説明

物品モニタ

【課題】放射線取扱施設等に設けられる物品モニタにおいて、検出限界を引き下げられるようにし、あるいは、対象物品の搬送速度を引き上げられるようにする。
【解決手段】対象物品の搬送経路に沿って2つの検出器20,22が設けられている。それらに対応して2つの信号処理ユニット200,202が設けられている。第1期間においては信号処理ユニット200の出力信号106が選択され、それと同時に、その出力信号106に基づいてスムージング処理器62に対してユニット間帰還信号が与えられる。すなわち前段の信号処理ユニット200による処理結果が後段の信号処理ユニット202におけるスムージング処理に引き渡される。第2期間においては、信号処理ユニット202の出力信号108が選択される。その状態においては、スムージング処理器62は通常通り自らの帰還信号を利用してスムージング処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物品モニタに関し、特に、物品についての放射性物質による表面汚染を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物品モニタは、原子力発電所、核燃料処理施設、などの放射線取扱施設に設置される。すなわち、一般に、放射線管理区域の出入口に物品モニタが設置され、放射線管理区域内に持ち込む物品、放射線管理区域外へ持ち出す物品について、放射性物質による表面汚染が検査される(例えば、特許文献1,2参照)。ここで、物品は、工具、部品、測定器、その他の可搬型部材である。
【0003】
一般に物品モニタにおいては、その測定室内に測定対象となる物品が導入され、その搬送状態(あるいは一時停止状態)で放射線測定が行われる。そのため、測定室内には搬送方向に沿って複数の検出器が並べて配置される。
【0004】
【特許文献1】特開2004−20409号公報
【特許文献2】特開2004−233160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物品モニタにおいて、対象物の搬送速度を上げると、検出限界(検出限界能力レベル)が引き上げられてしまい、より高感度の測定が行えなくなる。一方、対象物の搬送速度を下げれば、検出限界をより引き下げて高感度の測定を行えるが、その場合には、1個の対象物当たりの搬送時間が増大し、各物品を短時間に測定することが困難となる。これは多数の物品を測定する場合において測定待ち渋滞を引き起こす原因となる。そこで、検出限界を維持しつつもより高速で測定すること、見方を変えれば、搬送速度を維持しつつも検出限界をより引き下げること、が要望されている。
【0006】
本発明の目的は、物品モニタにおいて、S/N比を向上させて検出限界を引き下げることにある。
【0007】
本発明の他の目的は、物品モニタにおいて、満足できる性能を得つつも搬送速度の引き上げを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、対象物品の搬送経路に沿って並んで設けられ、前記対象物品からの放射線を検出する複数の検出器と、前記複数の検出器に対応して設けられた複数のユニットであって、それぞれがスムージング処理を実行するスムージング処理器を有する複数の信号処理ユニットと、前記対象物品の搬送に伴って、前記複数の信号処理ユニットの出力信号を検出器配列順で順番に選択し、選択された出力信号によって構成される合成出力信号を生成する制御部と、を含み、前記複数の信号処理ユニットにおける隣接ユニット間では、第i番目の信号処理ユニットにおけるスムージング処理結果が、第i+1番目の信号処理ユニットにおけるスムージング処理に引き継がれる、ことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、対象物品の搬送過程において、対象物品からの放射線が搬送経路に沿って配列された複数の検出器によって検出される。つまり、対象物品が前方へ進行すると、当該対象物品からの放射線が、まず1番目(先頭)の検出器において支配的に検出され、次に2番目の検出器において支配的に検出され、このことが最後の検出器まで繰り返される(2個の検出器のみが設けられている場合には2番目の検出器が最後の検出器となる)。各検出器からの検出信号(例えば計数値、計数率)は各信号処理ユニットにおいて処理される。その場合、各信号処理ユニットはスムージング処理を行うスムージング処理回路を有しているので、そのスムージング処理において、入力信号である検出信号が滑らかにされる。その際、一般に帰還型積分処理が実行される。そのような積分処理では、検出器に対して対象物品が相対的に移動すると、時定数あるいは所定パラメータ値に従って、スムージング処理後の信号が徐々に立ち上がってから減衰曲線を描く。一方、複数の信号処理ユニットからの複数の出力信号は検出器配列順で順次選択されて、選択された個々の出力信号によって合成出力信号が生成される。
