説明

片持ち軸回転電動機及びその輸送保護装置

【課題】本発明は、輸送中の振動によって保持部材への螺着部材の締め付けが緩んだ場合に保持部材の取付位置のずれを抑えることができ、回転軸を安定して保持することができる片持ち軸回転電動機及びその輸送保護装置を得ることを目的とするものである。
【解決手段】フランジ5の全内周の周縁部には、フランジ嵌合溝5cが形成されている。固定板11は、ボルト13が取付孔11bを貫通してねじ孔5bに螺着されることにより、フランジ5に取り付けられている。また、固定板11には、フランジ嵌合溝5cに挿入可能な固定板突起(凸溝)11cが、軸当接面3aの周縁部とフランジ嵌合溝5cとの間で突出するように設けられている。固定板突起11cは、フランジ嵌合溝5cに挿入されており、固定板突起11cのフランジ嵌合溝5cへの挿入により、固定板11とフランジ5とが互いに嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばエレベータの巻上機のモータに用いられ、回転軸の反駆動側の端部のみが軸受により支持されている片持ち軸回転電動機及びその輸送保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の片持ち軸回転電動機では、輸送時に、固定板及び押さえ板からなる輸送時保護装置がフランジにボルトにより取り付けられ、この輸送時保護装置によって、回転軸の反軸受側が保持される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−350416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の片持ち軸回転電動機では、ボルトが固定板に設けられた取付孔を貫通してフランジに設けられたねじ孔に螺着されることにより、固定板がフランジに取り付けられ、ボルトの締め付けにより固定板がフランジに固定されている。この取付孔の内壁の直径寸法は、ボルト軸部の外径寸法よりも大きいため、輸送中の振動によってボルトの固定板への締め付けが緩んだ場合、固定板が揺動可能となってしまうことにより固定板の取付位置にずれが生じ、回転軸を安定して保持できないことがある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、輸送中の振動によって固定板への取付部材の締め付けが緩んだ場合に固定板の取付位置のずれを抑えることができ、回転軸を安定して保持することができる片持ち軸回転電動機及びその輸送保護装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る片持ち軸回転電動機は、他機器と接続するためのフランジが設けられたケースと、ケース内に設けられた軸受と、一端部が軸受に支持され他端部がケースから突出する回転軸と、回転軸の中間部に設けられた回転子と、ケース内の回転子に対応する位置に固定された固定子とを有する電動機本体、及び取付部材の螺着によってフランジに嵌合するように取り付けられ、回転軸の他端部付近を保持するための固定板を備えている。
【発明の効果】
【0007】
この発明の片持ち軸回転電動機では、固定板がフランジに嵌合するように取り付けられているので、輸送中の振動によって固定板への取付部材の締め付けが緩んだ場合に固定板の取付位置のずれを抑えることができ、回転軸を安定して保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。
図において、電動機本体1は、ケース2と、駆動側の端部がケース2外へ突出し反駆動側の端部がケース2内に収容される回転軸3とを有している。ケース2は、円筒形の固定子枠4、固定子枠4の駆動側の端部に取り付けられたフランジ5、及び固定子枠4の反駆動側の端部に取り付けられたエンドブラケット6により構成されている。
【0009】
固定子枠4には、鉄心である固定子7が固定されている。フランジ5には、回転機器(図示せず)に当接するためのフランジ当接面5aが設けられている。ここで、エレベータの巻上機のモータに電動機本体1を適用する場合、回転機器は例えば減速機である。また、フランジ5には、回転機器に接続するための複数のねじ孔5bが設けられている。さらに、フランジ5の全内周の周縁部には、フランジ嵌合溝(凹溝、切欠溝)5cが形成されている。エンドブラケット6には、回転軸3の反駆動側の端部を支持する軸受8が取り付けられている。
【0010】
回転軸3の駆動側の端部には、回転機器へ回転力を送るためのカップリング10が設けられている。また、回転軸3の中間部の固定子7に対応する位置には、鉄心である回転子9が固定子7に対向するように設けられている。さらに、回転軸3のカップリング10と回転子9との間には、軸当接面3aが設けられている。軸当接面3aは、フランジ当接面5aを含む平面と面一に形成されている。
【0011】
フランジ5には、電動機本体1の輸送時に、輸送保護装置が取り付けられる。輸送保護装置は、フランジ5に取り付けられる固定板11と、固定板11の中間部にボルト14によって取り付けられる押さえ板12とを有している。固定板11には、U字状の第1保持溝11aが設けられている。第1保持溝11aの軸受8側の周縁部は、軸当接面3aと当接しており、回転軸3の軸方向への移動は、第1保持溝11aの軸受8側の周縁部と軸当接面3aとの当接により規制されている。
【0012】
また、固定板11の両端部には、取付部材としてのボルト13に挿通される取付孔11bが設けられている。即ち、固定板11は、ボルト13が取付孔11bを貫通してねじ孔5bに螺着されることにより、フランジ5に取り付けられている。さらに、固定板11には、フランジ嵌合溝5cに挿入可能な固定板突起(凸溝)11cが、軸当接面3aの周縁部とフランジ嵌合溝5cとの間で突出するように設けられている。固定板突起11cは、フランジ嵌合溝5cに挿入されており、固定板突起11cのフランジ嵌合溝5cへの挿入により、固定板11とフランジ5とが互いに嵌合している。従って、固定板11とフランジ5との嵌合により固定板11の長手方向への揺動が規制されている。
