説明

燃料電池

【課題】破損した電解質膜を備えるセルの電圧低下に起因する燃料電池全体としての出力低下の抑制。
【解決手段】ガス拡散層24内には、制御温度範囲内では固体であり、燃料電池NDに異常が発生し正常に動作できなくなる温度未満で融解あるいは可塑化し、かつ、電子伝導性を有する低融点合金100が設けられている。電解質膜20に損傷が生じて発熱し、電解質膜20の近傍の温度が所定以上になると、低融点合金100が融解して流動性を有し、重力により電解質膜20へ移動して損傷部分Xを封止する。この結果、反応ガスのリークが防止される。また、損傷部分Xに流れ込んだ低融点合金100により異常セルに短絡回路が形成され、発電反応により生じた電子が、低融点合金100を介してアノード21からカソード22へ移動する。この結果、異常セルは無能化して発電しなくなり、燃料電池全体としての発電性能の低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、電解質膜の破損時における修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池に用いられる電解質膜は、膜厚を薄く形成することにより、膜抵抗を低減してエネルギー効率を向上させている。一方、電解質膜は、薄膜化されることにより、強度が低下する。そのため、燃料電池への電解質膜の組み込み時や、燃料電池の動作異常発生時に、電解質膜が局所的に破損して電解質膜に穴が開き、この結果、燃料電池の反応ガスが電解質膜を透過する現象、いわゆるクロスリークが発生して、発電反応が進行しないという問題があった。
【0003】
上記問題を解決するために、電解質膜内に熱可塑性樹脂を配置し、この熱可塑性樹脂が電解質膜の局所的な破損によるクロスリークにより発熱して溶融し、破損箇所を充填することにより破損箇所を塞ぐ自己修復技術が提案されている(例えば、引用文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−355959号公報
【特許文献2】特開2007−48540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、破損箇所を塞いで修復することはできるが、修復した分だけ発電面積が減少し電圧が低下してしまう。複数のセルを積層して燃料電池を構成する場合、修復したセルの発電性能が低下し、燃料電池全体としての出力が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、破損した電解質膜を備えるセルの電圧低下に起因する燃料電池全体としての出力低下の抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池であって、電解質膜と、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に配置され、前記燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、前記燃料電池に異常が発生する温度未満の温度で融解する電子伝導性物質を含有する電子伝導性物質含有層と、を備える燃料電池。
【0009】
適用例1の燃料電池によれば、燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、燃料電池に異常が発生する温度未満の温度で融解する電子伝導性物質が含有された電子伝導性物質含有層が、電解質膜の鉛直方向上側に設けられている。従って、電子伝導性物質含有層に含まれる電子伝導性物質は、燃料電池が正常に動作する温度範囲内の温度では固体であり、燃料電池に異常が発生する温度未満で融解して流動性を持つ。燃料電池に異常が発生する前に、電子伝導性物質は流動性を持ち、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜へ移動するので、電解質膜における反応ガスのリーク箇所を電子伝導性物質により封止できる。また、電子伝導性物質が電解質膜の破損箇所に流れ込むことにより、破損した電解質膜を有する異常なセルに短絡回路が形成されるので、この異常なセルを安全に抵抗として利用継続することができる。この結果、燃料電池全体の出力低下を抑制できる。
【0010】
[適用例2]
適用例1の燃料電池であって、前記電子伝導性物質は、前記燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、前記燃料電池に異常が発生する温度未満の融点を有する低融点合金である。適用例2の燃料電池によれば、燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、燃料電池に異常が発生する温度未満の融点を有する低融点合金が電子伝導性物質として設けられている。従って、燃料電池に異常が発生する前に、低融点合金は融解して流動性を持ち、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜へ移動するので、燃料電池に異常が発生する前に、電解質膜における反応ガスのリーク箇所を封止でき、燃料電池の出力低下を抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例2の燃料電池であって、前記低融点合金は、スズ、ビスマス、鉛、カドミウム、インジウムのいずれかの元素の組み合わせからなる合金である。適用例3の燃料電池によれば、種々の元素を組み合わせて低融点合金を構成できる。
