説明

燃焼炉ボイラの燃料供給制御装置

【課題】複数の燃料を供給する燃焼炉ボイラの発生熱量を安定して出力できる制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】制御演算部56は、指示入力部55に入力された蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値に対応するデータに関連付けられた最適制御ゲインに対応するデータをデータ保持部54から抽出し、上記蒸気流量設定値に対する蒸気流量実際値の偏差と、上記初期値と、抽出した上記最適制御ゲインとを用いて所定の制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を第一燃料供給部51および第二燃料供給部52へ出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の燃料の供給を受けてこれを燃焼させる燃焼炉および該燃焼炉で発生した熱を用いて蒸気を発生させるボイラを有する燃焼炉ボイラに供給される上記複数種の燃料の供給量を制御する装置および該燃料の供給量を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記燃焼炉ボイラの一例として、特許文献1に開示されているような循環流動層炉ボイラが知られている。該循環流動層炉ボイラは、石炭やオイルコークスなどの化石燃料、都市ごみや廃プラスチックや汚泥や製紙スラッジなどの廃棄物、RDF(ごみ固形化燃料)、バイオマスなどの可燃物が燃料として投入されている。該特許文献1では、単独であるいは複数種類を混合して燃料を炉内に投入して燃焼し、燃焼熱をボイラにより回収して蒸気を得て、該蒸気をタービン発電などに広く利用している。
【特許文献1】特許第2686341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
燃焼炉ボイラにおいて、処理対象物、すなわち燃料の熱分解により発生するガス分も含めて該処理対象物を完全に燃焼させて燃焼熱エネルギーを発生させ、その燃焼熱エネルギーを利用してボイラにより蒸気を発生させ、その蒸気を用いる発電設備を有している場合、発電量安定化やエネルギーロスの低減、或いは発電タービントリップを防止するために、燃焼により発生する熱量を常にボイラ負荷の設定値に追従させて安定化させる必要がある。
【0004】
ボイラ負荷を表す代表的な指標としては、ボイラ出口蒸気流量が挙げられる。このボイラ負荷が不安定になる要因としては、供給する燃料の成分変動による発生熱量の変動、熱・発電負荷設定の変更、複数の燃料を供給する場合の燃料供給比率の変動がある。
【0005】
上記特許文献1に挙げたような循環流動層炉などの燃焼炉で使用する燃料としては、石炭やオイルコークスなどの化石燃料、都市ごみや廃プラスチックや汚泥や製紙スラッジなどの廃棄物、RDF(ごみ固形化燃料)、バイオマスなどがある。上記循環流動層炉では、これらの複数種類の燃料を混合して供給することがある。この場合、該複数種類の燃料は、発生熱量や燃焼速度がそれぞれ異なるので、各種燃料の供給量が変動すると、全体としての炉内供給後の熱量発生時間および発生熱量が変動する。
【0006】
建築廃材系バイオマス燃料と生木系バイオマス燃料をそれぞれ同一重量、炉内に投入した時の燃焼過渡特性を図5に示す。同図では、実線が建築廃材系バイオマス燃料の燃焼過渡特性を、破線が生木系バイオマス燃料の燃焼過渡特性を示す。ここで、「過渡特性」とは、発生熱量が安定・一定値になるまでの過渡的な特性を表すものである。図5に示されるように、該過渡特性は、建築廃材系バイオマス燃料が生木系バイオマス燃料に比べ、熱量発生時間が早く、かつ発生熱量も高い。これは、建築廃材系が生木に比べ水分含有率が低いためカロリー(低位発熱量)が高く、また、水分が乾燥するのが速いため、乾留ガスもしくは固定炭素分が燃焼して熱に変換される速度が速いことに起因する。実際の操業においても、上記建築廃材系バイオマス燃料と上記生木系バイオマス燃料とが炉内に混合して投入されることが多く、これらの燃料の混合比率の変動により燃焼過程における熱発生の過渡特性は複雑に変化する。
【0007】
燃焼炉で発生する熱量を安定させるため、燃焼炉ボイラでは、通常、ボイラ出口蒸気流量などのボイラ負荷指標を設定値に追従させるフィードバック制御を行っており、例えば、燃料供給量を入力値とし、ボイラ負荷値を出力値として、該出力値と上記設定値との偏差に基づくPID制御などが行われている。PID制御における比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインを制御ゲインと呼ぶ。従来は、一組の入力値と出力値の組み合わせに対して、一組の制御ゲインを設定して制御が行われていた。
