説明

燃料電池用金属セパレータとこれを用いた固体高分子形燃料電池

【課題】反応ガス流路である凹溝に水滴が生じず、ガス閉塞を起こしにくい燃料電池用金属セパレータ、およびこれを用いた固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】例えば、ステンレス鋼(SUS316L)などの金属薄板からなり、少なくとも一方の表面3に反応ガス流路となる複数の凹溝4を有するベース板2と、係るベース板2の上記複数の凹溝4を有する表面3において、少なくとも複数の凹溝6に被覆した厚みが1〜100nmの貴金属薄膜層20と、係る貴金属薄膜層20の内部に分散され、少なくとも複数の凹溝4の表面3における水の接触角を50度以下とする親水性を有する金属酸化物(例えば、SiO)の微粉末22と、を含む、燃料電池用金属セパレータ1a。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応ガスが流れるガス流路のガス閉塞が生じにくい燃料電池用金属セパレータおよびこれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用金属セパレータは、反応ガスに対して耐食性を有し且つ隣接する電極との接触抵抗が小さいことが求められている。
このため、ステンレス薄板をプレス成形して、その内周部に多数の凹凸からなる膨出成形部を形成し、係る膨出成形部の先端側端面(電極との接触面)に厚さが0.01〜0.02μmのAuメッキ層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、基材となる金属板の表面全体に、Ag、窒化クロム、白金族の複合酸化物などをメッキ処理によって被覆した燃料電池用セパレータも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−228914号公報(第1〜4頁、図1〜図3)
【特許文献2】特開平11−162478号公報(第1〜8頁、図1)
【0004】
しかしながら、特許文献1,2のように、金属セパレータにAuメッキやAgメッキなどを施すと、プレス成形された反応ガス流路の凹溝において、AuやAg自体が撥水性を示すため、凹溝の周囲における水分が係る凹溝の内面に付着した後、徐々に凝集し易くなり、やがて水滴が生じる。係る水滴が大きくなると、上記凹溝を塞ぐため、反応ガスが流れなくなるガス閉塞を招来し、発電が停止するおそれがある、という問題があつた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、反応ガス流路である凹溝に水滴が生じず、ガス閉塞を起こしにくい燃料電池用金属セパレータ、およびこれを用いた固体高分子形燃料電池を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、発明者らによる鋭意研究の結果、反応ガス流路である凹溝の表面を親水性にする、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の燃料電池用金属セパレータ(請求項1)は、金属薄板からなり、少なくとも一方の表面に反応ガス流路となる複数の凹溝を有するベース板と、係るベース板の上記複数の凹溝を有する表面において、少なくとも複数の凹溝に被覆した貴金属薄膜層と、係る貴金属薄膜層の内部に分散され、少なくとも複数の凹溝の表面における水の接触角を50度以下とする親水性を有する金属酸化物の微粉末と、を含む、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、前記貴金属薄膜層の内部には、前記凹溝の表面における水の接触角を50度以下とする親水性を有する金属酸化物の微粉末が分散されている。このため、複数の前記凹溝の表面は、親水性となるので、係る凹溝に反応ガスが流れた際にも、水分が付着しつつ凝集して水滴となりにくくなる。この結果、複数の凹溝を水滴が塞ぐ事態が生じにくくなるため、反応ガスが流れなくなるガス閉塞を確実に防止ないし低減できる。従って、安定した発電が可能な燃料電池を提供することに貢献できる。
