説明

燃料電池用膜・電極接合体の製造法及び燃料電池用触媒粒の検査方法

【課題】JISK1474で規定された水浸時PHが異なる触媒粒からなる複数の触媒インクを用いて親水性分布を有する燃料電池用膜・電極接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】互いに異なる水浸時pHを有する触媒粒を、少なくとも2種類準備する触媒粒を準備し、それぞれ別個の触媒インクを調製し、所定の塗布面に塗布してアノード側及びカソード側のうち少なくとも一方の触媒層を形成する際に、水浸時pHが異なる触媒粒を含む領域が、触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布し、且つ、触媒層の厚さ方向に分布がある場合、固体高分子電解質膜に近い位置に水浸時pHが相対的に小さい触媒粒を含有する領域が分布するように、各領域ごとに該当する触媒インクを塗布する燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜の一面側にアノード電極および他面側にカソード電極を設けた燃料電池用膜・電極接合体の製造方法、及び、当該膜・電極接合体を製造する前に予め行なわれる触媒粒の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に燃料と酸化剤を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
一例として、ナフィオン(商品名、デュポン製)等のプロトン伝導に水の同伴を必要とするタイプのプロトン伝導性固体電解質膜を用いる、固体高分子電解質型燃料電池においては、アノード(燃料極)で(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e ・・・(1)
(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、(1)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、電気浸透により固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に移動する。
一方、カソードでは(2)式の反応が進行する。
4H + O + 4e → 2HO ・・・(2)
【0004】
一般に、各電極(アノード、カソード)には、上記式(1)、(2)の反応を促進させるために電極触媒を含有する触媒層が設けられ、電極触媒としては、例えば白金や白金合金等が用いられる。
このタイプの燃料電池においては、単セル内の水管理が重要である。プロトン伝導に同伴させるための水は、必要に応じてアノード側を加湿することによって意図的に供給される。一方、カソード電極側では電気化学的反応によって水が生成し、且つ、アノード側からプロトンとともに水が拡散してくるので、水の量が過剰となりやすい。カソード側の水は、アノード側に逆拡散して再びプロトン伝導に利用されたり、カソード側のガス流路(空気等の酸化剤ガスの流路)に排出される。
【0005】
単セル内の水バランスが失われると、両極での電気化学反応のバランスが失われ、電池性能を低下させる原因となる。すなわち、アノード電極及び電解質膜のアノード側に近い領域で水分不足になると、ドライアップ状態となってプロトン供給に支障をきたすため電池性能が低下する。一方、カソード電極で水分量が過剰になると、電極内の細孔を閉塞するフラッディングが発生するため、ガス拡散性が低下し、酸化剤ガスの供給が滞るため電池性能が低下する。
【0006】
固体高分子電解質型燃料電池には、上記のような膜・電極接合体の積層方向における水分分布の他、さらに、膜・電極接合体の面方向における水分分布も形成される。ガス流路入口から単セル内に供給された反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)は、膜・電極接合体表面に沿って反応ガスの入り口側から出口側へと単セル内を流れる間に、膜・電極接合体から水分を奪い、ガス流路出口側に到達する頃には、高湿度状態となっている。すなわち、膜・電極接合体において、反応ガス上流側は、反応ガスによる水分奪取により乾燥しやすく、反応ガス下流側は、高湿度状態となった反応ガスによる加湿により水分が多く存在しやすい。
酸化剤ガスとして一般的に用いられている空気は、燃料ガスとして一般的な水素ガスと比較して、電極反応の反応成分の含有量が低いため、流量を大きくする必要がある。そのため、カソードの酸化剤ガス上流側では、酸化剤ガスの流勢によって単セル内の水分が持ち去られ、乾燥しやすい傾向がある。一方、カソードの酸化剤ガス下流側は、生成水等の水分及び高湿度状態の酸化剤ガスにより、水分が過剰に存在しやすい。
【0007】
燃料電池は、低負荷域(すなわち低電流条件)から高負荷域(すなわち高電流条件)まで広範囲にわたり、高い電池性能(高電圧)を発揮することが求められている。
また、燃料電池内には複数のセルがスタックされており、燃料電池の作動中は、スタックされている各セルへ分配される反応ガスの量を完全に均一に維持することは難しく、スタックされているセルの位置及び/又は作動時間の経過に伴って反応ガスの分配量が変動するにもかかわらず、同じスタック内の各セルには同じ電流密度で通電している。そのため、燃料電池の作動中に、セル間のストイキ比がばらつくことがある。
従って、燃料電池の作動中に各セルのストイキ比が変動した場合でも常に高い電池性能が得られるように、各セルは、低ストイキ比から高ストイキ比まで広いストイキ条件の範囲にわたり、高い電池性能(高電圧)が得られることが望ましい。
【0008】
特許文献1では、固体高分子電解質膜の両面に触媒層およびガス拡散層を配した電解質膜・電極接合体を用いて構成される固体高分子型燃料電池において、前記触媒層が、固体高分子電解質膜側に配された高含水量の第1の触媒層と、ガス拡散層側に配された低含水量の第2の触媒層からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池を開示している。特許文献1には、触媒層をこのような二層構造とすると、固体高分子電解質膜側に配された高含水量の第一の触媒層によって固体高分子電解質膜が湿潤に保持され、高いプロトン伝導性が得られる、一方、ガス拡散層側に配された低含水量の第二の触媒層によってガス拡散通路の水分による閉塞が抑制されるので、発電が適切に行われると記載されている。
しかしながら、この技術では、ガス拡散層側に配する第二の触媒層を電解質樹脂のガラス転移温度以上で処理することで低含水量に調節するので、電解質樹脂のプロトン伝導性が低下し、触媒の利用効率が低下するおそれがある。
【0009】
特許文献2には、電解質膜の一面に設けられた燃料極と、他面に設けられた酸化剤極とを備えた燃料電池であって、少なくとも一方の電極の触媒層は複数の分割触媒部から構成されており、互いに隣り合う分割触媒部の間に隙間が存在している燃料電池が開示されている。この技術では、互いに隣り合う複数の分割触媒部の間に隙間を設けることで、この隙間が過度に生成した水の流路となる結果、触媒層の水分拡散性が向上し、フラッディングの抑制が可能となる。すなわち、この技術は、分割触媒部の間の隙間を利用して、触媒層のフラッディングを防止しようとするものである。
【0010】
また、この特許文献2には、前記触媒層を、少なくとも2種類以上の親水性の異なる分割触媒部から構成し、低い加湿状態で親水性の分割触媒部の周囲が乾燥してきた場合には、水を供給して電解質膜の乾燥を防止し、高い加湿状態で撥水性の分割触媒部に水が滞留してきた場合には、撥水性の分割触媒部の細孔を確保して水素及び空気を円滑に供給することができると記載されている。しかしながら、この技術では、親水性の分割触媒部を形成する方法としては固体高分子電解質を多量に用い、撥水性の分割触媒部を形成する方法としてはテフロン(登録商標)処理したカーボンブラックを焼成して用いるので、固体高分子電解質を多量に用いる場合には、触媒層の細孔を埋めてしまって三相界面が少なくなるおそれがあり、テフロン(登録商標)処理したカーボンブラックを焼成して用いる場合には、触媒相中の電子伝導性が低下するため、発電出力が低下するおそれがある。
【0011】
また、この特許文献2には、前記触媒層が、金属触媒の組成が異なった2種類以上の分割触媒部から構成されていることを特徴とする燃料電池も開示されている。しかしながら、この技術は、燃料に含有される一酸化炭素に対する対策であり、具体的には、一酸化炭素を吸着しにくいが触媒活性が低いルテニウム含有比率が大きい白金−ルテニウム合金触媒を含む分割触媒部と、ルテニウム含有比率が少ない白金−ルテニウム合金触媒を含む分割触媒部との組み合わせが記載されているだけである。
【0012】
特許文献3には、アノード側触媒層とカソード側触媒層とが固体高分子電解質膜を介して配置された燃料電池において、カソード側触媒層は、酸素を還元する部分と、酸素を還元する部分に比較して高い撥水性を示す部分とを有し、前記高い撥水性を示す部分が面上を観察すると偏在していることを特徴とする燃料電池が開示されている。
