説明

燃料電池

【課題】アノード触媒層やカソード触媒層におけるプロトン伝導性を高めることによって、液体燃料を用いた燃料電池の電池出力の向上を図る。
【解決手段】燃料電池は、触媒層4とガス拡散層5とを有する燃料極6と、触媒層7とガス拡散層8とを有する空気極9と、燃料極6と空気極9とに挟持された電解質膜10とを備える膜電極接合体11と、液体燃料を収容する燃料収容部から燃料極6に燃料を供給する燃料供給機構3とを具備する。燃料極6と空気極9の少なくとも一方は、電解質膜10側に配置された第1の触媒層4A(7A)と、ガス拡散層5(8)側に配置された第2の触媒層4B(7B)とを有する。第2の触媒層4B(7B)は第1の触媒層4A(7A)よりアイオノマーを多く含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンや携帯電話等の携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、携帯用電子機器の電源や充電器に燃料電池を用いることが試みられている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源や充電器として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料としてのメタノール(メタノール水溶液や純メタノール等)の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源や充電器として有望視されている。DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式(特許文献1参照)が知られている。
【0004】
DMFCは燃料極、電解質膜および空気極を有する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を起電部として備えている。燃料極(アノード)や空気極(カソード)は、貴金属触媒やバインダを含む触媒層とガス拡散層とを積層した二層構造を有している。バインダとしてはプロトン伝導性を有するアイオノマー等が用いられる。このようなMEAを備えるDMFCの電池出力を向上させるためには、アノード触媒層における触媒反応(メタノールの改質反応/プロトンと電子の生成反応)やカソード触媒層における触媒反応(水の生成反応)の反応性を高める必要がある。
【0005】
さらに、DMFCの電池出力にはアノードで生成されたプロトンのカソードへの伝導性が影響することから、電解質膜のプロトン伝導性のみならず、アノード触媒層やカソード触媒層のプロトン伝導性を高めることが重要となる。しかしながら、従来のDMFC等の液体燃料を用いた燃料電池においては、触媒種や触媒量等に基づいて触媒反応の向上を図ることが行われているものの、アノード触媒層やカソード触媒層におけるプロトン伝導性については十分に考慮されておらず、これが電池出力の低下要因となっている。
【0006】
例えば、特許文献2にはカソード触媒層を二層構造とし、電解質膜側の触媒層に含まれる触媒粒子の平均粒径をガス拡散層側の触媒層に含まれる触媒粒子の平均粒径より大きくした燃料電池用MEAが記載されている。ここでは触媒粒子の平均粒径が異なる二層構造のカソード触媒層を用いて、触媒粒子の溶解・溶出を抑制することによって、燃料電池の長寿命化を図っている。特許文献2に記載された二層構造のカソード触媒層は、電池出力やその維持性(寿命)に対して効果を示したとしても、アノード触媒層やカソード触媒層におけるプロトン伝導性については考慮されておらず、またそのような効果は期待できない。なお、特許文献2には燃料として水素を用いた燃料電池しか開示されていない。
【特許文献1】国際公開第2005/112172号パンフレット
【特許文献2】特開2006−079917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、メタノール燃料等の液体燃料を用いた燃料電池において、アノード触媒層やカソード触媒層におけるプロトン伝導性を高めることによって、電池出力の向上を図った燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に係る燃料電池は、触媒およびアイオノマーを含む触媒層とガス拡散層とを有する燃料極と、触媒およびアイオノマーを含む触媒層とガス拡散層とを有する空気極と、前記燃料極の触媒層と前記空気極の触媒層と接するように、前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜とを備える膜電極接合体と、液体燃料を収容する燃料収容部を有し、前記燃料収容部から前記燃料極に燃料を供給する燃料供給機構とを具備する燃料電池において、前記燃料極と前記空気極の少なくとも一方は、前記電解質膜側に配置された第1の触媒層と、前記ガス拡散層側に配置された第2の触媒層とを有し、前記第2の触媒層は前記第1の触媒層より前記アイオノマーを多く含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様に係る燃料電池は、燃料極と空気極の少なくとも一方の触媒層のアイオノマー量に勾配をつけることによって、触媒層のプロトン伝導性を高めている。これによって、燃料電池の電池出力の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態による燃料電池の構成を示す断面図である。図1に示す燃料電池(液体燃料を用いた燃料電池)1は、膜電極接合体(MEA)を備える起電部2と、起電部2に燃料を供給する燃料供給機構3とから主として構成されている。
