説明

物体の状態検出装置および方法

【課題】検出対象空間内に配置されたRFIDタグから発生する電界強度を受信機によりRFIDタグごとに識別しつつ測定し、物体の状態を把握するための装置および方法を提供する。
【解決手段】装置は、物体が特定の状態にある時に占有する空間の近傍に設置されたm個(m>=1)の電磁界発生手段と、前記m個の電磁界発生手段から発生する電界強度を電磁界発生手段ごとに識別しつつ測定するn個(n>=1)の電界強度測定手段と、m×n個の電界強度の時系列データから特徴を計算する特徴抽出手段と、前記特徴と学習用の各状態における特徴データから統計処理により状態を識別する状態識別手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、検出対象空間内に配置された送信機から発生する電界強度を受信機により送信機ごとに識別しつつ測定し、物体つまり人や物などの状態を把握するための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency IDentificationの略)は、ID情報を埋め込んだタグから、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの、およびその技術全般を指す。
【0003】
特に我が国では、高齢社会の到来に伴い、RFID技術を福祉、防犯の分野へ適用しようという機運が高まっている。たとえば、病院において、医療スタッフ、患者、医療機器、医薬品にRFIDタグを装着させ、各所に配置したアンテナにより人や物の所在情報をLANなどのネットワーク経由で収集し、サーバによって集中管理することにより、医療スタッフが効率的に活動できるような情報支援を実現したり、また刑務所においては受刑者の所在管理に利用することが検討されている。
【0004】
またさらに、RFIDタグに各種センサーを搭載し、人にそのRFIDタグを装着させて、人や物の特定状態および異常状態を検出してその情報を伝送し、収集した情報の処理によって、よりきめ細やかなサービスを実現することも考えられる。
【0005】
しかしながら、福祉、防犯の分野においては、後述するように、監視が必要とされている場所はサービスを受けるべき人々の私的空間であることが多く、そうした空間において人は装置を装着することを忌み嫌う。また、装着を忘れるということもある。仮に刑務所の受刑者に装着させるとしても、自分の状態を知られたくない行為を行うものは装着した振りをするかもしれない。以下で具体例を取り上げる。
【0006】
高齢者が脳疾患や心疾患になり倒れる場所は、風呂場、トイレ、脱衣所が圧倒的に多いという統計があり、発見が早ければ早いほど適切な処置を講じ、後遺症を大幅に緩和する医療技術が存在する。このような閉鎖されていて、第3者による早期の発見が困難である高齢者以外は存在しない特定の空間において、倒れて動けないという状態を検出して、なるべく早く介護責任を負う者に知らせることが必要とされている。
【0007】
特許文献1に記されているように、介護ホームでは、離床在床を把握するために、各病室内に設置されたベッド上に患者が居るか居ないか、すなわち、入院患者がベッド上で就寝しているか、それともベッドを離脱して徘徊しているか等を把握する必要上、看護婦が病室やベッドの巡回を行っている。しかしながら、入院患者の全てのベッドを絶え間無く巡回することは不可能である。ここでは、ベッドの上という特定の空間において、高齢者が存在しないという状態を検出して、なるべく早く介護責任を負う者に知らせる機能が必要とされている。
【0008】
また、防犯面では、介護ホームにおける、暴力、金品の強奪など、高齢者の認知障害につけこんだ悪行が表面化してきている。これに対処するには、ベッド周辺における異常な動きを記録し、その時居合わせた人物を撮影しておくことが必要である。しかしながら、室内にカメラを置くと高齢者又は保護者は嫌がるので、室外に設置しておく必要がある。つまりは、ベッドの周辺という特定の空間において、高齢者の動きが異常であることを検出した直後に部屋から出てきた人物を撮影して、問題を起こす人物を記録、特定することが必要とされている。
【0009】
企業においては、産業スパイなど、社内に潜入している情報収集者の行動が問題になっている。パソコンからデータを盗んで技術情報を外国企業に漏洩した事件が報道されて話題になったが、このような原始的な方法が何度にも渡って繰り返され、情報の盗難が行われている。これを防ぐために、従業員にRFIDタグを持たせて、個々人のブースにアンテナを設置し、自分のブース以外の場所に他のIDを持つ者が侵入する時は撮影するなどして記録しておくことが提案されている。しかしながら、悪意を持つ者が自らのIDを装着したままそのような活動は行うことはない。つまりはIDを持たぬ者も含めて、そのブースの担当者ではない第3者が存在することを検知して、記録することが必要とされている。
【0010】
上記のように、福祉、防犯の分野では、検出対象にセンサーやRFIDタグを装着させるよりもむしろ、問題が発生する空間にセンサー付きRFIDタグを設置して情報収集する方が適切な場合が非常に多い。この時、問題発生個所が複数個所に分布することが多いのでセンサーが広範囲な空間を監視できるかあるいは、複数個所それぞれに1個のセンサーを割り当て、センサー自体の機能を最小限にとどめてコストを抑制することが望ましい。
【0011】
ネットワークカメラは、人体に装着せず、環境に設置することで人や物の状態を検出し、情報を送信する機能を持つセンサーである。人が倒れていたり、暴力を受けているなどの状態を判別可能な情報を得ることができるが、単純な状態を検出するために莫大な情報量が使用されることになり、これの情報伝送コストと、情報処理コストが大きいという欠点がある。また、私的な空間にカメラを設置することはプライバシー問題との関係も考慮しなければならない。
【0012】
集電型赤外線センサーはプライバシーを確保しつつ、カメラ同様、非接触で人や物の状態を収集でき、情報量はコンパクトで情報処理コストも軽微であるが、湯気や埃や汚れに弱く、誤信号を乱発することが知られている。
【0013】
自動ドアの起動スイッチなどに利用されるドップラレーダは湯気や埃や汚れによる誤動作がなく、存在検知をする機能には十分であるが、設置が大掛かりである。特許文献2では設置の大掛かりさやコスト面を克服したドップラレーダ型センサーとして錠制御装置が提案されている。しかしながら、ドップラレーダ型のセンサーはドップラー効果による周波数の変移を観測することで、位置だけではなく観測対象の移動速度を観測する事の出来るレーダーであり、上述したような静止状態を検出するには不要な機能がある分だけ、1個あたりのコストが大きくなるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−151209号公報
【特許文献2】特開2004−226089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
カメラを用いず、埃や汚れによる誤作動がなく、人や物が特定の状態にあることを検出するためには、触手たる電波センサー搭載型RFIDを該当空間に配置することが望ましい。1個あたりのセンサーコストを小さく抑えるには、ドップラレーダ機能は装備せずに、RFIDタグのID情報がのっている電波そのものの強度変化を利用して、センサー機能を引き出すことが必要となる。そこで、本発明は、検出対象空間内に配置されたRFIDタグから発生する電界強度を受信機によりRFIDタグごとに識別しつつ測定し、物体の状態を把握するための装置および方法を提供することをとしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、物体が特定の状態にある時に占有する空間の近傍に設置されたm個(m>=1)の電磁界発生手段と、
前記m個の電磁界発生手段から発生する電界強度を電磁界発生手段ごとに識別しつつ測定するn個(n>=1)の電界強度測定手段と、
m×n個の電界強度の時系列データから特徴を計算する特徴抽出手段と、
前記特徴と学習用の各状態における特徴データから統計処理により状態を識別する状態識別手段と
を備えている、ことを特徴とする物体の状態検出装置を提供する。
【0017】
第2には、前記電磁界発生手段は、蓄積界の空間分布の制御のためのアンテナ構造を有する、ことを特徴とする前記物体の状態検出装置を提供する。
【0018】
