説明

物質交換及び/又は熱交換塔用の液体分配器

【課題】物質交換塔及び/又は熱交換塔の横断面全体に亘って、被処理液体を均一に分配供給するための液体分配器であって、高負荷運転時における著しい性能低下を防止することができる液体分配器を提供すること。
【解決手段】分配管が複数のノズル孔4を有し;上部分配管3bが、下部分配管3aに対して、塔の上方からみて該塔の横断面において重ならないように配設され;そして、前記塔の横断面を該塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管3aのノズル孔4の数が、前記塔の横断面の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管3aのノズル孔4の数に対して90%以上であることを特徴とする液体分配器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質交換塔及び/又は熱交換塔用の液体分配器に関する。本発明は、詳しくは、液体とガス又は蒸気とを互いに向流状態で接触させる物質交換塔及び/又は熱交換塔において、被処理液体を塔の横断面全体に亘って均一に分配供給するための液体分配器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質交換塔及び/又は熱交換塔において使用される液体分配器には多くの種類があり、その分配方法も多様である。そのうち典型的な液体分配器は、被処理液体を塔の上方から流下させ、それを水平方向に分配した後、更に下方に流下させるタイプのものである。被処理液体を水平方向に分配させた後に下方に流下させる方法としては、塔の横断面に平行に、複数の液体分配手段を配置し、液体分配手段の上方部に設けられた複数の開口部から被処理液体を溢流させる方法や、液体分配手段の下方部に開口部を設けて被処理液体を流下させる方法が、多く採用されている。液体分配手段としては、管やU字形の断面形状を有するトラフが用いられている。
【0003】
一般に、液体分配器においては、液体分配手段から溢出する被処理液体の流量は、縦管及び主管の中に溜まる被処理液体の液ヘッド、液体分配手段の開口部の数及び大きさ、主管の開口部の数及び大きさ等によって決定される。したがって、塔の横断面において、被処理液体をいかに均一に分配するかという問題がある。また、交換塔の運転においては、塔の上方部から供給される被処理液体の流量が変化するのが通常であり、この液流量の変化によって液体分配器内部における液ヘッドも変化する。したがって、ある液流量において、液体分配手段の開口部と主管の開口部とからの液流出量が均一になるように、液体分配手段及び主管の開口部の数及び大きさを決定しても、液流量が変動して液ヘッドが変化したときに、それぞれの開口部からの液流出量が不均一になるという問題が生じる。
【0004】
また、高負荷運転時には、液体分配手段により被処理液体が交換塔の横断面全体に亘って均一に分配されている場合でも、交換塔において処理する液体とガス又は蒸気を増加させると、交換塔内においてガス又は蒸気が塔の下方から上方へ上昇する線速度は、塔壁の抵抗により塔壁に近くなるほど遅く、塔壁の抵抗を受けない塔中心に近くなるほど速くなる。これにより、低負荷運転から高負荷運転へと遷移させるにつれて、液体分配器により塔上方から分配され下方に流下する被処理液体は、塔中心部を上昇する線速度の速いガス又は蒸気により塔壁に向かって押し流されるようになり、低負荷運転時に交換塔の横断面全体に亘って均一に分配されていた被処理液体が、高負荷運転時における交換塔内部の気液流動状態においては、交換塔の横断面内で塔中心部で液体が少なくなり、液体とガス又は蒸気との間の熱交換及び/又は物質交換の効率が悪くなってしまう。
【0005】
結果として、特に、液体分配器を組込んだ交換塔を運転する場合において、低負荷運転から高負荷運転へと交換塔において処理する液体とガス又は蒸気とを増加させていくとき、高負荷運転領域、例えば、フラッディング率75〜80%以上の高負荷運転領域において著しい性能低下がみられるという問題がある。
【0006】
以上のような問題点に鑑み、液体分配器においては、物質交換及び/又は熱交換の効率を向上させる目的のための試行錯誤が繰り返されている。一例として、均一な液分配効果を奏するものとして、その高さを低くすることにより塔高を低くすることを目的とした液体分配器が開示されている(特許文献1)。この液体分配器は、液体分配器の中心部にある縦管の上下方向に、主管及び複数の分配管から構成される管群を2段配設する構成を有するものであり、被処理液体の流量変化に応じて適当な液ヘッドを確保できるとされ、これにより液体分配器の所要高さを低くすることができるとされている。
