説明

物体センサ

【課題】 物体センサにおいて容易にアンテナのグランド面へのみ導通させる接地手段を設けることができる積層構造とし、不要電波を抑制する。
【解決手段】
表面上(L1面上)に給電素子と、前記給電素子に励振信号を印加する伝送線路とが形成され、裏面上(L2面上)に第一グランド面が形成され、前記給電素子に設けられた1以上の接地点を前記第一グランド面に接続する接地手段とを備えたアンテナと、表面上(L3面上)に前記アンテナへ電波を供給する発振器と、前記アンテナで受信した反射波に基づいて、物体の存在又は動きを検出する検波部とが形成され、裏面上(L4面上)に第二グランド面が形成された発振回路とを備え、前記アンテナの裏面第一グランドと前記発振回路の第二グランドとを接合樹脂によってホットプレスし、積層構造基板を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波又はそれより高い周波数の電波を送信するマイクロストリップアンテナに代表されるような電波送信アンテナに関し、特に、アンテナから発信される電波を制御するための技術に関する。
【0002】
本発明はまた、アンテナと発振回路を積層した物体センサに関する。
【背景技術】
【0003】
従来より、誘電体基板の表面に薄膜状の1又は複数のアンテナ素子を配置し、そのアンテナ素子に発振回路からマイクロ波のような高周波信号を印加することによって、アンテナ電極から電波を発信させるマイクロストリップアンテナが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。また、マイクロストリップアンテナから電波を放射し、その電波が物体に当たって反射してくる電波を受信することで、物体を検知したりするための高周波センサも知られている。
【0004】
発振回路は、アンテナ素子を励振するための所望周波数の高周波(以下、基本波という)を生成するが、その際、基本波と同時に不要な高調波が生成される。特に二次と三次の高調波は、無視できない程度のパワーをもつので、これらを抑制する方策が必要である。従来の装置は、発振回路とアンテナを接続する伝送線路に、又は発振回路に、フィルタ回路を設け、フィルタ回路で不要な二次や三次高調波を反射させることで、アンテナから高調波が放射されることを抑制している。
【0005】
【特許文献1】特開平7−128435号公報
【特許文献2】特開平9−214238号公報
【特許文献3】特開平9−297174号公報
【特許文献4】特開2003−142919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に基板を積層する場合は、コア材の両面にグランドを設け、スルーホールを作成して導通させた後にコア材を挟むように接合樹脂を配置し、更に接合樹脂の外側に銅箔を設けてホットプレスにて積層し、エッチングにて発振回路とアンテナを形成していた。
そのため、アンテナの給電素子に配置した接地手段を形成する際には基板積層後に貫通スルーホールを作成する又はレーザ等によりコア材のグランドまで穴加工して導通させなければならなかった。貫通スルーホールを作成すると発振回路面に接地手段が形成されるために発振回路の作成面積が制約されてしまう為、自由に配線できなくなる。また、レーザ等で加工する場合は、加工が複雑になりコストが向上してしまう。さらに、発振回路及びアンテナは接合樹脂によって形成される為プレスの条件や温度設定によって各々の基板厚が製造毎にばらつき、インピーダンス整合が成立するのが困難であったため、伝送線路で形成した不要電波を抑制するフィルタの特性も変動する恐れがあった。
【0007】
従って、本発明の目的は、物体センサのアンテナにおいて容易にアンテナのグランド面へのみ導通させる接地手段を設けることができる積層構造とし、不要電波を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はアンテナと発振回路を備えた物体センサにおいて、表面上(L1面上)に電波送信及び受信用の給電素子と給電素子に励振信号を印加する伝送線路を形成し、裏面上(L2面上)に第一グランド面が形成されたアンテナと、表面上(L3面上)に前記アンテナへ電波を供給する発振器と、物体の存在又は動きを検出する検波部とが形成され、裏面(L4面)に第二グランド面が形成された発振回路とを備え、アンテナの第一グランドと発振回路の第二グランドとを接合樹脂によってホットプレスした4層構造基板である。
【0009】
本積層構造によると、アンテナと発振回路を別の両面板にて作成し、お互いを接合樹脂で接着し積層するため、アンテナの給電素子に配置される接地手段は積層前の両面板の際に穴加工により形成され、特殊加工を必要としない。また、アンテナの厚みを確実に確保できため、基本波の電力の安定した放射と不要電波の放射の低減が可能となる。
【0010】
本発明の一つの側面に従う電波送信アンテナは、誘電体材料製の基板と、基板上に形成された給電素子と、給電素子に励振信号を印加する伝送線路と、給電素子における1以上の接地点をグランドレベルに接続する接地手段とを備える。そして、給電素子上の励振信号のn(nは2以上の所定の整数)次高調波の電流振幅値が最大値でない領域内に、前記接地点が配置される。
【0011】
この電波送信アンテナによると、励振信号に含まれる不要なn次高調波の放射パワーを給電素子で低下させることができる。すなわち、給電素子上のn次高調波の電流振幅値が最大値でない領域内に、グランドレベルに接続される接地点を設けることにより、n次高調波の放射パワーが低減されるのである。したがって、励振信号を発生する発振回路内、或いは、発振回路と給電素子とを接続する伝送線路上などに、n次高調波を低減するためのフィルタ回路を設けなくてもよい。そのようなフィルタ回路を設けない場合、発振回路にて生成された基本波をアンテナまで効率良く伝達することができ、また、電波送信アンテナや発振回路などを含めた全体的なサイズを小型化することができる。
【0012】
