説明

燃料電池用温度センサ

【課題】燃料電池の発電性能を悪化させることを防止すると共に検出精度の向上を図る。
【解決手段】熱電対式温度センサ50は、熱電対素線51,52を接合し、全体を被覆層54にて被覆したものである。被覆層54は、熱電対素線51,52の外周を被覆する第1の被覆層54aと、第1の被覆層54aの外周をさらに被覆する第2の被覆層54bとから構成される。第1の被覆層54aは、ポリイミド膜により形成されており、絶縁性を有するとともに、固体高分子型である燃料電池10の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を維持する構成となっている。第2の被覆層54bは、ガス不透過な緻密部材によって形成されており、Cr(クロム)膜により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられる燃料電池用温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池に内蔵される温度センサとして熱電対式のものが知られている。熱電対式の温度センサとしては、耐熱合金であるシースの内部にマグネシアなどの無機絶縁物を充填して熱電対線を配置したシース型のものがある(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−47261号公報
【特許文献2】特開2006−47220号公報
【0004】
しかしながら、上記シース型の熱電対式温度センサは、シースを備えていることから外形が大きく、このために次の問題を備えていた。まず第1に、外形が大きいと、燃料電池の発電反応部へのガスの流れを阻害したり、生成水の排出を阻害したりすることから、燃料電池の発電性能を悪化させるという問題を発生した。第2に、外形が大きいと、シースは金属材料であることからその周辺部分の温度を低下させ、本来得るべき温度を高精度に検出することができないという問題を発生した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、外形を小さくして、燃料電池の発電性能を悪化させることを防止すると共に検出精度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1の燃料電池用温度センサは、
燃料電池に用いられる温度センサであって、
熱電対を構成する素線と、
前記素線の外周を被覆する第1の被覆層と、
前記第1の被覆層の外周を被覆する第2の被覆層と
を備え、
前記第1の被覆層は、絶縁性を有するとともに、前記燃料電池の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を有し、
前記第2の被覆層は、緻密質でガス不透過である
ことを特徴としている。
【0007】
前記構成の燃料電池用温度センサによれば、外側に位置する第2の被覆層は、緻密質でガス不透過であることからガスの侵入を防止する。内側に位置する第1の被覆層は、熱電対を構成する素線を電気的に絶縁するとともに、燃料電池の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の高い強度(ここで言う「強度」は機械的強度であり、以下、単に「強度」と言うときは、機械的強度を意味する)を有する。従来のシース型の熱電対式温度センサでは、シースと素線との間に充填される無機絶縁物は、粉末状であり、センサ全体の強度に寄与することはなく、センサ全体はシースで強度を維持している。これに対して、本発明の第1の燃料電池用温度センサは、前述したように、第1の被覆層により高強度を維持することができることから、シースに対応する第2の被覆層は強度が低くてもよい。このために、第2の被覆層を従来の熱電対式温度センサのシースと比べて薄くすることができる。換言すれば、第1の被覆層に強度を担う役割を持たせることで、第2の被覆層を薄くすることができる。第1の被覆層については、従来、無機絶縁物が充填されており、強度を高めても厚さはそれほど変わらなくて済む。
【0008】
したがって、本発明の第1の燃料電池用温度センサでは、第2の被覆層が薄くて済むことから、第1の被覆層および第2の被覆層で覆われた全体の外形が小さいものとなる。この結果、燃料電池の発電反応部へのガスの流れを阻害したり、生成水の排出を阻害したりすることがないことから、燃料電池の発電性能の悪化を防止することができる。また、全体の外径が小さいものとなると周辺部分の温度を低下させることが少ないことから、温度の検出精度を向上することができる。
【0009】
