説明

燃料電池装置

【課題】マニホールドからセルへ流動する反応ガスの流量及び圧力、方向を調整することによりセル内部の膜の乾湿状態を良好に保ち、発電効率を向上させることができる燃料電池の提供。
【解決手段】燃料ガスと酸化剤ガスを供給して発電を行う燃料電池装置1において、螺旋状のスリット部を有するガス分配部材11をマニホールド内に配設し、ガス分配部材をモータ37及び回転部材38により、回転駆動させることによりガス分配部材内からマニホールドを経由してセル内へ連続的に反応ガスを流動する。ガス分配部材はスリット部の幅及び螺旋ピッチを調整することにより、ガス流量及び圧力、方向を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応ガスの供給を受けて発電する単セルを複数積層した燃料電池スタックを備える燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の一方の面にアノード極を、他方の面にカソード極を配してなる膜‐電極接合体を有し、この膜‐電極接合体をガス流路層とセパレータで挟持した単セルを複数積層して燃料電池スタックを形成する。アノード極では、水素を含有する燃料ガスが供給され、下式(1)に示す電気化学反応により燃料ガスからプロトンを生成する。生成されたプロトンは電解質膜を通ってカソード極へ移動する。他方のカソード極では、酸素を含有する酸化剤ガスが供給され、アノード極から移動してきたプロトンと反応して下式(2)に示す電気化学反応により水を生成する。これら一対の電極構造体の電解質膜側の表面で生じる電気化学反応を利用して電極から電気エネルギを取り出す。
アノード反応:H → 2H + 2e …(1)
カソード反応:2H + 2e +(1/2)O → HO …(2)
【0003】
燃料ガス及び酸化剤ガス(以下まとめて反応ガスと称す)は、燃料電池スタックの積層方向に貫通するマニホールドを通って各々の燃料電池セルに供給されるため、マニホールドから各々の燃料電池セルへ供給される反応ガスの流量及び圧力を調整する必要がある。特許文献1には、マニホールド内にスリットを備えたガス分配板を形成しガス分配板を摺動させることにより、マニホールドと各セルとを接続するガス導入口の開閉を行い、反応ガスの流量と圧力を調整する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−312168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術ではガス分配板は往復運動によってマニホールド内を摺動するため、ガス分配板が折り返す際にガス分配板の摺動速度が低下する。ガス分配板の摺動速度が低下した場合、スリット部と各セルのガス導入口が対向する領域では反応ガスの供給量が増加するが、スリット部とガス導入口が対向しない領域では反応ガスの供給量が減少する。即ち、ガス分配板がスライドする時点と折り返す時点とでガス分配板から各セルに供給される反応ガス量が変化するため、反応ガスの供給量の周期を一定に保つことが出来ない。マニホールドから各セルに供給される反応ガス量の周期に偏りが生じるために、特定のセルにおいて反応ガスの供給が途切れる若しくは過剰量の反応ガスが供給される虞がある。
【0006】
また、燃料電池セル内を流動する反応ガスの量は、燃料電池スタック内における各セルの場所や熱伝導性により反応ガスの供給に偏りが生じる場合がある。即ち、ガス流動量の多いセルに優先的に反応ガスが流入し、ガス流動量の少ないセルでは生成水が滞留しやすいにもかかわらず、十分な量の反応ガスを供給することが出来ず、生成水が滞留するおそれがある。また反対に、反応ガスが流動しやすいセルでは過剰量の反応ガスが供給されることにより電解質膜が乾燥して水素透過性が低下し、これにより発電性能の低下を引き起こすおそれもある。
【0007】
従って、本発明は、反応ガスの供給量の周期を一定に保つと共に、各セルの反応ガスの流動状態に応じて反応ガスを供給することにより発電効率を高めた燃料電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