【0010】
本発明では、隣接ユニット間において、第i番目の信号処理ユニットにおけるスムージング処理結果が、第i+1番目の信号処理ユニットにおけるスムージング処理に引き継がれる(ある種のコピーが行われる)。つまり、前の信号処理ユニットにおいてスムージング処理を行った結果を基礎として、次の信号処理ユニットにおけるスムージング処理を遂行することができる。諸状況にもよるが、出力信号の選択と相俟って、上記の引き継ぎを行うことにより、複数の検出信号を独立して処理してから加算する構成(単純並列処理)や複数の検出信号を単に加算してから処理する構成(単純加算処理)よりも有利な効果を得られる。すなわち、単純並列処理及び単純加算処理では、信号成分が加算されるが、同時にバックグランド成分も加算されてしまう。例えば、1つの検出器で当該対象物品からの放射線を十分検出できているのに、その検出信号に位置的に離れた他の検出器からの検出信号(バックグランドノイズ中心の信号)を加算すれば、加算後の検出信号におけるS/N比は当然に劣化する。つまり、大面積型の検出器を構成した場合と同様の結果となる。一方、本発明の構成では、対象物品の搬送過程で、各時点において実質的に機能する検出器が順次選択されることになるので、つまり小面積検出器の段階的な切換えが行われるので、対象物品の搬送に伴ってあたかも小面積の検出器を段階的に移動させつつ放射線の検出を連続的に実行したような結果を得られる。つまり、バックグランド成分を低く抑えたまま、高い効率をもって放射線の連続的な検出を実現して、S/N比を向上できる。なお、上記のiは、検出器総数をnとした場合、1から(n−1)までの整数をとるものである。
【0011】
以上のように、本発明によれば、S/N比を向上して、対象物品の搬送速度を維持しつつ検出限界を引き下げることができる。あるいは、対象物品の搬送速度を引き上げつつも検出限界を維持することが可能となる。
【0012】
上記構成において、複数の検出器は搬送方向に沿って並んで配置されているが、もちろん、搬送方向に直交する方向にも複数の検出器が配列されてもよい。但し、上記の引き継ぎ及び出力信号の選択は上流から下流の方向へ段階的に行われる。各検出器は、搬送経路に対面し、それに対して主感度方向が直交する指向性をもった平板型検出器であるのが望ましいが、他のタイプの検出器を利用することも可能である。各信号処理ユニットにおいては、必要に応じて、上記のスムージング処理器の前段に、波高弁別器、カウンタ、レート演算器などが設けられ、その後段に、バックグランド減算器、ベクレル換算器などが設けられる。但し、それら以外の構成を付加するようにしてもよいし、上記であげた各構成を除外することも可能である。例えば、スムージング処理器の出力信号を信号処理ユニットの出力信号とするようにしてもよい。その場合には、出力信号の選択後に必要な信号処理を行えばよい。出力信号の選択に当たっては同時に1つの出力信号を選択するのが望ましいが、同時に複数の出力信号を選択して重み付け合成することも考えられる。
【0013】
(2)また本発明は、対象物品の搬送経路に沿って並んで設けられ、前記対象物品からの放射線を検出する第1及び第2検出器と、前記第1及び第2検出器に対応して設けられた2つのユニットであって、それぞれが帰還型積分処理としてのスムージング処理を実行するスムージング処理器を有する第1及び第2信号処理ユニットと、前記対象物品の搬送に伴って、前記第1信号処理ユニットから取り出されるスムージング処理後の第1参照信号と前記第2信号処理ユニットから取り出されるスムージング処理後の第2参照信号とを比較し、前記第2参照信号が前記第1参照信号に達するまでの第1期間及び前記第2参照信号が前記第1参照信号を超えた以後の第2期間を判定する判定器と、前記第1期間から前記第2期間への移行に際して、前記第1信号処理ユニットにおけるスムージング処理結果が前記第2信号処理ユニットにおけるスムージング処理に引き継がれるように制御を実行し、且つ、前記第1期間においては前記第1信号処理ユニットの第1出力信号を選択すると共に前記第2期間においては前記第2信号処理ユニットの第2出力信号を選択する制御部と、を含むことを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、第1期間から第2期間への移行に際して、つまり、第1期間の最後、第1期間と第2期間の境目、あるいは、第2期間の最初において第1信号処理ユニットにおけるスムージング処理結果が第2信号処理ユニットにおけるスムージング処理に引き継がれる。