前記第1の被覆層は、樹脂製としてもよい。これにより、絶縁性を実現することが容易である。また、前記第1の被覆層は、ポリイミド膜としてもよい。ポリイミドは、高い耐熱性を誇る上、機械的強度や電気絶縁性に優れた材料であることから、第1の被覆層として最適である。
【0010】
前記第2の被覆層は、前記第1の被覆層よりも機械的強度が低い構成としてもよい。低い機械的強度で済むということは、第2の被覆層54bの厚さを薄くすることが可能であるということである。したがって、燃料電池用温度センサ全体をより小さいものとすることができる。
【0011】
前記第2の被覆層は、クロム膜としてもよい。クロムは、化学的に安定であり耐食性に優れていることから、第2の被覆層を外側面としたときに第2の被覆層として最適である。また、前記第2の被覆層は、パリレン膜としてもよい。
【0012】
本発明の第2の燃料電池用温度センサは、
燃料電池に用いられる温度センサであって、
熱電対を構成する素線と、
前記素線の外周を被覆する第1の被覆層と、
前記第1の被覆層の外周を被覆する第2の被覆層と
を備え、
前記第1の被覆層は、絶縁性を有するとともに、前記第2の被覆層よりも高い機械的強度を有し、
前記第2の被覆層は、緻密質でガス不透過である
燃料電池用温度センサ。
ことを特徴としている。
【0013】
前記構成の燃料電池用温度センサによれば、外側に位置する第2の被覆層は、緻密質でガス不透過であることからガスの侵入を防止する。内側に位置する第1の被覆層は、熱電対を構成する素線を電気的に絶縁するとともに第2の被覆層よりも高い強度を有する。従来のシース型の熱電対式温度センサでは、シースと素線との間に充填される無機絶縁物は、粉末状であり、センサ全体の強度に寄与することはなく、センサ全体はシースで強度を維持している。これに対して、本発明の第2の燃料電池用温度センサは、前述したように、第1の被覆層により高強度を維持することができ、シースに対応する第2の被覆層は強度が低い。このために、第2の被覆層を従来の熱電対式温度センサのシースと比べて薄くすることができる。換言すれば、第1の被覆層に強度を担う役割を持たせることで、第2の被覆層を薄くすることができる。第1の被覆層については、従来、無機絶縁物が充填されており、強度を高めても厚さはそれほど変わらなくて済む。
【0014】
したがって、本発明の第2の燃料電池用温度センサでは、本発明の第1の燃料電池用温度センサと同様に、燃料電池の発電性能を悪化させることを防止すると共に検出精度の向上を図ることのできる効果を奏する。
【0015】
前述した第1または第2の燃料電池用温度センサにおいて、ガス拡散層がカーボンクロスにより形成されている燃料電池にあってガス拡散層と触媒層との間に挟んだ状態で装着されるとともに、外径が、前記ガス拡散層の厚さの1/3以下の大きさである構成としてしてもよい。また、前述した第1または第2の燃料電池用温度センサにおいて、ガス拡散層がカーボンペーパにより形成されている燃料電池にあってガス拡散層と触媒層との間に挟んだ状態で装着されるとともに、外径が、前記ガス拡散層の厚さの1/5以下の大きさである構成としてしてもよい。
【0016】
これらの構成によれば、燃料電池用温度センサは、ガス拡散層に十分に埋没して、触媒電極とガス拡散電極15bとの間の密着を妨害することはない。したがって、燃料電池用温度センサを装着したことによる燃料電池性能の悪化を防止することができる。
【0017】
この構成によれば、燃料電池用温度センサは、ガス拡散層に十分に埋没して、触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間の密着を妨害することはない。したがって、燃料電池用温度センサを装着したことによる燃料電池性能の悪化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、実施例を用いて以下に説明する。
【0019】
1.燃料電池の全体構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池用温度センサを備える燃料電池10を分解して表す説明図である。図2は、図1のA−A線矢視図である。燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であって、図1では、縦断面が示されている。燃料電池10は、主として、固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」と呼ぶ)13の両面に電極14,15が配置された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下MEAという)12と、このMEA12を両面から挟み込む一対のセパレータ16,17とを備えている。この燃料電池10は、単電池と呼ばれるものであり起電力が0.6〜0.8V程度である。このため、例えば車両の駆動モータの供給電源として使用する場合には、多数の燃料電池10を緊密に積層することで数百Vの直流電源とする。