【0007】
しかし、このような2段の分配管群を有する従来の液体分配器であっても、高負荷運転時における交換塔内部の気液流動状態において、塔の横断面内で被処理液体をいかに均一に分配するかという問題については依然として未解決のままであり、解決のための指針も何ら示されていない。したがって、物質交換塔及び/又は熱交換塔の横断面全体に亘って、被処理液体を均一に分配供給するための液体分配器であって、高負荷運転時における交換塔内部の気液流動状態において著しい性能低下を防止することができる液体分配器が求められている。
【特許文献1】特開昭61−47561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、物質交換塔及び/又は熱交換塔の横断面全体に亘って、被処理液体を均一に分配供給するための液体分配器であって、高負荷運転時における交換塔内部の気液流動状態において著しい性能低下を防止することができる液体分配器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来技術における上記問題点を克服するため鋭意研究を行った結果、液体分配器において、主管と複数の分配管とにより構成される液体分配手段を2段配置した構造を採用し、低負荷運転時には、主として物質交換塔及び/又は熱交換塔の横断面全体に亘って被処理液体を均一に分配供給することを目的として設計された下部液体分配手段を使用し、高負荷運転時には、下部液体分配手段に加えて、主として塔壁側よりも塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給するように設計された上部液体分配手段を使用するような構造とすることにより、交換塔内においてより均一な液体分配効果が得られることを発見した。特に、交換塔の横断面をその塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域の単位面積当たりに含まれる下部分配管のノズル孔の数が、その塔の横断面の単位面積当たりに含まれる下部分配管のノズル孔の数に対して90%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の液体分配器の種々の態様を以下に説明する。
1.物質及び/又は熱交換塔の塔内上方部から分配管を介して前記塔の横断面全体に亘って被処理液体を分配供給する液体分配器であって:前記液体分配器が、前記塔の横断面の直径上に配置され且つ鉛直方向に伸長する縦管と、水平方向に伸長するように前記縦管の下端に連結された下部主管と、前記塔の横断面内において前記下部主管と直交するように該下部主管の側部に連結された、複数の下部分配管と、前記下部主管の上部に鉛直方向上部に一定の間隔を離間して水平方向に伸長するように前記縦管に連結された上部主管と、前記塔の横断面内において前記上部主管と直交するように該上部主管の側部に連結された、複数の上部分配管とから構成され;前記分配管が複数のノズル孔を有し;前記上部分配管が、前記下部分配管に対して、前記塔の上方からみて該塔の横断面において重ならないように配設され;そして、前記塔の横断面を該塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管のノズル孔の数が、前記塔の横断面の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管のノズル孔の数に対して90%以上であることを特徴とする前記液体分配器。
2.上部分配管が、下部分配管より短いことを特徴とする、上記1記載の液体分配器。
3.塔の横断面を該塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域に含まれる上部分配管のノズル孔の数が、該塔の中心部の領域から半径方向外向きの領域に向かって少なくなることを特徴とする、上記1又は2に記載の液体分配器。
4.上部分配管のノズル孔の大きさが、塔中心部から半径方向外向きに向かって小さくなることを特徴とする、上記1〜3のいずれかに記載の液体分配器。
5.下部分配管のノズル孔が、該下部分配管の上面部に設けられていることを特徴とする、上記1〜4のいずれかに記載の液体分配器。
6.上部分配管が、主管と連結している端部から塔壁に向かって鉛直方向上向きに傾斜していることを特徴とする、上記1〜5のいずれかに記載の液体分配器。
7.上部分配管のノズル孔が、該上部分配管の上面部に設けられていることを特徴とする、上記1〜6のいずれかに記載の液体分配器。
