玉軸受用保持器および玉軸受
【課題】 高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる玉軸受用保持器および玉軸受を提供する。
【解決手段】 保持器45の内径側部分46Aiにおいて、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びる凹み部50を設け、且つ、ポケット46のうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材を形成し、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンおよび二硫化物が所定量配合される。
【解決手段】 保持器45の内径側部分46Aiにおいて、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びる凹み部50を設け、且つ、ポケット46のうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材を形成し、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンおよび二硫化物が所定量配合される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、各種回転機械装置の回転支持部に使用される密閉板付玉軸受等に適用される玉軸受用保持器および玉軸受に関し、特に、玉軸受内部に封入したグリースが外部に漏洩するのを防止し、グリース寿命を長くする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種回転機械装置、とりわけ自動車補機に使用される密閉板付軸受には、耐高温、高速、耐泥水、耐ダスト、耐グリース漏れ、長寿命および低トルクが要求される。これらの要求のうち、耐泥水ならびに耐ダストの対策のために、接触シールが用いられる。
ところで、シールリップ部分にグリースが存在した状態で軸受温度が上昇すれば、次のような現象が起きる。すなわち軸受内部の空気の膨張によって軸受内部の圧力が上昇し、軸受外部と圧力差が生じ、シールリップ部分を開いてグリースや空気が軸受外部へ漏洩する現象(以下、この現象を「呼吸」と称す)が起きる(特許文献1)。
これを防止するために、シールリップの一部に通気用の切欠きを設けるものがある(特許文献1)。しかし、運転による軸受温度上昇中に、この切欠きから空気だけが漏れれば、前記呼吸によるグリース漏れが減少するが、切欠きにグリースが付着すれば、上記と同様なグリース漏れが起こる(特許文献2)。
通気用の切欠きを設けず、シールリップの内輪シール溝への押し付け圧力(以下、「緊迫力」と称す)を強めることで呼吸対策を行っても、トルクの増大を招くのみで、緊迫力以上の内圧を招く大きな温度上昇時には、グリース漏れを防ぎきれないはずである。
また、軸受温度が低下した場合には、軸受内部の空気の収縮によって軸受内部の圧力が低下することによるシールリップ先端の吸着現象が起こり、更なるトルクの増大を招く要因となる(特許文献3)。したがって、各種シールを用いても、内輪シール溝にグリースが付着すると、グリース漏れを防止するのは困難であった。
【0003】
そこで、鉄板波形保持器の形状を変更したものが提案されている。これは、ポケット部に設けられた形状により、転動体に付着した余分なグリースを掻き取り、軸受内輪肩部にグリースが付着することを防ぐ構造である(本保持器を「改良保持器」と称す)。
しかし、標準の鉄板波形保持器や前記改良保持器(SPCC)は、案内面の表面が鉄であり、鋼球と摺動した場合に鉄の摩耗粉が発生し、グリースが劣化し、軸受が短寿命となるおそれがある。
【0004】
そこで、冠形樹脂保持器(PA66+GF25%)や、2つ割れの樹脂保持器(特許文献4,5)を使用する対策が採られる。しかし前者のものは、高速回転時に発生する遠心力によって外輪側に変形し、保持器外径部が外輪内径部に接触する場合がある。また、遠心力による変形を抑制するために、強度の高いPEEK材等からなる樹脂を使用せざるを得ず、保持器材料として高価なものとなる。後者のものでは、変形は抑制されるが、保持器の体積が増し軸受内の空間容積が減少するため、グリース封入量を多くすることができない。さらに、前者、後者ともグリース漏れは発生する。
【特許文献1】特開2000−257640号公報
【特許文献2】特開2005−308117号公報
【特許文献3】特開2005−69404号公報
【特許文献4】特開2006−258174号公報
【特許文献5】特開2007−40383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄板保持器は、鉄の摩耗粉が発生し、軸受寿命が短寿命となるおそれがある。冠形樹脂保持器では、遠心力により変形し、シールや外輪内径部に接触するために高速回転性能に劣る。高強度で且つ高コストのPEEK材等からなる樹脂を使用すれば、高速回転性能は向上するものの、鉄板波形品の高速回転性能には到達できない。また、2つ割れ樹脂保持器では、変形は抑制されるが、保持器の体積が増し軸受内の空間容積が減少するため、グリース封入量を多くすることができない。さらに、冠形および2つ割れ保持器ともシールリップ部にグリースが移動しやすく、グリース漏れが発生しやすい。
【0006】
この発明の目的は、高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる玉軸受用保持器および玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明における、第1の発明の玉軸受用保持器は、玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有し、各ポケットの内面を、玉配列ピッチ円よりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる凹曲面状としたリング状の玉軸受用保持器において、前記各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成されているものであって、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれていることを特徴とする。
【0008】
ポケット内面を球面とした従来の一般的な形状の保持器を用いた玉軸受では、転動体である玉が内輪軌道面を転がるとき、内輪軌道面でのグリースの厚さは、ヘルツ接触中心から軸方向に、また玉表面のグリース厚さもヘルツ接触中心から内輪軌道面幅まで対称になる。この玉表面に付着したグリースが、玉の回転によって保持器に入って行くとき、保持器によってグリースが掻き取られる。掻き取られたグリースは保持器に付着するが、このグリース量が増加すると一部は内輪肩部にも付着する。内輪肩部に付着したグリースが増すと、回転している保持器のポケット中央部付近に乗り上げるように付着する。乗り上げたグリースが増すと、内輪肩部のグリースと押し合うようになり、内輪シール溝にまでグリースが付着する。これが一般的な鉄板打ち抜き保持器でのグリースの動きである。さらに、この一般的な形状の保持器では、保持器ポケット中央部に付着したグリースが、シール内面に付着する。これにより、直接潤滑に寄与し難いグリースがシール内面に留まることになる。また、保持器ポケット部とシール内面でグリースのせん断が起こり、軸受のトルクが上昇する。
【0009】
これに対して、第1の発明では、保持器の各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びる凹み部を設けたため、内輪肩部にグリースが付着しない。すなわち、玉に最もグリースが付着する位置である保持器内径側の開口縁に開口する凹み部を設けたため、玉の表面の掻き取りが減少し、保持器内径面に溜まるグリース量が減少する。そのため、内輪シール溝にグリースが付着し難く、接触式および非接触式のいずれのシールを用いてもグリース漏れを防止できる。これは、特に外輪回転時に特徴的に現れる。したがって、一般的な鉄板打ち抜き保持器のようなシールに付着することによる、軸受トルクの上昇のようなデメリットは発生しない。さらに、シール機能にグリース漏れを防ぐ要素を付加させる必要がないので、耐泥水、耐ダスト、および低トルクに特化したシール設計が可能となる。
さらに、前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成され、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンおよび二硫化物が所定量配合されるので、微粒子形状のフラーレンと二硫化物粉末とが樹脂体または被膜中に均一に配合される。その結果、これらの相乗効果により耐摩耗性、耐剥離性が向上すると同時に摩擦係数が低下する。前記フラーレンが組成物全体に対して0.1 容量%未満では十分な耐摩耗性を得ることができず、逆に、前記フラーレンが組成物全体に対して10 容量%を超えると分散不良となり耐摩耗性が悪化する。また、二硫化物が組成物全体に対して0.5〜20 容量%、好ましくは 0.5 〜 15 容量%配合する。0.1 容量%未満では十分な摩擦摩耗特性を得ることができず、20 容量%を超えると耐摩耗性が悪化する。
【0010】
したがって、この保持器を鉄板製として玉軸受に使用すると、グリース漏れを抑制しつつも、いわゆる鉄板保持器特有の高い高速回転性能、樹脂保持器よりも大きな軸受内部空間(以下、全空間容積と称す)の確保、ならびに鉄ポケットと鋼球間の直接接触を防止することによるグリース潤滑寿命の延長を達成できる。また、高速回転時に発生する遠心力に起因する変形を未然に防止することができる。なお、全空間容積に比例して、グリース封入量は規定されるのが一般的で、全空間容積の増加はグリース封入量の増加による寿命延長につながる。
【0011】
前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、ポケットの内面となる凹球面の曲率半径よりも小さな曲率半径の円弧状とした場合は、上記のグリースの掻き取りがより一層生じにくくなる。
前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられ、ポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有し、前記凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状であっても良い。この場合、1箇所の凹み部により、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させ得るため、保持器構造を簡単化することができる。よって、この凹み部を形成するための金型構造を簡単化すると共に、保持器内径面に溜まるグリース量を減少させることが可能となる。各ポケットの内面に凹み部を後加工する場合であっても、複数箇所の凹み部を形成する場合に比べて工数低減を図ることができる。それ故、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0012】
前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられ、各凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする各仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状であっても良い。
このように、保持器円周方向の中心の両側の位置に凹み部が複数箇所設けられていることで、軸受の回転方向によらず、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させることができる。
また、当該形状はプレス加工した場合、ポケット外面側に凸となる。しかし、凸となっても、シール内面側には近づかず、保持器とシールとの隙間は標準保持器と同じとなる。
前述の凹み部がポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられた保持器では、保持器とシールとの隙間は、凹み部を複数箇所設けた保持器よりも狭くなる。
【0013】
前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して2箇所に設けられて、保持器外径縁付近まで延び、これら2箇所の凹み部の内面形状が、一つの仮想リングの表面に略沿った形状であり、前記仮想リングは、ポケット内に収まるリング外径で、任意周方向位置の断面形状が円形であり、リング中心が保持器中心軸に対して傾きを持つものであっても良い。この場合、2箇所の凹み部の内面形状を、仮想リングの表面に沿った形状から成る砥石等を用いて、容易にかつ精度良く形成することが可能となる。
【0014】
前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、多角形状であっても良い。
2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であっても良い。前記球殻状板部は、球殻の一部となる部分であり、内外両面が球面状となったカウンタシンク形状の膨らみ部分である。この場合、保持器半体をプレス金型等を用いて成形することで、前記球殻状板部および平板部を一体に設けることができる。その後、2個の保持器半体を重ね合わせて容易に組み立てることができる。
【0015】
この発明における、第2の発明の玉軸受用保持器は、第1の発明の玉軸受用保持器と同じ組成物から成る摺動部材を、保持器のポケットの案内面を成す表面部位に形成し、保持器を次の構成としたものである。すなわち、玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有するリング状の玉軸受用保持器において、2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であり、前記球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くしている。
【0016】
第2の発明では、保持器を、球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くしたため、内輪肩部にグリースが付着しない。そのため、内輪シール溝にグリースが付着し難く、接触式および非接触式のいずれのシールを用いてもグリース漏れを防止できる。これは、特に外輪回転時に特徴的に現れる。したがって一般的な鉄板打ち抜き保持器のようなシールに付着することによる軸受トルクの上昇のようなデメリットは発生しない。さらに、シール機能にグリース漏れを防ぐ要素を付加させる必要がないので、耐泥水、耐ダスト、および低トルクに特化したシール設計が可能となる。
【0017】
また、保持器半体の平板部や球殻状板部の玉配列ピッチ円よりも外径側部分の板厚となる基準板厚は従来と同等とすることで、保持器の強度低下を生じることなく、グリース漏れだけを防止できる。さらに、玉と接触し得るポケット部の形状は従来と同様であることから、保持器の可動範囲の増加による保持器間の干渉力の増加も生じない。その他第1の発明と同様の作用効果を奏する。
前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の深さを、ポケット内面の凹球面の中心から前記凹み部の最深位置までの距離が、玉の半径の1.05倍以上となる深さとしても良い。
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器を備えた玉軸受によると、保持器内径側の開口縁に開口する凹み部を設けたため、玉の表面の掻き取りが減少し、内輪シール溝にグリースが付着し難くなり、グリース漏れを防止できる。よって、玉軸受のシール等にグリースが付着せず、軸受トルクの上昇を抑え得る。さらに、保持器ポケットに、前述の組成物から成る摺動部材が形成されるので、耐摩耗性、耐剥離性が向上すると同時に摩擦係数が低下する。この保持器を鉄板製として玉軸受に使用すると、高速回転性能、大きな全空間容積の確保、ならびに鉄ポケットと鋼球間の直接接触を防止することによるグリース潤滑寿命の延長を達成できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明における、第1の発明の玉軸受用保持器は、玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有し、各ポケットの内面を、玉配列ピッチ円よりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる凹曲面状としたリング状の玉軸受用保持器において、前記各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成されているものであって、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれているため、高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる。
【0019】
この発明における、第2の発明の玉軸受用保持器は、第1の発明の玉軸受用保持器と同じ組成物から成る摺動部材を、保持器のポケットの案内面を成す表面部位に形成し、この保持器は、2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であり、前記球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くしたため、高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。この実施形態に係る玉軸受用保持器は、例えば、各種回転機械装置の回転支持部等に使用される玉軸受に適用される。この軸受1は、図1に示すように、内輪2と外輪3の軌道面2a,3aの間に、複数の玉4を介在させ、これら玉4を保持する保持器45を設け、両側面に軸受空間を密封する非接触形のシール部材6,6を設けたものである。この場合、軸受はシール付きの深溝玉軸受とされている。玉4は例えば鋼球からなる。
【0021】
前記各シール部材6は、環状の芯金7と、この芯金7に一体に固着されたゴム状部材8とで構成され、外輪3の内周面に形成されたシール取付溝9にこのシール部材6の外周部が嵌合状態に固定される。内輪2は各接触シールの内周部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝10が形成され、接触シールの内周側端に形成されたシールリップ6aが内輪2のシール溝10に摺接する。
