説明

燃料電池用ステンレス分離板及びその製造方法

【課題】初期だけでなく、燃料電池の作動環境で長時間使用しても、耐食性及び電気伝導性に優れた燃料電池用ステンレス分離版及びその製造方法が提供される。
【解決手段】本発明の燃料電池用分離版の製造方法は、ステンレス鋼板母材を用意する段階と、ステンレス鋼板母材の表面層の鉄(Fe)成分を低減させて、ステンレス鋼板の表面に、クロム(Cr)成分の相対的な量が増加されたCr−rich不動態被膜を形成する表面改質段階と、表面改質されたステンレス鋼板を、真空状態、大気中、又は不活性ガスの雰囲気で100〜300℃で熱処理する段階とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ステンレス分離板及びその製造方法に関し、より詳しくは、高分子電解質燃料電池(PEMFC)の分離板に用いられ、耐食性、伝導性、及びこれらに対する耐久性(durability)に優れた高分子電解質燃料電池用ステンレス分離板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の単位セルは、電圧が低くて、実用性が落ちるので、一般的に数個から数百個の単位セルを積層して使用する。単位セルの積層の際に、単位セルの間に電気的接続を形成し、反応ガスを分離する役割をするものが分離板である。
【0003】
分離板(bipolar plate)は、膜電極集合体(MEA)とともに、燃料電池の核心部品であって、膜電極集合体と気体拡散層(GDL)の構造的支持、発生した電流の収集及び伝達、反応ガスの輸送及び除去、反応熱の除去のための冷却水輸送などの多様な役割を担当する。
【0004】
これにより、分離板が有するべき素材特性には、優れる電気伝導性、熱伝導性、ガス密閉性、化学的安定性などがある。
【0005】
このような分離板の素材として、黒鉛系素材、樹脂と黒鉛を混合した複合黒鉛材料などが利用してきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、黒鉛系分離板は、強度及び密閉性が、金属系素材に比べて、低い特性を示し、特にこれを利用して分離板を製造する際に、高い工程費用及び低い量産性により、最近では金属系分離板に対する研究が活発に進行している。
【0007】
分離板の素材として金属系を適用する場合、分離板の厚さの減少による燃料電池スタックの体積減少及び軽量化が可能であり、スタンピングなどを利用した製造が可能であって、大量生産性を確保することができるという長所を持っている。
【0008】
しかし、燃料電池の使用の際に発生する金属の腐蝕は、膜電極集合体の汚染を誘発して、燃料電池スタックの性能を低下させる要因として作用し、また長時間の使用の際に金属の表面における厚い酸化膜の成長は、燃料電池の内部抵抗を増加させる要因として作用することができる。
【0009】
燃料電池分離板用金属素材としては、ステンレス鋼、チタニウム合金、アルミニウム合金、ニッケル合金などが、候補材料として検討されている。二重ステンレス鋼は、比較的廉価の素材原価、優れた耐食性などにより分離板の素材として多くの注目をあびているが、相変らず耐食性及び電気伝導性の側面で満足する程の水準を見せていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の目的は、初期だけでなく、高温多湿な燃料電池の作動環境に長時間露出しても、耐食性及び接触抵抗がDOE(米国エネルギー省)の基準に満足されることができる燃料電池用ステンレス分離板の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、上記製造方法を通じて製造される燃料電池用ステンレス分離板を提供することである。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の第1の参考例に係る、燃料電池用ステンレス分離板の製造方法は、(a)ステンレス鋼板母材を用意する段階と、(b)ステンレス鋼板母材の表面層の鉄(Fe)成分を低減させて、ステンレス鋼板の表面に、クロム(Cr)成分の相対的な量が増加されたCr−rich不動態被膜を形成する表面改質段階と、(c)表面改質されたステンレス鋼板母材の表面に、金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、及び金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択されるコーティング層を形成する段階とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するための本発明の第2の実施例に係る、燃料電池用ステンレス分離板の製造方法は、(a)ステンレス鋼板母材を用意する段階と、(b)上記ステンレス鋼板母材の表面層の鉄(Fe)成分を低減させて、上記ステンレス鋼板表面に、クロム(Cr)成分の相対的な量が増加されたCr−rich不動態被膜を形成する表面改質段階と、(c)表面改質された上記ステンレス鋼板を真空状態、大気中、又は不活性ガスの雰囲気で100〜300℃に熱処理する段階とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により製造される燃料電池用ステンレス分離板によれば、初期だけでなく、燃料電池の作動環境で長時間使用しても、耐食性及び電気伝導性が非常に優れる。
【0015】
また、本発明に係る燃料電池用ステンレス分離板の製造方法は、廉価の通常のステンレス鋼板母材を使用しても、優れた性質を得ることができる表面処理が可能になり、ステンレス分離板の製造単価を低くすることができる。
