説明

燃料電池用電極触媒,これを用いた燃料電池

高い性能が得られる燃料電池用電極触媒を提供すること。
本発明の燃料電池用電極触媒は、担体と、それに担持された触媒金属とを備え、担体は、その表面がプロトン解離性官 能基で修飾され、かつBET法による比表面積が900〜2170m2/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びこれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池は、低温で高い電流密度が取り出せることから、ポータブル機器用電源、自動車用の駆動電源、またコージェネレーションの電源としての開発が進められている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池は、基本的に燃料極(アノード)と空気極(カソード)との間に固体高分子電解質膜を配した層構造を有する。この構成において、例えば、燃料極および空気極にそれぞれ水素と酸素とを供給した場合、次のような電気化学反応が進行する。
燃料極:2H2 → 4H+ + 4e-
空気極:O2 + 4H+ + 4e- → 2H2
【0004】
また、燃料極に水素の代わりにメタノールを供給し、直接メタノール燃料電池として運転することも可能である。その場合、次のような電気化学反応が進行する。
燃料極:CH3OH + H2O → 6H+ + 6e- + CO2
空気極:3/2O2 + 6H+ + 6e+ → 3H2
【0005】
上記のような電気化学反応は、各電極において、プロトン(H+)および電子(e-)の授受を同時に行うことができる三相界面でのみ進行する。従って、良好な発電性能を得るためには、電極中に三相界面を豊富に確保することが望ましい。
【0006】
固体高分子電解質型燃料電池における燃料極および空気極の両電極は、上記の三相界面を得るために、カーボン担体に白金などの触媒金属を高分散に担持させた触媒担持カーボン担体とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子分散溶液よりなるペーストを高分子フィルムや導電性多孔質体のカーボン電極基材上に塗布して加熱乾燥して成膜した後、イオン交換樹脂溶液をこの上から塗布、含浸した後乾燥させる方法、または上記触媒担持カーボン担体とイオン交換樹脂溶液そして必要に応じてPTFE粒子とよりなるペーストを高分子フィルムや導電性多孔質体のカーボン電極基材上に製膜した後、乾燥する方法により作製されている。
【0007】
しかし、上記に説明したような製造方法により作製された電極では、カーボン担体に担持された触媒金属は反応に際して有効に働いている割合が小さく、電極反応に対する活性を低下させている。この原因は、これまでの製造方法が、あらかじめカーボン担体に触媒金属を担持させた後、その触媒担持カーボン担体とイオン交換樹脂を混合する方法を用いていることに起因するものである。
【0008】
すなわち、非特許文献1にも記載されているように、イオン交換樹脂はその分子が大きいために、カーボン担体中の微小細孔の内部には分布することができず、よってこの微小細孔中に担持された触媒金属とイオン交換樹脂とは接触しない。上記に説明した通り、電気化学反応は三相界面でのみ進行する為、イオン交換樹脂と接触しない触媒金属は反応に寄与しないこととなる。
【0009】
また、イオン交換樹脂と触媒担持カーボンブラックを混合することで電極を作製する従来の手法において、触媒担持方法や触媒担体に関して多くの研究がなされている。例えば特許文献1や特許文献2では、微小細孔の容積を制限したカーボンを触媒金属の担体として用いることで、イオン交換樹脂が分布できない微小細孔中に触媒金属が担持されるのを抑制し、反応に寄与しない金属触媒の重量比を低減できるとしている。
【0010】
また、特許文献2の図5及び段落25には、担体の比表面積が小さい間は、担体の比表面積を大きくするにつれて得られる電流値が大きくなるが、担体の比表面積が800m2/gを超えると、得られる電流値が担体の比表面積の増加と共に低下する旨が記載されている。従って、単に担体の比表面積を大きくすることによって、触媒、さらには燃料電池の性能を向上させることには限界がある。
【特許文献1】特開平9−167622号公報
【特許文献2】特開2000−100448号公報
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.,142(1995)4143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、燃料電池の性能を向上させることは、強く望まれており、それには、燃料電池用電極触媒の性能を向上させることが必要である。
