説明

燃料電池用膜電極接合体および燃料電池

【課題】触媒層と電解質膜との接合性を高める。
【解決手段】燃料電池用膜電極接合体18は、触媒層11を備えた燃料極13と、触媒層14を備えた酸化剤極16と、燃料極13の触媒層11と酸化剤極16の触媒層14とに挟持された電解質膜17とを具備し、燃料極13および酸化剤極16の少なくとも一方の触媒層11(14)は、下記(a)および(b)の条件を満たす無機粒子21を含有する層を有し、この無機粒子含有層を介して電解質膜17と接している。また、燃料電池は、そのような膜電極接合体18を具備する。
(a)平均一次粒子径が200nm以上である
(b)平均高さが100nm以上であるか、または、平均先端角が鋭角である凸部を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。
【0004】
DMFCは、燃料極と空気極との間に電解質膜を挟持させた構造の膜電極接合体(燃料電池セル)を備えており、燃料極と空気極はそれぞれガス拡散層と触媒層とを有し、その触媒層で電解質膜に接している。また、燃料極および空気極の各触媒層は、例えばPt等の触媒を多孔質の担体に担持させてなる触媒粒子をプロトン伝導性を有する高分子バインダーにより一体化することにより形成されている。
【0005】
このようなDMFCでは、燃料極に燃料のメタノールを導入すると、メタノールはガス拡散層を介して触媒層に達し、その触媒作用によりプロトン、電子および二酸化炭素を生成する。プロトンはプロトン伝導性を有する高分子バインダーの作用により触媒層から電解質膜に移動し、さらに、空気極側の触媒層へと移動する。一方、空気極に空気を導入すると、空気はガス拡散層を介して触媒層に達する。そして、この触媒層で、空気中の酸素と燃料極側から移動してきたプロトンと燃料極から外部回路を通じて供給される電子とが反応して水を生成するとともに、前記外部回路を通る電子によって電力が供給される。
【0006】
従来、前記電解質膜および前記各触媒層のプロトン伝導性を有する高分子バインダーとしては、スルホン酸基を有するフッ素系高分子化合物、例えばデュポン社製のナフィオン(商品名)等が、プロトン伝導性に優れることから広く用いられている。しかし、このフッ素系高分子化合物は非常に高価であるという問題がある。
【0007】
そこで、上記フッ素系高分子化合物に代わる廉価な材料として、炭化水素系のプロトン伝導性を有する高分子化合物を電解質膜に用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、この炭化水素系のプロトン伝導性を有する高分子化合物で形成された電解質膜は、従来のスルホン酸基を有するフッ素系高分子化合物をバインダーとして用いた触媒層との接合性に乏しく、界面剥離を生ずやすいという問題があった。これは、フッ素系高分子化合物と炭化水素系高分子化合物との相溶性が低いことによるもので、界面剥離が生ずると、プロトンの電解質膜への移動性が損なわれ、出力低下の要因となる。また、耐久性も低下する。
【0009】
この問題を解決するため、例えば、炭化水素系のプロトン伝導性を有する高分子化合物を触媒層のバインダーとして使用することが検討されている(例えば、特許文献2、3参照。)。しかしながら、この場合、電解質膜と触媒層との接合性は向上するものの、炭化水素系のプロトン伝導性を有する高分子化合物はフッ素系高分子化合物に比べてプロトン伝導性が低いために、出力性能が低下する。
【特許文献1】米国特許第5403675号明細書
【特許文献2】特開2002−164055号公報
【特許文献3】特開2002−298855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電解質膜との接合性が良好で、かつ、プロトン伝導性にも優れる触媒層を備えた燃料電池用膜電極接合体、および、このような燃料電池用膜電極接合体を具備し、出力性能に優れる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る燃料電池用膜電極接合体は、触媒、導電物質およびプロトン伝導体を含む触媒層を備えた燃料極と、触媒、導電物質およびプロトン伝導体を含む触媒層を備えた酸化剤極と、前記燃料極の触媒層と前記酸化剤極の触媒層とに挟持された電解質膜とを具備する燃料電池用膜電極接合体であって、前記燃料極および酸化剤極の少なくとも一方の触媒層は、下記(a)および(b)の条件を満たす無機粒子を含有する層を有し、この無機粒子含有層を介して前記電解質膜と接していることを特徴としている。
(a)平均一次粒子径が200nm以上である
(b)平均高さが100nm以上であるか、または、平均先端角が鋭角である凸部を有する
【0012】
また、本発明の一態様に係る燃料電池は、上記燃料電池用膜電極接合体を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る燃料電池用膜電極接合体は、電解質膜との接合性が良好で、かつ、プロトン伝導性にも優れる触媒層を備えることができ、これを用いて、優れた出力性能を有する燃料電池を得ることが可能になる。また、本発明の一態様に係る燃料電池は、そのような燃料電池用膜電極接合体を具備するため、優れた出力性能を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0015】
