説明

燃料電池用担持触媒

【課題】燃料電池の高出力化に有効な燃料電池用担持触媒を提供すること。
【解決手段】白金と、白金以外の遷移金属元素と、希土類元素と、それらを担持した導電性担体とを備えたことを特徴とする燃料電池用担持触媒。白金と白金以外の遷移金属元素と希土類元素とを含有した合金と、これを担持した導電性担体とを備えたことを特徴とする燃料電池用担持触媒。カソード触媒層3で前記担持触媒5bを使用すると、酸素分子を効率的に酸素イオンへ還元することが出来、白金又は白金合金をカソード触媒3に使用した場合と比較して、より高い出力の膜電極接合体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用担持触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を用いた発電システムの小型化には、燃料電池の高出力化が必要不可欠である。そして、この高出力化には、カソード過電圧の低減が最も効果的である。
【0003】
このため、カソード触媒層の性能向上に関し、数多くの研究が為されている。例えば、特許文献1には、白金合金をカーボン担体に担持した燃料電池用担持触媒が記載されている。
【0004】
しかしながら、そのような担持触媒による燃料電池の高出力化は、必ずしも十分ではない。
【0005】
なお、燃料電池用担持触媒は、他の特許文献にも記載されている。
例えば、特許文献2には、一般式:A’1-xA”xB’1-yB”y3で表されるペロブスカイト型複合酸化物とアルミナ又はシリカゾルとを含有したスラリーを用いて固体電解質型燃料電池の電極触媒を得ることが記載されている。この文献には、元素A’としてランタン及びセリウムが記載され、元素A”としてランタン、カルシウム、サマリウム、セリウム、ストロンチウム、バリウム及びプラセオジムが記載され、元素B’としてコバルト、鉄、マンガン及びガドリニウムが記載され、元素B”としてルテニウム及びロジウムが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、希土類元素又はそれを含んだ酸化物と、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、銀、ニッケル及び金から選ばれる金属又はその合金とで構成された電極が記載されている。この文献には、先の電極を燃料電池に使用することが記載されている。
【特許文献1】特開平4−358540号公報
【特許文献2】特開2001−224963号公報
【特許文献3】特開2002−333428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、燃料電池の高出力化に有効な燃料電池用担持触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、白金と、白金以外の遷移金属元素と、希土類元素と、それらを担持した導電性担体とを備えたことを特徴とする燃料電池用担持触媒が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、白金と白金以外の遷移金属元素と希土類元素とを含有した合金と、これを担持した導電性担体とを備えたことを特徴とする燃料電池用担持触媒。
【0010】
本発明の第3側面によると、湿式法により導電性担体に白金と白金以外の遷移金属元素と希土類元素とを含有した組成物を担持させ、前記組成物を担持した前記導電性担体を還元及び加熱処理に供することにより製造されることを特徴とする燃料電池用担持触媒。
【0011】
ここで、用語「希土類元素」は、原子番号が57乃至71のランタノイド元素を意味する。また、用語「遷移金属元素」は、原子番号が21乃至29、39乃至47、72乃至79の主遷移元素を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、燃料電池の高出力化に有効な燃料電池用担持触媒が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様または類似する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の一態様に係る燃料電池用担持触媒を使用した燃料電池の例を概略的に示す断面図である。図1には、一例として、固体高分子型燃料電池用の膜電極接合体を示している。
【0015】
この膜電極接合体1は、アノード触媒層2及びカソード触媒層3と、それらの間に介在するとともにプロトン電導性固体電解質を含んだプロトン電導性固体電解質層4とを備えている。
【0016】
アノード触媒層2は、担持触媒5aとプロトン電導性固体電解質6とを含んでいる。カソード触媒層3は、担持触媒5bとプロトン電導性固体電解質6とを含んでいる。また、プロトン電導性固体電解質層4は、プロトン電導性固体電解質6を含んでいる。
【0017】
アノード触媒層2が含む担持触媒5aは、例えば、カーボン担体などの導電性担体に、白金触媒として白金又は白金合金を担持させたものである。
【0018】
他方、カソード触媒層3が含む担持触媒5bは、カーボン担体などの導電性担体に、白金と、白金以外の遷移金属元素と、希土類元素とを担持させたものである。これら白金及び遷移金属元素の少なくとも一部は、白金合金として存在している。また、希土類元素の少なくとも一部は、この白金合金中に存在している。
【0019】
この膜電極接合体1は、アノード触媒層2側から水素ガスを供給すると共にカソード触媒層3側に酸素ガス,典型的には空気,を供給すると、アノード触媒層2とカソード触媒層3との間に起電力を生じる。より詳細には、アノード触媒層2では、白金又は白金合金の触媒としての作用により水素分子が酸化されて、プロトンと電子とを生じる。ここで生じた電子はカーボン担体などの導電性担体を導体路としてアノード触媒層2から外部回路へと取り出され、プロトンはアノード触媒層2からプロトン電導性固体電解質層4を経由してカソード触媒層3へと移動する。カソード触媒層3に到達したプロトンは、白金の触媒としての作用により、外部回路からカーボン担体などを導体路として供給される電子及び酸素分子と反応して水を生じる。この膜電極接合体1は、このような現象を利用して、水素ガスと酸素ガスとから電気エネルギーを生成する。