【0016】
本発明により製造される燃料電池用ステンレス分離板は、1μA/cm2以下の腐蝕電流、両面基準20mΩ cm2以下の接触抵抗値を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る燃料電池用ステンレス分離板の製造方法を説明するための工程フローチャートである。
【図2】上記図1の各工程段階における工程斜視図を示す。
【図3】上記図1の各工程段階における工程斜視図を示す。
【図4】上記図1の各工程段階における工程斜視図を示す。
【図5】本発明に係るステンレス鋼板の接触抵抗を測定する接触抵抗測定装置を示す図面である。
【図6】参考例1、比較例2、及び比較例3の試片に対する燃料電池模写環境の耐食性評価に対する結果を表しているグラプである。
【図7】参考例1、参考例4、参考例8〜18、並びに比較例1及び2の試片に対する燃料電池模写環境の接触抵抗評価に対する結果を表しているグラプである。
【図8】参考例1、参考例4、参考例8〜18、及び比較例1の試片を長期耐久性評価方法に従って評価した結果を示すグラプである。
【図9】本発明に係る燃料電池用ステンレス分離板の製造方法を説明するための工程フローチャートである。
【図10】燃料電池模写環境の接触抵抗評価に対する結果を表しているグラプである。
【図11】燃料電池模写環境において、実施例19、実施例21、及び比較例4の試片の2、000時間露出後の腐蝕電流(corrosion current density)評価に対する結果を表しているグラプである。
【図12】実施例19、21、23、26及び比較例4の試片を上記の長期耐久性評価方法に従って2、000時間経過後の評価結果を示すグラプである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
その他の実施例の具体的な事項は、詳細な説明及び添付の図面に含まれている。
【0019】
本発明の利点及び特徴、並びにそれを達成する方法は、添付される図面と共に詳細に後述される実施例を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、以下に開示される実施例に限定されずに、互いに異なる多様な形態に実現されることができる。但し、本実施例は、本発明の開示を完全にし、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されることであり、本発明は、請求項の範疇により定義されるのみである。明細書の全体にわたって同一の参照符号は、同一の構成要素を指し示す。
【0020】
また、図面における層、膜、又は領域の大きさ、厚さは、明細書の明確性のために誇張して記述されたものであり、ある膜又は層が、別の膜又は層の「上に」形成されると記載された場合、上記ある膜又は層が上記他の膜又は層の上に直接存在する事もでき、またはその間に第3の他の膜又は層が介在することもできる。
【0021】
図1は、本発明の第1参考例に係る燃料電池用ステンレス分離板の製造方法を説明するための工程フローチャートであり、図2乃至図4は、上記図1の各工程段階における工程を示す斜視図である。
【0022】
本発明の第1参考例に係る燃料電池用ステンレス分離板を製造するためには、先ず、図2に示されたように、ステンレス鋼板200を備える(S110)。本工程段階において使用されるステンレス鋼板200は、一般的に市販される16〜28wt%のクロム成分を含むステンレス鋼板であり、18wt%程度のクロム成分を含むステンレス鋼板であってもよい。
【0023】
具体的に、ステンレス鋼板200母材は、0.08wt%以下の炭素(C)、16〜28wt%のクロム(Cr)、0.1〜20wt%のニッケル(Ni)、0.1〜6wt%のモリブデン(Mo)、0.1〜5wt%のタングステン(W)、0.1〜2wt%の錫(Sn)、0.1〜2wt%の銅、及びその他の残量に鉄(Fe)を含むステンレス鋼板であることを特徴とし、より具体的には、オーステナイト(Austenite)系ステンレスであるSUS316L、0.2tのようなものが利用される。本段階は、後で行われる表面改質及びコーティング層形成に先立って酸性及びアルカリ性の脱脂剤を利用して、ステンレス鋼板200の表面の不純物を除去する洗浄工程が含まれることもできる。
【0024】
次に、図3に示されたように、ステンレス鋼板200の表面を改質する(S120)。ステンレス鋼板200は、耐食性が強いクロム成分とニッケル成分を含んでいるが、大部分の含有量は、鉄(Fe)成分からなっている。これにより、ステンレス鋼板200は、自然状態で空気中の酸素と結合して、表面に酸化膜(oxide)が生じる。しかし、酸化膜は、不導体であるので、全体的なステンレス鋼板の電気伝導度を落とす要因として作用しうる。
【0025】
従って、耐食性が落ちるステンレス鋼板200の表面性質を改質させる必要がある。即ち、表面改質を通じてステンレス鋼板200の表面層の内部に存在する鉄成分(Fe)のみを選択的に溶解(etching)させる。
【0026】
上記のような表面改質工程を経た後のステンレス鋼板200の表面は、Cr−rich不動態被膜(passive film)210に変わる。ここで、Cr−rich不動態被膜210の金属成分のうち、クロム成分が占める含量比は、20〜75wt%程度であり、鉄成分は、30wt%以下であり、Cr−rich不動態被膜210の主要構成を成分比に表すと、(Cr+Ni)/Feの比率は、1以上である状態となる。
【0027】
