説明

燃料電池

【課題】中間層のフラッディングに起因するセル電圧低下を抑制する。
【解決手段】
燃料電池は、固体高分子電解質膜24と、これを挟み込む燃料極20および酸化剤極30を備える。燃料極20は、燃料極触媒層22、燃料極ガス拡散基材24、および、これらに挟まれた燃料極中間層23を備える。酸化剤極30は、酸化剤極触媒層32、酸化剤極ガス拡散基材34、および、これらに挟まれた酸化剤極中間層33を備える。燃料極中間層23および酸化剤極中間層33は、電気伝導性を持つ粉末と、フッ化カーボン粉末と、結着材とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素等の燃料ガスと空気等の酸化剤ガスを電気化学的に反応させることにより、燃料ガスのもつ化学的エネルギを電気エネルギに変換する装置である。
【0003】
このような無公害エネルギを利用する燃料電池に組み込まれる燃料電池本体は、単位セルと、燃料ガス供給セパレータおよび酸化剤ガス供給セパレータと、冷却水供給セパレータとからなる基本構成を複数枚積み重ねた燃料電池積層体を有している。単位セルは、イオン導電性を有する電解質層と、これを挟んで配置された燃料極および酸化剤極からなる。燃料ガス供給セパレータは、導電性を有するガス不透過性の材料で形成され、燃料極に反応ガス(燃料ガス)を供給するための燃料ガス供給溝が設けられている。酸化剤ガス供給セパレータは、導電性を有するガス不透過性の材料で形成され、酸化剤極に反応ガス(酸化剤ガス)を供給するための酸化剤ガス供給溝が設けられている。冷却水供給セパレータは、導電性を有する材料で形成され、冷却水供給溝が設けられている。
【0004】
燃料ガス供給溝、酸化剤ガス溝に、燃料電池積層体の側面に設けた反応ガス供給マニホルドを介してそれぞれの反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)を供給すると、単位セルの一対の電極で電気化学反応が進行し、電極間で起電力が生じる。
【0005】
燃料極では、供給した水素を水素イオンと電子に解離する。その際、水素イオンは、電解質層を通り、また、電子は、外部回路を通り、酸化剤極にそれぞれ移動する。一方、酸化剤極では、供給した酸化剤ガス中の酸素と、水素イオンおよび電子が反応して水を生成する。このとき、外部回路を通った電子は、電流となり、外部回路に電力が供給される。この反応により生成した水は、燃料電池本体で消費されなかった反応ガス(既反応ガス)とともに上述燃料電池積層体の側面に設けた反応ガス排出マニホルドを介して燃料電池本体の外部に排出される。
【0006】
燃料電池は、使用されている電解質層により、アルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池、固体高分子形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池に分類されている。これら燃料電池のうち、電解質層として固体高分子膜を使用した固体高分子形燃料電池は、比較的低温で運転ができ、起動時間が短く、大きな出力密度が得られることから、定置電源用、車載電源用、携帯電源用として大きな注目を浴びている。
【0007】
固体高分子形燃料電池の電解質層に使用される固体高分子電解質膜には、10〜100ミクロン程度の厚さのパーフルオロカーボンスルホン酸膜、たとえばナフィオン(商品名:デュポン社製)などが用いられている。固体高分子電解質膜は、燃料ガスと酸化剤ガスとを分離する反応ガス分離機能と、燃料極で生成された水素イオンを酸化剤極に運ぶ水素イオン伝導性とに優れている。
【0008】
固体高分子電解質膜の良好な水素イオン導電性を維持するためには、十分な水分を含んでいることが必要である。固体高分子電解質膜から水分が失われて乾燥すると、水素イオン導電性が著しく低下し、結果的に水素イオン抵抗増大に起因する電圧ロスが大きくなり、電池特性が低下する。
【0009】
水素イオン導電性を維持するために、たとえば十分な湿分を有する燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給することにより、固体高分子電解質膜の乾燥を防ぐ方法がある。また、酸化剤極触媒層とガス拡散基板の間に中間層を設けることにより、燃料電池反応により酸化剤極にて生成した水を逆拡散させて固体高分子電解質膜の乾燥を防止する方法がある。