【0020】
さて、上記の通り、本態様において、カソード触媒層3で使用する担持触媒5bは、導電性担体に、白金と、白金以外の遷移金属元素と、希土類元素とを担持させたものである。この担持触媒5bをカソード触媒層3に使用すると、酸素分子を効率的に酸素イオンへと還元することができる。したがって、導電性担体に白金又は白金合金を担持させてなる担持触媒をカソード触媒層3に使用した場合と比較して、より高い出力の膜電極接合体1を得ることができる。
【0021】
先の担持触媒5bが酸素還元能力に優れている理由は、以下のように推定される。
【0022】
本態様に係る担持触媒5bでは、先に説明した通り、導電性担体に、白金と、白金以外の遷移金属元素と、希土類元素とを担持させている。遷移金属元素と希土類元素との合金には、エネルギー積(BH)maxが大きなものがある。すなわち、担持触媒5bの表面は、強磁性を示す可能性がある。
【0023】
ところで、分子軌道法によれば、酸素分子の電子配置は、以下のように表すことができる。
(1σg2(1σu2(2σg2(2σu2(3σg2(1πu4(1πg2
このように、酸素分子では、2つの1πg軌道に2つの電子がそれぞれ存在している。フントの規則によると、これら電子のスピンは互いに平行である。それゆえ、酸素分子は、磁気モーメントを持ち、常磁性を示す。
【0024】
したがって、担持触媒5bが磁場を形成している場合には、その作用によって、酸素分子は担持触媒5bへと引き寄せられる。その結果、担持触媒5bが磁場を形成していない場合と比較して、酸素分子と白金又は白金合金との接触確率が高まり、酸素分子の還元反応速度が高くなる。担持触媒5bが酸素還元能力に優れているのは、このような理由によると考えられる。
【0025】
本態様では、担持触媒5bとして、例えば、以下の方法により製造したものを使用することができる。
まず、湿式法により、粒子状の導電性担体に、白金と白金以外の遷移金属元素と希土類元素とを含有した組成物を担持させる。例えば、白金を含む塩などの白金化合物の水溶液、白金以外の遷移金属元素を含む塩などの遷移金属化合物の水溶液、及び希土類元素を含む塩などの希土類金属化合物の水溶液を準備する。次いで、これら水溶液を、カーボン担体などの導電性担体を水に分散させてなる分散液中に滴下する。さらに、この分散液に、例えば、アンモニア水溶液を添加して、導電性担体上に上記金属の水酸化物を堆積させる。その後、この分散液を濾過し、この濾過ケークを脱イオン水などで洗浄する。
【0026】
次に、上記組成物を担持した導電性担体を還元及び加熱処理に供する。例えば、先の濾過ケークを乾燥させた後、水素雰囲気などの還元性雰囲気中で加熱する。これにより、導電性担体に担持させた化合物を金属化する。続いて、還元処理後の導電性担体を、窒素雰囲気などの不活性雰囲気中でより高い温度に加熱して、上記金属の少なくとも一部を合金化する。このようにして、先の担持触媒5bを得る。
【0027】
担持触媒5bには、白金以外の遷移金属元素として、例えば、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及びそれらの混合物などのように、一般的な燃料電池用担持触媒で使用しているのと同じ遷移金属元素を使用することができる。但し、磁性の観点では、この白金以外の遷移金属元素は、鉄族元素,すなわち鉄、コバルト及びニッケル,の少なくとも1種の元素を含んでいることが有利である。また、磁性の観点では、担持触媒5bの希土類元素は、例えば、セリウム、サマリウム及びネオジムの少なくとも1種の元素を含んでいることが有利である。
【0028】
担持触媒5bにおいて、白金に対する白金以外の遷移金属元素の原子比は、例えば、0.1乃至2の範囲内とする。また、白金に対する希土類元素の原子比は、例えば、0.001乃至0.5の範囲内とする。
【0029】
担持触媒5bの白金担持量は、5重量%乃至80重量%程度とすることが望ましく、20重量%乃至80重量%程度とすることがより望ましい。白金担持量が先の下限値以上である場合、固体高分子型燃料電池の電流電圧特性を向上させるうえで有利である。また、白金担持量が約80重量%以下である場合、白金の比表面積を高めるうえで有利であり、また、コストの観点でも有利である。
【0030】
担持触媒5bの導電性担体としては、例えば、カーボンブラックや活性炭などのカーボン担体を使用することができる。この導電性担体としては、通常、平均粒径が約100nm以下のものを使用する。
【0031】
アノード触媒層2、カソード触媒層3及びプロトン電導性固体電解質層4中のプロトン電導性固体電解質6は水を含んでいる。プロトン電導性固体電解質6としては、例えば、−SO3-基を有するプロトン電導性固体電解質を使用することができる。そのようなプロトン電導性固体電解質としては、例えばナフィオンに代表されるパーフルオロスルホン酸イオノマーを使用することが好ましい。また、図1に示す膜電極接合体1では、アノード触媒層2とカソード触媒層3とプロトン電導性固体電解質層4とに同種のプロトン電導性固体電解質6を使用してもよく、或いは、それらには互いに異なる種類のプロトン電導性固体電解質6を使用してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0033】
・触媒粉末[A]の調製
以下の方法により、担持触媒を調製した。
まず、約3.79の市販の高比表面積カーボン粉末を0.5Lの純水中に分散させた。次いで、この分散液中に、約5.62gの白金を含むヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液、約0.424gのコバルトを含む硝酸コバルト水溶液及び約0.216gのサマリウムを含む硝酸サマリウム水溶液を順次滴下した。
【0034】