第3には、前記電磁界発生手段は、物体が近傍に存在することで電磁界の自由空間への放射効率が変化する、ことを特徴とする前記物体の状態検出装置を提供する。
【0019】
第4には、前記電界強度測定手段は、電磁界発生手段から発生する電磁場が物体の存在によって変化する様子を区別して測定できるようにn個配置される、ことを特徴とする前記物体の状態検出装置を提供する。
【0020】
第5には、前記特徴抽出手段は、空間が静止状態である時の各m×n個の電界強度の値をm×n要素のベクトルデータとする、ことを特徴とする前記物体の状態検出装置を提供する。
【0021】
第6には、前記状態識別手段は、学習用に収集した各静止状態の特徴データからm×n個のデータそれぞれに対して電界強度の上限値と下限値を学習し、入力特徴データが前記電界強度の上限値と下限値の間にあることで状態を識別する、ことを特徴とする前記物体の状態検出装置を提供する。
【0022】
第7には、前記状態識別手段による状態識別に従ってアラーム処理を実行する、ことを特徴とする物体の状態検出装置を提供する。
【0023】
第8には、前記空間の撮影データを前記状態識別手段による状態識別に従って処理する、ことを特徴とする物体の状態検出装置を提供する。
【0024】
また、本発明は、上記の課題を解決するものとして、さらに、第9には、物体が特定の状態にある時に占有する空間の近傍にm個(m>=1)の送信機を設置し、
前記m個の送信機から発生する電界強度をn個(n>=1)の受信機により送信機ごとに識別しつつ測定し、
m×n個の電界強度の時系列データから特徴を計算し、
前記特徴と学習用の各状態における特徴データから統計処理により状態を識別する、
ことを特徴とする物体の状態検出方法を提供する。
【0025】
第10には、前記送信機は、蓄積界の空間分布の制御のためのアンテナ構造を有する、ことを特徴とする前記物体の状態検出方法を提供する。
【0026】
第11には、前記送信機は、物体が近傍に存在することで電磁界の自由空間への放射効率が変化する、ことを特徴とする前記物体の状態検出方法を提供する。
【0027】
第12には、前記受信機は、前記送信機から発生する電磁場が物体の存在によって変化する様子を区別して測定できるようにn個配置される、ことを特徴とする前記物体の状態検出方法を提供する。
【0028】
第13には、前記特徴計算処理は、空間が静止状態である時の各m×n個の電界強度の値をm×n要素のベクトルデータとする、ことを特徴とする前記物体の状態検出方法を提供する。
【0029】
第14には、前記状態識別処理は、学習用に収集した各静止状態の特徴データからm×n個のデータそれぞれに対して電界強度の上限値と下限値を学習し、入力特徴データが前記電界強度の上限値と下限値の間にあることで状態を識別する、ことを特徴とする前記物体の状態検出方法を提供する。
【0030】
第15には、前記状態識別に従ってアラーム処理を実行する、ことを特徴とする物体の状態検出方法を提供する。
【0031】
第16には、前記空間の撮影データを前記状態識別に従って処理する、ことを特徴とする物体の状態検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、人にセンサーを携帯させることなく、環境に設置したRFIDタグのみを用いて、RFIDタグの近傍で人が特定の状態に陥ったことを検出することが可能となる。
【0033】
本発明によれば、特にトイレや洗面所などでRFIDタグを床付近に設置することにより、人が床に倒れた状態を検出することが可能になる。
【0034】
本発明によれば、オフィスにおける個人のブース内にRFIDタグを机上に設置し、さらにその机の持ち主にRFIDタグを持たせることにより、本人のIDが検出されている時は何もせず、本人のIDが検出されなくなり(本人不在になる)かつ、机上に設置したRFIDの電界強度が異常値を示した時、撮影・警報・通報などのトリガーとすることが可能となる。
【0035】
本発明によれば、ベッドの裏面にRFIDタグを添付することにより、離床しているか在床しているかの判断をすることが可能になり、かつ、在床中の高齢者の動きに異常があるかないかを記録し、たとえば高齢者が暴力を受けている可能性を暴くこと等が可能になる。この時、本人、又は保護者の同意を得て撮影し、証拠を残しておくことも可能である。
【0036】
本発明によれば、非接触で容器内の液体の静動をリアルタイムで監視し、異常状態を報知することが可能になる。
【0037】
本発明によれば、非接触で電線等の電気的ノイズをリアルタイムで監視し、電気製品の異常動作を記録、通報することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の物体の特定の状態を検出する装置および方法の概略模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の物体の状態を検出する装置および方法を転倒者の検出に適用した時の設置状況の概略である。
【図3】タグのアンテナ構造について説明するための図である。
【図4A】本発明の第1の実施の形態の電界強度値の変動の一例を、洗面所内部での人の行動と合わせて、タグ及びアンテナの具体的設置状況とともに示した図である。
【図4B】本発明の第1の実施の形態の電界強度値の変動の一例を、洗面所内部での人の行動と合わせて、タグ及びアンテナの具体的設置状況とともに示した図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の物体の状態検出装置および方法の動作を示すフロー図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の物体の状態検出装置の特徴抽出手段による電界強度のヒストグラムである。
【図7】本発明の第2の実施の形態の物体の状態検出装置および方法を離床・在床状態の検出に応用した時の設置状況の概略である。
【図8】本発明の第2の実施の形態の物体の状態検出装置および方法のタグとアンテナの具体的設置状況である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の物体の状態検出装置および方法により、二枚のRFIDタグの電界強度の変化を被験者の姿勢に変化させて測定した結果である。
【図10】本発明の第2の実施の形態の物体の状態検出装置および方法で電界強度の変化を一晩測定した結果である。
【図11】本発明の第2の実施の形態の物体の状態検出装置および方法の動作を示すフロー図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態の物体の状態検出装置および方法を個人的空間の監視に応用した時の設置状況の概略である。
【図13】本発明の第3の実施の形態の物体の状態検出装置および方法を個人的空間の監視に応用した時の具体的設置状況である。
【図14】本発明の第3の実施の形態の物体の状態検出装置および方法により、個人ブース内で測定された電界強度の乖離率とカメラによる侵入者記録結果とを比較した図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態の物体の状態検出装置および方法により、ベランダ内で測定された電界強度の変化と画素変化記録カメラによる侵入者記録結果とを比較した図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態の物体の状態検出装置および方法を利用した、侵入者映像の効率的保存方法および分析方法を示したフロー図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態の物体の状態検出装置および方法を液体タンクの漏洩の監視に応用した時の設置状況の概略である。
【図18】本発明の第4の実施の形態の物体の状態検出装置および方法により、風呂場の浴槽の上に設置したRFIDタグの電界強度の変化(上段)と、図5のフローのステップS3の10秒間の変動率(中段)と、人体の影響を取り除いた後の電界強度の変化(下段)を示した図である。
【図19】本発明の第5の実施の形態の物体の状態検出装置および方法を電気系統および測定装置類の異常の監視に応用した時の設置状況の概略である。
【図20】本発明の第5の実施の形態の物体の状態検出装置および方法により、コンセント近傍に設置したRFIDタグの電界強度の変化(上図)と、図5のフローのステップS6の乖離率の絶対値(下図)を示した図である。
