説明

燃焼灰から鉛を分離する方法

【課題】 鉛を含有する燃焼灰の埋立処分を停止し、燃焼灰を土壌用途で、土壌改良材、草地改良材、埋め戻し材、盛土等に有効利用することで、新たな循環系を構築し、社会に貢献できる処理法を提供する。
【解決手段】 鉛成分を含有する燃焼灰に、あらかじめ鉄粉又は鉄化合物から選ばれた1種または複数種を0.1質量%〜50質量%の範囲で添加した後、加熱処理を行って燃焼灰から鉛成分を脱離させることよりなる、燃焼灰から鉛成分を分離する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含有する燃焼灰の処理方法に関する。詳しくは、本発明は、燃焼灰に含まれる土壌汚染対策法の規制対象物質である鉛を燃焼灰から脱離させ、回収する燃焼灰から鉛を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉やボイラから発生する燃焼灰には鉛が含まれるものがあり、市町村の一般廃棄物焼却炉や廃棄物固形化燃料を使用するボイラ等から発生する燃焼灰には鉛の含有量の高いものもある。これらの鉛は廃プラスチック、廃電池、電気器具、石炭、一般ゴミから由来し、焼却灰をそのまま処理することが出来なかった。そのため、今までに、フッ素、ホウ素、鉛等の重金属類の溶出抑制に関する様々な技術が開発されている。鉛の溶出抑制や不溶化の技術を例示すれば、リン酸塩、キレート剤、水硫化ナトリウム、炭酸ガス等の薬品を燃焼灰に混合する薬剤処理法や、セメント等を使用して燃焼灰を固形化する固形化法等であり、又、燃焼灰を酸洗浄する方法や燃焼灰を1,300℃以上の高温で熔融する熔融処理法等である。
【0003】
燃焼灰の処理基準としては、管理型処分場へ埋め立て処分する場合は、溶出抑制処理を行い、昭和48年環境庁告示第13号(以下、環告13号試験と称す)に規定される溶出試験法に従い、鉛等の特別廃棄物埋立管理基準を充足する事が要求される。
一方、燃焼灰を、土壌用途に有効利用する場合は、上記の環告13号試験でなく、平成15年環境省告示18号で規定される土壌溶出量試験法に従い、平成3年環境省告示46号(以下、環告46号試験と称す)に示される土壌の汚染に係わる環境基準を充足し、なお且つ、平成15年環境省告示第19号(以下、環告19号試験と称す)で規定される土壌含有量試験法で、土壌含有基準を充足する事が要求される。
すなわち、処理した燃焼灰を管理型処分場へ埋め立て処分する場合と、土壌用途に有効利用する場合とでは、両者に要求される基準が異なる。
【0004】
燃焼灰を埋め立て処分する場合の上記環告13号試験の溶出条件は、溶媒としてpH5.8〜6.3の純水に、溶出抑制処方した燃焼灰試料を固液比10%(w/v)で混合し、6時間振盪溶出した場合の、鉛の溶出基準値は0.3mg/Lである。
一方、燃焼灰を土壌用途に有効利用する場合の上記環告46号試験の溶出条件では、同じく、溶媒としてpH5.8〜6.3の純水に、溶出抑制処理した燃焼灰試料を固液比10%(w/v)で、混合し、6時間振盪溶出するが、鉛の溶出基準値は0.01mg/Lであり、埋め立て処分と比較して、30倍厳しい基準である。更に、燃焼灰を土壌用途に利用する場合の上記環告19号試験の鉛の含有量試験では、溶媒として、1N塩酸を使用して、溶出抑制処理した燃焼灰試料を固液比3%(w/v)で混合し、振盪溶出するものであり、鉛の含有基準値は150mg/kgである。
【0005】
上記環告19号試験で使用される1N塩酸は、強酸性の溶媒であるため、環告13号試験及び環告46号試験での、pH5.8〜6.3の純水に比較し、鉛等の重金属類は極めて溶出し易い。それ故に、鉛含有量の多い燃焼灰について、上記の環告19号試験による鉛の濃度を低減し、鉛の土壌含有基準を充足する為には、高度なレベルの技術が要求される。
【0006】
燃焼灰の溶出基準を充足するための鉛の不溶化の技術としては、燐酸塩による不溶化、水硫化ナトリウムで硫化物化することによる不溶化、ジチオカルバミン酸系等のキレート剤による不溶化、鉄質風化火山灰による不溶化等、多様な不溶化技術の研究が既に開示されているが、環告19号試験の含有量試験での鉛の低減効果は全く認められない。
即ち、環告13号試験による鉛の溶出試験、及び環告46号試験による鉛の溶出試験に供する為の燃焼灰の溶出抑制技術は、環告19号試験による含有量試験で鉛濃度を低減する技術に応用できないのが現状である。
【0007】