【0020】
MEA12は、電解質膜13を二つの電極、つまり燃料極であるアノード14と酸素極であるカソード15とで挟みこんだものである。本実施例のMEA12は、電解質膜13の面積がアノード14やカソード15の面積よりも大きい。ここで、電解質膜13は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を有する固体高分子材料で作製された膜であり、具体的にはフッ素系樹脂により形成された膜(デュポン社製のナフィオン膜等)などが挙げられる。
【0021】
また、アノード14及びカソード15は、それぞれ触媒電極(触媒層)14a,15aとガス拡散電極(ガス拡散層)14b,15bとによって構成されている。触媒電極14a,15aは、電解質膜13に接触する側に位置し、白金微粒子を担持させた導電性カーボンブラックにより形成されている。一方、ガス拡散電極14b,15bは、触媒電極14a,15aに積層され、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。なお、触媒電極14a,15aに含まれる白金は、水素をプロトンと電子に分けるのを促進したり酸素とプロトンと電子から水を生成する反応を促進する作用を有するものであるが、同様の作用を有するものであれば白金以外のものを用いてもよい。また、ガス拡散電極14b,15bは、カーボンクロスのほか、炭素繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフェルトによって形成してもよく、十分なガス拡散性および導電性を有していればよい。
【0022】
一対のセパレータ16,17のそれぞれには、複数の凹部が形成されている。この凹部によってMEA12との間に、電気化学反応に供される反応ガスの流路が形成される。すなわち、アノード14側のセパレータ16とMEA12との間には、水素を含有する燃料ガスが通過する単電池内燃料ガス流路16aが形成される。また、カソード15側のセパレータ17とMEA12との間には、空気などの酸素を含有する酸化ガスが通過する単電池内酸化ガス流路17aが形成される。
【0023】
2.燃料電池用温度センサの構成:
こうした構成の燃料電池10に燃料電池用温度センサとしての熱電対式温度センサ50が装着される。熱電対式温度センサ50は、熱電対を構成する一対の素線(以下、「熱電対素線」)51,52を接合し、略U字状となった全体を被覆層54にて被覆したものである。図2中、53は、熱電対素線51,52の接合点である。熱電対素線51,52は、導線56,57によって熱起電力測定回路57と接続されている。熱起電力測定回路57は、熱電対素線51,52の間の電位差(熱起電力)を測定する。
【0024】
図3は、熱電対素線51,52を被覆する被覆層54の断面図である。図示するように、被覆層54は、熱電対素線51,52の外周を被覆する第1の被覆層54aと、第1の被覆層54aの外周をさらに被覆する第2の被覆層54bとから構成される。
【0025】
第1の被覆層54aは、ポリイミド膜により形成されており、絶縁性を有するとともに、固体高分子型である燃料電池10の動作温度(−20〜120℃)下で200MPa以上の機械的強度を維持する構成となっている。200MPa以上の機械的強度とは、200MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度である。ポリイミドは、高い耐熱性(500℃まで)を誇る上、機械的強度(200〜600MPa)や電気絶縁性に優れた材料であることから、第1の被覆層54aとして用いた。
【0026】
第2の被覆層54bは、ガス不透過な緻密部材によって形成されており、具体的には、Cr(クロム)膜により形成されている。上記ポリイミド膜、Cr膜の被覆は気相成長法により行われる。
【0027】