【図21】本発明の第6の実施の形態におけるRFIDタグの放射特性を示した図であり、(a)はタグを水平にしたときの水平成分検波、(b)はタグを水平にしたときの垂直成分検波、(c)はタグを垂直にしたときの水平成分検波、(d)はタグを垂直にしたときの垂直成分検波である。
【図22】本発明の第6の実施の形態におけるRFIDタグ及びタグリーダの設置空間について説明するための図。
【図23】本発明の第6の実施の形態におけるRFIDタグ及びタグリーダが設置される洗面所の構成材料の概略について説明するための図。
【図24】本発明の第6の実施の形態におけるRFIDタグ及びタグリーダの洗面所内配置について説明するための図。
【図25】本発明の第6の実施の形態における洗面所内の転倒状態について説明するための図。
【図26】本発明の第6の実施の形態における電界強度の時間変化と電界強度値の出現頻度を示す図。
【図27】本発明の第6の実施の形態における無人状態時の電界強度からの乖離率を示す図。
【図28】本発明の第6の実施の形態における運動状態を含めた電界強度の時間変化と電界強度値の出現頻度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態の物体の状態検出装置および方法について、図面を参照しながら説明する。
【0040】
図1は本発明の第1の実施形態において、物体が特定空間を大きく占めることによってその状態が特定できることを活用した、物体の特定の状態を検出する装置および方法の概略模式図を示すものである。特定空間1の近傍にID情報付き電磁界発生手段2を少なくとも一つ設置する。ID情報付き電磁界発生手段2の電界強度をIDごとに識別しつつ測定するための電界強度測定手段4を少なくとも一つ設置する。電界強度測定手段4は情報送受信手段5を介して、情報蓄積手段6に接続されている。情報蓄積手段6には特徴抽出手段7、状態判別手段8が内蔵されている。状態判別手段8は情報送信手段9を介して対処手段10に接続されている。特徴抽出手段7が使用する特徴情報は予め別途に与える他に、特徴情報を自動学習させてもよい。このために、自動学習用のID情報付き電磁界発生手段3を新たに用意し、このID情報を電界強度測定手段4が取得している間だけ、特徴抽出手段7は特徴情報を自動的に追加学習する。
【0041】
今、たとえば洗面所内で人が倒れて動けなくなったとき、ID情報付き電磁界発生手段2の中の一つで、床付近に設置した電磁界発生手段2から発生した電磁界のIDを電界強度測定手段4が検出し、情報蓄積手段6に収集されたID付き電界強度情報に対して特徴抽出手段7が働き、状態判別手段8が転倒状態を検出し、対処手段10に信号を送信する。
【0042】
図2はその具体的な設置状態を示す図であって、便器や洗面台が配置されている洗面所を一例として図示しており、ID情報付き電磁界発生手段2は人が転倒した状態で占めると予測される空間の近傍に少なくとも1個設置する。電界強度測定手段4は電磁界発生手段2の電界強度を測定可能な範囲内に設置し、有利には被検出空間を電磁界発生手段2と電界強度測定手段4で挟む形で設置する。情報蓄積手段6、特徴抽出手段7、状態判別手段8、送信手段9、対処手段10は、特定空間1の近傍に設置する必要はなく、ナースセンターや制御盤室や情報管理者の机といった離れた空間に設置することもできる。
【0043】
この場合において、たとえば、ID情報付き電磁界発生手段2はアクティブ型RFIDタグであるが、この近傍で人や物が特定の状態にある場合に電磁界の放出効率が劇的に変化するように設計、工夫されることが望ましい。これには、図3(a)に例示したように、通常のアクティブ型タグの設計指針である、電磁界を効率的に自由空間に放射するために、自由空間とのインピーダンス整合を行うためのアンテナ構造を採用するのではなく、むしろ、図3(b)に例示したように、自由空間とのインピーダンス整合を完全には行わず、蓄積界と呼ばれる近傍界の分布状態を制御して、タグ近傍の物体の影響で電磁界の放射効率が激変するようなアンテナ構造を採用する必要がある。電界強度測定手段4はタグリーダであるが、情報送受信手段5であるシリアルケーブル、または有線・無線LANまたはPLC等を通じて、情報蓄積手段6と接続されていて、測定したIDの電界強度情報を情報蓄積手段6のリクエストに応じて送信する。
【0044】
対処手段10はカメラによる証拠撮影、ランプや音声による連続もしくは断続的な発報、パソコンモニター上へのアラーム表示が考えられるが、その具体的方式については特に限定されるものではない。また、パソコンモニター上へのアラーム表示をする場合には、情報送受信手段5、特徴抽出手段7、状態判別手段8、送信手段9、対処手段10すべてが同一パソコン内にあっても構わない。
【0045】
図4Aおよび図4Bは電界強度測定手段4が出力する電界強度値の変動の一例を洗面所内部での人の行動と合わせて示したものである。ここで、同図右にタグと電磁界発生手段及び電界強度測定手段の正確な配置も合わせて示した。本図からわかるように、洗面所内に人が不在でかつ水の動きが無い時、電界強度の値はほぼ一定の値である。また、洗面所内に人がいても静止状態である時、電界強度はほぼ一定の値をとる。トイレの水を流している間は、トイレの貯水槽に設置したタグ4E15が大きな電界強度の変動を見せているが、その他の洗面台下位置であって床付近の壁に設置された(図2も参照)タグ4E1F、洗面所の向かって左奥下位置であって床付近の壁に設置された(図2も参照)のタグ4E20は大きな変化は見せていない。洗面台側に倒れた時、洗面台下に設置したタグ4E1Fの電界強度は他の状態に比べて下方へ逸脱している。また、洗濯機側に倒れた場合、左奥下に設置したタグ4E20の電界強度は他の状態に比べて大きく下方へ逸脱している。これらの事実は、タグの近くに人や水が存在することによって、アンテナで十分識別可能な程度にタグが形成する電磁場を変化させていることを示している。
【0046】
従って、たとえば、洗面台下に設置したタグ4E1Fについては、正常な状態の電界強度の範囲を180以上と設定し、静止状態の電界強度の揺らぎを5以下と設定することにより、この範囲から逸脱してかつ、揺らぎがたとえば5以下となった時、洗面台下付近で倒れて動けなくなっているということが精度よく判定できる。また、洗面所左奥に設置したタグ4E20についても、正常な状態の電界強度の範囲を160以上と設定し、静止状態の揺らぎを5以下と設定することにより、この範囲から逸脱してかつ、揺らぎがたとえば5以下となった時、洗面所左側に倒れて動けなくなっているということが精度よく判定できる。勿論、これらの閾値は図4A、Bの場合における一例であり、適宜適切な値に設定することが望まれる。
【0047】
図5は転倒者検出システムの基本的な動作の一例を示すものである。
【0048】
0:特定空間1の近傍に設置された電磁界発生装置2(RFIDタグ)は、周期的に(例えば1秒に1回)固有のID情報をASKやFSKを使用して変調電磁波として発生させ、一方、電界強度測定手段4は、電磁波をIDごとに識別しつつ測定し続ける。
【0049】
1:情報蓄積手段6を含有するパソコン等において、監視したい空間に配置したRFIDタグの数Nを設定し、N個のタグの無人状態の電界強度とその揺らぎ、通常状態の無人状態からの最大乖離率の初期値を設定する(ステップS0)。
【0050】
2:1秒スリープしてから、異常状態検出フラグをオフ(DANGER = 0)に設定し、ステップS0で登録したRFIDタグのうち、最初のタグ番号に対応する番号0を変数Iにセットする(ステップS1)。
【0051】
3:情報蓄積手段6を含有するパソコンは、タグIの学習用に用意された電磁界発生手段3に相当する学習用RFIDタグIの電界強度が電界強度測定手段4で測定できているか確認し(ステップS2)、測定できている場合には学習モードをオン(LEARN = 1)にする。学習用タグの電界強度が測定出来ていない場合には学習モードをオフ(LEARN = 0)にする。
【0052】
4:情報蓄積手段6はタグIの電界強度値を電界強度測定手段4から取得し、電界強度値の一定期間(ここでは10秒)の変動量を算出し、ステップS0で設定した無人状態の電界強度とその揺らぎ幅、通常状態(人は存在するが異常状態は発生していない状態)の無人状態からの最大乖離率の初期値を読みだす(ステップS3)。
【0053】
5:静止状態の判定をする(ステップS4)。具体的には、電界強度値の10秒の変動量が予め設定した幅より小さければ、特徴抽出手段7が静止状態であると判定する(ステップS4)。
【0054】
