説明

燃料電池

【課題】出力性能が向上された燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体1と、アノードガス拡散層9に面して設けられ、燃料取入れ面を有する燃料導入部30と、前記燃料取入れ面に面した燃料排出口22を有し、前記燃料排出口22を通して前記燃料導入部30に燃料を供給する燃料供給部2と、カソードガス拡散層12に面して設けられ、外表面に酸化剤を取入れるための開口を有する酸化剤導入部40を含み、前記膜電極接合体1の厚さ(TM)が700μm以上900μm以下の範囲であり、前記外表面から前記取入れ面までの厚さ(TC)と、前記膜電極接合体1の厚さ(TM)の比(TC/TM)が、2.3以上4.5以下の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に関し、特に液体燃料を用いた直接供給型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わって、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell: DMFC)は、水素ガスを燃料として使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れている。
【0003】
DMFCでは、アノード(燃料極)においてメタノールの酸化分解反応(内部改質反応)が生じ、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成する。一方、カソード(空気極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成する。
【0004】
発電反応により空気極で生成した水は電解質膜を透過して空気極側から燃料極側へ拡散し、メタノールの酸化分解に利用される。この水が不足すると、メタノールの内部改質反応の反応抵抗が高くなるため、十分な出力特性を得られなくなる。しかしながら、空気極で生成した水を効率良く燃料極側へ移行させるために空気極の保湿性を高めると、空気極の透気度が低下する。空気極の透気度が低いと、空気極への空気の流入が制限され、出力低下をもたらすという不都合がある。
【0005】
そこで、これまでに、空気極を構成する層と燃料極を構成する層との関係を規定する提案がなされている。例えば特許文献1には、アノード触媒層の平均厚みがカソード触媒層の平均厚みよりも小さい燃料電池用膜-電極接合体が開示されている(請求項1、2及び4)。また、特許文献2には、アノード側の触媒層の平均厚さ/カソード側の触媒層の平均厚さが0.1〜0.6の関係を有する燃料電池が開示されている(請求項9)。特許文献3には、カソード側ガス拡散電極及びカソード側触媒電極の少なくとも一方の厚みが、アノード側ガス拡散電極及びアノード側触媒電極の少なくとも一方の厚みに比べて厚いことを特徴とする燃料電池が開示されている(請求項3)。特許文献4には、アノード触媒層の平均厚みが、カソード触媒層の平均厚みの1/10〜1/2である燃料電池用膜電極接合体が開示されている(請求項4)。特許文献5には、アノード側触媒層がカソード側触媒層よりも、厚さが薄く形成されている膜電極接合体が開示されている(請求項1)。特許文献6には、空気極の電極触媒層の厚さが100μm〜350μmである燃料電池用電極、及び、燃料極の電極触媒層の厚さが50μm〜250μmである燃料電池用電極が開示されている(請求項8及び9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開番号WO2005/106994号公報
【特許文献2】特開2006-179463号公報
【特許文献3】特開2002-367655号公報
【特許文献4】特開2008-176990号公報
【特許文献5】特開2008-277005号公報
【特許文献6】特開平07-201334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、出力性能が向上された燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池は、アノード触媒層及び前記アノード触媒層の一方の面に面して設けられたアノードガス拡散層を備えるアノードと、カソード触媒層及び前記カソード触媒層の一方の面に面して設けられたカソードガス拡散層を備えるカソードと、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に面して設けられ、燃料取入れ面を有する燃料導入部、
前記燃料取入れ面に面した燃料排出口を有し、前記燃料排出口を通して前記燃料導入部に燃料を供給する燃料供給部、及び、
前記カソードガス拡散層に面して設けられ、外表面に酸化剤を取入れるための開口を有する酸化剤導入部を含み、
前記膜電極接合体の厚さ(TM)が700μm以上900μm以下の範囲であり、
前記外表面から前記取入れ面までの厚さ(TC)と、前記膜電極接合体の厚さ(TM)の比(TC/TM)が、2.3以上4.5以下の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、出力性能が向上された燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本実施形態に係る燃料電池を示す内部透視断面図である。
【図2】図2は、図1の燃料電池の燃料供給部を示す斜視図である。
【図3】図3は、図1の一部を拡大した断面模式図である。
【図4】図4は、本発明の燃料電池の一実施態様を示す断面模式図である。
【図5】図5は、実施例1における初期出力の測定結果を示す。
【図6】図6は、実施例1における出力維持率の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の燃料電池について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池100の内部透視断面図であり、図2は、図1の燃料電池の燃料供給部2を示す斜視図である。
【0012】
図1に示す燃料電池100は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)1と、MEA1に燃料を導入するための燃料導入部30と、MEA1に酸化剤を導入するための酸化剤導入部40と、燃料を燃料導入部30に供給するための燃料供給部2と、燃料供給部2に供給する液体燃料Fが収容される燃料収容部3と、燃料供給部2と燃料収容部3とを接続する流路4とから主として構成されている。
【0013】
