説明

現像ローラ

【課題】チャージアップを、より良く抑制することのできる現像ローラの提供。
【解決手段】導電性の軸芯体、弾性層および該弾性層の外周に形成された導電性の表面層を有する現像ローラであって、該弾性層は、DBP吸油量が20ml/100g以上、50ml/100g以下の第一のカーボンブラックと、DBP吸油量が150ml/100g以上、220ml/100g以下である第二のカーボンブラックとを含む液状シリコーンゴムの硬化物からなり、該液状シリコーンゴムは、該第一のカーボンブラックを、該液状シリコーンゴムの100質量部に対して6.5質量部以上、14質量部以下の割合で含んでいる現像ローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置に用いられる現像ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
非磁性一成分現像方法を使用する電子写真画像形成装置において、現像ローラはトナーの搬送および帯電付与を行う役割を有し、その表面は耐摩耗性や耐汚染性を有することが求められる。
【0003】
また、現像ローラは感光体、トナー供給ローラなどの部材と当接した状態で配置されるため、各部材から受ける応力によって永久圧縮歪みが生じる。この永久圧縮歪みは、画像上で濃度ムラを引き起こす要因となる。このため、現像ローラとして、反発弾性が高く圧縮永久歪みの小さいシリコーンゴムを弾性層として用い、さらにこの弾性層外周に帯電付与性などの機能を有した表面層を用いるのが好適である。
【0004】
このような構成を有する現像ローラとして、電気特性を長期に亘って安定させるために、現像ローラのシリコーンゴム弾性層に2種のカーボンブラックを含有させる方法が知られている(特許文献1)。この方法によれば、適切な現像ローラの電気抵抗の実現と通電劣化による抵抗変動の抑制を同時に達成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−109745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討を進めた結果、上述した電気特性の安定化だけでは不十分で、別の要因が画像へ影響を与えることが分かった。すなわち、先述したように、現像ローラを複数層で構成した場合、各層の界面をつなぐ導電経路が十分に存在することが重要である。この界面において、導電経路が少ない現像ローラの場合、トナーや他部材との摩擦によって現像ローラ表面に生じた電荷を各層の界面を通じて導電性軸芯体に逃がすことが十分に出来ない。その結果、現像ローラに電荷が蓄積(チャージアップ)し、高画質な画像を形成することが困難になる場合がある。また、連続で画像形成を行った場合、電荷の蓄積が繰り返されるため、電荷の溜まりやすい場所と溜まりにくい場所におけるチャージアップ量のばらつき(チャージアップムラ)がより顕著に表れやすい。チャージアップムラが大きい場合には、ハーフトーン画像に濃淡ムラが表れる場合がある。
【0007】
本発明者らは、更なる検討を進めた結果、現像ローラのチャージアップは、おもにシリコーンゴム弾性層表面での電荷の減衰速度に大きく依存していることを見出した。また、シリコーンゴム弾性層表面での電荷の減衰速度には、弾性層表面近傍におけるカーボンブラックの存在量が大きく関わっていることが明らかになった。これは表面層とシリコーンゴム弾性層との界面において、一旦物理的に導電経路が切断されてしまうことに起因すると考えられる。そのため、シリコーンゴム弾性層表面の電荷を逃がすために必要な導電経路が弾性層表面に十分に存在しなければ、表面層の導電経路をいくら発達させても、現像ローラとして電荷の減衰速度の向上は期待できないと考えられる。
【0008】
シリコーンゴム弾性層表面近傍において、導電体のカーボンブラックの存在量が少ない場合は、相対的に弾性層表面近傍には絶縁体であるゴム部分が多いことになる。この場合、トナーや他部材との摩擦によって生じた電荷は、表面層を流れたのち、弾性層表面の絶縁領域上に蓄積され、チャージアップしてしまうものと考えられる。
【0009】
従来より、シリコーンゴム弾性層に含有させるカーボンブラックの添加量は、所望の抵抗値を得るために任意に設定されるものである。しかしながら、上記課題に対して、カーボンブラックを増加させた場合、抵抗値の変動はあるものの、必ずしも弾性層表面近傍のカーボンブラックの存在量が高まるものではない。そのため、シリコーンゴム弾性層表面近傍の導電経路が十分に確保されず、チャージアップに対して十分な効果が得られるものではなかった。さらに、カーボンブラックの添加量を必要以上に多くすることは、弾性層の抵抗値が所望の値よりも小さくなるため、リークの発生を引き起こす恐れがあり、好ましいものではなかった。