【0022】
保持器45について説明する。
保持器45は、図2〜図4に示すように、例えば、鉄系金属材料から成る板材いわゆる鉄板をプレスにより打ち抜きおよび成形加工して製作された2枚の保持器半体47から成る。この保持器の材料としては、特に鉄系金属材料だけに限定されるものでなく、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料等を使用することができる。
この保持器45のポケット46のうち少なくとも玉4の案内面を成す表面部位5aa(図4)に、後述する組成物から成る摺動部材SBが形成されている。
【0023】
前記鉄系金属材料としては、肌焼き鋼(SCM)、冷間圧延鋼(SPCC)、熱間圧延鋼(SPHC)、炭素鋼(S25C〜S55C)、ステンレス鋼(SUS304〜SUS316)、軟鋼(SS400)等を使用できる。
前記銅系金属材料としては、銅−亜鉛合金(HBsC1、HBsBE1、BSP1〜3)、銅−アルミニウム−鉄合金(AlBC1)等、前記アルミニウム系金属材料としてはアルミ−シリコン合金(ADC12)等を使用できる。
【0024】
保持器45は、図3,図4に示すように、各玉4を保持するポケット46を円周方向の複数箇所に有し、各ポケット46の内面を凹球面状としたリング状のものである。この保持器45は、図5に斜視図で示す環状体の保持器半体47の2個を、軸方向に対面して重ね合わせ、リベット孔48に挿通したリベット49で互いに接合して一体に構成される。これら保持器半体47は、内面がポケット46の半分を形成する部分的な球殻状の形状の球殻状板部46Aを複数有し、隣合うポケット46間の部分となる平板部47aと球殻状板部46Aとが円周方向に交互に並んだものとされる。前記球殻状板部46Aは、球殻の一部となる部分であり、換言すれば、内外両面が球面状となったカウンタシンク形状の膨らみ部分である。保持器半体47の軸方向の投影形状は、半径方向幅が全周に渡って一定のリング状である。
【0025】
保持器半体47の一部を拡大して図7に斜視図で示す。図6は、図7と対応する部分につき、ポケット内面を単調な球面とした場合の図である。図6において、2点鎖線で示す部分Aは、この保持器半体47における平板部47aが周方向に並ぶ円周帯域を示す。その円周帯域Aの平板部47aでない部分にポケット46の半分である前記球殻状板部46Aが形成される。同図における球殻状板部46Aの一側部が保持器45の内径側部分46Aiとなり、球殻状板部46Aの他側部が保持器45の外径側部分46Aoとなる。
【0026】
この実施形態の保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面は、図7に示すように、保持器45の上記内径側部分46Aiにおいて、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びる凹み部50を設け、この凹み部50の内面の保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)を、ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径Rbの円弧状としている。
この凹み部50は、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46から両側に広がって1箇所に設けられ、凹み部50の幅W50は、ポケット46の保持器円周方向の幅W46の略全体にわたる幅としている。凹み部50の幅W50は、ポケット46の幅W46の半分よりも大きいことが好ましく、2/3以上、あるいは3/4以上であることがより好ましい。
凹み部50の内面形状は、同図(B)に示すように、保持器45の半径方向の直線Lを中心とする仮想円筒Vの表面に略沿う円筒面状の形状である。上記仮想円筒Vは、凹み部50を加工する砥石の表面であっても良い。この凹み部50は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDまで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに至るに従って、徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅が狭くなる形状とされている。凹み部50は、この実施形態では、丁度、玉配列ピッチ円PCDまで延びているが、玉配列ピッチ円PCDよりも保持器外径側まで若干延びていても、また玉配列ピッチ円PCDに若干達しないものであっても良い。なお、玉配列ピッチ円PCDはポケットPCDとも呼ぶ。
【0027】
凹み部50の深さは、ポケット内面の凹球面の中心O46から凹み部50の最深位置までの距離Rcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さ(丁度1.05倍であって良い)であることが好ましい。ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raは、玉4の半径よりも僅かに大きくし、玉4の半径の1.05未満としている。
【0028】
図8は、保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面の他の形状例を示す。この例では、ポケット46(球殻状板部46A)の内面の内径側部分46Aiに設けられる凹み部50Aを、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46の両側に位置する2箇所としてしている。各凹み部50Aの内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)が、ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RAbの円弧状であり、詳しくは同図(B)に示すように、保持器45の半径方向の直線LAを中心とする各仮想円筒VAの表面に略沿う円筒面状の形状である。この凹み部50Aは、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。
2個の凹み部50Aの位置は、例えば、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46に対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。この例でも、凹み部50Aの深さは、ポケット内面の凹球面の中心O46から凹み部50Aの最深位置までの距離RAcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい(丁度1.05倍であって良い)。
なお、この実施形態では凹み部50Aを2箇所としたが、3箇所以上としても良い。
【0029】
図9は、保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面のさらに他の形状例を示す。この例は、図8の実施形態において、凹み部50C(50A)の断面形状(保持器円周方向に沿う断面形状)を円弧状する代わりに、多角形状としたものである。詳しくは、同図(B)に示すように、保持器45の半径方向の直線LAを中心とする各多角形柱(図示の例では正10角形柱)VCの表面に略沿う多角形状の形状である。この凹み部50Cは、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。この実施形態におけるその他の構成は、図8の例と同様である。
【0030】
図10は、保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面のさらに他の形状例を示す。この例は、ポケット46(球殻状板部46A)の内面の内径側部分46Aiに設けられる凹み部50Bが、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46の両側に位置して2箇所に設けられていることでは図8の実施形態と同様であるが、各凹み部50Bが、保持器外径縁付近まで延びている。これら凹み部50Bの内面の保持器円周方向に沿う断面形状は、ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RBbの円弧状であり、詳しくは同図(B)に示すように、一つの仮想リングVBの表面に略沿った形状である。この仮想リングVBは、凹み部50Bを加工する砥石の外周面であっても良い。前記仮想リングVBは、ポケット46内に収まるリング外径であって、任意周方向位置の断面形状が円形となるドーナツ状であり、図11のように、リング中心OVBが保持器中心軸Oに対して傾きを持つ。
【0031】
なお、この発明において、凹み部50A〜50Cの保持器円周方向に沿う断面形状は、図8〜図10の各例の形状に限らず、部分楕円状や、矩形溝状、台形溝状や、その他任意の断面形状としても良い。また、凹み部50A〜50Cの上記断面形状は、凹み部中心に対して非対称の形状であっても良い。
ポケット46における内面形状は、球面状に限らず、玉配列ピッチ円PCDよりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる形状であれば良く、例えば玉配列ピッチ円PCDよりも外径側の部分が円筒面状、内径側の部分が円すい面状であっても良い。
【0032】
図12は、上記保持器45の製造方法を示す。この製造方法は鉄板打ち抜き保持器の製造方法であって、先ず鋼板をプレスしてリング状の金属帯材51を打ち抜く。次に、図12(A)のように、前記保持器半体47の球殻状板部46Aの内面を成形する凸側プレス金型52と、前記球殻状板部46Aの外面を成形する凹側プレス金型53とでなるプレス金型組54を用意し、これら凸側プレス金型52と凹側プレス金型53の間に前記リング状の金属帯材51を挟み込んで、図12(B)のように保持器半体47をプレス成形する。このプレス成形は、粗押しと仕上げ押しの2段階で行っても良く、また一度で行っても良い。
なお、凸側プレス金型52および凹側プレス金型53は、図ではそれぞれ1個のみ示しているが、これら凸側プレス金型52および凹側プレス金型53は、それぞれ保持器半体47の球殻状板部46Aの個数分だけ円周方向に並べて互いに一体の金型として設けられ、複数の球殻状板部46Aを同時に成形する。
このようにして得られた2つの保持器半体47を図12(C)のように重ね合わせ、図12(D)のように保持器半体47の平板部47aが重なり合う部分をリベット49で接合して保持器45とする。
【0033】
図13には、プレス成形における仕上げ押し工程に用いる上記凸側プレス金型52および凹側プレス金型53として、図18の保持器半体47の成形用のものを示している。凸側プレス金型52の半球状凸面には、ポケット46(球殻状板部46A)における凹み部50Aの内面を成形する凹み部成形用型部52aが部分的に形成されている。また、凹側プレス金型53には、ポケット46(球殻状板部46A)における凹み部50Aの外面を成形する凹み部裏面成形用型部53aが部分的に形成されている。保持器ポケットの外面側に凸部が形成されることになるが、シールと非接触であれば、機能上問題ない。この場合の凸側プレス金型52および凹側プレス金型53も、それぞれ保持器半体47の球殻状板部46Aの個数分だけ、互いに一体の金型として設けられ、複数の球殻状板部46Aを同時に成形する。
【0034】
図8の保持器半体47を成形する場合、その球殻状板部46Aの内面は単純な半球状凹面の一部に、凹み部50Aを有する形状であるため、仕上げ押し工程で単純な半球状凹面を成形した後で、その半球状凹面の一部にさらに凹み部50Aをプレス成形するものとすると、従来の鉄板打ち抜き保持器の成形の場合に比べて製造工程が一工程増えることになる。
この実施形態では、上記したように、仕上げ押し工程に用いる凸側プレス金型52の半球状凸面に、ポケット46(球殻状板部46A)における凹み部50Aの内面を成形する凹み部成形用型部52aを部分的に形成しているので、仕上げ押し工程で凹み部50Aも同時に成形でき、製造工程を増やすことなく効率的に保持器45を製造できる。
【0035】
また、仕上げ押し工程に用いる上記凸側プレス金型52の半球状凸面の形状および面粗さは、保持器ポケット46の内面に転写され、そのポケット内面は軸受に組み込まれた場合に玉4(図2)と接触するため、ポケット内面の面粗さは小さくする必要がある。従来の鉄板打ち抜き保持器ではポケット内面が単純な凹球面であるため、凸側プレス金型の半球状凸面を凹形状の砥石等で研磨することで面粗さを小さくしている。しかし、この実施形態の場合、上記したように凸側プレス金型52の半球状凸面は、単純な半球状凸面の一部にポケット内面の上記凹み部50Aに対応する凹み部成形用型部52aを有する形状であり、従来例の場合のように凹形状の砥石等で研磨して面粗さを小さくすることはできない。
そこで、この実施形態では、仕上げ押し工程に用いる凸側プレス金型52の成形凸球面を、ショットブラスト、または電子ビームによる研磨、または研磨剤の噴射によるラッピングで表面仕上げする。この場合のラッピングは、研磨砥粒に水分を含有させることで弾力性および粘着性を有する研磨材を得て、この研磨材を被加工材である金型の表面に高速で滑走させて発生する摩擦力によって表面仕上げする方法が好ましい。このようなラッピングとして、金型の超鏡面仕上げ装置として販売されているエアロラッピング(株式会社ヤマシタワークス)等が採用できる。このように、ショットブラストや電子ビーム、あるいは研磨剤の噴射によるラッピングで凸側プレス金型52の成形凸球面を表面仕上げすることにより、手作業による研磨などが要らず、ばらつきなく低コストで凸側プレス金型52の成形凸球面の面粗さを小さくできる。
【0036】
図14〜図16は、グリース付着状態の確認を行った試験結果を示す。この試験では、この実施形態(図7の実施形態、および図8の実施形態)の保持器45を組み込んだ玉軸受と、一般的な鉄板打ち抜き保持器を組み込んだ玉軸受とを、次の表1の条件で運転して比較した。
図14および図15はこの実施形態(それぞれ図7の実施形態、および図8の実施形態)の保持器45を用いた玉軸受のグリース付着状態を示し、図16は一般的な鉄板打ち抜き保持器を用いた玉軸受のグリース付着状態を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
図14〜図16の試験結果から、一般的な鉄板打ち抜き保持器を組み込んだ玉軸受(図16)では、内輪シール溝にグリースが付着するが、この実施形態の保持器45を組み込んだ玉軸受(図14,図15の例)ではグリースの付着がないことが分かる。
【0039】
また、前記各玉軸受に接触シール(NTN製LUシール)を組み付けて、グリース漏れ頻度の確認試験も行った。この試験では、表1の試験条件に対して運転時間のみを15分に変更して行った。その試験結果を次の表2に示す。この場合のグリース漏れとは、目視で確認できる30〜100mg程度のグリースが軸受外部へ飛び出すことと定義する。
【0040】
【表2】
【0041】
表2によると、従来の保持器を組み込んだ密閉型玉軸受では10個中の9個にグリース漏れが発生しているが、この実施形態の保持器を組み込んだ密閉型玉軸受では4個中にグリース漏れの発生したものはないことが分かる。
【0042】
これらの試験結果からわかるように、この実施形態の玉軸受用保持器45では、ポケット46の形状を上記したように従来例のものと異なるものとしたことにより、内輪肩部へのグリースの付着を無くすことができる。すなわち、玉に最もグリースが付着する位置である保持器内径側の開口縁に開口する凹み部を設けたため、グリースの掻き取りが生じる際の、玉の表面の掻き取りが減少し、保持器内径面に溜まるグリース量が減少する。そのため、内輪シール溝へグリースが付着することがなく、接触式および非接触式のいずれのシールを用いても、グリース漏れは発生しない。この効果は、特に外輪回転時に特徴的に現れる。したがって、一般的な鉄板打ち抜き保持器のようにシールにグリースが付着することによる不具合は発生しない。さらに、シール機能にグリース漏れを防ぐ要素を付加させる必要がないので、耐泥水、耐ダスト、および低トルクに特化したシール設計が可能となる。また、この実施形態の玉軸受用保持器はプレス加工が可能なため、低コストで高強度のものを製造でき、一般的な鉄板打ち抜き保持器と比べてシールとの距離も変わらない。
【0043】
摺動部材SBについて説明する。
図3,図4に示すように、この発明の保持器45のポケット46のうち少なくとも玉4の案内面を成す表面部位5aa(図4)に、組成物から成る摺動部材SBが形成されている。
前記組成物に使用できる合成樹脂としては、耐油性を有し、被膜としたときに被膜強度が強く、耐摩耗性に優れた材料であれは、特に限定されない。そのような例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、フラン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、芳香族ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、芳香族ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フッ素樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等があげられる。これらの中でも好ましいものとして、芳香族ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、エポキン樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等があげられる。これらの合成樹脂は、必要に応じて、繊維状や粒子状の各種充填材を配合することができる。
【0044】
本発明において、特に好ましい合成樹脂は被膜形成能に優れるポリイミド系樹脂である。ポリイミド系樹脂は分子内にイミド結合を有するポリイミド樹脂、分子内にイミド結合とアミド結合とを有するポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。
ポリイミド樹脂の中でも、芳香族ポリイミド樹脂が好ましく、芳香族ポリイミド樹脂は、化1で示す繰返し単位を有する樹脂であり、[化1]で示す繰返し単位を有する樹脂の前駆体であるポリアミック酸も使用できる。R1は芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の残基であり、R2は芳香族ジアミンまたはその誘導体の残基である。そのようなR1またはR2としては、フェニル基、ナフチル基、ジフェニル基、およびこれらがメチレン基、エーテル基、カルボニル基、スルホン基等の連結基で連結されている芳香族基が挙げられる。
