説明

燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】水移動性能の低下を抑制し、冷却水のシール性を向上する燃料電池用多孔質セパレータを提供する。
【解決手段】炭素系材料と熱硬化性樹脂の混合物を加熱プレスして成形する多孔質性セパレータの製造において、第1の炭素系材料と熱硬化性樹脂の混合物31を金型に投入しその上に樹脂フィルム32を配置し第1の炭素系材料のより粒径の小さい第2の炭素系材料と熱硬化性樹脂の混合物33を樹脂フィルム32の上に投入する。その後第1の混合物31と樹脂フィルム32と第2混合物33とを加熱プレスにより燃料電池用多孔質セパレータに成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用セパレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンセパレータの製造方法において予めガス流路などを成形した後に、高温処理によってカーボンセパレータを製造するものが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−216780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の発明では、単一の粒径のカーボンによってカーボンセパレータを成形するので、例えば粒径の小さなカーボンを加熱プレスすると、例えばガス流路となる箇所においてはプレス時の圧力が大きくなり、細孔径が小さくなり、カーボンセパレータへの水移動性能が低下するといった問題点がある。一方、粒径の大きなカーボンを加熱プレスすると、例えばガス流路の背面側に冷却水流路を設けている場合などには、冷却水流路とのシール性が低くなるといった問題点がある。
【0004】
また、ガス流路側にはカーボン粒径の大きなカーボンを使用し、冷却水流路側にはカーボン粒径の小さいカーボンを使用し、カーボンセパレータ内での水移動性能の低下を防ぎ、かつ冷却水のシール性を高めた場合でも、異なる粒径のカーボンが混ざることで、希望する細孔径のカーボンセパレータを製造することが困難であるといった問題点がある。
【0005】
本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、カーボンセパレータへの水移動性能の低下を抑制し、冷却水のシール性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、炭素系材料と熱硬化性樹脂を有する混練物を加熱プレスして成形する燃料電池用多孔質セパレータの製造方法において、第1の炭素系材料と熱硬化性樹脂を有する第1の混練物を金型に投入する工程と、金型に投入された第1の混練物に樹脂フィルムを配置する工程と、第1の炭素系材料よりも粒径の小さい第2の炭素系材料と熱硬化性樹脂を有する第2の混練物を前記樹脂フィルムの上に投入する工程と、第1の混練物と樹脂フィルムと第2の混練物とを加熱プレスによって燃料電池用多孔質セパレータに成形する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、第1の混練物と第2の混練物の間に樹脂フィルムを配置することで、成形の際に第1の混練物と第2の混練物とが混じることを抑制し、燃料電池用多孔質セパレータ内の水移動性能の低下を抑制し、冷却水のシール性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
燃料電池は単位セル1を例えば100から200枚程度積層して構成される。ここで本発明の単位セル1について図1の概略構成図を用いて説明する。
【0009】
単位セル1は、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜)2と、電解質膜2を挟持するアノード触媒層3とカソード触媒層4と、アノード触媒層3とカソード触媒層4の外側に設けたアノードガス拡散層5とカソードガス拡散層6を備える。また、アノードガス拡散層5の外側に設けられ、水素流路(ガス流路)10と冷却水流路12を有するアノードセパレータ(燃料電池用多孔質セパレータ)7と、カソードガス拡散層6の外側に設けられ、空気流路(ガス流路)11と冷却水流路12を有するカソードセパレータ(燃料電池用多孔質セパレータ)8を備える。また、単位セル1から水素、空気(酸化剤)、冷却水がリークしないようにシール材9などを備える。冷却水流路12はアノードセパレータ7またはカソードセパレータ8のどちらか一方にのみ設けても良い。なお、電解質膜2とアノード触媒層3とカソード触媒層4とアノードガス拡散層5とカソードガス拡散層6を膜電極複合体(以下、MEA:Membrane Electorode Assembly)13とする。
【0010】
カソードセパレータ8について図2を用いて説明する。カソードセパレータ8は、粒径の大きい炭化系材料である黒鉛(第1の炭化系材料)Aと熱硬化性樹脂によって構成される黒鉛層(第1の層)20と、黒鉛Aよりも粒径の小さい黒鉛(第2の炭化系材料)Bと熱硬化性樹脂によって構成される黒鉛層(第2の層)21とから構成される。熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール、エポキシなどを使用する。なお、黒鉛層20と黒鉛層21を単位セル1の積層方向に層状に配置し、カソードガス拡散層6と当接するように黒鉛層20を配置し、黒鉛層20の外側に黒鉛層21を配置する。黒鉛層20には空気流路11が形成される。
