説明

燃焼制御方法、及び廃棄物処理装置

【課題】燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制する。
【解決手段】廃棄物を燃焼する燃焼炉から排出された排ガスの酸素濃度を計測し、計測された酸素濃度を設定値又は設定範囲のいずれかに保持するように燃焼炉に供給する燃焼用空気の供給量を制御するとともに、排ガスのNOx濃度を計測し、計測されたNOx濃度が予め定められたNOx上限値(HH)を超えた場合は、その時の燃焼用空気のバルブ開度を燃焼用空気ハイリミットに設定し、予め定められたNOx下限値(LL)を下回った場合は、その時の燃焼用空気のバルブ開度を燃焼用空気ローリミットに設定することを基本態様する。そして、新たに、計測NOx濃度がHHを超えた後閾値Hまで量減少したら、設定された燃焼用空気ハイリミットを+α増加させ、計測NOx濃度がLLを下回った後閾値Lまで増加したら、設定された燃焼用空気ローリミットを−β減少させる制御を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼制御方法、及び廃棄物処理装置に係り、具体的には、燃焼炉排ガスに含まれるNOx濃度の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の燃焼処理手法として、ストーカ式焼却炉や流動床式焼却炉により直接焼却することの他、廃棄物を熱分解して生成される熱分解ガスを燃焼炉で高温燃焼するとともに、この燃焼炉に熱分解残渣に含まれる可燃性成分などを投入して燃焼及び溶融させるガス化溶融システムが知られている。
【0003】
このガス化溶融システムの例として、廃棄物を熱分解して生成される熱分解ガス及び一部の熱分解残渣を高温の炉内に導入し、旋回させながら燃焼用空気を2段階で供給して、燃焼及び溶融させる2段燃焼方式が知られている。
【0004】
すなわち、1段目の燃焼室に供給する空気量を燃焼対象物の化学量論比未満に調整する一方、2段目の燃焼室へ供給する空気量を燃焼排ガス中の酸素濃度が設定範囲に収まるように調整するとともに、1段目の燃焼室の燃焼温度に基づいて補正することにより、COやNOxの発生を抑制するものである。
【0005】
さらに、特許文献1に記載されているように、燃焼排ガス中の酸素濃度に基づく燃焼用空気量の制御に加えて、燃焼排ガス中のNOx濃度による燃焼用空気の供給量のリミット制御を行うことが知られている。
【0006】
すなわち、NOx計測値が予め定められた上限値を超えたら、その時点での空気供給量をハイリミット値として設定し、反対にNOx計測値が予め定められた下限値を下回ったら、その時点での空気供給量をローリミットとして設定するものである。これにより、NOx及びCOの排出を適正値以下に抑制することができるとされている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−233501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術には、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制することについてさらなる改善の余地がある。
【0009】
すなわち、特許文献1に記載されているように燃焼用空気の供給量のハイリミット及びローリミットの設定を繰り返し行っていると、燃焼炉での燃焼状態によっては、ハイリミット値が除々に小さく、ローリミット値が除々に大きくなるおそれがある。これにより、ハイリミット値とローリミット値とが互いに近づき両者間の幅が狭くなる結果、燃焼用空気の供給量の可変領域が狭くなるので、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の燃焼制御方法は、廃棄物を燃焼する燃焼炉から排出された排ガスの酸素濃度を燃焼炉の後流側の排ガス流路で計測し、この計測された酸素濃度を設定値又は設定範囲のいずれかに保持するように燃焼炉に供給する燃焼用空気の供給量を制御するとともに、排ガス流路で排ガスのNOx濃度を計測し、この計測されたNOx濃度が予め定められたNOx上限値を超えた場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の上限値に設定し、予め定められたNOx下限値を下回った場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の下限値に設定することを基本態様としている。
【0012】