ここで、選択的金属溶解が可能な理由は、表面酸化物層において鉄酸化物は、酸で簡単に溶解する性質があり、クロム酸化物は、鉄酸化物に比べて安定して簡単に溶解しないからである。
【0028】
表面改質のために使用される溶液及び条件は、次の通りである。表面改質溶液は、純粋硝酸(HNO3)5〜20wt%、純粋硫酸(H2SO4)2〜15wt%、及び残量に水を含んでおり、50℃乃至80℃の温度が適正であり、沈積時間は、30秒乃至30分以下とし、処理時間に応じた生産性を考慮して30秒乃至10分以下とすることにより、硝酸及び硫酸の濃度を調節することが好ましい。
【0029】
本発明に係る表面改質溶液は、上記第1表面改質溶液(硝酸+硫酸)にオキサル酸(oxalic)及び過酸化水素(H22)のうちから選択されたある一つまたは両者を添加して、ステンレス鋼板の表面金属溶解速度を加速化させることもできる。また、表面改質をするにあたって、電気化学的方法を利用して硫酸(H2SO4)を含む表面改質溶液に沈積した後、0V超過し1.0VまでのSHE電位を印加すれば、より短い時間に鉄成分(Fe)に対する選択的溶解が可能となる。
【0030】
表面改質工程をすれば、クロム成分(Cr)は、略溶解せずに、多い量の鉄(Fe)成分と、一部のニッケル(Ni)成分とが選択的に溶解されながら、ステンレス鋼板200の表面層の内部の鉄成分(Fe)を低減させ、クロム(Cr)とニッケル(Ni)成分を表面層の内部で濃縮させるようになる。表面改質結果、Cr−rich不動態被膜210の厚さは、5〜100nmとなるようにする。
【0031】
次に、図4に示されたように、Cr−rich不動態被膜210上に、コーティング層を形成する(S130)。この時、コーティング層220は、金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、及び金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択され、コーティング層220を形成する理由は、次の通りである。
【0032】
ステンレス鋼板200の表面を改質すれば、上記で説明したように、クロム(Cr)成分が濃縮された不動態被膜210が生じて、初期段階においては、優れた耐食性と伝導性が確保される。しかし、高温多湿な燃料電池の作動環境で表面改質されたステンレス分離板を長時間露出した場合、不動態被膜の厚さが徐々に厚くなる。このような不動態被膜の大部分の成分は、金属酸化物(metal−oxide)であるので、作動時間が経過するに伴い、耐食性は維持されるが、電気伝導性は悪くなる。
【0033】
従って、上記のようなCr−rich不動態被膜210上に、耐食性及び伝導度が同時に優秀であり、長時間の作動時にも不動態被膜の成長を抑制することができる、金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、及び金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択されるコーティング層220を形成することにより、初期だけでなく、長期間使用時にも、優れた耐食性と伝導性を有する燃料電池分離板を製造することができる。
【0034】
この時、金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択されるコーティング層220を構成する金属(M)は、窒化物を形成する際に、電気伝導性と耐食性が同時に優れた遷移金属(transition metal)のうちから選択され、具体的にはクロム(Cr)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びタングステン(W)を使用することが望ましく、この時、x値は、0.5≦x≦1、y値は、0.42≦y≦1、z値は、0.5≦z≦2である。
【0035】
コーティング層220の厚さは、30〜300nm、望ましくは30〜100nm以下の厚さに形成することが望ましいが、その理由は、30nm以下の場合には、その効果が微小であって、300nm以上の場合には、金属ターゲットの高い価格と長時間の工程によって生産効率が落ちるからである。
【0036】
上記金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択されるコーティング層220は、スパッタリング(sputtering)のような物理的気相蒸着法(phisical vapor deposition)又はアークイオンメッキ法(arc ion plating)が使われるが、必ずしもこれに限定しない。
【0037】
本発明においては、金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択されるコーティング層220形成するために、工程操作(control)が比較的容易な活性スパッタリング(reactive sputtering)法を利用するコーティング層220の形成に関して記述する。
【0038】
金属窒化物層(MNx)、金属/金属窒化物層(M/MNx)、金属炭化物層(MCy)、金属ホウ素化物層(MBz)のうちから選択されるコーティング層220を構成する金属物質としては、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、チルコニュ(Zr)、及びタングステン(W)を使用した。
【0039】
但し、スパッタリング以外の技術が使われることもできる。コーティング層220の形成のためには、スパッタリングターゲット(target)としてフォーナイン(99.99)以上の純度を有する金属を使用することが好ましい。
