説明

物標探知装置、物標探知方法、および物標探知プログラム

【課題】より正確なスキャン相関処理を行える物標探知装置を実現する。
【解決手段】物標探知装置100の相関処理部6は、スイープメモリ2に記憶された極座標系のエコーデータと、読出用メモリ70Bにて極座標系で記憶された前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データとを、スキャン相関処理する。この際、アドレス決定部5は、アンテナ回転情報取得部3からのアンテナ回転情報と位置検出部4からの位置情報および船首方位とを用いて、スイープメモリ2からのエコーデータと、読出用メモリ70Bからのスキャン相関処理後記憶データとの座標系を一致させるように、読出アドレスを設定して、読出用メモリ70Bへ与える。書込用メモリ70Aは、アドレス決定部5により今回スキャンの基準タイミングの座標系で設定された書込アドレスに準じて、相関処理部6からのスキャン相関処理後データを記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物標探知用の信号を放射し、反射信号を受信して、当該受信信号から所定探知範囲の物標探知データを形成する、物標探知装置、物標探知方法および物標探知プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶等に搭載される物標探知装置は、アンテナを一定の角速度で回転させながらパルス状の電波信号を所定の時間間隔で順次放射し、各パルス状電波信号に対する受信信号を取得することで、物標探知装置およびこれを搭載する船舶等を中心とする全周に対して物標探知のためのエコーデータを形成する。
【0003】
この際、例えば、船舶であれば、他船やブイ等の実際に存在する物標からの反射信号のみでなく、海面反射による反射信号等のクラッタを受信してしまい、当該クラッタが物標探知データに現れてしまうことがある。
【0004】
このような問題を解決する方法として、特許文献1や特許文献2に示すようなスキャン相関処理がこれまで多く利用されている。スキャン相関処理とは、アンテナ1回転分の物標探知を1スキャンとして、前回スキャンと今回スキャンとにおける同じ位置で得られたエコーデータ同士を比較し、重み付け合成することによって、再現性のないエコーを抑圧するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4195128号公報
【特許文献2】特許第3162660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の特許文献1,2に示すような従来の物標探知装置では、R−θ座標系すなわち極座標系で得られたエコーデータを、X−Y座標系すなわち直交座標系の画素データに変換した後に、スキャン相関処理を実行する。すなわち、従来の物標探知装置は、各方位θの距離R方向にならぶエコーデータ群からなるスイープデータを取得すると、当該スイープデータの各エコーデータを、直交座標系で設定された相関処理用メモリの画素データに割り当てて、画素データとこの画素データに対応する直交座標位置の前回スキャンによるスキャン相関データとの間で上述のスキャン相関処理を実行し、当該画素データを更新記憶する処理を行う。
【0007】
このような直交座標系でのスキャン相関処理では、当該スキャン相関用の直交座標系のデータ量が、1スイープ分の極座標系のスイープデータ群のデータ量よりも大幅に大きくなる。また、極座標系から直交座標系への変換の際に、エコーデータの選択や補間データの作成を行わなければならなず、生のエコーデータをスキャン相関処理にそのまま利用できない。
【0008】
したがって、この発明の目的は、スキャン相関処理に利用するメモリ容量を抑制しながら、より正確なスキャン相関処理を行える物標探知装置、物標探知方法、物標探知プログラムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、アンテナから電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成するレーダ装置等の物標探知装置に関するものである。この物標探知装置は、記憶部、スキャン相関処理部を備える。
【0010】
記憶部は、探知領域全体のエコーデータの1回分を、1スキャン分のエコーデータとして受信の座標系で記憶する。スキャン相関処理部は、受信の座標系の各エコーデータの受信タイミングでの原点および基準方位に基づいて、スキャン相関対象のエコーデータと、該スキャン相関対象のエコーデータと受信の座標系において同じ位置の別のエコーデータもしくは相関処理後のエコーデータとを、受信の座標系でスキャン相関処理する。
【0011】
この構成では、探知領域全体のエコーデータを表す1スキャン分のエコーデータが、受信の座標系のまま記憶される。そして、受信信号に基づいて新たにエコーデータが形成されると、それぞれの原点と基準方位とに基づいて、前回スキャンにおける新たなエコーデータと同じ位置のデータが読み出され、受信の座標系のままでスキャン相関処理される。これにより、分解能を高くすることができる。
【0012】
また、この発明は、アンテナを所定周期で回転させながら電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知装置に関するものである。この物標探知装置は、極座標系記憶部と、スキャン相関処理部とを備える。極座標系記憶部は、アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第1のエコーデータを記憶する第1のメモリと、第1のエコーデータとは異なるアンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第2のエコーデータを記憶する第2のメモリとを備える。スキャン相関処理部は、第1のエコーデータの極座標系の原点および基準方位と第2のエコーデータの極座標系の原点および基準方位とをそれぞれに一致させて第1のエコーデータと前記第2のエコーデータとの間でスキャン相関処理を行う。
【0013】
この構成は、上述の受信の座標系のままでスキャン相関処理を行う、より具体的な例として、極座標系でエコーデータが得られる場合の構成について示している。そして、この極座標系のスキャン相関処理を実現する、より具体的な記憶部の構成として、それぞれが極座標系で設定された第1のメモリと第2のメモリとを備える極座標系記憶部を用いることを示している。
【0014】
また、この発明の物標探知装置のスキャン相関処理部は、第1のエコーデータが得られるアンテナの位置に対して、第2のエコーデータが得られるアンテナの位置をオフセットさせることで原点を一致させる。さらに、スキャン相関処理部は、アンテナの基準方位を定め、第1のエコーデータの極座標系の基準方位と第2のエコーデータの極座標系の基準方位とを、アンテナの基準方位に一致させて、スキャン相関処理を行う。
【0015】
この構成では、スキャン相関処理部で実行される上述の極座標系によるスキャン相関処理をより具体的に示したものである。
【0016】