また、上記課題を解決するため、計測されたNOx濃度がNOx上限値を超えた後NOx上限値より所定量減少したら、設定された燃焼用空気の上限値を増加させ、計測されたNOx濃度がNOx下限値を下回った後NOx下限値より所定量増加したら、設定された燃焼用空気の下限値を減少させることを特徴としている。
【0013】
すなわち、NOx濃度がNOx上限値を超えたら、その時の空気供給量を燃焼用空気の上限値(ハイリミット値)として設定するが、その後NOx濃度が所定量減少したら燃焼用空気上限値を増加させることにより、燃焼用空気上限値が除々に小さくなるのを防止することができる。反対に、NOx濃度がNOx下限値を下回ったら、その時の空気供給量を燃焼用空気の下限値(ローリミット値)として設定するが、その後NOx濃度が所定量増加したら燃焼用空気下限値を減少させることにより、燃焼用空気下限値が除々に大きくなるのを防止することができる。
【0014】
したがって、燃焼用空気の上限値と下限値とが互いに近づき両者間の幅が狭くなることを防止することができるので、燃焼用空気の供給量の可変領域が狭くなることを抑制できる。その結果、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制することができる。
【0015】
なお、燃焼用空気の上限値を設定するのは、その時点におけるNOx濃度がこれ以上増加しないようにするためであるので、一旦NOx濃度がある程度減少したら、燃焼用空気の上限値を増加させても問題はない。燃焼用空気の下限値に関しても同様である。
【0016】
NOx濃度がNOx上限値を超えた後どの程度減少したら燃焼用空気の上限値を増加させるか(一旦設定された燃焼用空気の上限値を増加させるタイミングを判断するための閾値)は、NOx濃度のNOx上限値付近でのふらつきにより燃焼用空気の上限値設定が頻繁に繰り返されないようにするという観点で適宜設定することができる。NOx濃度がNOx下限値を下回った後NOx下限値より所定量増加したか否かを判断するための閾値についても同様である。
【0017】
また、設定された燃焼用空気のリミット値の増加、及び減少量については、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制するという目的を考慮して、実際の運転により適宜の値を固定値として設定しておくことができる。また、増加、及び減少量を固定値とするのではなく、例えば燃焼用空気の上下リミット値としてそれぞれ適切な初期値を設定しておき、リミット値変更の条件を満たしたら、それぞれ初期値に戻るように増加、及び減少させることもできる。
【0018】
また、本発明の廃棄物処理装置は、廃棄物を熱分解する熱分解反応器と、この熱分解反応器から発生する熱分解ガスと熱分解残渣の一部とを燃焼する燃焼溶融炉と、この燃焼溶融炉に燃焼用空気を供給する空気供給手段と、燃焼溶融炉から排出される排ガスの酸素濃度を計測する酸素濃度計測手段と、排ガスのNOx濃度を計測するNOx濃度計測手段と、酸素濃度計測手段により計測される排ガスの酸素濃度を設定値又は設定範囲のいずれかに保持するように空気供給手段の燃焼用空気の供給量を制御するとともに、NOx濃度計測手段により計測されるNOx濃度が予め定められたNOx上限値を超えた場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の上限値として設定し、予め定められたNOx下限値を下回った場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の下限値として設定する制御手段とを基本態様として備えてなる。
【0019】
上記課題を解決するため、制御手段は、計測されるNOx濃度がNOx上限値を超えた後NOx上限値より所定量減少したら、設定された燃焼用空気の上限値を増加させ、計測されるNOx濃度がNOx下限値を下回った後NOx下限値より所定量増加したら、設定された燃焼用空気の下限値を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を適用してなる燃焼制御方法、及び廃棄物処理装置の実施形態について説明する。図1は、本発明の燃焼制御方法を廃棄物処理装置に適用した一実施形態の全体構成図を示している。図に示すように、トラック1により運ばれた廃棄物がごみピット2に投入されると、クレーン3でごみ破砕機4まで搬送され、所定の大きさに破砕されて搬送機5に供給される。
【0022】
搬送機5により搬送された廃棄物は、熱分解ドラム6に投入され、ここにおいて熱分解された廃棄物の熱分解ガスと熱分解残渣は排出装置7により分離され、熱分解ガスはガスライン8を通って燃焼溶融炉9に導かれる。一方、熱分解残渣は、冷却ドラム10、熱分解固形物分別設備11を経て、冷却、分別および細粒化処理がなされた後、搬送ライン12により燃焼溶融炉9に供給される。