【0011】
黒鉛Aの粒径は、カソードセパレータ8を成形後にカソードセパレータ8内での水移動性能を十分に有する粒径とし、予め設定する。また、黒鉛Bの粒径は冷却水のシール性が保たれる粒径であれば良い。
【0012】
カソードセパレータ8を加熱プレス成形する際には、詳しくは後述するが、空気流路11付近の細孔径が小さくなる。この実施形態ではカソードセパレータ8において空気流路11を形成する箇所に粒径が大きい黒鉛Aから構成する黒鉛層20を配置することで、カソードセパレータ8の成形の際に空気流路11付近の細孔径が小さくなった場合でも、黒鉛層20内での水移動性能の低下を抑制することができる。また、冷却水流路12側には粒径の小さい黒鉛Bを用いることで、冷却水のシール性を良くすることができる。
【0013】
以上により、発電反応によって生じた生成水をカソードセパレータ8内での水移動を十分に行うことができる。つまり、黒鉛層20を通りカソードセパレータ8内の水移動性能を良くすることができ、電解質膜22の全体を保湿することができる。
【0014】
アノードセパレータ7はカソードセパレータ8と同じ構成なのでここでの説明は省略する。
【0015】
次にアノードセパレータ7、カソードセパレータ8の製造方法について図3のフローチャートと、図4の工程図を用いて説明する。ここではアノードセパレータ7について説明するが、カソードセパレータ8についても同様の製造方法によって成形する。
【0016】
ステップS100では、水素流路10の形状を有する金型30に黒鉛Aと熱硬化性樹脂の混練物(第1の混練物)31を投入する(図4中(a))。後述するステップS103においてアノードセパレータ7をプレス成形した際に、水素流路10付近の細孔径が小さく、つまり加圧により黒鉛Aの密度が高くなるが、水素流路10の形状を有する金型30に黒鉛Bよりも粒径が大きな黒鉛Aをまず投入することで、加圧されることにより細孔径が小さくなった場合でもアノードセパレータ7内での水移動性能の低下を抑制することができる。
【0017】
ステップS101では、黒鉛Aと熱硬化性樹脂の混練物31の上に樹脂フィルム32を配置する。なお、樹脂フィルム32はレゾール系或いはノボラック系フェノール熱硬化性樹脂フィルムを使用する。なお、樹脂フィルム32は熱硬化性樹脂と同じ熱硬化特性を有する物であれば良い(図4中(b))。
【0018】
ステップS102では、黒鉛Bと熱硬化性樹脂の混練物(第2の混練物)33を樹脂フィルム32の上から投入する(図4中(c))。これによって金型30に近い面から混練物31、樹脂フィルム32、混練物33の3層を積層する。混練物31と混練物33は樹脂フィルム32によって物理的に分離されている。
【0019】
ステップS103では、金型30、34によって加熱・プレスを行い、アノードセパレータ7の形状に成形する(図4中(d))。加熱の温度は熱硬化性樹脂、樹脂フィルム32が溶解し、硬化する温度とする。ここで熱硬化性樹脂と樹脂フィルム32の温度と粘度の関係を図5に示す。熱硬化性樹脂と樹脂フィルム32は或る温度(約100℃)まで加熱されると一旦軟化し、更に温度を高く(約150℃)すると硬化する。この実施形態では加熱温度を100℃から140℃の間に設定する。これにより樹脂フィルム32を溶解させ、黒鉛層20と黒鉛層21を物理的にさせる。樹脂フィルム32を用いることで、加熱プレス成形の際に、黒鉛Aと黒鉛Aよりも粒径の小さな黒鉛Bが混じることを抑制することができる。
【0020】
ステップS104ではアノードセパレータ7を高温焼成することで、アノードセパレータ7に残った熱硬化性樹脂、樹脂フィルム32を炭化させる。ここでは焼成温度を1000℃から1500℃の間に設定する。
【0021】
以上の工程により、アノードセパレータ7において、膜電極複合体13と当接する側には粒径の大きな黒鉛A、つまり細孔径の大きな黒鉛層20を設け、その外側に粒径の小さな黒鉛B、つまり細孔径の小さな黒鉛層21を設ける。ステップS101、102において混練物31と混練物33の間に樹脂フィルム32を設けることで、混練物31と混練物33が混じることがなく、成形後においても黒鉛層20と黒鉛層21が混じるのを防止することができる。
【0022】
アノードセパレータ7、カソードセパレータ8は図6に示すように構成しても良い。図6はアノードセパレータ7の変更例である。
【0023】
カソードセパレータ8において例えば空気流路11の下流側など発電反応による生成水が溜まり易い箇所などに黒鉛Aから構成され細孔径が大きい黒鉛層20を配置する。これによって生成水を黒鉛層20を通して冷却水流路12への移動を容易にし、フラッディングを抑制することができる。
【0024】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0025】
この実施形態では成形後に水素流路10、空気流路11を形成する箇所に混練物31を配置し、黒鉛Aを含んだ混練物31と黒鉛Bを含んだ混練物33の間に樹脂フィルム32を介して3層構造にして加熱プレスによりアノードセパレータ7、カソードセパレータ8を成形する。樹脂フィルム32を混練物31と混練物33の間に配置することで、成形の際に混練物31と混練物33との混合を抑制することができ、アノードセパレータ7、カソードセパレータ8内での水移動性能の低下を抑制することができ、更に冷却水のシール性を向上することができる。
【0026】