燃料ガスと酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより発電を行う燃料電池セルと、燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックと、燃料電池スタックの積層方向に貫通し、燃料ガス及び酸化剤ガスを前記燃料電池セルに供給するマニホールドと、マニホールド内に設けられ、燃料電池セルに供給する燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量を制御するガス分配手段と、ガス分配手段を駆動する駆動装置とを備えた燃料電池において、ガス分配手段は螺旋状のスリットを備えた円筒からなり、円筒の軸方向と燃料電池セルの積層方向とが平行になるよう配置され、駆動装置はガス分配部材の円筒軸方向を中心として回転駆動することを特徴とする。
【0009】
上記構成の燃料電池装置によれば、螺旋状のスリットを備えた円筒形状のガス分配手段を回転させることによりガス分配手段の駆動速度を一定に保つことが出来るため、スリットから各セルへ流動する反応ガスの供給量の周期を一定に保つことができる。これにより、ガス分配手段の駆動速度に起因して生じるガス供給の過不足を解消することが出来る。また、上記構成によれば、円筒形状のガス分配手段をマニホールド内に配置できるため、部品搭載スペースが軽減する。従来技術のような往復運動ではマニホールド外に摺動部材が突出するため、マニホールド外にも摺動部材が移動するスペースが必要であるが、本発明の構成であればマニホールド外にスペースを必要とせず、燃料電池の小型化が可能である。
【0010】
上記構成の燃料電池において、燃料電池スタックの積層方向に貫通し、燃料ガス及び酸化剤ガスを前記燃料電池セルから排出する排出マニホールドを備え、ガス分配手段は前記供給マニホールドと前記排出マニホールドの両方に配置されることが好ましい。
【0011】
上記構成の燃料電池によれば、燃料電池セルのガス導入口及びガス導出口の双方においてガス流量及びガス圧力の調整が可能である。供給マニホールドと排出マニホールドにそれぞれは位置されたガス分配手段の駆動タイミングを制御することによって、より効率的に燃料電池セル内を流動する反応ガスの流量及び圧力を調整することが可能である。
【0012】
さらに、各セルにおける反応ガスの流動性に応じて反応ガスを供給するために、上記構成の燃料電池装置においては、ガス分配手段を複数の領域に分け、スリットの幅及び螺旋ピッチを領域毎に変化させることが好ましい。これにより、スリット幅が広くピッチが小さい領域ではガス供給量を増加させ、スリット幅が狭くピッチが大きい領域ではガス供給量を低下させることが出来る。螺旋状のスリットの幅とピッチを変化させることによって、各々のセルにおいてガス流量、圧力に脈動を加えることが出来て、これによりセル内に滞留する生成水を効果的に排出することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マニホールドから各セルに供給される反応ガスの供給量の周期を一定に保つとともに、各セルにおける反応ガスの供給量及び圧力を調整することによって発電性能を向上させることが可能な燃料電池装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池スタックを示すである。
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池セルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における燃料電池スタックとガス分配部材の構成を示す図である。
【図4】図1におけるA−A‘断面図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるガス分配部材を示す図である。
【図6】マニホールド内に円筒形状の別部材、ガス分配部材を配する様子を示す図である。
【図7】第2実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図1から図5に基づいて説明する。図1に示すように、燃料電池スタック1は、燃料電池セル2(以下、セル2と称す)を基本単位として複数積層することでスタックを形成する。積層されたセル2は、電気的に直列に接続されている。各セル2による発電で得られた電力が、積層されたセル2の両端部に設けられた集電板30に集電され、電気負荷や2次電池等の電力機器に供給される。なお、本実施形態では、セル2を複数積層したスタック構造としているが、セル1個を備えるものとしてもよい。
【0016】