n次高調波の放射パワーを効果的に低減するために、好ましくは、給電素子におけるn次高調波の電流振幅値が最小値である箇所又はその箇所の近傍の領域内に、接地点を配置することができる。より具体的にいうと、好ましくは、n次高調波の基板上での波長をλgnで表した場合、給電素子におけるn次高調波の励振方向に交差する終端縁からλgn/2−λgn/6以上、λgn/2+λgn/6以下の距離範囲内に、接地点を配置することができる。特に好ましくは、前記終端縁からλgn/2−λgn/12以上、λgn/2+λgn/12以下の距離範囲内に、接地点を配置することができる。
【0013】
通常、問題となる高調波は二次高調波と三次高調波である。二次と三次の双方の高調波の放射パワーを低減するためには、給電素子における二次高調波と三次高調波の双方の電流振幅値が最大値でない領域内に、接地点を配置することができる。好ましくは、給電素子における二次高調波と三次高調波の双方の電流振幅値が最小値である箇所又はその箇所の近傍の領域内に、接地点を配置することができる。より具体的にいうと、好ましくは、励振信号の二次と三次の高調波の基板上での波長をλg2とλg3でそれぞれ表した場合、給電素子における二次高調波の励振方向に交差する終端縁からλg2/2−λg2/6以上、λg2/2+λg2/6以下の距離範囲内であって、且つ、給電素子における三次高調波の励振方向に交差する終端縁からλg3/2−λg3/6以上、λg3/2+λg3/6以下の距離範囲内である領域内に、接地点を配置することができる。
【0014】
高調波の放射パワーを低減する一方で、基本波の放射パワーをできるだけ低減させないようにするためには、給電素子における基本波の電流振幅値が最小値である箇所を除いた領域内に、接地点を配置することができる。好ましくは、基本波の基板上での波長をλg1で表した場合、給電素子における基本波の励振方向に交差する終端縁からλg1 /6以下の距離範囲内を除く領域内に、接地点を配置することができる。
【0015】
また、基本波とn次高調波の励振方向が異なる場合には、高調波の放射パワーを低減するために、上述した領域に代えて又は併用して、n次高調波の励振方向に交差する終端縁の近傍の領域内に接地点を配置することもできる。より具体的に言うと、n次高調波の基板上での波長をλgnで表した場合、給電素子におけるn次高調波の励振方向に交差する終端縁からλgn /6以下の距離範囲内に、接地点を配置することができる。
【0016】
接地点の個数は1個でも複数でも良い。複数の接地点を設ける場合、その複数の接地点が、給電素子の中心線を基準にして対称の位置に配置されるようにすることができる。それにより、アンテナから放射される基本波の放射パターン(指向性)に接地点が与える影響を小さくすることができる。
【0017】
前記接地手段が、接地点をグランドレベルに接続するか否かを選択できるように構成されることが出来る。例えば、スイッチで接地点とグランドレベルとを接続する線路を開閉するように構成することができる。これにより、高調波の放射パワーを抑制するか否かが選択可能である。これを応用することで、意図的に特定の高調波を選択的に放射させるようにすることができる。
【0018】
本発明はまた、本発明に従う電波送信アンテナを送信アンテナとして用いた物体センサも帝位要する。この物体センサは、上述した電波送信アンテナを用いた送信アンテナと、その送信アンテナから放出された電波が物体で反射された反射波を受信するための受信アンテナと、その受信アンテナからの受信信号を処理することで、物体の存在又は動きを検出する検波部とを備える。受信アンテナには、上記送信アンテナが併用されてもよいし、或は、送信アンテナとは別に受信アンテナが設けられてもよい。本発明に従う電波送信アンテナを送信アンテナに用いることで、発振回路内又は伝送線路上に高調波を低減するためのフィルタ回路を設けなくてもよくなる。フィルタ回路を省略した場合、基本波について効率が向上し、物体センサのサイズを小型化することができる。
【0019】
本発明の別の側面に従う電波送信アンテナは、誘電体材料製の基板と、基板上に形成された給電素子と、給電素子に励振信号を印加する伝送線路と、給電素子における1以上の接地点をグランドレベルに接続する接地手段とを備える。そして、給電素子上の励振信号の基本波の電流振幅値が最大値でない領域内に、前記接地点が配置される。
【0020】
電波送信アンテナによると、基本波の放射パワーが給電素子で低減される。基本波の放射パワーを意図的に制限したい場合、例えば、複数の励振信号を印加して、その中から特定の励振信号の基本波だけを放射したい場合や、基本波を抑えて二次高調波だけを選択的に放射したいというような場合に、この発明が応用できる。
【0021】
基本波の放射パワーを効果的に低減するために、好ましくは、給電素子における基本波の電流振幅値が最小値である箇所又はその箇所の近傍の領域内に、前記接地点を配置することができる。具体的にいうと、好ましくは、給電素子における基本波の励振方向に交差する終端縁からλg1 /6以下の距離範囲内に、接地点を配置することができる。
【0022】
前記接地手段は、接地点をグランドレベルに接続するか否かを選択できるように構成されてよい。それにより、基本波を低減するか否かを選択できる。
【0023】
好適な実施形態では、複数の伝送線路が給電素子に接続され、複数の励振信号が給電素子に印加される。そして、複数の励振信号のそれぞれの基本波の放射パワーを個別に低減できるような複数の位置に、複数の接地点が設けられ、各接地点は、スイッチを介して、任意のときにグランドレベルに接続され得るようになっている。スイッチの操作により、複数の励振信号中から選ばれた一つの励振信号による電波が放射される。上記複数の励振信号の基本波の励振方向は異なるようにすることができる。スイッチの操作で、どの連真方向の基本波を放射させるかを選ぶことができる。励振方向を選ぶことで、放射される電波の振動方向を選ぶことができる。このアンテナを、ドップラ効果を利用した物体センサに用いた場合、放射される電波の振動方向を選ぶことで、どの方向に動いている物体に対して高い検出感度をもつかを選択することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一つの側面に従えば、給電素子の構造で高調波の放射パワーを制御することができる。また、本積層構造とすることにより給電素子に配置したアンテナのグランドへのみ導通する接地手段を容易に形成することができ、不要電波の低減量を確保することが可能となる。