【0023】
燃焼溶融炉9は、頂部に図示しないバーナと、このバーナから下方の炉壁に設けられた第1の空気ノズル13と、この第1の空気ノズル13から下方に順次設けられた第2,第3の空気ノズル(併せて14)とを備えている。この第2,第3の空気ノズル14には、ごみピット2内から空気供給ライン15を通じて押込送風機16により圧送された空気が供給され、ここから燃焼溶融炉9内に噴出されるようになっている。第2,第3の空気ノズル14,空気供給ライン15,押込送風機16などにより、燃焼溶融炉9に燃焼用空気を供給する空気供給手段が構成されている。
【0024】
燃焼溶融炉9の底部において溶融スラグを排出するスラグ排出口17は、水槽18の水面に向けて開口して設けられている。なお、水槽18中に供給された溶融スラグは、スラグヤード19に供給されるようになっている。
【0025】
燃焼溶融炉9から排出された高温の燃焼排ガスは、高温空気加熱器20、廃熱ボイラ21により順次熱回収された後、減温塔22で冷却され、除塵用バグフィルタ23、脱塩用バグフィルタ24により、それぞれ除塵及び脱塩が施され、誘引送風機25を介して煙突26から大気に排出されるようになっている。
【0026】
ここで、誘引送風機25から排出された燃焼排ガスの一部は、排ガス循環送風機27に導かれ、燃焼溶融炉9などの外壁の冷却用として利用されている。また、高温空気加熱器により熱回収され加熱された高温空気は、始動用加熱炉28を経由して、その一部が熱分解ドラム6の加熱用空気に利用される一方、残りの空気は、加熱空気冷却器29により冷却され、再び加熱空気送風機30を経由して高温空気加熱器20に戻されるようになっている。
【0027】
なお、廃熱ボイラ21により回収された熱から生成された水蒸気は、蒸気タービンや発電機31により発電に利用されるようになっている。脱塩用バグフィルタ24により回収された脱塩残渣は、脱塩残渣回収装置36に回収されて重金属処理し、灰固化されて系外へ排出される。
【0028】
燃焼用空気の供給制御系は、空気供給ライン15における押込送風機16の吐出側に配設される流量制御弁32と、この流量制御弁32を制御する制御装置33と、酸素分析計34と、NOx濃度分析計35とを備えて構成される。
【0029】
酸素分析計34は、例えばジルコニアO2計などで構成され、除塵用バグフィルタ23から排出される除塵された燃焼排ガスをサンプリングして排ガス中の酸素濃度を測定する。酸素濃度の計測値は制御装置33に入力され、予め定められている酸素濃度の設定値又は設定範囲との差が求められる。この差は、制御装置33において、PIDなどからなる制御手段に入力され、その差を低減する空気量が演算される。
【0030】
また、NOx濃度分析計35は、脱塩用バグフィルタ24から排出され、清浄化された燃焼排ガスを誘引送風機25の後流側からサンプリングして排ガス中のNOx濃度を計測する。NOx濃度の計測値は制御装置33に入力され、後述するように、予め設定された濃度範囲から外れた場合は、上述した酸素濃度に基づく空気量制御に一定の制限を加えるリミット設定を行うとともに、設定されたリミット値の変更制御を行う。
【0031】
なお、本実施形態では、廃棄物処理装置として、廃棄物を熱分解ドラム6で熱分解した後、熱分解ガスと熱分解残渣を燃焼溶融炉9で燃焼する例を示したが、これには限られない。例えば、ストーカ式焼却炉や流動床式焼却炉により廃棄物を直接焼却する廃棄物処理装置の燃焼用空気の供給量制御に対して本発明を適用することも可能である。
【0032】
次に、このように構成される廃棄物プラントにおける燃焼用空気の供給制御系の動作について詳細に説明する。燃焼溶融炉において、バーナから第1の空気ノズル13に至る1次燃焼域の燃焼は、第1の空気ノズル13から供給される化学量論比以下の不足空気で行われ、これによりフューエルNOxの発生が低減される。この1次燃焼域における温度は、例えば、1000〜1200℃の高温に調整される。
【0033】
一方、第1の空気ノズルから第2,3の空気ノズル14に至る2次燃焼域の燃焼は、第2,第3の空気ノズル14から供給される空気で行われ、この空気供給量は、熱分解ガスと熱分解残渣の完全燃焼に必要な化学量論比に一定の過剰空気量を加えた量から、1次燃焼域で供給した空気量を差し引いた量に制御されている。
【0034】
2次燃焼域に供給される空気量の制御は、基本的に燃焼排ガスの酸素濃度を設定値又は設定範囲のいずれかに保持するように調整される。燃焼排ガスの酸素濃度は除塵用バグフィルタ23を通過して除塵された排ガスを酸素分析計34に導いて行う。制御装置33は、酸素分析計34で計測された酸素濃度の計測値PVと予め設定された基準値となる酸素濃度値SPとを比較して、酸素濃度値SPが計測値PVより高い場合は、2次燃焼域に供給する空気量を増加させ、両者の差を小さくする指令値を流量制御弁32に出力して完全燃焼させる。また、計測値PVが酸素濃度値SPより高い場合は、空気の供給量を減少させる指令値を流量制御弁32に出力してNOxの発生を抑えるようにしている。