前記水の接触角が50度を超えると、前記凹溝の表面に被覆された前記貴金属薄膜層の親水性が低下し、撥水性を呈するおそれがあるため、係る範囲を除外した。望ましい水の接触角は30度以下、より望ましくは25度以下である。
【0008】
尚、前記金属薄板は、Fe、Ni、またはTi、あるいは、これらの何れかをベースとする合金からなり、望ましくは、Fe基合金のオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS316L,SUS304)からなるものが推奨される。
また、前記金属薄板の厚みは、0.2mm以下、望ましくは、0.1mm以下が推奨される。
更に、前記ベース板における複数の凹溝は、前記金属薄板の内周部において、例えば、プレス成形により互いに平行に設けられ、これらの同じ方向(ストレート型)または隣接するごとに交互に逆向きの方向(マルチサーペンタイン型)に反応ガスが流される。隣接する凹溝間には凸条が位置し、複数の凹溝の長手方向の端部には、反応ガスのためのUターン溝、分流用溝、あるいは合流用溝が配置されている。
加えて、前記貴金属薄膜層は、例えば、電解金属メッキやスパッタリングなどにより被覆され、マスキングにより前記凹溝の内面にのみ被覆するほか、隣接する前記凹溝間に位置する凸条を含めたベース板のほぼ表面全体、あるいは表面および裏面のほぼ全体に被覆しても良い。
【0009】
また、本発明には、前記貴金属薄膜層の厚みは、1〜100nmである、燃料電池用金属セパレータ(請求項2)も含まれる。
これによれば、金属メッキなどの実用的な技術で安定して被覆できると共に、前記凹溝の容積を過度に圧迫せず、反応ガスの流量を相応に確保でき、且つコスト高も回避することが可能となる。
尚、上記貴金属薄膜層の厚みが1nm未満では、薄過ぎて実用的な技術では安定して被覆することが困難であり、一方、上記厚みが100nmを越えると、前記凹溝の容積を過度に圧迫すると共に、コスト高になり得るため、これらの範囲を除外したものである。係る貴金属薄膜層の望ましい厚みは、3〜50nm、より望ましくは、5〜20nmである。
付言すれば、前記貴金属薄膜層は、前記金属薄板の表面に被覆された後、圧下率が0.2〜10%の圧縮加工を受けたものである、燃料電池用金属セパレータも本発明に含めることが可能である。望ましい圧下率は、1%以上であり、より望ましくは、5%以上である。
【0010】
更に、本発明には、前記貴金属薄膜層は、Au、Pt、Pd、Ruの何れか、またはこれらの一つをベースとする合金、あるいは上記金属元素の2種以上の合金からなる、燃料電池用金属セパレータ(請求項3)も含まれる。
これによれば、反応ガスによる腐食を確実に防止できると共に、金属メッキやスパッタリングなどの実用的な技術により、貴金属薄膜層の被覆が、所望の厚みで安定して可能となる。尚、上記合金には、例えば、Au−Coが挙げられる。
【0011】
また、本発明には、前記親水性を有する金属酸化物の微粉末は、SiO、TiO、Al、Bi、CeO、CoO、CuO、Fe、Ho、ITO(酸化インジウム スズ)、Mn、SnO、Y、またはZnOの微粒子からなる、燃料電池用金属セパレータ(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記凹溝の表面を被覆する貴金属薄膜層を、確実に且つ低コストで親水性にすることが可能となる。
更に、本発明には、前記親水性の微粉末の平均粒径は、前記貴金属薄膜層の厚みの50%以下である、燃料電池用金属セパレータ(請求項5)も含まれる。
これによれば、親水性の微粉末を貴金属薄膜層の内部全体に比較的均一に分散し、係る貴金属薄膜層を確実に親水性とすることができる。
尚、上記微粉末の平均粒径が貴金属薄膜層の厚みの50%を越えると、係る微粉末が均一に分散されにくくなり、貴金属薄膜層の親水性が表面の場所ごとにバラ付くおそれがあるため、係る範囲を除外した。貴金属薄膜層の厚みに対する上記微粉末の望ましい平均粒径は、25%以下、より望ましくは20%以下である。
