説明

燃料電池

【課題】燃料電池の継続運転において中長期的なタイムスケールで徐々に起きるクリープによるガス拡散阻害への対処を図る。
【解決手段】燃料電池システム20は、カソード側ガス拡散層125を拡散するガスのガス拡散抵抗とこのガス拡散層に生じたクリープのクリープ量との対応関係を記憶した上で、ガス拡散抵抗を取得し、その得済みガス拡散抵抗を対応関係に対応付けて、取得済みガス拡散抵抗のクリープ量に基づいた増大状況を把握する。そして、ガス拡散阻害を徐々にもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大状況に応じて、背圧を高める等の対処処置を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体とその少なくとも一方の触媒電極にガス拡散層を接合して有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、膜電極接合体の一方の触媒電極であるアノードと他方の触媒電極であるカソードに、燃料ガスと酸素含有ガスの供給を受けて発電する。こうした燃料電池の発電は、燃料ガス、例えば水素ガスの水素と、酸素含有ガスとしての空気中の酸素との電気化学反応に伴うことから、ガス拡散が阻害されると触媒電極延いては電解質膜へのガス到達が阻害され、発電能力の低下を来しやすい。こうした事態を回避するため、種々の制御手法が提案されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−35516号公報
【特許文献2】特開2010−186599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら特許文献では、残留水分自体或いはその凍結による流路閉塞(フラッディング)をガス拡散の阻害主因としてガス圧制御や冷却制御を行っているとはいえ、これら制御を残留水過多や過剰な水分除去、氷点下起動と言った限られた状況下でしか行っていない。ところで、触媒電極のみならずガス拡散流路を形成するガス拡散層は、燃料電池運転期間に亘って継続的に締結力を受ける。燃料電池搭載車両では、加減速に伴う力も継続的に受ける。このため、連続気孔を有するガス拡散層にあっては、上記のように継続的に応力が作用することから、クリープを起こし、このクリープによる連続気孔の細孔化が起きてガス拡散が阻害され、こうした事態が中長期的なタイムスケールで徐々に起き得る。しかしながら、こうしたクリープに伴うガス拡散性の増大推移については、従来、何ら考慮されず、その改善が要請されている。
【0005】
本発明は、上記した課題を踏まえ、燃料電池の継続運転において中長期的なタイムスケールで徐々に起きるクリープによるガス拡散阻害への対処を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用1:燃料電池]
プロトン伝導性を有する電解質膜の各膜面に触媒電極を接合した膜電極接合体と、該膜電極接合体の少なくとも一方の前記触媒電極に接合してガス拡散流路を形成するガス拡散層とを有する燃料電池であって、
前記ガス拡散層を拡散するガスのガス拡散抵抗と前記ガス拡散層に生じたクリープのクリープ量との対応関係を記憶する記憶部と、
前記ガス拡散抵抗を取得すると共に、前記対応関係を参照して前記取得済みガス拡散抵抗に対応するクリープ量を求め、前記取得済みガス拡散抵抗の前記クリープ量に基づいた増大状況を把握する拡散抵抗取得部とを備える
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成の燃料電池は、ガス拡散阻害をもたらすガス拡散抵抗を取得する。こうしたガス拡散抵抗は、生成水の残存によりフラッディングが起きた際にも増大するが、フラッディング解消に伴い復帰する。その一方、ガス拡散層に生じたクリープに基づくガス拡散抵抗は、中長期的なタイムスケールで徐々に増大し、クリープが解消されることはないので、ガス拡散抵抗も元に戻ることはほとんどない。上記構成の燃料電池では、収得済みのガス拡散抵抗に対応するクリープ量を、ガス拡散抵抗とクリープ量との対応関係を参照して求め、そのクリープ量に基づいたガス拡散抵抗の増大状況を把握するので、フラッディングによるガス拡散抵抗の増大と明確に区別できる。この結果、上記構成の燃料電池によれば、ガス拡散抵抗の復帰を前提としたフラッディング時に行う種々の制御を、クリープ量に基づいたガス拡散抵抗の増大状況において実行しないようにできる。
【0009】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、外部の負荷の要求電力に基づいて燃料ガスと酸素含有ガスとを供給しつつ、前記燃料電池の発電制御を行う発電制御部を備えた上で、この発電制御部によるガス供給を、前記取得済みガス拡散抵抗の前記増大状況に応じて発電出力の低下を抑制する側に制御するようにできる。こうすれば、クリープ量に基づいてガス拡散抵抗が徐々に増大する状況において、その増大状況に応じた発電制御が以下に説明するように可能となるので、ガス拡散阻害を徐々にもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を図ることができる。
【0010】
この態様の燃料電池は、外部の負荷の要求電力に基づいて燃料ガスと酸素含有ガスとを供給しつつ、燃料電池の発電制御を行うものの、ガス拡散抵抗がクリープ量に基づいて増大すると、その増大状況に応じてガスの供給を、発電出力の低下を抑制する側に制御する。仮に、クリープ量に基づいてガス拡散抵抗が増大したにも拘わらず抵抗増大前のままのガス供給であれば、ガス拡散抵抗増大によりガス供給が阻害され、発電能力が低下する。こうしたことから、上記態様の燃料電池によれば、ガス拡散阻害を徐々にもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を図った上で、能力低下を抑制できる。また、クリープによりガス拡散抵抗が増大しても、能力低下を抑制した上で発電を継続できることから、長寿命化、もしくはガス拡散層の交換と言った保守作業コストの低減を図ることができる。
【0011】
この場合、前記取得したガス拡散抵抗の前記増大状況に応じて、ガス供給圧を高める側に制御するようにできる。ガス供給圧は、ガス排出側の背圧を高めれば容易に高くなるので、背圧を高めるという簡便な対処で、能力低下を抑制できる。
【0012】
また、外部の負荷の要求電力に基づいて燃料ガスと酸素含有ガスとを供給しつつ、前記燃料電池の発電制御を行う発電制御部を備えた上で、この発電制御部については、これを、前記取得済みガス拡散抵抗の前記増大状況に応じて、発電出力の上限を低下させる側に発電制御するものとできる。こうすれば、クリープ量に基づいてガス拡散抵抗が徐々に増大する状況において、その増大状況に応じた発電制御が以下に説明するように可能となるので、ガス拡散阻害を徐々にもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を図ることができる。
【0013】
上記の態様の燃料電池は、外部の負荷の要求電力に基づいて燃料ガスと酸素含有ガスとを供給しつつ、燃料電池の発電制御を行うものの、ガス拡散抵抗がクリープ量に基づいて徐々に増大すると、その増大状況に応じて発電出力の上限を低下させる側に発電制御する。つまり、ガス拡散抵抗がクリープ量に基づいて徐々に増大しても、発電出力に上限を設定して、その範囲での発電を継続することができる。仮に、クリープ量に基づいてガス拡散抵抗が増大したにも拘わらず抵抗増大前のままの発電制御であれば、ガス拡散抵抗増大により阻害されたガス供給で得られる出力上限を超える要求電力を得るような発電制御となって負電圧を招き、電解質膜の損傷が危惧される。こうしたことから、上記態様の燃料電池によれば、ガス拡散阻害をもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を図った上で、電解質膜の損傷回避と能力低下の抑制が可能となる。
