説明

燃料電池

【課題】触媒層の周縁であって、ガス拡散層と電解質膜の間に保護フィルムを備え、この保護フィルムの端部が触媒層に積層(ラップ)している電極体と、該電極体の周縁に射出成形にてガスケットが形成されてなる燃料電池において、保護フィルムと触媒層とガス透過層の間に生じ得る空間によって電解質膜等に亀裂が生じ易くなる、触媒層に十分量のガスが提供され難くなるといった課題を効果的に解消できる燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜1が触媒層2,3で被覆されていない周縁の露出領域とガス拡散層5,6の間には、保護フィルム7A,7Bが介在し、保護フィルム7A,7Bの端部と、触媒層2,3と、ガス透過層5,6と、で画成された空間hを、撥水性もしくは疎水性の充填材10が閉塞している燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層の周縁であって、ガス透過層と電解質膜の間に保護フィルムを備えた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、このMEAとこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための金属多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる金属多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータに形成されたガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
上記するガス拡散層の形態として、拡散層基材と集電層(MPL:Micro Porous Layer)とから構成されるものは一般に知られるところである。一般には、触媒層は電解質膜よりも狭小な平面積(小さな平面積)を有しており、電解質膜が触媒層にて被覆されていない触媒層の周縁の露出領域には、ポリマー素材の保護フィルムが配設されており(保護フィルムが集電層上にラップしている形態も含む)、この保護フィルムがたとえば拡散層基材と電解質膜の間に介在した構造が一般的である。保護フィルムを触媒層の周縁領域で拡散層基材と電解質膜の間に介在させることにより、触媒層を有する電解質膜とガス拡散層をたとえば100〜130℃程度の高温雰囲気下、1〜3MPa程度の圧縮力で熱圧着する(電解質膜に影響を与えない熱圧着条件)際に、繊維質の拡散層基材の表面から突出する毛羽が電解質膜に突き刺さることを抑止することができる。
【0005】
また、上記する燃料電池セルにおいては、膜電極接合体に供給される燃料ガスや酸化剤ガス、さらにはセルの昇温を抑止するための冷却水などの流体をシールするためのガスケットが電極体や金属多孔体の周縁に射出成形や圧縮成形にて成形されている。たとえばガス流路となる金属多孔体を具備する燃料電池セルにおいては、成形型のキャビティ内にアノード側もしくはカソード側の一方の金属多孔体を収容し、次いで電極体を収容し、次いでアノード側もしくはカソード側の他方の金属多孔体を収容した姿勢で、電極体および金属多孔体の周縁のガスケット形成用キャビティに樹脂を注入してガスケット成形がおこなわれている。なお、キャビティ内にアノード側もしくはカソード側いずれか一方のセパレータを最初に収容し、次いで上記する構成部材を収容して射出成形をおこなう方法もある。
【0006】
上記する保護フィルムとガスケットを備えた従来の燃料電池セルの構造を図2に示している。電極体は、電解質膜aと、カソード側およびアノード側の触媒層b1、b2と、から膜電極接合体cが形成され、この膜電極接合体cをカソード側およびアノード側のガス拡散層d(拡散層基材d1と集電層d2とから構成される)が挟持して形成される。触媒層b1、b2は電解質膜aに比して狭小であり、電解質膜aが触媒層b1、b2で被覆されていない露出領域にはカソード側およびアノード側の保護フィルムe1,e2が配され、これらが電解質膜aと拡散層基材d1の間に介在している。また、図示例はガス流路となる金属多孔体fをカソード側およびアノード側に備えたものであり、電極体と金属多孔体fの周縁には、射出成形され、その内部に流体流通用のマニホールドMを有するとともにその端部のマニホールドMの周縁に該マニホールドMを囲繞する無端リブg1を具備するガスケットGが形成されている。
【0007】
図示例のごとく、保護フィルムe1,e2は、その触媒層側端部が触媒層b1、b2にラップ(積層)しているのが一般的である。この保護フィルムe1,e2は、熱圧着時に拡散層基材の毛羽が電解質膜aに突き刺さると、この突き刺さり箇所がガスのクロスリークを助長することとなり、燃料電池のクロスリーク耐久性が低下し、発電性能の低下に直結するという課題を解消するために設けられている。すなわち、電解質膜aが触媒層b1、b2と接触している領域は、該触媒層b1、b2にて電解質膜aが毛羽の突き刺さりから保護されている一方で、上記する電解質膜aの露出領域は保護フィルムe1,e2で毛羽の突き刺さりから保護される。ここで、触媒層b1、b2の端部から毛羽が電解質膜aに通じることを回避するべく、図示するように、保護フィルムe1,e2の端部を触媒層b1、b2にラップさせるようにしている。そして、燃料電池スタックは複数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされて形成されるものであるが、このスタッキング時の圧縮力は各燃料電池セルに伝達され、図示のごとく膜電極接合体cに対してその上下から圧縮力Pとして作用し、セル構成部材間の界面抵抗を極力少なくしながら所望の発電を励起させている。なお、図2のごとく保護フィルム(補強フィルム)の端部を触媒層にラップさせてなる公開技術として、特許文献1を挙げることができる。