【0012】
一方、本発明の固体高分子形燃料電池(請求項6)は、前記金属セパレータを互いに平行に少なくとも一対配列し、これらの間に固体高分子膜を挟んでいる、ことを特徴とする。これによれば、ガス閉塞が生じにくい前記金属セパレータを少なくとも一対用いる。このため、一方の金属セパレータの凹溝内を流れる燃料ガス、例えば、水素は、固体高分子膜の隣接するアノード電極に接触して、水素イオンと電子とに分解され、係る電子が外部回路を経る際に発電を生じた後、固体高分子膜の反対側のカソード電極に送られる。一方、他方の金属セパレータの凹溝を流れる酸化剤ガス、例えば、空気が上記カソード電極に接触した際に、含有する酸素と固体高分子膜を貫通した上記水素イオンと上記電子とが反応して水が形成され、排出される。従って、安定した発電を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明における一形態の燃料電池用金属セパレータ(以下、単に金属セパレータと称する)1aを示す正面図である。
金属セパレータ1aは、例えば、厚さが約0.1mmのステンレス鋼(SUS316Lなど)からなる金属薄板であり、図1に示すように、全体がほぼ正方形を呈するベース板2の表面3において、周辺部を除く内周部に、後述する反応ガスの流路となる複数の凹溝4が平行に形成されている。
【0014】
図1で左右に隣接する凹溝4,4間には、独立した細長い凸条5が手前側に突出すると共に、複数の凹溝4の上方と下方とには、分流用溝6または合流用溝6が個別に形成されている。係る分流用溝6の左上には、隘路を介して供給孔8を中心部に有する凹み7が連通し、合流用溝6の右下には、隘路を介して排出孔9を中心部に有する凹み7が連通している。以上の凹溝4,凸条5,分流・合流用溝6,凹み7は、上記金属薄板を例えばプレス成形することで形成される。尚、凹溝4の幅と凸条5の幅とをほぼ同一としても良い。
図1中の矢印で示すように、左上の凹み7の供給孔8から導入された反応ガスは、合流用溝6、複数の凹溝4、および合流用溝6を流れた後、右下の凹み7の排出孔9から外部に排出される。少なくとも、合流用溝6、複数の凹溝4、および合流用溝6の表面は、後述するように、水の接触角を50度以下とされている。
【0015】
図2は、異なる形態の金属セパレータ1bの正面図を示し、前記同様の金属薄板からなる長方形のベース板2の表面3において、周辺部を除く内周部に、後述する反応ガスの流路となる複数の凹溝14が平行に形成されている。
図2で左右に隣接する凹溝14,14間には、手前に突出する細長い凸条15がそれぞれ平行にして形成され、隣接する凸条15,15の頂面は、交互に上端または下端をベース板2の表面3の平坦部と面一として連結されている。図2に示すように、左右に隣接する凹溝14,14の上端部または下端部には、ほぼ半円形のUターン溝16が連続して形成されている。
【0016】
図2で左端に位置するの凹溝14の上端には、ほぼ半円形の溝端12が位置し、その中心部に供給孔18が穿孔されており、図2で右端に位置するの凹溝14の下端には、ほぼ半円形の溝端17が位置し、その中心部に排出孔19が穿孔されている。尚、凹溝14の幅と凸条15の幅とをほぼ同一としても良い。
図2中の矢印で示すように、溝端12の供給孔18から導入された反応ガスは、複数の凹溝14および複数のUターン溝16をほぼジグザグ状に流れた後、溝端17の排出孔19から外部に排出される。少なくとも、係る凹溝14およびUターン溝16の表面は、後述するように、水の接触角を50度以下とされている。
【0017】
図3は、図1中のX−X線の矢視および図2中のY−Yの矢視に沿った断面図である。図3に示すように、ベース板2の表面3には、前記複数の凹溝4(14)および複数の凸条5(15)が交互に形成されている。このため、ベース板2の裏面(表面)3aには、上記凹溝4(14)とほぼ相似形の凸条4a(14a)、および凸条5(15)とほぼ相似形の凹溝5a(15)が交互に位置している。
