説明

物品の表面構造

【課題】物品の表面に対する触感をより心地よいものとする。
【解決手段】物品1の表面に凹凸3を形成し、さらにこの凹凸3の凸部5の先端に、凹凸3よりも細かい微細凹凸9を形成する。人の指15が物品1の表面に触れるときの単位面積当たりにおける、指15と物品1との接触する面積の割合が、35%〜90%の範囲となるような凹凸形状とする。望ましくは、指15と物品1との接触する面積の割合が、45%〜80%の範囲となるような凹凸形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸が形成された物品の表面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形品の表面は、意匠性、耐傷付き性の観点から、凹凸形状のシボ加工を施している。ところが、このような樹脂成形品は、硬い素材とシボ加工による凹凸が要因で、人が触れたときに「硬い」、「かさかさ」、「ざらざら」、「ごつごつ」といった不快な触感となりやすい。このため、例えば自動車の内装品など人が触れる物品に対しては、心地よい触感とすることが要求されている。
【0003】
このようなことから、例えば特許文献1に記載ものは、表面のシボ粗さを材料の硬度を考慮して決定するようにして、心地よい触感を得ようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−229356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、樹脂成形品の表面は、人が触れたときに不快な触感となりやすいことから、例えば表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感とすることが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、物品の表面に対する触感をより心地よいものとすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と部品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と部品との接触面積の割合が、35%〜90%の範囲となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、物品表面の凹凸形状を、人の肌の物品に接触する面積の割合が35%〜90%の範囲となるようにすることで、人が物品表面に触れたときに、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の物品表面に指を接触させた状態を示す断面図である。
【図2】図1の物品表面の凹凸における凸部の上部に形成してある微細凹凸の平面図である。
【図3】(a)は微細凸部のピッチがほぼ一定の場合を示す図2のA−A断面図、(b)は微細凸部のピッチが不規則の場合を示す図2のB−B断面図である。
【図4】物品の凹凸を有する表面に対する接触率を算出するための模式図である。
【図5】図1の表面構造に対し、より具体的な表面構造を示す断面図である。
【図6】物品に触れたときの「心地よさ」の指標なる「しっとり感」を、5点が最も「しっとり感」があるものとして、接触率との関係で評価しているグラフである。
【図7】接触率を48%とした物品の断面図である。
【図8】(a)は物品表面の凹凸に対する接触率を示すグラフで、(b)は物品表面の微細凹凸に対する接触率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
本発明の第1の実施形態は、図1に模式的に示すように、例えば自動車の内装部品、例えばコンソールボックスやドアあるいはインストルメントパネルなどの樹脂製の物品1の表面に、シボ加工などにより凹凸3を形成している。凹凸3は、山部となる凸部5と谷部となる凹部7とを有し、凸部5の先端は略平坦として該平坦部上に、凹凸3よりも細かくピッチが細かい微細凹凸9を形成している。つまり、この微細凹凸9は、図2に拡大して示すように、凹凸3の凸部5より小さい微細凸部11と、凹凸3の凹部7より小さい微細凹部13とを備えている。ここで、凹凸3よりも細かい微細凹凸9とは、微細凹凸9の微細凸部11の幅Qや高さR(図3)の寸法が、凹凸3の凸部5の幅Hや高さP(図1)の寸法に対して、それぞれ小さいことを少なくとも意味している。
【0012】
このような図1に示す凹凸3における凹部3の深さP(凸部5の高さ)、すなわち凸部5の先端面(上面)と凹部7の底面との距離は、70μm以上としている。また、図3(a),(b)に示すように、微細凹凸9における微細凸部11の幅Qはほぼ30μmであり、微細凹凸13における微細凸部11の高さRはほぼ15μmである。ここで、凸部3の形状は、平面視(図3中で上方から見た図)で円形であることが基本であるが、例えば楕円形や長円形などなど円形(真円)ではない場合もある。このような場合には、最も寸法の大きな部分(楕円であれば長径に対応する部分)の幅Qが30μmであるとする。なお、図3における微細凸部11の幅Qは、微細凸部11の微細凹部13の底部からの立ち上がり部相互間の距離である。図1における凸部5の幅Hについても、凸部5の凹部7の底部からの立ち上がり部相互間の距離である。
