説明

球状銀粒子及び該銀粒子の製造方法並びに製造装置

【課題】分散性に優れた適度な粒子径を有し、かつ加熱処理時の収縮率が低い球状銀粒子及び該球状銀粒子の製造方法並びに製造装置を提供する。
【解決手段】球状の結晶子集合体である中心部11と、中心部11の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部12とを有する。球状銀粒子10の平均粒子径は0.08μm〜1.0μmであり、断面組織観察における中心部11の直径は球状銀粒子10の直径の0.75〜0.99倍であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性に優れた適度な粒子径を有し、かつ加熱に対する良好な収縮耐性を有する銀粒子及び該銀粒子の製造方法に関する。更に詳しくは、電子デバイスの配線材料や電極材料となるペースト成分として好適な粒子径と分散性を有し、かつ加熱処理時の収縮率が低い球状銀粒子及び該銀粒子の製造方法並びに製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化を図るために、電子デバイスの小型化と高密度化が要請されており、配線及び電極のファイン化を達成するために、これらを形成するペースト材料に用いられる銀粒子についても、より微細で高分散性の微粒子が求められている。一方で、微粒子は加熱処理すると、粉末の収縮率が大きく、配線が細くなって高抵抗になったり、断線したりする問題がある。その理由は、次の通りである。通常、銀粒子を含む導電ペーストにより形成した微細な配線は、製造工程における乾燥又は加熱処理によりペースト中の導電阻害物である溶剤や樹脂が揮発又は燃焼消失するとともに、微粒子同士の表面の銀が拡散接合することで導電性が向上する。しかし、収縮率が大きい微粒子を用いると、乾燥又は加熱処理によって微粒子が収縮する際に、隣接する微粒子同士が接合して引き寄せられる。これにより、形成後の配線において局所的に微粒子同士が集まった箇所が生じる。その一方で、引き寄せられた微粒子が存在していた箇所では配線が細くなり、くびれが生じる。このような配線に通電すると、くびれの部分に電流が集中してしまうため高抵抗になったり、また、収縮が激しい場合には断線して完全に導通を失ったりしてしまう。
【0003】
従来、電子機器材料に用いられる銀粒子の製造方法として、銀塩のアンミン錯体を還元して銀粒子を沈澱させ、これを洗浄乾燥して平均粒径が数μm程度の銀粒子を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、還元剤にヒドロキノンに加え、更に亜硫酸アンモニウム等を加えることによって、平均粒径1μm以下の銀粒子を得る方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、還元剤としてヒドロキノンを用い、ここにNaOH等のアルカリを加えて、酸化還元電位を制御し、なおかつ銀溶液と還元剤溶液を空中に吐出して衝突混合させることで、平均粒径1μm以下で5μm以上の粗大粒子を含まない銀粒子の製造方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−107101号公報(請求項4,5及び段落[0023])
【特許文献2】特開平8−92612号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2008−050697号公報(段落[0006]及び段落[0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示された製造方法では、平均粒径1μm以下の微粒子を安定して得るのが困難であり、また、粒度分布が広く、しかも粒子が凝集し易いため、粒径が均一で1μm以下の微細な銀粒子を製造するのが難しいという問題がある。また、上記特許文献2に示された方法で製造された銀粒子をペースト原料として用いた場合、分散性に乏しい等の問題がある。更に、上記特許文献3に示された方法で製造された銀粒子をペースト原料として用いた場合、銀粒子の焼成時における収縮率が高く、高抵抗化や断線等の不具合を招きやすい。
【0006】
本発明の目的は、分散性に優れた適度な粒子径を有し、かつ加熱処理時の収縮率が低い球状銀粒子を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、分散性に優れた適度な粒子径を有し、かつ加熱処理時の収縮率が低い球状銀粒子が安定して得ることができる球状銀粒子の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、球状の結晶子集合体である中心部と、中心部の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部とを有する球状銀粒子である。