説明

片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の製造法

亜鉛メッキ処理された鋼シートから出発する、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の製造法であって、この場合少なくとも1つの処理工程は、輸送工程であり、その際、「ブラックスポット腐蝕」からの保護のために、サルコシン酸のN−アシル誘導体を腐蝕抑制剤として含有する防錆油が施こされる、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ処理された鋼シートから出発する、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の製造法に関し、この場合少なくとも1つの処理工程は、輸送工程であり、その際、「ブラックスポット腐蝕」からの保護のために、サルコシン酸のN−アシル誘導体を腐蝕抑制剤として含有する防錆油が施こされる。
【0002】
亜鉛メッキ処理された鋼からの平らな金属完成品、例えば自動車車体またはその部品、家庭電化製品のケーシング、ファッサード被覆材、天井パネルまたは窓用異形成形材の製造は、多工程のプロセスを有する。このための原材料は、通常、亜鉛メッキ処理された鋼ストリップであり、この鋼ストリップは、前記金属を圧延し、引続き亜鉛メッキ処理することによって製造され、貯蔵および輸送のために巻き取られて、ロール(いわゆる、「コイル」)を形成する。このロールは、加工のために再び巻き取られ、小さな断片に分離され、適当な技術、例えば打抜き、ドリリング、型出しおよび/または深絞りにより造形される。大型の構造部品、例えば自動車車体は、場合によっては多数の個々の部品を接合することによって得られる。造形および接合の後に、この製品は、例えば塗装されることができる。
【0003】
記載された製造プロセスにとって特徴的であるのは、記載された処理工程が製造の作業現場で必ずしも全て行われず、組立分の製品および/または半製品が一般的な規則で1回または数回、1つの製造の作業現場から別の製造の作業現場に輸送されなければならないことである。例示的には、自動車の製造が指摘される。金属ストリップの製造は、鋼製造業者の施設で行なわれる。ストリップの裁断および自動車車体または車体部品への変形は、プレス工場で行なわれ、完成した車体またはその部品は、引続き塗装および最終的組立のために自動車製造業者に輸送される。
【0004】
これに関連して、自動車のための「完全ノックダウン」または「部分ノックダウン」製造技術が挙げられ、この場合には、輸出用に意図された車両が故意に組み立てられて完成した状態ではなく、個々の部品の形で輸入国に輸送され、輸入国で初めて最終的に組み立てられる。この製造技術の場合には、全ての車体または車体部品は、輸出国から輸入国に輸送され、場合によっては数週間の海上輸送で輸送されなければならない。
【0005】
例えば、鉄道貨車上または船舶中での輸送の経過中に、組立分の製品および/または半製品は、大気の影響に晒され、したがって輸送のために腐蝕から保護されなければならない。
【0006】
輸送中の腐蝕から保護のために、一般に、いわゆる「腐蝕からの一時的な保護」が施こされ、即ちこれは、完成品に永続的な保護を付与する、腐蝕からの最終的な保護塗装ではなく、プロセスの後の時点で再び除去されかつ腐蝕からの最終的な保護塗装によって代替される塗装である。腐蝕からの一時的な保護のために、鋼ストリップは、一般に防錆油からの塗膜を備えている。防錆油は、しばしば二重の機能を有し、例えば深絞りの際に変形助剤として機能する。この変形助剤油は、成形プロセスの際に必要とされる滑性を保証し、前記薄板の破断または亀裂が阻止される。
【0007】
亜鉛メッキ処理された鋼から製造された成形体を輸送する場合には、前面で腐蝕の特殊な形、即ち「ブラックスポット腐蝕」が生じる。これは、腐蝕の拡大した形ではなく、腐蝕の局部的に制限された形である。このブラックスポット腐蝕の1つの予想される原因は、金属表面が輸送中に粒子で汚染されうることである。更に、この粒子による汚染のために、しばしば粒子の周囲には、局部的に極めて制限された形の腐蝕が生じる。この粒子は、例えば汚染物粒子および/または塩粒子、または汚染物に関連した塩粒子である。
【0008】
特に、電解的に亜鉛メッキ処理された鋼の場合には、この形の腐蝕は、表面形態の重大な変化も結果としてまねく。側面から見ると、例えばクレーター状の隆起が金属表面上に観察される。自動車構造において、この種のクレーター状の隆起は、極めて妨げとなる。それというのも、この隆起は、その後のカチオン性浸漬塗装プロセスによってむしろなお悪化されるが、しかし、どんな場合でも決しても均等化されることがないからである。「ブラックスポット腐蝕」の結果として、既に組み立てられた車体に対して膨大に費用の掛かる後処理が必要とされる。この後処理は、自動車製造業者に高すぎる経費をまねくだけでなく、量産の時間的経過も損なう。更に、完成車体の耐蝕性も不利な影響を受ける。それというのも、後改善されたスポットは、消費製品の腐蝕に対して核形成セルを構成するからである。
【0009】
サルコシン酸のN−アシル誘導体を腐蝕抑制剤として使用することは、公知である。
【0010】
特開2007−039764号公報Aには、基油ならびにサルコシン酸のN−アシル誘導体、またはその塩またはエステルを含有する腐蝕制御油組成物が開示されている。
【0011】
欧州特許出願公開第1092788号明細書A2には、N−アシルサルコシン酸ならびに油中の置換トリアゾールからなる組成物、ならびに金属加工液体、圧媒油、トランスミッションオイルまたは潤滑油中での腐蝕阻止のための前記組成物の使用が開示されている。
【0012】
WO 01/088068には、金属表面を一時的に処理し、同時に潤滑させかつ腐蝕から保護するための油組成物が開示されている。この油組成物は、生物分解性組成物であり、これは、少なくとも2つの異なるトリグリセリドおよびモノアルコールの少なくとも1つの脂肪酸エステルならびに脂肪酸とモノアルカノールアミド、ジアルカノールアミドまたはトリアルカノールアミドとの縮合による少なくとも1つのアミド誘導体を含む。更に、この組成物は、場合により少なくとも1つの腐蝕抑制剤を0.5〜5質量%含有していてよく、N−アシルサルコシンの半イミドまたは誘導体を含有していてもよい。この油は、0.5〜3g/m2の量で金属表面上に施こされる。