MEA1は、アノード(燃料極)5と、カソード(空気極)6と、燃料極5及び空気極6の間に配置されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜7とから構成される。
【0014】
燃料極5は、電解質膜7の一方の面と対向している燃料極触媒層8と、燃料極触媒層8に積層された燃料極ガス拡散層9とを有する。空気極6は、電解質膜7の他方の面と対向している空気極触媒層11と、空気極触媒層11に積層された空気極ガス拡散層12とを有する。
【0015】
電解質膜7にはプロトン伝導性材料が含まれ、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(デュポン社製の商品名ナフィオン(登録商標)や旭硝子社製の商品名フレミオン(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸重合体等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、無機物(例えば、タングステン酸、リンタングステン酸、硝酸リチウムなど)等が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
燃料極触媒層8および空気極触媒層11には、触媒及びプロトン伝導性材料が含まれる。触媒は、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などが用いられる。具体的には、燃料極側の触媒として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなど、空気極側の触媒として、白金やPt−Niなどが好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。上記の触媒は、炭素材料のような導電性担持体に担持された担持触媒として使用することもでき、あるいは単独で無担持触媒として使用することもできる。触媒層に含まれるプロトン伝導性材料は、上記の電解質膜7に含まれるものと同様であってよい。
【0017】
燃料極ガス拡散層9は、燃料極触媒層8に燃料ガスを均一に供給する役割を果たすと同時に、燃料極触媒層8の集電体も兼ねている。空気極ガス拡散層12は、空気極触媒層11に酸化剤ガスを均一に供給する役割を果たすと同時に、空気極触媒層11の集電体も兼ねている。燃料極ガス拡散層9及び空気極ガス拡散層12は、導電性を有し、燃料ガスや酸化剤ガスなどの反応ガスを拡散させ得る物質により形成され、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスから形成される。
【0018】
なお、ガス拡散層を形成するカーボンは、黒鉛化されたカーボンであることが好ましい。黒鉛化されたカーボンは、Fe等の不純物が減少している。よって、黒鉛化されたカーボンを使用することにより、触媒の被毒を減少させ、発電性能を向上させることができる。ガス拡散層を形成するカーボンにおけるFe残留量は10ppm以下であることが望ましい。
【0019】
燃料導入部30は、燃料供給部2の燃料排出口22から排出された燃料をMEA1に供給する機能を有し、燃料極ガス拡散層9と燃料供給部2との間に配置される構成がこの燃料導入部30に含まれる。燃料導入部30は、燃料極ガス拡散層9に面して設けられ、燃料供給部2の燃料排出口22と接する燃料取入れ面を有する。ここで燃料取入れ面とは、燃料供給部2の燃料排出口22と接する層の燃料排出口22側の表面を指す。
【0020】
図1に示す燃料導入部30には、導電層14及び燃料拡散層19が含まれている。しかしながらこれに限定されず、燃料拡散層19が含まれなくてもよく、或いは他の層を含んでいてもよい。
【0021】
導電層14は、例えば、金、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などから構成される。燃料拡散層19は、燃料ガスの均一な拡散を促進し、燃料極触媒層8へ燃料ガスを均一に供給するために備えられ、例えば多孔質材などから構成されてよい。
【0022】
酸化剤導入部40は、外部から空気などの酸化剤を取入れ、MEA1に供給する機能を有し、燃料電池の外装(例えばカバープレート)から、空気極ガス拡散層12に隣接して配置される構成がこの酸化剤導入部40に含まれる。酸化剤導入部40は、空気極ガス拡散層12に面して設けられ、外表面に酸化剤を取入れるための開口を有する。
【0023】
図1に示す酸化剤導入部40には、導電層13、保湿層18及びカバープレート16が含まれている。カバープレート16は最も外側に配置され、酸化剤である空気を取入れるための開口部を有している(図示は省略)。このようなカバープレート16を備えることにより、酸化剤を供給するためのブロワを用いることなく、酸化剤をカソード6に自然供給することができる。なお、酸化剤は、空気に限定されるものではなく、O2を含むガスを使用することも可能である。
【0024】
カバープレート16と空気極ガス拡散層12の間には、導電層13及び保湿層18が含まれる。しかしながらこれに限定されず、保湿層18が含まれなくてもよく、或いは、例えば多孔質層のような他の層を含んでいてもよい。導電層13は、上述した燃料導入部30に含まれる導電層14と同様のものであってよい。保湿層18は、空気極触媒層11で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カバープレート16の開口部から取り込んだ空気の空気極触媒層11への取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するための層であってよい。また多孔質層は、発電反応により空気極で生成して燃料極側に移行した水を、燃料極において保持するための層であってよい。
【0025】
燃料供給部2は、燃料導入部30に面して配置され、燃料収容部3から供給された燃料を燃料導入部30へ排出する。燃料供給部2には、例えば、燃料分配機構2が使用される。
【0026】
燃料分配機構2は、図2に示すように、液体燃料が流路4を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口21と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口22とを有する燃料分配板23を備えている。燃料分配板23の内部には、燃料注入口21から導かれた液体燃料の通路となる空隙部24が設けられている。複数の燃料排出口22は燃料通路として機能する空隙部24にそれぞれ直接接続されている。
【0027】