【0013】
押さえ板12には、第1保持溝11aと協同して回転軸3を保持するためのU字状の第2保持溝12aが設けられている。従って、第1及び第2保持溝11a,12aの組み合わせにより、回転軸3の反軸受8側が保持されており、回転軸3の径方向への移動が規制されている。
【0014】
上記のような片持ち軸回転電動機装置では、フランジと固定板とが互いに嵌合しているので、輸送中の振動によって固定板へのボルトの締め付けが緩んだ場合に固定板の取付位置のずれを抑えることができ、回転軸を安定して保持することができる。
【0015】
また、従来の片持ち軸回転電動機では、輸送中の振動によって保持部材への螺着部材の締め付けが緩んだ場合、固定板の取付位置にずれが生じることにより回転子と固定子との間の隙間を一定に保つことができず、輸送時の振動によって回転子と固定子とが接触してしまうことがある。この接触による回転子及び固定子の破損を防ぐために、従来の片持ち軸回転電動機では、回転子と固定子との間の隙間に保護材を挿入する必要があったが、上記のような片持ち軸回転電動機では、固定板へのボルトの締め付けが緩んだ場合でも回転子と固定子との間の隙間が一定となっているので、従来の片持ち軸回転電動機のような保護材を不要とすることができる。
【0016】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。図4は、実施の形態2による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。図において、実施の形態1のフランジ5では全周にフランジ嵌合溝5cが形成されていたが、実施の形態2のフランジ5では固定板11との接合領域のみにフランジ嵌合溝5cが形成されている。従って、固定板11とフランジ5との嵌合により、回転軸3の回転方向、及び固定板11の長手方向への固定板11の揺動が規制されている。他の構成は実施の形態1と同様である。
【0017】
上記のような片持ち軸回転電動機では、固定板との接合領域にだけフランジ嵌合溝がフランジに形成されていても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。これとともに、固定板とフランジとの嵌合により回転軸の回転方向への固定板の揺動が規制されているので、より安定して回転軸の反軸受側を保持することができる。
【0018】
また、固定板との接合領域のみにフランジ嵌合溝がフランジに形成されているので、フランジ嵌合溝をフランジの内周に形成するときの加工の工程を減少させることができる。
【0019】
さらに、固定板との接合領域のみにフランジ嵌合溝がフランジに形成されているので、固定板突起をフランジ嵌合溝に挿入することにより固定板の取付位置が決定され、固定板の取付位置の細かな調整が不要となり、輸送保護装置取付時の作業効率を向上させることができる。
【0020】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3について説明する。図5は、実施の形態3による片持ち軸回転電動機の一部を拡大して示す断面図である。実施の形態1のフランジ5では内周にフランジ嵌合溝5cが形成されていたが、実施の形態3のフランジ5では外周にフランジ嵌合溝5dが形成されている。また、実施の形態3の固定板11では、両端部近傍のフランジ嵌合溝5dに対応する位置に、固定板突起11dが形成されている。他の構成は実施の形態1又は実施の形態2と同様である。
【0021】
上記のような片持ち軸回転電動機では、フランジの外周にフランジ嵌合溝が形成されていても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0022】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4について説明する。図6は、実施の形態4による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。図において、実施の形態1の固定板11では円形状の取付孔11bが設けられていたが、実施の形態4の固定板11では楕円形状の取付長孔11eが設けられている。他の構成は実施の形態1と同様である。なお、図7は、実施の形態4の固定板11を実施の形態2のフランジ5に取り付けた状態を示す断面図である。
【0023】
上記のような片持ち軸回転電動機では、固定板に楕円形状の取付長孔が設けられているので、ねじ孔の位置(回転機器の取付位置)がフランジ毎に異なっていても、フランジ嵌合溝の位置と固定板突起の位置とが対応しており、かつ固定板の保持溝の幅寸法と回転軸の径寸法とが対応していれば、固定板をフランジに取り付けることができる。これにより、固定板の汎用化を図ることができ、部品の種類を削減することができる。
【0024】
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5について説明する。図8は、実施の形態5による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。図において、実施の形態1〜4の片持ち軸回転電動機では、出力側の端部がケース2の外部へ突出する回転軸3を有していたが、実施の形態5の片持ち軸回転電動機では、出力側の端部がケース2内に収納された回転軸20を有している。また、実施の形態1〜4の輸送保護装置は、固定板11と押さえ板12とにより構成されていたが、実施の形態5の輸送保護装置は、固定板21により構成されている。
【0025】
