説明

燃料電池用電極の作製方法

【課題】撥水層の表面を平滑にすることによって、出力の低下を防止することが可能な燃料電池用電極の作製方法を提供すること。
【解決手段】ガス拡散層であるカーボンクロス2上に、撥水層を形成するための組成物であるペースト1を塗布し、ペースト1が流動性を有する間に、ペースト1の表面にカプトンシート4(カプトンは商品名)を載せ、一旦大気圧以下に減圧したチャンバー内にて、ペースト1中、および、ペースト1とカプトンシート4の間に残っている気泡を取り除いた後、大気圧のデシケータ内で室温にて乾燥させ、その後、カプトンシート4を剥離して、カプトンシート4の平滑な表面が転写された撥水層(ペースト1の乾燥体)を形成し、ガス拡散層と撥水層と触媒層とをこの順に重ね合わせて燃料電池用電極とすることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用電極の作製方法に関し、特に、気体は通すが液体の水は通さない撥水層を構成要素とする燃料電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池等の電極として、気体は通すが液体の水は通さない多孔質の撥水層と触媒層とが重ね合わされた構造を有する電極が用いられている。この電極が燃料電池に組み込まれた状態では、触媒層は電解質層と接触し、発電に関連する電気化学反応の触媒として働く。酸素などの酸化剤ガスと水素などの燃料ガスとは、撥水層を通して触媒層へ供給される。
【0003】
上記の多孔質の撥水層を作製する方法として、アセチレンブラックと、界面活性剤の1重量%水溶液と、PTFEエマルジョン樹脂(ポリテトラフルオロエチレンエマルジョン樹脂)を撹拌混合してぺーストを作製し、このぺーストをカーボンペーパの片面にドクターブレード法を用いて塗布し、60℃で30分間乾燥させた後、熱風乾燥機を用いて380℃で15分間熱処理を行うことによって、撥水層とする方法がある(下記非特許文献1参照)。
【非特許文献1】C. Lim, C. Y. Wang, "Development of high-power electrodes for a liquid-feed direct methanol fuel cell, Journal of Power Sources 113 (2003) 145-150.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術にて、ガス拡散層としてのカーボンペーパやカーボンクロス上にペーストを塗布し乾燥させて撥水層を形成した場合、カーボンペーパやカーボンクロス表面の凹凸が、撥水層の表面に現れてしまう。
【0005】
図4に、ガス拡散層としてカーボンクロス2を用いた場合の模式図を示す。カーボンペーパと比較し、カーボンクロス2は表面の凹凸が大きいため、カーボンクロス2の表面にドクターブレード法にて、撥水層を形成するための組成物であるペースト1を塗布した場合には、撥水層表面の凹凸3、3’(凸部3、凹部3’)が顕著となる。
【0006】
膜電極複合体(MEA)を作製するには、両面に触媒層を有する固体高分子膜を、撥水層で両側から挟み、熱と圧力を加えて接合(ホットプレス)する必要がある。
【0007】
図5、図6に、従来技術によって作製した撥水層を、ホットプレスした場合の模式図を示す。ホットプレスの圧力が大きすぎる場合、撥水層表面の凸部3によって、固体高分子膜5が過剰に潰されてしまい(図5)、最悪の場合は固体高分子膜5の両面にある撥水層が電気的に短絡してしまう。逆に、ホットプレスの圧力が小さい場合は、撥水層表面の凹部3’が固体高分子膜5と接触しないため(図6)、撥水層と固体高分子膜5との接触抵抗が増大し、燃料電池として発電させた場合に出力の低下を招いてしまう。
【0008】
本発明は、上記したような従来の撥水層の製造方法の欠点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、撥水層の表面を平滑にすることによって、出力の低下を防止することが可能な燃料電池用電極の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記課題を解決するために、請求項1に記載のように、
ガス拡散層と撥水層と触媒層とがこの順に重ね合わされてなる燃料電池用電極の作製方法において、前記撥水層を形成するための組成物であるペーストを前記ガス拡散層に塗布する塗布工程と、前記ペーストの塗布層表面に平滑成形処理を施す表面平滑化工程とを有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。
【0010】
また、本発明においては、請求項2に記載のように、
請求項1に記載の燃料電池用電極の作製方法において、前記表面平滑化工程が、平滑面を有する部材により該平滑面を前記ペーストの塗布層表面に転写する工程であることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。
【0011】
また、本発明においては、請求項3に記載のように、
請求項1に記載の燃料電池用電極の作製方法において、前記表面平滑化工程が、前記ペーストの塗布層が流動性を有している間に、前記塗布層の表面に平滑平板を載せる工程であることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。