【0008】
しかし、複数種類の燃料を供給する場合には、各種燃料の供給量が変動すれば発生熱量や熱量発生時間が異なってくるため、上述した従来の制御方法では、設定値に近づくまで時間がかかったり、オーバーシュートして設定値に落ちつくまで時間がかかったりすることが多く、制御が十分になされているとは言えない。
【0009】
特に複数種類の燃料の供給量変更時、負荷設定値変更時に、ボイラ負荷値であるボイラ出口蒸気流量が設定値から大きく外れ、該設定値に到達するのに時間がかかることがあった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、複数の燃料を供給する燃焼炉ボイラの発生熱量を安定して出力できる制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<第一発明>
本発明に係る燃料供給制御装置は、複数種の燃料の供給を受けてこれを燃焼させる燃焼炉および該燃焼炉で発生した熱を用いて蒸気を発生させるボイラを有する燃焼炉ボイラの上記燃焼炉に接続された燃料供給部から供給される上記複数種の燃料の供給量を制御する燃料供給制御装置であって、所定のボイラ負荷設定値にボイラ負荷実際値を追従させるための所定の制御演算を実行して各種燃料の供給量を制御する指示信号を上記燃料供給部へ出力する。
【0012】
かかる燃料供給制御装置において、本発明では、上記制御演算に用いられる上記ボイラ負荷設定値、上記各種燃料の供給量の初期値、所定の制御ゲインのそれぞれに対応するデータを互いに関連付けて保持するデータ保持部と、操作者による上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値の入力操作を受け付ける指示入力部と、上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を上記燃料供給部へ出力する制御演算部とを備え、上記データ保持部は、上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値を用いた上記制御演算により算出される各種燃料の供給量に基づくボイラ負荷実際値が所定の応答条件を満足するときの制御ゲインである最適制御ゲインに対応するデータを、上記ボイラ負荷設定値および上記初期値に対応するデータと関連付けて複数種保持しており、上記制御演算部は、上記指示入力部に入力された上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に対応するデータに関連付けられた上記最適制御ゲインに対応するデータを上記データ保持部から抽出し、上記ボイラ負荷設定値に対するボイラ負荷実際値の偏差と、上記初期値と、抽出した上記最適制御ゲインとを用いて上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を上記燃料供給部へ出力することを特徴としている。
【0013】
上記最適制御ゲインは、上記制御演算により算出される各種燃料の供給量に基づくボイラ負荷実際値、すなわち、算出された量の各種燃料を供給したときのボイラ負荷設定値が所定の応答条件を満足するときの制御ゲインである。したがって、燃焼炉ボイラの操業中に操作者が指示入力部を操作してボイラ負荷設定値および各種燃料の供給量の初期値を変更したとき、制御演算部は、変更後の該ボイラ負荷設定値および各種燃料の供給量の初期値に対応する最適制御ゲインをデータ保持部から抽出し、該最適制御ゲインを用いて制御演算を実行することにより、上記所定の応答条件を満足するボイラ負荷実際値を実現する各種燃料の供給量を算出する。
【0014】
制御演算部は、操作者によりボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定し、該経路上の一点に対応するボイラ負荷値を暫定的なボイラ負荷設定値とした最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力を、上記経路に沿って該経路の終点に到達するまで経時的に繰り返して行うことが好ましい。
【0015】
本発明によれば、燃焼炉ボイラの操業中に操作者が指示入力部を操作してボイラ負荷設定値および各種燃料の供給量の初期値を変更した場合、制御演算部は、上記経路上の一点に対応するボイラ負荷値を暫定的なボイラ負荷設定値として制御演算を実行する。該経路は、ボイラ負荷設定値の変更時に該ボイラ負荷設定値がステップ状に変化する場合と比較して経時的な変化が連続的であり緩やかである。このように緩やかに変化していく経路に沿って、上記制御演算部が上記制御演算を実行することにより、ボイラ負荷設定値がステップ状に変化する場合と比較して、ボイラ負荷値のオーバーシュートの発生を抑制して安定した制御を実現することができる。