そして、このような極座標系の処理の場合、アンテナから所定角度間隔(所定タイミング間隔)で放射される電波信号の受信信号で得られる各エコーデータは、アンテナを中心として方位毎に距離方向へ複数データが列ぶスイープデータを一単位として取得される。したがって、複数のスイープデータで構成される全体のエコーデータ群は、直交座標系ではアンテナの位置を中心にして所定角度間隔で放射状に得られる。
【0017】
この場合、中心付近ではエコーデータが集中し、直交座標系の1つの画素に対して複数のエコーデータが重複し、直交座標系に変換する場合、画素毎の代表データを形成しなければならない。これにより、極座標系で得られたエコーデータを直交座標系に変換してスキャン相関処理を行う場合、中心付近では画素毎に代表データによるスキャン相関処理が行われるため、生のエコーデータをそのまま用いてスキャン相関処理を行うことができない。しかしながら、本願の構成を用いることで、中心付近の領域に対して、代表データの形成等を行うことなく、受信信号に基づく生のエコーデータをそのまま用いてスキャン相関処理ができる。すなわち、近距離でのスキャン相関処理の分解能を高くすることができる。
【0018】
また、物標探知装置から遠い領域では、上記中心付近とは逆に、スイープデータを構成する各エコーデータが該当しない画素が生じ、当該画素に対しては生のエコーデータを用いて補間データを生成して記憶させ、スキャン相関処理に利用しなければならない。しかしながら、本願の構成を用いることで、遠方領域に対して、生のエコーデータをそのまま用いてスキャン相関処理ができる。
【0019】
この際、座標変換を行う前の極座標系のエコーデータのデータ量は、直交座標系の画素データのデータ量に対して、例えば半分以下等と少なくなるので、メモリリソースの節約も可能になる。
【0020】
また、この発明の物標探知装置の極座標系記憶部は、第1のメモリと第2のメモリに対して、アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分のエコーデータを順次1スキャン毎に切り替えて書き込み制御するととともに、スキャン相関処理に必要なエコーデータを読み出し制御するメモリ制御部を、備える。
【0021】
この構成では、上述の第1のメモリ、第2のメモリを用いた場合のスキャン相関処理時の書き込み制御と読み出し制御とをより具体的に示したものである。
【0022】
また、この発明の物標探知装置の第1のメモリと第2のメモリとは、物理的に異なるメモリ素子からなる。
【0023】
この構成では、二つのエコーデータが記憶されるメモリを、物理的に異なるメモリで実現する場合を示している。
【0024】
また、この発明の物標探知装置の第1のメモリと第2のメモリとは、物理的に単一なメモリにおける重なり合わない個別のアドレス領域により実現される。
【0025】
この構成では、第1のメモリと第2のメモリとを物理的には単一のメモリで実現し、当該単一のメモリ内における全く別の領域に割り当てる場合を示している。
【0026】
また、この発明は、アンテナを所定周期で回転させながら電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知装置に関するものである。この物標探知装置は、極座標系記憶部、およびスキャン相関処理部を備える。極座標系記憶部は、単一の読書兼用メモリを備え、アンテナの1回転で得られるエコーデータを1スキャン分のエコーデータとし、当該1スキャン分のエコーデータを、距離と方位とから設定される極座標系のデータで、単一の読書兼用メモリに対して記憶する。スキャン相関処理部は、前回スキャンの基準タイミングと今回スキャン中でのスキャン相関対象のエコーデータのタイミングとの原点および基準方位の差に基づいて、スキャン相関対象のエコーデータと、記憶されている前回スキャンでのスキャン相関対象のエコーデータの位置に当たるデータとを極座標系でスキャン相関処理する。
【0027】
この構成では、上述のような独立した第1のメモリと第2のメモリとを備えるのではなく、単一の読書兼用メモリを用いている。例えば、自装置が停止していたり超低速の場合には、上述のような1スキャン中の2重のスキャン相関処理の問題は生じないので、単一の読書兼用メモリを用いることが可能である。
【0028】
また、この発明の物標探知装置の極座標系記憶部は、読書兼用メモリよりもメモリ容量の少ない補助メモリを備える。そして、スキャン相関処理部は、補助メモリの対応する領域に対しては、補助メモリと、読書兼用メモリの補助メモリに対応する範囲のメモリとに対して、データの読み出し書き込みをスキャン毎に切り替えて実行する。
【0029】
また、この発明の物標探知装置の補助メモリは、原点及び基準方位の遷移から、対応する領域が決定される。
【0030】
この構成では、単一の読書兼用メモリを用いる場合では、上述の2重のスキャン相関処理を起こす可能性があるが、当該現象が生じる領域のみに対して、読書兼用メモリと別で容量の小さい補助メモリを用いる。これにより、上述のように同じ容量のメモリを2つ備えなくても、全領域のデータのスキャン相関処理を確実に行うことができる。
【0031】
この際、補助メモリを必要とする領域は、当該物標探知装置の移動状況すなわち位置遷移状況によって変化する。したがって、位置遷移を検出することで、補助メモリの容量を動的に且つ最適に決定することができる。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、受信信号に基づく生のスイープデータを直接利用してスキャン相関処理ができるので、従来の座標変換を行った後にスキャン相関処理を行う場合に対して、より正確なスキャン相関処理を行うことができる。これにより、より正確なスキャン相関処理後の物標探知データをオペレータに提供できる。さらに、スキャン相関処理に利用するメモリ容量を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】極座標系でスキャン相関処理する場合の位置座標シフトの概念を説明するための図である。
【図2】相関処理用のデータを読み出してスキャン相関処理を実行するまでの処理を示す図である。
【図3】スキャン相関処理後のデータを記憶する処理を示す。
【図4】第1の実施形態の物標探知装置100の主要構成を示すブロック図である。
【図5】書込用メモリ70Aのアドレス概念を示す図であり、読出用メモリ70Bのアドレス概念を示す図である。
【図6】第2の実施形態の物標探知装置100’の主要構成を示すブロック図である。
【図7】物標探知装置を搭載した自船の進行方向と逆方向の近傍に電波信号を放射した状態を示す図である。
【図8】物標探知装置を搭載した自船の進行方向と逆方向の近傍に電波信号を放射した場合、読出アドレスの分布状態を示す図である。
【図9】自船の進行方向とパルス状の電波信号の放射方向とが真逆の場合に生じる問題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の実施形態に係る物標探知装置および物標探知方法について、図を参照して説明する。なお、以下では、物標探知装置としてレーダ装置を例に示すが、本実施形態の構成を、極座標系でエコーデータを取得して物標探知を行う他の装置に適用することもできる。
