説明

球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法

【課題】高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を提供する。
【解決手段】重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織における層間隔の粗いパーライトの面積率が50〜90%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が300個/mm以上、平均粒径が15μm以下である構成とすることにより、FCD600と同程度の引張強さとFCD450と同等以上の伸びを有する、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂型遠心鋳造により鋳造される球状黒鉛鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な球状黒鉛鋳鉄には、JIS規格のFCD350、FCD400、FCD450等の高靭性タイプのものや、FCD600、FCD700、FCD800等の高強度タイプのものがある。このうち、高靭性タイプのものを製造する場合は、材料溶解においてパーライト安定化元素の混入を防ぐとともに、鋳造後の熱処理によって基地組織をフェライト化することにより、規定された靭性が得られるようにしている。一方、高強度タイプのものを製造する場合には、基本的な化学成分にSnやCu等のパーライト安定化元素を適量添加して、基地組織に占めるパーライトの割合を増やすことにより、規定の強度を確保している。
【0003】
しかし、高靭性タイプは強度が低く、高強度タイプは伸びが小さい材料となっているので、高強度と高靭性の両方が求められる用途に対しては、比較的強度と伸びのバランスのよいFCD450(引張強さ:450MPa以上、伸び:10%以上)等の高靭性タイプのものを用い、その製品肉厚を大きくすることによって材料の強度不足を補うか、あるいはオーステンパ処理に代表されるような特殊な熱処理を施した材料を用いる必要があった。このため、このような用途では、製品肉厚の増大や特殊な熱処理によるコストアップを抑えることが求められている。また、特に製品が大きい場合には、肉厚増大による自重歪みが問題となることもある。
【0004】
これに対して、球状黒鉛鋳鉄の強度と靭性の両方を向上させようとする技術が種々提案されている。例えば、特許文献1に記載された技術は、金型鋳造よりも冷却速度の小さい砂型等での鋳造を行う場合に、鋳造した半製品を670〜760℃で加熱保持した後に自然放冷(空冷)する熱処理を行って、鋳造時に生成した基地組織の層状パーライト(ラメラパーライト)の一部からフェライトと粒状パーライトを生成させることにより、強度と伸びに優れた球状黒鉛鋳鉄製品を得ようとするものである。
【0005】
しかしながら、製品が大口径の球状黒鉛鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)である場合、その熱処理は一般に大型の連続焼鈍炉で行われるため、上記特許文献1に記載の技術のように半製品を加熱保持すると、コストが嵩むうえ、温度調整が難しく製品の強度や伸びのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0006】
このように、砂型遠心鋳造により鋳造される球状黒鉛鋳鉄管については、高強度と高靭性の両方の特性を安定してかつ安価に付与することのできる技術がまだ実用化されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−55731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管とその安価な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の球状黒鉛鋳鉄管は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuの少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織における層間隔の粗いパーライトの面積率が50〜90%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が300個/mm以上、平均粒径が15μm以下であるものとした。
【0010】
あるいは、上記構成に対して、前記各化学成分のほかにBi:0.0005〜0.10%を添加して、層間隔の粗いパーライトの面積率を30〜90%、黒鉛粒数を700個/mm以上とした点のみが異なる構成のものを採用することもできる。
【0011】
ここで、パーライトの面積率とは、所定の大きさの視野において黒鉛を除いた基地組織の面積を100%とした場合のパーライトの面積の割合(%)である。また、黒鉛の粒数および平均粒径は、粒径3μm以下のものを除いて計測した値である。
【0012】
すなわち、本発明では、パーライト安定化元素であるSnとCuの含有量を所定範囲に収めることにより、基地組織におけるパーライト面積率を50〜90%(Bi添加の場合は30〜90%)となるように調整して高強度が得られるようにするとともに、そのパーライトを層間隔の粗いものとし、基地組織中に微細な球状黒鉛を多数晶出させて組織を緻密化することにより、高靭性が得られるようにしたのである。
【0013】
次に、各合金元素の含有量を上記の範囲に限定した理由について説明する。
【0014】
Cは、本発明に必要な黒鉛量と鋳造性(溶湯の流動性)を確保するために、少なくとも3.20%含むようにした。一方、含有量が4.00%を超えると、黒鉛の晶出が過剰になって高い強度が得られなくなるので、含有量の上限を4.00%とした。