その場合、その期間移行前から連続的に引き継ぎ状態が形成されるように構成するのが望ましい。その構成によれば、第1参照信号とそれが基礎となった第2参照信号との相対比較による期間判定を的確に行える。諸状況にもよるが、出力信号の選択と相俟って、上記の引き継ぎを行うことにより、複数の検出信号を独立して処理してから加算する構成(単純並列処理)や複数の検出信号を単に加算してから処理する構成(単純加算処理)よりも有利な効果を得られる。すなわち、単純並列処理及び単純加算処理では、信号成分が加算されるが、同時にバックグランド成分も加算されてしまう。例えば、第1検出器で当該対象物品上の点汚染源からの放射線を十分検出できているのに、その検出信号に位置的に離れた第2検出器からの検出信号(バックグランドノイズ中心の信号)を加算すれば、加算後の検出信号におけるS/N比は当然に劣化する。つまり、無駄なサイズをもった大面積型の検出器を構成した場合と同様の結果となる。これは第2検出器において放射線の検出が支配的に行われている場合においても同様である。一方、本発明の構成では、対象物品の搬送過程で、各時点において実質的に機能する検出器が順次選択されることになるので、つまり小面積検出器の段階的な切換えが行われるので、対象物品の搬送に伴ってあたかも小面積の検出器を移動させつつ放射線の検出を連続的に実行したような結果(あるいは、最終的な指示値としては大面積検出器を利用した場合と同じような指示値)を得られる。つまり、バックグランド成分を低く抑えたまま、高い効率をもって放射線の連続的な検出を実現して、S/N比を向上できる。
【0015】
上記構成においても、第1及び第2検出器に加えて他の検出器を設けるようにしてもよいし、これは信号処理ユニットについても同様に指摘できる。上記構成では、第1参照信号と第2参照信号を実際に比較して期間判定(切換判定)を行えるので、対象物品の搬送位置に応じて一律に切換制御を行う場合よりも的確あるいは正確である。参照信号は、スムージング処理器からの出力信号であってもよいが、望ましくは、所定の換算等が行われた後の信号であり、特に望ましくは信号処理ユニットの出力信号である。
【0016】
望ましくは、前記第1参照信号は前記第1出力信号であり、前記第2参照信号は前記第2出力信号であり、前記第1出力信号及び前記第2出力信号は、所定単位に換算された信号である。この構成によれば、2つの出力信号の比較を客観的に正確に行うことができる。
【0017】
望ましくは、前記第1信号処理ユニットにおける第1スムージング処理器は、前記第1期間において、前記第1検出器からの第1検出信号と、当該第1スムージング処理器による第1スムージング処理後の第1帰還信号と、を重み付け加算し、前記第2信号処理ユニットにおける第2スムージング処理器は、前記第1期間において、前記第2検出器からの第2検出信号と、前記第1信号処理ユニットから取り出されるスムージング処理後の所定信号に基づいて生成されるユニット間帰還信号と、を重み付け加算し、及び、前記第2期間において、前記第2検出器からの検出信号と、当該第2スムージング処理器による第2スムージング処理後の第2帰還信号と、を重み付け加算する。重み付け加算の手法としては各種の手法が公知であり、その重みは時定数あるいはそれに相当する値によって可変設定されるのが望ましい。
【0018】
望ましくは、前記所定信号は前記第1出力信号であり、前記第1出力信号に対して、前記第2信号処理ユニットにおけるスムージング処理後の処理と逆の処理を施すことによって、前記ユニット間帰還信号を生成する逆処理器が設けられる。この構成によれば、重み付け加算の対象となる2つの信号の単位を合わせることができる。逆処理に当たっては、第2検出器に関して予め決定されたバックグランド値や計数効率を考慮するのが望ましい。
【0019】