図2に示すように、セル2は、膜電極拡散層接合体(MEGA:Memnrane‐Electrode‐Gas Diffusion Layer(GDL)Assembly)3、アノード側セパレータ5、カソード側セパレータ6から構成される。膜電極拡散層接合体3は、電解質膜と電解質膜の両端に配置される触媒層と、触媒層の両端さらに配置される拡散層とが接合して一体化される。電解質膜はプロトン伝導性を有するイオン交換膜から成り、例えばフッ素系樹脂が用いられる。触媒層は白金等の金属を担持させたカーボン粒子からなり、拡散層はカーボンクロスなどの炭素繊維から構成される。
【0017】
アノード側セパレータ5、カソード側セパレータ6は中央部分に流路13を備え、外周端部には燃料ガス供給マニホールド8、酸化剤ガス供給マニホールド7、冷却水供給マニホールド15、を備える。また、外周端部において、流路13を挟んでこれらの供給マニホールドと対向する位置に、酸化剤ガス排出マニホールド10、燃料ガス排出マニホールド9、冷却水排出マニホールド12を備える。これらの供給・排出マニホールドは、セル2の積層方向に貫通するようにして設けられており、セル2が複数積層されて燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水の流路が各々形成される。
【0018】
燃料ガス供給マニホールド8、燃料ガス排出マニホールド9、酸化剤ガス供給マニホールド7、酸化剤ガス排出マニホールド10のそれぞれは、内部にガス分配部材11を備える。図3(a)に燃料電池スタック1とガス分配部材11とを示し、図3(b)にはガス分配部材11が燃料電池スタック1の各マニホールド内に配置された構成を示す。ガス分配部材11はモータ37及びピニオンギアなどの回転部材38により回転駆動される。図3(c)は駆動形態の変形例を示し、モータ37をガス分配部材11に隣接して配置できない場合など、回転方向を変化させてガス分配部材11までモーター37の動力を伝達することも可能である。なお、複数のガス分配部材11を回転部材38により連結し、一つのモーター37から動力を得ること、また作動歯車を用いることにより両者の回転方向、回転数を変化させることも可能である。図3(a)においては燃料ガス供給マニホールド8と酸化剤ガス排出マニホールド10に配置されるガス分配部材11を共通のモーター37で駆動している。同様に燃料ガス排出マニホールド9及び酸化剤ガス供給マニホールド7に配置されるガス分配部材11も共通のモーター37で駆動している。
【0019】
図4に、図1におけるA−A’断面図を示す。図4中央の波線を境に右側の図は燃料電池スタック1のマニホールドにガス分配部材11が配置された図を示し、左側の図は右側の図からガス分配部材11を取り除いた図を示す。セル2を複数積層して燃料電池1を形成し、各セル2を貫通して燃料ガス供給マニホールド8および酸化剤ガス排出マニホールド10が形成される。
【0020】
燃料ガス供給マニホールド8と各セル2との間には双方を連通するガス導入口16が形成されており、燃料ガス供給マニホールド8内を流動する燃料ガスは、このガス導入口16から各セルへ供給される。また、燃料ガス供給マニホールド8内は円筒形状のガス分配部材11が配される。ガス分配部材11は螺旋形状のスリット部25を備えており、ガス分配手段11内部を流動する燃料ガスがこの螺旋状のスリット部25を通って燃料ガス供給マニホールド8内へ供給される。
【0021】
図4においては図示省略するが、燃料ガス排出マニホールド9内にも螺旋状のスリット部25を備えた円筒形状のガス分配部材11が配され、また燃料ガス排出マニホールド9と各セル2との間には双方を連通するガス導出口17が形成される。各セル2内を流動した燃料ガスは、ガス導出口17を通過して燃料ガス排出マニホールド9へ流出し、スリット部25及びガス分配部材11内を流動して燃料電池スタック1の外部へ排出される。
【0022】
同様に図4においては図示省略するが、酸化剤ガス供給マニホールド7内にもガス分配部材11が配され、酸化剤ガス供給マニホールド7と各セル2との間にもガス導入口が形成される。ガス分配手段11内部を流動する酸化剤ガスはこの螺旋状のスリット部25を通って酸化剤ガス供給マニホールド7内へ供給され、さらにガス導入口16を流動して各セル2へ供給される。
【0023】
酸化剤ガス排出マニホールド10内にも螺旋状のスリット部25を備えた円筒形状のガス分配部材11が配され、また酸化剤ガス排出マニホールド10と各セル2との間には双方を連通するガス導出口17が形成される。各セル2内を流動した酸化剤ガスは、ガス導出口17を通過して酸化剤ガス排出マニホールド10へ流出し、ガス分配部材11を通って燃料電池スタック1の外部へ排出される。