図1は本発明の一実施形態による燃料電池の要部構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の燃料電池は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード(空気極/酸化剤極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17とから構成される膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)18を有している。
【0016】
アノード触媒層11およびカソード触媒層14は、それぞれ、触媒と、触媒同士の電子伝導パスとして機能する導電物質と、触媒と電解質膜17との間のプロトン伝導性パスとして機能するプロトン伝導体とを含有している。
【0017】
アノード触媒層11およびカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、これらの白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11にはメタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等の合金を用いることが好ましい。カソード触媒層14にはPtやPt−Ni等の合金を用いることが好ましい。ただし、触媒はこれらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。また、導電物質としては、例えば、導電性カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の粒子状または繊維状の炭素材料が挙げられる。前記した触媒はこのような炭素材料に担持させて含有させるようにしてもよい。
【0018】
さらに、プロトン伝導体としては、(イ)炭化水素系プロトン伝導体、すなわち、主鎖が炭化水素からなる高分子にプロトン伝導性を付与するためにスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を導入したもの、(ロ)フッ素系プロトン伝導体、主鎖が、フッ素で置換された炭化水素からなる高分子にプロトン伝導性を付与するためにスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を導入したもの、(ハ)主鎖に実質的に炭素原子を含まないポリシロキサン、ポリフォスファゼン等の高分子にプロトン伝導性を付与するためにスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を導入したもの、(ニ)(イ)〜(ハ)のイオン交換基導入前の高分子を構成する繰り返し単位から選ばれる2種以上を繰り返し単位とする共重合体にプロトン伝導性を付与するためにスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を導入したもの等が挙げられる。ここで、「高分子もしくは共重合体にイオン交換基を導入した」とは、「高分子もしくは共重合体骨格にイオン交換基を化学結合を介して導入した」ことを意味する。また、(イ)および(ロ)における主鎖は酸素原子等のヘテロ原子で中断されていてもよい。化学的安定性の観点からは、なかでも、(ロ)のフッ素系プロトン伝導体が好ましく、耐熱性の観点からは、主鎖に芳香環を有する高分子からなるものが好ましい。
【0019】
(イ)炭化水素系プロトン伝導体の具体例としては、主鎖が脂肪族炭化水素からなるものとして、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸等が挙げられる。また、主鎖に芳香環を有するものとして、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれにスルホン酸基が導入されたもの、アリールスルホン化ポリベンズイミダゾール、アルキルスルホン化ポリベンズイミダゾール、アルキルホスホン化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)等が挙げられる。
【0020】
(ロ)フッ素系プロトン伝導体の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸、ホスホン酸基を有するパーフルオロアルキルポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸、ポリトリフルオロスチレンホスホン酸等が挙げられ、なかでも、パーフルオロカーボンスルホン酸が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸の市販品を例示すると、例えばナフィオン(デュポン社製 商品名)、フレミオン(旭硝子社製 商品名)等が挙げられる。
【0021】