【0012】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、高い性能が得られる燃料電池用電極触媒を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の燃料電池用電極触媒は、担体と、それに担持された触媒金属とを備え、担体は、その表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつBET法による比表面積が900〜2170m2/gである。
【0014】
触媒金属の性能を効果的に発揮させるには、触媒金属の比表面積を大きくし、化学反応が起こる部位の面積を増大させることが必要であると考えられる。また、触媒金属の比表面積を大きくするには、触媒金属を担持する担体の比表面積を大きくすることが必要であると考えられる。実際に、担体の比表面積が800m2/g未満の場合は、担体の比表面積を大きくすることにより、触媒の性能が向上していた。
【0015】
しかし、上述したように、担体の比表面積が800m2/g以上である場合、担体の比表面積の増加と共に、触媒の性能が低下していた。その理由は、以下の通りであると考えられる。燃料電池用電極触媒は、通常、イオン交換樹脂と混合されて使用される。また、触媒金属を担持する担体には、通常、種々のサイズの微小な細孔が存在する(担体が微小な粒子の会合体からなる場合、「微小な細孔」とは、会合体内部の空間を意味する。)。担体の比表面積を大きくすると、イオン交換樹脂が入り込むことができないほど小さな細孔の割合が増加する。そのような小さな細孔に触媒金属が担持されると、その触媒金属はイオン交換樹脂と接触することができない。従って、反応により生じるプロトンの輸送がうまくいかず、その結果、触媒金属は、その性能を発揮することができない。従って、触媒の性能が低下する。
【0016】
本発明の発明者は、担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾されることにより、担体の微小細孔内でのプロトン輸送が促進され、上記問題点が改善されることを見出した。そして、発明者は、比表面積が900m2/g以上である担体を用い、この担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾されることにより、触媒金属を高度に分散させることができ、かつ、個々の触媒金属の性能を向上させることができることを見出した。さらに、発明者は、担体の比表面積が2170m2/gを超える場合には、本発明の場合でも、触媒の性能が低下することを見出した。以上の知見に基づいて、発明者は、比表面積が900〜2170m2/gである担体上に触媒金属を担持し、かつ、その担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾されることにより、高い性能を有する燃料電池用電極触媒が得られることを見出し、本発明の完成に到った。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い性能を有する燃料電池用電極触媒が得られる。従って、本発明の触媒を用いることにより、高い性能を有する燃料電池を製造することができる。
【0018】
また、本発明によれば、触媒金属を高度に分散させることができ、その結果、触媒金属の利用効率が向上する。従って、触媒金属(多くの場合、高価な貴金属からなる。)の使用量を減少させることができ、燃料電池用電極触媒を安価に製造することができる。
また、本発明によれば、化学反応が起こる部位の面積を増大させることができる、その結果、性能を低下させることなく高い電流密度で電流を取り出すことができる。従って、自動車用燃料電池・ポータブル機器用燃料電池などの高い電流密度を要する機器への利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1と比較例1,2に係る、カーボン担体の比表面積と電流密度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2と比較例3に係る、カーボン担体の層間距離と電流密度との関係を示すグラフである。
【図3】実施例3,4と比較例4、5に係る、カーボン担体の比表面積及び層間距離と、電流密度との関係を示すグラフである。
【図4】実験例1と2に係る、カーボン担体の比表面積と、担持された白金の粒子径との関係を示すグラフである。
【図5】実験例1と2に係る、カーボン担体の比表面積と電流密度との関係を示すグラフである。
【図6】実験例3に係る、カーボン担体の層間距離と電流密度との関係を示すグラフである。
【図7】実験例4と5に係る、カーボン担体の比表面積と、担持されたPtRu合金の粒子径との関係を示すグラフである。
【図8】実験例4と5に係る、カーボン担体の比表面積と電流密度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1 実施例1についてのデータ
3 比較例1についてのデータ
5 比較例2についてのデータ
7 実施例2についてのデータ
9 比較例3についてのデータ
55 実験例1についてのデータ