【0010】
本発明の目的は、チャージアップを、より良く抑制することのできる現像ローラの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記考察から、シリコーンゴム弾性層の表面近傍にカーボンブラックを多く存在させるとともに、シリコーンゴム弾性層内部においても十分な導電経路を形成することで電荷の減衰速度を向上させられると推測した。
【0012】
上記に基づき、検討を進めた結果、シリコーンゴム弾性層中でカーボンブラックが存在しやすい領域、およびその領域での存在量にはカーボンブラックのDBP(フタル酸ジブチル)吸油量および配合量が大きく影響することを見出した。また、これらを正しく選択することによってシリコーンゴム弾性層の電荷の減衰速度を向上させる、すなわちチャージアップを抑制できることを見出した。その結果、画像の濃淡ムラを抑制可能な現像ローラを作製可能であることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、導電性の軸芯体、カーボンブラックを含む弾性層および該弾性層の外周に形成された表面層をこの順番で有する現像ローラであって、該弾性層は、DBP吸油量が20ml/100g以上、50ml/100g以下の第一のカーボンブラックと、DBP吸油量が150ml/100g以上、220ml/100g以下である第二のカーボンブラックとを含む液状シリコーンゴムの硬化物からなり、該液状シリコーンゴムは、該第一のカーボンブラックを、該液状シリコーンゴムの100質量部に対して6.5質量部以上、14質量部以下の割合で含んでいるものであることを特徴とする現像ローラに関するものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本願発明によれば、本発明の現像ローラはチャージアップを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における現像ローラの構成を説明する図である。
【図2】本発明の現像ローラを具備する電子写真画像形成装置を説明する概略図である。
【図3】本発明の現像ローラを具備する現像ユニットを説明する概略図である。
【図4】本発明の現像ローラを具備する電子写真プロセスカートリッジを説明する概略図である。
【図5】本発明において、弾性層ローラの平均電位、チャージアップムラを測定する装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の現像ローラの概略図を図1に示す。図1は現像ローラの長手方向に平行な断面を表したものである。図1の現像ローラは、軸芯体11の上に、弾性層12を、この弾性層12の外周に、表面層13を順番に積層した構造である。
【0018】
軸芯体11は、弾性層12を支持可能な強度を有し、かつ導電性を有すれば、いずれの材質であってもよい。通常は、アルミニウムや鉄、SUSの如き材料で形成された外径4mm以上、10mm以下の金属製の円筒体や円柱体が用いられる。
【0019】
弾性層12は各部材から受ける応力による現像ローラの永久圧縮歪みを抑制するために、反発弾性が高く圧縮永久歪みの小さいシリコーンゴムを用いる。
【0020】
また、弾性層12は電子導電機構による導電付与剤を前記の材料に添加するもので、本発明ではカーボンブラックを導電付与剤として使用する。
【0021】
弾性層12には、上述した弾性層の機能を阻害しない範囲で、必要に応じて可塑剤、充填剤、増量剤、加硫剤、加硫助剤、酸化防止剤、老化防止剤、加工助剤等の各種添加剤を含有させることができる。
【0022】
上述したように、本発明の弾性層はカーボンブラックを含んだ液状シリコーンゴムの硬化物により形成される。液状シリコーンゴムとは、一般に、ケイ素と酸素の分子鎖を主成分としたビニル基を含有するベースポリマー、SiH基をもつ架橋剤および白金系の触媒からなる組成物である。液状シリコーンゴムとカーボンブラックを混合する際に、液状シリコーンゴムとカーボンブラックの親和性の差によって、液状シリコーンゴム中におけるカーボンブラックの存在状態が変わる。この特性を利用することで、シリコーンゴム弾性層表面に十分なカーボンブラックを存在させ、かつシリコーンゴム弾性層内部にも十分なカーボンブラックを存在させ導電性の軸芯体までの導電経路を形成させることが出来る。
【0023】