望ましくは、前記各信号処理ユニットは、前記スムージング処理器の後段に、信号から予め取得されたバックグランド値を除外する演算器及び信号に対して検出効率を考慮して換算を行う演算器を備える。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、物品モニタにおいて、S/N比を向上させることができる。あるいは、搬送速度を引き上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1には、本実施形態に係る物品モニタにおける測定原理が示されている。物品モニタは、原子力発電所、核燃料処理施設等の放射線取扱施設において用いられ、放射線管理区域の出入り口等に設置されるものである。すなわち、管理区域内に持ち込まれるあるいは持ち出される物品について放射性物質による汚染を測定するものである。
【0023】
図1における(A)には、本実施形態における物品モニタの構成が概念図として示されている。物品モニタ10は、箱状の測定部12を有しており、その内部は測定室14である。(A)に示す構成例において、測定室14を貫通してコンベア16が設けられている。コンベア16は上流から下流にかけて水平状態で設置されており、搬送経路に沿って対象物品18を一定速度で搬送するものである。その搬送速度は本実施形態において可変することが可能である。
【0024】
コンベア16上に載置された対象物品18が測定室14内に導入されると、その測定室14内において対象物品18において生じている放射性物質による汚染が測定される。具体的には、対象物品18からの放射線が2つの検出器20,22によって検出される。各検出器20,22の構成及び各検出器ごとに設けられた信号処理ユニットなどについては後に図2を用いて説明する。
【0025】
(A)に示す構成例では、各検出器20,22は対象物品18の搬送経路に沿って並べて配置されており、各検出器20,22は水平状態で設けられている。すなわち、それらの検出器20,22がコンベア16に対面しており、搬送方向に対して主感度方向が直交している。この図1に示すモデルにおいては、発明説明のため、対象物品18においては点汚染源が存在し、各検出器20,22の感度特性が方形であることを前提としている。つまり、点汚染源がいずれかの検出器の直下に存在する場合において放射線が検出されるものと仮定している。
【0026】
図1における(C)には、第1検出器である前検出器20の検出信号に対してスムージング処理等を行って得られた出力信号が示されている。同様に、(D)には、第2検出器である後検出器22の検出信号に対してスムージング処理等を行って得られた出力信号が示されている。スムージング処理においては後に説明するように積分処理が実行され、特に帰還型積分処理が実行されるため、(C)及び(D)で示す波形においては各検出器20,22がカバーする検出領域101,103内に点汚染源が進入した時点から波形が立ち上がって所定のカーブを描き、各センサ20,22の検出領域101,103を点汚染源が超えた時点から当該波形が減衰カーブを描いている。もちろん、このような波形は汚染の程度や強さ、搬送速度、時定数などによって変わり得るものである。図1においては発明を説明するために分かり易い例が図示されている。
【0027】
(B)に示す比較例1は、2つの検出器20,22を合体させたものに相当する大面積型の検出器を用いた場合における信号処理後の信号波形を示している。そのような大面積型の検出器は物理的に1枚の検出器として構成することもできるし、図示されるような2つの検出器20,22の検出信号を単純加算することによって構成することもできる。いずれにしても、(B)に示すように、信号波形は位置100から立ち上がって徐々に増大して位置104においてピークとなり、その上に減衰カーブを描いている。位置100は検出器20の前端に相当しており、位置102は検出器20と検出器22との間の境目位置に相当しており、位置104は検出器22の後端に相当している。符号101は検出器20の検出領域に相当しており、これは後に説明する第1期間に相当する。また、符号103は検出器22における検出領域を表しており、それは後に説明する第2期間に相当する。
【0028】
(E)には、比較例2として、検出器20の検出信号に対する信号処理を行って得られた出力信号と検出器22の検出信号に対する信号処理を行って得られた出力信号とを単純加算して得られた合成出力信号を表している。すなわち、検出器20による指示値と検出器22による指示値との和に相当している。この(E)に示す信号波形においては、位置100において立ち上がりが認められ、位置104においてピークが認められ、その後において減衰カーブが描かれている。