【0016】
<第二発明>
本発明に係る燃料供給制御方法は、複数種の燃料の供給を受けてこれを燃焼させる燃焼炉および該燃焼炉で発生した熱を用いて蒸気を発生させるボイラを有する燃焼炉ボイラの上記燃焼炉に供給される上記複数種の燃料の供給量を制御する燃料供給制御方法であって、所定のボイラ負荷設定値にボイラ負荷実際値を追従させるための所定の制御演算を実行して各種燃料の供給量を制御して各種燃料を上記燃焼炉に供給する。
【0017】
該燃料供給制御方法において、本発明は、上記ボイラ負荷設定値および各種燃料の供給量の初期値を用いた上記制御演算により算出される各種燃料の供給量に基づくボイラ負荷実際値が所定の応答条件を満足するときの制御ゲインである最適制御ゲインに対応するデータを、上記ボイラ負荷設定値および上記初期値に対応するデータと関連付けて複数種保持しておき、操作者により設定された上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に対応するデータに関連付けられた上記最適制御ゲインに対応するデータを、保持しておいた最適制御ゲインに対応する複数種のデータから抽出し、上記ボイラ負荷設定値に対するボイラ負荷実際値の偏差と、上記初期値と、抽出した上記最適制御ゲインとを用いて上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出する。
【0018】
本発明では、操作者によりボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定し、該経路上の一点に対応するボイラ負荷値を暫定的なボイラ負荷設定値とした最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力を、上記経路に沿って該経路の終点に到達するまで経時的に繰り返して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、以上のように、ボイラ負荷設定値および各種燃料の供給量の初期値の変更時に、変更後のボイラ負荷設定値および上記初期値に関連付けられた最適制御ゲインを抽出し、該最適制御ゲインを用いて制御演算を実行する。したがって、燃焼炉ボイラの操業中にボイラ負荷設定値および上記初期値が変更されても、上記制御演算により算出された量の各種燃料を燃焼炉ボイラに供給することにより、常に所定の応答条件を満足するボイラ負荷実際値が得られる。これによって、燃焼炉ボイラにおいて、操業条件の変更、すなわちボイラ負荷設定値および燃料供給量の変更時に、従来の制御と比較して安定した熱負荷制御が可能となり、タービンで発電している場合には、発電量の安定化が実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
<第一実施形態>
本実施形態では、燃焼炉ボイラの一例として循環流動層炉ボイラを操業する場合について説明する。まず、本実施形態における循環流動層炉ボイラの操業形態の概要を説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る循環流動層炉ボイラの操業形態を示す概略構成図である。図1に示される循環流動層炉ボイラ1は、二種類の燃料の供給を受けてこれを燃焼させる循環流動層炉10と、該循環流動層炉10で発生した熱を回収して蒸気を発生させるボイラ30とを有している。
【0023】
上記循環流動層炉10は、処理対象物、すなわち燃料を燃焼あるいはガス化させるライザ11と、流動媒体を捕集してライザ11へと戻すダウンカマー12とを有している。
【0024】
ライザ11は炉本体13を有しており、該炉本体13の下部には炉内に一次空気を吹き込むための散気管14が設けられている。該散気管14は、空気を送り出す送風ファン15に弁16を介して接続されている。該送風ファン15は、該弁16によって送気量を調整されながら、散気管14から炉本体13内に一次空気を送り込む。
【0025】
炉本体13の側壁には、炉内に二次空気を吹き込むための複数の二次空気吹き込み管17が設けられている。該二次空気吹き込み管17は、上記送風ファン15に複数の弁18を介して接続されている。該送風ファン15は、弁18によって送気量を調整されながら、二次空気吹き込み管17から炉本体内に二次空気を送り込む。また、炉本体13の側壁には、炉内に燃料を投入するための投入管19が上記二次空気吹き込み管17の下方に設けられており、該投入管19にはコンベア20から二種類の燃料が供給されるようになっている。
【0026】
