説明

片側溶接用の抵抗溶接装置

【課題】 適宜にサポートを設置可能な片側溶接用の抵抗溶接装置の提供
【解決手段】 この片側溶接用の抵抗溶接装置10は、上下方向に進退可能に配設した溶接電極12を備え、溶接電極12の周辺部において溶接電極12の進退範囲の中間位置に、上方を向いてワークWを支持するサポート部16aを延在させたサポート部材16を備え、溶接電極12をサポート部材のサポート部16aより先に進出させ、サポート部材16を用いずに溶接電極12をワークWに押し当てることが可能な第1ポジションと、溶接電極12をサポート部材16のサポート部16aよりも後退させ、サポート部16aと溶接電極12の先端との間にワークWを配し、サポート部材16のサポート部16aをワークWの裏面に当てつつ、溶接電極12を進出させて溶接電極12をワークWに押し当てることが可能な第2ポジションを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接などの片側溶接に用いるのに適した抵抗溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車体は、多種の板厚、材質のワークを溶接しており、その溶接工法として、スポット溶接工法を多用している。通常、スポット溶接には、最も信頼性が高いダイレクトスポット溶接が行われる。ダイレクトスポット溶接は、上下の溶接電極で、金属板を重ねたワークを挟んで加圧し、溶接電極の加圧力が、あらかじめ設定しておいた加圧力に到達すると通電するものである。
【0003】
しかし、自動車ボディーの接合部においては、車両の意匠や機能上の理由から、ワークの裏面に下部電極を配設することが困難な場合もあり、上述したような通常のダイレクトスポット溶接を適用することが難しい場合がある。例えば、実開平3−121983号公報、特開平11−5561号公報に開示されているように、車体のルーフコーナー部では、ワークに下部電極を挿入するための穴を開けたものが開示されている。下部電極を挿入するには、相当の大きな穴を形成する必要があり、斯かる穴を形成すると車体の強度が低下するため、さらに補強材を取り付けて補強することが必要となる場合があり、また意匠上の制約となることもある。このため、設計上は可能であれば斯かる穴を設けることは避けたいとの要請があり、斯かる穴を設ける場合でも出来る限り小さくしている。
【0004】
通常のダイレクトスポット溶接を適用することが出来ない箇所の溶接を行う方法として、インダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接など、ワークの片側から溶接電極を押し当てて溶接する片側溶接方法も提案されている。
【0005】
インダイレクトスポット溶接は、ダイレクトスポット溶接と同様に、一箇所のスポット溶接を行うものであるが、一方の溶接電極は離れた別の位置にあり、溶接電流は被溶接物を通ってその離れた電極へと流れるようにしたものである。
【0006】
シリーズスポット溶接は、一つの溶接回路で2点のスポット溶接を行うもので、一対の溶接電極を離れた別の位置に押し当てるものであり、溶接電極を押し当てたそれぞれの位置でスポット溶接を行うものである。
【特許文献1】実開平3−121983号公報
【特許文献2】特開平11−5561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接を行う場合、溶接電極をワークの片面から押し当てるため、ワークが片持ち状態で支持されている場合など変形し易い部分では、ワークが変形する可能性がある。このような場合には、ワークの変形を最小限に抑えるため、溶接電極を押し当てる部分の裏面を支持するサポート部材をワークの裏面に配設することが望ましいが、下部電極を設置する場合と同様にサポート部材の設置が難しい場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る片側溶接用の抵抗溶接装置は、上下方向に進退可能に配設した溶接電極を備えた片側溶接用の抵抗溶接装置において、溶接電極の周辺部において溶接電極の進退範囲の中間位置に、上方を向いてワークを支持するサポート部を延在させたサポート部材を備え、溶接電極をサポート部材のサポート部より先に進出させ、サポート部材を用いずに溶接電極をワークに押し当てることが可能な第1ポジションと、溶接電極をサポート部材のサポート部よりも後退させ、サポート部と溶接電極の先端との間にワークを配し、サポート部材のサポート部をワークの裏面に当てつつ、溶接電極を進出させて溶接電極をワークに押し当てることが可能な第2ポジションを備えている。
【発明の効果】
【0009】
この抵抗溶接装置によれば、溶接電極の周辺部において溶接電極の進退範囲の中間位置に上方を向いてワークを支持するサポート部を延在させたサポート部材を備え、第1ポジションでサポート部材を用いずに溶接電極をワークに押し当てることができ、かつ、溶接電極をサポート部材のサポート部よりも後退させた第2ポジションでは、サポート部と溶接電極の先端との間にワークを配し、サポート部材のサポート部をワークの裏面に当てつつ、溶接電極を進出させて溶接電極をワークに押し当てることができる。このため、必要に応じて適宜にサポート部材をワークの裏面に配設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る片側溶接用の抵抗溶接装置を図面に基づいて説明する。