【0013】
ドイツ民主共和国特許第148234号公報A1には、冷間圧延ストリップのための防錆剤および深絞り加工剤が開示され、ドイツ民主共和国特許第218775号公報A3には、別の成分と共にそれぞれオレイルサルコシンを1つの成分として含有する冷却潤滑油が開示されている。
【0014】
ドイツ民主共和国特許第240384号公報A1には、一時的な防錆塗料が開示されており、この防錆塗料は、20℃未満ガラス転移温度を有する被膜形成性ポリマー、例えばアクリレート樹脂、アルキルフェノール樹脂またはニトロセルロースを、溶剤、例えばトルエン、エチルベンゼン、ブタノールまたはブチルグリコールの混合物中に含有する。更に、防錆塗料は、オクタン酸亜鉛、アルキルジチオ燐酸亜鉛、オレイルサルコシン、ナタネ油脂肪酸ジエチルアミド、アルキルナフタリンおよび鉱油からなる混合物を含有する。亜鉛メッキ処理された鋼の処理は、開示されていない。
【0015】
ドイツ民主共和国特許第203567号公報A1には、半製品および完成品の金属表面を、加工中、貯蔵中および輸送中、例えば海外輸送中に大気腐蝕から一時的に防錆するための防錆油が開示されている。この防錆油は、1〜1000mm2/秒の粘度を有する鉱物性基油75〜99.3質量%、アルキフェノールの存在下でのアルキルアリールスルホン酸と水酸化バリウムとの反応生成物0.15〜15質量%、ならびに1:1の質量比で3つの次の成分、即ち1)モノアルキル燐酸エステルまたはジアルキル燐酸エステル、2)油酸のモノアルカノールアミド、ジアルカノールアミドまたはトリアルカノールアミドまたは3)10〜20個の炭素原子を有する脂肪酸またはそのサルコシドの中のそれぞれ2つからなる混合物0.2〜10質量%からなる。
【0016】
防錆油は、ねずみ鋳鉄の円筒状板上で試験され、即ち炭素含有ねずみ鋳鉄上で典型的な循環耐候試験により試験された。開示された防錆油の適用に関連して、前記刊行物には、まさにここで述べたこと以上の詳細は記載されていない。
【0017】
米国特許第5555756号明細書には、鋼ストリップの絞り性を改善する方法が開示されている。このために、鋼ストリップは、最初に加熱され、その後に液状滑剤が表面上に塗布され、この液状滑剤は、引続き乾燥され、乾燥被膜が表面上に形成される。塗布される量は、少なくとも10.8mg/m2である。引続き、この鋼ストリップは、圧延される。この液状滑剤は、有利に水、界面活性剤ならびに一般式RO−P(=O)(OH)2または(RO)2−P(=O)OHのアルキル燐酸エステルを含有し、上記式中、Rは、4〜20個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0018】
しかし、前記刊行物の何れにも、大気環境中で組立分の製品、半製品または完成品を輸送する際の「ブラックスポット腐蝕」の問題については、何も記載されていない。
【0019】
本発明の課題は、塩粒子腐蝕またはブラックスポット腐蝕を有効に回避させることができる、亜鉛メッキ処理された鋼からなる組立分の製品、半製品または完成品を輸送するために改善された防錆を提供することであった。
【0020】
本発明の第1の視点において、サルコシン酸のN−アシル誘導体を含有し、および亜鉛メッキ処理された鋼からなる組立分の製品、半製品または完成品を輸送する際の「ブラックスポット腐蝕」を回避させるにも特に好適である、亜鉛メッキ処理された鋼のための一時的な油含有防錆塗膜が見い出された。
【0021】
それに応じて、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体を製造する方法が見い出された。この場合、この方法は、この順序で少なくとも次の工程を含む:
(1)防錆油を、亜鉛メッキ処理された鋼ストリップの表面上に0.25〜5g/m2の量で塗布し、
(2)被覆され亜鉛メッキ処理された鋼ストリップを成形体の製造の作業現場に輸送し、ならびに
(3)亜鉛メッキ処理された鋼ストリップを分離し、および変形し、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体に変え、
この場合防錆油は、
少なくとも300℃の沸点を有する少なくとも1つの油(A)50〜99.5質量%、
少なくとも1つの腐蝕抑制作用物質(B)0.5〜50質量%、ならびに
他の添加剤(C)0〜30質量%からなる配合物であり、
この場合量の記載は、それぞれ防錆油の全ての成分の全体量に対するものであり、およびこの場合腐蝕抑制作用物質(B)の少なくとも1つは、一般式R1−CO−N(R2)−(CH2n−COOR3の作用物質(B1)であり、上記式中、基および係数R1、R2、R3およびnは、次の意味を有する:
1は、10〜20個の炭素原子を有する、飽和または不飽和の直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
2は、Hまたは直鎖状または分枝鎖状C1〜C4アルキル基であり、
3は、Hまたはカチオン1/m Ym+であり、この場合mは、1〜3の自然数を表わし、nは、1〜4の自然数を表わし、
およびこの場合作用物質(B1)の量は、少なくとも0.5%である。
【0022】
本発明の1つの好ましい実施態様において、成形体は、自動車車体の部品または自動車車体である。
【0023】
それ故に、この溶液は、特に驚異的である。それというのも、サルコシン酸、例えばオレイルサルコシン酸またはラウリルサルコシン酸のN−アシル誘導体は、商業的に入手可能な腐蝕抑制剤であり、その使用は、多種多様の目的のために既に公知であるからである。それにも拘わらず、この種の化合物は、これまで、亜鉛メッキ処理された鋼からなる成形体を輸送する経過中での「ブラックスポット腐蝕」の回避のためには提案されなかった。
【0024】