【0008】
保護フィルムe1,e2の触媒層側端部が触媒層b1、b2とラップすることにより、該保護フィルムe1,e2は電解質膜aからその表面に接着した触媒層b1、b2に跨って延びることから、保護フィルムe1,e2、触媒層b1、b2、ガス拡散層dの間には自ずと隙間hが生じてしまう。
【0009】
燃料電池セルの特に電極体の内部では、プロトン伝導の際の随伴水の移動やカソード側電極にて生成された生成水の逆拡散などにより、アノード側とカソード側の間の水分移動がおこなわれているが、上記する隙間hが存在することで、この移動する水分が隙間hへ流れ込んでしまい、水溜りwを形成してしまう。
【0010】
そして、上記する水溜りwが存在することにより、たとえば氷点下時にこの水溜りwが凍結し、これを起点として触媒層や電解質膜に亀裂を生じさせるという課題が生じており、この課題解決が当該分野における急務の課題の一つである。
【0011】
さらに、触媒層近傍に上記隙間hが存在することにより、往々にして流れ易い部位や流れ易い方向に流れ込んでしまうガス(空気や水素)がこの隙間hに流れ込んでしまい、ガスが触媒層に十分に提供されないという課題も生じ得る。したがって、この触媒層への十分なガス提供の観点からも、上記する隙間hに対する対策が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−216789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒層の周縁であって、ガス拡散層と電解質膜の間に保護フィルムを備えた電極体と、カソード側およびアノード側の電極体をガス透過層およびセパレータが挟持してなる燃料電池において、保護フィルムの端部と、触媒層と、ガス拡散層等のガス透過層と、の間に生じる隙間に水溜りが生じ、この水溜りに起因して触媒層や電解質膜等に亀裂が生じ易くなるという課題、あるいは、該隙間に空気や水素が流れ込むことで触媒層に十分にガスが提供され難いという課題を、効果的に解消することのできる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、電解質膜と、これよりも狭小な平面積で該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層およびセパレータが配されて燃料電池セルを成し、積層された燃料電池セル内のセパレータ間、もしくは燃料電池セル間をシールするガスケットを備えた燃料電池であって、少なくとも、前記電解質膜が触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間には、保護フィルムが介在しており、前記保護フィルムの端部と、前記触媒層と、前記ガス透過層と、で画成された空間を、撥水性もしくは疎水性の充填材が閉塞しているものである。
【0015】
本発明の燃料電池を構成するセル構造は、膜電極接合体(MEA)のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含んでいる。また、本明細書では、これらのいずれの形態も電極体(MEGA)と称呼している。また、電極体の両側にガス流路溝が形成されたセパレータが直接配された形態は勿論のこと、いわゆるフラットタイプのセパレータと電極体の間に、ガス流路層(エキスパンドメタル等の金属多孔体)が配された形態を含むものである。さらに、「ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。
【0016】
本発明の燃料電池は、保護フィルムを電解質膜周縁の露出領域に具備する燃料電池セルから形成されるものであり、このセル構造の場合に往々にして生じ得る、保護フィルムの端部と、触媒層と、ガス透過層と、で画成された空間に対して撥水性もしくは疎水性の充填材を充填し、該空間を閉塞しているものである。たとえば、触媒層よりも保護フィルムの厚みが厚い場合において、上記する空間が触媒層上に形成されることになる。なお、本発明の燃料電池は、上記する特許文献1に開示のセル構造のように、前記保護フィルムの端部が触媒層上に積層している(ラップしている)燃料電池セルからなる形態を含むことは言うまでもなく、この形態の場合も、上記する空間が触媒層上に形成されることになる。
【0017】
ここで、「撥水性」も「疎水性」も、「親水性」に相反する特性を示すものであり、電極体内で生じたり、移動する水(生成水、随伴水など)を上記空間に充填された充填材内部に滞留させることを回避でき、速やかにガス透過層に送り出す作用を奏する特性を示すものである。
【0018】
上記空間を撥水性もしくは疎水性の充填材が閉塞していることにより、既述する課題、すなわち、空間に水が滞留して凍結し、これを起点として凍結が伝播されて触媒層等を損傷させたり、ガスが空間に流れ込んで、触媒層に十分なガスが提供され難いといった課題が効果的に解消される。
【0019】