57 実験例2についてのデータ
65 実験例4についてのデータ
67 実験例5についてのデータ
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.燃料電池用電極触媒
本発明の燃料電池用電極触媒は、担体と、それに担持された触媒金属とを備え、担体は、その表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつBET法による比表面積が900〜2170m2/gである。
【0022】
また、本発明の燃料電池用電極触媒は、例えば、(1)BET法による比表面積が900〜2170m2/gである担体上に触媒金属を担持し、(2)前記担体の表面をプロトン解離性官能基で修飾する工程により得られる。
【0023】
1−1.担体
担体は、導電性材料からなることが好ましい。これは、担体上に担持された触媒金属上の反応により発生した電子を、効率よく伝達させるためである。担体は、触媒金属上の反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。また、代表的な担体としては、当該分野で通常用いられる炭素材が挙げられる。炭素材の原料は、原油産物又はヤシ油などの植物油などが挙げられる。また、担体は、具体的には、金、銀、チタン若しくはニオブ等の金属材料、(n型、p型、ドープ型)シリコン等の半導体材料、ファーネスブラック等のカーボンブラック又は活性炭、活性炭素繊維、多層カーボンナノチューブ若しくはナノカーボンなどのカーボン材料などからなる。
【0024】
担体は、絶縁性材料又は半導電性材料からなってもよい。この場合、例えば、触媒金属を担持させた担体と、上記の導電性材料を混合して用いる。この場合、担体は、具体的には、絶縁性材料としては、シリカなどの金属酸化物などからなり、半導電性材料としては、(ドープ型)シリコンなどからなる。
【0025】
担体は、好ましくは、微小な粒子の会合体からなる。この場合、担体の比表面積が大きくなり、後述する大きな比表面積を達成するのが容易だからである。微小な粒子の径は、好ましくは、10〜30nm程度であり、会合体の径は、好ましくは、数100〜数μm程度である。
担体は、そのBET法による比表面積が、900〜2170m2/gである。担体の比表面積が900m2/g以上の場合に、担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾されることにより、触媒性能を大きく向上させることができるからである。また、比表面積が2170m2/gを超えると、触媒性能が低下する。これは、この場合、担体の電気抵抗が大きくなり、上記電子伝達の効率が低下するからであると考えられる。担体は、その比表面積が、好ましくは、1000〜1800m2/gである。なぜなら、1000m2/gより小さい場合、担持触媒粒子の粒子径が十分に小さくならず、1800m2/gより大きい場合、例えば水素又はメタノールなどの反応物質の実効的な拡散パスが長くなり、物質供給律速の現象が生じ易くなる(この場合、高い電流密度での電池特性が落ちる)と考えられるからである。担体は、その比表面積が、さらに好ましくは、1200〜1600m2/gである。なぜなら、1200m2/gより小さい場合、触媒の担持量を十分に大きくすることができず、1600m2/gより大きい場合、担体の気孔率が下がる為、物質供給律速の現象が生じ易くなる(この場合、高い電流密度での電池特性が落ちる)と考えられるからである。比表面積は、BET法を用いて測定する。なお、本発明の実施例では、比表面積は、日本ベル社製の型式BELSORP18を用いて測定した。
【0026】
担体は、市販されているものを用いてもよく、公知の方法を用いて製造してもよい。市販されている担体の一例として、Cabot社製の商品名BP−2000(カーボンブラック)が挙げられる。この担体の比表面積は、1475m2/gであり、上記範囲に含まれている。また、市販されている担体に対して、物理的又は化学的処理を施すことにより、その担体の比表面積を調節してもよい。例えば、担体に対して液相酸化処理又は水蒸気処理を行うことにより、担体の比表面積を大きくすることができる。これらの方法は、カーボン担体に対して特に有効である。
【0027】
1−2.触媒金属
担体上に触媒金属を担持させる。触媒金属は、白金、ルテニウム、ロジウム、インジウム、パラジウム若しくはオスミウムなどの白金族金属、又はこれらの合金からなることが好ましい。また、触媒金属は、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、鋼、亜鉛、銀及びタングステンからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素と白金族金属とを含む合金が好ましい。
【0028】