【0014】
また、電池冷却を図るよう冷媒を循環制御する冷却部を備えた上で、この冷却部については、これを、前記取得済みガス拡散抵抗の前記増大状況において、前記発電制御部による前記燃料電池の起動の際の昇温が予め定めた所定の昇温の速さより鈍ると、冷媒の循環制御を停止するものとできる。こうすれば、クリープ量に基づいてガス拡散抵抗が徐々に増大する状況において、その増大状況に応じた冷媒循環制御が以下に説明するように可能となるので、ガス拡散阻害を徐々にもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を図ることができる。
【0015】
上記の態様の燃料電池は、電池冷却を図るよう冷媒を循環制御するものの、ガス拡散抵抗がクリープ量に基づいて増大した状況において、前記発電制御部による前記燃料電池の起動の際の昇温が鈍ると、冷媒の循環制御を停止する。ガス拡散抵抗は既述したようにガス拡散を阻害することから、抵抗増大により、発電出力は低下し、発電に伴う発熱量も低下する。このため、上記の態様の燃料電池によれば、ガス拡散抵抗の増大がクリープ量に基づくものであることを把握した上で、その際には、冷媒の循環制御を停止して、早期のうちに電池温度の昇温を図ることができる。つまり、ガス拡散阻害をもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を電池昇温の観点から図った上で、起動性を高めることができる。
【0016】
この場合、前記増大状況での冷媒の循環制御の停止を、前記燃料電池の起動が氷点下を下回る状況下においてなされたときに実行するようにできる。一般に、冷媒循環による電池冷却を行わないと、熱集中により耐久性の悪化が懸念される。ところが、氷点下を下回る状況下の起動の際に冷媒の循環制御の停止を実行するので、当該循環制御の停止頻度を少なくして、耐久性の維持もしくは低下抑制を図った上で、氷点下での始動性を高めることができる。
【0017】
本発明は、燃料電池の複数を積層したスタック構造の燃料電池システムの他、この燃料電池或いは燃料電池システムを搭載した車両、もしくは燃料電池や燃料電池システムを設置して燃料電池を発電源とする定置式の発電システムとしても適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池システム20の構成例を示すブロック図である。
【図2】燃料電池100を構成する燃料電池セル120を断面視して概略的に示す説明図である。
【図3】燃料電池システム20の搭載車両の出荷前においてなされるセル特性取得の様子を示すフローチャートである。
【図4】触媒電極におけるカチオン量とプロトン移動抵抗(H抵抗)との関係を示す第1マップである。
【図5】触媒層のプロトン移動抵抗(H抵抗)の算出に用いた触媒層の等価回路を示す説明図である。
【図6】触媒電極におけるカチオン量と膜抵抗Rmとの関係を示す第2マップである。
【図7】カソード側ガス拡散層125を想定したガス拡散層の抵抗(GDL抵抗)とクリープ量(GDLクリープ量)との関係を示す第3マップである。
【図8】カソード側ガス拡散層125を想定したガス拡散層のガス拡散抵抗(GDLガス拡散抵抗)とクリープ量(GDLクリープ量)との関係を示す第4マップである。
【図9】カソード123を想定した触媒層の電気化学的表面積(ECSA)とガス拡散抵抗(触媒層ガス拡散抵抗)との関係を示す第5マップである。
【図10】燃料電池100の運転過程で制御部700が行う対処処置の内容を示すフローチャートである。
【図11】ステップS300における対処処置の一手法である背圧制御処置を示すフローチャートである。
【図12】背圧制御処置において運転条件の変更要否の判断の基となるセル特性の関係を説明するための説明図である。
【図13】背圧制御処置においてGDL寿命の判断の基となるセル特性の関係を説明するための説明図である。
【図14】図10のステップS300における対処処置の一手法である出力制限処置を示すフローチャートである。
【図15】ガス拡散抵抗値と限界電流値との関係を示す説明図である。
【図16】図10のステップS300における対処処置の一手法である冷却停止処置を示すフローチャートである。
【図17】限界電流値と電池昇温に要する時間との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の実施例としての燃料電池システム20の構成例を示すブロック図、図2は燃料電池100を構成する燃料電池セル120を断面視して概略的に示す説明図である。この燃料電池システム20は、車両に搭載される燃料電池システムを例に示している。
【0020】
燃料電池システム20は、燃料電池100と、アノードガス(燃料ガス)供給部200およびカソードガス(酸化ガス)供給部300と、冷却装置400と、セル特性計測部500と、電力制御部600と、制御部700と、を備えている。
【0021】
燃料電池100は、アノードに供給されるアノードガスとしての燃料ガス(水素)と、カソードに供給されるカソードガスとしての酸化ガス(空気、厳密には空気に含まれる酸素)との電気化学反応により電力を発生する。
【0022】
燃料電池100は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用いた図2の燃料電池セル120を積層したスタック構造とされている。燃料電池セル120は、図2に示すように、電解質膜121の両側に触媒電極であるアノード122とカソード123の両電極を備える。このアノード122とカソード123は、電解質膜121の両膜面に形成され電解質膜121と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、燃料電池セル120は、電極形成済みの電解質膜121を両側から挟持するアノード側ガス拡散層124とカソード側ガス拡散層125とガスセパレーター126,127を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。
【0023】
電解質膜121は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード122およびカソード123は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。アノード側ガス拡散層124とカソード側ガス拡散層125は、ガス拡散性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスを用いて製造され、それぞれの電極へのガス拡散流路を形成する。
【0024】
ガスセパレーター126は、アノード側ガス拡散層124の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路128を備える。ガスセパレーター127は、カソード側ガス拡散層125の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路129を備える。なお、図には記載していないが、隣り合う燃料電池セル120間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。これらガスセパレーター126,127は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。