本発明で用いるカーボンブラックは液状シリコーンゴムとの親和性を示す指標として、DBP吸油量により規定されるものである。これにより、上記液状シリコーンゴム中でのカーボンブラックの存在状態を制御することが出来る。本発明におけるDBP吸油量とはJIS K6217−97「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」9項A法の測定によるものである。この試験方法から分かるように、DBP吸油量とはカーボンブラックとDBPとの親和性を示す指標であり、本発明者らはこの物性値が液状シリコーンゴムとの親和性においても大いに関係するものとして検討を進めた。
【0024】
また、シリコーンゴム弾性層表面から導電性の軸芯体までの導電経路を効果的に形成するためには、以下の二種のカーボンブラックが必須である。すなわち、第一のカーボンブラックとしては、DBP吸油量が20ml/100g以上、50ml/100g以下のカーボンブラックである。また第二のカーボンブラックとしては、DBP吸油量が150ml/100g以上、220ml/100g以下のカーボンブラックである。
【0025】
まず、第一のカーボンブラックについて説明する。DBP吸油量が上記範囲内のカーボンブラックは、液状シリコーンゴムとの親和性が低い。そのため、液状シリコーンゴムと混合した際に、第一のカーボンブラックは主に液状シリコーンゴムの表面近傍に分布する。これにより、弾性層表面における導電経路を十分に設けることが可能である。
【0026】
また、第二のカーボンブラックについては、上記範囲のDBP吸油量とすることで、液状シリコーンゴムとの親和性が高い。そのため、液状シリコーンゴムと混合した際には、第二のカーボンブラックは液状シリコーンゴムによく分散される。その結果、第二のカーボンブラックは弾性層の表面の電荷を導電性の軸芯体にまで移動させるための導電経路の形成に寄与する。
【0027】
これら二種のカーボンブラックを含んだ液状シリコーンゴムの混合物を硬化させることで、それぞれのカーボンブラックが、表面近傍、および内部に分布したシリコーンゴム弾性層が得られる。
【0028】
こうして得られたシリコーンゴム弾性層は、第一のカーボンブラックによる弾性層表面近傍の導電経路と第二のカーボンブラックによる弾性層内部の導電経路が同時に存在するものである。これにより、本発明のシリコーンゴム弾性層は、弾性層表面の電荷を、導電性軸芯体まで速やかに逃がすことが可能であり、その結果チャージアップしない弾性層となる。
【0029】
液状シリコーンゴムの硬化を促進するには、液状シリコーンゴムを加熱する必要があるが、本発明では加熱方法については公知の技術を用いることが可能である。
【0030】
また成形方法としては、金型を用いた成形方法や押し出し機を用いた成形方法など公知の方法を用いることが出来るが、精度を求められる場合には金型を用いた成形方法が好適である。
【0031】
また、第一のカーボンブラックの配合量は液状シリコーンゴム100質量部に対して6.5質量部以上、14質量部以下とする必要がある。第一のカーボンブラックの配合量をこの範囲に設定すれば、チャージアップが十分抑制でき、かつ、リークによって画像上に生じる弊害を抑制できる。この適切な配合量については以下のように考えられる。
【0032】
一般的にゴムとカーボンブラックを配合する際に、導電性を発現するためにはカーボンブラック同士の間隔がある一定距離以下になる必要がある。すなわち、カーボンブラックの配合量が少ない場合、カーボンブラック間の距離が大きいため、導電性を発現出来ない。そして、カーボンブラックの配合量がある閾値に達したとき、すなわちトンネル効果が発現する距離までゴム中のカーボンブラック同士の距離が接近したときに、初めて電流が流れ出し、ゴム全体として絶縁領域から導電領域に相転移することが知られている。
【0033】
本発明では、第一のカーボンブラックは液状シリコーンゴムとの親和性が低いことにより、主に液状シリコーンゴム表面近傍に存在する。しかし、上述したように、極表面近傍においてもカーボンブラックの配合量がある閾値に達しない限り、カーボンブラック同士の距離が近接しないため、トンネル電流、すなわち導電性が発現しない。そのため、ある一定量配合しない限り、チャージアップを抑制できないものと考えられる。本検討により、シリコーンゴムに第一のカーボンブラック、すなわち、DBP吸油量が20ml/100g以上、50ml/100g以下のカーボンブラックを配合させた場合、弾性層の極表面近傍において、電荷を逃がすのに十分な導電性を発現させるためには、液状シリコーンゴム100質量部に対し、最低6.5質量部必要であることが分かった。
【0034】