回転軸20の反軸受8側の端部には、回転機器の回転軸(図示せず)と接続するための軸継孔20aが設けられている。軸継孔20aは、回転機器の回転軸の端部に挿入される。固定板21の中間部には、弾性部材(例えばゴム)22を介して、回転軸20を保持するためのセンタ突起21aが形成されている。また、固定板21の両端部には、ボルト13に挿通される取付孔21bが設けられている。即ち、固定板21は、ボルト13が取付孔21bを貫通してねじ孔5bに螺着されることにより、フランジ5に取り付けられている。
【0026】
さらに、固定板21には、フランジ嵌合溝5cに挿入可能な固定板突起21cが設けられている。固定板突起21cは、フランジ嵌合溝5cに挿入されており、固定板突起21cのフランジ嵌合溝5cへの挿入により、固定板21とフランジ5とが互いに嵌合している。従って、固定板21とフランジ5との嵌合により固定板21の長手方向への揺動が規制されている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0027】
上記のような片持ち軸回転電動機の輸送保護装置では、回転軸がケース内に収納されている電動機本体であっても、回転軸を保持しつつ、輸送中の振動によって固定板へのボルトの締め付けが緩んだ場合に、固定板の取付位置のずれを抑えることができ、回転軸を安定して保持することができる。
【0028】
なお、この発明の片持ち軸回転電動機の輸送保護装置は、実施の形態1〜5のフランジ嵌合溝5c,5dと同等の溝がフランジの内周に形成された既設の片持ち軸回転電動機にも適用することができる。
【0029】
また、実施の形態1〜5では、フランジ5にフランジ嵌合溝5c,5dが形成され、固定板11,21に固定板突起11c,11d,21cが形成されていたが、フランジ及び固定板のそれぞれの形状は、フランジ及び固定板が互いに嵌合可能となるような形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施の形態1による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1の一部を拡大して示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3による片持ち軸回転電動機の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態4による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。
【図7】この発明の実施の形態4による固定板をこの発明の実施の形態2のフランジに取り付けた状態を示す断面図である。
【図8】この発明の実施の形態5による片持ち軸回転電動機を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 電動機本体、2 ケース、3,20 回転軸、5 フランジ、5c,5d フランジ嵌合溝、7 固定子、8 軸受、9 回転子、11,21 固定板、11c,11d,21c 固定板突起、11e 取付長孔、13 ボルト(取付部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他機器と接続するためのフランジが設けられたケースと、上記ケース内に設けられた軸受と、一端部が上記軸受に支持され他端部が上記ケースから突出する回転軸と、上記回転軸の中間部に設けられた回転子と、上記ケース内の上記回転子に対応する位置に固定された固定子とを有する電動機本体、及び
取付部材の螺着によって上記フランジに嵌合するように取り付けられ、上記回転軸の他端部付近を保持するための固定板
を備えていることを特徴とする片持ち軸回転電動機。
【請求項2】
上記フランジには、上記固定板と嵌合するためのフランジ嵌合溝が設けられており、
上記固定板には、フランジ嵌合溝に挿入可能な固定板突起が設けられており、
上記固定板は、上記固定板突起が上記フランジ嵌合溝に挿入されることにより、上記フランジに嵌合されていることを特徴とする請求項1記載の片持ち軸回転電動機。
【請求項3】
上記フランジ嵌合溝は、上記フランジの内周及び外周の少なくともいずれか一方の周縁部に形成されていることを特徴とする請求項2記載の片持ち軸回転電動機。
【請求項4】
上記フランジ嵌合溝は、上記フランジの全周に形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の片持ち軸回転電動機。
【請求項5】
上記フランジ嵌合溝は、上記フランジの上記固定板と接合する領域に形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の片持ち軸回転電動機。
【請求項6】
上記固定板の両端部には、上記取付部材に挿通される楕円形状の取付長孔が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の片持ち軸回転電動機。
【請求項7】
他機器と接続するためのフランジが設けられたケースと、上記ケース内に設けられた軸受と、一端部が上記軸受に支持され他端部が上記ケースから突出する回転軸と、上記回転軸の中間部に設けられた回転子と、上記ケース内の上記回転子に対応する位置に固定された固定子とを有する片持ち軸回転電動機の輸送時に取り付けられる片持ち軸回転電動機の輸送保護装置であって、
取付部材の螺着によって上記フランジに嵌合するように取り付けられ、上記回転軸の他端部付近を保持するための固定板
を備えていることを特徴とする片持ち軸回転電動機の輸送保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−325449(P2007−325449A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154469(P2006−154469)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】