【0012】
また、本発明においては、請求項4に記載のように、
請求項3に記載の燃料電池用電極の作製方法において、前記平滑平板は、ポリイミドおよびポリテトラフルオロエチレンを素材例とする樹脂シートであることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。
【0013】
また、本発明においては、請求項5に記載のように、
請求項3または4に記載の燃料電池用電極の作製方法において、前記塗布層の表面に平滑平板を載せる工程の後に、周囲の圧力を大気圧以下とすることによって、前記塗布層の内部および前記塗布層と前記平滑平板との間に存在する気泡を取り除く工程を有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。
【0014】
また、本発明においては、請求項6に記載のように、
請求項1ないし5のいずれかに記載の燃料電池用電極の作製方法において、前記ペーストは、導電性カーボン粒子と、エマルジョン状態の撥水性樹脂とを含有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法を構成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面の平滑な撥水層を作製することが可能となり、撥水層と触媒層との接触抵抗を低減させることによって、発電電圧が高く高性能な燃料電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[発明の実施形態例]
以下図面を参照して本発明の実施形態例を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態例を説明するための模式図である。
【0018】
まず、塗布工程として、撥水層を形成するための組成物であるペースト1を、ガス拡散層であるカーボンクロス2上に塗布し、つぎに、表面平滑化工程として、ペースト1が流動性を有している間に、ペースト1の表面に平滑平板であるカプトンシート4(カプトンは商品名)を載せて、カプトンシート4の平滑面をペースト1の表面に転写する。これらの工程の詳細は以下の通りである。
【0019】
ペースト1は、導電性カーボン粒子であるアセチレンブラックに有機溶剤として2−プロパノールを加え、ボールミルにて1時間撹拌し、その後、エマルジョン状態の撥水性樹脂であるPTFEエマルジョン樹脂(ポリテトラフルオロエチレンエマルジョン樹脂)を加え、超音波分散機にてアセチレンブラックを均一に分散させて作製した。
【0020】
ガス拡散層であるカーボンクロス2としては、目付120g/m、厚さ0.35mmのものを使用し、事前に、PTFEエマルジョン樹脂を含浸させ(PTFE量は40重量%)、撥水処理を施したものを使用した。
【0021】
上記の撥水処理を施したカーボンクロス2上に、ドクターブレード法によって、ペースト1を塗布した。
【0022】
続いて、ペースト1が流動性を有している間に、ペースト1の表面に、平滑平板であるカプトンシート4を載せ、一旦大気圧以下に減圧したチャンバー内にて、ペースト1中と、ペースト1とカプトンシート4との間に残っている気泡を取り除き、その後大気圧のデシケータ内で室温にて乾燥させ、図1の(a)の状態とした。
【0023】
その後、カプトンシート4を剥離すると、カプトンシート4の平滑面が転写された、気体は通すが液体の水は通さない撥水層(ペースト1の乾燥体)が得られる(図1の(b))。
【0024】
乾燥したペースト1と平滑平板(この場合にはカプトンシート4)との剥離を容易にするためには、平滑平板はシート状のものが好ましく、また、ペースト1が付着しにくいものを選ぶことが望ましい。カプトンシート4の他には、PTFEシート(ポリテトラフルオロエチレンシート)、カプトンシート以外のポリイミドシートなど、ペースト1に使用されている界面活性剤や有機溶剤と化学的に反応せず、表面が平滑なものであれば使用することが可能である。
【0025】
図2は、上記の方法によって作製した、表面の平滑な撥水層(ペースト1の乾燥体)を用いて、両面に触媒層を有する固体高分子膜5を挟み込んだ場合の模式図である。この場合に、ガス拡散層であるカーボンクロス2と、撥水層であるペースト1の乾燥体と、固体高分子膜5が有する触媒層とがこの順に重ね合わされて燃料電池用電極を構成している。
【0026】
図2に示したように、撥水層(ペースト1の乾燥体)の表面が平滑なため、撥水層と固体高分子膜5との接触面積が小さくなることがなく、また撥水層がショートしてしまうことを防止できる。
【0027】
図3は、従来技術による撥水層を持つMEAと、上記の方法によって作製した撥水層を持つMEAとの発電特性を比較したグラフである。
【0028】
燃料としては無加湿の水素を0.02MPaでデッドエンドにて供給し、酸化剤としては室温の空気を3リットル/分にて供給した。
【0029】
図3から明らかなように、本発明による撥水層を持つMEAは、同一電流において、従来技術による撥水層を持つMEAに比べて、高い電圧(Vc)と低いインピーダンス(Z)を示している。
【0030】
このように、本発明に係る燃料電池用電極の作製方法によって作製した、表面の平滑な撥水層を用いたことにより、接触抵抗およびインピーダンスが低下し、それによって、発電電圧の向上が実現できた。
【0031】