触媒金属は、好ましくは、粒子状で、担体上に分散する。触媒金属は、例えば、触媒金属を含む錯体などと、担体とを混合し、その状態で、触媒金属を含む錯体を還元することによって、担体上に担持させることができる。触媒金属を含む錯体などと、担体との混合比率を変化させることにより、触媒金属の担持量を変化させることができる。触媒金属は、担体上に担持量が5〜70重量%となるように担持されていることが好ましい。5重量%より少ないと、担持される触媒金属の量が少な過ぎ、十分な触媒面積を確保することができない為、電極性能が低下するからであり、70重量%を超えると、触媒金属粒子の径が大きくなり易く、触媒の単位質量当たりの触媒活性が低下する為、電極性能が低下する。ここで、「担持量」とは、担持された触媒金属の重量を、触媒金属を担持した後の担体重量(すなわち、担体と触媒金属の重量を合わせた重量)で割ったものを意味する。担持された触媒金属の重量は、例えば、担体がカーボンからなる場合は、燃焼により、そのカーボンを除去し、その残りの重量を測定することにより求めることができる。
【0029】
1−3.プロトン解離性官能基
1−3−1.一般的事項
担体は、その表面がプロトン解離性官能基で修飾されている。プロトン解離性官能基は、好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つからなり、スルホン酸基からなることが特に好ましい。なぜなら、スルホン酸基は、一般的な有機化学反応により、担体に導入することができるからである。スルホン化剤としては、例えば、硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸又はフルオロ硫酸を用いることができる。
【0030】
1−3−2.表面処理
プロトン解離性官能基で修飾する前に、担体にオゾン処理、プラズマ処理、液相酸化処理、水蒸気処理又はフッ素処理などの表面処理を施しておくことが好ましい。これにより、担体上に水酸基などの反応性基が形成される。そして、反応性基と、プロトン解離性官能基を含む有機化合物との化学反応を通じて、担体上にプロトン解離性官能基を容易に導入することができる。また、表面処理の程度を制御することにより、反応性基の生成する密度を制御することができ、従って、担体上のプロトン解離性官能基の密度を制御することができる。これにより、担体上に必要な密度でプロトン解離性官能基を容易に導入することができ、高い性能の触媒が得られる。
【0031】
1−3−3.カーボン担体の黒鉛化度
担体としてカーボン担体を用いる場合、カーボン担体の黒鉛化度を制御することにより、カーボン担体上のプロトン解離性官能基の密度を制御することができる。その原理は、以下の通りであると考えられる。カーボン担体の黒鉛化度が高い場合、反応活性の高い部位が少なく、プロトン解離性官能基が導入されにくい。一方、カーボン担体の黒鉛化度が低い場合、反応活性の高い部位が多く、プロトン解離性官能基が導入されやすい。
従って、カーボン担体の黒鉛化度を制御することにより、カーボン担体上のプロトン解離性官能基の密度を制御することができる。
【0032】
カーボン担体の黒鉛化度は、例えば、不活性ガス中で、1600〜2000℃で30分程度の熱処理を施すことにより、高くすることができる。また、カーボン担体の黒鉛化度は、例えば、液相酸化処理又は水蒸気処理などを施すことにより、低くすることができる。
【0033】
カーボン担体の黒鉛化度は、その[002]面の平均格子面間隔(以下、「層間距離」という。)から定めることができる。カーボン担体の層間距離はカーボン担体の黒鉛構造に基づく六角網面の面間隔であり、X線回折パターンから算出される。具体的には、粉末X線回折装置を使用して、Braggの式に基づき算出することができる。なお、完全な黒鉛結晶の層間距離は、0.3345nmである。従って、この値に近いものほど、黒鉛化度が高いことを意味する。
【0034】
カーボン担体は、その層間距離が、0.35〜0.388nmであることが好ましい。0.35nm未満の場合、カーボン担体の黒鉛化度が高く、表面処理剤との反応性が低くなる。従って、上記の反応を通じて導入することが可能なプロトン解離性官能基の量が減少するため、十分なプロトン拡散層を形成することができず、電極活性が低下する。 また、0.388nm超であると、黒鉛化度が低すぎて電子伝導率が下がり、電極活性が下がる傾向がある。
【0035】
2.燃料電池
本発明の燃料電池は、電解質層と、電解質層を挟む一対の電極とを備え、前記電極の少なくとも一方は、上記の触媒を備える。
【0036】
2−1.電解質層
電解質層は、固体高分子又はリン酸などからなる。例えば、電解質層が固体高分子からなる場合、固体高分子電解質型燃料電池となり、電解質層がリン酸からなる場合、リン酸型燃料電池となる。
【0037】
2−2.電極
電極は、上記の触媒を備える。また、電極は、好ましくは、イオン交換樹脂と混合された触媒を備える。電極は、例えば、上記触媒をイオン交換樹脂分散溶液中に分散させ、得られた溶液をカーボンペーパーなどの上に塗布することによって形成することができる。
【実施例】