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に球状銀粒子の平均粒子径が0.08μm〜1.0μmであり、断面組織観察における中心部の直径が球状銀粒子の直径の0.75〜0.99倍であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に550℃の温度で10分間加熱した時の収縮率が2〜5%であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点の球状銀粒子を製造する方法であって、銀を含む第1溶液とヒドロキノンを含有する第2溶液を、第1溶液中の銀1molに対する第2溶液中のヒドロキノンが0.25〜0.45molの範囲内となるように、第1溶液と第2溶液をそれぞれ別々に噴射して空中で衝突混合させる工程と、第1溶液及び第2溶液の混合液を、10℃以下に冷却した液体中に落下させる工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の観点は、第1溶液と第2溶液をそれぞれ別々に噴射し、空中で衝突混合させて混合液にする第1ノズル及び第2ノズルと、空中で落下する混合液を受ける受槽とを備える球状銀粒子の製造装置において、受槽は受槽内の合成液を10℃以下に保つ冷却機構と、受槽内の合成液を受槽の底部から抜き取る吐出口とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の球状銀粒子では、球状の結晶子集合体である中心部と、中心部の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部とを有する構造をとることにより、外周部に結晶性の高い組織が配置されるため、加熱による収縮率を低下させることができる。
【0014】
本発明の第3の観点の球状銀粒子では、550℃で10分加熱した際の収縮率が2〜5%と低いため、これを用いて製造した導電ペーストにより微細な配線や電極等を形成すれば、配線や電極等の製造工程における加熱処理時の断線や高抵抗化を抑制できる。
【0015】
本発明の第4の観点の製造方法では、銀アンミン錯体水溶液と還元剤溶液を空中に吐出し混合する際に、銀1モルに対して還元剤はヒドロキノン0.25〜0.45モルのみとし、補助還元剤等は用いないため、還元剤の使用量を抑制し、製造コストを低減させることができる。
【0016】
本発明の第5の観点の製造方法では、第1溶液と第2溶液をそれぞれ別々に噴射し、空中で衝突混合させて混合液にする第1ノズル及び第2ノズルと、空中で落下する混合液を受ける受槽とを備える球状銀粒子の製造装置において、受槽は受槽内の合成液を10℃以下に保つ冷却機構と、受槽内の合成液を受槽の底部から抜き取る吐出口とを備えることにより、本発明の第1ないし第3の観点の球状銀粒子を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例2の球状銀粒子の断面構造をTEMにより観察した写真図である。
【図2】実施例3の球状銀粒子の断面構造を表した模式図である。
【図3】本発明の製造装置における主要部を示す模式図である。
【図4】本発明の製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように、本発明の球状銀粒子10は、球状の結晶子集合体である中心部11と、中心部11の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部12とを有する構造からなる。通常の球状銀粒子は、図示しないが、その断面を透過電子顕微鏡(以下、TEMという)により観察すると、全領域で球状の結晶子の集合体のような構造になっているのが一般的である。一方、本発明の球状銀粒子10は、球状の結晶子集合体からなる中心部11と、中心部を構成する結晶子よりも大きい棒状の結晶子が、この中心部11の外周に放射状に配置された構造になっている。球状の結晶子集合体からなる中心部11を覆うように、この棒状の結晶子が放射状に配置された構造になることで、本発明の球状銀粒子10は、その外周に結晶性の高い組織が配置される。これにより、従来のものに比べて加熱による収縮率を低下させることができる。
【0019】
一般的な球状銀粒子の収縮率は、例えば550℃で10分加熱した場合、6〜15%である。一方、本発明の球状銀粒子の場合、同条件で加熱した際の収縮率は2〜5%程度である。そのため、本発明の球状銀粒子を用いて製造した導電ペーストにより微細な配線や電極等を形成すれば、配線や電極等の製造工程における加熱処理時の断線や高抵抗化を抑制できる。
【0020】