6:静止状態と判定されなかった場合、変数Iに次のタグ番号をいれてステップS2に戻る。
【0055】
7:静止状態と判定された場合、異常状態の判別をする(ステップS5)。具体的には、状態判別手段8により、予め学習していた無人状態の電界強度値からの乖離率を計算し、予め学習してあった通常状態の無人状態からの最大乖離率と比較し、これを上回っている時、異常状態と判定する(ステップS5)。
【0056】
8:異常状態と判定されなかった場合、変数Iに次のタグ番号をいれてステップS2に戻る。
【0057】
9:異常状態と判定された場合、学習モードであるか否かの判定をする(ステップS6)。
【0058】
10:学習モードである(LEARN == 1)場合、最大乖離率の初期値を今回の値に更新し(ステップS7)、変数Iに次のタグ番号をいれてステップS2に戻る。学習モードでない(LEARN == 0)場合、警報状態をオンにして警報フラグを立て(ステップS8)、変数Iに次のタグ番号をいれてステップS2に戻る。警報状態とは、個別廊下灯の点滅、および、管理センターの個別灯を点滅させる、また、警報アラームを発生させるなどの危険状態を報知する状態ならば何でもよい(ステップS8)。
【0059】
11:前記手順3−10までをステップS0で登録したすべての環境タグについて行い、警報フラグがオン(DANGER == 1)になっていなければ、危険な状態から脱したと解釈して警報アラームをオフ状態にする(ステップS9)。
【0060】
12:再び前記手順2を始める。これにより、1秒に1回、N個のタグの情報を取得する。
【0061】
以上の機能は、集中管理システム用のコンピュータで行ってもよいが、マイクロコンピュータを電界強度測定手段4の回路に内蔵させてもよく、高精度にかつ自動で転倒者の存在を検知でき、かつ、警報を発する事が出来る。
【0062】
次に、上述した特長抽出手段7および状態判別手段8の具体的な方法について説明する。
【0063】
例えば、図2に示すように洗面所の床付近にRIFDタグを設置して、その電界強度を常時測定している場合、洗面所に人がいない時、一定期間内(例えば10秒)の電界強度の上限値と下限値の幅は小さな値、S(例えば4)以下になる。すなわち電界強度値Eは以下のような式で表される。
(式1) E_low(無人) < E < E_high(無人)
(式2) E_high(無人) - E_low(無人) ≦ S
洗面所に人が存在し、動いている時、一定期間内(例えば10秒)の電界強度の上限値と下限値の幅はS(例えば4)より大きくなる。すなわち電界強度値Eは以下のような式で表される。
(式3) E_low(在人、有動) < E < E_high(在人、有動)
(式4) E_high(在人、有動) - E_low(在人、有動) > S
洗面所に人が存在し、動かなくなった時、一定期間内(例えば10秒)の電界強度の上限値と下限値の幅はS(例えば4)以下である。すなわち電界強度値Eは以下のような式で表される。
(式5) E_low(在人、無動) < E < E_high(在人、無動)
(式6) E_high(在人、無動) - E_low(在人、無動) ≦ S
式1、2、5、6からわかるように、一定期間内(例えば10秒)の電界強度の上限値と下限値の幅がS(例えば4)以下の時、人が動いていないと判定できる。以上のように、静止状態を抽出することができる。
【0064】
いま、式5の静止状態の電界強度を E とし、式1の無人状態の電界強度の平均値Eav を基準として、乖離率を以下の式で定義する。
(式7) Edev = |E/Eav - 1 |
人が床のタグから離れた場所で動かない状態(例えば便座に座っている状態とか、洗面台の前で歯を磨いている状態など)にある場合には、式7の乖離率は小さい傾向にある。これに対し、人が床のタグの近くで動かない状態(つまりは床に倒れて動けない状態)にある場合、式7の乖離率は大きくなる。この乖離率の差が大きくなるようにタグとアンテナの設計、配置を適切にすることによって、通常状態と危険状態の判定が可能になる。
【0065】
図2および図4A右に示すように、洗面所においてタグとタグリーダーの位置関係を床付近でかつ、人が倒れた状態がその間になるように設置した時の電界強度を測定した結果が図4Aの左側図である。この電界強度の時系列変化から特徴抽出手段7(つまりは式1、5)によって静止状態を切り出し、ヒストグラムとして見てみると図6(a)、(b)のようになる。ここで、横軸は電界強度値、縦軸は出現回数を示している。
【0066】
本図(a)からわかるように、洗面台側の床近くに設置したタグの電界強度値は、洗面台側に転倒した静止状態とそれ以外の静止状態で明確に区別ができた。すなわち、本発明によるRFIDタグシステムに基づく物体状態検出によれば、静止状態に対してRFIDタグの電界強度がヒストグラム上で特徴域を持つこと、閉空間内においては転倒による静止状態の特徴域とその他の静止状態の特徴域が識別可能になるタグ配置が存在することを積極的に活用することにより、環境に設置したRFIDタグとタグリーダーのみで、人体にセンサ等を取り付けることなく転倒状態の明確な検出が可能になる。また、人体そのものが電波のマルチパルに影響を及ぼすことを積極的に活用するため、人の動きや状態の変化と連動してRFIDタグの発信電波を遮蔽する手段を別途用意する必要がない。
【0067】
測定結果についてさらに説明すると、図4Aの左上図から、Eav = 202 であり、洗面台に倒れた時の電界強度値が E = 170 であるから、乖離率は Edev ≒ 16 %である。この洗面台側に倒れた状態以外の状態での最大乖離率は E = 192 の時に Edev ≒ 5 %である。よって、この例では、通常状態の最大乖離率を例えば10 %に設定しておけば十分に転倒状態との区別をつけることができる。また、図6(b)からわかるように、洗面所左奥の床近くに設置したタグの電界強度値についても洗濯機側に転倒して静止した状態とそれ以外の静止状態で明確に区別ができた。この時、図4Aの左下図から、Eav = 179 であり、洗濯機側に倒れた時の電界強度値が E = 150 であるから、乖離率は Edev ≒ 16 %である。この洗濯機側に倒れた状態以外の状態での最大乖離率は E = 165 の時にEdev ≒ 8 %である。よって、この例でも、通常状態の最大乖離率を例えば10%に設定しておけば十分に転倒状態との区別をつけることができる。
【0068】
上述の転倒状態検知において、各洗面所の転倒状態信号に合わせて、中央管理システム側で転倒場所を表示させることにより、遠隔状態で要介護者等の転倒状態を検出することができ、この方法によれば、常時見回りをする必要がなく、複数の人の介護を行う人々への負担を軽減することができる。
【0069】
なお、実施の形態1の適用場所は洗面所に限られたものではなく、人が倒れていてすぐに発見してもらえる可能性が低い閉鎖空間であればどこにでも応用可能である。
【0070】
本発明によれば、各静止状態に対応した特徴域がヒストグラム上に存在し、その特徴域の幅が運動状態時と比較して非常に小さくなり、さらに、RFIDタグの配置関係によって各特徴域が大きく分離するため、この特徴域の分離を利用して転倒状態を明確に検出することができる。
(実施の形態2)
本発明の第2の実施の形態の物体の状態検出装置および方法について、図面を参照しながら説明する。
【0071】
図7はその具体的な設置状態を示す図であって、図2で床近傍に設置していたID情報付き電磁界発生手段2をベッド、あるいは布団の下に少なくとも1個設置する。電界強度測定手段4は電磁界発生手段2の電界強度が測定可能な範囲内に設置し、有利には被検出空間を電磁界発生手段2と電界強度測定手段4で挟む形で設置する。ベッド下に設置する電磁界発生手段とは別に、介護スタッフ用にID情報付き電磁界発生手段3を用意する。情報蓄積手段6、特徴抽出手段7、状態判別手段8、送信手段9、対処手段10は、特定空間1の近傍に設置する必要はなく、ナースセンターや制御盤室や情報管理者の机といった離れた空間に設置することもできる。
【0072】
今、徘徊などを知るために、離床状態を検出したいとする。この場合、式1、2の状態がすべてのタグについて検出された時、高齢者が離床したと判断できる。また、図8に示すようにRFIDタグの位置を左右に並べておくことで、在床中の状態をある程度把握することができる。さらに、高齢者が大きく動き続けている状態を式3、4でSの値を大きめにとることにより抽出できるので、この状態の継続時間をカウントし、長時間に渡って大きく変動し続けている場合を検出し、高齢者が発作を起こしている、第3者に虐待を受けているなどの異常な動きを検出することが可能となる。