【0025】
また、本発明によれば、給電素子の構造で電波の放射特性を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態にかかる電波送信アンテナ、とりわけ、マイクロ波又はそれより高い周波数の高周波で励振されるマイクロストリップアンテナにおける一つのアンテナ素子を示す平面図である。また、図2は、図1のA-A線に沿った断面図である。
【0028】
マイクロストリップアンテナの全体的構造には、種々のものがあり得る。例えば、誘電体基板上に1つのアンテナ素子が配置された最も単純な構造や、同一の誘電体基板上に、高周波信号の伝送線路に接続された1以上のアンテナ素子(以下、「給電素子」という)だけでなく、高周波信号の伝送線路には接続されていない1以上のアンテナ素子(以下、「無給電素子」という)も配置されている構造や、同一の誘電体基板上に多数の給電素子が配置されている構造などがあり得る。これらの全体的構造のいずれをもつマイクロストリップアンテナにおいても、その給電素子について、図1及び図2に示したアンテナ素子(給電素子)の構造が適用可能である。
【0029】
図1に示すように、誘電体材料製の基板20の前側の表面に、金属などの導体材料製の薄膜のような平面的なアンテナ素子(給電素子)22が配置される。給電素子22の平面形状は典型的には例えば方形であり、図示の例では正方形である。ここで、説明の都合上、給電素子22の一つの終端縁に沿った方向(図中、横方向)をx方向とよび、それに直交する方向(図中、縦方向)をy方向とよぶ。
【0030】
給電素子22のx方向で中央に位置し、y方向で下側の終端縁寄りの位置に、給電点24が設けられる。給電点24は、図2に示すように、基板20を貫通する導体製の信号伝送線(以下、基板20を貫通する導体線を「スルーホール」という)25を介して、基板20の裏側に搭載された発振回路30の出力端子31に接続される。発振回路30は高周波信号を出力し、その高周波信号は出力端子31から接続線としてのスルーホール25を通じて給電素子22の給電点24に印加される。その高周波信号には、給電素子22を励振するための所定周波数の基本波が含まれるだけでなく、そのn倍(nは2以上の正の整数、つまり、n=2,3,4,…)の周波数をもつn次の高調波も含まれる。それら高調波のパワーは、いずれも基本波のパワーよりは小さいものの、特に二次と三次の高調波のパワーは無視できない程度の大きさがあり、抑制される必要がある。
【0031】
給電素子22のy方向の寸法Lyは、上述した基本波により励振されるのに適した寸法であり、典型的には基本波の基板20上での波長λg1の約1/2である。ここで、実際には、y寸法Lyは、種々の理由から、正確にλg1/2ではなく、それから若干ずれた寸法(例えば0.8×λg1/2程度)に設計されることが多いが、本明細書の説明では、このように正確なλg1/2から若干ずれた実際のy寸法も含めて、「約λg1/2」という。図示の例の場合、給電素子22は正方形であるので、そのx方向の寸法Lxも、約λg1/2である。具体例を挙げれば、基本波の周波数が約10GHzである場合、y寸法Lyとx寸法Lxはいずれも約7.66mmである。また、給電点24の下側の終端縁からの距離L1は、例えば約λg1/4である。
【0032】
上記のような給電素子22の寸法と給電点24の配置によると、給電素子22は基本波により通常はy方向(図中、縦方向)に励振される。給電素子22が励振される方向を、以下「励振方向」という。
【0033】
給電素子22のx方向で中央に位置し、y方向で異なる2つの位置に、2つの接地点26A,26Bが設けられる。接地点26A,26Bは、図2に示すように、2本の接続線としてのスルーホール27A,27Bをそれぞれ介して、基板20の裏側(又は内部)に設けられた、グランド電位を提供するためのアース電極28に接続される。給電素子22上での接地点26A,26Bのy方向の位置は、後に詳述するように、n(n=2,3,…)次高調波の基板20上での波長をλgnと表した場合、給電素子22のn次高調波(特に、二次及び三次高調波)の励振方向において、その励振方向に交差する終端縁(以下、「その励振方向における終端縁」という)からλgn/2−λgn/6以上、λgn/2+λgn/6以下の距離範囲内に選ばれている。このような接地点26A,26Bの位置は、別の言い方をすると、給電素子22上でのn(n=2,3,…)次高調波(特に、二次及び三次高調波)の電流振幅値が最小である位置又はその位置の近傍の領域内であって、且つ基本波の電流振幅値が最小でない(好ましくは、出来るだけ大きい)位置であるということができる。或いは、上記のような接地点26A,26Bの位置は、給電素子22上でのn(n=2,3,…)次高調波(特に、二次及び三次高調波)の電圧振幅値が最大である位置又はその位置の近傍の領域内であって、且つ基本波の電圧振幅値が最大でない(好ましくは、出来るだけ小さい)位置であるということもできる。このように接地点26A,26Bを配置すると、給電素子22からの基本波の放射パワーを大きく維持したまま、n(n=2,3,…)次高調波(特に、二次及び三次高調波)の放射パワーを低減させることができる。
【0034】
また、図1に示すように、2つの接地点26A,26Bは、給電素子22の中心線を基準にして対称の位置に配置されている。このように給電素子22の中心線を基準とした対称の位置に複数の接地点が配置されることで、アンテナから放射される基本波の放射パターン(指向性)への接地点による影響(例えば、放射パターンが傾いたり、偏ったりするなど)が生じない。なお、接地点の個数は必ずしも2つである必要はなく、1個であっても、或いは2個以上であってもよい。
【0035】
以下では、図3〜図9を参照して、n次高調波(特に、二次と三次高調波)の放射パワーを低減するための給電素子上の接地点の好ましい配置とその原理について説明する。
【0036】
図3と図4は、図1に示した実施形態における、二次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【0037】