【0015】
Siは、溶湯の流動性を高める作用や黒鉛の晶出を促進する作用を有するが、含有量が1.40%未満ではこれらの作用による効果が十分に得られない。一方、含有量が3.00%を超えると、黒鉛の晶出が過剰になるとともに基地組織のパーライト化を抑える作用が大きくなって高強度が得られなくなるし、製品の外表面にピンホール等の荒れが発生しやすくなる。このため、含有量の範囲を1.40〜3.00%とした。ただし、鋳造性およびコストを重視すれば、含有量は1.90〜2.30%とすることが望ましい。
【0016】
Mnは、Sを固定して無害化する元素であり、その効果を十分に得るために少なくとも0.10%含むようにした。しかし、過剰であれば伸びを低下させるので、含有量の上限を1.00%とした。
【0017】
Mgは、黒鉛を球状化させるのに必要な元素であり、含有量が0.02%未満では十分な効果が得られない一方、0.08%を超えると効果の向上が少なくなるので、含有量の範囲を0.02〜0.08%とした。
【0018】
Crは、通常、不可避的に0.01%以上含まれるが、含有量が0.20%以下であればその影響は小さい
【0019】
SnおよびCuは、ともにパーライト安定化元素であるが、Cuの効果はSnの効果の約1/10であることが知られている。そして、一方で、需要家から求められている高強度と高靭性を両立するには、基地組織における層間隔の粗いパーライトの面積率を30〜90%に調整する必要があるという知見を得たことから、このパーライト面積率をSnとCuの少なくとも一方の添加によって達成する条件として、両元素の含有量を0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089の範囲に規定した。すなわち、Sn(重量%)+Cu(重量%)/10<0.050のときは、基地のパーライト面積率が小さくなりすぎて、靭性は高まるが高強度が得られなくなる。一方、Sn(重量%)+Cu(重量%)/10>0.089のときは、基地のパーライト面積率が大きくなりすぎて、高強度は得られるが靭性が低くなる。よって、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089の範囲を規定したのである。
【0020】
Biは、少量でも黒鉛を微細化し黒鉛粒数を増加させる効果がある一方、フェライト化を促進する作用もある。そこで、添加する場合は、その効果が確実に得られ、かつパーライト面積率が小さくなりすぎないように、含有量の範囲を0.0005〜0.10%とした。
【0021】
上記各合金元素のほかには、P、S等の不可避的不純物が含有されるが、その含有量は少ないほどよい。例えば、Pは0.08%以下、Sは0.015%以下とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用いて、砂型遠心鋳造により管状の半製品を鋳造し、この半製品に対してオーステナイト化温度±40℃の範囲に加熱した後2〜15℃/分の冷却速度で680℃以下まで冷却する熱処理を行うことにより、前記半製品を上述した(Biを含有しない)構成の球状黒鉛鋳鉄管となすものである。
【0023】
すなわち、上記のようにSnとCuのうち少なくとも1種を添加した溶湯を用いる砂型遠心鋳造と上記条件の熱処理の組み合わせにより、層間隔の粗いパーライトの面積率が50〜90%(Bi添加の場合は30〜90%)、かつ黒鉛の粒数が300個/mm以上(Bi添加の場合は700個/mm以上)、平均粒径が15μm以下となり、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易に製造することができる。また、鋳造した半製品を加熱後そのまま炉冷すれば2〜15℃/分の冷却速度が得られるので、加熱保持が必要な熱処理を行う場合に比べて、コストが低減できるし、温度調整が容易なため製品の強度や伸びのバラツキを小さくすることもできる。
【0024】
ここで、上記熱処理における加熱温度の上限をオーステナイト化温度+40℃としたのは、これを超える温度まで加熱して徐冷した場合、基地組織に占めるフェライトの割合が増加して十分な強度が得られなくなるためである。一方、加熱温度の下限をオーステナイト化温度−40℃としたのは、これを下回る温度の場合、鋳造時に生成した層間隔の密なパーライトの分解が進みにくくなり、靭性を向上させることが困難になるからである。また、徐冷完了温度を680℃以下としたのは、共析変態点付近(700〜750℃程度)の温度域全体を徐冷することにより、層間隔の密なパーライトを必要な程度まで確実に分解できるからである。すなわち、上記熱処理は、対象材をオーステナイト化温度程度に加熱した後、保持することなく徐冷することにより、鋳造時に生成した層間隔の密なパーライトを一部分解して黒鉛近傍にフェライトと層間隔の粗いパーライトを生成させ、高い靭性が得られるようにしたものである。
【0025】
また、前記溶湯を砂型に注湯する際に、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種するようにすれば、基地組織中に晶出する黒鉛の粒数が増加して、確実に高い靭性が得られる。
【0026】
一方、Biを含有する管を製造する場合には、前記溶湯を砂型に注湯する際に、Siが45〜75重量%、Biが0.5〜20重量%含まれたFe−Si−Bi系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種するようにすれば、黒鉛の微細化および粒数増加の効果が確実に得られる。
【発明の効果】
【0027】