【0073】
図9は八畳間の畳の上に2枚のRFIDタグを設置し、その上に普通の布団を敷き、電界強度の変動を1m程度離れた棚の上に設置したタグリーダーで測定したものである。ここで、被験者は図9下に示すように、00:40〜00:43まで布団の左側に寄った姿勢をとり、00:43〜00:46まで布団の中央に仰向けの姿勢をとり、00:46〜00:49まで布団の右側に寄った姿勢をとり、00:49〜00:52まで離床した。図9の上図は右側に設置したタグ(4E1F)の電界強度の無人状態からの乖離率の変化式7を示したものであり、被験者が当該タグに覆いかぶさっている仰向けの状態と右に寄った状態の時に10 %を超える下方への乖離を示していることがわかる。図9上から二番目の図は左側に設置したタグ(B049)の電界強度の無人状態からの乖離率の変化式7を示したものであり、被験者が当該タグに覆いかぶさっている仰向けの状態と左に寄った状態の時に10 %を超える下方への乖離を示していることがわかる。
【0074】
タグに覆いかぶさると下方に大きく乖離することに着目して、かつ、上方へ乖離を無視する。左のタグの乖離率の大きさから右のタグの乖離率大きさを引くと、左にいるとプラスになり、右にいるとマイナスになり、中央にいるとゼロ付近になるという指標ができる。また、ベッド上に人体が存在する時、ベッドに設置したタグは5%以上の乖離することに着目する。左のタグの乖離率の絶対値と右のタグの乖離率の絶対値を加算すると、合計値が 5 %を下回っていると離床しているという指標ができる。さらに、人体がベッド上で動くと、電界強度が既存のアンテナで計測可能な程度に変化することに着目する。過去10秒間の電界強度の平均値を算出し、その平均値からの乖離を計算し、例えば5ポイントを越えるた時、カウントし、そのカウントが20を越えた時、激しい動きが20期間継続しているとして、ベッド上での被験者が通常の範囲を越えてバタバタし続けている状態を表す指標ができる。
【0075】
図9の上から3番目の図は上記指標を示したものである。実線がベッドのどの位置にいるかを示しており、マイナス側が左、プラス側が右にいることを示している。□記号は離床している状態を示している。○記号は異常状態が継続している状態を示している。ここでは、異常状態の継続はないため、○記号は出ていない。本図からわかるように、被験者が左、中央、右、不在の状態が非常に明確である。
【0076】
図10は本実験を一晩続けたものである。上から順番に右側のタグの乖離率、左側のタグの乖離率、左のタグの乖離率から右のタグの乖離率を引いたもの(ただしプラスの乖離は0とおく)を示している。先ほどと同様に、最下図には離床状態を□記号、異常継続状態○記号として示している。本最下図からわかるように、実験開始時は入床していないので離床信号である□記号が出ている。入床時に大きな動きが継続したため、異常継続状態信号である○記号が出ている。左に寄った姿勢をとり続けるも、すぐには寝付けずに細かな動きを繰り返し、02:00前に中央にいる姿勢(おそらく仰向け)になり、細かな動きを止めて寝入り、途中、03:00近くで動きながらも安定的に眠り続け、朝方に近づくにつれて動きが活発になり、05:00過ぎに異常継続状態信号を出し、06:00前に離床している。ここでは、異常継続状態の閾値を5ポイントに、継続時間を20秒に設定した。暴力、発作等ではより激しい動きでかつ継続時間が長くなることが考えられる。このパラメータは抽出したい動作に応じて変更可能であるため、睡眠障害等の把握も可能となる。
【0077】
図11は上記離床・在床状態検出システムの基本的な動作の一例を示すものである。
【0078】
0:特定空間1近傍(床と敷布団の間、仰向けの姿勢時に左右の肩甲骨の下にあたる地点)に設置された二つの電磁界発生装置2(RFIDタグ)は周期的に(例えば1秒に1回)固有のID情報をASKやFSKを使用して変調電磁波として発生させ、電界強度測定手段4によりIDごとに識別しつつ測定し続ける。電磁界発生手段3は介護スタッフのネームプレート等に装着され、これもまた周期的に(例えば1秒に1回)固有のID情報をASKやFSKを使用して変調電磁波として発生させ、電界強度測定手段4によりIDごとに識別しつつ測定し続ける。ただし、電磁界発生手段3は特定空間1の近傍に固定されているわけではないので測定できない場合がほとんどであり、現場にスタッフが近づいた時だけ測定可能になる。
【0079】
1:情報蓄積手段6を含有するパソコン等において、特定空間1近傍に左右に配置した二つのRFIDタグの無人状態の電界強度とその揺らぎ幅、異常状態継続時間の上限値、異常状態検出フラグをオフ(DANGER = 0)に設定する(ステップS0)。
【0080】
2:1秒スリープ(ステップS1)。
【0081】
3:情報蓄積手段6を含有するパソコンは、スタッフに装着された電磁界発生手段3(RFIDタグ)が電界強度測定手段4で測定できているか確認し(ステップS2)、測定できている場合には警報状態をオフにして(これでサイレン等が止む)、警報フラグを初期化(DANGER = 0)する(ステップS3)。介護スタッフ用のタグの電界強度が測定出来ていない場合には警報モードを前状態のまま維持する。
【0082】
4:情報蓄積手段6を含有するパソコンは、二つの電磁界発生装置2(左右のRFIDタグ)の電界強度値を電界強度測定手段4から取得し、それぞれの電界強度値の一定期間(ここでは10秒)平均値と変動量を算出し、ステップS0で設定したそれぞれのタグの無人状態の電界強度とその揺らぎ幅を読み出し、無人状態からの乖離率を計算する(ステップS4)。
【0083】
5:離床状態の判定をする(ステップS5)。具体的には、左右両方のタグの電界強度値の10秒の変動量が予め設定した幅より小さければ、特徴抽出手段7が離床状態であると判定する(ステップS5)。
【0084】
6:離床状態と判定された場合、警報状態をオンにして、ステップS1に戻る。ここでの警報状態とは、個別廊下灯の点滅、および、管理センターの個別灯を点滅させる、また、警報アラームを発生させるなどの離床場所を報知する機能ならば何でもよい(ステップS6)。この状態を解消するためには、現場にスタッフが行く必要がある(ステップS3)。
【0085】
7:離床状態と判定されなかった場合、異常状態の判定をする(ステップS7)。具体的には、状態判別手段8により過去10秒の電界強度値の変動量が二つのタグうちどうちらか一方でも揺らぎ幅の設定値を上回っている場合、異常状態と判定する(ステップS7)。
【0086】
8:異常状態と判定された場合、警報フラグに1を加算する(ステップS8)。
【0087】
9:異常状態と判定されなかった場合、警報フラグを初期化する(ステップS9)。
【0088】
10:集中管理室のモニター等に就寝位置、就寝状態の表示を行う(ステップS10)。
【0089】
11:危険状態の判定を行う(ステップS11)。具体的には、異常状態フラグが予め設定した値(今回は20秒)を越えた時、危険状態と判定する(ステップS11)。
【0090】
12:危険状態と判定された場合、警報状態をオンにする。ここでの警報状態とは、個別廊下灯の点滅、および、管理センターの個別灯を点滅させる、また、警報アラームを発生させるなどの危険状態の発生場所を報知する機能ならば何でもよい。また、危険な状態が起こった日時を記録し、事後の措置に必要な証拠を残す(ステップS12)。
【0091】
13:危険状態と判定されなかった場合、再び前記手順2を始める。これにより、1秒に1回、の看視が実現する。
【0092】
以上の機能は、集中管理システム用のコンピュータで行ってもよいが、マイクロコンピュータを電界強度測定手段4の回路に内蔵させてもよく、高精度にかつ自動で離床・在床の状態を検知でき、かつ、然るべき状態に応じて警報を発する事が出来る。
【0093】
このように、離床、在床の判定はもちろんのこと、在床中の姿勢や動きをリアルタイムで把握することが可能である。そして、これの実現にあたっては、RFIDタグを2枚、布団の下に貼るだけである。被験者にゴテゴテとした計測器を装着する必要なく、加重センサーが備えられたベッドのように特殊なベッドを用意する必要もない。当然のことながら、中央管理システム側で離床状態、異常な動きの継続状態が起きている場所を表示させることにより、遠隔状態で要介護者等の危険状態を検出することができ、この方法によれば、常時見回りをする必要がなく、複数の人の介護を行う人々への負担を軽減することができる。さらには、高齢者等の危険状態の頻度、暴力行為の抽出などが可能となり、より人間らしい介護環境のあり方を考え直すための重要なツールとなる。
