説明

燃料電池用高圧タンク

【課題】タンクの強度、損傷状態を正確に判断することができるようにする。
【解決手段】燃料電池用高圧タンク1であって、タンク両端に設置した電極5,6とタンク構造体の静電容量分のインピーダンス検出手段7と、インピーダンス情報をもとにタンク1の強度、損傷状態を判断する監視手段8と、を備える。この燃料電池用高圧タンク1によれば、CFRP(炭素繊維)3間の距離が大きくなることによる静電容量分のインピーダンス増大を検出することで、タンク構造内の界面剥離やクラックなどの空乏の増加を検知し、監視制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用高圧タンクに関する。さらに詳述すると、本発明は、CFRPを用いた高圧タンクにおいて、構造内の界面剥離やクラックの増大を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線などの導電繊維をタンク構造内に埋め込むことによって、タンクの損傷時に導電繊維の切断を検出するようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4232210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タンクが損傷していなくても、タンク構造内に発生する多数の微細歪みによって、導電繊維が切断することがある。
【0005】
本発明は、タンクの強度、損傷状態を正確に判断することができる燃料電池用高圧タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく、本発明は、燃料電池用高圧タンクであって、タンク両端に設置した電極とタンク構造体の静電容量分のインピーダンス検出手段と、インピーダンス情報をもとにタンクの強度、損傷状態を判断する監視手段と、を備える。
【0007】
タンク構造が炭素繊維と樹脂材料で構成されている場合、界面剥離やクラックが発生すると、炭素繊維間の距離が大きくなって静電容量分のインピーダンス Zc=1/(2πfC) が増大する。本発明では、静電容量分のインピーダンス増大を検知して、タンクの強度・損傷状態を把握する。例えば、本発明では、炭素繊維間の距離が大きくなることによる静電容量分のインピーダンス増大を検出することで、タンク構造内の界面剥離やクラックなどの空乏の増加を検知し、監視制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タンクの強度、損傷状態を正確に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る燃料電池用高圧タンク等の構成例を、タンクの縦断面図とブロック図とを組み合わせて示した図である。
【図2】タンクにおける静電容量と空乏発生層の数との関係の一例を示すグラフである。
【図3】(A)は正常(初期状態)のタンク、(B)は空乏が1層発生したタンクについての、当該タンクの静電容量の等価回路を数式と併せて示す図である。
【図4】積層界面で空乏が発生したタンクを参考として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0011】
燃料電池用高圧タンク(以下、水素タンクともいう)1は、プラスチックまたは金属製のライナ2と、炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックCFRP3の構造体を有し、少なくとも1つの開口部となる口金4を有する圧力容器である(図1参照)。CFRP3は、プリプレグと呼ばれるリボン状の材料を、ライナ2に積層して巻き付けて形成されている。CFRP3の構造体に許容値以上の応力がかかると、図4のように積層界面で空乏9が発生することがある。空乏が多くなるとタンク全体の強度が低下して破壊に至ることがある。
【0012】
CFRPの長手方向の両端は、タンクの両端にある。タンク両端に電極板5,6を接触して交流電圧を印加すると、CFRP3の構造体における静電容量分のインピーダンスZcを計測できる。静電容量分のインピーダンスZcと静電容量C、計測時の周波数fの関係は下式1のようになる。
[式1]
Zc=1/(2πfC)
【0013】
静電容量分のインピーダンス検出手段7は、上記式1からタンクの静電容量Cを算出し、インピーダンス監視手段8に送出する。インピーダンス監視手段8は、図2のように静電容量Cが所定のしきい値以下に達したとき、燃料電池の発電量抑制や警告表示などの制御を行う。初期の静電容量Csに対して、しきい値の静電容量Cthは、Cth=0.8・Cs程度が望ましいことが実験的に分かっている。
【0014】
図3にタンクの静電容量の等価回路を示す。図3(A)は正常なタンク、図3(B)は空乏が1層発生したタンクである。正常なタンクは、CFRP3のプリプレグの積層はn層あり、CFRP3の プリプレグ同士の界面を埋める樹脂が静電容量C1〜Cnを持つ。静電容量の両極は導電性の炭素繊維が受け持っている。樹脂の誘電率は4Eo 程度であり、界面の高さは10μm程度であるので、C1=4EoS/(10×10-6)=40×104EoSとなる。ここでSは静電容量の面積であり、タンク表面積とほぼ同じとなる。また、静電容量C1〜Cnは並列接続となっているので、タンク全体の静電容量C=C1+C2+C3+・・・+Cnとなる。空乏が1層発生したタンクは、空気の誘電率1Eoに低下し、界面の高さは100μmまで大きくなるため、1層の静電容量はC1'=1EoS/(100×10-6)=1×104EoS、すなわち40分の1に低下する。
【0015】
CFRP3のプリプレグの積層数が50層の場合は、正常なタンクの静電容量C=50×C1=2000×104EoS/、空乏が1層発生したタンクの静電容量C'=(50-1)×C1+C1'=(1960+1)×104 EoS となる。すなわち、空乏1層で静電容量は2%低下することになる。
【0016】
本実施形態の水素タンク(燃料電池用高圧タンク)1では、CFRP3間の距離が大きくなることによる静電容量分のインピーダンス増大をインピーダンス検出手段7によって検出することができる。これにより、タンク構造内の界面剥離やクラックなどの空乏の増加を検知し、監視制御を行うことが可能である。
【0017】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、CFRPを用いた燃料電池用高圧タンクの強度・損傷状態の監視に適用して好適である。
【符号の説明】
【0019】
1…水素タンク(燃料電池用高圧タンク)、2…ライナ、3…CFRP、4…口金、5…電極板、6…電極板、7…静電容量分のインピーダンス検出手段、8…インピーダンス監視手段(監視手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用高圧タンクであって、
タンク両端に設置した電極とタンク構造体の静電容量分のインピーダンス検出手段と、
インピーダンス情報をもとにタンクの強度、損傷状態を判断する監視手段と、
を備える、燃料電池用高圧タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82869(P2012−82869A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227818(P2010−227818)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】