【0010】
この中間層には、上述した固体高分子電解質膜乾燥防止(触媒層・固体高分子電解質への生成水・ドラッグ水の逆拡散)の機能以外に、ガス拡散基板から酸化剤極触媒層への電子電導、過剰生成水・ドラッグ水のガス拡散基板側への排出、酸化剤極触媒層への酸化剤反応ガスの供給などの機能が必要である。電池特性を高く維持するためにはこれら機能を維持することが重要である。
【0011】
このため従来の中間層は、上述の機能を維持するため導電性カーボン粒子と結着材としてそれ自体撥水性を有するポリテトラフロエチエチレン(以下PTFE)の混合物が使用されている。特許文献1では、PTFE付着カーボンを含むインクのスクリーンプリント法より中間層を形成する方法が開示されている。特許文献2には、カーボンとフッ素樹脂混合物からなる中間層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3444530号公報
【特許文献2】特開平6−52871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
燃料電池の電極の触媒層とガス拡散基材との間に設ける中間層に、カーボン粒子を用いた場合、カーボン粒子は電池運転下で徐々に親水化が進み、中間層内部での生成水によるフラッディングが生じやすくなる。このため、過剰生成水・ドラッグ水のガス拡散基材側への排出、酸化剤極触媒層への酸化剤反応ガスの供給といった機能が低下する。その結果、セル電圧低下を生じていた。これは、長時間運転の際に顕著になり、反応ガスを多量に必要とし、かつ、多量の生成水が発生する高電流密度側で著しくなる。
【0014】
そこで、本発明は、燃料電池の電極の触媒層とガス拡散層の間に設けた中間層のフラッディングに起因するセル電圧低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明に係る燃料電池は、電解質層と、前記電解質層に接して設けられた触媒層と、電気伝導性を持つ粉末とフッ化カーボン粉末と結着材とを含み前記電解質層に対して反対側の面で前記触媒層に接して設けられた中間層と、前記触媒層に対して反対側の面で前記中間層に接して設けられて電気伝導性を持ち多孔質のガス拡散基材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料電池の電極の触媒層とガス拡散層の間に設けた中間層のフラッディングに起因するセル電圧低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る燃料電池の一実施の形態における燃料電池の一部の断面図である。
【図2】本実施の形態における中間層形成装置の模式的側面図である。
【図3】サンプル1からサンプル5を用いた発電試験での初期の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図4】サンプル1からサンプル5を用いて電流密度を0.8A/cmで一定で連続運転した発電試験での電圧の経時変化を示すグラフである。
【図5】サンプル6からサンプル10を用いた発電試験での初期の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図6】サンプル6からサンプル10を用いて電流密度を0.8A/cmで一定で連続運転した発電試験での電圧の経時変化を示すグラフである。
【図7】サンプル11からサンプル13を用いた発電試験での初期の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図8】サンプル11からサンプル13を用いて電流密度を0.8A/cmで一定で連続運転した発電試験での電圧の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る燃料電池の一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明に係る燃料電池の一実施の形態における燃料電池の一部の断面図である。
【0020】
燃料電池は、単位セル10と、燃料ガス供給セパレータ24と、酸化剤ガス供給セパレータ34と、冷却水供給セパレータ14とを単位として複数積み重ねて形成される。単位セル10は、固体高分子電解質膜11、燃料極20および酸化剤極30を有する。