【0012】
[適用例4]
適用例1の燃料電池であって、前記電子伝導性物質は、導電性粒子を含有し、前記燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、前記燃料電池に異常が発生する温度未満の温度で可塑化する熱可塑性樹脂である。適用例4の燃料電池によれば、導電性粒子を含有し、燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、燃料電池に異常が発生する温度未満の温度で可塑化する熱可塑性樹脂が電子伝導性物質として設けられている。従って、燃料電池に異常が発生する前に、熱可塑性樹脂は融解して流動性を持ち、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜へ移動するので、燃料電池に異常が発生する前に、電解質膜における反応ガスのリーク箇所を封止できる。また、熱可塑性樹脂に含有される導電性粒子により、破損した電解質膜を有する異常なセルに短絡回路を形成できる。
【0013】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4いずれかの燃料電池であって、更に、前記電解質膜の一方の面に配置される第1の電極触媒層と、前記電解質膜の他方の面に配置される第2の電極触媒層と、を備え、前記電子伝導性物質含有層は、網目状のシート形状に形成されており、前記第1の電極触媒層および第2の電極触媒層のうち、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に設けられている触媒層上に配置されている。適用例5の燃料電池によれば、電子伝導性物質含有層は、網目状のシート形状に形成され、記電解質膜の面の鉛直方向上側に設けられている触媒層上に配置されている。従って、電子伝導性物質含有層は、燃料電池が正常に動作する温度範囲では、反応ガスの流通を阻害することがない。そして、電子伝導性物質含有層に含まれる電子伝導性物質は、燃料電池に異常が発生する前に融解し、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜へ移動するので、電解質膜における反応ガスのリーク箇所を封止できる。
【0014】
[適用例6]
適用例1ないし適用例4いずれかの燃料電池であって、前記電解質膜の面の鉛直方向下側に配置される第1の触媒層を備え、前記電子伝導性物質は、粒子状に形成されており、前記電子伝導性物質含有層は、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に配置され、前記粒子状に形成された電子伝導性物質を含有する第2の触媒層である。適用例6の燃料電池によれば、電子伝導性物質含有層は、粒子状に形成された電子伝導性物質を含有する触媒層として形成されている。従って、従来の燃料電池の構成に、新たに別の層を形成する必要がないので、燃料電池の大型化を抑制できる。
【0015】
[適用例7]
適用例1ないし適用例4いずれかの燃料電池であって、更に、前記電解質膜の一方の面に配置される第1の電極触媒層と、前記電解質膜の他方の面に配置される第2の電極触媒層と、を備え、前記第1の電極触媒層と前記第2の電極触媒層のうち、前記電解質膜の面の鉛直方向下側に配置されている電極触媒層の外側に配置され、前記燃料電池の電気化学反応に利用される反応ガスを拡散する第1のガス拡散層と、を備え、前記電子伝導性物質は、粒子状に形成されており、前記電子伝導性物質含有層は、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に設けられている電極触媒層の外側に配置され、前記粒子状に形成された電子伝導性物質を含有し、前記燃料電池の電気化学反応に利用される反応ガスを拡散する第2のガス拡散層である。適用例7の燃料電池によれば、電子伝導性物質含有層は、粒子状に形成された電子伝導性物質を含有するガス拡散層として形成されている。従って、従来の燃料電池の構成に、新たに別の層を形成する必要がないので、燃料電池の大型化を抑制できる。
【0016】
本発明において、上述した種々の態様は、適宜、組み合わせたり、一部を省略したりして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施例に係る燃料電池の概略構成を例示した説明図。
【図2】燃料電池セルCLの概略構成を表わす断面模式図。
【図3】第1実施例における燃料電池セルCLの無能化について説明する模式図。
【図4】第1実施例における低融点合金100の例を示す一覧表。
【図5】第2実施例における燃料電池セルCL2の概略構成を表わす断面模式図。
【図6】第2実施例における電子伝導性物質含有層400を例示する平面図。
【図7】第2実施例における燃料電池セルCL2の無能化について説明する模式図。
【図8】第2実施例における熱可塑性樹脂400の例を示す一覧表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施例:
A1.燃料電池の構成:
図1は、第1実施例に係る燃料電池の概略構成を例示した説明図である。本実施例の燃料電池NDは、固体高分子型の燃料電池であり、酸化ガス(例えば、空気)と、燃料ガス(例えば、水素)とを用いて発電を行う。燃料電池NDは、複数の燃料電池セルCLと、2つのエンドプレートEPと、を備えている。燃料電池セルCLは、ターミナルTMを挟んで、2つのエンドプレートEPによって挟持されている。燃料電池NDは、複数の燃料電池セルCLが、積層された層状構造を有し、エンドプレートEPが備える水素供給用の貫通孔および空気供給用の貫通孔からそれぞれ水素および空気の供給を受けて発電をおこなう。また、燃料電池NDは、テンションプレート(図示せず)がボルト(図示せず)によって各エンドプレートEPに結合されることによって、燃料電池セルCLを、積層方向に所定の力で締結する構造となっている。なお、燃料電池NDは、ターミナルTMとエンドプレートEPとの間に、絶縁を確保するためインシュレータを備えていてもよい。第1実施例の燃料電池NDは、正常に動作できる温度(以降、本明細書では、「制御温度」と呼ぶ)の上限が100℃以上200℃未満の範囲である。
【0019】
図2は、燃料電池セルCLの概略構成を表わす断面模式図である。燃料電池セルCLは、電解質膜20、アノード21、カソード22、ガス拡散層23,24、セパレータ25,26と、を備える。
【0020】
電解質膜20は、固体高分子材料であるフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す。なお、電解質膜20は、フッ素系樹脂に限ることなく、例えば、炭化水素系樹脂で構成されていてもよい。
【0021】
アノード21およびカソード22は、電解質膜20上に形成された電極層であり、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)と、によって構成することができる。具体的には、触媒担持カーボン粒子および高分子電解質を含有する電極ペーストを作製し、この電極ペーストを、電解質膜20上に塗布し、乾燥・固着させることにより形成することができる。なお、アノード21、または、カソード22に含まれる電解質は、フッ素系樹脂に限ることなく、例えば、炭化水素系樹脂で構成されていてもよい。以下において、電解質膜20と、アノード21およびカソード22とから成る積層体を、膜電極接合体(MEA(Membrane Electrode Assembly))28と呼ぶ。
【0022】
ガス拡散層23,24は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパなどの多孔質カーボン製部材により形成することができる。セパレータ25,26は、ガス不透過の導電性部材によって形成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成することができる。セパレータ25,26は、表面にガス流路を形成するための凹凸形状を有している。セパレータ25は、ガス拡散層23との間に、水素を含有する燃料ガスが通過するセル内燃料ガス流路30を形成する。また、セパレータ26は、ガス拡散層24との間に、酸素を含有する酸化ガスが通過するセル内酸化ガス流路31を形成する。
【0023】
燃料電池NDは、各燃料電池セルCLのカソード22が電解質膜20に対して鉛直方向上側に位置するように、水平に配置されている。燃料電池セルCLのガス拡散層24内には、制御温度範囲内では固体であり、燃料電池NDに異常が発生し正常に動作できなくなる温度未満で融解あるいは可塑化し、かつ、電子伝導性を有する電子伝導性物質100が設けられている。第1実施例において、ガス拡散層24は、特許請求の範囲における「電子伝導性物質含有層」に当たる。本明細書では、制御温度範囲の上限以上かつ燃料電池NDに異常が発生し正常に動作できなくなる温度未満の所定の温度を「限界耐熱温度 」と呼ぶ。なお、「燃料電池NDに異常が発生し正常に動作できなくなる温度」とは、電解質膜20、ガスケット(図示省略)、セパレータ25、26が融解、分解してしまう温度を示す。電子伝導性物質100は、以下の式1の関係を有する。
【0024】
制御温度の上限<電子伝導性物質100の融解あるいは可塑化する温度<限界耐熱温度 T<電解質膜20、ガスケット(図示省略)、セパレータ25、26の耐熱温度のうち最も低い温度C …(式1)
ただし、
限界耐熱温度T=温度C * 安全係数S
安全係数S=0.7〜0.99
【0025】
第1実施例では、電子伝導性物質100は、スズ、ビスマス、鉛、カドミウム、インジウムのいずれかの元素の組み合わせから構成され、100℃〜200℃の範囲内に融点を有する低融点合金であり、より具体的には、式1にしめすように、制御温度<低融点合金100の融点<限界耐熱温度 を満たしている。以降、第1実施例では、電子伝導性物質100を低融点合金100と呼ぶ。
【0026】
A2.異常セルの無能化:
図3は、第1実施例における燃料電池セルCLの無能化について説明する模式図である。図3(a)は、燃料電池セルCLの電解質膜20の破損状態を示しており、図3(b)は、燃料電池セルCLの電解質膜20の破損箇所への低融点合金100の流れ込みによる燃料電池セルCLの無能化を示している。