まず、基本的な原理は、基本波およびn次高調波のいずれについても、給電素子上の設置される位置(接地点)での当該波の電流振幅値がより小さいほど、給電素子上での当該波の放射パワーがより効果的に低減されるということである。なお、給電素子上での波の電流と電圧の分布は約90度位相が異なっているので、上記基本原理は、接地点での当該波の電圧振幅値がより大きいほど、給電素子上での当該波の放射パワーがより効果的に低減されると言換えることもできる。よって、当該波の電流振幅値が最小である位置(つまり、電圧振幅値が最大である位置)を接地すれば、当該波の放射パワーが最も効果的に低減されることにまる。また、当該波の電流振幅値が最小である位置の近傍の領域内の位置を接地した場合にも、当該波の放射パワーをかなり低減することができる。
【0038】
さて、図1に示した実施形態においては、図3に示すように、給電素子22の基本波による励振方向はy方向であり、基本波の電流振幅値i1は、給電素子22上のy方向(基本波の励振方向)の位置に応じて、図中左側のグラフに示すように分布する。一方、二次高調波による励振方向はx方向であり、二次高調波の電流振幅値iは、給電素子22のx方向(二次高調波の励振方向)の位置に応じて、図中の上側のグラフに示すように分布する。
【0039】
二次高調波を低減する目的で、グランド電位に接続される接地点を配置するのに好適な領域は、ハッチングで示した領域40である。この領域40は、具体的には、二次高調波の基板上での波長をλg2と表した場合、給電素子22の二次高調波の励振方向(x方向)における終端縁(左側又は右側の終端縁)からλg2/2−λg2/6以上、λg2/2+λg2/6以下の距離範囲である。上側のグラフに示す二次高調波の電流振幅値iの分布から分かるように、この領域40では、二次高調波の電流振幅値iが最大ではなく、比較的に小さいので、そこに接地点を設けることで、二次高調波の放射パワーを低減することができる。この領域40の中でも特に、左側又は右側の終端縁からλg2/2の位置(給電素子22のx方向における中央)は、二次高調波の電流振幅値iが最小であるから、ここに接地点を設けることで、二次高調波の放射パワーを最も効果的に低減することができる。
【0040】
しかし、図3に示した領域40中には、そこに接地点を設けることで、二次高調波だけでなく基本波の放射パワーも低減してしまう部分が含まれている。その部分とは、基本波の基板上での波長をλg1と表した場合、図4に示すように、基本波の励振方向(y方向)における終端縁(上側又は下側の終端縁)からλg1/6以下の距離範囲の部分であり、そこでは、基本波の電流振幅値i1は最大ではなく、比較的に小さい。そこで、この部分を図3に示した領域40から除いた残りの部分の領域(図4中、ハッチングで示される領域)42が、基本波の放射パワーを大きく維持しつつ、二次高調波の放射パワーを低減するための、接地点を設けるのに好ましい領域である。
【0041】
ところで、給電素子22の形状又は寸法が変わると、基本波又はn次高調波による励振方向や電流振幅値分布が変り、その結果、n次高調波を抑制するための好ましい接地点の配置が変る。例えば、図5に示す例では、給電素子22のy方向の寸法は、図1や図3に示した例と同様に約λg1/2であるが、x方向の寸法は、図1や図3に示した例とは異なり、λg1/2よりかなり短い。図5に示した給電素子22の場合、二次高調波の励振方向は基本波のそれと同様にy方向となり、二次高調波の電流振幅値iは、給電素子22のy方向(二次高調波の励振方向)の位置に応じて、図中の右側のグラフに示すように分布する。よって、図5でハッチングで示した領域44、すなわち、給電素子22の上側又は下側の終端縁からy方向にλg2/2−λg2/6以上、λg2/2+λg2/6以下の距離範囲が、二次高調波の放射パワーを低減させるために、接地点を配置するのに適した領域である。また、この領域44では、基本波の電流振幅値i1が最大又は最大に近いので、そこに接地点を配置しても、基本波の放射パワーを大きいまま維持できる。
【0042】
次に、図1に示した実施形態において三次高調波を低減させるための、接地点の好ましい配置について説明する。
【0043】
図6と図7は、図1に示した実施形態における、三次高調波を低減させるための給電素子22上で接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【0044】
図1に示した実施形態の場合、図6に示すように、給電素子22の三次高調波による励振方向は基本波によるそれと同様にy方向であり、三次高調波の電流振幅値iは、給電素子22上のy方向(三次高調波の励振方向)の位置に応じて、図中右側のグラフに示すように分布する。三次高調波を低減する目的で接地点を配置するのに好適な領域は、ハッチングで示した2つの領域46Aと46Bである。この領域46A,46Bはそれぞれ、具体的には、三次高調波の基板上での波長をλg3と表した場合、給電素子22の三次高調波の励振方向(y方向)における終端縁(上側又は下側の終端縁)からλg3/2−λg3/6以上、λg3/2+λg3/6以下の距離範囲である。右側のグラフに示す三次高調波の電流振幅値iの分布から分かるように、この領域46A,46Bでは、三次高調波の電流振幅値iが最大ではなく、比較的に小さいので、そこに接地点を設けることで、三次高調波の放射パワーを低減することができる。この領域46A,46Bの中でも特に、左側又は右側の終端縁からλg3/2の位置(給電素子22のy方向における三分の一の位置)は、三次高調波の電流振幅値iが最小であるから、ここに接地点を設けることで、三次高調波の放射パワーを最も効果的に低減することができる。
【0045】