(ニ)のプロトン伝導体における共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体およびブロック共重合体のいずれであってもよい。ランダム共重合体にイオン交換基が導入されたものとしては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン−ジヒドロキシビフェニル共重合体等が挙げられる。ブロック共重合体にイオン交換基が導入されたものとしては、例えば、スチレン−(エチレン−ブチレン)−スチレントリブロック共重合体にイオン交換基を導入したもの等が挙げられる。イオン交換基を持つブロックとイオン交換基を実質的に持たないブロックとをそれぞれ1つ以上有するブロック共重合体は、プロトン伝導性に優れており、本発明においては好ましく使用される。
【0022】
本発明においては、アノード触媒層11およびカソード触媒層14の少なくとも一方、好ましくは双方に、無機粒子を含有させる。この無機粒子は、外見として全体的に球形の粒子、すなわち一次粒子を形作っており、凝集して隙間があり不規則な形状の二次粒子とは明確に区別される。この無機粒子の平均一次粒子径は200nm以上、好ましくは500nm以上である。ここで、一次粒子径とは、粒子の短軸径をb、長軸径をL、厚みをhとしたとき(L+b+h)/3で求められる値をいう。なお、無機粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による撮像図(倍率1万倍)により求めることができる。平均一次粒子径を求めるためには、なるべく多くの一次粒子径を測定する必要があり、少なくとも50粒子を測定する。
【0023】
また、この無機粒子は、平均高さが100nm以上、好ましくは120nm以上であるか、または、平均先端角が鋭角、好ましくは80°以下である凸部を有する。このような無機粒子を含有させることにより、電解質膜17との接合性を高めることができる。これは、無機粒子が電解質膜17に対しアンカー効果を発揮することによるものと考えられる。ここで、平均高さとは、図2に示すように、複数の凸部31について測定した基部から頂部までの距離Lの平均値をいい、また、平均先端角とは、先端部の半径rが20nm以下である複数の凸部31について測定した凸部31側面のなす角度θの平均値をいう。なお、凸部31の距離Lおよび角度θは、無機粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)による撮像図(倍率10万倍)から求めることができる。平均高さを求めるためには、なるべく多くの凸部を測定する必要があり、少なくとも5個の粒子を、各粒子毎に少なくとも50箇所を測定する。
【0024】
無機粒子は、上記条件を満足するものであれば、導電性であっても絶縁性であってもよい。その具体例としては、ケイ素酸化物(例えばガラス、石英粉、珪石粉、珪藻土、シリカフューム、天然シリカ、コロイダルシリカ等)、アルミニウム酸化物(酸化アルミニウム、アルミナ)、酸化チタン、雲母、絹雲母、ゼオライト、セリサイト、カオリンクレー、カオリン、焼成カオリン(メタカオリン)、石綿、マイカ、タルク、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、ジルコニア、カーボン等の粒子のうち、上記条件を満足するものが挙げられる。これらの粒子は、表面の凸部の大きさや形状を制御するために化学的処理や粉砕等の物理的処理が施されていてもよい。
【0025】
また、例えば、酸化チタン、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素等の針状結晶からなる粒子も無機粒子として使用可能である。これらのなかでも、酸化チタンやチタン酸カリウムの針状結晶は、結晶成長のコントロールのしやすさ、安定したサイズの結晶を得ることが可能なことから、好ましい。また、酸化チタンの針状結晶は、塗工液を調製する際の分散時に破壊されない強度を持ち、塗膜にしたときの表面を粗し、表面強度と硬さを維持できる点からも好適である。
【0026】
上記針状結晶は、表面が導電剤により処理されていてもよい。導電剤としては、アンチモンドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アルミドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ等が挙げられる。これらの導電剤のなかでも、アンチモンドープ酸化スズは、表面電気抵抗率の安定性、電気伝導性、安定性、コスト等の点から好ましい。
【0027】
なお、無機粒子が導電性を有する粒子の場合には、前述した導電物質の一部または全部に代えてこの無機粒子を用いることも可能である。
【0028】
電解質膜17との接合性を高め、かつ、触媒層のプロトン伝導性を高く維持する観点からは、図3に一例として模式的に示すように、上記無機粒子21は、電解質膜17側に偏在させることが好ましい。ここで、「無機粒子を電解質膜17側に偏在させる」とは、無機粒子の含有量が、厚さ方向の断面において、アノード触媒層11の場合にアノードガス拡散層12側より、また、カソード触媒層14の場合にカソード触媒層15側より、それぞれ電解質膜17側が多くなるようにすることを意味する。図3において、22は導電物質に担持された触媒粒子、23はプロトン伝導体を示している。
