説明

燻煙剤用発熱体

【課題】
燻煙剤用発熱体であって、燻煙用薬剤の分解の恐れや発熱体自身の経時劣化がなく且つ利便性に優れた燻煙剤用発熱体を提供する。
【課題の解決手段】
燻煙用薬剤と接する不燃性容器に収納された棒状の発熱部と、当該発熱部の一端に設けられた点火部とから成る燻煙剤用発熱体において、上記の発熱部が金属酸化物40重量部以上、平均粒子径が10μm以下の金属珪素5〜15重量部、硝酸塩15〜40重量部、固着剤1〜5重量部から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燻煙剤用発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
室内に生息するゴキブリ、ナンキンムシ、シラミ、イエダニ、屋内塵性ダニ類などの害虫、ダニ類の駆除や防除のために燻煙剤が使用されてきた。燻煙剤は手間をかけずに広い空間を処理できる長所がある反面、効力、人体に対する安全性、火災に対する安全性など十分な配慮が要求される。現在市販されている燻煙剤には二つのタイプがあり、一つは点火具等を配した薬剤燃焼伝播性を有する自己燃焼方式と酸化カルシウム等の加水反応熱を利用する間接加熱方式に大別されるが、後者方式は始動から燻煙開始までの所要時間が前者と比較し、一般的には遅延傾向にある。
【0003】
本発明者らは先に、特開平11−92312号公報において、ピレスロイド系殺虫成分およびカーバメート系殺虫成分から選ばれた1種又は2種を2〜15重量%と、有機発泡剤としてのアゾジカルボンアミドを70〜97重量%と、酸化亜鉛及び炭酸亜鉛から選ばれた1種又は2種を1〜15重量%含有する燻煙剤組成物を、緩燃焼性材料からなる点火具を接触させた時その接触させた部分に噴孔が形成される合成樹脂製フィルム袋に封入した燻煙殺虫剤、及びこれを用いた燻煙方法を開示した。また、特開2000−327503号公報では、上記緩燃焼性材料からなる点火具の代わりに、火薬類に属さない棒状発熱剤を発熱剤収納管に入れ、棒状発熱剤の先端部にマッチ頭薬等の発火薬を付着させた燻煙剤用点火具を提示し、着火性の改良を行った。
【0004】
これらの燻煙殺虫剤組成物、及びこれを用いた燻煙方法は、酸化亜鉛及び炭酸亜鉛がアゾジカルボンアミドの分解温度を下げ、簡便かつ効率よく殺虫成分を燻煙せしめるシステムを提供するものであったが、例えば、特開2000−327503号公報の方法では、点火具の発熱エネルギーが不足して着火の不都合を招く場合もあり、改良の余地が残されていた。
【0005】
上記欠点を改良するため、発熱エネルギーが不足することのない点火具の開発を検討した。このような燻煙剤用の点火具としては、水に不溶ないしは難溶性の酸化剤、還元剤および燃焼調整剤より成る燃焼性粉剤をニトロセルロースによって無機繊維に担持して成ることを特徴とする着火薬(特開平7−232987号公報)や燻煙剤と接する不燃性容器、特定の燃焼熱を有する燃焼性の加熱剤、該加熱剤と接触した特定の発火点を有する着火剤及び、一部が外部に露出した点火剤からなる燻煙剤加熱具(特開2002−29878号公報)が提案されている。また、本発明者らは、既に、加熱薬と、当該加熱薬に接して配置された棒状の着火部と、当該着火部の一端に設けられた点火部とから成る燻煙剤用発熱体において、上記の加熱薬が、金属酸化物15〜50重量部、金属珪素または金属珪素鉄15〜50重量部、過塩素酸塩3〜25重量部、鉱物5〜50重量部および燃焼調整剤5〜15重量部の混合物から成ることを特徴とする燻煙剤用発熱体(特開平11−349406号公報)を提案している。しかしいずれの構成も、構造が複雑であったり、十分な発熱エネルギーが得られないか、あるいは、十分な発熱エネルギーを発生させようとすると、発熱温度が高すぎ、制御が困難という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−92312号公報
【特許文献2】特開2000−327503号公報
【特許文献3】特開平7−232987号公報
【特許文献4】特開2002−29878号公報
【特許文献5】特開平11−349406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、利便性に優れた燻煙剤用発熱体であって、かつ、複雑な構造を有さず、製造が容易で十分な発熱エネルギーを有しながら、適度な発熱温度となり、また燃焼途中で立ち消えを起こすこともない燻煙剤用発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、燻煙用薬剤と接する不燃性容器に収納された棒状の発熱部と、当該発熱部の一端に設けられた点火部とから成る燻煙剤用発熱体において、上記の発熱部が金属酸化物40重量部以上、平均粒子径が10μm以下の金属珪素5〜15重量部、硝酸塩15〜40重量部、固着剤1〜5重量部を含有することを特徴とする燻煙剤用発熱体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燻煙用薬剤と接する不燃性容器に収納された棒状の発熱部と、当該発熱部の一端に設けられた点火部とから成る燻煙剤用発熱体において、上記の発熱部が、金属酸化物40重量部以上、平均粒子径が10μm以下の金属珪素5〜15重量部、硝酸塩15〜40重量部、固着剤1〜5重量部を含有することによって、従来に比べ効率よく確実に燻煙させうる燻煙システムが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の燻煙剤用発熱体は、不燃性容器と発熱部及び点火部とから成る。