8.上部分配管のノズル孔が、該上部分配管の下面部に設けられていることを特徴とする、上記6記載の液体分配器。
9.上部分配管のノズル孔が、該上部分配管の上面部及び下面部に設けられていることを特徴とする、上記6記載の液体分配器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物質交換塔及び/又は熱交換塔の横断面全体に亘って、被処理液体を均一に分配供給するための液体分配器であって、高負荷運転時における交換塔内部の気液流動状態において著しい性能低下を防止することができる液体分配器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の液体分配器の最良の形態について説明する。
本発明の液体分配器は、物質及び/又は熱交換塔の塔内上方部から分配管を介して前記塔の横断面全体に亘って被処理液体を分配供給する液体分配器であって:前記液体分配器が、前記塔の横断面の直径上に配置され且つ鉛直方向に伸長する縦管と、水平方向に伸長するように前記縦管の下端に連結された下部主管と、前記塔の横断面内において前記下部主管と直交するように該下部主管の側部に連結された、複数の下部分配管と、前記下部主管の上部に鉛直方向上部に一定の間隔を離間して水平方向に伸長するように前記縦管に連結された上部主管と、前記塔の横断面内において前記上部主管と直交するように該上部主管の側部に連結された、複数の上部分配管とから構成され;前記分配管が複数のノズル孔を有し;前記上部分配管が、前記下部分配管に対して、前記塔の上方からみて該塔の横断面において重ならないように配設され;そして、前記塔の横断面を該塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管のノズル孔の数が、前記塔の横断面の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管のノズル孔の数に対して90%以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明において、縦管、主管、及び分配管は、これらを通って被処理液体が流れる管状部材をいうものとする。縦管、主管、分配管の断面形状は、好ましくは円形であるが、四角形等の多角形であってもよい。
【0014】
縦管は、鉛直方向に伸長し、その上部で集められた被処理液体を主管へと導くための部材である。縦管は、交換塔の横断面の直径上に配置されるが、その位置は塔径等を考慮して適宜決定することができる。本発明の一の態様において、縦管は交換塔の横断面の中心部に配置される。また、縦管は、交換塔の横断面の直径上に複数配置されてもよい。本発明の別の態様において、縦管は、交換塔の横断面の直径上に2本配置され、更に別の態様においては、交換塔の横断面の直径上に3本配置される。
【0015】
主管は、縦管から導かれた被処理液体を交換塔の直径方向に導き、更に主管に連結された複数の分配管に分配するための部材である。主管は、水平方向に伸長するように縦管に連結される。本発明においては、以下に説明するように、縦管の下端に下部主管が連結され、更に下部主管の上部に鉛直方向に一定の間隔を離間して上部主管が縦管に連結される。
【0016】
分配管は、主管から分配された被処理液体を交換塔内部に分配するための部材である。したがって、分配管は、複数のノズル孔を有する。分配管のノズル孔は、その分配管の上面部に設けられていることが好ましい。ノズル孔を分配管の上面部に設けることにより、分配管が水平状態で主管に連結している場合に、複数のノズル孔からの被処理液体の流出量を流量変動があってもほぼ均一にすることができる。ノズル孔の大きさ、形状、間隔は任意であり、適宜決定することができる。好ましい態様において、分配管は、その断面形状が円形であり、最上部にノズル孔を有する。分配管は、交換塔の横断面内において主管と直交するように主管の側部に複数本が連結される。分配管の数は、交換塔の塔径、分配管の寸法等を考慮して、適宜決定することができる。
【0017】
本発明の液体分配器は、主管と複数の分配管とにより構成される液体分配手段を2段配置した構造を有する。これにより、交換塔による被処理液体の処理量が少なく負荷が小さい場合には、下部分配管から被処理液体を交換塔内に分配し、交換塔による被処理液体の処理量が多く負荷が大きい場合には、下部分配管に加えて、上部分配管からも被処理液体を交換塔内に分配することが可能となる。
【0018】
第一に、下部の液体分配手段は、下部主管と下部分配管とにより構成される。下部主管は、交換塔の横断面の直径上に配置され且つ鉛直方向に伸長する縦管の下端に、水平方向に伸長するように連結される。そして、下部分配管は、交換塔の横断面内において下部主管と直交するように下部主管の側部に連結される。