しかし、図6に示した領域46A,46B中には、そこに接地点を設けることで、三次高調波だけでなく基本波の放射パワーも低減してしまう部分が含まれている。その部分とは、既に説明したとおりであり、すなわち、図7に示すように、基本波の励振方向(y方向)における終端縁(上側又は下側の終端縁)からy方向にλg1/6以下(すなわち、λg3/2以下)の距離範囲である。そこで、図7に示すように、この部分を図6に示した領域46A,46Bから除いた残りの部分の領域(図7中、ハッチングで示される領域、すなわち、上側又は下側の終端縁からλg3/2以上、λg3/2+λg3/6以下の距離範囲の領域)48A,48Bが、基本波の放射パワーを大きく維持しつつ、三次高調波の放射パワーを低減するための、接地点を設けるのに好ましい領域である。
【0046】
次に、図1に示した実施形態における二次と三次の双方の高調波を低減させるための接地点の好ましい配置について説明する。
【0047】
図8は、図1に示した実施形態における二次と三次の双方の高調波を低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【0048】
図8において、ハッチングで示された領域50Aと50Bは、そこに接地点を配置することで、基本波の放射パワーを大きいまま維持しつつ二次と三次の双方の高調波の放射パワーを低減させることができる領域である。すなわち、この領域50Aと50Bは、図4に示された好ましい領域42と図7に示された好ましい領域48A,48Bとが重なり合う領域である。図4に示された好ましい領域42は、そこに接地点を配置することで、基本波の放射パワーを大きいまま維持しつつ二次高調波の放射パワーを低減させることができる。また、図7に示された好ましい領域48A,48Bは、そこに接地点を配置することで、基本波の放射パワーを大きいまま維持しつつ三次高調波の放射パワーを低減させることができる。従って、それらの共通の領域である図8に示された領域50A,50Bに接地点を配置すれば、基本波の放射パワーを大きいまま維持しつつ二次と三次の双方の高調波の放射パワーを効果的に低減させることができる。図8に示された領域50A,50B中でも、特に、更に細かいハッチングで示した領域52A,52Bは一層好ましい。すなわち、この領域52A,52Bは、二次高調波の励振方向(x方向)において終端縁(左又は右側の終端縁)からλg2/2以上、λg2/2+λg2/12以下の距離範囲で、三次高調波の励振方向(y方向)において終端縁(上側又は下側の終端縁)からλg3/2−λg3/12以上、λg3/2+λg3/12以下の距離範囲である。この領域52A,52Bでは、二次と三次の高調波の電流振幅値iとiが特に小さく、且つ基本波の電流振幅値iが特に大きい。図1に示した実施形態では、この領域52A,52Bに接地点26A,26Bが配置されている。そのため、二次と三次の双方の高調波の放射パワーが効果的に低減される。
【0049】
図9は、図1に示した実施形態において二次の高調波を低減させるための給電素子22上の接地点の別の好ましい配置を説明する平面図である。
【0050】
既に説明した原理によれば、二次の高調波の放射パワーを低減させるためには、二次高調波の電流振幅値iができるだけ小さい場所に接地点を配置することが好ましい。この原理によれば、図9に示すように、二次高調波の励振方向(x方向)における終端縁(左側又は右側の終端縁)の近くの(例えば、終端縁からλg2/6以下の距離範囲の)領域54A,54Bに、接地点を配置してもよい。なお、領域54A,54Bに接地点を配置する場合、基本波の放射パワーの低減を避けるために、図4を参照して既に説明したように、基本波の励振方向(y方向)における終端縁からλg1/6以下の距離範囲を除いた部分に接地点を配置することが望ましい。
【0051】
図9に例示したように低減したい高調波の励振方向における終端縁の近くに接地点を配置することは、図9の場合の二次高調波のように、その高調波の励振方向が基本波の励振方向と異なる場合に有効である。何故なら、励振方向が同じ場合には、基本波も一緒に低減されてしまうからである。よって、給電素子の形状やサイズが図1に示した実施形態とは異なるために、三次高調波の励振方向が基本波の励振方向とは異なる場合には、三次高調波に関しても同様な原理に基づく接地点配置が採用できる。
【0052】
なお、四次以上の高調波については、元々パワーが問題にならないほど小さいので、格別のパワー低減対策を講じる必要は通常は無い。しかし、四次以上の高調波に対しても、本発明の原理を適用してその放射パワーを一層小さくすることも可能である。
【0053】
図10は、本発明の原理に従う構造をもつ給電素子を複数備えたマイクロストリップアンテナの一実施形態の全体を示す平面図である。
【0054】
図10に示すマイクロストリップアンテナでは、同一の誘電体基板60上に、複数、例えば4つの給電素子62,64,66,68が、例えば2×2マトリックス状に配置されている。給電素子62,64,66,68は、それぞれ、グランド電位に接続せる1つ以上の接地点72,74,76,78を有する。接地点72,74,76,78の各々は、給電素子62,64,66,68の各々における、基本波の電流振幅値が最大値又はそれに近く且つ二次及び三次高調波の電流振幅値が最小値又はそれに近いという位置に、配置されている。なお、参照番号70は、給電素子62,64,66,68で高周波信号を供給する伝送線路を示している。伝送線路70は、給電素子62,64,66,68と同様に基板60の前面上に配置されてもよいし、或いは、基板60の裏面上又は内部に配置されてスルーホールを通じて給電素子62,64,66,68に接続されてもよい。また、接地点72,74,76,78は、それが給電素子62,64,66,68の央部に配置される場合には、スルーホールを通じてアース電極へ接続されることになるが、他方、給電素子62,64,66,68の終端縁又はその近傍に配置される場合には、スルーホールを通じてアース電極へ接続されてもよいし、或いは、基板60の表面上に配置されたマイクロストリップ線路を通じてアース電極へ接続されてもよい。
【0055】
ところで、図10は、本発明の原理が適用されるマイクロストリップアンテナの全体的なアンテナ素子構成の一例を示すに過ぎない。他の種類のアンテナ素子構成をもつマイクロストリップアンテナにも、本発明の原理は適用可能である。例えば、1以上の給電素子と1以上の無給電素子とを備えたマイクロストリップアンテナにおいて、各給電素子に、本発明の原理に従う構成を適用することもできる。
【0056】