【0029】
(F)には、後に詳述する本実施形態によって得られる合成信号波形が示されている。(F)に示す信号波形は、(B)及び(E)に示した信号波形と形態面において同じであるが、後に詳述するように、バックグラウンドの面において本実施形態の方が優れている。結論を先に言えば、図1に示すモデルにおいては、(C)及び(D)に示す個々の検出器単体のバックグランド(BG)が例えばα/2である場合、(B)に示した比較例1及び(E)に示した比較例2のいずれにおいてもバックグランドがαとなるのに対し、本実施形態によれば、そのバックグランドを個々の検出器の場合と同様のα/2にすることが可能となる。もちろん、バックグラウンドの値は諸状況によって変動するものである。
【0030】
したがって、本実施形態によれば、(B)に示した比較例1及び(E)に示した比較例2と同様の指示値を得つつも、バックグランドを上記の例では2分の1にすることができるので、S/N比を2倍にすることが可能となる。よって、搬送速度を維持する場合においては検出限界を大幅に引き下げることが可能となり、あるいは、検出限界を維持するならば搬送速度をより高めることが可能となる。特に、放射線管理区域の出入り口においては物品モニタへ投入すべき物品数が非常に多く、このため物品モニタの投入側において投入すべき物品が渋滞してしまうといった問題も指摘されているが、本実施形態によれば、搬送速度を向上できるので、そのような問題に効果的に対処することが可能となる。あるいは、従来同様の搬送速度を維持した場合においては、検出限界を引き下げることが可能となるので、対象物品に生じたより低レベルの汚染までを的確に測定することができ、放射性物質による汚染管理をより徹底することが可能となる。
【0031】
次に、図2を用いて本実施形態の構成について説明する。
【0032】
上述したように、物品モニタは、本実施形態において2つの検出器20,22を有している。前検出器20及び後検出器22は互いに同一の構成を有している。前検出器20は平板型のシンチレータ24と光電子増倍管(PMT)26とを有しており、これと同様に、後検出器22もシンチレータ50と光電子増倍管52とを有している。もちろん、本実施形態においては2つの検出器20,22が設けられていたが、3つあるいはそれ以上の検出器を設け、以下に説明する原理を拡張適用するようにしてもよい。
【0033】
2つの検出器20,22に対応してそれらの後段には2つの信号処理ユニット200,202が設けられている。各信号処理ユニット200,202は基本的に互いに同様の構成を有しているが、上流側に相当する信号処理ユニット200から下流側に相当する信号処理ユニット202に対してユニット間帰還信号が与えられている点及びそれに関連して付随的な構成が設けられている点が異なっている。これについて以下に詳述する。
【0034】
信号処理ユニット200は、検出器20からの検出信号を増幅するアンプ28、アンプ28からの信号を波高弁別する弁別器30、弁別器30によって弁別された信号(パルス)を計数するカウンタ32、及び、カウンタ32の値を定期的に読み取って計数率(レート)を演算する演算器34を有している。ちなみに、カウンタ32は所定時間(例えば1秒)ごとにリセットされるものであり、演算器34はカウンタ32のリセットに同期して1秒間におけるカウント値を読み取ってそれを所定時間(1秒)で割ることによって単位時間当たりの計数をレートとして演算する。その演算結果であるレートを表す信号(それも検出信号の一種である)は後段に設けられているスムージング処理器36の一方の入力端子に与えられている。
【0035】
スムージング処理器36は、帰還型積分処理を実行する回路であり、具体的には、以下に示すような計算を実行する。ちなみに、rnは演算器34から出力される信号を表し、Rn-1はスムージング処理器36の出力信号すなわち帰還信号を表している。ここでnはサイクル数を表している。他方の入力端子には帰還信号が入力される。
【0036】
n=Rn-1・x+rn・(1−x)・・・(1)
【0037】
上記においてxは時定数によって定まる重み値である。ただし、0<x<1である。具体的には、xは以下のように定められる。
【0038】
x=exp(−t/τ)・・・(2)
【0039】
上記のτは時定数に相当する。ただし、本実施形態ではτは1〜999の範囲内においてユーザーによりあるいは自動的に可変設定可能なものである。ちなみにτの単位はsecである。また、tはカウンタ32をリセットする所定の時間間隔であり、単位はsecである。