【0025】
図2では図示していないが、ガスセパレーター126,127の外周近傍の所定の位置には、複数の孔部が形成されている。これらの複数の孔部は、燃料電池セル120が他の部材と共に積層されて燃料電池100が組み立てられたときに互いに重なって、燃料電池100内を積層方向に貫通する流路を形成する。すなわち、上記したセル内燃料ガス流路128やセル内酸化ガス流路129、あるいはセル間冷媒流路に対して、燃料ガスや酸化ガス、あるいは冷媒を給排するためのマニホールドを形成する。
【0026】
本実施例の燃料電池100は、ガスセパレーター126のセル内燃料ガス流路128からの水素ガスを、アノード側ガス拡散層124で拡散ししつつアノード122に供給する。空気については、ガスセパレーター127のセル内酸化ガス流路129からの空気を、カソード側ガス拡散層125で拡散ししつつカソード123に供給する。
【0027】
アノードガス供給部200は、アノードガス(燃料ガス)としての高圧の水素ガスを貯蔵した水素ガスタンク210と、水素ガスタンク210の水素ガスを燃料電池100に供給するためのアノードガス供給流路220と、燃料電池100から排出されたアノードオフガス(燃料オフガス)としての水素オフガスをアノードガス供給流路220に戻すためのアノードガス循環流路230と、を備える。アノードガス供給流路220は、水素ガスタンク210からの水素ガスの供給を遮断または許容する開閉バルブ222と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ224と、水素ガスの流量を調整する水素供給部226とを備え、燃料電池セル120のセル内燃料ガス流路128に水素ガスを導く。
【0028】
アノードガス循環流路230には、アノードガス循環流路230内のアノードオフガスとしての水素オフガスをアノードガス供給流路220側へ送り出す水素ガスポンプ232が設けられている。また、アノードガス循環流路230には、気液分離部234および排気排水バルブ236を介して、排気口350につながる排出流路238が接続されている。気液分離部234は、水素オフガスに含まれる水分を回収する。排気排水バルブ236は、気液分離部234で回収された水分およびアノードガス循環流路230内の不純物を含む水素オフガスを排出する。排気排水バルブ236から排出された水素オフガスは、排気口350から排ガスとして大気中に排気される。なお、開閉バルブ222、レギュレータ224、水素供給部226、水素ガスポンプ232、気液分離部234、および、排気排水バルブ236は、制御部700からの指示に従って動作する。
【0029】
カソードガス供給部300は、吸気口310を介してカソードガス(酸化ガス)としての空気を取り込んで圧縮送出するためのコンプレッサ320と、空気(エア)を燃料電池100に供給するためのカソードガス供給流路330と、燃料電池100から排出されたカソードオフガス(酸化オフガス)を排気口350から排出するためのカソードオフガス排出流路340と、を備える。カソードオフガス排出流路340には、燃料電池100内のカソードガス(酸化ガス)の圧力を調整するための背圧調整バルブ342が設けられている。カソードガス供給流路330およびカソードオフガス排出流路340には、燃料電池100から排出されたカソードオフガス(酸化オフガス)を用いてコンプレッサ320から圧送されたカソードガス(酸化ガス)を加湿する加湿部360が設けられている。そして、カソードガス供給流路330は、加湿部360を経て燃料電池セル120のセル内酸化ガス流路129に空気を導く。加湿部360で水分交換等されたカソードオフガスは、排ガスとして排気口350から大気中に排気される。コンプレッサ320、背圧調整バルブ342、および、加湿部360は、制御部700からの指示に従って動作する。
【0030】
冷却装置400は、冷却循環器410と、冷媒を燃料電池100に供給する冷媒供給流路420と、燃料電池から排出される冷媒を燃料電池100に戻す冷媒排出流路430と、を備える。冷却循環器410は、冷媒供給流路420を介して燃料電池100に冷媒を供給し、燃料電池100の冷却に供された後の冷媒を冷媒排出流路430を介して受け取ることにより、冷媒を循環させて、燃料電池100の冷却を実行する。冷媒としては、水、不凍液等を用いることができる。冷却装置400は、制御部700からの指示に従って冷却循環器410を動作させて冷媒循環を図ることで、燃料電池100を冷却する。
【0031】
セル特性計測部500は、燃料電池セル120の後述のセル特性を測定するセル特性計測器510と、燃料電池100の出力電圧を測定する電圧センサー520および出力電流を測定する電流センサー530と、を備えている。また、セル特性計測部500には、燃料電池100に供給されるアノードガスやカソードガスの圧力を測定する圧力センサーや湿度を測定する湿度センサー、流量を測定する流量センサー、燃料電池100の温度や冷媒の温度を測定する各温度センサー等種々の図示しないセンサーを備えている。なお、センサー等の各要素はそれぞれ制御部700に接続されており、各要素で測定された測定結果は制御部700からの指示に従って、制御部700に受け渡される。
【0032】
セル特性計測器510は、燃料電池セルごとのセル特性を測定するものであり、交流インピーダンス法を利用して各燃料電池セルのカソード側の触媒電極における水素イオン(プロトン)移動抵抗や直流抵抗を測定するインピーダンス測定機器、上記の触媒電極における電気化学的表面積(ECSA)を測定するポテンショスタットを備える。これら測定値は、各燃料電池セルが有するガス拡散層(GDL)、本実施例ではカソード側ガス拡散層125とカソード123(図2参照)のクリープの発生状況に起因して推移するセル特性であり、セル特性計測器510は、その測定結果を後述の制御部700に出力する。GDLのクリープとセル特性の関係については後述する。なお、セル特性計測器510による上記の抵抗測定や電気化学的表面積(ECSA)測定は、燃料電池セル120のそれぞれについて行うことができるほか、特定の燃料電池セル120、例えばスタック中央に位置する燃料電池セル120についての測定を行い、その測定結果を各燃料電池セルに当てはめることもできる。この他、スタック端部の燃料電池セル120と上記の中央の燃料電池セル120についての測定結果を各燃料電池セルに当てはめるようにすることもできる。
【0033】
電力制御部600は、二次電池制御部620、モーター制御部640、図示しない各種の補機制御部等を備える。二次電池制御部620は、二次電池610の充放電を制御する。モーター制御部640は、燃料電池100あるいは二次電池610からの電力のモーター630への供給を制御する。このモーター制御部640は、例えば、モーター630が三相交流モーターの場合には、直流を三相交流に変換する三相インバータで構成される。補機制御部は、たとえば、水素ガスポンプ232や、コンプレッサ320等の各装置を駆動するための電力の供給を制御する。なお、モーター630は、燃料電池システム20が搭載される車両の主動力源を構成する。
【0034】
制御部700は、CPU710と、メモリ720と、入出力部730と、を主に備えるコンピュータシステムとして構成されている。入出力部730は、各種アクチュエータや、各種センサー、各種スイッチ等を、制御信号線(不図示)を介して接続している。各種アクチュエータとしては、上述した開閉バルブ222やレギュレータ224、水素供給部226、水素ガスポンプ232、コンプレッサ320、背圧調整バルブ342、冷却循環器410に含まれる図示しない冷却ポンプや冷却ファン、モーター630の回転量を制御するアクセル750等がある。また、各種センサーとしては、上述した電圧センサー520や、電流センサー530、図示しない温度センサー、圧力センサー、湿度センサー、流量センサー等がある。また、各種スイッチとしては、燃料電池システム20が搭載される電気自動車を始動する始動スイッチ740等がある。
