説明

狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンを機械的に保護しつつ形成する方法およびこの方法を実行する装置

本発明は、狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンを機械的に保護しつつ形成する方法に関する。ここでは、膜またはろ過組織の表面に滴を形成し、膜またはろ過組織を運動させることにより第1の液相とは混合不能な第2の液相で膜またはろ過組織の表面から滴を分離させる。せん断流成分に重畳された拡大流成分が膜表面に形成された滴の効率的かつ保護された分離に寄与する。さらに本発明は、本発明の方法を実施するための膜体またはろ過組織体を備えた装置に関する。この装置は、拡大流成分を形成するために、偏心されたケーシングおよび/または内壁に対する空隙に流れ調整部材の設けられたケーシングを有し、このケーシングは可動、特に回転可能に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンを機械的に保護しつつ形成する方法に関する。
【0002】
また本発明は前述の方法を実行する装置に関する。
【0003】
従来技術
微細な分散エマルジョンの製造は食品産業、医薬産業、化粧品産業および化学産業における最も重要な目標の1つである。その理由は、この種のエマルジョンは、分散滴が充分に小さければこれを凝離に対して安定に(entmischungsstabil)維持でき、きわめて大きな内部界面を機能性添加物、例えば作用物質、香料、色素などの吸収に利用できるからである。また分散滴は、エマルジョンの流動学特性に対して所望の作用を与える粒子の網状構造をとることができる。
【0004】
機械・装置のメーカにとって膜乳化プロセスは新たな領域である。従来、微細乳化の際にはロータ/ステータ分散装置および高圧ホモジナイザが使用されてきた。この装置では、滴の分散は分散相および連続相にきわめて高い機械的負荷をかけることによって行われる。これに対して5年ほど前から利用されるようになった膜乳化プロセスは機械的な観点から見ると前述の従来のプロセスに比べてきわめて保護されている。なぜなら微細なエマルジョンの分散滴はより大きな滴の分解によって製造されるのではなく、膜孔の出口に最終的な大きさで形成および分離されるからである。
【0005】
既存の連続的な膜プロセスでは、専らせん断流の形態のエマルジョンの連続液相が膜を流れる。滴を膜から分離すべくこれに作用する押圧力は、特に滴の粘性が高い場合、小さな滴の分離またはさらなる分散ないしは分解に関してきわめて効率が悪い。このことは、処理能力が制限されていることの多い乳化装置の生産において、寸法が小さく滴径分布の狭い最適な滴を形成するという目的に対する重大な欠点となる。
【0006】
課題
本発明の基礎とする課題は、狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンを機械的に保護しつつ形成する方法を提供することである。
【0007】
また本発明の基礎とする課題は前述の方法を実行する装置を提供することである。
【0008】
課題を解決するための本発明の方法
前述の課題は請求項1の特徴部分に記載の構成を有する方法により解決される。
【0009】
本発明の方法の利点
本発明の方法では、せん断流およびこれに重畳された拡大流成分により回転する膜表面に小滴が保護されつつ分離され、分離が成功した後のさらなる分散も、せん断流のみの場合よりも効率的に行われる。
【0010】
エマルジョン滴は、本発明の方法では、孔の設けられた膜またはろ過組織体の表面で形成される。これは孔を通して第1の液相を圧縮し、回転運動によってこれを第1の液相と混合不能な第2の液相として膜表面から分離させることによって行われる。膜表面からの液滴の分離は流れから生じる接線力、法線力および付加的な遠心力によって生じる。さらに、狭い寸法分布でエマルジョンを形成するには、孔径xに比べて大きな定義された孔間隔≧2xを有する膜を使用する必要がある。固定の膜または回転する膜にせん断流のみをオーバフローさせる従来の膜乳化プロセスに比べて、付加的かつ効率的な拡大流成分をオーバフローさせる本発明の膜乳化プロセスによれば、同程度の孔径であっても格段に小さい滴径を達成できる。従来の高圧ホモジナイザまたは回転するロータ/ステータ分散装置を用いた乳化プロセスに比べて、本発明のエマルジョン滴形成装置は、同適度の滴径をいちじるしく低減された機械的負荷で達成できるという利点を有する。このことは適の内部または界面の機能性添加物成分、例えばプロテインの天然特性を維持するのに特に有利である。
【0011】
他の実施形態
本発明の方法の他の実施形態は請求項2〜10に記載されている。
【0012】
課題を解決するための本発明の装置