【0011】
発熱部は、金属酸化物、金属珪素、硝酸塩および固着剤の混合物から成り、ガラス繊維またはセラミック繊維に固着され、棒状に固化、成形されて不燃性容器に収納される。
【0012】
上記の金属酸化物としては、例えば酸化銅または酸化鉄が40重量部以上配合される。金属珪素との反応性から、酸化鉄、特に四三酸化鉄が好適に使用される。上記金属珪素はメタルシリコンと称されるもので、通常、シリコン98%以上を含有する。反応性を高めるために、平均粒子径が10μm以下のものが使用される。金属珪素含有量としては、5重量部より少ないと、反応が低下し、十分な発熱エネルギーが得られない。また、金属珪素含有量が15重量部を超えると、過熱され過ぎて問題がある。硝酸塩としては、硝酸カリウム、硝酸ストロンチウム等が好適に使用されるが、15重量部より少ないと、反応が継続せずに立ち消えする。また、40重量部より多いと、必要以上に過熱される。
【0013】
金属珪素は、反応性の観点から、平均粒子径が10μm以下の粒度のものが使用される。さらには、平均粒子径は使用性能の観点などから、0.01μm以上であることが好ましい。ガラス繊維またはセラミック繊維に均一に固着させるという観点から、他の成分の粒度についても注意する必要がある。金属珪素以外の成分についても、0.1mm以上のものが50%以上のものが好ましく、0.1mm以上のものが80%以上のものがより好適に使用される。
【0014】
本発明の燻煙剤用発熱体は、ガラス繊維又はセラミック繊維等に固着させて、棒状に成型される。固着剤としては、PVA、CMC等の一般的なバインダーが使用可能であり、固着成形の容易さから、PVAが好適に使用される。不燃性容器には、セラミック容器、金属管等が使用可能であるが、熱伝導性、加工の容易さから、アルミ管が望ましい。尚本願発明の発熱部には、反応を阻害しない限りにおいて、タルク、珪藻土等の鉱物を燃焼調整剤等の目的で添加しても良い。
【0015】
着火・発熱部を固着させるガラス繊維、セラミック繊維は、一般的な、直径1mm以下の単糸から、単糸を編んで作られた直径数mmのガラスヤーン、セラミックヤーンに至るまで、種々のものが使用でき、収容する不燃性容器の大きさに応じて、材質、直径等が決められる。嵩高に成形されたバルキーヤーンは、その空隙に薬剤を担持することが可能であり、好ましい。また、薬剤を単糸、ヤーンあるいはバルキーヤーン等に固着させた後、複数本を拠り合わせたり、束ねたりして適度な直径にすると、付着薬剤の均一性を一層高めることができる。
【0016】
本発明の燻煙剤用発熱体において、棒状の発熱部は不燃性容器に収納され、また、その不燃性容器は、燻煙用薬剤に接触するように配置される。具体的には、例えば、粒状に成形した燻煙用薬剤を容器に充填しその粒状薬剤に接触するように本発明の燻煙剤用発熱体を配置したり、薬剤を充填した袋体を容器に配置し、その薬剤袋に接触するように燻煙剤用発熱体を設置することができる。また、特許公開2000−336004号公報に例示されるように、薬剤と薬剤の入った袋体がより接触するように袋体をV字形に折り畳み、その中心部に発熱体が埋設するように配置しても良い。
発熱部の一端に配置した点火部により着火させて発熱部を燃焼させ、その熱により燻煙用薬剤の燻煙を行う。なお、燻煙用薬剤としては、従来公知の有機りん剤、有機塩素剤、カーバメート剤、ピレスロイド剤などの殺虫剤または殺菌剤などを発泡剤及びその他の添加剤を加えたものとし、各種の病害虫駆除剤などを使用することが出来る。
【0017】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
表1の組成の薬剤を混合し、調製したもの100部と水:メタノールの1:1混合液60部を加えて均一に混合して調製した泥薬に、300TEXのガラスヤーンを浸漬し、その8本を束ねて、直径4mmの穴を通過させて、均一な太さに調整し、乾燥固化後、長さ4cmに切り揃えて、棒状の発熱部を調製した。泥薬の固着量は、長さ1cmあたり、乾燥重量として、約0.1gであった。こうして作製した棒状の発熱部を直径6mm、長さ3.8cmのアルミ製不燃性容器に収納し、容器からはみ出た部分に頭薬をつけて、本発明の燻煙剤用発熱体を作製した。