【0035】
メモリ720には、主として燃料電池システム20を制御するための図示しない種々のコンピュータープログラムが格納されており、CPU710は、これらコンピュータープログラムを実行することにより、各機能ブロックとして動作する。例えば、燃料電池100の運転制御ルーチン、および、セル特性判定ルーチンのコンピュータープログラムを実行することにより、CPU710は、電池出力制御部710aおよびセル特性判定部710bとして機能する。電池出力制御部710aは、燃料電池100および二次電池610の動作を制御する。セル特性判定部710bは、セル特性計測器510にて測定した現状のセル特性をメモリ720の記憶内容と照合しつつ、そのセル特性に基づいた後述の機器制御を司る。
【0036】
次に、本実施例の燃料電池システム20が行うクリープによるガス拡散阻害対処について説明する。図3は燃料電池システム20の搭載車両の出荷前においてなされるセル特性取得の様子を示すフローチャートである。図示するように、まず、燃料電池セル120においてクリープに基づくガス拡散抵抗の把握に必要な種々のマップを取得する(ステップS100)。
【0037】
ステップS100では、第1〜第5のマップを、取得対象の燃料電池セル120について取得する。まず、第1マップとその取得について説明する。図4は触媒電極におけるカチオン量とプロトン移動抵抗(H抵抗)との関係を示す第1マップである。
【0038】
図4の第1マップの取得に際しては、電解質膜121の膜面にアノード122とカソード123を接合したMEA(図2参照)を複数用意し、このMEAをラジカル失活剤(ラジカルクエンチャー)として機能するカチオン、例えばセリウム(Ce)でイオン交換したMEAとする。この際、イオン交換の対象となるカチオンを種々の量とし、カチオン量が異なるMEAごとに、触媒電極(以下、触媒層とも称する)であるカソード123のプロトン移動抵抗(H抵抗)を測定する。そして、カチオン量に対して触媒層のプロトン移動抵抗(H抵抗)をプロットして第1マップを取得する。プロトン移動抵抗(H抵抗)は、次のように測定した。
【0039】
まず、異なるカチオン量のカチオンにてイオン交換済みのMEAを用いて図2に示す燃料電池セル120を測定サンプルセルとする。これにより、異なるカチオン量ごとの測定サンプルセルが得られる。そして、各測定サンプルセルのアノードに水素をカソードに空気または酸素を供給して発電させ、その状態で、交流インピーダンス法を利用したインピーダンス測定機器にて、カソード側の触媒電極におけるプロトン移動抵抗(H抵抗)を、カチオン量が異なるMEAを有する各測定サンプルセルごとに測定する。これにより、カチオン量と触媒層のプロトン移動抵抗(H抵抗)とを対応付けた第1マップが得られる。
【0040】
プロトン移動抵抗(H抵抗)の手法は、セル特性計測器510(図1参照)のインピーダンス測定機器による燃料電池100の発電運転過程でのセル特性測定と同じであり、外部から特定周波数で電圧または電流を測定サンプルセルに印加する、或いは、測定サンプルセルの負荷を特定周波数で変化させるようにして、触媒層に該当するナイキストプロット全体を推定する。つまり、セル特性計測器510は、制御部700により上記のようなガス供給と特定周波数での電圧・電流制御下において、プロトン移動抵抗(H抵抗)を後述のタイミングでポテンショスタットにより算出する。次いで、触媒層を、触媒が直流抵抗成分(電解質樹脂)に埋没して電気的に接続されていると仮定した場合の等価回路を作成し、この等価回路による電気的なフィッティング(例えば、Scribner社のZ−view:Z−viewは登録商標)を経て触媒層のプロトン移動抵抗(H抵抗)を算出する。図5は触媒層のプロトン移動抵抗(H抵抗)の算出に用いた触媒層の等価回路を示す説明図である。この図5では、直流抵抗成分(電解質樹脂)の膜抵抗(直流抵抗)をRで示し、各触媒は、RH+,cathode,iで示すプロトン移動抵抗(H抵抗)と、コンデンサ・抵抗の並列回路部で表されている。図示する等価回路には、触媒層の膜抵抗Rが含まれているため、触媒層のプロトン移動抵抗RH+,cathode,iと膜抵抗Rmが得られる。
【0041】
図6は触媒電極におけるカチオン量と膜抵抗Rmとの関係を示す第2マップである。この第2マップは、既述したカチオン量が異なるMEAごと測定サンプルセルについてプロトン移動抵抗(H抵抗)と共に測定した膜抵抗Rmを、カチオン量に対してプロットして取得される。
【0042】
図7はカソード側ガス拡散層125を想定したガス拡散層の抵抗(GDL抵抗)とクリープ量(GDLクリープ量)との関係を示す第3マップである。この第3マップの取得に際しては、カソード側ガス拡散層125と同じ材料から形成したガス拡散層(GDL)を用意し、このGDLを金属板で挟持して圧縮しクリープ発生済みのGDLとする。この際、圧縮荷重を変えながら抵抗を測定して、圧縮荷重でもたらされるクリープ量に対して、測定した抵抗をプロットして第3マップを取得する。
【0043】
図8はカソード側ガス拡散層125を想定したガス拡散層のガス拡散抵抗(GDLガス拡散抵抗)とクリープ量(GDLクリープ量)との関係を示す第4マップである。この第4マップの取得に際しては、上記の第3マップと同様にGDLを金属板で挟持して圧縮荷重を変えながらGDLガス拡散抵抗を測定して、圧縮荷重でもたらされるクリープ量に対して、測定した抵抗をプロットして第4マップを取得する。GDLガス拡散抵抗は、例えば、第49回電池討論会で提案された測定手法(第49回電池討論会講演要旨集2A12参照)にて測定できる。
【0044】
図9はカソード123を想定した触媒層の電気化学的表面積(ECSA)とガス拡散抵抗(触媒層ガス拡散抵抗)との関係を示す第5マップである。この第5マップの取得に際しては、まず、電解質膜121の膜面にアノード122とカソード123を接合したMEA(図2参照)を複数用意し、その際には、両電極の触媒層における触媒目付け量(配合量)を異なるものとする。そして、触媒目付け量が異なるMEAごとに、触媒層であるカソード123の電気化学的表面積(ECSA)とガス拡散抵抗(触媒層ガス拡散抵抗)とを取得して、両者を対応付け第5マップを取得する。電気化学的表面積(ECSA)は、次のように測定した。
【0045】
まず、異なる触媒目付け量のMEAを用いて図2に示す燃料電池セル120を測定サンプルセルとする。これにより、異なる触媒目付け量ごとの測定サンプルセルが得られる。そして、各測定サンプルセルのアノードに水素をカソードに空気または酸素を供給しつつ、電極電位が0.005V〜1.0Vの範囲で走査するよう発電させ、その出力波形を解析した水素脱離領域または水素吸着領域から電気化学的表面積(ECSA)を算出する。この算出手法は、セル特性計測器510(図1参照)のポテンショスタットによる燃料電池100の発電運転過程でのセル特性測定と同じである。つまり、セル特性計測器510は、制御部700により上記のようなガス供給と発電制御下において、電気化学的表面積(ECSA)を後述のタイミングでポテンショスタットにより算出する。
【0046】
異なる触媒目付け量ごとの測定サンプルセルにおけるカソード123(触媒層)の触媒層ガス拡散抵抗は、例えば、第49回電池討論会で提案された測定手法(第49回電池討論会講演要旨集2A12参照)にて測定できるので、これを算出済み電気化学的表面積(ECSA)に対してプロットして第5マップが得られる。