前記課題を解決する場合、亜鉛メッキ処理された鋼からなる組立分の製品、半製品または完成品を輸送する際の防錆に対する要件を正確に包括的に記載するためには、消費製品の腐蝕挙動を測定するための公知の試験、例えばVDA[German Association of the Automotive Industry]、試験シート621−415による循環耐候試験またはDIN EN 9227による塩水噴霧試験は、必ずしも十分ではないという困難が生じた。例えば、本発明による使用される、N−アシル−サルコシン酸誘導体は、塩水噴霧試験において中位以下の結果だけを生じ、それ故に、この生成物は、この塩水噴霧試験に基づくだけで、実際には全く考慮の対象とならなかった。
【0025】
従って、本発明のもう1つの視点において、腐蝕抑制剤の性質に関連して腐蝕抑制剤の挙動を試験するためにブラックスポット腐蝕を阻止するのに特に好適である試験方法が準備される。
【0026】
本発明の詳細は、以下の通りである:
試験方法
金属薄板の耐蝕性を測定するための公知の塩水噴霧試験において、試験薄板の全面は、塩含有水からの微細なミストに晒され、即ちこの試験は、全金属表面が均一に腐蝕へ暴露されることを含む。
【0027】
これに対して、「ブラックスポット腐蝕」に抗する、亜鉛メッキ処理された鋼薄板の安定性に関連して、亜鉛メッキ処理された鋼薄板を試験するための本発明により開発された方法の場合には、均一に腐蝕へ暴露されることは、点状で腐蝕へ暴露されることによって置き換えられる。
【0028】
この試験を実施するために、試験すべき亜鉛メッキ処理された鋼薄板は、制御された耐候室中に水平方向に貯蔵される。亜鉛メッキ処理された鋼薄板は、試験のために試験すべき被膜で被覆されるが、しかし、勿論、比較の目的のために被覆されていない薄板も試験することができる。典型的な試験薄板は、約0.01m2の表面積を有するが、しかし、勿論、別の面積の試験薄板が使用されてもよい。しかし、一般的に言えば、0.0025m2の大きさを下廻るべきではない。
【0029】
試験の実施のために、この薄板の前面には、塩含有試験粒子が散布される。最も簡単な場合には、塩粒子、殊にNaCl粒子であるが、しかし、別の材料、例えばNaClで汚染された砂からなる試験粒子も考えられ、汚染物粒子をよりいっそう良好に変形することができる。勿論、この粒子は、小さな粒子からなる凝集塊であってもよい。一般的に言えば、この粒子は、0.1〜1mm、有利に0.2〜0.6mmの直径を有するべきである。相応する粒子画分は、簡単に篩別によって準備されることができる。この場合、表面は、粒子が本質的にそれぞれ個別的に表面上に配置されるように散布される。粒子の量は、一般に1000〜25000個の粒子/m2、有利に5000〜15000個の粒子/m2、例えば約10000個の粒子/m2であり、即ち1dm2の薄板の大きさの場合には、約100個の粒子である。
【0030】
引続き、このように調製された薄板は、定義された時間の間、定義された空気湿度および温度で、耐候試験条件を調節するのに適した装置中に貯蔵される。この試験は、有利に15〜40℃、特に有利に室温で実施されるが、しかし、勿論、別の試験温度を考えることもできる。60〜90%、例えば85%の相対空気湿度および12〜96時間、例えば24時間の試験時間は、有効であることが証明された。しかし、勿論、別の試験時間を考えることもできる。殊に、時間的経過における腐蝕も研究することができる。当業者によれば、試験条件は、例えば輸送の際に支配している耐候試験条件に適合させることができる。
【0031】
前記薄板の表面は、それぞれの試験時間の経過後に試験粒子の周辺の腐蝕に対して評価される。評価は、殊に写真で行なうことができる。薄板上で発生した「ブラックスポット」の数ならびに試験粒子の周辺の腐蝕した面積のそれぞれ大きさが評価されうる。更に、腐蝕の時間的経過を記録することもできる。例えば、何時最初に「ブラックスポット」が観察されるのかを確認することができるか、または時間に依存して「ブラックスポット」の数を確認することができる。
【0032】
本発明による試験によれば、輸送過程の経過中の亜鉛メッキ処理された成形体の腐蝕挙動を公知の塩水噴霧試験よりもいっそう現実的な方法で評価することができる。
【0033】
従って、例えば抑制剤(B1)と一緒に本発明により使用される防錆油の試験は、塩水噴霧試験により中位の結果だけを生じ、それ故に、この抑制剤は、この塩水噴霧試験に基づくだけで、本発明による使用には全く考慮の対象とならなかった。本発明により開発された試験で初めて、「ブラックスポット腐蝕」を阻止するための腐蝕抑制剤(B1)の特殊な適性が明らかになった。
【0034】
使用された防錆油
本発明によれば、防錆油として、少なくとも1つの油(A)、少なくとも1つの腐蝕抑制作用物質(B)および場合により他の添加剤(C)を含有する配合物が使用される。防錆油は、一面で防錆に使用され、さらに変形のための助剤としても適している良好な潤滑特性を有する。
【0035】
使用される基油(A)の沸点は、一般的に言えば、1バールの際に少なくとも300℃である。前記配合物のための基油(A)は、鉱油または合成により製造された油であることができる。適当な鉱油は、例えば原油を約350〜500℃で真空蒸留することによって取得することができる。十分に芳香族化合物不含の鉱油は、殊に好適である。合成油は、殊にポリ−α−オレフィン、例えばC12〜C14オレフィンのようなもの、例えばポリイソブテン、種々の長鎖状エステルまたはシリコーン油を含む。更に、比較的高級の溶融パラフィンおよびこのパラフィンと油との配合物ならびにワックスおよびワックスエマルジョンが使用されてもよい。勿論、多数の種々の油が互いに相溶性であることを前提に、多数の種々の油の混合物が使用されてよい。本発明の実施に好ましいのは、ポリ−α−オレフィンを基礎とする鉱物油および合成油である。
【0036】
更に、適当な基油についての詳細は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,Electronic Edt.7th Release,2007,Wiley−VCH Verlag,Weinheim中の"Lubricants and Lubrication"に掲載されている。
【0037】