【化1】
【0045】
芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の例としては、ピロメリット酸二無水物、2,2´,3,3´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いられる。
【0046】
芳香族ジアミンまたはその誘導体の例としては、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、3,3´−ジアミノジフェニルスルホン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルエーテルなどのジアミン類またはジイソシアネート類が挙げられる。
上記芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体と、芳香族ジアミンまたはその誘導体との組み合わせで得られる芳香族ポリイミド樹脂の例としては、表3に示す繰返し単位を有するものが挙げられる。これらはR1およびR2にヘテロ原子を有しない樹脂である。
【0047】
表3中の芳香族ポリイミド樹脂において、分子中に占める芳香環の比率が高いポリイミドCおよびDが好ましく、特にポリイミドDが本発明に好適である。芳香族ポリイミド樹脂ワニスの市販品としては、例えば宇部興産社製Uワニスが挙げられる。
【表3】
【0048】
本発明に使用できるポリアミドイミド樹脂は高分子主鎖内にアミド結合とイミド結合とを有する樹脂であり、ポリカルボン酸またはその誘導体とジアミンまたはその誘導体との反応により得ることができる。
ポリカルボン酸としてはジカルボン酸、トリカルボン酸、およびテトラカルボン酸が挙げられ、ポリアミドイミド樹脂は、(1)ジカルボン酸およびトリカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、(2)ジカルボン酸およびテトラカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、(3)トリカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、(4)トリカルボン酸およびテトラカルボン酸とジアミンとの組み合わせにより得られる。ポリカルボン酸とジアミンとはそれぞれ誘導体であってもよい。ポリカルボン酸の誘導体としては酸無水物、酸塩化物が挙げられ、ジアミンの誘導体としてはジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートはイソシアネート基の経日変化を避けるために必要なブロック剤で安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としては、アルコール、フェノール、オキシム等が挙げられる。
また、ポリカルボン酸とジアミンとはそれぞれ芳香族および脂肪族化合物を用いることができる。本発明に使用できるポリアミドイミド樹脂は伸び率に優れたものが好ましく、芳香族化合物に脂肪族化合物を併用することが好ましい。
また、エポキシ化合物で変性することができる。
【0049】
トリカルボン酸またはその誘導体の例としては、トリメリット酸無水物、2,2´,3−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,3´,4−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,3´,4−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、1,2,5−ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルメチル安息香酸無水物等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いられる。
量産化されており、工業的利用のしやすさからトリメリット酸無水物が好ましい。
【0050】
テトラカルボン酸またはその誘導体の例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−スルホニルジフタル酸二無水物、m−タ−フェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−または3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−または3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−または3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0051】
ジカルボンまたはその誘導体の例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸、ポリブタジエン系オリゴマーの両末端をカルボキシル基とした脂肪族ジカルボン酸(日本曹達(株)製Nisso−PB,Cシリーズ、宇部興産(株)製 Hycar−RLP,CTシリーズ、Thiokol社製 HC−polymerシリーズ、General Tire社製 Telagenシリーズ、Phillips Petroleum社製 Butaretzシリーズ等)、カーボネートジオール類(ダイセル化学(株)製の商品名PLACCEL、CD−205、205PL、205HL、210、210PL、210HL、220、220PL、220HL)の水酸基当量以上のカルボキシル当量となるジカルボン酸を反応させて得られるエステルジカルボン酸等が挙げられる。
【0052】
ジアミンまたはその誘導体の例として、ジイソシアネートとしては、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4'−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、ビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3'−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,2'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジエチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,2'−ジエチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメトキシビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,2'−ジメトキシビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、カーボネートジオール類(ダイセル化学(株)製の商品名PLACCEL、CD−205、205PL、205HL、210、210PL、210HL、220、220PL、220HL)の水酸基当量以上のイソシアネート当量となるジイソシアネートを反応させて得られるウレタンジイソシアネート等のジイソシアネート類が挙げられる。
【0053】
ジアミン類としては、ジメチルシロキサンの両末端にアミノ基が結合したシロキサンジアミン(シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)、X−22−9409(アミン当量700)、X−22−1660B−3(アミン当量2200)(以上、信越化学工業社製、商品名)、BY16−853(アミン当量650)、BY16−853B(アミン当量2200)、(以上、東レダウコーニングシリコーン社製、商品名))、両末端アミノ化ポリエチレン、両末端アミノ化ポリプロピレン等の両末端アミノ化オリゴマーや両末端アミノ化ポリマー、オキシアルキレン基を有するジアミン(ジェファーミンDシリーズ、ジェファーミンEDシリーズ、ジェファーミンXTJ−511、ジェファーミンXTJ−512、いずれもサンテクノケミカル社商品名)等が挙げられる。
【0054】
芳香族ポリイミド樹脂と異なり、前駆体を経ることなく樹脂溶液の状態でアミド結合とイミド結合との繰返し単位を有するポリアミドイミド樹脂が本発明において特に好ましい。また、ポリアミドイミド樹脂のジイソシアネート変性、BPDA変性、スルホン変性、ゴム変性樹脂を使用できる。ポリアミドイミド樹脂ワニスの市販品としては、例えば日立化成社製HPC5020、HPC7200等が挙げられる。
【0055】
本発明においてポリアミドイミド樹脂は、樹脂被膜の伸び率が 60 %〜120 %のポリアミドイミド樹脂が好ましい。伸び率が 60 %未満であると基材との密着性に劣り剥離しやすくなり、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下において金属基材の剥離または溶出が生じやすくなる。伸び率が 120 %を超えると耐熱性が低下したり潤滑油に膨潤しやすくなったりする。樹脂被膜の伸び率が 60 %〜120 %のポリアミドイミド樹脂の市販品としては、例えば日立化成社製、商品名HPC7200−30が挙げられる。
【0056】
本発明においてポリアミドイミド樹脂被膜の伸び率は以下の方法で測定される。
ポリアミドイミド樹脂溶液を、アセトン脱脂後窒素ガスブローにより表面清浄化されたガラス基板上に塗布し、80 ℃で 30 分、その後 150 ℃で 10 分予備乾燥を行ない、最後にポリアミドイミド樹脂の分子構造に適した硬化温度で 30 分乾燥する。硬化塗膜をガラス基板より剥離して 80 ± 8 μm 厚さの樹脂フィルムを得て、このフィルムを 10 mm × 60 mm の短冊状の試験片とし、チャック間距離 20 mm 、引張速度 5 mm/分で室温にて引張試験機により伸び率(%)を測定する。
【0057】
ポリイミド系樹脂に配合されるフラーレンは、炭素5員環と6員環から構成され、球状に閉じた多様な多面体構造を有する炭素分子である。グラファイト、ダイヤモンドに続く第3の炭素同素体として1985年にH.W.KrotoとR.E.Smalley等によって発見された新規な炭素材料である。代表的な分子構造としては、60個の炭素原子が12個の五員環と20個の六員環からなる球状の切頭正二十面体を構成する、いわゆるサッカーボール状の構造のC60が挙げられ、同様に70個の炭素原子からなるC70、さらに炭素数の多い高次フラーレン、例えばC76、C78、C82、C84、C90、C94、C96などが存在する。これらのうちのC60およびC70が代表的なフラーレンである。また、これらを反応させて多量体が得られる。本発明においては、フラーレンであれば球状、あるいは多量体のいずれも使用できる。
【0058】
フラーレンの製造法には、レーザ蒸発法、抵抗加熱法、アーク放電法、熱分解法などがあり、具体的には、例えば特許第2802324号に開示されており、これらは、減圧下あるいは不活性ガス存在化、炭素蒸気を生成し、冷却、クラスター成長させることによりフラーレン類を得ている。
【0059】
一方、近年、経済的で効率のよい大量製造法として燃焼法が実用化されている。燃焼法の例としては、減圧チャンバー内にバーナーを設置した装置を使用し、系内を真空ポンプにて換気しつつ炭化水素原料と酸素とを混合してバーナーに供給し、火炎を生成する。その後、上記火炎により生成した煤状物質を下流に設けた回収装置により回収する。この製造法において、フラーレンは煤中の溶媒可溶分として得られ、溶媒抽出、昇華等により単離される。得られたフラーレンは通常C60、C70および高次フラーレンの混含物であり、さらに精製してC60、C70等を単離することもできる。
本発明で用いるフラーレンとしては、構造や製造法を特に限定するものではないが、特にC60、C70の炭素数のもの、あるいはこれらの混合物が好ましい。
【0060】
フラーレンは固体状の配合剤として、あるいはフラーレンを有機溶剤に溶解、分散させて得られる配合剤として用いることができる。いずれの場合においても、フラーレンはC60、C70およぴ高次フラーレン単独でも、混含状態でも用いることが可能であるが、樹脂への分散性等の観点から、これらを混合状態で用いることが好ましい。
さらにより分散性を良好にするため、混合時の平均粒径は100μm 以下、好ましくは50μm 以下、より好ましくは10μm 以下である。
【0061】
摺動部材SB用の組成物に対するフラーレンの配合割合は、組成物全体に対して、固体状のフラーレンを0.1〜10 容量%、好ましくは0.1〜5 容量%配合する。0.1 容量%未満では十分な耐摩耗性を得ることができず、10 容量%を超えると分散不良となり耐摩耗性が悪化する。
【0062】
二硫化モリブデン、二硫化タングステンは粉末状のものを用いることができる。分散性や被膜の表面平滑性から、粒径は 10 μm 以下、好ましくは 5 μm 以下である。摺動部材SB用の組成物に対する二硫化モリブデン、二硫化タングステンの配合割合は、組成物全体に対して、0.5〜20 容量%、好ましくは 0.5 〜 15 容量%配合する。0.1 容量%未満では十分な摩擦摩耗特性を得ることができず、20 容量%を超えると耐摩耗性が悪化する。
【0063】
本発明の摺動部材SB用の組成物には、耐摩耗性を低下させずに、摩擦係数の安定化や初期馴染み性を向上させることを目的に、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛等の固体潤滑剤をフラーレンおよび二硫化モリブデンないしは二硫化タングステンと併用することができる。
本発明の摺動部材SB用の組成物の好ましい態様としては、ポリイミド系樹脂に、フラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが分散配合された樹脂組成物である。
【0064】
上記本発明の摺動部材SB用の組成物を、硫黄成分を含む潤滑油または硫黄雰囲気下と接触する環境下において溶出が生じにくい金属被膜を有する転がり軸受に適用する場合について説明する。この転がり軸受について鋭意検討の結果、密着性と耐熱性とに優れたポリイミド系樹脂被膜は硫黄成分を含む潤滑油に浸漬しても膨潤したり、溶解したりすることなく、そのため耐硫化性の低い金属であっても表面にポリイミド系樹脂被膜を形成することにより、潤滑油中への金属溶出が生じにくいことがわかった。このため、ポリイミド系樹脂被膜を、玉の案内面を成す表面部位に形成した保持器を作製し、この保持器を取り付けることにより硫黄成分を含む潤滑油と接触する環境下において溶出が生じにくい被膜を有する転がり軸受を得ることが可能となった。
【0065】
前記組成物を、保持器のポケットの案内面に被膜させる方法について説明する。
まず、鉄系金属材料で形成された基材となる保持器を十分に洗浄し、表面の汚染を除去する。この洗浄方法としては、有機溶剤による浸漬洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄、酸・アルカリ洗浄等による方法が挙げられる。
被膜の密着性を向上させる目的で、前処理としてショットブラスト(ショットピーニング、WPC等を含む)、化学的エッチング、リン酸塩被膜処理を施すことも可能である。基材の表面粗さはRa=0.3以上の範囲で設定することが可能であり、好ましくはRa=0.5〜1.0である。Ra=0.3未満であると、十分なアンカー効果をえることができず、密着性を向上することができない。一方、基材の表面粗さが大きい場合は仕上がり表面が粗くなるが、研磨などの機械加工により表面粗さを小さく調整すれば保持器として使用可能となる。また、Ra=0.5〜1.0であれば十分な密着性と機械加工を施すことなく小さな表面粗さを得ることが可能である。
【0066】
次いで、スプレーコーティング法、ディップ(浸漬)コーティング法、静電塗装法、タンブラーコーティング法、電着塗装法等によって、摺動部材用の組成物の被膜を保持器表面に形成させる。好ましい被膜の厚さは、1〜100μm 、より好ましくは1〜50μm である。また、被膜形成の過程で、余分に付着したワニスはふき取り、遠心分離、エアーブロー等の物理的、化学的方法により除去し、所望の厚さに調整することもできる。
被膜形成後は、加熱処理によって溶媒除去、乾燥、融解、架橋等を行ない、前記案内面等に被膜が形成された保持器を完成させる。膜厚を増す場合には、重ね塗りをしてもよい。また、被膜完成後に機械加工やタンブラー処理等を行なうことも可能である。
【実施例】
【0067】
本発明の実施例と比較例に用いた材料を一括して示すと次の通りである。[ ]内は表4および表5に示す略称である。
(1)ポリアミドイミド樹脂ワニス[PAI]
日立化成工業社製HPC−5020、伸び率:70 %
(2)芳香族ポリイミド樹脂ワニス[PI]
宇部興産社製Uワニス−A
(3)混合フラーレン[ミックスフラーレン]
フロンティアカーボン社製混合フラーレン、C60(直径:0.71nm )が約 60 重量%、C70(長軸径:0.796nm、短軸径:0.712nm)が約 25 重量%で残部が高次フラーレンの混合物である。
(4)二硫化モリブデン粉末[MoS2−0.5μm ]
日本モリブデン社製M5、平均粒径 0.5 μm
(5)二硫化タングステン粉末[WS2−1μm]
日本潤滑剤社製WS2A、平均粒径 1 μm
(6)ポリテトラフルオロエチレン粉末[PTFE−0.3μm]
喜多村社製KD-1000ASディスパージョン(溶媒:NMP)、平均粒径 0.3 μm
(7)黒鉛粉末[黒鉛−6μm]
ロンザ社製KS-6、平均粒径 6 μm
【0068】
実施例1、実施例3〜7、比較例3〜10
ポリアミドイミド樹脂ワニス(溶剤:N−メチル−2−ピロリドン)の固形分に対し各種充填材を表4および表5に記載の割合でボールミルで十分に均一分散するまで混合して、混合液を摩擦試験用SUJ2リング〔外径 40 mm ×内径 20 mm ×厚さ10 mm (副曲率R 60 )、ショットブラストにより表面粗さRa 0.7 μmに調整:図17の17〕の外径面にスプレー法にてコーティングした。また、潤滑油浸漬試験用としてSPCC角棒( 3 mm × 3 mm × 20 mm )の表面にディッピング法によりコーティングした。コーティング後 100 ℃で 1 時間、さらに 150 ℃で 1 時間乾燥し、250 ℃で 1 時間焼成した。スプレー回数を調整し、被膜厚みが 20 〜 30 μm になるようにした。なお、フラーレンを配合したコーティング液は、トルエンとN−メチル−2−ピロリドンの混合溶媒(混合重量比率 50:50 )にフラーレンを 5 %濃度で溶解させた濃縮液をあらかじめ用意し、これをポリアミドイミド樹脂ワニスに所定濃度となるよう添加し調製した。なお、表4および表5に記載の各成分の配合割合は固形分での割合でありすべて容量%である。