(実施の形態3)
上記実施形態2のシステムは、図12のように個人的空間に少なくとも一つのID情報付き電磁界発生手段2を設置すれば、部屋の内部の状態を遠隔で常時監視することに応用できる。この場合、たとえば介護スタッフ等の個人に持たせる電磁界発生手段3は個人的空間の持ち主に持たせるようにする。こうすることで、個人的空間の持ち主でない者が、他人の空間内で行う行為をリアルタイムで監視、記録することが可能になる。何故なら、持ち主IDを持つ者が空間内にいる時は異常状態とはせず、本人不在の時だけ、警報手段を発動して空間内の動きを記録するからである。
【0094】
図13は本システムを企業内の個人ブースに適用した時のアンテナ、タグ、カメラの配置を示したものである。タグは卓上カレンダーの裏に添付し、アンテナはブース後方ポリバケツの中に設置し、カメラはカップラーメンの中に設置した。危険状態の定義は図11のステップS0において LIM = 0 秒とし、無人状態の電界強度を177、その揺らぎ幅を±8%とした。すなわち、個人ブースの持ち主が不在の状態で、ブース内において1秒でも電界強度が大きく変動すれば、危険状態と判定した。
【0095】
図14は本システムのプロトタイプをある特定の日時にて稼動させた際の電界強度の乖離率とカメラによる侵入者記録結果とを比較した一例である。乖離率は前記式(7)に従った。この図14に示すようにある時間帯に危険状態のシグナルが出ていた。この時間帯に記録された映像を解析したところ、ブースの戸口で中の様子を伺っている場面が数多く見られたが、電界強度の逸脱は起こっていなかったのに対し、不審者がブースの内部に侵入した時のみ、危険状態信号が出ていた。
【0096】
以上の結果から、本システムは、侵入者の状態検知に非常に有効であることがわかる。また、防犯カメラなどの事後解析を劇的に効率化できる。何故ならば、カメラで撮影した映像を解析するには、どこで侵入が起きたかは、実際にその場面を再生するまでわからないため、無関係な部分まで一通り見なければならないからである。
【0097】
また、このような全時間の記録方式では事件と無関係な映像の比率が圧倒的に多いため、記憶媒体の無駄遣いである。実際、パソコンのハードディスクを数日で使いきってしまう。これを防ぐために、フレームの一部分を指定して、画素の変化から侵入情報を検出し、侵入イベントの前後のタイムフレームを切り出して保存することも有用である。
【0098】
これによれば、本システムからの危険信号が出ていない時間帯の映像を自動削除していく単純な機能を付加するだけで、不審者侵入の記録のみを残し、事後解析を早め、記憶媒体を効率的に使用することが可能となる。
【0099】
図15は、上記の画素変化記録カメラをマンションのベランダに設置し、RFIDタグをベランダの柵の内側に設置した時の実験結果であり、カメラが自動撮影した時刻と本願システムの出力の結果を比較している。ここで、上、下図はそれぞれ、異なる日の実験結果であり、上図は人がベランダで不審な行動を演じた時の実験結果であり、下図は猫がベランダに偶然侵入した時の実験結果である。図14では乖離率が8%以上の信号のみを記録していたが、今回の実験では、すべての信号を記録しておいた。
【0100】
図15に記述したように、カメラには、車のライトや外を歩いている人のような侵入者以外の映像が記録されている。これに対し、上述したとおりの本システムによる信号は、正確に物体(猫および人)の侵入状態の時だけ、乖離率が大きくなっている。また、人と猫に対する反応を比較すると、人の方が乖離率に比べて非常に大きく、長期間継続している。これは猫がベランダを通過しただけであるのに対し、人は不審行動(覗き)を演じたためである。このように、変動の継続時間に着目することによって、検知対象の意図を分析することも可能である。
【0101】
図15に例示した日は、気候が穏やかで、画素変化記録カメラに記録された事象が比較的少ない事例である。風が強い日の実験結果では、侵入者数はゼロであるにもかかわらず、草木が常時揺れて、画素変化記録カメラに記録された映像は50件を超えた。このような悪天候時にも、本システムの信号は反応せず、侵入者に対してのみ大きな反応することが確認された。
【0102】
図16は、上記システムを利用した侵入者検知分析の概要をまとめたものである。上記システムを利用することで、危険信号、つまり所定の乖離率を超える信号が得られた時のみの侵入者映像をカメラ画像・映像から切り出して残すことが可能になり、記憶容量の劇的な節約が可能になる。また、侵入者抽出のための映像分析作業の大幅な効率化が可能になる。この切出し及び記録等の処理はたとえば前述の図12における対処手段10により実行することができる。
(実施の形態4)
上記実施形態1のシステムは、図17のように液体を入れた容器の外側に少なくとも一つのID情報付き電磁界発生手段2を設置し、図5のフローにおいては、ステップS3にて短期変動量(例えば10秒変動量)Evolaの他に、新たな長期変動量(例えば1分変動量)Elongを求めておき、ステップS5の条件文をElong > Estillに置き換えると、容器内の液体の状態を遠隔で常時監視することに応用できる。容器内の液体の動きが、表面に貼ったRFIDタグで把握できる証拠は、図4の上から2番目の図で示したトイレの貯水タンクの表側に貼ったRFIDタグの電界強度の測定結果である。本図からわかるように、トイレの貯水タンクの水を流した時、電界強度が水位に応じて大きく変化している。ここで、重要な点は、タグとアンテナと移動した物体(水)の位置関係である。多くの他の手法では電波を遮蔽することで状態を把握することを提案しているが、ここでの位置関係は「アンテナ-タグ-移動物体」という順番であり、移動物体はアンテナ-タグ間の電波を遮蔽しているわけではない。タグ(発信機)の近傍に誘電体があることで放射効率そのものに影響を与え、このような電界強度の変化を引き起こしている。これは、農業向けや生活向けの貯水タンク、水族館などの水槽、生簀、燃料タンクなどからの液体の漏洩をリアルタイムで検知することに利用できる。
【0103】
図18は、RFIDタグを浴槽の外側に一枚貼り付けた時の電界強度の変化と、浴槽内の水位の変化を比較したものである。左右の図はそれぞれ異なる日時の実験結果を示しており、再現性を見るために掲載した。上段の図では、風呂の水位を確認するために実験開始00:00から05:00まで頻繁に浴室に人が入っているので、人体の侵入による電界強度の急激な変化が記録されていることがわかる。中段の図では、図5のフローのステップS3による10秒間の変動率の計算結果が示されおり、人が浴室に入った時に10秒間の変動率が大きくなっていることが確認できる。下段の図では、図5のステップS3の結果を受けて、人体による短期的動きを取り除いた結果が示されている。本図から確認できるように、別々の日時に測定した結果がほぼ一致している。この下段のデータを用いて長期変動量Elongを算出することができる。今、期間を60秒に設定すると、1分の変動が抽出でき、人体の動きなどによる急激な変化に影響されずにゆっくりとした変動が抽出可能になる。
【0104】
水かさの変化は数時間経過しないとわからないほどゆっくりとした水漏れであったため、目視による水漏れの確認は非常に困難であったが、本願1分のデータをみることによって水漏れを捕らえることができる。この漏れはパッキンの老朽化によるものであった。このように、本願発明を用いることで、人には気が付くことが困難な僅かな液体の漏洩を数分の観測で発見することが可能となる。
(実施の形態5)
上記実施形態1のシステムは、図19のようにコンセントや電気配線の近傍に少なくとも一つのID情報付き電磁界発生手段2を設置し、図5のフローにおいては、ステップS3にて短期変動量(例えば10秒変動量)Evolaの他に、新たな長期変動量(例えば1時間変動量)Elongを求めておき、ステップS5の条件文をElong > Estillに置き換えると、電気配線が共通する測定装置の電気的な異常を遠隔で常時監視することに応用できる。
【0105】