【0019】
【表1】


金属珪素 I ;平均粒子径が1〜3μm
金属珪素 II;平均粒子径が12〜17μm

【0020】
表2の組成の燻煙用薬剤を調製し、その20gをポリプロピレン製樹脂フィルムの袋に封入した燻煙用薬剤に接するように上記実施例及び比較例の発熱体を設置し、すり板で頭薬を擦って着火せしめ、発熱の継続性、過熱(不燃性容器周囲樹脂の溶解)の発生、燻煙用薬剤の反応を調べた。試験結果を、表3に示す。
【0021】
【表2】


【0022】
【表3】


反応の継続性・・・ ○;良好 ×;立ち消え
過熱(不燃性容器周囲樹脂の溶解)の有無・・ ○;溶解なし ×;溶解あり
燻煙用薬剤の反応・・・ ○;正常に燻煙反応 ×;燻煙反応無し

【0023】
実施例1〜5の発熱体を用いた場合は、過熱による不燃性容器周囲樹脂の溶解は発生せず、底部まで発熱反応が継続して、燻煙用薬剤の反応は正常に起こり、燻煙できた。一方、比較例1では、過熱による不燃性容器周囲樹脂の溶解は発生し、問題があった。また、比較例2〜4では、発熱反応が継続せず、燻煙反応は起こらなかった。
我々が、先に提案した組成物に該当する比較例5は、実施例1の硝酸カリウムの代わりに過塩素酸カリウムを使用したものであるが、比較例1と同様、不燃性容器周囲樹脂の溶解が発生した。
【実施例2】
【0024】
表3の組成の燻煙剤組成物20gをポリプロピレン製フィルム袋に封入した。直径65mm、高さ60mmの陶器製容器底面に、壁状の隆起として直径50mm、高さ15mmで、外方側面の一部に容器底面の中央部に確実に設置されるための突起を有するポリエチレン製リング状固定具を設置した。リング内に燻煙殺虫剤の中央部を押し込んで燻煙殺虫剤の50%を陥没させるように収納し、発熱部とマッチ頭薬からなる点火具の付いた燻煙剤容器上蓋で押さえて固定し、頭薬に点火したところ、円滑に噴煙が開始、継続した。燻煙状態は極めて良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、燻煙剤の発熱体材料として、さらには加熱して使用を開始するような製品の分野において須らく利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燻煙用薬剤と接する不燃性容器に収納された棒状の発熱部と、当該発熱部の一端に設けられた点火部とから成る燻煙剤用発熱体において、上記の発熱部が金属酸化物40重量部以上、平均粒子径が10μm以下の金属珪素5〜15重量部、硝酸塩15〜40重量部、固着剤1〜5重量部を含有することを特徴とする燻煙剤用発熱体。



【公開番号】特開2011−195507(P2011−195507A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64059(P2010−64059)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【出願人】(594103507)合資会社飯村製作所 (1)
【Fターム(参考)】