【0040】
スパッタリング方法を利用してコーティング層を形成する技術について、より詳しく説明すれば、ステンレス鋼板200と金属ターゲットとをスパッタリングチャンバにローディングし、アルゴン+窒素(Ar+N2)ガス雰囲気でスパッタリング工程を進行して、ステンレス鋼板の不動態被膜210上にコーティング層220を形成する。
【0041】
但し、この時、M/MNxの2つの層からなるコーティング層を形成するためには、雰囲気ガスとして、金属層(M)の形成時には、アルゴン(Ar)ガスのみを使用してから、連続的にアルゴン+窒素(Ar+N2)ガスを供給すると、M/MNx層を連続的に形成することができる。
【0042】
即ち、上記工程において金属層(M)の形成時には、スパッタリングチャンバの内部は、アルゴンガス(Ar)雰囲気で工程が進み、金属窒化物層(MNx)の形成時には、スパッタリングチャンバの内部は、アルゴンガスと窒素ガス(N2)とが並存する雰囲気で工程を進める。具体的に、図4を参照すれば、コーティング層220は、上記不動態被膜210上に連続的(continuous)的な膜(film)の形態から形成されている。
<実施例及び比較例>
【0043】
以下、本発明の実施例に係る燃料電池用ステンレス分離板の製造方法により製造される分離板が、腐蝕電流及び接触抵抗性質の点から非常に優秀であるということを、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。ここに記載されていない内容は、この技術分野において熟練した者であれば、十分に技術的に類推することができるので、その説明を省略する。
【0044】
【表1】

【0045】
表1、表2、及び表3は、ステンレス鋼板母材として316Lを使用し、沈積法と電気化学法により、それぞれの表面改質条件(温度、時間、電流密度、溶液組成)、コーティング層形成条件(コーティング層の種類、デザイン、厚さ)を別にしながら、製造される本発明の参考例1〜参考例18及び比較例に係るステンレス分離板に対して、腐蝕電流と接触抵抗を測定した結果を表すものである。
【0046】
【表2】

【0047】
具体的に、参考例1〜参考例7及び参考例10の場合は、表面改質とクロム窒化物層(CrN又はCr2N)の形成とを同時にしたものであり(参考例4及び参考例6は、Cr/CrN多重層(multi−layer)を形成すること)、参考例8、参考例9、及び参考例11〜参考例18の場合は、チタニウム窒化物、炭化物及びホウ素化物(TiN、TiC、又はTiB2)、ジルコニウム窒化物、炭化物又はホウ素化物(ZrN、ZrC、及びZrB2)、クロム炭化物及びホウ素化物(Cr32、Cr73、又はCrB2)、そしてタングステン炭化物(WC)を形成したものであり、比較例1の場合は、本発明が提示するコーティング層220の厚さの範囲から外れる15nm厚さのクロム窒化物(CrN)を形成したものであり、比較例2の場合は、表面改質のみをし、コーティング層を形成していないものであり、比較例3の場合は、表面改質をせずにクロム窒化物層(CrN)のみを形成したものである。
【0048】
【表3】

【0049】
1.接触抵抗の測定
図5は、本発明に係るステンレス鋼板の接触抵抗を測定する接触抵抗測定装置を示した図面である。図5を参照すれば、ステンレス鋼板500の接触抵抗の測定のために、セル締結のための最適化した定数を得るために修正されたデービーズ方法(Davies method)を、ステンレススチール(Stainless Steel:SS)とカーボンペーパーとの間の接触抵抗を測定するために使用した。
【0050】
接触抵抗は、4点法(four−wire current−voltage)測定原理を利用して、Zahner社のIM6装備で測定した。測定方法は、定電流モードで測定領域DC2A及びAC0.2Aにして10kHzから10mHzまでの範囲で接触抵抗を測定した。
【0051】
カーボンペーパーは、SGL社の10BBを使用した。上記接触抵抗測定装置50は、カーボンペーパー520及び金メッキした銅プレート510が、試片500を挟んでそれぞれ上下に用意され、上記銅プレート510は、電流供給装置530及び電圧測定装置540に連結されている。
【0052】
上記試片500に電流を供給することができる電流供給装置530(Zahner社のIM6)にDC2A/AC0.2Aの電流を印加して電圧を測定した。そして、上記接触抵抗測定装置50の銅プレート510の上下に、上記試片500、カーボンペーパー520、及び銅プレート510が積層構造を有するように、圧力を提供することができる圧力機(Instron社のモデル5566、圧縮維持試験)を用意する。上記圧力機は、上記接触抵抗測定装置50に50〜150N/cm2の圧力を提供する。このように用意された接触抵抗測定装置50で上記表1及び表2に示す参考例と、比較例の試片500、即ちステンレス鋼板の接触抵抗とを測定した。
【0053】
2.腐蝕電流の測定
本発明のステンレス分離板の腐蝕電流を測定するための測定装備としては、EG&G 273Aを使用した。腐蝕耐久性実験は、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)の模写環境下で行われた。
【0054】
本発明に係るステンレス鋼板を腐蝕させる実験溶液としては、80℃の0.1N H2SO4+2ppm HF溶液を使用し、1時間の間O2バブリング後、OCP(Open Circuit Potential)−0.25V〜1V対SCE範囲で測定した。そして、PEFCアノード環境に対して−0.24V対SCE、カソード環境(SCE:Saturated Calomel Electrode)に対して、0.6V対SCEで物性測定をした。