燃料分配板23は、例えば、液体燃料の気化成分や液体燃料を透過させない材料で構成され、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリイミド系樹脂等で構成される。
【0028】
複数の燃料排出口22には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。気液分離体は燃料分配機構2と燃料導入部30との間に気液分離膜等として設置してもよい。
【0029】
燃料排出口22はMEA1の全体に燃料を供給することが可能なように、燃料分配板23の燃料極5と対向する面に複数設けられている。燃料排出口22の個数は2個以上であればよいが、MEA1の面内における燃料供給量を均一化する上で、0.1〜10個/cm2の燃料排出口22が存在するように形成することが好ましい。燃料排出口22の個数が0.1個/cm2未満であると、MEA1に対する燃料供給量を十分に均一化することができない。燃料排出口22の個数を10個/cm2を超えて形成しても、それ以上の効果が得られない。
【0030】
燃料分配機構2は、流路4を介して燃料収容部3と接続されており、燃料収容部3から流路4を介して液体燃料が導入される。流路4は、例えば、燃料分配機構2や燃料収容部3と独立した配管であってよいが、これに限定されない。例えば、燃料分配機構2と燃料収容部3とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。
【0031】
燃料収容部3から燃料分配機構2に供給された液体燃料は、空隙部24に入り、複数の燃料排出口22に導かれる。そして、液体燃料の気化成分が複数の燃料排出口22から燃料導入部30に向けて排出される。燃料分配機構2の空隙部24はバッファとして機能するため、複数の燃料排出口22からそれぞれ規定濃度の燃料が排出される。そして、複数の燃料排出口22はMEA1の全面に燃料が供給されるように配置されているため、MEA1に対する燃料供給量を均一化することができる。
【0032】
燃料分配機構2から均一に放出された燃料は、燃料導入部30を介してMEA1に導入される。MEA1において燃料は燃料極ガス拡散層9を拡散して燃料極触媒層8に供給される。
【0033】
燃料としてメタノール燃料を使用する場合には、次の式(A)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
【0034】
CHOH+HO → CO+6H+6e …式(A)
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜7を伝導し、空気極触媒層11に到達する。酸化剤導入部40を介してMEA1に導入される気体燃料(たとえば空気)は、空気極ガス拡散層12を拡散して、空気極触媒に供給される。空気極触媒に供給された空気は、次の式(B)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0035】
(3/2)O+6H+6e → 3HO …式(B)
発電反応により生じた水は、空気極6から電解質膜7を通して燃料極触媒層8に供給される。
【0036】
電解質膜7とカバープレート16の間、及び、電解質膜7と燃料分配機構2との間には、それぞれゴム製のOリング15が介在されており、これらによってMEA1からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。
【0037】
燃料収容部3には、MEA1に対応した液体燃料Fが収容されている。液体燃料Fとしては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料Fは必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料Fは、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部3にはMEA1に応じた液体燃料Fが収容される。
【0038】
液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、複数の燃料排出口22を有する燃料分配機構2の特徴がより顕在化するのは燃料濃度が濃い場合である。このため、燃料電池は、濃度が80%以上のメタノール水溶液もしくは純メタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。
【0039】
液体燃料を燃料収容部3から燃料分配機構2まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部3から燃料分配機構2まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路4を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部3から燃料分配機構2まで送液することができる。或いは、図1に示すように、流路にポンプ17を設置し、ポンプ17によって燃料収容部3から燃料分配機構2へ送液してもよい。また或いは、燃料分配機構2からMEA1への燃料供給が行われる構成とし、ポンプ17に代えて燃料遮断バルブを配置することも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0040】
図3は、図1における酸化剤導入部40、MEA1、及び燃料導入部30の部分を拡大した断面模式図である。
本発明の燃料電池100では、MEA1の厚さ(TM)が700μm以上900μm以下の範囲である。また、酸化剤導入部40の外表面から燃料導入部30の取入れ面までの厚さ(TC)と、MEA1の厚さ(TM)の比(TC/TM)が2.3以上4.5以下の範囲である。
【0041】
TC/TMが2.3以上4.5以下であると、燃料導入部30から、燃料極ガス拡散層9及び燃料極触媒層8に対して、面内で燃料が均一に過不足無く供給され、且つ、酸化剤導入部40から、空気極ガス拡散層12及び空気極触媒層11に対して、面内で酸化剤が均一に過不足無く供給されることにより、燃料極5及び空気極6のそれぞれにおける反応のバランスがとれ、これによって出力が向上される。また、燃料及び酸化剤の供給のバランスが良いために両極の反応レベルが安定し、長期にわたり安定した出力を得ることができる。
【0042】
TC/TMが2.3未満であると、燃料導入部30及び酸化剤導入部40の厚さが十分に確保されず、燃料及び酸化剤が面内で均一に供給できなくなり、出力が低下する。一方、TC/TMが4.5を越えると、燃料導入部30及び酸化剤導入部40の厚さが大きすぎ、燃料及び酸化剤が面内で均一に供給できなくなり、出力が低下する。
【0043】