本発明の球状銀粒子10の平均粒子径は、好ましくは0.08μm〜1.0μmであり、更に好ましくは0.1〜0.6μmである。また、断面組織観察における中心部11の直径は、好ましくは、球状銀粒子10の直径の0.75〜0.99倍、更に好ましくは0.80〜0.95倍である。断面組織観察における中心部11の直径が、0.75倍未満では、導電ペーストに用いる銀粒子として性能上、特に問題はないが、銀粒子の生成時に還元剤が不足して全量の銀を回収できず、製造コストが高くなるため好ましくない。一方、0.99倍を越えると、球状銀粒子10は、その殆どが中心部11により構成されることになり、上記効果が得られ難いからである。なお、本明細書中、平均粒子径とは、走査電子顕微鏡(以下、SEMという)により観察し、得られた顕微鏡写真の画像において、任意に選択した50個の粒子の粒径を実測したときのその平均値をいう。また、球状銀粒子10の中心部11の直径は、球状銀粒子10を収束イオンビーム装置(以下、FIB装置という)等により切断し、その断面径をTEMによる観察によって測定した直径をいう。また、加熱収縮率は、加熱ステージを備えたSEMにて観察し、得られた顕微鏡画像において、加熱前後の粒子径を比較することにより算出した粒子径の収縮率をいう。
【0021】
次に、本発明の球状銀粒子の製造方法及び製造装置について説明する。先ず、本発明の球状銀粒子を製造するために用いる製造装置について説明する。図4に示すように、本発明の製造装置20は、互いに斜め下方に向かって相対する第1ノズル21及び第2ノズル22を備える。また、貯槽23,24と、貯槽23,24から第1ノズル21又は第2ノズル22に溶液を供給する管路25,26と、管路25,26に設けた送液ポンプ27,28と、送液ポンプ27,28と第1ノズル21又は第2ノズル22の間に設けられた調整部29,30と、第1ノズル21及び第2ノズル22の下方に設置された受槽50とを備える。
【0022】
そして、図3に示すように、第1ノズル21、第2ノズル22から第1溶液41、第2溶液42がそれぞれ別々に噴射され、これらは空中で衝突混合され、混合液43となった後、この混合液43は、落下して受槽50に貯留される。また、第1ノズル21及び第2ノズル22は、ノズル角θとノズル間距離hが、自由に調整できように配置される。受槽50は、受槽50内の混合液43を10℃以下に保つ冷却機構を備えている。冷却機構は、特に限定されないが、例えば、受槽50の壁内部に冷却管52が配置されたジャケット構造になっており、冷媒を冷却管52を通して受槽50の壁内部に導入する導入口51と、これを導出する導出口53とを備える。また、受槽50内に貯留された合成液を速やかに受槽50から取り出し可能な吐出口54を備える。
【0023】
続いて、この製造装置20を用いて本発明の球状銀粒子を製造する方法について説明する。本発明の球状銀粒子は、銀アンミン錯体を還元して銀粒子を析出させることにより得られる。即ち、銀を含む第1溶液と還元剤であるヒドロキノンを含有する第2溶液とを所定の条件で混合し、銀粒子を析出させる方法である。
【0024】
銀を含む第1溶液として好適な溶液には、硝酸銀溶液にアンモニア水溶液を混合して調製した銀アンミン錯体水溶液が挙げられる。この銀アンミン錯体水溶液の銀濃度は20〜180g/Lの範囲内であることが好ましく、例えば銀濃度が34〜200g/Lの硝酸銀溶液にアンモニア水溶液を混合することにより調製することができる。一方、還元剤溶液となる第2溶液は、還元剤であるヒドロキノンをイオン交換水で溶解させることにより調整される。
【0025】
この第1溶液、第2溶液は、上述の図4に示す製造装置20の貯槽23,24に貯えられ、送液ポンプ27,28により、管路25,26を通って第1ノズル21、第2ノズル22まで送り出される。第1ノズル21、第2ノズル22から噴射する第1溶液41、第2溶液42の流量は調整部29,30によって適宜調整され得る。第1ノズル21、第2ノズル22からそれぞれ別々に噴射された第1溶液41、第2溶液42は、空中で衝突混合される。本発明の製造方法において、還元剤であるヒドロキノンの使用量は、還元する銀1molに対して0.25〜0.45molである。通常、銀1molに対し、これを還元するために必要と考えられているヒドロキノンの量は0.5molとされているが、本発明の製造方法では、この0.5molよりも少ない量で、補助還元剤等を加えることなく反応させることができる。これは、ヒドロキノンの酸化体であるベンゾキノン、即ちヒドロキノンが銀アンミン錯体を還元し、自身が酸化されて発生するベンゾキノンが、更に銀を還元するからである。ベンゾキノンの還元力はさほど強くはないが、銀は酸化還元電位が貴な金属であり、金属銀に還元されやすいため、銀アンミン錯体はベンゾキノンによっても容易に銀に還元され得る。これにより、本発明の製造方法では、ヒドロキノンの使用量を低減させることができ、製造コストを削減できる。本発明の製造方法において、銀1モルに対して還元剤を0.25〜0.45モルとしているのは、0.25モルを下回ると還元剤が不足し全量の銀を還元できず回収率が低下してしまう不具合があるためであり、0.45モルを超えると粒子が中心部11と外周部12との2層構造にならず、加熱収縮率が大きくなってしまうためである。
【0026】