【0069】
得られたリング状試験片を用いて摺動試験を行なった。図17は摺動試験機を示す図である。図17(a)は正面図を、図17(b)は側面図をそれぞれ表す。
回転軸18にリング状試験片17を取り付け、アーム部19のエアスライダー21に鋼鈑20を固定する。リング状試験片17は所定の荷重22を図面上方から印加されながら鋼鈑20に回転接触すると共に潤滑油が含浸されたフェルトパッド24より潤滑油がリング状試験片17の外径面に供給される。リング状試験片17を回転させたときに発生する摩擦力はロードセル23により検出される。また、所定時間経過後、リング状試験片17の外径面に形成されたポリアミドイミド樹脂塗膜の状態は目視により、〇:顕著な摩耗および剥離なし、△:顕著な摩耗はないが剥離あり、×:摩耗大の 3 段階で表記した。
鋼鈑20はSCM415浸炭焼入れ焼戻し処理品(Hv 700 、表面粗さ Ra 0.01μm )を、潤滑油はモービルベロシティオイルNo.3(VG2、エクソンモービル社製)をそれぞれ用いた。荷重は 50 N 、滑り速度は 5.0m/秒、試験時間は 30 分である。摩擦係数は試験終了前 10 分間の平均値として表した。結果を表4および表5に示す。
【0070】
また、得られたSPCC角棒を用いて潤滑油浸漬試験を行なった。被膜を施した角棒 3 本を 150 ℃の潤滑油〔ポリ−α−オレフィン:ルーカントHL−10(三井化学社製)にZnDTP(LUBRIZOL677A、LUBRIZOL社製)を 1 重量%添加したもの〕 2.2 g に 200 時間浸漬した後、潤滑油中に溶出した被膜成分の濃度を測定した。濃度測定は、蛍光X線測定〔蛍光X線測定装置:Rigaku ZSX100e(リガク社製)〕により定量した。結果を表4および表5に示す。
【0071】
実施例2
芳香族ポリイミド樹脂ワニス(溶剤:N−メチル−2−ピロリドン)を用いて、表1に示す割合でフラーレンを配合し、コーティング後の焼成温度を 350 ℃とする以外は実施例1と同様の方法で試験片を作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表4に示す。
【0072】
比較例2
実施例1と同様に試験片に、電気めっきにより銅めっき(めっき厚: 25 μm )を施した。得られた試験片を実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示す結果から明らかなように、従来から使用されている金属めっきである比較例1および比較例2は潤滑油浸漬試験において潤滑油に金属成分が溶出する。特に、銅めっき時の銅の溶出が多い結果となった。添加剤を含まない樹脂被膜を形成した比較例3は摩擦係数は小さいが、摩擦試験中に剥離を生じた。フラーレンのみを配合した比較例4は摩擦試験中の剥離はないものの、樹脂単体に比べ摩擦係数が増加した。フラーレンに加えポリテトラフルオロエチレンを配合した比較例5は、摩擦係数は低下したが剥離を生じ、黒鉛を配合した比較例6は摩耗が大きかった。比較例7はフラーレンの配合量が少ないため、耐剥離性が改善されない。比較例8および9は、フラーレンまたは二硫化モリブデンの配合量が所定量より多いため、分散が悪く、またバインダである樹脂分が少なく添加剤を保持しきれないため摩耗量が増大した。さらに二硫化モリブデンのみを配合した比較例10は樹脂単体(比較例3)とほとんど同じ特性であった。
【0076】
一方、表4に示す、実施例1〜7は、フラーレンと、二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンを所定量配合したポリイミド系樹脂被膜であるので、摩擦係数が低く、摩擦試験中の剥離や顕著な摩耗は見られなかった。また、潤滑油浸漬試験においても被膜成分の潤滑油への溶出は見られなかった。
【0077】
樹脂被膜を施すことによる軸受寿命の延命効果を、下記に示す。
運転条件を表6に示す。
【表6】
表6において、試験軸受である「6204ZZC3」のうち、「6204」は軸受サイズ、「ZZ」は両密閉板、「C3」はラジアルすきまC3と同義である。Frはラジアル荷重、Faはアキシアル荷重と同義である。同表の被膜「有り」の保持器形式は、鉄板波形保持器であり、この被膜は、鉄板波形保持器の少なくともポケットの案内面に形成している。また、被膜「無し」の保持器形式は、鉄板波形保持器である。
【0078】
上記表6の運転条件にて試験した試験結果を表7に示す。
【表7】
表7において、
軸受温度が+15℃(135℃)となった場合、あるいはモータ負荷(トルク)が2倍となった場合のいずれかで寿命とした。
【0079】
上記表7より、被膜無しの鉄板波形保持器を備えた軸受は、被膜有りの鉄板波形保持器に比べ、約30%の短寿命であった。保持器案内面と鋼球との摺動が、「鉄」 対 「鉄」ではなく、「樹脂」 対 「鉄」となると、鉄の摩耗粉が発生せず軸受寿命が長寿命となる。表7において、従来の鉄板波形保持器に被膜つまりPAI膜を設けた軸受は、被膜有りの鉄板波形保持器に比べ、約28%の短寿命であった。つまり、凹み部50等を設けた発明保持器に被膜を設けることにより、より高い効果を得ることができる。本試験は、PAI膜の試験は行っていないが、耐摺動性、耐剥離性の高いPAI膜であれば問題ない。よって、保持器の摺動面において、鉄同士の接触を防げば良いことがわかる。ポケット部への樹脂被膜には、PAI膜が耐摩耗性、耐剥離性の点で適している。
【0080】
以上説明した保持器45によれば、前記ポケット46のうち少なくとも玉4の案内面を成す表面部位5aaに、組成物から成る摺動部材SBが形成され、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンおよび二硫化物が所定量配合されるので、微粒子形状のフラーレンと二硫化物粉末とが樹脂体または被膜中に均一に配合される。その結果、これらの相乗効果により耐摩耗性、耐剥離性が向上すると同時に摩擦係数が低下する。
【0081】
したがって、この保持器を鉄板製として玉軸受に使用すると、グリース漏れを抑制しつつも、いわゆる鉄板保持器特有の高い高速回転性能、樹脂保持器よりも大きな全空間容積の確保、ならびに鉄ポケットと鋼球間の直接接触を防止することによるグリース潤滑寿命の延長を達成できる。また、高速回転時に発生する遠心力に起因する変形を未然に防止することができる。なお、全空間容積に比例して、グリース封入量は規定されるのが一般的で、全空間容積の増加はグリース封入量の増加による寿命延長につながる。
【0082】
次に、この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0083】
2枚の保持器半体47を結合して1個の保持器とする構成に限らず、鋼材から所定の形状に削り出すもみ抜き保持器とし、このもみ抜き保持器のポケット部に、前記組成物から成る摺動部材を形成しても良い。この場合、保持器自体の剛性を高め、遠心力による変形をより確実に抑制することができる。
本実施形態では、組成物を保持器全体に被膜させているが、この形態に限定されるものではない。組成物をポケットの少なくとも案内面に被膜させれば足りる。
組成物をポケットの案内面に被膜させる方法において、2枚の保持器半体47を結合する前に各保持器半体47単位で、組成物を被膜しても良い。この場合、各保持器半体47に組成物を被膜する前に、この保持器半体47をいわゆる半製品の状態で洗浄するため、洗浄効果をより高めることができる。それ故、被膜の密着性をより向上させることができる。
また、各保持器半体47に組成物を被膜する場合、ポケットの案内面を外方に露出させた状態で、前処理としてショットブラストを容易にかつ確実に行うことができる。この場合、作業性の向上を図り、被膜の密着性の向上をさらに図ることができる。
2つの保持器半体47の平板部47aを結合するリベット49を省略し、平板部47aの一部から突出する爪等を設けて、2つの保持器半体47を結合しても良い。この場合、部品点数の低減を図ることができる。
軸受において、前記鋼球に代えてセラミックス球を適用しても良い。
【0084】
図18ないし図20は、この発明のさらに他の実施形態に係る玉軸受およびその保持器である。この玉軸受は、前述と同じ組成物から成る摺動部材SBを、保持器45Aのポケットの案内面を成す表面部位に形成し、保持器を次の構成としたものである。
すなわち玉軸受用保持器45Aは、図18,図19に示すように、内輪2の軌道面2aの両側の肩部高さとなる外径面部2Dに、軸方向に重なる範囲を持つ。
この実施形態の玉軸受用保持器45Aは、上記構成において、球殻状板部46Aにおける玉配列ピッチである玉配列ピッチ円PCDよりも内径側部分に薄肉部分46Aaを形成している。この薄肉部分46Aaは、内輪2の軌道面2aの両側の肩部高さとなる外径面部2Dに位置する部分の板厚t1を、平板部47aの板厚t0よりも薄くしたものである。肩部高さとなる外径面部2Dは、内輪2の軌道面2aの肩部の高さで続く外径面部分のことであり、シール溝10が設けられている場合、軌道面2aとシール溝10との間の外径面部分のことである。球殻状板部46Aは、この外径面部分2Dの軸方向範囲Wに位置する部分の板厚t1を薄くする。なお、図18において、球殻状板部46Aを薄肉化しない場合の断面形状を想像線で示している。
【0085】
板材t1を薄くする形態は、保持器半径方向において、玉配列ピッチ円PCDに相当する箇所から内径側に至る範囲の全体を薄くしても良く、また玉配列ピッチ円PCDと保持器内径縁間の途中の箇所から内径縁至る範囲を薄くなるようにしても良い。これらの場合に、板厚t1は、保持器半径方向の内径側に至るに従って次第に薄くなって内径縁が最小板厚となるようにしても良く、また薄くする範囲の全体を略一定して薄くしても良い。さらに、球殻状板部46Aのポケット内面形状を維持したままで、外面側の形状が変わるように板厚を薄くしても、また球殻状板部46Aの外面形状を維持したままで、ポケット内面側の形状が変わるように板厚を薄くしても良い。
【0086】
また、この実施形態では、図19のように、球殻状板部46Aの内径縁に沿う円弧状の範囲において、両端を残し、ほぼ全体を薄くしているが、内輪2の肩部高さとなる外径面部2Dと保持器45Aの幅の関係によっては、図21のように、板厚を薄くした薄肉部分46Aaが、球殻状板部46Aにおける内径縁の円弧の中央を除く両側となる2箇所に分かれていても良い。
【0087】
この保持器45Aは、このようにポケット46を構成する球殻状板部46Aの内径部に薄肉部分46Aaを成形しており、この薄肉部分46Aaは、内輪2の肩部高さの外径面部2Dと軸方向に重なり合う部分であって、玉4の表面に付着したグリースが保持器45Aで掻き取られる部分、またはその掻き取られたグリースが移動してくる部分である。この部分46Aaの板厚t1が薄ければ、ここに堆積し得るグリース量が減少するため、内輪2の外径面部2Dに到達し得る頻度や量が減少し、結果としてグリースの軸受外部への漏れが防止できる。すなわち、保持器45Aの外径側へグリースが移動しやすくなり、内径側に留まり得るグリース量が減少する。
【0088】
しかしながら、保持器の全体の板厚を薄くすることは、保持器の単体の強度が低下するため、ミスアライメント下あるいは外部加振下において保持器に繰り返し応力が作用する場合に保持器の破損が生じやすくなるなど、難しい。
そこで、保持器45Aの内径部において、内輪2の肩部となる外径面部2Dと軸方向に重なり合う範囲Wのみの板厚を薄くしており、これにより、実質上の保持器45Aの強度の低下が無く、かつグリース漏れを防止可能な玉軸受用保持器45Aが成立する。
【0089】
なお、上記の板厚t1の低減には、最初に円環に打ち抜いた平板の内径側のみを薄くしておき、プレス成形しても良い。また均一厚の円環平板からプレスで保持器を成形する場合のプレス金型において、図19や図21で示した領域の板厚のみが減少するように、一対の金型間のすきま分布を変更しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】この発明の一実施形態に係る玉軸受用保持器を備えた軸受の一部破断した斜視図である。
【図2】同軸受の一部破断した断面図である。
【図3】同玉軸受用保持器の斜視図である。
【図4】同玉軸受用保持器の要部の断面図である。
【図5】同玉軸受用保持器の保持器半体の斜視図である。
【図6】同保持器半体の一部につきポケット形状を単純化して示す部分拡大斜視図である。
【図7】(A)は同保持器半体における球殻状板部の内面の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図8】(A)同保持器半体における球殻状板部の内面の他の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図9】(A)同保持器半体における球殻状板部の内面のさらに他の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想多角柱を加えた状態を示す斜視図である。
【図10】(A)同保持器半体における球殻状板部の内面のさらに他の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図11】同球殻状板部と仮想リングの関係を断面で示す説明図である。
【図12】この実施形態の玉軸受用保持器の製造工程を示す説明図である。
【図13】同製造工程に用いられるプレス金型組の斜視図である。
【図14】図7に示す構造の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図である。
【図15】図8に示す構造の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図である。
【図16】一般的な鉄板打ち抜き保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図である。
【図17】摺動試験機を示す図である。
【図18】この発明のさらに他の実施形態に係る玉軸受用保持器を備えた軸受の一部破断した断面図である。
【図19】同軸受に組み込まれた保持器の保持器半体における球殻状板部を示す部分拡大斜視図である。
【図20】同実施形態の玉軸受用保持器を内輪に組み込んだ組立体を示す平面図である。
【図21】同保持器の保持器半体における球殻状板部の変形例を示す部分拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0091】
1…軸受
2…内輪
2D…外径面部
3…外輪
4…玉
5aa…表面部位
45…保持器
46…ポケット
46A…球殻状板部
47…保持器半体
47a…平板部
50,50A,50B,50C…凹み部
PCD…玉配列ピッチ円
SB…摺動部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、各種回転機械装置の回転支持部に使用される密閉板付玉軸受等に適用される玉軸受用保持器および玉軸受に関し、特に、玉軸受内部に封入したグリースが外部に漏洩するのを防止し、グリース寿命を長くする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種回転機械装置、とりわけ自動車補機に使用される密閉板付軸受には、耐高温、高速、耐泥水、耐ダスト、耐グリース漏れ、長寿命および低トルクが要求される。これらの要求のうち、耐泥水ならびに耐ダストの対策のために、接触シールが用いられる。
ところで、シールリップ部分にグリースが存在した状態で軸受温度が上昇すれば、次のような現象が起きる。すなわち軸受内部の空気の膨張によって軸受内部の圧力が上昇し、軸受外部と圧力差が生じ、シールリップ部分を開いてグリースや空気が軸受外部へ漏洩する現象(以下、この現象を「呼吸」と称す)が起きる(特許文献1)。
これを防止するために、シールリップの一部に通気用の切欠きを設けるものがある(特許文献1)。しかし、運転による軸受温度上昇中に、この切欠きから空気だけが漏れれば、前記呼吸によるグリース漏れが減少するが、切欠きにグリースが付着すれば、上記と同様なグリース漏れが起こる(特許文献2)。
通気用の切欠きを設けず、シールリップの内輪シール溝への押し付け圧力(以下、「緊迫力」と称す)を強めることで呼吸対策を行っても、トルクの増大を招くのみで、緊迫力以上の内圧を招く大きな温度上昇時には、グリース漏れを防ぎきれないはずである。
また、軸受温度が低下した場合には、軸受内部の空気の収縮によって軸受内部の圧力が低下することによるシールリップ先端の吸着現象が起こり、更なるトルクの増大を招く要因となる(特許文献3)。したがって、各種シールを用いても、内輪シール溝にグリースが付着すると、グリース漏れを防止するのは困難であった。
【0003】
そこで、鉄板波形保持器の形状を変更したものが提案されている。これは、ポケット部に設けられた形状により、転動体に付着した余分なグリースを掻き取り、軸受内輪肩部にグリースが付着することを防ぐ構造である(本保持器を「改良保持器」と称す)。
しかし、標準の鉄板波形保持器や前記改良保持器(SPCC)は、案内面の表面が鉄であり、鋼球と摺動した場合に鉄の摩耗粉が発生し、グリースが劣化し、軸受が短寿命となるおそれがある。
【0004】
そこで、冠形樹脂保持器(PA66+GF25%)や、2つ割れの樹脂保持器(特許文献4,5)を使用する対策が採られる。しかし前者のものは、高速回転時に発生する遠心力によって外輪側に変形し、保持器外径部が外輪内径部に接触する場合がある。また、遠心力による変形を抑制するために、強度の高いPEEK材等からなる樹脂を使用せざるを得ず、保持器材料として高価なものとなる。後者のものでは、変形は抑制されるが、保持器の体積が増し軸受内の空間容積が減少するため、グリース封入量を多くすることができない。さらに、前者、後者ともグリース漏れは発生する。
【特許文献1】特開2000−257640号公報
【特許文献2】特開2005−308117号公報
【特許文献3】特開2005−69404号公報
【特許文献4】特開2006−258174号公報
【特許文献5】特開2007−40383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄板保持器は、鉄の摩耗粉が発生し、軸受寿命が短寿命となるおそれがある。冠形樹脂保持器では、遠心力により変形し、シールや外輪内径部に接触するために高速回転性能に劣る。高強度で且つ高コストのPEEK材等からなる樹脂を使用すれば、高速回転性能は向上するものの、鉄板波形品の高速回転性能には到達できない。また、2つ割れ樹脂保持器では、変形は抑制されるが、保持器の体積が増し軸受内の空間容積が減少するため、グリース封入量を多くすることができない。さらに、冠形および2つ割れ保持器ともシールリップ部にグリースが移動しやすく、グリース漏れが発生しやすい。