以上、本発明の実施形態例につき説明したが、本発明は、必ずしも上記した手段および手法に限定されるものではなく、本発明にいう目的を達成し、本発明にいう効果を有する範囲において適宜変更実施することが可能なものである。
【0032】
すなわち、本発明に係る燃料電池用電極の作製方法は、撥水層を形成するための組成物であるペーストをガス拡散層に塗布する塗布工程と、前記ペーストの塗布層表面に平滑成形処理を施す表面平滑化工程とを有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法である。
【0033】
上記表面平滑化工程として、ペーストの塗布層が流動性を失った段階で、塗布層の表面を、平滑面を有する部材の平滑面に、ペーストが塑性変形を起こすのに十分な圧力で押しつけ、該部材の平滑面を塗布層の表面に転写する工程を採用してもよい。この場合に、ペーストに、あらかじめ、比較的蒸発しにくい溶媒(たとえばエチレングリコール)を添加し、その溶媒が長時間ペースト中に残留し、ペーストの塑性変形が起こりやすいようにしてもよい。
【0034】
さらに、上記表面平滑化工程として、ペーストの塗布層が流動性を失った段階で、ペーストを使用しないドクターブレード法によって、ペースト表面の凹凸部分を削りとる方法を採用することができる。この場合にも、ペーストに、あらかじめ、比較的蒸発しにくい溶媒(たとえばエチレングリコール)を添加し、その溶媒が長時間ペースト中に残留し、ペーストの凹凸部分が削りとられやすくなるようにしてもよい。なお、この場合に、表面平滑化工程の後に、ドクターブレード法によるペーストの再塗布を行ってもよい。
【0035】
さらに、上記表面平滑化工程として、ペーストの塗布層が流動性を失った段階で、2つの塗布層の表面どうしをすり合わせることによって、表面の凸部分が移動して凹部分を埋めるようにして表面平滑化を行ってもよい。この場合にも、ペーストに、あらかじめ、比較的蒸発しにくい溶媒(たとえばエチレングリコール)を添加しておけば、作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態例を説明するための模式図である。
【図2】本発明に係る燃料電池用電極の作製方法によって作製した撥水層をホットプレスした場合の模式図である。
【図3】従来技術による撥水層を持つMEAと、本発明に係る燃料電池用電極の作製方法によって作製した撥水層を持つMEAの発電特性を比較したグラフである。
【図4】ガス拡散層としてカーボンクロスを用いた場合の、従来技術によって作製した撥水層の模式図である。
【図5】従来技術によって作製した撥水層を、高い圧力にてホットプレスした場合の模式図である。
【図6】従来技術によって作製した撥水層を、低い圧力にてホットプレスした場合の模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1:ペースト、2:カーボンクロス、3:撥水層表面の凸部、3’:撥水層表面の凹部、4:カプトンシート、5:固体高分子膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散層と撥水層と触媒層とがこの順に重ね合わされてなる燃料電池用電極の作製方法において、
前記撥水層を形成するための組成物であるペーストを前記ガス拡散層に塗布する塗布工程と、
前記ペーストの塗布層表面に平滑成形処理を施す表面平滑化工程とを有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用電極の作製方法において、
前記表面平滑化工程が、平滑面を有する部材により該平滑面を前記ペーストの塗布層表面に転写する工程であることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池用電極の作製方法において、
前記表面平滑化工程が、前記ペーストの塗布層が流動性を有している間に、前記塗布層の表面に平滑平板を載せる工程であることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池用電極の作製方法において、
前記平滑平板は、ポリイミドおよびポリテトラフルオロエチレンを素材例とする樹脂シートであることを特徴とする燃料電池用電極の作製方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の燃料電池用電極の作製方法において、
前記塗布層の表面に平滑平板を載せる工程の後に、周囲の圧力を大気圧以下とすることによって、前記塗布層の内部および前記塗布層と前記平滑平板との間に存在する気泡を取り除く工程を有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の燃料電池用電極の作製方法において、
前記ペーストは、導電性カーボン粒子と、エマルジョン状態の撥水性樹脂とを含有することを特徴とする燃料電池用電極の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−238437(P2009−238437A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80262(P2008−80262)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】