なお、撥水性、疎水性の充填材は特に限定されるものではないが、たとえば、フルオロカーボン誘導体、フルオロアルキルアクリレートポリマー、フルオロオレフィンビニールエーテル共合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系化合物や、オルガノポリシロキサン、シリコーンオイルなどの有機ケイ素系化合物、撥水性を有する高分子化合物、たとえば、主鎖骨格中にフッ素を含む高分子化合物や主鎖骨格中にケイ素を含む高分子化合物などを挙げることができる。特に、ポリテトラフルオロエチレンは、ガス拡散層の撥水処理にも使用されていることから、この素材を使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、撥水性もしくは疎水性の充填材が触媒層とガス拡散層と保護フィルムで画成された空間を閉塞するため、この空間が存在することよって生じ得る課題、すなわち、該空間に水が滞留して凍結し、これを起点として凍結が伝播されて触媒層等を損傷させたり、ガスが空間に流れ込んで、触媒層に十分なガスが提供され難いといった課題を効果的に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の燃料電池の電極体とガスケットの一部を拡大した縦断面図である。
【図2】従来の燃料電池の電極体とガスケットの一部を拡大した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は電極体の両側にガス流路となる金属多孔体が配されたものであり、これは、3層構造のセパレータがさらに配されて燃料電池セルを形成する形態のものであるが、セパレータにガス流路溝が形成されて金属多孔体が不要な燃料電池セルの場合には、ガスケットの上下端面はカソード側およびアノード側のガス拡散層の端面付近に位置することになる。また、アノード側およびカソード側のいずれか一方からガス拡散層の拡散層基材が廃された、いわゆる基材レス構造を呈した形態であってもよい。さらに、図示例は、保護フィルムの端部が触媒層上にラップしている構造を示すものであるが、この形態以外にも、該保護フィルムの端部が触媒層上にラップせず、しかも、触媒層に比して保護フィルムの厚みが厚い構造の燃料電池であってもよい。この形態においても、触媒層と、保護フィルムの端部と、ガス透過層(たとえばガス拡散層)との間に空間が形成され、この空間に、撥水性もしくは疎水性の充填材が充填されてこれを閉塞するものである。
【0023】
図1は、本発明の燃料電池の電極体とガスケットの一部を拡大した縦断面図である。この電極体は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,3と、から膜電極接合体4が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層5,6が挟持して形成されている。なお、図示例では、電極体の両側にカソード側およびアノード側のガス流路となる多孔体8A,8Bが配され、この電極体および多孔体8A,8Bの周縁に樹脂素材のガスケット9が形成されている。
【0024】
ここで、触媒層2,3は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,3の周縁には該触媒層2,3が存在しない露出領域が形成される。
【0025】
この露出領域には、カソード側およびアノード側の保護フィルム7A,7Bが配されており、より具体的には、該保護フィルム7A,7Bの触媒層側端部が触媒層2,3上にラップした姿勢で密着しており、ガス拡散層5,6から突出する毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防護している。
【0026】
ここで、膜電極接合体4を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0027】
また、触媒層2,3は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層5,6等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0028】
また、ガス拡散層5,6は、拡散層基材51,61と集電層52,62(MPL)からなるものであり、拡散層基材51,61としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材51,61の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材51,61としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層52,62はアノード側、カソード側の触媒層3,2から電子を集める電極の役割を果たすとともに、触媒層にて生成された生成水等を排水する撥水作用を奏するものであり、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などから形成できる。
【0029】
また、多孔体8A,8Bは、エキスパンドメタルや金属発砲焼結体からなり、この発砲焼結体においては、チタンやステンレス、銅、ニッケル等の耐食性に優れた金属素材が使用されるのがよく、さらには、ステンレス中にクロム炭化物や鉄−クロム炭化物などを分散した発泡体であってもよい。
【0030】
さらに、保護フィルム7A,7Bは、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