【0027】
図3(a)に示すように、電解質膜20に局所的な損傷が発生すると、反応ガスが発電反応に利用されずに電解質膜20の損傷部分Xを透過する、いわゆるクロスリークが生じる。クロスリークを招く電解質膜20の破損(穴が開く)の原因には、MEA28の製造時の熱や力学的な損傷、燃料電池スタック製造時の締め付け圧力、燃料電池動作時に生成される水および電解質膜20加湿用の水による電解質膜20の膨張収縮サイクルに起因する損傷等種々の要因が挙げられる。クロスリークが生じると、クロスリークの生じた燃料電池セルの発電性能が低下し、燃料電池全体として、所望の出力が得られなくなる。
【0028】
第1実施例では、低融点合金100を用いて、損傷部分Xを封止するとともに、異常セルに短絡回路を形成し、異常セルを無能化することにより、異常セルの発電性能の低下を抑制する。
【0029】
第1実施例では、スズ(Sn):48%、インジウム(In):52%の低融点合金を利用する。この低融点合金100の融解温度は、117℃である。また、第1実施例では、制御温度=100℃、限界耐熱温度 >117℃である。
【0030】
図3(a)に示すように、電解質膜20に損傷Xが生じると、異常発熱し、制御温度の上限を超え、異常セルの電解質膜20近傍の温度が徐々に上昇する。第1実施例の低融点合金100は、融点が117℃であるので、電解質膜20の近傍の温度が117℃となると、低融点合金100が融解し、流動性を有する。ここで、第1実施例の低融点合金100は、電解質膜20の鉛直方向上側のガス拡散層24内に設けられているので、流動性を持った低融点合金100は、重力により電解質膜20方向へ移動し、損傷部分Xに流れ込み、損傷部分Xを封止する。この結果、反応ガスのリークが防止される。また、低融点合金100は、電子伝導性を有しているので、発電反応により生じた電子が、損傷部分Xに流れ込んだ低融点合金100内を伝導し、アノード21からカソード22へ移動する。すなわち、低融点合金100により、異常セルに短絡回路が形成される。この結果、異常セルは無能化して発電しなくなり、安全に抵抗として継続利用できる。
【0031】
A3.低融点合金:
図4は、第1実施例における低融点合金100の例を示す一覧表である。一覧表200は、「合金」と「融解温度」の2項目から構成されている。なお、合金を構成する元素として、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)が挙げられている。上述した48%のSnと、52%のInからなる低融点合金以外にも、一覧表200に示すように、例えば、48.8%のSnと、10.2%のBiと、41%のPbからなる低融点合金を適用することができ、かかる低融点合金の融解温度は142℃である。この低融点合金を適用する場合、燃料電池NDの制御温度の上限を140℃程度に設定可能となる。一覧表200に示すように、種々の組み合わせの合金を低融点合金100として適用可能である。なお、一覧表200に示した組み合わせ以外の組み合わせの合金を適用してもよい。
【0032】
以上説明した第1実施例の燃料電池によれば、燃料電池NDが制御温度範囲の上限温度以上、かつ、燃料電池NDの限界耐熱温度 T未満の温度で融解する電子伝導性物質100を含有するガス拡散層24が、電解質膜20の鉛直方向上側に設けられている。従って、電子伝導性物質100は、燃料電池NDが制御温度範囲内の温度Cでは固体であり、燃料電池NDに限界耐熱温度 T未満で融解して流動性を持つ。燃料電池NDに異常が発生する前に、電子伝導性物質100は流動性を持ち、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜20へ移動するので、電解質膜20における反応ガスのリーク箇所を電子伝導性物質100により封止できる。また、電子伝導性物質100が電解質膜20の破損箇所に流れ込むことにより、破損した電解質膜20を有する異常なセルに短絡回路が形成されるので、この異常なセルを安全に抵抗として利用継続することができ、該異常セルの発電性能低下を抑制できる。この結果、燃料電池ND全体の出力低下を抑制できる。
【0033】
また、第1実施例の燃料電池NDによれば、燃料電池NDの制御温度の上限温度以上、かつ、燃料電池NDの限界耐熱温度 T未満の範囲内に融解温度を有する低融点合金100が電子伝導性物質として利用されている。従って、燃料電池NDに異常が発生する前に、低融点合金100は融解して流動性を持ち、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜20へ移動することができる。
【0034】
また、第1実施例の燃料電池NDによれば、種々の元素を組み合わせて低融点合金100を構成できる。また、第1実施例の燃料電池NDによれば、低融点合金100は、粒子状に形成されているので、ガス拡散層内に容易に配置できるとともに、新たに、電子伝導性物質含有層を形成する必要がないので、燃料電池NDの大型化を抑制できる。
【0035】
B.第2実施例:
第2実施例では、導電性粒子を含有する熱可塑性樹脂を用いて、網目状のシート形状に形成された電子伝導性物質含有層が、カソードとガス拡散層との間に配置されている。