【0047】
上記した第1〜第5のマップの取得に続くステップS110では、各マップを制御部700(図1参照)のメモリ720に記憶し、車両出荷前のセル特性取得を終える。図9に示す第5マップは、燃料電池100の稼働運転期間中に測定した電気化学的表面積(ECSA)の推移の状況を学習することにより求めることもできる。
【0048】
図10は燃料電池100の運転過程で制御部700が行う対処処置の内容を示すフローチャートである。まず、制御部700は、セル特性計測器510(図1参照)のポテンショスタットにてそれぞれの燃料電池セル120について電気化学的表面積(ECSA)を測定する(ステップS200)。本実施例では、燃料電池100の運転が中長期に亘ることでカソード側ガス拡散層125に起きるクリープに対処することから、図10のクリープ対処処置の当初処理である電気化学的表面積(ECSA)測定については、システム稼働初期から所定時間が経過した後のタイミングで実行するようにすることもできる。例えば、燃料電池システム20の搭載車両で言えば、10万km程度を走行した後、バス等の営業車であれば数十万km程度を走行した後における定期点検の際や車両アイドリング中に図10の電気化学的表面積(ECSA)測定を実行するようにすることもできる。この他、燃料電池100の発電運転時間の累積が所定の時間に達した後に、所定のタイムスパンで図10の電気化学的表面積(ECSA)測定を実行するようにすることもできる。なお、上記したステップS200での電気化学的表面積(ECSA)測定は、既述したように、燃料電池セル120のそれぞれについて行うことができるほか、特定の燃料電池セル120についての測定結果を各燃料電池セルに当てはめることもできる。
【0049】
続くステップS210では、測定した的な電気化学的表面積(ECSA)の値(以下、測定ECSA値)と、触媒層であるカソード123について出荷前に測定してメモリ720に記憶済みの電気化学的表面積(ECSA)の値(以下、出荷前測定ECSA値)とを比較し、測定ECSA値が出荷前測定ECSA値より低下したか否かを判定する。ここで、測定ECSA値が出荷前測定ECSA値より低下していないと否定判定すれば、制御部700は、触媒層であるカソード123について出荷前に測定してメモリ720に記憶済みの触媒層ガス拡散抵抗出荷前測定値を呼び出す(ステップS220)。
【0050】
一方、ステップS210で測定ECSA値が出荷前測定ECSA値を超えていると否定判定すれば、実際の電気化学的表面積(ECSA)が小さくなっているとして、制御部700は、図9の第5マップを参照して、測定ECSA値に対応する触媒層ガス拡散抵抗値を算出する(ステップS230)。
【0051】
こうして触媒層ガス拡散抵抗値を得ると、制御部700は、セル特性計測器510(図1参照)のインピーダンス測定機器にてそれぞれの燃料電池セル120の触媒層であるカソード123のプロトン移動抵抗(触媒層H抵抗)と直流抵抗を測定する(ステップS240)。このステップS240の抵抗測定にあっても、既述したように中長期に亘ってカソード123やカソード側ガス拡散層125に起きるクリープに対処すべく、システム稼働初期から所定時間が経過した後に実行したり、所定の走行距離の走行後の定期点検の際や車両アイドリング中に実行すればよい。また、既述したように、特定の燃料電池セル120についての抵抗測定結果を各燃料電池セルに当てはめることもできる。
【0052】
その後、制御部700は、測定した触媒層H抵抗と直流抵抗とを第1マップ〜第4マップに参照させつつ、カソード側ガス拡散層125のガス拡散抵抗値(GDLガス拡散抵抗値)を算出する(ステップS250)。つまり、まず、図4の第1マップを参照して、ステップS240で測定した触媒層H抵抗に対応するカチオン量を算出する。その算出したカチオン量に対応する膜抵抗Rmを図6の第2マップを参照して算出する。燃料電池セル120におけるMEAの直流抵抗は、MEAを構成するカソード123について第2マップから得られた膜抵抗Rmとカソード側ガス拡散層125の直流抵抗とを含み、カソード側ガス拡散層125のガス拡散抵抗値(GDLガス拡散抵抗値は、MEAの直流抵抗から膜抵抗を引き、ガス拡散層(GDL)一枚当たりの抵抗に換算することによって得られる。その後は、カソード側ガス拡散層125について算出したGDL抵抗に対応するGDLクリープ量を図7の第3マップを参照して算出し、その算出したGDLクリープ量に対応するGDLガス拡散抵抗を図8の第4マップを参照して算出する。
【0053】
制御部700は、ステップS230で得たカソード123の触媒層ガス拡散抵抗値とステップS240で得たカソード側ガス拡散層125のGDLガス拡散抵抗との合算値を、燃料電池セル120における全体のガス拡散抵抗に設定する(ステップS260)。
【0054】
こうしてクリープ量に対応したガス拡散抵抗が得られると、制御部700は、そのガス拡散抵抗に応じて対処処置を実行し(ステップS300)、本ルーチンを一旦終了し、既述した点検等のタイミング、アイドルタイミング等において上記処理を繰り返す。図11はステップS300における対処処置の一手法である背圧制御処置を示すフローチャートである。
【0055】
図示するように、この背圧制御処置では、まず、先のステップS260(図10参照)で算出したガス拡散抵抗算出値が、予め定めた所定の値を超えるか否かを判定する(ステップS310)。この所定のガス拡散抵抗値は、燃料電池100を構成する燃料電池セル120の運転条件を変更する必要性を判断する閾値であり、次のように定めた。図12は背圧制御処置において運転条件の変更要否の判断の基となるセル特性の関係を説明するための説明図である。
【0056】
この図12は、その左方のグラフにて、燃料電池セル120の電圧電流特性を燃料電池セル120のガス拡散抵抗ごとに示し、右方のグラフにて、ガス拡散抵抗とカソード背圧との関係を示している。図12の電圧電流特性は、120〜200s/mの範囲のガス拡散抵抗を備える燃料電池セル120をモデル化してシミュレーションして定めた。このシミュレーション手法は、燃料電池セル120の構成を示す図2における電解質膜121、アノード122、カソード123およびガス拡散層を所定メッシュを有するものとしてモデル化した上で、例えば、第49回電池討論会や第50回電池討論会で提案されたように、酸素輸送にアイオノマフィルム効果とアグロメレート効果を考慮した輸送算出速度式を適用したシミュレーション手法である。この手法を、120〜200s/mの範囲のガス拡散抵抗を備える燃料電池セル120のそれぞれについて適用し、それぞれのガス拡散抵抗の燃料電池セル120ごとに電圧電流特性をプロットした。これによれば、グラフにも記したように、ガス拡散抵抗が低いほど限界電流値(電流密度)は大きく、ガス拡散抵抗が160s/m以上になると、限界電流値は2A/cmとなって発電能力の低下が顕著となる。図12の右方のグラフのように、ガス拡散抵抗が160s/m以上になるとカソードの背圧を高めることとし、その背圧増大程度を、ガス拡散抵抗の増大状況に対応させるようにした。つまり、ステップS310では、ステップS260で算出したガス拡散抵抗算出値が160s/mを超えるか否かを判定し、否定判定すれば、運転条件の変更を要しないとし(ステップS312)、本ルーチンを終了する。
【0057】
一方、ステップS310でガス拡散抵抗算出値が160s/mを超えていると肯定判定すれば、改めてこのガス拡散抵抗算出値が限界値を超えるか否かの判定を行う(ステップS314)。図13は背圧制御処置においてGDL寿命の判断の基となるセル特性の関係を説明するための説明図である。