十分に攪拌した後、この分散液に約5mLの0.01Nアンモニア水溶液を添加し、pHを約9にした。これにより、各金属の水酸化物をカーボン粒子上に析出させた。
【0035】
次に、先の分散液を濾過した。続いて、その濾過ケークの純水を用いた洗浄と濾過とを、濾過液の導電率が50μS/cm以下になるまで繰り返した。その後、この濾過ケークを、100℃で10時間の真空乾燥に供した。
【0036】
次いで、カーボン粒子表面に堆積させた金属化合物の還元反応を生じさせるべく、濾過ケークを、水素ガス中、500℃で2時間の加熱処理に供した。続いて、それら金属の少なくとも一部を合金化するべく、この濾過ケークを、窒素ガス中、900℃で2時間の加熱処理に供した。
【0037】
以上のようにして、白金担持量が約60重量%であり、コバルト担持量が約4.5重量%であり、サマリウム担持量が約4.6重量%の担持触媒を得た。なお、この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0.05である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[A]と呼ぶ。
【0038】
この触媒粉末[A]に関して、X線回折計による測定を行った。その結果、白金の回折ピークのみが検出され、白金の(111)面に対応した39°付近の回折ピークのシフトから、不規則配列合金が形成されていることを確認することができた。さらに、白金の(111)面に対応した回折ピークのピーク位置と半価幅とから白金触媒の平均粒径を算出したところ、4nm乃至5nmであった。
【0039】
・触媒粉末[B]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.88gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.81gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.088gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.224gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.05:0.05である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[B]と呼ぶ。
【0040】
・触媒粉末[C]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.84gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.76gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.174gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.2222gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.1:0.05である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[C]と呼ぶ。
【0041】
・触媒粉末[D]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.32gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約4.98gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約1.51gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.192gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:1:0.05である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[D]と呼ぶ。
【0042】
・触媒粉末[E]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約2.553gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約3.83gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約3.47gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.148gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:3:0.05である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[E]と呼ぶ。
【0043】
・触媒粉末[F]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約2.07gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約3.11gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約4.70gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.120gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:5:0.05である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[F]と呼ぶ。
【0044】