なお、第1の被覆層54aは、ポリイミド膜に換えて、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、パリレン、パリレンHT、エポキシ変性シリコーン等の他の種類の樹脂製とすることもできる。また、樹脂製に限る必要もなく、酸化ジルコニア、酸化セリアなどのセラミック等であってもよい。要は、第1の被覆層54aは、絶縁性を有するとともに、固体高分子型である燃料電池10の動作温度(−20〜120℃)下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を有する構成とすることができれば、いずれの材料を用いてもよい。ここで、損傷とは、破断や亀裂、摩耗等である。一般に燃料電池においては、セパレータとMEAの間、ガス拡散電極と触媒電極との間等は、接触抵抗低減のため、1.5MPa程度の比較的高面圧を印加し、併せて電解質膜の膨潤や熱膨張等によりより高い応力がかかる。そこで、第1の被覆層54aは、絶縁性を有するとともに、燃料電池の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を有する構成とした。
【0028】
なお、熱電対素線51への第1の被覆層54aの被覆方法は、上記気相成長法に限る必要もなく、それぞれの材料に適したものであればいずれの方法としてもよく、液相からの含浸法やスプレー法・固相粉末の電着法やフィルムのホットプレスあるいはこれらを組み合わせた方法としてもよい。
【0029】
第2の被覆層54bは、Cr膜に換えて、TiN(窒化チタン)、CrN(窒化クロム)、Ti(チタン)、SiO(二酸化ケイ素)、SI(窒化ケイ素)、Al(酸化アルミナ)等の金属、金属窒化物または金属酸化物とすることもできる。緻密質でガス不透過なものであれば、いずれの金属、金属窒化物または金属酸化物に換えてもよい。なお、第2の被覆層54bは第1の被覆層54aに対して密着性に優れたものが好ましい。Cr膜は第1の被覆層54aであるポリイミド膜に対して密着性に優れている。
【0030】
また、第2の被覆層54bは、第1の被覆層54aの機械的強度に比べて低い機械的強度となっているのが好ましい。本実施例の第2の被覆層54bを構成するCr膜の機械的強度は10Mpa以下であり、第1の被覆層54aを構成するポリイミド膜の機械的強度は200〜600MPaであることから、第2の被覆層54bの機械的強度は第1の被覆層54aに比べて低くなっている。第2の被覆層54bが低い機械的強度で済むことから、第2の被覆層54bの厚さを薄くすることが可能である。なお、第1の被覆層54aへの第2の被覆層54bの被覆方法は、上記気相成長法に限る必要もなく、それぞれの材料に適したものであればいずれの方法としてもよく、液相からの含浸法やスプレー法・固相粉末の電着法やフィルムのホットプレスあるいはこれらを組み合わせた方法としてもよい。
【0031】
図1、図2に示すように、熱電対式温度センサ50は、カソード15を構成する触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間に設けられている。詳細には、熱電対素線51,52の接合点53がカソード15の面方向の中心付近に位置するように、触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間に設けられている。
【0032】
被覆層54により覆われた熱電対素線51,52の全体の直径D(図3参照、すなわち外径)は、熱電対式温度センサ50が存在しない領域での触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間の密着を妨害しない程度であることが好ましい。この程度は、ガス拡散電極15bの柔軟性に依存するが、ガス拡散電極14b,15bがカーボンクロスである場合には、直径Dがガス拡散電極15bの厚さの1/3以下であれば触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間の密着を妨害することはない。すなわち、被覆層54により覆われた熱電対素線51,52の全体の直径Dが、ガス拡散電極15bの厚さに比較して十分に小さいときには、熱電対素線51,52は、ガス拡散電極15bに十分に埋没して、触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間の密着を妨害することはない。
【0033】
ガス拡散電極14b,15bがカーボンペーパにより形成されている場合には、直径Dがガス拡散電極15bの厚さの1/5以下であれば触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間の密着を妨害することはない。なお、触媒電極15aとガス拡散電極15bとの間の密着が一部領域で妨害されてもよい場合には、上記の直径Dとガス拡散電極15bの厚さとの関係は不要で、直径Dを上記関係以上に大きくすることも可能である。