一方、燃焼灰を1,300℃以上の高温で処理する熔融処理法は、燃焼灰の大幅な減量化、ダイオキシンの低減、鉛等の重金属の低減効果があるが、しかし、この熔融技術はコストとメインテナンスが大きな課題である。特開2000−279919号公報(特許文献1)では、重金属を含む焼却灰に、クロムの6価への酸化を防止する目的で、還元剤(炭素質材料であるコークスや微粉炭)を添加し、燃焼灰の融点以下で、低沸点重金属を揮発飛散させるに十分な温度(500〜1,300℃)で焙焼加熱する工程により、又は、6価クロムの溶出を防止する目的で、ベントナイトを添加し、燃焼灰の融点以下で、低沸点重金属を揮発飛散させるに十分な温度で焙焼加熱する工程により、焙焼加熱後に重金属防止策を不要とする、焼却灰の資源化方法を開示している。
【0008】
しかし、還元剤として炭素質材料であるコークスや微粉炭、又はベントナイトを添加する手段により、焼却灰の資源化の際に重金属による環境汚染をもたらさないとしても、焙焼加熱後の灰の性状については、重金属防止策が不要との記載があるのみで、そのまま資源化できる事を示す分析値の記載が見当たらない。更に、この文献の方法では、燃焼灰にベントナイトを添加して焙焼加熱し、燃焼灰に含まれる重金属類の溶出を防止し、燃焼灰を無害化する方法を開示しているが、この方法では重金属は依然として燃焼灰に留まるので、時間とともに再溶出する可能性がある。
【0009】
また、特開2001−132930号公報には、重金属を含む焼却灰を、燃焼灰の融点以下で、低沸点重金属を揮発飛散させるに十分な温度(500〜1,300℃)で焙焼加熱する工程において、還元剤(コークス、細粒炭、廃棄物炭化物若しくはこれらの複合体)を添加し、焙焼加熱する事により、重金属をほぼ単体状態若しくは還元により無害化した状態で分離、回収する焼却灰の資源化方法、鉄化合物(第一酸化鉄、第二酸化鉄、硫酸鉄)を添加し、焙焼加熱する事により、重金属類をフェライト化合物として磁力選別して分離、回収する焼却灰の資源化方法、及び、酸素不足還元気下で、焙焼加熱する事により、重金属をほぼ単体状態若しくは還元して無害化した状態で分離、回収する焼却灰の資源化方法を開示している。
【0010】
しかし、還元剤としてコークス、細粒炭、廃棄物炭化物若しくはこれらの複合体、又は鉄化合物を添加し焙焼加熱する手段や、酸素不足還元気下で焙焼加熱する手段は、焼却灰の資源化の際に重金属による環境汚染をもたらさないとしても、焙焼加熱後の灰の性状についての分析値の記載が見当たらないし、この文献の方法では、燃焼灰に鉄化合物を添加して焙焼加熱し、燃焼灰に含まれる重金属類をフェライト化合物にして磁力選別し、燃焼灰を無害化しているので、重金属は依然として燃焼灰に留まっており、時間とともに再溶出する可能性がある。
【0011】
また、本田裕姫他、日本機械学会第12回環境工学総合シンポジウム2002講演論文集pp236−238(2002)、「焼却灰再資源化システム(焙焼炉)の開発」(非特許文献1)では、焼却灰の鉛の溶出抑制に関し、溶出し易い塩化鉛の沸点である950℃より更に高温である1,050℃で焙焼加熱する技術により、環告46号法による溶出試験で、鉛の土壌環境基準である0.01mg/Lを充足できる事、及び1,000℃での焙焼加熱では、同基準を超過する事を開示している。 しかし、この文献には、燃焼灰に含有される鉛はわずか30%が揮発飛散するのみであり、70%が残存する事も開示されているので、鉛の含有量低減に関しては課題を残している。
【0012】
さらに、中川武志他、第15回 廃棄物学会研究発表会講演論文集、pp748−750(2004)、「焙燃灰再資源化用途の開発」(非特許文献2)では、試験室の管状電気炉を使用し、焼却灰を1,050℃で加熱処理する際に、塩化水素あるいはトリクロロエチレンを添加する方法で、環告19号試験の含有量試験による鉛濃度の低減方法を開示している。
この文献記載の方法の場合、鉛含有量778mg/kgの無処理灰を塩酸1,200ppmの添加濃度で処理した場合、約250mg/kgに低減できると開示されており、含有される鉛の約2/3は揮発飛散するが、1/3までしか低減できない事から、鉛の含有量低減に関しては課題を残している。
更に、この技術で使用する塩化水素やトリクロロエチレンは、塩素による設備の腐食、PRTR(環境汚染物質排出移動登録)対象物質、及び作業環境の観点から、自然環境及び労働環境の面で課題を残している。
【0013】
藤井泰彦他、化学工学論文集、29巻、5号、pp601−606(2003)、「都市ごみ焼却炉の排ガス中への酸化鉄触媒噴射による排ガス及び飛灰中ダイオキシン類濃度の低減ならびに飛灰中重金属のフェライト化による溶出防止」(非特許文献3)には、都市ごみ焼却炉の飛灰に酸化鉄を添加し、試験用のマッフル炉を使用し、600℃で加熱処理する方法により、環告13号試験による溶出試験で、鉛の特別廃棄物埋立管理基準である0.3mg/Lを充足できる事を開示している。しかし、環告19号試験の含有量試験の鉛の低減効果に関しての記載はない。
【0014】
【特許文献1】特開2000−279919号公報