【0036】
B1.燃料電池セルCL2の構成:
図5は、第2実施例における燃料電池セルCL2の概略構成を表わす断面模式図である。燃料電池セルCL2は、電解質膜320、アノード321、カソード322、ガス拡散層323,324、セパレータ325,326、電子伝導性物質含有層400を備える。燃料電池セルCL2において、電解質膜320、アノード321、カソード322、ガス拡散層323、セパレータ325および326は、第1実施例の電解質膜20、アノード21、カソード22、ガス拡散層23、セパレータ25および26と同様の機能および構成を備える。ガス拡散層324は、内部に電子伝導性物質100が含まれていないこと以外は、第1実施例のガス拡散層24と同様の機能、構成を備える。
【0037】
電子伝導性物質含有層400は、金属微粒子やカーボン粉末、カーボンファイバー等の導電性粒子を含有し、100℃〜200℃の範囲内の融解温度を有する熱可塑性樹脂を用いて、図6に示すように、網目状のシート形状に形成されている。電子伝導性物質含有層400は、カソード322とガス拡散層324の間に配置されている。以上、第2実施例では、電子伝導性物質含有層400を熱可塑性樹脂400と呼ぶ。
【0038】
B2.異常セルの無能化:
図7は、第2実施例における燃料電池セルCL2の無能化について説明する模式図である。図7(a)は、燃料電池セルCL2の電解質膜320の破損状態を示しており、図7(b)は、燃料電池セルCL2の電解質膜320の破損箇所への熱可塑性樹脂400の流れ込みによる燃料電池セルCL2の無能化を示している。
【0039】
第2実施例では、熱可塑性樹脂400として、カーボン粉末を含有する超高分子量ポリエチレンを利用する。熱可塑性樹脂400としての超高分子量ポリエチレンの融点は、136℃である。また、第2実施例では、制御温度=120℃、限界耐熱温度 >136℃である。
【0040】
図7(a)に示すように、電解質膜320に損傷が生じると、異常発熱し、制御温度の上限を超え、異常セルの電解質膜320近傍の温度が徐々に上昇する。第2実施例の熱可塑性樹脂400は、融点が136℃であるので、電解質膜320の近傍の温度が136℃となると、熱可塑性樹脂400が融解し、流動性を有する。ここで、熱可塑性樹脂400は、電解質膜320の鉛直方向上側のガス拡散層324内に設けられているので、流動性を持った熱可塑性樹脂400は、重力により鉛直方向下方に位置する電解質膜320方向へ移動し、損傷部分Xに流れ込み、損傷部分Xを封止する。この結果、反応ガスのリークが防止される。また、熱可塑性樹脂400は、電子伝導性を有するカーボン粉末を含有しているので、発電反応により生じた電子が、損傷部分Xに流れ込んだ熱可塑性樹脂400を伝導し、アノード321からカソード322へ移動する。すなわち、熱可塑性樹脂400により、異常セルに短絡回路が形成される。この結果、異常セルは無能化して発電しなくなり、異常セルの発電性能の低下が抑制される。
【0041】
B3.熱可塑性樹脂:
図8は、第2実施例における熱可塑性樹脂400の例を示す一覧表である。熱可塑性樹脂400として、上述した超高分子量ポリエチレン以外にも、種々の熱可塑性樹脂を適用できる。図8(a)は、ガラス転移温度が100℃〜200℃の範囲内の熱可塑性樹脂の例を示しており、図8(b)は、融点が100℃〜200℃の範囲内の熱可塑性樹脂を示している。一覧表500は、「熱可塑性樹脂」と「ガラス転移温度」の2項目から構成されている。一覧表500に示すように、例えば、熱可塑性樹脂400としてポリメチルメタクリレートを適用でき、このガラス転移温度は72〜105℃である。他に、熱可塑性樹脂400として、AS樹脂を適用でき、このガラス転移温度は115℃である。また、一覧表510は、「熱可塑性樹脂」と「融点」の2項目から構成されている。一覧表510に示すように、例えば、熱可塑性樹脂400として、低密度ポリエチレンを適用でき、この融点は108〜122℃である。他に、熱可塑性樹脂400として、ナイロン11を適用でき、この融点は187℃である。このように、熱可塑性樹脂400として、式1を満たすガラス転移温度、融解温度を有する熱可塑性樹脂を適用可能である。なお、導電性粒子を含有可能な、式1を満たすガラス転移温度、融解温度熱可塑性樹脂であれば、一覧表500、510に示した熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を適用してもよい。
【0042】
以上説明した第2実施例の燃料電池によれば、導電性粒子を含有し、燃料電池の制御温度範囲の上限温度以上、かつ、燃料電池の限界耐熱温度T未満の温度で可塑化する熱可塑性樹脂400が設けられている。従って、燃料電池に異常が発生する前に、熱可塑性樹脂400は融解して流動性を持ち、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜320へ移動するので、燃料電池に異常が発生する前に、電解質膜320における反応ガスのリーク箇所を封止できる。また、熱可塑性樹脂400に含有される導電性粒子により、破損した電解質膜320を有する異常なセルに短絡回路を形成できる。
【0043】