【0029】
本発明においては、特に、電解質膜17側にのみ上記無機粒子を含有させる、つまり、触媒層を、無機粒子を含有しない第1の層と上記無機粒子を含有する第2の層で構成し、この無機粒子を含有する第2の層で電解質膜17と接するようにすることが好ましい。この場合、無機粒子を含有する第2の層の厚さは、触媒層全体の厚さの20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。また、無機粒子を含有する第2の層における無機粒子の割合は、5〜60体積%の範囲とすることが好ましく、特に、無機粒子が絶縁性無機粒子である場合には、5〜40体積%の範囲とすることがより好ましい。無機粒子の割合が5体積%に満たないと、電解質膜17との接合性を十分に向上させることができず、触媒層と電解質膜17との界面剥離が生ずるおそれがある。逆に60体積%を超えると、導電物質やプロトン伝導体の含有量が減少し、その結果、導電率やプロトン伝導性が下がり、触媒の使用効率が低下する。
【0030】
なお、上記無機粒子含有層中の無機粒子の含有割合は、無機粒子含有層の切断面の電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron−probe Microanalyzer)分析により求めることができる。具体的には、無機粒子含有層をカッターで垂直に切断し、その切断面を日本電子(株)製EPMA(JXA-8900)により加速電圧15kV、照射電流20nAの条件で分析して切断面における無機粒子の二次元的分布を求めた。無機粒子含有層の電解質膜に近い位置からガス拡散層に近い位置まで10μm×10μmの範囲を順に均等に観測し、その観測範囲において元素マップ分析を行い、C、F、Pt、Si等の各元素毎のマップを作製し、Fを含む領域をフッ素系プロトン伝導体とし、Ptを含む領域を担持触媒とし、Si等の無機粒子特有元素の含有領域を無機粒子とした。そして、その切断面における無機粒子の面積sとそれ以外の面積tから次式により無機粒子の含有割合Q(体積%)を算出した。
Q(体積%)=(s/(s+t))×100
【0031】
さらに、無機粒子の電解質膜17に対するアンカー効果をより発揮させ、触媒層と電解質膜17との接合性をさらに高める観点からは、無機粒子を含有する第2の層の電解質膜17と接する面における無機粒子の面積割合が、面総面積の5〜40%の範囲となるようにすることが好ましく、15〜30%の範囲とすることがより好ましい。無機粒子の面総面積に対する割合が5%未満では、電解質膜17との接合性を十分に向上させることができず、触媒層と電解質膜17との界面剥離が生ずるおそれがある。逆に40%を超えると、導電率やプロトン伝導性が下がり、触媒の使用効率が低下する。
【0032】
なお、上記の、電解質膜17と接する面における無機粒子の面積は、触媒層の電解質膜17と接する面の電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析により求めることができる。具体的には、膜電極接合体を、沸騰水中に1時間程度浸漬した後、触媒層を電解質膜から分離し、その分離面を日本電子(株)製EPMA(JXA-8900)により加速電圧15kV、照射電流20nAの条件で分析して分離面における無機粒子の二次元的分布を求めた。すなわち、まず、50μm×50μmの観測範囲において元素マップ分析を行い、C、F、Pt、Si等の各元素毎のマップを作製し、Fを含む領域をフッ素系プロトン伝導体とし、Ptを含む領域を担持触媒とし、Si等の無機粒子特有元素の含有領域を無機粒子とした。次に、上記50μm×50μmの範囲を、縦5個×横5個、計25個の、1辺が10μmの正方形からなるマス目に区画し、上から第1列目の左端、中央部、右端、第3列目の左端、中央部、右端、第5列目の左端、中央部、右端の計9個の各マス目における無機粒子の面積割合を算出し、さらに、それらの9個のマス目における無機粒子の面積割合の平均値を求めた。
【0033】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する機能とともに、アノード触媒層11で生成された電子を効率よく外部へ伝達する集電体としての機能を併せ有する。また、カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤を均一に供給する機能とともに、外部から供給される電子を効率よくカソード触媒層14へ伝達する集電体としての機能を併せ有する。アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15はいずれも導電性材料で形成された多孔質基材で構成される。
【0034】
