説明

特異的ヒト抗体

本発明は、モチーフD-X-Y-D(SEQ ID NO:3)を含むPSGL-1のエピトープに結合する抗体又はポリペプチドであって、Xは任意のアミノ酸、又はDとYとの共有結合を表し、そしてYは硫酸化されており、抗体は、薬剤の複数のコピーとカップリング又は複合することができる、抗体又はポリペプチドを提供する。本発明の抗体は、抗体依存性細胞の細胞毒性を誘発し、且つ/又はナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞を刺激する方法において使用することができる。加えて、これらの抗体をこれを必要とする患者に投与することにより、細胞死を誘発する方法が提供される。当該感染の予防を必要とする患者に本発明の抗体を投与することにより、ウィルス(例えばHIV)による感染を予防する方法も提供される。本発明はまた、本発明の抗体に薬剤をカップリング又は複合し、そして細胞に抗体-薬剤カップリング体又は複合体を細胞に投与することにより、硫酸化型PSGL-1を発現させる細胞中に薬剤を導入する方法を提供する。最後に、本発明は、本発明の抗体を使用して診断、予後又は病期診断の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞、癌細胞、転移細胞、白血病細胞、白血球及び血小板上に存在し、そして、細胞転動、転移、炎症及び自己免疫疾患のような多種多様な生理学的現象において重要な特定のエピトープに結合する抗体に関する。より具体的には、これらの抗体は、抗癌活性、抗転移活性、抗白血病活性、抗ウィルス活性、抗感染活性、及び/又はその他の疾患、例えば炎症性疾患、自己免疫疾患、ウィルス感染、心臓血管疾患、例えば心筋梗塞、網膜症疾患、及び硫酸化型チロシン依存性タンパク質間相互作用によって引き起こされる疾患に対する活性を有することができる。加えて、本発明の抗体は、ターゲッティング薬として使用することにより、治療薬を体内の特異的な細胞又は部位に向けることができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
白血病、リンパ腫及び骨髄腫は、骨髄及びリンパ組織を起源とし、コントロールされない細胞成長に関与する癌である。急性リンパ芽球性白血病(ALL)は、特異的な臨床的及び免疫学的特性によって定義された異種疾患である。ALLの他の形態と同様に、B細胞ALL(B-ALL)のほとんどの事例の明確な原因は知られていないが、多くの事例において、この疾患は、単一の細胞のDNAにおける後天性遺伝子変化から生じ、異常及び連続的な増殖を引き起こす。B-ALL患者の予後は、小児及び成人の双方において、他の白血病患者よりも悪い。B細胞CLL(B-CLL)が一例となる慢性リンパ性白血病(CLL)は、リンパ球の数の増大によって特徴付けられる、白血病の緩徐進行性形態である。急性骨髄性白血病(AML)は、前駆細胞を有する新生物の異種群であり、前駆細胞は、正常な条件下では、骨髄系の最終分化細胞(赤血球、顆粒球、単球及び血小板)を生じさせる。新生物形成の他の形態のように、AMLは、後天性遺伝子変化と連携する。後天性遺伝子変化は、結果として、正常に分化された骨髄性細胞を比較的未分化の芽細胞と置換させ、1つ又は2つ以上の初期骨髄分化タイプを示す。AMLは一般に骨髄内で進化し、また、より低い程度で二次造血器内で進化する。主として、AMLは成人が罹り、その罹患ピークは15〜40歳であるが、しかし小児やより高齢の成人が罹患することも知られている。ほとんど全てのAML患者は、異常な循環未分化芽細胞レベルの痕跡がない臨床的緩解を得るために、診断直後に治療を必要とする。
【0003】
分離されたscFv抗体分子のリガンド
血小板、フィブリノゲン、GPIb、セレクチン及びPSGL-1(P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1)はそれぞれ、いくつかの病原性条件又は疾患状態、例えば異常又は病原性炎症、異常又は病原性免疫反応、自己免疫反応、転移、異常又は病原性癒着、血栓及び/又は再狭窄、及び異常又は病原性凝集において重要な役割を演じる。こうして、血小板及びこれらの分子と結合又は交差反応する抗体は、これらの又は他の病原性条件に関与する疾患及び障害の診断及び治療に有用となる。
【0004】
血小板
血小板は、血液系の十分に特徴付けられた成分であり、止血、血栓及び/又は再狭窄においていくつかの重要な役割を演じる。血管に対する損傷は、止血として知られるプロセスを始動する。止血は一連の順次事象によって特徴付けられる。損傷された血管に対する初期反応は、血管の内面上の罹患領域への血小板の癒着である。次のステップは、前に癒着された血小板上への多くの血小板層の凝集であり、止血血栓を形成して血管壁をシールする。止血血栓はフィブリン・ポリマーの沈積によってさらに強化される。塊又は栓は、損傷が修復されたときにのみ分解される。
【0005】
循環血小板は、巨核球の周囲から放出された細胞質粒子である。血小板は止血において重要な役割を演じる。血管外傷時に、血小板は損傷組織表面に癒着し、そして互いに結合する(粘着)。この事象シーケンスは急速に発生し、血管外傷部位に無構造塊(一般には血小板血栓又は血栓と呼ばれる)を形成する。凝集としても知られる粘着現象は、種々の物質又はアゴニスト、例えばコラーゲン、アデノシン-ジホスフェート(ADP)、エピネフリン、セロトニン及びリストセチンによってin vitroで開始することができる。凝集は、血小板機能の尺度として実施される数多くのin vitro試験のうちの1つである。
【0006】
転移における血小板の重要性
腫瘍転移はおそらく、癌患者の生存を制限する最も重要な要因である。蓄積されたデータが示すところによれば、宿主血小板と相互作用する腫瘍細胞の能力が、転移の必須決定因子の1つである(Oleksowicz, Thrombosis Res. 79:261-74(1995))。転移癌細胞が血流に侵入すると、腫瘍細胞をコーティングする血小板と白血球とから成る多細胞複合体が形成される。ミクロ塞栓と呼ぶことができるこれらの複合体は、腫瘍細胞が免疫系から逃れるのを助ける。血小板による腫瘍細胞のコーティングは、血小板によるP-セレクチンの発現を必要とする。
【0007】
血小板を凝集させる腫瘍細胞の能力は、腫瘍細胞の転移可能性と相関することが実証されており、そして、腫瘍誘発型の血小板凝集は齧歯類モデルにおいて転移の抑制と相関することが示されている。腫瘍細胞と血小板との相互作用は、膜癒着分子及びアゴニストの分泌に関与することが実証されている。免疫関連血小板糖タンパク質の発現が、腫瘍細胞系上で同定されている。血小板免疫関連糖タンパク質GPIb、GPIIb/IIIa、GPIb/IX及びインテグリンαvサブユニットが、乳癌細胞系の表面上に発現されることが実証された(Oleksowicz(1995)、前出;Kamiyama他、J. Lab. Clin. Med. 117(3):209-17(1991))。
【0008】
Gasic他(PNAS 61:46-52(1968))は、抗体誘発型血小板減少が、CT26結腸腺癌、ルイス肺癌、及びB16メラノーマによって生成された転移体の数及び体積を著しく低減することを示した(Karpatkin他、J. Clin. Invest. 81(4): 1012-19(1988); Clezardin他、Cancer Res. 53(19):4695-700(1993))。さらに、単一のポリペプチド鎖(60kd)が、HEL細胞の表面膜上に発現させられ、この表面膜はGPIbに密接に関連し、そして不完全又は異常にO-グリコシル化されたGPIbαサブユニットに相当することが見いだされた(Kieffer他、J. Biol. Chem. 261(34):15854-62(1986))。
【0009】
GPIb複合体
止血プロセスにおける各ステップは、血小板表面上の受容体の存在を必要とする。止血において重要な1つの受容体は、糖タンパク質Ib-IX複合体(CD42としても知られる)である。この受容体は、内皮細胞下においてフォン・ビレブラント因子(vWF)と結合することにより、血管壁損傷部位に血小板が癒着する(初期結合)のを媒介する。この受容体はまた、止血において重要な2つの他の血小板機能:(a)動脈狭窄領域における高剪断力によって誘発される血小板の凝集、及び(b)低濃度のトロンビンによって誘発される血小板活性、において重大な役割を有している。
【0010】
GPIb-IX複合体は、血小板原形質膜の外面の主要成分の1つである。この複合体は、膜に及ぶ3つのポリペプチド、すなわちGPIbのジスルフィドリンクされた130 kDa α-鎖及び25 kDa β鎖、及び非共有会合されたGPIX(22 kDa)を含む。サブユニットの全ては、CD42複合体の効率的な細胞表面発現及び機能のために、血小板膜上に等モル量で提供される。このことは、原形質膜上の完全発現のために、3つのサブユニットの適正な集成により複合体が形成されることが必要とされることを示唆する。GPIbのα-鎖は、3つの区別可能な構造ドメイン:(1)ロイシンに富んだ反復配列及びCys結合型フランキング配列を含有する球形N末端ペプチド・ドメイン;(2)高グリコシル化されたムチン様マクログリコペプチド・ドメイン;及び(3)膜と会合するC末端領域であって、GPIbαとのジスルフィド架橋及び膜貫通型の細胞質配列を含有する領域から成る。
【0011】
証拠となるいくつかの系が示唆するところによれば、GPIb-IX複合体のvWF及びトロンビン結合ドメインは、GPIbαのアミノ末端にほぼ300個のアミノ酸を含む球形領域内に存在する。ヒト血小板GPIb-IX複合体が、血小板及び反応性の両方を媒介する主要膜受容体であるのに伴って、内皮細胞下で結合されたvWFがGPIbによって認識されることにより、血小板の損傷血管への癒着が可能になる。さらに、vWFとGPIbαとの結合はまた血小板活性化を誘発する。この活性化は、GPIb-IXの細胞質ドメインと細胞骨格又はホスホリパーゼA2との相互作用に関与することができる。さらに、GPIbαは、α-トロンビンの高アフィニティ結合部位を含有し、この結合部位は、まだ十分には定義されていないメカニズムによって血小板活性化を容易にする。
【0012】
GPIbαのN末端球形ドメインは、負荷電アミノ酸のクラスターを含有する。証拠となるいくつかの系が示唆するところによれば、GPIb-IX複合体を発現させるトランスフェクトされたCHO細胞、及び血小板GPIbαにおいて、このドメイン(Tyr-276、Tyr-278、及びTyr-279)内に含有された3つのチロシン残基は、硫酸化される。
【0013】
タンパク質硫酸化
タンパク質硫酸化は、硫酸塩と、糖側鎖又はポリペプチド主鎖との酵素的共有結合に関与する広範囲な翻訳後修飾である。この修飾はトランス-ゴルジ区画内で発生する。硫酸化型タンパク質は分泌タンパク質、顆粒をターゲットにするタンパク質、及び原形質膜タンパク質の細胞外領域を含む。チロシンは、硫酸化されることが現在知られているアミノ酸残基である。Kehoe他、Chem. Biol. 7:R57-61(2000)。他のアミノ酸、例えばトレオニンも、特に疾患細胞中で硫酸化され得る。
【0014】
多数のタンパク質が、チロシン硫酸化型であることが見いだされているが、しかし、GPIb上に見いだされるような、単一のポリペプチド内の3つ又は4つ以上の硫酸化型チロシンの存在は、一般的でない。血小板及び巨核球によって発現させられ、vWFとの結合を介して内皮細胞下に血小板が結合して内皮細胞上を転動するのを媒介するGPIbα(CD42)はまた、そのN末端ドメインに多数の負電荷を含有する。このような高い酸性及び親水性の環境は、硫酸化にとって必須条件であると考えられる。なぜならば、チロシルタンパク質スルホトランスフェラーゼは酸性アミノ残基に隣接するチロシンを特異的に認識し、そしてこれらを硫酸化するからである(Bundgaard他、J.Biol.Chem. 272:21700-05(1997))。GPIbαの酸性領域の完全硫酸化は、顕著な負電荷密度(19個のアミノ酸の延在内部に13個の負電荷)を有する領域を産出し、また、他のタンパク質との静電相互作用のための候補部位となる。
【0015】
硫酸化型N末端チロシンは、CC-ケモカイン受容体、例えばCCR5の役割に影響を与えるとも考えられる。CC-ケモカイン受容体は、ヒト及びサルの免疫不全ウィルス(HIV-1、HIV-2及びSIV)がターゲット細胞内に侵入するための、関連7膜貫通型セグメント(7TMS)受容体を有する共受容体として役立つ。例えば、硫酸化型N末端チロシンが、CCR5とMIP-1α、MIP-1β、及びHIV-1 gp120/CD4複合体との結合、及びCCR及びCD4を発現させる細胞に侵入するHIV-1の能力に関与することが考えられる。別の重要なHIV-1共受容体であるCXCR4も、硫酸化される(Farzan他、Cell 96(5):667-76(1999))。チロシン硫酸化は、CCR-5依存性侵入ほど、CXCR4-依存性HIV-1侵入において有意な役割を演じることはなく、従って、CXC-ケモカイン群におけるチロシン硫酸化のための考えられ得る役割を実証し、そしてHIV-1の、CCR5とCXCR4との利用率の全般的な差を強調する(Farzan他、J. Biol. Chem. 277(33):29, 484-89(2002))。
【0016】
セレクチン及びPSGL-1
P-、E-、及びL-セレクチンは、数ある機能の中で、血管内皮上の白血球の転動を媒介する癒着部分群の員である。P-セレクチンは、血小板内の顆粒として貯蔵され、トロンビン、ヒスタミン、ホルボール・エステル、又はその他の刺激分子による活性化後に表面へ輸送される。P-セレクチンはまた、活性化された内皮細胞上に発現される。E-セレクチンは、内皮細胞上に発現され、そしてL-セレクチンは好中球、単球、T細胞及びC細胞上に発現される。
【0017】
PSGL-1(CD162とも呼ばれる)は、P-セレクチン、E-セレクチン及びL-セレクチンのムチン糖タンパク質リガンドであり、このリガンドは、GPIbと構造類似性を共有する(Afshar-Kharghan他(2001)、前出)。PSGL-1はPACE(対合塩基性アミノ酸変換酵素:Paired Basic Amino Acid Converting Enzymes)切断部位を有するジスルフィド・リンク型ホモダイマーである。PSGL-1はまた、3つの潜在的チロシン硫酸化部位、及びこれに続く、プロリン、セリン及びトレオニンが多い10-16デカマー反復を有する。PSGL-1の細胞外部分は3つのNリンク型グリコシル化部位を含有し、シアリル化型、フコシル化型の多数のOリンク型オリゴ糖分枝を有する(Moore他、Biol. Chem. 118:445-56(1992))。N-グリカン部位のほとんど及びO-グリカン部位の多くが占有される。ヒトHL-60細胞に由来するPSGL-1のO-グリカンの構造が決定されている。これらのO-グリカンのサブセットは、セレクチンとの結合に必要となるコア-2、シアリル化型及びフコシル化型構造である。PSGL-1のアミノ末端領域のチロシン硫酸化は、P-セレクチン及びL-セレクチンとの結合にも必要である。さらに、翻訳後におそらく切断されるN末端プロペプチドがある。
【0018】
PSGL-1は、267残基細胞外領域、25残基膜貫通型領域、及び69残基細胞内領域とともに、HL60細胞内に361残基を有し、そして、ジスルフィド結合型ホモダイマー又はヘテロダイマーを細胞表面上に形成する(Afshar-Kharghan他、Blood 97;3306-12(2001))。PSGL-1コード配列は、単一のエクソン内にあるので、代わりのスプライシングが可能であるべきではない。しかしHL60細胞内及びほとんどの細胞系におけるPSGL-1は、細胞外領域内に存在する10残基コンセンサス配列の15の連続反復を有するものの、ほとんどの天然型白血球を含む多形核白血球、単球、及び幾つかの他の細胞系において、この配列には14反復及び16反復がある。
【0019】
PSGL-1は、ダイマーとして好中球上に発現され、見かけ分子量は250 kDa及び160 kDaの両方であるのに対して、HL60上ではダイマー形態はほぼ220 kDaである。低減条件下で分析すると、各サブユニットは半分に低減される。分子質量の差は、異なる数のデカマー反復の存在によって引き起こされる分子内の多形に起因し得る(Leukocyte Typing VI. T. Kishimoto他編(1997))。
【0020】
ほとんどの血液白血球、例えば好中球、単球、白血球、B細胞のサブセット、及び全てのT細胞はPSGL-1を発現させる(Kishimoto他(1997)前出)。PSGL-1は、活性化された内皮、活性化された血小板、他の白血球及び炎症部位上で白血球の転動を媒介し、そしてP-セレクチン上での好中球の転動を媒介する。PSGL-1はL-セレクチンとの結合を介して好中球-好中球相互作用を媒介し、これにより炎症を媒介することもできる(Snapp他、Blood 91(1):154-64(1998))。
【0021】
白血球転動は炎症において重要であり、そしてP-セレクチン(活性化された内皮によって血小板上に発現される。血小板は損傷部位に固定化することができる)とPSGL-1との相互作用は、血管壁上での白血球の束縛及び転動のために役立つ(Ramachandran他、PNAS 98(18):10166-71(2001);Afshar-Kharghan他(2001)、前出)。細胞転動はまた転移において重要であり、内皮細胞上のP-及びE-セレクチンは、転移細胞と結合し、これにより血流から周囲組織内に溢出するのを容易にすると考えられる。
【0022】
こうして、PSGL-1は、全ての白血球:好中球、単球、リンパ球、活性化された周囲T細胞、顆粒球、好酸球、血小板上で、また、いくつかのCD34ポジティブ幹細胞及びB細胞の或る特定のサブセット上で見いだされた。P-セレクチンとPSGL-1との相互作用は、血管壁上での白血球の転動を促進し、血管部位の白血球の異常蓄積は、種々の病的炎症をもたらす。PSGL-1上の個々のチロシン硫酸塩の立体特異的な関与は、P-セレクチンとPSGL-1との結合にとって重要である。電荷はまた結合:すなわちNaCLの(150から50mMへの)低減によって増強される結合(Kd〜75nM)にとって重要である。PSGL-1上のチロシン硫酸化は高まるが、しかしこのことはP-セレクチン上でのPSGL-1癒着に究極的に必要とされるわけではない。PSGL-1チロシン硫酸化は、全ての剪断速度でより低速の転動癒着を支援し、そしてより著しく高い剪断速度で転動癒着を支援する(Rodgers他、Biophys. J. 81:2001-09(2001))。さらに、血小板上のPSGL-1発現は、白血球の25-100分の1である(Frenette他、J. Exp. Med. 191(8): 1413-22(2000))。
【0023】
ヒトPSGL-1に対する商業的に入手可能なモノクローナル抗体KPL1は、PSGL-1とP-セレクチンとの相互作用、及びPSGL-1とL-セレクチンとの相互作用を阻害することが判っている。KPL1エピトープは、PSGL-1のチロシン硫酸化領域(YEYLDYD)(SEQ ID NO:1)にマッピングされた(Snapp他、Blood 91(1):154-64(1998))。
【0024】
シアリル化型、フコシル化型のムチン・リガンドを除去する、0-シアログリコプロテアーゼによる腫瘍細胞の前処理はまた、腫瘍細胞-血小板複合体の形成を阻害した。in vivo試験が示すところによれば、これらの処理のいずれの結果としても、単球が循環腫瘍細胞とより大きく会合するようになり、このことは血小板結合の低減が、循環腫瘍細胞への免疫細胞によるアクセスを増大させることを示唆する(Varki及びVarki, Braz. J. Biol. Res. 34(6):711-17(2001))。
【0025】
フィブリノゲン