まず、本実施形態の物標探知装置および物標探知方法で実現されるスキャン相関処理の概念について説明する。スキャン相関処理とは、アンテナ1回転分で得られるエコーデータ群を1スキャンのエコーデータとし、複数スキャンに亘る同じ位置のエコーデータの相関を取る処理である。具体的には、複数スキャンに亘る絶対座標系で同じ位置のエコーデータの重み付け加算で実現する。
【0035】
このようなスキャン相関処理を実行する場合、物標探知装置の位置(当該物標探知装置が装着された自船等の位置)が変化しなければ、各スキャン間で基準位置が同じになるので、各スキャンのエコーデータ間で位置座標のシフト処理を行わなくてもよい。一方で、物標探知装置の位置が変化する場合(自船等が移動する場合)、各スキャン間で基準位置が異なるので、各スキャンのエコーデータ間で位置座標のシフト処理を行わなくてはならない。さらに、1つのスキャン中であっても、物標探知装置の位置が移動すれば、この移動に準じて、各エコーデータの位置座標のシフト処理を行わなければならない。
【0036】
このため、従来の物標探知装置では、このシフト処理が行い易い直交座標系へ、極座標系からなるエコーデータを変換してからスキャン相関処理を実行していた。
【0037】
これに対し、本実施形態の物標探知装置では、次に示す原理に準じて、極座標系のままでエコーデータに対するスキャン相関処理を実行する。
【0038】
図1は、極座標系でスキャン相関処理する場合の位置座標シフトの概念を説明するための図である。ここで、図1において[Xo,Yo]で表される直交座標系が今回のスキャンにおける基準方位(真北方向)への物標探知のタイミング(基準タイミング)での座標系であり、自船90の位置が[Xo,Yo]座標系の原点となる。また、図1において[X’,Y’]で表される直交座標系が前回のスキャンにおける基準方位(真北方向)への物標探知のタイミングでの座標系であり、このタイミングでの自船90の位置が[X’,Y’]座標系の原点となる。また、図1において[X1,Y1]で表される直交座標系が今回のスキャンにおけるスキャン相関処理対象のエコーデータを取得したタイミングでの座標系であり、このタイミングでの自船90の位置が[X1,Y1]座標系の原点となる。
【0039】
この場合、今回のスキャン相関処理対象のエコーデータを取得したタイミングでの座標系と、スキャン相関処理に利用する前回スキャンの座標系とでは、原点(基準位置)が異なる。したがって、スキャン相関処理を行う場合には、これらの座標系を一致させなければならない。そこで、前回スキャンの[X’,Y’]座標系での今回のスキャン相関処理対象のエコーデータの座標を取得し、当該座標のデータをスキャン相関処理に用いる。
【0040】
具体的には、前回スキャンの[X’,Y’]座標系における、今回スキャンの[Xo,Yo]座標系の原点(基準位置)の座標を算出して、前回スキャンの基準タイミングから今回スキャンの基準タイミングまでの座標のシフト量を算出する。同様に、今回スキャンの[Xo,Yo]座標系における、今回のスキャン相関処理対象のエコーデータの取得タイミングでの[X1,Y1]座標系の原点(基準位置)の座標を算出して、今回スキャンの基準タイミングから今回のスキャン相関処理対象のエコーデータの取得タイミングまでの座標のシフト量を算出する。さらに、この[X,Y]座標系におけるスキャン相関処理対象のエコーデータの座標を算出する。次に、これらの座標シフト量や座標から、前回スキャンの[X,Y]座標系における今回のスキャン相関処理対象のエコーデータの座標を得る。そして、これらの座標関係と、エコーデータの極座標から、スキャン相関処理のために読み出すデータの極座標を算出する。
【0041】
図1の例であれば、前回スキャンの基準タイミングから今回スキャンの基準タイミングまでの座標のシフト量(x’,y’)と、今回スキャンの基準タイミングから今回のスキャン相関処理対象のエコーデータ900Eの取得タイミングまでの座標のシフト量(x,y)とから、前回スキャンの基準タイミングから今回のスキャン相関処理対象のエコーデータの取得タイミングまでの座標のシフト量(x+x’,y+y’)が得られる。
【0042】
したがって、今回のスキャン相関処理対象のエコーデータ900Eの取得タイミングにおける[X1,Y1]座標系で、(x,y)となるエコーデータ900Eは、前回スキャンの基準タイミングの[X’,Y’]座標系では(x+x+x’,y+y+y’)となる。
【0043】
ここで、エコーデータ900Eは、当該エコーデータの取得タイミングにおいて、極座標系で(R,θ)であり、当該極座標(R,θ)は、[X1,Y1]座標系では次の(式1)で表される。
【0044】
【数1】

【0045】
一方、エコーデータ900Eは、前回スキャンの基準タイミングにおいて、極座標系で(R’,θ’)とすると、図1および上述の座標シフトの関係から、[X’,Y’]座標系では次の(式2)で表される。
【0046】
【数2】

【0047】
したがって、前回スキャンの[X’,Y’]座標系でのエコーデータ900Eに対応する極座標(R’,θ’)は、実際にエコーデータ900Eを取得したタイミングの[X1,Y1]座標系での極座標(R,θ)を用いて、次の(式3)で表すことができる。
【0048】
【数3】

【0049】
ここで、A11,A12,A21,A22は、上述の(式1)、(式2)より得られる、x,x,x’,y,y,y’とその三角関数から得られる変換パラメータである。
【0050】
エコーデータ900Eの取得タイミングでの極座標(R,θ)は観測値であり、x,x,x’,y,y,y’、すなわち、変換パラメータA11,A12,A21,A22は、自船90(物標探知装置)の位置遷移を検出して、各タイミングでの座標系を真北基準に統一することで得られる。
【0051】
このように、(式3)に示すような処理を行うことで、エコーデータ900Eのスキャン相関処理対象となる前回スキャンのデータが極座標系で記憶されていても、正確に読み出すことができる。したがって、極座標系のままで、スキャン相関処理が可能になる。
【0052】
ところで、このようなスキャン相関を行う場合には、1スキャン分のエコーデータの基準位置を一致させて記憶する必要がある。このため、エコーデータ900Eに対するスキャン相関処理結果は、今回スキャンの基準タイミングの座標系すなわち[Xo,Yo]座標系で記憶させる必要がある。
【0053】
ここで、エコーデータ900Eは、今回スキャンの基準タイミングの極座標系で(R,θ)であるとすると、図1および上述の座標シフトの関係から、[Xo,Yo]座標系では次の(式4)で表される。
【0054】
【数4】

【0055】
したがって、今回スキャンの[Xo,Yo]座標系でのエコーデータ900Eに対応する極座標(R,θ)は、実際にエコーデータ900Eを取得したタイミングの[X1,Y1]座標系での極座標(R,θ)を用いて、次の(式5)で表すことができる。
【0056】
【数5】

【0057】