【0006】
この発明の目的は、高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる玉軸受用保持器および玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明における、第1の発明の玉軸受用保持器は、玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有し、各ポケットの内面を、玉配列ピッチ円よりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる凹曲面状としたリング状の玉軸受用保持器において、前記各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成されているものであって、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれていることを特徴とする。
【0008】
ポケット内面を球面とした従来の一般的な形状の保持器を用いた玉軸受では、転動体である玉が内輪軌道面を転がるとき、内輪軌道面でのグリースの厚さは、ヘルツ接触中心から軸方向に、また玉表面のグリース厚さもヘルツ接触中心から内輪軌道面幅まで対称になる。この玉表面に付着したグリースが、玉の回転によって保持器に入って行くとき、保持器によってグリースが掻き取られる。掻き取られたグリースは保持器に付着するが、このグリース量が増加すると一部は内輪肩部にも付着する。内輪肩部に付着したグリースが増すと、回転している保持器のポケット中央部付近に乗り上げるように付着する。乗り上げたグリースが増すと、内輪肩部のグリースと押し合うようになり、内輪シール溝にまでグリースが付着する。これが一般的な鉄板打ち抜き保持器でのグリースの動きである。さらに、この一般的な形状の保持器では、保持器ポケット中央部に付着したグリースが、シール内面に付着する。これにより、直接潤滑に寄与し難いグリースがシール内面に留まることになる。また、保持器ポケット部とシール内面でグリースのせん断が起こり、軸受のトルクが上昇する。
【0009】
これに対して、第1の発明では、保持器の各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びる凹み部を設けたため、内輪肩部にグリースが付着しない。すなわち、玉に最もグリースが付着する位置である保持器内径側の開口縁に開口する凹み部を設けたため、玉の表面の掻き取りが減少し、保持器内径面に溜まるグリース量が減少する。そのため、内輪シール溝にグリースが付着し難く、接触式および非接触式のいずれのシールを用いてもグリース漏れを防止できる。これは、特に外輪回転時に特徴的に現れる。したがって、一般的な鉄板打ち抜き保持器のようなシールに付着することによる、軸受トルクの上昇のようなデメリットは発生しない。さらに、シール機能にグリース漏れを防ぐ要素を付加させる必要がないので、耐泥水、耐ダスト、および低トルクに特化したシール設計が可能となる。
さらに、前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成され、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンおよび二硫化物が所定量配合されるので、微粒子形状のフラーレンと二硫化物粉末とが樹脂体または被膜中に均一に配合される。その結果、これらの相乗効果により耐摩耗性、耐剥離性が向上すると同時に摩擦係数が低下する。前記フラーレンが組成物全体に対して0.1 容量%未満では十分な耐摩耗性を得ることができず、逆に、前記フラーレンが組成物全体に対して10 容量%を超えると分散不良となり耐摩耗性が悪化する。また、二硫化物が組成物全体に対して0.5〜20 容量%、好ましくは 0.5 〜 15 容量%配合する。0.1 容量%未満では十分な摩擦摩耗特性を得ることができず、20 容量%を超えると耐摩耗性が悪化する。
【0010】
したがって、この保持器を鉄板製として玉軸受に使用すると、グリース漏れを抑制しつつも、いわゆる鉄板保持器特有の高い高速回転性能、樹脂保持器よりも大きな軸受内部空間(以下、全空間容積と称す)の確保、ならびに鉄ポケットと鋼球間の直接接触を防止することによるグリース潤滑寿命の延長を達成できる。また、高速回転時に発生する遠心力に起因する変形を未然に防止することができる。なお、全空間容積に比例して、グリース封入量は規定されるのが一般的で、全空間容積の増加はグリース封入量の増加による寿命延長につながる。
【0011】
前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、ポケットの内面となる凹球面の曲率半径よりも小さな曲率半径の円弧状とした場合は、上記のグリースの掻き取りがより一層生じにくくなる。
前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられ、ポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有し、前記凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状であっても良い。この場合、1箇所の凹み部により、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させ得るため、保持器構造を簡単化することができる。よって、この凹み部を形成するための金型構造を簡単化すると共に、保持器内径面に溜まるグリース量を減少させることが可能となる。各ポケットの内面に凹み部を後加工する場合であっても、複数箇所の凹み部を形成する場合に比べて工数低減を図ることができる。それ故、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0012】
前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられ、各凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする各仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状であっても良い。
このように、保持器円周方向の中心の両側の位置に凹み部が複数箇所設けられていることで、軸受の回転方向によらず、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させることができる。
また、当該形状はプレス加工した場合、ポケット外面側に凸となる。しかし、凸となっても、シール内面側には近づかず、保持器とシールとの隙間は標準保持器と同じとなる。
前述の凹み部がポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられた保持器では、保持器とシールとの隙間は、凹み部を複数箇所設けた保持器よりも狭くなる。
【0013】
前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して2箇所に設けられて、保持器外径縁付近まで延び、これら2箇所の凹み部の内面形状が、一つの仮想リングの表面に略沿った形状であり、前記仮想リングは、ポケット内に収まるリング外径で、任意周方向位置の断面形状が円形であり、リング中心が保持器中心軸に対して傾きを持つものであっても良い。この場合、2箇所の凹み部の内面形状を、仮想リングの表面に沿った形状から成る砥石等を用いて、容易にかつ精度良く形成することが可能となる。
【0014】
前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、多角形状であっても良い。
2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であっても良い。前記球殻状板部は、球殻の一部となる部分であり、内外両面が球面状となったカウンタシンク形状の膨らみ部分である。この場合、保持器半体をプレス金型等を用いて成形することで、前記球殻状板部および平板部を一体に設けることができる。その後、2個の保持器半体を重ね合わせて容易に組み立てることができる。
【0015】
この発明における、第2の発明の玉軸受用保持器は、第1の発明の玉軸受用保持器と同じ組成物から成る摺動部材を、保持器のポケットの案内面を成す表面部位に形成し、保持器を次の構成としたものである。すなわち、玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有するリング状の玉軸受用保持器において、2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であり、前記球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くしている。
【0016】
第2の発明では、保持器を、球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くしたため、内輪肩部にグリースが付着しない。そのため、内輪シール溝にグリースが付着し難く、接触式および非接触式のいずれのシールを用いてもグリース漏れを防止できる。これは、特に外輪回転時に特徴的に現れる。したがって一般的な鉄板打ち抜き保持器のようなシールに付着することによる軸受トルクの上昇のようなデメリットは発生しない。さらに、シール機能にグリース漏れを防ぐ要素を付加させる必要がないので、耐泥水、耐ダスト、および低トルクに特化したシール設計が可能となる。
【0017】
また、保持器半体の平板部や球殻状板部の玉配列ピッチ円よりも外径側部分の板厚となる基準板厚は従来と同等とすることで、保持器の強度低下を生じることなく、グリース漏れだけを防止できる。さらに、玉と接触し得るポケット部の形状は従来と同様であることから、保持器の可動範囲の増加による保持器間の干渉力の増加も生じない。その他第1の発明と同様の作用効果を奏する。
前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の深さを、ポケット内面の凹球面の中心から前記凹み部の最深位置までの距離が、玉の半径の1.05倍以上となる深さとしても良い。
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器を備えた玉軸受によると、保持器内径側の開口縁に開口する凹み部を設けたため、玉の表面の掻き取りが減少し、内輪シール溝にグリースが付着し難くなり、グリース漏れを防止できる。よって、玉軸受のシール等にグリースが付着せず、軸受トルクの上昇を抑え得る。さらに、保持器ポケットに、前述の組成物から成る摺動部材が形成されるので、耐摩耗性、耐剥離性が向上すると同時に摩擦係数が低下する。この保持器を鉄板製として玉軸受に使用すると、高速回転性能、大きな全空間容積の確保、ならびに鉄ポケットと鋼球間の直接接触を防止することによるグリース潤滑寿命の延長を達成できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明における、第1の発明の玉軸受用保持器は、玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有し、各ポケットの内面を、玉配列ピッチ円よりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる凹曲面状としたリング状の玉軸受用保持器において、前記各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成されているものであって、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれているため、高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる。
【0019】
この発明における、第2の発明の玉軸受用保持器は、第1の発明の玉軸受用保持器と同じ組成物から成る摺動部材を、保持器のポケットの案内面を成す表面部位に形成し、この保持器は、2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であり、前記球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くしたため、高速回転性能に優れ、遠心力による変形を抑制し得ると共に、グリース漏れの低減を図り、軸受内の空間容積を増加させてグリース封入量を増加させ、軸受寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。この実施形態に係る玉軸受用保持器は、例えば、各種回転機械装置の回転支持部等に使用される玉軸受に適用される。この軸受1は、図1に示すように、内輪2と外輪3の軌道面2a,3aの間に、複数の玉4を介在させ、これら玉4を保持する保持器45を設け、両側面に軸受空間を密封する非接触形のシール部材6,6を設けたものである。この場合、軸受はシール付きの深溝玉軸受とされている。玉4は例えば鋼球からなる。
【0021】
前記各シール部材6は、環状の芯金7と、この芯金7に一体に固着されたゴム状部材8とで構成され、外輪3の内周面に形成されたシール取付溝9にこのシール部材6の外周部が嵌合状態に固定される。内輪2は各接触シールの内周部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝10が形成され、接触シールの内周側端に形成されたシールリップ6aが内輪2のシール溝10に摺接する。
【0022】
保持器45について説明する。
保持器45は、図2〜図4に示すように、例えば、鉄系金属材料から成る板材いわゆる鉄板をプレスにより打ち抜きおよび成形加工して製作された2枚の保持器半体47から成る。この保持器の材料としては、特に鉄系金属材料だけに限定されるものでなく、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料等を使用することができる。
この保持器45のポケット46のうち少なくとも玉4の案内面を成す表面部位5aa(図4)に、後述する組成物から成る摺動部材SBが形成されている。
【0023】
前記鉄系金属材料としては、肌焼き鋼(SCM)、冷間圧延鋼(SPCC)、熱間圧延鋼(SPHC)、炭素鋼(S25C〜S55C)、ステンレス鋼(SUS304〜SUS316)、軟鋼(SS400)等を使用できる。
前記銅系金属材料としては、銅−亜鉛合金(HBsC1、HBsBE1、BSP1〜3)、銅−アルミニウム−鉄合金(AlBC1)等、前記アルミニウム系金属材料としてはアルミ−シリコン合金(ADC12)等を使用できる。
【0024】
保持器45は、図3,図4に示すように、各玉4を保持するポケット46を円周方向の複数箇所に有し、各ポケット46の内面を凹球面状としたリング状のものである。この保持器45は、図5に斜視図で示す環状体の保持器半体47の2個を、軸方向に対面して重ね合わせ、リベット孔48に挿通したリベット49で互いに接合して一体に構成される。これら保持器半体47は、内面がポケット46の半分を形成する部分的な球殻状の形状の球殻状板部46Aを複数有し、隣合うポケット46間の部分となる平板部47aと球殻状板部46Aとが円周方向に交互に並んだものとされる。前記球殻状板部46Aは、球殻の一部となる部分であり、換言すれば、内外両面が球面状となったカウンタシンク形状の膨らみ部分である。保持器半体47の軸方向の投影形状は、半径方向幅が全周に渡って一定のリング状である。
【0025】
保持器半体47の一部を拡大して図7に斜視図で示す。図6は、図7と対応する部分につき、ポケット内面を単調な球面とした場合の図である。図6において、2点鎖線で示す部分Aは、この保持器半体47における平板部47aが周方向に並ぶ円周帯域を示す。その円周帯域Aの平板部47aでない部分にポケット46の半分である前記球殻状板部46Aが形成される。同図における球殻状板部46Aの一側部が保持器45の内径側部分46Aiとなり、球殻状板部46Aの他側部が保持器45の外径側部分46Aoとなる。
【0026】
この実施形態の保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面は、図7に示すように、保持器45の上記内径側部分46Aiにおいて、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びる凹み部50を設け、この凹み部50の内面の保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)を、ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径Rbの円弧状としている。
この凹み部50は、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46から両側に広がって1箇所に設けられ、凹み部50の幅W50は、ポケット46の保持器円周方向の幅W46の略全体にわたる幅としている。凹み部50の幅W50は、ポケット46の幅W46の半分よりも大きいことが好ましく、2/3以上、あるいは3/4以上であることがより好ましい。
凹み部50の内面形状は、同図(B)に示すように、保持器45の半径方向の直線Lを中心とする仮想円筒Vの表面に略沿う円筒面状の形状である。上記仮想円筒Vは、凹み部50を加工する砥石の表面であっても良い。この凹み部50は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDまで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに至るに従って、徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅が狭くなる形状とされている。凹み部50は、この実施形態では、丁度、玉配列ピッチ円PCDまで延びているが、玉配列ピッチ円PCDよりも保持器外径側まで若干延びていても、また玉配列ピッチ円PCDに若干達しないものであっても良い。なお、玉配列ピッチ円PCDはポケットPCDとも呼ぶ。
【0027】