MEA1の厚さ(TM)は、燃料極5及び空気極6のそれぞれの触媒層及びガス拡散層の厚さ、及び、電解質膜7の厚さを変化させることにより調整することができる。また、酸化剤導入部40の外表面から燃料導入部30の取入れ面までの厚さ(TC)は、酸化剤導入部40及び燃料導入部30に含まれる各層の厚さを変化させることにより調整することができる。また或いは、酸化剤導入部40及び燃料導入部30に任意の層を追加または除去することにより調整してもよい。
【0044】
また、燃料導入部の厚さ(Af)と、MEA1の厚さ(TM)の比(Af/TM)が0.3以上1以下の範囲であることが好ましい。Af/TMが0.3〜1の範囲内であると、燃料導入部30から燃料極ガス拡散層9及び燃料極触媒層8に燃料がより均一に供給され、またよりバランスよく供給されるため、出力がさらに向上される。
【0045】
またさらに、酸化剤導入部の厚さ(Co)と、MEA1の厚さ(TM)の比(Co/TM)が1以上2.5以下の範囲であることが好ましい。Co/TMが1〜2.5の範囲内であると、酸化剤導入部40から空気極ガス拡散層12及び空気極触媒層11に酸化剤がより均一に供給され、またよりバランスよく供給されるため、出力がさらに向上される。
【0046】
本発明の一つの態様において、空気極6の厚さ(Cd)と、燃料極5の厚さ(Ad)の比(Cd/Ad)は、0.4以上0.7以下の範囲であることが好ましい。
空気極6の厚さ(Cd)が薄すぎる場合、反応により生成した水が蒸発してしまい、燃料極5に移動する水の量が減少し、燃料極5における反応が低下する。しかしながら、空気極6の厚さ(Cd)が厚すぎる場合、空気極6においてフラッディングが生じやすくなり、また、空気を取込み難くなる。一方、燃料極5の厚さ(Ad)が薄すぎる場合、空気極6から移動した水を保持できず、出力が低下する。しかしながら、燃料極5の厚さ(Ad)は厚すぎても反応に寄与しない。
【0047】
よって、空気極6の厚さ(Cd)と燃料極5の厚さ(Ad)のバランスが重要となる。Cd/Adが0.4〜0.7の範囲内であると、空気極6及び燃料極5のそれぞれにおける反応のバランスが良く、出力が向上するとともに、長期にわたり安定した出力を得ることができる。
【0048】
空気極6の厚さ(Cd)と、燃料極5の厚さ(Ad)は、それぞれの触媒層及びガス拡散層の厚さを変化させることにより調整することができる。触媒層は、基材(例えばガス拡散層)に触媒を塗布する際に、塗布量を変化させることによって厚さを調整することができる。
【0049】
本発明の一つの態様において、燃料極触媒層8の厚さ(As)と、燃料極5の厚さ(Ad)の比(As/Ad)は、0.1以上0.6以下の範囲であることが好ましい。
燃料極触媒層8の厚さ(As)を厚くすることにより、燃料と触媒との接触機会を増大させ、燃料極5における反応効率を高めることができる。しかし、燃料極触媒層8の厚さ(As)が厚すぎると、プロトン導電性が低下する。よって、燃料極触媒層8の厚さ(As)は燃料極5の厚さ(Ad)に対して一定の率以下であることが望ましい。
【0050】
As/Adが0.1以上であると、燃料極触媒層8に含まれる触媒量が十分であり、反応効率が良好となるため出力が向上される。また、As/Adが0.6以下であると、プロトン導電性が低下せず、また燃料極ガス拡散層9の厚さも確保できるため、燃料の拡散性も良好である。そのため、燃料のクロスオーバーの発生が抑制され、燃料効率が向上される。以上のような理由により、As/Adを0.1〜0.6の範囲にすることにより、長期にわたり安定した出力を得ることができる。
【0051】
また、燃料極5の厚さ(Ad)を330μm以上650μm以下の範囲にすることにより、さらに長期安定性を向上させることができる。
【0052】
燃料極触媒層8の厚さ(As)は、燃料極触媒層8の基材に塗布する触媒の塗布量を変化させることによって調整することができる。また、燃料極5の厚さ(Ad)は、燃料極触媒層8の厚さ(As)か、燃料極ガス拡散層9の厚さ(Ag)を変化させることによって調整することができる。燃料極ガス拡散層9の厚さ(Ag)は、ガス拡散層として用いるカーボンペーパー等の厚さや圧縮率を変化させることによって調整することができる。
【0053】
本発明の一つの態様において、カソード触媒層11の厚さ(Cs)と、カソード6の厚さ(Cd)の比(Cs/Cd)は、0.1以上0.5以下の範囲であることが好ましい。
空気極触媒層11の厚さ(Cs)を厚くすることにより、酸化剤と触媒との接触機会を増大させ、空気極6における反応効率を高めることができる。しかし、空気極触媒層11の厚さ(Cs)が厚すぎると、プロトン導電性が低下する。よって、空気極触媒層11の厚さ(Cs)は空気極6の厚さ(Cd)に対して一定の率以下であることが望ましい。
【0054】
Cs/Cdが0.1以上であると、空気極触媒層11に含まれる触媒量が十分であり、反応効率が良好となるため出力が向上される。また、Cs/Cdが0.5以下であると、高いプロトン導電性が得られる。また、空気極ガス拡散層12においてフラッディングが抑制され、空気の取り入れ効率が良好である。よって、長期にわたり安定した出力を得ることができる。
【0055】
また、空気極6の厚さ(Cd)を250μm以上400μm以下の範囲にすることにより、さらに長期安定性を向上させることができる。
【0056】
空気極触媒層11の厚さ(Cs)は、空気極触媒層11の基材に塗布する触媒の塗布量を変化させることによって調整することができる。また、空気極6の厚さ(Cd)は、空気極触媒層11の厚さ(Cs)か、空気極ガス拡散層12の厚さ(Cg)を変化させることによって調整することができる。空気極ガス拡散層12の厚さ(Cg)は、ガス拡散層として用いるカーボンペーパー等の厚さや圧縮率を変化させることによって調整することができる。
【0057】
本発明の一つの態様において、燃料極ガス拡散層9の厚さ(Ag)と、空気極ガス拡散層12の厚さ(Cg)の比(Ag/Cg)は、0.4以上1.2以下の範囲であることが好ましい。
Ag/Cgが0.4〜1.2の範囲内であると、燃料極5における燃料の拡散と、空気極6における空気の拡散とのバランスが良好であり、出力が向上されるとともに、長期にわたり安定した出力を得ることができる。上記の比(Ag/Cg)は、0.5以上1以下の範囲であることがより好ましい。
【0058】
また、燃料と空気の供給のバランスの観点から、燃料ガス拡散層9の厚さ(Ag)は、100μm以上500μm以下であることが好ましく、空気極ガス拡散層12の厚さ(Cg)は、100μm以上360μm以下であることが好ましい。
【0059】