【特許文献2】特開2001−132930号公報
【非特許文献1】本田裕姫他、日本機械学会第12回環境工学総合シンポジウム2002講演論文集pp236−238(2002)、「焼却灰再資源化システム(焙焼炉)の開発」
【非特許文献2】中川武志他、第15回 廃棄物学会研究発表会講演論文集、pp748−750(2004)、「焙燃灰再資源化用途の開発」
【非特許文献3】井泰彦他、化学工学論文集、29巻、5号、pp601−606(2003)、「都市ごみ焼却炉の排カ゛ス中への酸化鉄触媒噴射による排ガス及び飛灰中ダイオキシン類濃度の低減ならびに飛灰中重金属のフェライト化による溶出防止」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
鉛を含有する燃焼灰から鉛を分離して、環告13号試験の溶出試験を充足し、埋め立て用にするため、さらには土壌に有効利用するためには、環告46号試験で土壌の汚染に係わる環境基準で鉛の基準を充足する事と同時に、環告19号試験で土壌含有基準の鉛の基準を充足する事が大きな課題である。中でも、燃焼灰の埋立処分は、現状の埋立処分場に残された埋立残余年数の減少、及び新たな埋立処分場の用地確保の困難さに直面している。それ故に、本発明は、燃焼灰の埋立処分を停止し、燃焼灰を土壌用途で、土壌改良材、草地改良材、埋め戻し材、盛土等に有効利用する事で、新たな循環系を構築し、社会に貢献するため、鉛を含む燃焼灰から鉛を脱離させて環境基準を充足する燃焼灰を製造する方法、及び脱離させた鉛を冷却、回収する鉛の回収方法を提供する事を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、鉛を含む燃焼灰から鉛を脱離せしめて土壌含有基準を充足する燃焼灰を得るため、燃焼灰にあらかじめ鉄粉、又は鉄化合物を添加し、混合した後、600℃以上で加熱処理する事により、燃焼灰の含有量試験における鉛濃度を低減でき、又、脱離した鉛をpH4.0以下の鉱酸水溶液で、冷却し回収できることを見出し、本発明を完成した。本発明には以下の発明を包含する。
【0017】
(1)鉛成分を含有する燃焼灰に、あらかじめ鉄粉又は鉄化合物から選ばれた1種または複数種を0.1質量%〜50質量%の範囲で添加した後、加熱処理を行って燃焼灰から鉛成分を脱離させることよりなる、燃焼灰から鉛成分を分離する方法。
【0018】
(2)前記鉄化合物が、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、酸化第一鉄、酸化第二鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、それらの複塩及び錯塩、並びにそれらの含水塩及び無水塩からなる群から選ばれた1種または複数種である(1)記載の燃焼灰から鉛成分を分離する方法。
【0019】
(3)前記加熱処理後の燃焼灰における鉛の濃度を、平成15年環境省告示第19号に規定された土壌含有量試験による鉛の許容濃度である150mg/kg以下とする、(1)又は(2)に記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【0020】
(4)前記加熱処理温度が600℃以上、好ましくは700℃〜1300℃である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【0021】
(5)前記加熱処理を行って燃焼灰から鉛成分を脱離させた後、脱離させた鉛成分を含有する排ガスを冷却液中に通して冷却し鉛成分を捕捉回収することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【0022】
(6)前記冷却液が、pH4.0以下の鉱酸水溶液である(5)記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法により、鉛を含有する焼却灰を処理して、鉛の含有量試験による燃焼灰中の鉛濃度を低減し、埋め立て可能なレベルにすることが可能である。そして、本発明の方法で得られる土壌含有基準を充足する燃焼灰は、環境に悪影響なく、土壌改良材、草地改良材、埋め戻し材、盛土、砂礫等の土壌用途に利用することが可能である。又、燃焼灰に含まれていた鉛成分については、加熱処理によって燃焼灰から脱離し、揮発飛散して排ガスに含まれるので、排ガスを冷却水中に導入し、脱離させた鉛を冷却水中に回収して鉛資源として有効利用することができ、工場周辺の環境汚染を引き起こすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