【0024】
図5(a)にガス分配部材11を示し、図5(b)に燃料ガス供給マニホールド8を示す。図5(c)は燃料ガス供給マニホールド8内にガス分配部材11が配置された図を示す。図5(a)に示すように、ガス分配部材11は円筒形状からなり、螺旋状のスリット25を備える。外部から供給されたガスはガス分配部材11内部へ供給され(矢印33)、スリット25を通過してガス供給マニホールド8内部へ流出する(矢印18)。白抜き矢印にて示すように、ガス分配部材11は円筒軸方向を中心に円周方向に回転し、それに伴い螺旋状のスリット25も回転しながら反応ガスを供給する。図5(b)に示すように、ガス分配部材11から燃料ガスマニホールド8へ流出した反応ガスは燃料ガス供給マニホールド8と各セル2とを連通するガス導入口16を通って、燃料ガス供給マニホールド8からセル2内部へ、燃料ガスが供給される(矢印20)。
【0025】
図5(d)は図5(c)におけるB−B‘断面図であり、ガス分配部材11から各セル2へ反応ガスが流動する様子を示す。矢印19、21、22は、それぞれα、β、γにおけるガス流動の様子を示す。αはガス分配部材11のスリット部25とガス導入口16以外の領域が重なる点であり、燃料ガスはガス分配部材11内部からスリット部25を通過して燃料ガス供給マニホールド内8に流出される(矢印19)。流出された燃料ガスは燃料ガス供給マニホールド内8へ拡散する。βは、ガス分配部材11のスリット部25以外の領域と、各セルにおけるガス導入口16が重なる点である。βでは燃料ガスマニホールド内8を流動する燃料ガスがガス導入口16を通ってセル2内部へ流入する(矢印21)。γはガス分配部材11のスリット部25と、各セルにおけるガス導入口16が重なる領域であり、ガス分配部材11内部の燃料ガスが直接ガス導入口16を通ってセル2内部へ供給される(矢印22)。従って、γではβに比べて多量の反応ガスを勢い良くセル2内に供給できる。
【0026】
尚、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給側と排出側とでガス分配部材11の開閉挙動を変化させることが好ましい。例えば、供給側のガス分配部材を11aとし、排出側のガス分配部材を11bとすると、供給側のガス分配部材11aより排出側のガス分配部材11bを先に駆動させることが好ましい。ガス導出口17から排出されるガス流量を絞った後にガス導入口16から流入するガス流量を絞ることによりセル2内部のガス圧力を上昇させることが出来る。その後、供給側のガス流量は絞った状態で排出側のガス圧力を開放することにより、セル2内部の反応ガスを勢いよく排出することが出来る。この様にガス流量、ガス圧力の変動を加えることによって、反応ガスの排出と同時にセル2内部に滞留する生成水を除去することが出来、より効率的に燃料電池の出力を向上させることが可能である。尚、本発明の実施の形態においては、燃料ガス供給マニホールド8と酸化剤ガス排出マニホールド10、及び燃料ガス排出マニホールド9と酸化剤ガス供給マニホールド7を隣接させて配置した構成を示したが、これらマニホールドの配置は本形態に限られるものではなく、燃料電池スタック1の内部のガス流動方向、経路によって適宜選択可能である。
【0027】
本発明の実施の形態においては、燃料ガス及び酸化剤ガスの流量調整を目的としてガス分配部材11を配する構成を示し、冷却水の流量調整については特に言及していないが、ガス分配部材11と同様の構成を用いれば冷却水供給マニホールド15及び冷却水排出マニホールド12においても冷却水の流量調整手段として適用することが可能である。この場合、燃料ガス及び酸化剤ガス、冷却水の三流体を連携させてより効率的に流量調整、膜湿潤状態を制御することも可能である。
【0028】
更に、本発明の実施の形態においては、燃料ガス供給マニホールド8、燃料ガス排出マニホールド9、酸化剤ガス供給マニホールド7、酸化剤ガス排出マニホールド10の内部にガス分配部材11を直接挿入しているが、図6に示すように、円筒形状の別部材からなり、開口部を備える筒材18でガス分配部材11を覆い、各マニホールド内に配することも可能である。筒材18はマニホールドのガス導入口16及びガス導出口17に対応する部位に開口部19を備える。図6(a)は筒材18内にガス分配部材11を配する様を、図6(b)は筒材18で覆ったガス分配部材11を酸化剤ガス供給マニホールド7及び酸化剤ガス排出マニホールド10の内部に配する様子を示す。上記構成とすることでマニホールド内部の凹凸状態によって生じるガス流量や流動方向の偏りを抑制できるため、ガス分配部材11から各セル2へ供給するガス量の調整を容易に行うことが出来る。これにより、どのような形状のマニホールドにも対応出来、また燃料電池の組立後でも本発明のガス分配部材11を配設出来る。
