説明

球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法

【課題】熱処理を行なわない鋳放し状態において、高強度、高い伸びを有し、機械的性質がロバストな球状黒鉛鋳鉄、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】化学成分が質量%で、C:3.4〜4.0%、Si:2.4〜2.8%、Mn:0.2〜0.5%、Cu:0.4〜0.65%、Ni:1.0〜2.5%、Mg:0.02〜0.05%、S:0.005〜0.02%、残部Fe及び不可避の不純物からなる球状黒鉛鋳鉄、及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両部品等のように高強度かつ靭性の求められる機器を構成する球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄の一般的な特性として、強度が増加するのに反比例して伸びが低下することが知られている。高強度で同時に高い伸びを確保する従来の球状黒鉛鋳鉄技術では、鋳造後の熱処理、例えば焼き入れ焼き戻し(特許文献1参照。)やオーステンパ熱処理などに代表される工程が必要となり、製造工程を複雑なものとしているばかりでなくコスト高となってしまう。
また、熱処理を行なわず鋳放し状態において高強度で同時に高い伸びを確保するために、鋳鉄溶湯成分においてCuやNiなどの元素を添加する技術も知られている(特許文献2、3、4、5及び6参照。)。これらの技術には、鋳造品の肉厚、注湯温度、鋳型の種類などにより、鋳込んだ溶湯の冷却速度に差が生じ、強度や伸びなどの機械的性質が大きく変化してしまうという問題がある。
このような問題点を解決して、従来の技術において高い強度と伸びを得るために、肉厚の限定、鋳型材の工夫や型ばらし後に加熱して冷却速度を制御する方法(特許文献7及び8参照。)や、鋳型に冷やし金を配置する(特許文献9参照。)などの特別な工法が必要であった。
【特許文献1】特開平11−6026号公報
【特許文献2】特開昭64−245号公報
【特許文献3】特開平2−290943号公報
【特許文献4】特開平7−145444号公報
【特許文献5】特開2003−105484号公報
【特許文献6】特開2004−99923号公報
【特許文献7】特開平8−176656号公報
【特許文献8】特開2004−124225号公報
【特許文献9】特開2002−292453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、熱処理を行なわない鋳放し状態において、高強度でかつ高い伸びを有する球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法を提供することであり、鋳造品の肉厚や鋳型の種類に依存する冷却速度の制約を受けにくい適切な溶湯成分にすることにより機械的性質がロバストな球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明は、次の(1)〜(3)に示すものである。
(1) 化学成分が質量%で、C:3.4〜4.0%、Si:2.4〜2.8%、Mn:0.2〜0.5%、Cu:0.4〜0.65%、Ni:1.0〜2.5%、Mg:0.02〜0.05%、S:0.005〜0.02%、残部Fe及び不可避の不純物からなる球状黒鉛鋳鉄。
(2) 前記(1)の球状黒鉛鋳鉄の製造方法であって、黒鉛球状化処理前におけるSの割合が0.01〜0.02質量%の鋳鉄溶湯を黒鉛球状化処理して、Sの割合を0.005〜0.02質量%とした後、接種処理し、次いで鋳型に注湯し冷却すること、を特徴とする前記方法。
(3) 黒鉛球状化処理後におけるSの割合を0.005〜0.013質量%とする、前記(2)の球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、(熱処理を行なわない)鋳放しで高い強度と同時に高い伸びを得ることができ、尚かつ鋳造品の肉厚や鋳型による冷却速度に影響を受けにくい球状黒鉛鋳鉄を得ることができる。これによって、球状黒鉛鋳鉄を用いた部品を形状などの制約が少なくて済むことにより、より形状設計の自由度が増し、軽量化設計など部品の機能向上に対しての対応が容易となるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、C:3.4〜4.0質量%、Si:2.4〜2.8質量%、Mn:0.2〜0.5質量%、Cu:0.4〜0.65質量%、Ni:1.0〜2.5質量%、Mg:0.02〜0.05質量%、S:0.005〜0.02質量%、残部Fe及び不可避の不純物からなり、化学成分の配合バランスを最適化して高い強度と伸びを容易に実現することができる。
Cは3.4質量%未満では鋳造性が悪くなるばかりでなく、黒鉛粒の生成が減少するので良好な黒鉛球状化の妨げとなる。また、4.0質量%を超えると、キッシュ状黒鉛や浮上黒鉛が出やすく、強度と伸びが低下する。
Siは2.4質量%未満では炭化物が生成しやすく伸びが低下する。また、2.8質量%を超えると、シリコフェライトの影響で伸びが低下する。
Mnは0.2質量%未満ではMnの効果がなく強度が得られない。また、0.5質量%を超えると、パーライトが多くなり伸びが低下する。
Cuは0.4質量%未満ではCuの効果がなく強度が得られない。また、0.65質量%を超えると、パーライトが多くなり伸びが低下する。
Niは1.0%質量未満ではNiの効果がなく強度が得られない。また、2.5質量%を超えると、パーライトが多くなり伸びが低下する。
Mgは0.02質量%未満では黒鉛の球状化が十分なされず、引張強さと伸びが低下する。また、0.05質量%を超えると、異常黒鉛や浮上黒鉛が発生して引張強さと伸びが低下する。また、非金属介在物が発生しやすくなり、不良品となる原因になる。
Sは0.005質量%未満では晶出する黒鉛が少なくなり、良好な黒鉛球状化が難しくなり強度が低下してしまう。また、0.02質量%を超えると、球状化処理時にMgと反応してMg硫化物を生成して、黒鉛球状化に必要なMgを消費してしまい、良好な黒鉛球状化率が得られなくなり、強度と伸びが低下する。また、Cが凝固時に黒鉛として晶出する量が増加することにより黒鉛と接する基地組織のフェライト化が進行し、強度が低下する。
不可避の不純物としては具体的にはPなどが挙げられ、その含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。
【0007】