【0055】
ここで、上記物性測定比較は、燃料電池環境に類似のカソード環境の0.6V対SCEの腐蝕電流データを通じて比較評価をした。上記アノード環境は、水素が膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)において、水素イオンと電子に分離される反応が起こる環境であり、上記カソード環境は、酸素が水素イオン及び電子と結合して、水を生成する反応が起こる環境である。
【0056】
ここで、上記の条件のように、カソード環境の電位が高く、より過酷な腐蝕条件であるので、カソード環境を基準に耐食性を試験することが好ましい。そして、高分子電解質燃料電池の適用のためには、ステンレス鋼板の腐蝕電流密度が、1μA/cm2以下の値であることが好ましい。
【0057】
3.腐蝕電流及び接触抵抗の測定結果の分析
表1、表2、及び表3を参照すれば、本発明の参考例のように表面改質及びコーティング層を形成した場合には、腐蝕電流が0.5〜1.0μA/cm2の間の値を有することがわかっており、接触抵抗の場合には、13〜18mΩ cm2の値を表していることがわかる。
【0058】
そして、比較例1のように表面改質後、15nm厚さのクロム窒化物層を形成させた場合、接触抵抗値は、17.3mΩ cm2であり、腐蝕電流値は、0.94μA/cm2であり、比較例2のように表面改質のみをした場合、接触抵抗値は、17.5mΩ cm2であり、腐蝕電流値は、0.95μA/cm2であり、比較例3のように表面改質工程なしにクロム窒化物層のみを形成した場合、接触抵抗値は、35mΩ cm2であり、腐蝕電流値は、2.3μA/cm2であることがわかる。
【0059】
上記参考例と比較例の接触抵抗及び腐蝕電流値は、全てDOE基準を満足させる値ではあるが、これは燃料電池を長時間動作させる以前の初期値であるためであり、本発明の主要関心である、後に記載される燃料電池の長期耐久性評価では、上記参考例と比較例の値の差は、より顕著になることがわかる。
【0060】
4.燃料電池模写環境の耐食性及び接触抵抗の評価及び結果
(1)模写環境の耐食性及び接触抵抗の評価
本発明のステンレス分離板の燃料電池環境模写は、EG&G 273Aを使用した。80℃の0.1N H2SO4+2ppm HF溶液に試片を装入し、1時間の間O2バブリング後、試片に0.6V対SCEの定電圧を印加した。一定時間の間定電圧を印加した後、試片の耐食性及び接触抵抗を測定した。上記作業を繰り返しながら、長期間の間の燃料電池模写環境での耐食性及び接触抵抗の変化様相を評価した。
【0061】
(2)模写環境の耐食性及び接触抵抗の評価結果
図6は、上記のような方法で測定された燃料電池模写環境の耐食性評価に対する結果を表しているグラプである。図6を参照すれば、参考例1及び比較例2は、初期にも、1、000時間経過後にも、腐蝕電流値が1μA/cm2以下に略一定に維持されていることがわかるが、比較例3の場合は、長時間経過後だけでなく、初期腐蝕電流値も1μA/cm2を超過していることがわかる。これは、比較例3においてCrN層の剥離(exfoliation)によるものであると判断される。
【0062】
図7は、上記のような方法で測定された燃料電池模写環境で参考例1、参考例4、参考例8〜参考例18、比較例1、及び比較例2の試片の2、000時間露出後、接触抵抗評価に対する結果を表しているグラプである。
【0063】
図7を参照すれば、参考例1、参考例4、及び参考例8〜参考例18の場合には、2、000時間経過後にもDOE基準以下の値を維持していることに比べて、比較例1及び比較例2の場合には、2、000時間以後には、DOE基準を超過した接触抵抗値を表していることがわかる。
【0064】
上記のような結果の理由は、比較例1の場合には、CrN層が剥離されるか、あるいは、CrNより高い厚さで不動態被膜が成長するからであり、比較例2の場合には、不動態被膜が継続して成長したからであると判断され、これに比べて参考例の場合には、表面に形成された金属化合物層が、その下部の不動態被膜の成長を抑制する耐腐食性及び伝導性コーティング層の役割をよく遂行したからであると判断される。
【0065】
5.燃料電池の長期耐久性評価及び結果
(1)長期耐久性の評価方法
反応ガスの供給のためにサーペンタイン流路を有する分離板を使用し、分離板の間に膜−電極接合体(Gore社のモデル名5710)とガス拡散層(SGL社のモデル10BA)とを置いた後、一定の圧力で締結して燃料電池セルを製作した。
【0066】
燃料電池の性能評価は、単位セルを利用して評価し、燃料電池の運転装置は、NSE Test Station 700W classを使用し、燃料電池の性能評価のための電子負荷装置は、KIKUSUI E−Loadを使用して、0.01A/cm2電流15秒−1A/cm2電流15秒のサイクルを持続的に印加した。
【0067】
反応ガスとしては、水素と空気を使用し、流量は、電流によって水素1.5、空気2.0の化学量論比を一定に維持し、相対湿度100%に加湿後供給した。加湿器とセルの温度は、65℃に一定に維持させ、大気圧の条件下で性能を評価した。この時、作動面積(active area)は、25cm2、作動圧力は、1atmであった。
【0068】
(2)長期耐久性の評価結果
図8は、上記参考例1、参考例4、参考例8〜参考例18、比較例1、及び比較例2の試片を、上記長期耐久性の評価方法に応じて2、000時間経過後の評価結果を示すグラプである。