【0029】
以上、本実施の形態による燃料電池装置によれば、螺旋状にスリットを設けたガス分配部材を回転駆動させることにより、ガス分配部材を円滑に駆動することが出来る。これによりガス分配部材のスリット部から燃料電池セル、スタックへの反応ガスの供給量の周期を一定に保つことが可能である。また、螺旋状のスリット部が回転することによって、ガス分配手段から直接各セルへ勢い良く流入する流路と、ガス分配手段からマニホールド内へ一端流出した後に各セルへ流入する流路と、二種類のガス流動経路を形成することが出来、ガス流量の調整も可能となる。さらに、ガス分配部材はマニホールド内に配置可能であるため、新たな配置スペースを必要とせず、燃料電池の小型化が可能である。
【0030】
次に、第二実施形態について図7に基づいて説明する。第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0031】
ガス分配部材11おいて、スリット部25の幅及び螺旋ピッチを円筒軸方向に異なる幅及びピッチに形成する。スリットがガス分配部材11を軸方向に三つの領域に分け、円筒入口40に近い領域I、中間領域II、円筒入口40から遠い領域IIIとし、それぞれの領域におけるスリット幅を領域Iのスリット幅(L1)<領域IIIのスリット幅(L3)<領域IIのスリット幅(L2)とする。円筒入口40に近い領域Iではガス分配部材11内部を多量の反応ガスが流動するためスリット幅L1を小さく形成することで各セルへ流入する反応ガス量を低下させる。中間領域IIでは領域Iに比してガス分配部材11内部を流動する反応ガス量が減少するため、領域Iよりもスリット幅L2を広げることで各セルへ流入する反応ガス量を増加させる。さらに、円筒入口40から遠い領域では、ガス分配部材11内部を流動する反応ガス量は減少するものの端部に滞留したガスが各セルへ供給されるため、領域Iのスリット幅L1より大きく且つ領域IIのスリット幅L2より小さくすることで、領域Iより多量且つ領域IIより少量のガスを各セルへ供給する。
【0032】
また、スリット部25の螺旋ピッチを、領域Iの螺旋ピッチ>領域IIIの螺旋ピッチ>領域IIの螺旋ピッチとする。スリット部25の螺旋ピッチとは、スリット部25が円筒周方向に一周する際に必要とする軸方向の幅を示し、円筒軸方向とスリット部25との成す角度(以下スリット角度と称す)と相関関係を持つ。即ち、螺旋ピッチが増加すればスリット角度は減少し、螺旋ピッチが減少すればスリット角度は増加する。そのため、螺旋ピッチを領域I>領域III>領域IIとすることは換言すれば、螺旋軸方向を基準とした場合のスリット部25の角度が領域Iのスリット角度(θ1)<領域IIIのスリット角度(θ2)<領域IIのスリット角度(θ3)とすることを意味する。多量の反応ガスが流動する領域Iにおいてはスリット部25の螺旋ピッチを大きくすることで、スリット部25とガス導入口16とが重なる面積を低下させる。また流動反応ガス量が少ない領域IIでは領域Iに比してスリット部25の螺旋ピッチを小さくすることでスリット部25とガス導入口16とが重なる面積を増加させ、多量の反応ガスを供給可能とする。領域IIIにおいては、領域Iの螺旋ピッチより小さく、且つ領域IIの螺旋ピッチより大きくすることで、領域Iより多量且つ領域IIより少量の反応ガスを各セルへ供給する。
【0033】
本実施の形態では、ガス分配部材11を三つの領域に分け、各々の領域と対抗するセル2内部のガス流動状態が、円筒入口40に近い領域I>円筒入口40から遠い領域III>中間領域II各領域であると仮定した上で、スリット部25の幅をL1<L3<L2としているが、スリット部25の幅及び螺旋ピッチは各セル2におけるガス流動状態に基づいて形成されればよく本構成に限られるものではない。
【0034】