多孔質基材としては、例えばカーボンファイバ等で形成されるカーボンクロスやカーボンペーパ等のように、導電性繊維をシート状に加工したものを使用することが好ましく、具体的には、例えば繊維径1μm程度以上のカーボンファイバで作られた気孔率50%以上のカーボンペーパあるいはカーボンクロスを使用することができる。多孔質基材は、焼結体であってもよく、金属あるいは金属酸化物(スズ酸化物、チタン酸化物等)を焼結したものを使用することができる。ただし、アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15に含まれるプロトン伝導体は一般に強酸性材料であるため、金属材料を使用する場合には耐酸性の高い材料を選択することが好ましい。
【0035】
アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15上に、それぞれアノード触媒層11およびカソード触媒層14を形成する際には、アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15を形成する各多孔質基材に、触媒および導電物質(または予め導電物質に担持させた触媒)とプロトン伝導体、あるいは、これらの成分と上記無機粒子とを溶媒に分散させて得た触媒ペーストを、コーターやスプレー等により1回ないし複数回に分けて塗付し乾燥させることにより形成することができる。触媒層が、上記無機粒子を含有し、かつ、この無機粒子が電解質膜17側に偏在する触媒層の場合には、無機粒子の含有量の異なる複数の触媒ペーストを調製し、無機粒子が電解質膜17側に偏在するように塗付形成すればよい。なお、触媒ペーストの1回の塗付量が多すぎると、溶媒が揮発するときの体積変化で触媒層にひび割れが発生するおそれがあるため、無機粒子を偏在させない場合であっても、複数回に分けて少量ずつ塗付し乾燥させて形成していくことが好ましい。
【0036】
電解質膜17は、炭化水素系電解質膜、すなわち、炭化水素系のプロトン伝導体からなる電解質膜であってもよく、フッ素系電解質膜、すなわち、フッ素系のプロトン伝導体からなる電解質膜であってもよい。また、タングステン酸やリンタングステン酸等の無機材料からなる電解質膜であってもよい。炭化水素系プロトン伝導体およびフッ素系プロトン伝導体としては、触媒層を構成する炭化水素系プロトン伝導体およびフッ素系プロトン伝導体として例示したものと同様のものが挙げられる。さらに、触媒層を構成する(ニ)成分として例示したプロトン伝導体からなる電解質膜を使用することも可能である。ただし、上記無機粒子の使用することによる前述した効果は、電解質膜17が炭化水素系電解質膜の場合に特に顕著である。したがって、本発明は電解質膜17が炭化水素系電解質膜からなる膜電極接合体、および、これを用いた燃料電池に適用することが好ましい。
【0037】
本実施形態の膜電極接合体18は、アノードガス拡散層12上にアノード触媒層11が形成されたアノード(燃料極)13と、カソードガス拡散層15上にカソード触媒層14が形成されたカソード(空気極/酸化剤極)16と、電解質膜17とを、電解質膜17の両面にアノード触媒層11とカソード触媒層15が接するように重ね合わせ、加熱プレスすることにより、形成される。アノードガス拡散層12のアノード触媒層11と反対側の面、およびカソードガス拡散層15のカソード触媒層14と反対側の面には、それぞれ必要に応じて導電層を形成してもよい。これらの導電層としては、例えばAu等の導電性金属材料からなるメッシュ、多孔質膜、薄膜等が用いられる。
【0038】
このように構成される膜電極接合体18を備えた燃料電池においては、燃料がアノード(燃料極)13に供給される一方、カソード(空気極/酸化剤極)16に空気、酸素等の酸化性ガスが導入される。燃料はアノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる。あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
CHOH+HO → CO+6H+6e …(1)
【0039】
この反応で生成した電子(e)は外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、カソード(空気極)16に導かれる。また、(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H)は電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16に到達した電子(e)とプロトン(H)は、カソード触媒層14で酸素と下記(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
6e+6H+(3/2)O → 3HO …(2)
【0040】
上述した燃料電池の発電反応において、発電する電力を増大させるためには、触媒反応で発生したプロトンをアノード触媒層11から電解質膜17を経てカソード触媒層14へ効率よく移動させることが重要となる。これらのアノード触媒層11と電解質膜17間、電解質膜17とカソード触媒層14間の密着性、接合性が不良であると、プロトンの移動性が低下し、出力が低下する。また、アノード触媒層11と電解質膜17間および電解質膜17とカソード触媒層14間で界面剥離が生じ、耐久性が低下する。
【0041】