上述したような本発明に従う電波送信アンテナの用途の一つとして、人やその他の物体の存在や動きを検出するための物体センサがある。その物体センサでは、本発明に従う電波送信アンテナが送信アンテナとして用いられ、その送信アンテナから電波が外部へ放射され、その電波が物体に当って反射されて戻って来た反射波が受信アンテナで受信され、その受信信号が検波部で処理されることで、人やその他の物体の存在や動きが検出される。このような物体センサにおいて、本発明に従う電波送信アンテナは、送信アンテナとしてだけでなく、受信アンテナとしても使用でき、一つのアンテナで送信アンテナと受信アンテナを兼ねることもでき、或いは、送信アンテナとは別に受信アンテナが設けられてもよい。ドップラ効果を利用して物体の動きが検出する物体センサの場合、検波部には、送受信した電波を混合するミキサー回路や、ミキサー回路から出力されるドップラ信号を処理するドップラ回路などが含まれる。本発明に従う電波送信アンテナを用いた物体センサは、小型に作ることが容易である。
【0057】
さて、上述した原理によれば、マイクロストリップアンテナの給電素子中のn(n=2,3,…)次高調波の電流振幅値が比較的に小さい箇所に、グランド電位に接続される接地点を設けることで、そのn次高調波の放射パワーを選択的に低減することができる。しかし、この原理は、n次高調波だけでなく、基本波に対しても適用できる。すなわち、給電素子中の基本波の電流振幅値が比較的に小さい箇所に、グランド電位に接続される接地点を設けることで、基本波の放射パワーを選択的に低減することができる。
【0058】
この原理を応用することで、マイクロストリップアンテナから、基本波とn(n=2,3,…)次高調波のうちから所望のものを選んで電波として放射させることができる。そのような応用例としての一実施形態を以下に説明する。
【0059】
図11は、本発明に従うマイクロストリップアンテナの第2の実施形態における給電素子の構成を変形例を示す平面図である。
【0060】
図11に示すように、給電素子110は、基板(図中の背景)の前面上に形成された導体製の方形の薄膜であり、その直交する2つの終端縁、例えば図中下側と右側の終端縁、のそれぞれの中央部の近傍に2つの給電点112A,112Bを有し、給電点112A,112Bにはそれぞれ、高周波信号の伝送線114A,114Bが接続される。ここで、伝送線114A,114Bは、図示の例では、基板の前面上に形成されたマイクロストリップラインであるが、これに代えて、基板を貫通するスルーホールであってもよい。伝送線114A,114Bは、互いに同一の又は異なる周波数をもつ高周波信号を給電点112A,112Bにそれぞれ印加する。給電素子110の図中横方向(以下、「x方向」という)の長さは、右側の給電点112Aに印加される高周波信号の基本波で励振されるのに適した長さ、すなわち、基本波基板上での波長λg1Aの約1/2に選ばれている。同様に、給電素子110の図中縦方向(以下、「y方向」という)の長さは、下側の給電点112Bに印加される高周波信号の基本波で励振されるのに適した長さ、すなわち、その基本波の基板上での波長λg1Bの約1/2に選ばれている。よって、右側の給電点112Aに印加され高周波信号の基本波による励振方向はx方向(横方向)であり、これに対し、下側の給電点112Bに印加され高周波信号の基本波による励振方向はy方向(縦方向)である。
【0061】
また、給電素子110の給電点112A,112Bの近傍の終端縁とは励振方向で反対側に位置する終端縁、例えば図中上側と左側の終端縁、のそれぞれの中央部の近傍(それぞれの終端縁からλg1A/6、λg1B/6の距離以内)に、2つの接地点116A,116Bが設けられ、接地点116A,116Bはそれぞれ基板を貫通するスルーホール(図示せず)と接続され、それらのスルーホールは、基板の裏面に配置されたスイッチ(図示せず)を介して、グラント電位のアース電極(図示せず)に任意の時に接続され得るようになっている。そして、それらのスイッチのオンオフ操作により、給電素子110の2つの接地点116A,116Bのうちの一方だけがアース電極に接続されると、その一方の接地点と反対側にある給電点に加えられる高周波信号の基本波の放射パワーが低減されるので、その高周波信号による励振は実質的に無効になり、他方の給電点に加えられる高周波信号による励振だけが有効になる。
【0062】
例えば、図中上側の接地点116Bがアース電極に接続されると、下側の給電点112Bに加えられる高周波信号の基本波によるy方向の励振が実質的に無効にされ、実質的に、右側の給電点112Aに加えられる高周波信号の基本波によるx方向の励振だけが有効になる。このx方向の励振により、x方向に電磁界強度の振動波形を有する電波120Aがアンテナから放射されることになる。他方、図中左側の接地点116Aがアース電極に接続されると、右側の給電点112Aの高周波信号によるx方向の励振が実質的に無効にされ、実質的に、下側の給電点112Bの高周波信号によるy方向の励振だけが有効になる。このy方向の励振により、y方向に電磁界強度の振動波形を有する電波120Bがアンテナから放射されることになる。また、給電点112A,112Bに供給される高周波信号の周波数が異なる場合には、スイッチ操作で接地点116A,116Bを選択的にアース電極に接続することで、アンテナから放射される電波の周波数を切り替えることができる。
【0063】
このように、給電素子110に、これを異なる方向に励振する複数の給電点112A,112Bと、それぞれの給電点112A,112Bの高周波信号による励振を実質的に無効にする接地点116A,116Bとを設けて、接地点116A,116Bのスイッチングでいずれかの給電点112A,112Bを選択的に有効にすることで、振動波形の方向が違う又は周波数の異なる電波を選択的に放射することができる。この手法は、垂直偏波型のアンテナにおいて有効である。
【0064】
図12は、図11示した給電素子を有する本発明に従うマイクロストリップアンテナに好適な用途の一つを示す。
【0065】