【0069】
図8を参照すれば、初期には、全て発生電圧が0.62V以上であったが、比較例1の場合には、2、000時間経過後、発生電圧が0.58V程度に低下し、比較例2の場合には、2、000時間経過後、発生電圧が0.57Vに低下する。
【0070】
これに比べて、本発明の参考例1、参考例4、及び参考例8〜18により製造されるステンレス分離板を用いた燃料電池の場合には、耐久性が非常に優れて2、000時間が経過しても、初期に比べて0.02V未満の微小量の発生電圧低下が表していることがわかる。
【0071】
図9は、本発明の第2実施例に係る燃料電池用ステンレス分離板の製造方法を説明するための工程フローチャートである。
【0072】
本発明の第2実施例に係る燃料電池用ステンレス分離板を製造するためには、まずステンレス鋼板を用意する(S910)。本工程段階において使用されるステンレス鋼板は、一般的に市販される16〜28wt%のクロム成分を含むステンレス鋼板を使用し、18wt%程度のクロム成分を含むステンレス鋼板を使用しても関係ない。
【0073】
具体的に、ステンレス鋼板母材は、0.08wt%以下の炭素(C)、16〜28wt%のクロム(Cr)、0.1〜20wt%のニッケル(Ni)、0.1〜6wt%のモリブデン(Mo)、0.1〜5wt%のタングステン(W)、0.1〜2wt%の錫(Sn)、0.1〜2wt%の銅、及びその他の残量に鉄(Fe)を含むステンレス鋼板であることを特徴とし、より具体的にオーステナイト(Austenite)系ステンレスであるSUS 316L、0.2tのようなものが利用される。
【0074】
本段階は、後で行われる表面改質及びコーティング層形成に先立って、酸性及びアルカリ性の脱脂剤を利用してステンレス鋼板の表面の不純物を除去する洗浄工程が含まれることもできる。
【0075】
次に、ステンレス鋼板の表面を改質する(S920)。ステンレス鋼板は、耐食性が強いクロム成分及びニッケル成分を含んでいるが、大部分の含有量は、鉄(Fe)成分からなっている。これにより、ステンレス鋼板は、自然状態で空気中の酸素と結合して、表面に酸化膜(oxide)が生じるが、酸化膜は、不導体であるので、全体的なステンレス鋼板の電気伝導度を落とす要因として作用することができる。
【0076】
従って、耐食性が落ちるステンレス鋼板の表面性質を改質させる必要がある。即ち、表面改質を通じて、ステンレス鋼板の表面層の内部に存在する鉄成分(Fe)のみを選択的に溶解(etching)させる。
【0077】
上記のような表面改質工程を経た後、ステンレス鋼板の表面は、クロム成分が豊富な(Cr−rich)不動態被膜に変わり、Cr−rich不動態被膜の金属成分のうちから、クロム成分が占める含量比は、20〜75wt%程度であり、鉄成分が30wt%以下であり、よってCr−rich不動態被膜(passive film)の主要構成成分比は、(Cr+Ni)/Feの比率が1以上である状態となる。
【0078】
ここで、選択的金属溶解が可能な理由は、表面酸化物層において、鉄酸化物は、酸で簡単に溶解する性質があり、クロム酸化物は、鉄酸化物に比べて安定して簡単に溶解しないからである。
【0079】
表面改質のために使用される溶液及び条件は、次の通りである。表面改質溶液は、純粋硝酸(HNO3)5〜20wt%、純粋硫酸(H2SO4)2〜15wt%(硝酸や硫酸は、選択的に使われることもできる)、及び残量に水を含んでおり、50℃乃至80℃の温度が適正であり、沈積時間は、30秒乃至30分以下にするものの、処理時間に応じた生産性を考慮して、30秒乃至10分以下にして、硝酸及び硫酸の濃度を調節することが好ましい。
【0080】
本発明に係る表面改質溶液は、上記第1表面改質溶液(硝酸+硫酸)に、オキサル酸(oxalic)及び過酸化水素(H22)のうちから選択される、ある一つまたは二つを添加して、ステンレス鋼板の表面金属溶解速度を加速化させることもできる。また、表面改質をするにあたって、電気化学的方法を利用して硫酸(H2SO4)を含む表面改質溶液に沈積した後、0V超過し1.0VまでのSHE電位を印加すると、より短い時間に鉄成分(Fe)に対する選択的溶解が可能になる。
【0081】
表面改質工程をすれば、クロム成分(Cr)は、略溶解せずに、多い量の鉄(Fe)成分と一部のニッケル(Ni)成分とが選択的に溶解しながら、ステンレス鋼板の表面層の内部の鉄成分(Fe)を低減させ、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)成分を表面層の内部で濃縮(concentrating)させる。表面改質結果、Cr−rich不動態被膜(passive film)の厚さは、5〜100nmとなる。
【0082】
次に、上記のように表面改質されて、表面に不動態被膜が形成されたステンレス鋼板を熱処理(heat treatment)する(S930)。上記のような熱処理をする理由は、次の通りである。
【0083】
ステンレス鋼板の表面を改質すれば、上記で説明したように、クロム(Cr)成分が濃縮された不動態被膜が生じて、初期段階において優れた耐食性と伝導性が確保される。しかし、高温多湿な燃料電池の作動環境で表面改質されたステンレス分離板を長時間露出した場合、不動態被膜の厚さが徐々に厚くなり、このような不動態被膜の大部分の成分は、金属酸化物(metal oxide)であるので、作動時間が経過するに伴い、耐食性は維持されるが、電気伝導性は悪くなる。
【0084】