また、燃料極ガス拡散層9と、空気極ガス拡散層12は、それぞれ撥水処理されていることが好ましい。燃料極ガス拡散層9が撥水処理されている場合、燃料極5における水の保持能力を向上させることができる。空気極ガス拡散層12が撥水処理されている場合、空気極6において発電反応により生成した水の燃料極5への移行効率を向上させることができるとともに、余分な水分を効率よく排出することができる。燃料極ガス拡散層9及び空気極ガス拡散層12の撥水度は、撥水処理に用いる撥水剤溶液の濃度を調節してガス拡散層に含まれる撥水剤量を変化させることによって制御することができる。
【0060】
撥水処理は、例えば次のように行われる。まず、撥水剤を所定の濃度で含む撥水剤溶液中に、ガス拡散層(例えば、カーボンペーパー)を浸漬して、ガス拡散層に撥水剤を含ませる。次いで、ガス拡散層を乾燥した後、加熱して撥水剤を焼結させる。撥水剤には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を用いることができる。
【0061】
ガス拡散層(GDL)中の撥水剤の含有量は、下式(1)によって算出することができる。
【0062】
撥水剤含有量[wt%]=GDLに含まれる撥水剤量/(GDLに含まれる撥水剤量+GDL重量)×100 式(2)
本発明の一つの態様において、燃料極触媒層8の厚さ(As)と、空気極触媒層11の厚さ(Cs)の比(As/Cs)は、2以上5以下の範囲であり、且つ、空気極触媒層11の厚さ(Cs)が100μm以下であることが好ましい。
【0063】
As/Csが2〜5の範囲であり、また空気極触媒層11の厚さ(Cs)が100μm以下であると、燃料極触媒層8と空気極触媒層11における反応のバランスが良好であり、出力が向上するとともに長期安定性が向上される。
【0064】
以上に説明した各構成部材の厚さは、以下の方法で測定される。
MEAを燃料電池から取り出し、切断して断面が見えるようにして樹脂に埋め込む。この樹脂に埋め込んだMEAをその断面が平坦になるよう研磨し測定試料とする。例えば電極が矩形状の場合、長手方向と直交する方向の中央部において長手方向と平行に切断する。そして、その切断面の中央部および両端から長手方向の長さの10%中央寄りの位置の合計3箇所の切断面を取り出す。以降の結果は、それら3箇所の平均値とする。
【0065】
測定試料について、切断面のSEI(2次電子像)、BEI(反射電子像)によるSEM写真(1000倍)を確認し、視野で見られた像内の中央部から視野の左右25%内の対象物の断面を9等分した位置(10箇所)の厚みおよびこの範囲における最大厚みと最小厚みを測定し、その平均値をその平均厚みとし、これを、各構成部材の厚さとする。
【0066】
本実施形態に係る燃料電池は、図1〜図3に示す構造に限定されるものではなく、例えば、図4に示す構成にすることができる。なお、図1〜図3で説明したのと同様な部材は同符号を付して説明を省略する。
【0067】
燃料導入部30の燃料拡散層19は、燃料分配機構2側から、拡散シート(日東電工製の商品名サンマップ)51、気液分離膜52、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜53がこの順番で積層されたものである。拡散シート51の表面は、燃料分配機構2の燃料排出口22と接している。燃料導入部30は、燃料拡散層19と、導電層14とからなる。
【0068】
酸化剤導入部40は、空気極6側から、導電層13、PTFE膜54、保湿層18、補強板55、カバープレート56がこの順番に積層されたものである。補強板55及びカバープレート56は、例えば、SUSから形成され、いずれも、酸化剤である空気を取り入れるための開口部(図示しない)を複数有している。PTFE膜54は、空気極触媒層11で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制すると共に、空気極触媒層11への空気の均一拡散を促進する。
【0069】
燃料導入部30は、燃料分配機構2の燃料排出口22と接する表面を有し、燃料排出口22から排出された燃料を気化燃料として燃料極5に均一に拡散させる役割をなす。燃料導入部30は、例えば、燃料分配機構2側から、拡散シート(日東電工製の商品名サンマップ)、気液分離膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜がこの順番で積層されたものである。気液分離膜は、液体燃料の気化成分と液体燃料とを分離し、その気化成分をアノード(燃料極)側に通過させるものである。この気液分離膜は、液体燃料に対して不活性で溶解しない材料でシート状に構成され、具体的には、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などの材料で構成される。また、気液分離膜は、周縁から燃料などが漏れないように構成されている。PTFE膜は、水蒸気の透過を抑制し、燃料極に過剰量の水蒸気が供給されるのを防止する。
【0070】
なお、気液分離膜と燃料極との間に、樹脂製のフレーム(図示しない)を設けてもよい。フレームで囲まれた空間は、気液分離膜を拡散してきた気化燃料を一時的に収容する気化燃料収容室(いわゆる蒸気だまり)として機能するとともに、膜電極接合体を密着させる補強板としても機能する。この気化燃料収容室および気液分離膜の透過メタノール量抑制効果により、一度に多量の気化燃料が燃料極触媒層に供給されるのを回避することができる。なお、フレームは、短形のフレームで、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)等の耐薬性の高いエンジニアリングプラスチックで構成される。
【0071】
本発明に適用可能な燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分をアノードに供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、前述した図1に示すセミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAのアノードへ供給する一方、カソードに対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAの燃料極に気化したメタノールを自然供給で送り、一方空気極に対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池では、燃料を循環させないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【0072】