正常なヒト・フィブリノゲンには2つの形態、すなわち正常(γ)及びγプライムがある。これらの形態のそれぞれは正常な個体において見いだされる。より豊富な形態(体内に見いだされる総フィブリノゲンのほぼ90%)である正常フィブリノゲンは、2つの同一の55 kDa α鎖、2つの同一の95 kDa β鎖、及び2つの同一の49.5 kDa γ鎖から成る。より豊富でない形態である正常変異形フィブリノゲン(体内に見いだされる総フィブリノゲンのほぼ10%)は、2つの同一の55 kDa α鎖、2つの同一の95 kDa β鎖、1つの49.5 kDa γ鎖、及び1つの変異体50.5 kDa γプライム鎖から成る。ガンマ及びガンマ・プライム鎖は両方とも、同じ遺伝子によってコードされ、代わりのスプライシングが3'末端に発生する。正常ガンマ鎖は、アミノ酸1-411から成り、そして正常変異形ガンマ・プライム鎖は427個のアミノ酸から成り、これらのアミノ酸のうちアミノ酸1-407は正常ガンマ鎖におけるアミノ酸と同じであり、アミノ酸408-427はVRPEHPAETEYDSLYPEDDL(SEQ ID NO:2)である。この領域は通常、トロンビン分子によって占有される。
【0026】
フィブリノゲンは、イオン化されたカルシウムの存在においてトロンビンの作用によってフィブリンに変換されることにより血液の凝固が生成される。フィビリンはまた血栓及び急性炎症性滲出液の1成分である。
【0027】
従って、本発明の目的は、硫酸化PSGL-1と結合する種々の抗体又はポリペプチド、及びその使用方法を提供することである。
【0028】
具体的には、本発明の目的は、本発明の抗体を投与することによって、ADCCを活性化するか又はナチュラルキラー(NK)又はT細胞を刺激する方法を提供することである。
【0029】
本発明の別の特定の目的は、細胞死を誘発する方法を提供することである。
【0030】
本発明のさらに別の特定の目的は、本明細書中に記載された抗体を、当該感染の防止を必要とする患者に投与することを含む、ウィルス、例えばHIVによる感染を防止する方法を提供することである。
【0031】
本発明のさらに別の特定の目的は、硫酸化型PSGL-1を発現させる細胞内に薬剤を導入する方法であって、下記ステップ:本明細書中に記載された抗体に薬剤をカップリング又は複合し、そして、抗体-薬剤カップリング体又は複合体を細胞に投与するステップを有する方法を提供することである。
【0032】
最後に、本発明の特定の目的は、本発明の抗体を使用して診断、予後又は病期診断の方法を提供することである。
【発明の開示】
【0033】
発明の概要
本発明は、モチーフD-X-Y-D(SEQ ID NO:3)を含むPSGL-1のエピトープに結合する抗体又はポリペプチドであって、Xは任意のアミノ酸、又はDとYとの共有結合を表し、そしてYは硫酸化されており、抗体は、抗癌薬、抗白血病薬、抗転移薬、抗新生物薬、抗疾患薬、抗癒着薬、抗血栓薬、抗再狭窄薬、抗自己免疫薬、抗凝集薬、抗菌薬、抗ウィルス薬、及び抗炎症薬から成る群から選択された薬剤の複数のコピーとカップリング又は複合することができる、抗体又はポリペプチドを提供する。
【0034】
本発明の抗体は、抗体依存性細胞の細胞毒性を誘発し、且つ/又はナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞を刺激する方法において使用することができる。加えて、これらの抗体をこれを必要とする患者に投与することにより、細胞死を誘発する方法が提供される。当該感染の予防を必要とする患者に本発明の抗体を投与することにより、ウィルス(例えばHIV)による感染を予防する方法も提供される。本発明はまた、本発明の抗体に薬剤をカップリング又は複合し、そして細胞に抗体-薬剤カップリング体又は複合体を細胞に投与することにより、硫酸化型PSGL-1を発現させる細胞中に薬剤を導入する方法を提供する。本発明はさらに、腫瘍細胞マーカーを同定し、分離し、そして精製する方法を提供する。最後に、本発明は、本発明の抗体を使用して診断、予後又は病期診断の方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
発明の詳細な説明
抗体(Abs)又は免疫グロブリン(Igs)は、抗原に結合するタンパク質分子である。自然発生型抗体の各機能結合ユニットは、ジスルフィド結合によって一緒にリンクされた4つのポリペプチド鎖(2つは重鎖であり2つは軽鎖である)のユニットから成る。鎖のそれぞれは定常領域及び可変領域を有する。自然発生型抗体は、これらの重鎖成分を基準として、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを含むいくつかのクラスに分類することができる。IgGクラスは、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むいくつかのサブクラスを含む。Bリンパ球によって免疫グロブリンをin vivoで生成し、そしてそれぞれのこのような分子は特定の外来抗原決定基を認識し、そしてその抗原のクリヤリングを容易にする。
【0036】
抗体は、抗体複合体を含む数多くの形態で生成して使用することができる。本明細書中に使用される「抗体複合体」は、1つ又は2つ以上の抗体と別の抗体、又は抗体断片との複合体、又は2つ又は3つ以上の抗体断片の複合体を意味するために使用される。抗体断片の例は、Fv、Fab、F(ab')2、Fc及びFd断片を含む。従って、本発明による抗体は、抗体又は抗体断片の複合体を含む。
【0037】
本明細書及び特許請求の範囲において使用するFvは、ヒト抗体の重鎖の可変領域と、同じもの又は異なるものであってよいヒト抗体の軽鎖の可変領域とから形成された分子として定義される。ヒト抗体において、重鎖の可変領域は、軽鎖の可変領域と結合、リンク、融合又は共有結合、又は会合されている。Fvは単鎖Fv(scFv)又はジスルフィド安定化型Fv(dsFv)であってよい。scFvは、フレキシブルなアミノ酸ポリペプチド・スペーサー又はリンカーによってリンクされた、抗体の重鎖及び軽鎖のそれぞれの可変領域から成る。リンカーは分枝型又は非分枝型であってよい。好ましくはリンカーは0-15アミノ酸残基であり、そして最も好ましくはリンカーは(Cly4Ser)3である。
【0038】
Fv分子自体は、第1鎖と第2鎖とから成っている。各鎖は第1、第2及び第3の超可変領域を有している。軽鎖及び重鎖の可変領域内部の超可変ループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれている。重鎖及び軽鎖のそれぞれには、CDR1、CDR2及びCDR3領域がある。これらの領域は、抗原結合部位を形成すると考えられ、そして具体的には修飾することにより、結合活性を高めることができる。性質上これらの領域のうちで最も可変なのは重鎖のCDR3領域である。CDR3領域は、Ig分子の最も暴露された領域であると理解され、そして本明細書中に示すように、観察される選択的且つ/又は特異的結合特性に主に関与する部位である。
【0039】
Fv分子の断片は、元のFvの選択的且つ/又は特異的結合特性を依然として維持する、元のFvよりも小さな任意の分子として定義される。このような断片の例の一例としては、(1)Fvの重鎖だけの断片を含むミニ・ボディ、(2)抗体重鎖可変領域の小さな部分ユニットを含むミクロ・ボディ(国際出願第PCT/IL99/00581号明細書)、(3)軽鎖の断片を有する同様のボディ、及び(4)軽鎖可変領域の機能ユニットを有する同様のボディが挙げられる。いうまでもなく、FV分子の断片は実質的に環状又はループ状のポリペプチドであってよい。
【0040】
本明細書に使用される用語「Fab断片」は、免疫グロブリンの一価抗原結合断片である。Fab断片は軽鎖と重鎖部分とから成っている。
【0041】
F(ab')2断片は、ペプシン消化によって得られる免疫グロブリンの二価抗原結合断片である。これは両軽鎖と両重鎖の部分を含有する。
【0042】
Fc断片は免疫グロブリンの非抗原結合部分である。これは重鎖のカルボキシ末端部分と、Fc受容体の結合部位とを含有する。
【0043】
Fd断片は、免疫グロブリンの重鎖の可変領域、及び第1定常領域である。
【0044】
ポリクローナル抗体は、免疫応答の生成物であり、多数の種々異なるリンパ球によって形成される。モノクローナル抗体は、1つのクローナルB細胞に由来する。
【0045】
ポリペプチドに適用され、また本発明において定義されるカセットは、所与の連続アミノ酸配列を意味する。この配列はフレームワークとして役立ち、単一のユニットと考えられ、そしてそのようなものとして操作される。アミノ酸を一方又は両方の末端で置換、挿入、除去又は結合することができる。同様にアミノ酸の延在部分を一方又は両方の末端で置換、挿入、除去又は結合することができる。
【0046】
「エピトープ」という用語は、本明細書中では、抗原決定基又は認識部位、又は抗体、抗体断片、抗体複合体、又はその結合断片又はT細胞受容体を有する複合体と相互作用する抗原部位を意味するのに使用される。エピトープという用語は、リガンド、ドメイン及び結合領域という用語と本明細書中において相互置き換え可能に使用される。
【0047】
選択性は本明細書中において、エンティティ又はエンティティ状態の混合物から1つのエンティティ又は細胞状態を選んでこれに結合するターゲッティング分子の能力として定義される。このエンティティ又はエンティティ状態は全て、ターゲッティング分子に対して特異的であってよい。
【0048】
本明細書中に使用される「アフィニティ」という用語は、結合分子(例えば抗体上の1結合部位)と、リガンド(例えば抗原決定基)との間の結合強度の尺度(会合定数)である。抗体上の単一の抗原結合部位と単一のエピトープとの非共有相互作用の合計の強度は、そのエピトープに対する抗体のアフィニティである。低アフィニティ抗体は抗原と弱く結合し、容易に解離する傾向があるのに対し、高アフィニティ抗体はより密に抗原に結合し、より長く結合され続ける。「アビディティ」という用語はアフィニティとは異なる。なぜならば、前者は抗原-抗体相互作用の原子価を反映するからである。
【0049】
抗体-抗原相互作用の特異性:抗体-抗原反応は特異的ではあるものの、いくつかの事例では、1抗原によって誘発される抗体が別の無関係の抗原と交差反応することができる。2つの異なる抗原が相同又は同様の構造、エピトープ、又はそのアンカー領域を共有する場合、或いは、1エピトープに対して特異的な抗体が同様の構造配座又は化学特性をプロセッシングする無関係のエピトープに結合する場合に、このような交差反応が発生する。
【0050】
血小板は骨髄内で発生し、続いて末梢血流内で循環する巨核球のディスク状細胞質断片である。血小板は、凝固における主要な役割を含むいくつかの生理学的機能を有する。血小板は中心に配置された顆粒及び周囲のクリアな原形質を含有するが、しかし、明確な核は有していない。
【0051】
本明細書中に使用される「アグルチネーション」は、懸濁された同様のサイズの細菌、細胞、ディスク又はその他の粒子を癒着させ、塊を形成させるプロセスを意味する。このプロセスは沈澱に似ているが、粒子はより大きく、溶液中にあるのではなく懸濁液中にある。
【0052】
「凝集」という用語は、血栓又は止血血栓の形成に通じる順次的なメカニズムの一部として、in vitroで誘発される血小板、及びトロンビン及びコラーゲンの塊形成を意味する。
【0053】
同類アミノ酸置換は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質、又はその断片の1つ又は2つのアミノ酸を変化させることによる、アミノ酸組成の変化として定義される。置換は、概ね類似の特性(例えば酸性、塩基性、芳香族、サイズ、正又は負の電荷、極性、非極性)を有するアミノ酸によって行われるので、置換はペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の特性(電荷、等電点、アフィニティ、アビディティ、配座、溶解度)又は活性をほとんど変えない。このような同類アミノ酸置換のために行うことができる典型的な置換は、下記アミノ酸群:
グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)
アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)
アラニン(A)、セリン(S)及びトレオニン(T)
ヒスチジン(H)、リシン(K)及びアルギニン(R)
アスパラギン(N)及びグルタミン(Q)
フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)
の中から行われてよい。
【0054】
同類アミノ酸置換は、例えば分子の選択的且つ/又は特異的結合特性に主に関与する超可変領域をフランキングする領域、並びに分子の他の部分、例えば可変重鎖カセットにおいて形成することができる。これに加えて、又はこれとは別に、分子を再構成してフルサイズの抗体、ダイアボディ(ダイマー)、トリアボディ(トリマー)及び/又はテトラボディ(テトラマー)を形成するか、或いは、ミニボディ又はミクロボディを形成することにより、修飾を達成することもできる。
【0055】
ファージミドは、プラスミドDNAを担持するファージ粒子として定義される。ファージミドは、繊維状ファージ、例えばfd又はm13からの複製の起源を含有するように設計されたプラスミド・ベクターである。ファージミドはプラスミドDNAを担持するので、ファージミド粒子は、ファージ・ゲノムの完全補体を含有するのに十分なスペースを有さない。ファージ・ゲノムから欠落した成分は、ファージ粒子をパッケージングするのに必須の情報である。従ってファージを増殖するために、欠落パッケージング情報を補完するヘルパー・ファージ株と一緒に、所望のファージ粒子を培養することが必要である。
【0056】
プロモーターは、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始するDNA上の領域である。
【0057】
ファージ提示ライブラリー(ファージ・ペプチド/抗体ライブラリー、ファージ・ライブラリー、又はペプチド/抗体ライブラリーと呼ばれる)は、ファージの大きな個体群(108以上)を含み、各ファージ粒子は異なるペプチド又はポリペプチド配列を提示する。これらのペプチド又はポリペプチド断片は、可変の長さを有するように構成することができる。提示されたペプチド又はポリペプチドは、例えばヒト抗体重鎖又は軽鎖に由来することが可能である。
【0058】
医薬組成物は、本発明の抗体又はペプチド又はポリペプチド、及び製薬上許容可能なキャリヤ、賦形剤又はその希釈剤、又は抗体-医薬剤(抗体-薬剤)複合体、及び製薬上許容可能なキャリヤ、賦形剤又はその希釈剤を含む配合物を意味する。
【0059】
本発明との関連における薬剤は、例えばヒト、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、イヌ、ネコ、又は任意のその他の温血動物を含む哺乳動物の活性疾患の治療、予防的治療、又は診断に有用である。薬剤は、放射性同位体、毒素、オリゴヌクレオチド、組換えタンパク質、抗体断片、抗癌薬、抗白血病薬、抗転移薬、抗新生物薬、抗疾患薬、抗癒着薬、抗血栓薬、抗再狭窄薬、抗自己免疫薬、抗凝集薬、抗菌薬、抗ウィルス薬、及び抗炎症薬から成る群から選択される。このような薬剤の他の例は、例えばアシクロビル、ガンシクロビル及びジドブジンを含む抗ウィルス薬;シロスタゾル、ダルテパリン・ナトリウム、レビパリン・ナトリウム、及びアスピリンを含む抗血栓/抗再狭窄薬;ザルトプロフェン、プラノプロフェン、ドロキシカム、アセチルサリチル酸17、ジクロフェナク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、スリンダク、ナプロキセン、アムトルメチン、セレコキシブ、インドメタシン、ロフェコキシブ及びニメスリドを含む抗炎症薬;レフルノミド、デニロイキン・ジフチトックス、スブレウム、WinRho SDF、デフィブロチド及びシクロホスファミドを含む抗自己免疫薬;及びリマプロスト、クロルクロメン及びヒアルロン酸を含む抗癒着/抗凝集薬、を含む。
【0060】
抗白血病薬は、抗白血病活性を有する薬剤である。例えば抗白血病薬は、白血病細胞又は未熟な前白血病細胞の成長を阻害又は中止する薬剤、白血病細胞又は前白血病細胞を殺す薬剤、他の抗白血病薬に対する白血病細胞又は前白血病細胞の感受性を高める薬剤、及び白血病細胞の転移を阻害する薬剤を含む。本発明において、抗白血病薬は、腫瘍の脈管化を防止、阻害、遅延又は中止する抗血管形成薬を有する薬剤であってもよい。
【0061】
遺伝子の発現パターンは、種々の条件下で、特定の時間に、種々の組織内などで生成された遺伝子生成物の量を分析することにより研究することができる。遺伝子は、遺伝子生成物の量が、正常な対照、例えば非疾患対照において見いだされるよりも高いときに「過剰発現」されたと考えられる。
【0062】
所与の細胞は、その表面上に、所与の抗体のための結合部位(又はエピトープ)を有するタンパク質を発現させることができるが、しかしその結合部位は、第1期(段階I)と呼ぶことができる状態において、細胞中に曖昧な形態で(例えば立体障害又はブロックされた形態、又は抗体による結合に必要な特徴の欠如)存在することがある。段階Iは、例えば正常で健常な非疾患状態であることが可能である。エピトープが曖昧な形態で存在する場合、このエピトープは所与の抗体によって認識されない。すなわち、抗体とこのエピトープとの結合、又は抗体と段階Iにおける所与の細胞との結合はない。しかし、エピトープは、例えばそれ自体に修飾を施すか、又はブロック解除することにより暴露することができる。なぜならば、隣接する又は会合された分子が修飾されるか、又は或る領域が配座変化させられるからである。修飾の例は、折り畳みの変化、翻訳後修飾の変化、リン脂質化の変化、硫酸化の変化、グリコシル化の変化などを含む。細胞が第2期(段階II)と呼ぶことができる異なる状態に侵入すると、このようは修飾が発生し得る。第2の状態又は第2期の例は、活性化、増殖、トランスフォーメーション又は悪性状態を含む。修飾されると、次いでエピトープを暴露することができ、そして抗体が結合することができる。
【0063】
ペプチド類似体は、アミノ酸の間に任意のペプチド結合、すなわちアミド結合をもはや含有しない分子(例えば抗体)であるが、本発明との関連において、ペプチド類似体という用語は、性質上もはや完全にはペプチド性ではない分子、例えばシュード・ペプチド、半ペプチド及びペプトイドを含むものとする。完全に非ペプチドであろうと部分的に非ペプチドであろうと、本発明によるペプチド類似体は、ペプチド類似体の基準となるペプチド内の活性基の三次元配列に酷似する反応性化学部分の空間的配列を提供する。これらの分子は小分子、脂質、多糖、又はこれらの複合体を含む。
【0064】
ファージミドは、繊維状ファージ、例えばM13又はfdからの複製の起源を含有するように設計されたプラスミド・ベクターである。
【0065】
細胞特異的且つ/又は疾患特異的リガンドをこれらの表面上に発現させる、疾患細胞、変化細胞又はその他の修飾細胞を伴う広範囲の疾患が存在する。これらのリガンドを利用することにより、各個別の細胞を認識、選択、診断及び治療することにより、特異的疾患の認識、選択、診断及び治療をもたらすことができる。本発明は、全て結合特性が高められたFv分子、その構造、その断片、その断片の構造、又は構造の断片を含むペプチド又はポリペプチドを提供する。これらの結合特性は、ペプチド又はポリペプチド分子が、他の細胞に優先してターゲット細胞に選択的且つ/又は特異的に結合することを可能にし、その結合特異性及び/又は選択性は主として第1の超可変領域によって決定される。FvはscFv又はdsFvであってよい。
【0066】
上記Fv分子を使用することにより、疾患細胞をターゲットすることができる。疾患細胞は例えば癌細胞であってよい。特異的ターゲッティングによって診断及び/又は治療されやすい癌のタイプの例は、例えば癌腫、肉腫、白血病、腺腫、リンパ腫、骨髄腫、芽細胞腫、セミノーマ及びメラノーマを含む。白血病、リンパ腫及び骨髄腫は、骨髄及びリンパ組織を起源とし、コントロールされない細胞成長に関与する癌である。
【0067】
PSGL-1及び/又はGPIbに結合する抗体は、ファージ提示ライブラリーを使用して同定され、米国特許出願第10/032,423号;同第10/032,037号;同第10/029,988号;同第10/029,926号;同第09/751,181号;同第10/189,032号;及び同第60/258,948号の各明細書及び国際出願第PCT/US01/49442号明細書及び同第PCT/US01/49440号明細書に開示された。これらの出願明細書に開示された抗体の具体例は、Y1、Y17及びL32抗体を含む。これらの抗体は、生殖細胞系(DP32)から分離され、そして、造血性細胞のタンパク質上に見いだされたエピトープに特異的に結合することが発見された。このエピトープはN末端チロシンで硫酸化され、そして細胞移動、例えば腫瘍転移に関与すると考えられる。
