、基枠110に窓部111及び通路孔112を開設する抜き加工工程と同時に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックの各燃料電池セルに形成される流路をシールするための燃料電池用シールを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、基本的には電解質膜の両面に一対の電極層を設けたMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極複合体)を含む発電体を、セパレータで挟持して燃料電池セルとし、更にこの燃料電池セルを多数積層した、スタック構造を有する。そして、酸化ガス(酸素)が各セパレータの一方の面に形成された酸化ガス流路から一方の触媒電極層に供給され、水素が各セパレータの他方の面に形成された燃料ガス流路から他方の触媒電極層に供給され、水の電気分解の逆反応である電気化学反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって、電力を発生するものである。
【0003】
このため、各燃料電池セルには、燃料ガスや酸化ガス、上述の電気化学反応により生成された水や、余剰空気等の漏れを防止するための燃料電池用シールが設けられる。そしてこの種の燃料電池用シールとしては、例えばセパレータ間の発電体の外周部に取り付けられる合成樹脂フィルムからなる基枠に、両側のセパレータと密接されるガスケットを成形したものが知られている(例えば下記の特許文献参照)。
【特許文献1】WO00/64995
【0004】
図7はこの種の燃料電池用シールを組み込んだ燃料電池セルを示す部分断面図、図8は、図7の燃料電池用シールを製造するための、従来の製造方法を示す説明図である。
【0005】
すなわち図7において、参照符号2は高分子電解質膜(プロトン膜)21と、その両側に積層状態に設けた電極層又はガス拡散電極層22からなるMEAであり、このMEA2の両側にそれぞれセパレータ3が重ねられている。MEA2における高分子電解質膜21の外周部は電極層又はガス拡散電極層22の外周から張り出しており、その張り出し部分21aの両側にはそれぞれ燃料電池用シール1が配置されている。言い換えれば、燃料電池用シール1は、MEA2における高分子電解質膜21と電極層又はガス拡散電極層22との積層部分である発電領域の外周側に配置され、セパレータ3,3の外周部間で高分子電解質膜21の張り出し部分21aと共に挟持されている。
【0006】
燃料電池用シール1は、図8に示されるような、MEAの発電領域と対応する窓部11aと、燃料電池の各マニホールドと対応する複数の通路孔11bが開設された合成樹脂フィルムからなる基枠11の表面に、図7に示されるように、ゴム状弾性材料からなるガスケット12を一体に成形したものであり、このガスケット12が、セパレータ3に形成されたシール嵌合溝31の底面に密接されるようになっている。
【0007】
そしてこの燃料電池用シール1は、合成樹脂フィルムからなる基枠11を、不図示の金型内に位置決め固定し、図8に示されるように、この基枠11と金型の内面との間に画成されたガスケット成形用キャビティ4内に、液状の成形用ゴム材料を充填して架橋硬化させるといった方法で製造することができる。
【0008】
この場合、成形用キャビティ4は細長い迷路のように延びるものであるため、その複数箇所に開設されたゲート41から、液状の成形用ゴム材料が充填されるようになっており、各ゲート41から矢印で示される成形用ゴム材料の流れが合流する位置には、残存エアや揮発ガスの混入による成形不良を防止するためのエアベント部42が形成されている。したがって、図7に示されるように、このような方法で製造された燃料電池用シール1は、ガスケット12に、各エアベント部42と対応するバリ12aが形成されることになる。
【0009】
ところが、エアベント部42に形成されたバリ12aは、セパレータ3に形成されたシール嵌合溝31内には収まらず、したがって図7のように、バリ12aがセパレータ3の溝肩間に介在することになるので、積層厚さが大きくなり、燃料電池スタックが大型化する問題があった。
【0010】
また、エアベントによるバリ12aが形成された部分では、このバリ12aがセパレータ3と圧接することによる応力が発生するのに対し、ガスケット12におけるその他の部分(バリ12aが存在しない部分)ではこのような応力が発生しないため、基枠11やセパレータ3などに、不均一な応力分布に起因する微小な歪が生じる。そして、ガスケット12は、一般に燃料電池セルに積層される全ての燃料電池用シール1において同一形状であり、バリ12aの形成位置も同じであるから、多数の燃料電池セルを積層したスタック状態では、バリ12aが積層方向へ多数並んで圧縮されることになるため、その応力による面歪が大きくなって、ガスケット12のシール面圧にもムラを生じてシール性が悪化したり、極端な場合は、セパレータ3やMEA2に破損を来すおそれもあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、ガスケットの成形過程でエアベント部により形成されたバリによる燃料電池スタックの大型化を防止し、かつ前記バリの圧縮応力に起因するシール面圧のばらつきやセパレータ等の破損を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係る燃料電池用シールの製造方法は、燃料電池セルにおけるセパレータの外周部間に配置されるフィルム、シート又は板状の基枠の表面に、成形用キャビティにおける成形用ゴム材料の合流部に位置するエアベント部を有する金型を用いてゴム状弾性材料からなるガスケットを一体に成形する工程と、この成形工程で前記エアベント部に成形用ゴム材料が流れ込むことにより形成されたバリを、前記基枠の一部と共に裁断して除去する切除工程からなるものである。