【0021】
燃料極20は、板状の燃料極ガス拡散基材21の一方の表面に燃料極中間層23と燃料極触媒層22とを積層したものである。酸化剤極30は、板状の酸化剤極ガス拡散基材31の一方の表面に酸化剤極中間層33と酸化剤極触媒層32とを積層したものである。燃料極ガス拡散基材21および酸化剤極ガス拡散基材31は、多孔質に形成され、また、電気伝導性を持つ。燃料極触媒層22および酸化剤極触媒層32には、白金などの触媒が含有されている。
【0022】
燃料極中間層23および酸化剤極中間層33は、電気伝導性を持つ粉末と、フッ化カーボン粉末と、結着材との混合粉末を押し固めて形成したものである。電気伝導性を持つ粉末としては、たとえばカーボン粉末などの無機粉末を用いることができる。フッ化カーボン粉末は、撥水性を持つ無機粉末である。結着材としては、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粉末を用いることができる。
【0023】
固体高分子電解質膜11は、イオン導電性を有し、燃料極20および酸化剤極30で挟まれて設けられる。燃料極20は、燃料極触媒層22の燃料極中間層23と接する面に対して反対側の面で固体高分子電解質膜11に接している。酸化剤極30は、酸化剤極触媒層32の酸化剤極中間層33と接する面に対して反対側の面で固体高分子電解質膜11に接している。
【0024】
燃料ガス供給セパレータ24は、燃料極20の固体高分子電解質膜11と接する面に対して反対側の面に接して設けられる。燃料ガス供給セパレータ24は、導電性を有し、ガス不透過性である。燃料ガス供給セパレータ24の燃料極20側の面、すなわち、燃料極ガス拡散基材21と接する面には、燃料ガス供給溝25が形成されている。燃料ガス供給溝25を通じて、燃料極20に反応ガスである燃料ガスが供給される。
【0025】
酸化剤ガス供給セパレータ34は、酸化剤極30の固体高分子電解質膜11と接する面に対して反対側の面に接して設けられる。酸化剤ガス供給セパレータ34は、導電性を有し、ガス不透過性である。酸化剤ガス供給セパレータ34の酸化剤極30側の面、すなわち、燃料極ガス拡散基材21と接する面には、酸化剤ガス供給溝35が形成されている。酸化剤ガス供給溝35を通じて、酸化剤極30に反応ガスである酸化剤ガスが供給される。
【0026】
冷却水供給セパレータ14は、たとえば酸化剤ガス供給セパレータ34の酸化剤極30に接する面に対して反対側の面に接して設けられる。冷却水供給セパレータ14には、導電性を有し、冷却水供給溝15が形成されている。
【0027】
燃料ガス供給溝25、酸化剤ガス供給溝35に、燃料電池積層体の側面に設けた反応ガス供給マニホルド(図示せず)を介して、それぞれの反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)を供給する。その結果、単位セル10の一対の電極で次の電気化学反応が進行し、電極間で起電力が生じる。
【0028】
燃料極 :2H → 4H+4e …(1)
酸化剤極:O+4H+4e → 2HO …(2)
燃料極20では、式(1)に示すように、供給した水素を水素イオンと電子に解離する。その際、水素イオンは固体高分子電解質膜11を通り、また、電子は外部回路を通り、酸化剤極30にそれぞれ移動する。
【0029】
一方、酸化剤極30では、式(2)に示すように、供給された酸化剤ガス中の酸素と、燃料極20で発生した水素イオンおよび電子が反応して水を生成する。このとき、外部回路を通った電子は電流となり、外部回路に電力が供給される。
【0030】
式(1)および式(2)の反応により生成した水は、燃料電池本体で消費されなかった反応ガスとともに、燃料電池積層体の側面に設けた反応ガス排出マニホルド(図示せず)を介して燃料電池の外部に排出される。
【0031】
図2は、本実施の形態における中間層形成装置の模式的側面図である。
【0032】
中間層形成装置は、燃料極ガス拡散基材21の表面に燃料極中間層23を形成し、あるいは、酸化剤極ガス拡散基材31の表面に酸化剤極中間層33を形成する装置である。以下、燃料極ガス拡散基材21および酸化剤極ガス拡散基材31をまとめてガス拡散基材と、燃料極中間層23および酸化剤極中間層33をまとめて中間層と呼ぶこととする。
【0033】