上述の炉本体13の炉床部に充填された流動媒体は、その下方から吹き込まれる一次空気により流動状態となり、流動媒体による濃厚層を形成し、その保有する高い熱容量および撹拌効果により燃料の乾燥及び揮発分の放出を促進させる。また、上記炉本体13の上方には、一次空気の吹き込み及び二次空気の吹き込みにより吹き上げられて流動する流動媒体による希薄層が形成され、その流動する媒体の保有する熱容量および撹拌効果により上記燃料の燃焼が効率的に行われる。
【0027】
ダウンカマー12は、上記炉本体13の下流側に位置しており、該炉本体13と接続配管21を介して接続され流動媒体などを捕集する捕集部22と、捕集した流動媒体などをライザ11の炉本体13に戻す戻し管23とを備えている。該戻し管23は、その中間部に、ライザ11からのガスが捕集部22内へ上昇するのを防止するシール部23Aを有している。
【0028】
ダウンカマー12には、燃料の燃焼などにより生じた排ガスや未燃分並びに流動媒体などが、ライザ11の炉本体13の上部から接続配管21を介して供給される。捕集部22では、それらを排ガスと、流動媒体や比較的粒径の大きな灰などとに分離する。該捕集部22で分離された排ガスは、後述するようにボイラ30へ供給され、また、流動媒体や比較的粒径の大きな灰などは、戻し管23を介してライザ11の炉本体13の下部へと戻されて未燃分の再燃焼などに利用される。
【0029】
ボイラ30は、上記ダウンカマー12の下流側に位置しており、該ダウンカマー12の捕集部22と接続配管31を介して接続されている。該ボイラ30は、上記捕集部22で分離された排ガスを受けて、該排ガスの熱を回収して蒸気を発生させる。ボイラ30の上部には蒸気ドラム32が設けられており、該ボイラ30で発生した蒸気は蒸気ドラム32に一旦貯留されて平均化された後、タービンへ送り出される。該蒸気ドラム32には、ボイラ負荷値に対応するボイラ出口蒸気流量を計測するための蒸気流量計33が設けられている。また、ボイラ30に流入した排ガスは、比較的粒径の小さな灰などを同伴して排ガス処理設備40へと送られ、除塵後に煙突41から外部へと放出される。
【0030】
本実施形態では、二種類の燃料、具体的には、木質バイオマスの建築廃材系の燃料および生木系の燃料(以下、これらを総称して単に「燃料」ともいう)が上記循環流動層炉ボイラ1に供給される。図1に示されるように、循環流動層炉ボイラ1の上流側には、該循環流動層炉ボイラ1に燃料を供給する第一燃料供給部51および第二燃料供給部52が設けられている。さらに、各種燃料の供給量を制御する燃料供給制御装置50が設けられている。該燃料供給制御装置50は、後述する所定の制御演算を実行して各種燃料の供給量を制御するための指示信号を第一燃料供給部51および第二燃料供給部52に出力するようになっている。本実施形態では、上記第一燃料供給部51は建築廃材系の燃料を、上記第二燃料供給部52は生木系の燃料を、コンベア20に落下投入する。
【0031】
本実施形態では、循環流動層炉ボイラの操業形態として、建築廃材系および生木系の二種類の燃料を熱分解および燃焼させ、排熱ボイラにて熱回収することとしたが、上記循環流動層炉ボイラは一般の廃棄物やその他燃料に対しても同様に用いることができることは言うまでもない。
【0032】
図2は、燃料供給制御装置50の構成を示すブロック図である。既述したように、燃料供給制御装置50は各種燃料の供給量を制御するための指示信号を第一燃料供給部51および第二燃料供給部52に出力するようになっている。該燃料供給制御装置50は、操作者によりボイラ出口蒸気流量の目標値として設定される設定値(以下、「蒸気流量設定値」という)にボイラ出口蒸気流量値の実際値(以下、「蒸気流量実際値」という)を追従させるための制御演算を各種燃料について実行して該各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を上記第一燃料供給部51および第二燃料供給部52へ出力する。本実施形態において、「ボイラ負荷実際値」とは、燃焼炉ボイラを実際に操業したときに計測されるボイラ出口蒸気流量値の実際値などに基づいて算出されるボイラ負荷値である。
【0033】
燃料供給制御装置50によって実行される上記制御演算は、PID制御に基づく演算であり、以下の式(1)を用いて実行される。
【0034】
【数1】

【0035】
上記式(1)における各変数および定数は次のように定義される。x(t)は、上記制御演算により算出される燃料供給量である。Δy(t)は、蒸気流量設定値と蒸気流量実際値との偏差であり、蒸気流量設定値をy、蒸気流量実際値をy(t)としたとき、Δy(t)=y(t)−yが成立する。xは、y(t)=yのときに、これを維持するために必要な燃料供給量である。後述するように、該xは、操作者によって設定可能な燃料供給量の初期値として使用される。Kは比例ゲイン、Kは積分ゲイン、Kは微分ゲイン(以下、これらを総称して「制御ゲイン」という)である。なお、上記「燃料供給量の初期値」とは、燃料供給量の変更時において、変更直後に供給される燃料の量である。