尚、凹溝4(14)の幅と凸条5(15)の幅とをほぼ同一としても良く、該形態のベース板2の裏面3aには、凹溝4(14)とほぼ断面の凸条4a(14a)、および凸条5(15)とほぼ断面の凹溝5a(15)が交互に形成される。
【0018】
図4は、図3中の一点鎖線部分Zの部分拡大図である。図4で例示するように、金属セパレータ1a(1b)は、少なくとも凹溝4(14)の表面3に厚みtが1〜100nmの貴金属薄膜層20が被覆されている。係る貴金属薄膜層20は、Au、Pt、Pd、Ruの何れか、またはこれらの一つをベースとする合金、例えばAu−Co系合金、あるいは上記金属元素の2種以上を含む合金からなる。貴金属薄膜層20は、電解金属(Au)メッキまたはスパッタリングによって、ベース板2の表面3全体、または、マスキングにより露出した凹溝4(14)などの表面3に対し、ほぼ均一な厚みで被覆される。
尚、貴金属薄膜層20は、金属メッキなどにて被覆された後、圧下(加工)率が0.2〜10%の圧縮加工を施すことで、ベース板2との密着性が高められる。
【0019】
図4に示すように、貴金属薄膜層20の内部には、その表面における水の接触角を50度以下とする親水性の金属酸化物の微粉末22が多数分散されている。
係る微粉末22は、例えば、SiOまたはTiO(金属酸化物)の微粒子からなり、その平均粒径は、貴金属薄膜層20の厚みtの50%以下、望ましくは25%以下、より望ましくは20%以下とされる。係る平均粒径とすることで、係る微粉末22は、貴金属薄膜層20の内部に比較的均一に分散されると共に、貴金属薄膜層20の表面における水の接触角を50度以下、望ましくは30度以下、より望ましくは25度以下にすることができる。尚、上記微粉末22は、Al、Bi、CeO、CoO、CuO、Fe、Ho、ITO(酸化インジウム スズ)、Mn、SnO、Y、またはZnOの何れかとしていも良い。
以上のように、金属薄膜層20の表面における水の接触角を50度以下とすることで、付近の水分が付着・凝集して水滴となりにくく、凹溝4(14)内を次述する反応ガスがスムーズに流れるため、ガス閉塞を生じにくくできる。
【0020】
図5は、本発明の固体高分子形燃料電池(以下、単に燃料電池と称する)28,30に関する。
図5の左側の概略図で示すように、固体高分子膜24の各側面に、例えば、炭素繊維からなるアノード電極25、および同様なカソード電極26を積層する。尚、上記固体高分子膜24は、例えば、スルホン酸基を含むフッ素樹脂からなる。
上記固体高分子膜24の両側には、前記凹溝4(14)および凸条5(15)を有する表面3を対向させた一対の金属セパレータ1a(1b)が対称に配置され、図中の矢印で示すように、固体高分子膜24の両側面に、上記電極25,26を覆うようにして、金属セパレータ1a(1b)を積層する。尚、これらは、周辺部を図示しないボルト・ナットなどで、上記積層状態を保って固定される。
【0021】
その結果、図5の中央の概略図で示すように、一対の金属セパレータ1a(1b)の表面3,3間に、上記電極25,26を有する固体高分子膜24の両側面が挟まれて積層された単位セルの燃料電池28が形成される。
更に、単位セルの上記燃料電池28を、複数個厚み方向に沿って積層し且つ固定することによって、図5の右側の概略図で示すように、スタック型の燃料電池30が形成される。
尚、隣接する金属セパレータ1a(1b)の前記凹溝4(14)同士間や、固体高分子膜24を挟んだ金属セパレータ1a(1b)の凹溝4(14)同士間は、図示しない迂回流路を介して連通している。また、前述した凹溝4(14)の幅と凸条5(15)の幅とをほぼ同一とした形態の金属セパレータ1a(1b)では、裏面3a側の凹溝5a(15a)も反応ガスの流路として活用できるため、隣接する固体高分子膜24,24の間に1枚の金属セパレータ1a(1b)を挟んだ形態のスタック型の燃料電池30とすることも可能である。
【0022】
ここで、単位セルの前記燃料電池28を例として、その作用を説明する。
図5中央で左側の金属セパレータ1a(1b)の凹溝4(14)を流れる燃料ガス、例えば、水素は、固体高分子膜24側の隣接するアノード電極25に接触して、水素イオンと電子とに分解される。係る電子は、外部回路を通過する際に発電を生じた後、固体高分子膜25の反対側のカソード電極26に送られる。