【0038】
1.BET比表面積が電流密度に与える影響
以下に示す方法で、種々の比表面積及び層間距離を有する担体を用いて燃料電池を作成し、電流密度を測定した。
【0039】
1−1.実施例1に係る燃料電池の製造
表1に示すカーボン担体A、B、C、D、Eを担体として、以下の方法により、燃料電池を製造した。
【0040】
【表1】

【0041】
(1)担体への白金の担持
まず、2.2重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液90gにカーボン担体を3g浸漬させ攪拌した。次に、そこにエタノール10mLを加え、95℃で6時間攪拌することにより白金を担持させた。なお、電極触媒全体に対する白金の担持量は50重量%で一定とした。
【0042】
(2)プロトン解離性官能基での修飾
次に、白金を担持させたカーボン担体を2(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシランを含むジクロロメタン溶液中に懸濁させ、室温で2時間攪拌した。次に、それを濾過及び減圧乾燥することにより、プロトン解離性官能基で修飾されたカーボン担体触媒を得た。
【0043】
(3)燃料電池の製造
次に、得られたカーボン担体触媒を5重量%Nafion(登録商標)分散溶液に浸漬し、超音波処理により分散させてペーストを作製した。これをカーボンペーパー(東レ製、TPG−H−060)上に塗工し触媒層を形成した燃料電池用電極を作製し、この電極で、デュポン社製イオン交換膜であるNafion(登録商標)膜(型式N−117)を挟んで一体化し、本実施例に係る燃料電池を得た。
【0044】
1−2.比較例1に係る燃料電池の製造
表1に示すカーボン担体F、G、H、Iを担体として、それ以外は実施例1と同様の方法により、燃料電池を製造した。
【0045】
1−3.比較例2に係る燃料電池の製造
カーボン担体A〜Iについて、プロトン解離性官能基で修飾する工程を行わずに、それ以外は実施例1と同様の方法により、燃料電池を製造した。
【0046】
1−4.電流密度の測定
実施例1および比較例1、2で得られた燃料電池について、そのアノード側に加湿した水素を、カソード側に加湿した空気を供給して発電試験を行った。その結果を図1に示す。なお、図1は、カーボン担体の比表面積と、オーム抵抗を補正した電池電圧が900mVになるときの電流密度との関係を示す。電池電圧が900mVになるときの電流密度の大小は、反応律速状態での電流密度の大小、言い換えれば、三相界面の大小と相関があると考えられる。
【0047】
1−5.実施例1と比較例1・比較例2との比較
図1において、符号1は、実施例1についてのデータを示し、符号3は比較例1についてのデータを示し、符号5は、比較例2についてのデータを示す。図1によると、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有する場合(実施例1及び比較例1)の電流密度の値は、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有しない場合(比較例2)の電流密度の値と比較した場合、比表面積の小さい領域では、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有しない場合の方が、高い電流密度を示しているが、カーボン担体の比表面積が900m2/gを境に、カーボン担体の比表面積がそれより大きくなるとプロトン解離性官能基を有する場合に、より高い電流密度を示すようになることが分かる。この傾向は、カーボン担体の比表面積が2170m2/gになるまで続き、2170m2/gを超えた場合には、再びカーボン担体がプロトン解離性官能基を有しない場合の方が高い電流密度を示すことが分かる。
【0048】
1−6.まとめ
以上より、触媒に用いるカーボン担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつこのカーボン担体の比表面積が900〜2170m2/gであるときに、特に高い電流密度が得られることが分かり、本発明によれば、高い性能を有する燃料電池を製造することができることが分かった。
【0049】
2.層間距離が電流密度に与える影響
以下に示す方法で、種々の比表面積及び層間距離を有する担体を用いて燃料電池を作成し、電流密度を測定した。
【0050】
2−1.実施例2の燃料電池の製造
表2に示すカーボン担体J、K、Lを担体として、実施例1と同様の方法を用いて、燃料電池を製造した。
【0051】
【表2】

【0052】
2−2.比較例3の燃料電池の製造
カーボン担体J〜Lについて、プロトン解離性官能基で修飾する工程を行わずに、それ以外は実施例1と同様の方法により、燃料電池を製造した。
【0053】
2−3.電流密度の測定
