説明

現像剤特性の測定方法

【課題】試料である紛体の表面に影響を与えることなく、帯電し易い現像剤粒子の特性を正確に測定すること。
【解決手段】被測定物である紛体を帯電状態により分類して、ほぼ帯電量ゼロの試料を捕獲作成し、該捕獲作成について特性値を測定するようにし、又、被測定物である紛体をほぼ一定速で落下させ、落下方向と垂直な方向に電界を作用させ、該電界により紛体の落下位置を変え、紛体を帯電状態により分類し、更に、前記特性値は、2つの物質間に発生する接触電位差であるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機、レーザプリンタなどの電子写真システムに用いられるトナーやキャリアなど現像剤の特性値の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成プロセスでは、感光体上に均一帯電した後画像露光して静電潜像を形成し、この潜像を静電荷像の極性に応じて正又は負の電荷が与えられたトナーによって現像し、次いで得られたトナー像を紙等に転写、定着して出力画像を得るようにしている。このようなシステムで安定した画像を得るには、トナーを所望の値に安定して帯電させることが重要であり、材料設計における特性制御のための帯電特性の定量的評価が重要な課題となりつつある。
【0003】
トナーに電荷を与える方法としては、二成分現像においてはトナーとキャリア、一成分現像においてはトナーと現像ローラ又は規制部材との摩擦帯電を利用している。摩擦帯電のメカニズムについては完全には解明されていないが、様々な研究がなされており、接触する2つの物質の仕事関数差と帯電量との相関性に関する報告が多くある。即ち、仕事関数は、粉体粒子の帯電符号及びその程度を評価する上での基本的特性の1つであり、精度及び再現性に優れた測定法が望まれている。
【0004】
従来、仕事関数を測定する方法として、特許文献1には、試料である粉粒体を2つの電極の間に挟み、電極間に電圧を印加した状態で電極の距離を変化させるように振動させたときに流れる電流を測定し、電流の測定値がゼロとなるように電圧を調整したときの電圧値から粉粒体と電極表面との間の接触電位差を求める方法が記載されている。ここで、電極の仕事関数を予め求めておけば、接触電位差から試料の仕事関数が求まるが、試料である紛粒体が帯電していると、帯電による電位が接触電位差に加算され、真の接触電位差が得られないという問題があった。
【0005】
このような問題点を解決する方法として、特許文献2には、高分子粉体を該高分子のガラス転移点近傍の温度で熱処理して除電することが記載されている。又、特許文献3には、高分子粉体を粉体粒子の表面にのみ揮発性極性溶媒分子が吸着されるように極性溶媒蒸気で処理して除電することが記載されている。又、特許文献4には、粉体を測定用電極セル内に層状に充填した状態で交流コロナ放電に付して除電することが記載されている。更には、特許文献5には、粉体或いは粉体周囲に軟X線を照射して除電することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2977596号公報
【特許文献2】特開平7−244015号公報
【特許文献3】特開平7−244016号公報
【特許文献4】特開平7−244017号公報
【特許文献5】特開平9−61400号公報
【特許文献6】特開平1−138450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の方法や、特許文献3に記載の方法では、種々の機能付与のために紛体表面に付着させた微粒子の付着状態などが変化し、実使用状態での接触電位差が測れない。特許文献4に記載の方法では、電極に高電圧を印加するため、雰囲気中の塵などの微粒子を静電吸着し、これらの微粒子が試料の表面を汚染したり、周囲の温度、湿度等によりイオン発生量や正負各イオン濃度のバランスが変化し、場合によっては、被除電物の表面を中和せずに逆に帯電させてしまい、真の接触電位差が測れない。
【0008】