【0011】
起電部2は、アノード触媒層4とアノードガス拡散層5とを有するアノード(燃料極)6と、カソード触媒層7とカソードガス拡散層8とを有するカソード(空気極/酸化剤極)9と、アノード触媒層4とカソード触媒層7とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜10とから構成される膜電極接合体(MEA)11を備えている。
【0012】
アノード触媒層4やカソード触媒層7に含有される触媒としては、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層4にはメタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有し、かつメタノールから水素を引き抜く脱水素反応を生じさせやすいPt−RuやPt−Mo等のPt合金を用いることが好ましい。カソード触媒層7にはPt、Pt−Ni等のPt合金、Pd、Pd−Pt等のPd合金を用いることが好ましい。ただし、触媒はこれらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。触媒は炭素材料等の導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0013】
アノード触媒層4およびカソード触媒層7には、プロトン伝導性を有するアイオノマーが含有されている。アイオノマーとしては、スルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではなく、プロトン伝導性を有する高分子化合物、すなわち疎水性の主鎖(フッ素系や炭化水素系等)にスルホン酸基のようなプロトン伝導性に寄与する親水性のイオン基を導入した高分子化合物を用いることができる。
【0014】
アノード触媒層4は図2に示すように、電解質膜10側に配置された第1の触媒層4Aとアノードガス拡散層5側に配置された第2の触媒層4Bとを有している。アノード(燃料極)6を構成する第2の触媒層4Bは第1の触媒層4Aよりアイオノマー量(質量比)が多く設定されている。カソード触媒層7も同様に、電解質膜10側に配置された第1の触媒層7Aとカソードガス拡散層8側に配置された第2の触媒層7Bとを有している。カソード(空気極)9を構成する第2の触媒層7Bも第1の触媒層7Aよりアイオノマー量を多く設定することが好ましいが、必ずしもこの限りではない。二層構造を有するアノード触媒層4およびカソード触媒層7の具体的な構成については後に詳述する。
【0015】
アノード触媒層4に積層されるアノードガス拡散層5は、アノード触媒層4に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層4の集電機能を有するものである。カソード触媒層7に積層されるカソードガス拡散層8は、カソード触媒層7に酸化剤(空気)を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層7の集電機能を有するものである。アノードガス拡散層5やカソードガス拡散層8は、例えばカーボンペーパーやカーボンクロスのような導電性を有する多孔質基材で構成されている。
【0016】
電解質膜10はプロトン伝導性材料で構成されている。電解質膜10を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜10はこれらに限られるものではない。
【0017】
上記したような構成を有するMEA11をアノード集電体12とカソード集電体13とで挟み込むことによって、起電部2が構成されている。アノードガス拡散層5はアノード集電体12と積層され、カソードガス拡散層8はカソード集電体13と積層されている。集電体12、13としては、例えばAuのような導電性金属材料からなるメッシュや多孔質膜等が用いられる。集電体12、13は燃料や酸化剤(空気)等を流通させる貫通孔を有している。起電部2はOリング等のシール部材14でシールされており、これによりMEA11からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。
【0018】
起電部2は燃料拡散室15を形成する容器16上に配置されている。容器16は上部が開口された箱状の形状を有している。このような容器16の開口部側にMEA11のアノード6が位置するように起電部2が配置されている。容器16内には燃料拡散材17が配置されている。燃料拡散材17は板状の多孔質材料等で形成されており、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等からなる樹脂製多孔質板が用いられる。燃料拡散材17と燃料拡散室15とは、アノード6の面方向に燃料を分散並びに拡散させつつ供給する燃料供給部18を構成するものである。