また、第一のカーボンブラックの配合量が14質量部を超えた場合には、弾性層表面近傍の導電経路が非常に発達するため、弾性層表面方向への電流が流れやすくなる。この状態では、現像ローラに接する部材間で弾性層表面を通じて電流が流れる(リークする)ために、各部材間の電位差が維持できず、画像形成が困難になってしまう恐れがある。また、カーボンブラックの配合量があまりに多くなりすぎると、シリコーンゴムの特性である弾性が失われ、脆くなる場合がある。
【0035】
また、第二のカーボンブラックの配合量については、現像ローラに所望とされる抵抗値に合うよう調整すればよいが、第二のカーボンブラックがまったく存在しない場合には、チャージアップを抑制することが困難となる。これは、第二のカーボンブラックが存在しない場合には、弾性層内部の導電経路が十分に発現せず、電荷を導電性の軸芯体に逃がすことが困難となるためと考えられる。
【0036】
本発明の現像ローラでは、耐摩耗性、帯電性能を付与させるために表面層13を設ける。表面層13に使用する材料としては、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴムなど既存の材料を用いることができる。これらの材料は単独で用いても、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
また、現像ローラのチャージアップを抑制するためには表面層13が導電性を有する必要がある。表面層13を導電化する方法としては、イオン導電機構、または電子導電機構による導電付与剤を前記の材料に添加する手法が広く知られており、これら導電付与剤は、単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。弾性層12の場合と同様、これらの中でも特にカーボンブラックは、導電性の制御が容易であり、また経済的であるなどの観点から好ましく用いられる。また、トナー搬送性の向上などを目的として、現像ローラ表面を粗面化するために、表面層13に樹脂粒子や金属粒子などを配合する場合もある。弾性層12の上に、表面層13を塗工する方法としては、ディッピング法、ロール塗工法、リング塗工法およびスプレー塗工法など、一般に知られている塗工法を用いることが出来る。
【0038】
次に、本発明の現像ローラが用いられる一般的な現像ユニット、電子写真プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置について説明する。
【0039】
一例として、図2に、本発明の現像ローラを具備した電子写真プロセスカートリッジを用いた電子写真画像形成装置の概略構成を示す。
【0040】
図2に示す電子写真画像形成装置は、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの画像を形成するタンデム型のカラー画像形成装置であり、それぞれの色に対応したトナーが詰められた電子写真プロセスカートリッジが設けられている。図3は本発明における現像ローラを具備した現像ユニットを示したものである。また、図4は本発明における現像ローラを具備した電子写真プロセスカートリッジの概略断面図を示したものである。
【0041】
現像ユニットは、現像ローラ201、トナー供給ローラ202、トナー203及びトナー量規制部材204、トナー容器205からなっている。そして、電子写真プロセスカートリッジは、現像ユニットに加え、感光体206、クリーニングブレード207、廃トナー収容容器208及び帯電部材209も含めて形成される。使用する電子写真画像形成装置によっては、現像ユニット以外の部材は電子写真画像形成装置側に備え付けられており、現像ユニットのみを着脱可能とする場合もある。
【0042】
トナー供給ローラ202は、スポンジ構造や、軸芯体上にレーヨン、ポリアミド等の繊維を植毛したファーブラシ構造とすることが、現像ローラ201へのトナー供給及び未現像トナーの剥ぎ取りの点から好ましい。例えば、軸芯体上にポリウレタンフォームを設けた弾性ローラを用いることができる。
【0043】
ここで、画像出力までの画像形成プロセスの概略を説明する。感光体206は矢印方向に回転し、感光体206を帯電処理するための帯電部材209によって一様に帯電される。次に感光体206に静電潜像を書き込む露光手段210(例えばレーザーやLED)により、静電潜像が形成される。静電潜像は、感光体206に対して接触配置される現像ユニットによってトナーが付与され、トナー像として可視化(現像)される。なお、記録紙212は搬送ベルト上に担持され、トナー像の形成に同期して搬送されている。
【0044】
可視化された感光体206上のトナー像は、感光体206の回転に同期して送られてくる記録紙212に転写部材211によって転写される。記録紙212にトナー像を転写された後、記録紙212を搬送ベルトから剥離して定着部材213へ送り、定着部材213により定着処理して装置外に排紙され、一連の画像形成プロセスは終了する。