中間層形成装置は、ガス拡散基材吸引ステージ45と、中間層形成チャンバー46と、混合物供給部47と、ガス供給部48と、ガス流量調整部50と、排気ブロワー51と、圧力調整弁52と、ローラー53とを備えている。ガス拡散基材吸引ステージ45には、ガス拡散基材49が載置される。排気ブロワー51は、ガス拡散基材吸引ステージ45に接続されている。排気ブロワー51がガス拡散基材吸引ステージ45から気体を吸引することによって、ガス拡散基材49はガス拡散基材吸引ステージ45の表面に吸い付けられた上体となる。排気ブロワー51によるガス拡散基材吸引ステージ45の吸引圧は、圧力調整弁52によって調整される。
【0034】
中間層形成チャンバー46は、ガス拡散吸引ステージ45のガス拡散基材49の載置面に対向して設けられる。中間層形成チャンバー46には、配管を介して混合物供給部47が接続されている。混合物供給部47には、ガス流量調整部50を介してガス供給部48が接続されている。
【0035】
中間層構成材料であるカーボン粉末とフッ化カーボンと結着材との混合物である中間層原料55は、混合物供給部47から供給される。供給された中間層原料55は、ガス供給部48から供給ガスによって、中間層形成チャンバー46に搬送される。
【0036】
ガス拡散基材49上に中間層を形成する場合、まず、ガス拡散層基材49をガス拡散基材吸引ステージ45に固定する。その後、中間層形成チャンバー46をガス拡散基材吸引ステージ45に被せる。さらに、ガス供給部48から窒素を供給しつつ、混合物供給部47から中間層構成材料であるカーボン粉末とフッ化カーボンと結着材とからなる中間層原料55を投入し、ガス拡散基材49に付着させる。この後、中間層構成材料を付着させた中間層付ガス拡散基材54をローラー53に通し、中間層を固定する。
【0037】
このような方法で形成される中間層において、カーボン粉末とフッ化カーボンとの混合比が電池特性に与える影響を試験した。表1は、試験対象のサンプルの組成を示す。
【表1】

【0038】
中間層のカーボン粉末には、平均粒径が40nmのアセチレンブラック(電化工業社製)を用いた。フッ化カーボンとしては、平均粒径が800nmで、組成がCF0.08であるもの(Lodestar.Inc製)を用いた。結着材としては、平均粒径が300μmのPTFE粉末(DuPont社製)を用いた。つまり、中間層のカーボン粉末は、フッ化カーボンよりも平均粒子径が小さい。また、中間層のカーボン粉末は、結着材よりも平均粒子径が小さい。
【0039】
結着材量は35重量%で一定として、カーボン粉末とフッ化カーボン粉末の混合比を表1に示すように変化させ、中間層形成用粉末とした。これらのカーボン粉末、フッ化カーボンおよび結着材を計量した後、それらを同一容器内にて粉砕機を用いて粉砕混合して中間層形成用粉末とした。
【0040】
このようにして調製した混合粉末を用いて、以下の手順で中間層を形成した。ガス拡散基材としては、15cm角で厚さが180μmのカーボンペーパー(東レ社製)を用いた。まず、カーボンペーパーをガス拡散基材吸引ステージ45に載置する。その後、排気ブロワー51を作動させ、圧力調整弁52により吸引ステージ圧力を−30ミリ水柱に調整した。この状態でカーボンペーパーを吸引しながら、中間層形成チャンバー46をガス拡散基材吸引ステージ45に被せた。
【0041】
次に、ガス供給部48から窒素を流通しつつ、混合物供給部47より中間層形成用混合粉末である中間層原料55を投入した。投入された中間層原料55は、混合物供給部47近傍で粉砕されて微細粉末56となり、ガス供給部48より供給されている窒素ガスとともに、ガス拡散基材49であるカーボンペーパー上に塗布蓄積される。このようにして、ガス拡散基材49上に中間層形成用混合粉末の層が形成される。その後、窒素ガスを止めて、中間層形成チャンバー46を取り外し、中間層形成用混合粉末の層が塗布蓄積された中間層付ガス拡散基材54をローラー53に通して中間層を固定した。このときの中間層の塗布蓄積量は、いずれのサンプルでも2.0mg/cmとした。
【0042】