【0013】
なお、上記した物品1の材質としては、例えばPP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、AES(アクリロニトリル・エチレン・スチレン)、ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクレート)、POM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)などが挙げられる。
【0014】
また、物品1は、このような熱可塑性樹脂を用いて射出成形により形成される。
【0015】
ここで、本実施形態では、図1のようにして物品1の凹凸3が形成されている表面に、指15の人の肌としての腹15aで触れたときに、凹凸がなく平滑な表面に同様な条件で触れたときに対する、指15と物品1とが接触する面積の割合(接触率)が、35%〜90%の範囲となるような表面構造としている。
【0016】
換言すれば、図1のようにして物品1の凹凸3が形成されている表面に指15の腹15aで触れたときの、単位面積あたりにおける、指15と物品1とが接触する面積をA、指15と物品1とが接触しない面積をBとすると、接触率Sは次式で算出される。
【0017】
S=[A/(A+B)]×100=35%〜90%
その際、上記した接触率Sは、45%〜80%の範囲とすると、より触感が向上し、より望ましい。
【0018】
なお、指15の腹15aを強く物品1に押し付けると接触率Sは増大するが、人の指15で物品1の表面に触れるときは、一般的に200g重(グラム重)の力で押し付けるとされており、本実施形態でも200g重の力で物品1の表面に触れたときの接触率としている。
【0019】
上記した接触率Sは、図4に示すように、表面に凹凸が形成された物品の長さHの領域において、200g重の力によって指で触れたときの、指の腹が凸部5の先端面及び側面に接触する位置の凸部5の幅をh1、h2、h3、・・・・・、hnとすると、S=(h1+h2+h3+・・・・+hn)/Hとなる。
【0020】
本実施形態では、物品表面に、微細凹凸9を設けずに凹凸3だけを設けた場合には、接触率が高くなりすぎる傾向にあるので凹部7の幅を広げなければならず、ざらざら感が増し、見栄えも悪化する。微細凹凸9を設けることで規定の接触率Sを得ることができ、また見栄えも向上することになる。
【0021】
図5は、より実物に近い、具体的な物品1の表面構造を示す断面図であり、凸部5の先端に形成してある微細凹凸9における微細凸部11の上部周辺及び、凹凸3における凸部5の上部周辺が、指15の腹15aで物品1の表面に触れたときの指15と物品1とが接触する部位となる。
【0022】
図6は、評価者の指15の腹15aで物品1の表面に触れたときの、「心地よさ」の指標としての「しっとり感」を、評点5点が最も「しっとり感」があるものとして、接触率Sとの関係で評価したものである。ここで、○印は凹凸3の凸部5に微細凹凸9を設けた場合に対応し、×印は微細凹凸9を設けずに凹凸3だけを設けた場合に対応している。
【0023】
これによれば、「しっとり感」として、標準的な評点3.0付近以上となる場合は、接触率が概ね35%〜90%の範囲となっている。
【0024】
したがって、接触率が35%未満及び、90%を超える範囲では、「しっとり感」を得にくく、特に接触率が35%未満では、「硬い」、「かさかさ」、「ざらざら」、「ごつごつ」といった不快な触感となってしまう。逆に、接触率が90%を超えると、より平滑な面に近づくことになるので、摩擦力が大きくなりすぎて、引っかかり感が発生し、やはり不快な触感となってしまう。
【0025】
図6において、接触率を45%〜80%の範囲とすることで、「しっとり感」がより一層高まり、より好ましい。
【0026】
図7は、接触率を48%とした物品(自動車部品)1の断面形状の一例であり、この物品1の表面形状は、凹凸3の凸部5の上部に微細凹凸9を形成している。微細凹凸9は、微細凸部11と微細凹部13とを備えている。
【0027】
図8(a)は、微細凹凸9が無い場合の物品表面の凹凸3に対する接触率を示し、図8(b)は、凹凸3の凸部5の上部に設けた微細凹凸9に対する接触率を示している。この場合、凹凸3に対する接触率を60%とする一方、微細凹凸9に対する接触率を80%とすることで、図7に示すような凹凸3に微細凹凸9を形成している物品表面に対する接触率を48%(=60%×80%)としている。
【0028】
なお、図8中で実線が、前記図4に示した接触率S=(h1+h2+h3+・・・・+hn)/Hに対応している。
【0029】