【0036】
本実施形態では、式(1)に示されているように、燃料供給制御装置50は、蒸気流量設定値と蒸気流量実際値との偏差と、燃料供給量の初期値と、制御ゲインと用いて、各種燃料の供給量を算出する。図2に示されているように、該燃料供給制御装置50は、上記制御演算に用いられる上記蒸気流量設定値、上記各種燃料の供給量の初期値、制御ゲインのそれぞれに対応するデータを互いに関連付けて保持するデータ保持部54と、操作者による上記蒸気流量設定値および上記各種燃料の供給量の初期値の指示入力操作を受け付ける指示入力部55と、上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を第一燃料供給部51および第二燃料供給部52へ出力する制御演算部56とを有している。
【0037】
データ保持部54は、蒸気流量設定値および該蒸気流量設定値に対応する各種燃料の供給量の初期値を用いた上記式(1)の制御演算により算出される各種燃料の供給量に基づく蒸気流量実際値、すなわち算出された量の各種燃料が供給されたときの蒸気流量実際値が所定の応答条件を満足するときの制御ゲインである最適制御ゲインに対応するデータを、上記蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値に対応するデータと関連付けて複数種保持している。
【0038】
ここで、「蒸気流量設定値に対応する各種燃料の供給量の初期値」とは、該蒸気流量設定値に対して最適な、すなわち蒸気流量実際値が蒸気流量設定値と等しくなるときの各種燃料の供給量の初期値である。
【0039】
上記データ保持部54に保持されている、蒸気流量設定値、各種燃料の供給量の初期値、最適制御ゲインのそれぞれに対応するデータは、実際に循環流動層炉ボイラ1を操業したときの蒸気流量実際値が所定の応答条件を満足するか否かを予め分析しておくことにより決定されている。
【0040】
具体的には、まず、任意に設定した制御ゲインの組合せ、蒸気流量設定値、該蒸気流量設定値に対応する各種燃料の供給量の初期値を用いた上記式(1)の制御演算により各種燃料の供給量を算出する。次に、算出された量の各種燃料を実際に循環流動層炉ボイラ1に供給し、ボイラ30の出口における蒸気流量、すなわち蒸気流量実際値を蒸気流量計33により計測する。そして、該蒸気流量実際値の経時的な挙動を分析し、該挙動が所定の応答条件、例えば、蒸気流量設定値に対する追従性に関する条件、すなわちオーバーシュートが所定の上限値より小さいことや応答時間が所定時間以下であること等の条件を満足しているかどうかを評価する。該評価のための閾値、例えば、オーバーシュートの上限値や応答時間の上限値は、適宜設定することが可能である。このような分析および評価を、様々な制御ゲインの組合せについて行い、その中で最も良好に上記応答条件を満足するときの制御ゲインの組合せを最適制御ゲインとして選択する。そして、様々な蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値に対応する最適制御ゲインを求めて、蒸気流量設定値、各種燃料の供給量の初期値、これらに対応する最適制御ゲインからなる組合せを複数作成し、データ保持部54に保持する。
【0041】
なお、本実施の形態では、最適制御ゲインを選択するために、各種燃料を実際に循環流動層炉ボイラ1に供給して蒸気流量実際値を計測することとしたが、これに代えて、コンピュータを用いてシミュレーションにより蒸気流量実際値を得ることとしてもよい。
【0042】
指示入力部55は、例えば、モニタおよびキーボードを有するコンピュータ等によって構成されており、操作者からの蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値の指示入力操作を受け付ける。該指示入力部55からの指示入力操作は、循環流動層炉ボイラ1の操業中においても行うことができる。換言すると、循環流動層炉ボイラ1の操業中においても、操作者による指示入力部55の操作による蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値の変更が可能となっている。
【0043】
制御演算部56は、指示入力部55に蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値が指示入力されたとき、該指示入力部55から上記蒸気流量設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に応じた信号を受ける。次に、該制御演算部56は、指示入力部55から受けた信号に応じて、上記蒸気流量設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に関連付けられた最適制御ゲインに対応するデータをデータ保持部54から読み出す。また、該制御演算部56は、蒸気流量計33から蒸気流量実際値に応じた信号を受けるようになっている。