特に好適な油は、50〜200mm2/秒(ASTM D 445により測定した)、有利に120〜180mm2/秒、特に有利に140〜160mm2/秒の20℃での動的粘度、ASTM D 97により測定した−15℃〜+5℃、有利に−5℃〜+5℃の凝固点(流動点)、0.85〜0.90kg/l、有利に0.88〜0.90kg/lの、ASTM D 1298により15℃で測定した密度ならびに180℃を上廻る、有利に200℃を上廻る、ASTM D 92により測定した引火点を有する鉱油である。
【0038】
使用される全ての油(A)の量は、それぞれ使用される配合物の全ての成分の全体量に対して50〜99.5質量%、有利に70〜90質量%、特に有利に75〜85質量%である。
【0039】
本発明により使用される配合物は、1つ以上の腐蝕抑制作用物質(B)を含有する。本発明によれば、これは、次の式R1−CO−N(R2)−(CH2n−COOR3の少なくとも1つの作用物質(B1)である。この場合、基R1、R2、R3および係数nは、次の意味を有する:
1:10〜20個の炭素原子、有利に12〜18個の炭素原子、特に有利に16〜18個の炭素原子を有する飽和または不飽和の直鎖状または分枝鎖状の炭化水素基、
2:Hまたは直鎖状または分枝鎖状のC1〜C4アルキル基、有利にメチル基、
3:Hまたはカチオン1/m Ym+であり、この場合mは、1〜3、有利に1または2、特に有利に1の自然数を表わし、
n:1〜4、有利に1または2、特に有利に1の自然数。
【0040】
基R1は、有利に17個の炭素原子を有するモノ不飽和基である。特に好ましくは、これは、油酸に由来する基である。更に、好ましいのは、ラウリン酸に由来する基である。
【0041】
カチオンYm+は、殊にアルカリ金属イオン、殊にLi+、Na+またはK+、アルカリ土類金属イオンまたはアンモニウムイオンであることができる。アンモニウムイオンとしては、NH4+または有機基を有するアンモニウムイオン[NR44+を挙げることができ、この場合基R4は、それぞれ互いに無関係にHまたは炭化水素基、殊に1〜4個の炭素原子を有する炭化水素基である。好ましくは、R3は、H+、Na+またはNH4+である。この場合には、多数の種々の基も重要である。
【0042】
腐蝕抑制剤(B1)は、当業者に原理的に公知の方法により、殊にサルコシン酸またはその誘導体H−N(R2)−(CH2n−COOR3をカルボン酸R1−COOHまたはカルボン酸の反応性誘導体、例えば相応するカルボン酸無水物またはカルボン酸ハロゲン化物と反応させることによって製造することができる。腐蝕抑制剤(B1)は、商業的に入手可能である。
【0043】
勿論、多数の種々の作用物質(B1)の混合物が使用されてもよく、ならびに作用物質(B1)とこれとは異なる腐蝕抑制作用物質(B2)との混合物が使用されてもよい。
【0044】
使用される全ての腐蝕抑制剤(B)の量は、一緒になって、それぞれ使用される配合物の全ての成分の全体量に対して0.5〜50質量%、有利に10〜30質量%、特に有利に15〜25質量%である。
【0045】
しかし、全ての作用物質(B1)の量は、少なくとも0.5質量%である。更に、他の腐蝕抑制作用物質(B2)が存在する限り、質量比(B1)/(B2)は、少なくとも0.1、有利に少なくとも0.5、特に有利に少なくとも0.8である。殊に好ましくは、専ら腐蝕抑制作用物質(B1)が使用される。
【0046】
従って、好ましくは、使用される腐蝕抑制剤(B1)の量は、一緒になって、それぞれ使用される配合物の全ての成分の全体量に対して0.5〜50質量%、殊に5.01〜50質量%、有利に10〜30質量%、特に有利に15〜25質量%である。
【0047】
更に、本発明により使用される防錆油配合物は、場合により添加剤または助剤(C)を含有することができる。このような添加剤を用いて、前記配合物の性質は、望ましい目的に適合させることができる。
【0048】
この種の添加剤(C)の例は、カルボン酸エステル、遊離または部分中和されたカルボン酸乳化剤、例えばアルキルスルホネートまたは酸化防止剤、例えばフェノール系成分、イミダゾール、ポリエーテルホスフェート、アルキルホスフェートまたはスクシンイミド、殊にオリゴアミン、例えばテトラエチレンペンタミンもしくはエタノールアミンと反応されたポリイソブチレンスクシンイミドを含む。更に、燐酸エステルまたはホスホン酸エステルが使用されてもよいし、防錆剤、例えばジチオ燐酸亜鉛が使用されてもよい。当業者であれば、前記配合物の望ましい性質に応じて添加剤の中からの適当な選択に出会うことになる。
【0049】
使用される全ての添加剤(C)の量は、一緒になってそれぞれ使用される配合物の全ての成分の全体量に対して0〜30質量%、有利に0〜20質量%、特に有利に0.5〜20質量%、殊に有利に1〜10質量%である。
【0050】
使用のために、成分(A)ならびに場合による(B)および/または(C)は、混合される。
【0051】
防錆油の記載された配合物は、本発明によれば、亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の貯蔵および輸送の経過中に防錆のために使用される。鋼薄板は、通常、0.2〜3mmの厚さを有する。鋼薄板は、片側または両側で亜鉛メッキ処理されていてよい。
【0052】
「亜鉛メッキ処理された」の概念は、勿論、Zn合金で被覆された鋼薄板も含む。この鋼薄板は、熱浸漬亜鉛メッキ処理されたかまたは電解亜鉛メッキ処理された鋼ストリップであることができる。鋼を被覆するためのZn合金は、当業者に公知である。当業者であれば、望ましい使用目的に応じて、合金成分の種類および量を選択する。亜鉛合金の典型的な成分は、殊にAl、Mg、Si、Mg、Sn、Mn、Ni、CoおよびCr、有利にAlまたはMgを含む。この成分は、AlとZnとがほぼ同量で存在するようなAl−Zn合金であってもよい。被覆は、十分に均質な被覆であってもよいし、濃度勾配を有する被覆であってもよい。更に、好ましくは、Zn−Mg合金であることができる。これは、Zn−Mg合金で被覆された鋼、例えば熱浸漬亜鉛メッキ処理された鋼であることができるか、または付加的にMgが蒸着された、亜鉛メッキ処理された鋼であることができる。それによって、表面でZn/Mg合金が生じうる。
【0053】