【0040】
したがって、スムージング処理器36は、時定数にしたがった重み付け加算を実行しており、具体的には、入力される検出信号と入力される帰還信号に対して重み付け加算を行って、スムージング処理後の信号を出力している。その信号は次の重み付け加算において入力信号となるものである。このようなスムージング処理により図1の(C)に示したような信号波形が得られることになる。
【0041】
スムージング処理器36の後段に設けられたバックグランド減算器38は、あらかじめ対象物品を入れていない状態で測定を行って得られたバックグランド値を、現在測定されている値から減算する回路である。あらかじめ測定されているバックグランド値はメモリ40内に格納されている。ベクレル換算器42は、バックグランド減算処理後の信号に対してベクレル単位への換算を行って、当該信号処理ユニット200の出力信号としての指示値106を求めるものである。ベクレル換算器42は計数器20における計数効率を考慮して換算処理を行っている。通常、検出器20と検出器22において計数効率はほぼ同じであるが、それでも若干両者間において計数効率に差が認められるため、各信号処理ユニット200,202のそれぞれにおいて個別的に換算処理が行われている。これはバックグランドの減算についても同様に言えることである。
【0042】
一方、信号処理ユニット202は上記の信号処理ユニット200と同様に、アンプ54、弁別器56、カウンタ58、演算器60、スムージング処理器62、バックグランド減算器66、メモリ68及びベクレル換算器70を有している。ただし、信号処理ユニット200から得られるスムージング処理後の参照信号に基づいてユニット間帰還信号が生成されており、そのユニット間帰還信号をスムージング処理器62の第2の入力端子に入力させることが可能となっている。これについて詳述する。
【0043】
比較制御部44は、信号処理ユニット200の出力信号としての指示値106と、信号処理ユニット202の出力信号としての指示値108との相対比較を行う。そして、指示値106の方が指示値108よりも大きい場合、すなわち第1期間内であると判断された場合には、スイッチ64,78において接点bを選択する。すなわち、その状態では第1処理ユニット200からの指示値106が信号処理ユニット202に渡されてそれに基づいてスムージング処理が行われることになる。なお、逆処理器72の作用については後に説明する。
【0044】
一方、比較制御部44は、指示値106よりも指示値108の方が大きくなった場合にはそれを判定し、すなわち第2期間を判定し、スイッチ64及びスイッチ78において接点aを選択する。つまり、その状態では、信号処理ユニット202は上記信号処理ユニット200と同様の動作を行うことになる。スイッチ64は、スムージング処理器62における第2の入力端子に、信号処理ユニット200の指示値106に基づくユニット間帰還信号を与え、あるいは、スムージング処理器62それ自体の出力信号としての帰還信号を与えるものである。第1期間においては、すなわち図1に示した符号101で示される期間においては、スムージング処理器62の第2の入力端子に対してユニット間帰還信号が与えられ、すなわちユニット間において上流から下流へスムージング処理後の結果が受け渡されることになり、一方、図1に示した第2期間103においては、スムージング処理器62の第2の入力端子にそれ自体の帰還信号が与えられて通常のスムージング処理がなされる。
【0045】
上記の逆処理器72は、ベクレル換算処理の逆処理とバックグランドの加算処理とを行うものであり、これはスムージング処理器62における入力側の信号形態に信号処理ユニット200の出力信号の形態を整合させるものである。バックグランド減算器66は後検出器22を用いてあらかじめ計測されたバックグランドの減算を行っており、ベクレル換算器70は後検出器22についての計数効率を考慮してベクトル単位の換算処理を行っている。これに対応して、逆処理器72においては、後検出器22の計数効率及びバックグランドが考慮されて逆処理がなされている。すなわち、指示値106,108はそれぞれ共通の単位をもって標準化されているが、スムージング処理器62の入力側においては後検出器22あるいは信号処理ユニット202の固有の特性を考慮する必要があるため、上記のような逆処理器72が設けられている。
【0046】