図12に示された用途は、人などの物体136の動きを電波のドップラ効果を利用して検知するための物体センサ132である。この物体センサ132は、例えば部屋の天井面又は壁面130などに取り付けられ、本発明に従うマイクロストリップアンテナ(図示せず)と、そのマイクロストリップアンテナに接続されたドップラ検波部(図示せず)とを内蔵する。マイクロストリップアンテナは、電波を発するための送信アンテナとして使われる。送信アンテナであるマイクロストリップアンテナが受信アンテナとしても用いられてもよいし、或いは、受信アンテナが送信アンテナとは別に設けられてもよい。物体センサ132内のマイクロストリップアンテナは、図11に示した構成の給電素子110を有し、その励振方向を変えることで、そのマイクロストリップアンテナから物体センサ132外へと放射される電波134の振動波形の方向が変わるようになっている。
【0066】
図13と図14は、この物体センサ132のマイクロストリップアンテナの励振方向を変えることで生じる検知特性の違いを示している。
【0067】
図13に示すように、物体センサ132内のマイクロストリップアンテナの励振方向が図中の横方向であるときには、その振動波形の方向が横方向である電波138が、物体センサ132から放射される。この場合、物体センサ132の検出感度は、電波138の振動波形方向と同じ横方向への物体136の移動に対して最も良好である。他方、図14に示すように、マイクロストリップアンテナの励振方向が図中縦方向であるときには、その振動波形の方向が縦方向である電波140が、物体センサ132から放射される。この場合、物体センサ132の検出感度は、縦方向への物体136の移動に対して最も良好である。このように、励振方向を切り替えることで、検出感度が良好である物体の移動の方向成分を変えることができる。そのため、この異なる励振方向を例えば高速に交互に切り替えるというように組み合わせて使用することにより、異なる励振方向で検出されたドップラ信号のレベルを比較して物体136の移動方向を推定したり、或いは、異なる励振方向で物体が検出されたか否かという判断結果を論理的に組み合わせて物体136がどの方向に移動してもそれを感度良く検出できるようにしたりすることができる。
【0068】
図15に示すように従来はコア材21の両面にグランド31を設け、スルーホール32を作成して導通させた後にコア材21を挟むように接合樹脂33を配置し、更に接合樹脂33の外側に銅箔23を設けてホットプレスにて積層し、エッチングにて発振回路とアンテナを形成していた。
そのため、アンテナの給電素子に配置した接地手段を形成する際には基板積層後に貫通スルーホールを作成する又はレーザ等によりコア材21のグランドまで穴加工して導通させなければならなかった。貫通スルーホールを作成すると発振回路に接地手段が形成されるために発振回路の作成面積が制約されてしまう為、自由に配線できなくなる。また、レーザ等で加工する場合は、加工が複雑になりコストが向上してしまう。さらに発振回路及びアンテナは接合樹脂にて形成されるためホットプレスの設定条件によって各々の厚みにバラツキが生じる可能性もある。
しかし、図16に示すようにアンテナ20A及び発振回路20Bは両面板でそれぞれ構成されPP材33にて積層されることによりアンテナ及び発振回路の厚みはプレスの条件に左右されず所望の厚みが得られるので、高周波回路特性を保持することができ、伝送線路で形成されたフィルタ等も機能を十分に確保することもできるため、更に外部への高周波の放射を抑制することが可能となる。
【0069】
図17(a)に示すように 給電素子22を表面(L1)上に形成し、裏面(L2)にグランド面を形成したアンテナと、発振器及び検波部を同一平面(L3)上に形成し、もう一方の面(L4面)にグランド面を形成した発振回路とを接合樹脂によってホットプレスした4層構造基板である。
アンテナ20Aと発振回路20Bの各々のグランド35(第一グランド)、36(第二グランド)を両面板で作成し、アンテナ20A、発振回路20Bと同じ材料特性又はそれに近い特性を有する接合樹脂33を介して積層している。このような構成とすることで、給電素子22とアンテナのグランド35の結合を強化することができ、アンテナより安定した電波の放射を行うことができると共に給電素子22及び給電素子に配置した接地手段27A、27Bのインピーダンス整合も確保することが容易となるために安定して不要電波を抑制することが可能となる。
更に、アンテナ20Aに接地手段27A、27Bを穴加工した後に積層するため、接地手段27A、28Bは積層時に接合樹脂33で充填されるため、穴内部への空気や水分の侵入による腐食を防ぐことが可能となる。
また、不要な高調波を抑制するために給電素子22に配置した接地手段27A、27Bをアンテナのグランド35へ接続した場合においても発振回路のグランド36とアンテナのグランド35は別グランドで構成されているため、発振回路側には影響がなく、接続手段27A、27Bの給電素子22上における設置位置の自由度が高くなる。
また、図17(b)に示すように基板を積層した後にアンテナのグランド35と発振回路のグランド36を高周波的に同電位とするためにアンテナ20Aと発振回路20Bを貫通する接地手段32を複数設けている。さらに金属等の導電物質で作成した筐体(シールドケース)37と接地手段32が接続されることにより、アンテナのグランド35をシールドケース37(絶対グランド)と同電位にすることができるため、アンテナより基本波を安定して放射させると同時に給電素子22に配置された接地手段27A、27Bの効果が大きくなり不要な高調波を低減できる効果もある。
また、貫通する接地手段32に導電性固定部材38、例えばネジを挿入し、発振回路、アンテナ、シールドケース37を固定することによりアンテナのグランド35及び発振回路のグランド36をシールドケース37と接続することが可能となりさらにアンテナのグランド35もシールドケース37と接続させ、確実なグランドを確保することができる。
本構成とすることによりBTH(ブラインドスルーホール)をアンテナに作成し、アンテナから放射される不要電波を抑え、発振回路とアンテナのグランドを共通にでき、基本波を安定して放射をできると共に不要電波を低減させることができる。
【0070】