従って、上記のようなCr−rich不動態被膜上に、耐食性及び伝導度が同時に優秀であり、長時間の作動時にも、不動態被膜の成長を抑制できるように熱処理をすることにより、初期だけでなく、長期間の使用時にも、優れた耐食性と伝導性を有する燃料電池分離板を製造することができる。
【0085】
熱処理(heat treatment)は、真空状態、大気中(atmosphere)、又は不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、水素など)の雰囲気で行われ、100〜300℃、望ましくは100〜200℃の温度で行われる。熱処理温度を上記の範囲にする理由は、100℃以下の場合にその効果が微小であり、300℃超過の場合には、酸化されてむしろ物性が悪くなることもでき、また、経済的側面で望ましくないからである。
【0086】
熱処理時間は、特別に限定されていないが、3分以上に熱処理することが好ましく、熱上昇時間及び経済的側面を考慮する時、1時間以内の時間で熱処理することが好ましい。本発明の実施例は、全て30分間熱処理した。熱処理は、加熱炉(furnace)の内部でバッチ処理タイプ(Batch−type)で行うか、または連続ライン方式を適用して行うことができる。
【0087】
上述した燃料電池用ステンレス分離板の製造方法、即ち表面改質工程及び熱処理工程を通じて製造される燃料電池用分離板は、米国エネルギー性(DOE)基準、即ち1μA/cm2以下の腐蝕電流、両面基準20mΩ cm2以下の接触抵抗を有する。
【0088】
【表4】

【0089】
表4は、ステンレス鋼板母材として316Lを使用して、沈積法と電気化学法により、それぞれの表面改質条件(温度、時間、溶液組成)、熱処理条件(雰囲気、温度)を別にしながら、製造される本発明の実施例19〜実施例27及び比較例4〜比較例8に応じたステンレス分離板に対して、腐蝕電流と接触抵抗を測定した結果を表すものである。
【0090】
具体的に、実施例19及び実施例20は、表面改質及び1*10-3torrの真空状態で熱処理をしたものであり、実施例21及び実施例22は、表面改質及び窒素(N2)雰囲気で熱処理をしたものであり、実施例23及び実施例24は、表面改質及び0族不活性気体であるアルゴン(Ar)ガス雰囲気で熱処理をしたものであり、実施例25〜実施例27は、表面改質及び大気中で熱処理をしたものである。
【0091】
また、比較例4の場合は、表面改質のみをし、熱処理をしない場合であり、比較例5の場合は、表面改質及び大気中で熱処理をするものの、本発明が提示する熱処理の温度範囲から外れる400℃の温度で熱処理をしたものであり、比較例6〜比較例8の場合は、表面改質及び大気中で熱処理をするものの、本発明が提示する熱処理時間から外れる1分あるいは2分の間熱処理をしたものである。
【0092】
1.接触抵抗の測定
図5に示された接触抵抗測定装置50を利用して、上記表4に示す実施例と比較例の試片500、即ちステンレス鋼板の接触抵抗を測定した。
【0093】
2.腐蝕電流の測定
上述の参考例1乃至参考例18と同一の方法で腐蝕電流を測定した。
【0094】
3.腐蝕電流及び接触抵抗の測定結果の分析
表4を参照すれば、本発明の実施例のように、表面改質及び熱処理を本発明が提示する範囲でした場合、全てDOE基準を満足する範囲である、腐蝕電流が0.5〜0.7μA/cm2の間の値を有することがわかっており、接触抵抗は、12〜18mΩ cm2範囲の値を表していることがわかる。
【0095】
そして、比較例4のように、表面改質のみをし、熱処理をしない場合、接触抵抗値は、17.5mΩ cm2であり、腐蝕電流値は、0.95μA/cm2であり、比較例5のように表面改質のみを経て熱処理をするものの、本発明が提示する温度より高い温度で熱処理をした場合、接触抵抗値は、23.3mΩ cm2であり、腐蝕電流値は、0.35μA/cm2であり、比較例6〜比較例8のように表面改質後、1分間大気中で熱処理をした場合、接触抵抗値は、17.3〜17.4mΩ cm2であり、腐蝕電流値は、0.94〜0.95μA/cm2を表していることがわかる。
【0096】
但し、比較例4及び比較例6〜8の接触抵抗と腐蝕電流値は、DOE基準を満足させる値ではあるが、これは、燃料電池を長時間動作させる以前の初期値であるためであり、本発明で主要関心を有する、後に記載される燃料電池の長期耐久性評価では、上記実施例と比較例4の値の差は、より顕著になることがわかる。
【0097】
4.燃料電池模写環境の耐食性及び接触抵抗の評価及び結果
(1)模写環境の耐食性及び接触抵抗の評価
上述の参考例1乃至参考例18と同一の方法で燃料電池模写環境での耐食性及び接触抵抗の変化様相を評価した。
【0098】
(2)模写環境の接触抵抗及び長期耐食性の評価結果
図10は、上記のような方法で測定された燃料電池模写環境の接触抵抗評価に対する結果を表しているグラプである。図10を参照すれば、実施例19、21、23、及び26の場合、初期(0時間)にも、2、000時間経過後にも、接触抵抗値が20mΩ cm2以下に略一定に維持されていることがわかるが、比較例4及び比較例6〜比較例8の場合、初期には、先立って説明したように17.3〜17.5mΩ cm2の値を持っているが、2、000時間経過後には、40mΩ cm2を越える値を持つようになることがわかる。
【0099】
図11は、上記のような方法で測定された燃料電池模写環境において、実施例19、実施例21、及び比較例4の試片の2、000時間露出後、腐蝕電流(corrosion current density)の評価に対する結果を表しているグラプである。図11を参照すれば、実施例19、実施例21、及び比較例4の試片全てが、初期だけでなく、2、000時間経過後にも、DOE基準以下の値を表していることがわかる。