この種の成形体は、殊にライニング、マスキングまたはクラッディングに使用されうるようなものである。例は、自動車車体またはその部品、トラック車体、二輪車両用フレーム、例えばオートバイまたは自転車、またはこの種の車両のための部品、例えばフェアリングまたはパネル、家庭電化製品用ケーシング、例えば洗濯機、食器洗浄機、洗濯乾燥機、ガスオーブンおよび電気オーブン、マイクロウェーブオーブン、チェストフリーザーまたはチェストレフリジェレーター、工業的用途または工業的設備のためのケーシング、例えば機械、スイッチングキャビネット、コンピューターハウジングまたは類似物、建築分野での構造要素、例えば壁部品、ファッサード要素、天井要素、窓異形成形材、ドア異形成形材または分離壁、金属材料から形成された家具、例えば金属カップボード、金属棚、家具部品または他の取付け部品を含む。更に、液体または物質を貯蔵するための中空体、例えば缶、ブッシュまたはタンクであってよい。「成形体」の概念は、記載された材料を製造するための組立分の製品、例えば鋼ストリップまたは鋼薄板も含む。
【0054】
この使用は、防錆油を貯蔵前および/または輸送前に0.25〜5g/m2、有利に0.5〜3g/m2、特に有利に1〜2.5g/m2の量で亜鉛メッキ処理された表面上に塗布することにより行なわれる。
【0055】
この場合、「輸送」とは、成形体を1つの場所から別の場所へ移動させるような全ての種類の輸送方法である。第1の場所は、殊に成形体の製造の作業現場であるが、しかし、例えば一時的な貯蔵設備であってもよい。第2の場所は、殊に得られた成形体がさらに加工される、別の製造の作業現場である。例えば、第1の場所は、自動車車体または自動車車体の部品が製造されるようなプレス工場であり、第2の場所は、自動車の組み立て設備である。
【0056】
「貯蔵」とは、全ての種類の貯蔵方法である。この貯蔵は、数時間から数日間の短い中間貯蔵を含むことができるか、または数週間ないし数ヶ月の長い貯蔵も含む。
【0057】
成形体の製造方法
本方法の好ましい実施態様において、防錆油は、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板から成形体を製造するような以下に記載された、本発明による方法により使用される。
【0058】
本発明による方法のための出発材料として、亜鉛メッキ処理された鋼ストリップが使用される。亜鉛メッキ処理された鋼ストリップは、通常、0.2〜3mmの厚さおよび0.5〜2.5mの幅を有する。亜鉛メッキ処理された鋼ストリップは、多種多様な用途のために商業的に入手可能である。これは、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼ストリップであることができる。当業者であれば、望ましい使用目的に応じて適当な鋼ストリップを選択する。
【0059】
「亜鉛メッキ処理された」の概念は、勿論、Zn合金で被覆された鋼ストリップも含む。適当な亜鉛合金は、既に記載された。
【0060】
処理工程(1)
処理工程(1)において、冒頭に記載された防錆油は、亜鉛メッキ処理された鋼ストリップの表面上に塗布される。この鋼ストリップが片側で亜鉛メッキ処理された鋼ストリップである場合には、本発明により使用される配合物は、少なくとも亜鉛メッキ処理された片側に施こされ、勿論、亜鉛メッキ処理されていない側にも施こされてよい。しかし、亜鉛メッキ処理されていない側は、別の防錆油で処理されてもよい。
【0061】
塗布は、例えば殊に静電界による補助の下に噴霧によって行なうことができる。更に、この塗布は、ケモコーター(Chemocoater)を使用して行なうことができるし、または油浴中への浸漬、引続く圧搾によって、または薄板上への油の噴霧、引続く圧搾によって行なうこともできる。
【0062】
表面上にと付された防錆油の量は、一般に0.25〜5g/m2、有利に0.5〜3g/m2、特に有利に1〜2.5g/m2である。
【0063】
防錆油は、有利に鋼ストリップの製造直後に塗布することができ、即ち典型的には、鋼製造プラントまたは圧延プラント中で塗布することができる。
【0064】
しかし、これは、防錆油を後の時点で初めて塗布することを排除するものではない。
【0065】
本発明により使用される腐蝕抑制作用物質(B1)は、界面活性剤としても作用し、特に金属表面上での油の均一な分布を保証する。更に、この作用物質は、IR吸収、殊に>C=Oバンドを有し、したがって、油の施与は、特に良好にIR分光分析により監視され、および制御することができる。
【0066】
処理工程(2)
処理工程(2)において、油処理され亜鉛メッキ処理された鋼ストリップは、成形体のための製造の作業現場に輸送される。成形体のための製造の作業現場は、例えば自動車車体または自動車車体の部品が製造されるようなプレス工場である。
【0067】
亜鉛メッキ処理された鋼ストリップは、輸送のために通常は巻き取られて、ロール(いわゆる、「コイル」)を形成する当該の輸送は、好ましくはトラックおよび/または鉄道による輸送である。鋼ストリップは、処理工程(1)の直後に輸送されることができるかまたは最初に1回中間貯蔵され、その後に輸送される。
【0068】
処理工程(3)
成形体のための製造の作業現場において、油脂加工され亜鉛メッキ処理された鋼ストリップは、分離され、成形体に変形される。成形体のための製造の作業現場は、例えば自動車車体または自動車車体の部品が製造されるようなプレス工場である。
【0069】
分離の場合、油処理され亜鉛メッキ処理された鋼ストリップは、適当な寸法の断片に分割され、ならびに場合によっては材料の粒子は、分割されていない材料からさらなる成形のために分離される。分離技術は、機械加工技術ならびに造形技術であることができる。この分離は、例えば打抜きまたは切断によって適当な工具を用いて行なうことができる。切断は、熱的に、例えばレーザーを用いて行なうこともできるし、鋭い水噴流を用いて行なうこともできる。他の分離技術の例は、鋸引き、ドリリング、フライス加工またはやすり仕上を含む。金属ストリップの切断は、多くの場合に「スリッティング」とも呼称される。
【0070】