実施例2および比較例3で得られた燃料電池について、そのアノード側に加湿した水素を、カソード側に加湿した空気を供給して発電試験を行った。その結果を図2に示す。なお、図2は、カーボン担体の層間距離と、オーム抵抗を補正した電池電圧が500mVになるときの電流密度との関係を示す。電池電圧が500mVになるときの電流密度の大小は、拡散律速状態での電流密度の大小、つまり、触媒層中の電子伝導・プロトン伝導の影響が現れる状態での電流密度であると考えられる。
【0054】
2−4.実施例2と比較例3との比較
図2において、符号7は、実施例2についてのデータを示し、符号9は比較例3についてのデータを示す。図2によると、カーボン担体の層間距離が0.35nm〜0.388nmである場合、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有する場合(実施例2)の電流密度の値は、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有しない場合(比較例3)の電流密度の値と比較した場合、より高い電流密度を示すことが分かる。このような結果が得られたのは、層間距離が0.35〜0.388nm程度のときに、カーボン担体上のプロトン解離性官能基の密度が十分に高く、かつ、カーボン担体の導電性が十分に高くなったからであると考えられる。
【0055】
2−5.まとめ
以上より、触媒に用いるカーボン担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつカーボン担体の層間距離が0.35〜0.388nmであるときに、特に高い電流密度が得られることが分かり、本発明によれば、高い性能を有する燃料電池を製造することができることが分かった。
【0056】
3.BET比表面積及び層間距離が電流密度に与える影響
以下に示す方法で、種々の比表面積及び層間距離を有する担体を用いて燃料電池を作成し、出力密度を測定した。
【0057】
3−1.実施例3の燃料電池の製造
実施例3では、比表面積が900〜2170m2/gであり、かつ、カーボン担体の層間距離が0.350〜0.388nmである担体として、表3に示すM、N、O、P、Q、R、S、Tのカーボン担体を用いて、実施例1と同様の方法により燃料電池を製造した。
【0058】
【表3】

【0059】
3−2.実施例4の燃料電池の製造
900〜2170m2/gの範囲の比表面積を有し、かつ層間距離が0.35〜0.388nmの条件を満たさないカーボン担体として、表3に示すU、V、Wのカーボン担体を用いて、実施例1と同様の方法により燃料電池を製造した。
【0060】
3−3.比較例4の燃料電池の製造
0.35〜0.388nmの範囲の層間距離を有し、かつ比表面積900〜2170m2/gの条件を満たさないカーボン担体として、表3に示すX、Y、Zのカーボン担体を用いて、実施例1と同様の方法により燃料電池を製造した。
【0061】
3−4.比較例5の燃料電池の製造
比表面積900〜2170m2/g及び層間距離0.35〜0.388nmの何れの条件も満たさないカーボン担体として、表3に示すa、b、cのカーボン担体を用いて、実施例1と同様の方法により燃料電池を製造した。
【0062】
3−5.出力密度の測定
実施例3、4および比較例4、5で得られた燃料電池について、そのアノード側に加湿した水素を、カソード側に加湿した空気を供給して発電試験を行った。その結果を表3及び図3に示す。なお表3は、電流密度が800mA/cm2の時の出力密度の時の電流密度を示す。図3は、カーボン担体の比表面積及び層間距離と電流密度が800mA/cm2の時の出力密度との関係を示す図である。
【0063】
3−6.実施例3、4と比較例4、5の比較
図3によると、比表面積900〜2170m2/g及び層間距離0.35〜0.388nmの両方の条件を満たさない比較例5の出力密度は、実施例3、4及び比較例4と比較して低く、0.2W/cm2に満たないことが分かる。
また、比表面積、層間距離の何れの条件も満たす実施例3では、少なくとも一方が条件を満たしていない実施例4、比較例4、5と比べて、高い出力密度が得られることが分かる。
【0064】
以上よりカーボン担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつカーボン担体の比表面積が900〜2170m2/gであり、かつ、層間距離が0.35〜0.388nmであるときに、特に高い出力密度が得られることが分かった。
【0065】
ここで、予備的な実験例1〜5を示す。
【0066】
4.実験例1と2について
4−1.実験例1の燃料電池の製造
比表面積がそれぞれ56、254、800、1270、1475、1970、2170m2/gであるカーボン担体X1〜X7を担体として、以下の方法により、燃料電池を製造した。
【0067】
(1)担体への白金の担持
まず、2.2重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液90gにカーボン担体を3g浸漬させ攪拌した。次に、そこにエタノール10mLを加え、95℃で6時間攪拌することにより白金を担持させた。なお、電極触媒全体に対する白金の担持量は50重量%で一定とした。