このように作製された中間層付ガス拡散基材を用い、その中間層の上面に触媒層を形成して、燃料極20および酸化剤極30を作製した。触媒層は、触媒と固体高分子電解質液の混合溶液からなるインクを作成し、中間層上にドクターブレード法により形成した。触媒と固体高分子電解質液の固形分の重量比は、燃料極、酸化剤極ともに3:1とした。電解質溶液は、5%Nafion溶液(DuPont社製)を用いた。燃料極、酸化剤極の触媒としては、それぞれTEC61E54およびTEC10E50E(田中貴金属工業社製)を用いた。燃料極20、酸化剤極30ともに単位面積あたりの白金塗布量は、0.4mgPt/cmとした。
【0043】
さらに、これらの燃料極20、酸化剤極30と、別途作成した固体高分子電解質膜11を用い、電極−固体高分子電解質膜接合体を作製した。電極−固体高分子限界質膜接合体は、燃料極20と酸化剤極30との間に固体高分子電解質膜11を挟持し、熱圧着にて作製した。固体高分子電解質膜としては、厚さ25μmのNafion膜(NR111)を用いた。熱圧着は、ホットプレスを用いて、温度135℃、圧力20kgf/cmの状態を2分間維持して行った。
【0044】
このようにして作製した電極−固体高分子電解質膜接合体を酸化剤ガス供給セパレータ24および燃料ガス供給セパレータ34と組み合わせ燃料電池を作製した。これらの燃料電池を用いて発電試験を行った。
【0045】
発電試験では、電池温度を80℃とし、燃料極20、酸化剤極30の加湿はともに相対湿度100%で供給し、電流−電圧特性を取得した。また、拡散性を評価するために電流密度0.8A/cmでの連続運転を行った。
【0046】
図3は、サンプル1からサンプル5を用いた発電試験での初期の電流−電圧特性を示すグラフである。図3の横軸は電流密度[A/cm]、縦軸は電圧[mV]である。図4は、サンプル1からサンプル5を用いて電流密度を0.8A/cmで一定で連続運転した発電試験での電圧の経時変化を示すグラフである。図4の横軸は発電開始からの経過時間[h]、縦軸は電圧[mV]を示す。
【0047】
図3に示す通り、初期の電流−電圧特性は、中間層にフッ化カーボンを添加することにより、中間層にフッ化カーボンを添加していないとき(サンプル番号1)と比較して電流密度0.8A/cmでの電圧が向上することが確認された。これはフッ化カーボンを添加することにより、触媒層の撥水性が増し、ガス拡散性が向上したためと考えられる。
【0048】
しかし、中間層に含有されるフッ化カーボンのフッ化カーボンとカーボン粉末との合計に対する重量比が20%となると、初期特性は中間層にフッ化カーボンを添加していない場合と比較して改善するものの、この重量比が2〜15%の場合と比較して電流密度0.8A/cmでの電圧が低い結果となった。これはフッ化カーボンを添加することにより、触媒層の撥水性が増してガス拡散性が向上するものの、フッ化カーボンの重量比を20%とすると中間層の電子伝導性がおちるために初期の電圧が低下したためであると考えられる。したがって、中間層に含有されるフッ化カーボンのフッ化カーボンとカーボン粉末との合計に対する重量比は、2%以上15%以下であることが好ましい。
【0049】
また、図4に示す通り、フッ化カーボンを添加した場合には、フッ化カーボンを添加していない場合と比較して、高電流密度0.8A/cmでの電圧が安定している。これは中間層にフッ化カーボンを添加することにより、フッ化カーボン固有の撥水効果により中間層としてのフラッディングの発現が抑制されたためであると考えられる。
【0050】
中間層中の結着材量が電池特性に与える影響を試験した。表2は、試験対象のサンプルの組成を示す。
【表2】

【0051】
中間層中のカーボン粉末とフッ化カーボン比率は、10重量%で一定とした。中間層中の結着材量は、10から50重量%の範囲の5種類とした。これらの燃料電池を用いて発電試験を行った。中間層形成方法、電池製造方法および燃料電池の運転方法は、サンプル1からサンプル5と同じである。
【0052】
図5は、サンプル6からサンプル10を用いた発電試験での初期の電流−電圧特性を示すグラフである。図5の横軸は電流密度[A/cm]、縦軸は電圧[mV]である。図6は、サンプル6からサンプル10を用いて電流密度を0.8A/cmで一定で連続運転した発電試験での電圧の経時変化を示すグラフである。図6の横軸は発電開始からの経過時間[h]、縦軸は電圧[mV]を示す。
【0053】