【0019】
下部の液体分配手段は、交換塔の処理量・負荷に依存することなく常に使用される。したがって、交換塔の横断面全体に亘って、被処理液体を均一に分配供給するためには、下部の液体分配手段の設計が非常に重要となる。
【0020】
本発明の液体分配器においては、塔の横断面をその塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域の単位面積当たりに含まれる下部分配管のノズル孔の数が、その塔の横断面の単位面積当たりに含まれる下部分配管のノズル孔の数に対して90%以上であることを特徴とする。これにより、被処理液体を塔の横断面全体に亘って均一に分配供給することが可能となる。
【0021】
下部分配管は、交換塔の横断面内において下部主管と直交して塔壁の寸前まで伸長させると、塔の中心に対して最も近位にあるものが最も長くなり、塔の中心に対して遠位となるにしたがって短くなる。ノズル孔の数は、その間隔にも依存するが、主として分配管の長さに依存するので、上記の三領域のうち、塔の中心から最も遠位にある領域(塔の外周に近い領域)における数が少なくなる場合が通常である。したがって、上記の三領域におけるノズル孔の数を平均化するためには、塔の中心に対して最も遠位にある下部分配管を、下部主管と直交して塔壁の寸前まで伸長させ、そこで分配管を屈曲させて、更に塔壁(塔の外周)に沿うように伸長させることが好ましい。これにより、ノズル孔の間隔に依らず、塔の中心から最も遠位にある領域における被処理液体の落下点数(ノズル孔)を増加させることができる。
【0022】
このとき、塔の中心から最も遠位にある分配管は、ノズル孔から溢出する被処理液体を塔壁側ではなく、塔の中心側に流下させるよう、ノズル孔の上方に液体案内カバーを備えていることが好ましい。液体案内カバーは、分配管の塔壁側において分配管と接して配設され、分配管の軸方向に伸張し、また、分配管の周方向にノズル孔の上部を覆うように伸張し、分配管の塔中心側においては分配管と接していない部材である。ノズル孔から溢出した被処理液体は、分配管の周方向に分配管を伝わって流れる際に、分配管の塔壁側においては液体案内カバーにより遮断されるため流れることができず、分配管の塔中心側に導かれて、分配管を伝わって流れ、下方に流下することになる。
【0023】
また、このとき、分配管の塔中心側において、分配管の外周上の接点から鉛直方向下向きに伸張するシート状の液拡散手段を備えていることが好ましい。これにより、液体案内カバーにより分配管の塔中心側に導かれた被処理液体が、液拡散手段を伝わって下方に流下することになる。液拡散手段は、分配管の外周上の接点から鉛直方向下向きに伸張して、被処理液体を分散させるため更に二股に分かれていてもよい。
【0024】
第二に、上部の液体分配手段は、上部主管と上部分配管とにより構成される。上部主管は、下部主管の上部に鉛直方向に一定の間隔を離間して水平方向に伸長するように縦管に連結される。上部主管と下部主管の間の間隔は、交換塔の寸法、設計処理量、運転時の負荷等に応じて適宜決定することができる。そして、上部分配管は、交換塔の横断面内において上部主管と直交するように上部主管の側部に連結される。上部分配管は、下部分配管に対して、交換塔の上方からみてその塔の横断面において重ならないように配設される。これにより、被処理液体を塔の横断面全体に亘って均一に分配供給することが可能となる。
【0025】
上部の液体分配手段は、交換塔の処理量・負荷が高く、液体分配器内の液ヘッドが、上部主管と下部主管の間の間隔と同じかそれより高くなる場合に使用される。本発明の液体分配器において、上部の液体分配手段は、主として、塔壁よりも塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給するように設計することが重要である。
【0026】
塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給するためには、一の態様においては、上部分配管が、下部分配管より短いことが好ましい。これにより、下部分配管は、塔の中心を同心とする三つの領域に概して同じ数のノズル孔を有するように塔壁まで伸長し、一方、上部分配管は、塔壁まで伸長する下部分配管より短く、ノズル孔の数が塔の中心に集中するため、下部分配管により、被処理液体を気液接触の交換塔内の横断面全体に亘って均一に分配供給することができ、更に、上部分配管により、塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給することができる。