凹み部50の深さは、ポケット内面の凹球面の中心O46から凹み部50の最深位置までの距離Rcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さ(丁度1.05倍であって良い)であることが好ましい。ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raは、玉4の半径よりも僅かに大きくし、玉4の半径の1.05未満としている。
【0028】
図8は、保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面の他の形状例を示す。この例では、ポケット46(球殻状板部46A)の内面の内径側部分46Aiに設けられる凹み部50Aを、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46の両側に位置する2箇所としてしている。各凹み部50Aの内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)が、ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RAbの円弧状であり、詳しくは同図(B)に示すように、保持器45の半径方向の直線LAを中心とする各仮想円筒VAの表面に略沿う円筒面状の形状である。この凹み部50Aは、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。
2個の凹み部50Aの位置は、例えば、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46に対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。この例でも、凹み部50Aの深さは、ポケット内面の凹球面の中心O46から凹み部50Aの最深位置までの距離RAcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい(丁度1.05倍であって良い)。
なお、この実施形態では凹み部50Aを2箇所としたが、3箇所以上としても良い。
【0029】
図9は、保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面のさらに他の形状例を示す。この例は、図8の実施形態において、凹み部50C(50A)の断面形状(保持器円周方向に沿う断面形状)を円弧状する代わりに、多角形状としたものである。詳しくは、同図(B)に示すように、保持器45の半径方向の直線LAを中心とする各多角形柱(図示の例では正10角形柱)VCの表面に略沿う多角形状の形状である。この凹み部50Cは、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。この実施形態におけるその他の構成は、図8の例と同様である。
【0030】
図10は、保持器45のポケット46(球殻状板部46A)の内面のさらに他の形状例を示す。この例は、ポケット46(球殻状板部46A)の内面の内径側部分46Aiに設けられる凹み部50Bが、ポケット46の開口縁における保持器円周方向の中心OW46の両側に位置して2箇所に設けられていることでは図8の実施形態と同様であるが、各凹み部50Bが、保持器外径縁付近まで延びている。これら凹み部50Bの内面の保持器円周方向に沿う断面形状は、ポケット46の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RBbの円弧状であり、詳しくは同図(B)に示すように、一つの仮想リングVBの表面に略沿った形状である。この仮想リングVBは、凹み部50Bを加工する砥石の外周面であっても良い。前記仮想リングVBは、ポケット46内に収まるリング外径であって、任意周方向位置の断面形状が円形となるドーナツ状であり、図11のように、リング中心OVBが保持器中心軸Oに対して傾きを持つ。
【0031】
なお、この発明において、凹み部50A〜50Cの保持器円周方向に沿う断面形状は、図8〜図10の各例の形状に限らず、部分楕円状や、矩形溝状、台形溝状や、その他任意の断面形状としても良い。また、凹み部50A〜50Cの上記断面形状は、凹み部中心に対して非対称の形状であっても良い。
ポケット46における内面形状は、球面状に限らず、玉配列ピッチ円PCDよりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる形状であれば良く、例えば玉配列ピッチ円PCDよりも外径側の部分が円筒面状、内径側の部分が円すい面状であっても良い。
【0032】
図12は、上記保持器45の製造方法を示す。この製造方法は鉄板打ち抜き保持器の製造方法であって、先ず鋼板をプレスしてリング状の金属帯材51を打ち抜く。次に、図12(A)のように、前記保持器半体47の球殻状板部46Aの内面を成形する凸側プレス金型52と、前記球殻状板部46Aの外面を成形する凹側プレス金型53とでなるプレス金型組54を用意し、これら凸側プレス金型52と凹側プレス金型53の間に前記リング状の金属帯材51を挟み込んで、図12(B)のように保持器半体47をプレス成形する。このプレス成形は、粗押しと仕上げ押しの2段階で行っても良く、また一度で行っても良い。
なお、凸側プレス金型52および凹側プレス金型53は、図ではそれぞれ1個のみ示しているが、これら凸側プレス金型52および凹側プレス金型53は、それぞれ保持器半体47の球殻状板部46Aの個数分だけ円周方向に並べて互いに一体の金型として設けられ、複数の球殻状板部46Aを同時に成形する。
このようにして得られた2つの保持器半体47を図12(C)のように重ね合わせ、図12(D)のように保持器半体47の平板部47aが重なり合う部分をリベット49で接合して保持器45とする。
【0033】
図13には、プレス成形における仕上げ押し工程に用いる上記凸側プレス金型52および凹側プレス金型53として、図18の保持器半体47の成形用のものを示している。凸側プレス金型52の半球状凸面には、ポケット46(球殻状板部46A)における凹み部50Aの内面を成形する凹み部成形用型部52aが部分的に形成されている。また、凹側プレス金型53には、ポケット46(球殻状板部46A)における凹み部50Aの外面を成形する凹み部裏面成形用型部53aが部分的に形成されている。保持器ポケットの外面側に凸部が形成されることになるが、シールと非接触であれば、機能上問題ない。この場合の凸側プレス金型52および凹側プレス金型53も、それぞれ保持器半体47の球殻状板部46Aの個数分だけ、互いに一体の金型として設けられ、複数の球殻状板部46Aを同時に成形する。
【0034】
図8の保持器半体47を成形する場合、その球殻状板部46Aの内面は単純な半球状凹面の一部に、凹み部50Aを有する形状であるため、仕上げ押し工程で単純な半球状凹面を成形した後で、その半球状凹面の一部にさらに凹み部50Aをプレス成形するものとすると、従来の鉄板打ち抜き保持器の成形の場合に比べて製造工程が一工程増えることになる。
この実施形態では、上記したように、仕上げ押し工程に用いる凸側プレス金型52の半球状凸面に、ポケット46(球殻状板部46A)における凹み部50Aの内面を成形する凹み部成形用型部52aを部分的に形成しているので、仕上げ押し工程で凹み部50Aも同時に成形でき、製造工程を増やすことなく効率的に保持器45を製造できる。
【0035】
また、仕上げ押し工程に用いる上記凸側プレス金型52の半球状凸面の形状および面粗さは、保持器ポケット46の内面に転写され、そのポケット内面は軸受に組み込まれた場合に玉4(図2)と接触するため、ポケット内面の面粗さは小さくする必要がある。従来の鉄板打ち抜き保持器ではポケット内面が単純な凹球面であるため、凸側プレス金型の半球状凸面を凹形状の砥石等で研磨することで面粗さを小さくしている。しかし、この実施形態の場合、上記したように凸側プレス金型52の半球状凸面は、単純な半球状凸面の一部にポケット内面の上記凹み部50Aに対応する凹み部成形用型部52aを有する形状であり、従来例の場合のように凹形状の砥石等で研磨して面粗さを小さくすることはできない。
そこで、この実施形態では、仕上げ押し工程に用いる凸側プレス金型52の成形凸球面を、ショットブラスト、または電子ビームによる研磨、または研磨剤の噴射によるラッピングで表面仕上げする。この場合のラッピングは、研磨砥粒に水分を含有させることで弾力性および粘着性を有する研磨材を得て、この研磨材を被加工材である金型の表面に高速で滑走させて発生する摩擦力によって表面仕上げする方法が好ましい。このようなラッピングとして、金型の超鏡面仕上げ装置として販売されているエアロラッピング(株式会社ヤマシタワークス)等が採用できる。このように、ショットブラストや電子ビーム、あるいは研磨剤の噴射によるラッピングで凸側プレス金型52の成形凸球面を表面仕上げすることにより、手作業による研磨などが要らず、ばらつきなく低コストで凸側プレス金型52の成形凸球面の面粗さを小さくできる。
【0036】
図14〜図16は、グリース付着状態の確認を行った試験結果を示す。この試験では、この実施形態(図7の実施形態、および図8の実施形態)の保持器45を組み込んだ玉軸受と、一般的な鉄板打ち抜き保持器を組み込んだ玉軸受とを、次の表1の条件で運転して比較した。
図14および図15はこの実施形態(それぞれ図7の実施形態、および図8の実施形態)の保持器45を用いた玉軸受のグリース付着状態を示し、図16は一般的な鉄板打ち抜き保持器を用いた玉軸受のグリース付着状態を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
図14〜図16の試験結果から、一般的な鉄板打ち抜き保持器を組み込んだ玉軸受(図16)では、内輪シール溝にグリースが付着するが、この実施形態の保持器45を組み込んだ玉軸受(図14,図15の例)ではグリースの付着がないことが分かる。
【0039】
また、前記各玉軸受に接触シール(NTN製LUシール)を組み付けて、グリース漏れ頻度の確認試験も行った。この試験では、表1の試験条件に対して運転時間のみを15分に変更して行った。その試験結果を次の表2に示す。この場合のグリース漏れとは、目視で確認できる30〜100mg程度のグリースが軸受外部へ飛び出すことと定義する。
【0040】
【表2】
【0041】
表2によると、従来の保持器を組み込んだ密閉型玉軸受では10個中の9個にグリース漏れが発生しているが、この実施形態の保持器を組み込んだ密閉型玉軸受では4個中にグリース漏れの発生したものはないことが分かる。
【0042】
これらの試験結果からわかるように、この実施形態の玉軸受用保持器45では、ポケット46の形状を上記したように従来例のものと異なるものとしたことにより、内輪肩部へのグリースの付着を無くすことができる。すなわち、玉に最もグリースが付着する位置である保持器内径側の開口縁に開口する凹み部を設けたため、グリースの掻き取りが生じる際の、玉の表面の掻き取りが減少し、保持器内径面に溜まるグリース量が減少する。そのため、内輪シール溝へグリースが付着することがなく、接触式および非接触式のいずれのシールを用いても、グリース漏れは発生しない。この効果は、特に外輪回転時に特徴的に現れる。したがって、一般的な鉄板打ち抜き保持器のようにシールにグリースが付着することによる不具合は発生しない。さらに、シール機能にグリース漏れを防ぐ要素を付加させる必要がないので、耐泥水、耐ダスト、および低トルクに特化したシール設計が可能となる。また、この実施形態の玉軸受用保持器はプレス加工が可能なため、低コストで高強度のものを製造でき、一般的な鉄板打ち抜き保持器と比べてシールとの距離も変わらない。
【0043】
摺動部材SBについて説明する。
図3,図4に示すように、この発明の保持器45のポケット46のうち少なくとも玉4の案内面を成す表面部位5aa(図4)に、組成物から成る摺動部材SBが形成されている。
前記組成物に使用できる合成樹脂としては、耐油性を有し、被膜としたときに被膜強度が強く、耐摩耗性に優れた材料であれは、特に限定されない。そのような例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、フラン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、芳香族ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、芳香族ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フッ素樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等があげられる。これらの中でも好ましいものとして、芳香族ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、エポキン樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等があげられる。これらの合成樹脂は、必要に応じて、繊維状や粒子状の各種充填材を配合することができる。
【0044】
本発明において、特に好ましい合成樹脂は被膜形成能に優れるポリイミド系樹脂である。ポリイミド系樹脂は分子内にイミド結合を有するポリイミド樹脂、分子内にイミド結合とアミド結合とを有するポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。
ポリイミド樹脂の中でも、芳香族ポリイミド樹脂が好ましく、芳香族ポリイミド樹脂は、化1で示す繰返し単位を有する樹脂であり、[化1]で示す繰返し単位を有する樹脂の前駆体であるポリアミック酸も使用できる。R1は芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の残基であり、R2は芳香族ジアミンまたはその誘導体の残基である。そのようなR1またはR2としては、フェニル基、ナフチル基、ジフェニル基、およびこれらがメチレン基、エーテル基、カルボニル基、スルホン基等の連結基で連結されている芳香族基が挙げられる。
【化1】
【0045】
芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の例としては、ピロメリット酸二無水物、2,2´,3,3´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いられる。
【0046】
芳香族ジアミンまたはその誘導体の例としては、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、3,3´−ジアミノジフェニルスルホン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルエーテルなどのジアミン類またはジイソシアネート類が挙げられる。
上記芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体と、芳香族ジアミンまたはその誘導体との組み合わせで得られる芳香族ポリイミド樹脂の例としては、表3に示す繰返し単位を有するものが挙げられる。これらはR1およびR2にヘテロ原子を有しない樹脂である。
【0047】
表3中の芳香族ポリイミド樹脂において、分子中に占める芳香環の比率が高いポリイミドCおよびDが好ましく、特にポリイミドDが本発明に好適である。芳香族ポリイミド樹脂ワニスの市販品としては、例えば宇部興産社製Uワニスが挙げられる。
【表3】
【0048】
本発明に使用できるポリアミドイミド樹脂は高分子主鎖内にアミド結合とイミド結合とを有する樹脂であり、ポリカルボン酸またはその誘導体とジアミンまたはその誘導体との反応により得ることができる。
ポリカルボン酸としてはジカルボン酸、トリカルボン酸、およびテトラカルボン酸が挙げられ、ポリアミドイミド樹脂は、(1)ジカルボン酸およびトリカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、(2)ジカルボン酸およびテトラカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、(3)トリカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、(4)トリカルボン酸およびテトラカルボン酸とジアミンとの組み合わせにより得られる。ポリカルボン酸とジアミンとはそれぞれ誘導体であってもよい。ポリカルボン酸の誘導体としては酸無水物、酸塩化物が挙げられ、ジアミンの誘導体としてはジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートはイソシアネート基の経日変化を避けるために必要なブロック剤で安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としては、アルコール、フェノール、オキシム等が挙げられる。
また、ポリカルボン酸とジアミンとはそれぞれ芳香族および脂肪族化合物を用いることができる。本発明に使用できるポリアミドイミド樹脂は伸び率に優れたものが好ましく、芳香族化合物に脂肪族化合物を併用することが好ましい。
また、エポキシ化合物で変性することができる。
【0049】
トリカルボン酸またはその誘導体の例としては、トリメリット酸無水物、2,2´,3−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,3´,4−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,3´,4−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、1,2,5−ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルメチル安息香酸無水物等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いられる。
量産化されており、工業的利用のしやすさからトリメリット酸無水物が好ましい。
【0050】
テトラカルボン酸またはその誘導体の例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−スルホニルジフタル酸二無水物、m−タ−フェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−または3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−または3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−または3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0051】