【0044】
上記制御演算部56は、指示入力部55から取得した蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値、データ保持部54から読み出した最適制御ゲイン、蒸気流量計から取得した蒸気流量実際値を用いて上記式(1)の制御演算により算出した各種燃料の供給量に応じた指示信号を第一燃料供給部51および第二燃料供給部52へそれぞれ出力する。
【0045】
以下、本実施形態に係る燃料供給制御装置50の動作を説明する。本実施形態では、循環流動層路ボイラ1の操業中に蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値が変更された場合について図3を参照しながら説明する。図3は、制御演算部56における制御演算時の動作を示すフローチャートである。
【0046】
まず、循環流動層路ボイラ1の操業中において、操作者が指示入力部55を操作して蒸気流量設定値および該蒸気流量設定値に対応する各種燃料の供給量の初期値を入力することにより、蒸気流量設定値および上記各種燃料の供給量の初期値を変更する。制御演算部56が上記蒸気流量設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に応じた信号を受けると、該制御演算部56は、該蒸気流量設定値および該各種燃料の供給量の初期値に関連付けられている最適制御ゲインに対応するデータをデータ保持部54から読み出して抽出する(S1)。
【0047】
次に、制御演算部56は、指示入力部55から取得した蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値、データ保持部54から読み出した最適制御ゲイン、蒸気流量計33から取得した蒸気流量実際値を用いて上記式(1)の制御演算により各種燃料の供給量を算出する(S2)。そして、算出された各種燃料の供給量に応じた指示信号を第一燃料供給部51および第二燃料供給部52へそれぞれ出力する(S3)。第一燃料供給部51および第二燃料供給部52は、上記制御演算部56から上記指示信号を受けると、該指示信号に応じた量の燃料をコンベア20に供給する。
【0048】
本実施形態によれば、循環流動層炉ボイラ1の操業中に操作者が指示入力部55を操作して蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値を変更した場合において、制御演算部56が、変更後の該蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値に対応する最適制御ゲインをデータ保持部54から抽出する。そして、制御演算部56は、抽出した最適制御ゲインを用いて制御演算を実行することにより、所定の応答条件を満足する蒸気流量実際値を実現する各種燃料の供給量を算出する。
【0049】
したがって、本実施形態では、最適制御ゲインを用いて算出された量の各種燃料が循環流動層炉ボイラ1に供給されることにより、蒸気流量実際値は、常に上記所定の応答条件を満足することとなる。この結果、循環流動層炉ボイラ1において、従来の制御と比較して安定的な熱負荷制御が可能となり、また、発電量の安定化が実現可能となる。
【0050】
本実施形態では、制御演算部56の制御演算により各種燃料の供給量を制御することとしたが、これに代えて、各種燃料の供給量比率を制御するようにしてもよい。また、本実施形態では、蒸気流量設定値と蒸気流量実際値との偏差を制御演算に用いたが、これに代えて、計測された循環流動層炉10における燃焼データ、例えば、炉内温度、発生ガス流量、発生ガス組成等から計算した各種燃料の供給量からの合計発生熱量の計算値と、蒸気流動設定値から求めた合計発生熱量の設定値との偏差を制御演算に用いてもよい。
【0051】
本実施形態では、燃料供給機系統は木質バイオマスの建築廃材、および生木の二系統であることとしたが、燃料供給機系統の数は燃料の種類数などに応じて増減してもよいことは言うまでもない。
【0052】
また、本実施形態では、PID制御に基づく制御演算がなされることとしたが、これに代えて、PI制御に基づく制御演算がなされてもよく、また、P制御に基づく制御演算がなされてもよい。
【0053】
制御演算部は、操作者によりボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定し、該経路上の一点に対応するボイラ負荷値を暫定的なボイラ負荷設定値とした最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力を、上記経路に沿って該経路の終点に到達するまで経時的に繰り返して行うことが好ましい。