次に、本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法について具体的にその一例を説明する。
まず、原料として、鋼屑、銑鉄、等、各種の鉄合金材料が配合成分量を考慮して配合し、電気炉(低周波炉又は高周波炉)或いはキュポラを用いて鋳鉄溶湯に溶製する。目標組成通りに溶製された溶湯は、黒鉛球状化剤を用いて取鍋内で溶湯処理を行う。黒鉛球状化剤としては、Mg合金が好ましく、更にFe−Si−Mg−RE合金が好ましい。この際、必要に応じて接種剤を取鍋内に添加するか或いは出湯流に添加する。本発明においては、黒鉛球状化処理前におけるSの割合が0.01〜0.02質量%の鋳鉄溶湯を黒鉛球状化処理して、Sの割合を0.005〜0.02質量%とするが、0.005〜0.013質量%とするのが好ましい。
溶湯処理を行った後、溶湯は取鍋から造型機により造型された鋳型に注湯して鋳込み、鋳型内でそのまま凝固、冷却させる。なお、このとき薄肉部における炭化物の生成を防止するとともに、黒鉛粒径を微細化してパーライト相が偏って出現することを抑制するために、接種剤を鋳型への鋳込み中の注湯流に添加する2次接種(注湯流接種)を行うことが好ましい。
鋳型内の物品が冷却すると、ドラムクーラーで物品と造型砂に分離された後、ショットブラストで物品の表面に付着した砂を除去し、鋳仕上げを行う。この鋳仕上げにおいて、堰、バリ取り等の仕上げを行って製品たる鋳鉄鋳物を得ることができる。
【実施例】
【0008】
本発明について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何等限定して解釈されるものではない。
実施例1〜4
100kg容量の高周波誘導炉を用い、原材料として鋳鉄の戻し屑、鋼屑を使用して約1500℃の鋳鉄溶湯を溶製し、これに添加元素であるC、Si、Mn、S、Cu、Niを適宜添加した後、市販のFe−Si−Mg−Ca−RE合金のサンドウィッチ法による黒鉛球状化処理を行なった。この溶湯を自硬性鋳型のJIS G 5502 Y形供試材A号及びB号にFe−Si系接種剤による注湯流接種0.1%を添加しながら鋳込み、共析変態点以下の温度まで冷却し型ばらしして、Y形供試材を鋳造した。
このY形供試材からJIS Z 2201 4号試験片を加工して、その引張強さ、伸びなどを測定した。
【0009】
比較例1〜4
上記の実施例と同じ高周波誘導炉と同一種類の原材料及び添加元素を用いて溶製し、実施例と同様の供試材を鋳造し、更に実施例と同様にして試験片に加工して、その引張強さ、伸びなどを測定した。
【0010】
実施例と比較例で得られた球状黒鉛鋳鉄の組成を表1に、また、実施例と比較例で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片の引張強さ、伸びなどを測定した結果を表2に示す。
【0011】
図1に表2で示した供試材の肉厚25mmのときの引張強さと伸びの関係を、図2に供試材の肉厚12mmのときの引張強さと伸びの関係をそれぞれグラフで示す。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
実施例1〜4で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片はいずれの肉厚においても高い引張強さと伸びが得られており、肉厚による引張強さ及び伸びの差が小さい。これに対し、比較例1〜3で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片では引張強さは高い値を確保できるが、伸びが低くなってしまう。比較例4で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片では、実施例1〜4で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片に近い伸びであるが、高い引張強さが得られていない。また、実施例では肉厚により引張強さと伸びがあまり変化しないのに比べ、比較例では肉厚により、引張強さと伸びが異なっている。
すなわち、本発明で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片は、製品肉厚の違いや鋳型の種類などの外的要因による鋳鉄溶湯の冷却速度に対する影響を受けにくいロバストな球状黒鉛鋳鉄材料となっている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例及び比較例で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片における肉厚25mmのときの引張強さと伸びの関係をグラフで示した図面である。
【図2】実施例及び比較例で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片における肉厚12mmのときの引張強さと伸びの関係をグラフで示した図面である。
【図3】本発明の実施例で得られた球状黒鉛鋳鉄の試験片のミクロ組織を示す光学顕微鏡による金属組織写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分が質量%で、C:3.4〜4.0%、Si:2.4〜2.8%、Mn:0.2〜0.5%、Cu:0.4〜0.65%、Ni:1.0〜2.5%、Mg:0.02〜0.05%、S:0.005〜0.02%、残部Fe及び不可避の不純物からなる球状黒鉛鋳鉄。
【請求項2】
請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法であって、
黒鉛球状化処理前におけるSの割合が0.01〜0.02質量%の鋳鉄溶湯を黒鉛球状化処理して、Sの割合を0.005〜0.02質量%とした後、接種処理し、次いで鋳型に注湯し冷却すること、を特徴とする前記方法。
【請求項3】
黒鉛球状化処理後におけるSの割合を0.005〜0.013質量%とする、請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−327083(P2007−327083A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157543(P2006−157543)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000181240)株式会社アイメタルテクノロジー (2)
【Fターム(参考)】