【0045】
一方、記録紙212に転写されずに感光体206の表面に残存したトナーは、クリーニングブレード207により掻き取られ、廃トナー収容容器208に収納される。クリーニングされた感光体206は次の画像形成に備える。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明するが、本実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0047】
〔実施例1〕
以下の手順により、現像ローラを作成した。
【0048】
(弾性層ローラの作製)
直径6mm、長さ250mmのSUS304製の軸芯体の表面に、接着性を向上させる目的で、プライマーDY39−051(商品名、東レダウコーニング社製)を塗布した。塗布量は焼き付け後の厚みが約1μmとなるよう調整し、温度150 ℃で30分間焼き付けした。
【0049】
次に、液状シリコーンゴムを下記表1に示す配合によって得た。
【表1】

【0050】
上記液状シリコーンゴム100質量部に対し、下記表2に示すカーボンブラックのうち下記2種を配合し、弾性層材料とした。
カーボンブラック1として、カーボンブラックA:6.5質量部
カーボンブラック2として、カーボンブラックC:3.0質量部
【0051】
ついで、内径11.8mmの円筒状金型内に前記プライマーを焼き付けた軸芯体を設置し、弾性層材料を注入した。この金型を150℃で5分間加熱し、室温まで冷却した後に脱型を行った。脱型して得られたローラを180℃で4時間加熱することで、硬化反応を完結させ、軸芯体11の表面に直径11.5mm、長手方向の長さが235mmの弾性層12を有した弾性層ローラを作製した。
【表2】

【0052】
(弾性層ローラのチャージアップの測定方法)
本検討ではチャージアップの特性評価として、現像ローラあるいは弾性層の抵抗率ではなく、コロナ放電器を用いて弾性層表面に電荷を放射し、実際の残留電荷を計測することで評価を行った。
【0053】
一般的に抵抗測定として用いられる方法としては、例えばJIS K6911で規定されているような体積抵抗率や表面抵抗率が挙げられる。しかし、この方法を参考にすると、ミリ単位という広範囲での測定となっており、上述したようなミクロな観点での絶縁領域や導電体領域の存在具合のばらつきを厳密に議論することはできない。つまり、弾性層において、体積抵抗率や表面抵抗率が低くても、表面の絶縁領域が多い場合には電荷を逃がすことはできずにチャージアップしてしまう。
【0054】
本検討でのコロナ放電器を用いた方法では、残留電荷によって生じる空間電界を電位計にて測定するが、空間電界は弾性層表面の残留電荷量によって変動する。そのため、抵抗によらず、上述したようなミクロな観点によって違いの生じる残留電荷量の差を評価することが可能である。
【0055】
チャージアップしやすい弾性層ローラでは、残留電荷が多く存在するため、電位の値として、高く測定される。そのため、弾性層ローラについて平均電位を求め、チャージアップの指標として用いた。詳細については、以下に述べる。
【0056】
作製した弾性層ローラについて以下の方法で平均電位の測定を行った。
評価装置としては、DRA−2000L(商品名、QEA社製)を使用した。この装置の概略について図5に基づいて説明する。装置にはコロナ放電器51と表面電位計のプローブ52が一体化されたヘッド53が備え付けられている。また、ヘッド53内でのコロナ放電器による放電が行われる位置から表面電位計のプローブ中心までの距離が25mmあるため、ヘッドの移動速度に応じて放電終了から測定までの間に遅延時間が生じる。このヘッド53は設置した弾性層ローラ54の長手方向に対して平行に移動することが可能である。また、コロナ放電器51から発生した電荷は弾性層ローラ54の表面に向けて放射される。
【0057】
コロナ放電を行いながら、ヘッド53が移動することで、以下の要領で測定がおこなわれる。
1)コロナ放電器51から弾性層ローラ54表面に電荷を放射される
2)電位計のプローブ52が測定位置に来るまでの遅延時間の間に弾性層ローラ54表面の電荷が導電性の軸芯体11を通じてアースへ逃げる
3)弾性層ローラ54の表面の残留電荷の量を電位として電位計で測定する
上記測定から、弾性層ローラ上の残留電荷の量、すなわちチャージアップについて評価することが可能である。
【0058】
この評価装置および作製した弾性層ローラを23℃/50%RH環境にて24時間以上放置し、十分にエージングを行った。
【0059】