図2に示す構成において、上述したようにスイッチ64は帰還信号の選択スイッチとして機能し、一方、スイッチ78は指示値の選択スイッチとして機能する。選択された指示値すなわち出力信号は演算処理部80に入力される。演算処理部80においては選択された各信号を連結することによって合成出力信号を生成する。その合成出力信号は図1における(F)に示した信号波形に相当するものである。演算処理部80は本実施形態においてアラーム判定機能を有しており、合成出力信号における値が一定値を超えた場合にはアラームを発生する。
【0047】
表示器82には、演算処理部80から出力された信号が数値あるいはグラフとして表示される。すなわち合成出力信号に基づく値が数値として表示され、あるいは図1の(F)に示したような波形がグラフとして表示されることになる。もちろんそれ以外の情報を表示するようにしてもよい。
【0048】
図2に示す構成例において、カウンタ32,58以降の機能についてはハードウエアによって構成することもできるが、実質的にソフトウエアの機能として実現するようにしてもよい。すなわちスイッチ64,78等は発明説明のために描かれているのであって、信号あるいは情報を切り替える機能が存在していればよいものである。スムージング処理器62においては、上記の(1)式にしたがった重み付け加算処理が実行されている。ただし、上述したように、後検出器22が担当する第2期間に先立って、帰還信号としてユニット間帰還信号が与えられており、上流側において測定された結果が下流側に帰還信号として承継されている。その上で、第2期間に入った段階においては、通常通り、自己の帰還信号が重み付け加算において利用されることになる。
【0049】
したがって、各時刻においては小面積での放射線の測定が行われることになり、不必要に広い検出面積を用いて測定を行うのではないため、バックグラウンドを低減して結果としてS/N比を向上することができる。しかも、単純に小面積にすると指示値も小さくなってしまうが、本実施形態においては信号処理ユニット間において前段の信号処理ユニットにおいて求められた結果値を後段の信号処理ユニットにおけるスムージングの基礎に利用することができるので、結果として大面積型の検出器を用いて測定を行った場合と同等あるいはそれに近い指示値を得られるという利点がある。つまり、検出感度を高めることが可能となる。したがって、上述したように検出限界を引き下げることが可能であるので、より高感度の汚染測定を実現でき、あるいは、検出感度を維持するのであれば搬送速度を高めることができるので、物品モニタの投入側における対象物品の渋滞といった問題に効果的に対処できるという利点がある。
【0050】
上記実施形態においては、比較制御部44がそれぞれの信号処理ユニットの出力信号(指示値)106,108を参照するようにしたが、スムージング処理器36,62の出力信号等を参照することも可能である。ただし、そのような場合には、各検出器固有のバックグランドや計数効率の差を十分に考慮して正確な判定を行えない面を指摘できる。したがって、そのような問題が生じない限りにおいて上記変形例を採用するのが望ましい。また、上記実施形態においてはユニット間帰還信号として指示値106に基づく信号を利用したが、スムージング処理器36の出力信号をユニット間帰還信号としてスムージング処理機62の第2の入力端子に与えるように構成してもよい。また、上記実施形態においては比較制御部44によって2つの指示値の比較においてスイッチ64,78の動作を制御したが、測定室内における対象物品の搬送位置に応じて画一的に制御を行うことも可能である。ただし、それに比べて、本実施形態によれば実際に指示値の比較を行うのでより正確かつ的確な制御を行えるという利点がある。
【0051】
上記実施形態においては搬送経路に沿って2つの検出器が設けられていたが、3つあるいはそれ以上の検出器を並べて配置するようにしてもよい。その場合においても、図1及び図2に示した原理を拡張適用することが可能である。すなわちi番目の検出ユニットにおけるスムージング処理結果をi+1番目の信号処理ユニットにおけるスムージングに反映させるようにすればよい。そのような構成によっても、対象物品の搬送に伴って、小面積をもった検出器を段階的にシフトした場合と同様の結果を得ることができ、すなわち十分な指示値を得つつバックグランドを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る実施形態の原理を説明するための概念図である。