一方、図5中央で右側の金属セパレータ1a(1b)の凹溝4(14)を流れる酸化剤ガス、例えば、空気は、上記カソード電極26に接触した際に、含有する酸素と固体高分子膜24を貫通した上記水素イオンと上記電子とが反応して水となる。係る水は、直ちに外部に排水される。
【0023】
以上の水素や空気などの反応ガスが、金属セパレータ1a(1b)の凹溝4(14)を流れる際に、係る凹溝4(14)の内面は、前記SiOまたはTiOの微粒子22が内部に均一に分散されたことで、前記金属薄膜層20の表面における水の接触角を50度以下とされている。このため、例えば、付近の水分が凹溝4(14)の内面に付着しても、球形状の水滴として凝集されずに、平坦な形状の付着水となる。このため、各凹溝4(14)内において、従来のようなガス閉塞を生じることなく、水素などの反応ガスをスムーズに送給・循環させることができる。従って、前記燃料電池28によれば、安定した発電を行うことが可能となる。尚、この点については、スタック型の前記燃料電池30も同様である。
【実施例】
【0024】
ここで、本発明の具体的な実施例について、比較例と併せて説明する。
ステンレス鋼(SUS316L)からなり、厚みが0.1mmの金属薄板を、複数対用意した。係る金属薄板の表面(3)に対し、Auメッキ液中、Ptメッキ液中、または、Au−Coメッキ液中において、表1に示す異なる平均粒径のSiOまたはTiO(親水性の金属酸化物の微粉末:22)を分散させた状態で、電解金属メッキを個別に施して、表1に示す膜厚の貴金属薄膜層(20)を被覆した。尚、一対の金属薄板には、上記微粉末(22)を使用しなかった。
また、各対ごとの金属薄板において、貴金属薄膜層(20)の厚みに対するSiOまたはTiOの平均粒径の割合を算出し、これらを表1に示した。
更に、貴金属薄膜層(20)が被覆された複数対の金属薄板と、前記微粉末(22)を使用していない一対の金属薄板とついて、それぞれ表面における接触角を測定し、その結果を「濡れ性」として表1に示した。
【0025】
貴金属薄膜層(20)が被覆された前記複数対の金属薄板を、同じプレス型によりプレス成形して、深さ0.5mm、平均幅0.9mmの断面がほぼ逆台形である複数の凹溝(4)と、これらの間の凸条(5)とを含む反応ガス流路を、ベース板(2)の表面(3)に有する複数対の金属セパレータ(1a)を成形した。
また、前記微粉末(22)を使用していない一対の金属薄板に対しても、上記と同じプレス成形を施して比較例1となる一対の金属セパレータとした。
次いで、スルホン酸基を含む同じフッ素樹脂からなり、同じ厚みである複数の固体高分子膜(24)の両側面に、それぞれ同じ厚みおよび大きさの触媒層と炭素繊維層とを含むアノード電極(25)およびカソード電極(26)を積層した。
次に、上記電極(25,26)が積層された複数の固体高分子膜(24)の両側面に、前記複数対の金属セパレータ(1a)を、一対ずつ積層・固定して、複数の単セルの燃料電池(28)を形成した。また、1枚の固体高分子膜(24)の両側面にも、比較例1である一対の金属セパレータを積層して、比較例1である単セルの燃料電池を形成した。
【0026】
【表1】

【0027】
複数の前記燃料電池(28)と比較例1の燃料電池とについて、燃料ガス:水素(利用率70%)、酸化剤ガス:空気(利用率40%)、加湿温度:アノード側(25)とカソード側(26)で80℃、および、セル温度:80℃の条件により、各々発電試験を行い、50mA/秒の掃引速度におけるI−V特性を測定した。
そして、複数の上記燃料電池(28)と比較例1の燃料電池とについて、個別に発電試験を行い、1A/cm・hrの出力時におけるセル電圧(V)を測定すると共に、発電中にガス閉塞を生じたか否かの結果を、それぞれ表1に示した。
表1によれば、実施例1〜10の燃料電池28によれば、何れもセル電圧が約0.49V以上となった。
【0028】
一方、比較例1〜5の燃料電池では、何れもセル電圧が約0.3V以下となった。