図20は、RFIDタグをコンセントおよびハブの近傍にそれぞれ一枚貼り付けた時の電界強度の変化(上図)と、その定常値からの乖離率(下図)を示したものである。ここで、下図の乖離率のグラフの中に、比較のために、別途用意し同時期に稼動させていた本願発明のものとは別の電磁場計測装置による計測時間帯を矢印で、および異常計測値が得られた時間帯を○印で示している。1回8時間の測定を20回行ったところ、20回の測定で異常値が含まれていたのは9回であった。本図からわかるように、コンセント近傍に貼ったタグの電界強度は、通常は3%以下の乖離率であるが、人の出入りが無いにもかかわらず、5%以上の乖離率、さらには10%以上もの乖離を起こすことがある。さらに、この乖離が生じている間、別途の電磁場測定装置による計測値に異常な測定結果が得られることがわかった。より具体的には、乖離率が5%を超えた時に異常値○が計測されている。また、研究所内のその他の装置の暴走の時期もこの乖離の時期に一致していた。このことから、本願、物体の状態検出方法を用いることで、非接触で電線等の電気的ノイズをリアルタイムで監視し、電気製品の異常動作を記録、通報することが可能になる。
(実施の形態6)
ここで更なる一例について説明する。この一例にて用いたRFIDタグ及びタグリーダの仕様を表1及び表2に示す。RFIDタグはボタン電池のバッテリケースとその周辺回路が電波を出すアンテナになっている。タグリーダはホイップ型アンテナを2本使用してダイバーシティ受信を行う。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
図21は上記仕様のRFIDタグの放射特性を示す。図21(a)は、タグを同図中央のようにバッテリケースが右側になるようにターンテーブルの上に設置、15度ずつ回転させて、1m離れた場所にある水平にしたダイポールアンテナで水平成分の放射特性を測定したものである。ここに、測定結果は極座標で表示して、半径方向座標の0から1の範囲にある黒丸が測定値であり、実線で結んだ。全測定値の最大値で規格化してある。本図からわかるように、放射電力の水平成分は前後の指向性を有し、横方向にはほとんど放射していない。図21(b)は、同様に垂直成分を測定した結果であるが、全方向にわたってほとんど放射していない。図21(c)は、タグを同図中央のようにバッテリケースが下になるようにターンテーブルの上に設置、同様に水平成分を測定した結果であるが、全方向にわたってほとんど放射していない。図21(d)は、同様に垂直成分を測定した結果であるが、全方向にほぼ等しく大きな電力を出している。
【0109】
このタグはもともと、首から下げて使用することを想定したものであり、遠くにいても検出しやすいように、縦型の状態で水平方向への電波の飛びがよく設計されている。また、垂直偏波だけが強いため、タグとタグリーダの位置関係が変化すると、両者の距離に反比例した電界強度値が得られない。さらには、タグやタグリーダを人体や壁に添付することによって、指向性が大きく変化するとも考えられる。なお、全周囲が反射の大きな材料で囲まれている場合には、従来、多重反射の影響でその放射特性は自由空間の放射特性から大きく逸脱することが知られている。しかしながら、閉空間において人の姿勢の違いによって引き起こされる電界強度の変化をみる上では、これらの点はボトルネックにならず、逆に有効になる。
【0110】
図22に示した間取りを持つ環境下にて、上記RFIDタグとタグリーダを閉空間である洗面所に設置し、データ取得パソコンを机の上に設置した。洗面所に設置されていた洗濯機の外皮は金属製であり、洗面所に隣接するバスルームは内部にも金属製の材質が使用されていた。バスルームのドアは枠組み以外は非金属であった。
【0111】
洗面所の構成材料の概略は図23の通りである。このような散乱源が多い環境下では、従来、多重反射の効果による通信容量の増大や回折限界を超えた電磁波の局在化が示唆されている。
【0112】
図24はRFIDタグとタグリーダの配置を示す。設置に当たっては生活空間への影響をなるべく小さくするように配慮して、部屋の隅や縁に装置を設置することにした。ここに、12枚のタグは洗面所の内側の壁の床から2cm上の部分に電池(兼アンテナ)が壁に向かって右側になるように両面テープで貼り付けた(図24右上の拡大図参照)。タグの横方向の配置関係は部屋の左右のコーナーから20cmの位置にそれぞれ1枚ずつ添付した後でその中間地点にもう一枚タグを添付した。よって同じ壁の面内にあるタグ同士の間隔は約50[cm]である。タグリーダは一台だけ使用した。まず、図24の1から5の位置まで数字の順にタグリーダの位置を換えて電界強度を測定した。
【0113】
図25と表3は、想定した洗面所における静止状態を例示したものである。これらの図及び表の転倒状態1, 2, 3, 4, 5を他の静止状態0, 6, 7, 8, 9から識別して転倒状態を検出する。ここではまず、静止状態0, 6と転倒状態1, 2, 3, 4, 5の識別について説明する。
【0114】
【表3】

【0115】
RFIDタグとタグリーダを固定配置した後は、1つの静止状態に対して30秒間の電界強度測定を行い、12個のRFIDタグのデータを2秒に1回タグリーダから取得し、1個のタグ当たり15個以下のデータを得た。ここで、データが15個以下になるのは、静止状態から静止状態に姿勢を変化させる際に大きく乱れた電界強度データを取り除いたためである。すなわち運動状態の電界強度をフィルタで除去した。
【0116】
図26はタグリーダを図25の1に設置した時のタグACA9の電界強度の時間変化を示したものである。ここに、黒丸が測定値を示し、その測定値の頻度を表すヒストグラム図が右方に同時に示されている。ここでは、身長177cmの人物が表3の姿勢0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 0の順に静止状態を30秒程度保ち、素早く次の姿勢をとった。なお、運動時の電界強度の乱れは除去してある。本図からわかるように、すべての静止状態はほぼ一定の電界強度値をとっている。ヒストグラムからも確認できるように、各状態に対応するピーク値の±2の範囲内に電界強度が収まっている。なお、状態2の時だけゆらぎが5と大きめであるが、これは30秒を測るためのストップウォッチをみるために腕を僅かに動かしたことによるものと推定される。さらに、本図からわかるように、転倒状態2, 3, 4, 5は、通常の状態0, 6から10%も低い値で安定しているので、閾値を設定することで容易に転倒状態2, 3, 4, 5を検出できる。
【0117】
特に、静止状態がほぼ一定の電界強度をとるという性質は、一つの例外もなく、すべてのタグについて確認できた。
【0118】
以下では、静止状態に対応したヒストグラム上のピークを電界強度の安定値と呼び、その安定値から揺らぎ幅を特徴域と呼ぶことにする。
【0119】
洗面所のような閉空間では、無人状態である比率が高いので、装置を十分に長い期間設置しておくと、無人状態の電界強度が最も多くカウントされる。ここでは、この無人状態の安定値を基準値と考え、乖離率Eを次式で定義する。
【0120】
E = 100 × (Ei/E0 - 1)
ここに、Eiは表3の姿勢i=1, 2, 3, 4, 5, 6の時にタグリーダで測定された1分間の電界強度の安定値、E0は無人状態i=0の電界強度の安定値である。先ほどの図26で言えば、状態0, 1, 6の乖離率は10%より低く、状態2, 3, 4, 5の乖離率は10%以上である。つまり、このタグのデータによれば、乖離率を10%に設定することで、少なくとも転倒状態2, 3, 4, 5を検出できるということになる。
【0121】
以上のことを12枚すべてのタグについて調べた結果、まず、タグリーダの位置が図24の1にある場合、
・タグABC0は乖離率が-10%以下で転倒状態2, 3, 4, 5を検出する(便座着席状態の乖離率は-3%)
・タグACA9は乖離率が-10%以下で転倒状態1, 2, 3, 4を検出する(便座着席状態の乖離率は+2%)
ことがわかった。つまり、2枚のタグを用いれば転倒状態を便座着席状態と区別して検出できる。
【0122】
図27は、5種類の設置位置(図24)に対する12枚のタグの電界強度の乖離率を6種類の静止状態(表3)に対して示したものである。図を一つのタグリーダに関してみるには、行を見ることとする。また、各タグに関してみるには、列をみることとする。各列には静止状態1, 2, 3, 4, 5, 6の順に乖離率が棒グラフとして示されている。転倒状態1, 2, 3, 4, 5は黒塗りの棒グラフ、着席状態6は白抜きの棒グラフである。これらは、0に近いほど無人状態の電界強度に近いことを示している。白の棒グラフが小さく、黒の棒グラフが大きいほど、あるいは、黒の棒グラフと白の棒グラフの向きが上下反対であれば、着席状態と転倒状態との判別がつけ易いということを表している。