上述したように、本発明の球状黒鉛鋳鉄管は、基地組織における層間隔の粗いパーライトの面積率を所定範囲に調整し、基地組織中に微細な球状黒鉛を多く晶出させたものであるから、高強度かつ高靭性のものとなり、高強度と高靭性の両方が求められる用途に対しても薄肉で使用することができる。その結果、従来の高靭性タイプのものを厚肉にして使用する場合に比べて製造コストを低減できるし、大口径管では軽量化によって自重歪みの問題を解消することもできる。
【0028】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、SnとCuの含有量を適量に調整した溶湯を用いて砂型遠心鋳造を行った後、オーステナイト化温度±40℃の範囲に加熱して680℃以下まで徐冷することにより、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易に得られる。しかも、熱処理時の加熱温度が通常の焼鈍を行う場合よりも低く、また加熱温度を保持する必要がないので、LNG使用量低減等により製造コストが低減され、環境面での負荷軽減にも寄与する。さらに、熱処理時の温度調整が容易なため、製品の強度や伸びのバラツキを小さくすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】a〜cは、第1実施形態およびその比較材の材料組織の顕微鏡写真
【図2】a〜cは、第2実施形態およびその比較材の材料組織の顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の特性を確認するために行った実験について説明する。実験では、まず、第1実施形態の球状黒鉛鋳鉄管を製造した。表1は実験に用いた溶湯の化学成分を示す。ここで、記載を省略した残部は、FeとP、S以外の不可避的不純物からなる。なお、化学成分のデータは、溶湯から作製した白銑試料を発光分光分析装置で分析した値である。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の組成を有する溶湯を約1300℃で遠心鋳造装置の円筒状砂型に注湯して、口径約300mm、厚さ約7.5mmの半製品(鋳放し管)を鋳造した。この注湯の際には、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種した。また、鋳造時の冷却方法は、注湯した溶湯を砂型内で凝固させた後、凝固した管状体を砂型から取り出して空冷し、基地にパーライトが生成するようにした。
【0033】
そして、鋳造した鋳放し管を3分割し、その3つの鋳放し管を表2に示す別々の条件で熱処理することにより、第1実施形態の球状黒鉛鋳鉄管と比較材となる2種類の球状黒鉛鋳鉄管に仕上げた。ここで、各条件の熱処理時の加熱速度は約105℃/分であり、加熱速度と成分組成で決まるオーステナイト化温度は約820℃である。
【0034】
【表2】

【0035】
このようにして製造した第1実施形態の管から5個の試験片(実施例1〜5)を、各比較材の管からは1個ずつ試験片(比較例1、2)を採取し、各試験片について材料組織の性状および機械的性質を調査した。その調査結果を表3および表4に示す。また、図1は実施例3および比較例1、2の材料組織の顕微鏡写真を示す。ここで、表3の材料組織の性状に関するデータは、いずれも管の厚さ方向中心部の画像解析により計測したもので、そのうちのパーライト面積率は所定の大きさの視野における基地組織の面積を100%とした場合のパーライト全体の面積の割合であり、黒鉛面積率は所定の大きさの視野全体の面積を100%とした場合の黒鉛の面積の割合である。また、黒鉛に関しては、いずれも粒径が3μm以下のものを除いて計測を行っている。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
図1に示した各例では、いずれも基地組織が若干のフェライトと層状パーライトからなる。そのうち、実施例3では、層間隔の粗いパーライトが黒鉛周囲に広い範囲で明瞭に確認できる(図1(a))。これに対し、比較例1のパーライトは全体的に層間隔の密なものとなっており(図1(b))、比較例2のパーライトには部分的に層間隔の粗いところもあるが、その面積は層間隔の密なパーライトの面積よりも小さい(図1(c))。そして、表3および表4から明らかなように、実施例1〜5では、パーライト面積率が90%で、黒鉛の粒数が360個/mm以上、平均粒径が14μm以下であり、640MPa以上の引張強さと12%以上の伸びが確保されている。一方、比較例1、2は、実施例1〜5と比べると、パーライト全体の面積率は同じであり、黒鉛の粒数は同程度で黒鉛粒径は若干細かいが、強度が高く伸びは低い。これは、比較例1、2では、各実施例よりも微細な球状黒鉛が晶出しているにもかかわらず、熱処理時の加熱温度が低いことにより、鋳造時に生成した層間隔の密なパーライトの分解が進んでいないためと考えられる。
【0039】
次に、上述した第1実施形態の球状黒鉛鋳鉄管についての実験と同様に、第2実施形態の球状黒鉛鋳鉄管についての実験を行った。この実験では、使用した溶湯の化学成分(表5、残部は記載省略)が第1実施形態と若干異なり、注湯流接種の際の接種剤としてFe−Si−Bi系のものを使用した。その接種剤は、Siが45〜75重量%、Biが2重量%含まれたものであり、溶湯に対する接種剤の割合は第1実施形態の管の実験と同じである。また、その他の実験方法、すなわち、鋳造時の冷却方法、鋳造した鋳放し管に対しての3種類の熱処理方法(表2参照)、製造した管から採取した試験片(実施例6〜10と比較例3、4)の調査方法も第1実施形態の管の実験と同じである。その調査結果を表6および表7に、実施例6および比較例3、4の材料組織の顕微鏡写真を図2に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