【0054】
<第二実施形態>
本実施形態は、制御演算部は、操作者によりボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定し、該経路上の点に対応する蒸気流量値を暫定的な蒸気流量設定値として該蒸気流量値に追従するように燃料供給量の制御がなされる点で、ステップ状に変化させた蒸気流量設定値に追従するように燃料供給量の制御がなされる第一実施形態と異なる。本実施形態では、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。本実施形態における循環流動層炉ボイラの操業形態や燃料供給制御装置の構成は、第一実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0055】
本実施形態では、循環流動層炉ボイラ1の操業中に、操作者が指示入力部55を操作して蒸気流量設定値および各種燃料の供給量の初期値を変更したとき、制御演算部56は、操作者により指示入力部55に入力され、ボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定する。
【0056】
図4は、時刻tにおいて蒸気流量設定値がA(m/h)からA(m/h)へ変更されたときに、制御演算部56によって設定された仮想的な経路を示す図である。同図に示されるように、制御演算部56は時刻tから所定時間経過後である時刻tに蒸気流量設定値Aに到達する仮想的な曲線の経路R(図4にて破線で図示)を設定する。そして、上記制御演算部56は、設定した経路R上の一点に対応する蒸気流量値を暫定的な蒸気流量設定値とした最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力を、上記経路に沿って該経路Rの終点rに到達するまで経時的に繰り返して行う。最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力の形態は、第一実施形態と同じである。
【0057】
このように、蒸気流量設定値に向けて緩やかに変化していく経路に沿って、上記制御演算部56が制御演算を実行することにより、図4にて実線で示されるように蒸気流量設定値がステップ状に変化する場合と比較して、蒸気流量実際値のオーバーシュートの発生を抑制しやすくなり、より安定した制御を実現できる。
【0058】
また、本実施形態では、変更前の蒸気流量設定値Aと変更後の蒸気流量設定値Aの偏差に対する所定の割合で、経路Rの始点r、すなわち蒸気流量設定値の変更時である時刻tにおける蒸気流量設定値Aを設定する。例えば、蒸気流量設定値Aの比率を100として蒸気流量設定値Aの比率が85であり、上記所定の割合が20%である場合、時刻tにおける蒸気流量設定値Aの比率は、(100−85)×0.2+85=88となる。
【0059】
上記割合は燃料の燃焼特性に応じて決定するのが好ましい。例えば、各種燃料のうち、燃焼速度が速く、むだ時間が小さい建築廃材比率が高い場合、上記割合の値を大きくすれば、速応性が向上する。また、上記経路を燃料の燃焼過渡特性に対応した曲線に設定するとオーバーシュートもなく、かつ蒸気流量設定値に到達するまでの時間も短くなる。
【0060】
上記経路は制御サンプリング時間ごとに設定し直してもよい。リアルタイムに設定値を設定していくことにより、例えば燃焼特性が異なる燃料の供給量を増加又は減少させた後発生熱量が変化するまでむだ時間がある場合でも、蒸気流量設定値に到達するまでの時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第一実施形態に係る循環流動層炉ボイラの操業形態を示す概略構成図である。
【図2】燃料供給制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】制御演算部における制御演算時の動作を示すフローチャートである。
【図4】第二実施形態における、制御演算部によって設定される仮想的な経路を示す図である。
【図5】従来における、建築廃材系バイオマス燃料と生木系のバイオマス燃料をそれぞれ同一重量、炉内に投入したときの燃焼過渡特性を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 循環流動層炉ボイラ
10 循環流動層炉
30 ボイラ
50 燃料供給制御装置
51 第一燃料供給部
52 第二燃料供給部
54 データ保持部
55 指示入力部