【0058】
この図13は、燃料電池システム20を搭載した車両の走行距離とガス拡散層のクリープ量(GDLクリープ量)との関係を示しており、車両走行距離がある程度、例えば数十万km以上となると、GDLクリープ量は飽和することを示している。そして、GDLクリープ量は図8の第4マップに示したようにGDLガス拡散抵抗と対応していることから、ステップS314では、GDLクリープ飽和量に対応したGDLガス拡散抵抗を限界値として、上記判定を行う。ここで、否定判定すれば、制御部700は、それ以前のステップS310での肯定判定(ガス拡散抵抗算出値>160s/m)と相まって、図12の右方に示したグラフに対応するマップを参照してカソード側の背圧を高める側に変更し(ステップS316)、本ルーチンを終了する。この背圧変更は、図1に示したカソードガス供給部300における背圧調整バルブ342を制御することでなされ、その変更程度、即ち背圧増大程度は、図12に示すようにクリープ量に基づくガス拡散抵抗が大きくなるほど大きくなる。つまり、制御部700は、こうした背圧変更により、取得したガス拡散抵抗算出値の増大状況に応じて、空気の供給圧を高める側に制御する。なお、ステップS314の判定については、先のステップS250にて第3マップを参照して求めたGDLクリープ量が図13のGDLクリープ飽和量を超えるかの判定に変えることができる。また、図12の右方に示したグラフに対応するマップは、予めメモリ720に記憶済みである。
【0059】
上記のステップS314で肯定判定すれば、制御部700は、カソード側ガス拡散層125、延いてはアノード側ガス拡散層124ではクリープが既に飽和状態であるので、ガス拡散層の寿命が尽きたとしてその交換を報知し(ステップS318)、本ルーチンを終了する。この交換報知の手法としては、燃料電池システム20の搭載車両のインスルーメントパネルの報知ランプを点灯制御したり、オーディオ機器を用いた音声報知、無線通信を介した保守点検センターへの報知などがある。
【0060】
図14は図10のステップS300における対処処置の一手法である出力制限処置を示すフローチャートである。
【0061】
図示するように、この出力制限処置では、まず、先のステップS260(図10参照)で算出したガス拡散抵抗算出値と、燃料電池セル120について出荷前に測定してメモリ720に記憶済みのガス拡散抵抗の値(以下、出荷前測定ガス拡散抵抗値)とを比較し、ガス拡散抵抗算出値が出荷前測定ガス拡散抵抗値より増加したか否かを判定する(ステップS320)。ここで、ガス拡散抵抗算出値が出荷前測定ガス拡散抵抗値より増加していないと否定判定すれば、制御部700は、燃料電池100、延いては燃料電池セル120が出力し得る最大要求電流値の変更を要しないとし(ステップS322)、本ルーチンを終了する。
【0062】
一方、ステップS322でガス拡散抵抗算出値が出荷前測定ガス拡散抵抗値より増加していると肯定判定すれば、ガス拡散抵抗算出値により、現状の燃料電池セル120で出力する限界電流値を算出する(ステップS324)。図15はガス拡散抵抗値と限界電流値との関係を示す説明図である。この図15は、その左方のグラフにて、既述した図12と同様にガス拡散抵抗が高くなるほど限界電流値は低下することを示し、ガス拡散抵抗値ごとに限界電流値をプロットして、右方のグラフにて、ガス拡散抵抗と限界電流値との関係を示している。そして、制御部700は、ステップS324にて図15の右方に示したグラフに対応するマップを参照して現状の燃料電池セル120(詳しくは燃料電池100)で出力する限界電流値を算出し、続くステップS326にて、その限界電流値を最大電流値に設定し、本ルーチンを終了する。こうして現状の燃料電池セル120(詳しくは燃料電池100)の出力は制限され、この出力制限は、モーター制御部640に対してなされ、その最大出力(最大電流値)は、図15に示すようにガス拡散抵抗が大きくなるほど大きく制限されることになる。このことは、要求負荷(要求電流)が制限済みの最大出力(最大電流値)を上回ると、制御部700は、燃料電池100、延いては燃料電池セル120の出力(電流値)が要求負荷(要求電流)を下回るように燃料電池100を運転制御することを意味する。なお、図15の右方に示したグラフに対応するマップは、予めメモリ720に記憶済みである。
【0063】
図16は図10のステップS300における対処処置の一手法である冷却停止処置を示すフローチャートである。
【0064】
図示するように、この冷却停止処置では、先の出力制限処置におけるステップS320〜324と同様、ガス拡散抵抗算出値と出荷前測定ガス拡散抵抗値との比較判定(ステップS330)、その判定結果に応じた最大要求電流値の変更不要処理(ステップS332)、ガス拡散抵抗算出値に基づいた限界電流値の算出(ステップS334)を実行する。そして、その算出した限界電流値が予め定めた所定値(0.4A/cm)以下であるか否かを判定する(ステップS336)。図17は限界電流値と電池昇温に要する時間との関係を示す説明図である。この図17は、停止状態にある燃料電池100を所定の出力電流密度(限界電流密度)の出力で起動させた場合、電池温度が−30℃から0℃に昇温するまでの経過時間を測定し、その経過時間を出力電流密度(限界電流密度)に対してプロットして、限界電流値と電池昇温に要する時間との関係を示している。
【0065】
この図17に実線で示すように電池起動の際において、冷媒循環の実行下で起動させると、起動時の出力電流密度(限界電流密度)が小さいほど電池昇温が鈍って昇温に要する時間が長くなり、起動時の出力電流密度(限界電流密度)が大きくなるほど電池昇温は速やかに起きる。図17に点線で示す冷媒循環の停止下での起動の際の電池昇温時間の推移の様子も同様であるものの、冷媒循環による冷却(強制冷却)がない分だけ、起動時の出力電流密度(限界電流密度)が小さくても昇温時間は短時間となる。これは、電気化学反応に伴う熱を電池昇温にほぼ費やせるからである。ところで、電池温度が低いままでは発電が不安定なため、電池温度がある程度昇温するまで、通常、通常の発電運転を待機する。例えば、燃料電池システム20の搭載車両であれば、電池温度の昇温が済むまで運転待機を強いるので、この待機時間は実用上約40sec程度となる。そうすると、ガス拡散抵抗算出値に基づいて算出した限界電流値が0.4A/cmを超えていれば、図17に示すように、冷媒循環により冷却していても、起動後の昇温は上記した約40secで済むことが判る。
【0066】
こうした知見に立ち、制御部700は、ステップS336でガス拡散抵抗算出値に基づいて算出した限界電流値が0.4A/cmを超えていると否定判定すると、起動の際に冷媒循環を実行しておくようにして(ステップS338)、本ルーチンを終了する。これにより、燃料電池100、即ちそれぞれの燃料電池セル120は、冷媒循環の実行下で起動させることになる。具体的には、制御部700は、車両運転者の始動スイッチ740(図1参照)の操作に伴い、冷却装置400の冷却循環器410を運転させて冷媒循環を図ると共に、アノードガス供給部200およびカソードガス供給部300からガス供給を開始して、燃料電池100を起動する。
【0067】