第1ノズル21、第2ノズル22からの第1溶液41、第2溶液42の流量は、製造される銀粒子の粒度分布を考慮し、また、銀1molに対するヒドロキノンの使用量が上述した範囲内となるように適宜調整され得る。具体的には、銀を含む第1溶液と還元剤溶液である第2溶液を同じ流量でそれぞれのノズルから噴射して混合する場合には、例えば第1溶液中の銀濃度が20g/Lのとき、第2溶液中のヒドロキノンの濃度を5.1〜9.2g/Lとすれば良い。また、第1溶液中の銀濃度が180g/Lのときは、第2溶液中のヒドロキノンの濃度を45.9〜82.7g/Lにする。また、第1溶液と第2溶液は、同じ流量で噴射して混合する必要はなく、第1溶液に対して第2溶液を3倍の流量で噴射して混合する場合には、例えば第1溶液中の銀濃度が180g/Lのとき、第2溶液中のヒドロキノンの濃度を15.3〜27.6g/Lとすれば良い。
【0027】
また、図3において、ノズル角θを小さくしてノズル間距離hを大きくし、流圧を調整して流量を減少することによって、粒径が大きくなり、粒度分布は広がる傾向になる。一方、ノズル角θを大きくしてノズル間距離hを小さくし、流量を増加すると、粒径が小さくなり、粒度分布は狭くなる傾向になる。そのため、ノズル角θは45〜150度、ノズル間距離hは0.5〜20mmの範囲とすることが好ましい。第1溶液41、第2溶液42の流圧は、それぞれ0.5〜20kPa、0.5〜60kPaの範囲とするのが好ましい。また、第1溶液41、第2溶液42の流量は、それぞれ0.5〜15L/分、0.5〜45L/分とするのが好ましい。
【0028】
このような条件で、第1ノズル21、第2ノズル22から噴射し、空中で衝突混合させた第1溶液41及び第2溶液42の混合液43は、受槽50内に予め貯えられ、10℃以下に冷却した液体中に落下させる。温度を10℃以下とすることにより、図1又は図2に示すような、中心部11の結晶子集合体を構成する球状の結晶子と異なり、この結晶子よりも大きい棒状の結晶子が、中心部11の外周に、球の中心から放射状に成長する構造の球状銀粒子10を得ることができる。その技術的な理由は、ベンゾキノンによる銀イオンの還元速度は温度による影響を強く受け、液温が10℃を上回ると、ヒドロキノンによる銀イオンの還元速度と同等になり、銀粒子の全領域において同じ結晶子が成長する。しかし、10℃以下になると、ベンゾキノンによる還元速度が極端に低下してゆっくりと結晶子が成長し、この結晶性の高い結晶子が、中心部の外周に成長するからであると推定される。このため、混合液43を落下させる液体の液温は10℃以下とする。液温が10℃を超えると、製造される銀粒子が上記2層構造にならず、本発明の効果が得られない。一方、液温の下限値については、特に限定する必要はないが、冷却コストの問題や、受槽50の底部からポンプによって合成液を吐出させることを考慮すると、0℃程度までが妥当である。受槽50内に予め貯えられた液体には水の他、水とメタノール又はエタノールとの混合物や、後述する固液分離によって生じる排液等も使用できる。混合液43を直接受槽50内に落下させずに、予め受槽50内貯えられた液体中に落下させる理由は、落下中の混合液43中では還元反応が完了しておらず、直接受槽50内に落下させると、受槽50壁面に銀が析出し、これが剥がれると粗大な扁平状の銀が混入する不具合が生じるためである。
【0029】
受槽50内における銀が析出する合成液は、図3に示す受槽50の底部に備える吐出口54から容易に取り出され、これを固液分離することにより、銀粒子を回収することができる。回収した銀粒子は、その後、アルカリ洗浄、アミド系溶剤洗浄又は強還元剤水溶液洗浄等の洗浄工程を経ることにより、粒子表面の有機物が除去される。以上の工程により本発明の球状銀粒子が得られる。なお、本発明の製造方法では、還元反応により生成するベンゾキン又はベンゾキノンの酸化生成物が球状銀粒子の表面に付着し、球状銀粒子同士の凝集を妨げるため、何れの工程においても分散剤を用いる必要はない。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0031】
<実施例1>
先ず、銀濃度が200g/Lの硝酸銀水溶液に、銀1molに対するアンモニアの量が3.0molとなるように、濃度が25g/Lのアンモニア水溶液を添加混合し、更にイオン交換水を加えて、銀濃度が100g/Lの銀アンミン錯体水溶液を調製し、これを第1溶液とした。一方、ヒドロキノンをイオン交換水で溶解し、濃度が25.5g/Lのヒドロキノン水溶液を調製し、これを第2溶液とした。
【0032】
次に、図4に示す製造装置20の貯槽23,24に、上記調製した第1溶液、第2溶液をそれぞれ貯え、送液ポンプ27,28により、管路25,26を通って第1ノズル21、第2ノズル22まで送り出した。そして、第1ノズル21、第2ノズル22から、第1溶液41、第2溶液42を、それぞれ別々に噴射し、空中で衝突混合させて混合液43とした。このとき、第1ノズル21、第2ノズル22からの第1溶液41、第2溶液42の流量は、共に7.5L/分とした。即ち、銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.25molとした。また、第1溶液41、第2溶液42の流圧はいずれも5kPaとした。また、図3における第1ノズル21、第2ノズル22のノズル角θは90度とし、ノズル間距離hは2mmとした。衝突混合させた混合液43は、図3に示す、冷却機構を有する受槽50内に、予め5℃に温度に調整された水中に落下させた。