本実施形態の燃料電池においては、上述したように、アノード触媒層11およびカソード触媒層14の少なくとも一方に、いわゆるアンカー効果を発揮する無機粒子を含有させている。このように構成される触媒層は、電解質膜17との密着性、接合性が良好である。このため、出力および耐久性の低下を抑制することができる。
【0042】
本発明は、高分子電解質膜を備えた各種の固体高分子型燃料電池に広く適用することができるが、一般には、メタノール燃料等の液体燃料を用いる燃料電池に適用される。液体燃料を用いる燃料電池は、燃料の供給方式から、アクティブ型燃料電池とパッシブ型燃料電池に大きく分けられるが、そのいずれにも適用可能である。ちなみに、アクティブ型燃料電池は、液体燃料および空気等を膜電極接合体のアノード極およびカソード極にそれぞれポンプ等により強制的に供給するものであり、また、パッシブ型燃料電池は気化した液体燃料を膜電極接合体のアノード極に自然供給する一方、カソード極に外部の空気を自然供給するものである。さらには燃料供給など一部にポンプ等を用いたセミパッシブと称される型の燃料電池に対しても本発明を適用することができる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、燃料の供給にポンプを使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。このため、この燃料電池は、上述したようにセミパッシブ方式と呼称される。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである
【0043】
上記液体燃料としては、メタノール水溶液、純メタノール等のメタノール燃料の他、エタノール水溶液、純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、蟻酸、ジメチルエーテル等が挙げられる。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が使用される。なお、MEAへ供給される液体燃料の蒸気においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において、「部」は特に断らない限りそれぞれ「重量部」を意味する。
【0045】
[触媒ペーストの調製]
下記に示す無機粒子、並びに、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(ナフィオン20重量%含有、デュポン社製)、Pt−Ru微粒子を担持した平均一次粒子径30nmのカーボン粒子、Pt微粒子を担持した平均一次粒子径30nmのカーボン粒子、イオン交換水およびメトキシプロパノールを用い、攪拌混合機により、表1および表2に示す配合割合で各成分を混合し、燃料用触媒ペースト(I−1)〜(I−12)および酸化剤用触媒ペースト(II−1)〜(II−12)を得た。
【0046】
粉砕シリカ(A):マイクロン社製 商品名 特殊グレード微粉タイプ(平均一次粒子径500nm、平均凸部高さ120nm、平均凸部先端角70°)
粉砕シリカ(B):マイクロン社製 商品名特殊グレード微粉タイプ(平均一次粒子径500nm、平均凸部高さ80nm、平均凸部先端角70°)
粉砕シリカ(C):マイクロン社製 商品名 特殊グレード微粉タイプ(平均一次粒子径500nm、平均凸部高さ120nm、
平均凸部先端角100°)
粉砕シリカ(D):トクヤマ社製 商品名 レオロシール(平均一次粒子径150nm、平均凸部高さ120nm、平均凸部先端角70°)
粉砕シリカ(E):マイクロン社製 商品名 特殊グレード微粉タイプ(平均一次粒子径500nm、平均凸部高さ80nm、平均凸部先端角100°)
粉砕炭化珪素:カーボランダム社製 商品名 カーボランダム
(平均一次粒子径500nm、平均凸部高さ120nm、平均凸部先端角70°)
酸化スズ被覆チタン酸カリウム:大塚化学社製 商品名 デントールWK(平均一次粒子径500nm、平均凸部高さ120nm、平均凸部先端角70°)
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
[燃料電池用膜電極接合体および燃料電池の製造]
(実施例1)
撥水処理したカーボンペーパからなる多孔質基材(厚み200μm、面積12cm、気孔率70体積%)の片面に、燃料用触媒ペースト(I−12)を塗布し乾燥させて厚さ80μmの第1層を形成し、さらに、その上に、燃料用触媒ペースト(I−1)を塗布し乾燥させて厚さ20μmの第2層を形成し、燃料用触媒層を形成した。また、同様の多孔質基材の片面に、酸化剤用触媒ペースト(II−12)を塗布し乾燥させて厚さ80μmの第1層を形成し、さらに、その上に、触媒ペースト(II−1)を塗布し乾燥させて厚さ20nmの第2層を形成し、酸化剤用触媒層を形成した。
【0050】
次いで、上記燃料用触媒層を形成した多孔質基材および酸化剤用触媒層を形成した多孔質基材をそれぞれアノード極およびカソード極として、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンからなる電解質膜の両面に、各触媒層を電解質膜側に向けて重ね合わせ、150℃、4MPaで10分間、加熱プレスして膜電極接合体を作製し、さらに、これを用いてパッシブ型のDMFCを製造した。