なお、燃料供給手段として機能するポンプの種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。上記したようにポンプを設ける場合、ポンプは、制御手段(図示しない)と電気的に接続され、この制御手段によって、燃料供給部に供給される液体燃料の供給量が制御される。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
MEAの厚さ(TM)と、酸化剤導入部の外表面から燃料導入部の取入れ面までの厚さ(TC)とMEA1の厚さ(TM)の比(TC/TM)を変化させて燃料電池を作製し、初期出力及び出力維持率を測定した。
【0074】
燃料電池は次のように作製した。
燃料極ガス拡散層として、カーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−120)を圧縮加工して用いた。白金ルテニウム合金微粒子を担持したカーボン粒子8%とDE2020(デュポン社製)と溶媒をホモジナイザで混合して約20%固形分のスラリーを作製した。このスラリーを、カーボンペーパーの一方の面にダイコーターを用いて塗布した。次いでこれを常温乾燥し、燃料極を作製した。
【0075】
空気極ガス拡散層として、カーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−090)を用いた。白金を50wt%担持したカーボン粒子7%と、DE2020(デュポン社製)とをホモジナイザで混合して約15%のスラリーを作製した。このスラリーを、カーボンペーパーの一方の面にダイコーター法により塗布した。次いでこれを80℃で乾燥し、空気極を作製した。
【0076】
電解質膜として、固体電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)を用いた。最初にこの電解質膜と空気極を触媒層が電解質膜側になるように重ね合わせ、さらに、電解質膜の空気極を重ね合わせた面と逆の面に触媒層が電解質膜側になるように燃料極を重ね合わせ、温度が150℃、圧力が40kgf/cmの条件でプレスし、MEAを作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cmとした。また、燃料極及び空気極のそれぞれについて、カーボンペーパーに塗布するスラリーの塗布量を変化させてMEAの厚さを調整し、実施例1-1〜1-3及び比較例1-1〜1-4とした。
【0077】
実施例1-1〜1-3及び比較例1-1〜1-4のそれぞれについて、MEAの中央部および両端から長手方向の長さの10%中央寄りの位置の合計3箇所の厚みをマイクロメーターで測定し、その平均値をMEA厚みとした。実施例1-1〜1-3及び比較例1-1〜1-4のMEAの厚みは表1に示した。また、実施例1-1の燃料極触媒層の厚みは120μmであり、空気極触媒層の厚みは50μmであり、燃料極ガス拡散層の厚みは350μmであり、空気極ガス拡散層の厚みは260μmであった。電解質膜は厚さが50μmのものを用いた。
【0078】
燃料極導電層及び空気極導電層として、空気及び気化したメタノールを取り入れるための複数の開口を有する厚さが60μmの金箔を用い、MEAを挟んで積層体を形成した。この積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。MEAの空気極側と一方のフレームとの間、MEAの燃料極側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0079】
燃料極側のフレームは、気液分離膜を介して、燃料分配機構にネジ止めによって固定した。気液分離膜には、厚さ0.2mmのシリコーンシートを使用した。一方、空気極側のフレーム上には、気孔率が28%の多孔質板を配置し、保湿層を形成した。保湿層の厚さは750μmであった。この保湿層上にカバープレートを配置し、ネジ止めによって固定した。カバープレートには、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を用いた。
【0080】
各実施例及び比較例の燃料電池について、カバープレートの外表面から、気液分離膜までの厚さを前述の測定方法でマイクロメーターにより測定した。測定された値に基づいて、外表面から取入れ面までの厚さ(TC)とMEAの厚さ(TM)の比(TC/TM)を計算した。
【0081】
燃料分配機構と連結された液体燃料収容部に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で、初期出力を測定した。また、500時間後の出力を測定し、出力維持率を算出した。
【0082】
実施例1-1〜1-3及び比較例1-1〜1-4のTM値、TC/TM値、初期出力及び出力維持率を表1に示した。なお、表1における初期出力は、実施例1-1の値を100とした相対値で表わしている。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から、TM値が700〜900μmの範囲であり、TC/TM値が2.3〜4.5の範囲である場合に、比較例と比べて初期出力が高く、また500時間後の出力維持率も高いことが示された。
【0085】
(実施例2)
空気極の厚さ(Cd)と、燃料極の厚さ(Ad)の比(Cd/Ad)を変化させて燃料電池を作製し、初期出力及び出力維持率を測定した。
【0086】
燃料電池は、実施例1と同様に作製した。空気極の厚さ(Cd)と燃料極の厚さ(Ad)は、それぞれカーボンペーパーに塗布するスラリーの塗布量を変化させて調整し、実施例2-1〜2-6及び比較例2-1〜2-2とした。
【0087】
各実施例及び比較例の燃料電池について、断面をマイクロスコープで観察し、空気極の厚さ(Cd)と燃料極の厚さ(Ad)を測定した。測定された値に基づいて、厚さの比(Cd/Ad)を計算した。
【0088】
燃料分配機構と連結された液体燃料収容部に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で初期出力を測定した。また、500時間後の出力を測定し、出力維持率を算出した。
【0089】
実施例2-1〜2-6及び比較例2-1〜2-2のCd/Ad値、初期出力及び出力維持率を表2及び3に示した。なお、表3における初期出力は、実施例1-1の値を100とした相対値で表わしている。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
表2及び3から、Cd/Ad値が0.4〜0.7の範囲である場合に、比較例と比べて初期出力が高く、また500時間後の出力維持率も高いことが示された。
【0093】
(実施例3)
燃料極触媒層の厚さ(As)と、燃料極の厚さ(Ad)の比(As/Ad)を変化させて燃料電池を作製し、長時間の平均出力を測定した。