変形の場合には、成形体は、分離の際に得られた個々の薄板から可塑的形状変化によって製造される。この変形操作は、常温変形または熱間変形であることができる。好ましいのは、常温変形である。変形は、例えば圧縮変形、例えば圧延または型押し、引張圧縮変形、例えば冷間引抜、深絞り、ロールベンディングまたはプレス曲げ、引張変形、例えば延長または拡大、曲げ変形、例えば曲げ、エッジ圧延またはエッジング加工、ならびに剪断変形、例えばねじりまたは転位であってよい。この種の変形技術についての詳細は、当業者に公知である。この変形技術は、明らかな標準の形で、例えばDIN 8580またはDIN 8584に記録されている。本発明を実施するのに特に好ましい方法は、深絞りである。
【0071】
本発明の1つの実施態様において、処理工程(1)で施こされた防錆油は、表面上に留まり、変形のために滑剤としても機能する。
【0072】
しかし、本方法の別の実施態様において、個々の薄板は、分離後に最初に清浄化されてもよい。これは、例えば水での洗浄によって行なうことができる。水での洗浄後、この薄板は、圧潰されてよい。引続き、再び本発明により使用される防錆剤または変形油は、0.5〜50g/m2の量で施こすことができる。
【0073】
得られた成形体は、他の処理工程において同じ製造の作業現場で、例えば清浄化、永続的な防錆の施与および塗装、場合によっては接合して組み立てられた成形体の形成によって後加工されてよい。
【0074】
処理工程(4)
本方法の1つの好ましい実施態様において、工程(3)で得られた成形体、例えば自動車車体の部品は、もう1つの処理工程(4)において、さらなる製造の作業現場、例えば自動車の組み立て設備に輸送される。当該の輸送は、好ましくはトラックおよび/または鉄道による輸送である。この成形体は、処理工程(3)の直後に輸送されることができるかまたは最初に1回中間貯蔵され、その後に輸送される。さらなる製造の作業現場において、工程(3)で得られた成形体は、さらに加工される。
【0075】
処理工程(5)
本方法の好ましい実施態様において、さらなる加工は、工程(3)で得られた成形体が別の成形体と接合され、組み立てられた成形体に形成される少なくとも1つの処理工程(5)を含む。これは、例えばプレス、溶接、ロウ付け、接着、ネジ締めまたはリベット締めによって行なうことができる。例えば、自動車車体は、多数の個々の部品から組み立てることができる。接合のために、数多くの同一かまたは異なる、工程(3)で得られた成形部材を使用することができるか、または異なる種類の成形体を使用することもできる。例えば、成形体は、亜鉛メッキ処理された鋼、亜鉛メッキ処理されていない鋼およびアルミニウムから互いに組み立て、組み立てられた成形体を形成することができる。
【0076】
引続き、亜鉛メッキ処理された鋼から組み立てられた成形体は、通常の方法で、例えば清浄化、燐酸塩処理および種々の塗装層の施与によって後加工され、中間製品または最終製品を形成させることができる。
【0077】
成形体
もう1つの視点において、本発明は、亜鉛メッキ処理された表面上に施こされた、防錆油の層を0.25〜5g/m2の量で含む、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体に関し、この場合この防錆油は、既に記載された組成を有する。好ましい組成は、既に記載されており、このましい層厚は、既に記載された値である。この種の成形体の例は、同様に上記に記載された。成形体は、金属パネルまたはレーザー溶接されたプリント配線基板であってもよい。好ましくは、この成形体は、自動車車体または自動車車体の部品である。
【0078】
成形体は、有利に本発明による方法により製造することができる。しかし、成形体は、原則的に別の方法により製造されてもよい。即ち、例えば鋼ストリップの防錆および/または成形体への分離および変形の経過中での防錆は、別の方法により保証されることができ、即ち例えば別の腐蝕抑制剤を使用して、本発明による使用される防錆油は、成形体の製造後に初めて施こすことができる。それによって、成形体は、輸送のために保護されていてよい。施与は、例えば噴霧によって行なうことができる。
【0079】
防錆油の使用
もう1つの視点において、本発明は、油を0.25〜5g/m2の量で成形体の表面上に施こすことにより、亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の貯蔵および輸送の経過中に防錆のために防錆油を使用することに関し、この場合この防錆油は、既に記載された組成を有し、およびこのましい組成、このましい層厚ならびに成形体の例は、既に記載された。また、成形体は、金属ストリップ、殊に巻き取られた金属ストリップ、金属パネルまたはレーザー溶接されたプリント配線基板であることができる。好ましくは、この成形体は、自動車車体または自動車車体の部品である。油は、異なる技術により、例えば噴霧によって塗布することができる。
【0080】
発明の利点
腐蝕抑制作用物質(B1)を有する記載された防錆油の使用により、「ブラックスポット腐蝕」の発生は、特に有効に回避させることができるかまたは少なくとも明らかに減少させることができる。更に、基油(A)および腐蝕抑制剤(B1)を含有する本発明により使用される防錆油は、変形、殊に深絞り、スリッティングおよびロール変形を顕著な潤滑性能によって補助する。更に、本発明により被覆された成形体は、問題なしに接着されることができ、この場合には、防錆油は、接着を阻止することがなく、最終的に成形体は、清浄化され、燐酸塩処理され、この場合燐酸塩処理は、燐酸塩層厚、層の均質性または結晶の大きさに関連して損なわれることはない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】作用物質(B1)の添加なしの比較試験を示す略図。
【図2】作用物質(B1)の添加を有する試験を示す略図。
【図3】常用の塩水噴霧試験における薄板の試験における、96時間の塩水噴霧試験後の作用物質(b1)なしの薄板を示す略図。
【図4】常用の塩水噴霧試験における薄板の試験における、96時間の塩水噴霧試験後の作用物質(B1)を有する薄板を示す略図。
【図5】96時間の試験時間後の市販のアルキル基燐酸エステルで被覆された薄板を用いて示す比較の目的のための写真。
【0082】
次の実施例につき本発明を詳説する。
【実施例】
【0083】
使用される防錆配合物:
次の腐蝕抑制剤(B1)を使用した:
オレイルサルコシン酸C1733−CO−N(CH3)−COOH