【0034】
3.燃料電池システムの構成:
図4は、上述した熱電対式温度センサ50が装着された燃料電池10を搭載する燃料電池システム100の概略構成を示すブロック図である。この燃料電池システム100は電気自動車用として構成される。図示するように、燃料電池システム100は、上述した熱電対式温度センサ50が装着された燃料電池10を備える。また、燃料電池10の周辺装置として、水素供給装置110、ブロワ120、冷却装置130を備えている。
【0035】
水素供給装置110は、内部に水素を貯蔵し、水素ガスを燃料ガスとして燃料電池10のアノードに供給する装置である。例えば、水素供給装置110は、水素ボンベや、水素吸蔵合金を内部に有する水素タンクを備えることとすればよい。また、燃料電池10のカソードには、ブロワ120が取り込んだ空気が、酸化ガスとして供給される。
【0036】
冷却装置130は、燃料電池10内部を通過するように形成された冷却水流路132と、ラジエータ134と、ポンプ136とを備えている。ポンプ136を駆動することで、冷却水流路132内で冷却水を循環させることができる。燃料電池10では、電気化学反応の進行と共に熱が生じるため、発電中は、燃料電池10内に冷却水を循環させ、この冷却水をラジエータ134で冷却することによって、燃料電池10の内部温度を所定の範囲内に保つ。
【0037】
燃料電池システム100は、燃料電池10の他に、補助電源としての2次電池(バッテリ)140を備えている。2次電池140は、DC/DCコンバータ150を介して燃料電池10と並列に接続されている。インバータ160は、これらの直流電源から三相交流電源を生成して、車両駆動用のモータ170に供給し、モータ170の回転数とトルクとを制御する。
【0038】
燃料電池システム100は、電子制御ユニット180を備える。電子制御ユニット180は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、燃料電池システム100の各部の動きを制御している。すなわち、電気自動車に設けられた種々のセンサやスイッチから信号を受信すると共に、水素供給装置110、ブロワ120やポンプ136に制御信号を出力して、燃料電池10の運転を制御し、あるいはDC/DCコンバータ150やインバータ160に制御信号を出力して、モータ170の運転を制御する。
【0039】
電子制御ユニット180には、前述した熱起電力測定回路57が電気的に接続されている。電子制御ユニット180は、熱起電力測定回路57により測定された燃料電池10の温度Tを取り込み、燃料電池10の運転制御の一つとして、異常高温防止制御を行なう。異常高温防止制御は、上記取り込んだ燃料電池10の温度Tが所定値T0(例えば、80℃)を超えるか否かを判定して、超えると判定されたときに、次の(a)〜(c)の少なくとも一つを実行することにより、燃料電池10の温度を低下させる処理を行う。
【0040】
(a)DC/DCコンバータ150に制御信号を出力して、モータ170の出力トルクを低下させる処理を行う。これによって、燃料電池10の負荷が低下することになり、燃料電池10の温度が低下する。
【0041】
(b)冷却装置130の備えるポンプ136に制御信号を出力して、冷却水の流量を増加する処理を行う。これにより、燃料電池10の温度が低下する。また、冷却装置130の備えるラジエータ134に制御信号を出力して、ラジエータの備える冷却ファンの回転速度を高めることにより、冷却の程度を高めて燃料電池10の温度を低下する構成としてもよい。
【0042】
(c)水素供給装置110の供給量を増加する処理を行う。これにより、ガスで持ち去る顕熱が増加し、燃料電池10の温度が低下する。また、ブロワ120に制御信号を出力して、燃料電池10に供給する空気を増量する構成としてもよい。
【0043】
4.作用効果:
以上のように構成された本実施例の熱電対式温度センサ50によれば、外側に位置する第2の被覆層54bは、緻密質でガス不透過であることからガスの侵入を防止する。このために、熱電対式温度センサ50は、ガス・水分・酸に対して耐性が高いものとなる。一方、内側に位置する第1の被覆層54aは、熱電対素線51,52を電気的に絶縁するとともに、燃料電池10の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を維持する。従来のシース型の熱電対式温度センサでは、シースと素線との間に充填される無機絶縁物は、粉末状であり、センサ全体の強度に寄与することはなく、センサ全体はシースで強度を維持している。これに対して、熱電対式温度センサ50は、前述したように、第1の被覆層54aにより高強度を維持することができることから、シースに対応する第2の被覆層54bは強度が低くてもよい。このために、第2の被覆層54bを従来の熱電対式温度センサのシースと比べて薄くすることができる。