56 制御演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の燃料の供給を受けてこれを燃焼させる燃焼炉および該燃焼炉で発生した熱を用いて蒸気を発生させるボイラを有する燃焼炉ボイラの上記燃焼炉に接続された燃料供給部から供給される上記複数種の燃料の供給量を制御する燃料供給制御装置であって、所定のボイラ負荷設定値にボイラ負荷実際値を追従させるための所定の制御演算を実行して各種燃料の供給量を制御する指示信号を上記燃料供給部へ出力する燃料供給制御装置において、上記制御演算に用いられる上記ボイラ負荷設定値、上記各種燃料の供給量の初期値、所定の制御ゲインのそれぞれに対応するデータを互いに関連付けて保持するデータ保持部と、操作者による上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値の入力操作を受け付ける指示入力部と、上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を上記燃料供給部へ出力する制御演算部とを備え、上記データ保持部は、上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値を用いた上記制御演算により算出される各種燃料の供給量に基づくボイラ負荷実際値が所定の応答条件を満足するときの制御ゲインである最適制御ゲインに対応するデータを、上記ボイラ負荷設定値および上記初期値に対応するデータと関連付けて複数種保持しており、上記制御演算部は、上記指示入力部に入力された上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に対応するデータに関連付けられた上記最適制御ゲインに対応するデータを上記データ保持部から抽出し、上記ボイラ負荷設定値に対するボイラ負荷実際値の偏差と、上記初期値と、抽出した上記最適制御ゲインとを用いて上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出し、該供給量に応じた指示信号を上記燃料供給部へ出力することを特徴とする燃料供給制御装置。
【請求項2】
制御演算部は、操作者によりボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定し、該経路上の一点に対応するボイラ負荷値を暫定的なボイラ負荷設定値とした最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力を、上記経路に沿って該経路の終点に到達するまで経時的に繰り返して行うこととする請求項1に記載の燃料供給制御装置。
【請求項3】
複数種の燃料の供給を受けてこれを燃焼させる燃焼炉および該燃焼炉で発生した熱を用いて蒸気を発生させるボイラを有する燃焼炉ボイラの上記燃焼炉に供給される上記複数種の燃料の供給量を制御する燃料供給制御方法であって、所定のボイラ負荷設定値にボイラ負荷実際値を追従させるための所定の制御演算を実行して各種燃料の供給量を制御して各種燃料を上記燃焼炉に供給する燃料供給制御方法において、上記ボイラ負荷設定値および各種燃料の供給量の初期値を用いた上記制御演算により算出される各種燃料の供給量に基づくボイラ負荷実際値が所定の応答条件を満足するときの制御ゲインである最適制御ゲインに対応するデータを、上記ボイラ負荷設定値および上記初期値に対応するデータと関連付けて複数種保持しておき、操作者により設定された上記ボイラ負荷設定値および上記各種燃料の供給量の初期値に対応するデータに関連付けられた上記最適制御ゲインに対応するデータを、保持しておいた最適制御ゲインに対応する複数種のデータから抽出し、上記ボイラ負荷設定値に対するボイラ負荷実際値の偏差と、上記初期値と、抽出した上記最適制御ゲインとを用いて上記制御演算を実行して各種燃料の供給量を算出することを特徴とする燃料供給制御方法。
【請求項4】
操作者によりボイラ負荷設定値が新たに設定された時刻から所定時間の間、ボイラ負荷値が連続的に増加又は減少して、所定時間経過時に、新たに設定されたボイラ負荷設定値に到達する仮想的な経路を設定し、該経路上の一点に対応するボイラ負荷値を暫定的なボイラ負荷設定値とした最適制御ゲインの抽出、制御演算の実行および指示信号の出力を、上記経路に沿って該経路の終点に到達するまで経時的に繰り返して行うこととする請求項3に記載の燃料供給制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−25491(P2010−25491A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189426(P2008−189426)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】