【0013】
また、本発明に係る燃料電池用シールの製造方法において一層好ましくは、上述の切除工程が、基枠の抜き加工工程と同時に行われるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る燃料電池用シールの製造方法によれば、ガスケットの成形工程においてエアベント部に成形用ゴム材料が流れ込むことにより形成されたバリを、この基枠ごと裁断することによって容易に除去することができる。そしてこのため、セパレータとの積層状態において、バリによって積層厚さが大きくなり、燃料電池スタックが大型化するのを防止することができる。
【0015】
しかも、バリを基枠の一部ごと裁断して除去する工程を、基枠の抜き加工工程と同時に行うことによって、製造工程の増加や、ひいては製造コストの上昇を防止することができる。
【0016】
また、本発明により製造された燃料電池用シールは、エアベントによるバリが存在しないので、スタックとして積層されたときに、積層方向に並んだバリが圧縮されることによる応力集中も起こり得ず、したがって、不均一な応力に起因する面歪によってガスケットのシール面圧がばらついてシール性が悪化したり、セパレータが破損するのを有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る燃料電池用シールの製造方法の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。まず図1は、燃料電池用シールの基枠と、これにガスケットを成形するための成形用キャビティとの関係を示す平面図、図2は、基枠にガスケットを成形した状態を示す平面図、図3は、基枠にガスケットを成形した状態を示す要部斜視図、図4は、バリを基枠の一部ごと裁断して除去した状態を示す平面図、図5は、バリを基枠の一部ごと裁断して除去した状態を示す要部斜視図である。
【0018】
図1に示される基枠110は、電気絶縁性に優れた例えばPI(ポリイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の合成樹脂フィルムからなるものであって、後述する抜き加工工程において、図中に一点鎖線で示される発電領域用窓部111及びマニホールド用の複数の通路孔112が開設されるものである。そして、ガスケットの製造工程においては、まずこの基枠110を、不図示の金型内に位置決め固定する。金型の内面には溝が形成されていて、この金型の内面と基枠110の表面との間にガスケット成形用キャビティ4が画成されるようになっている。
【0019】
成形用キャビティ4は、窓部111及び複数の通路孔112を開設すべき領域を取り囲むように細長く無端状に延びており、したがって、成形用キャビティ4内に液状の成形用ゴム材料を充填するためのゲート41は、金型に適当な間隔で複数開設されている。また、各ゲート41から成形用キャビティ4内に流入した成形用ゴム材料が合流する位置には、残存エアや揮発ガスの混入による成形不良を防止するためのエアベント部42が形成されている。
【0020】
したがって、基枠110を金型内に位置決め固定した後、型締めし、各ゲート41から成形用キャビティ4内に例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロゴム(FFKM)などから選択された液状の成形用ゴム材料を充填し、硬化させることによって、基枠110の表面に、図2に示されるような線状のガスケット120が一体に成形される。また、この成形工程において、図1に示されるエアベント部42で合流しながら充填された成形用ゴム材料は、硬化によってバリ123となる。
【0021】
ガスケット120は、図3に示されるように、基枠110の表面に接着された扁平なベース121と、その幅方向中央部から隆起した断面山形のシールリップ122とからなる。また、バリ123は、ベース121と連続した突出形状に形成され、その厚さtは10〜20μm程度である。
【0022】
上述の成形工程によって基枠110にガスケット120が一体的に成形され、金型から取り出された後は、図4に示されるように、基枠110に発電領域用の窓部111及びマニホールド用の複数の通路孔112を開設するための抜き加工工程に移行する。
【0023】
この抜き加工工程で使用される不図示の抜き型は、前記窓部111及び通路孔112を打ち抜くための部分と、上述した図2及び図3に示されるバリ123を打ち抜くための部分を有し、基枠110に窓部111及び通路孔112を開設すると同時に、各バリ123を、基枠110の一部と共に裁断し除去することができるようになっている。したがって、基枠110には、図4及び図5に示されるように、バリ123が基枠110の一部と共に打ち抜かれることによる切欠部113が形成される。