【0035】
しかしながら、廃棄物の投入量が変動したり、熱分解ガスの発熱量に関わる可燃物の組成などが変動したりすると、必要な空気量に変動が生じ、酸素濃度に基づいて空気量を調整するだけでは、NOxおよびCOの発生を適性値以下に抑制できない場合がある。すなわち、空気供給量が過剰になるとNOxが発生し、供給不足になるとCOが発生することになる。
【0036】
そこで、NOx及びCOの排出を抑制すべく、制御装置33により空気供給量のリミット制御を行っている。具体的には、排ガスのNOx濃度を計測し、その計測値が予め定められた上限値を超えた場合は、空気供給量の増加を停止、好ましくは減少させ、下限値を下回る場合は、空気供給量の減少を停止、好ましくは増加させるようにして、上記の酸素濃度に応じた空気量制御に制限を加えるようにしている。
【0037】
すなわち、NOx計測値が下限値以上、上限値以下の範囲に収まる場合は、上述したように、酸素濃度に基づく空気供給量のPID制御などが行われ、設定値などに保持するように、空気量の増加や減少などが自動的に行われる。
【0038】
これに対し、NOx計測値が上限値を超える場合は、空気供給量の増加を停止させ、減少と維持のいずれかの動作が行われる。すなわち、酸素濃度値SPが計測値PVより高い場合は、基本的に空気供給量を増加させるように制御されるが、NOx計測値に基づく制御の制限が加わることにより、空気供給量の増加が禁止され、D制御(微分動作)による空気供給量を減少させる動作(増加を抑えようとする動作)については許可される。
【0039】
また、計測値PVが酸素濃度値SPより高い場合は、基本的に空気供給量を減少させるように制御されるが、NOx計測値による制御により、空気供給量の減少は許可され、D制御による空気供給量を増加させる動作(減少を抑えようとする動作)については禁止される。
【0040】
一方、NOx計測値が下限値を下回る場合は、空気供給量の減少を停止させ、増加と維持のいずれかを行うようにする。すなわち、酸素濃度値SPが計測値PVより高い場合は、空気供給量の増加が許可され、D制御による空気量を減少させる動作は禁止される。また、計測値PVが酸素濃度値SPより高い場合は、空気供給量の減少が禁止され、D制御による空気供給量を増加させる動作は許可される。
【0041】
このようにして、空気供給量の出力値が演算処理されると、制御装置33から流量制御弁32に向けて、空気供給量に応じた弁開度の出力信号が送信され、第2、第3の空気ノズル14を介して適性量の空気が2次燃焼域に供給される。
【0042】
これにより、NOx計測値が上限値を超えた場合におけるNOx排出量の増加を抑制するとともに、下限値を下回った場合におけるCOの発生を抑制することができる。
【0043】
しかしながら、上述のようにNOx計測値が上限値を超えた場合に、その時点での空気供給量の出力値をハイリミット値として設定し、NOx計測値が下限値を下回った場合に、その時点での空気供給量の出力値をローリミット値として設定すると、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるおそれがある。
【0044】
つまり、このようなリミット値の設定を繰り返し行っていると、燃焼炉での燃焼状態によっては、ハイリミット値が除々に小さく、ローリミット値が除々に大きくなるおそれがある。これにより、ハイリミット値とローリミット値とが互いに近づき両者間の幅が狭くなる結果、燃焼用空気の供給量の可変領域が狭くなり、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるおそれがある。
【0045】
そこで、本実施形態の特徴点として、制御装置33により、設定されたリミット値の変更制御を行っている。具体的には、計測されたNOx濃度がNOx上限値を超えた後NOx上限値より所定量減少したら、設定された燃焼用空気の上限値を増加させ、反対に、計測されたNOx濃度がNOx下限値を下回った後NOx下限値より所定量増加したら、設定された燃焼用空気の下限値を減少させている。
【0046】
図2は、リミット値の変更制御の詳細を説明する図である。図2に示すように、このグラフは、上から順にNOx濃度分析計35で計測されたNOx瞬時値、燃焼用空気の供給量を調整する流量制御弁32のバルブ開度、酸素分析計34で計測された酸素濃度、燃焼空気の供給量の時間推移を表している。