・触媒粉末[G]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.83gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.74gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.433gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.002gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0.0005である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[G]と呼ぶ。
【0045】
・触媒粉末[H]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.82gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.73gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.433gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.004gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0.001である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[H]と呼ぶ。
【0046】
・触媒粉末[I]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.67gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.50gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.415gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.424gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0.1である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[I]と呼ぶ。
【0047】
・触媒粉末[J]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.13gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約4.70gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.355gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約1.81gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0.5である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[J]と呼ぶ。
【0048】
・触媒粉末[K]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約2.65gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約3.98gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.301gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約3.07gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:1である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[K]と呼ぶ。
【0049】
・触媒粉末[L]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.83gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.74gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.433gとし、硝酸サマリウム水溶液を使用しなかったこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[L]と呼ぶ。
【0050】
・触媒粉末[M]の調製
高比表面積カーボン粉末の量を約3.82gとし、ヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液中の白金含量を約5.73gとし、硝酸コバルト水溶液中のコバルト含量を約0.432gとし、硝酸サマリウム水溶液中のサマリウム含量を約0.022gとしたこと以外は、触媒粉末[A]に関して上述したのと同様の方法により触媒粉末を調製した。この担持触媒の白金とコバルトとサマリウムとの原子比は、Pt:Co:Sm=1:0.25:0.005である。以下、このようにして得られた担持触媒を触媒粉末[M]と呼ぶ。
【0051】
以下の表1に、触媒粉末[A]乃至[M]の物性値を纏める。
【表1】

【0052】
・単セル電極[A]乃至[M]の作製
以下の方法により、図1に示す膜電極接合体1を作製した。
まず、触媒粉末[L]を有機溶剤中に添加し、それを超音波ホモジナイザで有機溶剤中に均一に分散させた。次いで、この分散液をテフロン(登録商標)シート上に塗布し、この塗膜を乾燥させることにより、電極面積1cm2当りの白金量が0.4mgのアノード触媒層2を得た。
【0053】
次に、以下の方法により、カソード触媒層3を得た。
まず、触媒粉末[A]を有機溶剤中に添加し、それを超音波ホモジナイザで有機溶剤中に均一に分散させた。次いで、この分散液をテフロン(登録商標)シート上に塗布し、この塗膜を乾燥させることにより、電極面積1cm2当りの白金量が0.4mgのカソード触媒層3を得た。以下、このカソード触媒層3を、触媒層[A]と呼ぶ。