この特許文献3には、前記高い撥水性を示す部分が固体電解質膜側からカソード側触媒層表面まで撥水性が均一であり、また、カソード側触媒層の面方向に分散しているので、カソード側触媒層は電極反応に寄与する部分と撥水性を付与し生成水の逸散を行う部分とに分かれており、高電流密度での運転時にも高出力を得ることが可能になると記載されている。しかしながら、前記高い撥水性を示す部分に触媒は存在しておらず、電気化学的反応に寄与しない部分であるため、電極の単位面積あたりの発電出力が低下するおそれがある。
【0013】
特許文献4には、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された高分子電解質膜と、前記カソードの前記高分子電解質膜と接する面の反対側に配置され入口と出口とを有するガス流素が前記カソードと接する面に形成されたセパレータと、を備える固体高分子型燃料電池であって、前記カソードは、白金又は白金合金を含む触媒とイオン交換樹脂とを含み前記高分子電解質膜と隣接する触媒層を有し、前記触媒層において、前記ガス流路の前記入口の近傍領域の単位面積あたりに含まれる白金の量が、前記出口の近傍領域の単位面積あたりに含まれる白金の量より多いことを特徴とする固体高分子型燃料電池が開示されている。
この特許文献4の技術は、カソード側触媒層の面内の各部位に合わせて触媒量を変えることにより、ガス流路の入口近傍領域と出口近傍領域においてほぼ均一に反応が起こって、カソード側触媒層内での電流密度をほぼ均一となるようにして、出力特性を向上させることを目的としている。
【0014】
【特許文献1】特開2002−42824号公報
【特許文献2】特開2003−77480号公報
【特許文献3】特開2004−171847号公報
【特許文献4】特開2003−168443号公報
【特許文献5】特開2004−47386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記事情を鑑み、固体高分子電解質膜の一面側に触媒層を有するアノード電極を設け、他面側に触媒層を有するカソード電極を設けた燃料電池用膜・電極接合体であって、該アノード電極および該カソード電極のうち少なくとも一方の触媒層は、互いに親水性が異なる触媒粒を含有する2つ以上の領域を含んでおり、該各領域は触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布し、且つ、触媒層の厚さ方向に分布がある場合は、固体高分子電解質膜に近い位置に親水性が相対的に大きな触媒粒を含有する領域が分布することを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体を開発し、すでに特許出願した(特願2006−182178。但し、本願の出願時点において未公開である)。
【0016】
互いに親水性が異なる触媒粒を2種類以上用いて、触媒層の部位に合わせて適切な親水性を有する触媒粒を分布させることによって、(1)低負荷域〜中負荷域での電池性能を向上させ、且つ、高加湿・高負荷域での排水性とガス拡散性を改善し、低負荷域から高負荷域まで広範な運転条件に渡り、高い電池性能を発揮することが可能な燃料電池用膜・電極接合体が提供され、或いは、(2)低ストイキ比〜高ストイキ比での電池性能を向上させ、且つ、低ストイキ比の条件下で排水性とガス拡散性を改善し、低ストイキ比〜高ストイキ比まで広範な運転条件にわたり、或いは各セルの反応ガスの供給量がばらつくような運転条件の下でも、高い電池性能を常時発揮することが可能な燃料電池用膜・電極接合体が提供された。
【0017】
触媒粒の親水性は、XPS法(X線電子分光法)や水に対する接触角測定等の方法で測定できるが、装置が大掛かりであったり或いは測定の手間がかかったりして、製造コストを押し上げる一因となる。
【0018】
なお特許文献5には、カーボンブラックと該カーボンブラックに担持された白金または白金合金とからなる触媒粒を調製する際に酸処理を行うことにより、カーボンブラックと該カーボンブラックに担持された白金または白金合金とからなり、JIS K1474に記載の方法により測定されたpHが2〜7の範囲内に調節された固体高分子型燃料電池用電極触媒を開示している。
しかし、特許文献5は、触媒の担体として用いられるカーボンブラックを酸処理することにより、その表面を改質して電解質樹脂との親和性の高い触媒粒を調製し、触媒層中での電解質樹脂の凝集抑制と触媒表面への高分散状態での付着を実現するための発明である。特許文献5には、ただ1種類の触媒粒を用いて触媒層を形成することが記載されているだけであり、触媒層の部位に合わせて親水性が異なる触媒粒を分布させることにより触媒層の水分布を改善することは記載されていない。
【0019】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、燃料電池用膜・電極接合体を製造する際に、互いに親水性が異なる触媒粒を2種類以上用いて、触媒層の部位に合わせて適切な親水性を有する触媒粒を分布させることにより、燃料電池作動時の触媒層の水分布特性を改善すると共に、用いる触媒粒の親水性を簡便に測定することができる、燃料電池用膜・電極接合体の効率良い製造方法を提供することにある。
また、本発明の第二の目的は、燃料電池用膜・電極接合体を製造する前に、適切な親水性を有する触媒粒を予め準備するために適用される、触媒粒の簡便な検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の一方の面に設けられたアノード側触媒層と他方の面に設けられたカソード側触媒層とを備える燃料電池用膜・電極接合体の製造方法であって、触媒粒の水浸時pHを、JIS K1474に規定された測定法により確認し、互いに異なる所定範囲内の水浸時pHを有する触媒粒を、少なくとも2種類準備する触媒粒準備工程、準備した各触媒粒を用いて、それぞれ別個の触媒インクを調製する触媒インク調製工程、及び、調製した各触媒インクを、所定の塗布面に塗布してアノード側及びカソード側のうち少なくとも一方の触媒層を形成する際に、水浸時pHが異なる触媒粒を含む領域が、触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布し、且つ、触媒層の厚さ方向に分布がある場合、固体高分子電解質膜に近い位置に水浸時pHが相対的に小さい触媒粒を含有する領域が分布するように、各領域ごとに該当する触媒インクを塗布する触媒インク塗布工程、を具備することを特徴とする。
【0021】
以上のように、触媒粒の親水性を水浸時pHにより確認する本発明の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法によれば、簡便な方法で測定することができる。そして、親水性を確認した触媒粒を用いて、触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に、互いに親水性の異なる触媒粒を含有する2種以上の領域を分布させることによって、触媒層の水分布特性が改善された発電性能に優れる燃料電池用膜・電極接合体を提供することが可能である。
【0022】
本発明の製造方法の具体的な態様の一つとして、前記触媒インク塗布工程において、水浸時pHの異なる触媒粒を含有する領域が触媒層の面方向に分布する場合、水浸時pHが相対的に小さい触媒粒を含有する領域が該触媒層に供給される反応ガスの上流側領域に分布し、且つ、水浸時pHが相対的に大きい触媒粒を含有する領域が該触媒層に供給される反応ガスの下流側領域に分布するように触媒インクを塗布する態様が挙げられる。
以上のように触媒層の各領域が分布するように触媒インクを塗布することによって、反応ガス上流側の乾燥及び反応ガス下流側でのフラッディングの発生を抑制することができる。
【0023】
本発明において、水浸時pHが異なる2種以上の触媒粒の具体的な水浸時pHは特に限定されないが、ドライアップ及びフラッディングをより確実に防止する観点から、前記触媒粒準備工程において準備される触媒粒のうち、水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒の水浸時pHが2〜5の範囲内であり、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒の水浸時pHが5〜7の範囲内であることが好ましい。このとき、前記第一の触媒粒と、前記第二の触媒粒の間での水浸時pHの差が0.5〜5の範囲内であることが特に好ましい。
触媒粒の水浸時pHは、例えば、前記触媒粒準備工程において、触媒粒に親水処理を行うことにより所定範囲内に調節することができる。
【0024】
本発明の燃料電池用触媒粒の検査方法は、触媒粒の水浸時pHを、JIS K1474に規定された方法により測定し、互いに異なる所定範囲内の水浸時pHを有する少なくとも2種類の触媒粒を、それぞれ合格品と決定することを特徴とするものである。