【0051】
(実施例2〜9、比較例1〜3)
燃料用触媒層および酸化剤用触媒層の各第2層の形成に用いる触媒ペーストの種類を表3に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製し、さらに、これを用いてパッシブ型のDMFCを製造した。
【0052】
上記各実施例および各比較例で作製された膜電極接合体の触媒層の電解質膜に接する面における無機粒子の面積割合(面の総面積に対する割合)を下記に示す方法で測定した。また、上記各実施例および各比較例で作製されたパッシブ型のDMFCの液体燃料タンクに純メタノールを10ml注入して、1kHz交流インピーダンスを測定した後、温度25℃、相対湿度50%の環境下、電流値を変化させて単位面積当たりの最大出力を測定した。これらの測定結果を、表3下欄に示す。
【0053】
[無機粒子の面積割合]
膜電極接合体を、沸騰水中に1時間程度浸漬した後、燃料用触媒層および酸化剤用触媒層を電解質膜からそれぞれ分離し、それらの各分離面をEPMAにより分析して分離面における無機粒子の二次元的分布を求め、算出(平均値)した。
【0054】
【表3】

【0055】
表3から明らかなように、本発明に係る実施例のなかでも、各触媒層中に平均一次粒子径200nm以上で、平均凸部高さが100nm以上もしくは平均凸部先端角が90°未満の無機粒子を含有し、かつ、その電解質膜に接する面における面積割合が6〜38%の範囲にある例では、特に良好な結果が得られた。これは、これらの実施例においては、無機粒子の平均凸部高さが100nm未満である実施例6、無機粒子の平均凸部先端角が90°以上である実施例7、無機粒子の電解質膜に接する面における面積割合が少ない実施例1に比べ、触媒層と電解質膜との接合性がさらに向上し、あるいは、無機粒子の電解質膜に接する面における面積割合が多い実施例5に比べ、触媒層と電解質膜との界面でのインピーダンスが低減したことによるものと考えられる。
【0056】
なお、本発明は実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態による燃料電池用膜電極接合体の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に使用される無機粒子の凸部の平均高さおよび平均先端角を説明する図である。
【図3】図1に示す燃料電池用膜電極接合体における触媒層の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
11…アノード触媒層、12…アノードガス拡散層、13…アノード(燃料極)、14…カソード触媒層、15…カソードガス拡散層、16…カソード(空気極)、17…電解質膜、18…膜電極接合体、21…無機粒子、22…担持触媒粒子、23…プロトン伝導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層を備えた燃料極と、触媒層を備えた酸化剤極と、前記燃料極の触媒層と前記酸化剤極の触媒層とに挟持された電解質膜とを具備する燃料電池用膜電極接合体であって、
前記燃料極および酸化剤極の少なくとも一方の触媒層は、下記(a)および(b)の条件を満たす無機粒子を含有する層を有し、この無機粒子含有層を介して前記電解質膜と接していることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
(a)平均一次粒子径が200nm以上である
(b)平均高さが100nm以上であるか、または、平均先端角が鋭角である凸部を有する
【請求項2】
前記無機粒子含有層の前記電解質膜と接する面における前記無機粒子の面積割合が5〜40%であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
前記無機粒子は前記無機粒子含有層中に5〜60体積%含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
前記無機粒子は導電性無機粒子であり、前記導電物質の一部または全部として前記触媒層中に含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
前記無機粒子は絶縁性無機粒子であり、前記無機粒子含有層中に5〜40体積%含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
前記電解質膜は、炭化水素系プロトン伝導体を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の燃料電池用膜電極接合体を具備することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−21226(P2009−21226A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153749(P2008−153749)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】