ここで、B11,B12,B21,B22は、上述の(式1)、(式4)より得られる、x,x,y,yとその三角関数から得られる変換パラメータである。
【0058】
エコーデータ900Eの取得タイミングでの極座標(R,θ)は観測値であり、x,x,y,y、すなわち、変換パラメータB11,B12,B21,B22は、自船90(物標探知装置)の位置遷移を検出して、各タイミングでの座標系を真北基準に統一することで得られる。
【0059】
このように、(式5)に示すような処理を行うことで、エコーデータ900Eに対するスキャン相関処理結果のデータが極座標系で記憶される場合にも、今回スキャンの基準タイミングの座標系に準じて正確に記憶される。したがって、極座標系のままで、次のスキャン相関処理のためのデータを記憶することができる。
【0060】
次に、具体的なスキャン相関処理の例について、図2および図3を参照して説明する。
【0061】
図2、図3は本実施形態の物標探知装置によって実行されるスキャン相関処理の具体的方法を説明するための図である。図2は、相関処理用のデータを読み出してスキャン相関処理を実行するまでの処理を示し、図3はスキャン相関処理後のデータを記憶する処理を示す。
【0062】
図2に示すように、時刻t=T1のタイミングで、自船90の物標探知装置からは、真北方向(基準方位)に対して方位角θ1の方位にパルス状電波信号が放射され、受信信号が得られたものとする。物標探知装置は、この受信信号から、距離R方向へ列ぶエコーデータ(ED)群からなるスイープデータを生成する。ここで、例えば、エコーデータED110は、時刻t=T1での自船90の位置から距離R110の箇所のエコーデータであり、エコーデータED111は、時刻t=T1での自船90の位置から距離R111の箇所のエコーデータであり、エコーデータED112は、時刻t=T1での自船90の位置から距離R112の箇所のエコーデータである。
【0063】
物標探知装置は、時刻t=T1のタイミングを含む今回スキャンの直前のスキャンに当たる前回スキャンで得られたスキャン相関処理後の記憶データを、読出用メモリから読み出す。この際、読出用メモリは、一方軸を方位θ’とし、他方軸を距離R’とする二次元配列されたアドレスからなり(図2の例であれば、横軸が方位θ’で縦軸が距離R’)、前回スキャンの基準タイミングの極座標系(直交座標系で表せば[X’,Y’]座標系に相当)でスキャン相関処理後のデータが記憶されている。
【0064】
ここで、自船90は図2に示すように、前回スキャンの基準方位でのタイミング(前回基準タイミング)t=T’から、当該スイープデータのタイミングt=T1の間で、移動しており、互いの極座標系の基準位置が異なる。このため、物標探知装置は、スイープデータの各エコーデータに対応する、前回スキャンの基準タイミングでの極座標を、上述の(式3)を用いて算出する。例えば、エコーデータED110の極座標として(R110’,θ110’)、エコーデータED111の極座標として(R111’,θ111’)、エコーデータED112の極座標として(R112’,θ112’)、を算出する。
【0065】
次に、物標探知装置は、上述のように(式3)から得られた前回スキャンの基準タイミングの座標系の座標に基づいて、スイープデータの各エコーデータに対応するスキャン相関処理後のデータを読み出す。例えば、エコーデータED110に対して、読み出しメモリの極座標(R110’,θ110’)に対応するアドレスに記憶されたスキャン相関処理後記憶データMD110’を読み出す。同様に、エコーデータED111に対して、読み出しメモリの極座標(R111’,θ111’)に対応するアドレスに記憶されたスキャン相関処理後記憶データMD111’を読み出す。さらに、エコーデータED112に対して、読み出しメモリの極座標(R112’,θ112’)に対応するアドレスに記憶されたスキャン相関処理後記憶データMD112’を読み出す。
【0066】
次に、物標探知装置は、スイープデータの各エコーデータ(ED)と、これらのエコーデータのスキャン相関処理対象である前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データ(MD)とを用いてスキャン相関処理して、スキャン相関処理後データ(MED)を生成する。例えば、エコーデータED110と前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データMD110’とでスキャン相関処理後データMED110を算出し、エコーデータED111と前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データMD111’とでスキャン相関処理後データMED111を算出し、エコーデータED112と前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データMD112’とでスキャン相関処理後データMED112を算出する。ここでスキャン相関処理の演算としては、例えば重み付け平均処理や、最大値抽出処理、最小値抽出処理等を用いる。
【0067】
次に、物標探知装置は、算出されたスキャン相関処理後データ(MED)を、書込用メモリへ記憶させる。この際、書込用メモリは、一方軸を方位θoとし、他方軸を距離Roとする二次元配列されたアドレスからなり(図3の例であれば、横軸が方位θoで縦軸が距離Ro)、算出されたスキャン相関処理後データの元となるスイープデータを含む今回スキャンの基準タイミング(真北方位に電波信号を放射するタイミング)の極座標系(直交座標系で表せば[Xo,Yo]座標系に相当)で設定されている。
【0068】
ここで、自船90は図3に示すように、今回スキャンの基準方位でのタイミング(今回基準タイミング)t=Toから、当該スイープデータのタイミングt=T1の間でも、移動しており、互いの極座標系の基準位置が異なる。このため、物標探知装置は、スイープデータの各エコーデータに対応する、今回スキャンの基準タイミングでの極座標を、上述の(式5)を用いて算出する。例えば、エコーデータED110の極座標として(Ro110,θo110)、エコーデータED111の極座標として(Ro111,θo111)、エコーデータED112の極座標として(Ro112,θo112)、を算出する。
【0069】
次に、物標探知装置は、スイープデータの各エコーデータ(ED)に対応するスキャン相関処理後データ(MED)を、算出した今回スキャンの基準タイミングの座標で、書込用メモリへ記憶する。例えば、エコーデータED110に対応するスキャン相関処理後データMED110を、書込用メモリへ極座標(Ro110,θo110)で記憶し、エコーデータED111に対応するスキャン相関処理後データMED111を、書込用メモリへ極座標(Ro111,θo111)で記憶し、エコーデータED112に対応するスキャン相関処理後データMED112を、書込用メモリへ極座標(Ro112,θo112)で記憶する。このように今回スキャンのスキャン相関処理後データ(MED)が記憶された書込用メモリは、当該今回スキャンの次のスキャン(次回スキャン)の際には、読出用メモリに設定され、各スキャン相関処理後データ(MED)は、スキャン相関処理後記憶データ(MD)として、読み出される。