【0068】
Y1/Y17/L32に結合する硫酸化型エピトープは、硫酸化部分、例えば硫酸化型チロシン残基又は硫酸化型炭水化物又は脂質部分が、好ましくは2つ又は3つ以上の酸性アミノ酸のクラスター内部に存在することによって特徴付けられる。これらの硫酸化部分は、炎症、免疫反応、感染、自己免疫反応、転移、癒着、血栓及び/又は再狭窄、細胞転動、及び凝集のような種々様々なプロセスにおいて重要な役割を演じるリガンド及び受容体上に見いだされる。このようなエピトープは、疾患細胞、例えばT-ALL細胞、B-白血病細胞、B-CLL細胞、AML細胞、多発性骨髄腫細胞、及び転移細胞上にも見いだされる。これらのエピトープは、これらのプロセスの治療媒介(並びにターゲッティング薬)及び診断処置のための有用なターゲットである。
【0069】
さらに、本発明のこれらの抗体に関して、結合が細胞の発育段階に依存することが判った(AMLサブタイプは、日常的なプロセッシング及び細胞化学的染色下で観察される形態学を用いて、French-American-Britishシステムに基づいて分類される)。すなわち、抗体はサブタイプM3以上のAML細胞と結合し、M0又はM1サブタイプ細胞とは結合しない。加えて、抗体はM2サブタイプ細胞に結合する場合もしない場合もある。従って、本発明の抗体は、正常な健常骨髄(例えばCD34 + 細胞)には結合しない。このような差は、PSGL-1発現及び/又は硫酸化の変化、並びに、僅かに異なるエピトープを暴露するPSGL-1の可能な配座変化に基づくと考えられる。
【0070】
具体的には、低レベルのGPIbを発現させるヒト慢性骨髄性白血病細胞系であるKU812細胞は、Y1抗体と結合することが判っている。GPIbタンパク質の硫酸化を阻害するが発現は阻害しない、塩素酸ナトリウム中のKU812細胞の成長に続いて、Y1と細胞との結合は50%低減された。加えて、GPIbのアミノ酸273〜285に基づいたチロシン硫酸化型ペプチドは、Y1抗体と血小板との結合を競合的に阻害するのに対して、非硫酸化型ペプチドは、Y1抗体と血小板との結合を阻害しないことが判っている。
【0071】
本発明は、硫酸化型チロシン・モチーフを含むエピトープを認識してこれに結合する抗体又はその断片を含むか又は採用する。このようなモチーフは、酸性残基(アスパルテート及びグルタメート)が豊富なペプチド配列を含み、そして1つ以上のチロシンを含有する。認識及び結合は、硫酸化されているチロシンのうちの1つ以上に、少なくとも部分的に依存する。このような1つの抗体はY1又はその断片である。Y1は、本明細書中に記載された実施態様において言及された抗体であるが、本発明を、Y1を採用する実施態様に限定するものとして理解されるべきではない。本発明は、硫酸化型チロシン・モチーフを含むエピトープに結合する他の抗体、例えば、結合特異性を維持する、Y1及びその断片に関連する抗体を使用する実施態様を含む。
【0072】
本発明によれば、硫酸化型チロシン・モチーフを含むエピトープに結合する抗体又はその断片が提供され、結合が、硫酸化されているモチーフの1つ以上のチロシンに依存する。1実施態様の場合、抗体は、抗体依存性細胞の細胞毒性を媒介する。好ましい実施態様の場合、抗体はY1又は関連抗体、又はその断片である。
【0073】
本発明はさらに、このような抗体又はその断片と複合(例えば会合、組合わせ、融合又はリンク)された薬剤を提供する。1〜16個又はそれ以上の薬剤分子を各抗体に結合することができる。抗体は、ヒンジ領域に4つのジスルフィド結合を有している。これらのジスルフィド結合は選択的に8つのチオール基に還元することができる。チオール官能基に共有結合することができ、そして1つの薬剤分子を担持するリンカーを使用することにより、最大8n個の薬剤分子を抗体に結合することができる。1実施態様の場合、重鎖だけが薬剤と複合されるか、又は軽鎖だけが薬剤と複合されるのに対して、より好ましい実施態様の場合、各重鎖は薬剤の約2つのコピーと複合され、そして各軽鎖は薬剤の約2つのコピーと複合される。
【0074】
当業者に知られているように、中間薬物キャリヤ、例えば天然型(例えばデキストラン)及び合成型(例えばHPMA)ポリマー並びにリポソーム(例えば抗体-リンカー-キャリヤ-薬剤)を使用することにより、さらに多数の薬剤分子を抗体にリンクすることができる。抗体の遊離アミノ基に薬剤を直接的又は間接的にリンクすることもできる。例えば、薬剤はリンカーを介して、遊離ε-又はα-アミノ基にリンクすることができる。典型的には薬剤はリンカーに直接的に接合され、又は先ずキャリヤに接合され、次いでこれがリンカーに接合される。リンカー-薬剤又はリンカー-キャリヤ-薬剤複合体は、次いで抗体に接合される。抗体-薬剤複合体は、腫瘍細胞によって内部化することができ、薬剤は細胞の死をもたらす。1実施態様の場合、抗体-薬剤のリンクは、例えば酸切断又は酵素切断によって、細胞内部で断絶することができる。好ましい実施態様の場合、抗体はY1又は関連抗体、又はその断片である。
【0075】
本発明はさらに、Y1又はY1-薬剤複合体を含む、疾患治療用組成物を提供する。
【0076】
1実施態様の場合、本発明は、本発明の抗体を投与することにより、ADCCを誘発又は活性化する方法を提供する。従って、これらの抗体は、ADCCを活性化し、且つ/又はナチュラルキラー(NK)細胞(例えばCD56+)、γδ T-細胞、及び/又は単球を刺激することができ、その結果、細胞溶解をもたらすことができる。一般に、Fc領域又は抗体の一部を含む抗体を投与することに続いて、前記抗体は、エフェクター細胞、例えばNK細胞上のFc受容体(FcR)に結合し、パーフォリン及びグランザイムBの放出をトリガし、且つ/又はFas B発現を誘発する。次いでこのことはアポトーシスを招く。エフェクター細胞上に発現されたFasLと、ターゲット細胞表面上のFas受容体との結合は、Fas受容体シグナル伝達経路の活性化を介して、ターゲット細胞アポトーシスを誘発することができる。1実施態様の場合、本発明の抗体は、エフェクター細胞上のFasL発現を誘発する。関与するエフェクター細胞のタイプ、サイトカイン(例えばIL-2及びG-CSF)、インキュベーション時間、細胞表面上に存在する受容体の数、及び抗体アフィニティを含む種々の因子が、ADCCに影響を与えることができる。
【0077】
さらに別の実施態様の場合、細胞死の誘発を必要とする患者に、薬剤とカップリング又は複合された本発明の抗体を投与することにより、細胞死を誘発する方法であって、抗体-薬剤カップリング体又は複合体が、内部化によって細胞に侵入し、そして抗体-薬剤接合体又は複合体が切断され、薬剤を放出する、方法が提供される。内部化は、エンドサイトーシス又はファゴサイトーシスによって、任意の好適な手段によって行うことができる。本発明はこうして、患者における疾患を治療する(例えば、治療は疾患の効果の改善、疾患の予防、又は疾患の進行の阻害を含むことができる)手段を提供する。
【0078】
具体的には、抗体を使用することにより、細胞内に薬剤を導入する。抗体は、疾患細胞の表面上に優先的に発現されたタンパク質、例えば硫酸化型チロシン残基を有するタンパク質に結合する。好ましい実施態様の場合、薬剤は、毒素、例えばドキソルビシン、モルホリノ-ドキソルビシン、又はモルホリノ-ダウノルビシンである。より好ましい実施態様の場合、毒素は、アジピン酸リンカー又はN-ε-マレイミドカプロン酸ヒドラジド・リンカーを介して、抗体にリンクされる。アジピン酸リンカーは、αアミノ酸基に結合するために使用されているのに対して、N-[マレイミドカプロン酸]ヒドラジド・リンカーは、αアミノ酸基及び還元されたジスルフィド・リンケージのSH基(マレイミド基を介してC-S結合を形成する)の双方に結合するために使用されている。加えて、薬物と、N-[マレイミドカプロン酸]ヒドラジド・リンカーとの間にヒドラゾン結合が形成される。
【0079】
抗体-薬剤複合体が細胞表面タンパク質に結合した後、細胞は複合体を内部化する。次いで細胞内部の酵素は、抗体-毒素リンケージを切断し、毒素は細胞に作用してその死をもたらす。別の実施態様の場合、本発明は、このような抗体-毒素接合体を含む、疾患治療用の組成物を提供する。
【0080】
別の実施態様は、細胞内に非毒性薬剤を導入する同様の方法を提供する。非毒性薬剤を使用することにより、例えば特異的遺伝子の活性を直接的又は間接的に活性化又は抑圧することにより、細胞の挙動又は活性を変化させることができる。
【0081】
1つの別の実施態様の場合、本発明はウィルス感染を防止する方法であって、このことを必要とする患者に、本明細書中に記載された抗体を投与することを含む、方法を提供する。従って、疾患治療手段は、感染をブロックする抗体を投与することにより達成される。細胞はその表面上に、抗体によって認識され感染性物質の感染にも必要な硫酸化型チロシン・モチーフ含有エピトープを含有するタンパク質を発現させる。抗体はこのタンパク質に結合し、これにより感染をブロックする。好ましい抗体が硫酸化型チロシン・モチーフ含有エピトープを介して結合することが知られているタンパク質は、フィブリノゲンγ鎖、GPIb-α鎖、補体C4、及びPSGL-1を含む。好ましい抗体が硫酸化型チロシン・モチーフ含有エピトープを介して結合すると考えられているタンパク質が、CCR5及びCXCR4を含む。CCR5及びCXCR4のいずれもが、HIV感染に必要な共受容体として機能することができる。好ましい実施態様の場合、抗体を使用することにより、HIV株の感染をブロックすることができた。好ましくは、抗体はY1である。
【0082】
最後に、硫酸化型PSGL-1を発現させる細胞内に薬剤を導入する方法であって:本明細書中に記載された抗体に薬剤をカップリング又は複合し、そして抗体-薬剤カップリング体又は複合体を細胞に投与することを含むステップを有する、方法が提供される。
【0083】
本発明の抗体は、硫酸化型PSGL-1に結合する。炎症に関与する白血球、例えば単球、好中球及びリンパ球は、第1に、アテローム性動脈硬化のような疾患の炎症プロセス中に、4つの癒着分子、PSGL-1、P-セレクチン、VLA-4及びVCAM-1によって補充される(Huo及びLey, Acta Physiol. Scand., 173: 35-43(2001);Libby, Sci. Am. May:48-55(2002);Wang他、J. Am. Coll. Cardiol. 38:577-582(2001))。抗体がこれらの中心分子のいずれかを妨害することは、関連疾患を無効にする上での抗体の潜在的な役割を示唆する。具体的にはP-セレクチンは細胞の結合及び転動を制御する。加えて、P-セレクチン-PSGL-1の相互作用は、腫瘍形成(悪性細胞と関係する場合)及び炎症応答(白血球と関係する場合)と一体的に関連する細胞上の多数の他の分子を活性化する(Shebuski及びKilgore, J. Pharmacol. Exp. Ther. 300: 729-735(2002))。細胞プロセスを調節するP-セレクチンの能力をこのように理解した上で、硫酸化型PSGL-1に対する、抗体の高められたscFv選択性は、この抗体を、種々の悪性疾患及び炎症性疾患を治療するための優れた分子にすることができることが明らかである。さらに、悪性疾患のモデルは、P-セレクチンと悪性細胞との結合が、PSGL-1の硫酸化を必要とすることを示している(Ma及びGeng, J. Immunol. 168:1690-1696(2002))。この要件は、抗体の結合に対する要件と類似する。従って、抗体は、進行中の悪性疾患のP-セレクチンによる促進を無効にできることが期待できる。
【0084】
好ましくは、本発明の抗体は、T-ALL細胞、AML細胞、Pre-B-ALL細胞、B-白血病細胞、B-CLL細胞、多発性骨髄腫細胞、及び転移細胞を含む、炎症又は腫瘍形成に関与する1つ以上の細胞タイプ上に存在するエピトープに結合する。さらに好ましくは、本発明の抗体は、脂質、炭水化物、ペプチド、糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質及び/又はリポ多糖分子上のエピトープに結合することができる。このようなエピトープは好ましくは1つ以上の硫酸化型部分を有する。或いは、しかし好ましくは、本発明の抗体は2つ又は3つ以上のエピトープと交差反応し、各エピトープは1つ又は2つ以上の硫酸化型チロシン残基、及び2つ又は3つ以上の酸性アミノ酸から成る1つ以上のクラスターを有し、その一例がPSGL-1である。
【0085】
本発明の、これらの抗体、抗原結合断片、又はその複合体は、細胞表面上でPSGL-1と結合するのに続いて、細胞内に内部化することができる。このような内部化は、活性プロセスとしてエンドサイトーシスを介して生じることができる。活性プロセスは、様式、時間及び温度に依存する。例えばY1は、PSGL-1を介してAML患者から細胞内に特異的に内部化される。
【0086】
本発明の抗体は、チロシン硫酸化部位を有するタンパク質に結合する。このようなタンパク質は、PSGL-1、GP1b、α-2抗プラスミン;アミノペプチダーゼB;CCケモカイン受容体、例えばCCR2、CCR5、CCR3、CXCR3、CXCR4、CCR8、CCR2b及びCXCI;7膜貫通型セグメント(7TMS)受容体;凝固因子、例えば因子V、VIII及びIX;フィブリノゲン・ガンマ鎖;ヘパリン補因子II;セクレトグラニン、例えばセクレトグラニンI及びII;ビトロネクチン、アミロイド前駆体、α-2抗プラスミン;コレシストキニン;α-絨毛膜ゴナドトロピン;補体C4;デルマタン・スファイエプロテオグリカン;フィブリネクチン;及びカストリンを含む。好ましい実施態様の場合、本発明の抗体は、硫酸化型CCケモカイン受容体、CCR5、CXCR4、CXCI及びCCR2bに結合する。前述のように、硫酸化型チロシンは、CCR5と、MIP-1α、MIPβ及びHIV-1 gp120/CD4との結合、及びCCR5及びCD4を発現させる細胞に侵入するHIV-1の能力に関与し得る。
【0087】
原核細胞発現系又は真核細胞発現系において、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びその断片及び構造を生成することができる。原核細胞系又は真核細胞系において抗体及び断片を生成する方法は当業者によく知られている。
【0088】
本発明において定義され論じられた真核細胞系とは、遺伝子工学法によりペプチド又はポリペプチドを生成する発現系を意味し、宿主細胞は真核細胞である。真核細胞発現系は、哺乳動物系であってよく、そして、哺乳動物発現系において生成されたペプチド又はポリペプチドには、精製後には、哺乳動物汚染物質が実質的にないのが好ましい。有用な真核細胞発現系の他の例は、酵母発現系を含む。
【0089】
本発明のペプチド又はポリペプチドを生成するための好ましい原核細胞系は、発現ベクターのための宿主としてE.coliを使用する。E.coli系において生成されたペプチド又はポリペプチドは、精製後には、E.coli汚染タンパク質が実質的にないのが好ましい。原核細胞発現系を使用する結果、本発明において提供される配列のうちのいくつか又は全てのN末端に、メチオニン残基が添加される。ペプチド又はポリペプチドの完全な発現を可能にするために、ペプチド又はポリペプチド精製後にN末端メチオニン残基を除去することは、当業者に知られているように実施することができ、その一例は、好適な条件下でAeromonas aminopeptidaseを使用することにより実施される(米国特許第5,763,215号明細書)。
【0090】
本発明の抗体及びポリペプチドは、種々の医薬剤、例えば薬物、毒素及び放射性同位体、及び任意には製薬上効果的なキャリヤと複合、例えば会合、組み合わせ、融合又はリンクすることにより、抗体/ポリペプチドと、抗疾患活性及び/又は抗癌活性を有する医薬剤とを含むペプチド-薬物組成物を形成することができる。このような組成物は診断を目的として使用することもできる。
【0091】
例えば、アントラサイクリンと抗体との接合又は複合は当業者に広く知られている(Dubowchik & Walker, Pharmacol. & Thera. 83: 67-123 (1999); Trail他、Cancer Immunol. Immunother. 52:328-337 (2003))。このような接合は直接的な接合によって、又はリンカー、例えば酸切断可能なリンカー又は酵素切断可能なリンカーを介して行うことができ、また、中間キャリヤ、例えばデキストラン及び合成ポリマーの使用を伴うことができる。アントラサイクリンは、(1)薬物:抗体の比4:1を生成するためのαアミノ基(約pH 8)(この場合2つの薬物分子が重鎖に結合され、そして2つの薬物分子が軽鎖に結合される);及び(2)使用される方法に応じて4:1〜8:1の薬物・抗体比を生成するためのジスルフィド・リンケージを介して、本発明の抗体に複合されている。当業者に知られているように、薬物・抗体比は例えば、2つ、3つ、4つなどの分枝リンカーを使用することにより、二倍化、三倍化又は四倍化することができる。当業者ならば、抗体、リンカー、キャリヤ及び/又は薬物に対して化学的修飾を施すことにより、接合体を調製するためにより好都合な反応を形成することができる。
【0092】
本発明の1実施態様の場合、Fc領域内の2つのジスルフィド・リンケージを、メルカプトエチルアミンで還元し、次いで約pH7で薬物リンカーと反応させ、これにより薬物・抗体比を4:1にする(この場合4つ全ての薬物は重鎖に結合される)。別の実施態様の場合、ヒンジ領域における4つのジスルフィド結合を、DTT(約pH7)で還元し、次いで薬物リンカーと反応させ、これにより薬物・抗体比を約7:1〜8:1にする(この場合、薬物分子の5つ又は6つは重鎖に結合され、そして薬物分子の1つ又は2つは軽鎖に結合される)。
【0093】
本発明において有用なキャリヤの例は、デキストラン、HPMA(親水性ポリマー)、又は任意の他のポリマー、例えば親水性ポリマー、並びにこれらの誘導体、組み合わせ及び修飾形を含む。或いは、免疫リポソームとしても知られる装飾型リポソーム、例えばscFv Y1分子で装飾されたリポソーム、例えば多量のドキソルビシンを含有する商業的に入手可能なリポソームであるドキシルを使用することもできる。このようなリポソームは、1つ又は2つ以上の所望の薬剤を含有するように調製し、本発明の抗体と混和することにより、抗体に対して高い比率の薬物を提供することができる。
【0094】
或いは、抗体又はポリペプチドと薬剤とのリンクが、直接リンクであってもよい。2つ又は3つ以上の隣接する分子間の直接リンクは、分子内の元素間又は元素群間の化学結合を介して生成することができる。化学結合は、例えばイオン結合、共有結合、疎水性結合、親水性結合、静電結合、又は水素結合であってよい。結合は例えば、アミド、炭素-スルフィド、ペプチド、及び/又はジスルフィド結合であってよい。薬剤又はリンカーに抗体を結合するために、当業者に知られているように、アミン、カルボキシ、ヒドロキシ、チオール及びエステル官能基を使用することにより、共有結合を形成することができる。
【0095】
ペプチドと薬剤との間、又はペプチドとキャリヤとの間、又はキャリヤと薬剤との間のリンクは、リンカー化合物を介して形成することができる。本発明中に使用されるように、リンカー化合物は、2つ又は3つ以上の部分を接合する化合物として定義される。リンカーは直鎖状又は分枝状であってよい。分枝状リンカー化合物は、二重分枝、三重分枝、又は四重以上の分枝化合物から成っていてよい。本発明において有用なリンカー化合物は、ジカルボン酸、マレイミドヒドラジド、PDPH、カルボン酸ヒドラジド、及び小ペプチドを有する群から選択された化合物を含む。
【0096】
本発明に基づいて有用なリンカー化合物のより具体的な例は:(a)ジカルボン酸、例えば琥珀酸、グルタル酸、及びアジピン酸;(b)マレイミドヒドラジド、例えばN-[マレイミドカプロン酸]ヒドラジド、4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシルヒドラジド、及びN-[マレイミドウンデカン酸] ヒドラジド;(3)(3-[2-ピリジルジチオ]プロピオニルヒドラジド)誘導体、これらの組み合わせ、修飾形、及び類似体;及び(d)炭素原子数2〜5のカルボン酸ヒドラジド、を含む。