前述の課題は請求項11の特徴部分に記載の構成を有する装置により解決される。
【0013】
本発明の装置の利点
本発明の装置によれば、回転する膜円筒体の偏心度を変化させることにより、および/または、簡単に交換できる流れ調整部材を設けることにより、全体流と拡大流成分との比に関して、拡大流オーバフロー特性を簡単に修正および適合化することができる。
【0014】
本発明の装置は、ケーシング内の膜体からケーシング内壁までの空隙間隔が小さいので、きわめてコンパクトである。
【0015】
他の実施形態
本発明の装置の他の実施形態は請求項12〜26に記載されている。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点を図示の実施例に則して詳細に説明する。図1には本発明の装置の軸方向の断面図が示されている。ただし切断された壁面は簡単化のためにハッチングされていない。図2には図1の装置の横断方向の断面図が示されている。図3には流れ調整部材の設けられた本発明の別の実施例の装置の横断方向の断面図が示されている。図4には1000rpm〜8000rpmのろ過組織体または膜体で水およびひまわり油から得られた滴数密度分布(いわゆるq分布)のグラフが示されている。図5には、特徴的な滴径x90.0,x10.0を導入し、その比x90.0/x10.0を滴径分布幅(Tropfchengroessebreite)の適切な尺度とし、1000rpm〜8000rpmのろ過組織体または膜体で水およびひまわり油から得られた滴数密度分布(いわゆるQ分布)について、心合わせされた装置Zと偏心された装置EZとを比較したグラフが示されている。
【0017】
連続液相1は図示されていない貯蔵容器からポンプ力によって端部2を介して空隙3へ供給される。
【0018】
分散滴4が図示されており、膜体またはろ過組織体5と膜円筒体として構成された円筒体6とが設けられている。
【0019】
中空軸として構成された回転軸7は中央に内部孔8を有する。回転軸7は力学的なスライドリングパッキン9によって封止されている。
【0020】
内部孔8は膜体またはろ過組織体5の内室10へ通じている。
【0021】
錐台状部材11は流出口ソケット12に通じている。錐台状部材11および流出口ソケット12はケーシング18の一部を形成している。
【0022】
分散液相13は図示されていない貯蔵容器から図示されていないモータ駆動されるポンプにより供給される。
【0023】
エマルジョン14は流出口ソケット12を介してケーシング18から流出する。
【0024】
図1,図2の実施例では、膜体またはろ過組織体5は定義された偏心度でケーシング18に対して偏心されて配置されている。
【0025】
図3の実施例では、空隙3に、ケーシング18の長手軸線16の方向に延在する流れ調整部材、例えばスタブ15が配置されている。スタブ15はねじ線状または螺旋状に延在してもよい。また空隙3内に、種々の断面ジオメトリを有し、螺旋状またはねじ線状に延在する複数のスタブ15を設けることもできる。
【0026】
図1の2つの矢印17は、膜体またはろ過組織体5に対してほぼ径方向に沿った分散液相13の流れ方向を示している。
【0027】
図5には、特徴的な滴径x90.0,x10.0を導入し、その比x90.0/x10.0を滴径分布幅の適切な尺度とし、滴数密度分布Q(x)について、心合わせされた装置Zと偏心された装置(拡大流成分を用いた装置)EZとが比較されている。
【0028】
図示の実施例の動作は次のようになる。まず、分散液相13が図示されていないモータ駆動されるポンプによって回転軸7に設けられた内部孔8を介して回転する膜円筒体6の内室10へ圧送される。回転軸7はケーシング18に対してスライドリングパッキン9により力学的に封止されている。そこから分散液相13は円筒体の表面に被着された膜体5を通過し、膜体の外側に分散滴4を形成する。
【0029】
連続液相1は端部2を介して円筒状のケーシング18へ案内され、回転する膜体またはろ過組織体5とケーシング18とのあいだの空隙3を軸方向に通流する。このとき膜表面に形成された分散滴4がともに流れる。流れの強さは膜体またはろ過組織体5ないしは円筒体6の周速度、空隙幅3、円筒体とケーシングとの偏心度、または、ケーシング壁に固定された流れ調整部材(例えばスタブ、ピン状部材、ナイフ/スクレイパ状部材)によって定められる。
【0030】
膜円筒体6が円筒状のケーシング18に対して図2に示されているように偏心されて配置されている場合、せん断流および拡大流の混合流が生じる。この混合流は良好な分散特性を有する。膜表面からの滴の良好な分離を達成するために、さらに、回転流を少なくとも部分的に定義された方式で阻止する流れ調整部材、例えばスタブ15が、有利にはケーシング内壁に取り付けられる。この種の流れ調整部材、例えばスタブ15は直線状かつ軸方向にはめ込まれてもよいし、螺旋状にはめ込まれてもよい。