産業分野での燃焼灰は、特に一般ゴミや雑芥、石炭等の廃棄物固形化燃料、廃プラスチック、廃タイヤ、木屑等を燃焼する時に多量に発生する。廃棄物固形化燃料の例としては、RDF(refuse derived fuel:ゴミ固形化燃料)やRPF(refuse paper and plastic fuel:廃紙及び廃プラスチックを原料とした固形化燃料)等が挙げられる。多くの場合、これらの燃料は混焼されるので、燃料や廃棄物の一部に鉛汚染があれば、その設備で発生する燃焼灰全てが鉛を含有する事となる。焼却炉及びボイラの設備で排出される燃焼灰は、主灰と称される炉底灰、及びバグフィルタや電気集塵機で捕集される飛灰に分類されるが、設備により、いずれかの燃焼灰に、又は両方に鉛は含まれる。
【0025】
本発明では、燃焼灰に鉄粉又は鉄化合物から選ばれた1種又は複数種を燃焼灰に対して燃焼灰の用途に応じて0.1質量%〜50質量%の範囲で添加して加熱する。作業性や加熱処理後の燃焼灰の量などから考えて、さらに好ましくは、5質量%〜20質量%で添加する。本発明の方法で使用する鉄粉、又は鉄化合物は、鉄粉、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、酸化鉄、水酸化鉄、又はそれらの複塩または錯塩、並びにそれらの含水塩または無水塩から選ばれた1種または複数種である事が好ましい。この他の鉄を含む化合物としては、廃棄物の有効利用として鉄分を多く含む鉄系廃棄物を使用する事も可能である。上記のいずれも、商業的に流通している商品を利用すればよい。
【0026】
鉄粉又は鉄化合物は、燃焼灰中の鉛との接触が多いほど効果が大きいため粒径が小さいものの方が好ましい。添加量が1質量%未満であれば鉛の分離に効果がなく、残留する鉛が増加するので好ましくない。また50質量%を超えて添加しても効果が頭打ちで燃焼灰としても容量が増え処理に手間がかかるため好ましくない。理由は定かではないが、鉄化合物としては塩化鉄が好ましい。塩化鉄を使用する場合には、添加量、加熱温度を他の添加物より低くすることが出来るため、エネルギー効率がよい。
【0027】
加熱処理は、燃焼灰に鉄粉又は鉄化合物から選ばれた1種又は複数種を燃焼灰に対して0.1質量%〜50質量%の範囲で添加して600℃以上に加熱することによって行われる。600℃未満の温度では鉛の分離が不十分のため好ましくなく、600℃を越えた時点から分離が急激に進む。また1,300℃を超えて加熱しても装置にコストがかかりエネルギーの消費増にもつながるため好ましくない。各種の鉛成分を各単独で加熱する場合、塩化鉛で950℃、鉛単体では1750℃まで加熱しなければ揮発しないが、本発明の方法によれば600℃以上に加熱することで鉛成分が燃焼灰から効率的に分離する。本発明の方法によれば、なぜ、低温で分離するかは定かではないが、鉄粉又は鉄化合物が触媒のような働きをして低温での分離を可能にしているものと考えられる。
【0028】
本発明の方法において、好ましい加熱温度は700℃〜1300℃であり、さらに好ましくは850℃〜1300℃である。
加熱する装置としては、600℃以上、好ましくは700℃以上、さらに好ましくは850℃以上に加熱できるものであれば制限はなく、かつ、分離した鉛を回収する装置を装着可能なものであればよい。
加熱処理時間は、加熱処理温度によって一定ではないが、本発明の方法では、比較的低温域での加熱処理で十分な鉛成分の分離が達成されるので、長時間の加熱処理は必要ではなく、一般的には1分〜60分の範囲である。
【0029】
本発明の方法では、分離した鉛を含む排ガスを冷却することで鉛を回収する。鉛の回収方法は、燃焼灰の加熱装置からの排出ガスをpH酸性水を使用した冷却洗浄装置であるスクラバで処理することで鉛を分離する。
【0030】
本発明の方法で処理した燃焼灰は、昭和48年環境庁告示第13号(以下、環告13号試験と称す)に規定される溶出試験法に従い、溶媒としてpH5.8〜6.3の純水に、溶出抑制処方した燃焼灰試料50gを固液比10%(w/v)で混合し、6時間振盪溶出した場合の鉛の溶出量の許容濃度は0.3mg/kg以下である。
【0031】
また、平成15年環境省告示第19号に規定された土壌含有量試験による鉛の許容濃度は150mg/kg以下であるが、本発明の方法で加熱処理した燃焼灰について、環境省告示19号試験法に従い、1N塩酸300ml中に燃焼灰9gを混合し、2時間振盪溶出し、その溶出液について、0.45μのメンブレンフィルタを使用してろ液を調製し、ICP発光分光分析装置(SPECTRO社製CIROS−120)を使用して、含有される鉛の濃度を測定した場合、該許容濃度に関する基準を問題なく充足するものである。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により説明するが、これらは代表例であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0033】