【0097】
小ペプチド・リンカーを使用した直接カップリングを介したリンクも有用である。例えば抗癌薬ドキソルビシンの遊離糖とscFvとの間の直接カップリングを、小ペプチドを使用して達成することができる。小ペプチドの例は、AU1、AU5、BTag、c-myc、FLAG、Glu-Glu、HA、His6、HSV、HTTPHH、IRS、KT3、タンパク質C、S-TAG(登録商標)、T7、V5、VSV-G、及びKAKを含む。
【0098】
本発明の抗体及びポリペプチドは、画像形成剤(指示マーカーとも呼ばれる)、例えば放射性同位体と結合、接合、複合又はその他の形式で会合することができ、そしてこれらの接合体は、診断及び画像形成目的で使用することができる。このような放射性同位体-抗体(又は断片)複合体を有するキットが提供される。
【0099】
診断に有用な放射性同位体の例は、111インジウム、113インジウム、99mレニウム、105レニウム、101レニウム、99mテクネチウム、121mテルリウム、122mテルリウム、125mテルリウム、165ツリウム、167ツリウム、168ツリウム、123ヨウ素、126ヨウ素、131ヨウ素、133ヨウ素、81mクリプトン、33キセノン、90イットリウム、213ビスマス、77臭素、18フッ素、95ルテニウム、97ルテニウム、103ルテニウム、105ルテニウム、107水銀、203水銀、67ガリウム及び68ガリウムを含む。好ましい放射性同位体は、X線又は任意の好適な常磁性イオンを通さない。
【0100】
指示マーカー分子は蛍光マーカー分子であってもよい。蛍光マーカー分子の例は、フルオレセイン、フィコエリトリン、又はローダミン、又はこれらの修飾形又は接合体を含む。
【0101】
指示マーカーに接合された抗体及びポリペプチドを使用して、疾患状態を診断、予後又はモニタリングすることができる。一般に、このような方法は、患者から1つ以上の細胞の試料を提供し、そして本発明の抗体又はその断片は患者の細胞に結合するかどうかを見極め、これにより、患者が疾患のリスクを有するか、又は疾患にかかっていることを示すことを含む。モニタリング又は診断がin vivo又はex vivoで実施される場合には、画像形成剤は好ましくは、許容できないレベルまで患者に害を与えないという点で生理学的に許容可能である。許容可能な害のレベルは、疾患の重症度及び他の選択肢の利用可能性のような基準を用いて、医師によって決定することができる。
【0102】
癌に関して、患者における疾患を病期診断することは、一般に、腫瘍のサイズ、タイプ、位置、及び侵襲性に基づいた疾患の分類を見極めることを伴う。腫瘍特性によって癌を分類するための1分類システムは、「TNM Classification of Malignant Tumours」(第6版)(L.H. Sobin編)であり、これを参考のため本明細書中に引用する。このシステムは、癌の病期をT、N及びMのカテゴリーに分類し、この場合Tは一次腫瘍をそのサイズ及び位置に基づいて表し、Nは局所的リンパ節を表し、そしてMは遠隔転移を表す。加えて、数字I, II, III及びIVを使用して、病期を示し、そして各数字は、TNM因子の可能な組み合わせを意味する。例えば段階I乳癌は、TMN群:T1、N0、M0によって定義され、T1は腫瘍が直径2 cm以下であること、N0は、局所的リンパ節転移がないこと、M0は、遠隔転移がないことを意味する。AMLを病期診断するために別のシステムが使用され、この場合、日常的なプロセッシング及び細胞化学的染色下で観察される形態学を用いて、French-American-Britishシステムに基づいてサブタイプが分類される。
加えて、世界保健機関(WHO)により最近提案された、造血組織及びリンパ系組織の腫瘍性疾患の病期診断又は分類は、(AMLに対して特異的に)伝統的なFABタイプの疾患カテゴリ、並びに、特異的な細胞遺伝学的発見と相関する付加的な疾患タイプ、及び骨髄異形成と関連するAMLを含む。他には、病理学的分類も提案されている。AMLに対して特異的な1つの提案は、特異的な細胞遺伝学的転座と相関し、そして形態学的評価及び免疫表現型特定によって信頼性よく認識することができる疾患タイプ、及び関連する骨髄異形成変化の重要性を内蔵する疾患タイプを含む。このシステムは、細胞遺伝学的又は分子遺伝学的研究によって支援され、そして新しい理解可能な臨床病理学的なものが記載されるのに伴って規模を大きくすることができる(Arber, Am. J. Clin. Pathol. 115(4): 552-60(2001))。
【0103】
本発明は、治療前、治療中又は治療後に治療効果をin vitroで分析するための診断キットであって、指示マーカー分子にリンクされた本発明のペプチドを有する画像形成剤を有するキット、又は画像形成剤を有するキットを提供する。本発明はさらに、癌、より具体的には腫瘍を診断的に位置特定して画像形成するための画像形成剤を使用する方法であって、下記ステップ:(a)細胞を組成物と接触させ;(b)細胞に結合された放射能を測定し;そして、従って(c)腫瘍を視覚化するステップを有する、方法を提供する。
【0104】
好適な画像形成剤の例は、蛍光色素、例えばFITC及びPEなど、及び蛍光タンパク質、例えば緑蛍光タンパク質を含む。他の例は放射性分子、及び基質と反応することにより認識可能な変化、例えば色の変化をもたらす酵素を含む。
【0105】
1つの例において、キットの画像形成剤は蛍光色素、例えばFITCであり、そしてキットは、癌、より具体的には血液関連癌、例えば白血病、リンパ腫及び骨髄腫の治療効果の分析を可能にする。FACS分析を用いることにより、画像形成剤によって染色された細胞のパーセンテージ、及び疾患の各段階、例えば診断時、治療中、緩解中及び再発中における染色強度を見極める。
【0106】
本発明の抗体及びポリペプチドは、抗癌薬、抗新生物薬、抗ウィルス薬、抗転移薬、抗炎症薬、抗血栓薬、抗再狭窄薬、抗凝集薬、抗自己免疫薬、抗癒着薬、抗心臓血管薬、医薬剤、又はその他の抗疾患薬と結合、接合、又はその他の形式で会合することができる。薬剤は、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、イヌ、ネコ、又は任意のその他の温血動物を含む哺乳動物の予防的治療又は診断において有用な薬剤を意味する。
【0107】
このような薬剤の例は、例えばアシクロビル、ガンシクロビル及びジドブジンを含む抗ウィルス薬;シロスタゾル、ダルテパリン・ナトリウム、レビパリン・ナトリウム、及びアスピリンを含む抗血栓/抗再狭窄薬;ザルトプロフェン、プラノプロフェン、ドロキシカム、アセチルサリチル酸17、ジクロフェナク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、スリンダク、ナプロキセン、アムトルメチン、セレコキシブ、インドメタシン、ロフェコキシブ及びニメスリドを含む抗炎症薬;レフルノミド、デニロイキン・ジフチトックス、スブレウム、WinRho SDF、デフィブロチド及びシクロホスファミドを含む抗自己免疫薬;及びリマプロスト、クロルクロメン及びヒアルロン酸を含む抗癒着/抗凝集薬、を含む。
【0108】
医薬剤の例は、アントラサイクリン、例えばドキソルビシン(アドリアミシン)、ダウノルビシン、イダルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、エピルビシン、エソルビシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、及びメトキシモルホリニルドキソルビシン、メトキシモルホリノダウノルビシン、メトキシモルホリニルドキソルビシン、及びこれらの置換型誘導体、組み合わせ及び修飾形を含む。医薬剤の更なる例は、cis-白金、タクソール、カリーチアミシン、ビンクリスチン、シタラビン(Ara-C)、シクロホスファミド、プレドニゾン、フルダラビン、イダルビシン、クロラムブシル、インターフェロン・アルファ、ヒドロキシ尿素、テモゾロミド、サリドマイド及びブレオマイシン、及びこれらの誘導体、組み合わせ及び修飾形を含む。
【0109】
抗癌薬は、抗癌活性を有する薬剤である。例えば抗癌活性は、癌細胞又は未熟な前癌細胞の成長を阻害又は中止する薬剤、癌細胞又は前癌細胞を殺す薬剤、他の抗癌薬に対する癌細胞又は前癌細胞の感受性を高める薬剤、及び癌細胞の転移を阻害する薬剤を含む。本発明において、抗癌薬は、腫瘍の脈管化を防止、阻害、遅延又は中止する抗血管形成薬を有する薬剤であってもよい。
【0110】
癌細胞の成長の阻害は、例えば(i)癌又は転移の成長の予防、(ii)癌又は転移の成長の低速化、(iii)細胞を無傷で生きたままにしながら、癌細胞の成長プロセス又は転移プロセスを総合的に予防すること、(iv)癌細胞とミクロ環境との接触の妨害、又は(v)癌細胞の死滅を含む。例えば抗体は癌細胞に結合して、そしてT細胞又はナチュラルキラー細胞を刺激して、抗体依存性の細胞毒性によって結合済細胞を死滅させることにより、癌細胞を死滅させることができる。
【0111】
抗白血病薬は、抗白血病活性を有する薬剤である。例えば抗白血病薬は、白血病細胞又は未熟な前白血病細胞の成長を阻害又は中止する薬剤、白血病細胞又は前白血病細胞を殺す薬剤、他の抗白血病薬に対する白血病細胞又は前白血病細胞の感受性を高める薬剤、及び白血病細胞の転移を阻害する薬剤を含む。本発明において、抗白血病薬は、腫瘍の脈管化を防止、阻害、遅延又は中止する抗血管形成薬を有する薬剤であってもよい。
【0112】
白血病細胞の成長の阻害は、例えば(i)白血病又は転移の成長の予防、(ii)白血病又は転移の成長の低速化、(iii)細胞を無傷で生きたままにしながら、白血病細胞の成長プロセス又は転移プロセスを総合的に予防すること、(iv)白血病細胞とミクロ環境との接触の妨害、又は(v)白血病細胞の死滅を含む。
【0113】
本発明の抗体及び断片を通常リンクすることができる抗疾患薬、抗癌薬、及び抗白血病薬の例は、毒素、放射性同位体、及び医薬剤を含む。
【0114】
毒素の例は、ゲロニン、Pseudomonasエクソトキシン(PE)、PE40、PE38、ジフテリア毒素、リシン、及びこれらの誘導体、組み合わせ及び修飾形を含む。
【0115】
放射性同位体の例は、位置特定及び/又は治療のために使用することができるガンマ放射体、ポジトロン放射体、x線放射体、及び治療のために使用することができるベータ放射体、及びアルファ放射体を含む。診断のために有用な前述の放射性同位体は、治療のためにも有用である。
【0116】
抗癌薬又は抗白血病薬の一例は、アントラサイクリン、例えばドキソルビシン(アドリアミシン)、ダウノルビシン、イダルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、エピルビシン、エソルビシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、メトキシモルホリニルドキソルビシン、メトキシモルホリノダウノルビシン、メトキシモルホリニルドキソルビシン、及びこれらの置換型誘導体、組み合わせ及び修飾形を含む。医薬剤の例は、cis-白金、タクソール、カリーチアミシン、ビンクリスチン、シタラビン(Ara-C)、シクロホスファミド、プレドニゾン、ダウノルビシン、イダルビシン、フルダラビン、クロラムブシル、インターフェロン・アルファ、ヒドロキシ尿素、テモゾロミド、サリドマイド及びブレオマイシン、及びこれらの誘導体、組み合わせ及び修飾形を含む。
【0117】
1実施態様の場合、本発明の製薬組成物は、本発明の抗体又はポリペプチドと、製薬上許容可能なキャリヤとを有する。抗体又はポリペプチドは、細胞転動、炎症、自己免疫疾患、転移、腫瘍細胞又は白血病細胞の成長及び/又は複製、又は白血病患者における腫瘍細胞又は白血病細胞を有する患者内の腫瘍細胞数の増大を阻害するのに効果的な量で存在することができる。或いは、抗体又はポリペプチドは、腫瘍細胞又は白血病細胞の死亡率を高めるのに効果的な量で存在することもできる。また或いは、抗体又はポリペプチドは、抗疾患薬による疾患細胞の損傷され易さ、抗癌薬による腫瘍細胞の損傷され易さ、又は抗白血病薬による白血病細胞の損傷され易さを変化させるのに効果的な量で存在することもできる。或いは、抗体又はポリペプチドは、白血病患者における腫瘍細胞又は白血病細胞を有する患者内の腫瘍細胞数を減少させるのに効果的な量で存在することもできる。また或いは、抗体又はポリペプチドは、再狭窄を阻害するのに効果的な量で存在することもできる。抗体又はポリペプチドは、HIV侵入を阻害するのに効果的な量で存在することもできる。また或いは、抗体又はポリペプチドは、特異的な細胞又は部位に治療薬を導くためのターゲッティング薬として使用することもできる。
【0118】
本発明の抗体又はポリペプチドは、これを必要とする患者に、任意の好適な方法を介して投与することができる。投与法の例は、静脈内、筋内、皮下、局所、気管内、くも膜下、腹腔内、リンパ管内、鼻腔、舌下、経口、直腸、膣、呼吸器、口腔、皮内、経皮又は胸腔内投与を含む。
【0119】
静脈内投与の場合、配合物は好ましくは、患者への投与量が約0.1 mg〜約1000 mgの有効量の所望の組成物となるように調製される。より好ましくは、投与量は、約1 mg〜約500 mgの範囲の所望の組成物となる。本発明の組成物は、広い投与量範囲にわたって効果的であり、治療されるべき疾患の詳細、ペプチド又はポリペプチドを基剤とする製薬組成物の患者体内の半減期、抗体又はその断片と複合された任意の薬剤、及び製薬組成物の物理的及び化学的特性、治療又は診断されるべき患者の詳細、並びに、治療する医師が重要とみなす他のパラメータのようなファクターに依存する。
【0120】
経口投与のための製薬組成物は、任意の好適な形態であってよい。例は、錠剤、液体、エマルジョン、懸濁液、シロップ剤、丸剤、カプレット剤及びカプセル剤を含む。製薬組成物の形成方法は当業者によく知られている(例えばRemington, The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro編、Lippincott, Williams & Wilkins(発行)参照)。
【0121】
製薬組成物は、徐放、持続放出、パルス放出又は連続放出を容易にするように調製することもできる。製薬組成物は、装置、例えば徐放、持続放出、パルス放出又は連続放出装置内で投与することもできる。
【0122】
局所投与のための製薬組成物は、任意の好適な形態、例えばクリーム、軟膏、ローション、パッチ、溶液、懸濁液、凍結乾燥物、及びゲルであってよい。
【0123】
本発明の抗体、構造、接合体及び断片を有する組成物は、製薬上許容可能なコンベンショナルな希釈剤、賦形剤、及びキャリヤなどを含むことができる。錠剤、丸剤、カプレット剤及びカプセル剤は、コンベンショナルな賦形剤、ラクトース、澱粉及びステアリン酸マグネシウムを含むことができる。坐剤は、賦形剤、例えばワックス及びグリセロールを含むことができる。注射溶液は、発熱物質なしの滅菌媒質、例えば生理食塩水を含み、そして緩衝剤、安定剤又は保存剤を含んでよい。コンベンショナルな腸溶性コーティングを使用することもできる。
【0124】
本発明の抗体及びポリペプチド、及びその製薬組成物は、疾患の影響を改善し、疾患を予防し、疾患を治療し、又はこれを必要とする患者の疾患の進行を阻害する方法において使用することができる。このような方法は、細胞転動、炎症、自己免疫疾患、転移、腫瘍細胞又は白血病細胞の成長及び/又は複製、又は白血病患者における腫瘍細胞又は白血病細胞を有する患者内の腫瘍細胞数の増大を阻害することを含む。加えて、このような方法は、腫瘍細胞又は白血病細胞の死亡率を高めることを含み、抗疾患薬による疾患細胞の損傷され易さ、抗癌薬による腫瘍細胞の損傷され易さ、又は抗白血病薬による白血病細胞の損傷され易さを変化させる。このような方法はまた、白血病患者における腫瘍細胞又は白血病細胞を有する患者内の腫瘍細胞数を減少させることを含む。このような方法はまた、細胞へのHIV侵入を阻害し又は減少させることを含む。このような方法はさらに、心臓血管疾患、例えば再狭窄を予防又は阻害することを含む。
【0125】
本発明はさらに、種々の疾患状態、例えばAML、T-ALL、B-白血病、B-CLL、Pre-B-ALL、多発性骨髄腫、転移細胞、HIV感染、心臓血管疾患、又は細胞転動、炎症、免疫疾患、感染、自己免疫反応、転移のような細胞機能又は作用が有意な役割を演じる他の疾患を治療するための薬物の製造方法を提供する。このような薬物は、本発明の抗体及びポリペプチドを含む。
【0126】
1実施態様の場合、本発明は、組織試料と特異的に結合するY1の能力をアッセイし、そしてY1結合と、対照抗体、例えばKPL-1による結合とを比較することにより、或る人物の癌を診断する方法を提供する。1実施態様の場合、この方法は、その人物の血液又は固形組織から細胞試料を分離し、細胞を、硫酸化型チロシン・モチーフ含有エピトープ(「試験エピトープ」)を認識する抗体又はその断片と一緒にインキュベートし、非特異的に結合された抗体を洗い流し、そしてその結果と、基準標準、例えば既知の結合活性を有する対照抗体で実施された対応染色処置の結果とを比較することを含む。対照抗体は、チロシン・モチーフの硫酸化されていない形態を含有するエピトープ、又はこのような形態を含有する抗原を認識する抗体である。試験抗体結合が染色強度によって測定して、対照による結合よりも著しく大きいと、腫瘍細胞の存在が示される。染色処置は標準的な方法によって実施することができる。例えば、二次抗体を使用して、第1抗体を視覚化することができる。二次抗体は第1抗体を認識し、そして酵素基質に接合される。酵素基質は、酵素による作用を受けると色反応を生じさせる。或いは、試験抗体及び対照抗体の双方が細胞に結合するが、しかし細胞はY1を内部化し、そして対照抗体を内部化しない場合に、腫瘍細胞の存在が示される。1実施態様において、癌は充実性腫瘍である。別の実施態様において、癌は血液担持型腫瘍である。好ましい実施態様において、試験抗体はY1又はその断片、又は関連抗体又はその断片である。別の好ましい実施態様の場合、対照抗体はKPL1である。
【0127】
別の実施態様の場合、本発明は、癌を診断する方法であって、血液又は固形組織から細胞試料を、腫瘍細胞の存在に関してスクリーニングすることを含む方法を提供する。Y1又はその断片、又は関連抗体又はその断片を使用して、細胞試料溶解物上でウェスタン・ブロットを実施する。Y1自体に検出可能な標識を付けるか、又は検出可能な抗ヒト抗体を採用する標準的な方法を用いることにより、Y1結合を観察することができる。Y1結合が、上記のように定義された対照による結合よりも著しく大きい場合に、腫瘍細胞の存在が示される。Y1結合が、対照による結合よりも著しく大きい場合に、腫瘍細胞の存在が示される。
【0128】
別の実施態様の場合、本発明は、細胞溶解物を調製し、そしてアフィニティ・カラムに細胞溶解物を通すことにより溶解物を精製することによって、血液担持型腫瘍又は固形腫瘍のタンパク質マーカーを同定する方法を提供する。アフィニティ・カラムは、Y1又はその断片、又は関連抗体又はその断片を内蔵する。1実施態様の場合、細胞溶解物は、ヒトから捕集された一次組織試料に由来する。別の実施態様の場合、細胞溶解物は、腫瘍細胞系に由来する。更なる実施態様の場合、腫瘍細胞系は不死化細胞系であってよい。
【0129】
別の実施態様の場合、本発明は、血液担持型癌の段階をモニタリングする方法であって、血液担持型癌患者から白血球を分離し、細胞をY1と一緒にインキュベートし、基準標準に対するY1結合規模を見極めることを含む方法を提供する。
【0130】
タンパク質、例えばGPIb及びPSGL-1上に存在する硫酸化型チロシン・エピトープの治療ターゲッティングの別のアプローチとして、適切な組み合わせライブラリーのスクリーニングによって、小さな無機化学物質を同定することができる。このような化学物質は、scFv又はIgGを基剤とする治療薬を上回る多数の利点を有することができる。例えば、無機化学物質は経口投与することができ、免疫反応の低減を含む高められたバイオセイフティ・プロフィールを有することができる。無機化学物質は、特に、最初に選択されたリード化合物を最適化するための合理的な薬物設計に従って、ターゲットに向けられる選択性を高めることができる。他の利点は製造コストの低下、貯蔵寿命の長期化、及び規制認可プロセスの単純化を含む。