図5に示す通り、発電初期において、中間層中の結着材重量比を10%あるいは50%とすると、高電流密度0.8A/cmでの電圧が低下することが確認された。中間層中の結着材の重量比が10%であると、結着材として用いているPTFE粉末の撥水性の効果が少なく、高電流密度でのガス拡散性が低下したためと考えられる。中間層中の結着材の重量比が50%であると、PTFE粉末の撥水性の効果は高いものの、電気伝導性のないPTFE粉末を添加することによる抵抗増加に起因して発電初期の電圧が低下していると考えられる。
【0054】
また、図6に示す通り、PTFE粉末を重量比20%以上添加すると電圧低下が抑制されることがわかった。これは、中間層にPTFEを添加すると、PTFE固有の撥水効果によって中間層としてのフラッディングの発現が抑止されたためと考えられる。
【0055】
したがって、中間層中の結着材であるPTFEの重量割合は、20%以上40%以下であることが好ましい。
【0056】
中間層のフッ化カーボン(CFn)中のフッ素比率nが電池特性に与える影響を試験した。表3は、試験対象のサンプルの組成を示す。
【表3】

【0057】
この試験では、中間層中のカーボン粉末とフッ化カーボン粉末の混合比(CF/(C+CFn)を10重量%とし、また、中間層中の結着材量を30重量%とした。中間層のフッ化カーボン(CFn)中のフッ素比率n、すなわち、炭素原子(C)1個に対するフッ素原子(F)の個数が0.08、0.25、および、1.19の3種類の場合について試験を行った。中間層形成方法、電池製造法及び運転方法は実施例1記載と同じにしておこなった。中間層形成方法、電池製造方法および燃料電池の運転方法は、サンプル1からサンプル5と同じである。
【0058】
図7は、サンプル11からサンプル13を用いた発電試験での初期の電流−電圧特性を示すグラフである。図7の横軸は電流密度[A/cm]、縦軸は電圧[mV]である。図8は、サンプル11からサンプル13を用いて電流密度を0.8A/cmで一定で連続運転した発電試験での電圧の経時変化を示すグラフである。図8の横軸は発電開始からの経過時間[h]、縦軸は電圧[mV]を示す。
【0059】
図7に示す通り、フッ化カーボン(CFn)中のフッ素比率nが1.19となると電流密度0.8A/cmでの電圧低下が見られた。つまり、中間層を構成するフッ化カーボンのフッ素比率nが電池特性に影響を与えることが分かった。フッ素比率nが多くなると中間層における電気伝導性が低下して、電池電圧が低下したものと考えられる。
【0060】
また、図8に示すとおり、連続発電における経時特性はフッ化カーボン(CFn)中のフッ素比率nが0.08〜1.19の範囲では安定していることが確認された。
【0061】
したがって、中間層のフッ化カーボン(CFn)中のフッ素比率nは、0.08〜1.19の範囲にあれば電圧の安定性が良好であるが、初期特性も考慮すると0.08〜0.25の範囲内であることが好ましい。
【0062】
このように、電気伝導性を持つ粉末とフッ化カーボン粉末と結着材との混合粉末を用いて燃料電池の電極に中間層を形成することにより、電気伝導性を持つ無機粉末の親水性増加による中間層でのフラッディングの発現を抑制して、中間層フラッディングに起因するセル電圧低下を抑止することができる。また、その結果、長期的に電圧低下の少ない燃料電池を提供することができる。
【0063】
特に、中間層に含有されるフッ化カーボンのフッ化カーボンとカーボン粉末との合計に対する重量比が5〜15%の場合に、中間層におけるフラッディングの発現を抑止効果が大きい。また、中間層に含有される結着材であるPTFE重量比は、20%以上40%以下であることが好ましい。中間層のフッ化カーボン(CFn)中のフッ素比率nは、0.08〜1.19の範囲にあれば電圧の安定性が良好であるが、初期特性も考慮すると0.08〜0.25の範囲内であることが好ましい。
【0064】
本実施の形態では、中間層に含有されるカーボンとしてアセチレンブラックの例を用いて説明したが、微粒子であれば他を用いることができる。平均粒子径10〜100nmである、たとえばカーボンブラック、ケッチェンブラックなどの熱分解カーボン、あるいは黒鉛を用いても、同じ効果が得られる。また、本実施の形態では、中間層に含有される結着材として粉末PTFE樹脂を用いたが、PTFE懸濁液(分散液)を用いても同じ効果が得られる。平均粒子径が0.2〜500nmであるPTFEを用いても、同様の効果が得られる。中間層に含有されるカーボン粉末などの電気導電性を持つ粉末の平均粒子径は、発電試験に用いたサンプルのように、フッ化カーボン粉末および結着材よりも小さいほうが好ましい。