本発明の燃料電池用触媒粒の検査方法によれば、触媒粒の親水性を簡便な方法で確認することができるため、所望の親水性を有する触媒粒かどうかを容易に判断し、適切な親水性を有する触媒粒を選び出すことが可能である。
【0025】
親水性の異なる触媒粒を含む2種以上の領域が分布した触媒層を作製する際には、水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒として水浸時pHが2〜5の範囲内である触媒粒、及び、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒として水浸時pHが5〜7の範囲内である触媒粒を、それぞれ合格品と決定することで、フラッディング及びドライアップが効果的に防止された触媒層を形成することができる。さらに、前記第一の触媒粒と、前記第二の触媒粒の間での水浸時pHの差が0.5〜5の範囲内である時に、各触媒粒を合格品と決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法によれば、互いに親水性が異なる触媒粒を2種類以上用いて、触媒層の部位に合わせて適切な親水性を有する触媒粒を分布させることにより、燃料電池作動時の触媒層の水分布特性を改善すると共に、用いる触媒粒の親水性を簡便に測定することができる。また、本発明の検査方法によれば、燃料電池用膜・電極接合体を製造する前に、適切な親水性を有する触媒粒を、予め簡便に準備することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の一方の面に設けられたアノード側触媒層と他方の面に設けられたカソード側触媒層とを備える燃料電池用膜・電極接合体の製造方法であって、触媒粒の水浸時pHを、JIS K1474に規定された測定法により確認し、互いに異なる所定範囲内の水浸時pHを有する触媒粒を、少なくとも2種類準備する触媒粒準備工程、準備した各触媒粒を用いて、それぞれ別個の触媒インクを調製する触媒インク調製工程、及び、調製した各触媒インクを、所定の塗布面に塗布してアノード側及びカソード側のうち少なくとも一方の触媒層を形成する際に、水浸時pHが異なる触媒粒を含む領域が、触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布し、且つ、触媒層の厚さ方向に分布がある場合、固体高分子電解質膜に近い位置に水浸時pHが相対的に小さい触媒粒を含有する領域が分布するように、各領域ごとに該当する触媒インクを塗布する触媒インク塗布工程、を具備することを特徴とする。
【0028】
既述したように、本発明者らの一部は、膜・電極接合体内の水の分布状態に起因する発電性能の低下を抑制するべく、互いに親水性が異なる2種以上の触媒粒を触媒層の部位に合わせて適切に分布させ、膜・電極接合体内の水分布特性を改善することによって、高い電池性能を発揮することが可能な燃料電池用膜・電極接合体を既に提案している。触媒粒の親水性は、触媒成分そのものが元来有する親水性や該触媒成分を担持する担体粒子が元来有する親水性によって異なる他、触媒成分や担体粒子に表面処理を施すことによって調整することもできる。
触媒粒の親水性は、XPS法や水接触角法等により測定することができるが、XPS法は手間を要し、また、装置が大掛かりで高価であるといった問題点がある。
【0029】
水接触角法による測定としては、以下のような方法が挙げられる。まず、測定対象である触媒粒と共に電解質樹脂を適当な溶媒中に混合したペーストを調製する。そして、該ペーストを基板上に塗布、乾燥した後、熱プレスを実施して接触角測定面を作製し、該接触角測定面における水接触角を測定する。対比すべき2種以上の触媒粒について、同一の電解質樹脂材料を用いて接触角測定面を作製し、それぞれ水接触角測定を行い、接触角の対比から親水性の大小を判断することができる。このように、水接触角法は、触媒粒ごとにペースト調製、測定面作製、水接触角測定を行うため、手間を要する。
【0030】
これに対して、本発明の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法では、触媒粒の親水性を、該触媒粒の水浸時pH測定により確認し、互いに異なる水浸時pHを有する触媒粒2種以上を準備する。
【0031】
ここで、触媒粒の水浸時pHとは、触媒粒の水溶液(懸濁液)のpH値であり、JIS K1474に規定された測定法に準じて測定することができる。具体的には、まず、乾燥質量換算した触媒粒1.0gを水100mlに加え、静かに沸騰が続くように5分間加熱する。続いて、室温まで冷却後、水を加えて100mlとし、よく攪拌し、得られる溶液のpHを、pH計を用いて測定温度(液温)25℃で測定する。
尚、2種以上の触媒粒(水浸時pHが同じでも、異なっていてもよい)を混合した触媒インクを用いて触媒層の一部領域を形成するような場合、「触媒粒の水浸時pH」は、触媒インク中に含有されるのと同じ混合比で混合した触媒粒混合物の水浸時pHとする。
【0032】
水浸時pH8未満の範囲で水浸時pHが異なる2種以上の触媒粒間において、水浸時pHが相対的に小さい触媒粒は、触媒粒表面に比較的多量の酸性基が存在しているので親水性が高く、水浸時pHが大きい触媒粒は、触媒粒表面に存在している酸性基が比較的少量なので親水性が低い。
以上のように、触媒粒の水浸時pHの測定は非常に簡便であり、特別な装置等も必要としない。従って、本発明に係る膜・電極接合体の製造方法の触媒粒準備工程においては、多くの触媒粒の中から、所望の親水性を有する触媒粒を容易に選択、組み合わせることが可能であり、また、表面処理等により触媒粒の親水性を調整する際にも表面処理の度合い等を簡便に測定できるので親水処理をコントロールしやすいという利点がある。
【0033】
なお、本発明において用いる「水浸時pHが相対的に小さい」、「水浸時pHが相対的に大きい」とは、触媒層に含まれる水浸時pHの異なる2以上の領域の中で相対的に比較される水浸時pHの大小について言及している。以下の実施形態において、単に「水浸時pHが大きい」、「水浸時pHが小さい」と表現される場合は、このように相対的意味での大小を意味している。
また、本発明において用いる「相対的に親水性が小さい」、「相対的に親水性が大きい」とは、触媒層に含まれる親水性の異なる2以上の領域の中で相対的に比較される親水性の大小について言及している。以下の実施形態において、単に「親水性が大きい」、「親水性が小さい」と表現される場合は、このように相対的意味での大小を意味している。
【0034】
本発明にかかる燃料電池用膜・電極接合体の製造方法では、上記のような水浸時pH測定により、互いに異なる所定範囲の水浸時pHを有する触媒粒を少なくとも2種以上選び出し、これら水浸時pHが異なる触媒粒を含む2種以上の領域が分布した触媒層を形成する。
【0035】
本発明において、触媒粒とは、担体粒子に触媒成分を担持させたもの又は触媒成分そのものの粒子である。触媒成分としては、電極反応[燃料極(アノード)における水素の酸化反応又は酸化剤極(カソード)における酸素の還元反応]に対して触媒作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、白金、或いは、ルテニウム、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、イリジウム、モリブデン等の金属と白金との合金等が挙げられる。担体粒子としては、例えば、炭素質粒子、炭素質繊維等の炭素質材料からなるものや、金属や無機化合物等の導電性材料が用いられる。担体粒子は、通常、担持する触媒成分よりも粒径が大きい。
【0036】
触媒粒準備工程において準備される2種以上の触媒粒は、互いに異なる水浸時pHを有していれば、各触媒粒の水浸時pHの範囲は特に限定されない。ただし、膜・電極接合体の水分布特性を効果的に改善するためには、触媒粒準備工程において準備される触媒粒のうち、水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒の水浸時pHが2以上5以下、特に3.5以上4.5以下であることが好ましく、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒の水浸時pHが5以上7以下、特に6以上7以下であることが好ましい。
【0037】
水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒の水浸時pHが2未満であると、高負荷運転時や低ストイキ比での運転時においてフラッディングが発生するおそれがある。また、第一の触媒粒の水浸時pHが5より大きいと、低負荷運転時や高ストイキ比での運転時におけるドライアップや反応ガス上流側におけるドライアップを充分に抑制できないおそれがある。
【0038】