【図2】本実施形態に係る物品モニタの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
10 物品モニタ、14 測定室、16 コンベア、18 対象物品、20 前検出器、22 後検出器、36,62 スムージング処理器、72 逆処理器、200,202 信号処理ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物品の搬送経路に沿って並んで設けられ、前記対象物品からの放射線を検出する複数の検出器と、
前記複数の検出器に対応して設けられた複数のユニットであって、それぞれがスムージング処理を実行するスムージング処理器を有する複数の信号処理ユニットと、
前記対象物品の搬送に伴って、前記複数の信号処理ユニットの出力信号を検出器配列順で順番に選択し、選択された出力信号によって構成される合成出力信号を生成する制御部と、
を含み、
前記複数の信号処理ユニットにおける隣接ユニット間では、第i番目の信号処理ユニットにおけるスムージング処理結果が、第i+1番目の信号処理ユニットにおけるスムージング処理に引き継がれる、
ことを特徴とする物品モニタ。
【請求項2】
対象物品の搬送経路に沿って並んで設けられ、前記対象物品からの放射線を検出する第1及び第2検出器と、
前記第1及び第2検出器に対応して設けられた2つのユニットであって、それぞれが帰還型積分処理としてのスムージング処理を実行するスムージング処理器を有する第1及び第2信号処理ユニットと、
前記対象物品の搬送に伴って、前記第1信号処理ユニットから取り出されるスムージング処理後の第1参照信号と前記第2信号処理ユニットから取り出されるスムージング処理後の第2参照信号とを比較し、前記第2参照信号が前記第1参照信号に達するまでの第1期間及び前記第2参照信号が前記第1参照信号を超えた以後の第2期間を判定する判定器と、
前記第1期間から前記第2期間への移行に際して、前記第1信号処理ユニットにおけるスムージング処理結果が前記第2信号処理ユニットにおけるスムージング処理に引き継がれるように制御を実行し、且つ、前記第1期間においては前記第1信号処理ユニットの第1出力信号を選択すると共に前記第2期間においては前記第2信号処理ユニットの第2出力信号を選択する制御部と、
を含むことを特徴とする物品モニタ。
【請求項3】
請求項2記載の物品モニタにおいて、
前記第1参照信号は前記第1出力信号であり、
前記第2参照信号は前記第2出力信号であり、
前記第1出力信号及び前記第2出力信号は、所定単位に換算された信号であることを特徴とする物品モニタ。
【請求項4】
請求項2記載の物品モニタにおいて、
前記第1信号処理ユニットにおける第1スムージング処理器は、前記第1期間において、前記第1検出器からの第1検出信号と、当該第1スムージング処理器による第1スムージング処理後の第1帰還信号と、を重み付け加算し、
前記第2信号処理ユニットにおける第2スムージング処理器は、前記第1期間において、前記第2検出器からの第2検出信号と、前記第1信号処理ユニットから取り出されるスムージング処理後の所定信号に基づいて生成されるユニット間帰還信号と、を重み付け加算し、及び、前記第2期間において、前記第2検出器からの検出信号と、当該第2スムージング処理器によるスムージング処理後の第2帰還信号と、を重み付け加算する、
ことを特徴とする物品モニタ。
【請求項5】
請求項4記載の物品モニタにおいて、
前記所定信号は前記第1出力信号であり、
前記第1出力信号に対して、前記第2信号処理ユニットにおけるスムージング処理後の処理と逆の処理を施すことによって、前記ユニット間帰還信号を生成する逆処理器が設けられた、
ことを特徴とする物品モニタ。
【請求項6】
請求項2記載の物品モニタにおいて、
前記各信号処理ユニットは、前記スムージング処理器の後段に、信号から予め取得されたバックグランド値を除外する演算器及び信号に対して検出効率を考慮して換算を行う演算器を備える、
ことを特徴とする物品モニタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−114161(P2007−114161A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308761(P2005−308761)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】