【0047】
図に示すように、NOx計測値に対して、HH,H,L,LLという閾値を設けている。HHは、上述したNOx計測値の上限値に対応するものである。NOx計測値がHHを超えた場合に、それ以上バルブの開度が大きくならないように、NOx計測値がHHとなった時のバルブ開度が燃焼用空気の供給量のハイリミット(バルブ開度の上限値)として設定される。ハイリミットが設定された結果、バルブ開度をさらに増加させようとする制御指令があったとしてもバルブ開度はハイリミットに制限されるため、図に示すように一定期間固定される。
【0048】
また、本実施形態の特徴として設定されるHは、計測されたNOx濃度がNOx上限値を超えた後NOx上限値より所定量減少したことを判定するための閾値である。NOx計測値が除々に減少してHとなった時点で、先ほど設定されたハイリミットを増加させるべく、図に示すようにハイリミットの数値を、ハイリミット+αの数値に変更する。
【0049】
同様に、LLは、上述したNOx計測値の下限値に対応するものである。NOx計測値がLLを下回った場合に、それ以上バルブの開度が小さくならないように、NOx計測値がLLとなった時のバルブ開度が燃焼用空気の供給量のローリミット(バルブ開度の下限値)として設定される。
【0050】
また、本実施形態の特徴として設定されるLは、計測されたNOx濃度がNOx下限値を下回った後NOx下限値より所定量増加したことを判定するための閾値である。NOx計測値が除々に増加してLとなった時点で、先ほど設定されたローリミットを減少させるべく、図に示すようにローリミットの数値を、ローリミット−βの数値に変更する。
【0051】
以上のように、NOx濃度がNOx上限値を超えた時に設定された燃焼用空気の上限値(ハイリミット値)を、その後NOx濃度が所定量減少したら+α増加させることにより、燃焼用空気の上限値が除々に小さくなるのを防止することができる。反対に、NOx濃度がNOx下限値を下回った時に設定された燃焼用空気の下限値(ローリミット値)を、その後NOx濃度が所定量増加したら−β減少させることにより、燃焼用空気の下限値が除々に大きくなるのを防止することができる。
【0052】
したがって、図2の流量制御弁32のバルブ開度の推移において破線で示したように燃焼用空気の上限値と下限値とが互いに近づき両者間の幅が狭くなることを防止することができるので、燃焼用空気の供給量の可変領域が狭くなることを抑制できる。その結果、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制することができる。
【0053】
なお、NOx計測値の上限下限値(HH,LL)は、NOx及びCOの発生を適性値以下に抑制するという観点で設定されるものであるが、閾値H及びLの値は、以下の観点で適宜設定することができる。つまり、例えばNOx濃度が上限値を超えた後減少して上限値よりも低くなったとしても、またすぐに上限値を超える場合もあり得る。仮に、閾値HをNOx計測値HHの直近に設定した場合には、NOx濃度がHHをまたぐ度に、その都度バルブ開度のハイリミットの解除と設定が繰り返される。したがって、閾値H及びLは、このようなことが起こらないように、NOx濃度がある程度落ち着いたと判断できる時点を実際の運転などにより求めて適宜設定することができる。
【0054】
また、設定された燃焼用空気のリミット値の増加、及び減少量(α,β)については、燃焼用空気の供給量制御の自由度が損なわれるのを抑制するという目的を考慮して、実験により適宜の値を固定値として設定しておくことができる。また、本実施形態では、α,βを固定値として予め設定する場合を例に説明しているがこれには限られない。例えば燃焼用空気の上下リミット値としてそれぞれ適切な初期値を設定しておき、リミット値変更の条件を満たしたら、それぞれ初期値に戻るように増加、及び減少させることもできる。
【0055】
また、本実施形態の廃棄物処理装置では、NOx濃度の瞬時値を計測するとともに、例えば1〜3時間、望ましくは1時間程度の平均値を算出し、平均値に応じて、予め定められている酸素濃度の設定値又は設定範囲を調整することもできる。つまり、ジルコニアO2計での計測値とNOx濃度との相関は、燃焼炉の燃焼状態によって多少変動する場合があるが、NOx濃度の例えば1〜3時間、望ましくは1時間程度の平均値によって燃焼状態を把握することができるので、これに基づき酸素濃度の設定値又は設定範囲を適切に調整することができる。例えばNOx濃度平均値が高ければ酸素濃度の設定値又は設定範囲を低くさせ、反対にNOx濃度平均値が低ければ酸素濃度の設定値又は設定範囲を高くする。
【0056】