特許文献5に記載の方法では、軟X線発生のための放電管の寿命が短いため、メンテナンス上の問題があるとともに、装置の構造上の問題として、軟X線を取り出す窓材の材質に制限がある等運用上の問題があった。又、共通の問題点として、除電状況の確認が難しく、帯電量が不明な状況において除電処理をどの程度の時間行えば良いか不明であるという問題もあった。即ち、電子写真システムの現像剤のように帯電し易い材料の測定が難しかった。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、試料である紛体の表面に影響を与えることなく、帯電し易い現像剤粒子の特性を正確に測定することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を達成するために、請求項1に記載の発明においては、被測定物である紛体を帯電状態により分類して、ほぼ帯電量ゼロの試料を捕獲作成し、特性値を測定するようにしたことを特徴とする。
【0011】
又、請求項2に記載の発明においては、被測定物である紛体をほぼ一定速で落下させ、落下方向と垂直な方向に電界を作用させ、該電界により紛体の落下位置を変え、紛体を帯電状態により分類するようにしたことを特徴とする。
【0012】
又、請求項3に記載の発明においては、前記特性値として、2つの物質間に発生する接触電位差を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、請求項1に記載の方法によれば、試料な中から帯電量ゼロの試料だけを取り出して測定するので、帯電の影響を受けずに真の特性値が測定できる。
【0014】
又、請求項2に記載の方法によれば、被測定物である紛体をほぼ一定速で落下させ、電界により紛体の落下位置を変え、紛体を帯電状態により分類するようにしたので簡単な構造の装置で分類できる。
【0015】
又、請求項3に記載の方法によれば、特性値として接触電位差を測定するようにしたので、予め電極の仕事関数を求めておけば、被測定物の仕事関数が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、電子写真システムの現像剤である紛体試料の仕事関数の測定を例に挙げて説明する。
【0017】
図1は、本発明の特性測定に用いる接触電位差測定装置の構成を示す図である。
【0018】
図1において、1は被測定物である紛体試料、10は紛体を支持する下部電極、11は紛体試料1を挟んで下部電極10と対向して配置される上部電極、12は上部電極11を下部電極10との距離が変化するように振動させる振動装置、13は上部電極11を下部電極10の間に電圧を印加するバイアス電源、14はバイアス電源13の電圧を測る電圧計、15は電極間に流れる電流を測る電流計である。
【0019】
同図において、紛体試料1と上部電極11はコンデンサーを形成しており、紛体試料1と上部電極11の仕事関数Ws、Wuが異なると、±Qの電荷が両極板に蓄積される。この両極板に蓄積された電荷Qは、Q=CΔVで与えられ、Cはコンデンサーの容量、ΔV≡(Ws−Wu)/e、(eは電荷素量)は両極の仕事関数差に相当する接触電位差である。バイアス電源13から電圧Vbを加え、振動装置12により、上部電極11を振動させると、Cが周期的に変るため、Qも増減し、交流電流Id=dQ/dt=(dC/dt)・(ΔV−Vb)が回路に流れる。Vbを調節してVb=ΔVとすると、両極板に蓄積した電荷Q=0となり、従ってId
も0となり、このVbからΔVが求められる。
【0020】
このとき、上部電極11の仕事関数Wuを予め測定しておけば、紛体試料1の仕事関数Wsは、Ws=Wu+eΔVとして決定できる。上部電極11の仕事関数Wuを求めるには、特許文献6にあるような、光電子放出の閾値から求められる。
【0021】
図2は、本発明の特性測定に用いる均一帯電試料作成装置の構成を示す図である。
【0022】
図2において、2は試料作成を行う紛体、30は紛体2をセットするセット部、31はパルス状の圧縮エアーを発生させる圧縮エアー発生器、32は圧縮エアー発生器31で発生したパルス状の圧縮エアーを紛体2に噴射するエアーノズル、33は外気を取り込む吸気口であり、セット部30内でエアーにより舞い上げられた紛体2がセット部30の外に漏れ出すの防ぐフィルタが設けられている。
【0023】
40は、紛体2をその帯電量に応じて分類・捕獲する選別部、41はセット部30内で舞い上げられた紛体2を選別部40に絞られた細い気流として導入する導入管、42は負電極、43は正電極で、負電極42と正電極43には電界電源44が接続され、負電極42と正電極43の間に電界を発生させられるようになっている。45は試料収集ステージで、電界により分類された紛体2を選択的に捕獲するために、前述した下部電極10を位置決めするとともに、加重測定の機能を有し、捕獲した試料の重量を測定できる構成となっている。又、46は吸引装置で、選別部40内のエアーを吸引して負圧を発生させ、該負圧によりセット部30内で舞い上げられた紛体2を選別部40に導入する構成となっている。