【0131】
本発明のエピトープの多数の実施態様が例えばGPIb及びPSGL-1上で同定されているので、リガンド駆動型アプローチを採用することにより、無機化学物質を同定することができる。無機化学物質は極めて狭い特異性を有しているか、或いは、再潅流傷害のような疾患状態に対する2つ以上の硫酸化型チロシン・エピトープをターゲットする。再潅流傷害は、それぞれこのようなエピトープを担持する2つ以上の明確なターゲットを伴う。リガンド駆動型アプローチは、治療的介入のためにターゲットを同定するスクリーニング・プロセスを有意に短縮し、そしてリード最適化と同時的なターゲット立証を可能にし、このことは一連の集中ライブラリーを用いて実施することができる。
【0132】
硫酸化型チロシン・エピトープをターゲットするために特殊化された無機化学物質のライブラリーは、先ず抗体、例えばY1と、その既知のターゲット、例えばGPIbの残基硫酸化型Tyr-276及びAsp-277との三次元相互作用を分析することにより設計して開発することができる。Y1結合部位を模倣して、ターゲットに対するアフィニティを高める物質から成る化学ライブラリーは、コンピューター支援型組み合わせライブラリー設計によって開発することができる。
【0133】
本出願明細書全体にわたって、種々の刊行物、特許明細書、及び特許出願明細書を参照している。これらの刊行物、特許明細書、及び特許出願明細書の教示内容及び開示内容全体を、参考のため本出願明細書に引用し、本発明が関連する従来技術をより十分に説明する。
【実施例】
【0134】
実施例
本発明を理解する助けとなるように、以下に実施例を示すが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するように意図されたものではなく、またそのように解釈されるべきでない。特定の試薬や反応条件を記載するが、本発明の範囲に含まれるような変更を加えることができる。従って下記実施例は、本発明をさらに説明するために提供される。
【0135】
実施例1:一次AML細胞(R1198-3)からのY1リガンドの同定
1.1 一次AML細胞(段階M4)を患者から捕集して溶解した。溶解物に、Y1-IgGカラム上のアフィニティ・クロマトグラフィを含む精製を施した(図1参照)。分離されたタンパク質を、エンドプレテイナーゼAsp-Nで消化し、そしてその結果として生じるペプチド配列を、質量分析を用いて決定した。配列は、発表済のヒトPSGL-1 N末端アミノ酸配列と同一であった。これらの結果は、段階4の一次AML細胞が、Y1-IgGによって結合することができるPSGL-1を発現させることを示す。精製されたタンパク質が、Y1認識モチーフのチロシン2及び3で硫酸化されることが、さらに見極められた(図2参照)。内部対照を使用して、Y1の免疫調節効果の特異性を検証し、例えばマウス・インターロイキン-6分泌の誘発は検出されなかった。
【0136】
実施例2:抗体依存性細胞の細胞毒性
2.1 Y1-IgGの効果:
Y1-IgGが抗体依存性細胞の細胞毒性(ADCC)を媒介することができるかどうかを見極めるための研究が示したところでは、この抗体は、種々のターゲット細胞のエフェクター細胞の細胞毒性を媒介する。ターゲット細胞は、ML2(我々のモデル系におけるターゲットとして働くAML由来細胞系)、及び患者臨床試料から得られたB-CLL細胞を含む。Y1-IgGはこれらの細胞タイプと、CD162(PSGL-1)を介して結合する。CD162は、健常B-細胞及び初期段階AML上には実質的に存在しない分子である。
【0137】
Y1-IgG ADCCに関与するエフェクター細胞個体群が定義されている。Y1-IgGがADCCを媒介するためには、ナチュラルキラー(NK)細胞(D56+)、γδ T-細胞、及び単球(CD14+)が必要となるが、しかしT-ヘルパー細胞(CD4+)及び細胞毒性T細胞(CD8+)は必要とならない。このことは、健常被験者及びB-CLL患者の両方から得られたドナー細胞で確認された。
【0138】
さらに、ターゲット細胞が存在しない場合でさえ、Y1-IgGは、初期活性化マーカー(CD69+)、サイトカイン、例えばTNFα及びIFNγの分泌、及びFasLの誘発の出現によって測定して、種々異なるタイプのエフェクター細胞の活性化を媒介する。Y1-IgGと二次抗ヒトFc抗体とのハイパー架橋(XL)が実証したところによれば、アポトーシス・メカニズムが細胞死滅にも関与する。
【0139】
in vitroの一次B-CLL細胞に向けられたY1-IgG活性を、種々のリンパ性悪性疾患の治療のために現在幅広く使用されている、商業的に入手可能な2種のヒト化抗体、すなわちリツキシマブ(CD20と結合)及びキャンパス(CD52と結合)の活性と比較した。B-CLLに対するリツキシマブの作用メカニズムは明らかではないが、CD-20ポジティブ悪性B細胞に対するその細胞毒性効果は、補体依存性細胞毒性(CDC)、ADCC及びアポトーシス誘発のうちの1つ又は2つ以上を伴うことができる。CD52ポジティブ悪性B細胞、並びに正常B及びT細胞に対するキャンパスの細胞毒性効果は、CDC、ADCC及びアポトーシス誘発を伴う。キャンパス投与は、全ての成熟正常B及びT細胞の完全なアブレーションと関連し、重大な血液毒性を招く。
【0140】
ADCC試験に際して、単核エフェクター及びターゲット細胞をFICOLL(登録商標)上で分離した。次いでターゲット細胞にはPKH26を標識付けした。PKH26は、細胞膜の脂質領域内部に蛍光色素を安定的に内蔵する。次いで細胞を洗浄し、そして、種々異なる濃度のY1-IgG又は対照抗体の不存在又は存在において、24時間にわたって、種々のエフェクター:ターゲット(E:T)比で、エフェクター細胞と一緒にインキュベートした。死細胞をTOPRO(登録商標)(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)によって染色し、そしてゲート・ターゲット細胞上のFACSによって分析した。
【0141】
CDC試験に際して、B-CLL患者の単核細胞をFICOLL(登録商標)上で分離した。患者の血漿の存在又は不存在において、24時間にわたって、Y1-IgG又は対照抗体を伴って又はこれを伴わずに、細胞をインキュベートした。次いでアポトーシス細胞をAnnexin-PIで染色し、そしてFACSによって分析した。
【0142】
エフェクター細胞活性化を評価するために、健常ドナーの単核細胞をFICOLL(登録商標)上で分離した。24時間にわたって、Y1-IgG又は対照抗体を伴って又はこれを伴わずに、細胞をインキュベートした。αCD69(初期活性化マーカー)抗体によるFACS分析を、種々異なるタイプのエフェクター細胞に関して実施した。サイトカイン、例えばTNFα及びIFNγの分泌をELISAによって測定した。
【0143】
アポトーシス試験に際して、B-CLL患者の単核細胞をFICOLL(登録商標)上で分離した。10分間にわたって37℃で、Y1-IgG又は対照抗体の存在又は不存在において、細胞をインキュベートした。次いで非ヒトFc抗体を添加し、4-24時間にわたって37℃でインキュベートした。次いで、疾患細胞(CD19+、CD5+)をアポトーシス・マーカーAnnexin-TOPRO(登録商標)で染色し、そしてFACSによって分析した。
【0144】
Y1-IgG及びリツキシマブの比較研究は、Y1-IgGが、ADCCの媒介、及びB-CLL細胞に対するアポトーシス誘発に関して、リツキシマブよりも優れていることを示す。キャンパス{Campath(登録商標)}とは対照的に、Y1-IgGは、一次B-CLL細胞に対してCDCを媒介することができないことが見いだされた。これらのin vitroの結果は、Y1-IgGが、そのADCC活性に基づいてB-CLLの治療のための治療薬として有用であることを示す。
【0145】
2.1.1 一次B-慢性リンパ球性白血病(B-CLL)におけるADCC:
Y1-IgGが一次B-CLLにおいてADCCを媒介するかどうかを見極めるために、種々異なる患者のB-CLL細胞を、種々異なるエフェクター/ターゲット細胞比で、PBMCエフェクター細胞とともに、24時間にわたって同時インキュベートした。13個の異なるB-CLL臨床試料の分析が示したところによれば、Y1-IgGは、細胞溶解の平均規模約21.4%で、全ての事例(図3)において、エフェクター細胞の細胞毒性を媒介する。13個の試料のうちの4つ(30%)が、30%を上回る溶解度を示し、これに対して13個の試料のうちの2つ(15%)だけが、10%未満の溶解度を示した。いくつかの事例において、低いE:T比でさえ、高い溶解度が見られた。例えばKBC171は約62%の溶解度を示した。これに対して他の事例の場合、高いE:T比でさえ、低い溶解度が見られた。例えばKBC104は約7%の溶解度しか示さなかった。変動は、種々異なる健常ドナーから得られたエフェクター細胞試料、並びにB-CLL試料間の差異に帰属し得る。
【0146】
2.1.2 急性骨髄性白血病細胞に対する、PBMCによるY1-IgG媒介型ADCC:
PBMCはまた、種々のPBMC:AML比(10, 20又は40:10又は20μg/mlのY1-IgGの存在において)を用いて、患者の一次AML細胞に対してADCCをもたらした。例えば、細胞比10:1において、AML細胞の7.9%が、抗体の不存在において死亡し、そしてヒトIgGの存在において6%が死亡した。10及び20μg/mlのY1-IgGの存在において、AML細胞のそれぞれ14.2%及び17.6%が死亡した(図4)。細胞毒性の度合いは、Y1-IgGの増大(10又は20μg/ml)に伴って高くなった。ヒトIgGはADCCを誘発しなかった。1つの付加的な一次AML試料に関して同様の結果が得られた(データは示さず)。
【0147】
ML-2細胞はADCCの良好なモデルを提供する。それというのもY1-IgGが、検出可能な内部化を被ることなしに結合するからである。
【0148】
a. ML2 ADCCはY1-IgG濃度とともに増大する:
24時間のインキュベーション後には、細胞毒性は、エフェクター(PBMC)とターゲットとの4つの異なる比(5:1、10:1、20:1、40:1)で、Y1-IgGの存在において、その不存在におけるよりも高かった(図5)。この効果は、マウス抗PSGL-1抗体KPL1をY1-IgGの代わりに使用すると減少するか又は存在せず、そしてヒトIgG(エフェクター細胞上のFc受容体に結合する)がY1-IgGの代わりに使用されても減少した。エフェクター:ターゲット比が40:1である場合には、5μg/mlもの低さのY1-IgG濃度が、ADCCを誘発することができた。
【0149】
b. Y1-IgGとKPL-1との競合:
Y1-IgG(20又は50μg/ml)が、エフェクター:ターゲット比20:1〜40:1で、ML2細胞に対してADCCを誘発した。マウス抗PSGL-1抗体KPL-1は単独ではADCCを誘発せず、従って、Y1結合誘発型ADCCの競合体として使用することができた。KPL-1はY1-IgG誘発型ADCCを部分的に阻害し(図6)、そして例えば、Y1-IgG(20μg/ml;エフェクター/ターゲット比20:1)の存在における48時間のインキュベーション後に、74.1%の細胞毒性が観察されるのに対して、KPL1(20μg/ml)の付加的な存在の結果、細胞毒性を58.8%しかもたらさなかった。従って、ML2のY1-IgG誘発型ADCCは、Y1-IgGによるPSGL-1の結合を伴う。
【0150】
c. Y1-IgG媒介型ADCCにおけるナチュラルキラー、γδ T細胞及び単球の関与:
ML2又はB-CLLターゲット細胞のY1-IgG媒介型ADCCをもたらすことができる能力に関して、ポジティブに選択されたエフェクター細胞を分析した。商業的に入手可能な磁気ビードを使用して、正常ドナー及びB-CLL患者から、ナチュラルキラー(NK)細胞(CD56+)、γδ T-細胞及び細胞毒性T-細胞(CD8+)を分離した。図7Aに示すように、正常ドナー及びB-CLL患者双方のNK細胞(図7AのKCS試料)は、ML2及びB-CLLターゲットにADCCをもたらすことができ(図7AのKCS試料)、その結果、対照を上回る13〜68%の溶解が生じた。また、γδ T細胞は、ML2細胞のADCCを媒介することが示された。対照的に、細胞毒性T-細胞は、Y1-IgG媒介型細胞毒性に関与するようには見えない。
【0151】
PBMCから特異的細胞個体群をネガティブに選択することから示されたところでは、NK細胞(CD56+)及びγδ T細胞に加えて、CD14+細胞(単球)もまた、ML2ターゲットに対するADCCに関与する(図7B)。Y1-IgG媒介型毒性に関与するエフェクター細胞の全てが、Fc受容体、CD16を発現させる。
【0152】
d. Y1によるNK細胞の活性化:
CD69の発現によって測定して、Y1は、ナチュラルキラー細胞によってADCCを媒介する。6人の健常ドナーのエフェクター細胞を、Y1-IgG又はヒトIgG又はマウス抗CD62抗体(KPL1、PL1又はPL2)の存在において、又はあらゆる抗体の不存在において(対照)、37℃で24時間にわたってインキュベートした。次いで、FACS分析を実施し、そして、ナチュラルキラー(NK)細胞(CD56+)上の初期活性化マーカーCD69の発現を見極めた。図8に示すように、Y1-IgGによるNK細胞の活性化は、6種のドナー細胞全てで媒介された。対照的に、ヒトIgGによって、又は抗CD162マウス抗体KPL1、PL1又はPL2によって、効果を検出することができた。予備研究はまた、Y1-IgGとのインキュベーションに続いて、エフェクター細胞上でのFasL発現の誘発をも示した(データは示さず)。
【0153】
e. Y1-IgG誘発型アポトーシス
Y1-IgGの存在においてインキュベートされたB-CLL患者の単核細胞(CD19+、CD5+)は、FACS分析によって評価して、24時間以内に約5%のアポトーシスを示した(図9)。Y1-IgGを架橋する二次抗体の添加は、24時間以内に付加的な50%のアポトーシスを誘発した(図9)。
【0154】
これらの結果は、PSGL-1上の硫酸化型エピトープに導かれた抗体の架橋が、一次B-CLL細胞のアポトーシスのためのシグナルをトリガーすることを示唆する。このことは、PSGL-1がB-CLL患者においてin vivoでアポトーシスを誘発するためのターゲットである得ることを暗示する。架橋効果は、Fc受容体担持細胞、例えば単球、CD56+ NK細胞及びγδ T-細胞によって媒介することができる。
【0155】
上記のアポトーシス効果及び架橋効果は、抗PSGL-1抗体KPL1を使用して阻害することができる(データは示さず)。この抗体だけではアポトーシスを誘発することはない。このことは、アポトーシス・シグナルがPSGL-1上のエピトープによって媒介される確証を提供する。
【0156】
f. リツキシマブと比較した、B-CLLに対するY1-IgGのADCC効果
2つの一次ヒトB-CLL患者試料におけるY1-IgG抗体によって誘発された細胞死のパーセンテージは、リツキシマブによって得られるものよりも有意に高かった。図10は、Y1が対照を上回って25%〜35%の細胞毒性を誘発し、これと比較してリツキシマブによって誘発された細胞毒性は10%〜13%にすぎないことを示す。ターゲット細胞上における受容体分子の飽和は、10μg/mlのY1-IgG抗体で達成されたが、しかし同じ濃度のリツキシマブによっては達成されなかった。
【0157】
これらをまとめると、これらの結果は、Y1-IgGが、B-CLLの治療における治療薬として有望な候補であることを示唆する。それというのも、細胞毒性効果及びアポトーシス効果が、これらの疾患細胞上に発現されるPSGL-1硫酸化型エピトープの特異的認識によって媒介されるように見えるからである。
【0158】
g. B-CLLに対するY1-IgG、リツキシマブ及びキャンパスのCDC効果の分析
B-CLL患者の単各細胞を、患者の血漿の存在及び不存在において、Y1-IgG、リツキシマブ又はキャンパス(Campath(登録商標))と一緒にインキュベートした。図11に示すように、キャンパス(登録商標)だけが、CDCによって一次B-CLL細胞の細胞毒性を媒介した。リツキシマブもY1-IgGも補体結合によって細胞毒性を誘発することはなかった。
【0159】
in vitroのこれらの結果は、Y1-IgGがそのADCC活性に基づいて、B-CLLの治療のための治療薬として有用であることを示す。
【0160】
実施例3:Y1-IgG-M-ダウノルビシン誘導体
3.1 Y1-IgG-M-ダウノルビシン誘導体の調製:
抗体-毒素接合体、例えばモルホリノ-ドキソルビシン-Y1-IgG(図13)、及び酵素-M-ダウノルビシン接合体(下記参照)を調製した。ダウノルビシンを修飾して、2つの異なるリンカーのうちの一方に接合し、次いで抗体の遊離アミノ基を介して、又は抗体の還元ジスルフィド結合を介して、抗体に接合した。M-DNR-リンカーという用語は、モルホリニルダウノルビシンアセテートの(6-マレイミドカプロイル)ヒドラゾン及びM-DNR-AESの両方を意味する。
【0161】
a. 3'-デアミノ-3'-(4-モルホリニル)ダウノルビシンアセテート(M-DNR-Ac)の調製
乾燥ジメチルホルムアミド中の塩酸ダウノルビシンの溶液に、アルゴン下で乾燥トリエチルアミンを添加し、続いてビス(2-ヨードエチル)エーテルを添加した。反応混合物を光から保護し、そして36時間にわたって室温で撹拌した。
【0162】
結果として生じた水性混合物を塩化メチレンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、セライトを介して濾過し、乾燥するまで蒸発させた。粗生成物をシリカゲル・カラム・クロマトグラフィによって調製し、そして当該画分を一緒にプールして蒸発させることにより、M-DNR遊離塩基を赤い油として産出した。この純度は98%であることが見いだされた(HPLCにより)。収率は55%であった。
【0163】
酢酸との反応後、結果として生じる遊離塩基を、その固形酢酸塩として分離し、続いて凍結乾燥させた。M-DNR-Acは12ヶ月以上にわたって-20℃のアルゴン下で安定である。
【0164】
b. モルホリニルダウノルビシンアセテートの(6-マレイミドカプロイル)ヒドラゾンの調製
乾燥メタノール中のM-DNR-Acの溶液に、アルゴン下で6-マレイミドカプロイルヒドラジドを添加し、続いてトリフルオロ酢酸を添加した。透明溶液を光から保護し、そして24時間にわたって室温で撹拌した。
【0165】
メタノール溶液を減圧下において25℃で、乾燥するまで蒸発させ、その結果赤い油残留物が生じた。これを乾燥メタノール中に溶解させた。この溶液に、乾燥エーテルを添加し、そして遠心分離により、沈澱した赤い固形物を分離した。乾燥エーテルと一緒に3回粉砕した後、純度98%及び収率88%を有する純粋な結晶性生成物を得、高真空下で乾燥させ、そして-20℃のアルゴン下で維持した。モルホリニルダウノルビシンアセテートの(6-マレイミドカプロイル)ヒドラゾンは、4ヶ月以上にわたって-20℃のアルゴン下で安定である。
【0166】
c. モルホリノダウノルビシンのアジピン酸モノヒドラゾンのN-ヒドロキシスクシニミド・エステル(M-DNR-AES)の調製
1. モルホリノダウノルビシンのアジピン酸モノヒドラゾンの調製
下記のものを、1時間にわたって光から保護しながら、Ar下で室温において合体させ撹拌した:モルホリノダウノルビシン酢酸塩、乾燥MeOH、調製されたばかりのメタノール溶液(ヒドラジドアジピン酸ヒドロクロリド及びEt3N及びTFA原液)。
【0167】
溶剤を減圧下で除去し、そして結果として生じる残留物をNH4OAc:AN中に溶解し、そして半調製HPLCカラム内へ注入した。混合物を洗浄し、そして定組成条件下で濃縮した。約4.5分後に所望の生成物を捕集し、そしてC-18 Sep Pakカートリッジによって濃縮した。生成物を溶離し、凍結乾燥させ、そしてAr下で-20℃で貯蔵した。生成物を赤い固形物として、収率80%及び純度95%で得た。