【0065】
また、本実施の形態では、中間層を粉体塗布により形成したが、得られる中間層組成が同様であれば、インクを用いた湿式で形成した中間層でもよい。本実施の形態では、結着材としてPTFE樹脂を用いたが、結着機能を持ち、かつ、燃料電池運転条件下で化学的安定であり、それ自体撥水性を示すフッ素系樹脂を用いることもできる。このようなフッ素系樹脂としては、たとえばFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、あるいはPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などがある。
【0066】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施の形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…単位セル、11…固体高分子電解質膜、14…冷却水供給セパレータ、15…冷却水供給溝、20…燃料極、21…燃料極ガス拡散基材、22…燃料極触媒層、23…燃料極中間層、24…燃料ガス供給セパレータ、25…燃料ガス供給溝、30…酸化剤極、31…酸化剤極ガス拡散基材、32…酸化剤極触媒層、33…酸化剤極中間層、34…酸化剤ガス供給セパレータ、35…酸化剤ガス供給溝、45…ガス拡散基材吸引ステージ、46…中間層形成チャンバー、47…混合物供給部、48…ガス供給部、49…ガス拡散基材、50…ガス流量調整部、51…排気ブロワー、52…圧力調整弁、53…ローラー、54…中間層付ガス拡散基材、55…中間層原料、56…微細粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜に接して設けられた触媒層と、
電気伝導性を持つ粉末とフッ化カーボン粉末と結着材とを含み前記電解質膜に対して反対側の面で前記触媒層に接して設けられた中間層と、
前記触媒層に対して反対側の面で前記中間層に接して設けられて電気伝導性を持ち多孔質のガス拡散基材と、
を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記フッ化カーボン粉末をCFnと表したとき、nは0.1以上1.19以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記フッ化カーボン粉末は前記電気伝導性を持つ粉末と前記フッ化カーボン粉末の総量に対して2重量%以上15重量%以下であることを特徴する請求項1または請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記結着材は前記中間層の総量に対して20重量%以上40重量%以下であることを特徴する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記電気伝導性を持つ粉末は熱分解カーボンおよび黒鉛のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記結着材はポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、および、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂から選択される1以上の物質からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記中間層に含有される電気伝導性を持つ粉末の平均粒子径は、前記中間層に含有されるフッ化カーボン粉末よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記中間層に含有される電気伝導性を持つ粉末の平均粒子径は、前記中間層に含有される結着材よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−113715(P2011−113715A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267372(P2009−267372)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】