試験のために、次の性質を有する市販の白油を使用した:
沸点:300℃を上廻る
15℃での密度:0.887kg/l
20℃での粘度(ASTM D 445により測定した):145mm2/秒
40℃での粘度(ASTM D 445により測定した):36mm2/秒
引火点(ASTM D 92により測定した):214℃
凝固点(ASTM D 97により測定した):3℃。
腐蝕抑制剤を白油中に20質量%の濃度で溶解した。
【0084】
薄板の被覆および試験:
得られた配合物を用いて、寸法10cm×15cmを有する、亜鉛メッキ処理された鋼からなる試験薄板を1.5g/m2の量で被覆した。このために、試験薄板を精密てんびん上に置き、この配合物を精密注射器により記載された量で薄板の表面上に供給した。引続き、施こされた量を、平滑な表面および50のショアーA硬度を有するゴムローラーを用いて強力に押圧しながら金属表面上に分布させた。
【0085】
比較の目的のために、試験薄板を油(A)で腐蝕抑制剤(B1)の添加なしに被覆した。
【0086】
更に、比較の目的のために、市販のアルキル燐酸エステル(C16/C18アルキル燐酸エステル)を防錆油として使用した。このアルキル燐酸エステルを油なしに希釈剤として使用した。
【0087】
「ブラックスポット試験」
こうして調製された薄板に約0.1〜1mmの寸法の塩粒子(NaCl)を散布する。単位面積当たりの密度は、約25000個の塩粒子/m2(約250個の塩粒子/dm2)であった。引続き、この薄板を水平方向に24時間、制御された耐候室中に20℃および85%の空気湿度で貯蔵した。貯蔵後に、この薄板を洗浄し、乾燥し、および写真で評価した。
【0088】
塩水噴霧試験
更に、薄板を用いて比較の目的のために通常の塩水噴霧試験をDIN EN 9227の記載により実施し、即ち全ての金属表面を試験室中で均一に微細な塩ミストに晒した。
【0089】
結果の討論
図1は、作用物質(B1)の添加なしの比較試験を示し、図2は、作用物質(B1)の添加を有する試験を示す。「ブラックスポット」の数は、図2において明らかに少ないことが確認される。作用物質(B1)なしに防錆油で処理された薄板が約40個のブラックスポット/dm2を示し(図1参照)、本発明により処理された薄板を用いた場合には、5個未満のブラックスポット/dm2が見い出され、若干の試験薄板の場合には、むしろ0〜1個のスポット/dm2が見い出された(図2参照)。
【0090】
図3および4は、常用の塩水噴霧試験における同じ薄板の試験を示す。図3は、96時間の塩水噴霧試験後の作用物質(b1)なしの薄板を示し、図4は、作用物質(B1)を有する相応する薄板を示す。また、塩水噴霧試験において、作用物質(B1)の或る程度の効果を確認することができるが、しかし、作用物質を有する試験でも平均的な結果だけを示し、そのために作用物質(B1)は、輸送中の防錆に特に好適であるとは分級されないであろう。これとは異なり、本発明による「ブラックスポット試験」において、2つの薄板の間の相違は、極めて明らかになる。
【0091】
図5は、96時間の試験時間後の市販のアルキル基燐酸エステルで被覆された薄板を用いての比較の目的のための写真を示す。この薄板上でも既に明らかな数の「ブラックスポット」を確認することができる。全ての腐蝕抑制剤が、輸送中の防錆のための腐蝕抑制剤として等しく適しているわけではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体を製造する方法であって、この順序で少なくとも次の工程:
(1)防錆油を、亜鉛メッキ処理された鋼ストリップの表面上に0.25〜5g/m2の量で塗布し、
(2)油処理され亜鉛メッキ処理された鋼ストリップを成形体の製造の作業現場に輸送し、ならびに
(3)油処理され亜鉛メッキ処理された鋼ストリップを分離し、および変形し、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体に変えることを含み、
この場合防錆油は、
少なくとも180℃の引火点を有する少なくとも1つの油(A)50〜99.5質量%、
少なくとも1つの腐蝕抑制作用物質(B)0.5〜50質量%、ならびに
他の添加剤(C)0〜30質量%からなる配合物であり、
この場合量の記載は、それぞれ防錆油の全ての成分の全体量に対するものである、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体を製造する方法において、腐蝕抑制作用物質(B)の少なくとも1つは、一般式R1−CO−N(R2)−(CH2n−COOR3の作用物質(B1)であり、上記式中、基および係数R1、R2、R3およびnは、次の意味を有する:
1は、10〜20個の炭素原子を有する、飽和または不飽和の直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
2は、Hまたは直鎖状または分枝鎖状C1〜C4アルキル基であり、
3は、Hまたはカチオン1/m Ym+であり、この場合mは、1〜3の自然数を表わし、および
n:nは、1〜4の自然数を表わし、
但し、この場合作用物質(B1)の少なくとも0.5質量%が使用されることを特徴とする、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体を製造する方法。
【請求項2】
防錆油(A)は、鉱油である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
防錆油(A)は、20℃でASTM D 445により測定した動的粘度50〜200mm2/秒を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(3)による方法は、付加的に少なくとも次の処理工程:
(4)処理工程(3)で製造された成形体をさらなる自動車の組み立て設備に輸送することを含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(4)による方法は、付加的に少なくとも次の処理工程:
(5)成形体を別の成形体と接合し、組み立てられた成形体を形成することを含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(3)で製造された成形体は、自動車車体の部品である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(5)で製造された、組み立てられた成形体は、自動車車体である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
金属ストリップを処理工程(3)の経過中に最初に個々のストリップに分離し、清浄化し、変形前に再び記載された組成の防錆油を0.25〜3g/m2の量で施こす、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
処理工程(2)および/または(4)の輸送は、トラックまたは鉄道による輸送である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
防錆油は、次の組成:
少なくとも180℃の引火点を有する少なくとも1つの油(A)70〜90質量%、
少なくとも1つの腐蝕抑制作用物質(B1)10〜30質量%、ならびに
他の添加剤(C)0〜20質量%を有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
亜鉛メッキ処理された表面上に施こされた、防錆油の層を0.25〜5g/m2の量で含み、この場合防錆油は、
少なくとも180℃の引火点を有する少なくとも1つの油(A)70〜90質量%、
少なくとも1つの腐蝕抑制作用物質(B1)10〜30質量%、ならびに
他の添加剤(C)0〜20質量%からなる配合物であり、
この場合量の記載は、それぞれ防錆油の全ての成分の全体量に対するものである、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体において、
腐蝕抑制作用物質の少なくとも1つは、一般式R1−CO−N(R2)−(CH2n−COOR3の作用物質(B1)であり、上記式中、基および係数R1、R2、R3およびnは、次の意味を有する:
1は、10〜20個の炭素原子を有する、飽和または不飽和の直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
2は、Hまたは直鎖状または分枝鎖状C1〜C4アルキル基であり、
3は、Hまたはカチオン1/m Ym+であり、この場合mは、1〜3の自然数を表わし、および
nは、1〜4の自然数を表わすことを特徴とする、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体。
【請求項12】
当該成形体が自動車車体の部品または自動車車体である、請求項10記載の成形体。
【請求項13】
油を0.25〜5g/m2の量で成形体の表面上に塗布することによる、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の貯蔵および/または輸送の経過中に防錆するための防錆油の使用であって、この場合この防錆油は、
少なくとも180℃の引火点を有する少なくとも1つの油(A)70〜90質量%、
少なくとも1つの腐蝕抑制作用物質(B)10〜30質量%ならびに
他の添加剤(C)0〜20質量%からなる配合物であり、
この場合量の記載は、それぞれ防錆油の全ての成分の全体量に対するものである、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の貯蔵および/または輸送の経過中に防錆するための防錆油の使用において、
腐蝕抑制作用物質(B)の少なくとも1つは、一般式R1−CO−N(R2)−(CH2n−COOR3の作用物質(B1)であり、上記式中、基および係数R1、R2、R3およびnは、次の意味を有する:
1は、10〜20個の炭素原子を有する、飽和または不飽和の直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
2は、Hまたは直鎖状または分枝鎖状C1〜C4アルキル基であり、
3は、Hまたはカチオン1/m Ym+であり、この場合mは、1〜3の自然数を表わし、および
nは、1〜4の自然数を表わすことを特徴とする、片側または両側で亜鉛メッキ処理された鋼薄板からなる成形体の貯蔵および/または輸送の経過中に防錆するための防錆油の使用。
【請求項14】
成形体は、自動車車体である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
「ブラックスポット腐蝕」に抗する安定性に関連して、亜鉛メッキ処理された鋼薄板を試験する方法において、
場合によっては防錆被膜を亜鉛メッキ処理された表面上に有していてよい、試験すべき亜鉛メッキ処理された鋼薄板を水平方向に耐候室中に貯蔵し、直径0.1〜1mmの塩含有試験粒子を1000〜25000個の粒子/m2の量で散布し、したがって粒子は本質的にそれぞれ個別的に表面上に存在し、引続きこのように調製された薄板を定義された時間および温度で75〜95%の相対空気湿度で貯蔵し、試験後に試験粒子の周辺の腐蝕に関連して薄板の表面を目視的に評価することを特徴とする、「ブラックスポット腐蝕」に抗する安定性に関連して、亜鉛メッキ処理された鋼薄板を試験する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−511101(P2012−511101A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538940(P2011−538940)
【出願日】平成21年11月23日(2009.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065620
【国際公開番号】WO2010/063597
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【出願人】(511136935)フェストアルピーネ シュタール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】voestalpine Stahl GmbH
【住所又は居所原語表記】voestalpine−Strasse 3, A−4020 Linz, Austria
【Fターム(参考)】