【0031】
分散滴4および連続液相1の混合物すなわちエマルジョン14は空隙3から流出口部へ流出する。この流出口部は錐台状部材11および流出口ソケット12から成る。
【0032】
図4では、回転する膜すなわちCPDN膜(Controlled Pore Distance Membrane)によって形成されたエマルジョンの滴径分布関数または滴数密度分布q(x)について、共心円筒体でのせん断流のみの場合と、偏心円筒体での拡大流を用いる場合とが比較されている。
【0033】
上述の説明、特許請求の範囲、図および要約に示されているそれぞれの特徴は本発明の実現にとって重要であり、単独でも任意に組み合わせても本発明の対象となりうる。
【0034】
参考文献
独国出願第10127075号明細書、国際公開第2004/030799号明細書、国際公開第01/45830号明細書、米国特許第5326484号明細書
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の装置の長手方向断面図である。
【図2】偏心された装置の横断方向断面図である。
【図3】流れ調整部材を設けた装置の横断方向断面図である。
【図4】滴数密度分布のグラフである。
【図5】特徴的な滴径の比を考慮した滴数密度分布のグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 連続液相、 2 端部/端部ソケット、 3 空隙、 4 分散滴、 5 膜体またはろ過組織体、 6 円筒体、 7 回転軸、 8 内部孔、 9 スライドリングパッキン、 10 内室、 11 錐台状部材、 12 流出口ソケット、 13 分散液相、 14 エマルジョン、 15 スタブ、 16 長手軸線、 17 矢印、 18 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液相を膜体またはろ過組織体(5)に設けられた孔に通して例えば圧縮し、膜体またはろ過組織体の固有運動により第1の液相とは混合不能な第2の液相を膜体またはろ過組織体の表面から分離させて滴を形成し、ここで、せん断流成分のほか、膜円筒体とケーシング壁とのあいだの空隙における拡大流成分を形成する
ことを特徴とする狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンを機械的に保護しつつ形成する方法。
【請求項2】
ろ過組織体または膜体(5)を設定可能な一定の速度で回転運動させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ろ過組織体または膜体(5)を周期的に変動する速度で回転運動させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ろ過組織体または膜体(5)に分散液相(13)を連続的またはパルス的に通流させる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ろ過組織体または膜体(5)の分散液相の通流前に、ろ過組織体または膜体の孔系に連続液相の液体または分散液相とは混合不能な他の液体を短時間だけ通流させ、ろ過組織体または膜体(5)の孔壁を分散液相に対して簡単に湿らせる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ろ過組織体または膜体(5)を周期的に変動する速度で、有利にはコンピュータ内に格納されたプログラムにしたがって回転運動させる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ろ過組織体または膜体(5)を運動させることにより、ろ過組織体または膜体の表面に形成されたエマルジョン滴(4)に対して定義されたせん断応力および/または張力を形成する、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
ろ過組織体または膜体(5)は、回転運動の周方向に対して垂直な付加的なオーバフロー、すなわち例えばろ過組織体または膜体がディスク状であれば径方向のオーバフロー、例えばろ過組織体または膜体が円筒体状であれば軸方向のオーバフローを形成する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ろ過組織体または膜体(5)を通り抜けるときの液相はエマルジョンであり、形成された滴(4)がろ過組織体または膜体の表面から分離された後の液相は水/油/水型または油/水/油型のダブルエマルジョンである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ろ過組織体または膜体(5)の表面を通過する液相は懸濁液であり、滴(4)が分離された後の周囲の液相は懸濁液/エマルジョン系である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンを機械的に保護しつつ形成する方法を実行する装置において、