【0070】
以上のような処理を行うことで、極座標系で取得されたスイープデータの各エコーデータを、極座標系のままでスキャン相関処理することができる。さらに、極座標系で算出されたスキャン相関処理後データを極座標系のまま記憶することができる。
【0071】
これにより、装置近傍のデータを選択したり、遠方に補間データを生成せずとも、スキャン相関処理ができ、受信信号からそのまま生成されるスイープデータが有する物標情報を正確に反映した状態でスキャン相関処理を実現することができる。また、従来のように直交座標系でスキャン相関処理後のデータを記憶するよりも、極座標系で記憶することで、記憶容量を低減させることができる。
【0072】
上述の処理を実現するため、本実施形態の物標探知装置は、図4に示す構成を備える。図4は、本実施形態の物標探知装置100の主要構成を示すブロック図である。
【0073】
物標探知装置100は、A/D変換部1、スイープメモリ2、アンテナ回転情報取得部3、位置検出部4、アドレス決定部5、相関処理部6、および極座標系メモリ7を備える。
【0074】
物標探知装置100にはアンテナ91と表示装置101とが接続されている。物標探知装置100のA/D変換部1およびアンテナ回転情報取得部3にはアンテナ91が接続されている。物標探知装置100の極座標系メモリ7には表示装置101の座標変換部10が接続され、当該座標変換部10には表示用画像メモリ11が接続され、当該表示用画像メモリ11には表示器12が接続されている。
【0075】
物標探知装置100に接続するアンテナ91は、所定の回転速度で回転しながら、図示しない放射部で生成されたパルス状の電波信号を所定の指向性で放射する。この際、物標探知の方位分解能等に応じて、アンテナ91の一回転中に所定数のパルス状の電波信号が放射されるように、パルス状の電波信号の放射時間の間隔が設定されている。そして、アンテナ91は、放射されたパルス状の電波信号が、探知領域内の物標等に反射されてなる反射信号を受波して、受信信号をA/D変換部1へ出力する。また、アンテナ91は、自身の回転情報をアンテナ回転情報取得部3へ出力する。
【0076】
A/D変換部1は、距離分解能に基づいてサンプリング処理を行い、アナログ形式の受信信号を、距離方向に列ぶデジタル形式のエコーデータに変換し、スイープメモリ2へ出力する。
【0077】
スイープメモリ2は、A/D変換部1から順次入力されるエコーデータを、距離方向に列ぶデータ列群として順次記憶していく。そして、スイープメモリ2は、1スイープ分のエコーデータを記憶すると、当該1スイープ分のエコーデータを相関処理部9へ出力する。
【0078】
アンテナ回転情報取得部3は、アンテナ91から順次入力される回転情報に基づいて、各スイープの設置基準方位(例えば船首方位)に対する方位角を算出し、アドレス決定部5へ出力する。
【0079】
位置検出部4は、GPS測位装置やジャイロセンサ等を有し、物標探知装置100、表示装置101およびアンテナ91が搭載された自船90の位置情報および船首方位を、所定タイミング毎に検出し、アドレス決定部5へ出力する。
【0080】
アドレス決定部5は、アンテナ回転情報取得部3からの方位角と、位置検出部4からの位置情報および船首方位とに基づいて、スキャン相関処理のための読出アドレスと書込アドレスを設定する。具体的には、アドレス決定部5は、船首方位基準の方位角と船首方位とから、真北等の不変の方位であり絶対方位を基準方位とする方位角θを順次算出する。アドレス決定部5は、算出した方位角θを所定期間に亘り記憶する。なお、この方位角θを記憶する期間は、少なくとも、最新の電波信号放射のタイミングを含む1スイープ分、および、この直前の1スイープ分あればよい。また、アドレス決定部5は、算出した方位角θのそれぞれに対して位置情報を関連付けして記憶している。
【0081】
アドレス決定部5は、算出および記憶した方位角θおよび位置情報を用いて、スキャン相関処理対象のスイープ(最新のスイープ)に対する方位角θおよび位置情報と、当該スイープに対する前回スイープの基準タイミングでの位置情報と、各エコーデータ(ED)の距離Rとから、該当スイープの距離R毎のエコーデータ(ED)に対応する各読出アドレスを、上述の(式3)を用いて算出する。読出アドレスは、(式3)に示すように極座標系で表されており、極座標系メモリ7の読出用メモリ70Bに与えられ、読出用メモリ70Bからは、指定された極座標系アドレスに準じて、前回スキャンで得られたスキャン相関処理後記憶データ(MD)が読み出され、相関処理部6へ与えられる。
【0082】
また、アドレス決定部5は、算出および記憶した方位角θおよび位置情報を用いて、スキャン相関処理対象のスイープ(最新のスイープ)に対する方位角θおよび位置情報と、当該スイープを含む今回スイープの基準タイミングでの位置情報と、各エコーデータ(ED)の距離Rとから、該当スイープの距離R毎のエコーデータ(ED)に対応するスキャン相関処理後データ(MED)を記憶する各書込アドレスを、上述の(式5)を用いて算出する。書込アドレスは、(式5)に示すように極座標系で表されており、極座標系メモリ7の書込用メモリ70Aに与えられ、書込用メモリ70Aは、指定された極座標系アドレスに準じて、相関処理部6からのスキャン相関処理後データ(MED)を順次記憶する。
【0083】
相関処理部6は、スイープメモリ2から出力されたスイープデータの各エコーデータ(ED)と読出用メモリ70Bから読み出されたスキャン相関処理後記憶データ(MD)とを用いて相関処理を行う。相関処理部6は、重み付け平均処理や最大値抽出処理、最小値抽出処理等を実現する回路からなる。なお、相関処理部6は、複数スキャン間における同じ位置のデータ間での相関度に応じて、レベルが決定される演算処理であれば、他の演算処理を用いても良い。そして、相関処理部6は、スキャン相関処理後データ(MED)を算出すると、書込用メモリ70Aへ出力する。
【0084】
極座標系メモリ7は、書込用メモリ70Aと読出用メモリ70Bとを備える。書込用メモリ70Aと読出用メモリ70Bは、図5に示すように、同じ容量で、方位および距離の2次元配列に対するアドレス設定がそれぞれの基準位置に対して同じ構成からなる。書込メモリ70Aと読出用メモリ70Bとは、それぞれに探知領域すなわち1スキャン分のスイープデータを極座標系で記憶可能なメモリ容量を有する。図5(A)は書込用メモリ70Aのアドレス概念を示す図であり、図5(B)は読出用メモリ70Bのアドレス概念を示す図である。なお、図5(A),(B)において、m,nはアドレス番号を示すための整数であり、スキャン相関処理後記憶データMED、スキャン相関処理後データMDは、代表して、アドレス(m,n)のデータのみを記号で指し示している。
【0085】
書込用メモリ70Aは、アドレス決定部5からの書込アドレスに準じてスキャン相関処理後データ(MED)を記憶し、読出用メモリ70Bは、アドレス決定部5からの読出アドレスに準じてスキャン相関処理後記憶データ(MD)を読み出して、相関処理部6へ与える。
【0086】