一方、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒の水浸時pHが5未満であると、高負荷運転時や低ストイキ比での運転時におけるフラッディングや、反応ガス下流側におけるフラッディングを充分に抑制できないおそれがある。また、第二の触媒粒の水浸時pHが7より大きいと、低負荷運転時や高ストイキ比での運転時におけるドライアップを充分に抑制できないおそれがある。
【0039】
以上のように第一の触媒粒が2以上5以下の水浸時pHを有し、第二の触媒粒が5以上7以下の水浸時pHを有する場合、該第一の触媒粒と該第二の触媒粒間の水浸時pHの差は、膜・電極接合体の水分布特性をより効果的に改善する観点から、0.5〜5の範囲内であることが好ましく、特に1〜3の範囲内であることが好ましい。
【0040】
触媒粒準備工程において、所望の水浸時pHを有する触媒粒を準備するため、必要に応じて触媒粒の水浸時pHの調整を行ってもよい。触媒粒の水浸時pHは、例えば、触媒粒又は触媒成分を担持する前の担体粒子又は担体粒子に担持される前の触媒成分に親水処理や撥水処理を施すことによって調節することができる。上記したように、触媒粒準備工程において準備される触媒粒のうち、水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒の好ましい水浸時pHが2〜5であり、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒の好ましい水浸時pHが5〜7であるから、触媒粒の水浸時pHの調整は通常、親水処理によって行われる。
【0041】
触媒粒の親水処理としては、例えば、触媒粒又は触媒成分を担持する前の担体粒子を、酸溶液に浸漬、必要に応じて加熱等する方法が挙げられる。このような酸処理に用いる酸溶液としては、特に限定されず、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸を用いることができる。酸溶液の溶媒としては、例えば、水等を用いることができる。酸溶液の濃度、浸漬時間、加熱温度等は適宜設定すればよい。また、触媒粒又は触媒成分を担持する前の担体粒子を過酸化水素水に浸漬することによっても、触媒粒の水浸時pHを小さくすることができる。
通常、触媒粒を構成する触媒成分や担体粒子は水浸時pHが7より大きく、親水基を持たないが、酸処理における酸濃度、温度、処理時間等をコントロールすることで、触媒粒の水浸時pHを容易にコントロールすることが可能である。
【0042】
触媒粒の撥水処理としては、特に限定されず、例えば、触媒粒又は触媒成分を担持する前の担体粒子を熱処理することによって親水基を除去する方法や、触媒粒又は触媒成分を担持する前の担体粒子を水素還元処理する方法等が挙げられる。このような撥水処理により、触媒粒の水浸時pHを大きくすることができる。
【0043】
親水処理や撥水処理を施さなくても、水浸時pHが異なる触媒粒の組み合わせとしては、例えば、白金合金(水浸時pH小さい)と純白金(水浸時pH大きい)との組み合わせが挙げられる。具体的には、Pt−Co合金(水浸時pH小さい)と純Pt(水浸時pH大きい)、Pt−Fe合金(水浸時pH小さい)と純白金(水浸時pH大きい)、Pt−Cr合金(水浸時pH小さい)と純Pt(水浸時pH大きい)の組み合わせが挙げられる。
【0044】
触媒インク調製工程においては、上記触媒粒準備工程において準備した水浸時pHの異なる2種以上の触媒粒を用いて、それぞれ別個の触媒インク(すなわち、2種以上の触媒インク)を調製する。互いに水浸時pHの異なる触媒粒を含有する各触媒インクは、触媒層の異なる領域を形成するために用いられ、水浸時pHの異なる触媒粒を含む領域が触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布するように所定の塗布面に塗布される。
【0045】
触媒インクは、触媒粒の他、通常、プロトン伝導性樹脂を含有し、触媒粒とプロトン伝導性樹脂とを適当な溶媒中に溶解又は分散させることで得られる。
プロトン伝導性材料としては、電解質膜として用いられる材料の中から、適宜選択することができ、具体的には、ナフィオン(商品名)パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂に代表されるフッ素系電解質樹脂やポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン等の炭化水素系樹脂に、スルホン酸基、ボロン酸基、ホスホン酸基、水酸基、カルボン酸基等のプロトン伝導性基を導入した炭化水素系電解質樹脂が挙げられる。また、触媒インクの溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、プロピレングリコール等のアルコール類と水との混合物、その他有機溶媒及びその他有機溶媒と水との混合物等が挙げられる。
【0046】
触媒インクには、必要に応じて、撥水性高分子や結着剤等その他の材料を添加してもよい。また、触媒インクにおける各成分の濃度や、触媒インク調製時の混合手順、方法等は特に限定されない。
【0047】
触媒インク調製工程において調製した触媒インクを用い、互いに水浸時pHの異なる触媒粒を含む領域が分布した触媒層が形成される。すなわち、水浸時pHの異なる触媒粒を含む領域が、触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布するように、各領域ごとに該当する触媒インクを所定の塗布面(高分子電解質膜表面、ガス拡散層シート表面、転写基材表面など)に塗布する(触媒インク塗布工程)。水浸時pHの異なる触媒粒を含む領域の分布形態は特に限定されず、所望の発電特性を示す膜・電極接合体が得られるよう、適宜設計することができる。具体的な分布形態については、実施形態例をいくつか(第一〜第四実施形態)挙げて後で詳細に説明する。
【0048】
触媒インク塗布工程において、触媒インクを塗布する塗布面は、触媒層の形成方法によって異なり、例えば、電解質膜表面でもよいし、ガス拡散層となるガス拡散層シート表面でもよいし、或いは、転写基材表面であってもよい。所定の塗布面(電解質膜、ガス拡散層シート、基材の表面等)に触媒インクを塗布する方法は特に限定されず、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。触媒インクを所定のパターン状に塗布する方法としては、スクリーン印刷やグラビア印刷が好ましい。
触媒インクの塗布量は、触媒インクの組成や、電極触媒に用いられる触媒金属の触媒性能等によって異なるが、単位面積当りの触媒成分量が、0.1〜1.0mg/cm程度となるようにすればよい。また、触媒層の膜厚は、特に限定されないが、1〜50μm程度とすればよい。
【0049】
ここで、触媒インクを塗布又は触媒層を接合する電解質膜としては、一般的な燃料電池に用いられているものを挙げることができ、例えば、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成社製)、ダウ膜(ダウケミカル社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂に代表されるフッ素系電解質樹脂膜の他、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン等の炭化水素系樹脂に、スルホン酸基、ボロン酸基、ホスホン酸基、水酸基、カルボン酸基等のプロトン伝導性基を導入した炭化水素系電解質樹脂膜等の高分子電解質膜、ポリベンゾイミダゾール、ポリピリミジン、ポリベンゾオキサゾールなどの塩基性高分子に強酸をドープした塩基性高分子と強酸との複合電解質膜等が挙げられる。中でも好ましい電解質膜としては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜が挙げられる。電解質膜の膜厚は特に限定されないが、通常、15〜150μm程度でよい。
【0050】
ガス拡散層シートとしては、触媒層に効率良くガスを供給することができるガス拡散性、導電性、及びガス拡散層を構成する材料として要求される強度を有するもの、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素質多孔質体や、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル−クロム合金、銅及びその合金、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、チタン、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等の金属から構成される金属メッシュ又は金属多孔質体等の導電性多孔質体からなるものが挙げられる。導電性多孔質体の厚さは、50〜300μm程度であることが好ましい。
【0051】