【0044】
したがって、本実施例の熱電対式温度センサ50では、第2の被覆層54bが薄くて済むことから、第1の被覆層54aおよび第2の被覆層54bで覆われた全体の外形が小さいものとなる。この結果、燃料電池10の発電反応部へのガスの流れを阻害したり、生成水の排出を阻害したりすることがないことから、燃料電池10の発電性能の悪化を防止することができる。また、全体の外径が小さいものとなると周辺部分の温度を低下させることが少ないことから、温度の検出精度を向上することができる。
【0045】
また、本実施例の熱電対式温度センサ50を装着した燃料電池10を備える燃料電池システム100においては、燃料電池10の温度を高精度に検出することができることから、異常高温防止を正確に、しかも応答性よく行うことができ、この結果、発電効率の向上、燃料電池の耐久性の向上を図ることができる。
【0046】
5.他の実施形態:
なお、この発明は前記実施例やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0047】
(1)第1変形例:
前記実施例やその変形例では、第2の被覆層54bは、金属、金属窒化物または金属酸化物としていたが、これに換えて、樹脂とすることもできる。
【0048】
図5は、第1変形例としての熱電対式温度センサ250の断面図である。図示するように、熱電対式温度センサ250は、熱電対素線251,252を有し、熱電対素線251,252を被覆層254に被覆した構成である。熱電対素線251,252は第1実施例の熱電対素線51,52と同一である。被覆層254は、熱電対素線251,252の外周を被覆する第1の被覆層254aと、第1の被覆層254aの外周をさらに被覆する第2の被覆層254bとから構成される。第1の被覆層254aは、第1実施例と同じポリイミド膜である。
【0049】
第2の被覆層254bは、パリレン膜である。パリレン膜は、パラキシリレン系樹脂により形成されたコーティング膜で、ガス不透過性、電気絶縁性、耐熱性の点に優れていることから、第2の被覆層254bとして用いた。こうした構成の第1変形例によれば、前記実施例と同様に、外形を小さいものとすることができ、これにより、燃料電池10の発電性能の悪化を防止するとともに、温度の検出精度を向上することができる。なお、第2の被覆層254bは、バリレン膜に換えて、エポキシ膜、シリコーン膜等としてもよい。緻密質でガス不透過なものであれば、いずれの樹脂膜に換えてもよい。
【0050】
(2)第2変形例:
前記実施例では、第1の被覆層54aは、燃料電池の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を維持し、その上で、第2の被覆層54bは、第1の被覆層54aの機械的強度に比べて低い機械的強度となっていたが、これに換えて、第1の被覆層は、燃料電池の動作温度下で3.0MPaを下回る機械的強度でありながら、第2の被覆層は、第1の被覆層よりも機械的強度が低い構成としてもよい。すなわち、第1の被覆層は、絶縁性を有するとともに、第2の被覆層よりも機械的強度が高い構成であれば、第1の被覆層の機械的強度の数値に制限されない構成とすることができる。この構成によっても、第1実施例と同様に、第2の被覆層の機械的強度を低くすることができることから、第2の被覆層を従来と比べて薄くすることができる。したがって、この第2変形例によっても、前記実施例と同様に、燃料電池の発電性能を悪化させることを防止すると共に検出精度の向上を図ることのできる効果を奏する。
【0051】
(3)第3変形例:
また、前記実施例および各変形例とは異なる種類の燃料電池に本発明を適用することとしてもよい。例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池に適用することができる。あるいは、固体高分子以外の電解質膜を有する燃料電池、例えば、溶融炭酸形燃料電池、リン酸形燃料電池等であってもよく、本発明を適用することで同様の効果が得られる。すなわち、第1の被覆層は、それぞれの燃料電池のタイプの動作温度下で3.0MPa以上の機械的強度、すなわち、3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を有する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例としての熱電対式温度センサ50を備える燃料電池10を分解して表す説明図である。