このような書込用メモリ70Aと読出用メモリ70Bとは、1スキャン毎に機能が切り替わるように設定されている。例えば、あるスキャンで書込用メモリとして機能したメモリは、次のスキャンで読出用メモリとして機能する。逆に、あるスキャンで読出用メモリとして機能したメモリは、次のスキャンで書込用メモリとして機能する。この読出用メモリと書込用メモリとの切替タイミングは、各スキャンで同じであり、例えば基準方位にパルス状電波信号を放射する基準タイミング毎に切り替えを行う。このような切替処理を行うことで、前回スキャンで書込用メモリ70Aとして機能したメモリを、今回のスキャン相関処理での読出用メモリ70Bとしてそのまま利用することができる。すなわち、前回スキャンのスキャン相関処理後データ(MED)を、今回スキャンのスキャン相関処理後記憶データ(MD)として、そのまま利用することができる。
【0087】
なお、書込用メモリ70Aと読出用メモリ70Bとは、それぞれ物理的に個別の記憶媒体により実現しても良く、物理的に1つの記憶媒体内に2つの記憶領域を設定することで実現しても良い。
【0088】
以上のような構成を用いることで、上述に示す極座標系によるスキャン相関処理を実行する物標探知装置100を実現することができる。すなわち、極座標系で得られたスイープデータの情報をそのまま利用したスキャン相関処理を可能とする物標探知装置100を実現できる。さらに、極座標系でデータを記憶することで、従来のような直交座標系で記憶するよりも、記憶のためのメモリ容量を低減することができる。
【0089】
なお、書込用メモリ70Aに記憶されたスキャン相関処理後データ(MED)は、表示装置101からの読出制御に応じて順次出力され、表示装置101の座標変換部10へ入力される。座標変換部10では、極座標系のスキャン相関処理後データMEDを表示用画像の座標系(直交座標系)に変換して、画像データとして表示用画像メモリ11へ出力する。表示用画像メモリ11は、表示器12からのラスタースキャン制御に応じて、画像データを出力し、表示器12は、当該画像データに基づいて画像を表示する。
【0090】
このような構成により表示される画像は、スイープデータの生の物標探知の情報をそのまま活かしたスキャン相関処理結果に基づくものとなるので、従来の直交座標系に変換して選択処理および補間処理を行った後にスキャン相関処理を行った画像よりも、より現状の物標探知結果を正確に反映した画像となる。すなわち、オペレータに対して、現状の物標探知結果をより正確に提供することができる。
【0091】
次に、第2の実施形態に係る物標探知装置について、図を参照して説明する。
図6は本実施形態の物標探知装置100’の主要構成を示すブロック図である。本実施形態の物標探知装置100’は、第1の実施形態に示した物標探知装置100に対して、極座標系メモリ7’の構成および読み出し書き込み処理が異なるのみで、他の構成および処理は同じである。したがって、以下では、極座標系メモリ7’への読み出し処理及び書き込み処理のみを詳細に説明する。
【0092】
第1の実施形態の物標探知装置100では、書込用メモリ70Aと読出用メモリ70Bとを個別に備えることで、前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データ(MED)と今回スキャンの相関処理後データ(MD)とが、1スキャン分を構成する1つのメモリに混在しないが、極座標系で1スキャン分のエコーデータを記憶する同じ容量のメモリを2つ備えなければならない。
【0093】
したがって、本実施形態では、極座標系メモリ7’のメモリ容量をさらに低減させるために、読書兼用メモリ7Cを備える。読書兼用メモリ7Cは、上述の図5に示す書込用メモリ70Aや読出用メモリ70Bと同様のメモリ構成からなり、前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データ(MED)を読み出す際には、図5(B)に示す[R’,θ’]に準じたアドレスで読み出しを実行する。一方、読書兼用メモリ7Cは、今回スキャンのスキャン相関処理後データ(MD)を書き込む際には、図5(A)に示す[Ro,θo]に準じたアドレスで書き込みを実行する。
【0094】
このような単一のメモリに対する読み書き処理は、各タイミングでの基準位置が変化しない、もしくは変化しても極低速で変化する場合には、問題なく機能させることができるが、自船の走航によって、所定速度以上で基準位置が移動する場合には、次に示すような現象が生じてしまい、正確なスキャン相関処理ができなくなることがある。
【0095】
図7は、物標探知装置を搭載した自船の進行方向と逆方向の近傍に電波信号を放射した状態を示す図である。図8は、物標探知装置を搭載した自船の進行方向と逆方向の近傍に電波信号を放射した場合の読出アドレスの分布状態を示す図である。図7、図8では、前回スキャンの基準位置に対して、今回スキャンの対象のスイープデータの電波信号を放射するタイミングでの位置が、真北方向を基準方位(0°方位)として45°方向であり、電波信号を225°近傍の方向へ放射する場合を示す。また、図7において225°−α(αは数°程度の正の数)のスイープを一点鎖線で示し、225°+α(αは数°程度の正の数)のスイープを二点鎖線で示す。同様に、図8において、225°−α(αは数°程度の正の数)のスイープデータに対する読出アドレス分布を一点鎖線で示し、225°+α(αは数°程度の正の数)のスイープデータに対する読出アドレス分布を二点鎖線で示す。
【0096】
図7、図8に示すように、自船の前回スキャンの基準タイミングからの進行方向と、パルス状の電波信号の放射方向とが略逆向きの場合、前回スキャンの基準位置から見ると、スイープデータの各エコーデータに対するスキャン相関処理後記憶データ(MED)の読出アドレスは、距離方向および方位方向に大きく広がって分布する。そして、今回スキャンの基準位置が前回スキャンの基準位置と今回のスキャン相関対象のスイープデータのタイミングでの位置との間に存在すれば、スキャン相関処理後データ(MD)の書込アドレスも同様に、距離方向および方位方向に大きく広がって分布する。このため、今回スキャンで書き込んだスキャン相関処理後データ(MD)を、前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データ(MED)として読み出して、スキャン相関処理してしまう可能性がある。
【0097】
また、図9に示すように、自船の進行方向と電波信号の放射方向とが真逆になる場合にも、同様の問題が発生する。図9は、自船の進行方向とパルス状の電波信号の放射方向とが真逆の場合に生じる問題を説明するための図である。
【0098】
図9に示すように、自船進行方向が基準方位に対して45°であり、電波信号の放射方向が225°であり、前回スキャンの基準タイミングから今回のスキャン相関対象のタイミングまでの間に自船が1NM走航した場合に、スキャン相関対象のスイープデータの2NMの位置のエコーデータに対する読出アドレスは、前回スキャンの基準位置に対して方位225°で距離1NMの座標となる。
【0099】