【0123】
本図からわかるように、転倒状態と通常状態の乖離率のコントラストが大きくなるのは、タグリーダの位置が図5の1, 4, 5にある時、すなわち、金属壁の近傍にある時である。また、タグの枚数を増加させると、タグリーダの位置が1から5まですべての位置で転倒状態を識別可能である。さらに、乖離率が大きくなるようなタグとタグリーダと転倒物体との位置関係は、必ずしも、発信機と受信機を結ぶ直線状に転倒物体が存在していない。特に注目したい点は、発信機、受信機間に転倒物体があっても電波は遮蔽されず、逆にエンハンスされていることである。
【0124】
図28上図は運動状態を含めた電界強度の時間変化とそのヒストグラムを示している。ここでは複数の被験者に好き勝手に振舞ってもらい洗面所で一人きりになった時に一度だけ洗面台に向かって倒れるように指示した。図中に示されたコメントは乖離率が-10%を超えた時間帯である。タグの設置位置は図5のタグACA9の位置、タグリーダの設置位置は図1の位置である。上図をみるとわかるように、全部で14回の時間帯にて-10%の電界強度である180を切った。転倒した回数は1回であるから、転倒検知成功率は1/14=0.07である。また、ヒストグラムをみてわかるように、特徴域が重なって状態の分離が確認出来なくなっている。このように、運動状態には乖離率-10%を超える状態が非常に多く含まれている。
【0125】
ここで、転倒して動けない状態は、静止状態であることに着目する。静止状態の電界強度の性質は、ある期間にわたって安定値と特徴域を持つということである。今、静止状態のゆらぎ幅を5とし、動けない状態が10秒続くと危険状態であるということにする。このパラメータは、現場の状況に応じて決定するものであるが、今回の転倒の実演で10秒程度しか転倒していなかったため、このような短い値にした。この条件式は以下のように表すことができる。
【0126】
max[E(t)] - min[E(t)] < 5
ただし_tは時刻t0を基準として
t0-10 < t ≦ t0
を満たす過去10秒間の時刻を示し、max、minはそれぞれ10秒間の電界強度の最大値、最小値をとるものとする。
【0127】
図28下図は、同上図に上記条件式を新たに課したものである。本図から確認できるように、転倒状態のみを検出できている。また、ヒストグラムからわかるように転倒状態の特徴域だけその他の状態と分離されている。
【0128】
以上からわかるように、転倒状態を検出するためには、上記条件式により静止状態を抽出し、乖離率の閾値を-10%に設定すればよい。ただし、タグとタグリーダの配置、枚数は閉空間のサイズ、閉空間を構成する材質に依存し、乖離率の閾値も適切なものに設定する必要があるが、ここで述べた手順に従えば比較的短時間にそのような配置や閾値を決定することができる。特に間取りが同じ部屋が多数存在する介護施設や病院では、1回のキャリブレーションで多数の部屋における設置位置を決定できる可能性が高い。また、無人状態の特徴域を自動学習し、上記条件式の否定から運動状態を検出すれば、転倒状態のキャリブレーションが不要であるため、金庫等の閉所空間での不審者検出や廊下や通路での動体検出を現場で即座に構築できると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体が特定の状態にある時に占有する空間の近傍に設置されたm個(m>=1)の電磁界発生手段と、
前記m個の電磁界発生手段から発生する電界強度を電磁界発生手段ごとに識別しつつ測定するn個(n>=1)の電界強度測定手段と、
m×n個の電界強度の時系列データから特徴を計算する特徴抽出手段と、
前記特徴と学習用の各状態における特徴データから統計処理により状態を識別する状態識別手段と
を備えている、ことを特徴とする物体の状態検出装置。
【請求項2】
前記電磁界発生手段は、蓄積界の空間分布の制御のためのアンテナ構造を有する、ことを特徴とする請求項1記載の物体の状態検出装置。
【請求項3】
前記電磁界発生手段は、物体が近傍に存在することで電磁界の自由空間への放射効率が変化する、ことを特徴とする請求項1または2記載の物体の状態検出装置。
【請求項4】
前記電界強度測定手段は、電磁界発生手段から発生する電磁場が物体の存在によって変化する様子を区別して測定できるようにn個配置される、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の物体の状態検出装置。
【請求項5】
前記特徴抽出手段は、空間が静止状態である時の各m×n個の電界強度の値をm×n要素のベクトルデータとする、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の物体の状態検出装置。
【請求項6】
前記状態識別手段は、学習用に収集した各静止状態の特徴データからm×n個のデータそれぞれに対して電界強度の上限値と下限値を学習し、入力特徴データが前記電界強度の上限値と下限値の間にあることで状態を識別する、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の物体の状態検出装置。
【請求項7】
前記状態識別手段による状態識別に従ってアラーム処理を実行する、請求項1ないし6のいずれかに記載の物体の状態検出装置。
【請求項8】
前記空間の撮影データを前記状態識別手段による状態識別に従って処理する、請求項1ないし7のいずれかに記載の物体の状態検出装置。
【請求項9】
物体が特定の状態にある時に占有する空間の近傍にm個(m>=1)の送信機を設置し、
前記m個の送信機から発生する電界強度をn個(n>=1)の受信機により送信機ごとに識別しつつ測定し、
m×n個の電界強度の時系列データから特徴を計算し、
前記特徴と学習用の各状態における特徴データから統計処理により状態を識別する、
ことを特徴とする物体の状態検出方法。
【請求項10】
前記送信機は、蓄積界の空間分布の制御のためのアンテナ構造を有する、ことを特徴とする請求項9記載の物体の状態検出方法。
【請求項11】
前記送信機は、物体が近傍に存在することで電磁界の自由空間への放射効率が変化する、ことを特徴とする請求項9または10に記載の物体の状態検出方法。
【請求項12】
前記受信機は、前記送信機から発生する電磁場が物体の存在によって変化する様子を区別して測定できるようにn個配置される、ことを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の物体の状態検出方法。
【請求項13】
前記特徴計算処理は、空間が静止状態である時の各m×n個の電界強度の値をm×n要素のベクトルデータとする、ことを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載の物体の状態検出方法。
【請求項14】
前記状態識別処理は、学習用に収集した各静止状態の特徴データからm×n個のデータそれぞれに対して電界強度の上限値と下限値を学習し、入力特徴データが前記電界強度の上限値と下限値の間にあることで状態を識別する、ことを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の物体の状態検出方法。
【請求項15】
前記状態識別に従ってアラーム処理を実行する、請求項9ないし14のいずれかに記載の物体の状態検出方法。
【請求項16】
前記空間の撮影データを前記状態識別に従って処理する、請求項9ないし15のいずれかに記載の物体の状態検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2009−288239(P2009−288239A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109983(P2009−109983)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 情報処理学会研究報告 2008−UBI−20[ユビキタスコンピューティングシステム](学術刊行物 情処研報 Vol.2008,No.110 ISSN 0919−6072)のコピー(表紙、奥付ページ、目次、該当ページ)各1
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】