【0024】
次に、図3及び図4を用いて、選別部40の動作について説明する。
【0025】
図3は、電界による帯電粒子の分類を説明する図である。
【0026】
図3において、帯電粒子は質量mで、帯電量eの電荷を有し、又、帯電粒子は直径10μm以下で重力加速度の影響は殆ど無視でき、気流の速度vで導入管41から鉛直方向に等速落下する。負電極42と正電極43及び電界電源44による電界Eは、高さZ=ZsからZeまでのdZの区間で帯電粒子に作用している。ここで、帯電粒子に掛かる力Fは、F=eEであり、粒子の質量はmであるので、粒子には電界Eと平行な方向に、α=eE/mの加速度αが作用する。ここで、粒子がZ=ZsからZeに移動する時間は、t=dZ/vであるので、電界の下端Z=Zeにおける鉛直軸からのずれ量dXは、dX=α×t2/2=eE/m×(dZ/v
)であり、E、dZ、vは粒子のばらつきには関係しない値であるので、dXは、荷電比(質量あたりの電荷量)e/mに比例する。
【0027】
即ち、粒子が帯電して電荷を持っている場合は、図4(a)に示すように、帯電の極性によって、負帯電の場合は正電極43の方向に、正帯電の場合は負電極42の方向に導入管44の鉛直線からずれた位置に落下する。又、粒子が無帯電で電荷を持たない場合は、電界の影響を受けないので、図4(b)に示すように、導入管44の鉛直方向に落下する。ここで、試料収集ステージ45により、紛体試料1を支持する下部電極10を導入管44の鉛直下方に配置し、試料収集ステージ45に設けられた負図示の加重センサが所定の値になるまで試料を収集して紛体試料1を作製し、前述した接触電位差測定装置に掛けて紛体試料1の接触電位差を測定した後、既知の上部電極11の仕事関数との差から紛体試料1の仕事関数を求める。
【0028】
以上説明したように、被測定紛体をその帯電状態により分類し、帯電していない粒子だけを集めて紛体試料1を作製し、該無帯電な紛体試料1だけを測定するようにしたので、電子写真システムの現像剤のように帯電し易い材料に対しても帯電の影響を受けずに正確な仕事関数が測定できる。
【0029】
尚、本実施の形態においては、試料を帯電状態により分類する装置と、試料の特性を計測する装置を別々の装置としたが、試料を帯電状態により分類する装置に、特性の測定装置を組み込んで、試料収集時は電極に試料が接触しないように退避させても良い。この場合、一つの装置内で全ての動作が可能なので、外部からの異物の混入等の外乱を排除できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】接触電位差測定装置の構成を示す図である。
【図2】均一帯電試料作成装置の構成を示す図である。
【図3】電界による帯電粒子の分類を説明する図である。
【図4】帯電粒子の移動を表す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 紛体試料
10 下部電極
11 上部電極
12 振動装置
13 バイアス電源
14 電圧計
15 電流計
30 セット部
31 圧縮エアー発生器
32 エアーノズル
33 吸気口
40 選別部
41 導入管
42 負電極
43 正電極
44 電界電源
45 試料収集ステージ
46 吸引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物である紛体を帯電状態により分類して、ほぼ帯電量ゼロの試料を捕獲作成し、該捕獲作成について特性値を測定するようにしたことを特徴とする現像剤特性の測定方法。
【請求項2】
被測定物である紛体をほぼ一定速で落下させ、落下方向と垂直な方向に電界を作用させ、該電界により紛体の落下位置を変え、紛体を帯電状態により分類することを特徴とする請求項1記載の現像剤特性の測定方法。
【請求項3】
前記特性値は、2つの物質間に発生する接触電位差であることを特徴とする請求項1記載の現像剤特性の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−220470(P2006−220470A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32657(P2005−32657)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】