図2(a)からわかるように、実施例6では、実施例3に比べて微細な黒鉛が多数析出するとともに、黒鉛周囲にフェライトがかなり多く析出しており、Bi添加の効果が現れていると考えられる。そして、基地組織の半分程度を占めるパーライトは、ほとんどが層間隔の粗いものとなっている。これに対して、図2(b)、(c)からわかるように、比較例3、4のフェライト析出量は比較例1、2よりも増えているが、その増え方はわずかである。また、比較例3では、比較例1と同じくフェライト以外の基地組織が全体的に層間隔の密なパーライトとなっており、比較例4では、比較例2と同じく層間隔の密なパーライトの面積が層間隔の粗いパーライトよりもかなり大きくなっている。そして、表6および表7から明らかなように、実施例6〜10では、パーライト面積率が40〜50%で、黒鉛の粒数が790個/mm以上、平均粒径が10μm以下であり、580〜600MPa程度の引張強さと14〜15%の伸びが確保されている。一方、比較例3、4は、実施例6〜10と比べると、黒鉛の粒数、平均粒径は同程度であるが、パーライト面積率と強度が高く、伸びは低い。この理由は、第1実施形態の場合と同じと考えられる。
【0044】
また、実施例6〜10の調査結果を第1実施形態の実施例1〜5の結果と比べると、第2実施形態では、フェライト析出量の増加に伴ってパーライト面積率が低くなったことにより強度は若干低下したが、このことと微細な球状黒鉛が多く晶出したことにより、高い伸びが安定して得られるようになったものと考えられる。
【0045】
以上の実験結果から、各実施形態の球状黒鉛鋳鉄管は、SnとCuの含有量を調整した溶湯を用いて砂型遠心鋳造を行った後、オーステナイト化温度程度に加熱して680℃まで徐冷し、基地組織におけるパーライト面積率を所定範囲に調整するとともに、微細な球状黒鉛を多数晶出させることにより、FCD600と同程度の引張強さとFCD450と同等以上の伸びを有する、高強度かつ高靭性のものになることが確認された。
【0046】
また、同一の溶湯成分、同一の熱処理条件でも、接種剤の種類によって強度と靭性のバランスがかなり変わること、すなわち、強度と靭性のいずれを重視するかにより接種剤の種類を決定するだけで容易に目的の材質を得られることも確認できた。
【0047】
なお、第1実施形態では接種剤としてFe−Si系のものを用いたが、必要な靭性が得られれば必ずしも使用しなくてもよい。また、第2実施形態のFe−Si−Bi系の接種剤としては、Biが2重量%含まれたものを使用したが、Biの含有量は0.5〜20重量%の範囲であればよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織における層間隔の粗いパーライトの面積率が50〜90%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が300個/mm以上、平均粒径が15μm以下である球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項2】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用いて、砂型遠心鋳造により管状の半製品を鋳造し、この半製品に対してオーステナイト化温度±40℃の範囲に加熱した後2〜15℃/分の冷却速度で680℃以下まで冷却する熱処理を行うことにより、前記半製品を請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄管となす球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
【請求項3】
前記溶湯を砂型に注湯する際に、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種することを特徴とする請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%、Bi:0.0005〜0.10%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織における層間隔の粗いパーライトの面積率が30〜90%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が700個/mm以上、平均粒径が15μm以下である球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項5】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用い、この溶湯を遠心鋳造用砂型に注湯する際に、Siが45〜75重量%、Biが0.5〜20重量%含まれたFe−Si−Bi系接種剤を溶湯に対して0.1〜0.5重量%注湯流接種して、管状の半製品を遠心鋳造し、この半製品に対してオーステナイト化温度±40℃の範囲に加熱した後2〜15℃/分の冷却速度で680℃以下まで冷却する熱処理を行うことにより、前記半製品を請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄管となす球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−105993(P2011−105993A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262656(P2009−262656)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】