ところで、「しっとり感」の向上のためには物品の表面の摩擦力を大きくすればよいが、摩擦力が大きすぎると引っかかり感が発生するため、適度な範囲の摩擦力が必要である。摩擦力は[圧力×摩擦係数×接触面積]で表されるが、入力(圧力)は前述のように200g重で一定とすることができ、摩擦係数も同一材料を想定することで一定となるため、摩擦力は指の物品表面に対する接触面積で予測できる。さらに、この接触面積は、指の腹の面積を一定とみなせるため、物品表面の凹凸形状部と指とが実際に接触した部位を計測し、接触率として代用することができる。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、物品表面の凹凸形状を、指が物品に接触する面積の割合が35%〜90%の範囲となるようにすることで、人が物品に触れたときに、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感とすることができる。
【0031】
さらに、上記した物品表面の凹凸形状を、指が物品に接触する面積の割合が45%〜80%の範囲となるようにすることで、人が物品に触れたときに、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感を、より一層向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、物品表面の凹凸3は凸部5と凹部7とを有し、凸部5の上部に該凸部5と凹部7とからなる凹凸3よりも細かいピッチの微細凹凸9を備えることで、接触率を容易に調整できるとともに、見栄え向上にも寄与することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、凹凸3の深さPは70μm以上としている。このため、凹凸3のメリハリがついて、美観が向上する。例えば、シボ模様を凹凸で形成した場合、凹部の深さが70μm未満のように浅い場合には、シボ模様が薄く不明瞭となってしまい、美観が不充分となる。
【0034】
さらに、本実施形態によれば、微細凹凸9における微細凸部11の幅を30μmとしている。これにより、人が物品に触れたときに、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感を、極めて効果的に高めることができる。
【0035】
この際、本実施形態では、微細凹凸9における微細凸部11の高さを15μmとしている。これにより、人が物品に触れたときに、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感を、さらに高めることができる。
【0036】
なお、幅30μmの微細凸部11は、凹凸3の凸部5が無くとも、つまり、凹凸3の無い表面に形成しても、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感を、極めて効果的に高めることができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、物品1は、熱可塑性樹脂を用いて射出成形により形成されている。このため、表面に凹凸3を備える物品1を容易に製造することができ。
【符号の説明】
【0038】
1 物品
3 物品表面の凹凸
5 凹凸の凸部
7 凹凸の凹部
9 凸部先端の微細凹凸
11 微細凹凸の微細凸部
15 人の指
15a 指の腹(人の肌)
P 凹凸の深さ
Q 微細凸部の幅
R 微細凸部の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を備えた物品の表面構造において、物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と部品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と部品との接触面積の割合が、35%〜90%の範囲となることを特徴とする物品の表面構造。
【請求項2】
前記割合が、45%〜80%の範囲となることを特徴とする請求項1に記載の物品の表面構造。
【請求項3】
前記凹凸は凸部と凹部とを有し、前記凸部の上部に前記凹凸よりも細かいピッチの微細凹凸を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の物品の表面構造。
【請求項4】
前記凹凸の深さは70μm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の物品の表面構造。
【請求項5】
前記微細凹凸における微細凸部の幅は30μmであることを特徴とする請求項3に記載の物品の表面構造。
【請求項6】
前記微細凹凸における微細凸部の高さは15μmであることを特徴とする請求項3または5に記載の物品の表面構造。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28152(P2013−28152A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275560(P2011−275560)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】