一方、ステップS336でガス拡散抵抗算出値に基づいて算出した限界電流値が0.4A/cm以下であると肯定判定すると、制御部700は、起動の際に冷媒循環を停止するようにして(ステップS338)、本ルーチンを終了する。これにより、燃料電池100、即ちそれぞれの燃料電池セル120は、冷媒循環がなされていない状況下で起動させることになる。具体的には、制御部700は、車両運転者の始動スイッチ740の操作に伴い、ガス供給を開始して燃料電池100を起動するものの、冷却装置400の冷却循環器410についてはその運転を停止させておく。なお、制御部700は、燃料電池温度をセンサーにて検知し、電池温度が例えば0℃を超えると、その時点から冷却循環器410の運転を開始し、冷媒循環による電池冷却を図るようにできる。また、発電性能確保の上から望ましい温度、例えば定常の発電運転時の電池温度の近くになってから、冷却循環器410の運転を開始して、冷媒循環による電池冷却を図るようにできる。
【0068】
以上説明したように、本実施例の燃料電池システム20は、触媒層であるカソード123やカソード側ガス拡散層125に発生したクリープに伴い中長期的なタイムスケールで徐々に増大するガス拡散抵抗を取得する(ステップS230〜260)。その上で、本実施例の燃料電池システム20では、ガス拡散抵抗とクリープ量との対応関係に対応付けてクリープ量に基づいたガス拡散抵抗の増大状況を把握する(ステップS230〜250)。そして、この取得したガス拡散抵抗の増大をフラッディングによるガス拡散抵抗の増大と明確に区別して、クリープ量に基づいたガス拡散抵抗の増大状況に応じた制御(ステップS300、ステップS310〜318、ステップS320〜326、ステップS330〜340)を実行する。このため、本実施例の燃料電池システム20によれば、ガス拡散抵抗の復帰を前提としたフラッディング時に行う一時的な種々の制御を、クリープ量に基づいたガス拡散抵抗の増大状況において誤って実行しないようにできる。しかも、クリープに伴い中長期的なタイムスケールでガス拡散抵抗が徐々に増大すれば、そのクリープ量に基づいたガス拡散抵抗の増大状況に応じた制御(ステップS300)を行うことで、ガス拡散阻害を徐々にもたらすクリープによるガス拡散抵抗の増大への対処を図ることができる。
【0069】
本実施例の燃料電池システム20は、クリープによるガス拡散抵抗の増大への一対処処置として、カソードガス供給部300からの空気の供給圧量を高める背圧制御処置を行う(図11参照)。つまり、ガス拡散抵抗算出値(図10:ステップS260)が所定の値(160s/m)以上になると、限界電流値が顕著に低下して発電能力の低下を来すことから(図12)、燃料電池システム20は、これを抑制すべく背圧制御処置を行う。この背圧制御処置では、本実施例の燃料電池システム20は、クリープによりガス拡散抵抗値(ガス拡散抵抗算出値)が増大すると、カソードの背圧を高めてガス供給圧を高めると共に、クリープ量に基づいたガス拡散抵抗算出値の増大程度に応じて、背圧増大程度を大きくする(図12)。このため、本実施例の燃料電池システム20によれば、背圧制御を通したガス(空気)の供給圧増大により、触媒層であるカソード123とカソード側ガス拡散層125におけるガス拡散を高めることで、燃料電池100の発電出力の低下を抑制できる。しかも、クリープによりガス拡散抵抗値(ガス拡散抵抗算出値)が増大しても、能力低下を抑制した上で燃料電池100の発電を継続できることから、長寿命化、もしくは発電能力の低下を起こした燃料電池セル120のカソード側ガス拡散層125の交換と言った保守作業コストの低減を図ることができる。
【0070】
また、本実施例の燃料電池システム20では、カソードガス供給部300における背圧調整バルブ342での背圧調整制御という簡便な手法で、クリープによりガス拡散抵抗値(ガス拡散抵抗算出値)が増大した際の発電能力の低下を容易に抑制できる。
【0071】
また、本実施例の燃料電池システム20では、クリープにより増大するガス拡散抵抗値(ガス拡散抵抗算出値)が小さければ、クリープの発生がないもしくはクリープ量が少なくその影響が小さいとして、運転条件を変更しない(ステップS312)。このため、クリープ量に基づくガス拡散抵抗の増大に応じた制御と異なる制御、例えば、一時的にガス拡散抵抗が増大して基に復帰するフラッディングに基づく制御などは、当該制御目的に応じて実行できるので、これら制御による能力低下の抑制も図ることができる。
【0072】
また、クリープにより増大するガス拡散抵抗値(ガス拡散抵抗算出値)がクリープ飽和に対応した限界値となれば、カソード側ガス拡散層125の寿命が尽きたとしてその交換を報知する(ステップS318:図13)。このため、ユーザーや保守点検者に、寿命が尽きたカソード側ガス拡散層125を有する燃料電池セル120の交換を促すことができる。なお、セル特性計測器510は、それぞれの燃料電池セル120についてセル特性を測定するので、その結果に基づいて、寿命が尽きたカソード側ガス拡散層125を有する燃料電池セル120を特定できるので、誤交換といった事態も回避できる。
【0073】
本実施例の燃料電池システム20は、クリープによるガス拡散抵抗の増大への一対処処置として、燃料電池100、詳しくは燃料電池セル120の出力を制限する出力制限処置を行う(図14参照)。この処置では、ガス拡散抵抗算出値(図10:ステップS260)が出荷前測定ガス拡散抵抗値より増加していなければ、出力制限を行わない。この際の最大要求電流値は、通常、アクセル750(図1参照)の操作に基づいた要求電流値より大きい。よって、本実施例の燃料電池システム20によれば、アクセル750の操作に基づいた要求電流値が出力できるよう燃料電池100の燃料電池セル120を運転制御することができる。具体的には、アクセル750の操作に基づいた要求電流値が出力できるようガス供給を制御することで、アクセル750の操作に基づいた要求電流値でモーター630をモーター制御部640にて運転できる。
【0074】
そして、ガス拡散抵抗算出値が出荷前測定ガス拡散抵抗値より増加していれば、限界電流値が顕著に低下して発電能力の低下を来すことから(図15)、燃料電池システム20は、限界電流値を超える出力での運転を回避すべく出力制限処置を行う。つまり、本実施例の燃料電池システム20は、クリープによりガス拡散抵抗算出値が増大すると、クリープ量に基づいたガス拡散抵抗算出値の増大程度に応じて、限界電流値を小さい電流値に制限する(図15)。このため、本実施例の燃料電池システム20では、要求負荷(要求電流)が制限済みの最大出力(限界電流値)を上回ると、燃料電池100、延いては燃料電池セル120の出力(電流値)が要求負荷(要求電流)を下回るように燃料電池100を運転制御する。よって、本実施例の燃料電池システム20によれば、ガス拡散抵抗がクリープ量に基づいて徐々に増大しても、最大出力(限界電流値)の上限設定を通して、その最大出力(限界電流値)の範囲での発電を継続することができる。また、このように最大出力(限界電流値)を制限することから、燃料電池セル120における負電圧の発生を回避して、電解質膜121の損傷を回避できる。
【0075】
本実施例の燃料電池システム20は、クリープによるガス拡散抵抗の増大への一対処処置として、起動運転時における冷媒循環による冷却を停止する冷却停止処置を行う(図11参照)。この処置では、ガス拡散抵抗算出値(図10:ステップS260)に対応した限界電流値が0.4A/cmを超えていれば、この限界電流値に対応した電池運転により早期に電池温度を昇温できるとして、燃料電池100、即ちそれぞれの燃料電池セル120を、冷媒循環の実行下で起動する。よって、電池温度が昇温するまでの待機時間を短くできると共に、速やかな起動の確保、即ち始動性の向上とこれに続く通常運転を支障なく実行できる。
【0076】