【0168】
2. モルホリノダウノルビシンのアジピン酸モノヒドラゾンのN-ヒドロキシスクシニミド・エステルの調製
乾燥THF中のモルホリノダウノルビシンのアジピン酸モノヒドラゾンに、乾燥TFH中のヒドロキシスクシニミド及び乾燥THF中のDCCを添加した。透明な赤い溶液をAr下で24時間にわたって室温で撹拌した。反応の終了を分析HPLCによって決定し、そして溶剤を除去した。次いで氷固形物を緩衝溶液(N-メチルモルホリニウムアセテート/AN)中に溶解し、そして綿を通して濾過した。
【0169】
生成物をRP-HPLCによって分離し、2容積のn-メチルモルホリニウムアセテート溶液で希釈し、そしてSep-Pak(900mg)上にローディングした。生成物を溶離して凍結乾燥させることにより、収率73%及び純度97.4%の粉末を得た。
【0170】
d. M-DNR-Y1-IgG接合体の調製
DNR-リンカー/Y1-IgGのモル比23で、MAb溶液に、乾燥DMF中のM-DNR-リンカーを添加した。混合物をアルゴン下で一晩にわたって室温で静かに震盪し、次いで遠心分離した。上澄みをSPIN-X管(Costar)を通して濾過し、そしてBio-Beads SM-2(Biorad)で、1時間にわたって室温で震盪した。混合物を10分間にわたって静止させておいた。上澄みを、PBSで平衡化させたPD-10カラム(Pharmacia)に通した。接合体をPBSで溶離し、そしてタンパク質含有画分を合体した。精製された接合体を、SPIN-X濾過によって滅菌した。接合体溶液を-70℃で凍結させて貯蔵した。生成物接合体は45〜50%の収率で得られ、そして下記の特性を有した:5%の凝集体;2%〜5%の吸収された非共有結合型M-DNR誘導体;抗体に対する薬物の平均分子比4。
【0171】
e. (Fc領域中のS-S結合の還元を介した)M-DNR-Y1IgG接合体の調製
NaCl、MES及びEDTAから成る緩衝液中のY1-IgGを、同じ緩衝液中の塩酸システアミン溶液(Merck)に添加した。混合物をアルゴン下で1.5時間にわたって37℃でインキュベートした。反応混合物を、PBS/EDTAで平衡化させたPD-10カラム(Sephadex G-25, Pharmacia)上にローディングした。還元されたタンパク質をPBS/EDTAで溶離した。最高タンパク質濃度を有する画分を合体させ、そして4℃で貯蔵した。抗体に対する遊離スルフヒドリル基のモル比は3.5以上であった。モルホリニルダウノルビシンアセテートの(6-マレイミドカプロイル)ヒドラゾンをDMF中に希釈し、そして還元タンパク質の溶液に添加し、そして4℃で30分間にわたってインキュベートした。反応混合物を、PBSで前平衡化させたPD-10カラムに通し、次いでPBSで溶離した。タンパク質画分を合体し、次いでSPIN-X濾過(Costar)によって滅菌した。精製された接合体をアリコートし、次いで-70℃で貯蔵した。生成物接合体は、〜50%収率で得られ、そして下記の特性を有した:5%未満の凝集体;1%〜2%の遊離M-DNR誘導体;抗体に対する薬物の平均分子比4。
【0172】
f. (S-S結合の還元を介した)IgG-Y1-M-DNR接合体の調製
IgG-Y1をEDTA中でPD-10カラム(Sephadex 25M, Pharmacia)に通し、PBS/EDTA中で溶離することにより、IgG-Y1を還元した。タンパク質含有画分をプールした。抗体に対する遊離スルフヒドリル基のモル比は6以上であった。乾燥ジメチルホルムアミド中のモルホリニルダウノルビシンアセテートの(6-マレイミドカプロイル)ヒドラゾンをDMF中に希釈し、そして還元タンパク質に添加した。溶液を、4℃で30分間にわたってインキュベートした。反応混合物を、PBS中でPD-10カラム上で精製し、そしてタンパク質画分をSPIN-X濾過(Corning Life Sciences)によって滅菌した。接合体を凍結させ、そして-70℃で貯蔵した。収率は元の抗体に対して約50%であった。最終生成物は、5%未満の凝集体;0%〜2%の遊離M-DNR;抗体に対する薬物の平均分子比7。
【0173】
3.2 Y1-IgG-M-DNR誘導体の細胞毒性(図12〜14):
Y1-薬物接合体の特異的細胞毒性効果を、半固形(METHOCULT(登録商標);StemCell Technologies Inc., Vancouver BC, Canada)クローン原性アッセイにおいて評価した。細胞(臍帯血又は一次AML患者試料のCD34+幹細胞)を、37℃で1時間にわたって最大10-6Mの濃度の遊離薬物又は接合薬物と一緒にインキュベートした。細胞を洗浄し、METHOCULT(登録商標)内で播種し、そして10-12日間にわたって成長させ、その後コロニーをカウントしたウシ(b)-IgG-M-DNRを非特異的接合体対照として使用した。
【0174】
結果(図13)は、臍帯血試料上の接合体Y1-IgG-M-DNRの制限された効果を示した。すなわち、1μMのY1-IgG-M-DNRの存在においてインキュベートされた非ターゲット細胞(健常CD34+幹細胞)、並びに対照細胞、及び1μMのb-IgG-M-DNR又は1μMのM-DNR(すなわち非致死量の遊離薬物)の存在においてインキュベートされた細胞が少なくとも生き残った。従って、全ての臍帯血試料中において有意な効果は見られなかった。
【0175】
対照的に、AML試料(M7 巨核球性白血病)において、Y1-IgG-M-DNRはコロニー成長の阻害において、同じ濃度の非特異的b-IgG-M-DNR接合体と比較して3倍多くの阻害作用を有した(図13)。すなわち1μMのY1-IgG-M-DNRは、一次AML細胞の生存可能性を、対照(単独でインキュベートされたターゲット細胞)に対して40%まで低減するのに対して、1μMのM-DNR及び1μMのb-IgG-M-DNRはそれぞれ、一次AML細胞の生存可能性を、対照に対して80%まで低減する。
【0176】
Y1-IgG-M-DNR接合体の特異性は、同様の試験でさらに実証された。この試験が示したところでは、1μMのY1-IgG-M-DNRと共にインキュベートしたあとで、一次AML-M4及びAML-M5細胞(患者から得られた)からのコロニー形成が、対照と比較してそれぞれ60%及び35%まで阻害された(図14)。対照的に、全てのAML-M4細胞及びAML-M5細胞の78%は、1μMのh-IgG-M-DNRと共にインキュベートしたあとで、コロニーを生じさせた。1μMのM-DNRと共にインキュベートされた細胞は、コロニーを生じさせ、細胞が薬物に対して感受性を有することを確認した。
【0177】
(Y1と結合されないことにより評価して)Y1エピトープを発現させないB-ALL細胞は、Y1-IgG-M-DNRに対して感受性を有さず、ひいては、対照と同じ率で1μMのY1-IgG-M-DNRと共にインキュベートされた後、コロニーを生じさせた(図15)。
【0178】
実施例4: Y1認識モチーフ及び硫酸化
Y1-scFvとGPIbとの結合に対するチロシン硫酸化の潜在的な効果を評価するために、GPIbを発現させるヒト慢性骨髄性白血病細胞系KU812を、100 mM塩素酸ナトリウムの存在において硫酸塩無しの培地中で成長させることにより、硫酸化を阻害した。採用される条件下で、タンパク質合成又はその他の翻訳後修飾に影響を与えることなしに、チロシン硫酸化を最大95%だけ阻害する。図16Aに示すように、塩素酸ナトリウムを欠いた完全培地中で成長した対照細胞と比較して、塩素酸ナトリウムを用いた成長に続いて、Y1-scFvとKU812との結合は、50%だけ低減された。マウス抗GPIbモノクローナル抗体AK2-FITCを使用したFACS分析によって示されるように、同じ条件下では、硫酸塩不足細胞上でのGPIbの表面発現は変わらないままであった(図16B)。
【0179】
チロシン・スルフェート修飾がY1-scFvとGPIbとの結合において役割を演じるかどうかをさらに評価するために、GPIbの残基273-285に基づく種々の合成ペプチドを、Y1-scFvと血小板との結合を阻害する能力に関して評価した。
【0180】
手短に言えば、ABIMED AMS-422多ペプチド・シンセサイザーを使用して、固相法によってペプチドを合成し、そして必要な場合には、FMOC-Tryナトリウム塩を使用してチロシン・スルフェートを組み込んだ。Lichrosorb RP-18カラムを使用して、合成ペプチドを精製した。Y1-scFv血小板結合アッセイの場合、合成ペプチド(2.5, 25又は200 μM)及びY1-scFv(10μg)との混合物をインキュベートして洗浄した。洗浄に続いて、血小板をR-フィコエリトリン標識付け抗scFvと一緒にインキュベートし、洗浄し、そしてFACSによって分析した。
【0181】
図17に示すように、25μMのペプチドDLYSDYSYSPE(SEQ ID NO:4)(3つの硫酸化型チロシンを含む)が、Y1-scFvと血小板との結合を効果的に阻害するのに対して、対応する非硫酸化型対照DLYDYYPE(SEQ ID NO:5)は、200μMでも効果を有さなかった。さらに、25μMのペプチドDLYSDYYPE(SEQ ID NO:6)、DLYSDYSYPE(SEQ ID NO:7)、及びDLYSDYYSPE(SEQ ID NO:8)(それぞれ第1チロシン、第1及び第2チロシン、及び第1及び第3チロシンで硫酸化)は、Y1-scFv結合を効果的に阻害した。ペプチドDLYDYSYSPE(SEQ ID NO:9)及びDLYDYYSPE(SEQ ID NO:10)(それぞれ第2及び第3チロシン、及び第3チロシンで硫酸化)は200μMでも、Y1-scFv結合に対する効果を有さなかった(図17A)。これらの結果は明らかに、GPIb内のTyr-276、すなわち「第1」チロシン位置における硫酸化は、有意な競合、ひいてはY1-scFvとGPIbにとって重要であることを明らかに実証する。
【0182】
GPIbの残基273-285の領域内部の付加的なアミノ酸がY1-scFv結合に関与するかどうかを評価するために、ペプチドDLYSDYYPEに基づく置換突然変異ペプチドをY1-scFv血小板結合アッセイにおいて試験した(図17B)。硫酸化型Tyr-276が負荷電型Glu残基と置換されると、突然変異ペプチドDLEYDYYPE(SEQ ID NO:11)は、DLYSDYYPEとは異なり、Y1-scFvと血小板との結合に対して実質的な阻害作用を発揮しなかった。同様に、Asp-277がそれぞれGlu、Asn及びAlaによって置換された突然変異ペプチドDLYSEYYPE(SEQ ID NO:12)、DLYSNYYPE(SEQ ID NO:13)及びDLYSAYYPE(SEQ ID NO:14)も、Y1-scFvと血小板との結合を阻害することはほとんどできない。他方において、Leu-275をAla(DAYSDYYPE)(SEQ ID NO:15)及びアミノ酸278-280の種々の置換[DLYSDFYPE(SEQ ID NO:16)、DLYSDAYPE(SEQ ID NO:17)、DLYSDYYAE(SEQ ID NO:18)及びDLYSDYYPA(SEQ ID NO:19)]も突然変異ペプチドを産出し、これらのペプチドは全て、DLYSDYYPE(図17B)と実質的に同一に、Y1-scFvと血小板との結合を阻害した。
【0183】
血小板結合阻害アッセイの正当性を立証するために、突然変異ペプチドを、Y1-scFvと精製済グリコカリシンとの結合の阻害に関しても試験した(図18A)。手短にいえば、マイクロタイター・プレート上に固定化されたグリコカリシンを、Y1-scFv(5μg/ml)及びペプチド(25μM)と一緒にインキュベートした。洗浄に続いて、ポリクローナル抗scFv(scFv混合物でウサギを免疫化することにより生成)及びホースラディッシュ・ペルオキシダーゼに接合された抗ウサギIgG抗体を使用して、そしてELISAリーダーで450 nmの吸収度を読み取ることにより、結合されたY1-scFvを検出した。
【0184】
グリコカリシン結合阻害アッセイで得られた結果(図18A)は、硫酸化型Tyr-276及びGPIbの隣接残基Asp-277の双方が、Y1-scFv結合にとって重要なことを示し、ひいては血小板結合阻害アッセイで得られた結果(図17A及びB)を確認した。ELISAによって、CovaLink Plateに共有結合されたペプチドにY1-scFvが直接的に結合することを評価することによって、付加的な確認が得られた(図18B)。この研究が示したところによれば、位置275, 278, 279又は280に置換を有するか、又は非硫酸化型Tyr-278又はTyr-279を有する突然変異型ペプチドが全て、Y1-scFvと直接的に結合することが実質的に可能であるのに対して、硫酸化型Tyr-276又はAsp-277の置換を有するGPIb誘導型突然変異型ペプチドは、Y1-scFvと直接的に結合することが実質的にできない。
【0185】
PSGL-1の残基42-58に基づいた合成ペプチドを使用して、類似の直接結合試験を行うことにより、PSGL-1チロシン硫酸化がY1-scFv結合にとって重要であることを確認した(図19参照)。具体的には、PSGL-1配列QATEYEYLDYDFLPETE(SEQ ID NO:20)における第3のチロシン位置が硫酸化される結果、硫酸化されない対応対照ペプチドに対して、約100%のY1-scFv結合活性がもたらされる(図20参照)。対照的に、第2のチロシン位置における同じ線状ペプチドの硫酸化は、対照に対して約40%の結合活性しかもたらさず、また第1のチロシン位置における硫酸化がもたらす結合活性は、対照とはほとんど区別できない。
【0186】
これらをまとめると、GPIb及びPSGL-1に基づく合成ペプチドを使用して得られる結果は、モチーフDXYSD(SEQ ID NO:21)(Xは任意のアミノ酸を表し、そしてYSは硫酸化型チロシンを表す)内部に見いだされる配列YSDは、Y1とそのエピトープとの結合にとって重要であることを示す。
【0187】
いくつかのタンパク質が、モチーフDXYSD内部及び/又は高酸性環境内部で見いだされた配列YSDを含有することで知られている(図21)。このような酸性環境はin vivoにおけるチロシン硫酸化にとって有意であると考えられる。Y1は、GPIb及びPSGL-1に関して示されているように、この硫酸化型配列でこのようなタンパク質に結合できると予測される。
【0188】
4.2 Y1は充実性腫瘍抗原に結合するのに対して、KPL-1は結合しない:
小細胞肺癌(SCLC)細胞系溶解物をウェスタン・ブロットすることにより、Y1、及び商業的に入手可能なマウス抗PSGL-1抗体KPL1の結合を比較した(図22)。Y1ブロットにおいて単一の広帯域が観察されたのに対して、KPL1ブロットには帯域は観察されなかった。このことは、PSGL-1が、Y1を使用したSCLC患者における免疫治療のためのターゲットとして役立ち得ることを示す。
【0189】
実施例5:PSGL-1を介したY1-IgG媒介型エンドサイトーシス
PSGL-1は、AML患者の血液細胞上に高発現される。下記結果は、Y1が、PSGL-1を発現させる腫瘍細胞を特異的に認識し、そしてこれらの腫瘍細胞によって内部化されることを示す。商業的に入手可能なKPL-1(抗PSGL-1)は、腫瘍細胞に結合するが、しかし内部化はされない。このことは、PSGL-1が、Y1を使用したAML患者における免疫治療のためのターゲットとして役立ち得ることを示す。
【0190】
5.1 共焦点顕微鏡研究:
患者の白血球をFICOLL(登録商標)勾配上で分離した。蛍光抗PSGL-1抗体(Y1又は商業的抗体KPL1及びPL1)の存在において、37℃で、種々異なる時間にわたって細胞をインキュベートした。共焦点顕微鏡によって細胞を視覚化することにより、生きている細胞内で蛍光抗体の位置を見極めた。
【0191】
図23及び24は、Y1-PE(左)、KPL1-PE(中央)及びY1-IgG-FITC(右)と一緒に、2時間にわたって37℃で細胞をインキュベートした後、共焦点顕微鏡研究によって視覚化されたAML患者の細胞を示す。細胞を三次元(X, Y及びZ平面)で走査し、ここで示された写真は、Z平面に対して球体中心から撮られたものである。図示のように、インキュベーション後、Y1-IgGは細胞の内部に存在した(しかし核内ではない)のに対して、KPL1は細胞膜上に存在し、そして内部化はしなかった。
【0192】
5.1 蛍光顕微鏡研究:
患者の白血球をFICOLL(登録商標)勾配上で分離した。Y1-IgGの存在において、37℃で、種々異なる時間にわたって細胞をインキュベートした。Y1-IgGの検出のために、細胞を固定し、透過性化し、次いでローダミン標識付け抗ヒト(Fc)抗体で染色した。蛍光顕微鏡により細胞を視覚化した。
【0193】
図25及び26は、Y1-IgG-FITC(左)及びKPL1-PE(右)、及び抗CD34-PE又はFITCと一緒に、2時間にわたって37℃で細胞をインキュベートした後、共焦点顕微鏡研究によって視覚化された生きたCD34+細胞(それぞれ健常骨髄及び健常臍帯血に由来する)を示す。図示のようにY1-IgGは、正常なCD34+幹細胞に結合しなかった。対照的に、右下パネル内のいくつかの細胞の二重染色によって証明されるように、KPL-1-PEは、CD34+細胞を含む正常細胞を標識付けした。
【0194】
5.3 エンドサイトーシスのモニタリング:
0.1%のNaN3(内部化の活性プロセスを阻害する)と一緒に4℃で、抗体の存在において細胞をインキュベートした後、Y1-IgGの細胞表面結合が検出された。10分間〜2時間にわたる37℃でのインキュベーション(NaN3なし)の結果、キャッピング及びパッチング、並びに内部化染色が生じた。共焦点顕微鏡研究又は蛍光顕微鏡研究によって、種々異なるAML試料を用いて、同様の写真が得られた。
【0195】
図27は、37℃又は4℃で、種々異なる時間にわたって非標識付けY1-IgGと一緒にインキュベートされるAML患者試料の4種の個々の細胞を示す。図示のように、0.1% NaN3と一緒に4℃で、抗体の存在において細胞をインキュベートした後で、Y1-IgGの細胞表面結合を検出した。10分間〜2時間にわたる37℃でのY1-IgGのインキュベーション(NaN3なし)の結果、キャッピング及びパッチング、並びに内部化染色が生じた。内部化は時間とともに増大した。4℃で維持された細胞内には内部化は観察されなかった。ローダミン標識付け抗ヒト(Fc)抗体を用いて、Y1-IgGを検出した。細胞の視覚化は蛍光顕微鏡研究によって実施した。
【0196】
5.4 酸ストリッピング:
50 mMグリシン(pH 2.5)で細胞を処理する結果、Y1-IgGの細胞表面結合を除去し、内部化されたY1-IgGの検出を可能にした。
【0197】
図28は、37℃で1時間にわたって、非標識付けY1-IgGと一緒にインキュベートしたAML患者細胞を示す。次いで、下の列に示された細胞を、50mMグリシン、pH2.5と一緒に5分間にわたって室温でインキュベートすることにより、表面結合されたY1-IgGを取り出した。図示のように、上側のパネルは、細胞表面のキャッピング及びパッチング、並びに内部化Y1-IgGを表す。下側のパネルにおいては内部化されたY1-IgGだけが検出された。
【0198】
5.5 プロナーゼ:
タンパク質分解酵素プロナーゼによって細胞表面タンパク質を除去する結果、Y1-IgGの細胞表面結合が除去され、そして内部化Y1-IgGの検出が可能になった。
【0199】
図29は、37℃で1時間にわたって非標識付けY1-IgGと一緒にインキュベートされたAML患者の細胞を示す。次いで、下の列に示された細胞を1mg/mlのプロナーゼと一緒に60分間にわたって、室温でインキュベートすることにより、表面結合Y1-IgGを除去した。図示のように、上側のパネルは、細胞表面のキャッピング及びパッチング、並びに内部化Y1-IgGを表す。下側のパネルにおいては内部化されたY1-IgGだけが検出された。なお、腹肢がプロナーゼによって除去された。このことは、CD162のY1-IgG架橋によって形成された腹肢が、細胞表面の外面上に形成されることを暗示する。
【0200】
5.6 被覆小胞媒介型エンドサイトーシス:
受容体媒介型エンドサイトーシスは、被覆小胞を介して発生することができる。被覆小胞媒介型エンドサイトーシスは、Y1-IgGと一緒にインキュベートする前に、37℃で15分間にわたって0.45M スクロースと一緒に細胞をインキュベートすることによってブロックすることができる。この方法は、Y1-IgGと細胞表面との結合に影響を与えることなしに、Y1-IgGのエンドサイトーシスを阻害した。
【0201】
図30は、4℃(図30A)又は37℃(図30B)で、1時間にわたって非標識付けY1-IgGと一緒にインキュベートされたAML患者の細胞を示す。次いで、中央の列に示された細胞を50 mMグリシン pH2.5と一緒に5分間にわたって、室温でインキュベートすることにより、表面結合Y1-IgGを除去した。図示のように(図30A)、上側のパネルは、Y1-IgGの細胞表面染色を表す。表面結合されたY1-IgGは、酸洗浄によって除去された(中央パネル)。37℃(図30B)で、キャッピング及びパッチング及びY1-IgGの内部化が観察された(上側パネル)。酸洗浄は、細胞表面結合Y1-IgGを除去し、そして内部化された抗体だけを検出することができた(中央パネル)。
【0202】
被覆小胞媒介型エンドサイトーシスのブロック(下の列)は、Y1-IgGと一緒にインキュベートする前に、37℃で15分間にわたって0.45M スクロースと一緒に細胞をインキュベートすることによって達成することができる。下側パネルに示すように、0.45Mスクロースで細胞を処理することは、4℃ではY1-IgGと細胞表面との結合に影響を与えることはなかった(図30A)が、しかし37℃で内部化を阻害した(図30B)。
【0203】
実施例6:白血球-血小板相互作用のY1-IgG阻害
血管表面への白血球の癒着は、結果として種々の障害において器官傷害をもたらす。この傷害は例えば再潅流傷害、発作、腸間膜血管疾患及び末梢血管疾患;臓器移植及び循環器ショックを含む。再潅流傷害は、虚血性ゾーンにおける血管内皮に対する白血球の癒着と関連する。このような癒着は、おそらく一部は、トロンビン及びサイトカインによる血小板及び内皮の活性化に起因する。このことは、血管表面を白血球に対して接着性にする。再潅流傷害の主なイニシエーターは、フォン・ビレブラント因子(vWF)と血小板GPIb受容体との相互作用である。冠状動脈狭窄を軽減するために、血栓溶解剤、例えば組織プラスミノゲン・アクチベーター及びストレプトキナーゼで治療されている心臓病患者は、依然として再潅流傷害に起因する心筋壊死に罹るおそれがある。従って、血管表面に対する白血球の癒着を低減することができ、しかも、血栓溶解剤とともに投与することにより、心臓血管障害の結果を改善することができる薬物が必要である。
【0204】
Y1(scFv及び完全IgGの両方)は血小板(すなわちGPIb)及び白血球(すなわちPSGL-1)上の明確な硫酸化型分子に結合するので、この抗体は、種々の細胞間相互作用を阻害する治療薬として潜在力を有している。
【0205】
図31は、Y1-scFvが、活性化型ヒト血小板とML2細胞(PSGL-1を発現させるヒトAML由来の細胞系)との結合を効果的に阻害することを示す。抗体を血小板及びML2細胞の両方と同時にインキュベートすると、最適な阻害が得られたのに対して、抗体をまず血小板又はML2細胞と一緒にインキュベートし、続いて非結合抗体を除去し、続いて残りの細胞タイプを添加すると、部分阻害が得られた(図31)。
【0206】
図31はまた、マウス抗体KPL1(ヒトPSGL-1 N末端ドメインに対して指向されるが、しかしチロシン硫酸化依存性ではない)が、活性化型血小板とML2との結合を阻害する上でも効果的であるが、しかし阻害作用は、Y1-scFvによる作用よりも小さかった。このことは、Y1-scFvが両細胞タイプ上に存在するエピトープを認識するようには、KPL1はこのようなエピトープを認識しないという事実に起因すると考えられる。やはりヒトPSGL-1に対して指向されるPL2抗体であるマウス抗体では、阻害は観察されなかった(図示せず)。
【0207】
実施例7:流動状態下の固定化P-セレクチン上での細胞転動のY1-IgG阻害
リガンドをコーティングされた基板を調製するために、組換えヒト(rh)-P-セレクチン(R&D Systems, Minneapolis, MN)を、コーティング媒質(20mM重炭酸塩を補充されたPBS、pH8.5)中に0.2-1.0 μg/mlまで希釈し、そしてただちに4℃で一晩にわたってポリスチレン・プレート上に吸着させ、続いて1時間にわたって4℃で2μg/mlヒト血清アルブミン(Calbiochem)を含有するPBSで洗浄した。
【0208】
精製されたリガンドが固定化されたポリスチレン・プレートを、前記のような並列プレート層流チャンバ内で組み立てた(Lawrence & Springer, Cell 65, 859-873(1991))。ヒト好中球(デキストラン沈降及びFICOLL上の密度分離によって抗凝固処理血液から分離)、又はML-2細胞をH/H培地(Hanks平衡塩類溶液、10mM HEPES)中で洗浄し、細胞結合培地(2 mM CaCl2を補充されたH/H培地)中に2 x 106細胞/mlで再懸濁し、そして自動シリンジ・ポンプ(Harvard Apparatus, Natick, MA)で生成された所望の流量で、壁剪断応力を生成する速度で流動チャンバ中を室温で潅流させた。試験接着性基板の上流側に達したら、逆位相差顕微鏡の10 x 対物レンズ(Diaphot 300, Nikon Inc., 日本国東京)を使用して、流量を高めることにより1 dyn/cm2の剪断応力を生成し、全ての細胞相互作用を2つの異なる視野(それぞれ0.17 mm2の面積)で視覚化した。前述のように(Dwir他、J. Biol. Chem. 275, 18682-18691(2000))、白血球の瞬間速度を分析するために、画像形成システムWSCAN-Array-3(Galai, Migdal-Ha'emek, Israel)を使用した。
【0209】
試験フィールド上の転動中の白血球の蓄積を、コンピューターによる細胞動作トラッキングによって見極めた。転動細胞の出現頻度を、最初の束縛後3秒以上継続する接着性基板上の持続性転動を開始する、細胞フラックスから出た細胞の数として定義された。細胞を異なる濃度の抗体と一緒にインキュベートし、同じ濃度の抗体を含有する結合培地を有する流動チャンバーに潅流させた。試薬の洗浄に続いて(「washed」)、又は試薬の存在において、細胞転動を分析した。
【0210】
画像分析に際しては、種々異なる接着性基板上の細胞転動の瞬間速度の定量分析のための画像システムを開発した。Matrox Pulsar フレーム取込み器(Matrox Graphics Inc., Dorval, Quebec, Canada)を使用して、768 x 574画素(10x対物レンズを使用して1.15μmの画素サイズを有する)から成るビデオ・フレーム画像をデジタル化し、そして画像を走査し、そして、Atlas ペンティアム(登録商標)MMX-200ワークステーション上を走行するWSCAN-Array-3画像形成ソフトウェア(Galai, Migdal-Ha'emek, Israel)によって処理した。細胞動作を0.02秒インターバルでトラックされた画像から識別した。プログラムの出力は、0.02秒隔てて、連続インターレース・フィールド内の各細胞の中心点の座標を提供した。
【0211】
細胞動作分析のためのコンピューター・プログラムは、David Malah教授(Electric Engineering Faculty, Technion, Haifa, Israel)の研究所との共同で開発した。ソフトウェアは、Matlab 5.2下で走行し、最大5秒間にわたる連続ビデオ画像で個々の細胞の瞬間位置を比較する。リガンドをコーティングされたフィールド上で持続的に転動する個々の細胞の束縛、又はこのフィールドをぎくしゃくした動きで進むことが、流動方向における瞬間細胞速度の変化に従って見極められた。転動の中断は、剪断応力1-1.75 dyn/cm2で29μm/秒未満までの瞬間速度低下として定義された。この速度閾値は、コンピューター・システムによってそしてビデオ・モニターからマニュアルで直接的に、代表細胞上で行われる中断分析間の最適な相関を与えた。個々の転動細胞の連続した中断間のステップ距離を平均することにより、所与の転動細胞の平均ステップ距離をもたらした。
【0212】
図32は、低密度(0.2μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するML2細胞に対するY1-scFv(10μg/ml)の効果を示す。分析は、剪断力1 dyn/cm2で、1フィールド当たりの転動細胞の数を、Y1-scFvの存在において完全に無くすることを示した。このような効果は、等しい量のscFv-N06(ネガティブ対照)を使用した場合には得られなかった。
【0213】
図33は、種々の剪断力で、高密度(1.0μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するML2細胞に対する、Y1-scFv(10μg/ml)の効果を示す。分析は、剪断力1、5及び10 dyn/cm2で、1フィールド当たりの転動細胞の数を、Y1-scFvの存在においてそれぞれ83%、98%及び100%だけ阻害されることを示した。このような効果は、ネガティブ対照N06では、又はY1-scFvと一緒にインキュベートした後で細胞を洗浄し、次いで試験した(Y1 wash)ときには得られなかった。
【0214】
図34は、種々の剪断応力で固定化rh-P-セレクチン(1μg/ml)上で転動するML2細胞に対する、Y1-IgG(1μg/ml)の効果を示す。分析は、剪断力1 dyn/cm2で、細胞転動は89%だけ阻害され、そして剪断力5及び10 dyn/cm2で、細胞転動は100%だけ阻害されることを示した。Y1-IgGと一緒にインキュベートした後で細胞を洗浄し、次いで試験した(Y1-IgG wash)ときには、細胞転動は、剪断力1、5及び10 dyn/cm2で、それぞれ46%、48%及び54%だけ阻害された。マウス抗PSGL-1抗体KPL1も、全ての剪断力で細胞転動を100%阻害することができた。
【0215】
図35は、高密度(1.0 μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するヒト好中球に対する、Y1-scFvの濃度増大の効果を示す。分析が示したところによれば、剪断力1 dyn/cm2で、1、5及び10 μg/mlのY1-scFvは、転動する好中球の数をそれぞれ20%、81%及び100%だけ阻害する。
【0216】
図36は、高密度(1.0 μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するヒト好中球に対する、Y1-IgGの効果を示す。分析は、剪断力1 dyn/cm2で、1フィールド当たりの転動好中球の数を、Y1-IgG(1.0 μg/ml)の存在において完全に無くする(100%の阻害)ことを示した。KPL-1で同様の結果が得られた。
【0217】
実施例8:無機化合物ライブラリーのスクリーニング
特異的受容体(タンパク質)に由来する合成硫酸化型ペプチド(ペプチドの既知のアミノ酸配列内部の所与の特異的チロシン残基上で硫酸化される)を、短いリンカー、例えばカプロン酸を介して合成ペプチドにカップリングされたビオチン標識(ビオチニル化)を有するように調製することができる。同じ合成ペプチドを使用した対照ペプチドを、硫酸化なしでしかもビオチン標識(「B」)なしで調製することができる。加えて、他の非関連タンパク質に由来する合成硫酸化型ペプチドを、ビオチン標識(「C」)を有することなしに、付加的な対照として調製することができる。
【0218】
上記ビオチニル化型ペプチド(「A」)は、ストレプトアビジンをコーティングされた磁気ビードにカップリングし、次いで過剰の未結合ビオチニル化型ペプチドを洗い流すことができる。ビオチン-ストレプトアビジン・ペプチド接合体(「D」)を、生理学的条件(37℃、pH 7.0-7.4、塩濃度、導電性など)下で、「A」と結合する分子に関して、大幅に過剰の非硫酸化型対照ペプチド(「B」)の存在において、小化学物質ライブラリーに対してスクリーニングすることができる。次いで、カップリングされた磁気ビードを緩衝剤で2回洗浄し、その都度遠心分離して過剰の未結合分子を除去する。磁気ビードに結合された分子(「E」)を溶離し、化学的に同定し、そして更なるスクリーニングのために大量に調製することができる。
【0219】
選択された化合物(「E」)によってビオチニル化硫酸化型ペプチドに結合することは、更なるスクリーニング・プロセスによって確認することができる。このプロセスは、ビオチニル化された無関係の硫酸化型ペプチドとの競合(プロセス1)、又はビオチニル化型ペプチド「A」に特異結合する抗体又はその断片(例えばscFv)との競合(プロセス2)を含む。
【0220】
8.1 無関係のビオチニル化硫酸化型ペプチドとの競合による再スクリーニング(プロセス1)
化合物が「A」に特異結合することを保証するために、スクリーニングの第2ラウンドを実施することができる。ビオチン-ストレプトアビジン・ペプチド接合体(「D」)を、大幅に過剰の無関係のビオチニル化硫酸化型ペプチド「C」の存在において、選択された化合物「E」で再スクリーニングすることができる。次いで管を遠心分離し、ビオチン-ストレプトアビジン・ペプチド接合体にカップリングされた磁気ビードを、緩衝剤で2回洗浄し、そしてその都度遠心分離して過剰の未結合分子を除去する。磁気ビードに結合された化合物は、化学的な同定のために溶離することができる。そして更なる研究、例えば「A」との選択的な結合の立証、及びin vitro及びin vivoでの効果試験のために、大量の化合物を調製することができる。
【0221】
8.2 特異的なscFv抗硫酸化型抗体との競合による再スクリーニング(プロセス2)
「A」を特異的に認識してこれと結合する大幅に過剰の特異的scFv抗体の存在において、選択された化合物「E」のそれぞれに、ビオチン-ストレプトアビジン・ペプチド接合体(「D」)が結合するのを競合させることにより、「A」との好ましい結合アフィニティを有する化合物を再スクリーニングすることができる。scFv抗体によって「A」との結合を特異的に阻害された化合物を、更なる研究、例えば「A」との選択的な結合の立証、及びin vitro及びin vivoでの効果試験のために調製することができる。
【0222】
本発明を具体的な実施例、材料及びデータを参照しながら説明してきた。当業者に明らかなように、本発明の種々の構成要件を使用又は調製する代わりの手段を利用することができる。このような代わりの手段は、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の意図及び思想の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【化1】

【化2】

【0223】
以下に説明する添付の図面に関連して、一例として、そして非限定的に本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】図1は、部分精製されたAML-R1細胞溶解物のウェスタン・ブロットを、Y1-IgGアフィニティ・カラムに通す前及び後の状態で示す図である。
【図2】図2は、精製されたタンパク質の硫酸化型チロシン・モチーフにおける3つのチロシンのうち、チロシン2及び3が硫酸化されていることを示す図である。
【図3】図3は、一次B-CLL試料中の、Y1-IgG(20 μg/ml)媒介型ADCC(パーセント細胞毒性)を示す。
【図4】図4は、AML細胞に対する、PBMCによるY1-IgG媒介型ADCC(パーセント細胞毒性)を示す。
【図5】図5は、Y1-IgG濃度の関数として、ML-2細胞中で増大するADCC(パーセント細胞毒性)を示す。
【図6】図6は、Y1-IgGとKPL-1との競合の関数として、ML-2に対するPBMCによるADCC(パーセント細胞毒性)を示す。
【図7A】図7Aは、ML2細胞に対する、正常ドナー及びB-CLL患者に由来するナチュラルキラー細胞によるY1-IgG媒介性ADCC(パーセント細胞毒性)の分析を示す図である。
【図7B】図7Bは、M12ターゲットに対する、ADCCにおけるCD14+ 細胞(単球)の関与を示す図である。
【図8】図8は、Y1によって媒介される、NK細胞上におけるCD69(初期活性化マーカー)の発現を示す図である。
【図9】図9は、FACS分析による、B-CLL患者に由来する単核細胞(CD19+、CD5+)に対するY1-IgGのアポトーシス効果を示す。
【図10】図10は、Y1-IgG及びリツキシマブ(Rituximab)によって媒介される、ヒトB-CLL患者に由来する単核細胞、すなわち一次ヒトB-CLL細胞に対するADCC活性(パーセント細胞毒性)の分析を示す。
【図11】図11は、患者の血漿の存在及び不存在においてY1-IgG、リツキシマブ及びキャンパス{Campath(登録商標)}によって媒介された、ヒトB-CLL患者に由来する単核細胞(KBC156、KBC159、KBC160、KBC166、及びRAJI細胞)に対するCDC活性(パーセント溶解)の分析を示す。
【図12】図12は、ホルホリノ-ドキソルビシンにリンクされた抗体を調製するための反応スキームを示す図である。
【図13】図13は、臍帯血及びAML細胞中の抗体-薬剤複合体、つまりY1-モルホリノダウノルビシン(Y1-M-DNR)及びY1-モルホリノドキソルビシン(Y1-M-Dox)複合体の細胞毒性を示す図である。
【図14】図14は、2患者AML試料(M4及びM5期)及びCD34+細胞に対する、抗体-薬剤複合体Y1-M-DNRの細胞毒性を示す図である。
【図15】図15は、種々のY1複合体の細胞毒性を、B-ALL細胞中の対照のパーセントとして示す図である。
【図16】図16Aは、Y1 scFvとKU812細胞との結合を示し、そして図16Bは、硫酸塩が不足したKU812細胞上でのGPIbの表面発現を示す図である。
【図17】図17Aは、Y1-scFvと血小板との結合に対する、硫酸化型ペプチドDLYDYYPEの阻害効果を示す図である。図17Bは、Y1-scFv血小板結合アッセイにおいて、置換突然変異ペプチドの効果を示す図である。
【図18】図18Aは、Y1-scFvと精製済グリコカリシンとの結合の阻害における突然変異ペプチドの効果を示す。図18Bは、ELISAによる、CovaLink(登録商標)プレートに共有結合されたペプチドにY1scFvが結合することを示す。
【図19】図19は、固定化された、PSGL-1に由来する硫酸化型ペプチドとY1との結合を示す図である。
【図20】図20は、非硫酸化型PSGL-1、及び第1、第2及び第3の位置において硫酸化されたPSGL-1に結合するY1のパーセント活性を示す図である。
【図21】図21は、高酸性であり硫酸化型チロシンを有するいくつかの潜在的なY1結合モチーフを示す図である。
【図22】図22は、Y1による小細胞肺癌(SCLC)溶解物の認識を示す図である。
【図23】図23は、一次AML細胞中へのY1のエンドサイトーシスを示す図である。
【図24】図24は、一次AML細胞中へのY1のエンドサイトーシスを示す図である。
【図25】図25は、Y1と、健常CD34+幹細胞との結合の分析を示す図である。
【図26】図26は、Y1と、健常CD34+幹細胞との結合の分析を示す図である。
【図27】図27は、37℃における、一次AML細胞内へのY1の内部化を示す図である。
【図28】図28は、酸処理によって膜結合型タンパク質をストリップした後の、一次AML細胞におけるY1染色の視覚化を示す図である。
【図29】図29は、プロナーゼによって膜結合型タンパク質をストリップした後の、一次AML細胞におけるY1染色の視覚化を示す図である。
【図30A】4℃(図30A)及び37℃(図30B)における酸処理又はスクロース前インキュベーション後の、一次AML細胞におけるY1染色の視覚化を示す図である。
【図30B】4℃(図30A)及び37℃(図30B)における酸処理又はスクロース前インキュベーション後の、一次AML細胞におけるY1染色の視覚化を示す図である。
【図31】図31は、Y1-scFvが活性化済ヒト血小板とML2細胞との結合を効果的に阻害することを示す図である。