【0011】
この抵抗溶接装置10は、図1に示すように、左右一対の溶接電極11、12と、左右一対の溶接電極11、12をそれぞれ上下方向に進退可能に支持するエアシリンダ13、14と、左右のエアシリンダ13、14の間隔を調整する移動機構15と、サポート部材16とを備えている。図1中、17は溶接電極11、12に溶接電流を供給する溶接電流供給装置や、エアシリンダ13、14への給排気を制御する制御装置を内装したハウジングであり、この抵抗溶接装置10は、エアシリンダ13、14を支持する移動機構15及びサポート部材16を斯かるハウジング17に対して固定的に配設している。
【0012】
一対の溶接電極11、12は、それぞれ左右のエアシリンダ13、14に取り付けられて、上下に進退操作される。エアシリンダ13、14は、この実施形態では、ピストンロッド(図示省略)に溶接電極11、12を取り付けるガンロッド18、19を取り付けており、溶接電極11、12は斯かるガンロッド18、19の先端に取り付けている。そして、エアシリンダ13、14に空気を供給することにより、ガンロッド18、19を伸張させ、エアシリンダ13、14内の空気を開放することにより、ガンロッド18、19を後退させることができる。エアシリンダ13、14の進退は、各エアシリンダ13、14への給排気を制御する制御装置(図示省略)により、空気の供給、開放を制御して行うとよい。
【0013】
移動機構15は、図1中、右側の溶接電極11を左側の溶接電極12に対して、左右横方向に移動させる横動スライド機構21を備えている。横動スライド機構21は、横向きに配設したスライドベースに沿って右側のエアシリンダ13を左右横方向に移動させるものであり、右側のエアシリンダ13と一体的に右側の溶接電極11を移動させるものである。これにより、図1に示すように右側の溶接電極11を左側の溶接電極12に近くで横に並べた位置と、図2に示すように右側の溶接電極11を左側の溶接電極12から離れた位置に移動させることができ、左右の溶接電極11、12の間隔を所定の範囲内で自由に変えることができる。
【0014】
サポート部材16は、図1(a)(b)に示すように、左側の溶接電極12の周辺部(この実施形態では、左右の溶接電極11、12の間)に延在し、先端にフック状に屈曲したサポート部16aを備えており、抵抗溶接装置10のハウジング17に固定的に配設されている。サポート部材16のサポート部16aは、図1(a)(b)に示すように、溶接電極11、12を下方に進出させた状態では、溶接電極11、12がサポート部材16のサポート部16aより先に進出し、図3(a)(b)に示すように、溶接電極11、12を上方に後退させると溶接電極11、12がサポート部材16のサポート部16aよりも上に位置し、溶接電極11、12とサポート部16aは上下に対向し、両者の間には、ワークWを挟み得る隙間Sが形成される。
【0015】
この抵抗溶接装置10は、図1に示すように、溶接電極11、12をサポート部材16のサポート部16aより先に進出させた第1ポジションで、サポート部材16を用いずに溶接電極11、12をワークWに押し当てることができる。この第1ポジションでは、溶接電極がサポート部よりも先に進出しているので、溶接電極をワークに押し当てる際に、サポート部材が邪魔にならず、通常のインダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接などの片側溶接に用いることができる。また、図2に示すように、右側の溶接電極11を左側の溶接電極12から離れる方向に移動させることができ、溶接電極の間隔を自由に変えてインダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接を行うことができる。
【0016】
また、この抵抗溶接装置10は、図3に示すように、溶接電極11、12をサポート部材16のサポート部16aよりも後退させた第2ポジションでは、サポート部16aと溶接電極11、12の先端との隙間SにワークWの溶接部位をセットすることができる。そして、図4に示すように、サポート部材16のサポート部16aをワークWの裏面に当てつつ、溶接電極11、12を進出させて溶接電極11、12をワークWに押し当てて通電し、溶接するることができる。
【0017】