また、本実施形態の廃棄物処理装置では、排ガス流路の850〜1150℃となる箇所に、尿素水を噴霧することにより、NOx濃度を全体的に低くすることも可能である。つまり、尿素水にはNOx濃度を抑制する作用があるが、これは850〜1150℃程度で特に効果的である。例えば、排ガス流炉の850〜1150℃程度となる箇所は計測により定められるので、この箇所に尿素水を噴霧するノズルなどを設置し、このノズルと接続された尿素水の流量調整弁などによって適宜尿素水を供給することができる。
【0057】
この場合において、NOx濃度の例えば1〜3時間、望ましくは1時間の平均値を算出し、この平均値が予め定められた設定値又は設定範囲内に保持されるように、尿素水の流量調整弁の弁開度を調整することにより尿素水の噴霧量を制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態の廃棄物処理装置の全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態のリミット値の変更制御の詳細を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
6 熱分解ドラム
9 燃焼溶融炉
13,14 空気ノズル
15 空気供給ライン
16 押込送風機
32 流量制御弁
33 制御装置
34 酸素分析計
35 NOx濃度分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を燃焼する燃焼炉から排出された排ガスの酸素濃度を前記燃焼炉の後流側の排ガス流路で計測し、該計測された酸素濃度を設定値又は設定範囲のいずれかに保持するように前記燃焼炉に供給する燃焼用空気の供給量を制御するとともに、前記排ガス流路で前記排ガスのNOx濃度を計測し、該計測されたNOx濃度が予め定められたNOx上限値を超えた場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の上限値に設定し、予め定められたNOx下限値を下回った場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の下限値に設定する燃焼制御方法において、
前記計測されたNOx濃度が前記NOx上限値を超えた後該NOx上限値より所定量減少したら、前記設定された燃焼用空気の上限値を増加させ、
前記計測されたNOx濃度が前記NOx下限値を下回った後該NOx下限値より所定量増加したら、前記設定された燃焼用空気の下限値を減少させることを特徴とする燃焼制御方法。
【請求項2】
前記計測されたNOx濃度に応じて、前記酸素濃度の設定値又は設定範囲を調整する請求項1の燃焼制御方法。
【請求項3】
前記排ガス流路の850〜1150℃となる箇所に、尿素水を噴霧する請求項1の燃焼制御方法。
【請求項4】
前記計測されたNOx濃度が一定となるように、前記尿素水の噴霧量を制御する請求項1の燃焼制御方法。
【請求項5】
廃棄物を熱分解する熱分解反応器と、該熱分解反応器から発生する熱分解ガスと熱分解残渣の一部とを燃焼する燃焼溶融炉と、該燃焼溶融炉に燃焼用空気を供給する空気供給手段と、前記燃焼溶融炉から排出される排ガスの酸素濃度を計測する酸素濃度計測手段と、前記排ガスのNOx濃度を計測するNOx濃度計測手段と、前記酸素濃度計測手段により計測される排ガスの酸素濃度を設定値又は設定範囲のいずれかに保持するように前記空気供給手段の燃焼用空気の供給量を制御するとともに、前記NOx濃度計測手段により計測されるNOx濃度が予め定められたNOx上限値を超えた場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の上限値として設定し、予め定められたNOx下限値を下回った場合は、その時の燃焼用空気の供給量を燃焼用空気の下限値として設定する制御手段とを備えた廃棄物処理装置において、
前記制御手段は、前記計測されるNOx濃度が前記NOx上限値を超えた後該NOx上限値より所定量減少したら、前記設定された燃焼用空気の上限値を増加させ、
前記計測されるNOx濃度が前記NOx下限値を下回った後該NOx下限値より所定量増加したら、前記設定された燃焼用空気の下限値を減少させることを特徴とする廃棄物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−243765(P2009−243765A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91040(P2008−91040)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】