【0019】
燃料供給部18は図3および図4に示すように、燃料注入口19と複数の燃料排出口20とを細管21のような燃料通路で接続した燃料分配板22で構成してもよい。燃料分配板22の内部には細管21が形成されており、その一端(始端部)に燃料注入口19が設けられている。細管21は途中で複数に分岐しており、これら分岐した細管21の各終端部に燃料排出口20がそれぞれ設けられている。燃料注入口19から燃料分配板22内に導入された液体燃料は複数に分岐した細管21を介して複数の燃料排出口20に導かれ、その気化成分(燃料)が燃料拡散室15を介してアノード6に供給される。
【0020】
燃料供給部18を構成する燃料分配板22は例えば容器16内に配置される。燃料分配板22を有する燃料供給部18を使用することによって、燃料注入口19から燃料分配板22内に注入された液体燃料を方向や位置に係わりなく、複数の燃料排出口20に均等に分配することができる。従って、MEA11の面内における発電反応の均一性を高めることが可能となる。さらに、細管21で燃料注入口19と複数の燃料排出口20とを接続することによって、燃料電池1の特定箇所により多くの燃料を供給するような設計が可能となる。これはMEAの発電度合いの均一性の向上等に寄与する。
【0021】
そして、燃料拡散材17が配置された容器16上に起電部2と保湿層23とを積層し、さらにその上から例えばステンレス製のカバープレート24を被せて全体を保持することによって、実施形態の燃料電池(DMFC)1の発電ユニットが構成されている。カバープレート24は空気導入用の開口部25を有している。保湿層23はカソード触媒層7で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制すると共に、カソード触媒層7への空気の均一拡散を促進するものである。図示を省略したが、保湿層23とカバープレート24との間には、必要に応じて空気の取入れ量を調整する表面層が配置される。表面層は空気の取入れ量に応じて個数や大きさ等が調整された空気導入口を有する。
【0022】
容器16には燃料注入口26が設けられている。燃料注入口26は配管のような液体燃料の流路27を介して燃料収容部28と接続されている。燃料収容部28にはMEA11に応じた液体燃料Fが収容される。液体燃料Fとしては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料Fは必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料Fはエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。燃料収容部28にはMEA11に応じた液体燃料Fが収容される。
【0023】
さらに、流路27にはポンプ29が介在されている。ポンプ29は燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部28から燃料供給部18に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。燃料供給部18からMEA11に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部28に戻されることはない。この実施形態の燃料電池1は燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。燃料供給部18、燃料収容部28、ポンプ29等を有する燃料供給機構3は、例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0024】
ポンプ29の種類は特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリーベーンポンプはモータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。
【0025】
燃料供給機構3は図5に示すように、起電部2の下方に気液分離膜31を介して配置された燃料収容部32で構成してもよい。燃料収容部32の内部には液体燃料Fが充填されている。燃料収容部32は起電部2側が開口されており、この燃料収容部32の開口部と起電部2との間に気液分離膜31が設置されている。気液分離膜31は、液体燃料Fの気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気体選択透過膜である。このような燃料収容部32内の液体燃料Fが気化し、この気化成分が気液分離膜31を透過してMEA11のアノード6に供給される。気液分離膜31や燃料収容部32を有する燃料供給機構3は、例えば純パッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0026】
上述したように、MEA11のアノード(燃料極)6には燃料供給機構3から燃料が供給される。MEA11内において、燃料はアノードガス拡散層5を拡散してアノード触媒層4に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層4で下記の式(1)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層7で生成した水や電解質膜10中の水をメタノールと反応させて式(1)の内部改質反応を生起させる。あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