樹脂フィルム32を混練物31と混練物33の間に配置して加熱プレス成形することで、黒鉛Aと黒鉛Bとが混合する箇所(層)を薄くすることができ、アノードセパレータ7とカソードセパレータ8を薄くすることができる。これにより単位セル1、すなわち燃料電池を小型にすることができる。
【0027】
樹脂フィルム32で混練物31と混練物33を物理的に分離して加熱プレス成形するので、アノードセパレータ7、カソードセパレータ8において、粒径の異なる材料を正確に分けることができ、例えば生成水が溜まり易い箇所を粒径の大きな黒鉛によって構成することができる。これによってアノードセパレータ7、カソードセパレータ8で必要に応じた水移動性能を実現することができる。
【0028】
熱硬化性樹脂と同様の熱硬化性能の樹脂フィルム32を用いることにより、アノードセパレータ7、カソードセパレータ8の導電性の低下、つまり燃料電池の発電効率の低下を防止することができる。一回の加熱プレスによってアノードセパレータ7、カソードセパレータ8を成形することができるので、製造工程を短くし、作業性を良くすることができる。
【0029】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
カーボンセパレータを使用する燃料電池に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態の単位セルの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態のカソードセパレータの概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態のアノードセパレータ、カソードセパレータを成形するフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態のアノードセパレータ、カソードセパレータを成形する工程図である。
【図5】本発明の熱硬化性樹脂、樹脂フィルタの温度と粘性との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施形態のカソードセパレータの変更例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0032】
1 単位セル
2 固体高分子電解質膜(電解質膜)
7 アノードセパレータ(燃料電池用多孔質セパレータ)
8 カソードセパレータ(燃料電池用多孔質セパレータ)
10 水素流路(ガス流路)
11 空気流路(ガス流路)
12 冷却水流路
20 黒鉛層(第1の層)
21 黒鉛層(第2の層)
30、34 金型
31 混練物(第1の混練物)
32 樹脂フィルム
33 混練物(第2の混練物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系材料と熱硬化性樹脂を有する混練物を加熱プレスして成形する燃料電池用多孔質セパレータの製造方法において、
第1の炭素系材料と前記熱硬化性樹脂を有する第1の混練物を金型に投入する工程と、
前記金型に投入された前記第1の混練物に樹脂フィルムを配置する工程と、
前記第1の炭素系材料よりも粒径の小さい第2の炭素系材料と熱硬化性樹脂を有する第2の混練物を前記樹脂フィルムの上に投入する工程と、
前記第1の混練物と前記樹脂フィルムと前記第2の混練物とを加熱プレスによって燃料電池用多孔質セパレータに成形する工程と、を備えた燃料電池用多孔質セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは前記熱硬化性樹脂と略同一の硬化性を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用多孔質セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記第1の混練物と前記樹脂フィルムと前記第2の混練物とを加熱プレスによって燃料電池用多孔質セパレータに成形する工程は、前記熱硬化性樹脂と前記樹脂フィルムを高温焼成によって炭化する工程を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用多孔質セパレータの製造方法。
【請求項4】
水素または酸化剤が流れるガス流路を形成した請求項1から3のいずれか一つに記載の方法によって製造された燃料電池用多孔質セパレータを有する単位セルと、
前記ガス流路を設けた前記燃料電池用多孔質セパレータの背面側に前記単位セルを冷却する冷却水が流れる冷却水流路と、備えた燃料電池において、
前記燃料電池用多孔質セパレータは、前記ガス流路有する前記第1の炭素系材料から構成する第1の層を有し、かつ前記ガス流路の背面側に前記第2の炭素系材料から構成する第2の層を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
前記燃料電池用多孔質セパレータは、前記酸化剤が流れる前記ガス流路の下流側を前記第1の炭素系材料で構成することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216257(P2006−216257A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25130(P2005−25130)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】