【0068】
(2)プロトン解離性官能基での修飾
次に、白金を担持させたカーボン担体を2(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシランを含むジクロロメタン溶液中に懸濁させ、室温で2時間攪拌した。次に、それを濾過及び減圧乾燥することにより、プロトン解離性官能基で修飾されたカーボン担体触媒を得た。
【0069】
(3)燃料電池の製造
次に、得られたカーボン担体触媒を5重量%Nafion(登録商標)分散溶液に浸漬し、超音波処理により分散させてペーストを作製した。これをカーボンペーパー(東レ製、TPG−H−060)上に塗工し触媒層を形成した燃料電池用電極を作製し、この電極で、デュポン社製イオン交換膜であるNafion(登録商標)膜(型式N−117)を挟んで一体化し、本実験例に係る燃料電池を得た。
【0070】
4−2.実験例2の燃料電池の製造
カーボン担体X1〜X7について、プロトン解離性官能基で修飾する工程を行わずに、それ以外は実験例1と同様の方法により、燃料電池を製造した。
【0071】
4−3.白金粒径の測定
カーボン担体X1〜X7に担持された白金の粒径を測定した。その結果を図4に示す。なお、白金粒径は、粉末X線回折装置を使用して、シェラーの式に基づき算出した。図4によると、比表面積が大きくなるほど、白金粒径が小さくなっていることが分かる。これは、比表面積が大きくなるほど、白金が高度に分散していることを示している。
【0072】
4−4.電流密度の測定
実験例1および2で得られた燃料電池について、そのアノード側に加湿した水素を、カソード側に加湿した空気を供給して発電試験を行った。その結果を図5に示す。なお、図5は、カーボン担体の比表面積と、オーム抵抗を補正した電池電圧が900mVになるときの電流密度との関係を示す。電池電圧が900mVになるときの電流密度の大小は、反応律速状態での電流密度の大小、言い換えれば、三相界面の大小と相関があると考えられる。
【0073】
4−5.実験例1と2の比較
図5において、符号55は、実験例1についてのデータを示し、符号57は、実験例2についてのデータを示す。図5によると、比表面積が900m2/gを超えた辺りから、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有する場合(実験例1)の方が、有しない場合(実験例2)よりも、電流密度が高くなっていることが分かる。また、比表面積が2170m2/gの場合でも、実験例1の方が、実験例2よりも、電流密度が高くなっていることが分かる。従って、カーボン担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつカーボン担体の比表面積が900〜2170m2/gであるときに、高い電流密度が得られることが分かった。
【0074】
5.実験例3ついて
5−1.燃料電池の製造
表4に示すカーボン担体X8〜X10を担体として、実験例1と同様の方法を用いて、燃料電池を製造した。また、実験例1と同様の方法を用いて、電流密度を測定した。但し、電流密度は、オーム抵抗を補正した電池電圧が500mVになるときの値とした。
【0075】
【表4】

【0076】
5−2.層間距離と電流密度との関係
図6は、層間距離(カーボン担体の[002]面の平均格子面間隔)と、電流密度との関係を示すグラフである。カーボン担体X8〜X10の比表面積は、互いに近い大きさなので、電流密度の違いは、層間距離の違い、すなわち、カーボン担体の黒鉛化度の違いを反映していると考えられる。また、カーボン担体の黒鉛化度は、上述のように、カーボン担体上のプロトン解離性官能基の密度と相関する。
【0077】
図6によると、層間距離が0.35〜0.388nm程度のときに、特に高い電流密度が得られていることが分かる。このような結果が得られたのは、層間距離が0.35〜0.388nm程度のときに、カーボン担体上のプロトン解離性官能基の密度が十分に高く、かつ、カーボン担体の導電性が十分に高くなったからであると考えられる。
【0078】
6.実験例4と5について
6−1.実験例4の燃料電池の製造
比表面積がそれぞれ56、254、800、1270、1475、1970、2170m2/gであるカーボン担体X1〜X7を担体として、以下の方法により、燃料電池を製造した。
【0079】
(1)担体への白金ルテニウム合金の担持
まず、2.2重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液90gにカーボン担体を3g浸漬させ攪拌した。次に、そこにエタノール10mLを加え、95℃で6時間攪拌することにより白金を担持させた。次に、そこに、5.2重量%の塩化ルテニウム溶液10gを加え攪拌することによりルテニウムをさらに担持させた。これにより、白金ルテニウム合金(以下、「PtRu合金」という。)が、カーボン担体上に担持された。なお、電極触媒全体に対するPtRu合金の担持量は50重量%で一定とした。