【0027】
この反応で生成した電子(e-)は集電体12を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、集電体13を経由してカソード(空気極)9に導かれる。式(1)の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は電解質膜10を経てカソード9に導かれる。カソード9には酸化剤として空気が供給される。カソード9に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層7で空気中の酸素と下記の式(2)にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
【0028】
燃料電池1の発電反応において、発電する電力(電池出力)を増大させるためには、アノード触媒層4やカソード触媒層7における触媒反応を円滑に行わせると共に、アノード触媒層4で生成したプロトン(H+)をカソード触媒層7に効率よく送ることが重要となる。アノード触媒層4からカソード触媒層7へのプロトン伝導性には、電解質膜10のプロトン伝導性のみならず、アノード触媒層4およびカソード触媒層7のプロトン伝導性も影響する。そこで、この実施形態の燃料電池1ではアノード触媒層4やカソード触媒層7を二層構造とし、ガス拡散層5、8側に配置された第2の触媒層4B、7Bのアイオノマー量を、電解質膜10側に配置された第1の触媒層4A、7Aより多く設定している。
【0029】
アノード触媒層4を構成する第1および第2の触媒層4A、4Bにおいて、第2の触媒層4Bのアイオノマー量(AA2(質量%))を第1の触媒層4Aのアイオノマー量(AA1(質量%))より多く設定する(AA2>AA1)ことによって、アノード触媒層4で生成したプロトン(H+)をカソード触媒層7に効率よく送ることが可能となる。すなわち、アノード触媒層4のプロトン伝導性に寄与するアイオノマー量に勾配を付けることによって、アノード触媒層4におけるプロトンの伝導効率が向上し、さらにアノード触媒層4全体に生じたプロトンを効率よくカソード触媒層7に送ることができる。これらによって、燃料電池1の電池出力やその維持性を高めることが可能となる。
【0030】
カソード触媒層7を構成する第1および第2の触媒層7A、7Bについても、第2の触媒層7Bのアイオノマー量(AC2(質量%))を第1の触媒層7Aのアイオノマー量(AC1(質量%))より多く設定する(AC2>AC1)を第1の触媒層7Aより多く設定し、MEA11全体としてアイオノマー量に勾配を付けることによって、燃料電池1の電池出力やその維持性を高めることができる。ただし、カソード触媒層7は必ずしもこの限りではなく、第1および第2の触媒層7A、7Bのアイオノマー量が同等(AC2=AC1)であってもよい。さらに、MEA11の構成等によっては、カソード触媒層7のアイオノマー量のみを変化させるようにしてもよい。
【0031】
アノード触媒層4における第1の触媒層4Aのアイオノマー量AA1の第2の触媒層4Bのアイオノマー量AA2に対する比(AA1/AA2)は0.15<AA1/AA2<0.35の範囲とすることが好ましい。AA1/AA2比が0.35以上であると、第2の触媒層4Bのアイオノマー量を第1の触媒層4Aより多くした効果を十分に得ることができない。AA1/AA2比が0.15以下であると、第1の触媒層4Aのアイオノマー量が少なくなりすぎるため、アノード触媒層4の電解質膜10側でのプロトン伝導性が低下し、逆にアノード触媒層4全体としてのプロトンの伝導効率が悪化するおそれがある。
【0032】
さらに、アノード触媒層4における第1および第2の触媒層4Bのアイオノマー量は、第1の触媒層4Aのアイオノマー量AA1を12〜20質量%の範囲、第2の触媒層4Bのアイオノマー量AA2を60〜70質量%の範囲とすることが好ましい。第1の触媒層4Aのアイオノマー量が12質量%未満であると、アノード触媒層4の電解質膜10側でのプロトン伝導性が低下する。第1の触媒層4Aのアイオノマー量が20質量%を超えたり、第2の触媒層4Bのアイオノマー量が60質量%未満であると、カソード触媒層7のアイオノマー量の勾配が小さくなる。第2の触媒層4Bのアイオノマー量が70質量%を超えると、相対的に触媒量が減少して触媒層としての機能が低下する。
【0033】
カソード触媒層7における第1の触媒層7Aのアイオノマー量AC1の第2の触媒層7Bのアイオノマー量AC2に対する比(AC1/AC2)は0.65<AC1/AC2≦1の範囲とすることが好ましい。AC1/AC2比が0.65未満であると、カソード触媒層7全体の触媒反応が低下する。AC1/AC2は1未満とすることが好ましい。さらに、カソード触媒層7における第1の触媒層7Aのアイオノマー量AC1は20〜25質量%の範囲、第2の触媒層4Bのアイオノマー量AC2は25〜30質量%の範囲とすることが好ましい。第1および第2の触媒層7A、7Bのアイオノマー量が上記した範囲から外れると、カソード触媒層7の触媒反応等が低下するおそれがある。