ジカルボンまたはその誘導体の例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸、ポリブタジエン系オリゴマーの両末端をカルボキシル基とした脂肪族ジカルボン酸(日本曹達(株)製Nisso−PB,Cシリーズ、宇部興産(株)製 Hycar−RLP,CTシリーズ、Thiokol社製 HC−polymerシリーズ、General Tire社製 Telagenシリーズ、Phillips Petroleum社製 Butaretzシリーズ等)、カーボネートジオール類(ダイセル化学(株)製の商品名PLACCEL、CD−205、205PL、205HL、210、210PL、210HL、220、220PL、220HL)の水酸基当量以上のカルボキシル当量となるジカルボン酸を反応させて得られるエステルジカルボン酸等が挙げられる。
【0052】
ジアミンまたはその誘導体の例として、ジイソシアネートとしては、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4'−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、ビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3'−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,2'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジエチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,2'−ジエチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメトキシビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,2'−ジメトキシビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、カーボネートジオール類(ダイセル化学(株)製の商品名PLACCEL、CD−205、205PL、205HL、210、210PL、210HL、220、220PL、220HL)の水酸基当量以上のイソシアネート当量となるジイソシアネートを反応させて得られるウレタンジイソシアネート等のジイソシアネート類が挙げられる。
【0053】
ジアミン類としては、ジメチルシロキサンの両末端にアミノ基が結合したシロキサンジアミン(シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)、X−22−9409(アミン当量700)、X−22−1660B−3(アミン当量2200)(以上、信越化学工業社製、商品名)、BY16−853(アミン当量650)、BY16−853B(アミン当量2200)、(以上、東レダウコーニングシリコーン社製、商品名))、両末端アミノ化ポリエチレン、両末端アミノ化ポリプロピレン等の両末端アミノ化オリゴマーや両末端アミノ化ポリマー、オキシアルキレン基を有するジアミン(ジェファーミンDシリーズ、ジェファーミンEDシリーズ、ジェファーミンXTJ−511、ジェファーミンXTJ−512、いずれもサンテクノケミカル社商品名)等が挙げられる。
【0054】
芳香族ポリイミド樹脂と異なり、前駆体を経ることなく樹脂溶液の状態でアミド結合とイミド結合との繰返し単位を有するポリアミドイミド樹脂が本発明において特に好ましい。また、ポリアミドイミド樹脂のジイソシアネート変性、BPDA変性、スルホン変性、ゴム変性樹脂を使用できる。ポリアミドイミド樹脂ワニスの市販品としては、例えば日立化成社製HPC5020、HPC7200等が挙げられる。
【0055】
本発明においてポリアミドイミド樹脂は、樹脂被膜の伸び率が 60 %〜120 %のポリアミドイミド樹脂が好ましい。伸び率が 60 %未満であると基材との密着性に劣り剥離しやすくなり、硫黄系添加剤を含有する潤滑油に接触する環境下において金属基材の剥離または溶出が生じやすくなる。伸び率が 120 %を超えると耐熱性が低下したり潤滑油に膨潤しやすくなったりする。樹脂被膜の伸び率が 60 %〜120 %のポリアミドイミド樹脂の市販品としては、例えば日立化成社製、商品名HPC7200−30が挙げられる。
【0056】
本発明においてポリアミドイミド樹脂被膜の伸び率は以下の方法で測定される。
ポリアミドイミド樹脂溶液を、アセトン脱脂後窒素ガスブローにより表面清浄化されたガラス基板上に塗布し、80 ℃で 30 分、その後 150 ℃で 10 分予備乾燥を行ない、最後にポリアミドイミド樹脂の分子構造に適した硬化温度で 30 分乾燥する。硬化塗膜をガラス基板より剥離して 80 ± 8 μm 厚さの樹脂フィルムを得て、このフィルムを 10 mm × 60 mm の短冊状の試験片とし、チャック間距離 20 mm 、引張速度 5 mm/分で室温にて引張試験機により伸び率(%)を測定する。
【0057】
ポリイミド系樹脂に配合されるフラーレンは、炭素5員環と6員環から構成され、球状に閉じた多様な多面体構造を有する炭素分子である。グラファイト、ダイヤモンドに続く第3の炭素同素体として1985年にH.W.KrotoとR.E.Smalley等によって発見された新規な炭素材料である。代表的な分子構造としては、60個の炭素原子が12個の五員環と20個の六員環からなる球状の切頭正二十面体を構成する、いわゆるサッカーボール状の構造のC60が挙げられ、同様に70個の炭素原子からなるC70、さらに炭素数の多い高次フラーレン、例えばC76、C78、C82、C84、C90、C94、C96などが存在する。これらのうちのC60およびC70が代表的なフラーレンである。また、これらを反応させて多量体が得られる。本発明においては、フラーレンであれば球状、あるいは多量体のいずれも使用できる。
【0058】
フラーレンの製造法には、レーザ蒸発法、抵抗加熱法、アーク放電法、熱分解法などがあり、具体的には、例えば特許第2802324号に開示されており、これらは、減圧下あるいは不活性ガス存在化、炭素蒸気を生成し、冷却、クラスター成長させることによりフラーレン類を得ている。
【0059】
一方、近年、経済的で効率のよい大量製造法として燃焼法が実用化されている。燃焼法の例としては、減圧チャンバー内にバーナーを設置した装置を使用し、系内を真空ポンプにて換気しつつ炭化水素原料と酸素とを混合してバーナーに供給し、火炎を生成する。その後、上記火炎により生成した煤状物質を下流に設けた回収装置により回収する。この製造法において、フラーレンは煤中の溶媒可溶分として得られ、溶媒抽出、昇華等により単離される。得られたフラーレンは通常C60、C70および高次フラーレンの混含物であり、さらに精製してC60、C70等を単離することもできる。
本発明で用いるフラーレンとしては、構造や製造法を特に限定するものではないが、特にC60、C70の炭素数のもの、あるいはこれらの混合物が好ましい。
【0060】
フラーレンは固体状の配合剤として、あるいはフラーレンを有機溶剤に溶解、分散させて得られる配合剤として用いることができる。いずれの場合においても、フラーレンはC60、C70およぴ高次フラーレン単独でも、混含状態でも用いることが可能であるが、樹脂への分散性等の観点から、これらを混合状態で用いることが好ましい。
さらにより分散性を良好にするため、混合時の平均粒径は100μm 以下、好ましくは50μm 以下、より好ましくは10μm 以下である。
【0061】
摺動部材SB用の組成物に対するフラーレンの配合割合は、組成物全体に対して、固体状のフラーレンを0.1〜10 容量%、好ましくは0.1〜5 容量%配合する。0.1 容量%未満では十分な耐摩耗性を得ることができず、10 容量%を超えると分散不良となり耐摩耗性が悪化する。
【0062】
二硫化モリブデン、二硫化タングステンは粉末状のものを用いることができる。分散性や被膜の表面平滑性から、粒径は 10 μm 以下、好ましくは 5 μm 以下である。摺動部材SB用の組成物に対する二硫化モリブデン、二硫化タングステンの配合割合は、組成物全体に対して、0.5〜20 容量%、好ましくは 0.5 〜 15 容量%配合する。0.1 容量%未満では十分な摩擦摩耗特性を得ることができず、20 容量%を超えると耐摩耗性が悪化する。
【0063】
本発明の摺動部材SB用の組成物には、耐摩耗性を低下させずに、摩擦係数の安定化や初期馴染み性を向上させることを目的に、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛等の固体潤滑剤をフラーレンおよび二硫化モリブデンないしは二硫化タングステンと併用することができる。
本発明の摺動部材SB用の組成物の好ましい態様としては、ポリイミド系樹脂に、フラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが分散配合された樹脂組成物である。
【0064】
上記本発明の摺動部材SB用の組成物を、硫黄成分を含む潤滑油または硫黄雰囲気下と接触する環境下において溶出が生じにくい金属被膜を有する転がり軸受に適用する場合について説明する。この転がり軸受について鋭意検討の結果、密着性と耐熱性とに優れたポリイミド系樹脂被膜は硫黄成分を含む潤滑油に浸漬しても膨潤したり、溶解したりすることなく、そのため耐硫化性の低い金属であっても表面にポリイミド系樹脂被膜を形成することにより、潤滑油中への金属溶出が生じにくいことがわかった。このため、ポリイミド系樹脂被膜を、玉の案内面を成す表面部位に形成した保持器を作製し、この保持器を取り付けることにより硫黄成分を含む潤滑油と接触する環境下において溶出が生じにくい被膜を有する転がり軸受を得ることが可能となった。
【0065】
前記組成物を、保持器のポケットの案内面に被膜させる方法について説明する。
まず、鉄系金属材料で形成された基材となる保持器を十分に洗浄し、表面の汚染を除去する。この洗浄方法としては、有機溶剤による浸漬洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄、酸・アルカリ洗浄等による方法が挙げられる。
被膜の密着性を向上させる目的で、前処理としてショットブラスト(ショットピーニング、WPC等を含む)、化学的エッチング、リン酸塩被膜処理を施すことも可能である。基材の表面粗さはRa=0.3以上の範囲で設定することが可能であり、好ましくはRa=0.5〜1.0である。Ra=0.3未満であると、十分なアンカー効果をえることができず、密着性を向上することができない。一方、基材の表面粗さが大きい場合は仕上がり表面が粗くなるが、研磨などの機械加工により表面粗さを小さく調整すれば保持器として使用可能となる。また、Ra=0.5〜1.0であれば十分な密着性と機械加工を施すことなく小さな表面粗さを得ることが可能である。
【0066】
次いで、スプレーコーティング法、ディップ(浸漬)コーティング法、静電塗装法、タンブラーコーティング法、電着塗装法等によって、摺動部材用の組成物の被膜を保持器表面に形成させる。好ましい被膜の厚さは、1〜100μm 、より好ましくは1〜50μm である。また、被膜形成の過程で、余分に付着したワニスはふき取り、遠心分離、エアーブロー等の物理的、化学的方法により除去し、所望の厚さに調整することもできる。
被膜形成後は、加熱処理によって溶媒除去、乾燥、融解、架橋等を行ない、前記案内面等に被膜が形成された保持器を完成させる。膜厚を増す場合には、重ね塗りをしてもよい。また、被膜完成後に機械加工やタンブラー処理等を行なうことも可能である。
【実施例】
【0067】
本発明の実施例と比較例に用いた材料を一括して示すと次の通りである。[ ]内は表4および表5に示す略称である。
(1)ポリアミドイミド樹脂ワニス[PAI]
日立化成工業社製HPC−5020、伸び率:70 %
(2)芳香族ポリイミド樹脂ワニス[PI]
宇部興産社製Uワニス−A
(3)混合フラーレン[ミックスフラーレン]
フロンティアカーボン社製混合フラーレン、C60(直径:0.71nm )が約 60 重量%、C70(長軸径:0.796nm、短軸径:0.712nm)が約 25 重量%で残部が高次フラーレンの混合物である。
(4)二硫化モリブデン粉末[MoS2−0.5μm ]
日本モリブデン社製M5、平均粒径 0.5 μm
(5)二硫化タングステン粉末[WS2−1μm]
日本潤滑剤社製WS2A、平均粒径 1 μm
(6)ポリテトラフルオロエチレン粉末[PTFE−0.3μm]
喜多村社製KD-1000ASディスパージョン(溶媒:NMP)、平均粒径 0.3 μm
(7)黒鉛粉末[黒鉛−6μm]
ロンザ社製KS-6、平均粒径 6 μm
【0068】
実施例1、実施例3〜7、比較例3〜10
ポリアミドイミド樹脂ワニス(溶剤:N−メチル−2−ピロリドン)の固形分に対し各種充填材を表4および表5に記載の割合でボールミルで十分に均一分散するまで混合して、混合液を摩擦試験用SUJ2リング〔外径 40 mm ×内径 20 mm ×厚さ10 mm (副曲率R 60 )、ショットブラストにより表面粗さRa 0.7 μmに調整:図17の17〕の外径面にスプレー法にてコーティングした。また、潤滑油浸漬試験用としてSPCC角棒( 3 mm × 3 mm × 20 mm )の表面にディッピング法によりコーティングした。コーティング後 100 ℃で 1 時間、さらに 150 ℃で 1 時間乾燥し、250 ℃で 1 時間焼成した。スプレー回数を調整し、被膜厚みが 20 〜 30 μm になるようにした。なお、フラーレンを配合したコーティング液は、トルエンとN−メチル−2−ピロリドンの混合溶媒(混合重量比率 50:50 )にフラーレンを 5 %濃度で溶解させた濃縮液をあらかじめ用意し、これをポリアミドイミド樹脂ワニスに所定濃度となるよう添加し調製した。なお、表4および表5に記載の各成分の配合割合は固形分での割合でありすべて容量%である。
【0069】
得られたリング状試験片を用いて摺動試験を行なった。図17は摺動試験機を示す図である。図17(a)は正面図を、図17(b)は側面図をそれぞれ表す。
回転軸18にリング状試験片17を取り付け、アーム部19のエアスライダー21に鋼鈑20を固定する。リング状試験片17は所定の荷重22を図面上方から印加されながら鋼鈑20に回転接触すると共に潤滑油が含浸されたフェルトパッド24より潤滑油がリング状試験片17の外径面に供給される。リング状試験片17を回転させたときに発生する摩擦力はロードセル23により検出される。また、所定時間経過後、リング状試験片17の外径面に形成されたポリアミドイミド樹脂塗膜の状態は目視により、〇:顕著な摩耗および剥離なし、△:顕著な摩耗はないが剥離あり、×:摩耗大の 3 段階で表記した。
鋼鈑20はSCM415浸炭焼入れ焼戻し処理品(Hv 700 、表面粗さ Ra 0.01μm )を、潤滑油はモービルベロシティオイルNo.3(VG2、エクソンモービル社製)をそれぞれ用いた。荷重は 50 N 、滑り速度は 5.0m/秒、試験時間は 30 分である。摩擦係数は試験終了前 10 分間の平均値として表した。結果を表4および表5に示す。
【0070】
また、得られたSPCC角棒を用いて潤滑油浸漬試験を行なった。被膜を施した角棒 3 本を 150 ℃の潤滑油〔ポリ−α−オレフィン:ルーカントHL−10(三井化学社製)にZnDTP(LUBRIZOL677A、LUBRIZOL社製)を 1 重量%添加したもの〕 2.2 g に 200 時間浸漬した後、潤滑油中に溶出した被膜成分の濃度を測定した。濃度測定は、蛍光X線測定〔蛍光X線測定装置:Rigaku ZSX100e(リガク社製)〕により定量した。結果を表4および表5に示す。
【0071】
実施例2
芳香族ポリイミド樹脂ワニス(溶剤:N−メチル−2−ピロリドン)を用いて、表1に示す割合でフラーレンを配合し、コーティング後の焼成温度を 350 ℃とする以外は実施例1と同様の方法で試験片を作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表4に示す。
【0072】
比較例2
実施例1と同様に試験片に、電気めっきにより銅めっき(めっき厚: 25 μm )を施した。得られた試験片を実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示す結果から明らかなように、従来から使用されている金属めっきである比較例1および比較例2は潤滑油浸漬試験において潤滑油に金属成分が溶出する。特に、銅めっき時の銅の溶出が多い結果となった。添加剤を含まない樹脂被膜を形成した比較例3は摩擦係数は小さいが、摩擦試験中に剥離を生じた。フラーレンのみを配合した比較例4は摩擦試験中の剥離はないものの、樹脂単体に比べ摩擦係数が増加した。フラーレンに加えポリテトラフルオロエチレンを配合した比較例5は、摩擦係数は低下したが剥離を生じ、黒鉛を配合した比較例6は摩耗が大きかった。比較例7はフラーレンの配合量が少ないため、耐剥離性が改善されない。比較例8および9は、フラーレンまたは二硫化モリブデンの配合量が所定量より多いため、分散が悪く、またバインダである樹脂分が少なく添加剤を保持しきれないため摩耗量が増大した。さらに二硫化モリブデンのみを配合した比較例10は樹脂単体(比較例3)とほとんど同じ特性であった。
【0076】
一方、表4に示す、実施例1〜7は、フラーレンと、二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンを所定量配合したポリイミド系樹脂被膜であるので、摩擦係数が低く、摩擦試験中の剥離や顕著な摩耗は見られなかった。また、潤滑油浸漬試験においても被膜成分の潤滑油への溶出は見られなかった。
【0077】
樹脂被膜を施すことによる軸受寿命の延命効果を、下記に示す。
運転条件を表6に示す。
【表6】
表6において、試験軸受である「6204ZZC3」のうち、「6204」は軸受サイズ、「ZZ」は両密閉板、「C3」はラジアルすきまC3と同義である。Frはラジアル荷重、Faはアキシアル荷重と同義である。同表の被膜「有り」の保持器形式は、鉄板波形保持器であり、この被膜は、鉄板波形保持器の少なくともポケットの案内面に形成している。また、被膜「無し」の保持器形式は、鉄板波形保持器である。
【0078】
上記表6の運転条件にて試験した試験結果を表7に示す。
【表7】
表7において、
軸受温度が+15℃(135℃)となった場合、あるいはモータ負荷(トルク)が2倍となった場合のいずれかで寿命とした。
【0079】