【図2】図1のA−A線矢視図である。
【図3】熱電対素線51,52を被覆する被覆層54の断面図である。
【図4】熱電対式温度センサ50が装着された燃料電池10を搭載する燃料電池システム100の概略構成を示すブロック図である。
【図5】第1変形例としての熱電対式温度センサ250の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10...燃料電池
13...電解質膜
14...アノード
14a...触媒電極
14b...ガス拡散電極
15...カソード
15a...触媒電極
15b...ガス拡散電極
16...セパレータ
16a...単電池内燃料ガス流路
17...セパレータ
17a...単電池内酸化ガス流路
50...熱電対式温度センサ
51,52...熱電対素線
53...接合点
54...被覆層
54a...第1の被覆層
54b...第2の被覆層
56...導線
57...熱起電力測定回路
100...燃料電池システム
110...水素供給装置
120...ブロワ
130...冷却装置
132...冷却水流路
134...ラジエータ
136...ポンプ
160...インバータ
170...モータ
180...電子制御ユニット
250...熱電対式温度センサ
251,252...熱電対素線
254...被覆層
254a...第1の被覆層
254b...第2の被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる温度センサであって、
熱電対を構成する素線と、
前記素線の外周を被覆する第1の被覆層と、
前記第1の被覆層の外周を被覆する第2の被覆層と
を備え、
前記第1の被覆層は、絶縁性を有するとともに、前記燃料電池の動作温度下で3.0MPaの応力を受けても損傷しない程度の機械的強度を有し、
前記第2の被覆層は、緻密質でガス不透過である
燃料電池用温度センサ。
【請求項2】
前記第1の被覆層は、樹脂製である請求項1に記載の燃料電池用温度センサ。
【請求項3】
前記第1の被覆層は、ポリイミド膜である請求項1に記載の燃料電池用温度センサ。
【請求項4】
前記第2の被覆層は、前記第1の被覆層よりも機械的強度が低い構成である請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池用温度センサ。
【請求項5】
前記第2の被覆層は、クロム膜である請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池用温度センサ。
【請求項6】
前記第2の被覆層は、パリレン膜である請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池用温度センサ。
【請求項7】
燃料電池に用いられる温度センサであって、
熱電対を構成する素線と、
前記素線の外周を被覆する第1の被覆層と、
前記第1の被覆層の外周を被覆する第2の被覆層と
を備え、
前記第1の被覆層は、絶縁性を有するとともに、前記第2の被覆層よりも高い機械的強度を有し、
前記第2の被覆層は、緻密質でガス不透過である
燃料電池用温度センサ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の燃料電池用温度センサであって、
ガス拡散層がカーボンクロスにより形成されている燃料電池にあってガス拡散層と触媒層との間に挟んだ状態で装着されるとともに、
外径が、前記ガス拡散層の厚さの1/3以下の大きさである
燃料電池用温度センサ。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の燃料電池用温度センサであって、
ガス拡散層がカーボンペーパにより形成されている燃料電池にあってガス拡散層と触媒層との間に挟んだ状態で装着されるとともに、
外径が、前記ガス拡散層の厚さの1/5以下の大きさである
燃料電池用温度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−185437(P2008−185437A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18684(P2007−18684)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】