【0080】
(2)プロトン解離性官能基での修飾
次に、上記触媒を担持させたカーボン担体を5重量%三酸化硫黄溶液(溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)中に懸濁させ、120℃で4時間攪拌させた。次に、それを濾過及び減圧乾燥することにより、プロトン解離性官能基で修飾されたカーボン担体触媒を得た。
【0081】
(3)燃料電池の製造
次に、得られたカーボン担体触媒を5重量%Nafion(登録商標)分散溶液に浸漬し、超音波処理により分散させてペーストを作製した。これをカーボンペーパー(東レ製、TPG−H−060)上に塗工し触媒層を形成した燃料電池用電極を作製し、この電極で、デュポン社製イオン交換膜であるNafion(登録商標)膜(型式N−117)を挟んで一体化し、本実験例に係る燃料電池を得た。
【0082】
6−2.実験例5の燃料電池の製造
カーボン担体X1〜X7について、プロトン解離性官能基で修飾する工程を行わずに、それ以外は実験例4と同様の方法により、燃料電池を製造した。
【0083】
6−3.白金ルテニウム合金粒径の測定
カーボン担体AからIに担持されたPtRu合金の粒径を測定した。その結果を図7に示す。なお、PtRu合金の粒径は、粉末X線回折装置を使用して、シェラーの式に基づき算出した。図7によると、比表面積が大きくなるほど、PtRu合金粒径が小さくなっていることが分かる。これは、比表面積が大きくなるほど、PtRu合金が高度に分散していることを示している。
【0084】
6−4.電流密度の測定
実験例4及び5で得られた燃料電池について、そのアノード側にメタノール水溶液を、カソード側に空気を供給して、直接メタノール燃料電池として発電試験を行った。その結果を図8に示す。なお、図8は、カーボン担体の比表面積と、オーム抵抗を補正した電池電圧が500mVになるときの電流密度との関係を示す。
【0085】
6−5.実験例4と5の比較
図8において、符号65は、実験例4についてのデータを示し、符号67は、実験例5についてのデータを示す。図8によると、比表面積が900m2/gを超えた辺りから、カーボン担体がプロトン解離性官能基を有する場合(実験例4)の方が、有しない場合(実験例5)よりも、電流密度が高くなっていることが分かる。また、比表面積が2170m2/gの場合でも、実験例4の方が、実験例5よりも、電流密度が高くなっていることが分かる。従って、カーボン担体の表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつカーボン担体の比表面積が900〜2170m2/gであるときに、高い電流密度が得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、それに担持された触媒金属とを備え、前記担体は、その表面がプロトン解離性官能基で修飾され、かつBET法による比表面積が900〜2170m2/gである燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
(1)BET法による比表面積が900〜2170m2/gである担体上に触媒金属を担持し、(2)前記担体の表面をプロトン解離性官能基で修飾する工程により得られる燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記担体は、カーボンからなり、その[002]面の平均格子面間隔が0.35〜0.388nmである請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記触媒金属は、白金又は白金合金からなる請求項1〜3の何れか1つに記載の触媒。
【請求項5】
前記触媒金属は、前記担体上に担持量が5〜70重量%となるように担持されている請求項1〜4の何れか1つに記載の触媒。
【請求項6】
前記プロトン解離性官能基は、カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜5の何れか1つに記載の触媒。
【請求項7】
電解質層と、電解質層を挟む一対の電極とを備え、前記電極の少なくとも一方が、請求項1〜6の何れか1つに記載の触媒を備える燃料電池。
【請求項8】
前記触媒は、イオン交換樹脂と混合されている請求項7に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/083818
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510422(P2006−510422)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002810
【国際出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】