【0100】
上記の内容を総合してみると、表面改質工程のみをし、熱処理工程をしない場合、模写環境で長時間使用しても、耐食性は維持されるが、表面抵抗は、大きく増加することがわかる。
【0101】
5.燃料電池の長期耐久性の評価及び結果
(1)長期耐久性の評価方法
上述の参考例1乃至参考例18と同一の方法で長期耐久性を評価した。
【0102】
(2)長期耐久性の評価結果
図12は、上記実施例19、21、23、26及び比較例4、6〜8の試片を上記の長期耐久性の評価方法に応じて、2、000時間経過後の評価結果を示すグラプである。図12を参照すれば、比較例4、6〜8の場合、初期には0.6V以上の発生電圧を持っているが、2、000時間経過後、発生電圧が0.57V程度に低下することがわかる。
【0103】
これに比べて、本発明の実施例19、実施例21、実施例23、及び実施例26により製造されるステンレス分離板を用いた燃料電池の場合、初期発生電圧が全て0.62V以上であり、2、000時間が経過しても、耐久性が非常に優れて、初期に比べて0.02V未満の微小量の発生電圧の低下が表していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用金属分離板の製造方法であって、
(a)ステンレス鋼板母材を用意する段階と、
(b)前記ステンレス鋼板母材の表面層の鉄(Fe)成分を低減させて、前記ステンレス鋼板の表面に、クロム(Cr)成分の相対的な量が増加されたCr−rich不動態被膜を形成する表面改質段階と、
(c)表面改質された前記ステンレス鋼板を、真空状態、大気中、又は不活性ガスの雰囲気で100〜300℃で熱処理する段階と
を備える燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理温度は、100〜200℃である、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)、ヘリウムガス(He)、及び水素ガス(H2)のうちから一つ以上選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項4】
前記(b)段階を経た後、前記ステンレス鋼板の表面層を構成する不動態被膜は、原子量の比率で(Cr+Ni)/Feの比率が1以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理は、3分以上で1時間以内の範囲において行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項6】
前記(b)段階の表面改質工程は、硫酸(H2SO4)溶液、硝酸(HNO3)溶液、又はこれらの混合溶液を含む表面改質溶液に沈積させるか、または前記表面改質溶液をステンレス鋼板母材の表面にスプレーすることにより行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項7】
前記(b)段階の表面改質工程は、硫酸(H2SO4)を含む表面改質溶液に沈積し、0V超過し1.0VまでのSHE領域で電位(又は電流)を印加することにより行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項8】
前記表面改質溶液は、過酸化水素(H22)とオキサル酸(C224: oxalic acid)のうちから選択される一つ以上の添加物を更に含む、ことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項9】
前記(c)段階において、前記熱処理は、バッチ型及び連続ライン型のうち選択的に行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項10】
前記ステンレス鋼板母材は、16〜28wt%のクロム成分を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ステンレス分離板の製造方法。
【請求項11】
燃料電池用ステンレス分離板であって、
ステンレス鋼板母材と、
前記ステンレス鋼板母材の表面に形成された20〜75wt%のクロム(Cr)成分を有するCr−rich不動態被膜と
を備え、
前記Cr−rich不動態被膜が形成されたステンレス鋼板は、真空状態、大気中、又は不活性ガスの雰囲気で100〜300℃で熱処理されている、燃料電池用ステンレス分離板。
【請求項12】
前記不動態被膜は、原子量の比率で(Cr+Ni)/Feの比率が1以上である、ことを特徴とする請求項11に記載の燃料電池用ステンレス分離板。
【請求項13】
前記燃料電池用ステンレス分離板の腐蝕電流は、1μA/cm2未満、接触抵抗は、両面基準20m Ωcm2未満の値を有する、ことを特徴とする請求項11に記載の燃料電池用ステンレス分離板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−182142(P2012−182142A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105239(P2012−105239)
【出願日】平成24年5月2日(2012.5.2)
【分割の表示】特願2009−103823(P2009−103823)の分割
【原出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(509107932)ヒュンダイ ハイスコ (20)
【Fターム(参考)】