【0033】
次いで、受槽50内の銀が析出する合成液を、受槽50底部に備える吐出口54から取り出し、これを固液分離により固形物を回収した。回収した中の銀1gに対して、濃度4g/Lの水酸化ナトリウムの量が4mLとなるように混合して洗浄し、銀粒子表面に付着する有機物を取り除き、これを更に遠心分離機で固液分離した。この洗浄から固液分離までの工程を1サイクルとし、これを3サイクル繰り返し行った。最後に、洗浄後の固形物を50℃で熱風乾燥することにより、銀粉末を得た。
【0034】
<実施例2>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を30.6g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.30molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0035】
<実施例3>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を37.5g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.35molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0036】
<実施例4>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を40.8g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.40molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0037】
<実施例5>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を45.9g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.45molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0038】
<実施例6>
受槽50内の水の温度を予め1℃に設定したこと以外は、実施例3と同様に、銀粉末を得た。
【0039】
<実施例7>
受槽50内の水の温度を予め10℃に設定したこと以外は、実施例3と同様に、銀粉末を得た。
【0040】
<比較例1>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を15.3g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.15molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0041】
<比較例2>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を20.4g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.20mol以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0042】
<比較例3>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を51.0g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.50molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0043】
<比較例4>
第2溶液中のヒドロキノン濃度を56.1g/L、即ち銀1molに対するヒドロキノンの使用量を0.55molとしたこと以外は、実施例1と同様に、銀粉末を得た。
【0044】
<比較例5>
受槽50内の水の温度を予め15℃に設定したこと以外は、実施例3と同様に、銀粉末を得た。
【0045】
<比較試験及び評価>
実施例1〜7及び比較例1〜5で得られた銀粉末における球状銀粒子の平均粒子径、平均粒子径に対する中心部の直径、球状銀粒子の加熱収縮率を求めた。また、これらの銀粉末を用いて作製した配線における断線について評価した。これらの結果を以下の表1に示す。
【0046】
(1) 球状銀粒子の平均粒子径:得られた銀粉末をSEMにより観察し、得られた顕微鏡写真の画像において、任意に選択した50個の粒子の粒径を実測し、これらの平均値を算出した。なお、顕微鏡写真の画像において粒子同士が重なって写っているものについては、可視部の曲率から補完して径を算出した。
【0047】