積層構造の製造方法としてはアンテナと発振回路を両面板にて作成し、それぞれスルーホール加工をおこない、エッチングによりパターンを形成した後に、2枚の基板を接合樹脂33を介して積層し、最後に基板を貫通する接地手段32及び高周波信号の伝送線25をドリル加工により形成する。
【0071】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。例えば、特定の高調波(例えば二次高調波)だけを選択的にアンテナから放射させることを目的として、その特定の高調波の放射パワーはあまり低減しないが、それ以外の次数の高調波(例えば三次高調波)基本波の放射パワーを効果的に低減できる給電素子上の位置に、接地点を配置することもできる。また、基本波やn次高調波の放射パワーをそれぞれ低減するための接地点とアース電極とを結ぶ線路の各々に、その線路を開閉するスイッチを設けることで、どの波の放射パワーを低減し又はしないかを選択可能にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電波送信アンテナ、とりわけマイクロストリップアンテナ、における一つのアンテナ素子を示す平面図である。
【図2】図1のA-A線に沿った断面図である。
【図3】図1に示した実施形態における、二次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【図4】図1に示した実施形態における、二次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【図5】図1に示した実施形態とは異なる形状の給電素子22上における、二次高調波の放射パワーを低減させるための接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【図6】図1に示した実施形態における、三次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【図7】図1に示した実施形態における、三次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【図8】図1に示した実施形態における、二次と三次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の好ましい配置とその原理を説明する平面図である。
【図9】図1に示した実施形態における、二次高調波の放射パワーを低減させるための給電素子22上の接地点の別の好ましい配置を説明する平面図である。
【図10】本発明の原理に基づく構造をもつ給電素子を複数備えたマイクロストリップアンテナの一実施形態例を示す平面図である。
【図11】本発明に従うマイクロストリップアンテナの第2の実施形態における給電素子の構成を変形例を示す平面図である。
【図12】図11に示した給電素子を有するマイクロストリップアンテナに好適な用途の一つを示す側面図である。
【図13】図12に示した物体センサ132の励振方向が横方向であるときの検知特性を示す平面図。
【図14】図13に示した物体センサ132の励振方向が縦方向であるときの検知特性を示す平面図。
【図15】図15は従来の積層構造の平面図である。
【図16】図16は本発明における積層方法を示す斜視図である。
【図17】図17(a)は本発明のおける積層構造を示す構成図である。(b)は図1に示したA-A線における発振回路を含んだ積層後の断面図である。
【符号の説明】
【0073】
20,60 基板
20A アンテナ
20B 発振回路
21 コア材
22,62,63,64,66,110 給電素子
23 銅箔
24 給電点
25,114A、114B 高周波信号の伝送線
26A,26B,72,73,74,76,116A,116B 接地点
27A,27B,32 接地手段(スルーホール)
28 アース電極
30 発振回路
31 グランド
33 接合樹脂
35 アンテナのグランド
36 発振回路のグランド
37 シールドケース
38 導電性固定部材
40 二次高調波を低減するための接地点に好ましい領域
42 基本波の低減を避けつつ二次高調波を低減するための接地点に好ましい領域
44 基本波の低減を避けつつ二次高調波を低減するための接地点に好ましい領域
46A,46B 三次高調波を低減するための接地点に好ましい領域
48A,48B 基本波の低減を避けつつ三次高調波を低減するための接地点に好ましい領域
50A,50B 基本波の低減を避けつつ二次と三次の双方の高調波を低減するための接地点に好ましい領域
52A,52B 基本波の低減を避けつつ二次と三次の双方の高調波を低減するための接地点に一層好ましい領域
54A,53B 基本波の低減を避けつつ二次高調波を低減するための接地点に好ましい別の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上(L1面上)に給電素子と、
前記給電素子に励振信号を印加する伝送線路とが形成され、
裏面上(L2面上)に第一グランド面が形成され、
前記給電素子に設けられた1以上の接地点を前記第一グランド面に接続する接地手段とを備えた
アンテナと、
表面上(L3面上)に前記アンテナへ電波を供給する発振器と、
前記アンテナで受信した反射波に基づいて、物体の存在又は動きを検出する検波部とが形成され、
裏面上(L4面上)に第二グランド面が形成された
発振回路とを備え、
前記アンテナの第一グランドと前記発振回路の第二グランドとを接合樹脂によってホットプレスし、積層構造基板を形成したことを特徴とする物体センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−42799(P2008−42799A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217848(P2006−217848)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【特許番号】特許第4019181号(P4019181)
【特許公報発行日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】