DRA−2000L内に弾性層ローラと同外径を有するSUS304製のマスターを設置し、このマスターをアースに短絡する。ついでマスター表面と表面電位計のプローブとの距離を0.76mmに調整し、表面電位計がゼロとなるよう校正する。
上記校正後、マスターを取り外し、測定する弾性層ローラをDRA−2000L内に設置する。
測定条件としては、コロナ放電器のバイアス設定を8kV、スキャナの移動速度を400mm/sec、サンプリング間隔を0.5mm以下となるよう設定し、弾性層ローラの長手方向の測定を行う。データ収集を行う範囲は、弾性層ローラのゴム部について両端27.5mmを除いた180mmとした。これを10°刻みで36回繰り返すことでコロナ放電による残電荷起因の電位データを上記測定範囲にて得ることが可能である。
【0060】
得られる電位データは、縦方向に長手位置で得られた電位の値、横方向に10°刻みの各位相で得られた電位の値を要素とするm行36列の行列で表わされる。mの数値はサンプリング間隔に応じて決まるものである。
【0061】
得られた行列における全ての要素、すなわちm×36個の要素の値を相加平均し、得られた値をその弾性層ローラの平均電位とした。結果を表4に示す。
【0062】
(弾性層ローラのチャージアップムラの評価方法)
次にチャージアップムラの評価方法について、説明する。具体的には弾性層ローラについて長手方向と周方向における電位の値のばらつきを評価するものである。詳細は以下の通りである。
【0063】
上記測定で得られた行列について、行数mを5で割り、商a(aは整数)を求める。そして、行列をa行ごとに区切る、すなわち弾性層ローラを長手方向について5つの領域に分割し、5つのa行36列の行列を得る。この5つの領域について、測定開始位置に近い領域から順にポジション1から5と定義した。この際、割りきれず余った行については解析には用いなかった。
【0064】
各ポジションの行列について、a×36個の要素の値を相加平均した値を各ポジションの平均電位と定義した。次にポジション1から5の平均電位を比較し、最大値から最小値を引いた値をその弾性層ローラの長手電位差とした。各ポジションの平均電位および長手電位差を表4に示す。
【0065】
また、各ポジションの行列について、位相毎(縦方向)の要素、すなわちa個の要素の値を相加平均した値を、各位相の平均電位とする。得られた各位相の平均電位の中で最大値から最小値を引いたものを各ポジションにおける周方向の電位差とした。また、ポジション1から5の周方向の電位差を比較し、その中で最大の値をその弾性層ローラの周方向電位差とした。各ポジションにおける周方向電位差および弾性層ローラの周方向電位差を表5に示す。
【0066】
これらのデータを元に以下の基準により、チャージアップムラの評価を行った。
A:弾性層ローラの長手電位差、周方向電位差がどちらも2V以下である
B:弾性層ローラの長手電位差、周方向電位差の少なくとも一方が2Vより大きく、4V以下である
C:弾性層ローラの長手電位差、周方向電位差の少なくとも一方が4Vより大きい
【0067】
得られた評価結果を表6に示す。
【0068】
(表面層の作製)
表面層材料として、以下の表3に示す材料にメチルエチルケトン(MEK)を50質量部加え、撹拌モーターで1時間混合撹拌し、混合溶液を用意した。
【表3】

【0069】
続いて、上記混合溶液を横型分散機(商品名:NVM-03、アイメックス社製)で周速7m/sec、流量1.7cm/s、分散液温度15 ℃の条件下で2時間分散し、分散液を得た。この分散液に粗し粒子として架橋ウレタンビーズ(商品名:C−400透明、根上株式会社製)を20質量部混合し、さらに30分間分散を続けた。ついで、この分散液にMEKを加え、塗工後の表面層膜厚が10μmになるよう、固形分を調整した。続いて、この溶液を200メッシュの網でろ過して、表面層用の塗料を調合した。
【0070】
前記弾性層ローラを紫外線照射による表面処理を行った後、浸漬塗布装置を用い、表面層の形成を行った。上記表面層用の塗料で満たされた浸漬槽に前記弾性層ローラを侵入速度100mm/sで侵入させ、弾性層ローラ全体を表面層用の塗料に浸漬させ、その状態で10 秒間停止させた。その後、初速30mm/s、終速20mm/sの条件で20秒間かけて引き上げ、室温において10分間、指触乾燥させた。次いで、温度140 ℃にて2時間加熱処理することで、表面層の硬化を行い、本発明の現像ローラを得た。
【0071】
(電子写真画像形成装置における濃淡ムラの評価方法)
以下の方法にて濃淡ムラの評価を行った。
【0072】