【0054】
次に、触媒粉末[B]乃至[M]を用いたこと以外は、触媒層[A]に関して上述したのと同様の方法により、カソード触媒層3を得た。これらカソード触媒層3を、それぞれ、触媒層[B]乃至[M]と呼ぶ。
【0055】
次に、アノード触媒層2と各カソード触媒層3とをプロトン電導性固体電解質層4を介してホットプレスにより貼り合せた。このようにして膜電極接合体1を作製し、それぞれの両面に拡散層を設けた。以上のようにして得られた単セル電極を単セル電極[A]乃至[M]と呼ぶ。
【0056】
・単セル電極[A]乃至[M]の評価
上記の単セル電極[A]乃至[M]について、以下の方法で特性を評価した。
【0057】
すなわち、これら単セル電極[A]乃至[M]に、カソード触媒層3側から空気を1.0L/分の流量で供給するとともに、アノード触媒層2側から水素を0.5L/分の流量で供給して発電させた。この際、カソード触媒層3側のバブラ温度は70℃に設定し、アノード触媒層2側のバブラ温度は80℃に設定した。この条件のもと、これら単セル電極[A]乃至[M]の電流電圧特性を測定した。その結果を、下記表2及び図2乃至図4に纏める。
【表2】

【0058】
図2は、単セル電極[A]及び[L]の電流電圧特性を示すグラフである。図中、横軸は電流密度を示し、縦軸は電池電圧を示している。また、図中、曲線CAは単セル電極[A]について得られたデータを示し、曲線CLは単セル電極[L]について得られたデータを示している。
【0059】
単セル電極[A]と単セル電極[L]とは、カソード触媒層3に触媒粉末[A]及び[L]をそれぞれ使用していること以外は同様の構造を有している。また、触媒粉末[A]は、サマリウムを使用していること以外は、触媒粉末[L]と同様である。
【0060】
図2に示すように、単セル電極[A]は、単セル電極[L]と比較して、電流電圧特性に優れている。以上から、カソード触媒層3の担持触媒にサマリウムを使用することにより、電流電圧特性を向上させることを確認することができた。
【0061】
図3は、単セル電極[A]乃至[F]の電流密度を0.5mA/cm2とした場合の電池電圧を示すグラフである。図中、横軸は、カソード触媒層3の担持触媒における白金に対するコバルトの原子比を示し、縦軸は電池電圧を示している。
【0062】
単セル電極[A]乃至[F]は、カソード触媒層3に触媒粉末[A]乃至[F]をそれぞれ使用していること以外は同様の構造を有している。また、触媒粉末[A]乃至[F]は、白金に対するコバルトの原子比のみが互いに異なっている。
【0063】
図3に示すように、白金に対するコバルトの原子比が0.1乃至2の範囲内にある場合、特に高い電池電圧を実現することができた。
【0064】
図4は、単セル電極[A]及び[G]乃至[M]の電流密度を0.5mA/cm2とした場合の電池電圧を示すグラフである。図中、横軸は、カソード触媒層3の担持触媒における白金に対するサマリウムの原子比を示し、縦軸は電池電圧を示している。
【0065】
単セル電極[A]及び[G]乃至[M]は、カソード触媒層3に触媒粉末[A]及び[G]乃至[M]をそれぞれ使用していること以外は同様の構造を有している。また、触媒粉末[A]及び[G]乃至[M]は、白金に対するサマリウムの原子比のみが互いに異なっている。
【0066】
図4に示すように、カソード触媒層3の担持触媒にサマリウムを使用した単セル電極[A]、[G]乃至[K]及び[M]は、カソード触媒層3の担持触媒にサマリウムを使用していない単セル電極[L]と比較して、電池電圧が高かった。また、図4に示すように、白金に対するサマリウムの原子比が0.001乃至0.5の範囲内にある場合、特に高い電池電圧を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一態様に係る燃料電池用担持触媒を使用した燃料電池の例を概略的に示す断面図。
【図2】単セル電極[A]及び[L]の電流電圧特性を示すグラフ。
【図3】単セル電極[A]乃至[F]の電流密度を0.5mA/cm2とした場合の電池電圧を示すグラフ。
【図4】単セル電極[A]及び[G]乃至[M]の電流密度を0.5mA/cm2とした場合の電池電圧を示すグラフ。
【符号の説明】
【0068】
1…膜電極接合体、2…アノード触媒層、3…カソード触媒層、4…プロトン電導性固体電解質層、5a…担持触媒、5b…担持触媒、6…プロトン電導性固体電解質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金と、白金以外の遷移金属元素と、希土類元素と、それらを担持した導電性担体とを備えたことを特徴とする燃料電池用担持触媒。
【請求項2】
白金と白金以外の遷移金属元素と希土類元素とを含有した合金と、これを担持した導電性担体とを備えたことを特徴とする燃料電池用担持触媒。
【請求項3】
湿式法により導電性担体に白金と白金以外の遷移金属元素と希土類元素とを含有した組成物を担持させ、前記組成物を担持した前記導電性担体を還元及び加熱処理に供することにより製造されることを特徴とする燃料電池用担持触媒。
【請求項4】
前記遷移金属元素は鉄族元素を含んだことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項5】
白金に対する白金以外の遷移金属元素の原子比は0.1乃至2の範囲内にあり、白金に対する希土類元素の原子比は0.001乃至0.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の燃料電池用担持触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−210193(P2006−210193A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22045(P2005−22045)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】