また、第2実施例の燃料電池によれば、電子伝導性物質としての熱可塑性樹脂400は、網目状のシート形状に形成されている。従って、燃料電池の制御温度範囲では、反応ガスの流通を阻害することがなく、燃料電池に異常が発生する前に融解し、重力によって鉛直方向下方に位置する電解質膜320へ移動するので、電解質膜320における反応ガスのリーク箇所を封止できる。
【0044】
C.変形例:
(1)上述の第1実施例では、低融点合金100は、ガス拡散層24内に粒子状に散布されているが、例えば、粒子状に形成された低融点合金100が、電解質膜20の鉛直方向上側に配置されている触媒層内に設けられていてもよい。こうすれば、ガス拡散層内のガスの流通が阻害されることを抑制できる。
【0045】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成をとることができる。
【符号の説明】
【0046】
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23…ガス拡散層
24…ガス拡散層
25…セパレータ
26…セパレータ
30…セル内燃料ガス流路
31…セル内酸化ガス流路
100…低融点合金
320…電解質膜
321…アノード
322…カソード
323…ガス拡散層
324…ガス拡散層
325…セパレータ
400…熱可塑性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と、
前記電解質膜の面の鉛直方向上側に配置され、前記燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、前記燃料電池に異常が発生する温度未満の温度で融解する電子伝導性物質を含有する電子伝導性物質含有層と、
を備える燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記電子伝導性物質は、前記燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、前記燃料電池に異常が発生する温度未満の融点を有する低融点合金である、
燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記低融点合金は、スズ、ビスマス、鉛、カドミウム、インジウムのいずれかの元素の組み合わせからなる合金である、
燃料電池。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記電子伝導性物質は、導電性粒子を含有し、前記燃料電池が正常に動作する温度範囲の上限温度以上、かつ、前記燃料電池に異常が発生する温度未満の温度で可塑化する熱可塑性樹脂である、
燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4いずれか記載の燃料電池であって、更に、
前記電解質膜の一方の面に配置される第1の電極触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に配置される第2の電極触媒層と、を備え、
前記電子伝導性物質含有層は、網目状のシート形状に形成されており、前記第1の電極触媒層および第2の電極触媒層のうち、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に設けられている触媒層上に配置されている、
燃料電池。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4いずれか記載の燃料電池であって、更に、
前記電解質膜の面の鉛直方向下側に配置される第1の触媒層を備え、
前記電子伝導性物質は、粒子状に形成されており、
前記電子伝導性物質含有層は、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に配置され、前記粒子状に形成された電子伝導性物質を含有する第2の触媒層である、
燃料電池。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4いずれか記載の燃料電池であって、更に、
前記電解質膜の一方の面に配置される第1の電極触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に配置される第2の電極触媒層と、
前記第1の電極触媒層と前記第2の電極触媒層のうち、前記電解質膜の面の鉛直方向下側に配置されている電極触媒層の外側に配置され、前記燃料電池の電気化学反応に利用される反応ガスを拡散する第1のガス拡散層と、を備え、
前記電子伝導性物質は、粒子状に形成されており、
前記電子伝導性物質含有層は、前記電解質膜の面の鉛直方向上側に設けられている電極触媒層の外側に配置され、前記粒子状に形成された電子伝導性物質を含有し、前記燃料電池の電気化学反応に利用される反応ガスを拡散する第2のガス拡散層である、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−34721(P2011−34721A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177893(P2009−177893)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】