まず、電子写真プロセスカートリッジ(商品名:トナーカートリッジ316(ブラック)、キヤノン株式会社製)に作製した現像ローラを組み込んだ。この電子写真プロセスカートリッジを温度10℃、湿度10%RHの環境に24時間以上放置した。同環境下において電子写真画像形成装置本体(商品名:LBP5050、キヤノン株式会社製)にエージングが終了した電子写真プロセスカートリッジを組み込んだ。その後、厚口用紙(商品名:CS−814 A4)に、平均画像濃度0.6の均一なハーフトーン画像を10枚印刷した。
【0073】
ここで平均画像濃度は、以下のように求める。
得られた画像について、左上から順に5cm×5cmの領域に分割し、各領域の中心における濃度を、反射濃度計(商品名:X−Rite504、X−Rite社製)で測定した。また、画像右側および下側で5cmに満たない部分については測定しなかった。各領域における測定値を相加平均して得られた値をその画像の平均画像濃度とした。
【0074】
この評価用画像において、10枚目のハーフトーン画像について、以下の基準により評価を行った。
A:目視で画像にムラが見られないレベル
B:目視で画像にほとんどムラがなく、実用上問題ないレベル
C:目視で画像にムラがあることが分かるレベル
D:目視で画像にはっきりとムラがあることが分かるレベル
得られた評価結果を、表6に示す。
【0075】
(リークの評価方法)
上述した濃淡ムラ評価で得られた計10枚のハーフトーン画像について、以下の基準により評価を行った。
A:10枚いずれの画像においても問題ないレベル
B:3枚目までの画像にのみ、リーク起因の横スジがみられた
C:4枚目以降の画像においても、リーク起因の横スジが認められた
得られた評価結果を、表6に示す。
【0076】
〔実施例2〜13、比較例1〜16〕
実施例1のカーボンブラック1、カーボンブラック2の種類および配合部数を表6に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で弾性層ローラ及び現像ローラを作製し、評価を行った。得られた評価結果を表4から6に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
実施例および比較例の結果から弾性層のチャージアップ評価と画像の濃淡ムラとの相関が非常に高いことが分かる。
【0081】
また、比較例1から9より、液状シリコーンゴムに混合する2種のカーボンブラックの内、いずれか一方のDBP吸油量が本発明の範囲から外れると、平均電位が高くなる、すなわちチャージアップしやすくなっていることが分かる。また、チャージアップしやすいローラほど、チャージアップムラも悪くなることが分かる。
【0082】
また、比較例10から15では、DBP吸油量が20ml/100g以上、50ml/100g以下の第一のカーボンブラックの配合量に着目しているが、配合量が6質量部以下では平均電位が非常に高く、かつチャージアップムラも悪化していることが分かる。これは上述したように、弾性層表面近傍が導電性を示すために必要なカーボンブラックの量に達していないことに起因すると思われる。また、第一のカーボンブラックの配合量が14質量部を超えるとリーク起因の横スジが確認される。
【0083】
比較例16は、第一のカーボンブラックのみで成形した弾性層を用いているが、平均電位が高く、チャージアップムラも悪いことが分かる。これは、表面近傍の導電経路は十分に形成されているものの、弾性層内部の導電経路を形成する第二のカーボンブラックが存在しないため、弾性層表面から導電性軸芯体までの導電経路が不十分なためと考えられる。
【符号の説明】
【0084】
11 軸芯体
12 弾性層
13 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の軸芯体、カーボンブラックを含む弾性層および該弾性層の外周に形成された導電性の表面層をこの順番で有する現像ローラであって、
該弾性層は、
DBP吸油量が20ml/100g以上、50ml/100g以下の第一のカーボンブラックと、DBP吸油量が150ml/100g以上、220ml/100g以下である第二のカーボンブラックとを含む液状シリコーンゴムの硬化物からなり、
該液状シリコーンゴムは、該第一のカーボンブラックを、該液状シリコーンゴムの100質量部に対して6.5質量部以上、14質量部以下の割合で含んでいるものであることを特徴とする現像ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45012(P2013−45012A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183824(P2011−183824)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】