【0031】
ガスケット9は、その端部のマニホールドMの周縁に該マニホールドMを囲繞する無端リブ9aを有するものである。その成形方法の概要は、不図示の成形型内にアノード側の多孔体8B,アノード側のガス拡散層6、膜電極接合体4、カソード側のガス拡散層5、カソード側の多孔体8Aの順に収容して型閉めし、膜電極接合体4の側方のガスケット用キャビティ内に樹脂を注入する(射出成形)等の方法でおこなわれる。ここで、このガスケットの材料としては、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタンRTVゴムやブチルゴム系樹脂、シリコーンRTVゴム、EPDM系樹脂等が使用できる。
【0032】
同図において、保護フィルム7A,7Bの端部と、触媒層2,3と、ガス拡散層5,6を形成する集電層52,62と、の間には空間hが形成されるが、この空間hには、撥水性もしくは疎水性の充填材10が充填され、該空間hを閉塞している。
【0033】
ここで、撥水性、疎水性を有する充填材10の素材としては、フルオロカーボン誘導体、フルオロアルキルアクリレートポリマー、フルオロオレフィンビニールエーテル共合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系化合物や、オルガノポリシロキサン、シリコーンオイルなどの有機ケイ素系化合物、撥水性を有する高分子化合物、たとえば、主鎖骨格中にフッ素を含む高分子化合物や主鎖骨格中にケイ素を含む高分子化合物などを挙げることができる。たとえば、これらの素材をペースト状にし、触媒層2,3にラップするようにして保護フィルム7A,7Bを配設した後に、その端部に該ペーストの十分量(後工程で形成される空間hを閉塞するに十分な量)を塗布等しておき、次いでガス拡散層5,6をホットプレス等することにより、空間hを充填材10が閉塞した姿勢で電極体が形成される。
【0034】
空間hが撥水性もしくは疎水性を有する充填材10にて閉塞されることにより、該空間hに生成水等が滞留して凍結し、これを起点として凍結が伝播されて触媒層2,3等を損傷させたり、ガスが空間hに流れ込んで、触媒層2,3に十分なガスが提供され難いといった問題は生じ得ない。
【0035】
実際の燃料電池は、図示する多孔体8A,8Bの両側に3層構造のセパレータが配されて燃料電池セルをなし、所望する発電量に応じて該燃料電池セルが所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にエンドプレート、テンションプレート等を備え、両端のテンションプレート間に圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。なお、3層構造のセパレータとは、導電性金属(ステンレスやチタンなど)からなる2枚の金属プレートと、その間に、金属素材で冷却水流路が形成された中間層が介層された形態や、樹脂素材の枠材を中間層とし、2枚の金属プレートの一方のプレートから多数のディンプル、もしくは流路画成用のリブが突出された形態のセパレータのことである。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…電解質膜、2…カソード側の触媒層、3…アノード側の触媒層、4…膜電極接合体(MEA)、5…カソード側のガス拡散層(ガス透過層)、51…拡散層基材、52…集電層、6…アノード側のガス拡散層(ガス透過層)、61…拡散層基材、62…集電層、7A…カソード側の保護フィルム、7B…アノード側の保護フィルム、8A…カソード側の多孔体、8B…アノード側の多孔体、9…ガスケット、10…充填材、h…空間(隙間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、これよりも狭小な平面積で該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層およびセパレータが配されて燃料電池セルを成し、積層された燃料電池セル内のセパレータ間、もしくは燃料電池セル間をシールするガスケットを備えた燃料電池であって、
少なくとも、前記電解質膜が触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間には、保護フィルムが介在しており、
前記保護フィルムの端部と、前記触媒層と、前記ガス透過層と、で画成された空間を、撥水性もしくは疎水性の充填材が閉塞している、燃料電池。
【請求項2】
前記保護フィルムの端部が触媒層上に積層している、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記ガス透過層は、ガス拡散層、金属多孔体からなるガス流路層、該ガス拡散層と該ガス流路層の積層ユニット、のいずれか一方の形態からなり、
アノード側とカソード側双方のガス透過層が、複数の前記形態中の同一の形態、もしくは異なる形態のいずれかからなる、請求項1または2に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−186711(P2010−186711A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31633(P2009−31633)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】