【0094】
燃料電池は実施例1と同様に作製した。燃料極触媒層の厚さ(As)はカーボンペーパーに塗布するスラリーの塗布量を変化させて調整し、実施例3-1〜3-8及び比較例3-1〜3-4とした。
【0095】
実施例3-1〜3-8及び比較例3-1〜3-4のそれぞれについて、MEAの中央部および両端から長手方向の長さの10%中央寄りの位置の合計3箇所の厚みをマイクロメーターで測定し、その平均値をMEA厚みとした。また、断面をマイクロスコープで観察し、燃料極触媒層の厚さ(As)と、燃料極の厚さ(Ad)を測定した。測定された値に基づいて、厚みの比(As/Ad)を計算した。
【0096】
燃料分配機構と連結された液体燃料収容部に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で、出力の最大値を電流値と電圧値から測定し、100時間の平均出力を算出した。
【0097】
実施例3-1〜3-10及び比較例3-1〜3-2のAs値、Ad値、As/Ad値、及び100時間の平均出力を表4及び5に示した。また、使用した電解質膜の厚さ(Te)を表5に示した。なお、表5における平均出力は、実施例1-1の初期出力の値を100とした相対値で表わしている。
【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
表4及び5から、As/Ad値が0.1〜0.6の範囲である場合に、比較例と比べて100時間の平均出力が高いことが示された。また、燃料極の厚さ(Ad)が330〜650μmの範囲である実施例3-2〜3-7はより平均出力が高いことが示された。
【0101】
(実施例4)
空気極触媒層の厚さ(Cs)と、空気極の厚さ(Cd)の比(Cs/Cd)を変化させて燃料電池を作製し、長時間の平均出力を測定した。
【0102】
燃料電池は実施例1と同様に作製した。空気極触媒層の厚さ(Cs)はカーボンペーパーに塗布するスラリーの塗布量を変化させて調整し、実施例4-1〜4-10及び比較例4-1〜4-2とした。
【0103】
実施例4-1〜4-10及び比較例4-1〜4-2のそれぞれについて、MEAの厚みを前述の測定方法でマイクロメーターにより測定した。また、断面をマイクロスコープで観察し、空気極触媒層の厚さ(Cs)と、空気極の厚さ(Cd)を測定した。測定された値に基づいて、厚みの比(Cs/Cd)を計算した。
【0104】
燃料分配機構と連結された液体燃料収容部に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で、出力の最大値を電流値と電圧値から測定し、100時間の平均出力を算出した。
【0105】
実施例4-1〜4-10及び比較例4-1〜4-2のCs値、Cd値、Cs/Cd値、及び100時間の平均出力を表6及び7に示した。また、使用した電解質膜の厚さ(Te)を表7に示した。なお、表7における初期出力は、実施例1-1の値を100とした相対値で表わしている。
【0106】
【表6】

【0107】
【表7】

【0108】
表6及び7から、Cs/Cd値が0.1〜0.5の範囲である場合に、比較例と比べて100時間の平均出力が高いことが示された。また、空気極の厚さ(Cd)が250〜400μmの範囲である実施例4-2〜4-7はより平均出力が高いことが示された。
【0109】
(実施例5)
燃料極触媒層の厚さ(As)と燃料極の厚さ(Ad)、空気極触媒層の厚さ(Cs)と空気極の厚さ(Cd)を変化させ、As/Ad値が0.1〜0.6の範囲内であり、Cs/Cd値が0.1〜0.5の範囲内である実施例5-1及び5-2の燃料電池を実施例3及び4と同様に作製した。実施例5-1及び5-2について、実施例4と同様に100時間の平均出力を測定した。その結果を表8に示す。なお、表8における初期出力は、実施例1-1の値を100とした相対値で表わしている。
【0110】
【表8】

【0111】
表8から、As/Ad値が0.1〜0.6の範囲内であり、Cs/Cd値が0.1〜0.5の範囲内である燃料電池は、100時間の平均出力が高いことが示された。
【0112】
(実施例6)
燃料極ガス拡散層の厚さ(Ag)と、空気極ガス拡散層の厚さ(Cg)の比(Ag/Cg)を変化させて燃料電池を作製し、初期出力を測定した。
【0113】
燃料電池は実施例1と同様に作製した。但し、燃料極ガス拡散層と空気極ガス拡散層のそれぞれを撥水処理した。燃料極ガス拡散層の撥水剤含有量は10wt%であり、空気極ガス拡散層の撥水剤含有量は40wt%とした。
【0114】
燃料極ガス拡散層の厚さ(Ag)及び空気極ガス拡散層の厚さ(Cg)を、用いるカーボンペーパーの種類又は圧縮率を変化させて調整し、実施例6-1〜6-31及び比較例6-1〜6-5とした。
【0115】
実施例6-1〜6-31及び比較例6-1〜6-5のそれぞれについて、断面をマイクロスコープで観察し、燃料極ガス拡散層の厚さ(Ag)と、空気極ガス拡散層の厚さ(Cg)を測定した。測定された値に基づいて、厚みの比(Ag/Cg)を計算した。
【0116】
燃料分配機構と連結された液体燃料収容部に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で出力を測定した。
【0117】
実施例6-1〜6-31及び比較例6-1〜6-5のAg値、Cg値、Ag/Cg値及び初期出力を表9及び10に示した。なお、表10における初期出力は、実施例1-1の値を100とした相対値で表わしている。
【0118】
【表9】

【0119】
【表10】

【0120】
表9及び10から、Ag/Cg値が0.4〜1.2の範囲である場合に、比較例と比べて初期出力が高いことが示された。また、Ag/Cgが、0.5〜1.0である実施例6-1〜6-24はより出力が高いことが示された。
【0121】
(実施例7)
燃料極ガス拡散層と、空気極ガス拡散層の撥水剤含有量を変化させて燃料電池を作製し、初期出力を測定した。Ag/Cg値が0.76である燃料電池を実施例6と同様に作製し、撥水剤含有量と初期出力の関係を測定した結果を表11に示した。また、Ag/Cg値が1である燃料電池を実施例6と同様に作製し、撥水剤含有量と初期出力の関係を測定した結果を表12に示した。表11及び12では、実施例1-1の燃料電池の初期出力を100とした相対値で示した。
【0122】
表から分かるように、燃料極ガス拡散層及び空気極ガス拡散層の何れかの撥水剤含有量が5wt%以上である場合、0wt%の場合と比較して初期出力が高かった。
【0123】
【表11】

【0124】
【表12】

【0125】
(実施例8)
燃料極触媒層の厚さ(As)と、空気極触媒層の厚さ(Cs)の比(As/Cs)を変化させて燃料電池を作製し、初期出力及び出力維持率を測定した。