【0034】
アノード触媒層4やカソード触媒層7はアイオノマー量以外にも、密度、厚さ等を適正化することが好ましい。アノード触媒層4に関しては、第1の触媒層4Aの密度を0.005〜0.014×10-3g/mm3の範囲、厚さを10〜20μmの範囲とし、第2の触媒層4Bの密度を0.036〜0.120×10-3g/mm3の範囲、厚さを30〜80μmの範囲とすることが好ましい。カソード触媒層7に関しては、第1の触媒層7Aの密度を0.004〜0.018×10-3g/mm3の範囲、厚さを10〜30μmの範囲とし、第2の触媒層7Bの密度を0.021〜0.080×10-3g/mm3の範囲、厚さを30〜80μmの範囲とすることが好ましい。
【0035】
各触媒層4A、4B、7A、7Bの密度が上記した各範囲に満たない場合には、触媒層4、7の空隙率が上昇し、メタノール等の燃料がカソード9側、さらには系外に流出する現象、いわゆるクロスオーバーが起こるおそれがある。各触媒層4A、4B、7A、7Bの密度が上記した各範囲を超える場合には、触媒層4、7の空隙率が低下し、燃料や酸化剤の拡散性が低下する。各触媒層4A、4B、7A、7Bの厚さは上記した各範囲内とすることによって、二層構造の触媒層による効果を十分に発揮させることが可能となる。
【0036】
さらに、アノードガス拡散層5、カソードガス拡散層8、および電解質膜10密度や厚さに関しても、電池出力の向上を図る上で適正化することが好ましい。アノードガス拡散層5の密度(撥水後)は0.378〜0.512×10-3g/mm3の範囲、厚さは270〜310μmの範囲とすることが好ましい。カソードガス拡散層8の密度(撥水後)は0.594〜0.780×10-3g/mm3の範囲、厚さは360〜400μmの範囲とすることが好ましい。電解質膜11の密度(ドライ状態)は0.056〜0.108×10-3g/mm3の範囲、厚さは80〜120μmの範囲とすることが好ましい。
【0037】
アノード触媒層4やカソード触媒層7に含まれる触媒量(貴金属触媒の量/二層での合計量)も、電池出力やその維持性に影響を及ぼす。そこで、アノード触媒層4に含まれる触媒中の金属量(MA)を1としたとき、カソード触媒層7に含まれる触媒中の金属量(MC)の比(MC/MA)を0.55〜0.90の範囲とすることが好ましい。MC/MA比が0.55未満の場合、またMC/MA比が0.90を超える場合、いずれも電池出力やその維持性が低下する。MC/MA比が0.55〜0.90の範囲の場合に、各触媒層4、7での反応を効率よく行わせることができるものと考えられる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の燃料電池の具体例およびその評価結果について述べる。
【0039】
(実施例1)
以下のようにして作製したMEAを用いて、液体燃料としてメタノールを用いた燃料電池(DMFC)を組立てた。得られたDMFCを後述する特性評価に供した。
【0040】
[アノードの第1の触媒層の作製]
まず、2.00gのPt−Ru触媒、10.00gの純水、7.50gのナフィオン溶液(濃度=5%)、および0.4gのエチレングリコールを混合し、スターラ分散にて2時間分散させた。このようにして、アノード触媒スラリー(約25g)を得た。次いで、50×630mmの形状に切断したテフロン(登録商標)シート(厚さ=100μm)を回転式ドラムに装着し、約50℃になるまで加熱した。加熱したテフロン(登録商標)シートにアノード触媒スラリー25gをスプレー方式で塗布し、その後純水に浸漬した。塗布スピードはスラリー1gあたり3分とした。テフロン(登録商標)シートに付着させた触媒層の厚さは10〜20μmである。
【0041】
[カソードの第1の触媒層の作製]
2.00gのPt触媒、10.00gの純水、11.50gのナフィオン溶液(濃度=5%)、2.5gのエチレングリコール、および5.0gのプロパノールを混合し、スターラ分散にて3時間分散させた。このようにして、カソード触媒スラリー(約30g)を得た。次いで、50×630mmの形状に切断したテフロン(登録商標)シート(厚さ=100μm)を回転式ドラムに装着し、約50℃になるまで加熱した。加熱したテフロン(登録商標)シートにカソード触媒スラリー30gをスプレー方式で塗布し、その後純水に浸漬した。塗布スピードはスラリー1gあたり5分とした。テフロン(登録商標)シートに付着させた触媒層の厚さは10〜30μmである。
【0042】
[第1の触媒層と電解質膜との積層体の作製]
アノードおよびカソード用の第1の触媒層が付着したテフロン(登録商標)シートをそれぞれ30×40mmの形状に裁断した。プレス装置のセッターに、カソード用第1の触媒層付きテフロン(登録商標)シート、電解質膜(デュポン社製、商品名:N112)、アノード用第1の触媒層付きテフロン(登録商標)シートをセットして、温度150℃、圧力0.50kN/cm2の条件下で360秒間プレスを行った。セッターから試料を取り外した後、触媒層側に付いているテフロン(登録商標)シートを取り外した。このようにして、アノード用第1の触媒層/電解質膜/カソード用第1の触媒層の構造を有する接合体を得た。