ガス拡散層を形成するガス拡散層シートは、上記したような導電性多孔質体の単層からなるものであってもよいが、触媒層に面する側に撥水層を設けることもできる。撥水層は、通常、炭素粒子や炭素繊維等の導電性粉粒体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性樹脂等を含む多孔質構造を有するものである。撥水層は、必ずしも必要なものではないが、触媒層及び電解質膜内の水分量を適度に保持しつつ、ガス拡散層の排水性を高めることができる上に、触媒層とガス拡散層間の電気的接触を改善することができるという利点がある。
【0052】
撥水層を導電性多孔質体上に形成する方法は特に限定されない。例えば、炭素粒子等の導電性粉粒体と撥水性樹脂、及び必要に応じてその他の成分を、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等の有機溶剤、水又はこれらの混合物等の溶剤と混合した撥水層インクを、導電性多孔質体の少なくとも触媒層に面する側に塗布し、その後、乾燥及び/又は焼成すればよい。
【0053】
このとき撥水層インクは、導電性多孔質体の内部に含浸してもよい。また、撥水層の形状は特に限定されず、例えば、導電性多孔質層の触媒層側の面全体を覆うような形状でもよいし、格子状等の所定パターンを有する形状でもよい。撥水層の厚さは、通常、1〜50μm程度でよい。撥水層インクを導電性多孔質体に塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、スプレー法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。
【0054】
また、導電性多孔質体は、触媒層と面する側に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂をバーコーター等によって含浸塗布することによって、触媒層内の水分がガス拡散層の外へ効率良く排出されるように加工されていてもよい。
【0055】
触媒インク塗布工程において、例えば、電解質膜の表面に触媒インクを塗布した場合には、触媒インクを乾燥することによって、電解質膜表面に触媒層が形成される。このように表面に触媒層が形成された電解質膜は、該触媒層をガス拡散層シートと電解質膜とで挟み込むようにして、触媒層とガス拡散層シートとを接合することによって、触媒層とガス拡散層とから構成される電極を備えた膜・電極接合体を作製することができる。
【0056】
また、ガス拡散層シートの触媒層側の面に、触媒インクを塗布した場合には、触媒インクを乾燥することによって、ガス拡散層シート表面に触媒層が形成される。このように表面に触媒層が形成されたガス拡散層シートは、該触媒層を電解質膜とガス拡散層シートで挟み込むようにして、触媒層と電解質膜を接合することによって、膜・電極接合体を作製することができる。
【0057】
また、触媒インクを、ポリテトラフルオロエチレン等の転写基材上に塗布した場合には、該転写基材表面の触媒インクを乾燥させた触媒層シートを電解質膜又はガス拡散層シートと接合し、基材を剥離後、触媒層が電解質膜とガス拡散層に挟まれるように、ガス拡散層シート又は電解質膜と接合することによって、膜・電極接合体を作製することができる。
上記膜・電極接合体における電解質膜、各層間の接合は、例えば、ホットプレス等によって行うことができる。
【0058】
尚、本発明にかかる燃料電池用膜・電極接合体の製造方法において、上記のような互いに水浸時pHの異なる触媒粒を含有する領域が分布した触媒層は、アノード側のみに形成されても、カソード側のみに形成されても、或いは、アノード側とカソード側の両方に形成されてもよい。一般的に、カソード側触媒層は、高加湿・高負荷域の運転条件において水分による悪影響を受けやすいため、本発明をカソード側触媒層に適用することによって電池性能を効果的に向上させることができる。アノード側触媒層でも電池の設計や運転条件によっては高加湿・高負荷域において水分過剰となるおそれがあり、本発明を適用することによって電池性能を向上させることができる。
上記のような2種以上の領域が分布していない触媒層は、一般的な方法に準じて、一種の触媒インクを用いて形成することができる。
【0059】
以下、本発明の製造方法により提供される燃料電池用膜・電極接合体を含む単セルの構成例について図を参照しながら説明する。
<第一実施形態>
図1は、単セルの一実施形態(第一実施形態。単セル101)を模式的に示す横断面図である。本実施形態では、カソード側の触媒層が、互いに水浸時pHが異なる触媒粒を含有する2つの層からなり、固体高分子電解質膜に近い側に水浸時pHが小さい、すなわち、親水性が大きい触媒粒を含有する層が配置した積層構造を有している。
【0060】
単セル101は、固体高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ということがある)1の一面側にアノード5、および他面側にカソード10が設けられた膜・電極接合体11を有している。アノード5は、電解質膜1に近い側からアノード側触媒層2、アノード側ガス拡散層4がこの順序で積層して構成される。一方、カソード10は、電解質膜1に近い側から第一のカソード側触媒層6a、第二のカソード側触媒層6b、カソード側ガス拡散層9がこの順序で積層して構成される。尚、本実施形態において、各電極(燃料極、酸化剤極)は、共に、触媒層とガス拡散層とが積層した構造を有しているが、触媒層のみからなる単層構造であってもよいし、触媒層とガス拡散層の他に機能層を設けた構造でもよい。
【0061】
この膜・電極接合体11は、2つのセパレータ12、14で挟持され、単セル101が構成される。各セパレータ12、14の片面には、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の流路を形成する溝が設けられており、これらの溝とアノード5、カソード10の外面とで燃料ガス流路13、酸化剤ガス流路15が画成されている。燃料ガス流路13は、アノード5に燃料ガス(水素を含む又は水素を発生させる気体)を供給するための流路であり、酸化剤ガス流路15は、カソード10に酸化剤ガス(酸素を含む又は酸素を発生させる気体)を供給するための流路である。
【0062】
各セパレータには、反応ガス流路用の溝が形成された面とは反対側の面に、冷却水流路を形成する溝(図示せず)が設けられていてもよい。セパレータとしては、例えば、炭素繊維を高濃度に含有し、樹脂との複合材からなるカーボンセパレータや、金属材料を用いた金属セパレータ等を用いることができる。金属セパレータとしては、耐腐食性に優れた金属材料からなるものや、表面をカーボンや耐腐食性に優れた金属材料等で被覆し、耐腐食性を高めるコーティングが施されたもの等が挙げられる。
【0063】
第一実施形態において、カソード側触媒層6は電解質膜側から順に第一の触媒層6a及び第二の触媒層6bが積層した2層構造を有し、第一の触媒層6aは水浸時pHが相対的に小さい(すなわち、親水性が相対的に大きい)触媒粒を含有し、第二の触媒層6bは水浸時pHが相対的に大きい(すなわち、親水性が相対的に小さい)触媒粒を含有する。
【0064】
第一のカソード側触媒層6aは、電解質膜1に隣接しているので、プロトン供給量が豊富である。触媒層中ではプロトン伝導性が電気化学的反応の律速要因となるが、プロトン供給量が豊富な位置の触媒層に親水性が大きい触媒粒を含有させることによって、第一のカソード側の触媒層6aにおいて、水を同伴するプロトンが多量に触媒粒表面に到達し、電気化学的反応が活発に行われる。そのため、本実施形態の膜・電極接合体によれば、低負荷域から中負荷域にかけての運転条件において高い電池性能が発揮される。
また、第一のカソード側触媒層6a内で生成した水は、電解質膜1から遠い側に位置する第二のカソード側触媒層6bの空隙を拡散して酸化剤ガス流路に排出されるが、第二のカソード側触媒層6bに含まれる触媒粒は第一のカソード側触媒層に含まれる触媒粒よりも親水性が小さいので、第一のカソード側触媒層から拡散してきた水は触媒粒の周囲に滞留せず、円滑に排出され、且つ、第二のカソード側触媒層6b内では、水分量が過剰な状態でも触媒粒の周囲が水によって閉塞されず、電気化学的反応が活発に行われる。従って、本実施形態の膜・電極接合体によれば、高加湿・高負荷域の運転条件においても水分による悪影響を受けずに高い電池性能が発揮される。
【0065】
第一実施形態においては、親水性が大きい触媒粒に担持される触媒成分の量と親水性が小さい触媒粒に担持される触媒成分の量の割合は、フラッディングを防止し、低負荷域から高負荷域の広い範囲にわたって電池性能を向上させる観点から、親水性が大きい触媒粒に担持される触媒成分の量の方が大きいことが好ましい。具体的には、親水性が大きい触媒粒に担持される触媒成分と親水性が小さい触媒粒に担持される触媒成分の単位面積あたりの担持量割合[親水性大:親水性小(重量比)]は、1:1以上であることが好ましく、3:1以上であることがさらに好ましい。
【0066】
本実施形態ではカソード側触媒層が2層構造を有しているが、触媒層が3層以上の積層構造を有する場合であっても、電解質膜に近い層ほど親水性が大きな触媒粒を含有するような積層順序とすることによって、同様の効果が得られる。