例えば、ワークが片持ち状態で支持された部位など、変形し易い部分で、ダイレクトスポット溶接が行えず、また、片側溶接を行うにしても別途サポート部材を配設することが困難な場合などに、必要に応じて適宜に第2ポジションに形態を変えて、図4に示すように、サポート部材16のサポート部16aを、ワークWの裏面に当てつつ、溶接電極11、12を進出することにより、ワークWの変形を小さく抑えた状態で溶接を行うことができる。この場合、ワークの縁を溶接する場合は問題とならないが、図4に示すように、ワークWの袋状の部位や、縁から離れた部位を溶接する場合には、サポート部16aを挿入するための穴41を設ける必要がある。しかし、サポート部材のフック状に屈曲した先端をワークの裏面に潜り込ませるだけであるから、下部電極を配設する場合に比べて、穴41はサポート部の形状に応じた小さいものでよい。このため、強度設計や意匠などの制約が緩和され、設計の自由度を向上させることができる。また、サポートを当てることにより、インダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接など片側溶接の信頼性も向上させることができる。
【0018】
また、この抵抗溶接装置10は、図4に示すように、サポート部材16のサポート部16aを、左側の溶接電極12の周辺部に位置させており、左側の溶接電極12がワークWに押し当たる部位の周辺部でワークWの裏面をサポートしている。すなわち、サポート部材16を溶接電極11、12がワークWに押し当たる部位の直下に設置させていない。これにより、左側の溶接電極12に通電させた際に溶接電極12を押し当てたワークWの溶接部分に生じる熱がサポート部材16を伝わって奪われる影響が少ない。このため、ワークWの溶接部分では良好に溶接を行うことができる。
【0019】
なお、図示は省略するが、また、この実施形態では、右側の溶接電極11を左側の溶接電極12から離れる方向に移動させることができるから、ワークWの裏面にサポートが必要な箇所には左側の溶接電極12を用い、他方、右側の溶接電極をワークの裏面にサポートが要らない適切な位置に押し当てるように用いることができ、溶接電極11、12の間隔を自由に変えてインダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接を行うことができる。
【0020】
以上、本発明の一実施形態に係る抵抗溶接装置を説明したが、本発明に係る抵抗溶接装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0021】
上述した実施形態では、一対の溶接電極を備えたものを例示したが、本発明に係る抵抗溶接装置は、溶接電極の周辺部において溶接電極の進退範囲の中間位置に、上方を向いてワークを支持するサポート部を延在させたサポート部材を備えており、上述したような第1ポジションと第2ポジションに形態を変えることができればよく、上述した実施形態の装置構成に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、サポート部材は抵抗溶接装置のハウジングに固定的に配設したものであるが、溶接電極に対して相対的に移動可能に配設してもよい。また、上述した実施形態では、一対の溶接電極のうち、一方の溶接電極の周辺部にサポート部材を設けているが、両方の溶接電極の周辺部にサポート部材を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る片側溶接用の抵抗溶接装置を示す左側面図、(b)はその正面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る片側溶接用の抵抗溶接装置において左右の溶接電極の間隔を広げた状態を示す正面図。
【図3】(a)は本発明の一実施形態に係る片側溶接用の抵抗溶接装置の第2ポジションを示す左側面図、(b)はその正面図。
【図4】(a)は本発明の一実施形態に係る片側溶接用の抵抗溶接装置の第2ポジションでの使用状態を示す左側面図、(b)はその正面図。
【符号の説明】
【0023】
10 抵抗溶接装置
11、12 溶接電極
13、14 エアシリンダ
15 移動機構
16a サポート部
16 サポート部材
17 ハウジング
18、19 ガンロッド
21 横動スライド機構
41 穴
S 隙間
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に進退可能に配設した溶接電極を備えた片側溶接用の抵抗溶接装置において、
前記溶接電極の周辺部において溶接電極の進退範囲の中間位置に、上方を向いてワークを支持するサポート部を延在させたサポート部材を備え、
前記溶接電極を前記サポート部材のサポート部より先に進出させ、サポート部材を用いずに溶接電極をワークに押し当てることが可能な第1ポジションと、
前記溶接電極を前記サポート部材のサポート部よりも後退させ、サポート部と溶接電極の先端との間にワークを配し、サポート部材のサポート部をワークの裏面に当てつつ、溶接電極を進出させて溶接電極をワークに押し当てることが可能な第2ポジションとを備えたことを特徴とする片側溶接用の抵抗溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−83301(P2007−83301A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278593(P2005−278593)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000184366)OBARA株式会社 (72)
【Fターム(参考)】