【0043】
[アノードの第2の触媒層の作製]
3.00gのPt−Ru触媒、7.50gの純水、25.00gのナフィオン溶液(濃度=20%)、7.00gのプロパノール、および2.10gのグリセリンを混合し、ディゾルバで分散させた。このようにして、アノード触媒インク(約30g)を得た。次いで、カーボンペーパー(東レ社製、商品名:TGP−H−120)に撥水処理(14質量%)を施したものに、アノード触媒インク30gをダイコータにて塗布した。これを乾燥させることによって、第2の触媒層付きアノードガス拡散層を得た。第2の触媒層の厚さは30〜80μmである。
【0044】
[カソードの第2の触媒層の作製]
3.00gのPt触媒、5.00gの純水、5.40gのナフィオン溶液(濃度=20%)、7.60gのプロパノール、および1.10gのグリセリンを混合し、ディゾルバで分散させた。このようにして、カソード触媒インク(約30g)を得た。次いで、カーボンペーパー(東レ社製、商品名:TGP−H−090)に撥水処理(27質量%)を施したものに、カソード触媒インク30gをダイコータにて塗布した。これを乾燥させることによって、第2の触媒層付きカソードガス拡散層を得た。第2の触媒層の厚さは30〜80μmである。
【0045】
[MEAの作製]
第2の触媒層付きアノードガス拡散層とアノード用第1の触媒層/電解質膜/カソード用第1の触媒層の構造を有する接合体と第2の触媒層付きカソードガス拡散層とを積層し、これをプレス装置のセッターにセットして、温度150℃、圧力30kN/cm2の条件下で300秒間プレスを行った。このようにして、アノード触媒層とカソード触媒層をそれぞれ二層構造としたMEAを得た。MEAを構成する各触媒層のアイオノマー量、第1の触媒層と第2の触媒層とのアイオノマー比を表1に示す。
【0046】
(実施例2〜5)
各触媒層の原料比を変更する以外は実施例1と同様にして、それぞれ実施例2〜5のMEAを作製した。各MEAを構成する触媒層のアイオノマー量、アイオノマー比を表1に示す。このようなMEAをそれぞれ用いて、実施例1と同様なDMFCを組立てた。得られた各DMFCを後述する特性評価に供した。
【0047】
(比較例1)
アノード触媒層およびカソード触媒層を電解質膜に積層し、触媒層がそれぞれ一層構造のMEAを作製した。各触媒層の作製工程、触媒層と電解質膜との積層工程は、実施例1と同様にして実施した。MEAを構成する触媒層(実施例1の第1の触媒層に相当)のアイオノマー量を表1に示す。このようなMEAを用いて、実施例1と同様なDMFCを組立てた。得られたDMFCを後述する特性評価に供した。
【0048】
(比較例2)
アノード触媒層付きアノードガス拡散層とカソード触媒層付きカソードガス拡散層を実施例1と同様にして作製した。これらを電解質膜と積層し、触媒層がそれぞれ一層構造のMEAを作製した。各触媒層付きガス拡散層の作製工程、触媒層付きガス拡散層と電解質膜との積層工程は、実施例1と同様にして実施した。MEAを構成する触媒層(実施例1の第2の触媒層に相当)のアイオノマー量を表1に示す。このようなMEAを用いて、実施例1と同様なDMFCを組立てた。得られたDMFCを後述する特性評価に供した。
【0049】
次に、実施例1〜5および比較例1〜2による各燃料電池の出力電圧を測定した。さらに、実施例1および比較例1〜2による燃料電池の0.3Vでの出力を測定し、これを初期出力として100時間後および1000時間後の出力を初期出力との比として求めた。なお、比較例1〜2による燃料電池については、いずれも実施例1の燃料電池の初期出力を100としたときの相対値として、初期出力、100時間後および1000時間後の出力を求めた。これらの測定値を表1に併せて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例による燃料電池は触媒層を一層構造とした比較例の燃料電池に比べて出力電圧が高く、さらに出力の維持性も良好であることが分かる。なお、実施例2の燃料電池は実施例1の燃料電池と同等の出力維持性を有していることが確認された。実施例3〜5の燃料電池は実施例1の燃料電池に比べて出力維持性が劣っていたものの、比較例の燃料電池と比べると出力が維持されることが確認された。
【0052】
(実施例6〜8)
上述した実施例2の燃料電池を基準とし、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属量を変更した燃料電池を作製した。実施例2の燃料電池を含めて、各実施例の燃料電池のアノード金属量(MA)、カソード金属量(MC)、合計金属量、金属量比(MC/MA)を表2に示す。さらに、各燃料電池の出力電圧を表2に併せて示す。表2から明らかなように、アノードとカソードの金属量比を制御することで、出力特性が向上する。
【0053】
【表2】

【0054】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給形態等も特に限定されるものではなく、MEAに供給される燃料の全てが液体燃料の蒸気、全てが液体燃料、または一部が液体状態で供給される液体燃料の蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組合せたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除する等、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態による燃料電池の構成を示す図である。