【0027】
また、別の態様においては、上部分配管について、交換塔の横断面をその塔の中心を同心とする二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域に含まれるノズル孔の数が、その塔の中心部の領域から半径方向外向きの領域に向かって少なくなるようにしてもよい。これにより、上部分配管におけるノズル孔の数が塔の中心に集中するため、下部分配管による塔の横断面全体に亘る均一な分配供給に加えて、塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給することができる。
【0028】
更に、別の態様においては、上部分配管のノズル孔の大きさが、塔中心部から半径方向外向きに向かって小さくなるようにしてもよい。これにより、上部分配管におけるノズル孔の大きさが塔の中心部において大きくなるため、下部分配管による塔の横断面全体に亘る均一な分配供給に加えて、塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給することができる。
【0029】
また、別の態様においては、上部分配管が、主管と連結している端部から塔壁に向かって鉛直方向上向きに傾斜していてもよい。これにより、被処理液体は、はじめに、上部主管から上部分配管に流出し、上部主管と上部分配管とが連結した端部に近い位置にあるノズル孔から、交換塔内部に均一に分配供給され、液ヘッドが増加するにつれて被処理液体が上部分配管の上部主管との連結端部から遠い位置まで流れるようになり、結果として、液ヘッドに応じて塔中心部において優先的に被処理液体を分配供給することができる。上部分配管の傾斜角度は、交換塔の設計条件に応じて適宜決定することができるが、好ましくは、0度より大きく10度以下であり、より好ましくは、0度より大きく5度以下であり、更に好ましくは、0度より大きく3度以下である。
【0030】
上部分配管が傾斜して設けられている場合には、上部分配管のノズル孔は、その上部分配管の下面部に設けられてもよい。ノズル孔が上部分配管の上面部に設けられていると、ノズル孔から溢出した被処理液が、傾斜した上部分配管を伝わり、塔の中心方向に流れる傾向が生ずる場合がある。この場合、被処理液の均一な分散を阻害する要因となるため、上部分配管のノズル孔をその上部分配管の下面部に設けることが好ましい。
【0031】
また、上部分配管が傾斜して設けられている場合には、上部分配管のノズル孔は、その上部分配管の下面部及び上面部に設けられてもよい。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、本発明の液体分配器の一実施形態を示す概略図である。図1において本発明の液体分配器は以下の構成を有する。すなわち、物質及び/又は熱交換塔の横断面の中心部に配置され且つ鉛直方向に伸長する縦管1、水平方向に伸長するように縦管1に連結された下部主管2a及び上部主管2b、物質及び/又は熱交換塔の横断面内において下部主管2a及び上部主管2bと直交するように、それぞれ下部主管2a及び上部主管2bの側部に連結された、複数の下部分配管3a及び上部分配管3bである。下部分配管3a及び上部分配管3bは、その上方部に複数のノズル孔4を有している。なお、図1においては、簡略化のため一部のノズル孔についてのみ図示されている。
【0033】
図2は、本発明の液体分配器の下部液体分配手段を示す横断面破断図である。図2において、下部分配管3aは塔壁の寸前まで伸長されている。縦管(塔中心部)から最も遠位にある下部分配管31aは、下部主管と直交して塔壁まで伸長し、更に塔壁に沿うように角度を変化させて伸長している。
【0034】
図3は、本発明の液体分配器の下部液体分配手段及び上部液体分配手段を示す横断面破断図である。上部液体分配手段である上部分配管3bは、下部液体分配手段である下部分配管3aに対して、交換塔の上方からみてその塔の横断面において重ならないように配設されている。
【0035】