上記表7より、被膜無しの鉄板波形保持器を備えた軸受は、被膜有りの鉄板波形保持器に比べ、約30%の短寿命であった。保持器案内面と鋼球との摺動が、「鉄」 対 「鉄」ではなく、「樹脂」 対 「鉄」となると、鉄の摩耗粉が発生せず軸受寿命が長寿命となる。表7において、従来の鉄板波形保持器に被膜つまりPAI膜を設けた軸受は、被膜有りの鉄板波形保持器に比べ、約28%の短寿命であった。つまり、凹み部50等を設けた発明保持器に被膜を設けることにより、より高い効果を得ることができる。本試験は、PAI膜の試験は行っていないが、耐摺動性、耐剥離性の高いPAI膜であれば問題ない。よって、保持器の摺動面において、鉄同士の接触を防げば良いことがわかる。ポケット部への樹脂被膜には、PAI膜が耐摩耗性、耐剥離性の点で適している。
【0080】
以上説明した保持器45によれば、前記ポケット46のうち少なくとも玉4の案内面を成す表面部位5aaに、組成物から成る摺動部材SBが形成され、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンおよび二硫化物が所定量配合されるので、微粒子形状のフラーレンと二硫化物粉末とが樹脂体または被膜中に均一に配合される。その結果、これらの相乗効果により耐摩耗性、耐剥離性が向上すると同時に摩擦係数が低下する。
【0081】
したがって、この保持器を鉄板製として玉軸受に使用すると、グリース漏れを抑制しつつも、いわゆる鉄板保持器特有の高い高速回転性能、樹脂保持器よりも大きな全空間容積の確保、ならびに鉄ポケットと鋼球間の直接接触を防止することによるグリース潤滑寿命の延長を達成できる。また、高速回転時に発生する遠心力に起因する変形を未然に防止することができる。なお、全空間容積に比例して、グリース封入量は規定されるのが一般的で、全空間容積の増加はグリース封入量の増加による寿命延長につながる。
【0082】
次に、この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0083】
2枚の保持器半体47を結合して1個の保持器とする構成に限らず、鋼材から所定の形状に削り出すもみ抜き保持器とし、このもみ抜き保持器のポケット部に、前記組成物から成る摺動部材を形成しても良い。この場合、保持器自体の剛性を高め、遠心力による変形をより確実に抑制することができる。
本実施形態では、組成物を保持器全体に被膜させているが、この形態に限定されるものではない。組成物をポケットの少なくとも案内面に被膜させれば足りる。
組成物をポケットの案内面に被膜させる方法において、2枚の保持器半体47を結合する前に各保持器半体47単位で、組成物を被膜しても良い。この場合、各保持器半体47に組成物を被膜する前に、この保持器半体47をいわゆる半製品の状態で洗浄するため、洗浄効果をより高めることができる。それ故、被膜の密着性をより向上させることができる。
また、各保持器半体47に組成物を被膜する場合、ポケットの案内面を外方に露出させた状態で、前処理としてショットブラストを容易にかつ確実に行うことができる。この場合、作業性の向上を図り、被膜の密着性の向上をさらに図ることができる。
2つの保持器半体47の平板部47aを結合するリベット49を省略し、平板部47aの一部から突出する爪等を設けて、2つの保持器半体47を結合しても良い。この場合、部品点数の低減を図ることができる。
軸受において、前記鋼球に代えてセラミックス球を適用しても良い。
【0084】
図18ないし図20は、この発明のさらに他の実施形態に係る玉軸受およびその保持器である。この玉軸受は、前述と同じ組成物から成る摺動部材SBを、保持器45Aのポケットの案内面を成す表面部位に形成し、保持器を次の構成としたものである。
すなわち玉軸受用保持器45Aは、図18,図19に示すように、内輪2の軌道面2aの両側の肩部高さとなる外径面部2Dに、軸方向に重なる範囲を持つ。
この実施形態の玉軸受用保持器45Aは、上記構成において、球殻状板部46Aにおける玉配列ピッチである玉配列ピッチ円PCDよりも内径側部分に薄肉部分46Aaを形成している。この薄肉部分46Aaは、内輪2の軌道面2aの両側の肩部高さとなる外径面部2Dに位置する部分の板厚t1を、平板部47aの板厚t0よりも薄くしたものである。肩部高さとなる外径面部2Dは、内輪2の軌道面2aの肩部の高さで続く外径面部分のことであり、シール溝10が設けられている場合、軌道面2aとシール溝10との間の外径面部分のことである。球殻状板部46Aは、この外径面部分2Dの軸方向範囲Wに位置する部分の板厚t1を薄くする。なお、図18において、球殻状板部46Aを薄肉化しない場合の断面形状を想像線で示している。
【0085】
板材t1を薄くする形態は、保持器半径方向において、玉配列ピッチ円PCDに相当する箇所から内径側に至る範囲の全体を薄くしても良く、また玉配列ピッチ円PCDと保持器内径縁間の途中の箇所から内径縁至る範囲を薄くなるようにしても良い。これらの場合に、板厚t1は、保持器半径方向の内径側に至るに従って次第に薄くなって内径縁が最小板厚となるようにしても良く、また薄くする範囲の全体を略一定して薄くしても良い。さらに、球殻状板部46Aのポケット内面形状を維持したままで、外面側の形状が変わるように板厚を薄くしても、また球殻状板部46Aの外面形状を維持したままで、ポケット内面側の形状が変わるように板厚を薄くしても良い。
【0086】
また、この実施形態では、図19のように、球殻状板部46Aの内径縁に沿う円弧状の範囲において、両端を残し、ほぼ全体を薄くしているが、内輪2の肩部高さとなる外径面部2Dと保持器45Aの幅の関係によっては、図21のように、板厚を薄くした薄肉部分46Aaが、球殻状板部46Aにおける内径縁の円弧の中央を除く両側となる2箇所に分かれていても良い。
【0087】
この保持器45Aは、このようにポケット46を構成する球殻状板部46Aの内径部に薄肉部分46Aaを成形しており、この薄肉部分46Aaは、内輪2の肩部高さの外径面部2Dと軸方向に重なり合う部分であって、玉4の表面に付着したグリースが保持器45Aで掻き取られる部分、またはその掻き取られたグリースが移動してくる部分である。この部分46Aaの板厚t1が薄ければ、ここに堆積し得るグリース量が減少するため、内輪2の外径面部2Dに到達し得る頻度や量が減少し、結果としてグリースの軸受外部への漏れが防止できる。すなわち、保持器45Aの外径側へグリースが移動しやすくなり、内径側に留まり得るグリース量が減少する。
【0088】
しかしながら、保持器の全体の板厚を薄くすることは、保持器の単体の強度が低下するため、ミスアライメント下あるいは外部加振下において保持器に繰り返し応力が作用する場合に保持器の破損が生じやすくなるなど、難しい。
そこで、保持器45Aの内径部において、内輪2の肩部となる外径面部2Dと軸方向に重なり合う範囲Wのみの板厚を薄くしており、これにより、実質上の保持器45Aの強度の低下が無く、かつグリース漏れを防止可能な玉軸受用保持器45Aが成立する。
【0089】
なお、上記の板厚t1の低減には、最初に円環に打ち抜いた平板の内径側のみを薄くしておき、プレス成形しても良い。また均一厚の円環平板からプレスで保持器を成形する場合のプレス金型において、図19や図21で示した領域の板厚のみが減少するように、一対の金型間のすきま分布を変更しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】この発明の一実施形態に係る玉軸受用保持器を備えた軸受の一部破断した斜視図である。
【図2】同軸受の一部破断した断面図である。
【図3】同玉軸受用保持器の斜視図である。
【図4】同玉軸受用保持器の要部の断面図である。
【図5】同玉軸受用保持器の保持器半体の斜視図である。
【図6】同保持器半体の一部につきポケット形状を単純化して示す部分拡大斜視図である。
【図7】(A)は同保持器半体における球殻状板部の内面の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図8】(A)同保持器半体における球殻状板部の内面の他の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図9】(A)同保持器半体における球殻状板部の内面のさらに他の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想多角柱を加えた状態を示す斜視図である。
【図10】(A)同保持器半体における球殻状板部の内面のさらに他の一例を強調して示す部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図11】同球殻状板部と仮想リングの関係を断面で示す説明図である。
【図12】この実施形態の玉軸受用保持器の製造工程を示す説明図である。
【図13】同製造工程に用いられるプレス金型組の斜視図である。
【図14】図7に示す構造の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図である。
【図15】図8に示す構造の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図である。
【図16】一般的な鉄板打ち抜き保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図である。
【図17】摺動試験機を示す図である。
【図18】この発明のさらに他の実施形態に係る玉軸受用保持器を備えた軸受の一部破断した断面図である。
【図19】同軸受に組み込まれた保持器の保持器半体における球殻状板部を示す部分拡大斜視図である。
【図20】同実施形態の玉軸受用保持器を内輪に組み込んだ組立体を示す平面図である。
【図21】同保持器の保持器半体における球殻状板部の変形例を示す部分拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0091】
1…軸受
2…内輪
2D…外径面部
3…外輪
4…玉
5aa…表面部位
45…保持器
46…ポケット
46A…球殻状板部
47…保持器半体
47a…平板部
50,50A,50B,50C…凹み部
PCD…玉配列ピッチ円
SB…摺動部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有し、各ポケットの内面を、玉配列ピッチ円よりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる凹曲面状としたリング状の玉軸受用保持器において、
前記各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、
前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成されているものであって、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれていることを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1において、前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、ポケットの内面となる凹球面の曲率半径よりも小さな曲率半径の円弧状である玉軸受用保持器。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられ、ポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有し、前記凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状である玉軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられ、各凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする各仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状である玉軸受用保持器。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して2箇所に設けられて、保持器外径縁付近まで延び、これら2箇所の凹み部の内面形状が、一つの仮想リングの表面に略沿った形状であり、前記仮想リングは、ポケット内に収まるリング外径で、任意周方向位置の断面形状が円形であり、リング中心が保持器中心軸に対して傾きを持つ玉軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1において、前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、多角形状である玉軸受用保持器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状である玉軸受用保持器。
【請求項8】
玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有するリング状の玉軸受用保持器において、
2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であり、前記球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くし、
前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成され、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれていることを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の深さを、ポケット内面の凹球面の中心から前記凹み部の最深位置までの距離が、玉の半径の1.05倍以上となる深さとした玉軸受用保持器。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器を備えた玉軸受。
【請求項1】
玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有し、各ポケットの内面を、玉配列ピッチ円よりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる凹曲面状としたリング状の玉軸受用保持器において、
前記各ポケットの内面に、保持器内径側の開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、
前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成されているものであって、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれていることを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1において、前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、ポケットの内面となる凹球面の曲率半径よりも小さな曲率半径の円弧状である玉軸受用保持器。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられ、ポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有し、前記凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状である玉軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられ、各凹み部の内面形状が、保持器の半径方向の直線を中心とする各仮想円筒の表面に略沿う円筒面状の形状であり、この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状である玉軸受用保持器。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記凹み部が、前記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して2箇所に設けられて、保持器外径縁付近まで延び、これら2箇所の凹み部の内面形状が、一つの仮想リングの表面に略沿った形状であり、前記仮想リングは、ポケット内に収まるリング外径で、任意周方向位置の断面形状が円形であり、リング中心が保持器中心軸に対して傾きを持つ玉軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1において、前記凹み部の内面の保持器円周方向に沿う断面形状が、多角形状である玉軸受用保持器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状である玉軸受用保持器。
【請求項8】
玉軸受の玉を保持するポケットを円周方向の複数箇所に有するリング状の玉軸受用保持器において、
2個の環状体の保持器半体を軸方向に対面して重ね合わせてなり、これら保持器半体は、それぞれ内面が前記各ポケットの半分を形成する球殻状板部と、隣合うポケット間の部分となる平板部とが円周方向に交互に並ぶ形状であり、前記球殻状板部における玉配列ピッチ円よりも内径側部分における、少なくとも、軸受内輪の軌道面両側の肩部高さの外径面部に位置する部分の板厚を、前記平板部の板厚よりも薄くし、
前記ポケットのうち少なくとも玉の案内面を成す表面部位に、組成物から成る摺動部材が形成され、前記組成物は、合成樹脂にフラーレンと、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンから選ばれた少なくとも1つの二硫化物とが含まれており、前記組成物全体に対して、前記フラーレンが0.1容量%以上10容量%以下で且つ、前記二硫化物が0.5容量%以上20容量%以下含まれていることを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記ポケットの内面が凹球面状であり、前記凹み部の深さを、ポケット内面の凹球面の中心から前記凹み部の最深位置までの距離が、玉の半径の1.05倍以上となる深さとした玉軸受用保持器。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器を備えた玉軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−65821(P2010−65821A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235179(P2008−235179)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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