【図2】図1に示す燃料電池のMEAを示す断面図である。
【図3】本発明の燃料電池に用いられる燃料供給部の他の例を示す斜視図である。
【図4】図3に示す燃料供給部の平面図である。
【図5】図1に示す燃料電池の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1…燃料電池、2…起電部、3…燃料供給機構、4…アノード触媒層、4A…第1の触媒層、4B…第2の触媒層、5…アノードガス拡散層、6…アノード(燃料極)、7…カソード触媒層、7A…第1の触媒層、7B…第2の触媒層、8…カソードガス拡散層、9…カソード(空気極)、10…電解質膜、11…MEA、12…アノード集電体、13…カソード集電体、16…容器、18…燃料供給部、27…流路、28…ポンプ、28,32…燃料収容部、31…気液分離膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒およびアイオノマーを含む触媒層とガス拡散層とを有する燃料極と、触媒およびアイオノマーを含む触媒層とガス拡散層とを有する空気極と、前記燃料極の触媒層と前記空気極の触媒層と接するように、前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜とを備える膜電極接合体と、
液体燃料を収容する燃料収容部を有し、前記燃料収容部から前記燃料極に燃料を供給する燃料供給機構とを具備する燃料電池において、
前記燃料極と前記空気極の少なくとも一方は、前記電解質膜側に配置された第1の触媒層と、前記ガス拡散層側に配置された第2の触媒層とを有し、前記第2の触媒層は前記第1の触媒層より前記アイオノマーを多く含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、
前記燃料極の触媒層は前記第1の触媒層と前記第2の触媒層とを有し、前記第1の触媒層中のアイオノマー量(AA1)の前記第2の触媒層中のアイオノマー量(AA2)に対する比(AA1/AA2)が0.15<AA1/AA2<0.35の範囲であることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の燃料電池において、
前記空気極の触媒層は前記第1の触媒層と前記第2の触媒層とを有し、前記第1の触媒層中のアイオノマー量(AC1)の前記第2の触媒層中のアイオノマー量(AC2)に対する比(AC1/AC2)が0.65<AC1/AC2≦1の範囲であることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池において、
前記燃料極の前記第1の触媒層中のアイオノマー量AA1が12質量%以上20質量%以下であり、前記第2の触媒層中のアイオノマー量AA2が60質量%以上70質量%以下であることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項3記載の燃料電池において、
前記空気極の前記第1の触媒層中のアイオノマー量AC1が20質量%以上25質量%以下であり、前記第2の触媒層中のアイオノマー量AC2が25質量%以上30質量%以下であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項2記載の燃料電池において、
前記燃料極の前記第1の触媒層の密度が0.005×10-3g/mm3以上0.014×10-3g/mm3以下の範囲、厚さが10μm以上20μm以下の範囲であり、前記第2の触媒層の密度が0.036×10-3g/mm3以上0.120×10-3g/mm3以下の範囲、厚さが30μm以上80μm以下の範囲であることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項3記載の燃料電池において、
前記空気極の前記第1の触媒層の密度が0.004×10-3g/mm3以上0.018×10-3g/mm3以下の範囲、厚さが10μm以上30μm以下の範囲であり、前記第2の触媒層の密度が0.021×10-3g/mm3以上0.080×10-3g/mm3以下の範囲、厚さが30μm以上80μm以下の範囲であることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記燃料極の触媒層に含まれる前記触媒中の金属量(MA)に対する前記空気極の触媒層に含まれる前記触媒中の金属量(MC)の比(MC/MA)が0.55≦MC/MA≦0.90の範囲であることを特徴とする燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−238499(P2009−238499A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81377(P2008−81377)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】