ここで、方位225°で距離2NMの位置のエコーデータと、前回スキャンの基準位置に対して方位225°で距離1NMの座標のスキャン相関処理後記憶データMEDとのスキャン相関処理後データMDは、今回スキャンの基準位置に対して方位225°で距離2NMの位置、すなわちエコーデータの位置に記憶されるはずであるが、メモリは前回スキャンの基準のままであるので、前回スキャンの基準位置から方位225°、距離2NMの座標に記憶される。
【0100】
しかしながら、このメモリ上の距離2NMの座標に記憶されているデータは、同じスイープデータの距離3NMの座標のスキャン相関処理用に読み出されてしまう。したがって、この距離3NMのエコーデータは、今回スキャンの2NMのエコーデータのスキャン相関処理後データMDでスキャン相関処理されてしまう。
【0101】
このような問題を解決するため、本実施形態では、読書兼用メモリ70Cとともに、自船の進行方向および走航速度に準じて、1スキャン内の限られた領域のみのスキャン相関処理後データMD(次スキャンでのスキャン相関処理後記憶データ(MED))を記憶する補助メモリ70Dを備える。
【0102】
補助メモリ70Dは、図8のハッチング部に示すように、前回スキャンから今回スキャンまでの進行方向に基づいて、1スキャン分のメモリ領域の一部を記憶する容量を有する。具体的には、補助メモリ70Dは進行方向の真逆方向付近の所定方位角幅の方位領域に関しては遠い距離までの記憶し、それ以外の方位領域に関しては走航速度に応じて比較的近い距離の位置までを記憶する。この際、上述のように真逆方向のスイープや真逆方向付近のスイープが通る座標については、必ず記憶するように設定されている。
【0103】
このような補助メモリ70Dを用いる場合、補助メモリ70Dにて対応するアドレス領域に対しては、第1の実施形態と同様に、読書兼用メモリ70Cと補助メモリ70Dとをスキャン毎にそれぞれ読出用メモリおよび書込用メモリとして切替ながら利用し、補助メモリ70Dの対応しないアドレス領域に対しては、読書兼用メモリ70Cで読み出しおよび書き込みを行う。
【0104】
このような構成を用いることで、上述の問題を解決しながら、よりメモリ容量の少ない物標探知装置100’を実現することができる。
【0105】
なお、上述の各実施形態では、スキャン相関処理の際に、対象となるスイープデータの座標系と、前回スキャンの基準タイミングの座標系とを直接一致させる方法を用いた。しかしながら、対象となるエコーデータ(ED)を今回スキャンの基準タイミングの座標系に変換するとともに、今回スキャンの基準タイミングと前回スキャンの基準タイミングでの基準位置の差から、前回スキャンのスキャン相関処理後記憶データ(MED)を読み出し、今回スキャンの基準タイミングの座標系でスキャン相関処理を行ってもよい。この場合、算出されるスキャン相関処理後データ(MD)は、今回スキャンの座標系であるので、第1の実施形態に示すように、スキャン相関処理後データ(MD)に対する書き込みの際の座標変換処理を行うことなく、書込用メモリへ書き込むことができる。
【0106】
また、上述の各実施形態では、各処理を機能ブロックに分けて実現する場合を示したが、これらの処理をプログラム化し、ソフトウエアとして記憶しておき、当該ソフトウエアを実行することで、上述の実施形態に示した処理を実現するようにしてもよい。
【0107】
また、上述の説明では、極座標系でエコーデータを受信して、極座標系のままスキャン相関処理する例を示したが、受信の座標系と、記憶及びスキャン相関処理の座標系が同じになるようにすれば、他の座標系に対しても、上述の構成及び処理を適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
100,100’−物標探知装置、1−A/D変換部、2−スイープメモリ、3−アンテナ回転情報取得部、4−位置検出部、5−アドレス決定部、6−相関処理部、7,7’−極座標系メモリ、70A−書込用メモリ、70B−読出用メモリ、70C−読書兼用メモリ、70D−補助メモリ、
101−表示装置、10−座標変換部、11−表示用画像メモリ、12−表示器、90−自船、91−アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナから電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知装置であって、
前記所定の探知領域全体のエコーデータの1回分を、1スキャン分のエコーデータとして受信の座標系で記憶する記憶部と、
前記受信の座標系の各エコーデータの受信タイミングでの原点及び基準方位に基づいて、スキャン相関対象のエコーデータと、該スキャン相関対象のエコーデータと前記受信の座標系において同じ位置の別のエコーデータもしくは相関処理後のエコーデータとを、該受信の座標系でスキャン相関処理するスキャン相関処理部と、
を備えた物標探知装置。
【請求項2】
アンテナを所定周期で回転させながら電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知装置であって、
前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第1のエコーデータを記憶する第1のメモリと、前記第1のエコーデータとは異なる、前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第2のエコーデータを記憶する第2のメモリとを備えた極座標系記憶部と、
前記第1のエコーデータの極座標系の原点および基準方位と前記第2のエコーデータの極座標系の原点および基準方位とをそれぞれに一致させて前記第1のエコーデータと前記第2のエコーデータとの間でスキャン相関処理を行うスキャン相関処理部と、
を備えた物標探知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の物標探知装置であって、
前記スキャン相関処理部は、
前記第1のエコーデータが得られる前記アンテナの位置に対して、前記第2のエコーデータが得られる前記アンテナの位置をオフセットさせることで前記原点を一致させるとともに、
前記アンテナの基準方位を定め、前記第1のエコーデータの極座標系の基準方位と前記第2のエコーデータの極座標系の基準方位とを、前記アンテナの基準方位に一致させて、スキャン相関処理を行う、物標探知装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3のいずれかに記載の物標探知装置であって、
前記極座標系記憶部は、
前記第1のメモリと前記第2のメモリに対して、前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分のエコーデータを順次1スキャン毎に切り替えて書き込み制御するととともに、前記スキャン相関処理に必要な前記エコーデータを読み出し制御するメモリ制御部を、備える、物標探知装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4に記載の物標探知装置であって、