また、本発明においては、互いに水浸時pHが異なる(親水性が異なる)触媒粒を含有する2つ以上の領域が明確な多層構造を形成している必要はない。例えば、カソード側触媒層が、厚さ方向に関して、電解質膜に近い位置ほど親水性が大きな触媒粒の量が徐々に多くなり、電解質膜から遠く離れるほど親水性が小さい触媒粒の量が徐々に多くなるような傾斜分布になっていていてもよい。
また、第一実施形態においては、第一のカソード側触媒層6aと第二のカソード側触媒層6bの親水性は、低負荷域から高負荷域にわたり高い電池性能を発揮させる観点から、触媒層全体として対比した場合にも第一のカソード側触媒層6aの方が大きいことが好ましい。
【0067】
本実施形態におけるカソード側触媒層のように、触媒層を2層構造とする場合には、第一の触媒層のための触媒インクを基材上に塗布した後、その上に第二の触媒層のための触媒インクを重ねて塗布するか、或いは、第一の触媒層及び第二の触媒層を別々の基材上に形成し、これらを重ね合わせて熱圧着するなどの方法で接合してもよい。また、上記したような傾斜分布を触媒層の厚さ方向にもたせる一方法としては、一方の触媒インクを所定位置に塗布して形成したインク層がまだ乾燥していないうちに、もう一方の触媒インクを先に形成したインク層上に隣接して塗布する方法が挙げられる。
【0068】
<第二実施形態>
図2は、本発明に係る製造方法により提供される燃料電池用膜・電極接合体を含む単セルの第二実施形態(単セル102)を模式的に示す横断面図である。また、図3は、第二実施形態(単セル102)のカソード側触媒層の平面図である。
第二実施形態においては、カソード側触媒層が単層構造であるが、互いに水浸時pHが異なる(親水性が異なる)触媒粒を含有する2種類の領域7a、7bが面方向に交互に分散配置(この例では市松模様状に分布)した構造を有している。その他の点は第一実施形態の単セル101と同様である。
【0069】
第二実施形態において、カソード側触媒層の第一の領域7aは、水浸時pHが相対的に小さい(すなわち、親水性が大きい)触媒粒を含有し、第二の領域7bは、水浸時pHが相対的に大きい(すなわち、親水性が小さい)触媒粒を含有する。
【0070】
親水性が大きい触媒粒を含有するカソード側触媒層の第一の領域7aでは、水を同伴するプロトンが多量に触媒粒表面に到達し、電気化学的反応が活発に行われるので、本実施形態の膜・電極接合体によれば、低負荷域から中負荷域にかけての運転条件において高い電池性能が発揮される。
また、カソード側触媒層の第二の領域7bに含まれる触媒粒は第一の領域に含まれる触媒粒よりも親水性が小さいので、第一の領域で生成した水の排水路として機能し、且つ、第二の領域内では水分量が過剰な状態でも触媒粒の周囲が水によって閉塞されず、電気化学的反応が活発に行われる。従って、本実施形態の膜・電極接合体によれば、高加湿・高負荷域の運転条件においても水分による悪影響を受けずに高い電池性能が発揮される。
【0071】
第二実施形態において、親水性が大きい触媒粒を含有する第一の領域7aと親水性が小さい触媒粒を含有する第二の領域7bの面積割合は、フラッディングを防止し、低負荷域から高負荷域の広い範囲にわたって電池性能を向上させる観点から、第一の領域7aの方が大きいことが好ましい。具体的には、第一の領域7aと第二の領域7bの面積割合(第一の領域:第二の領域)が1:1以上であることが好ましく、3:1以上であることが更に好ましい。図3は、面積割合(第一の領域:第二の領域)が1:1の市松模様であり、図4は、面積割合(第一の領域:第二の領域)が3:1の市松模様である。
【0072】
本実施形態では2種類の領域が面方向に市松模様状に分布しているが、第一及び第二の各領域は図5に示すような縦ストライプや横ストライプ等、2種類の領域が交互に隣り合うように分散配置される態様であれば、様々なパターンで組み合わせることができる。またカソード側触媒層は、互いに親水性が異なる触媒粒を含有する3種類以上の領域が面方向に分布していても、同様の効果が得られる。いずれの場合も、親水性が異なる触媒粒を含有する複数の領域が存在し、それらが面方向において交互に隣り合うように配列されることによって、良好な排水性が得られる。
【0073】
また、触媒層の厚さ方向に分布する領域を有する第一の実施形態同様、触媒層の面方向に分布する領域を有する本実施形態においても、互いに親水性が異なる触媒粒を含有する2つ以上の領域が明確な境界で区分されている必要はない。例えば、面方向に分布する上記第一の領域7aと第二の領域7bの隣接部位において、親水性が大きな触媒粒が徐々に少なくなり且つ親水性が小さな触媒粒が徐々に多くなるような傾斜分布になっていてもよい。
また、第二実施形態において、第一の領域7aと第二の領域7bの親水性は、低負荷域から高負荷域にわたり高い電池性能を発揮させる観点から、各領域全体として対比した場合にも第一の領域7aの方が大きいことが好ましい。
【0074】
第二実施形態のように2種類の領域が面方向に分布する触媒層は、第一の領域のための触媒層インクと第二の領域のための触媒層インクを、基材上に所定のパターン状に塗布することによって形成できる。また、上記したような傾斜分布を触媒層の面方向にもたせる一方法としては、一方の触媒インクを所定位置に塗布して形成したインク層がまだ乾燥していないうちに、もう一方の触媒インクを先に形成したインク層の横に隣接して塗布する方法が挙げられる。
【0075】
上記第一実施形態には2種類以上の領域が触媒層の厚さ方向に分布する例を示し、上記第二実施形態には2種類以上の領域が触媒層の面方向に分布する例を示したが、本発明においては、触媒層内に2種類以上の領域を厚さ方向と面方向の両方に分布させてもよい。
【0076】
以下、本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体を含む単セルの他の構成例として、第三実施形態及び第四実施形態を例示する。第三実施形態及び第四実施形態の膜・電極接合体では、触媒層の前記各領域が触媒層の面方向に分布する場合において、水浸時pHが小さい(親水性が大きい)触媒粒を含有する領域は、水分の滞留が比較的少ない領域であり、水浸時pHが大きい(親水性が小さい)触媒粒を含有する領域は、水分の滞留が比較的多い領域であることを特徴とする。
【0077】
<第三実施形態>
図6は、第三実施形態(単セル103)を模式的に示す横断面図である。また、図7は、第三実施形態(単セル103)のカソード側触媒層の平面図である。カソード側において、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口3から単セル内の酸化剤ガス流路15に入り、酸化剤ガス出口8から単セル外へと排出される。一方、アノード側において、燃料ガスは、燃料ガス入口17から単セル内の燃料ガス流路13に入り、燃料ガス出口16から単セル外へと排出される。
第三実施形態においては、カソード側触媒層の水分の滞留が比較的少ない反応ガス上流側(特にカソード側ガス流路の上流側)の領域に存在する第一の領域7aと、カソード側触媒層の水分の滞留が比較的多い反応ガス下流側(特にカソード側ガス流路の下流側)の領域に存在する第二の領域が面方向に分布した構造を有している。その他の点は第一実施形態の単セル101ならびに第二実施形態2の単セル102と同様である。
【0078】
第三実施形態において、カソード側触媒層の第一の領域7aは、水浸時pHが相対的に小さい(すなわち、親水性が大きい)触媒粒を含有し、第二の領域7bは、水浸時pHが相対的に大きい(すなわち、親水性が小さい)触媒粒を含有する。
【0079】
カソード側触媒層の第一の領域7aは、反応ガス上流側に位置するので乾燥しやすい環境であるが、この第一の領域7aに親水性が相対的に大きな触媒粒を含有させることによって、電解質膜の乾燥を抑制し、且つ、水を同伴してアノード側から移動してきたプロトンが触媒粒表面に到達し易くなる。そのため、この第一の領域7aでは電気化学的反応が活発に行われるので、本実施形態の膜・電極接合体によれば高ストイキ比の運転条件において高い電池性能が発揮される。
【0080】
また、カソード側触媒層の第二の領域7bは、反応ガス下流側に位置するので湿潤過剰となりやすいが、この第二の領域7bに親水性が相対的に小さな触媒粒を含有させることによって、カソード側触媒層の反応ガス下流域で滞留した水が触媒層から反応ガス流路へ排出されやすくなり、且つ、第二の領域内では水分量が過剰な状態でも触媒粒が水によって閉塞されず、電気化学的反応が活発に行われる。従って、本実施形態の膜・電極接合体によれば、低ストイキ比の運転条件においても水分による悪影響を受けずに高い電池性能が発揮される。
【0081】
第三実施形態において、前記相対的に親水性が小さな触媒粒を含有する領域に対する前記相対的に親水性が大きな触媒粒を含有する領域の面積比は1以下とすることが、フラッディングを防止し、低ストイキ比から高ストイキ比の運転条件までの広範囲にわたって電池性能を向上させる観点から好ましく、とりわけウェット性能に優れる点、すなわちカソードストイキ比を小さくできる点から好ましい。