燃料電池は、実施例1と同様に作製した。但し、燃料極ガス拡散層として厚さが350μmであるカーボンペーパーを用いた。また、空気極ガス拡散層として厚さが250μmであるカーボンペーパーを用いた。また電解質膜として厚さが45μmである固定電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)を用いた。
【0126】
燃料極触媒層の厚さ(As)と空気極触媒層の厚さ(Cs)は、それぞれカーボンペーパーに塗布するスラリーの塗布量を変化させて調整し、実施例8-1〜8-12及び比較例8-1〜8-4とした。
【0127】
燃料分配機構と連結された液体燃料収容部に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で初期出力を測定した。また500時間後の出力を測定し、出力維持率を算出した。
【0128】
実施例8-1〜8-12及び比較例8-1〜8-4のAs値、Cs値、As/Cs値、初期出力及び500時間の出力維持率を表13及び14に示した。なお、表14における初期出力は、実施例1-1の値を100とした相対値で表わしている。
【0129】
【表13】

【0130】
【表14】

【0131】
表13及び14から、As/Cs値が2〜5の範囲であり、Cs値が100μm以下である場合に、比較例と比べて初期出力及び500時間の出力維持率が高いことが示された。
【0132】
本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではない。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜組み合せたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除する等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0133】
また、MEAへ供給される燃料の気体においても、全て液体燃料の気体を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる
【符号の説明】
【0134】
1…膜電極接合体(MEA)、2…燃料供給部(燃料分配機構)、3…燃料収容部、4…流路、5…アノード(燃料極)、6…カソード(空気極)、7…電解質膜、8…燃料極触媒層、9…燃料極ガス拡散層、11…空気極触媒層、12…空気極ガス拡散層、13,14…導電層、15…Oリング、16…カバープレート、17…ポンプ、18…保湿層、19…燃料拡散層、21…燃料注入口、22…燃料排出口、23…燃料分配板、24…空隙部、30…燃料導入部、40…酸化剤導入部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層及び前記アノード触媒層の一方の面に面して設けられたアノードガス拡散層を備えるアノードと、カソード触媒層及び前記カソード触媒層の一方の面に面して設けられたカソードガス拡散層を備えるカソードと、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された電解質膜とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に面して設けられ、燃料取入れ面を有する燃料導入部、
前記燃料取入れ面に面した燃料排出口を有し、前記燃料排出口を通して前記燃料導入部に燃料を供給する燃料供給部、及び、
前記カソードガス拡散層に面して設けられ、外表面に酸化剤を取入れるための開口を有する酸化剤導入部、
を含み、
前記膜電極接合体の厚さ(TM)が700μm以上900μm以下の範囲であり、
前記外表面から前記取入れ面までの厚さ(TC)と、前記膜電極接合体の厚さ(TM)の比(TC/TM)が、2.3以上4.5以下の範囲であることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記燃料導入部の厚さ(Af)と、前記膜電極接合体の厚さ(TM)の比(Af/TM)が、0.3以上1以下の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記酸化剤導入部の厚さ(Co)と、前記膜電極接合体の厚さ(TM)の比(Co/TM)が、1以上2.5以下の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記カソードの厚さ(Cd)と、前記アノードの厚さ(Ad)の比(Cd/Ad)が、0.4以上0.7以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記アノード触媒層の厚さ(As)と、前記アノードの厚さ(Ad)の比(As/Ad)が、0.1以上0.6以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記アノードの厚さ(Ad)が、330μm以上650μm以下の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記カソード触媒層の厚さ(Cs)と、前記カソードの厚さ(Cd)の比(Cs/Cd)が、0.1以上0.5以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記カソードの厚さ(Cd)が、250μm以上400μm以下の範囲であることを特徴とする、請求項7に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記アノードガス拡散層の厚さ(Ag)と、前記カソードガス拡散層の厚さ(Cg)の比(Ag/Cg)が、0.4以上1.2以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記比(Ag/Cg)が、0.5以上1以下の範囲であることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記アノード触媒層の厚さ(As)と、前記カソード触媒層の厚さ(Cs)の比(As/Cs)が、2以上5以下の範囲であり、且つ、前記カソード触媒層の厚さ(Cs)が100μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−96467(P2011−96467A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248310(P2009−248310)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】