試料として使用した燃焼灰は廃棄物固形化燃料を燃焼して得られた飛灰又は主灰の6種類であり、表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
試料として燃焼灰Aを使用し、磁性ルツボに燃焼灰100gに、塩化鉄(III)又は酸化鉄(III)をそれぞれ10g入れたもの、何も加えなかったもののそれぞれに加熱処理(マッフル炉で30分間加熱)を施した。マッフル炉の排気ガス口からのガスについて、pH4.0の鉱酸水溶液を噴射する冷却機で、ガスを洗浄冷却処理する事により、燃焼灰から脱離し、揮散した鉛を、pH4.0の鉱酸水溶液に回収した。
燃焼灰Aの各加熱処理物について、環境省告示19号試験法に従い土壌含有量試験により鉛濃度を測定した。その際、加熱温度の水準を変えた結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例1〜24及び比較例1〜11
処理時間30分として、前記6種の燃焼灰に表3に示された添加物、添加量で加熱処理を行い、加熱処理後の焼却灰の鉛濃度(mg/kg)を、環告19号試験法にしたがって、1N塩酸300ml中に燃焼灰9gを混合し、2時間振盪溶出し、その溶出液について、0.45μのメンブレンフィルタを使用してろ液を調製し、ICP発光分光分析装置〔(株)リケン製、Spectrom500型〕を使用して、含まれている鉛の濃度の測定を行った。結果を表3示す。
なお、塩化鉄(II、III)、酸化鉄(II、III)、鉄粉、硫酸鉄(II、III)、水酸化鉄(III)は、いずれも和光純薬(株)製の試薬特級を使用した。
【0038】
【表3】

【0039】
表3から分かるように、鉄粉又は鉄化合物から選ばれる1種を燃焼灰に対して0.1質量%〜50質量%添加し、加熱処理をしたものは鉛の残存量が少なく、環告13号試験の基準をクリアし、埋め立て用に供することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のとおり、本発明の方法で加熱処理することにより得られる焼却灰は、各種の環境基準を満たしており、そのまま、埋め立て用に供することが可能である。また、さらに処理条件を厳しくすることにより、環告19号試験の基準さえもクリアすることが可能となり、燃焼灰を土壌改良材、草地改良材、埋め戻し材などの用途として有効に活用することが可能となる。また、燃焼灰から分離した鉛は酸性溶液を通して冷却することで大気中に飛散することなく回収して再利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分を含有する燃焼灰に、あらかじめ鉄粉又は鉄化合物から選ばれた1種または複数種を0.1質量%〜50質量%の範囲で添加した後、加熱処理を行って燃焼灰から鉛成分を脱離させることよりなる、燃焼灰から鉛成分を分離する方法。
【請求項2】
前記鉄化合物が、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、酸化第一鉄、酸化第二鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、それらの複塩及び錯塩、並びにそれらの含水塩及び無水塩からなる群から選ばれた1種または複数種である請求項1記載の燃焼灰から鉛成分を分離する方法。
【請求項3】
前記加熱処理後の燃焼灰における鉛の濃度を、平成15年環境省告示第19号に規定された土壌含有量試験による鉛の許容濃度である150mg/kg以下とする、請求項1又は2に記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【請求項4】
前記加熱処理温度が600℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【請求項5】
前記加熱処理を行って燃焼灰から鉛成分を脱離させた後、脱離させた鉛成分を含有する排ガスを冷却液中に通して冷却し鉛成分を捕捉回収することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。
【請求項6】
前記冷却液が、pH4以下の鉱酸水溶液である請求項5記載の燃焼灰から鉛を分離する方法。

【公開番号】特開2007−154236(P2007−154236A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348717(P2005−348717)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】