【図32】図32は、低密度(0.2 μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するML2細胞に対する、Y1-scFv(10 μg/ml)の効果を示す。
【図33】図33は、高密度(1.0 μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するML2細胞に対する、Y1-scFv(10 μg/ml)の効果を示す。
【図34】図34は、種々の剪断応力で固定化rh-P-セレクチン(1.0 μg/ml)上で転動するML2細胞に対する、Y1-IgG(1 μg/ml)の効果を示す。
【図35】図35は、高密度(1.0 μg/ml)の固定化rh-P-セレクチン上で転動するヒト好中球に対する、Y1-scFvの濃度増大の効果を示す。
【図36】図36は、高密度(1.0 μg/ml)で固定化rh-P-セレクチン上で転動するヒト好中球に対する、Y1-IgGの効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モチーフD-X-Y-Dを含むエピトープに結合する抗体又はその断片であって、Xは任意のアミノ酸、又はDとYとの共有結合を表し、そしてYは硫酸化されている、抗体又はその断片。
【請求項2】
該抗体又はその断片は、抗癌薬、抗白血病薬、抗転移薬、抗新生物薬、抗疾患薬、抗癒着薬、抗血栓薬、抗再狭窄薬、抗自己免疫薬、抗凝集薬、抗菌薬、抗ウィルス薬、及び抗炎症薬から成る群から選択された薬剤と複合されている、請求項1に記載の抗体又はその断片。
【請求項3】
該抗体又はその断片は、遊離アミノ基を介して該薬剤と複合されている、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
該抗体又はその断片は、該薬剤の1〜16個のコピーと複合されている、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
該抗体又はその断片はIgGであり、該抗体又はその断片の各重鎖は該薬剤の約3つのコピーと複合されており、そして各軽鎖は該薬剤の約1つのコピーと複合されている、請求項4に記載の抗体又はその断片。
【請求項6】
該薬剤が、アシクロビル、ガンシクロビル及びジドブジンから成る群から選択された抗ウィルス薬である、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項7】
該薬剤が、シロスタゾル、ダルテパリン・ナトリウム、レビパリン・ナトリウム、及びアスピリンから成る群から選択された抗血栓/抗再狭窄薬である、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項8】
該薬剤が、ザルトプロフェン、プラノプロフェン、ドロキシカム、アセチルサリチル酸17、ジクロフェナク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、スリンダク、ナプロキセン、アムトルメチン、セレコキシブ、インドメタシン、ロフェコキシブ及びニメスリドから成る群から選択された抗炎症薬である、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項9】
該薬剤が、レフルノミド、デニロイキン・ジフチトックス、スブレウム、WinRho SDF、デフィブロチド及びシクロホスファミドから成る群から選択された抗自己免疫薬である、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項10】
該薬剤が、リマプロスト、クロルクロメン及びヒアルロン酸から成る群から選択された抗癒着/抗凝集薬である、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項11】
該薬剤が、毒素、放射性同位体、画像形成剤及び医薬剤から成る群から選択される、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項12】
該毒素が、ゲロニン、Pseudomonasエクソトキシン(PE)、PE40、PE38、リシン、及びこれらの修飾形及び誘導体から成る群から選択される、請求項11に記載の抗体又はその断片。
【請求項13】
該放射性同位体が、ガンマ放射体、ポジトロン放射体、x線放射体、ベータ放射体、及びアルファ放射体から成る群から選択される、請求項11に記載の抗体又はその断片。
【請求項14】
該放射性同位体が、111インジウム、113インジウム、99mレニウム、105レニウム、101レニウム、99mテクネチウム、121mテルリウム、122mテルリウム、125mテルリウム、165ツリウム、167ツリウム、168ツリウム、123ヨウ素、126ヨウ素、131ヨウ素、133ヨウ素、81mクリプトン、33キセノン、90イットリウム、213ビスマス、77臭素、18フッ素、95ルテニウム、97ルテニウム、103ルテニウム、105ルテニウム、107水銀、203水銀、67ガリウム及び68ガリウムから成る群から選択される、請求項11に記載の抗体又はその断片。
【請求項15】
該医薬剤がアントラサイクリンである、請求項11に記載の抗体又はその断片。
【請求項16】
該アントラサイクリンが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、エピルビシン、エソルビシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、及びメトキシモルホリニルドキソルビシンから成る群から選択される、請求項15に記載の抗体又はその断片。
【請求項17】
該医薬剤が、cis-白金、タクソール、カリーチアミシン、ビンクリスチン、シタラビン(Ara-C)、シクロホスファミド、プレドニゾン、フルダラビン、クロラムブシル、インターフェロン・アルファ、ヒドロキシ尿素、テモゾロミド、サリドマイド及びブレオマイシン、及びこれらの誘導体及び組み合わせから成る群から選択される、請求項11に記載の抗体又はその断片。
【請求項18】
該抗体又はその断片が、2種以上の薬剤と複合することができるビヒクル又はキャリヤと複合されている、請求項2に記載の抗体又はその断片。
【請求項19】
該ビヒクル又はキャリヤは、デキストラン、親油性ポリマー、HPMA、及びリポソーム、及びこれらの誘導体及び修飾形から成る群から選択される、請求項18に記載の抗体又はその断片。
【請求項20】
請求項1に記載の抗体又はその断片、及び製薬上許容可能なキャリヤを含む製薬組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の抗体又はその断片、及び画像形成剤を含む、診断、予後又は病期診断キット。
【請求項22】
該画像形成剤が放射性同位体である、請求項21に記載の診断、予後又は病期診断キット。
【請求項23】
抗体依存性細胞の細胞毒性(ADCC)を誘発する方法であって、これを必要とする患者に、請求項20に記載の製薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項24】
ナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞を刺激する方法であって、これを必要とする患者に、請求項20に記載の製薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項25】
細胞死を誘発する方法であって、これを必要とする患者に、請求項2に記載の抗体又はその断片を投与することを含み、該薬剤に複合された該抗体又はその断片が該細胞に侵入し、そして該抗体又はその断片が該薬剤から切断され、これにより該薬剤を放出する、方法。
【請求項26】
HIVを治療する方法であって、これを必要とする患者に、請求項20に記載の製薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項27】
該投与がHIVの侵入を防止する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
モチーフD-X-Y-Dを含むエピトープを発現させる細胞内に薬剤を導入する方法であって、Xは任意のアミノ酸、又はDとYとの共有結合を表し、そしてYは硫酸化されており、該方法が下記ステップ:
請求項1に記載の抗体又はその断片に該薬剤を複合し、そして
該薬剤に複合された該抗体又はその断片を、該細胞に投与する
ことを含む、方法。
【請求項29】
該方法は、これを必要とする患者における疾患を治療する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該方法は、これを必要とする患者における細胞転動を治療する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
該方法は、これを必要とする患者における炎症を治療する、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
該方法は、これを必要とする患者における自己免疫疾患を治療する、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
該方法は、これを必要とする患者における転移を治療する、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
該方法は、これを必要とする患者における腫瘍細胞の成長及び/又は複製を治療する、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
該方法は、これを必要とする患者における腫瘍細胞の死亡率を高める、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
該方法は、これを必要とする患者における白血病細胞の成長及び/又は複製を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
該方法は、これを必要とする患者における白血病細胞の死亡率を高める、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
該方法は、これを必要とする患者における抗疾患薬による疾患細胞の損傷され易さを変化させる、請求項28に記載の方法。
【請求項39】
該方法は、これを必要とする患者における抗癌薬による腫瘍細胞の損傷され易さを高める、請求項28に記載の方法。
【請求項40】
該方法は、これを必要とする患者における抗白血病薬による白血病細胞の損傷され易さを高める、請求項28に記載の方法。
【請求項41】
該方法は、腫瘍を有する患者における腫瘍細胞の数の増大を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項42】
該方法は、腫瘍を有する患者における腫瘍細胞の数を減少させる、請求項28に記載の方法。
【請求項43】
該方法は、白血病患者における白血病細胞の数の増大を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項44】
該方法は、白血病患者における白血病細胞の数を減少させる、請求項28に記載の方法。
【請求項45】
該方法は、これを必要とする患者における血小板凝集を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項46】
該方法は、これを必要とする患者における再狭窄を阻害する、請求項28に記載の方法。
【請求項47】
患者における腫瘍細胞をモニタリングする方法であって:
該患者から腫瘍細胞を準備し、そして
該腫瘍細胞を、請求項1に記載の抗体又はその断片と一緒にインキュベートし、
これにより該腫瘍細胞を病期診断する、方法。
【請求項48】
該方法はさらに、
基準標準に対する該抗体又はその断片の特異的結合を見極めることを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
該抗体又はその断片がY1である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
腫瘍特異的抗原を分離する方法であって:
細胞の試料を獲得し、
細胞を溶解し、
請求項1に記載の抗体又はその断片のタンパク質リガンドを同定し、そして
該抗体又はその断片を含むアフィニティ・カラムに該細胞溶解物を通すことにより、該タンパク質リガンドを精製する
ことを含む方法。
【請求項51】
該方法はさらに、該タンパク質リガンドを配列決定し、これにより該腫瘍特異的抗原を同定することを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
該抗体又はその断片がY1である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
該細胞がヒトの腫瘍から得られる、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
該腫瘍が充実性腫瘍である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
該腫瘍が小細胞肺癌である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
該腫瘍が、血液担持型腫瘍である、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
該腫瘍が白血病である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
患者における疾患の診断、予後又は病期診断の方法であって、
該患者から、細胞を含む試料を準備し、そして
請求項1に記載の抗体又はその断片が該患者の該細胞に結合するかどうかを見極め
ことを含み、
これにより、該患者が該疾患のリスクを有するか、又は該疾患にかかっていることを示す、方法。
【請求項59】
該方法がさらに、
該抗体又はその断片の特異的結合を見極め、そして
基準標準に対して、該抗体又はその断片と該細胞との特異的結合を比較する、
請求項58に記載の方法。
【請求項60】
ウェスタン・ブロッティングを用いて、請求項1に記載の抗体又はその断片が該患者の該細胞に結合するかどうかを見極める、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
該疾患が癌である、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
該癌が充実性腫瘍である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
該癌が小細胞肺癌である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
該癌が血液担持型腫瘍である、請求項61に記載の方法。
【請求項65】
該癌が白血病である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
該抗体又はその断片がY1である、請求項58に記載の方法。
【請求項67】
患者から腫瘍細胞をパージする方法であって、
該患者から、細胞を含有する試料を準備し、そして
患者に由来する細胞を、請求項1に記載の抗体又はその断片と一緒にインキュベートする
ことを含む、方法。
【請求項68】
該パージがex vivoで発生する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
アントラサイクリン-薬剤複合体を形成する方法であって、
アントラサイクリンを準備し;
アジピン酸を該アントラサイクリンと反応させ;
該アジピン酸-アントラサイクリンの活性エステルを生成し;そして
該アジピン酸-アントラサイクリンをポリペプチドと反応させることにより、アントラサイクリン-薬剤複合体を形成する
ことを含む、方法。
【請求項70】
該アントラサイクリンが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、エピルビシン、エソルビシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、及びメトキシモルホリニルドキソルビシンから成る群から選択される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
該ポリペプチドが抗体又はその断片である、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
請求項69に記載の方法に従って製造された複合体。
【請求項73】
該アントラサイクリンが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、デトルビシン、カルミノマイシン、エピルビシン、エソルビシン、モルホリノドキソルビシン、モルホリノダウノルビシン、及びメトキシモルホリニルドキソルビシンである、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
該ポリペプチドが抗体又はその断片である、請求項72に記載の方法。
【請求項75】
配列YDを含むエピトープに結合する抗体又はその断片であって、YDはモチーフDXYD内部又は酸性環境内部に配置され、Xは任意のアミノ酸、又はDとYとの共有結合であり、そしてYは硫酸化されている、抗体又はその断片。
【請求項76】
請求項75に記載の抗体又はその断片、及び製薬上許容可能なキャリヤとを含む医薬組成物。
【請求項77】
請求項75に記載の抗体又はその断片、及び画像形成剤を含む、診断、予後又は病期診断キット。
【請求項78】
該画像形成剤が放射性同位体である、請求項77に記載の診断、予後又は病期診断キット。
【請求項79】
抗体依存性細胞の細胞毒性(ADCC)を誘発する方法であって、これを必要とする患者に、請求項76に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項80】
ナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞を刺激する方法であって、これを必要とする患者に、請求項76に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項81】
細胞死を誘発する方法であって、これを必要とする患者に、請求項75に記載の抗体又はその断片を投与することを含み、該薬剤に複合された該抗体又はその断片が該細胞に侵入し、そして該抗体又はその断片が該薬剤から切断され、これにより該薬剤を放出する、方法。
【請求項82】
HIVを治療する方法であって、これを必要とする患者に、請求項76に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項83】
該投与がHIVの侵入を防止する、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
疾患を治療する方法であって、これを必要とする患者に、請求項1又は76に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項85】
該方法は、これを必要とする患者における細胞転動を治療する、請求項84に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30A】
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【図30B】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2007−527393(P2007−527393A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518747(P2006−518747)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/021099
【国際公開番号】WO2005/005455
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(505192992)バイオ−テクノロジー・ジェネラル(イスラエル)リミテッド (2)
【Fターム(参考)】