【0024】
すなわち、窓部111及び通路孔112を開設する抜き加工工程では、バリ123の切除工程が並行して行われるので、製造工程が増加することはなく、したがって製造コストの上昇を防止することができる。
【0025】
図6は、上述の方法によって製造された燃料電池用シール100を組み込んだ燃料電池セルを示す部分断面図である。この図6において、参照符号2は高分子電解質膜21と、その両側に積層状態に設けた電極層又はガス拡散電極層22からなるMEAであり、このMEA2の両側にそれぞれセパレータ3が重ねられている。
【0026】
MEA2における高分子電解質膜21の外周部は電極層又はガス拡散電極層22の外周から張り出しており、その張り出し部分21aの両側にはそれぞれ本発明の方法によって製造された燃料電池用シール100が配置されている。すなわち、燃料電池用シール100は、MEA2における高分子電解質膜21と電極層又はガス拡散電極層22との積層部分である発電領域の外周側に配置され、前記発電領域は、燃料電池用シール100の基枠110に開設された窓部111に嵌め込まれている。
【0027】
セパレータ3,3には、燃料電池用シール100におけるガスケット120の延長形状と対応して延びるシール嵌合溝31と、MEA2における発電領域と対応する領域に形成された多数の流路溝32を有する。そして、燃料電池用シール100は、合成樹脂フィルムからなる基枠110がMEA2における高分子電解質膜21の張り出し部分21aに密接状態で配置されると共に、ガスケット120が前記シール嵌合溝31に収容され、シールリップ122が適宜圧縮された状態で前記シール嵌合溝31の底面に密接されている。
【0028】
そして、燃料電池用シール100には、ガスケット120の成形過程で形成された図3のようなバリ123が存在しないことから、このバリがセパレータ3のシール嵌合溝31の溝肩と衝合することによる積層厚さの増大、ひいては燃料電池スタックの大型化が防止される。
【0029】
しかもこのため、積層方向に並んだバリが圧縮されることによる部分的な応力集中も起こり得ないので、ガスケット120の圧縮応力はその延長方向全域でほぼ均一になり、したがって、セパレータ3や、合成樹脂フィルムからなる基枠110が変形してシール面圧が大きくばらついたり、セパレータ3やMEA2が破損するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る燃料電池用シールの製造方法において、燃料電池用シールの基枠と、これにガスケットを成形するための成形用キャビティとの関係を示す平面図である。
【図2】本発明に係る燃料電池用シールの製造方法において、基枠にガスケットを成形した状態を示す平面図である。
【図3】本発明に係る燃料電池用シールの製造方法において、基枠にガスケットを成形した状態を示す要部斜視図である。
【図4】本発明に係る燃料電池用シールの製造方法において、バリを基枠の一部ごと裁断して除去した状態を示す平面図である。
【図5】本発明に係る燃料電池用シールの製造方法において、バリを基枠の一部ごと裁断して除去した状態を示す要部斜視図である。
【図6】本発明によって製造された燃料電池用シールを組み込んだ燃料電池セルを示す部分断面図である。
【図7】従来技術により製造された燃料電池用シールを組み込んだ燃料電池セルを示す部分断面図である。
【図8】従来技術による燃料電池用シールの製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
100 燃料電池用シール
110 基枠
111 発電領域用窓部
112 通路孔
113 切欠部
120 ガスケット
121 ベース
122 シールリップ
123 バリ
2 MEA
21 高分子電解質膜
22 電極層又はガス拡散電極層
3 セパレータ
31 シール嵌合溝
32 流路溝
4 成形用キャビティ
41 ゲート
42 エアベント部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルにおけるセパレータ(3,3)の外周部間に配置されるフィルム、シート又は板状の基枠(110)の表面に、成形用キャビティ(4)における成形用ゴム材料の合流部に位置するエアベント部(42)を有する金型を用いてゴム状弾性材料からなるガスケット(120)を一体に成形する工程と、この成形工程で前記エアベント部(42)に成形用ゴム材料が流れ込むことにより形成されたバリ(123)を、前記基枠(110)の一部と共に裁断して除去する切除工程からなることを特徴とする燃料電池用シールの製造方法。
【請求項2】
切除工程が、基枠(110)の抜き加工工程と同時に行われることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用シールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−146986(P2008−146986A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332063(P2006−332063)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】