また、第三実施形態において、相対的に親水性が大きな触媒粒を含有させる領域は、反応ガス流路の流路長の上流側1/4以上且つ1/2以内の領域とすることが更に好ましい。
【0082】
ここで、「水分の滞留が比較的少ない領域」又は「水分の滞留が比較的多い領域」の一節中の「比較的」とは、「ある領域が、平面的に又は立体的に周囲に存在する領域との関係で相対的に」という意味である。
また、「水分の滞留が比較的少ない領域」とは、燃料電池内での作動環境の局部的なばらつきによって、周囲の領域に比べて水分が滞留しづらいか又は、水分が周囲の領域へ排出されやすいことから、周囲よりも乾燥速度が速く、従って、燃料電池を作動させた時に水分の含有量が少なくなる領域を意味する。一方、「水分の滞留が比較的多い領域」とは、燃料電池内での作動環境の局部的なばらつきによって、周囲の領域に比べて水分が滞留しやすいか又は、水分が周囲の領域へ排出されにくいことから、周囲よりも乾燥速度が遅く、従って、燃料電池を作動させた時に水分の含有量が多くなる領域を意味する。
【0083】
本実施形態では、カソード側触媒層が2種類の領域を具備しているが、反応ガス流路の上流側に近い領域ほど、相対的に親水性が大きな触媒粒を含有し、反応ガス流路の下流側に近い領域ほど、相対的に親水性が小さな触媒粒を含有するような順序をとるならば、互いに親水性が異なる触媒粒を含有する3種類以上の領域が反応ガスの流れに沿って面方向に分布していても、同様の効果が得られる。また、本実施形態では、第一の領域7aと第二の領域7bが同一直線上に分布しているが、例えば、図8に示すように、反応ガス流路の形態に合わせたサーペンタイン型であってもよい。
【0084】
<第四実施形態>
図9は第四実施形態(単セル104)を模式的に示す横断面図である。第四実施形態においては、カソード側触媒層の水分の滞留が比較的少ない、比較的押圧力を受けない領域に存在する第一の領域7aと、水分の滞留が比較的多い、比較的押圧力を受ける領域に存在する第二の領域7bが面方向に分布した構造を有している。その他の点は第一実施形態の単セル101や第二実施形態2の単セル102、第三実施形態の単セル103と同様である。
【0085】
上記比較的押圧力を受けない領域としては、具体的には、反応ガス流路と接する領域が挙げられる。また、比較的押圧力を受ける領域としてはセパレータと接する領域が挙げられる(図9参照)。
【0086】
第四実施形態において、カソード側触媒層の第一の領域7aは、水浸時pHが相対的に小さい(すなわち、親水性が大きい)触媒粒を含有し、第二の領域7bは、水浸時pHが相対的に大きい(すなわち、親水性が小さい)触媒粒を含有する。
【0087】
カソード側触媒層の第一の領域7aは、セパレータの押圧力を受けず且つガス流路に面しているので乾燥しやすい環境であるが、この第一の領域7aに相対的に親水性が大きな触媒粒を含有させることで、電解質膜の乾燥を抑制し、且つ、水を同伴してアノード側から移動してきたプロトンが触媒粒表面に到達し易くなる。そのため、この第一の領域7aで電気化学的反応が活発に行われるので、本実施形態の膜・電極接合体によれば高ストイキ比の運転条件において高い電池性能が発揮される。
また、カソード側触媒層の第二の領域7bは、セパレータの押圧力を受け且つガス流路に面していないで、水の流通が悪く湿潤過剰となりやすいが、この第二の領域7bに相対的に親水性が小さな触媒粒を含有させることで、滞留した水が周囲の領域へ排出されやすくなり、且つ、第二の領域内では水分量が過剰な状態でも触媒粒が水によって閉塞されず、電気化学的反応が活発に行われる。従って、本実施形態の膜・電極接合体によれば、低ストイキ比の運転条件においても水分による悪影響を受けずに高い電池性能が発揮される。
【0088】
上記第三実施形態には、相対的に親水性が大きな触媒粒を含有する領域は、反応ガス流路の上流側の領域であり、相対的に親水性が小さな触媒粒を含有する領域は、反応ガス流路の下流側の領域である膜・電極接合体の例を示し、上記第四実施形態では、相対的に親水性が大きな触媒粒を含有する領域は、比較的押圧力を受けない領域であり、相対的に親水性が小さな触媒粒を含有する領域は、比較的押圧力を受ける領域である膜・電極接合体の例を示したが、本発明においては上記第三及び第四実施形態を組み合わせても良い。すなわち、反応ガス流路の上流側で且つ比較的押圧力を受けない領域が、親水性が最も大きな触媒粒を含有する領域となり、反応ガス下流側で且つ比較的押圧力を受ける領域が、親水性が最も小さな触媒粒を含有する領域となり、その他の領域は、水の滞留傾向の相対的な強さ、弱さに従って親水性の異なる触媒粒を分布させればよい。
【0089】
本発明の燃料電池用触媒粒の検査方法は、触媒粒の水浸時pHを、JIS K1474に規定された方法により測定し、互いに異なる所定範囲内の水浸時pHを有する少なくとも2種類の触媒粒を、それぞれ合格品と決定することを特徴とするものである。
【0090】
本発明の燃料電池用触媒粒の検査方法によれば、触媒粒の親水性を簡便な方法で確認することができるため、所望の親水性を有する触媒粒かどうかを容易に判断し、選び出すことが可能である。また、触媒粒に親水処理や撥水処理等を行って親水性を調節する際、親水処理や撥水処理の条件変更等による親水性の制御が容易になるという利点もある。
【0091】
本発明の触媒粒の検査方法は、上記した本発明にかかる燃料電池用膜・電極接合体の製造方法の触媒粒準備工程において、適切な親水性を有する触媒粒を準備するために採用できる他、上記のような製造工程における一連の工程とは独立した、製造前の手順として実施してもよい。例えば、燃料電池の設計変更に伴う新規触媒粒の選択の際に、触媒粒を選定する判断基準の一つとして用いたり、或いは、新規触媒粒の開発の判断基準の一つとして用いることもできる。さらには、多数の触媒粒のサンプルの中から最適なものを選択するためのスクリーニング法として用いてもよい。また、製造に備えて触媒粒を貯蔵する際に、既に決定された燃料電池の仕様に合致する触媒粒であることを予め確認するための検査方法として採用することもできる。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
<触媒インクの調製>
(1)水浸時pH4.0の触媒粒を含有する触媒インクAの調製
市販のPt/C触媒(Pt担持率:50wt%)5gを、1N硝酸1000ml中に浸漬し、80℃で30分間酸処理を行った。酸処理を行ったPt/C触媒1.0gを水100mlに加え、静かに沸騰が続くように5分間加熱し、室温まで冷却後、水を加えて100mlとし、よく攪拌した。得られた溶液のpHをpH計を用いて測定し、酸処理後のPt/C触媒の水浸時pHを確認したところ、4.0だった。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の水/アルコール混合溶液(濃度:20wt%、商品名:DE2020、デュポン社製)2gに水5gとエタノール7gを混合し、電解質樹脂溶液を調製した。この電解質樹脂溶液に、上記水浸時pH4.0のPt/C触媒1gを加え、攪拌機により分散し、触媒インクAとした。
【0093】
(2)水浸時pH6.5の触媒粒を含有する触媒インクBの調製
市販のPt/C触媒(Pt担持率:50wt%)1.0gを水100mlに加え、静かに沸騰が続くように5分間加熱し、室温まで冷却後、水を加えて100mlとし、よく攪拌した。得られた溶液のpHをpH計を用いて測定し、Pt/C触媒(未処理)の水浸時pHを確認したところ、6.5だった。
触媒インクA同様、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の水/アルコール混合溶液(濃度:20wt%、商品名:DE2020、デュポン社製)2gに水5gとエタノール7gを混合し、電解質樹脂溶液を調製した。この電解質樹脂溶液に、上記水浸時pH6.5のPt/C触媒1gを加え、攪拌機により分散し、触媒インクBとした。
【0094】
<燃料電池用単セルの作製>
まず、PTFEとカーボンブラックを質量比1:1で含有するディスパージョンを調製し、ガス拡散層用カーボンペーパー(厚み:200μm)に塗布し、乾燥させた後、約350℃で焼いて、該ガス拡散層用カーボンペーパーを撥水処理した。
フッ素系固体高分子電解質膜(商品名ナフィオン、膜厚50μm、デュポン製)の一面側に、触媒インクBをスプレー塗布し、該インクを揮発乾固させてアノード側触媒層(触媒粒の水浸時pH分布なし)を形成した。アノード側触媒層の単位面積あたりの白金量は、0.2mg/cmとした。
【0095】
一方、上記フッ素系固体高分子電解質膜の他面側に、触媒インクAと触媒インクBをスプレー塗布、乾燥させてカソード側触媒層を形成した。このとき、カソード側触媒層において、水浸時pHが相対的に小さい(4.0)触媒粒を含む領域が反応ガス上流側に分布し、且つ、水浸時pHが相対的に大きい(6.5)触媒粒を含む領域が反応ガス下流側に分布するよう、触媒インクAを反応ガス上流側となる領域(図7の7a参照。反応ガス入口側半分の領域)に塗布し、触媒インクBを反応ガス下流側となる領域(図7の7b参照。反応ガス出口側半分の領域)に塗布した。水浸時pH4.0の触媒粒を含む領域と水浸時pH6.5の触媒粒を含む領域の面積比は、1:1とした。また、カソード側触媒層における各領域の単位面積あたりの白金量は、0.2mg/cmとした。