(2) 球状銀粒子の平均粒子径:得られた銀粒子を、収束イオンビーム装置(FIB装置)により切断し、その断面径をTEM観察により測定した。実施例2で得られた球状銀粒子の断面をTEMにより観察した顕微鏡写真の画像を図1に示す。また、実施例3で得られた球状銀粒子の断面を表した模式図を図2に示す。なお、中心部と外周部の境界は、得られた顕微鏡写真の画像から目視により判断した。
【0048】
(3) 加熱収縮率:加熱ステージを有するSEMを使用し、周辺の粒子と接触していない独立した単独粒子を発見した。そして、加熱ステージにより、550℃の温度で10分間保持する加熱処理前後の単独粒子の直径を、それぞれ顕微鏡写真の画像から測定し、これを比較することにより算出した。
【0049】
(4) 断線の有無:先ず、実施例1〜7及び比較例1〜5で得られた銀粉末70gと、平均分子量10万のエチルセルロースが10wt%となるようにαテレピネオールで溶解した液25gと、ガラスフリット5gとをロールミル混合し、それぞれの導電ペーストを得た。
【0050】
これらの導電ペーストを用いて、スクリーン印刷により、線幅50μm、長さ100mmのペースト状の線をガラス基板上に印刷した。次いで、これを100℃の温度で30分乾燥した後、550℃の温度で10分間焼成することにより配線を形成した。配線は、それぞれの導電ペーストに付き10点ずつ形成した。
【0051】
これらの配線について、形成された配線の両末端にテスターをあて、導通が得られなかった場合を断線と判断した。
【0052】
それぞれの導電ペーストに付き10点ずつ形成された配線の内、1点でも断線有りと判断された配線があった場合を「有」、10点すべての配線において断線無しと判断された場合を「無」と評価した。
【0053】
【表1】

表1から明らかなように、本発明の製造方法による実施例1〜7では、中心部と外周部を有する本発明の球状銀粒子が得られることが確認された。一方、銀1molに対するヒドロキノンの使用量が0.45molを超える比較例3,4、また、受槽内の水の温度が10℃を超える比較例5では、外周部の無い銀粒子が製造された。また、銀1molに対するヒドロキノンの使用量が0.25mol未満の比較例1,2では、中心部と外周部を有する本発明の球状銀粒子が得られるものの、銀を還元できず回収率が悪い結果となった。
【0054】
また、本発明の球状銀粒子は、加熱収縮率が2〜5%と低く、これを用いて形成した配線では、断線が確認されなかった。このことから、本発明の球状銀粒子は、微細な配線を形成するのに効果的であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の球状銀粒子は、小型化と高密度化が要請されている電子機器、電子デバイスの配線及び電極等を形成するためのペースト材料に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 球状銀粒子
11 中心部
12 外周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の結晶子集合体である中心部と、前記中心部の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部とを有する球状銀粒子。
【請求項2】
球状銀粒子の平均粒子径が0.08μm〜1.0μmであり、断面組織観察における中心部の直径が前記球状銀粒子の直径の0.75〜0.99倍である請求項1記載の球状銀粒子。
【請求項3】
550℃の温度で10分間加熱した時の収縮率が2〜5%である請求項1又は2記載の球状銀粒子。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の球状銀粒子を製造する方法であって、
銀を含む第1溶液とヒドロキノンを含有する第2溶液を、前記第1溶液中の銀1molに対する前記第2溶液中のヒドロキノンが0.25〜0.45molの範囲内となるように、前記第1溶液と前記第2溶液をそれぞれ別々に噴射して空中で衝突混合させる工程と、
前記第1溶液及び前記第2溶液の混合液を、10℃以下に冷却した液体中に落下させる工程と
を含むことを特徴とする球状銀粒子の製造方法。
【請求項5】
第1溶液と第2溶液をそれぞれ別々に噴射し、空中で衝突混合させて混合液にする第1ノズル及び第2ノズルと、空中で落下する前記混合液を受ける受槽とを備える球状銀粒子の製造装置において、
前記受槽は前記受槽内の合成液を10℃以下に保つ冷却機構と、
前記受槽内の合成液を前記受槽の底部から抜き取る吐出口と
を備えることを特徴とする球状銀粒子の製造装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−236007(P2010−236007A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84466(P2009−84466)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】