反応ガスの流動状態を求める手法としては、例えば、ガス分配部材11を配置しない状態で燃料電池スタック1の各セルにおける抵抗値、及び電圧値を予め測定しておき、抵抗値と電圧値の変動量に基づいてセルの乾湿状態を求めることが出来る。この事前の測定において、乾燥状態のセルは比較的生成水が滞留しにくく、反応ガスが流動しやすいセルであると判断でき、反対に湿潤状態のセルは生成水が滞留しやすく、ガス流量が不足、反応ガスが流動しにくいセルであることが判断できる。この様に各セルのガス流動状態を求め、乾燥状態のセルと対向するスリットではスリット幅を狭く形成し、湿潤状態のセルと対向するスリットではスリット幅を広く設定することが可能である。また、セル毎の乾湿状態だけでなく、各セル内において面内方向での乾湿状態からセル面内でのガス流動状態を求めることで、より詳細にスリット幅を規定することも可能である。ガスの流動状態、セルの乾湿状態を求める手法は、その他にも各セルの温度値を測定して発熱量を求め、発熱量からセルの乾湿状態を検知して反応ガスの流動状態を求める方法など様々あるが、いずれの手法を用いて反応ガスの流動状態を求めてもよい。
【0035】
以上、本実施の形態による燃料電池装置によれば、ガス分配部材11においてスリット部25の幅及び螺旋ピッチを異ならせることにより、各々のセルに供給される反応ガスの流動量及び流動方向を調整することが可能である。さらに、各々のセルにおけるガス流動状態、乾湿状態を加味してスリット部25の幅及び螺旋ピッチを調整することにより、供給されるガス流量及びガス圧力、ガス流動方向を効率的に変化させて燃料スタックの発電効率を向上させることが可能である。また、各々のセルに適量の反応ガスを供給することが出来るため過剰量の反応ガスを供給する必要がなく、燃料電池全体として反応ガス量を低減することが出来るため、これによりコンプレッサや燃料タンク等の補機の小型化も可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 燃料電池スタック、2 燃料電池セル、3 膜電極接合体、5 アノード側セパレータ、6 カソード側セパレータ、7 酸化剤ガス供給マニホールド、8 燃料ガス供給マニホールド、9 燃料ガス排出マニホールド、10 酸化剤ガス排出マニホールド、11 ガス分配部材、12 冷却水排出マニホールド、 13 流路、15 冷却水供給マニホールド、16 ガス導入口、17 ガス導出口、18筒材、19 開口部、25 スリット部、37 モーター、 38 回転部材、40 円筒入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより発電を行う燃料電池セルと、
前記燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの積層方向に貫通し、前記燃料ガス及び酸化剤ガスを前記燃料電池セルに供給する供給マニホールドと、
前記供給マニホールド内に設けられ、燃料電池セルに供給する燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量を制御するガス分配手段と、
前記ガス分配手段を駆動する駆動装置とを備えた燃料電池において、
前記ガス分配手段は螺旋状のスリットを備えた円筒からなり、前記円筒の軸方向と燃料電池セルの積層方向とが平行になるよう配置され、
前記駆動装置は前記ガス分配部材の円筒軸方向を中心として回転駆動することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記燃料電池スタックの積層方向に貫通し、前記燃料ガス及び酸化剤ガスを前記燃料電池セルから排出する排出マニホールドを備え、
ガス分配手段は前記供給マニホールドと前記排出マニホールドの両方に配置されることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1若しくは請求項2に記載の燃料電池において、
前記スリットの幅は、
各々のスリットと対向する燃料電池セルのガス流動量に基づいて、
形成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池において、
前記スリットの螺旋ピッチは、
各々のスリットと対向する燃料電池セルのガス流動量に基づいて、
形成されることを特徴とする燃料電池。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−4287(P2013−4287A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133721(P2011−133721)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】