そして、ガス拡散抵抗算出値に対応した限界電流値が0.4A/cm以下であると、電池温度の速やかな昇温を図るべく、燃料電池100、即ちそれぞれの燃料電池セル120を、冷媒循環がなされていない状況下で起動させる。このため、本実施例の燃料電池システム20によれば、クリープによりガス拡散抵抗算出値が大きく増大しても、冷媒循環の停止下での起動運転により、電池温度が昇温するまでの待機時間を短くして、起動後の通常運転に支障を来さないようにできる。通常、冷媒循環の停止下での燃料電池運転では、燃料電池セル120において熱集中を招くため耐久性の悪化が懸念される。しかしながら、本実施例では、ガス拡散抵抗算出値に対応した限界電流値が0.4A/cm以下となるようガス拡散抵抗算出値が大きく増大した場合に冷媒循環の停止下での起動運転を、当該起動運転の実行頻度を少なくして、耐久性への悪化を抑制できる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、上記の実施例では、クリープによるガス拡散抵抗の増大への一対処処置として、背圧制御処置と出力制限処置と冷媒停止処置とを行うようにしたが、これらを個別に行うようにすることもできる。
【0078】
また、クリープによるガス拡散抵抗の増大への一対処処置としての冷却停止処置を、燃料電池100の起動時の環境温度或いは電池温度が氷点下を下回る状況下の時に制限するようにすることもできる。この場合には、図16のステップS366の前に、燃料電池100の起動時の環境温度或いは電池温度が氷点下を下回るか否かを判定し、これが肯定判定された際に、ステップS366に移行するようにすればよい。こうすれば、冷媒循環の停止下での起動運転の実行頻度をより少なくできるので、耐久性の維持もしくは低下抑制の実効性を高めた上で、氷点下での始動性を高めることができる。
【0079】
また、上記の実施例では、クリープによりカソード123のガス拡散抵抗についても、これをガス拡散抵抗算出値に加味したが(ステップS260)、カソード側ガス拡散層125についてのガス拡散抵抗のクリープ量に基づく算出値を、対処処置の際のガス拡散抵抗算出値とすることもできる。
【0080】
また、ステップS310でのガス拡散抵抗算出値と所定のガス拡散抵抗値との比較によるクリープに基づく抵抗増大判定や、ステップS320とステップS330でのガス拡散抵抗算出値と出荷前測定ガス拡散抵抗値との比較によるクリープに基づく抵抗増大判定において、ガス拡散抵抗算出値の変化率(増大率)を考慮することもできる。こうすれば、一時的にガス拡散抵抗算出値が変化したり元に戻ったりした場合には、このガス拡散抵抗算出値の増大状況は、クリープにより徐々に増大したものでなはいとして、区別することができる。
【0081】
この他、上記の実施例では、燃料電池システム20を搭載した車両について説明したが、燃料電池システム20を建物床面に設置して燃料電池100を発電源とする定置式の発電システムとしても適用できる。
【0082】
また、上記の実施例では、第1マップの取得の際、第5マップの取得の際、およびステップS200における電気化学的表面積(ECSA)の測定の際に、アノードには水素をカソードには空気または酸素を供給するようにしたが、カソードについては、これに代え、窒素などの不活性ガスを供給するようにすることもできる。このように不活性ガスを供給すれば、測定精度が高まり好ましい。そして、カソードに不活性ガスを供給して電気化学的表面積(ECSA)を測定する場合には、カソード側にカソードガス供給部300とは別に不活性ガス供給系と不活性ガスタンクとを設けて、電気化学的表面積(ECSA)の測定の際に、空気供給から不活性ガス供給に切り替えればよい。
【符号の説明】
【0083】
20…燃料電池システム
100…燃料電池
120…燃料電池セル
121…電解質膜
122…アノード
123…カソード
124…アノード側ガス拡散層
125…カソード側ガス拡散層
126…ガスセパレーター
127…ガスセパレーター
128…セル内燃料ガス流路
129…セル内酸化ガス流路
200…アノードガス供給部
210…水素ガスタンク
220…アノードガス供給流路
222…開閉バルブ
224…レギュレータ
226…水素供給部
230…アノードガス循環流路
232…水素ガスポンプ
234…気液分離部
236…排気排水バルブ
238…排出流路
300…カソードガス供給部
310…吸気口
320…コンプレッサ
330…カソードガス供給流路
340…カソードオフガス排出流路
342…背圧調整バルブ
350…排気口
360…加湿部
400…冷却装置
410…冷却循環器
420…冷媒供給流路
430…冷媒排出流路
500…セル特性計測部
510…セル特性計測器
520…電圧センサー
530…電流センサー
600…電力制御部
610…二次電池
620…二次電池制御部
630…モーター
640…モーター制御部
700…制御部
710…CPU
710a…電池出力制御部
710b…セル特性判定部
720…メモリ
730…入出力部
740…始動スイッチ
750…アクセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する電解質膜の各膜面に触媒電極を接合した膜電極接合体と、該膜電極接合体の少なくとも一方の前記触媒電極に接合してガス拡散流路を形成するガス拡散層とを有する燃料電池であって、
前記ガス拡散層を拡散するガスのガス拡散抵抗と前記ガス拡散層に生じたクリープのクリープ量との対応関係を記憶する記憶部と、
前記ガス拡散抵抗を取得すると共に、前記対応関係を参照して前記取得済みガス拡散抵抗に対応するクリープ量を求め、前記取得済みガス拡散抵抗の前記クリープ量に基づいた増大状況を把握する拡散抵抗取得部とを備える
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
更に、
外部の負荷の要求電力に基づいて燃料ガスと酸素含有ガスとを供給しつつ、前記燃料電池の発電制御を行う発電制御部を備え、該発電制御部は、前記取得済みガス拡散抵抗の前記増大状況に応じて、前記ガスの供給を、発電出力の低下を抑制する側に制御する
燃料電池。
【請求項3】
前記発電制御部は、前記取得したガス拡散抵抗の前記増大状況に応じて、ガス供給圧を高める側に制御する請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池であって、
更に、
外部の負荷の要求電力に基づいて燃料ガスと酸素含有ガスとを供給しつつ、前記燃料電池の発電制御を行う発電制御部を備え、該発電制御部は、前記要求電力に拘わらず、前記取得済みガス拡散抵抗の前記増大状況に応じて発電出力を制限するよう発電制御する
燃料電池。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料電池であって、
更に、
電池冷却を図るよう冷媒を循環制御する冷却部を備え、該冷却部は、前記取得済みガス拡散抵抗の前記増大状況において、前記発電制御部による前記燃料電池の起動の際の昇温が予め定めた所定の昇温の速さより鈍ると、冷媒の循環制御を停止する
燃料電池。
【請求項6】
前記冷却部は、前記増大状況での冷媒の循環制御の停止を、前記燃料電池の起動が氷点下を下回る状況下においてなされたときに実行する請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記拡散抵抗取得部は、前記触媒電極におけるガスのガス拡散抵抗を含めて前記ガス拡散抵抗を取得する請求項1ないし請求項6いずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−221609(P2012−221609A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83467(P2011−83467)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】