【0096】
次に、上記2枚のカーボンペーパーと、上記にてアノード側触媒層とカソード側触媒層を形成したフッ素系固体高分子電解質膜とを重ね合わせて、熱圧着(プレス圧:5MPa、プレス温度:130℃)し、膜・電極接合体を作製した。
さらに、炭素繊維と熱硬化性樹脂の複合材料からなり、ガス流路となる溝が形成された2枚のセパレータで上記膜・電極接合体を挟持し、単セルを作製した。
【0097】
(比較例1)
前記実施例1において、カソード側触媒層を触媒インクBのみを用いて形成(触媒粒の水浸時pH分布なし)したこと以外は、実施例1と同様にして単セルを作製した。
【0098】
(比較例2)
前記実施例1において、カソード側触媒層を触媒インクAのみを用いて形成(触媒粒の水浸時pH分布なし)したこと以外は、実施例1と同様にして単セルを作製した。
【0099】
<単セルの発電性能評価>
実施例1及び比較例1〜2の単セルについて、以下の条件でストイキ比特性の評価を行った。結果を図10に示す。
運転条件
・セル温度:80℃
・水素/空気への加湿露点:45℃/55℃
・電流密度:1.0A/cm
【0100】
図10に示すように、カソード側触媒層全面が水浸時pH6.5の触媒粒のみを含有する比較例1の単セルは、反応ガス下流側においてフラッディングが特に発生しやすい低ストイキ比条件下では良好な発電特性を示したものの、反応ガス上流側が特に乾燥しやすい高ストイキ比条件下では発電特性に劣るものだった。
一方、カソード側触媒層全面が水浸時pH4.0の触媒粒のみを含有する比較例2の単セルは、反応ガス上流側が特に乾燥しやすい高ストイキ比条件下では優れた発電特性を示したものの、反応ガス下流側においてフラッディングが特に発生しやすい低ストイキ比条件下では発電特性が大きく低下した。
【0101】
これら比較例の単セルに対して、乾燥しやすい反応ガス上流側に水浸時pH4.0の触媒粒を含有する領域が分布し、フラッディングが発生しやすい反応ガス下流側に水浸時pH6.5の触媒粒を含有する領域が分布する実施例1の単セルは、低ストイキ比から高ストイキ比の広い運転条件において電圧が高く、優れた発電特性を有することが確認された。実施例1の単セルは、特に低ストイキ比における性能低下が少なく、空気流量が小さい条件下でも発電可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体を備えた単セルの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体を備えた単セルの別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体に含まれる触媒層の面方向分布の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体に含まれる触媒層の面方向分布の別の例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体に含まれる触媒層の面方向分布の別の例(縦ストライプ、横ストライプ)を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体の別の実施形態(反応ガス流路の上流側の領域と反応ガス流路の下流側の領域に親水性の異なる2種類の触媒層が分布する)を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体に含まれる触媒層の面方向の例(反応ガス流路の上流側の領域と反応ガス流路の下流側の領域に親水性の異なる2種類の触媒層が分布する)を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体に含まれる触媒層の面方向の別の例(反応ガス流路の上流側の領域と反応ガス流路の下流側の領域に親水性の異なる2種類の触媒層が分布する)を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明に係る製造方法により提供される膜・電極接合体の別の実施形態(比較的押圧力を受ける領域と比較的押圧力を受けない領域に水性の異なる2種類の触媒層が分布する)を模式的に示す断面図である。
【図10】実施例及び比較例で得られた単セルの発電性能評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0103】
1…電解質膜
2…アノード側触媒層
3…酸化剤ガス流路入口
4…アノード側ガス拡散層
5…アノード
6a…第一のカソード側触媒層
6b…第二のカソード側触媒層
7a…カソード側触媒層の第一の領域
7b…カソード側触媒層の第二の領域
8…酸化剤ガス流路出口
9…カソード側ガス拡散層
10…カソード
11…膜・電極接合体
12、14…セパレータ
13…燃料ガス流路
15…酸化剤ガス流路
16…燃料ガス流路出口
17…燃料ガス流路入口
101、102、103、104…単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の一方の面に設けられたアノード側触媒層と他方の面に設けられたカソード側触媒層とを備える燃料電池用膜・電極接合体の製造方法であって、
触媒粒の水浸時pHを、JIS K1474に規定された測定法により確認し、互いに異なる所定範囲内の水浸時pHを有する触媒粒を、少なくとも2種類準備する触媒粒準備工程、
準備した各触媒粒を用いて、それぞれ別個の触媒インクを調製する触媒インク調製工程、及び、
調製した各触媒インクを、所定の塗布面に塗布してアノード側及びカソード側のうち少なくとも一方の触媒層を形成する際に、水浸時pHが異なる触媒粒を含む領域が、触媒層の厚さ方向及び/又は面方向に分布し、且つ、触媒層の厚さ方向に分布がある場合、固体高分子電解質膜に近い位置に水浸時pHが相対的に小さい触媒粒を含有する領域が分布するように、各領域ごとに該当する触媒インクを塗布する触媒インク塗布工程、を具備することを特徴とする、燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒インク塗布工程において、前記各領域が触媒層の面方向に分布する場合、水浸時pHが相対的に小さい触媒粒を含有する領域が該触媒層に供給される反応ガスの上流側領域に分布し、且つ、水浸時pHが相対的に大きい触媒粒を含有する領域が該触媒層に供給される反応ガスの下流側領域に分布するように触媒インクを塗布する、請求項1に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記触媒粒準備工程において準備される触媒粒のうち、水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒の水浸時pHが2〜5の範囲内であり、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒の水浸時pHが5〜7の範囲内である、請求項1又は2に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第一の触媒粒と、前記第二の触媒粒の間での水浸時pHの差が0.5〜5の範囲内である、請求項3に記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記触媒粒準備工程において、触媒粒に親水処理を行うことにより、当該触媒粒の水浸時pHを所定範囲内に調節することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池用膜・電極接合体の製造方法。
【請求項6】
触媒粒の水浸時pHを、JIS K1474に規定された方法により測定し、互いに異なる所定範囲内の水浸時pHを有する少なくとも2種類の触媒粒を、それぞれ合格品と決定することを特徴とする、燃料電池用触媒粒の検査方法。
【請求項7】
水浸時pHが最も小さい第一の触媒粒として水浸時pHが2〜5の範囲内である触媒粒、及び、水浸時pHが最も大きい第二の触媒粒として水浸時pHが5〜7の範囲内である触媒粒を、それぞれ合格品と決定する、請求項6に記載の燃料電池用触媒粒の検査方法。
【請求項8】
前記第一の触媒粒と、前記第二の触媒粒の間での水浸時pHの差が0.5〜5の範囲内である時に、各触媒粒を合格品と決定する、請求項7に記載の燃料電池用触媒粒の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−34191(P2008−34191A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204836(P2006−204836)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】