前記第1のメモリと前記第2のメモリとは、物理的に異なるメモリ素子からなる、物標探知装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項4に記載の物標探知装置であって、
前記第1のメモリと前記第2のメモリとは、物理的に単一なメモリにおける重なり合わない個別のアドレス領域により実現される、物標探知装置。
【請求項7】
アンテナを所定周期で回転させながら電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知装置であって、
単一の読書兼用メモリを備え、前記アンテナの1回転で得られるエコーデータを1スキャン分のエコーデータとし、当該1スキャン分のエコーデータを、距離と方位とから設定される極座標系のデータで、前記単一の読書兼用メモリに対して記憶する極座標系記憶部と、
前回スキャンの基準タイミングと今回スキャン中での前記スキャン相関対象のエコーデータのタイミングとの原点および基準方位の差に基づいて、前記スキャン相関対象のエコーデータと、記憶されている前回スキャンでの前記スキャン相関対象のエコーデータの位置に当たるデータとを極座標系でスキャン相関処理するスキャン相関処理部と、
を備えた物標探知装置。
【請求項8】
請求項7に記載の物標探知装置であって、
前記極座標系記憶部は、前記読書兼用メモリよりもメモリ容量の少ない補助メモリを備え、
前記スキャン相関処理部は、前記補助メモリの対応する領域に対しては、前記補助メモリと、前記読書兼用メモリの前記補助メモリに対応する範囲のメモリとに対して、データの読み出し書き込みをスキャン毎に切り替えて実行する、物標探知装置。
【請求項9】
請求項8に記載の物標探知装置であって、
前記補助メモリは、前記原点及び基準方位の遷移から、対応する領域が決定される、物標探知装置。
【請求項10】
アンテナから電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知方法であって、
前記所定の探知領域全体のエコーデータの1回分を、1スキャン分のエコーデータとして受信の座標系で記憶する工程と、
前記受信の座標系の各エコーデータの受信タイミングでの原点および基準方位に基づいて、スキャン相関対象のエコーデータと、該スキャン相関対象のエコーデータと前記受信の座標系において同じ位置の別のエコーデータもしくは相関処理後のエコーデータとを、該受信の座標系でスキャン相関処理する工程と、
を有する物標探知方法。
【請求項11】
アンテナを所定周期で回転させながら電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する物標探知方法であって、
前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第1のエコーデータを記憶するとともに、前記第1のエコーデータとは異なる、前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第2のエコーデータを記憶する工程と、
前記第1のエコーデータの極座標系の原点および基準方位と前記第2のエコーデータの極座標系の原点および基準方位とをそれぞれに一致させて前記第1のエコーデータと前記第2のエコーデータとの間でスキャン相関処理を行う工程と、
を有する物標探知方法。
【請求項12】
請求項11に記載の物標探知方法であって、
前記スキャン相関処理を行う工程は、
前記第1のエコーデータが得られる前記アンテナの位置に対して、前記第2のエコーデータが得られる前記アンテナの位置をオフセットさせることで前記原点を一致させるとともに、
前記アンテナの基準方位を定め、前記第1のエコーデータの極座標系の基準方位と前記第2のエコーデータの極座標系の基準方位とを、前記アンテナの基準方位に一致させて、スキャン相関処理を行う、物標探知方法。
【請求項13】
請求項11乃至請求項12に記載の物標探知方法であって、
前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分のエコーデータを順次1スキャン毎に切り替えて書き込み制御するととともに、前記スキャン相関処理に必要な前記エコーデータを読み出し制御する工程を、さらに有する、物標探知方法。
【請求項14】
所定の媒体に記憶され、アンテナから電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する処理を実行する物標探知プログラムであって、
前記所定の探知領域全体のエコーデータの1回分を、1スキャン分のエコーデータとして受信の座標系で記憶する処理と、
前記受信の座標系の各エコーデータの受信タイミングでの原点および基準方位に基づいて、スキャン相関対象のエコーデータと、該スキャン相関対象のエコーデータと前記受信の座標系において同じ位置の別のエコーデータもしくは相関処理後のエコーデータとを、前記受信の座標系でスキャン相関する処理と、
を有する物標探知プログラム。
【請求項15】
所定の媒体に記憶され、アンテナを所定周期で回転させながら電波信号を放射し、物標からの反射信号を受信して、所定の探知領域に対するエコーデータを形成する処理を実行する物標探知プログラムであって、
前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第1のエコーデータを記憶するとともに、前記第1のエコーデータとは異なる、前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分の第2のエコーデータを記憶する処理と、
前記第1のエコーデータの極座標系の原点および基準方位と前記第2のエコーデータの極座標系の原点および基準方位とをそれぞれに一致させて前記第1のエコーデータと前記第2のエコーデータとの間でスキャン相関処理を行う処理と、
を含む物標探知プログラム。
【請求項16】
請求項15に記載の物標探知プログラムであって、
前記スキャン相関処理を行う処理は、
前記第1のエコーデータが得られる前記アンテナの位置に対して、前記第2のエコーデータが得られる前記アンテナの位置をオフセットさせることで前記原点を一致させるとともに、
前記アンテナの基準方位を定め、前記第1のエコーデータの極座標系の基準方位と前記第2のエコーデータの極座標系の基準方位とを、前記アンテナの基準方位に一致させて、スキャン相関処理を行う、物標探知プログラム。
【請求項17】
請求項15乃至請求項16に記載の物標探知方法であって、
前記アンテナの1回転で得られる極座標系の1スキャン分のエコーデータを順次1スキャン毎に切り替えて書き込み制御するととともに、前記スキャン相関処理に必要な前記エコーデータを読み出し制御する処理を、さらに含む、物標探知プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−95029(P2011−95029A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247569(P2009−247569)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】