物質交換塔及び/又は熱交換塔内における被処理液体の流れについて説明すると、液体分配器に流入した被処理液体は、縦管1より下部主管2aへ流れ、下部主管2aより複数の下部分配管3aに分岐して流れる。下部分配管3aに流れた被処理液体は、下部分配管3aのノズル孔4より液体分配器外部へと流出して、物質交換塔及び/又は熱交換塔の横断面全体に亘って分配供給される。被処理液体の液ヘッドが高い場合、被処理液体は、その一部が下部分配管3aのノズル孔4から流出するとともに、他の部分が縦管1に鉛直方向上向きに満たされ、縦管1より上部主管2bへ流れ、上部主管2bより複数の上部分配管3bに分岐して流れる。上部分配管3bに流れた被処理液体は、上部分配管3bのノズル孔4より液体分配器外部へと流出して、物質交換塔及び/又は熱交換塔の塔中心部に優先して分配供給される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の液体分配器は、物質及び/又は熱交換塔、特に蒸留塔に組込んで運転する場合において、低負荷運転から高負荷運転へと被処理液体の還流量を増加させていくときに幅広い範囲で、物質及び/又は熱交換塔の気液接触部において均一な液分散効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の液体分配器の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の液体分配器の下部液体分配手段を示す横断面破断図である。
【図3】図3は、本発明の液体分配器の下部液体分配手段及び上部液体分配手段を示す横断面破断図である。
【符号の説明】
【0038】
1 縦管
2a 下部主管
2b 上部主管
3a、31a 下部分配管
3b 上部分配管
4 ノズル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質及び/又は熱交換塔の塔内上方部から分配管を介して前記塔の横断面全体に亘って被処理液体を分配供給する液体分配器であって:
前記液体分配器が、前記塔の横断面の直径上に配置され且つ鉛直方向に伸長する縦管と、水平方向に伸長するように前記縦管の下端に連結された下部主管と、前記塔の横断面内において前記下部主管と直交するように該下部主管の側部に連結された、複数の下部分配管と、前記下部主管の鉛直方向上部に一定の間隔を離間して水平方向に伸長するように前記縦管に連結された上部主管と、前記塔の横断面内において前記上部主管と直交するように該上部主管の側部に連結された、複数の上部分配管とから構成され;
前記分配管が複数のノズル孔を有し;
前記上部分配管が、前記下部分配管に対して、前記塔の上方からみて該塔の横断面において重ならないように配設され;そして、
前記塔の横断面を該塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管のノズル孔の数が、前記塔の横断面の単位面積当たりに含まれる前記下部分配管のノズル孔の数に対して90%以上である
ことを特徴とする前記液体分配器。
【請求項2】
上部分配管が、下部分配管より短いことを特徴とする、請求項1記載の液体分配器。
【請求項3】
塔の横断面を該塔の中心を同心とする直径の異なる二つの円によりそれぞれ等面積となるよう三つの領域に区分した場合に、各領域に含まれる上部分配管のノズル孔の数が、該塔の中心部の領域から半径方向外向きの領域に向かって少なくなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体分配器。
【請求項4】
上部分配管のノズル孔の大きさが、塔中心部から半径方向外向きに向かって小さくなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体分配器。
【請求項5】
下部分配管のノズル孔が、該下部分配管の上面部に設けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体分配器。
【請求項6】
上部分配管が、主管と連結している端部から塔壁に向かって鉛直方向上向きに傾斜していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体分配器。
【請求項7】
上部分配管のノズル孔が、該上部分配管の上面部に設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体分配器。
【請求項8】
上部分配管のノズル孔が、該上部分配管の下面部に設けられていることを特徴とする、請求項6記載の液体分配器。
【請求項9】
上部分配管のノズル孔が、該上部分配管の下面部及び上面部に設けられていることを特徴とする、請求項6記載の液体分配器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−635(P2009−635A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164586(P2007−164586)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】