実施例1〜10の燃料電池28は、表1に示すように、貴金属薄膜層20の厚みに対するSiOまたはTiOの平均粒径の割合が、何れも50%以下と比較的均一に分散され、貴金属薄膜層20の表面における水の接触角が30度以下の親水性であったため、それぞれの金属セパレータ1aの凹溝4内でガス閉塞を生じなかった、ものと推定される。
【0029】
一方、比較例1〜5の燃料電池は、表1に示すように、貴金属薄膜層20の厚みに対するSiOまたはTiOの平均粒径の割合が、何れも50%超と比較的不均一な分散となり、貴金属薄膜層20の表面における水の接触角が60度以上の撥水性であったため、それぞれの金属セパレータの凹溝4内でガス閉塞を生じていた、ものと推定される。
以上の実施例1〜10によって、本発明の効果が裏付けられたことが容易に理解される。
【0030】
前記実施例の作用・効果は、前記金属セパレータ1bを用いた際にも、ほぼ同様となることは、明らかである。
尚、本発明の前記金属セパレータ1a,1bは、固体高分子形以外の燃料電池(例えば、燐酸型燃料電池)にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一形態の金属セパレータを示す正面図。
【図2】異なる形態の金属セパレータを示す正面図。
【図3】図1中のX−X線の矢視および図2中のY−Yの矢視に沿った断面図。
【図4】図3中の一点鎖線部分Zの部分拡大図。
【図5】本発明の固体高分子形燃料電池の組立前後を示す概略図。
【符号の説明】
【0032】
1a,1b…金属セパレータ
2……………ベース板
3……………表面
4,14……凹溝
20…………貴金属薄膜層
22…………金属酸化物の微粉末
t……………貴金属薄膜層の厚み
28,30…固体高分子形燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板からなり、少なくとも一方の表面に反応ガス流路となる複数の凹溝を有するベース板と、
上記ベース板の上記複数の凹溝を有する表面において、少なくとも複数の凹溝に被覆した貴金属薄膜層と、
上記貴金属薄膜層の内部に分散され、少なくとも複数の凹溝の表面における水の接触角を50度以下とする親水性を有する金属酸化物の微粉末と、を含む、
ことを特徴とする燃料電池用金属セパレータ。
【請求項2】
前記貴金属薄膜層の厚みは、1〜100nmである、
請求項1に記載の燃料電池用金属セパレータ。
【請求項3】
前記貴金属薄膜層は、Au、Pt、Pd、Ruの何れか、またはこれらの一つをベースとする合金、あるいは上記金属元素の2種以上の合金からなる、
請求項1または2に記載の燃料電池用金属セパレータ。
【請求項4】
前記親水性を有する金属酸化物の微粉末は、SiO、TiO、Al、Bi、CeO、CoO、CuO、Fe、Ho、ITO(酸化インジウム スズ)、Mn、SnO、Y、またはZnOの微粒子からなる、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の燃料電池用金属セパレータ。
【請求項5】
前記親水性の微粉末の平均粒径は、前記貴金属薄膜層の厚みの50%以下である、
請求項1乃至4の何れか一項に記載の燃料電池用金属セパレータ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかの前記金属セパレータを互いに平行に少なくとも一対配列し、これらの間に固体高分子膜を挟んでいる、
ことを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−198565(P2008−198565A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34917(P2007−34917)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(593148077)日鉱富士電子株式会社 (7)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】