有利には回転対称なろ過組織体または膜体(5)を備えており、該ろ過組織体または膜体のケーシング(18)は可変幅の空隙(3)を有し、かつ、長手軸線を中心としてモータによって運動可能に配置されている
ことを特徴とする狭い滴径分布を有する微細な分散マイクロナノエマルジョンの機械的に形成する方法を実行する装置。
【請求項12】
ろ過組織体または膜体(5)は円筒体形状を有する、請求項11記載の装置。
【請求項13】
ろ過組織体または膜体(5)はディスク形状を有する、請求項11記載の装置。
【請求項14】
空隙(3)をなすケーシングの内壁(18)とろ過組織体または膜体(5)とは相互に偏心されて配置されている、請求項11記載の装置。
【請求項15】
空隙(3)には拡大流成分の形成部材として1つまたは複数のスタブ(15)が配置されている、請求項11記載の装置。
【請求項16】
スタブ(15)はケーシング(18)およびろ過組織体または膜体(5)の長手軸線方向に延在している、請求項15記載の装置。
【請求項17】
スタブ(15)は直線状またはらせん状またはねじらせん状に構成されている、請求項15または16記載の装置。
【請求項18】
スタブ(15)はケーシング(18)の内壁に配置されている、請求項15から17までのいずれか1項記載の装置。
【請求項19】
回転駆動されるろ過組織体または膜体(5)の周速度は1m/s〜50m/sである、請求項11から18までのいずれか1項記載の装置。
【請求項20】
ろ過組織体または膜体(5)の軸線方向のオーバフロー速度は連続液相(1)によりろ過組織体または膜体(5)の周速度には依存せずに設定可能または制御可能である、請求項11から19までのいずれか1項記載の装置。
【請求項21】
分散液相(13)は中空軸(7)を介して接続されたろ過組織体または膜体(5)へ供給され、ろ過組織体または膜体を通過することによってポンピング圧力により圧縮され、ろ過組織体または膜体(5)の表面に分散滴(4)が形成される、請求項11から20までのいずれか1項記載の装置。
【請求項22】
ろ過組織体または膜体(5)の固有運動は制御装置によって設定される、請求項11から21までのいずれか1項記載の装置。
【請求項23】
ろ過組織体または膜体(5)の固有運動はコンピュータプログラムによって実行される、請求項11から22までのいずれか1項記載の装置。
【請求項24】
ろ過組織体または膜体(5)の固有運動は定められた時間が経過すると反転される、請求項11から23までのいずれか1項記載の装置。
【請求項25】
連続液相を圧送するポンプのモータ駆動部は定められたプログラムにしたがって間欠的に(パルス的に)駆動される、請求項11から24までのいずれか1項記載の装置。
【請求項26】
分散液相を圧送するポンプのモータ駆動部は定められたプログラムにしたがって間欠的に(パルス的に)駆動される、請求項11から25までのいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−510607(P2008−510607A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528699(P2007−528699)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008980
【国際公開番号】WO2006/021375
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(500466913)
【氏名又は名称原語表記】Eidgenoessische Technische Hochschule Zuerich
【住所又は居所原語表記】Raemistrasse 101, CH−8092 Zuerich, Switzerland
【出願人】(591002577)キネマティカ アクチエンゲゼルシャフト (2)
【出願人】(507055811)イオン ボンド アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Ion Bond AG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 211, CH−4601 Olten, Switzerland
【出願人】(507055844)プロセステヒ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Processtech GmbH
【住所又は居所原語表記】Kraehholzweg 3, CH−3324 Hindelbank, Switzerland
【Fターム(参考)】